説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製造方法

【課題】本発明は、隔壁を有し、塗布方式により発光層などの有機層を精度良くパターニングすることが可能であり、電極の断線を防ぐことが可能な有機EL素子およびその製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、基板と、上記基板上に形成された第1電極層と、上記基板上に形成された隔壁と、上記隔壁上および上記隔壁の開口部に形成され、上記隔壁上に配置された撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを有する正孔注入輸送層と、上記親液性領域上に形成され、発光層を含む有機層と、上記有機層上および上記隔壁上に形成された第2電極層と、上記基板上に形成され、上記隔壁の開口部に配置された第2電極層用取り出し電極とを有し、有機層形成領域と第2電極層用取り出し電極形成領域とが重複していない有機EL素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードセパレータを有する、パッシブマトリクス方式の有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機EL素子を用いたディスプレイの製造にあっては、発光層等の有機層のパターニングがなされている。有機層のパターニング方法としては、蒸着方式と塗布方式とが知られている。蒸着方式としては、有機材料をシャドウマスクを介して蒸着する方法が汎用されている。一方、塗布方式としては、インクジェット法、スクリーン印刷法などが提案されている。また、インクジェット法では、精度良く塗布するために、少なくとも表面に撥液性を有する隔壁を形成することが提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。さらに、高精細なパターンの形成を可能とするために、光触媒を用いる方法(例えば、特許文献3および特許文献4参照)や、真空紫外光を用いる方法(例えば、特許文献5参照)も提案されている。塗布方式は有機EL素子の大型化に有利であることから盛んに開発がなされている。
【0003】
また、パッシブマトリクス方式の有機EL素子の作製においては、カソードセパレータ(断面形状が逆テーパー形状である隔壁)を設け、カソードセパレータの上から電極材料を蒸着することで、カソードセパレータによって電極を分断する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3951445号公報
【特許文献2】特許第3328297号公報
【特許文献3】特開2004−71286号公報
【特許文献4】特開2004−111220号公報
【特許文献5】特開2007−178783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パッシブマトリクス方式の有機EL素子の作製に際して、少なくとも表面に撥液性を有するカソードセパレータを設けることで、電極を分断するとともに、塗布方式により発光層を精細にパターニングすることができると考えられる。しかしながら、図15に例示するように、ストライプ状の第1電極層103および撥液性を有するストライプ状のカソードセパレータ105が交差するように形成された基板102上に、カソードセパレータ105の開口部に有機層形成用塗工液106を塗布すると、カソードセパレータ105の長手方向に有機層形成用塗工液106が流れてしまい、発光層をパターニングすることが困難である。
【0006】
そこで、発光層をパターニングするために、図16(a)に例示するように、ストライプ状の第1電極層103が形成された基板102上に、梯子状のカソードセパレータ105を形成し、このカソードセパレータ105の開口部に有機層形成用塗工液106を塗布することが考えられる。しかしながら、図16(b)に例示するように、カソードセパレータ105の上から電極材料を蒸着すると、カソードセパレータ105によって第2電極層108が分断され、第2電極層用取り出し電極109とカソードセパレータ105の開口部に形成された第2電極層108とを電気的に接続することができず、断線してしまう。なお、図16(b)は図16(a)のI−I線断面図であり、図16(a)において第2電極層は一点鎖線で示されている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、カソードセパレータを有する、パッシブマトリクス方式の有機EL素子において、塗布方式により発光層などの有機層を精度良くパターニングすることが可能であり、電極の断線を防ぐことが可能な有機EL素子およびその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、基板と、上記基板上にストライプ状に形成された第1電極層と、上記第1電極層が形成された上記基板上に上記第1電極層の長手方向と直交する方向にストライプ状に形成され、断面形状が逆テーパー形状である隔壁と、上記隔壁上および上記隔壁の開口部に形成され、上記隔壁上に配置されエネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る濡れ性変化材料を含有する撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置され上記濡れ性変化材料の濡れ性が変化された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを有する正孔注入輸送層と、上記親液性領域上に形成され、少なくとも発光層を有する有機層と、上記有機層上および上記隔壁上に形成され、上記隔壁によって分断されている第2電極層と、上記基板上に形成され、上記第2電極層に電気的に接続された第2電極層用取り出し電極とを有し、上記隔壁の開口部に上記第2電極層用取り出し電極が配置され、上記第2電極層が設けられている第2電極層形成領域と上記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域とが重複しており、上記有機層が設けられている有機層形成領域と上記第2電極層用取り出し電極形成領域とが重複していないことを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0009】
本発明によれば、正孔注入輸送層表面に形成された濡れ性変化パターンを利用して、発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができる。さらに、発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができ、有機層、第2電極層および第2電極層用取り出し電極が所定の位置に形成されているので、第2電極層が断線することなく、第2電極層用取り出し電極と隔壁の開口部に形成された第2電極層とを電気的に接続することが可能である。
【0010】
上記発明においては、上記隔壁の長手方向の上記第2電極層の長さが、上記隔壁の長さよりも短いことが好ましい。ストライプ状の隔壁によって第2電極層を分断するためである。
【0011】
また本発明においては、上記濡れ性変化材料が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面に、フッ素含有有機化合物が付着している材料であることが好ましい。表面にフッ素含有有機化合物が付着している遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターは、エネルギー照射に伴う光触媒の作用や真空紫外光の照射により濡れ性が変化可能な上、プロセス耐性が高いこと、ならびに、ウェットプロセスにより正孔注入輸送層を形成でき製造プロセスが容易でありながら、正孔注入特性を向上し、かつ、隣接する第1電極層や有機層との密着性にも優れた、安定性の高い正孔注入輸送層となるからである。
【0012】
上記の場合、上記遷移金属酸化物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、レニウムおよびバナジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが好ましい。駆動電圧が低下し、素子寿命が向上するからである。
【0013】
また上記の場合、上記フッ素含有有機化合物がフッ素化アルキル基を含有することが好ましい。エネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射による濡れ性の変化が良好で、優れたパターニング特性が得られるからである。
【0014】
さらに本発明においては、上記濡れ性変化材料が、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体に、フッ素含有有機化合物が付着している材料であることも好ましい。表面にフッ素含有有機化合物が付着している、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用や真空紫外光の照射により濡れ性が変化可能な上、プロセス耐性が高いこと、ならびに、ウェットプロセスにより正孔注入輸送層を形成でき製造プロセスが容易でありながら、正孔注入特性を向上し、かつ、隣接する第1電極層や有機層との密着性にも優れた、安定性の高い正孔注入輸送層となるからである。
【0015】
上記の場合、上記遷移金属酸化物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、レニウムおよびバナジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが好ましい。駆動電圧が低下し、素子寿命が向上するからである。
【0016】
また上記の場合、上記有機−遷移金属酸化物複合体は、上記有機遷移金属錯体と、カルボニル基および/または水酸基を有する有機溶媒との反応生成物であることが好ましい。駆動電圧が低下し、素子寿命が向上するからである。
【0017】
さらに上記の場合、上記フッ素含有有機化合物がフッ素化アルキル基を含有することが好ましい。エネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射による濡れ性の変化が良好で、優れたパターニング特性が得られるからである。
【0018】
また本発明は、ストライプ状の第1電極層、上記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および上記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、基体上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層が形成されている光触媒含有層基板を、上記正孔注入輸送層に対して、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置した後、上記正孔注入輸送層にパターン状にエネルギーを照射することにより、上記正孔注入輸送層の表面に上記隔壁上に配置された撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程と、上記正孔注入輸送層上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、上記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域に重ならないように、上記親液性領域上に少なくとも発光層を含む有機層を形成する有機層形成工程と、上記隔壁上および上記有機層上に、上記隔壁により分断され、上記第2電極層用取り出し電極形成領域に重なるように、第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0019】
本発明によれば、正孔注入輸送層表面に形成された濡れ性変化パターンを利用して、発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができる。さらに、発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができ、第2電極層用取り出し電極、有機層および第2電極層を所定の位置に形成するので、第2電極層を断線させることなく、第2電極層用取り出し電極と隔壁の開口部に形成された第2電極層とを電気的に接続することが可能である。
【0020】
さらに本発明は、ストライプ状の第1電極層、上記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および上記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、撥液性を有し、真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、上記正孔注入輸送層にパターン状に真空紫外光を照射することにより、上記正孔注入輸送層の表面に上記隔壁上に配置された撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程と、上記正孔注入輸送層上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、上記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域に重ならないように、上記親液性領域上に少なくとも発光層を含む有機層を形成する有機層形成工程と、上記隔壁上および上記有機層上に、上記隔壁により分断され、上記第2電極層用取り出し電極形成領域に重なるように、第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0021】
本発明によれば、正孔注入輸送層表面に形成された濡れ性変化パターンを利用して、発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができる。さらに、発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができ、第2電極層用取り出し電極、有機層および第2電極層を所定の位置に形成するので、第2電極層を断線させることなく、第2電極層用取り出し電極と隔壁の開口部に形成された第2電極層とを電気的に接続することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、正孔注入輸送層表面に形成された濡れ性変化パターンを利用して発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができるとともに、第2電極層が断線することなく、第2電極層用取り出し電極と隔壁の開口部に形成された第2電極層とを電気的に接続することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図、B−B線断面図およびC−C線断面図である。
【図3】本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図4】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図5】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略平面図である。
【図6】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略平面図および断面図である。
【図7】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略平面図である。
【図8】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図9】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図10】本発明に用いられる光触媒含有層基板の一例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図12】実施例の有機EL素子の製造方法を示す工程図である。
【図13】実施例の有機EL素子の製造方法を示す工程図である。
【図14】実施例の有機EL素子の製造方法を示す工程図である。
【図15】有機EL素子の製造方法の一例を示す模式図である。
【図16】有機EL素子の一例を示す概略平面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の有機EL素子およびその製造方法について詳細に説明する。
【0025】
A.有機EL素子
まず、本発明の有機EL素子について説明する。
本発明の有機EL素子は、基板と、上記基板上にストライプ状に形成された第1電極層と、上記第1電極層が形成された上記基板上に上記第1電極層の長手方向と直交する方向にストライプ状に形成され、断面形状が逆テーパー形状である隔壁と、上記隔壁上および上記隔壁の開口部に形成され、上記隔壁上に配置されエネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る濡れ性変化材料を含有する撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置され上記濡れ性変化材料の濡れ性が変化された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを有する正孔注入輸送層と、上記親液性領域上に形成され、少なくとも発光層を有する有機層と、上記有機層上および上記隔壁上に形成され、上記隔壁によって分断されている第2電極層と、上記基板上に形成され、上記第2電極層に電気的に接続された第2電極層用取り出し電極とを有し、上記隔壁の開口部に上記第2電極層用取り出し電極が配置され、上記第2電極層が設けられている第2電極層形成領域と上記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域とが重複しており、上記有機層が設けられている有機層形成領域と上記第2電極層用取り出し電極形成領域とが重複していないことを特徴とするものである。
【0026】
本発明の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の有機EL素子の一例を示す概略平面図であり、図2(a)は図1のA−A線断面図、図2(b)は図1のB−B線断面図、図2(c)は図1のC−C線断面図である。
図1および図2(a)〜(c)に例示するように、有機EL素子1は、基板2と、基板2上にストライプ状に形成された第1電極層3と、基板2上に第1電極層3の端部を覆うように形成され、発光領域を画定する絶縁層4(図1では省略。)と、絶縁層4上に第1電極層3の長手方向と直交する方向にストライプ状に形成され、断面形状が逆テーパー形状である隔壁5と、隔壁5上および隔壁5の開口部に形成され、表面に撥液性領域11(図1では一点二短鎖線で示す。)および親液性領域12(図1では破線で示す。)からなる濡れ性変化パターンを有する正孔注入輸送層6と、正孔注入輸送層6の親液性領域12上に形成され、少なくとも発光層を有する有機層7と、有機層7上および隔壁5上に形成され、隔壁5によって分断されている第2電極層8(図1では一点鎖線で示す。)と、基板2上に形成され、第2電極層8に電気的に接続された第2電極層用取り出し電極9とを有している。
【0027】
正孔注入輸送層6は、表面に、撥液性領域11と親液性領域12とからなる濡れ性変化パターンを有している。撥液性領域11は、隔壁5上に配置され、エネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る濡れ性変化材料を含有している。一方、親液性領域12は、隔壁5の開口部に配置され、撥液性領域11に含まれる濡れ性変化材料の濡れ性が変化されたものとなっている。
【0028】
図3(a)〜(e)は、本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。まず、図3(a)に示すように、第1電極層3と絶縁層4と隔壁5とが形成された基板2上に、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る濡れ性変化材料を含有する正孔注入輸送層6を形成する。次に、図3(b)に示すように、基体22と、基体22上にパターン状に形成された遮光部23と、基体22上に遮光部23を覆うように形成され、光触媒を含有する光触媒含有層24とを有する光触媒含有層基板21を準備する。次いで、光触媒含有層基板21を、光触媒含有層24と正孔注入輸送層6とが向かい合うように配置し、光触媒含有層基板21を介して正孔注入輸送層6に対して紫外光27を照射する。紫外光27の照射により、図3(c)に示すように、光触媒含有層24に含有される光触媒の作用から、正孔注入輸送層6の露光部では、正孔注入輸送層6に含有される濡れ性変化材料の濡れ性が変化し、親液性領域12となる。一方、正孔注入輸送層6の未露光部では、正孔注入輸送層6に含有される濡れ性変化材料の濡れ性は変化せず、撥液性領域11となる。次に、図3(d)に示すように、正孔注入輸送層6上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布し、親液性領域12上に有機層7を形成する。次いで、図3(e)に示すように、隔壁5上および有機層7上に第2電極層8を形成する。
【0029】
図4(a)〜(e)は、本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。まず、図4(a)に示すように、第1電極層3と絶縁層4と隔壁5とが形成された基板2上に、真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る濡れ性変化材料を含有する正孔注入輸送層6を形成する。次に、図4(b)に示すように、メタルマスク31を正孔注入輸送層6の表面に配置し、メタルマスク31を介して正孔注入輸送層6に対して真空紫外光37を照射する。真空紫外光37の照射により、図4(c)に示すように、正孔注入輸送層6の露光部では、正孔注入輸送層6に含有される濡れ性変化材料の濡れ性が変化し、親液性領域12となる。一方、正孔注入輸送層6の未露光部では、正孔注入輸送層6に含有される濡れ性変化材料の濡れ性は変化せず、撥液性領域11となる。次に、図4(d)に示すように、正孔注入輸送層6上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布し、親液性領域12上に有機層7を形成する。次いで、図4(e)に示すように、隔壁5上および有機層7上に第2電極層8を形成する。
【0030】
このように、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及んだ部分または真空紫外光が照射された部分では、正孔注入輸送層に含有される濡れ性変化材料の濡れ性が撥液性から親液性に変化する。その結果、表面に撥液性領域および親液性領域からなる濡れ性変化パターンを有する正孔注入輸送層を得ることができる。本発明においては、隔壁の開口部に配置された親液性領域上には有機層が形成され、隔壁上に配置された撥液性領域上には有機層が形成されないので、正孔注入輸送層表面の濡れ性変化パターンを利用して、発光層等の有機層を精度良くパターニングすることが可能である。
【0031】
また、図1および図2(a)〜(c)に例示するように、第2電極層用取り出し電極9は、隔壁5の開口部に配置されている。
なお、隔壁の開口部とは、隣接するストライプ状の隔壁により画定される領域をいう。ストライプ状の隔壁とは、第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁をいう。図5に示す例においては、隣接するストライプ状の隔壁5により画定される領域が隔壁の開口部15である。
【0032】
さらに、図1および図2(a)〜(c)に例示するように、第2電極層用取り出し電極9が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域19(図1では二点鎖線で示す。)は、有機層7が設けられている有機層形成領域17(図1では破線で示す。)と重複していない。一方、第2電極層用取り出し電極9が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域19は、第2電極層8が設けられている第2電極層形成領域18(図1では一点鎖線で示す。)と重複しており、第2電極層用取り出し電極9は第2電極層8に電気的に接続されている。
【0033】
本発明によれば、上述したように正孔注入輸送層表面の濡れ性変化パターンを利用して発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができ、有機層、第2電極層および第2電極層用取り出し電極が所定の位置に形成されているので、第2電極層が断線することなく、第2電極層用取り出し電極と隔壁の開口部に形成された第2電極層とを電気的に接続することが可能である。有機EL素子において、一般に正孔注入輸送層および有機層の膜厚は薄いので、正孔注入輸送層および有機層によって第2電極層が断線することはない。
【0034】
以下、本発明の有機EL素子の各構成について説明する。
【0035】
1.正孔注入輸送層
本発明における正孔注入輸送層は、隔壁上および隔壁の開口部に形成され、隔壁上に配置されエネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る濡れ性変化材料を含有する撥液性領域と隔壁の開口部に配置され濡れ性変化材料の濡れ性が変化された親液性領域とからなる濡れ性変化パターンを有するものである。
以下、正孔注入輸送層の各構成について説明する。
【0036】
(1)材料
正孔注入輸送層は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用や真空紫外光の照射により、正孔注入輸送層に含まれる濡れ性変化材料の濡れ性が撥液性から親液性に変化するものである。したがって、正孔注入輸送層の親液性領域以外の部分は、濡れ性変化材料を含有し、撥液性を有している。
【0037】
正孔注入輸送層に用いられる濡れ性変化材料は、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により濡れ性が撥液性から親液性に変化するものであれば特に限定されるものではない。このような濡れ性変化材料としては、例えば、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着している材料(第1態様)、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体にフッ素含有有機化合物が付着している材料(第2態様)、オルガノポリシロキサン(第3態様)などを用いることができる。
以下、各材料について説明する。
【0038】
(a)第1態様
本態様の濡れ性変化材料は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着している材料である。
【0039】
本態様の濡れ性変化材料は、表面にフッ素含有有機化合物が付着している遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターであるため、エネルギー照射に伴う光触媒の作用や真空紫外光の照射によって、表面に付着しているフッ素含有有機化合物を分解して除去可能であることにより、撥液性から親液性に濡れ性が変化する材料である。本態様の濡れ性変化材料を用いると、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及んだ部分または真空紫外光が照射された部分が親液性領域となり、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及ばない部分または真空紫外光が照射されない部分が撥液性領域となる。本態様の濡れ性変化材料は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用や真空紫外光の照射により、表面に付着しているフッ素含有有機化合物は分解除去されるが、遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスター自体は、紫外光や比較的高温の加熱にも耐性があるため、遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターが有する優れた正孔注入輸送性が、エネルギー照射、光触媒の作用時および加熱時等のプロセス時に損なわれないというメリットがある。さらに、本態様の濡れ性変化材料は、フッ素を分解する光触媒処理等の処理を経ることによって、酸化されてイオン化ポテンシャルが大きくなり、正孔注入性が向上するというメリットがある。
【0040】
また、本態様の濡れ性変化材料は、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスター表面に保護剤として少なくともフッ素含有有機化合物を含む有機部分を含有するため、隣接する有機層との界面の密着性も良好となる。フッ素含有有機化合物が分解された親液性領域上に有機層が形成されるため、隣接する有機層との界面においてフッ素含有有機化合物由来の撥液性の影響もなくなり、界面の密着性が優れたものになる。また、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターは含まれる遷移金属酸化物または遷移金属化合物の反応性が高く、電荷移動錯体を形成しやすいと考えられる。そのため、本態様の濡れ性変化材料は、低電圧駆動、高電力効率、長寿命な有機EL素子を実現可能な正孔注入輸送層を形成することが可能である。
【0041】
さらに、本態様の濡れ性変化材料に用いられる遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターは、表面に保護剤として少なくともフッ素含有有機化合物を含む有機部分を含有するため、溶媒への分散性を有する。そのため、ウェットプロセスによって薄膜形成が可能であることから、正孔注入輸送層から発光層等の有機層までを順次ウェットプロセスのみで形成でき、製造プロセス上のメリットが大きい。
以下、本態様の濡れ性変化材料の構成を順に説明する。
【0042】
(遷移金属含有ナノ粒子および遷移金属含有ナノクラスター)
本態様の濡れ性変化材料に含まれる遷移金属含有ナノ粒子は、少なくとも遷移金属酸化物を含むものである。なおここで、ナノ粒子とは、直径がnm(ナノメートル)オーダー、すなわち1μm未満の粒子をいう。
少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子は、単一構造であっても複合構造であってもよく、コア・シェル構造、合金、島構造等であってもよい。遷移金属含有ナノ粒子内には処理条件によって様々な価数の遷移金属原子や化合物、例えば遷移金属の炭化物、硫化物、ホウ化物、セレン化物、ハロゲン化物、錯体等を含んでいてもよい。
【0043】
一方、本態様の濡れ性変化材料に含まれる、遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノクラスターは、少なくとも遷移金属原子と酸素原子が複数集まって特定の構造単位を形成している原子団、当該原子団を含む化合物、または当該化合物の集合体をいう。ナノクラスターとは、その形状の最長部がnm(ナノメートル)オーダー、すなわち1μm未満のものをいう。
遷移金属含有ナノクラスターは、化学的に合成されたポリオキソメタレート(POM)を含有する巨大分子であることが好ましい。POMとはオキソ酸からなるポリ酸構造を有する。この化学的に合成されたPOMを含有する遷移金属含有ナノクラスターは、巨大な分子であるため、大きさと重量は分子量で規定され、一つ一つのクラスター形状や大きさは、異性体が存在するものの、基本的には同じであることが特徴である。また化学的に合成されたPOMを含有する遷移金属含有ナノクラスターは、電気的性質がアニオンで、各クラスターの特性がそれぞれ同様となるという特徴がある。例えば、Na15[MoVI126Mo28O462H14(H2O)70]0.5[MoVI124Mo28O457H14(H2O)68]0.5・400H2Oクラスター({Mo154}の1種)の場合には、分子はドーナツ形状をしていて直径は約4nmである。さらに、このモリブデン酸化物ナノクラスターは、1つ1つの分子内に6価(MoVI)と5価のモリブデン(MoV)が共存する混合原子価ポリオキソメタレートであり、アニオンクラスターになるという特徴もある。
【0044】
遷移金属含有ナノ粒子および遷移金属含有ナノクラスター中には、遷移金属酸化物が必ず含まれる。遷移金属酸化物が必ず含まれることにより、イオン化ポテンシャルの値が最適になったり、不安定な酸化数+0の金属からの酸化による変化をあらかじめ抑制しておくことにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させたりすることが可能になる。中でも、遷移金属含有ナノ粒子および遷移金属含有ナノクラスターは、酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して含まれることが好ましい。酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して必ず含まれることにより、酸化数のバランスによって正孔輸送性や正孔注入性が適度に制御されることにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。
【0045】
本発明で用いられる遷移金属含有ナノ粒子および遷移金属含有ナノクラスターに含まれる、遷移金属、または、遷移金属化合物に含まれる遷移金属は、周期表で第3族〜第11族の間に存在する金属元素の総称である。遷移金属は、例えば、モリブデン、タングステン、バナジウム、レニウム、ニッケル、銅、チタン、白金、銀等が挙げられる。
【0046】
中でも、遷移金属含有ナノ粒子および遷移金属含有ナノクラスターに含まれる、遷移金属酸化物中の遷移金属は、モリブデン、タングステン、レニウムおよびバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことが、反応性が高いことから、電荷移動錯体を形成し易く、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0047】
遷移金属含有ナノ粒子および遷移金属含有ナノクラスターに含まれる金属は、単一金属であってもよいし、2種以上含まれていてもよい。ナノ粒子中に金属が2種以上含まれる態様としては、2種以上の金属微粒子または金属酸化物微粒子が複合して含まれていてもよいし、2種以上の金属が合金として含まれていてもよい。
なお、遷移金属含有ナノ粒子および遷移金属含有ナノクラスターに含まれる金属は、少なくとも遷移金属が含まれれば、非遷移金属が含まれていてもよい。2種以上の金属を含むことにより、正孔輸送性や正孔注入性を互いに補い合ったり、光触媒性を付与したり、薄膜の屈折率や透過率を制御するなど他の機能を併せ持つ正孔注入輸送層を形成できるというメリットがある。
【0048】
遷移金属含有ナノ粒子に含まれる、遷移金属酸化物は、遷移金属および遷移金属化合物中に30モル%以上含まれることが好ましく、さらに、50モル%以上含まれることが駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0049】
遷移金属含有ナノクラスターとしては、下記式で表されるポリオキソメタレートを用いることができる。
[XxMyOz]n-
ここで、Xは第13−18族から選ばれる少なくとも1種の元素、コバルト、または希土類から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは第4−11族から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素またはアルミニウムであり、少なくともXかMのいずれかに遷移金属元素が含まれる。Oは酸素原子を表す。
Mは、例えば、Mo、W、Cr、V、Nb、Fe、Ta、Alなどが挙げられる。Xは、例えば、P、As、Si、B、Coなどが挙げられる。xは0以上の整数であり、yは1以上の整数であり、zは1以上の整数である。x=0の場合は、イソポリ酸であり、xが1以上の整数の場合は、ヘテロポリ酸である。また、上記X及びMは、それぞれ独立に、1種単独でもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0050】
イソポリ酸の具体例は、[Mo6O19]2-、[Mo10O32]4-などが挙げられる。ヘテロポリ酸の具体例としては、[PMo12O40]3-、[BW12O40]5-、[SbW6O24]8-、[SiV2W10O40]6-、[V18O44N3]n-などが挙げられる。通常のMoO3などのモリブデン酸化物の組成式がMoVInO3nに対し、[MoVI6O19]2-などのポリ酸はMonO3n+m (m=1,2,3,・・・)と、同じ6価のモリブデンでも、ポリ酸は酸素が多く、アニオン状態に寄与している。これらのアニオンクラスターは通常対カチオンと共に水和物として存在しており、例えば、[BW12O40]5-の場合は、K5[BW12O40]・13H2Oとして存在することが知られている。
【0051】
遷移金属含有ナノクラスターの金属酸化物クラスターの構造としては、例えば、ケギン型、ドーソン型、アンダーソン型などを用いることができる。POMは遷移金属イオンに酸化物イオンが4〜6個配位することができるので、四面体、四角錐、八面体などの多面体を基本単位とし、それらが積み重なって構成される。原子と構造の組み合わせから、非常に多くの分子構造が考えられ、さらにα、β、γ、σ体などの構造異性体も存在する。
【0052】
遷移金属含有ナノクラスターとしては、還元された混合原子価ポリオキソメタレートも用いることができる。どのPOMでも、還元反応により、容易に混合原子価状態をとることができる。例えば、[PMoVI12O40]3-は、[PMoVI11MoO40]3-や[PMoVI10Mo2O40]4-に還元でき、分子内に異なる原子価を持つ構造をとることができる。POMは、例えばドナー性ゲスト分子などにより還元することができる。還元されたアニオンは、一電子ごとに安定に還元されるという特徴があり、通常のMoO3などのモリブデン酸化物とは異なる。
【0053】
遷移金属含有ナノクラスターとしては、上記の構造を組み合わせた、巨大な混合原子価POMを用いることができる。例えばNa15[MoVI126Mo28O462H14(H2O)70]0.5[MoVI124Mo28O457H14(H2O)68]0.5・400H2Oが挙げられる。これらは分子構造が複雑なために、簡便的な表記法として、分子内に含まれる遷移金属で代表してこの構造を{Mo154}と表記する方法が一般に用いられる。遷移金属含有ナノクラスターとしては、例えば、球形状の{Mo132}、リング形状である{Mo142}、{Mo154}および{Mo176}、ホイール形状の{Mo248}、レモン形状の{Mo368}が好適に用いられる。その他に、[PMo6O19]2-、[PMo12O40]3-等も用いることができる。
また、タングステンやバナジウムを含む遷移金属含有ナノクラスターとしては、例えば、[KAs4W40(VO)2O140]23-、Mo8V2O28・7H2O、[alpha-P2W18O62]6-、[alpha-P2W17V(V)O62]7-、[alpha-1,2,3-P2W15V(V)3O62]9-、[[alpha-PW12O40]3-W-)、[alpha-PW11V(V)O40]4-、[alpha-1,2-PW10V(V)2O40]5-、[alpha-1,2,3-PW9V(V)3O40]6-、[alpha-1,4,9-PW9V(V)3O40]6-、[V10O28]6-等が挙げられる。なお、上記記載において“V(V)”は5価のバナジウムを表わす。
上記以外にも、2種以上の遷移金属元素を含む、例えば、{Mo132}の一部をタングステンで置換した{W72Mo60}を用いることができる。その他、{Mo57V6}、{Mo57Fe6}、{Mo72Cr30}、{W72Mo60}、{Ag2Mo8}等も用いることができる。
【0054】
遷移金属含有ナノクラスターとして用いられる混合原子価POMは、POMを化学反応で還元して合成して、異なる原子価を持つ金属を導入(例えば、Moの6価にMoの5価を導入)して結合させているので、構造的に安定で、取り込まれた異なる原子価を持つ金属(例えば、Moの5価)も安定に存在できる。異なる原子価が安定に存在し、安定したアニオン状態を維持できるので、寿命特性に優れた正孔注入輸送層を形成することができる。一方、通常のMoO3などのモリブデン酸化物の場合は、モリブデンのほとんどがMoVIであり、組成式だとMonO3nとなる。しかし蒸着時の酸素欠損やスラリー形成時の物理的な粉砕により生じた粒子表面などに存在する酸素欠陥などによりMonO3n-mになり、Moも多少存在するかもしれない。しかしながら、MoO3で導入されるMoは酸素欠陥により生じるので、不均一であり不安定である。
【0055】
遷移金属含有ナノクラスターは、化学的に合成されたPOMを含有する金属酸化物クラスターのように、多くのクラスターは対カチオンを含有することができる。対カチオンとしてはH+、Na+、K+を好適に用いることができる。またカチオン性有機物あるいはイオン性液体を用いることもできる。
遷移金属含有ナノクラスター内には合成条件によって様々な酸化数の遷移金属原子や遷移金属化合物、例えば遷移金属の硫化物、ホウ化物、セレン化物、ハロゲン化物や、配位子、非遷移金属原子等を含んでいてもよい。
【0056】
(表面に付着したフッ素含有有機化合物)
本態様の濡れ性変化材料は、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面に、フッ素含有有機化合物が付着している。
本態様の濡れ性変化材料において「付着」とは、有機溶剤中に分散しても、剥離しない程度に、フッ素含有有機化合物が遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスター表面に固定していることをいう。「付着」には、吸着や配位も含まれるが、イオン結合、共有結合等の化学結合であることが好ましい。「付着」の態様は、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面の全体をフッ素含有有機化合物が被覆するように付着している態様であってもよいし、表面の一部にフッ素含有有機化合物が付着している態様であってもよい。
【0057】
本態様の濡れ性変化材料においては、特に遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスター表面に、少なくともフッ素含有有機化合物を含む有機化合物が付着しているので、単に遷移金属酸化物が粉砕されて形成された粒子と異なり、ナノ粒子またはナノクラスターの分散安定性が非常に高いものとなり、均一性の高いnmオーダーの薄膜を形成することができる。そのため正孔注入輸送層は、経時安定性および均一性が高いためショートし難い。さらに、隣接する第1電極層や有機層との密着性に優れるようになる。
【0058】
表面に付着したフッ素含有有機化合物の種類は適宜選択され、特に限定されない。フッ素含有有機化合物としては、フッ素以外のヘテロ原子を含んでいてもよい、直鎖、分岐、または環状の飽和又は不飽和炭化水素に含まれる水素の一部または全部をフッ素で置換した有機化合物が挙げられる。従来正孔注入輸送材料として用いられていたヘテロ原子を含んでいてもよい有機化合物に含まれる水素の一部又は全部をフッ素で置換した有機化合物であってもよい。あるいは、従来正孔注入輸送材料として用いられていたヘテロ原子を含んでいてもよい有機化合物にフッ素含有有機化合物を含む置換基を導入した化合物であってもよい。
【0059】
フッ素含有有機化合物としては、具体的には、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基、アリール基の水素の一部又は全部をフッ素化したフッ素化アルキル基やフッ素化アリール基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。フッ素化アルキル基の炭素数は、特に限定されないが、2〜10が好ましく、さらに4〜6が好ましい。また、フッ素化アリール基、又はフッ素化アリール化アルキル基等のフッ素化アルキル基とフッ素化アリール基の組み合わせの炭素数も、特に限定されないが、6〜12が好ましく、さらに6〜9が好ましい。
【0060】
中でも、C2n+12m−[mは0〜20の整数、nは1〜20の整数であり、m+nは1〜30である。]で表されるフッ素化アルキル基は、高い撥油性を維持する点、及び、mが1以上の時、エーテル結合など他の元素に結合する場合に直接C2n+1と結合するよりもC2mを介した方が、化合物の安定性が高まる点から好ましい。nは、さらに2〜10の整数、よりさらに4〜6の整数であることが好ましい。mは、さらに0〜10の整数、よりさらに2〜8の整数であることが好ましい。
フッ素化アルキル基のフッ素化率(アルキル基中のフッ素原子の割合)は、好ましくは50〜100%、さらに好ましくは80〜100%であり、特に水素原子をすべてフッ素原子で置換したパーフルオロアルキル基が、高い撥油性を発現させる点から好ましい。
【0061】
また、芳香族炭化水素および/または複素環を含むフッ素含有有機化合物は、フッ素含有有機化合物の沸点を上げることができる点から好ましい。例えば、フッ素含有有機化合物が付着している濡れ性変化材料の合成温度の制約を広げることができたり、デバイスを作製する場合の高温プロセス温度を高く設定可能という利点がある。
また、芳香族炭化水素および/または複素環は電荷輸送性を有することが多いため、芳香族炭化水素および/または複素環を含むフッ素含有有機化合物により作製した正孔注入輸送層中の電荷移動度を高く維持できるので、低電圧化をはじめとする高効率化に対して利点がある。後述するフッ素含有有機化合物を分解するような処理により、正孔注入輸送層の表面のフッ素含有有機化合物は除去されるが、正孔注入輸送層の内部には芳香族炭化水素および/または複素環を含むフッ素含有有機化合物が残るため、電荷輸送性が高い方が高効率化に寄与し得る。
また、例えば有機EL素子の各層には通常芳香族炭化水素および/または複素環電荷輸送性材料が含まれるため、隣接する有機層と正孔注入輸送層との密着性の向上を考慮すると、芳香族炭化水素および/または複素環の構造を含むことが長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
【0062】
フッ素化アルキル基の例としては、下記構造が挙げられる。
CF−、CFCF−、CHFCF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF11−、CF(CF15−、CFCHCH−、CFCFCHCH−、CHFCFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CFCHCH−、CF(CF11CHCH−、CF(CF15CHCH−、CF(CFO(CF)CF−、CF(CFO(CF)CFCFO(CF)CF−、CF(CFO(CF)CFCFO(CF)CFCFO(CF)CFCFO(CF)CF−、CF(CFO(CF)CF−。以上は、直鎖構造を例示したが、イソプロピル基など分岐構造であってもよい。
芳香族炭化水素および/または複素環を含むフッ素含有有機化合物の例としては、ペンタフルオロフェニル基、2,3,5,6−テトラフルオロフェニル基、3,4,5−トリフルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、3,5−ジフルオロフェニル基、ノナフルオロビフェニル基、α,α,α,2,3,5,6−ヘプタフルオロ−p−トリル基、ヘプタフルオロナフチル基、(トリフルオロメチル)フェニル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、ペンタフルオロフェニルメチル基、2,3,5,6−テトラフルオロフェニルメチル基、3,4,5−トリフルオロフェニルメチル基、2,4−ジフルオロフェニルメチル基、3,4−ジフルオロフェニルメチル基、3,5−ジフルオロフェニルメチル基、ノナフルオロビフェニルメチル基、α,α,α,2,3,5,6−ヘプタフルオロ−p−トリルメチル基、ヘプタフルオロナフチルメチル基、(トリフルオロメチル)フェニルメチル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルメチル基、4,4′,4″−トリフルオロトリチル基等が挙げられる。
【0063】
フッ素含有有機化合物としては、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面保護と分散安定性の点から、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面に、遷移金属および/または遷移金属化合物と連結する作用を生ずる連結基を用いて付着されていることが好ましい。すなわち、フッ素含有有機化合物の末端に連結基が含まれる保護剤によって、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着していることが好ましい。
【0064】
連結基としては、遷移金属および/または遷移金属化合物と連結する作用を有すれば、特に限定されない。連結には、吸着や配位も含まれるが、イオン結合、共有結合等の化学結合であることが好ましい。保護剤中の連結基の数は分子内に1つ以上であればいくつであってもよい。しかしながら、溶液への溶解性や分散安定性、撥油性の発現性を考慮すると、連結基は保護剤の1分子内に1つであることが好ましい。連結基の数が1分子内に1つの場合は、保護剤は粒子と結合するか、2分子反応で二量体を形成して反応が停止する。当該二量体については、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターとの密着が弱いため、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの調製工程に洗い流す工程を付与すると容易に取り除くことができる。
【0065】
当該連結基としては、例えばカルボキシル基、アミノ基、水酸基、チオール基、アルデヒド基、スルホン酸基、アミド基、スルホンアミド基、リン酸基、ホスフィン酸基、P=O基などの親水性基、または、アンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジウム塩、スルフォニウム塩、ホスフォニウム塩、モルフォリニウム塩、ピペリジニウム塩などのイオン性液体などが挙げられる。連結基としては、以下の式(1a)〜(1n)で示される官能基より選択される1種以上であることが好ましい。
【0066】
【化1】

(式中、Z、Z及びZは、それぞれ独立にハロゲン原子、又はアルコキシ基を表す。)
【0067】
本態様の濡れ性変化材料に好適に用いられる、フッ素含有有機化合物の末端に連結基が含まれる保護剤としては、例えば、下記一般式(I)で表わされる保護剤が挙げられる。
一般式(I)
Y−Q−(A′−FQ′)−(A−FQ)
(一般式(I)において、Yは連結基を表す。Qは、直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂肪族複素環基、芳香族複素環基又はこれらの組み合わせ、あるいは直接結合を表す。AおよびA′はそれぞれ独立に、−NH−、−N=、−S−、−O−、−O−(C=O)−、−O−(SO2)−、−O−(C=O)−O−、−S−(C=O)−O−、−SiR−(C=O)−O−、−SiR−、又は直接結合を表し、当該Rは水素又は直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基を表す。FQ及びFQ′はそれぞれ独立に、フッ素含有有機化合物を表す。また、nは0又は1以上の整数である。)
【0068】
上記Aおよび/またはA′が、−NH−、−N=、−S−、−O−、−O−(C=O)−、−O−(SO2)−、−O−(C=O)−O−、−S−(C=O)−O−、−SiR−(C=O)−O−、−SiR−である場合には、エネルギー照射によってAおよび/またはA′の部分で切断されやすく、FQで表わされるフッ素有機化合物が分解されやすいため、濡れ性変化パターン形成時の感度が向上する点から好ましい。
【0069】
また、Qが、芳香族炭化水素基や芳香族複素環基を含む場合には、正孔注入輸送層におる電荷移動度を高くすることに寄与できるので、低電圧化をはじめとする高効率化に対して利点がある。後述するフッ素含有有機化合物を分解するような処理により、Aおよび/またはA′において切断される場合には、フッ素含有有機化合物FQは分解除去されるが、芳香族炭化水素および/または複素環を含むQの部分は、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面に残るため、Qが電荷輸送性が高い場合には、デバイスの高効率化に寄与し得る。
【0070】
FQは1価のフッ素含有有機化合物基であり、FQ′は2価のフッ素含有有機化合物基である。
nが1以上の場合はエネルギー照射によってA′の部分で切断されやすく、FQで表わされるフッ素有機化合物が分解されやすくなる。nが1以上の場合としては、例えば、-O-(CH2p-O-(CH22-(CF2q-CF3などが挙げられる。
nは5以下であることが好ましく、さらに4以下であることが分解速度が速くなる点から好ましい。
【0071】
上記一般式(I)で表わされる保護剤としては、例えば、以下の構造が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
【化2】

【0073】
【化3】

(n及びn′は1〜5の整数、m及びm′は0又は1〜5の整数、lは0又は1〜5の整
数である。Yは、上記式(1a)〜(1n)で示される官能基のいずれかである。)
【0074】
本態様の濡れ性変化材料において、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面には少なくともフッ素含有有機化合物が付着しているが、フッ素含有有機化合物ではない有機化合物が付着していてもよい。このようなフッ素含有有機化合物ではない有機化合物には、製法上フッ素含有有機化合物を含む保護剤を置換する前に遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面に存在していた保護剤や、フッ素を含まない電荷輸送性化合物、架橋性を有する化合物、溶解性を制御するための化合物等が含まれる。
【0075】
遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターにおいて、遷移金属化合物及び遷移金属と、その表面に付着しているフッ素含有有機化合物を含む有機化合物との含有比率は、適宜選択され、特に限定されないが、遷移金属化合物及び遷移金属100重量部に対して、表面に付着しているフッ素含有有機化合物を含む有機化合物が10〜20重量部であることが好ましい。
【0076】
また、本態様の濡れ性変化材料において、表面に付着しているフッ素含有有機化合物の量は、正孔注入輸送層の撥液性領域の撥液性に対する要求に対して適宜選択してもよい。
【0077】
(他の成分)
本態様の濡れ性変化材料の場合、正孔注入輸送層は、本態様の濡れ性変化材料のみからなるものであってもよく、さらに他の成分を含有していてもよい。
その他の成分として、本態様の濡れ性変化材料以外の正孔輸送性化合物としては、本発明の効果が損なわれない限り、正孔輸送性を有する化合物であれば、適宜用いることができる。ここで、正孔輸送性とは、公知の光電流法により、正孔輸送による過電流が観測されることを意味する。
正孔輸送性化合物としては、低分子化合物の他、高分子化合物も好適に用いられる。正孔輸送性高分子化合物は、正孔輸送性を有し、かつ、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算値による重量平均分子量が2000以上の高分子化合物をいう。塗布方式により安定な膜を形成することを目的として、正孔輸送性材料としては有機溶媒に溶解しやすくかつ化合物が凝集し難い安定な塗膜を形成可能な高分子化合物を用いることが好ましい。
【0078】
正孔輸送性化合物としては、特に限定されるものではなく、例えばアリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を挙げることができる。アリールアミン誘導体の具体例としては、N,N′−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N′−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)、4,4′,4″−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4′,4″−トリス(N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)など、カルバゾール誘導体としては4,4−N,N′−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)など、フルオレン誘導体としては、N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−N,N′−ビス(フェニル)−9,9−ジメチルフルオレン(DMFL−TPD)など、ジスチリルベンゼン誘導体としては、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−[(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン(DPAVB)など、スピロ化合物としては、2,7−ビス(N−ナフタレン−1−イル−N−フェニルアミノ)−9,9−スピロビフルオレン(Spiro−NPB)、2,2′,7,7′−テトラキス(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9′−スピロビフルオレン(Spiro−TAD)などが挙げられる。
また、正孔輸送性高分子化合物としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン誘導体等を用いることができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン誘導体等の導電性高分子は、酸によりドーピングされていてもよい。さらに、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を繰り返し単位に含む重合体を挙げることができる。
【0079】
正孔輸送性化合物の含有量は、本態様の濡れ性変化材料100重量部に対して、10重量部〜10000重量部であることが、正孔注入輸送性を高くし、かつ、膜の安定性が高く長寿命を達成する点から好ましい。
【0080】
また、本態様の濡れ性変化材料の場合、正孔注入輸送層は、本発明の効果を損なわない限り、バインダー樹脂や、塗布性改良剤などの添加剤を含んでいてもよい。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。また、熱または光等により硬化するバインダー樹脂を含有していてもよい。熱または光等により硬化するバインダー樹脂としては、上記正孔輸送性化合物において分子内に硬化性の官能基が導入されたもの、あるいは、硬化性樹脂等を使用することができる。具体的に、硬化性の官能基としては、アクリロイル基やメタクリロイル基などのアクリル系の官能基、またはビニレン基、エポキシ基、イソシアネート基等を挙げることができる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても光硬化性樹脂であってもよく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、シランカップリング剤等を挙げることができる。
【0081】
(平均粒径)
本態様の濡れ性変化材料の平均粒径は、特に限定されるものではなく例えば0.5nm〜999nmの範囲内であるが、0.5nm〜50nmの範囲内、中でも0.5nm〜20nmの範囲内であることが好ましい。濡れ性変化材料の平均粒径は、さらに、15nm以下であることが好ましく、特に1nm〜10nmの範囲内であることが好ましい。粒子径が1nm以下になると動的光散乱法などの分解能を超えているため、粒子の存在を実証することや安定に製造することが困難であるからである。一方、粒子径が大きすぎると、単位重量当たりの表面積(比表面積)が小さくなり、所望の効果が得られない可能性があり、さらに正孔注入輸送層の表面粗さが大きくなりショートが多発する恐れがあるからである。
ここで平均粒径は、動的光散乱法により測定される個数平均粒径であるが、正孔注入輸送層に分散された状態においては、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて得られた画像から、遷移金属含有ナノ粒子が20個以上存在していることが確認される領域を選択し、この領域中の全ての遷移金属含有ナノ粒子について粒径を測定し、平均値を求めることにより得られる値とする。
なお、球状でないナノクラスターにおいて、粒径は、最長径、例えばドーナツ型の場合には外円の直径をいい、レモン型の場合は長軸の長さをいう。
【0082】
(製造方法)
本態様の濡れ性変化材料の製造方法は、上述した遷移金属含ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着したものを得ることができる方法であれば、特に限定されるものではない。フッ素含有有機化合物が表面に付着した遷移金属含有ナノ粒子の製法としては、例えば、遷移金属錯体と、フッ素含有有機化合物の末端に連結基を有する保護剤とを有機溶媒中で反応させるなどの液相法等が挙げられる。遷移金属錯体と、フッ素含有有機化合物を含まない保護剤とを有機溶媒中で反応させた後、フッ素含有有機化合物を含まない保護剤の一部又は全部をフッ素含有有機化合物を含む保護剤に置換してもよい。
また、フッ素含有有機化合物が表面に付着した遷移金属含有ナノクラスターの製法としては、遷移金属含有ナノクラスターを合成後、カチオン交換などでフッ素含有有機化合物の末端に連結基を有する保護剤を付着させるなどの方法が挙げられる。カチオン交換に用いる塩は、前述のアンモニウム塩などのイオン性液体が好適に用いられる。この場合、対アニオンには無機アニオンおよび有機アニオン共に用いることができる。
【0083】
(b)第2態様
本態様の濡れ性変化材料は、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体に、フッ素含有有機化合物が付着している材料である。
【0084】
本態様の濡れ性変化材料は、表面にフッ素含有有機化合物が付着している有機−遷移金属酸化物複合体であるため、エネルギー照射に伴う光触媒の作用や真空紫外光の照射によって、表面に付着しているフッ素含有有機化合物を分解して除去可能であることにより、撥液性から親液性に濡れ性が変化する材料である。本態様の濡れ性変化材料を用いると、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及んだ部分または真空紫外光が照射された部分が親液性領域となり、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及ばない部分または真空紫外光が照射されない部分が撥液性領域となる。本態様の濡れ性変化材料は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用や真空紫外光の照射により、表面に付着しているフッ素含有有機化合物は分解除去されるが、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体自体は、紫外光や比較的高温の加熱にも耐性があるため、当該有機−遷移金属酸化物複合体が有する優れた正孔注入輸送性が、エネルギー照射、光触媒の作用時および加熱時等のプロセス時に損なわれないというメリットがある。さらに、本態様の濡れ性変化材料は、フッ素を分解する光触媒処理等の処理を経ることによって、酸化されてイオン化ポテンシャルが大きくなり、正孔注入性が向上するというメリットがある。
【0085】
また、本態様の濡れ性変化材料は、有機−遷移金属酸化物複合体であって、かつ、表面に少なくともフッ素含有有機化合物を含む有機部分を含有するため、隣接する有機層との界面の密着性も良好となる。フッ素含有有機化合物が分解された親液性領域上に有機層が形成されるため、隣接する有機層との界面においてフッ素含有有機化合物由来の撥液性の影響もなくなり、界面の密着性が優れたものになる。
また、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体は、含まれる遷移金属酸化物の反応性が高く、電荷移動錯体を形成しやすいと考えられる。そのため、本態様の濡れ性変化材料は、低電圧駆動、高電力効率、長寿命な有機EL素子を実現可能な正孔注入輸送層を形成することが可能である。
【0086】
さらに、本態様の濡れ性変化材料に用いられる有機−遷移金属酸化物複合体は、有機物と遷移金属酸化物との複合体であって、表面に少なくともフッ素含有有機化合物を含む有機部分を含有するため、溶媒への分散性を有する。そのため、ウェットプロセスによって薄膜形成が可能であることから、正孔注入輸送層から発光層等の有機層までを順次ウェットプロセスのみで形成でき、製造プロセス上のメリットが大きい。
以下、本態様の濡れ性変化材料の構成を順に説明する。
【0087】
(有機−遷移金属酸化物複合体)
本態様の濡れ性変化材料に用いられる有機−遷移金属酸化物複合体は、有機遷移金属錯体の反応生成物であって、遷移金属酸化物を含むものである。有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体は、正孔注入輸送層を形成する過程、例えば、正孔注入輸送層形成用塗工液中、あるいは、層形成時又は層形成後において、加熱時、光照射時、素子駆動時等に行われる、有機遷移金属錯体の反応によって生成される反応生成物であってもよい。
有機−遷移金属酸化物複合体中には、処理条件によって様々な価数の遷移金属原子や化合物、例えば遷移金属の炭化物、硫化物、ホウ化物、セレン化物、ハロゲン化物等を含んでいてもよい。
【0088】
有機−遷移金属酸化物複合体に含まれる、遷移金属酸化物中の遷移金属は、周期表で第3族〜第11族の間に存在する金属元素の総称である。遷移金属は、具体的には例えば、モリブデン、タングステン、バナジウム、レニウム、ニッケル、銅、チタン、白金、銀等が挙げられる。
【0089】
中でも、有機−遷移金属酸化物複合体に含まれる、遷移金属酸化物中の遷移金属は、モリブデン、タングステン、レニウムおよびバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことが、反応性が高いことから、電荷移動錯体を形成し易く、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0090】
有機−遷移金属酸化物複合体に含まれる金属は、単一金属であってもよいし、2種以上含まれていてもよい。金属が2種以上含まれる態様としては、2種以上の金属又は金属酸化物が複合して含まれていてもよいし、2種以上の金属が合金として含まれていてもよい。また、異種2核金属錯体を用いてもよい。
なお、有機−遷移金属酸化物複合体に含まれる金属は、少なくとも遷移金属が含まれれば、非遷移金属が含まれていてもよい。
2種以上の金属を含むことにより、正孔輸送性や正孔注入性を互いに補い合ったり、光触媒性を付与したり、薄膜の屈折率や透過率を制御するなど他の機能を併せ持つ正孔注入輸送層を形成できるというメリットがある。
【0091】
有機遷移金属錯体とは、遷移金属を含む配位化合物であって、上述した遷移金属の他に、有機化合物を含む配位子を含有する。
例えば、有機モリブデン錯体としては、酸化数−2から+6までの錯体がある。また、有機タングステン錯体としても、酸化数−2から+6までの錯体がある。タングステン錯体は、多核になりやすくオキソ配位子がつきやすいなど、モリブデン錯体に似た傾向を示し、配位数が7以上になることもある。また、有機バナジウム錯体としては、酸化数−3から+5までの錯体がある。
配位子の種類は適宜選択され、特に限定されないが、溶剤溶解性や隣接する有機層との密着性から有機部分(炭素原子)を含むものを用いる。また、配位子は、比較的低温(例えば200℃以下)で錯体から分解するものであることが好ましい。
【0092】
単座配位子としては、例えば、アシル、カルボニル、チオシアネート、イソシアネート、シアネート、ハロゲン原子等が挙げられる。中でも、比較的低温で分解しやすいカルボニルが好ましい。また、二座配位子としては、例えば、各種カルボン酸等が挙げられる。
【0093】
また、芳香環および/または複素環を含む構造としては、具体的には例えば、ベンゼン、トリフェニルアミン、フルオレン、ビフェニル、ピレン、アントラセン、カルバゾール、フェニルピリジン、トリチオフェン、フェニルオキサジアゾール、フェニルトリアゾール、ベンゾイミダゾール、フェニルトリアジン、ベンゾジアチアジン、フェニルキノキサリン、フェニレンビニレン、フェニルシロール、及びこれらの構造の組み合わせ等が挙げられる。
また、本発明の効果を損なわない限り、芳香環および/または複素環を含む構造に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。
【0094】
また、配位子としては、単座配位子又は二座配位子が、有機遷移金属錯体の反応性が高くなる点から好ましい。錯体自身が安定になりすぎると反応性が劣る場合がある。
【0095】
酸化数0以下のモリブデン錯体としては、例えば、金属カルボニル[Mo−II(CO)]2−、[(CO)Mo−IMo−I(CO)]2−、[Mo(CO)]等が挙げられる。
また、酸化数が+1のモリブデン(I)錯体としては、ジホスファンやη−シクロペンタジエニドを含む非ウェルナー型錯体が挙げられ、具体的には、[Mo-C)]、[MoCl(N)(diphos)](diphosは、2座配位子(CPCHCHP(C)が挙げられる。
【0096】
酸化数が+2のモリブデン(II)錯体としては、モリブデンが2核錯体となって、(Mo4+イオンの状態で存在するMo化合物が挙げられ、例えば、[Mo(RCOO)]や[Mo(RCOO)]などが挙げられる。ここでRCOOのうちのRは、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、各種カルボン酸を用いることができる。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸や酪酸、吉草酸などの脂肪酸、トリフルオロメタンカルボン酸などのハロゲン化アルキルカルボン酸、安息香酸、ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸、2−フェニルプロパン酸、ケイ皮酸、フルオレンカルボン酸などの炭化水素芳香族カルボン酸、フランカルボン酸やチオフェンカルボン酸、ピリジンカルボン酸などの複素環カルボン酸等が挙げられる。また、後述するような、正孔輸送性化合物(アリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体等)においてカルボキシル基を有するカルボン酸であってもよい。中でも、カルボン酸に、上述のような芳香環および/または複素環を含む構造が好適に用いられる。カルボン酸は選択肢が多く、混合する正孔輸送性化合物との相互作用を最適化したり、正孔注入輸送機能を最適化したり、隣接する有機層との密着性を最適化するのに適した配位子である。またXはハロゲンやアルコキシドであり、塩素、臭素、ヨウ素やメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、sec−ブチトキシド、tert−ブチトキシドを用いることができる。またLは中性の配位子であり、P(n−CやP(CHなどのトリアルキルホスフィンやトリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンを用いることができる。
酸化数が+2のモリブデン(II)錯体としては、その他、[MoII]、[MoII]などのハロゲン錯体を用いることができ、例えば、[MoIIBr(P(n−C] や[MoII(diars)](diarsは、ジアルシン(CH)As−C−As(CH))などが挙げられる。
【0097】
酸化数が+3のモリブデン(III)錯体としては、例えば、[(RO)Mo≡Mo(OR)]や、[Mo(CN)(HO)]4−などが挙げられる。Rは炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基である。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。
また、酸化数が+4のモリブデン(IV)錯体としては、例えば、[Mo{N(CH)}]、[Mo(CN)]4−、それにオキソ配位子をもつMoO2+の錯体や、O2−で2重架橋したMo4+の錯体が挙げられる。
【0098】
酸化数が+5のモリブデン(V)錯体としては、例えば、[Mo(CN)]3−や、Mo=Oがトランス位でO2−で架橋された2核のMo4+を有するオキソ錯体としては例えばキサントゲン酸錯体Mo(SCOC、Mo=Oがシス位でO2−で2重架橋された2核のMo2+を有するオキソ錯体としては例えばヒスチジン錯体[Mo(L−histidine)]・3HOなどが挙げられる。
また、酸化数が+6のモリブデン(VI)錯体としては、例えば、[MoO(acetylacetonate)]が挙げられる。なお、2核以上の錯体の場合には、混合原子価錯体もある。
【0099】
また、酸化数0以下のタングステン錯体としては、例えば、金属カルボニル[W−II(CO)]2−、[(CO)−I−I(CO)]2−、[W(CO)]等が挙げられる。
また、酸化数が+1のタングステン(I)錯体としては、ジホスファンやη−シクロペンタジエニドを含む非ウェルナー型錯体が挙げられ、具体的には、[W-C)]、[WCl(N)(diphos)](diphosは、2座配位子(C)2PCHCHP(C)が挙げられる。
【0100】
酸化数が+2のタングステン(II)錯体としては、タングステンが2核錯体となって、(W4+イオンの状態で存在するW化合物が挙げられ、例えば、[W(RCOO)]や[W(RCOO)]などが挙げられる。ここでRCOOのうちのRは、上記モリブデン錯体で説明したものと同様のものを用いることができる。酸化数が+2のタングステン(II)錯体としては、その他、[WII]、[WII] などのハロゲン錯体を用いることができ、例えば、[WIIBr(P(n−C)4] や[WII(diars)](diarsは、ジアルシン(CH)As−C−As(CH))などが挙げられる。
【0101】
酸化数が+3のタングステン(III)錯体としては、例えば、[(RO)W≡W(OR)]や、[W(CN)(HO)]4−などが挙げられる。Rは炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基である。
また、酸化数が+4のタングステン(IV)錯体としては、例えば、[W{N(CH)}]、[W(CN)]4−、それにオキソ配位子をもつWO2+の錯体や、O2−で2重架橋したW4+の錯体が挙げられる。
【0102】
酸化数が+5のタングステン(V)錯体としては、例えば、[W(CN)]3−や、W=Oがトランス位でO2−で架橋された2核のW4+を有するオキソ錯体としては例えばキサントゲン酸錯体W(SCOC、W=Oがシス位でO2−で2重架橋された2核のW2+を有するオキソ錯体としては例えばヒスチジン錯体[W(L−histidine)]・3HOなどが挙げられる。
また、酸化数が+6のタングステン(VI)錯体としては、例えば、[WO(acetylacetonate)]が挙げられる。なお、2核以上の錯体の場合には、混合原子価錯体もある。
【0103】
また、酸化数0以下のバナジウム錯体としては、例えば、金属カルボニル[V0(CO)]、また金属酸化物錯体としてVIIIOオキシトリイソプロポキシド等が挙げられる。
酸化数が+2のバナジウム(II)錯体としては、シクロペンタジエニル錯体[VII-C)]等が挙げられる。
【0104】
酸化数が+3のバナジウム(III)錯体としては、[VIIICl{N(CH)}]、また金属酸化物錯体としてVIIIOアセチルアセトナート等が挙げられる。
酸化数が+4のバナジウム(IV)錯体としては、[VOCl{N(CH)}]、[VCl(diars)]、8(10面体の[VCl(diars)])等が挙げられる。
【0105】
有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体中には、遷移金属酸化物が必ず含まれる。遷移金属酸化物が必ず含まれることにより、イオン化ポテンシャルの値が最適になったり、不安定な酸化数+0の金属からの酸化による変化をあらかじめ抑制しておくことにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。中でも、有機−遷移金属酸化物複合体には、酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して含まれることが好ましい。酸化数の異なる遷移金属酸化物が共存して必ず含まれることにより、酸化数のバランスによって正孔輸送性や正孔注入性が適度に制御されることにより、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させることが可能になる。
【0106】
例えば、モリブデン錯体やタングステン錯体の反応生成物としては、それぞれ、モリブデンの酸化数が+5と+6の複合体又はタングステンの酸化数が+5と+6の複合体であることが、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。さらに、モリブデン錯体の反応生成物又はタングステン錯体の反応生成物がそれぞれ、モリブデンの酸化数が+5と+6又はタングステンの酸化数が+5と+6の複合体のアニオン状態で存在することが、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
モリブデンの酸化数が+5と+6の複合体又はタングステンの酸化数が+5と+6の複合体である場合に、酸化数が+6のモリブデン又はタングステン100モルに対して、酸化数が+5のモリブデン又はタングステンが10モル以上であることが、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。一方、通常のMoO3などのモリブデン酸化物の場合は、モリブデンのほとんどがMoVIであり、組成式だとMonO3nとなる。しかし蒸着時の酸素欠損やスラリー形成時の物理的な粉砕により生じた粒子表面などに存在する酸素欠陥などによりMonO3n-mになり、Moも多少存在するかもしれない。しかしながら、MoO3で導入されるMoは酸素欠陥により生じるので、不均一であり不安定である。
バナジウムの場合には酸化数+5が安定(V2O5)、酸化数+4が不安定(V2O4)である。バナジウム錯体の反応生成物はそれぞれ、バナジウムの酸化数が+5と+4の複合体のアニオン状態で存在することが、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0107】
有機−遷移金属酸化物複合体は、有機遷移金属錯体と有機溶媒との反応生成物であることが好ましく、さらに、有機遷移金属錯体とカルボニル基および/または水酸基を有する有機溶媒との反応生成物であることが好ましい。有機遷移金属錯体は、反応性が高いため、正孔注入輸送層を形成する過程、例えば、正孔注入輸送層形成用塗工液中、あるいは、正孔注入輸送層形成時に、加熱、又は光照射を作用させると、正孔注入輸送層形成用塗工液に含まれる有機溶媒と酸化還元反応を行い、少なくとも遷移金属錯体の一部が遷移金属酸化物となる。有機溶媒が、カルボニル基および/または水酸基を有する有機溶媒である場合には、当該遷移金属酸化物を生成する反応性が高い。
例えば、有機モリブデン錯体や有機タングステン錯体を用いた場合、モリブデンの酸化数が+5と+6の複合体又はタングステンの酸化数が+5と+6の複合体のアニオン状態が形成され、本来不安定な酸化数が+5のモリブデン又はタングステンが比較的多い状態でも安定に保持され得るため、駆動電圧の低下や素子寿命を向上させる点から好ましい。
【0108】
有機溶媒としては、適宜有機遷移金属錯体と酸化還元反応を行うことができれば特に限定されない。好適に用いられる上記カルボニル基および/または水酸基を有する有機溶媒としては、アルデヒド系、ケトン系、カルボン酸系、エステル系、アミド系、アルコール系、フェノール系などが挙げられ、沸点が50℃〜250℃であるものが好適に用いられる。上記カルボニル基および/または水酸基を有する有機溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、メチルイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド系溶媒;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等のカルボン酸系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸n−アミル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル等のエステル系溶媒;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール系溶媒;フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、トリメチルフェノール、イソプロピルフェノール、t−ブチルフェノール等のフェノール系溶媒等が挙げられる。
【0109】
(表面に付着したフッ素含有有機化合物)
本態様の濡れ性変化材料は、有機−遷移金属酸化物複合体に、フッ素含有有機化合物が付着している。
本態様の濡れ性変化材料において「付着」とは、有機溶剤中に分散しても、剥離しない程度に、フッ素含有有機化合物が有機−遷移金属酸化物複合体表面に固定していることをいう。「付着」には、吸着や配位も含まれるが、イオン結合、共有結合等の化学結合であることが好ましい。「付着」の態様は、有機−遷移金属酸化物複合体の表面の全体をフッ素含有有機化合物が被覆するように付着している態様であってもよいし、表面の一部にフッ素含有有機化合物が付着している態様であってもよい。
【0110】
本態様の濡れ性変化材料においては、特に有機−遷移金属酸化物複合体に、少なくともフッ素含有有機化合物を含む有機化合物が付着しているので、単に遷移金属酸化物が粉砕されて形成された粒子と異なり、分散安定性が非常に高いものとなり、均一性の高いnmオーダーの薄膜を形成することができる。そのため正孔注入輸送層は、経時安定性及び均一性が高いためショートし難い。さらに、隣接する第1電極層や有機層との密着性に優れるようになる。
【0111】
なお、フッ素含有有機化合物については、上記第1態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0112】
本態様の濡れ性変化材料において、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体と、その表面に付着しているフッ素含有有機化合物を含む有機化合物との含有比率は、適宜選択され、特に限定されないが、有機−遷移金属酸化物複合体において、遷移金属100重量部に対して、表面に付着しているフッ素が10〜200重量部であることが好ましい。この比率は、例えば、X線光電子分光法により、求めることができる。
【0113】
また、本態様の濡れ性変化材料において、表面に付着しているフッ素含有有機化合物の量は、正孔注入輸送層の撥液性領域の撥液性に対する要求に対して適宜選択してもよい。
【0114】
(他の成分)
本態様の濡れ性変化材料の場合、正孔注入輸送層は、本態様の濡れ性変化材料のみからなるものであってもよく、さらに他の成分を含有していてもよい。
なお、その他の成分については、上記第1態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0115】
(製造方法)
本態様の濡れ性変化材料の製造方法は、上述した有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体の表面にフッ素含有有機化合物が付着した材料を得ることができる方法であれば、特に限定されるものではない。フッ素含有有機化合物が表面に付着した有機−遷移金属酸化物複合体の製法としては、例えば、有機遷移金属錯体と、フッ素含有有機化合物の末端に連結基を有する保護剤を、酸素存在下、有機溶媒、好ましくは上記カルボニル基および/または水酸基を有する有機溶媒中で反応させる方法等が挙げられる。あるいは、有機遷移金属錯体を、酸素存在下、有機溶媒、好ましくは上記カルボニル基および/または水酸基を有する有機溶媒中で反応させて有機−遷移金属酸化物複合体を得て、有機溶媒中で当該有機−遷移金属酸化物複合体とフッ素含有有機化合物の末端に連結基を有する保護剤とを作用させて、有機−遷移金属酸化物複合体の表面にフッ素含有有機化合物が付着した材料を得てもよい。
【0116】
(c)第3態様
本態様の濡れ性変化材料は、オルガノポリシロキサンである。
本態様の濡れ性変化材料としては、エネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により劣化、分解されないような高い結合エネルギーを有する主鎖をもつ材料であれば特に限定されるものではなく、具体的にはオルガノポリシロキサンを挙げることができる。中でも、オルガノポリシロキサンが、フルオロアルキル基を含有するオルガノポリシロキサンであることが好ましい。これにより、エネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により、濡れ性変化材料の濡れ性が大きく変化するものとすることができるからである。なお、フルオロアルキル基を有するオルガノポリシロキサンについては、例えば特開2000−249821号公報に記載されているものと同様のものとすることができる。
【0117】
濡れ性変化材料がオルガノポリシロキサンである場合、正孔注入輸送層は光触媒を含有していてもよい。なお、正孔注入輸送層に用いられる光触媒は、例えば特開2007−48530号公報に記載されているものと同様とすることができる。
【0118】
正孔注入輸送層中の光触媒の含有量は、正孔注入輸送層に含まれる濡れ性変化材料の濡れ性を変化させることができ、かつ、正孔または電子の輸送を阻害しない程度の量であれば特に限定されるものではない。
【0119】
正孔注入輸送層が濡れ性変化材料および光触媒を含有する場合、正孔注入輸送層は、濡れ性変化材料および光触媒を含有する単一の層であってもよく、光触媒を含有する層と濡れ性変化材料を含有する層とが積層されたものであってもよい。濡れ性変化材料および光触媒を含有する単一の層である場合には、正孔注入輸送層自体に含有される光触媒の作用により濡れ性変化材料の濡れ性が変化することから、製造工程が少なく、効率的に濡れ性変化パターンを形成することができる。一方、光触媒を含有する層と濡れ性変化材料を含有する層とが積層されたものである場合には、機能毎に層が分かれているので、層構成や材料の組み合わせ等を容易に変更することができる。
【0120】
また、正孔注入輸送層は、上記の光触媒の他に、例えば特開2000−249821号公報に記載されているものと同様の界面活性剤や添加剤等を含有していてもよい。
【0121】
(2)撥液性領域および親液性領域
正孔注入輸送層は、表面に、隔壁上に配置された撥液性領域と、隔壁の開口部に配置された親液性領域とからなる濡れ性変化パターンを有している。
なお、「撥液性領域」とは、親液性領域よりも液体の接触角が大きい領域をいい、有機層形成用塗工液等に対する濡れ性が悪い領域である。また、「親液性領域」とは、撥液性領域よりも液体の接触角が小さい領域をいい、有機層形成用塗工液等に対する濡れ性の良好な領域である。撥液性領域および親液性領域に求められる液体の接触角は、用いる有機層形成用塗工液等の表面張力に依存する。
【0122】
撥液性領域の液体の接触角は、表面張力28.5mN/mの液体を用いた場合に、親液性領域の液体の接触角よりも、10°以上高いことが好ましく、中でも20°以上高いことが好ましく、特に40°以上高いことが好ましい。
また、撥液性領域では、表面張力28.5mN/mの液体の接触角が25°以上であることが好ましく、より好ましくは45°以上、さらに好ましくは55°以上である。撥液性領域は撥液性が要求される部分であるため、上記液体の接触角が小さすぎると、撥液性が十分でなく、撥液性領域にも発光層形成用塗工液等が付着する可能性があるからである。
一方、親液性領域では、表面張力28.5mN/mの液体の接触角が20°以下であることが好ましく、より好ましくは10°以下、さらに好ましくは5°以下である。上記液体の接触角が高すぎると、発光層形成用塗工液等が濡れ広がりにくくなる可能性があり、発光層等が欠ける等の可能性があるからである。
なお、表面張力が28.5mN/mの液体としては、22℃におけるm−キシレンを例示することができる。
【0123】
有機層形成用塗工液は、溶剤の種類を変えたり、温度を変化させたりすることにより、表面張力を10mN/m〜100mN/mの範囲内で調整することができる。よって、表面張力が28.5mN/mの液体を用いた場合に限定されるものではなく、表面張力が10mN/m〜100mN/mの範囲内のいずれの液体を用いた場合であっても、その液体を用いた場合に、上記のような液体の接触角に相対的な差が得られればよい。
【0124】
なお、液体の接触角は、種々の表面張力を有する液体の接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして求めることができる。この測定に際しては、種々の表面張力を有する液体として、純正化学株式会社製のぬれ指数標準液を用いることとする。
【0125】
撥液性領域および親液性領域の形成位置としては、隔壁上に撥液性領域が配置され、隔壁の開口部に親液性領域が配置されていればよい。
撥液性領域は隔壁の頂部上の全面に配置されていることが好ましい。これにより、精度良く発光層等をパターニングすることができるからである。
また、親液性領域は隔壁の側面に配置されていてもよい。エネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により、酸素ラジカルなどの活性酸素種が発生し、この活性酸素種の強力な酸化・還元力によって濡れ性変化材料を構成する有機基が分解され、その結果、濡れ性変化材料の濡れ性が変化する。活性酸素種には光のような直進性が無いため、エネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により、隔壁の開口部だけでなく、隔壁の側面においても濡れ性が変化し親液性領域になり得る。
【0126】
また、親液性領域は、第2電極層と第2電極層用取り出し電極との間に形成されていてもよい。例えば図6(a)〜(b)に示すように、正孔注入輸送層6(図6(a)中、省略)が基板2上に全面に形成されており、第2電極層8(図6(a)中、一点鎖線)および第2電極層用取り出し電極9の間に親液性領域12(図6(a)〜(b)中、破線)が形成されていてもよい。濡れ性変化材料が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着している材料や、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体にフッ素含有有機化合物が付着している材料である場合には、エネルギー照射に伴う光触媒の作用や真空紫外光の照射によって、表面に付着しているフッ素含有有機化合物を分解して除去可能である。したがって、親液性領域では、フッ素含有有機化合物が分解され除去されて、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターあるいは有機−遷移金属酸化物複合体のみが残る。よって、親液性領域は、導電性を有することができる。それゆえ、第2電極層と第2電極層用取り出し電極との間に親液性領域が形成されている場合にも、第2電極層および第2電極層用取り出し電極を電気的に接続することが可能である。
【0127】
なお、親液性領域および撥液性領域の形成方法については、後述する「B.有機EL素子の製造方法」の項に記載するので、ここでの説明は省略する。
【0128】
(3)正孔注入輸送層のその他の点
正孔注入輸送層の膜厚としては、親液性領域および撥液性領域からなる濡れ性変化パターンの形成が可能であり、かつ、正孔の注入・輸送を阻害しないような膜厚であれば特に限定されるものではなく、濡れ性変化材料の種類や、正孔注入輸送層の構成などに応じて適宜選択される。具体的には、正孔注入輸送層の膜厚は、0.1nm〜1000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1nm〜500nmの範囲内である。
【0129】
正孔注入輸送層は、基板上に全面に形成されていてもよく、基板上に外縁部を除いて形成されていてもよい。中でも、図1および図2(a)〜(c)に例示するように、正孔注入輸送層6は基板2上に外縁部を除いて形成されていることが好ましい。有機EL素子を封止するためには、基板の外縁部に正孔注入輸送層が形成されていないことが好ましいからである。
【0130】
また、正孔注入輸送層が基板上に全面に形成されている場合、第2電極層および第2電極層用取り出し電極の電気的な接続を可能とするために、第2電極層および第2電極層用取り出し電極の間に位置する正孔注入輸送層の部分は親液性領域であることが好ましい。上述したように、濡れ性変化材料が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着している材料や、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体にフッ素含有有機化合物が付着している材料である場合、親液性領域は導電性を有することができる。したがって、正孔注入輸送層が基板上に全面に形成されていても、第2電極層と第2電極層用取り出し電極との間に親液性領域が形成されている場合には、第2電極層および第2電極層用取り出し電極を電気的に接続することが可能である。
【0131】
なお、正孔注入輸送層の形成方法については、後述する「B.有機EL素子の製造方法」の項に記載するので、ここでの説明は省略する。
【0132】
2.隔壁
本発明における隔壁は、第1電極層が形成された基板上に第1電極層の長手方向と直交する方向にストライプ状に形成され、断面形状が逆テーパー形状であるものである。
【0133】
隔壁の形成位置としては、隔壁が第1電極層の長手方向と直交する方向にストライプ状に形成されていればよい。例えば、図5に示すように、隔壁5が第1電極層3の長手方向と直交する方向にストライプ状に形成されていてもよく、図7に示すように、隔壁5が第1電極層3の長手方向と直交する方向にストライプ状に形成された隔壁5aと第2電極層用取り出し電極9が形成されていない側のストライプ状の隔壁5aの端部を連結するように形成された隔壁5bとを有していてもよい。
【0134】
隔壁の断面形状としては、逆テーパー形状であればよい。
隔壁の断面の幅や角度としては、断面形状が逆テーパー形状となり、第2電極層を分断可能なものであれば特に限定されるものではなく、一般的な幅や角度とすることができ、各層の厚みや有機EL素子のサイズ等に応じて適宜設定される。
隔壁の高さとしては、0.01μm〜50μm程度とすることができる。
【0135】
隔壁の長さとしては、隔壁により第2電極層を分断することができれば特に限定されるものではなく、有機EL素子のサイズ等に応じて適宜設定される。中でも、第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁の長さは、このストライプ状の隔壁の長手方向の第2電極層の長さよりも長いことが好ましい。図5に例示するように、隔壁5が第1電極層3の長手方向と直交する方向にストライプ状にのみ形成されている場合には、通常、第1電極層3の長手方向と直交するストライプ状の隔壁5の長さd2は、このストライプ状の隔壁5の長手方向の第2電極層8(図5中の一点鎖線)の長さd1よりも長くなるように設定される。ストライプ状の隔壁によって第2電極層を分断するためである。一方、図7に示すように、隔壁5が第1電極層3の長手方向と直交する方向にストライプ状に形成された隔壁5aと第2電極層用取り出し電極9が形成されていない側のストライプ状の隔壁5aの端部を連結するように形成された隔壁5bとを有する場合には、ストライプ状の隔壁によって第2電極層が分断されていれば、ストライプ状の隔壁5aの長さd2がストライプ状の隔壁5aの長手方向の第2電極層8(図5中の一点鎖線)の長さd1よりも長くなるように設定されていてもよく、図示しないが短くなるように設定されていてもよい。なお、隔壁の構成にかかわらず、図5および図7に例示するように、第2電極層用取り出し電極9が形成されている側においては、ストライプ状の隔壁の端部e2は第2電極層の端部e1よりも外側に設定される。ストライプ状の隔壁によって第2電極層を分断するためである。
【0136】
なお、隔壁の長さとは、第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁の長さをいう。また、隔壁の長手方向とは、第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁の長手方向をいう。隔壁の長手方向の第2電極層の長さとは、第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁の長手方向と平行な方向の第2電極層の長さをいう。
【0137】
隔壁表面の濡れ性としては、隔壁上に正孔注入輸送層を形成することができれば特に限定されるものではないが、通常、親液性である。
隔壁に用いられる材料としては、隔壁上に正孔注入輸送層を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、有機EL素子の隔壁の形成に一般的に用いられる樹脂を使用することができる。樹脂としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−ビニル共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、エチレン−メタクリル酸樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル、ポリビニルアルコール、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミック酸樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂等を用いることができる。
【0138】
隔壁の形成方法としては、有機EL素子の隔壁の形成に一般的に用いられる方法を使用することができ、例えば、フォトリソグラフィー法、熱転写法等を挙げることができる。
【0139】
3.有機層
本発明に用いられる有機層は、上記正孔注入輸送層の親液性領域上に形成され、少なくとも発光層を含むものであり、有機層が設けられている有機層形成領域は、第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域と重複していないものである。
【0140】
本発明において、有機層とは、塗布方式により正孔注入輸送層の親液性領域上に形成される層をいう。
発光層以外の有機層としては、第2正孔注入輸送層が挙げられる。また、キャリアブロック層のような正孔や電子の突き抜けを防止し、さらに励起子の拡散を防止して発光層内に励起子を閉じ込めることにより、再結合効率を高めるための層等を挙げることもできる。
【0141】
有機層の形成位置としては、有機層が親液性領域上にのみ形成されており、有機層が設けられている有機層形成領域が、第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域と重複していなければ特に限定されるものではない。有機層形成領域が第2電極層用取り出し電極形成領域と重複していないことにより、第2電極層および第2電極層用取り出し電極の電気的な接続を確実なものとすることができる。
【0142】
以下、有機層を構成する各層について説明する。
【0143】
(1)発光層
本発明における発光層は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有するものである。
発光層に用いられる発光材料としては、蛍光または燐光を発するものであれば特に限定されるものではない。また、発光材料は、正孔輸送性や電子輸送性を有していていもよい。発光材料としては、色素系材料、金属錯体系材料、および高分子系材料を挙げることができる。
【0144】
色素系材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、フェニルアントラセン誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、シロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、スチルベン誘導体、スピロ化合物、チオフェン環化合物、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリアゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、ピラゾリンダイマー、ピリジン環化合物、フルオレン誘導体、フェナントロリン類、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体等を挙げることができる。またこれらの2量体や3量体やオリゴマー、2種類以上の誘導体の化合物も用いることができる。
【0145】
金属錯体系材料としては、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、あるいは、中心金属に、Al、Zn、Be等またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体などを挙げることができる。
【0146】
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体等、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、上記材料の共重合体、上記の色素系材料や金属錯体系材料を高分子化したもの等を挙げることができる。
【0147】
また、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的で、発光材料にドーパントを添加してもよい。ドーパントとしては、例えば、アントラセン誘導体、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィレン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体等を挙げることができる。また、りん光系のドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属イオンを中心に有し、燐光を示す有機金属錯体が使用可能である。具体的には、Ir(ppy)3、(ppy)2Ir(acac)、Ir(BQ)3、(BQ)2Ir(acac)、Ir(THP)3、(THP)2Ir(acac)、Ir(BO)3、(BO)2(acac)、Ir(BT)3、(BT)2Ir(acac)、Ir(BTP)3、(BTP)2Ir(acac)、FIr6、PtOEP等を用いることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0148】
発光層は、親液性領域上にのみ形成されるものである。
なお、発光層の形成方法については、後述する「B.有機EL素子の製造方法」の項に記載するので、ここでの説明は省略する。
【0149】
(2)第2正孔注入輸送層
本発明においては、正孔注入輸送層と発光層との間に第2正孔注入輸送層が形成されていてもよい。
第2正孔注入輸送層の形成材料としては、陽極(第1電極層)から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではない。このような材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を挙げることができる。アリールアミン誘導体の具体的としては、ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、コポリ[3,3´−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)等を挙げることができる。アントラセン誘導体の具体例としては、9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(9,10−アントラセン)]等を挙げることができる。カルバゾール誘導体の具体例としては、4,4−N,N´−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)等を挙げることができる。チオフェン誘導体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(ビチオフェン)]等を挙げることができる。フルオレン誘導体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4'−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)等を挙げることができる。ジスチリルベンゼン誘導体の具体例としては、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)等を挙げることができる。スピロ化合物の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(9,9´−スピロ−ビフルオレン−2,7−ジイル)]等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0150】
第2正孔注入輸送層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には0.5nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1nm〜20nmの範囲内である。
【0151】
なお、第2正孔注入輸送層の形成方法については、後述する「B.有機EL素子の製造方法」の項に記載するので、ここでの説明は省略する。
【0152】
4.第1電極層
本発明に用いられる第1電極層は、陽極であり、基板上にストライプ状に形成されるものである。
【0153】
第1電極層を形成する材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではない。
また、第1電極層を形成する材料としては、透明性を有していてもよく、有さなくてもよい。例えば基板側から光を取り出す場合や、本発明の有機EL素子を作製する過程において濡れ性変化パターンを形成する際に基板側からエネルギーを照射する場合には、第1電極層は透明性を有することが好ましい。導電性および透明性を有する材料としては、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、ZnO−Al、Zn−Sn−O等を好ましいものとして例示することができる。一方、例えば第2電極層側から光を取り出す場合には、第1電極層に透明性は要求されない。この場合、導電性を有する材料として、金属を用いることができ、具体的には、Au、Ta、W、Pt、Ni、Pd、Cr、あるいは、Al合金、Ni合金、Cr合金等を挙げることができる。
【0154】
第1電極層は、基板上にストライプ状に形成される。第1電極層の成膜方法としては、一般的な電極の成膜方法を用いることができ、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等を挙げることができる。また、第1電極層のパターニング方法としては、フォトリソグラフィー法、メタルマスクを用いた蒸着法を挙げることができる。
【0155】
5.第2電極層
本発明に用いられる第2電極層は、陰極であり、有機層上および隔壁上に形成され、隔壁によって分断されているものであり、第2電極層が設けられている第2電極層形成領域は、第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域と重複しているものである。
【0156】
第2電極層の形成位置としては、第2電極層が有機層上および隔壁上に形成され、隔壁によって第2電極層が分断されており、第2電極層が設けられている第2電極層形成領域が、第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域と重複していれば特に限定されるものではない。第2電極層形成領域が第2電極層用取り出し電極形成領域と重複していることにより、第2電極層および第2電極層用取り出し電極の電気的な接続を確実なものとすることができる。
【0157】
第2電極層の寸法としては、隔壁により第2電極層が分断されていれば特に限定されるものではなく、有機EL素子のサイズ等に応じて適宜設定される。中でも、上述したように、隔壁の長手方向の第2電極層の長さは、第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁の長さよりも短いことが好ましい。図5に例示するように、隔壁5が第1電極層3の長手方向と直交する方向にストライプ状にのみ形成されている場合には、通常、第1電極層3の長手方向と直交するストライプ状の隔壁5の長手方向の第2電極層8(図5中の一点鎖線)の長さd1は、このストライプ状の隔壁5の長さd2よりも短くなるように設定される。ストライプ状の隔壁によって第2電極層を分断するためである。
【0158】
第2電極層を形成する材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではない。例えば第2電極層側から光を取り出す場合には、第2電極層は透明性を有することが好ましい。一方、例えば基板側から光を取り出す場合には、第2電極層に透明性は要求されない。なお、導電性を有する材料については、第1電極層の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0159】
第2電極層は、隔壁により分断されるように、有機層上および隔壁上に形成される。第2電極層の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を用いることができ、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等を挙げることができる。
【0160】
6.基板
本発明における基板は、第1電極層、隔壁、正孔注入輸送層、有機層および第2電極層等を支持するものである。
基板は、透明であってもよく、透明でなくてもよい。例えば基板側から光を取り出す場合や、本発明の有機EL素子を作製する過程において濡れ性変化パターンを形成する際に基板側からエネルギーを照射する場合には、基板は透明であることが好ましい。透明な基板としては、例えば、石英、ガラス等を挙げることができる。一方、例えば第2電極層側から光を取り出す場合には、基板に透明性は要求されない。この場合、基板には、上記材料の他にも、アルミニウムおよびその合金等の金属、プラスチック、織物、不織布等を用いることができる。
【0161】
7.第2電極層用取り出し電極
本発明における第2電極層用取り出し電極は、基板上に形成され、隔壁の開口部に配置され、第2電極層に電気的に接続されたものである。また、第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域は、第2電極層が設けられている第2電極層形成領域と重複しており、有機層が設けられている有機層形成領域と重複していないものである。
【0162】
第2電極層用取り出し電極の形成位置としては、第2電極層用取り出し電極が基板上に形成され、第2電極層用取り出し電極が隔壁の開口部に配置され、第2電極層用取り出し電極形成領域が第2電極層形成領域と重複し、第2電極層用取り出し電極形成領域が有機層形成領域と重複していなければ特に限定されるものではない。第2電極層用取り出し電極が隔壁の開口部に配置され、第2電極層用取り出し電極形成領域が第2電極層形成領域と重複し、第2電極層用取り出し電極形成領域が有機層形成領域と重複していないことにより、第2電極層が断線することなく、第2電極層および第2電極層用取り出し電極の電気的な接続を確実なものとすることができる。
【0163】
第2電極層用取り出し電極は、第2電極層に電気的に接続されていればよく、第2電極層用取り出し電極と第2電極層とが直に接触していてもよく、上述したように第2電極層用取り出し電極と第2電極層との間に親液性領域が形成されていてもよい。
【0164】
第2電極層取り出し電極を形成する材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではなく、一般に有機EL素子の取り出し電極に用いられる材料を使用することができ、例えば金属や合金を用いることができる。金属としては、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、金(Ag)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、ハフニウム(Hf)、インジウム(In)、イリジウム(Ir)、カリウム(K)、ランタン(La)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、モリブデン(Mo)、ナトリウム(Na)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、オスニウム(Os)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルビジウム(Rb)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、アンチモン(Sb)、シリコン(Si)、錫(Sn)、ストロンチウム(St)、タンタル(Ta)、トリウム(Th)、チタン(Ti)、タリウム(Tl)、ウラニウム(U)、バナジウム(V)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、亜鉛(Zn)、および、ジルコニウム(Zr)等が挙げられる。合金としては、銀−パラジウム−銅(APC)、銀−ルテニウム−銅(ARC)、アルメル、黄銅(真鍮)、コンスタンタン、ジュラルミン、青銅、炭素鋼、ニッケリン、白金ロジウム、ハイパーコ、ハイパーニック、パーマロイ、パーメンダー、プラチノイド、マンガニン、モネル、洋銀、および、リン青銅が挙げられる。またこれらを積層させて、多層膜とすることもできる。
【0165】
第2電極層用取り出し電極の形成方法については、上記第1電極層の形成方法と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0166】
8.絶縁層
本発明においては、第1電極層が形成された基板上に第1電極層の端部を覆うように発光領域を画定する絶縁層が形成されていてもよい。絶縁層は、隣接する第1電極層間での導通や、第1電極層および第2電極層間での導通を防ぐために設けられるものである。絶縁層が形成された部分は、非発光領域となる。絶縁層が形成されている場合には、絶縁層上に隔壁が形成される。
【0167】
絶縁層の形成材料としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではなく、有機材料であってもよく、無機材料であってもよく、一般的に有機EL素子における絶縁層に用いられる材料を使用することができる。
また、絶縁層の形成方法としては、フォトリソグラフィー法、印刷法等の一般的な方法を用いることができる。
絶縁層の膜厚としては、10nm〜50μm程度とすることができる。
【0168】
9.その他の構成
本発明の有機EL素子は、基板、第1電極層、正孔注入輸送層、有機層および第2電極層を有するものであればよく、必要に応じて、電子注入輸送層、キャリアブロック層、第1電極層用取り出し電極など、その他の構成を有していてもよい。
【0169】
(1)電子注入輸送層
本発明においては、発光層上に電子注入輸送層が形成されていてもよい。電子注入輸送層は、陰極(第2電極層)から注入された電子を安定に発光層内へ注入する電子注入機能を有する電子注入層であってもよく、陰極(第2電極層)から注入された電子を発光層内へ輸送する電子輸送機能を有する電子輸送層であってもよく、電子注入層および電子輸送層が積層されたものであってもよく、電子注入機能および電子輸送機能の両方を有する単一の層であってもよい。
【0170】
電子注入層の形成材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、アルミニウムリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の酸化物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、8−ヒドロキシキノリノラトLi(Liq)、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機錯体などを挙げることができる。また、Ca/LiFのように、これらを積層して用いることも可能である。上記の中でも、アルカリ土類金属のフッ化物が好ましい。アルカリ土類金属のフッ化物は、融点が高く耐熱性を向上させることができるからである。
【0171】
また、電子輸送層の形成材料としては、陰極(第2電極層)から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、オキサジアゾール類、トリアゾール類、フェナントロリン類、シロール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、アルミニウム錯体等を挙げることができる。具体的には、オキサジアゾール類としては(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)等が挙げられ、フェナントロリン類としてはバソキュプロイン、バソフェナントロリン等が挙げられ、アルミニウム錯体としてはトリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq)、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)等が挙げられる。
【0172】
さらに、電子注入機能および電子輸送機能の両方を有する単一の層の形成材料としては、例えば、8−ヒドロキシキノリノラトLi(Liq)などのアルカリ金属有機錯体やアルカリ土類金属錯体がドープされた電子輸送性材料を挙げることができる。電子輸送性材料としては、上述の発光材料や電子輸送層の形成材料が挙げられる。また、電子輸送性材料とドープされる金属とのモル比率は、1:1〜1:3の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:2の範囲内である。
【0173】
また、電子注入輸送層の形成材料は、抵抗が比較的高いものであることが好ましい。抵抗が低すぎると、クロストークが起こるおそれがあるからである。
【0174】
電子注入層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には0.1nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜100nmの範囲内である。
また、電子輸送層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には1nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1nm〜100nmの範囲内である。
さらに、電子注入機能および電子輸送機能の両方を有する単一の層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には0.1nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1nm〜100nmの範囲内である。
【0175】
電子注入輸送層の形成方法としては、通常ドライプロセスが用いられ、例えば真空蒸着法が挙げられる。
【0176】
(2)第1電極層用取り出し電極
本発明においては、基板上に第1電極層用取り出し電極が形成されていてもよい。第1電極層用取り出し電極は、第1電極層に電気的に接続される。
なお、第1電極層取り出し電極の形成材料および形成方法については、上記第2電極層用取り出し電極と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0177】
B.有機EL素子の製造方法
次に、本発明の有機EL素子の製造方法について説明する。
本発明の有機EL素子の製造方法は、ストライプ状の第1電極層、上記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および上記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、上記正孔注入輸送層の表面に上記隔壁上に配置された撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程と、上記正孔注入輸送層上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、上記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域に重ならないように、上記親液性領域上に少なくとも発光層を含む有機層を形成する有機層形成工程と、上記隔壁上および上記有機層上に、上記隔壁により分断され、上記第2電極層用取り出し電極形成領域に重なるように、第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とするものである。
【0178】
本発明の有機EL素子の製造方法は、上記の濡れ性変化パターン形成工程により、3つの実施態様に分けることができる。
以下、各実施態様について説明する。
【0179】
1.第1実施態様
本実施態様の有機EL素子の製造方法は、ストライプ状の第1電極層、上記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および上記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、基体上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層が形成されている光触媒含有層基板を、上記正孔注入輸送層に対して、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置した後、上記正孔注入輸送層にパターン状にエネルギーを照射することにより、上記正孔注入輸送層の表面に上記隔壁上に配置された撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程と、上記正孔注入輸送層上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、上記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域に重ならないように、上記親液性領域上に少なくとも発光層を含む有機層を形成する有機層形成工程と、上記隔壁上および上記有機層上に、上記隔壁により分断され、上記第2電極層用取り出し電極形成領域に重なるように、第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とするものである。
【0180】
本実施態様の有機EL素子の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図3(a)〜(e)、図8(a)〜(b)および図9(a)〜(b)は、本実施態様の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図であり、図3(a)は図8(a)のE−E線断面図、図3(c)は図8(b)のF−F線断面図、図3(d)は図9(a)のG−G線断面図、3(e)は図9(b)のH−H線断面図である。
まず、図3(a)および図8(a)に示すように、ストライプ状の第1電極層3、発光領域を画定する絶縁層4、第1電極層3の長手方向と直交するストライプ状の隔壁5、および隔壁5の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極9が形成された基板2上に、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層6を形成する(正孔注入輸送層形成工程)。
次に、図3(b)に示すように、基体22と、この基体22上にパターン状に形成された遮光部23と、遮光部23を覆うように基体22上に形成され、光触媒を含有する光触媒含有層24とを有する光触媒含有層基板21を準備する。次いで、光触媒含有層基板21を、光触媒含有層24と正孔注入輸送層6とが向かい合うように配置し、光触媒含有層基板21を介して、隔壁5の開口部に位置する正孔注入輸送層6の部分に紫外光27を照射する。紫外光27の照射により、図3(c)および図8(b)に示すように、光触媒含有層24に含有される光触媒の作用から、正孔注入輸送層6の露光部では、正孔注入輸送層6に含有される材料の濡れ性が変化し、親液性領域12が形成される。一方、正孔注入輸送層6の未露光部では、正孔注入輸送層6に含有される材料の濡れ性はそのまま変化せず、撥液性領域11となる。これにより、隔壁5上に配置された撥液性領域11と、隔壁5の開口部に配置された親液性領域12とからなる濡れ性変化パターンが形成される(濡れ性変化パターン形成工程)。
次に、図3(d)および図9(a)に示すように、正孔注入輸送層6上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、第2電極層用取り出し電極9が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域19に重ならないように、親液性領域12上に少なくとも発光層を含む有機層7を形成する(有機層形成工程)。
その後、図3(e)および図9(b)に示すように、隔壁5上および有機層7上に、隔壁5により分断され、第2電極層用取り出し電極形成領域19と重なるように、第2電極層8を形成する(第2電極層形成工程)。
【0181】
本実施態様によれば、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層に、光触媒含有層基板を用いてエネルギーを照射し、正孔注入輸送層の濡れ性を変化させることにより、撥液性領域と正孔注入輸送層の濡れ性が変化した親液性領域とからなる濡れ性変化パターンを形成することができる。したがって、精度良く発光層等の有機層をパターニングすることが可能である。
また本実施態様によれば、正孔注入輸送層表面に形成された濡れ性変化パターンを利用して発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができ、第2電極層用取り出し電極、有機層および第2電極層を所定の位置に形成するので、第2電極層を断線させることなく、第2電極層用取り出し電極と隔壁の開口部に形成された第2電極層とを電気的に接続することが可能である。
【0182】
以下、本実施態様の有機EL素子の製造方法における各工程について説明する。
【0183】
(1)正孔注入輸送層形成工程
本実施態様における正孔注入輸送層形成工程は、ストライプ状の第1電極層、上記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および上記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する工程である。
【0184】
正孔注入輸送層の形成方法としては、ストライプ状の第1電極層、第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、上記「A.有機EL素子」の項に記載した正孔注入輸送層に用いられる材料を成膜することが可能な方法であれば特に限定されるものではない。例えば、上記の材料等を溶媒に溶解もしくは分散させた正孔注入輸送層形成用塗工液を用いるウェットプロセスであってよく、ドライプロセスであってもよい。また、転写法も用いることができる。これらの方法は、正孔注入輸送層に用いられる材料の種類等に応じて、適宜選択される。プロセス優位性の観点からは、有機層形成工程にて発光層を含む有機層をウェットプロセスで形成するので、正孔注入輸送層の形成方法もウェットプロセスであることが望ましい。
【0185】
ウェットプロセスの場合、正孔注入輸送層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、上記の材料を溶解もしくは分散させることができるものであれば特に限定されるものではなく、正孔注入輸送層に用いられる材料の種類に応じて適宜選択される。
【0186】
例えば、正孔注入輸送層が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着している材料を含有する場合、すなわち上記「A.有機EL素子」の項に記載した第1態様の濡れ性変化材料を含有する場合、溶媒としては、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターと、必要に応じて含有するその他成分とが良好に溶解または分散すれば特に限定されるものではない。例えば、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、アニソール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、安息香酸エチル、安息香酸ブチル等が挙げられる。また、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面にフッ素含有有機化合物が付着しているため、フッ素系の溶媒が好適に用いられる。例えば、トリフルオロメチルベンゼン、ヘプタフルオロ−n−酪酸エチル、ヘプタフルオロ−n−酪酸メチルなど、溶媒の全部あるいは一部をフッ素化したものを用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、複数を混ぜ合わせた共溶媒にして用いることもできる。
【0187】
この場合、正孔注入輸送層形成用塗工液は、表面にフッ素含有有機化合物が付着した少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターと溶媒とを混合して調製してもよい。また、表面にフッ素含有有機化合物が付着した遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターと溶媒とを混合し、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスター中に含まれる遷移金属および/または遷移金属化合物を遷移金属酸化物に酸化させて、正孔注入輸送層形成用塗工液を得てもよい。
酸化させる方法としては、酸素存在下で加熱、または光照射などが挙げられる。酸化させる方法として加熱する場合には、加熱手段としては、ホットプレート上で加熱する方法やオーブン中で加熱する方法などが挙げられる。加熱温度としては、50℃〜250℃が好ましい。酸化させる方法として光照射する場合には、光照射手段としては、紫外線を露光する方法等が挙げられる。加熱温度や光照射量により、遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの相互作用に違いが生じるため、適宜調節することが好ましい。
【0188】
正孔注入輸送層形成用塗工液中における第1態様の濡れ性変化材料の含有量は、目的に応じて適宜調整可能であり、特に限定されないが、例えば正孔注入輸送層形成用塗工液全量中に0.1質量%〜10.0質量%程度が好ましい。
【0189】
また、正孔注入輸送層が、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体にフッ素含有有機化合物が付着している材料を含有する場合、すなわち上記「A.有機EL素子」の項に記載した第2態様の濡れ性変化材料を含有する場合、正孔注入輸送層形成用塗工液としては、濡れ性変化材料と溶媒とを含有するものであってもよく(第一の態様)、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体と、遷移金属および/または遷移金属酸化物と連結する作用を生ずる連結基を含むフッ素含有有機化合物と、溶媒とを含有するものであってもよく(第二の態様)、有機遷移金属錯体と、遷移金属および/または遷移金属酸化物と連結する作用を生ずる連結基を含むフッ素含有有機化合物と、カルボニル基および/または水酸基を有する溶媒とを含有するものであってもよい(第三の態様)。
【0190】
上記第二および第三の態様の正孔注入輸送層形成用塗工液は、正孔注入輸送層を形成する過程、例えば、正孔注入輸送層形成用塗工液中、あるいは、層形成時または層形成後において、加熱時、光照射時、素子駆動時等に行われる反応によって、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体にフッ素含有有機化合物が付着している材料を生成することができる。
【0191】
上記第一および第二の態様の正孔注入輸送層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、第2態様の濡れ性変化材料、あるいは、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体と、遷移金属および/または遷移金属酸化物と連結する作用を生ずる連結基を含むフッ素含有有機化合物と、必要に応じて含有するその他成分とが良好に溶解または分散すれば特に限定されない。例えば、正孔注入輸送層が第1態様の濡れ性変化材料を含有する場合と同様の溶媒を用いることができる。
【0192】
上記第三の態様の正孔注入輸送層形成用塗工液に用いられるカルボニル基および/または水酸基を有する溶媒としては、上記「A.有機EL素子」の第2態様の濡れ性変化材料の項に記載したものと同様の有機溶媒を用いることができる。
【0193】
上記第一の態様の正孔注入輸送層形成用塗工液は、第2態様の濡れ性変化材料と溶媒とを混合して調製してもよい。また、有機遷移金属錯体と、遷移金属および/または遷移金属酸化物と連結する作用を生ずる連結基を含むフッ素含有有機化合物とを、カルボニル基および/または水酸基を有する溶媒に溶解または分散させ、有機遷移金属錯体中の遷移金属を酸化して、正孔注入輸送層形成用塗工液を得てもよい。
上記第二の態様の正孔注入輸送層形成用塗工液中の有機−遷移金属酸化物複合体は、有機遷移金属錯体を、カルボニル基および/または水酸基を有する溶媒に溶解または分散させ、有機遷移金属錯体中の遷移金属を酸化して得ることが好ましい。
なお、酸化させる方法については、上述したとおりである。
【0194】
正孔注入輸送層形成用塗工液中における第2態様の濡れ性変化材料の含有量は、目的に応じて適宜調整可能であり、特に限定されないが、例えば正孔注入輸送層形成用塗工液全量中に0.1質量%〜10.0質量%程度が好ましい。
【0195】
さらに、正孔注入輸送層がオルガノポリシロキサンを含有する場合、すなわち上記「A.有機EL素子」の項に記載した第3態様の濡れ性変化材料を含有する場合、溶媒としては、オルガノポリシロキサン等と混合するものであり、白濁その他の現象によるパターニング特性に影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、アセトニトリル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチルグリコールモノメチルエーテル、ジエチルグリコールモノエチルエーテル、ジエチルグリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、乳酸メチル、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、エチレングリコール、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ピリジン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリジノン等が挙げられる。これらの溶媒は2種以上を混合して使用してもよい。
【0196】
正孔注入輸送層形成用塗工液の塗布方法としては、基板上に均一に上述の材料を成膜できる方法であればよく、例えば、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、ビードコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、ブレードコート法、キャスト法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、エアロゾル法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等を挙げることができる。
【0197】
また、正孔注入輸送層形成用塗工液を塗布した後は、乾燥処理を行ってもよい。乾燥方法としては、一般的な乾燥方法を用いることができ、例えば加熱する方法が挙げられる。加熱する方法としては、例えば、オーブンのような特定の空間全体を加熱する装置内を通過または静置させる方法、熱風を当てる方法、遠赤外線等により直接的に加熱する方法、あるいはホットプレートで加熱する方法等を用いることができる。正孔注入輸送層が第1または第2態様の濡れ性変化材料を含有する場合には、酸素存在下で加熱すると、濡れ性変化材料中の遷移金属酸化物の含有量が増加し、正孔注入輸送性が向上する場合がある。
【0198】
一方、ドライプロセスの場合、正孔注入輸送層の形成方法としては、例えば真空蒸着法等を挙げることができる。
【0199】
なお、基板、第1電極層、隔壁および正孔注入輸送層については、上記「A.有機EL素子」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0200】
(2)濡れ性変化パターン形成工程
本実施態様における濡れ性変化パターン形成工程は、基体上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層が形成されている光触媒含有層基板を、上記正孔注入輸送層に対して、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置した後、上記正孔注入輸送層にパターン状にエネルギーを照射することにより、上記正孔注入輸送層の表面に上記隔壁上に配置された撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する工程である。
【0201】
エネルギー照射に伴う光触媒の作用により正孔注入輸送層の濡れ性が変化する機構については、必ずしも明確ではないが、エネルギー照射によって光触媒含有層に含有される光触媒が酸化還元反応を引き起こし、これによって生成されたスーパーオキサイドラジカル(・O2-)やヒドロキシラジカル(・OH)などの活性酸素種が、正孔注入輸送層に含有される有機物に作用を及ぼすことにより、濡れ性が変化した親液性領域を形成することができると考えられる。
【0202】
本実施態様に用いられる光触媒含有層基板は、基体上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層が形成されているものである。
【0203】
光触媒含有層の形成位置としては、図10(a)に例示するように、基体22上の全面に光触媒含有層24が形成されていてもよく、図10(b)に例示するように、基体22上に光触媒含有層24がパターン状に形成されていてもよい。
光触媒含有層がパターン状に形成されている場合には、光触媒含有層を正孔注入輸送層に対して所定の間隙をおいて配置し、エネルギーを照射する際に、フォトマスク等を用いてパターン照射する必要がなく、全面に照射することにより、正孔注入輸送層に含有される材料が分解された親液性領域をパターン状に形成することができる。また、この場合、エネルギーの照射方向としては、光触媒含有層と正孔注入輸送層とが面する部分にエネルギーが照射されれば、いかなる方向であってもよい。さらには、照射されるエネルギーも、平行光等の平行なものに限定されない。
【0204】
また、光触媒含有層基板には、遮光部がパターン状に形成されていてもよい。パターン状の遮光部を有する光触媒含有層基板を用いた場合には、エネルギー照射に際して、フォトマスクを用いたり、レーザ光による描画照射を行ったりする必要がない。したがって、この場合には、光触媒含有層基板とフォトマスクとの位置合わせが不要であることから、簡便な工程とすることができ、また描画照射に必要な高価な装置も不要であることから、コスト的に有利となる。
【0205】
遮光部の形成位置としては、図3(b)に例示するように、基体22上に遮光部23がパターン状に形成され、この遮光部23上に光触媒含有層24が形成されていてもよく、図10(c)に例示するように、基体22上に光触媒含有層24が形成され、この光触媒含有層24上に遮光部23がパターン状に形成されていてもよく、図示しないが、基体の光触媒含有層が形成されていない側の表面に遮光部がパターン状に形成されていてもよい。
【0206】
基体上に遮光部が形成されている場合、および、光触媒含有層上に遮光部が形成されている場合は、フォトマスクを用いる場合と比較すると、光触媒含有層と正孔注入輸送層とが間隙をおいて配置される部分の近傍に、遮光部が配置されることになるので、基体内等におけるエネルギーの散乱の影響を少なくすることができる。このため、エネルギーのパターン照射を極めて正確に行うことが可能となる。
【0207】
光触媒含有層基板としては、具体的には、特開2000−249821号公報等に記載されている光触媒含有層側基板と同様とすることができる。
【0208】
本実施態様においては、光触媒含有層基板を、正孔注入輸送層に対して、エネルギー照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置する。なお、間隙とは、光触媒含有層および正孔注入輸送層が接触している状態も含むものとする。
【0209】
光触媒含有層と正孔注入輸送層との間隔は、具体的には、200μm以下であることが好ましい。光触媒含有層と正孔注入輸送層とを所定の間隔をおいて配置することにより、酸素、水および光触媒作用により生じた活性酸素種が脱着しやすくなるからである。
上記間隔は、パターン精度が極めて良好であり、光触媒の感度も高く、分解除去の効率が良好である点を考慮すると、0.2μm〜20μmの範囲内であることがより好ましく、さらに好ましくは1μm〜10μmの範囲内である。
【0210】
一方、例えば300mm×300mmといった大面積の有機EL素子を製造する場合には、上述したような微細な間隙を光触媒含有層基板と正孔注入輸送層との間に設けることは極めて困難である。したがって、比較的大面積の有機EL素子を製造する場合は、上記間隙は、5μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは10μm〜75μmの範囲内である。上記間隙を上記範囲とすることにより、パターンがぼやける等のパターン精度の低下を抑制することができ、また光触媒の感度が悪化して濡れ性変化の効率が悪化するのを抑制することができるからである。
また、上記のような比較的大面積に対してエネルギー照射する際には、エネルギー照射装置内の光触媒含有層基板と正孔注入輸送層との位置決め装置における間隙の設定を、10μm〜200μmの範囲内、特に25μm〜75μmの範囲内に設定することが好ましい。上記間隙の設定値を上記範囲とすることにより、パターン精度の大幅な低下や光触媒の感度の大幅な悪化を招くことなく、かつ光触媒含有層基板と正孔注入輸送層とを接触させずに配置することができるからである。
なお、このような間隙をおいた配置状態は、少なくともエネルギー照射の間だけ維持されればよい。
【0211】
本発明においては、隔壁が形成されており、隔壁上には撥液性領域が配置されるため、隔壁を上記間隙を均一に形成するためのスペーサとして用いることができる。
【0212】
エネルギー照射方向は、光触媒含有層基板に遮光部が形成されているか否か、あるいは、有機EL素子の光の取り出し方向等により決定される。例えば、光触媒含有層基板に遮光部が形成されており、光触媒含有層基板の基体が透明である場合は、光触媒含有層基板側からエネルギー照射が行なわれる。また例えば、光触媒含有層がパターン状に形成されている場合には、エネルギー照射方向は、上述したように、光触媒含有層と第2正孔注入輸送層とが面する部分にエネルギーが照射されれば、いかなる方向であってもよい。中でも、光触媒含有層基板側からエネルギー照射を行なうことが好ましい。
【0213】
光触媒含有層基板を用いて正孔注入輸送層に光触媒の作用を及ぼす方法としては、具体的には、特開2000−249821号公報等に記載されている光触媒含有層側基板を用いて特性変化層に光触媒の作用を及ぼす方法と同様とすることができる。
【0214】
なお、撥液性領域および親液性領域については、上記「A.有機EL素子」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0215】
(3)有機層形成工程
本実施態様における有機層形成工程は、上記正孔注入輸送層上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、上記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域に重ならないように、上記親液性領域上に少なくとも発光層を含む有機層を形成する工程である。
【0216】
有機層形成用塗工液としては、発光層の場合には発光層形成用塗工液が用いられる。発光層形成用塗工液は、上記「A.有機EL素子」の発光層の項に記載した発光材料を溶媒に分散もしくは溶解させることにより調製することができる。赤色、緑色および青色の三原色の発光層を形成する場合は、赤色、緑色および青色の各色発光層形成用塗工液が用いられる。
発光層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、発光材料を溶解もしくは分散させることができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系;酢酸ブチル等のエステル系;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル系;トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の炭化水素系;クロロベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系;エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系;あるいは、水系、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、N−メチル−2−ピロリドン;上記の一部を水素からフッ素に置換したフッ素系の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、発光層形成用塗工液には、発光材料および溶媒に加えて、種々の添加剤を添加することができる。例えば、インクジェット法により発光層を形成する場合には、吐出性を向上させる目的で、界面活性剤等を添加してもよい。
【0217】
有機層形成用塗工液の塗布方法としては、親液性領域および撥液性領域の濡れ性の差を利用して、正孔注入輸送層上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、親液性領域上に有機層を形成することができる方法であれば特に限定されるものではない。このような塗布方法としては、例えば、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、エアロゾル法、ディスペンサーやインクジェットを用いる吐出法、ノズルプリンティング法などが挙げられる。中でも、赤色、緑色および青色の三原色等の複数色の発光層を形成する場合には、吐出法、ノズルプリンティング法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法が好ましく用いられる。特に吐出法が好ましく、さらにはノズルプリンティング法やインクジェット法が好ましい。これらの方法では、発光層を高精細にパターニングすることができるからである。
【0218】
なお、発光層等を含む有機層については、上記「A.有機EL素子」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0219】
(4)第2電極層形成工程
本実施態様における第2電極層形成工程は、隔壁上および有機層上に、隔壁により分断され、第2電極層用取り出し電極形成領域に重なるように、第2電極層を形成する工程である。
なお、第2電極層の形成方法等については、上記「A.有機EL素子」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0220】
(5)その他の工程
本実施態様においては、上述の正孔注入輸送層形成工程、濡れ性変化パターン形成工程、有機層形成工程および第2電極層形成工程のほかに、必要に応じて、他の工程を有していてもよい。
【0221】
例えば、上記正孔注入輸送層形成工程前に、基板上に第1電極層を形成する第1電極層形成工程、基板上に第2電極層用取り出し電極を形成する第2電極層用取り出し電極形成工程、基板上に第1電極層用取り出し電極を形成する第1電極層用取り出し電極形成工程、第1電極層が形成された基板上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程、第1電極層が形成された基板上に隔壁を形成する隔壁形成工程を行ってもよい。なお、第1電極層、第2電極層用取り出し電極、第1電極層用取り出し電極、絶縁層および隔壁については、上記「A.有機EL素子」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0222】
また、上記有機層形成工程後に、有機層上に電子注入輸送層を形成する電子注入輸送層形成工程を行ってもよい。なお、電子注入輸送層については、上記「A.有機EL素子」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0223】
さらに、上記第2電極層形成工程後に、発光層等を酸素および水蒸気の影響から保護するために、第2電極層上にバリア層を形成するバリア層形成工程や、光取り出し効率を向上させるために第2電極層上に低屈折率層を形成する低屈折率層形成工程等を行ってもよい。
【0224】
2.第2実施態様
本実施態様の有機EL素子の製造方法は、ストライプ状の第1電極層、上記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および上記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、撥液性を有し、真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、上記正孔注入輸送層にパターン状に真空紫外光を照射することにより、上記正孔注入輸送層の表面に上記隔壁上に配置された撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程と、上記正孔注入輸送層上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、上記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域に重ならないように、上記親液性領域上に少なくとも発光層を含む有機層を形成する有機層形成工程と、上記隔壁上および上記有機層上に、上記隔壁により分断され、上記第2電極層用取り出し電極形成領域に重なるように、第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とするものである。
【0225】
本実施態様の有機EL素子の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図4(a)〜(e)、図8(a)〜(b)および図9(a)〜(b)は、本実施態様の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図であり、図4(a)は図8(a)のE−E線断面図、図4(c)は図8(b)のF−F線断面図、図4(d)は図9(a)のG−G線断面図、図4(e)は図9(b)のH−H線断面図である。
まず、図4(a)および図8(a)に示すように、ストライプ状の第1電極層3、発光領域を画定する絶縁層4、第1電極層3の長手方向と直交するストライプ状の隔壁5、および隔壁5の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極9が形成された基板2上に、撥液性を有し、真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層6を形成する(正孔注入輸送層形成工程)。
次に、図4(b)に示すように、メタルマスク31を正孔注入輸送層6の表面に配置し、メタルマスク31を介して、隔壁5の開口部に位置する正孔注入輸送層6の部分に真空紫外光37を照射する。真空紫外光37の照射により、図4(c)および図8(b)に示すように、正孔注入輸送層6の露光部では、正孔注入輸送層6に含有される材料の濡れ性が変化し、親液性領域12が形成される。一方、正孔注入輸送層6の未露光部では、正孔注入輸送層6に含有される材料の濡れ性はそのまま変化せず、撥液性領域11となる。これにより、隔壁5上に配置された撥液性領域11と、隔壁5の開口部に配置された親液性領域12とからなる濡れ性変化パターンが形成される(濡れ性変化パターン形成工程)。
次に、図4(d)および図9(a)に示すように、正孔注入輸送層6上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、第2電極層用取り出し電極9が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域19に重ならないように、親液性領域12上に少なくとも発光層を含む有機層7を形成する(有機層形成工程)。
その後、図4(e)および図9(b)に示すように、隔壁5上および有機層7上に、隔壁5により分断され、第2電極層用取り出し電極形成領域19と重なるように、第2電極層8を形成する(第2電極層形成工程)。
【0226】
本実施態様によれば、撥液性を有し、真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層に、真空紫外光を照射し、正孔注入輸送層の濡れ性を変化させることにより、撥液性領域と正孔注入輸送層の濡れ性が変化した親液性領域とからなる濡れ性変化パターンを形成することができる。したがって、精度良く発光層等の有機層をパターニングすることが可能である。
また本実施態様によれば、正孔注入輸送層表面に形成された濡れ性変化パターンを利用して発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができ、第2電極層用取り出し電極、有機層および第2電極層を所定の位置に形成するので、第2電極層を断線させることなく、第2電極層用取り出し電極と隔壁の開口部に形成された第2電極層とを電気的に接続することが可能である。
【0227】
なお、有機層形成工程、第2電極層形成工程およびその他の工程については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。以下、本実施態様の有機EL素子の製造方法における他の工程について説明する。
【0228】
(1)正孔注入輸送層形成工程
本実施態様における正孔注入輸送層形成工程は、ストライプ状の第1電極層、上記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および上記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、撥液性を有し、真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する工程である。
なお、正孔注入輸送層の形成方法については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0229】
(2)濡れ性変化パターン形成工程
本実施態様における濡れ性変化パターン形成工程は、上記正孔注入輸送層にパターン状に真空紫外光を照射することにより、上記正孔注入輸送層の表面に上記隔壁上に配置された撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する工程である。
【0230】
真空紫外光の照射により正孔注入輸送層の濡れ性が変化する機構については、必ずしも明確ではないが、正孔注入輸送層に真空紫外光が照射されると、正孔注入輸送層に含有される有機物の分子結合が、真空紫外光の作用により切断されたり、また酸素の存在下、酸素が励起されて発生する酸素原子ラジカルが有機物に作用を及ぼしたりすることにより、濡れ性が変化した親液性領域を形成することができると考えられる。
【0231】
真空紫外光の波長は、酸素と作用することにより酸素ラジカルを発生できる範囲内であれば特に限定されるものでないが、通常100nm〜250nmの範囲内であることが好ましく、中でも150nm〜200nmの範囲内であることが好ましい。波長が上記範囲よりも長いと、酸素ラジカルの発生効率が低くなり、正孔注入輸送層に含有される材料の分解除去効率が低下してしまうおそれがあるからである。また、波長が上記範囲よりも短いと、安定した真空紫外光の照射が困難となる可能性があるからである。
【0232】
上記波長範囲の真空紫外光の照射に用いられる光源としては、例えば、エキシマランプ、低圧水銀ランプ、その他種々の光源を挙げることができる。
【0233】
また、真空紫外光の照射量としては、正孔注入輸送層に含有される材料を分解することができれば特に限定されるものではなく、正孔注入輸送層に含有される材料の種類や、上記真空紫外光の波長等によって適宜調整すればよい。
【0234】
真空紫外光の照射の際に用いられる真空紫外光用マスクとしては、真空紫外光をパターン状に透過することができるものであればよい。
【0235】
真空紫外光は指向性の無い分散光であることから、真空紫外光用マスクを介して真空紫外光を照射する場合は、この真空紫外光用マスクを正孔注入輸送層にできるだけ接近させ、真空紫外光が正孔注入輸送層と真空紫外光用マスクとの間に回折しないようにすることが好ましい。この際、真空紫外光用マスクが正孔注入輸送層に接触するように、真空紫外光用マスクを配置してもよく、また真空紫外光用マスクが正孔注入輸送層に接触しないように、真空紫外光用マスクを配置してもよい。
【0236】
3.第3実施態様
本実施態様の有機EL素子の製造方法は、ストライプ状の第1電極層、上記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および上記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、光触媒を含有し、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、上記正孔注入輸送層にパターン状にエネルギーを照射することにより、上記正孔注入輸送層の表面に上記隔壁上に配置された撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程と、上記正孔注入輸送層上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、上記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域に重ならないように、上記親液性領域上に少なくとも発光層を含む有機層を形成する有機層形成工程と、上記隔壁上および上記有機層上に、上記隔壁により分断され、上記第2電極層用取り出し電極形成領域に重なるように、第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを有することを特徴とするものである。
【0237】
本実施態様の有機EL素子の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図11(a)〜(e)、図8(a)〜(b)および図9(a)〜(b)は、本実施態様の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図であり、図11(a)は図8(a)のE−E線断面図、図11(c)は図8(b)のF−F線断面図、図11(d)は図9(a)のG−G線断面図、図11(e)は図9(b)のH−H線断面図である。
まず、図11(a)および図8(a)に示すように、ストライプ状の第1電極層3、発光領域を画定する絶縁層4、第1電極層3の長手方向と直交するストライプ状の隔壁5、および隔壁5の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極9が形成された基板2上に、光触媒を含有し、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層6を形成する(正孔注入輸送層形成工程)。
次に、図11(b)に示すように、フォトマスク41を正孔注入輸送層6の表面に配置し、フォトマスク41を介して、隔壁5の開口部に位置する正孔注入輸送層6の部分に紫外光47を照射する。紫外光47の照射により、図11(c)および図8(b)に示すように、正孔注入輸送層6に含有される光触媒の作用から、正孔注入輸送層6の露光部では、正孔注入輸送層6に含有される材料の濡れ性が変化し、親液性領域12が形成される。一方、正孔注入輸送層6の未露光部では、正孔注入輸送層6に含有される材料の濡れ性はそのまま変化せず、撥液性領域11となる。これにより、隔壁5上に配置された撥液性領域11と、隔壁5の開口部に配置された親液性領域12とからなる濡れ性変化パターンが形成される(濡れ性変化パターン形成工程)。
次に、図11(d)および図9(a)に示すように、正孔注入輸送層6上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、第2電極層用取り出し電極9が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域19に重ならないように、親液性領域12上に少なくとも発光層を含む有機層7を形成する(有機層形成工程)。
その後、図11(e)および図9(b)に示すように、隔壁5上および有機層7上に、隔壁5により分断され、第2電極層用取り出し電極形成領域19と重なるように、第2電極層8を形成する(第2電極層形成工程)。
【0238】
本実施態様によれば、光触媒を含有し、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層に、エネルギーを照射し、正孔注入輸送層の濡れ性を変化させることにより、撥液性領域と正孔注入輸送層の濡れ性が変化した親液性領域とからなる濡れ性変化パターンを形成することができる。したがって、精度良く発光層等の有機層をパターニングすることが可能である。
また本実施態様によれば、正孔注入輸送層表面に形成された濡れ性変化パターンを利用して発光層等の有機層を精度良くパターニングすることができ、第2電極層用取り出し電極、有機層および第2電極層を所定の位置に形成するので、第2電極層を断線させることなく、第2電極層用取り出し電極と隔壁の開口部に形成された第2電極層とを電気的に接続することが可能である。
【0239】
なお、有機層形成工程、第2電極層形成工程およびその他の工程については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。以下、本実施態様の有機EL素子の製造方法における他の工程について説明する。
【0240】
(1)正孔注入輸送層形成工程
本実施態様における正孔注入輸送層形成工程は、ストライプ状の第1電極層、上記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および上記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、光触媒を含有し、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する工程である。
なお、正孔注入輸送層の形成方法については、上記第1実施態様に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0241】
(2)濡れ性変化パターン形成工程
本実施態様における濡れ性変化パターン形成工程は、上記正孔注入輸送層にパターン状にエネルギーを照射することにより、上記正孔注入輸送層の表面に上記隔壁上に配置された撥液性領域および上記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する工程である。
【0242】
エネルギーの照射方法は、正孔注入輸送層の濡れ性を変化させることが可能な方法であれば特に限定されるものではない。また、エネルギーの照射は、目的とするパターンが形成された、例えばフォトマスク等のマスクを用いて行ってもよい。これにより、目的とするパターン状にエネルギーを照射することが可能となり、正孔注入輸送層の濡れ性をパターン状に変化させることができるからである。この際、用いられるマスクの種類としては、目的とするパターン状にエネルギーが照射可能であれば特に限定されるものではなく、エネルギーを透過する素材に遮光部が形成されたフォトマスク等であってもよく、また目的とするパターン状に孔部が形成されているシャドウマスク等であってもよい。また、これらのマスクの材料として、具体的には金属、ガラスやセラミック等の無機物、またはプラスチック等の有機物等を挙げることができる。
【0243】
さらに、用いる基材上に遮光部が形成されている場合には、エネルギーの照射は、この遮光部を利用して、基材側から全面に露光を行うものであってもよい。これにより、上記遮光部が形成されていない位置の正孔注入輸送層にのみエネルギーを照射することができ、この正孔注入輸送層の濡れ性を変化させることができるからである。この場合、上記マスクやレーザー等による描画の必要がないことから、位置合わせや高価な描画装置等を必要としないという利点がある。
【0244】
なお、濡れ性変化パターン形成工程のその他の点については、上記第1実施態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0245】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0246】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
【0247】
絶縁層および隔壁が形成されたITO基板上に正孔注入輸送層を形成し、正孔注入輸送層に対して光触媒含有層を有するフォトマスクを用いて露光して濡れ性変化パターンを形成し、親液性領域である隔壁の開口部に第2正孔注入輸送層(正孔輸送層)と発光層をインクジェット法で塗布形成し、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極の基本層構成を有するように製膜して積層し、封止して、緑色発光の有機EL素子を作製した。そして、有機EL素子の発光面を観察した。
【0248】
(正孔注入輸送層用デバイス材料の合成)
正孔注入輸送層の形成に用いる正孔注入輸送層用デバイス材料は次のようにして合成した。
まず、次の手順で、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11-ヘプタデカフルオロウンデシルアミンで保護されたモリブデン含有ナノ粒子を合成した。25 ml三ッ口フラスコ中に、n-オクチルエーテル 3.2 g(東京化成工業株式会社製)を量り取り、攪拌しながら減圧し、低揮発成分除去のために室温(24℃)にて1.5時間放置した。真空下から大気雰囲気へ変更し、モリブデンヘキサカルボニル 0.2 g(関東化学株式会社製)、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11-ヘプタデカフルオロウンデシルアミン 0.4 g(Fluka社製)を添加した。この混合液をアルゴンガス雰囲気とし、攪拌しながら250℃まで加熱し、その温度を1時間維持した。その後、この混合液を室温(24℃)まで冷却し、アルゴンガス雰囲気から大気雰囲気へ変更した後、エタノール 5 gを添加し、遠心分離によって沈殿物を反応液から分離した。その後、得られた沈殿物をクロロホルム、エタノールで洗い、乾燥することにより、黒色のモリブデン含有ナノ粒子の精製物を得た。
以上のようにして、正孔注入輸送層用デバイス材料である、表面にフッ素含有有機化合物が付着している遷移金属含有ナノ粒子を得た。
このモリブデン含有ナノ粒子の一次粒径は、日立ハイテクノロジーズ社製の超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S-4800を用いて測定した。測定用試料は、モリブデン含有ナノ粒子分散溶液を市販の支持膜付きのマイクログリッド上に数滴滴下し、溶媒を減圧乾燥させることによって作製した。粒子像観察は、走査型透過電子顕微鏡法(STEM)モードにて行った。観察された明るい粒子の20個の平均値を平均粒径とした。観察している粒径は、保護剤を除いた遷移金属含有ナノ粒子の平均粒径であると考えられる。この合成例で作製した化合物の粒子径は、7nm程度であった。
なお、本実施例では、正孔注入輸送層用デバイス材料として、表面にフッ素含有有機化合物が付着している遷移金属含有ナノ粒子を用いたが、これに限定されるものではなく、上記「A.有機EL素子 1.正孔注入輸送層」の項に記載したように、フルオロアルキルシラン等のオルガノポリシロキサンなど、公知の材料を用いてもよい。
【0249】
(絶縁層および隔壁の形成)
まず、ITO(第1電極層3および第2電極層用取り出し電極9)がパターン状に形成された基板2(図12(a))を準備し、格子状の開口部を有する絶縁層4(図12(b))とライン状の隔壁5(図13(a))を順に形成した。同基板を中性洗剤、超純水の順番に超音波洗浄し、最後にUVオゾン処理を施した。
【0250】
(正孔注入輸送層の形成)
次に、上記基板の上に正孔注入輸送層として、Mo含有ナノ粒子薄膜を、正孔注入輸送層形成用インクを用いてスピンコート法により塗布形成した。正孔注入輸送層形成用インクは、上記の正孔注入輸送層用デバイス材料0.012gをヘプタフルオロ−n−酪酸エチル3.0gに溶解させて0.4wt%の溶液を調製することで得た。塗膜形成後、外周部・取り出し電極部を溶媒にてふき取り除去し、ホットプレート上200℃で乾燥させた。乾燥後の膜厚は10nmであった。隔壁5の開口部に位置する正孔注入輸送層6(平坦な部分)で接触角を測ったところ、キシレンに対する正孔注入輸送層6表面の接触角は58°であった(図13(b))。
【0251】
(濡れ性変化パターンの形成)
次に、開口部の幅が90μmになるようにライン状の遮光部が形成され、光触媒含有層を有するフォトマスクを準備した。フォトマスクの遮光部がライン状の隔壁5上に位置するように調整して、正孔注入輸送層6に対して露光し、撥液性のコントラストの高い、撥液性領域11および親液性領域12からなる濡れ性変化パターンを形成した(図14(a))。この際、高圧水銀灯と、フォトマスクおよび基板の位置調整機構とを備える紫外露光装置を用い、フォトマスクの光触媒含有層と正孔注入輸送層との間の距離が100μmになるように調整した後、フォトマスクの裏面側から254nmの光の露光量が5J/cm2となるように3分間露光した。露光部であり、かつ隔壁5の開口部に位置する正孔注入輸送層6(平坦な部分)で接触角を測ったところ、キシレンに対する正孔注入輸送層6表面の接触角は5°以下であり、親液化されていた(図14(a))。
【0252】
(正孔輸送層および発光層の形成)
次に、隔壁の開口部に形成された親液性領域に、下記組成の正孔輸送層形成用塗工液をインクジェット法により塗布して正孔輸送層を形成した。この際、乾燥後の膜厚が30nmになるようにインクの塗出量を調整した。塗膜形成後、窒素中200℃で60分乾燥させた。
<正孔輸送層形成用塗工液>
・ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB) 1.8重量部
・メチルアニソール 98.2重量部
【0253】
次に、隔壁の開口部に形成された正孔輸送層上に、下記組成の緑色発光層形成用塗工液をインクジェット法により塗布し、発光層を形成した。この際、乾燥後の膜厚が40nmになるようにインクの塗出量を調整した。塗膜形成後、窒素中100℃で30分乾燥させた。
<緑色発光層形成用塗工液>
・2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN) 1.8重量部
・9,10−ビス[N,N−ジ−(p−トリル)−アミノ]アントラセン(TTPA) 0.02重量部
・安息香酸エチル 98重量部
【0254】
(正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層および陰極の形成)
次に、上記発光層上に、正孔ブロック層を一様に蒸着形成した。正孔ブロック層は、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)を用い、抵抗加熱法により真空中(圧力:1×10−4Pa)で蒸着膜の膜厚が15nmになるように蒸着形成した。
【0255】
次に、上記正孔ブロック層上に、電子輸送層を蒸着形成した。電子輸送層は、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)を抵抗加熱法により真空中(圧力:1×10−4Pa)で蒸着膜の膜厚が20nmになるように蒸着形成した。
【0256】
次に、上記電子輸送層上に、さらに、電子注入層および陰極を順次蒸着形成した。電子注入層はLiF(厚み:0.5nm)を、陰極(第2電極層8)はAl(厚み:100nm)を順次抵抗加熱法により真空中(圧力:1×10−4Pa)で蒸着した(図14(b))。
【0257】
陰極形成後、低酸素、低湿度状態のグローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止した。
【0258】
(評価)
発光層形成用塗工液の塗布後に、蛍光顕微鏡により発光層の観察を行ったところ、隣接ラインに溢れ出ることなく塗布できていることが確認できた。また、作製した有機EL素子の発光面を顕微鏡で観察したところ、緑色発光する素子が作製できたことが確認された。各ピクセルのピクセル内の発光は一様で、ピクセル間の発光ばらつきが小さく、非常に精度高く塗布できていることが確認された。
本実施例では1色の発光層形成用塗工液を塗布したが、本実施例の方法に従えば原理的には例えば3色や4色の発光層形成用塗工液を用いる場合にも容易に拡張することができ、RGBの塗り分けパネルの作製にも容易に適用可能である。
【符号の説明】
【0259】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 第1電極層
4 … 絶縁層
5 … 隔壁
6 … 正孔注入輸送層
7 … 有機層
8 … 第2電極層
9 … 第2電極層用取り出し電極
11 … 撥液性領域
12 … 親液性領域
15 … 隔壁の開口部
17 … 有機層形成領域
18 … 第2電極層形成領域
19 … 第2電極層用取り出し電極形成領域
d1 … 隔壁の長手方向の第2電極層の長さ
d2 … 隔壁の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上にストライプ状に形成された第1電極層と、
前記第1電極層が形成された前記基板上に前記第1電極層の長手方向と直交する方向にストライプ状に形成され、断面形状が逆テーパー形状である隔壁と、
前記隔壁上および前記隔壁の開口部に形成され、前記隔壁上に配置されエネルギー照射に伴う光触媒の作用または真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る濡れ性変化材料を含有する撥液性領域および前記隔壁の開口部に配置され前記濡れ性変化材料の濡れ性が変化された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを有する正孔注入輸送層と、
前記親液性領域上に形成され、少なくとも発光層を有する有機層と、
前記有機層上および前記隔壁上に形成され、前記隔壁によって分断されている第2電極層と、
前記基板上に形成され、前記第2電極層に電気的に接続された第2電極層用取り出し電極と
を有し、
前記隔壁の開口部に前記第2電極層用取り出し電極が配置され、前記第2電極層が設けられている第2電極層形成領域と前記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域とが重複しており、前記有機層が設けられている有機層形成領域と前記第2電極層用取り出し電極形成領域とが重複していないことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記隔壁の長手方向の前記第2電極層の長さが、前記隔壁の長さよりも短いことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記濡れ性変化材料が、少なくとも遷移金属酸化物を含む遷移金属含有ナノ粒子または遷移金属含有ナノクラスターの表面に、フッ素含有有機化合物が付着している材料であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記遷移金属酸化物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、レニウムおよびバナジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記フッ素含有有機化合物がフッ素化アルキル基を含有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記濡れ性変化材料が、有機遷移金属錯体の反応生成物である有機−遷移金属酸化物複合体に、フッ素含有有機化合物が付着している材料であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記遷移金属酸化物中の遷移金属が、モリブデン、タングステン、レニウムおよびバナジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記有機−遷移金属酸化物複合体は、前記有機遷移金属錯体と、カルボニル基および/または水酸基を有する有機溶媒との反応生成物であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記フッ素含有有機化合物がフッ素化アルキル基を含有することを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
ストライプ状の第1電極層、前記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および前記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、撥液性を有し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、
基体上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層が形成されている光触媒含有層基板を、前記正孔注入輸送層に対して、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用が及び得る間隙をおいて配置した後、前記正孔注入輸送層にパターン状にエネルギーを照射することにより、前記正孔注入輸送層の表面に前記隔壁上に配置された撥液性領域および前記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程と、
前記正孔注入輸送層上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、前記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域に重ならないように、前記親液性領域上に少なくとも発光層を含む有機層を形成する有機層形成工程と、
前記隔壁上および前記有機層上に、前記隔壁により分断され、前記第2電極層用取り出し電極形成領域に重なるように、第2電極層を形成する第2電極層形成工程と
を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
ストライプ状の第1電極層、前記第1電極層の長手方向と直交するストライプ状の隔壁、および前記隔壁の開口部に位置する第2電極層用取り出し電極が形成された基板上に、撥液性を有し、真空紫外光の照射により濡れ性が変化し得る正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程と、
前記正孔注入輸送層にパターン状に真空紫外光を照射することにより、前記正孔注入輸送層の表面に前記隔壁上に配置された撥液性領域および前記隔壁の開口部に配置された親液性領域からなる濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程と、
前記正孔注入輸送層上に有機層形成用塗工液をパターン状に塗布して、前記第2電極層用取り出し電極が設けられている第2電極層用取り出し電極形成領域に重ならないように、前記親液性領域上に少なくとも発光層を含む有機層を形成する有機層形成工程と、
前記隔壁上および前記有機層上に、前記隔壁により分断され、前記第2電極層用取り出し電極形成領域に重なるように、第2電極層を形成する第2電極層形成工程と
を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−171243(P2011−171243A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36207(P2010−36207)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】