説明

有機エレクトロルミネッセンス素子とその製造方法、照明装置、面状光源、表示装置

【課題】製造容易で、発光特性及び寿命特性が良好で、電気特性が良好で、発光輝度のムラが少なく、発光効率に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、照明装置、面状光源、及び表示装置を提供する。
【解決手段】陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である透明な第1電極と、前記第1電極と比較して電気抵抗値の低い材料から構成され、前記第1電極に接して設けられる補助電極と、前記陽極および陰極のうちの他方の電極である第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された発光層と、前記陽極と前記発光層との間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層と、を含み、前記補助電極が、枠状の第1補助電極と、該第1補助電極の枠内に配置されるとともに、該第1補助電極に電気的に接続され、該第1補助電極よりも線幅の狭い第2補助電極と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、該有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置、面状光源、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極と、有機発光層とを含んで構成される。有機エレクトロルミネッセンス素子は、電圧を印加すると、各電極から正孔および電子がそれぞれ注入され、注入された正孔と電子が有機発光層において再結合することによって発光する。有機エレクトロルミネッセンス素子は、無機EL素子に比べると低電圧での駆動が可能であり、また輝度が高い。そのため表示装置や照明装置に用いられる発光素子の1つとして有機エレクトロルミネッセンス素子が検討されている。
陽極と陰極との間には、素子寿命および発光特性などを向上させることを目的として、上記発光層とは異なる所定の層(電子注入層および正孔注入層等)が設けられることがある。例えば発光層と電子注入電極との間に酸化モリブデン等の無機酸化物層を高効率な電子注入層として設けた有機エレクトロルミネッセンス素子がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
電極間に設けられる層のうちで塗布法(ウエットプロセス)により形成可能な層は、製造コストの観点から通常塗布法によって形成されている。しかしながら、酸化モリブデン層はウェットプロセスに対して耐久性が低いので、酸化モリブデン層上に塗布法により所定の層を形成する際に酸化モリブデン層に損傷を与えるおそれがあり、結果として発光特性及び寿命特性の高い有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができないという問題がある。
【0004】
また有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極の少なくとも一方が透明電極であり、該透明電極から光を取り出している。透明電極は、例えば光を透過する程度に薄い膜厚の金属薄膜や酸化物によって構成される。このような透明電極は、金属膜などから成る不透明な通常用いられる電極に比べると電気抵抗が高い。有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示装置や照明装置においては、発光面積が大きくなるにつれて大面積の透明電極が必要となる。大面積の透明電極を用いる場合、透明電極が有する高い配線抵抗による電圧降下が大きくなり、それに伴って、電圧降下に起因する発光輝度のムラが無視できない程度に大きくなるという問題がある。
【0005】
透明電極の電圧降下に起因する問題を解決するために、透明電極よりも低抵抗な補助電極を透明電極に電気的に接続した有機エレクトロルミネッセンス素子を備える面状発光装置が開示されている(例えば特許文献2参照)。この面状発光装置では、電源に接続される接続端子から近い部分では前記補助電極を太くし、遠い部分では前記補助電極を細くしている。接続端子から近い部分では、太い補助電極のために電流値が高く発光強度が強い一方で、開口率が小さくなり、また、接続端子から遠い部分では、細い補助電極のために電流値が小さく発光強度が弱い一方で、開口率が大きくなるので、全体としての発光輝度のムラを抑制した面状発光装置を実現している。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されているような有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた場合でも、接続端子から遠い部分では電流値が小さくなるために、発光輝度のムラを十分に抑制することができなかった。また、開口率を調整することによって発光輝度のムラを抑制するので、光の利用効率が低下するという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−367784号公報
【特許文献2】特開2004−14128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、その課題は、容易に製造することができ、寿命特性が良好で、かつ、電気抵抗の高い透明電極による電圧降下を低減し、発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能な、発光効率に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、および該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置、面状光源、及び表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である透明な第1電極と、前記第1電極と比較して電気抵抗が低く、前記第1電極に接して設けられた補助電極と、前記陽極および陰極のうちの他方の電極である第2電極と、前記第1電極および第2電極の間に配置された発光層と、前記陽極および前記発光層の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層と、を含み、前記補助電極が、枠状の第1補助電極と、該第1補助電極の枠内に配置されるとともに、該第1補助電極に電気的に接続され、該第1補助電極よりも線幅が狭い第2補助電極と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記第2補助電極の線幅を前記第1補助電極の線幅で除した値が、1/1000〜1/10であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記金属ドープモリブデン酸化物層が、前記陽極に接して設けられていてもよい。
【0012】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率が50%以上であることが、好ましい。
【0013】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属が、遷移金属、周期表13族の金属及びこれらの混合物からなる群より選択されてもよい。
【0014】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記ドーパント金属がアルミニウムであってもよい。
【0015】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属の割合が、0.1〜20.0mol%であることが、好ましい。
【0016】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、陽極、正孔注入層および正孔輸送層からなる群から選ばれる1つの層に、酸化モリブデンとドーパント金属とを同時に堆積することにより金属ドープモリブデン酸化物層を積層する工程を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、金属ドープモリブデン酸化物層を積層する工程において積層された前記金属ドープモリブデン酸化物層を加熱する工程をさらに含んでもよい。
【0018】
本発明の照明装置は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とするものである。また、本発明の面状光源は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とするものである。さらに、本発明の表示装置は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、透明電極より電気抵抗が低い補助電極が前記透明電極に接して設けられているので、透明電極の抵抗による電圧降下を軽減し、発光面積が広い場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能となる。
【0020】
すなわち、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、より具体的には、透明電極からなる第1電極の表面上に、枠状の第1補助電極と、該第1補助電極の枠の内側に配置されるとともに、該第1補助電極に電気的に接続され、該第1補助電極よりも線幅が狭い第2補助電極と、が配置されている。第1電極に加えて、このような、透明電極(第1電極)より電気抵抗が低い補助電極を設けることによって、前記第1電極の抵抗による電圧降下を低減できる。
【0021】
本発明においては、前記第1補助電極は、線幅が広く十分な電流を流すことができるため、接続端子から遠い部分であっても配線抵抗による電圧降下の影響をほとんど受けない。
また、前記第2補助電極は、線幅が細いために有機層から発せられた光を遮る量が少なく、光の利用効率に与える影響は少ない。なお、前記第2補助電極は、線幅が細いために配線抵抗による電圧降下の影響を受け易くなるが、本発明においては、この第2補助電極が前記第1補助電極の枠の内側に配置され、かつ配線抵抗による電圧降下の影響をほとんど受けない第1補助電極に電気的に接続されているという電気的接続構造を有しているために、接続端子から遠い部分の補助電極においても配線抵抗による電圧降下が緩和される。
【0022】
したがって、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、透明電極の抵抗による電圧降下を軽減し、発光面積が広い場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能となる。
【0023】
さらに、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、無機酸化物層及びさらにその上に積層される層を容易かつ高品質に設けることが可能であるため、製造が容易であり、しかも発光特性及び寿命特性が良好である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、透明電極の抵抗による電圧降下を軽減し、発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することが可能となる。そして、本発明によれば、無機酸化物層及びさらにその上に積層される層を容易かつ高品質に設けることが可能であるため、製造が容易であり、しかも発光特性及び寿命特性が良好である。
したがって、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、照明装置、バックライトとしての面状光源、フラットパネルディスプレイ等の表示装置として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、以下の説明において示す図面における各部材の縮尺は実際と異なる場合がある。
【0026】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である透明な第1電極と、前記第1電極と比較して電気抵抗が低く、前記第1電極に接して設けられた補助電極と、前記陽極および陰極のうちの他方の電極である第2電極と、前記第1電極および第2電極の間に配置された発光層と、前記陽極および前記発光層の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層と、を含み、前記補助電極が、枠状の第1補助電極と、該第1補助電極の枠内に配置されるとともに、該第1補助電極に電気的に接続され、該第1補助電極よりも線幅が狭い第2補助電極と、を有することを特徴としている。
【0027】
かかる基本的構成を有する本発明の第1の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子を、図1に示す。
【0028】
支持基板1上に、第1補助電極2と第2補助電極3とからなる補助電極4が配置されている。以下、本明細書において、支持基板1の厚み方向の一方を上方(または上)といい、支持基板1の厚み方向の他方を下方(または下)という場合がある。これら補助電極4の上に透明の陽極(第1電極)5が配置されている。この陽極(第1電極)5の上に発光部6が配置され、その上に陰極(第2電極)7が配置されている。通常、これら支持基板1上に配置された積層体(発光機能部と呼称する場合もある)を保護するために積層体全体を保護する保護層(上部封止膜と呼称する場合もある)8が設けられる。
なお、第1の実施形態では、第1電極5が陽極であり、第2電極6が陰極であるが、積層体の積層順を逆順にして、第1電極が陰極であり、第2電極が陽極である有機エレクトロルミネッセンス素子を構成してもよい。
【0029】
(補助電極)
本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、上記補助電極4は、前記陽極(第1電極)5の表面上に配置され、前記第1電極に電気的に接続された枠状の第1補助電極2と、前記第1補助電極2の枠の内側に配置されるとともに、該第1補助電極2に電気的に接続され、該第1補助電極2よりも線幅が狭い第2補助電極3とを備える。
本実施形態においては、前記陽極(第1電極)5の表面上に第1補助電極2及び第2補助電極3を上記のような形態で配置することにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラを十分に抑制することが可能となる。
【0030】
第1補助電極2及び第2補助電極3とからなる補助電極4の配置形態の一例を図2〜図5に示す。
【0031】
図2に示す配置形態においては、支持基板1上に形成された補助電極4は、矩形枠状の第1補助電極2aと、この第1補助電極2aの枠の内側に電気的に一体的に形成されている第2補助電極3aとから構成されている。前記第2補助電極3aは、前記第1補助電極2aより線幅が狭く、複数の各第2補助電極3aは互いに直角に交差した格子状に配置されている。
【0032】
図3に示す配置形態においては、支持基板1上に形成された補助電極4は、矩形枠状の第1補助電極2bと、この第1補助電極2bの枠の内側に電気的に一体的に形成されている第2補助電極3bとから構成されている。前記第2補助電極3bは前記第1補助電極2bより線幅が狭く、複数の各第2補助電極3bは互いに平行に配列されている。
【0033】
図4に示す配置形態においては、支持基板1上に形成された補助電極4は、矩形枠状の第1補助電極2cと、この第1補助電極2cの枠の内側に電気的に一体的に形成されている第2補助電極3cとから構成されている。前記第2補助電極3cは前記第1補助電極2cより線幅が狭く、複数の各第2補助電極3cはハニカム構造の各六角形の各辺を構成するように配置されている。
【0034】
図5に示す配置形態においては、支持基板1上に形成された補助電極4は、矩形枠状の第1補助電極2dと、この第1補助電極2dの枠の内側に電気的に一体的に形成されている第2補助電極3dとから構成されている。前記第2補助電極3dは線幅が前記第1の補助電極2dより狭い二種類の細線電極から構成されている。すなわち、前記第2補助電極3dは、互いに直角に交差した主幹路的な複数の第1の細線電極3d−1と、これら第1の細線電極3d−1に囲まれた領域の内部、もしくは前記第1補助電極2dと第1の細線電極3d−1とで囲まれた領域の内部に形成された第2の細線電極3d−2とから構成されている。
【0035】
図5の配置形態では、前記第1の細線電極3d−1は格子状に配置され、その格子状の各枠内に複数の第2の細線電極3d−2が格子状に配列されている。前記第2の細線電極3d−2は、通常、好ましくは、前記第1の細線電極3d−1よりも線幅がさらに狭く形成されている。
このような補助電極の配置形態を取ることにより、発光面積がさらに大きな素子においても、本発明の効果を得ることができる。
【0036】
ここで、枠状の第1補助電極2の枠形状としては、第1補助電極2内に第2補助電極3が形成され得るものであれば、特に限定されず、例えば、矩形状、円形状等が可能である。また第1補助電極2は、光が透過する主たる領域を囲むように設けられることが好ましい。第1補助電極2の線幅は、電気抵抗および有機エレクトロルミネッセンス素子の発光面積に応じて適宜選択することができ、1〜50mmの範囲であることが好ましく、3〜20mmの範囲であることがより好ましい。
【0037】
第2補助電極3が設けられる前記第1補助電極2の枠内は、発光部6からの光が透過する主たる領域であるので、第2補助電極3の線幅は、光の透過を阻害しないような寸法であることが好ましい。かかる観点から、第2補助電極3を構成する細線電極の線幅(以下、「第2補助電極の線幅」という)は、光の利用効率の観点から、1〜200μmの範囲であることが好ましく、10〜100μmの範囲であることがより好ましい。
【0038】
また、第1の実施形態においては、前記第2補助電極の線幅を前記第1補助電極の線幅で除した値が、1/1000〜1/10であることがより好ましい。線幅の比が前記範囲内であれば、光の利用効率を更に向上させるとともに、発光輝度のムラを更に抑制することができる傾向となる。
【0039】
このような第1補助電極2及び第2補助電極3の材料としては、透明陽極(第1電極)5よりも電気伝導度が高い(電気抵抗値の低い)ものが好ましく、通常は10S/cm以上の電気伝導度を有する導電材料が使用される。かかる導電材料の具体例としては、アルミニウム、銀、クロム、金、銅、タンタル等の金属材料を挙げることができる。これらの中でも、電気伝導度の高さ、および材料のハンドリングの容易さの観点から、アルミニウム、クロム、銅、銀がより好ましい。
【0040】
第1補助電極2及び第2補助電極3からなる補助電極4が透明陽極(第1電極)5に接する面積は、第1電極5の抵抗による電圧降下を低減するという目的から、広ければ広い程良い。したがって、第1補助電極2及び第2補助電極3の材料として金属を用いた場合には、素子の発光する面積に対する補助電極4で被われる面積の割合に換算すると、補助電極4が透明陽極(第1電極)5に接する面積は、少なくとも20%であることが好ましく、より好ましくは、30%以上である。
【0041】
他方、補助電極4は発光部6からの光を透過させる透明陽極(第1電極)5に接して設けられるため、光をできるだけ遮断しないように、補助電極4の占有面積はできるだけ少ない方がよい。かかる観点からは、素子の発光する面積に対する補助電極4で被われる面積の割合は、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。
【0042】
これらを勘案すると、素子の発光する面積に対する補助電極4で被われる面積の割合は、20%以上であり且つ90%以下であることが好ましく、30%以上であり且つ80%以下であることがより好ましい。
【0043】
さらに、このような第1補助電極2及び第2補助電極3の厚みは、面抵抗が所望の値となるように適宜選択することができ、例えば10〜500nmであり、好ましくは20〜300nmであり、より好ましくは50〜150nmである。
【0044】
さらに、本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記第1補助電極2及び前記第2補助電極3が、前記透明陽極(第1電極)5の表面のうち、発光部6側の表面上に配置されていてもよいが、前記透明陽極(第1電極)5と、前記第1補助電極2及び前記第2補助電極3との電気的な接続をより確実にするという観点から、発光部6と反対側の表面上に配置されていることが好ましい。
【0045】
上述の第1補助電極2及び第2補助電極3を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等により補助電極の構成材料から成る膜を形成した後に、フォトレジストを用いたエッチング法によりパターン形成する方法が挙げられる。なお、エッチングを行うことなく補助電極をパターン形成することもできる。例えば、補助電極の形状に対応する開口が形成された1又は複数のマスクを用いて、複数回真空蒸着などを行うことによって、所定のパターンの補助電極を形成することができる。第2電極を構成する材料によっては、第2電極がエッチャントによって損傷を受けるおそれがあるが、マスクを用いて補助電極を形成することによって、エッチャントに対する耐性の低い第2電極などにでも補助電極を形成することができる。
【0046】
(金属ドープモリブデン酸化物層)
陽極(第1電極)5と陰極(第2電極)7との間には、発光層10と、該発光層10および陽極(第1電極)5の間に設けられる金属ドープモリブデン酸化物層とが設けられる。陽極(第1電極)5と発光層10との間、および発光層10と陰極(第2電極)7との間には、さらに所定の層が設けられてもよい。陽極(第1電極)5と発光層10との間に設けられる層9としては後述する正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができ、発光層10と陰極(第2電極)7との間に設けられる11としては、後述する電子注入層、電子輸送層および正孔ブロック層などを挙げることができる。すなわち、該発光層10および陽極(第1電極)5の間に、金属ドープモリブデン酸化物層のみが設けられている素子構成と、金属ドープモリブデン酸化物層および他の層が設けられている素子構成とがある。
【0047】
前記金属ドープモリブデン酸化物層は、モリブデン酸化物及びドーパント金属を含むものであり、好ましくはモリブデン酸化物及びドーパント金属から実質的になる。より具体的には、金属ドープモリブデン酸化物層を単層で成膜した場合、層を構成する物質全量中における、モリブデン酸化物及びドーパント金属の合計が占める割合が、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上である。
【0048】
前記金属ドープモリブデン酸化物層は、好ましくは正孔注入層であるか、または前記発光層10もしくは正孔注入層に直接接して設けられる。金属ドープモリブデン酸化物層のより具体的な配置を以下の(i)〜(v)に示す。
(i)陽極および正孔輸送層に接して設けられる
(ii)陽極および電子ブロック層に接して設けられる
(iii)正孔注入層および発光層に接して設けられる
(iv)正孔注入層および電子ブロック層に接して設けられる
(v)陽極および発光層に接して設けられる
本実施形態のボトムエミッション構造の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合は、(i)または(ii)が好ましく、前記金属ドープモリブデン酸化物層は、通常、正孔注入層として機能する。後述のトップエミッション構造の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合は、(iii)または(iv)がより好ましく、前記金属ドープモリブデン酸化物層は、通常、正孔輸送層として機能する。
【0049】
前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率は、50%以上であることが好ましい。50%以上の可視光透過率を有することにより、前記金属ドープモリブデン酸化物層を透過して発光する形式の有機エレクトロルミネッセンス素子に好適に用いることができる。
【0050】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属は、好ましくは遷移金属、周期表の13族金属又はこれらの混合物であり、より好ましくはアルミニウム、ニッケル、銅、クロム、チタン、銀、ガリウム、亜鉛、ネオジム、ユーロピウム、ホルミウム、セリウムであり、さらに好ましくはアルミニウムである。これに対して、モリブデン酸化物としてはMoOを採用することが好ましい。MoOを真空蒸着等の蒸着法により成膜する場合、蒸着された膜においてMoとOの化学量論的な組成比がMoOから外れる場合もありうるが、その場合でも本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子に好ましく用いることができる。
【0051】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属の割合が、0.1〜20.0mol%であることが好ましい。ドーパント金属の含有割合が上記範囲内であることにより、良好な耐プロセス性を有する金属ドープモリブデン酸化物層を得ることができる。
【0052】
前記金属ドープモリブデン酸化物層の厚さは、特に限定されないが1〜100nmであることが好ましい。
【0053】
前記金属ドープモリブデン酸化物層を成膜する方法としては、特に限定されないが、金属ドープモリブデン酸化物層が積層される層上に、酸化モリブデン及びドーパント金属を同時に堆積するいわゆる共蒸着法を好ましい方法の一つとして例示することができる。例えば、基板上に設けられた陽極又は陰極の層上に堆積を行ない、電極に直接接した金属ドープモリブデン酸化物層を得ることができる。または、基板上に電極を設けた後、電極上に、発光層、電荷注入層、電荷輸送層又は電荷ブロック層といった他の層を1層以上設け、さらにその上に堆積を行い、この層に直接接した金属ドープモリブデン酸化物層を得ることができる。
【0054】
堆積は、真空蒸着、分子線蒸着、スパッタリング又はイオンプレーティング、イオンビーム蒸着等により行うことができる。成膜チャンバー内にプラズマを導入することによって、反応性や成膜性を向上させたプラズマアシスト真空蒸着法なども用いることができる。真空蒸着法の蒸発源としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱、レーザビーム加熱などが上げられる。より簡便な方法として、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱が好ましい。スパッタリング法にはDCスパッタリング法、RFスパッタリング法、ECRスパッタリング法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビーム・スパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法などがありいずれの方式も用いることができる。金属ドープモリブデン酸化物層の下層にダメージを与えないためにもマグネトロンスパッタリング法、イオンビーム・スパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法を用いることが好ましい。
【0055】
なお、成膜時において、雰囲気中に酸素や酸素元素を含むガスを導入して蒸着を行うこともできる。また、金属ドープモリブデン酸化物層を蒸着する際の材料には、通常MoOやドーパント金属単体を用いるが、モリブデン単体、MoOやドーパント金属の酸化物、ドーパント金属とモリブデンとの合金、あるいはこれらの混合物などを用いることができる。
【0056】
堆積された金属ドープモリブデン酸化物層は、そのまま、または任意に、加熱、UV−O処理、大気曝露等の他の工程に供した後、素子を構成するさらに他の層を得られた金属ドープモリブデン酸化物層に積層して、有機エレクトロルミネッセンス素子を完成することができる。
【0057】
前記加熱は、50〜350℃で1〜120分間の条件で行うことができる。前記UV−O処理は、紫外線を1〜100mW/cmの強度で5秒〜30分間照射し、オゾン濃度0.001〜99%の雰囲気下で処理することにより行うことができる。前記大気曝露は、湿度40〜95%、温度20〜50℃の大気中に、1〜20日間放置することにより行うことができる。
【0058】
本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子の特徴は、上述のように、透明な陽極又は陰極である第1電極に電気的に接続した状態で特定形状の補助電極4が配置されていること、陽極と発光層との間に金属ドープモリブデン酸化物層が設けられていることにある。これら補助電極4及び金属ドープモリブデン酸化物層の詳細は、上述の通りである。
続いて、これら補助電極4および金属ドープモリブデン酸化物層以外の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成要素について、以下に詳しく説明する。
【0059】
(基板)
支持基板1としては、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する工程において変化しないものであればよく、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えば、ガラス板、プラスチック板、高分子フィルムおよびシリコン板、並びにこれらを積層した積層板などが好適に用いられる。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることもできる。前記基板としては、市販のものが使用可能である。また前記基板を公知の方法により製造することもできる。
【0060】
図1に示すような発光部6からの光を支持基板1側から取出すボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子では、支持基板1は、可視光領域の光の透過率が高いものが好適に用いられる。
なお、後述の第2の実施形態にて示すような発光部6からの光を陰極7側から取出すトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子では、支持基板1は、透明のものでも、不透明のものでもよい。
【0061】
(第1電極)
第1の実施形態における第1電極(図1の構成では陽極5)は、発光層10からの光を透過させる透明電極であって、主に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極となるものであるが、後述のように、透明な第1電極を陰極として用いる構成の有機エレクトロルミネッセンス素子も可能である。このような第1電極5は、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、発光部6の構成材料に応じて適宜選択して用いることができる。第1電極5の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(略称IZO)、金、白金、銀、および銅等の薄膜が用いられる。これらの中でも、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。
【0062】
また第1電極5の構成材料として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の有機物の透明導電膜を用いてもよい。
【0063】
また発光層10への電荷注入を容易にするという観点から、このような第1電極5の発光層10側の表面上に、フタロシアニン誘導体、ポリチオフェン誘導体等の導電性高分子、Mo酸化物、アモルファスカーボン、フッ化カーボン、ポリアミン化合物等の1〜200nmの層、或いは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚10nm以下の層を設けてもよい。
【0064】
第1電極5の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して適宜選択することができ、例えば5nm〜10μmであり、好ましくは10nm〜1μmであり、より好ましくは20nm〜500nmである。
【0065】
また、第1電極を電気的に分離された複数のセルに仕切る構造としてもよく、このような場合には、隣接するセル間の間隔は、好ましくは1μm〜50μmであり、より好ましくは5μm〜30μmである。隣接するセルとの間の間隔が前記下限未満では、第1電極5の面方向に導波する光を十分に抑制することができない傾向となり、他方、前記上限を超えると、素子全体の実際の発光面積が小さくなるため、発光効率が低下する傾向となる。
【0066】
また、電気的に分離された複数のセルの形状としては、特に限定されないが、例えば、ストライプ状、三角形状、矩形状が挙げられる。なお、第1電極を電気的に分離させた複数のセルに仕切る構造とする場合においては、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製するにあたり、第1電極を形成した後に形成されるもの(例えば、補助電極、有機層)の少なくとも一部が隣接するセル間に充填されることとなる。
【0067】
上述の第1電極5を形成させる方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
また、第1電極を電気的に分離させた複数のセルに仕切る方法としては、例えば、第1電極を形成した後に、フォトレジストを用いたエッチング法によりパターン形成する方法が挙げられる。
【0068】
(陽極と発光層との間に設けられる層)
陽極と発光層との間には、少なくとも金属ドープモリブデン酸化物層が設けられる。また前述したように、金属ドープモリブデン酸化物層の他に、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が設けられる場合がある。
【0069】
正孔注入層は、陽極(第1電極)5からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層、及び/又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0070】
(正孔注入層)
正孔注入層は、上述のように、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と発光層との間に設けることができる。正孔注入層を構成する材料としては、公知の材料を適宜用いることができ、特に制限はない。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0071】
正孔注入層の成膜方法としては、例えば、正孔注入層となる材料(正孔注入材料)を含む溶液からの成膜を挙げることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば、特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。
【0072】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。
【0073】
また、正孔注入層の厚みとしては、5〜300nm程度であることが好ましい。この厚みが5nm未満では、製造が困難になる傾向があり、他方、300nmを超えると、駆動電圧、および正孔注入層に印加される電圧が大きくなる傾向となる。
【0074】
(正孔輸送層)
正孔輸送層を構成する材料としては、特に制限はないが、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0075】
これらの中でも、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0076】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0077】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば、特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0078】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0079】
正孔輸送層の厚みは、特に制限されないが、目的とする設計に応じて適宜変更することができ、1〜1000nm程度であることが好ましい。この厚みが前記下限値未満となると、製造が困難になる、または正孔輸送の効果が十分に得られないなどの傾向があり、他方、前記上限値を超えると、駆動電圧および正孔輸送層に印加される電圧が大きくなる傾向がある。したがって正孔輸送層の厚みは、上述のように、好ましくは、1〜1000nmであるが、より好ましくは、2nm〜500nmであり、さらに好ましくは、5nm〜200nmである。
【0080】
(発光層)
発光層10は、通常、主として蛍光または燐光を発光する有機物(低分子化合物および高分子化合物)を有し、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。この実施形態において用いることができる発光層を構成する発光材料としては、例えば以下のものが挙げられる。なお、陽極5と陰極7との間には、一層の発光層に限らず、複数の発光層が配置されてもよい。
【0081】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0082】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0083】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0084】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0085】
(ドーパント材料)
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約20〜2000Åである。
【0086】
(発光層の成膜方法)
有機物を含む発光層の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を用いて、発光層が塗布形成される層(下層)上に発光層を直接塗布形成する方法、発光材料を含む溶液を所定の基体上に塗布して得られた発光層用の膜を発光層の下層上に転写する方法、および真空蒸着法を挙げることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解させる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。
【0087】
発光材料を含む溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写により、所望のところのみに発光層を形成する方法も用いることができる。
【0088】
(陰極と発光層との間に設けられる層)
発光層10と陰極(第2電極)7との間には、必要に応じて、1または複数の所定の層11が設けられる。発光層10と陰極(第2電極)7との間には、前述したように例えば電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が設けられる。陰極7と発光層10との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という場合がある。
【0089】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、及び/又は電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0090】
(電子注入層)
電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、あるいは前記金属を一種類以上含む合金、あるいは前記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、あるいは前記物質の混合物などが挙げられる。
【0091】
前記アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0092】
前記アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0093】
さらに、金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物、および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も、電子注入層の材料として用いることができる。
【0094】
この電子注入層は、2層以上を積層した積層構造を有していても良い。具体的には、Li/Caなどが挙げられる。この電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。
この電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0095】
(電子輸送層)
電子輸送層を形成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が例示される。
【0096】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0097】
なお、電子注入層および正孔注入層を総称して電荷注入層と言う場合があり、電子輸送層および正孔輸送層を総称して電荷輸送層と言う場合がある。
【0098】
(第2電極)
第1の実施形態における第2電極7は、前記第1電極5に対向して配置される電極であって、有機エレクトロルミネッセンス素子の陰極となるものであるが、本発明においては、後述の第2の実施形態に示すように、陽極である場合も可能である。このような陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易な材料が好ましい。また陰極の材料としては電気伝導度が高く、可視光反射率の高い材料が好ましい。かかる陰極材料としては、具体的には、金属、金属酸化物、合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物、酸化亜鉛(ZnO)等の無機半導体などを挙げることができる。
【0099】
上記金属としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表の13族金属等を用いることができる。これら金属の具体的例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等を挙げることができる。
【0100】
また、合金としては、上記金属の少なくとも一種を含む合金を挙げることができ、具体的には、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等を挙げることができる。
【0101】
陰極7は、必要に応じて光透過性を有する電極とされるが、それらの材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZOなどの導電性酸化物;ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの導電性有機物を挙げることができる。
【0102】
なお、陰極(第2電極)7を2層以上の積層構造としてもよい。また、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0103】
この陰極(第2電極)7の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0104】
上述の陰極(第2電極)7を形成させる方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。なお、この第2電極を2層以上の積層構造としてもよい。
【0105】
本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子において、陽極5から陰極7までの層構成の組み合わせ例を以下に示す。
a)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
e)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
g)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
i)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
j)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
k)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
l)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0106】
また、本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、2層以上の発光層を有していてもよく、2層の発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子としては、以下のq)に示す層構成を挙げることができる。
q)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/電荷発生層/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
また、3層以上の発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子としては、具体的には、(電荷発生層/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層)を一つの繰り返し単位として、以下のr)に示す前記繰り返し単位を2つ以上含む層構成を挙げることができる。
r) 陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/(該繰り返し単位)/(該繰り返し単位)/・・・/陰極
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、通常基板側に陽極が配置されるが、基板側に陰極を配置するようにしてもよい。
【0107】
本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷注入性の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。また界面での密着性向上や混合の防止などのために、前述した各層間に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0108】
(保護層)
上述のように陰極(第2電極)7が形成された後、基本構造として補助電極4−第1電極(陽極)5−発光部6−第2電極(陰極)7を有してなる発光機能部を保護するために、該発光機能部を封止する保護層(上部封止膜)8が形成される。この保護層8は、通常、少なくとも一つの無機層と少なくとも一つの有機層を有する。積層数は、必要に応じて決定され、基本的には、無機層と有機層は交互に積層される。
【0109】
なお、ガラス基板に比べると、プラスチック基板は酸素および水などのガスの透過性が高い。発光層10などの発光物質は酸化されやすく、酸素および水などと接触することにより劣化しやすいので、前記基板1としてプラスチック基板が用いられる場合には、ガスバリア性を高めるための処理を基板に予め施すことが好ましい。例えばプラスチック基板上にガスなどに対するバリア性の高い下部封止膜を積層し、その後、この下部封止膜の上に上記発光機能部を積層することが好ましい。この下部封止膜は、通常、上記保護層(上部封止膜)と同様の構成、同様の材料にて形成される。
【0110】
次に、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の第2の実施形態を、図6を参照して説明する。第2の実施形態と、上述の第1の実施形態との違いは、上述の第1の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子が発光部6からの光を透明な陽極(第1電極)5を透過させて透明な支持基板1から外部へ出射するボトムエミッション型の素子であったのに対し、第2の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子では発光部26からの光を透明な陰極(第1電極)27を透過させて透明な保護層28から外部へ出射するトップエミッション型の素子である点にある。
【0111】
この第2の実施形態では、発光部26からの光を透過させる透明な第1電極が透明陰極27であり、この第1電極27の保護層28側の表面に補助電極24が形成されている。本実施の形態における第1電極には、例えば陰極電極として例示した金属薄膜を透明陰極として用いることができる。なお透明陰極に用いられる金属薄膜は、光が透過可能な程度に薄膜に形成されるので、シート抵抗が高くなる。したがって、透明陰極は、金属箔膜状にITO薄膜などの透明電極を積層させた積層体によって構成されることが好ましい。また第2電極25と基板21との間に、例えば銀などの反射率の高い反射膜を設けることが好ましく、このような反射膜を設けることによって、基板21側に向かう光を第1電極27側に反射することができ、光の取出し効率を向上させることができる。補助電極24は、上述の第1の実施形態における補助電極4と形状、寸法、構成材料は、同一でよく、上述のように、透明陰極(第1電極)27に接して設けられている点が異なるだけである。
【0112】
この第2の実施形態においても、陽極(第2電極)25と発光層30との間に金属ドープモリブデン酸化物層が設けられる構成は、上述の第1の実施形態における場合と同一でよい。すなわち、金属ドープモリブデン酸化物層が、陽極25と発光層30との間に設けられる層29を構成する正孔注入層又は正孔輸送層のうち少なくとも一層として設けられる。
【0113】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子を、上記第2の実施形態のように構成しても、上述の第1の実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。
すなわち、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記第1の実施形態によっても、第2の実施形態によっても、透明電極の抵抗による電圧降下を軽減し、発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能となる。そして、無機酸化物層及びさらにその上に積層される層を容易かつ高品質に設けることが可能であるため、製造が容易であり、しかも発光特性及び寿命特性が良好である。
【0114】
上記第1の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光部からの光を透明陽極(第1電極)を透過させて透明な支持基板から外部に出射するボトムエミッション型の素子構造を有しているが、同じボトムエミッション型の素子構造であって、透明基板側に透明陰極(第1電極)を設け、保護層側に陽極を設けた構造の有機エレクトロルミネッセンス素子も作製可能である。このような第3の構造の有機エレクトロルミネッセンス素子に対しても、本発明は適用可能である。
【0115】
さらに、上記第2の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光部からの光を透明陰極(第1電極)を透過させて透明な保護層から外部に出射するトップエミッション型の素子構造を有しているが、同じトップエミッション型の素子構造であって、透明な保護層側に透明陽極(第1電極)を設け、支持基板側に陰極を設けた構造の有機エレクトロルミネッセンス素子も作製可能である。このような第4の構造の有機エレクトロルミネッセンス素子に対しても、本発明は適用可能である。
【0116】
以上説明したような本発明の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、曲面状や平面状の照明装置、例えばスキャナの光源として用いられる面状光源、表示装置に好適に用いることができる。
【0117】
有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置としては、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、および液晶表示装置などを挙げることができる。なお有機エレクトロルミネッセンス素子は、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置において、各画素を構成する発光素子として用いられ、セグメント表示装置において、各セグメントを構成する発光素子として用いられ、ドットマトリックス表示装置、および液晶表示装置において、バックライトとして用いられる。
【実施例】
【0118】
以下、作製例及び参考例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の例示に限定されるものではない。
なお、合成例1、2において用いた下記構造式(A)〜(C)で表される化合物A〜Cは、国際公開2000/046321号パンフレットに記載された方法に従って合成した。
【0119】
【化1】

【0120】
【化2】

【0121】
【化3】

【0122】
(合成例1)
下記一般式(1)で表される高分子化合物1を以下の方法により合成した。
【0123】
【化4】

【0124】
先ず、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(アルドリッチ社製、商品名:Aliquat336)0.91gと、上記化合物A5.23gと、上記化合物C4.55gとを反応容器(200mLセパラブルフラスコ)に仕込んだ後、反応系内を窒素ガスで置換した。その後、トルエン70mLを加え、酢酸パラジウム2.0mg、トリス(o−トリル)ホスフィン15.1mgを加えた後に、還流させて混合溶液を得た。
【0125】
得られた混合溶液に、炭酸ナトリウム水溶液19mLを滴下後、還流下で終夜攪拌した後、フェニルホウ酸0.12gを加えて7時間攪拌した。その後、300mlのトルエンを加え、反応液を分液し、有機相を酢酸水溶液及び水で洗浄した後、ナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメート水溶液を加えて4時間攪拌した。
【0126】
次いで、攪拌後の混合溶液を分液した後、シリカゲル−アルミナカラムに通し、トルエンで洗浄した後に、メタノールに滴下してポリマーを沈殿させ、その後、得られたポリマーを濾過、減圧乾燥した後にトルエンに溶解させた。得られたトルエン溶液を再度メタノールに滴下して沈殿物を生じさせ、この沈殿物を濾過、減圧乾燥して高分子化合物1を6.33g得た。得られた高分子化合物1のポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは3.2×10であり、ポリスチレン換算の数平均分子量Mnは8.8×10であった。
【0127】
(合成例2)
下記一般式(2)で表される高分子化合物2を以下の方法により合成した。
【0128】
【化5】

【0129】
先ず、化合物B22.5gと2,2’−ビピリジル17.6gとを反応容器に仕込んだ後、反応系内を窒素ガスで置換した。その後、あらかじめアルゴンガスでバブリングして脱気したテトラヒドロフラン(脱水溶媒)1500gを加え、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)31gを加え、室温で10分間攪拌した後、60℃で3時間反応した。なお、反応は、窒素ガス雰囲気中で行った。
【0130】
次に、得られた反応溶液を冷却した後、この溶液に、25質量%アンモニア水200mL/メタノール900mL/イオン交換水900mL混合溶液をそそぎ込み、約1時間攪拌した。その後、生成した沈殿物を濾過して回収し、この沈殿物を減圧乾燥した後、トルエンに溶解させた。そして、得られたトルエン溶液を濾過して不溶物を除去した後、このトルエン溶液を、アルミナを充填したカラムに通過させることにより精製した。
【0131】
次に、精製後のトルエン溶液を、1規定塩酸水溶液で洗浄し、静置、分液した後、トルエン溶液を回収した。そして、このトルエン溶液を、約3質量%アンモニア水で洗浄し、静置、分液した後、トルエン溶液を回収した。その後、このトルエン溶液をイオン交換水で洗浄し、静置、分液した後、洗浄後のトルエン溶液を回収した。
【0132】
次いで、洗浄後のトルエン溶液をメタノール中にそそぎ込み、沈殿物を生じさせ、この沈殿物をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して高分子化合物2を得た。得られた高分子化合物2のポリスチレン換算の重量平均分子量は8.2×10であり、ポリスチレン換算の数平均分子量は1.0×10であった。
【0133】
(作製例1)
この作製例1では、透明な第1電極に補助電極を形成した場合の効果を確認するために、発光層は一層構造とし、透明陽極の基板側の表面に補助電極を配置した有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。
【0134】
支持基板としてガラス基板(100mm×100mm)を用いた。支持基板の温度を120℃にして、Crターゲット及びスパッタリングガスとしてArを用いたDCスパッタリング法により、膜厚1000nmのCrを前記支持基板に堆積させた。このときの製膜圧力は0.5Pa、スパッタリングパワーは2.0kWであった。Cr膜の上にフォトレジストを塗布し、さらに110℃で90秒間ベークした。次に、線幅20mmのラインから構成される正方形の枠状の開口部と前記開口部の枠内に、縦×横のピッチがそれぞれ300μm×100μm、縦×横の線幅がそれぞれ70μm×30μmからなる格子型の開口部とを有するフォトマスクを通して、200mJのエネルギーで露光し、0.5質量%の水酸化カリウム水溶液によって現像後、130℃で110秒間ポストベークした。次いで、Cr用エッチング液に、40℃、120秒間浸漬し、Crのパターニングを行い、次に2質量%水酸化カリウム水溶液に浸漬することで、レジスト残渣を剥離し、Crからなる補助電極(第1補助電極及び第2補助電極)を形成した。
【0135】
次に、補助電極が形成された基板上に第1電極を形成した。具体的には、基板温度を120℃にし、第1電極材料としてITO焼成ターゲット、スパッタリングガスとしてArを用いて、DCスパッタリング法により、膜厚3000nmのITOを堆積させた。このときの製膜圧力は0.25Pa、スパッタリングパワーは0.25kWであった。その後、200℃のオーブンで40分間アニール処理を行った。その後、第1電極が形成された基板を60℃の弱アルカリ性洗剤、冷水、50℃の温水をもちいて超音波洗浄し、50℃の温水から引き上げて乾燥した後、20分間UV/O洗浄を行った。
【0136】
次に、0.45μm径のフィルター及び0.2μm径のフィルターをそれぞれ用いて、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(スタルクヴィテック社製、商品名:BaytronP CH8000)の懸濁液を2段階濾過し、2段階目に濾過した溶液を用いて、前記洗浄後の基板にスピンコート法により80nmの厚みで薄膜を形成し、大気雰囲気下においてホットプレート上で、200℃で15分間熱処理し、正孔注入層を形成した。
【0137】
次いで、合成例1、2で得られた高分子化合物1及び高分子化合物2を重量比で1:1の比で計り取り、トルエンに溶解させ、1質量%の高分子溶液を作製した。上記正孔注入層が形成された基板上に、作製した高分子溶液をスピンコート法により80nmの膜厚で製膜した後、窒素雰囲気下のホットプレート上で130℃、60分間熱処理し、発光層を形成した。
【0138】
その後、前記発光層が形成された基板を真空蒸着機に導入し、陰極としてLiF、Ca、Alを順次それぞれ、2nm、5nm、200nmの厚みで蒸着し、第2電極を形成した。なお、この蒸着工程においては、真空度が1×10−4Pa以下に到達した後に金属の蒸着を開始した。
【0139】
最後に、不活性ガス中で、第2電極が形成された基板における第2電極の表面をガラス板で覆い、さらに4辺を光硬化樹脂で覆った後に、光硬化樹脂を硬化させることで保護層を形成して、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0140】
(参考例1)
上記作製例1において、補助電極を形成する際のフォトマスクとして、線幅20mmのラインから構成される正方形の枠状の開口部のみを有するフォトマスクを用いた以外は、作製例1と同様にして、比較用の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0141】
(参考例2)
上記作製例1において、補助電極を形成する際のフォトマスクとして、縦×横のピッチがそれぞれ300μm×100μm、縦×横の線幅がそれぞれ70μm×30μmからなる格子型の開口部とを有するフォトマスクを用いた以外は、作製例1と同様にして、比較用の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0142】
(補助電極形成効果の評価)
作製例1及び参考例1〜2で得られた有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性を評価した。具体的には、素子全体に8Vの電圧を印加した際の発光輝度を測定し、さらに発光面の様子を目視にて観察した。得られた結果を下記(表1)に示す。
【0143】
【表1】

(表1)に示した結果から明らかなように、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能であることが確認された。
【0144】
以下の作製例2〜7及び参考例3,4では、陽極と発光層との間に金属ドープモリブデン酸化物層を設けることによる効果を確認するために、透明陽極の基板側の表面に補助電極を配置せず、陽極と発光層との間に金属ドープモリブデン酸化物層を設けた有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。
【0145】
(作製例2)
(A:真空蒸着法による、ガラス基板へのAlドープMoOの蒸着)
複数のガラス基板を用意し、その片面を蒸着マスクを用いて部分的に被覆し、蒸着チャンバー内に基板ホルダーを用いて取り付けた。
【0146】
MoO粉末(アルドリッチ社製、純度99.99%)を、ボックスタイプの昇華物質用のタングステンボードに詰め、材料が飛び散らないように穴の開いたカバーで覆い、蒸着チャンバー内にセットした。Al(高純度化学社製、純度99.999%)は坩堝に入れ、蒸着チャンバー内にセットした。
【0147】
蒸着チャンバー内の真空度を3×10−5Pa以下とし、MoOは抵抗加熱法により徐々に加熱し十分に脱ガスを行い、Alは電子ビームにより坩堝内で溶かし込みを行い、十分に脱ガスを行なってから、蒸着に供した。蒸着中の真空度は9×10−5Pa以下とした。膜厚及び蒸着速度は水晶振動子で常時モニターした。MoOの蒸着速度が約0.28nm/秒、Alの蒸着速度が約0.01nm/秒となった時点でメインシャッターを開き、基板への成膜を開始した。蒸着中は基板を回転させ、膜厚が均一になるようにした。蒸着速度を上記速度に制御して約36秒間成膜を行ない、膜厚約10nmの共蒸着膜が設けられた基板を得た。膜中のMoO及びAlの合計に対するAlの組成比は約3.5mol%であった。
【0148】
(B:耐久性試験)
成膜後、得られた基板を大気中に取り出し、光学顕微鏡(500倍)で膜表面を観察したところ、結晶構造が認められず、アモルファス状態であることが確認された。
得られた基板を純水に1分間曝し、光学顕微鏡で再び観察したところ、変化は無く、表面は溶けていなかった。この基板をさらに純水に3分間曝し続けるか、又は純水を含ませた不織布(商品名「ベンコット」、小津産業株式会社製)で膜を拭いた後、目視で観察したところ、いずれの場合も膜は変化無く残っていた。
また上記純水に曝した基板とは別に得られた基板をアセトンに1分間曝し、光学顕微鏡で観察したところ変化は無く、表面が溶けていなかった。この基板をさらにアセトンに3分間曝し続けるか、又はアセトンを含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で確認したところ、いずれの場合も膜は変化無く残っていた。
【0149】
(C:透過率の測定)
また、成膜後の蒸着膜の透過率を、透過率・反射率測定装置(Scientific Computing International社製、商品名「FilmTek 3000」)を用いて測定した。結果を後出の(表2)に示す。光の波長約300nmぐらいから透過スペクトルが立ち上がり、波長320nmにおける透過率が21.6%、360nmにおける透過率が56.6%であった。後述する参考例3と比較して、320nmにおいて3.6倍、360nmにおいて1.6倍の透過率を有していた。
【0150】
(作製例3)
蒸着中に、チャンバーに酸素を導入した他は作製例2の(A)と同様に操作し、共蒸着膜が設けられた基板を得た。酸素量はマスフローコントローラーにより15sccmに制御した。蒸着中の真空度は約2.3×10−3Paであった。得られた共蒸着膜の膜厚は約10nmであり、膜中のMoO及びAlの合計に対するAlの組成比は約3.5mol%であった。
【0151】
成膜後、得られた基板の耐久性を作製例2の(B)と同様に評価した。純水及びアセトンのいずれに曝した場合においても変化は観察されなかった。
【0152】
(作製例4)
蒸着速度を、MoOについては約0.37nm/秒、Alについては約0.001nm/秒に制御した他は作製例2の(A)と同様に操作し、共蒸着膜が設けられた基板を得た。得られた共蒸着膜の膜厚は約10nmであり、膜中のMoO及びAlの合計に対するAlの組成比は約1.3mol%であった。
【0153】
成膜後、得られた基板の耐久性を作製例2の(C)と同様に評価した。純水及びアセトンのいずれに曝した場合においても変化は観察されなかった。
【0154】
(作製例5)
作製例2の(A)で得られた基板を、大気雰囲気のクリーンオーブンに入れ、250℃で60分間加熱処理した。冷却後、蒸着膜の透過率を作製例2の(C)と同様に測定した。結果を後出の(表2)に示す。波長320nmにおける透過率が28.9%、360nmにおける透過率が76.2%であった。下記参考例3と比較して、320nmにおいて4.7倍、360nmにおいて2.2倍の透過率を有していた。
【0155】
(参考例3)
Alを蒸着せず、MoOのみを約0.28nm/秒で蒸着した他は作製例2と同様に操作し、膜厚約10nmの蒸着膜が設けられた基板を得た。
成膜後、得られた基板を大気中に取り出し、光学顕微鏡(500倍)で膜表面を観察したところ、結晶構造が認められずアモルファス状態であることが確認された。
【0156】
得られた基板を純水に1分間曝し、光学顕微鏡で再び観察したところ、にじみ模様が認められ、表面が溶けていることが観察された。この基板をさらに純水に3分間曝し続けるか、又は純水を含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で観察したところ、いずれの場合も膜が消失していた。
【0157】
別の得られた基板をアセトンに1分間曝し、光学顕微鏡で観察したところ、にじみ模様が認められ、表面が溶けていることが観察された。この基板をさらにアセトンに3分間曝し続けるか、又はアセトンを含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で確認したところ、いずれの場合も膜は消失していた。
【0158】
また、成膜後の蒸着膜の透過率を、作製例2の(C)と同様に測定した。結果を下記(表2)に示す。波長320nmにおける透過率が6.1%、360nmにおける透過率が35.4%であり、透過率が低いことが認められた。
【0159】
【表2】

【0160】
(合成例3)
攪拌翼、バッフル、長さ調整可能な窒素導入管、冷却管、温度計をつけたセパラブルフラスコに 2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン158.を29重量部、ビス−(4−ブロモフェニル)−4−(1−メチルプロピル)−ベンゼンアミン136.を11重量部、トリカプリルメチルアンモニウムクロリド(ヘンケル社製 Aliquat336)を27重量部、トルエンを1800重量部を仕込み、窒素導入管より窒素を流しながら、攪拌下90℃まで昇温した。
【0161】
次に、酢酸パラジウム(II)を0.066重量部、トリ(o−トルイル)ホスフィンを0.45重量部加えた後、17.5%炭酸ナトリウム水溶液(573重量部)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、窒素導入管を液面より引き上げ、還流下で7時間保温した後、フェニルホウ酸を3.6重量部加え、14時間還流下保温し、室温まで冷却した。
【0162】
反応液水層を除いた後、反応液油層をトルエンで希釈し、3%酢酸水溶液、イオン交換水で洗浄した。分液油層にN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物を13重量部加え、4時間攪拌した。その後、活性アルミナとシリカゲルの混合カラムに通液し、トルエンを通液してカラムを洗浄した。
【0163】
上記濾液および洗液を混合した後、メタノールに滴下して、ポリマーを沈殿させた。得られたポリマー沈殿を濾別し、メタノールで沈殿を洗浄した後、真空乾燥機でポリマーを乾燥させ、ポリマー192重量部を得た。得られたポリマーを高分子化合物P1と記す。この高分子化合物P1のポリスチレン換算重量平均分子量および数平均分子量を下記のGPC分析法により求めたところ、ポリスチレン換算重量平均分子量は、3.7×10であり、数平均分子量は8.9×10あった。
【0164】
(GPC分析法)
ポリスチレン換算重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。GPCの検量線の作成にはポリマーラボラトリーズ社製標準ポリスチレンを使用した。測定する重合体は、約0.02重量%の濃度になるようテトラヒドロフランに溶解させ、GPC装置に10μL注入した。
【0165】
GPC装置は島津製作所製LC−10ADvpを用いた。カラムは、ポリマーラボラトリーズ社製のカラム(「PLgel」10μm MIXED−B カラム(300×7.5mm))を2本直列に接続して用い、移動相としてテトラヒドロフランを25℃、1.0mL/minの流速で流した。検出器はUV検出器を用い、228nmの吸光度を測定した。
【0166】
(作製例6)
(有機エレクトロルミネッセンス素子の作製)
基板としてITOの薄膜が表面にパターニングされたガラス基板を用い、このITO薄膜上に、作製例2と同様の手順で、膜厚10nmのAlドープMoO層を真空蒸着法により蒸着した。
【0167】
成膜後、基板を大気中に取り出し、その蒸着膜上にスピンコート法により、合成例3で得た高分子化合物P1を成膜し、膜厚20nmのインターレイヤー層を形成した。取り出し電極部分及び封止エリアに成膜されたインターレイヤー層を除去し、ホットプレートで200℃、20分間ベイクを行った。
【0168】
その後、インターレイヤー層上に、高分子発光有機材料(RP158 サメイション社製)をスピンコート法により成膜し、膜厚90nmの発光層を形成した。取り出し電極部分及び封止エリアに成膜された発光層を除去した。
【0169】
これ以降の封止までのプロセスは、真空中あるいは窒素中で行い、プロセス中の素子が大気に曝されないようにした。
【0170】
真空の加熱室において、基板を基板温度約100℃で60分間加熱した。その後蒸着チャンバーに基板を移し、発光部及び取り出し電極部に陰極が成膜されるように、発光層面上に陰極マスクをアライメントした。さらにマスクと基板を回転させながら陰極を蒸着した。陰極として、金属Baを抵抗加熱法にて加熱し蒸着速度約0.2nm/秒、膜厚5nmにて蒸着し、その上に電子ビーム蒸着法を用いてAlを蒸着速度約0.2nm/秒、膜厚150nmにて蒸着した。
【0171】
その後、基板を、予め用意しておいた、UV硬化樹脂が周辺に塗布されている封止ガラスと貼り合わせ、真空に保ち、その後大気圧に戻し、UVを照射することで固定し、発光領域が2×2mmの有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラス基板/ITO膜/AlドープMoO層/インターレイヤー層/発光層/Ba層/Al層/封止ガラスの層構成を有していた。
【0172】
(有機エレクトロルミネッセンス素子の評価)
作製した素子に、輝度が1000cd/mとなるよう通電し、電流−電圧特性を測定した。また、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてから、そのまま発光を持続させ、発光寿命を測定した。結果を後出の(表3)及び(表4)に示す。後述する参考例4と比較して、最大電力効率が若干高く、1000cd/m発光時の駆動電圧が低下し、寿命が約1.6倍延長している。
【0173】
(作製例7)
AlドープMoO層を、作製例4と同様の手順で成膜した他は、作製例6と同様に操作し、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製し、電流−電圧特性及び発光寿命を測定した。発光寿命は、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させて測定した。結果を下記(表2)及び(表3)に示す。下記参考例4と比較して、最大電力効率が若干高く、1000cd/m発光時の駆動電圧が低下し、寿命が約2.4倍延長している。
【0174】
(参考例4)
AlドープMoO層を成膜する代わりに、参考例3と同様の手順でMoO層を成膜した他は、作製例6と同様に操作し、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製し、電流−電圧特性及び発光寿命を測定した。発光寿命は、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてから、そのまま発光を持続させて測定した。結果を下記(表3)及び(表4)に示す。
【0175】
【表3】

【0176】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】本発明の第1の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子の断面図である。
【図2】有機エレクトロルミネッセンス素子における第1補助電極及び第2補助電極の位置関係の一例を概略的に示す平面図である。
【図3】有機エレクトロルミネッセンス素子における第1補助電極及び第2補助電極の位置関係の一例を概略的に示す平面図である。
【図4】有機エレクトロルミネッセンス素子における第1補助電極及び第2補助電極の位置関係の一例を概略的に示す平面図である。
【図5】有機エレクトロルミネッセンス素子における第1補助電極及び第2補助電極の位置関係の他の一例を概略的に示す平面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子の断面図である。
【符号の説明】
【0178】
1 透明支持基板
2,2a,2b,2c,2d 第1補助電極
3,3a,3b,3c,3d 第2補助電極
4 補助電極
5 透明陽極(第1電極)
6 発光部
7 陰極(第2電極)
8 保護膜(上部封止膜)
9 陽極と発光層との間に設けられる層(金属ドープモリブデン酸化物層を含む)
10 発光層
11 陰極と発光層との間に設けられる層
21 支持基板
22 第1補助電極
23 第2補助電極
24 補助電極
25 陽極(第2電極)
26 発光部
27 透明陰極(第1電極)
28 保護膜(上部封止膜)
29 陽極と発光層との間に設けられる層(金属ドープモリブデン酸化物層を含む)
30 発光層
41 陰極と発光層との間に設けられる層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である透明な第1電極と、
前記第1電極と比較して電気抵抗が低く、前記第1電極に接して設けられた補助電極と、
前記陽極および陰極のうちの他方の電極である第2電極と、
前記第1電極および第2電極の間に配置された発光層と、
前記陽極および前記発光層の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層と、を含み、
前記補助電極が、
枠状の第1補助電極と、
該第1補助電極の枠内に配置されるとともに、該第1補助電極に電気的に接続され、該第1補助電極よりも線幅が狭い第2補助電極と、を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記第2補助電極の線幅を前記第1補助電極の線幅で除した値が、1/1000〜1/10であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記金属ドープモリブデン酸化物層が、前記陽極に接して設けられている、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率が50%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属が、遷移金属、周期表13族の金属及びこれらの混合物からなる群より選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記ドーパント金属がアルミニウムである請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属の割合が、0.1〜20.0mol%である請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
陽極、正孔注入層および正孔輸送層からなる群から選ばれる1つの層に、酸化モリブデンとドーパント金属とを同時に堆積することにより金属ドープモリブデン酸化物層を積層する工程を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
金属ドープモリブデン酸化物層を積層する工程において積層された前記金属ドープモリブデン酸化物層を加熱する工程をさらに含む請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項11】
請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする面状光源。
【請求項12】
請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−40210(P2010−40210A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198861(P2008−198861)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】