説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス照明装置

【課題】金属片や異物が電極層上に存在することに起因する有機層に生じる欠陥部の減少を図り、有機EL素子の耐電圧性の向上を図ることにより、短絡の発生が抑制された有機EL素子が得られる有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】透光性基板1上に設けられる透光性電極層2を含む1対の電極層と、該1対の電極層に挟持され、正孔注入層30、正孔輸送層30e、発光層及び電子輸送層とを有する有機層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、透光性基板上に形成した透光性電極層上に、正孔注入層材料、該正孔注入層材料及び正孔輸送層材料と、該正孔輸送層材料とを順次成膜し、これらの材料の成膜中又は成膜後、これらの材料のガラス転移温度以上の温度に加熱して、正孔注入層と、正孔輸送層と、これらの層間に介在する中間層30dとを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(有機ELともいう。)を発光体に用いた有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子ともいう。)の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス照明装置(有機EL照明装置ともいう。)に関し、より詳しくは、短絡の発生が抑制され、駆動電圧が低く、長寿命の有機EL素子や有機EL照明装置を得ることができる有機EL照明装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL照明装置は、有機発光材料を含有する有機層を、少なくとも一方が透光性を有する1対の電極層で挟持した有機EL素子を備え、有機層で発生する光を透光性電極層、透光性基板を透過させその表面の発光面から外部へ放出させる面状光源であり、薄膜であって、低電圧で発光し、応答性に優れることから、利用価値が高い。有機EL素子の有機層は、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層等が積層された積層構造を有し、発光層に対して、電子輸送層が適度なイオン化ポテンシャル(HOMO準位)差と電子親和力(LUMO準位)差を有することにより、正孔が発光層内に保持されると共に、電子が効率よく発光層へ注入され、同時に、正孔輸送層が発光層に対して適度なLUMO準位差を有することにより発光層からの電子の漏洩が阻害され、発光層において電子と正孔の再結合を促進させ、励起子を形成し励起状態となった有機ELが、低レベル順位、又は基底状態に戻る際に蛍光や、燐光を発光させる。
【0003】
この種の有機EL素子を備えた有機EL照明装置においては、電極層の製造工程において発生する金属片や異物により、その上に形成される有機層に厚さの薄い部分や、欠損等の欠陥部が生じ、欠陥部において電極が接触したり、電界が集中することにより短絡が発生する場合がある。薄膜、広面積の有機層においてその発生率が高くなる傾向にある。
【0004】
このような有機EL照明装置における短絡の発生を抑制するため、有機層の製造工程において、有機層材料のガラス転移温度以上で加熱溶融することが報告されている(特許文献1)。しかしながら、有機層の加熱により、電子輸送層と発光層間においてキャリアが拡散して界面膜質が変化することにより、キャリアの再結合効果が低下し、発光効率が低下する場合がある。発光効率を低下させずに短絡の発生をより高度に抑制することができる有機EL素子が要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−68272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、製造工程において発生する金属片や異物が電極層上に存在することに起因する有機層に生じる欠陥部の減少を図り、有機EL素子の耐電圧性の向上を図ることにより、短絡の発生が抑制された有機EL素子が得られる有機EL素子の製造方法を提供することにある。また、得られる有機EL素子を備えることにより、寿命の延長を図り、信頼性が向上された有機EL照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、短絡の発生を抑制できる有機EL素子について検討した結果、正孔注入層と、正孔輸送層との間に、これらの層を形成する材料を含有する中間層を形成し、更に、これらの材料を用いて成膜する間又は成膜後に、これらの材料のガラス転移温度以上に加熱することにより、正孔注入層、正孔輸送層の被覆性を向上させることができ、欠陥部が著しく減少した有機EL素子を製造することができることの知見を得た。更に、正孔注入層と正孔輸送層間に、これら双方の層に含まれる材料を含有する中間層を形成することにより、これらの層の密着性が向上し、耐電圧性が向上した有機EL素子を製造することができることの知見を得た。このようにして得られる有機EL素子を備えた有機EL照明装置において、短絡の発生を抑制することができることの知見を得、これらの知見に基き、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、透光性基板上に設けられる透光性電極層を含む1対の電極層と、該1対の電極層に挟持され、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層とを有する有機層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、透光性基板上に形成した透光性電極層上に、正孔注入層材料、該正孔注入層材料及び正孔輸送層材料と、該正孔輸送層材料とを順次成膜し、これらの材料の成膜中又は成膜後、これらの材料のガラス転移温度以上の温度に加熱して、正孔注入層と、正孔輸送層と、これらの層間に介在する中間層とを形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、上記有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法により得られたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子や、これを用いたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス照明装置に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機EL素子の製造方法は、製造工程において発生する金属片や異物が電極層上に存在することに起因する有機層に生じる欠陥部の減少を図り、正孔注入層と正孔輸送層の密着性を向上させることにより耐電圧性が向上した有機EL素子を製造することができる。本発明の有機EL照明装置は、短絡の発生を抑制することができ、正孔注入層と正孔輸送層間にこれらの中間のエネルギー準位を有する層が導入されることにより、駆動電圧を低下させることができ、長寿命で信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の有機EL素子の製造方法の工程の一部を示す説明図である。
【図2】本発明の有機EL素子の製造方法の工程の一部を示す説明図である。
【図3】本発明の有機EL素子の製造方法により得られる有機EL素子の一例を示す構成図である。
【図4】本発明の有機EL照明装置の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、透光性基板上に設けられる透光性電極層を含む1対の電極層と、該1対の電極層に挟持され、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層とを有する有機層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、透光性基板上に形成した透光性電極層上に、正孔注入層材料、該正孔注入層材料及び正孔輸送層材料と、該正孔輸送層材料とを順次成膜し、これらの材料の成膜中又は成膜後、これらの材料のガラス転移温度以上の温度に加熱して、正孔注入層と、正孔輸送層と、これらの層間に介在する中間層とを形成することを特徴とする。
【0013】
上記有機EL素子の製造に用いる透光性基板は、後述する透光性電極層を介して設けられる有機層からの光を入射し、入射面に対向する発光面から放出するものであり、有機層において発光される光の透過率が高いものが好ましい。透光性基板としては、例えば、石英ガラス、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、その他、アルミノケイ酸ガラス、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラスのガラスや樹脂フィルム等を用いることができる。透光性基板は、例えば、0.1〜2mmの厚さのものを用いることができる。透光性基板は、上層に積層される透光性電極層との密着性を高めるため、表面を酸素、窒素、不活性ガス等のプラズマを用いたプラズマ処理を施したものを用いてもよい。
【0014】
上記透光性基板上に透光性電極層を積層する。透光性電極層は有機層を挟持する1対の電極層を構成するものであり、有機層からの光の透過率が高い材料で形成することが好ましい。透光性電極層として、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の陽極として形成することができる。透光性電極層はシャドーマスクを介してスパッタ法、蒸着法、CVD法等により、透光性基板の所定の領域に透光性電極層材料を積層したり、スパッタ法、蒸着法、CVD法等により成膜した透光性電極膜をフォトリソグラフィー法により透光性電極層に形成することができる。透光性電極層の一端を延長して形成し、配線部材との接続部を形成することが好ましい。透光性電極層は、例えば、100〜300nm等の厚さに形成することができる。
【0015】
透光性電極層はプラズマ処理等により、表面エネルギーを大きく接触角を小さくする表面処理を行い、表面の濡れ性を改善し、上層の正孔注入層との密着性を向上させることが好ましい。透光性電極層の表面処理は、正孔注入層の成膜前に、予め行っても、また、正孔注入層や正孔輸送層の成膜中に行うこともできる。プラズマ処理としては、酸素、窒素、アルゴン等のプラズマを発生させ、プラズマを、例えば、数十秒〜数分間、透光性電極層に照射させる処理を挙げることができる。有機層の成膜前に予め行うプラズマ処理の場合は、酸素を用いることが好ましい。
【0016】
透光性電極層上に有機層を形成する。有機層として、透光性電極層上に順次正孔注入層、中間層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層を形成する。更に、電子注入層等を形成してもよい。
【0017】
正孔注入層は、陽極の透光性電極層から有機層への正孔の注入障壁を下げると共に、陽極と正孔輸送層とのエネルギーレベルの相違を緩和し、陽極から注入される正孔の正孔輸送層への注入を容易にするために設けられるものである。正孔注入層を形成する正孔注入層材料として、例えば、銅フタロシアニンやスターバースト型芳香族アミンのようなアリールアミン誘導体等や、これら正孔注入性有機材料に五酸化バナジウムや三酸化モリブデン等の無機物やF4-TCNQ等の有機物を化学ドーピングして注入障壁を下げ、駆動電圧を低下させ得る正孔注入層材料を用いて形成することができる。
【0018】
正孔注入層上に積層する中間層は、上記正孔注入層材料と後述する正孔輸送層を形成する正孔輸送層材料とを含有し、正孔注入層と正孔輸送層間に介在し、正孔注入層と正孔輸送層間の界面領域を拡張させるものである。このような中間層を有することにより、電化の蓄積を抑制し、有機EL素子の耐電圧性を向上させることができ、短絡を抑制すると共に、これらの層間の密着性を向上させ、素子の劣化を抑制することができる。また、有機EL素子の駆動電圧の低下を図ることができる。
【0019】
中間層を形成する中間層材料は上記正孔注入層材料と後述する正孔輸送層を形成する正孔輸送層材料とを含有するものであるが、正孔注入層側から正孔輸送層側へ向かって、正孔注入層材料の含有量を漸次減少させた材料、即ち、正孔輸送層材料の含有量を漸次増加させた材料とすることが、正孔注入層と正孔輸送層間に界面を形成させず、耐電圧性の向上を図ることができ、好ましい。
【0020】
中間層材料膜上に積層する正孔輸送層は、発光層への正孔の移動率を高めるため、適度なイオン化ポテンシャルを有し、同時に、発光層から電子の漏洩を阻止する電子親和力を有するものである。正孔輸送層を形成する正孔輸送層材料として、例えば、ビス(ジ(p−トリル)アミノフェニル)−1,1−シクロヘキサン、TPD、N,N'−ジフェニル−N−N−ビス(1−ナフチル)−1,1'−ビフェニル)−4,4'−ジアミン(α−NPD)等のトリフェニルジアミン類や、スターバースト型芳香族アミン等を用いることができる。
【0021】
また、正孔輸送層と、後述する発光層との間に、これらの層を形成する正孔輸送層材料と発光材料とを含有する中間層を設け、これらの層間の界面領域を拡張させ、キャリアの再結合を抑制できる有機EL素子を形成するようにしてもよい。更に、正孔輸送層側から発光層側へ向かって、発光層材料の含有量が漸次に増加するように中間層を形成することにより、発光効率のよい有機EL素子を形成してもよい。
【0022】
正孔輸送層上に積層する発光層は、電極から注入された電子と正孔を再結合させ、蛍光、燐光を発光させ得る発光材料を含有する層である。発光層を形成する発光材料としては、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq3)、ビスジフェニルビニルビフェニル(BDPVBi)、1,3−ビス(p−t−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾールイル)フェニル(OXD−7)、N,N' −ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(BPPC)、1,4ビス(N−p−トリル−N−4−(4−メチルスチリル)フェニルアミノ)ナフタレン等の低分子化合物、ポリフェニレンビニレン系ポリマー等の高分子化合物を用いることができる。
【0023】
また、発光材料は、ホストとドーパントの二成分系からなるものであってもよく、二成分系の発光材料においては、ホスト分子で生成した励起状態のエネルギーがドーパント分子へ移動してドーパント分子が発光する。ホスト化合物として、上記発光材料や、電子輸送性材料、正孔輸送性材料を用いることができる。例えば、Alq3等のキノリノール金属錯体に4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、2,3−キナクリドン等のキナクリドン誘導体や、3−(2' −ベンゾチアゾール)−7−ジエチルアミノクマリン等のクマリン誘導体をドープしたもの、電子輸送性材料のビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリン)−4−フェニルフェノール−アルミニウム錯体に、ペリレン等の縮合多環芳香族をドープしたもの、あるいは正孔輸送性材料の4,4' −ビス(m−トリルフェニルアミノ)ビフェニル(TPD)にルブレン等をドープしたもの、カルバゾール化合物に白金錯体やイリジウム錯体をドープしたもの等を用いることができる。
【0024】
これらの発光材料は、有機EL照明装置の目的とする発光色によって選択することができ、具体的には、緑色発光の場合はAlq3、ドーパントにキナクドリンや、クマリン等、青色発光の場合はDPVBi、ドーパントにペリレンやジスチリルアリーレン誘導体等、緑〜青緑色発光の場合はOXD−7等、赤〜オレンジ色発光の場合は、ドーパントにDCM、DCJTB等、黄色発光の場合は、ドーパントにルブレン等を用いることができる。また、白色発光を得るために、発光材料としてホストにAlq3、ゲストにDCM(橙色)等を組み合わせて使用することができる。白色発光の発光層としては、赤色、緑色、青色を発光する発光材料をそれぞれ含有する三層積層構造、或いは、青色と黄色等、補色を発光する発光材料をそれぞれ含有する二層積層構造としたり、これら各色の発光材料を多元共蒸着等で形成することによりこれらが混在する一層構造とすることもできる。更に、上記三層や二層の積層構造における各層を構成する発光材料を、水平方向に、順次、赤色、青色、緑色等と配列した発光層とすることもできる。
【0025】
発光層上に積層する電子輸送層は、発光層への電子の移動率を高めるため、適度なイオン化ポテンシャルを有し、同時に、発光層から正孔が漏洩するのを阻止できる電子親和力を有するものである。電子輸送層を形成する電子輸送層材料として、例えば、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(Bu−PBD)、OXD−7等のオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、キノリノール系の金属錯体等の有機物質や、これらの有機材料にリチウム等アルカリ金属のような電子供与性物質を化学ドーピングしたものを用いることができる。
【0026】
更に、電子輸送層上に、陰極に用いられるアルミニウム等金属材料の仕事関数と、電子輸送層の電子親和力(LUMO準位)のエネルギー差が大きいことに起因して電子の注入が困難になるのを緩和するために、電子注入層を設けてもよい。電子注入層を形成する電子注入層材料としては、リチウムやセシウム等のアルカリ金属、若しくは、カルシウム等のアルカリ土類金属のフッ化物や酸化物、又は、マグネシウム銀やリチウムアルミニウム合金等から選択される仕事関数の小さい物質を用いることができる。
【0027】
上記材料を用いて、正孔注入層、中間層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を形成する方法として、抵抗加熱による真空蒸着法、MBE法、レーザーアブレーション法、イオンビームアシスト蒸着法等でシャドーマスクを介して所望の形状に成膜する方法を適用することができる。また、これらの材料を液状にしてインクジェット法を用いて所望の形状に形成することもでき、また、感光性塗布液にしてスピンコートやスリットコートして成膜し、フォトリソグラフィー法により所望の形状に形成することもできる。これらの方法のうち、正孔注入層及び正孔輸送層は、プラズマビームアシスト蒸着法や、イオンビームアシスト蒸着法を用いることが、透光性電極層との密着性の向上を図ることから好ましい。プラズマビームアシスト蒸着法は、蒸着材料粒子クラスターにプラスマを照射しながら成膜を行う方法である。プラズマを照射された蒸着材料は基板の自己バイアス電位により基板に引き付けられ、表面拡散効果により密着性が高く、緻密性、平滑性に優れた膜に形成され、また、基板がプラズマに直接晒されないことから、正孔注入層や正孔輸送層への悪影響を抑制することができる。これらの層への影響を回避するため、アルゴン、窒素のプラズマを用いることが好ましい。イオンビームアシスト蒸着法は、蒸着を行いながらイオンガンよりアルゴンや窒素をイオン化し照射する方法であり、密着性の高い膜が得られる。また、正孔注入層材料や、正孔輸送層材料を用いてイオンビームアシスト蒸着法により成膜途中において、これらの材料の蒸着材料粒子クラスターを一部イオン化し、負の電子を印加した基板へ向かって加速して移動させて成膜するクラスタイオンビーム法や、熱陰極法を用いることもできる。このようなクラスタイオンビーム法を適用することにより、蒸着粒子が大きな運動エネルギーを得て、付着強度が大きく、緻密な膜を形成することができる。有機層の厚さは、各層を1〜500nm、総合100〜1000nmに形成することができる。
【0028】
ここで、正孔注入層材料、中間層材料、正孔輸送層材料を用いて、成膜中又は成膜後に、これらの材料のガラス転移温度以上の温度に加熱する。成膜中に加熱する方法としては、加熱装置を備えた成膜装置を用い、成膜装置内全体をガラス転移温度以上の温度に加熱しても、また、透光性基板を加熱してもよい。加熱温度は、各材料のガラス転移温度以上であればよいが、300℃以下であることが好ましく、より好ましくは250℃以下である。
【0029】
成膜後に加熱する場合は、各材料の成膜毎に、成膜直後に行ってもよく、また、正孔注入層材料、中間層材料、正孔輸送層材料を順次成膜後、積層体を加熱してもよい。積層体を加熱する方法は、製造効率の点から、好ましい。成膜後に加熱する場合は、成膜装置内で加熱することもできるが、成膜装置から取り出し、別途の加熱装置により行うことが、製造効率上好ましい。加熱温度は、正孔注入層材料、正孔輸送層材料のいずれか高いガラス転移温度以上に加熱すればよいが、300℃以下であることが好ましく、例えば70〜250℃を挙げることができる。
【0030】
上記正孔注入層材料、中間層材料、正孔輸送層材料の成膜を、これらの材料を真空蒸着により成膜し、成膜中にこれらの各材料のガラス転移温度以上の温度に加熱して行う場合を、図1を参照して、具体的に示す。透光性基板1上に形成した透光性電極層2上に、正孔注入層材料を成膜すると、異物F上に正孔注入層材料膜30bが蒸着され、その周囲の透光性電極層上に、正孔注入層材料膜30aが異物上の正孔注入層材料膜30bと分断されて蒸着される。これらの膜は蒸着直後に分断部分30cへ流動し、異物を包囲した連続した正孔注入層材料膜30に形成される(図1(a))。その後、正孔注入層材料膜30上に蒸着された中間層材料は、流動しつつ異物を包囲した中間層材料膜30dに形成され(図1(b))、更に、中間層材料膜30d上に蒸着された正孔輸送層材料は、流動し異物を包囲した正孔輸送層材料膜30eに形成される(図1(c))。
【0031】
また、正孔注入層材料、中間層材料、正孔輸送層材料を真空蒸着により成膜した後、これらの材料のガラス転移温度以上の温度に加熱した場合を、図2を参照して示す。透光性電極層2上に正孔注入層材料を成膜すると、異物F上に正孔注入層材料膜31bが蒸着され、その周囲の透光性電極層上に、正孔注入層材料膜31aが異物上の正孔注入層材料膜31bと分断されて蒸着される(図2(a))。その後、中間層材料、正孔輸送層材料を蒸着すると、異物上の正孔注入層材料膜31b上に、中間層材料膜32b、正孔輸送層材料膜33bが蒸着され、透光性電極層上の正孔注入層材料膜31a上に、中間層材料膜32a、正孔輸送層材料膜33aが蒸着される(図2(b))。その後、これらの材料のガラス転移温度のうち高いガラス転移温度以上の温度に加熱すると、異物Fにより、分断された部分31cにこれらの材料が流動して一体化され、異物Fを包囲した連続した正孔注入層材料膜31、中間層材料膜32、正孔輸送層材料膜33に形成される(図2(c))。
【0032】
有機層上に1対の電極層の他方の電極層を形成する。有機層上に設ける他方の電極層は上記透光性電極層と共に1対の電極層を構成するものであり、透光性を問われるものでない。透光性電極層が上記透光性電極材料で形成される場合、例えば、アルミニウム、銀等の金属薄膜の遮光性の陰極として形成することが、有機層の発光を透光性電極層側へ反射し、発光面からの放出光量の減少を抑制できることから、好ましい。電極層は、真空蒸着法やスパッタ法等により形成することができる。電極層を形成する際、透光性基板を冷却することが好ましい。金属を蒸着して電極層を形成する際、例えば、アルミニウムを用いた場合、蒸着源の温度が1300℃以上になることもあり、配線抵抗を下げるために厚膜化したり、連続成形を行った場合、透光性基板の温度が150℃以上に達することもある。これにより蒸着金属が有機層表面から内部へ局所的に浸透することにより、短絡の発生を促すこともある。また、アルミニウム等を用いてスパッタ法により電極層を形成する場合、スパッタ材料粒子は真空蒸着法より大きな運動エネルギーをもって有機層を成膜した透光性基板に到達するため、微視的に見れば、有機層内部に局所的に浸透し、やはり短絡の原因となる。これらを抑制するため透光性基板の冷却温度は、0〜25℃であることが好ましい。これにより、蒸着粒子やスパッタ粒子によるマイグレーション等やその結果生じる短絡を抑制することができる。電極層の厚さは、配線抵抗による電圧降下を考慮すると厚い方が好ましく、例えば、50〜300nmとすることができる。
【0033】
このような有機EL素子の製造方法により製造される有機EL素子としては、一例として、図3に示す有機EL素子を挙げることができる。図3に示す有機EL素子は、透光性基板1上に透光性電極層2、正孔注入層31、中間層32、正孔輸送層33、中間層34、発光層35、ブロッキング層36、電子輸送層37、電子注入層38、電極層4が積層された積層体からなる。
【0034】
本発明の有機EL照明装置は、上記方法により製造された有機EL素子を有するものであれば、特に制限されるものではなく、一例として、図4に示すものを挙げることができる。図4に示す有機EL照明装置は、透光性基板1、透光性電極層2を含む有機EL素子10を備え、透光性電極層及び電極層(図示せず)の一部を外部に延設させて、透光性基板1と共に内部を気密に保持する封止部材11がシール部材12を介して透光性基板に接続されることにより、有機層を含む有機EL素子が気密空間14に配置される。気密空間には、窒素ガス等が適宜充填され、封止部材11に固定されるゲッター材15が、気密空間に存在する酸素、水等を除去し、有機EL素子の酸化を抑制する。気密空間外部に延設される透光性電極層及び電極層に配線部材(図示せず)を接続する。配線部材は、接続部の抵抗の上昇を抑制するために、電極の一端の幅の全体に亘る幅を有するものを用いることができる。配線部材として、銅ポリイミド等のフィルムを適用することができる。銅ポリイミドは導電性を有し低抵抗であり、可撓性を有することから、精密な位置決めせずに接続することができるため好ましい。更に、配線部材の他端を、点灯回路、点灯回路の制御回路等を設けた基板の接続端子に接続し、透光性電極層及び電極層に外部電源の供給を可能とする。
【0035】
このような有機EL照明装置は、異物の存在による欠陥部が低減され、被覆性や耐電圧性に優れ、正孔注入層、正孔輸送層の密着性が高い有機EL素子を備えることから、短絡の発生が顕著に抑制され、長寿命化を図ることができる。
【実施例】
【0036】
本発明の有機EL素子の製造方法を、更に詳述する。
【0037】
透光性基板であるガラス基板上に、スパッタ装置(アネルバ社製)により、ITOの透光性電極膜を厚さ300nmに成膜し、透光性電極層を形成した。その後、真空蒸着装置(アネルバ社製)によりm−MTDATAの正孔注入層材料を用いて成膜レート2.0オングストローム/秒で蒸着を行い、厚さ50nmの正孔注入層を成膜し、正孔注入層材料とN,N´−ジフェニル−N−N−ビス(1−ナフチル)-1,1´−ビフェニル−4,4´−ジアミン(α−NPD)の正孔輸送層材料を含有する中間層材料を、正孔注入層材料の含有量が漸次減量するようにm−MTDTAの成膜レートを2.0オングストローム/秒から0.1オングストローム/秒へ変化させ、α−NPDの成膜レートを0.1オングストローム/秒から2.0オングストローム/秒へ変化させて蒸着を行い、厚さ20nmの中間層を成膜し、引き続き成膜レート2.0オングストローム/秒で正孔輸送層材料により蒸着を行い、厚さ45nmの正孔輸送層を成膜した。このとき、基板の温度を150℃に加熱した。その後、Alq3+クマリン化合物(C545)、DPVBi、Alq3+DCM等を、白色光を得られるように選択した発光層材料を、ホスト又は単層は2.0オングストローム/秒の成膜レートで、ゲスト(ドーパント)は0.05〜0.2オングストローム/秒の成膜レートで蒸着し、厚さ35nmの発光層を成膜した。更に、OXD−7等の電子輸送層材料を用いて、成膜レート1.0オングルストローム/秒で蒸着を行い、厚さ45nmの電子輸送層を成膜した。次に、LiFを用いて成膜レート0.1オングストローム/秒で蒸着を行い、厚さ1nmの電子注入層を形成した。更に、アルミニウムを用いて、成膜レート5.0オングストローム/秒で蒸着を行い、厚さ100nmの電極層を成膜し、有機EL素子を調製した。
【0038】
得られた有機EL素子に、順バイアス及び逆バイアスを印加し、整流特性を検査したところ、整流比は10E6〜10E8であり、良好な整流性を有していた。
【0039】
得られた有機EL素子の透光性電極層と電極層の接続端部に、銅箔を積層したポリイミドフィルムからなる配線部材をそれぞれ熱圧着して接続し、他端を、点灯回路、点灯回路の制御回路等を設けた基板の接続端子に接続し、有機EL照明装置を得た。
【0040】
得られた有機EL照明装置は、−15Vの逆バイアス印加時においても整流特性が素子間で安定し、短絡やリークの発生がみられない製品の歩留まりは95%以上であった。更に、有機EL照明装置を60℃湿度90%RHの高温高湿環境下に1000時間放置後、定電流を供給し駆動しても、短絡が生じないものは、90%であった。
【符号の説明】
【0041】
1 透光性基板
2 透光性電極層
30、31 正孔注入層
30d、32 中間層
30e、33 正孔輸送層
4 電極層
10 有機EL素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に設けられる透光性電極層を含む1対の電極層と、該1対の電極層に挟持され、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層とを有する有機層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、透光性基板上に形成した透光性電極層上に、正孔注入層材料、該正孔注入層材料及び正孔輸送層材料と、該正孔輸送層材料とを順次成膜し、これらの材料の成膜中又は成膜後、これらの材料のガラス転移温度以上の温度に加熱して、正孔注入層と、正孔輸送層と、これらの層間に介在する中間層とを形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
有機層形成後、電極層材料を成膜中、透光性基板を0〜25℃に冷却することを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
正孔注入層材料及び正孔輸送層材料をプラズマアシスト蒸着法により成膜することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
正孔注入層材料及び正孔輸送層材料をイオンビームアシスト蒸着法により成膜することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法により得られたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法により得られた有機エレクトロルミネッセンス素子を用いたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−49085(P2012−49085A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192550(P2010−192550)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【Fターム(参考)】