説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法

【課題】本発明は、非発光時において見映えの良い有機EL素子およびその製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、基板と、上記基板上に形成された透明電極層と、上記透明電極層上に形成され、発光層を含む有機EL層と、上記有機EL層上に形成され、第1金属膜および第2金属膜を含む金属電極層とを有する有機EL素子であって、上記金属電極層が、上記第1金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第1電極領域と、上記第2金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第2電極領域とからなり、上記第1電極領域および上記第2電極領域の反射特性が互いに異なり、上記第1電極領域の上記第1金属膜と上記第2電極領域の上記第2金属膜とが電気的に接していることを特徴とする有機EL素子を提供することにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッシブ型の有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略すことがある。)素子としては、透明電極層と金属電極層(背面電極層ともいう。)との間に、発光層を含む有機EL層を挟み込んだ構造が知られている。
【0003】
このような有機EL素子では、金属電極層が金属光沢を有することから、非発光時には外光反射によって鏡面のように視認される。そのため、有機EL素子を利用した機器の美観の低下やデザイン性の低下を招く場合がある。
【0004】
また、発光パターンを形成して固定パターンによる発光表示を行う場合において、この発光パターンを金属電極層をパターン状に形成することにより形成する場合には、非発光時に発光パターンが視認されてしまう。
そこで、金属電極層をパターン状に形成する替わりに、絶縁層をパターン状に形成することにより発光パターンを形成することが提案されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、この場合、互いに異なる固定パターンを有する複数の有機EL素子を製造するためには、固定パターン毎に絶縁層のパターン設計を変更する必要があり、製造コストがかかる。
【0005】
【特許文献1】特開平10−284254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、非発光時において見映えの良い有機EL素子およびその製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、基板と、上記基板上に形成された透明電極層と、上記透明電極層上に形成され、発光層を含む有機EL層と、上記有機EL層上に形成され、第1金属膜および第2金属膜を含む金属電極層とを有する有機EL素子であって、上記金属電極層が、上記第1金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第1電極領域と、上記第2金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第2電極領域とからなり、上記第1電極領域および上記第2電極領域の反射特性が互いに異なり、上記第1電極領域の上記第1金属膜と上記第2電極領域の上記第2金属膜とが電気的に接していることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0008】
本発明によれば、第1電極領域および第2電極領域の反射特性が互いに異なるので、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を視認することができる。一方、発光時には、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状とは異なるパターン形状を発光表示することができる。したがって、発光時には所望のパターンを発光表示することができ、非発光時には所定のパターンを視認することができ、非発光時に見映えの良い有機EL素子とすることができる。
【0009】
上記発明においては、上記第1金属膜および上記第2金属膜が同一の金属元素を含有することが好ましい。この場合、第1金属膜および第2金属膜に含まれる酸素の量などを変化させることにより、第1金属膜および第2金属膜の反射率を異ならせることができるからである。
【0010】
この場合、上記金属元素がアルミニウムであることが好ましい。アルミニウムは高い反射率を示すからである。
【0011】
本発明においては、上記第1電極領域の反射率が上記第2電極領域の反射率よりも低いことが好ましい。また、上記第1電極領域および上記第2電極領域での反射光の色が互いに異なることも好ましい。これらの場合、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を視認しやすいからである。
【0012】
また本発明においては、上記第1電極領域では、上記有機EL層上に上記第1金属膜および上記第2金属膜が順に積層されており、上記第2電極領域では、上記有機EL層上に上記第2金属膜が形成され、上記第1金属膜が形成されていないことが好ましい。このような構成であれば、第2金属膜の形成が容易であるからである。
【0013】
さらに、上記第1電極領域では、上記有機EL層上に上記第1金属膜および上記第2金属膜が順に積層されており、上記第2電極領域では、上記有機EL層上に上記第2金属膜、上記第1金属膜および上記第2金属膜が順に積層されていてもよい。
【0014】
また、上記第1電極領域では、上記有機EL層上に上記第1金属膜が形成され、上記第2金属膜が形成されていなく、上記第2電極領域では、上記有機EL層上に上記第2金属膜が形成され、上記第1金属膜が形成されていなくてもよい。
【0015】
また本発明は、透明電極層および、発光層を含む有機EL層が順に積層された基板上に、真空中で第1金属膜形成用層をパターン状に形成する第1金属膜形成用層形成工程、および、上記第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程を有し、第1金属膜を形成する第1金属膜形成工程と、上記第1金属膜がパターン状に形成された基板上の全面に、真空中で第2金属膜を形成する第2金属膜形成工程とを有し、上記第1金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第1電極領域と上記第2金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第2電極領域とからなる金属電極層を形成する金属電極層形成工程を有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0016】
本発明によれば、第1金属膜形成工程にて、第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程を行うので、反射特性が互いに異なる第1金属膜および第2金属膜を得ることができる。よって、反射特性が互いに異なる第1電極領域および第2電極領域を形成することができる。したがって、上述したように、発光時には所望のパターンを発光表示することができ、非発光時には所定のパターンを視認することができ、非発光時に見映えの良い有機EL素子を製造することができる。
【0017】
さらに本発明は、透明電極層および、発光層を含む有機EL層が順に積層された基板上に、真空中で第2金属膜をパターン状に形成する第1の第2金属膜形成工程と、上記第2金属膜が形成された基板上の全面に、真空中で第1金属膜形成用層を形成する第1金属膜形成用層形成工程、および、上記第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程を有し、第1金属膜を形成する第1金属膜形成工程と、上記第2金属膜および上記第1金属膜が形成された基板上の全面に、真空中で第2金属膜を形成する第2の第2金属膜形成工程とを有し、上記第1金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第1電極領域と上記第2金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第2電極領域とからなる金属電極層を形成する金属電極層形成工程を有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0018】
本発明によれば、第1金属膜形成工程にて、第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程を行うので、反射特性が互いに異なる第1金属膜および第2金属膜を得ることができる。よって、反射特性が互いに異なる第1電極領域および第2電極領域を形成することができる。したがって、上述したように、発光時には所望のパターンを発光表示することができ、非発光時には所定のパターンを視認することができ、非発光時に見映えの良い有機EL素子を製造することができる。
【0019】
上記発明においては、上記第1金属膜形成工程にて、上記第1金属膜形成用層形成工程および上記曝露工程を繰り返し行い、複数の層が積層された上記第1金属膜を形成してもよい。所望の反射特性を有する第1金属膜を形成することができるからである。
【0020】
また本発明においては、上記第1金属膜形成工程および上記第2金属膜形成工程にて、同一の金属を成膜することが好ましい。この場合、上記曝露工程における第1金属膜の酸化の程度を制御することによって第1金属膜の反射率を調整することができ、反射率の異なる第1金属膜および第2金属膜を形成することができるからである。
【0021】
この場合、上記金属がアルミニウムであることが好ましい。アルミニウムは高い反射率を示すからである。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、第1電極領域および第2電極領域の反射特性が互いに異なるので、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を視認することができ、非発光時の見映えを良好なものとすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の有機EL素子およびその製造方法について詳細に説明する。
【0024】
A.有機EL素子
まず、本発明の有機EL素子について説明する。
本発明の有機EL素子は、基板と、上記基板上に形成された透明電極層と、上記透明電極層上に形成され、発光層を含む有機EL層と、上記有機EL層上に形成され、第1金属膜および第2金属膜を含む金属電極層とを有する有機EL素子であって、上記金属電極層が、上記第1金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第1電極領域と、上記第2金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第2電極領域とからなり、上記第1電極領域および上記第2電極領域の反射特性が互いに異なり、上記第1電極領域の上記第1金属膜と上記第2電極領域の上記第2金属膜とが電気的に接していることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の有機EL素子の一例を示す上面図、図2は図1において第2金属膜が省略されたもの、図3は図1のA−A線断面図である。
図1〜図3に例示する有機EL素子1は、基板2と、基板2上に形成された透明電極層3と、透明電極層3上に形成された有機EL層4と、有機EL層4上に形成され、第1金属膜5および第2金属膜6を含む金属電極層7とを有している。金属電極層7は、第1金属膜5が有機EL層4側に面するように配置された第1電極領域11と、第2金属膜6が有機EL層4側に面するように配置された第2電極領域12とから構成されている。第1電極領域11を構成する第1金属膜5と第2電極領域12を構成する第2金属膜6とは電気的に接するように配置されている。また、第1電極領域11および第2電極領域12の反射特性は互いに異なっている。
【0026】
このような有機EL素子においては、非発光時に、図3に例示するように外光21が第1金属膜5および第2金属膜6の表面で反射される。上述したように、第1電極領域11および第2電極領域12の反射特性は互いに異なっている。
例えば、第1電極領域11の反射率が第2電極領域12の反射率よりも低い場合には、第1電極領域11が低反射領域、第2電極領域12が高反射領域となり、非発光時に、第1電極領域11および第2電極領域12により構成されるパターン形状を視認することができる。
また例えば、第1電極領域11および第2電極領域12での反射光の色が互いに異なる場合にも、非発光時に、第1電極領域11および第2電極領域12により構成されるパターン形状を視認することができる。具体的に、第1金属膜5が金からなり、第2金属膜6がアルミニウムからなる場合には、第1電極領域11は金色を呈し、第2電極領域12は銀色を呈するので、第1電極領域11および第2電極領域12での反射光の色が互いに異なるものとなり、非発光時に、第1電極領域11および第2電極領域12により構成されるパターン形状を視認することができる。また例えば、第1金属膜5がアルミニウムからなり、第2金属膜6が酸化インジウム亜鉛(IZO)からなる場合には、第1電極領域11は銀色を呈し、第2電極領域12では光を透過し無色透明であり、第1電極領域11のみで光が反射するため、第1電極領域11および第2電極領域12での反射光の色が互いに異なるものとなり、非発光時に、第1電極領域11および第2電極領域12により構成されるパターン形状を視認することができる。
したがって、第1電極領域および第2電極領域を所定のパターン形状とすることにより、非発光時に、文字、図形等を視認することが可能となる。
【0027】
本発明の有機EL素子は、通常、パッシブ型であり、透明電極層および金属電極層が互いに交差するようにストライプ状に形成されている。パッシブ型の有機EL素子では、駆動時に、ストライプ状の透明電極層とストライプ状の金属電極層の交点を選択して光らせる。このような場合において、図4(a)、(b)に例示するように1画素25とすると、非発光時には、上述したように、第1電極領域11および第2電極領域12により構成されるパターン形状を視認することができる(図4(a))。一方、発光時には、所定の画素25を選択することにより、第1電極領域11および第2電極領域12により構成されるパターン形状とは異なるパターン形状(図4(b)に示す例においては「111」)を発光表示することができる(図4(b))。
【0028】
また、第1電極領域のみまたは第2電極領域のみを発光表示が可能な領域とすることもできる。図5(a)、(b)に示す例においては、第1電極領域11のみが発光表示が可能な領域となっている。非発光時には、第1電極領域11および第2電極領域12により構成されるパターン形状を視認することができる(図5(a))。一方、発光時には、所定の画素25を選択することにより、第1電極領域11内に、第1電極領域11および第2電極領域12により構成されるパターン形状とは異なるパターン形状(図5(b)に示す例においては「11」)を発光表示することができる(図5(b))。
【0029】
例えば図6に示すように、有機EL層4が発光層4aおよび電子注入層4bが積層されたものであり、第1電極領域11のみに電子注入層4bが形成されている場合には、電子注入層4bが形成された第1電極領域11のみ発光層4aへ電荷が注入しやすくなり、第1電極領域11と第2電極領域12とで電荷移動に差が生じるので、第1電極領域11のみを発光表示が可能な領域とすることができる。
よって、第1電極領域のみまたは第2電極領域のみを発光表示が可能な領域とする場合であっても、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状とは異なるパターン形状を発光表示することができるのである。
【0030】
このように本発明においては、発光時には所望のパターンを発光表示することができ、非発光時には所定のパターンを視認することができ、非発光時に見映えの良い有機EL素子とすることができる。
【0031】
以下、本発明の有機EL素子における各構成について説明する。
【0032】
1.金属電極層
本発明に用いられる金属電極層は、有機EL層上に形成され、第1金属膜および第2金属膜を含むものであり、第1金属膜が有機EL層側に面するように配置された第1電極領域と、第2金属膜が有機EL層側に面するように配置された第2電極領域とから構成されるものである。第1電極領域および第2電極領域の反射特性は互いに異なり、第1電極領域の第1金属膜と第2電極領域の第2金属膜とは電気的に接している。
【0033】
金属電極層は、陽極であっても陰極であってもよいが、通常は陰極として形成される。
【0034】
(1)第1電極領域および第2電極領域
第1電極領域および第2電極領域の反射特性としては互いに異なっていればよく、例えば、反射率が異なっていてもよく、反射光の色が異なっていてもよい。
【0035】
第1電極領域および第2電極領域の反射率が互いに異なる場合、第1電極領域の反射率が第2電極領域の反射率よりも低いことが好ましい。
第1電極領域および第2電極領域の反射率の差としては、10%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。上記反射率の差が上記範囲であれば、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を良好に視認することができるからである。
【0036】
第1電極領域の反射率としては、第2電極領域の反射率よりも低く、上記反射率の差を満たしていればよいが、具体的には、90%以下であることが好ましく、より好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下である。第1電極領域の反射率が上記範囲であれば、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を良好に視認することができるからである。また、第1電極領域の反射率が上記範囲であれば、外光反射を抑制することができ、第1電極領域にて発光時にコントラストを高めることができる。第1電極領域の反射率の下限値としては特に限定されるものではないが、通常、40%とされる。
【0037】
第2電極領域の反射率としては、第1電極領域の反射率よりも高く、上記反射率の差を満たしていればよいが、具体的には、80%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。第2電極領域の反射率が上記範囲であれば、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を良好に視認することができるからである。第2電極領域の反射率の上限値としては特に限定されるものではないが、通常、100%とされる。
【0038】
なお、「反射率」とは、光源として標準イルミナントD65(色温度が6504Kに近似する昼光。平均的な昼色の分光分布を持つ光。紫外域を比較的多く含んでいる。)を用い、その光を照射したときの、その光の反射率を測定することで求められるものであり、測定波長全体の反射率をいう。上記反射率は、コニカミノルタ株式会社製 分光測色計 CM−2600dにより測定するものとする。測定条件は、測定径:φ8mm、観察視野:2°、UV:100%とする。
【0039】
また、第1電極領域および第2電極領域での反射光の色が互いに異なる場合、金属電極層は金属光沢を有することから、第1電極領域および第2電極領域での金属光沢の色が互いに異なっていてもよく、また第1電極領域および第2電極領域のいずれか一方を、光を透過する無色透明な領域としてもよい。第1電極領域および第2電極領域での金属光沢の色を異ならせる場合、例えば、金(Au)とアルミニウム(Al)と銅(Cu)とでは互いに異なる金属光沢の色を示す。また、第1電極領域および第2電極領域のいずれか一方を、光を透過する無色透明な領域とする場合、例えば、酸化インジウム亜鉛(IZO)は無色透明である。
【0040】
なお、反射光の色は、コニカミノルタ株式会社製 分光測色計 CM−2600dにより測定することができる。
【0041】
第1電極領域は、第1金属膜が有機EL層側に面するように配置された領域である。
なお、「第1金属膜が有機EL層側に面するように配置された」とは、金属電極層を構成する第1金属膜および第2金属膜のうち、第1金属膜が有機EL層側に面するように配置されていることをいう。具体的には、有機EL層上に第1金属膜および第2金属膜が順に積層されており、第1金属膜が有機EL層側に面するように配置されている場合、および、有機EL層上に第1金属膜が形成され、第2金属膜が形成されていなく、第1金属膜が有機EL層側に面するように配置されている場合が含まれる。
すなわち、第1電極領域11では、図3に例示するように有機EL層4上に第1金属膜5および第2金属膜6がこの順に積層されていてもよく、図7および図8に例示するように有機EL層4上に第1金属膜5が形成され、第2金属膜が形成されていなくてもよい。
中でも、第1電極領域では、有機EL層上に第1金属膜および第2金属膜がこの順に積層されていることが好ましい。第2金属膜の形成が容易となるからである。
【0042】
なお、図7は本発明の有機EL素子の他の例を示す上面図、図8は図7のB−B線断面図である。図7および図8に例示する有機EL素子においても、図1〜図3に例示する有機EL素子と同様に、第1電極領域および第2電極領域を所定のパターン形状とすることにより、非発光時に、文字、図形等を視認することが可能である。
【0043】
第2電極領域は、第2金属膜が有機EL層側に面するように配置された領域である。
なお、「第2金属膜が有機EL層側に面するように配置された」とは、金属電極層を構成する第1金属膜および第2金属膜のうち、第2金属膜が有機EL層側に面するように配置されていることをいう。具体的には、有機EL層上に第2金属膜が形成され、第1金属膜が形成されていなく、第2金属膜が有機EL層側に面するように配置されている場合、有機EL層上に第2金属膜、第1金属膜および第2金属膜が順に積層されており、第2金属膜が有機EL層側に面するように配置されている場合、および、有機EL層上に第2金属膜および第1金属膜が順に積層されており、第2金属膜が有機EL層側に面するように配置されている場合が含まれる。
すなわち、第2電極領域12では、図3および図8に例示するように有機EL層4上に第2金属膜6が形成され、第1金属膜が形成されていなくてもよく、図9に例示するように有機EL層4上に第2金属膜6、第1金属膜5および第2金属膜6がこの順に積層されていてもよく、図示しないが有機EL層上に第2金属膜および第1金属膜の順に積層されていてもよい。
本発明においては、通常、有機EL層上に第2金属膜が形成され、第1金属膜が形成されていなく、第2金属膜が有機EL層側に面するように配置されるか、あるいは、有機EL層上に第2金属膜、第1金属膜および第2金属膜が順に積層され、第2金属膜が有機EL層側に面するように配置される。
【0044】
第1電極領域および第2電極領域は、第1電極領域の第1金属膜と第2電極領域の第2金属膜とが電気的に接していればよく、図1〜図3に例示するように第1電極領域11が第2電極領域12で囲まれていてもよく、図7〜図8に例示するように第2電極領域12が第1電極領域11で囲まれていてもよく、図示しないが第1電極領域および第2電極領域が交互に配置されていてもよい。
【0045】
(2)第1金属膜および第2金属膜
第1金属膜としては、上記第1電極領域に要求される特性を満たすものであり、第2金属膜としては、上記第2電極領域に要求される特性を満たすものであればよい。
例えば、第1電極領域および第2電極領域の反射率が互いに異なる場合には、第1金属膜の反射率が第2金属膜の反射率よりも低いことが好ましい。第1金属膜および第2金属膜の反射率の差としては、10%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。上記反射率の差が上記範囲であれば、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を良好に視認することができるからである。
【0046】
第1金属膜の反射率としては、第2金属膜の反射率よりも低く、上記反射率の差を満たしていればよいが、具体的には、90%以下であることが好ましく、より好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下である。第1金属膜の反射率が上記範囲であれば、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を良好に視認することができるからである。また、第1金属膜の反射率が上記範囲であれば、外光反射を抑制することができ、第1電極領域にて発光時にコントラストを高めることができる。第1金属膜の反射率の下限値としては特に限定されるものではないが、通常、40%とされる。
【0047】
第2金属膜の反射率としては、第1金属膜の反射率よりも高く、上記反射率の差を満たしていればよいが、具体的には、80%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。第2金属膜の反射率が上記範囲であれば、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を良好に視認することができるからである。第2金属膜の反射率の上限値としては特に限定されるものではないが、通常、100%とされる。
【0048】
なお、反射率の測定方法については、上述したとおりである。
【0049】
また、例えば、第1電極領域および第2電極領域での反射光の色が互いに異なる場合、第1金属膜および第2金属膜は互いに異なる反射光の色を呈することが好ましい。すなわち、第1金属膜および第2金属膜は互いに異なる金属光沢の色を呈する、あるいは、第1金属膜および第2金属膜のいずれか一方が無色透明であることが好ましい。
なお、反射光の色の測定方法については、上述したとおりである。
【0050】
第1金属膜および第2金属膜の構成材料としては、上述したような第1金属膜および第2金属膜に要求される特性や、第1電極領域および第2電極領域の配置等に応じて適宜選択される。上述したように、金属電極層は、通常は陰極として形成されることから、第1金属膜および第2金属膜の構成材料としては、電子が注入しやすいように仕事関数の小さい金属材料を用いることが好ましい。
【0051】
第1金属膜の構成材料としては、仕事関数の小さい金属材料であればよく、例えば、アルミニウムおよび酸化アルミニウムの混合物、銀および酸化銀の混合物、マグネシウムおよび酸化マグネシウムの混合物等の金属とその金属酸化物の混合物、アルミニウム、銀、マグネシウム、金、銅等の金属単体、MgAg等のマグネシウム合金、AlLi、AlCa、AlMg等のアルミニウム合金、Li、Ca等のアルカリ金属類およびアルカリ土類金属類、または、アルカリ金属類およびアルカリ土類金属類の合金などが挙げられる。また、第1金属膜には、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムスズ(ITO)等を用いることもできる。
【0052】
第2金属膜の構成材料としては、仕事関数の小さい金属材料であればよく、例えば、アルミニウム、銀、マグネシウム、金、銅等の金属単体、MgAg等のマグネシウム合金、AlLi、AlCa、AlMg等のアルミニウム合金、Li、Ca等のアルカリ金属類およびアルカリ土類金属類、または、アルカリ金属類およびアルカリ土類金属類の合金などが挙げられる。また、第2金属膜には、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムスズ(ITO)等を用いることもできる。
【0053】
第1金属膜の反射率が第2金属膜の反射率よりも低い場合、第1金属膜および第2金属膜は、同一の金属元素を含有していてもよく、異なる金属元素を含有していてもよい。
中でも、第1金属膜の反射率が第2金属膜の反射率よりも低い場合、第1金属膜および第2金属膜は、同一の金属元素を含有していることが好ましい。この場合、第1金属膜に含まれる酸素の量などを調整することにより、第1金属膜の反射率を第2金属膜の反射率よりも低くすることができるからである。
この場合、例えば、第1金属膜をアルミニウムおよび酸化アルミニウムの混合物、銀および酸化銀の混合物、マグネシウムおよび酸化マグネシウムの混合物等の金属とその金属酸化物の混合物とし、第2金属膜をアルミニウム、銀、マグネシウム等の金属単体とすることで、第1金属膜および第2金属膜を同一の金属元素を含有するものとすることができる。
【0054】
第1金属膜および第2金属膜が同一の金属元素を含有する場合、金属元素としては、例えば、アルミニウム、銀、マグネシウムなどが挙げられる。中でも、アルミニウムが好ましい。アルミニウムは高い反射率を示すからである。
【0055】
また、第1金属膜および第2金属膜が互いに異なる反射光の色を呈する場合、第1金属膜および第2金属膜は、異なる金属元素を含有していることが好ましい。第1金属膜および第2金属膜の金属光沢の色を互いに異ならせたり、第1金属膜および第2金属膜のいずれか一方を無色透明としたりすることができるからである。
【0056】
第1金属膜の厚みとしては、上述したような第1金属膜に要求される特性等に応じて適宜選択される。
第1金属膜の反射率が第2金属膜の反射率よりも低い場合、第1金属膜の厚みは、10nm以下であることが好ましく、より好ましくは8nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。第1金属膜の厚みが厚すぎると、所望の反射率が得られない場合があるからである。第1金属膜の厚みの下限値は、精度を考慮すると、通常、1nm程度である。
また、第1金属膜および第2金属膜が互いに異なる反射光の色を呈する場合、第1金属膜の厚みは、有機EL素子における一般的な電極の厚みであればよく、具体的には20nm〜500nm程度とすることができる。
【0057】
第2金属膜の厚みとしては、上述したような第2金属膜に要求される特性等に応じて適宜選択される。
第1金属膜の反射率が第2金属膜の反射率よりも低い場合、第2金属膜の厚みは、50nm以上であることが好ましく、より好ましくは100nm以上、さらに好ましくは200nm以上である。第2金属膜の厚みが薄すぎると、所望の反射率が得られない場合があるからである。第2金属膜の厚みの上限値は、有機EL素子における一般的な電極の厚みの上限であればよく、通常、500nm程度である。
また、第1金属膜および第2金属膜が互いに異なる反射光の色を呈する場合、第2金属膜の厚みは、有機EL素子における一般的な電極の厚みであればよく、具体的には20nm〜500nm程度とすることができる。
【0058】
第1金属膜および第2金属膜の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を用いることができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の一般的な蒸着法や、金属ペーストを塗布する方法等が挙げられる。金属ペーストを塗布する方法としては、印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
中でも、真空蒸着法、金属ペーストを塗布する方法が好ましい。真空蒸着法は、ドライプロセスで有機EL層へのダメージが少ない方法であり、積層に適している。また、金属ペーストを塗布する方法はウェットプロセスであり、ウェットプロセスはドライプロセスよりも大面積の対応に適している。ウェットプロセスであっても、有機EL層に影響を与えない溶媒が配合された金属ペーストは使用可能である。すなわち、有機EL層の耐溶剤性などによって有機EL層に影響を与えないように工夫することで、ウェットプロセスも適用可能となる。
【0059】
特に、図3に例示するように、第1金属膜5がパターン状に形成された基板2の全面に第2金属膜6を形成する場合、真空蒸着法を用いることが好ましい。一方、図8に例示するように、第1金属膜5が形成されていない領域に、第1金属膜5と第2金属膜6とが電気的に接するように第2金属膜6をパターン状に形成する場合には、金属ペーストを塗布する方法を用いることが好ましい。
【0060】
なお、第1金属膜の反射率が第2金属膜の反射率よりも低い場合、第1金属膜および第2金属膜の形成方法については、後述の「B.有機EL素子の製造方法」の項に記載するので、ここでの説明は省略する。
【0061】
(3)その他の構成
本発明に用いられる金属電極層において、第1金属膜や第2金属膜をスパッタリング法により成膜する場合には、第1金属膜や第2金属膜と有機EL層との間に電荷輸送性保護層が形成されていてもよい。電荷輸送性保護層が形成されていることにより、第1金属膜や第2金属膜をスパッタリング法により成膜する際に、有機EL層へのダメージを軽減することができるからである。
【0062】
例えば、第1金属膜をスパッタリング法により成膜する場合であって、有機EL層と第1金属膜との間に電荷輸送性保護層が形成されている場合、第1電極領域では、有機EL層上に電荷輸送性保護層と第1金属膜とが積層されていてもよく、有機EL層上に電荷輸送性保護層と第1金属膜と第2金属膜とが積層されていてもよい。この場合、第2電極領域では、有機EL層上に第2金属膜のみが形成されていてもよく、有機EL層上に第2金属膜と電荷輸送性保護層と第1金属膜と第2金属膜とが積層されていてもよい。
【0063】
また例えば、第2金属膜をスパッタリング法により成膜する場合であって、有機EL層と第2金属膜との間に電荷輸送性保護層が形成されている場合、第2電極領域では、有機EL層上に電荷輸送性保護層と第2金属膜とが積層されていてもよく、有機EL層上に電荷輸送性保護層と第2金属膜と第1金属膜と第2金属膜とが積層されていてもよい。この場合、第1電極領域では、有機EL層上に第1金属膜のみが形成されていてもよく、有機EL層上に第1金属膜と電荷輸送性保護層と第2金属膜とが積層されていてもよい。
【0064】
具体的には、第2金属膜をスパッタリング法により成膜する場合であって、有機EL層と第2金属膜との間に電荷輸送性保護層が形成されている場合には、図10に示すように、第1電極領域11にて有機EL層4上に第1金属膜5と電荷輸送性保護層8と第2金属膜6とが積層され、第2電極領域12にて有機EL層4上に電荷輸送性保護層8と第2金属膜6とが積層されていてもよい。
【0065】
なお、電荷輸送性保護層が形成されている場合においても、金属電極層を構成する第1金属膜および第2金属膜のうち、第1金属膜が有機EL層側に面するように配置されている領域が第1電極領域であり、第2金属膜が有機EL層側に面するように配置されている領域が第2電極領域である。
【0066】
電荷輸送性保護層としては、第1金属膜や第2金属膜をスパッタリング法により成膜する際のダメージから有機EL層を保護することができ、電荷輸送性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)等のトリフェニルアミン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等のキノリン誘導体、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)等のオキサジアゾール誘導体、1,2,4−トリアゾール誘導体(TAZ)等のトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、BCP等のフェナントロリン誘導体、4,4´−ジ(9−カルバゾリル)ビフェニル(CBP)等のカルバゾールビフェニル誘導体、シロール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等を用いることができる。
【0067】
電荷輸送性保護層の厚みとしては、10nm〜1000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは50nm〜500nmの範囲内、さらに好ましくは70nm〜150nmの範囲内である。
電荷輸送性保護層の形成方法としては、有機EL層へのダメージが少ない方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、抵抗加熱蒸着法などの真空蒸着法を用いることができる。
【0068】
2.有機EL層
本発明に用いられる有機EL層は、透明電極層上に形成され、発光層を含むものである。
【0069】
有機EL層は、少なくとも発光層を含む1層もしくは複数層の有機層を有するものである。すなわち、有機EL層とは、少なくとも発光層を含む層であり、その層構成が有機層1層以上の層をいう。通常、塗布によるウェットプロセスで有機EL層を形成する場合は、溶媒との関係で多数の層を積層することが困難であることから、1層もしくは2層の有機層で構成される場合が多いが、有機材料を工夫したり、真空蒸着法を組み合わせたりすることにより、さらに多数層とすることも可能である。
【0070】
発光層以外に有機EL層を構成する層としては、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等を挙げることができる。正孔輸送層は、正孔注入層に正孔輸送の機能を付与することにより、正孔注入層と一体化される場合がある。また、電子輸送層は、電子注入層に電子輸送の機能を付与することにより、電子注入層と一体化される場合がある。さらに、有機EL層を構成する層としては、キャリアブロック層のような正孔もしくは電子の突き抜けを防止し、再結合効率を高めるための層や、スパッタ保護層等を挙げることができる。
【0071】
以下、有機EL層における各構成について説明する。
【0072】
(1)発光層
本発明における発光層に用いられる材料としては、例えば、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料等の発光材料を挙げることができる。
【0073】
色素系材料としては、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0074】
また、金属錯体系材料としては、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロビウム錯体等、中心金属にAl、Zn、Be等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。
【0075】
さらに、高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。
【0076】
上記発光層中には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的でドーピング剤を添加してもよい。このようなドーピング剤としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体を挙げることができる。
【0077】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば1nm〜500nm程度とすることができる。
【0078】
発光層は、赤・緑・青等の複数色の発光部を有するようにパターン状に形成されていることが好ましい。これにより、カラー表示が可能な有機EL素子を得ることができる。
【0079】
発光層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、自己組織化法(交互吸着法、自己組織化単分子膜法)等を挙げることができる。中でも、真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法が好ましい。
【0080】
(2)正孔注入層
上述したように、正孔輸送層は、正孔注入層に正孔輸送の機能を付与することにより、正孔注入層と一体化される場合がある。すなわち、正孔注入層は、正孔注入機能のみを有していてもよく、正孔注入機能および正孔輸送機能の両機能を有していてもよい。
【0081】
正孔注入層に用いられる材料としては、発光層内への正孔の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン誘導体等を用いることができる。具体的には、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0082】
また、正孔注入層の厚みとしては、正孔注入機能や正孔輸送機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されないが、具体的には0.5nm〜1000nmの範囲内、中でも10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0083】
なお、正孔注入層の形成方法については、上記発光層の形成方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0084】
(3)電子注入層
上述したように、電子輸送層は、電子注入層に電子輸送の機能を付与することにより、電子注入層と一体化される場合がある。すなわち、電子注入層は、電子注入機能のみを有していてもよく、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有していてもよい。
【0085】
電子注入層に用いられる材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、アルミリチウム合金、フッ化リチウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ストロンチウム、カルシウム、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、リチウム、セシウム、フッ化セシウム等のようにアルカリ金属類、およびアルカリ金属類のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体等を用いることができる。
【0086】
また、電子輸送性の有機材料にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープした金属ドープ層を形成し、これを電子注入層とすることもできる。上記電子輸送性の有機材料としては、例えばバソキュプロイン、バソフェナントロリン、フェナントロリン誘導体等を挙げることができ、ドープする金属としては、Li、Cs、Ba、Sr等が挙げられる。
【0087】
上記電子注入層の厚みとしては、電子注入機能や電子輸送機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されない。
【0088】
なお、電子注入層の形成方法については、上記発光層の形成方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0089】
(4)電子輸送層
電子輸送層に用いられる材料としては、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えばバソキュプロイン、バソフェナントロリン、フェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)の誘導体等を挙げることができる。
【0090】
上記電子輸送層の厚みとしては、電子輸送機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されない。
【0091】
なお、電子輸送層の形成方法については、上記発光層の形成方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0092】
3.透明電極層
本発明に用いられる透明電極層は、基板上に形成されるものである。
【0093】
透明電極層は、通常、基板上にストライプ状に形成される。
また、透明電極層側から光を取り出すので、透明電極層は透明性を有している。
【0094】
透明電極層は、陽極であっても陰極であってもよいが、通常は陽極として形成される。
陽極としては、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましく、具体的には、ITO、酸化インジウム、金のような仕事関数の大きい金属、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような導電性高分子等を挙げることができる。
【0095】
透明電極層は抵抗が小さいことが好ましく、一般には金属材料が用いられるが、有機化合物または無機化合物を用いてもよい。
【0096】
透明電極層の成膜方法としては、一般的な電極の成膜方法を用いることができ、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法や、CVD法などを挙げることができる。また、透明電極層のパターニング方法としては、所望のパターンに精度よく形成することができる方法であれば特に限定されるものではなく、具体的にはフォトリソグラフィー法等を挙げることができる。
【0097】
4.基板
本発明に用いられる基板は、上述の透明電極層、有機EL層、金属電極層などを支持するものであり、所定の強度を有するものであれば特に限定されない。本発明においては、透明電極層が所定の強度を有する場合には、透明電極層が基板を兼ねるものであってもよいが、通常は所定の強度を有する基板上に透明電極層が形成される。
【0098】
本発明においては、基板側を光の取出し面とすることから、基板は透明な材料で形成される。このような基板の形成材料としては、例えばソーダ石灰ガラス、アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス板、またはフィルム状に成形が可能な樹脂基板等を用いることができる。この樹脂基板に用いる樹脂としては、耐溶媒性および耐熱性の比較的高い高分子材料であることが好ましい。具体的には、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリミクロイキシレンジメチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、アクリロニトリル−スチレン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、非晶質ポリオレフィン等が挙げられる。また、上記の他にも所定の条件を満たす高分子材料であれば使用可能であり、2種類以上の共重合体を用いることもできる。さらに必要に応じて水分、酸素等のガスを遮断するガスバリア性を有する基板を用いてもよい。
【0099】
5.絶縁層
本発明においては、透明電極層が形成された基板上に絶縁層が形成されていることが好ましい。絶縁層により、透明電極層と金属電極層とが接触してショートするのを防ぐことができるからである。この絶縁層は、透明電極層の端部を覆うように形成されていることが好ましい。透明電極層の端部では有機EL層の厚みが薄くなるため、絶縁層を形成することでショートし難くすることができる。また隣り合う発光領域が電気的に接続されるのを防ぐことができるからである。絶縁層が形成された部分は、発光に寄与しない領域とすることができる。
【0100】
絶縁層の形成材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を挙げることができる。
【0101】
絶縁層の形成方法としては、フォトリソグラフィー法、印刷法等の一般的な方法を用いることができる。
【0102】
6.隔壁
本発明においては、絶縁層上に、ストライプ状の透明電極層と交差するように隔壁がストライプ状に形成されていてもよい。隔壁により、金属電極層をストライプ状に分断することができるからである。
【0103】
隔壁が所定の高さを有していれば、金属電極層を分断することができるため、隔壁の断面形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、矩形状、台形状(順テーパー形状)、逆テーパー形状等が挙げられる。好ましくは、逆テーパー形状等のオーバーハング形状である。
【0104】
隔壁の高さとしては、基板表面から隔壁表面までの高さが、発光領域の中心部における基板表面から金属電極層表面までの高さよりも高くなるように設定される。
【0105】
また、隔壁の形成材料としては、例えば、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂、ノボラック系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を挙げることができる。
【0106】
隔壁の形成方法としては、フォトリソグラフィー法、印刷法等の一般的な方法を用いることができる。
【0107】
B.有機EL素子の製造方法
次に、本発明の有機EL素子の製造方法について説明する。本発明の有機EL素子の製造方法は、第1金属膜および第2金属膜の形成順によって2つの態様に分けることができる。以下、各態様に分けて説明する。
【0108】
I.第1態様
本発明の有機EL素子の製造方法の第1態様は、透明電極層および、発光層を含む有機EL層が順に積層された基板上に、真空中で第1金属膜形成用層をパターン状に形成する第1金属膜形成用層形成工程、および、上記第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程を有し、第1金属膜を形成する第1金属膜形成工程と、上記第1金属膜がパターン状に形成された基板上の全面に、真空中で第2金属膜を形成する第2金属膜形成工程とを有し、上記第1金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第1電極領域と上記第2金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第2電極領域とからなる金属電極層を形成する金属電極層形成工程を有することを特徴とするものである。
【0109】
本発明の有機EL素子の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図11は、本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。まず、基板2上に透明電極層3を形成し、透明電極層3上に有機EL層4を形成する(図11(a))。次いで、有機EL層4が形成された基板2上に、真空中で第1金属膜形成用層5aをパターン状に形成する(図11(b)、第1金属膜形成用層形成工程)。次に、大気圧の状態とし、第1金属膜形成用層5aを酸素を含む雰囲気22に曝し(図11(c)、曝露工程)、第1金属膜5を形成する(図11(b)〜(c)、第1金属膜形成工程)。このとき、第1金属膜形成用層5aが酸素を含む雰囲気に曝されることで、第1金属膜形成用層5aの表面が酸化されると推定される。よって、第1金属膜形成用層5aを酸素を含む雰囲気22に曝して得られる第1金属膜5は、表面が酸化されており、表面に金属の酸化物の皮膜が形成されていると推量される。
【0110】
次に、第1金属膜5がパターン状に形成された基板上の全面に、真空中で第2金属膜6を形成する(図11(d)、第2金属膜形成工程)。これにより、第1金属膜5が有機EL層4側に面するように配置された第1電極領域11と、第2金属膜6が有機EL層4側に面するように配置された第2電極領域12とからなる金属電極層7が形成される(図11(b)〜(d)、金属電極層形成工程)。
【0111】
第1金属膜は、上述したように、表面が酸化されており、表面に金属の酸化物の皮膜が形成されていると推量される。一方、第2金属膜は真空中で成膜されるので、表面は酸化されていないと推測される。金属が酸化されると、その反射特性は変化する。一般に、金属が酸化された場合、金属光沢が失われる。その結果、反射率が低下する。よって、第1金属膜5が有機EL層4側に面するように配置された第1電極領域11と、第2金属膜6が有機EL層4側に面するように配置された第2電極領域12とでは、反射特性が互いに異なるものとなる。具体的には、第1金属膜5が有機EL層4側に面するように配置された第1電極領域11の反射率が、第2金属膜6が有機EL層4側に面するように配置された第2電極領域12の反射率よりも低くなる。
【0112】
したがって、本発明においては、上記「A.有機EL素子」の項に記載したように、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を視認することができ、文字、図形等を視認することが可能な、有機EL素子を得ることができる。また、発光時には、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状とは異なるパターン形状を発光表示することが可能な、有機EL素子を得ることができる。すなわち、発光時には所望のパターンを発光表示することができ、非発光時には所定のパターンを視認することができ、非発光時に見映えの良い有機EL素子を製造することができる。
【0113】
ここで、金属が酸化されると、その導電性も変化すると推測される。第1金属膜は、金属電極層を構成するものであるため、酸化による導電性の低下が懸念される。しかしながら、第1金属膜形成用層の厚みや酸化の程度等を制御することにより、導電性を変化させることなく、反射率を変化させることが可能である。
【0114】
以下、本発明の有機EL素子の製造方法における各工程について説明する。
【0115】
1.金属電極層形成工程
本発明における金属電極層形成工程は、透明電極層および、発光層を含む有機EL層が順に積層された基板上に、真空中で第1金属膜形成用層をパターン状に形成する第1金属膜形成用層形成工程、および、上記第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程を有し、第1金属膜を形成する第1金属膜形成工程と、上記第1金属膜がパターン状に形成された基板上に、真空中で第2金属膜を形成する第2金属膜形成工程とを有するものであり、上記第1金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第1電極領域と上記第2金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第2電極領域とからなる金属電極層を形成する工程である。
以下、金属電極層形成工程における各工程について説明する。
【0116】
(1)第1金属膜形成工程
本発明における第1金属膜形成工程は、透明電極層および、発光層を含む有機EL層が順に積層された基板上に、真空中で第1金属膜形成用層をパターン状に形成する第1金属膜形成用層形成工程と、上記第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程とを有するものであり、第1金属膜を形成する工程である。
以下、第1金属膜形成工程における各工程について説明する。
【0117】
(i)第1金属膜形成用層形成工程
本発明における第1金属膜形成用層形成工程は、透明電極層および、発光層を含む有機EL層が順に積層された基板上に、真空中で第1金属膜形成用層をパターン状に形成する工程である。
【0118】
なお、基板、透明電極層および有機EL層については、上記「A.有機EL素子」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0119】
第1金属膜形成用層の形成に用いる材料としては、上記「A.有機EL素子」の項に記載したように、仕事関数の小さい金属材料であればよい。中でも、本発明においては曝露工程にて第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝してその反射特性を変化させており、具体的には曝露工程にて第1金属膜形成用層の表面が酸化されると推測されることから、酸化皮膜が形成されやすい金属を用いることが好ましい。このような金属としては、アルミニウム、銀、マグネシウム等が挙げられる。特に、アルミニウムが好ましい。アルミニウムは高い反射率を示すからである。
【0120】
第1金属膜形成用層を形成する方法としては、真空中で第1金属膜形成用層をパターン状に形成することが可能な方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な電極の形成方法を用いることができる。例えば、マスクを用いた、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のマスク蒸着法等が挙げられる。
【0121】
中でも、マスクを用いた真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法は、ドライプロセスで有機EL層へのダメージが少ない方法であり、積層に適している。
【0122】
真空中で第1金属膜形成用層をパターン状に形成する際、圧力としては、電極を形成する際の一般的な圧力であればよく、具体的には1×10-5torr以下であることが好ましく、より好ましくは1×10-6torr以下、さらに好ましくは1×10-7torr以下である。
【0123】
第1金属膜形成用層の厚みとしては、1nm〜50nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1nm〜20nmの範囲内、さらに好ましくは1nm〜5nmの範囲内である。第1金属膜形成用層の厚みが薄すぎると、均一な膜を形成することが困難になる場合があるからである。また、後述の曝露工程にて第1金属膜形成用層が酸化されるのは表面付近だけであると想定されるため、第1金属膜形成用層の厚みが厚すぎると、曝露工程後に所望の反射率が得られない場合があるからである。
【0124】
(ii)曝露工程
本発明における曝露工程は、上記第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す工程である。
【0125】
本工程において、雰囲気としては、酸素を含む雰囲気であればよい。酸素を含む雰囲気は、酸素量が1%以下であればよい。
また、第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す際、圧力としては、大気圧程度であってもよく、酸素があれば低真空(1×10-3torr以上)であってもよい。
【0126】
第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す時間としては、目的とする反射率、第1金属膜形成用層に含有される金属の種類や第1金属膜形成用層の厚み等に応じて適宜調整される。具体的に、上記の時間は、1分〜30分の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1分〜10分の範囲内、さらに好ましくは1分〜5分の範囲内である。上記の時間が短すぎると、第1金属膜形成用層の表面を十分に酸化することができず、所望の反射率を得られない場合がある。
【0127】
(iii)その他
本発明においては、上記の第1金属膜形成用層形成工程および曝露工程を繰り返し行い、複数の層が積層された上記第1金属膜を形成してもよい。
図12に示す例においては、まず、有機EL層4が形成された基板2上に、真空中で1層目の第1金属膜形成用層5aをパターン状に形成し(図12(a)、第1金属膜形成用層形成工程)、第1金属膜形成用層5aを酸素を含む雰囲気22に曝し(図12(b)、曝露工程)、1層目の金属膜5bを形成する。次に、1層目の金属膜5bが形成された基板2上に、真空中で2層目の第1金属膜形成用層5cをパターン状に形成し(図12(c)、第1金属膜形成用層形成工程)、第1金属膜形成用層5cを酸素を含む雰囲気22に曝し(図12(d)、曝露工程)、2層目の金属膜5dを形成する。これにより、2層の金属膜5b,5dが積層された第1金属膜5が得られる。すなわち、図12に示す例では、第1金属膜形成用層形成工程および曝露工程を2回繰り返し行っている。
【0128】
上述したように、曝露工程にて第1金属膜形成用層が酸化されるのは表面付近だけであると想定されるため、第1金属膜形成用層の厚みが厚すぎると、曝露工程後に所望の反射率が得られない場合がある。一方、第1金属膜の厚みが薄すぎると、所望の導電性が得られない場合がある。よって、第1金属膜形成用層形成工程および曝露工程を繰り返し行うことで、所望の反射率を有する第1金属膜を得ることができる。
【0129】
複数の層が積層された第1金属膜を形成する場合、積層数としては、所望の反射率を有する第1金属膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、通常、2層〜5層程度であり、好ましくは2層〜4層の範囲内、より好ましくは2層〜3層の範囲内である。
【0130】
すなわち、第1金属膜形成用層形成工程および曝露工程を繰り返し行う場合、繰り返す回数としては、所望の反射率を有する第1金属膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、通常、1回〜4回程度であり、好ましくは1回〜3回の範囲内、より好ましくは1回〜2回の範囲内である。上記の回数が多すぎると、製造工程が煩雑となる。
【0131】
なお、第1金属膜のその他の点について、上記「A.有機EL素子」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0132】
(2)第2金属膜形成工程
本発明における第2金属膜形成工程は、上記第1金属膜がパターン状に形成された基板上の全面に、真空中で第2金属膜を形成する工程である。
【0133】
第2金属膜の形成に用いる材料としては、上記「A.有機EL素子」の項に記載したように、仕事関数の小さい金属材料であればよい。中でも、第1金属膜形成工程および第2金属膜形成工程にて、同一の金属を成膜することが好ましい。すなわち、第2金属膜の形成に用いる材料は、上記第1金属膜形成用層の形成に用いる材料と同一であることが好ましい。上記曝露工程における第1金属膜の酸化の程度を制御することによって第1金属膜の反射率を調整することができ、反射率の異なる第1金属膜および第2金属膜を形成することができるからである。
具体的に、第2金属膜の形成に用いる材料としては、アルミニウム、銀、マグネシウム等が好ましく、アルミニウムがより好ましい。
【0134】
第2金属膜を形成する方法としては、真空中で第2金属膜を形成することが可能な方法であれば特に限定されるものではない。第2金属膜の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を用いることができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の蒸着法等が挙げられる。中でも、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法は、ドライプロセスで有機EL層へのダメージが少ない方法であり、積層に適している。
【0135】
真空中で第2金属膜をパターン状に形成する際、圧力としては、電極を形成する際の一般的な圧力であればよく、具体的には1×10-5torr以下であることが好ましく、より好ましくは1×10-6torr以下、さらに好ましくは1×10-7torr以下である。
【0136】
なお、第2金属膜のその他の点について、上記「A.有機EL素子」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0137】
(3)その他
本発明における金属電極層形成工程においては、上記の第1金属膜形成工程および第2金属膜形成工程を行うことにより、第1金属膜が有機EL層側に面するように配置された第1電極領域と第2金属膜が有機EL層側に面するように配置された第2電極領域とからなる金属電極層を形成する。
なお、第1電極領域および第2電極領域については、上記「A.有機EL素子」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0138】
2.その他の工程
本発明の有機EL素子の製造方法は、透明電極層が形成された基板上に絶縁層を形成する工程、絶縁層上に隔壁を形成する工程、透明電極層が形成された基板上に有機EL層を形成する工程等を有していてもよい。
なお、絶縁層およびその形成方法、隔壁およびその形成方法、有機EL層およびその形成方法等については、上記「A.有機EL素子」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0139】
II.第2態様
本発明の有機EL素子の製造方法の第2態様は、透明電極層および、発光層を含む有機EL層が順に積層された基板上に、真空中で第2金属膜をパターン状に形成する第1の第2金属膜形成工程と、上記第2金属膜が形成された基板上の全面に、真空中で第1金属膜形成用層を形成する第1金属膜形成用層形成工程、および、上記第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程を有し、第1金属膜を形成する第1金属膜形成工程と、上記第2金属膜および上記第1金属膜が形成された基板上の全面に、真空中で第2金属膜を形成する第2の第2金属膜形成工程とを有し、上記第1金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第1電極領域と上記第2金属膜が上記有機EL層側に面するように配置された第2電極領域とからなる金属電極層を形成する金属電極層形成工程を有することを特徴とするものである。
【0140】
図13は、本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。まず、基板2上に透明電極層3を形成し、透明電極層3上に有機EL層4を形成する(図13(a))。次いで、有機EL層4が形成された基板2上に、真空中で第2金属膜6を形成する(図13(b)、第1の第2金属膜形成工程)。
次に、第2金属膜6が形成された基板上の全面に、真空中で第1金属膜形成用層5aを形成する(図13(c)、第1金属膜形成用層形成工程)。次いで、大気圧の状態とし、第1金属膜形成用層5aを酸素を含む雰囲気22に曝し(図13(d)、曝露工程)、第1金属膜5を形成する(図13(c)〜(d)、第1金属膜形成工程)。このとき、第1金属膜形成用層5aが酸素を含む雰囲気に曝されることで、第1金属膜形成用層5aの表面が酸化されると推定される。よって、第1金属膜形成用層5aを酸素を含む雰囲気22に曝して得られる第1金属膜5は、表面が酸化されており、表面に金属の酸化物の皮膜が形成されていると推量される。
次に、第2金属膜6および第1金属膜5が形成された基板上の全面に、真空中で第2金属膜6を形成する(図13(e)、第2の第2金属膜形成工程)。これにより、第1金属膜5が有機EL層4側に面するように配置された第1電極領域11と、第2金属膜6が有機EL層4側に面するように配置された第2電極領域12とからなる金属電極層7が形成される(図13(b)〜(d)、金属電極層形成工程)。
【0141】
第1金属膜は、上述したように、表面が酸化されており、表面に金属の酸化物の皮膜が形成されていると推量される。一方、第2金属膜は真空中で成膜されるので、表面は酸化されていないと推測される。金属が酸化されると、その反射特性は変化する。一般に、金属が酸化された場合、金属光沢が失われる。その結果、反射率が低下する。よって、第1金属膜5が有機EL層4側に面するように配置された第1電極領域11と、第2金属膜6が有機EL層4側に面するように配置された第2電極領域12とでは、反射特性が互いに異なるものとなる。具体的には、第1金属膜5が有機EL層4側に面するように配置された第1電極領域11の反射率が、第2金属膜6が有機EL層4側に面するように配置された第2電極領域12の反射率よりも低くなる。
【0142】
したがって、本発明においては、上記「A.有機EL素子」の項に記載したように、非発光時に、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状を視認することができ、文字、図形等を視認することが可能な、有機EL素子を得ることができる。また、発光時には、第1電極領域および第2電極領域により構成されるパターン形状とは異なるパターン形状を発光表示することが可能な、有機EL素子を得ることができる。すなわち、発光時には所望のパターンを発光表示することができ、非発光時には所定のパターンを視認することができ、非発光時に見映えの良い有機EL素子を製造することができる。
【0143】
ここで、金属が酸化されると、その導電性も変化すると推測される。第1金属膜は、金属電極層を構成するものであるため、酸化による導電性の低下が懸念される。しかしながら、第1金属膜形成用層の厚みや酸化の程度等を制御することにより、導電性を変化させることなく、反射率を変化させることが可能である。
【0144】
なお、第2の第2金属膜形成工程については、上記第1態様の第2金属膜形成工程と同様であるので、ここでの説明は省略する。以下、本態様の有機EL素子の製造方法における他の工程について説明する。
【0145】
1.第1の第2金属膜形成工程
本態様における第1の第2金属膜形成工程は、透明電極層および、発光層を含む有機EL層が順に積層された基板上に、真空中で第2金属膜をパターン状に形成する工程である。
【0146】
第2金属膜を形成する方法としては、真空中で第2金属膜をパターン状に形成することが可能な方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な電極の形成方法を用いることができる。例えば、マスクを用いた、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のマスク蒸着法等が挙げられる。
中でも、マスクを用いた真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法は、ドライプロセスで有機EL層へのダメージが少ない方法であり、積層に適している。
【0147】
なお、その他の点について、上記第1態様の第2金属膜形成工程と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0148】
2.第1金属膜形成工程
本態様における第1金属膜形成工程は、上記第2金属膜が形成された基板上の全面に、真空中で第1金属膜形成用層を形成する第1金属膜形成用層形成工程と、上記第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程とを有しており、第1金属膜を形成する工程である。
【0149】
第1金属膜形成用層を形成する方法としては、真空中で第1金属膜形成用層を形成することが可能な方法であれば特に限定されるものではない。第1金属膜形成用層の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を用いることができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の蒸着法等が挙げられる。中でも、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法は、ドライプロセスで有機EL層へのダメージが少ない方法であり、積層に適している。
【0150】
なお、その他の点について、上記第1態様の第1金属膜形成工程と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0151】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0152】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[実施例1]
(透明電極層の形成)
まず、ガラス基板(厚み0.7mm)に対して、イオンプレーティング法により膜厚200nmの酸化インジウムスズ(ITO)電極膜を形成し、このITO電極膜上に感光性レジストを塗布し、マスク露光、現像、ITO電極膜のエッチングを行って、幅1.7mmのストライプ状の透明電極層を2.3mmピッチで30本形成した。
【0153】
(絶縁層の形成)
次に、上記のガラス基板(厚み0.7mm)に、洗浄処理と紫外線プラズマ洗浄を施し、その後、ポリイミド前駆体を主成分とするポジ型感光性レジストをスピンコート法で塗布し、フォトリソグラフィープロセスでパターニングして、各透明電極層上に1.5mm×1.5mmの発光エリア(開口部)が2.3mmピッチで存在するように絶縁層(厚み1.5μm)を形成した。
【0154】
(隔壁の形成)
次に、上記の絶縁層が形成されたガラス基板に、洗浄処理と紫外線プラズマ洗浄を施し、その後、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂からなるネガ型感光性レジストをスピンコート法で塗布し、フォトリソグラフィープロセスでパターニングして、絶縁層上に透明電極層と直交するように、ストライプ状で断面形状が逆テーパー状の隔壁を並列に形成した。この際、隔壁を構成する小隔壁の数は2個(2ライン)とした。また、小隔壁の間隔を30μmで隔壁を形成した。小隔壁は、幅が50μm、厚みが4μm、逆テーパーの角度は50°であった。
【0155】
(正孔注入層用のインキおよび赤色発光層用のインキの調製)
次に、下記組成の正孔注入層用のインキA1を調製した。このインキA1のせん断速度100/秒における粘度(インキ温度23℃)を、Physica社製の粘弾性測定装置MCR301型により定常流測定モードで測定した結果、15cPであった。また、2Hzにおける動的表面張力(インキ温度23℃)をSITA t60/2(SITA Messtechnik GmbH社製)を用いて測定した結果、30dyne/cmであった。
<正孔注入層用のインキA1の組成>
・PEDOT(ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン)/PSS(ポリスチレンスルフォネート)(混合比=1/20)(バイエル社製 Baytron PCH8000)
… 70重量%
・混合溶媒(水:イソプロピルアルコール(沸点82.4℃)=70:30)
… 30重量%
【0156】
次いで、下記組成の赤色発光層用のインキB1を調製した。このインキB1のせん断速度100/秒における粘度(インキ温度23℃)を、上記のインキA1と同様に測定した結果、80cPであった。また、溶媒として使用するメシチレンとテトラリンの表面張力を、協和界面科学(株)製の表面張力計CBVP−Z型により、液温20℃で測定した。
<赤色発光層用のインキB1の組成>
・ポリフルオレン誘導体系の赤色発光材料(分子量:300,000)…2.5重量%
・溶媒(メシチレン:テトラリン=50:50の混合溶媒) … 97.5重量%
(混合溶媒の表面張力=32dyne/cm、沸点=186℃)
(メシチレンの表面張力=28dyne/cm、沸点=165℃)
(テトラリンの表面張力=35.5dyne/cm、沸点=207℃)
【0157】
(正孔注入層および発光層の形成)
グラビア版として、セル間隔25μmとなるように格子形状に配列された正方形のセル(セルの一辺が100μm、セルの深さ35μm)を備えた板状のグラビア版(有効幅80mm)を準備した。このグラビア版では、正方形のセルの対角線方向を、後述のブランケットの稼動方向と一致させた。
次に、樹脂フィルムとして、易接着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)製 U10、厚み100μm、表面張力60dyne/cm)を準備した。なお、このフィルムの表面張力は、2種以上の表面張力が判っている液体(標準物質)を使用して、自動接触角計(協和界面科学(株)製 DropMaster 700型)にて接触角θを測定し、γs(樹脂フィルムの表面張力)=γL(液体の表面張力)cosθ+γSL(樹脂フィルムと液体の表面張力)の式に基づいて求めた。
次いで、直径12cm、胴幅30cmのブランケット胴(表面にクッション層(硬度70°)を備える)の周面に、上記の樹脂フィルムを装着してブランケットを作製した。なお、クッション層の硬度はJIS(K6253)デュロメータ硬さ試験によるTypeA硬度である。
【0158】
次に、上記のグラビア版とブランケットを平台オフセット印刷機に装着し、グラビア版に上記の正孔注入層用のインキA1を供給し、ブレードを用いて不要なインキを除去して、セル内にインキを充填した。次いで、グラビア版からブランケットにインキを受理させ、その後、ブランケットから上記の隔壁等が形成されたガラス基板上にインキを転移させることによって、正孔注入層(厚み約70nm)の形成を行った。なお、印刷速度は1000mm/秒であり、乾燥は120℃に設定したホットプレート上で1時間とした。この正孔注入層は80mm×80mmであり、上記の絶縁層の開口部を被覆するように形成した。
【0159】
次いで、グラビア版に上記の赤色発光層用のインキB1を供給し、正孔注入層の形成と同様の作業によって、赤色発光層(厚み約70nm)の形成を行った。なお、印刷速度は1000mm/秒であり、乾燥は180℃に設定したホットプレート上で1時間とした。この赤色発光層は80mm×80mmであり、上記の正孔注入層を被覆するように形成した。
【0160】
(電子注入層の形成)
赤色発光層を形成した面側に、90mm×90mmの開口部を備えたメタルマスクを上記の絶縁層の発光エリア(開口部)上に位置するように配置した。次に、このマスクを介して真空蒸着法によりカルシウムを蒸着(蒸着速度=0.1nm/秒)して電子注入層(厚み10nm)を形成した。
【0161】
(金属電極層の形成)
次に、ハート型のメタルマスクを使用して、真空蒸着法によりアルミニウムを蒸着(蒸着速度=0.4nm/秒)し、電子注入層上に、ハート型の開口部を有するアルミニウム膜(厚み5nm)を形成した。その後、上記アルミニウム膜を、大気圧下、酸素量0.2ppm環境下に5分間曝した。これにより、第1金属膜を得た。
次に、電子注入層の形成に用いたメタルマスクをそのまま使用して、真空蒸着法によりアルミニウムを蒸着(蒸着速度=0.4nm/秒)した。これにより、上記第1金属膜が形成された電子注入層上に、90mm×90mmのアルミニウムからなる第2金属膜(厚み300nm)を形成した。
最後に、第2金属膜を形成した面側に、紫外線硬化型接着剤を介して封止板を貼り合わせることにより、有機EL素子を得た。
【0162】
実施例1の有機EL素子において、反射率を測定したところ、第1金属膜が有機EL層側に面している領域では88%、第2金属膜が有機EL層側に面している領域では96%であった。よって、実施例1の有機EL素子では、ハート型の模様を確認できた。また、この素子はパッシブ駆動で文字表示も可能であった。
【0163】
[比較例1]
実施例1の金属電極層の形成において、ハート型の開口部を有するアルミニウム膜を酸素を含む雰囲気に曝さなかった以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0164】
比較例1の有機EL素子において、反射率を測定したところ、第1金属膜が有機EL層側に面している領域では96%、第2金属膜が有機EL層側に面している領域でも96%であった。よって、比較例1の有機EL素子では、ハート型の模様を確認できなかった。なお、この素子はパッシブ駆動で文字表示も可能であった。
【0165】
[実施例2]
下記のようにして第1金属膜を形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(金属電極層の形成)
ハート型のメタルマスクを使用して、真空蒸着法によりアルミニウムを蒸着(蒸着速度=0.4nm/秒)し、電子注入層上に、ハート型の開口部を有するアルミニウム膜(厚み5nm)を形成した。その後、アルミニウム膜を、大気圧下、酸素量0.2ppm環境下に5分間曝した。
次に、再度ハート型のメタルマスクを使用して、真空蒸着法によりアルミニウムを蒸着(蒸着速度=0.4nm/秒)し、上記アルミニウム膜上に、ハート型の開口部を有するアルミニウム膜(厚み5nm)を積層した。その後、アルミニウム膜を、大気圧下、酸素量0.2ppm環境下に5分間曝した。これにより、第1金属膜を得た。
次に、電子注入層の形成に用いたメタルマスクをそのまま使用して、真空蒸着法によりアルミニウムを蒸着(蒸着速度=0.4nm/秒)した。これにより、上記第1金属膜が形成された電子注入層上に、90mm×90mmのアルミニウムからなる第2金属膜(厚み300nm)を形成した。
【0166】
実施例2の有機EL素子において、反射率を測定したところ、第1金属膜が有機EL層側に面している領域では83%、第2金属膜が有機EL層側に面している領域では96%であった。よって、実施例2の有機EL素子では、ハート型の模様を確認できた。また、この素子はパッシブ駆動で文字表示も可能であった。
実施例1および実施例2を比較すると、ハート型の模様は実施例2のほうがより認識され易くなった。
【0167】
[実施例3]
下記のようにして電子注入層を形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(電子注入層の形成)
赤色発光層を形成した面側に、90mm×90mmの開口部を備えたメタルマスクを上記の絶縁層の発光エリア(開口部)上に位置するように配置した。次に、このマスクを介して真空蒸着法によりアルミニウム錯体(Alq3)とフッ化リチウム(LiF)とを蒸着(蒸着速度=0.1nm/秒)して、電子注入層(Alq3(厚さ10nm)/LiF(厚さ2nm))を形成した。
【0168】
実施例3の有機EL素子において、反射率を測定したところ、第1金属膜が有機EL層側に面している領域では88%、第2金属膜が有機EL層側に面している領域では96%であった。よって、実施例3の有機EL素子では、ハート型の模様を確認できた。また、この素子はパッシブ駆動で文字表示も可能であった。
【0169】
[実施例4]
下記のようにして金属電極層を形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(金属電極層の形成)
ハート型のメタルマスクを使用して、真空蒸着法によりアルミニウムを蒸着(蒸着速度=0.4nm/秒)し、電子注入層上に、ハート型の開口部を有し、アルミニウムからなる第1金属膜(厚み300nm)を形成した。
次に、電子注入層の形成に用いたメタルマスクをそのまま使用して、真空蒸着法により金を蒸着(蒸着速度=0.4nm/秒)した。これにより、上記第1金属膜が形成された電子注入層上に、90mm×90mmの金からなる第2電極層(厚み300nm)を形成した。
【0170】
実施例4の有機EL素子においては、第1金属膜が有機EL層側に面している領域と第2金属膜が有機EL層側に面している領域とで反射光の色が異なり、ハート型の模様を認識することができた。また、この素子はパッシブ駆動で文字表示も可能であった。
【0171】
[実施例5]
下記のようにして金属電極層を形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(金属電極層の形成)
ハート型のメタルマスクを使用して、真空蒸着法によりアルミニウムを蒸着(蒸着速度=0.4nm/秒)し、電子注入層上に、ハート型の開口部を有し、アルミニウムからなる第1金属膜(厚み300nm)を形成した。
次に、電子注入層の形成に用いたメタルマスクをそのまま使用して、上記第1金属膜が形成された電子注入層上に、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)を抵抗加熱蒸着法により成膜し、電荷輸送性保護層(厚み:100nm)を形成した。さらに、上記電荷輸送性保護層上に、対向ターゲット式スパッタリング法によりIZOの薄膜(厚み:150nm)を成膜し、IZOからなる第2金属膜を形成した。
【0172】
実施例5の有機EL素子においては、第1金属膜が有機EL層側に面している領域では光を反射し、第2金属膜が有機EL層側に面している領域では光を透過して、ハート型の模様を認識することができた。また、この素子はパッシブ駆動で文字表示も可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の有機EL素子の一例を示す模式図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】本発明の有機EL素子の非発光時および発光時の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の有機EL素子の非発光時および発光時の他の例を示す模式図である。
【図6】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の有機EL素子の他の例を示す模式図である。
【図8】図7のB−B線断面図である。
【図9】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図12】本発明の有機EL素子の製造方法における第1金属膜形成工程の一例を示す工程図である。
【図13】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0174】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 透明電極層
4 … 有機EL層
5 … 第1金属膜
5a,5c … 第1金属膜形成用層
6 … 第2金属膜
7 … 金属電極層
11 … 第1電極領域
12 … 第2電極領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された透明電極層と、
前記透明電極層上に形成され、発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス層と、
前記有機エレクトロルミネッセンス層上に形成され、第1金属膜および第2金属膜を含む金属電極層と
を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記金属電極層が、前記第1金属膜が前記有機エレクトロルミネッセンス層側に面するように配置された第1電極領域と、前記第2金属膜が前記有機エレクトロルミネッセンス層側に面するように配置された第2電極領域とからなり、
前記第1電極領域および前記第2電極領域の反射特性が互いに異なり、前記第1電極領域の前記第1金属膜と前記第2電極領域の前記第2金属膜とが電気的に接していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記第1金属膜および前記第2金属膜が同一の金属元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記金属元素がアルミニウムであることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記第1電極領域の反射率が前記第2電極領域の反射率よりも低いことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記第1電極領域および前記第2電極領域での反射光の色が互いに異なることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記第1電極領域では、前記有機エレクトロルミネッセンス層上に前記第1金属膜および前記第2金属膜が順に積層されており、前記第2電極領域では、前記有機エレクトロルミネッセンス層上に前記第2金属膜が形成され、前記第1金属膜が形成されていないことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記第1電極領域では、前記有機エレクトロルミネッセンス層上に前記第1金属膜および前記第2金属膜が順に積層されており、前記第2電極領域では、前記有機エレクトロルミネッセンス層上に前記第2金属膜、前記第1金属膜および前記第2金属膜が順に積層されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記第1電極領域では、前記有機エレクトロルミネッセンス層上に前記第1金属膜が形成され、前記第2金属膜が形成されていなく、前記第2電極領域では、前記有機エレクトロルミネッセンス層上に前記第2金属膜が形成され、前記第1金属膜が形成されていないことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
透明電極層および、発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス層が順に積層された基板上に、真空中で第1金属膜形成用層をパターン状に形成する第1金属膜形成用層形成工程、および、前記第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程を有し、第1金属膜を形成する第1金属膜形成工程と、
前記第1金属膜がパターン状に形成された基板上の全面に、真空中で第2金属膜を形成する第2金属膜形成工程と
を有し、前記第1金属膜が前記有機エレクトロルミネッセンス層側に面するように配置された第1電極領域と前記第2金属膜が前記有機エレクトロルミネッセンス層側に面するように配置された第2電極領域とからなる金属電極層を形成する金属電極層形成工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
透明電極層および、発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス層が順に積層された基板上に、真空中で第2金属膜をパターン状に形成する第1の第2金属膜形成工程と、
前記第2金属膜が形成された基板上の全面に、真空中で第1金属膜形成用層を形成する第1金属膜形成用層形成工程、および、前記第1金属膜形成用層を酸素を含む雰囲気に曝す曝露工程を有し、第1金属膜を形成する第1金属膜形成工程と、
前記第2金属膜および前記第1金属膜が形成された基板上の全面に、真空中で第2金属膜を形成する第2の第2金属膜形成工程と
を有し、前記第1金属膜が前記有機エレクトロルミネッセンス層側に面するように配置された第1電極領域と前記第2金属膜が前記有機エレクトロルミネッセンス層側に面するように配置された第2電極領域とからなる金属電極層を形成する金属電極層形成工程を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1金属膜形成工程にて、前記第1金属膜形成用層形成工程および前記曝露工程を繰り返し行い、複数の層が積層された前記第1金属膜を形成することを特徴とする請求項9または請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項12】
前記第1金属膜形成工程および前記第2金属膜形成工程にて、同一の金属を成膜することを特徴とする請求項9から請求項11までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項13】
前記金属がアルミニウムであることを特徴とする請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−157389(P2010−157389A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333998(P2008−333998)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】