説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】発光効率の高い有機エレクトロルミネッセンス素子を、容易に製造することのできる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、該製造方法により得られた有機エレクトロルミネッセンス素子、該素子を用いた照明装置、面状光源、及び表示装置を提供する。
【解決手段】 本発明方法は、陽極が形成された基板を用意する工程と、金属ドープモリブデン酸化物層形成工程と、前記陽極の前記発光層が形成される側に、角部を有する形状の画素領域を画成する隔壁を形成する隔壁形成工程と、前記隔壁により画成された画素領域に、発光層を構成する有機発光材料と溶媒とを含む有機発光インキを凸版印刷法を用いて供給して、前記画素領域に発光層を形成する発光層形成工程と、陰極を形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、該有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置、面状光源、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という場合がある)は、陽極と陰極からなる一対の電極と、これら電極間に設けられる発光層とを含んで構成される。有機EL素子は、電圧を印加すると、各電極から正孔および電子がそれぞれ注入され、注入された正孔と電子が発光層において再結合することによって発光する。有機EL素子は、無機EL素子に比べると低電圧での駆動が可能であり、また輝度が高い。そのため有機EL素子を用いた表示装置や照明装置が検討されている。
【0003】
有機EL素子を用いた表示装置では、多数の有機EL素子がマトリクス状に配置された表示パネルが用いられる。表示パネルに配置された多数の有機EL素子は、それぞれが1つの画素として機能する。かかる表示パネルでは、各有機EL素子の電気的な絶縁を図るために、電気絶縁性を有する隔壁が設けられる。この隔壁は、例えば格子状に形成され、この隔壁によって各画素が設けられる画素領域が画成される。隔壁は、例えばフォトリソグラフィー技術を用いて絶縁膜を格子状にパターン形成することにより得られる。すなわち画素領域は、行方向および列方向にそれぞれ所定の間隔をあけてマトリクス状に配置される。
【0004】
上記各画素領域へ10nmオーダーの膜厚で発光層を形成する方法としては、真空蒸着法を用いる方法もあるが、真空蒸着と比べると工程が簡易な塗布法を用いて発光層を形成することが検討されている。この塗布法は、有機発光材料を溶剤に溶かして塗布液とし、この塗布液を前記画素領域に選択的に塗布する方法である。この選択的な塗布には、凸版印刷法、およびインキジェットプリント法などが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載のように、画素領域に有機発光インキを凸版印刷法を用いて塗布することで発光層を形成する方法は、有機EL素子を効率的に製造するに適した方法であるが、本発明者らの検討によれば、以下のような解決すべき問題点があることが判明した。
【0006】
隔壁を設ける目的は、前述した画素間の電気絶縁性(以下、絶縁性という場合がある)を実現することの他に、画素領域に供給された塗布液を各画素領域内において保持可能にし、塗布法で所定の位置に発光層を形成可能にすることにある。画素間の絶縁性を確実にするには、隔壁の幅寸法を大きくした方が良いし、発光領域となる画素領域を広くするためには、隔壁の幅寸法を小さくした方がよい。かかる相反する要求を実現するために、隔壁は、絶縁性を確保しつつ、できるだけ広い面積の画素領域を画成できるように設計され、形成される。かかる観点から隔壁を設計すると、理想的な画素領域の形状は矩形状となる。
【0007】
しかしながら、従来の有機EL素子では、画素領域は角部を持たない内周面がなだらかな形状に形成されている。それは、隔壁で囲まれた画素領域が角部を有する形状に形成された場合、この画素領域に有機発光インキを塗布した際に、有機発光インキが角部にまで行き届かず、角部に未塗布領域が残るおそれがあるからである。
【0008】
上述のように画素領域に未塗布領域が残ると、画素領域内に発光層で覆われていない部分が存在することになり、その画素領域に発光不良が生じるおそれがある。そのために、従来の有機EL素子では、隔壁で画成される画素領域を角部のない形状に形成している。その結果、なだらかな内壁面とすることにより減じられた角部の面積分だけ、実際の設計の画素領域は理想的な画素領域の占有面積から小さくなっている。
【0009】
また、例えばアクティブマトリクス型の有機EL素子では、理想的には、図1に示すように、TFT素子と配線(不図示)とが絶縁性隔壁1で覆われ、該絶縁性隔壁1を除く領域が画素領域2として形成される。隔壁1によって画成された画素領域2の底面には、陽極3が露出して画素電極3aを構成する。前記画素領域2には、発光層が設けられて発光領域となるので、この画素領域2の面積はできるだけ広い方が好ましい。なぜなら、画素領域の面積が広ければ広いほど、有機EL素子の単位面積当たりの発光面積が大きくなり、その結果、複数の有機EL素子を備える装置全体としての発光量を高めることができるからである。そこで、隔壁1により画成する画素領域2の形状は、TFT素子を除いたできるだけ広い面積をカバーするように設計することが好ましいことになる。そのような基準に基づいて設計すると、画素領域2は、図2に示すように、矩形や楕円形といった単純な形状ではなく、矩形のいずれかの辺及び/又は角部にさらに小面積の矩形が連接した異形形状となる場合が多い。このような画素領域2の異形形状は、全体に多くの角部cを有する形状と定義し得る。
【0010】
しかしながら、前述した理由と同様の理由で、図2に示すように、前記角部cを多く有する形状の画素領域2に有機発光インキ4を塗布すると、画素領域2の多数の角部cは、インキ未塗布部分として残ってしまう。
【0011】
したがって、角部を面取してなだらかにすると、画素領域の面積が狭くなるが、従来、アクティブマトリックス型の有機EL素子の場合でも、インキ未塗布部分が生じないように、隔壁で画成される画素領域の形状は、通常、なだらかな内壁面を有する角部のない形状に形成されている。
【0012】
また、陽極と陰極との間には、素子寿命および発光特性などを向上させることを目的として、上記発光層とは異なる所定の層(電子注入層および正孔注入層等)が設けられることがある。例えば発光層と電子注入電極との間に酸化モリブデン等の無機酸化物層を高効率な電子注入層として設けた有機EL素子がある(例えば、特許文献2参照)。
【0013】
上記酸化モリブデン層を高効率な電子注入層として設けた有機EL素子の製造において、前述した印刷法を適用して発光層を形成しようとすると、酸化モリブデン層が形成された後に、発光層を塗布法によって形成することになる。しかし、酸化モリブデン層は、ウェットプロセスに対する耐性が低いので、発光層を形成する際に酸化モリブデン層に損傷を与えるおそれがあり、場合によっては酸化モリブデン層が有機発光インキに溶解することもある。さらに前述した隔壁は、ウェットプロセスを用いて通常形成されるため、その際に酸化モリブデン層が溶出するおそれがある。その結果、上記特許文献2に開示の技術では、発光特性及び寿命特性の高い有機EL素子を得ることができないという問題が生じる。
【0014】
【特許文献1】特開2006−286243号公報
【特許文献2】特開2002−367784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記従来技術が有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、長寿命で、開口率の大きな有機エレクトロルミネッセンス素子を、容易に、かつ、有機発光インキの塗布時に未塗布領域を生させることなく製造することのできる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、該製造方法により得られた有機エレクトロルミネッセンス素子、該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置、面状光源、及び表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、下記構成を採用した有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、該製造方法により得られた有機エレクトロルミネッセンス素子、該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置、面状光源、及び表示装置を提供する。
【0017】
[1] 陽極と、陰極と、前記陽極および陰極間に配置された発光層と、前記陽極および前記発光層の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
上記陽極が形成された基板を用意する工程と、
金属ドープモリブデン酸化物層形成工程と、
前記陽極の前記発光層が形成される側に、角部を有する形状の画素領域を画成する隔壁を形成する隔壁形成工程と、
前記隔壁により画成された画素領域に、発光層を構成する有機発光材料と溶媒とを含む有機発光インキを凸版印刷法を用いて供給して、前記画素領域に発光層を形成する発光層形成工程と、
陰極を形成する工程とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0018】
[2] 前記金属ドープモリブデン酸化物層形成工程では、酸化モリブデンとドーパント金属とを同時に堆積することにより金属ドープモリブデン酸化物層を形成することを特徴とする、上記[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0019】
[3] 前記金属ドープモリブデン酸化物層を加熱する工程をさらに含む、上記[1]または[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0020】
[4] 前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率を50%以上とする、上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0021】
[5] 前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属を、遷移金属、周期表13族の金属及びこれらの混合物からなる群より選択する、上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0022】
[6] 前記ドーパント金属としてアルミニウムを用いる、上記[5]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0023】
[7] 前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属の割合を、0.1〜20.0mol%とする、上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0024】
[8] 前記有機発光インキの溶媒として沸点温度200℃以上の溶媒を含有する溶媒を用いるとともに、前記凸版印刷に用いる版の凸部の先端面の幅寸法lを前記画素領域の幅寸法Lの99%〜50%に設定することを特徴とする、上記[1]〜[7]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0025】
[9] 前記有機発光インキの溶媒として沸点温度200℃以上の溶媒を実質的に含有しない溶媒を用いるとともに、前記凸版印刷に用いる版の凸部の先端面の幅寸法lを、前記画素領域の幅寸法Lよりも大きく、{(前記幅寸法L)+(前記隔壁の幅寸法L)/2}未満に設定することを特徴とする、上記[1]〜[7]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0026】
[10] 前記凸版印刷に用いる版の凸部が、被印刷物に順次押圧される方向に沿って線状に配置されていることを特徴とする、上記[1]〜[9]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0027】
[11] 発光層形成工程では、前記有機発光インキとして多色に対応した多種のインキを所定の隔壁内に選択的に塗布し、少なくとも赤、緑、青の三色の画素を構成する発光層をそれぞれ形成することを特徴とする、上記[1]〜[10]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0028】
[12] 上記[1]〜[11]のいずれか一つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法により得られた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0029】
[13] 上記[12]記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【0030】
[14] 上記[12]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする面状光源。
【0031】
[15] 上記[12]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0032】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法によれば、電極上に隔壁により画成される画素領域の面積を可能な限り広くするために角部を有する形状とし、この角部を有する形状の画素領域へ有機発光インキを凸版印刷法により供給することにより、塗布もれを生じさせることなく、画素領域の全面に隈無く供給することができる。そして、無機酸化物層として金属ドープモリブデン酸化物層を設けることにより、この金属ドープモリブデン酸化物層の上に、塗布法を用いて、発光層を高品位に形成することができる。
【0033】
したがって、本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、製造が容易であり、得られる有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光面における発光むらや発光不良が生じることなく、単位面積あたりの発光量が増大し、発光特性が良好であり、長寿命である。そして、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、照明装置、バックライトとしての面状光源、フラットパネルディスプレイ等の表示装置として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、および該製造方法によって得られる有機エレクトロルミネッセンス素子の構造について説明する。なお、以下の説明において示す図面における各部材の縮尺は実際と異なる場合がある。また、有機エレクトロルミネッセンス素子には電極のリード線などの部材も存在するが、本発明の説明として直接的に関係はないために記載および図示を省略している。
【0035】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、陽極と、陰極と、前記陽極および陰極間に配置された発光層と、前記陽極および前記発光層の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、上記陽極が形成された基板を用意する工程と、金属ドープモリブデン酸化物層形成工程と、前記陽極の前記発光層が形成される側に、角部を有する形状の画素領域を画成する隔壁を形成する隔壁形成工程と、前記隔壁により画成された画素領域に、発光層を構成する有機発光材料と溶媒とを含む有機発光インキを凸版印刷法を用いて供給して、前記画素領域に発光層を形成する発光層形成工程と、陰極を形成する工程とを有することを特徴としている。
【0036】
図3〜図8は、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法の第1の実施形態を説明するための図であり、本実施形態に係る製造方法における発光層の形成方法について示している。なお、図3〜図8において、図1及び図2に示した構成要素と同一構成要素については、同一符号を付して説明を簡略化する。
【0037】
(基板)
支持基板10としては、有機EL素子を形成する工程において変化しないものであればよく、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えば、ガラス板、プラスチック板、高分子フィルムおよびシリコン板、並びにこれらを積層した積層板などが好適に用いられる。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることもできる。前記基板としては、市販のものが使用可能である。また前記基板を公知の方法により製造することもできる。
【0038】
支持基板10側から光を取出すボトムエミッション型の有機EL素子では、支持基板10は、可視光領域の光の透過率が高いものが好適に用いられる。陰極側から光を取出すトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子では、支持基板10は、透明のものでも、不透明のものでもよい。
【0039】
なお、上記市販の基板としては、支持基板の上に後述の陽極が形成された基板もある。かかる市販の基板を用いる場合は、本実施形態の製造方法では、下記の陽極形成工程は、省略することができる。
【0040】
(陽極)
前記支持基板10上に形成する陽極3は、支持基板10から光を取り出す場合では、光透過性の電極であるが、陰極を光透過性のある電極から構成し、陰極側から光を取り出す場合では、陰極を光透過性のある電極とすることも可能である。
陽極3を光透過性のある電極とする場合、陽極3は、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、該陽極3と発光層との間に設ける層の構成材料に応じて適宜選択して用いることができる。陽極3の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(略称IZO)、金、白金、銀、および銅等の薄膜が用いられる。これらの中でも、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。
【0041】
また陽極3の構成材料として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の有機物の透明導電膜を用いてもよい。
【0042】
また発光層への電荷注入を容易にするという観点から、このような陽極3の発光層側の表面上に、フタロシアニン誘導体、ポリチオフェン誘導体等の導電性高分子、Mo酸化物、アモルファスカーボン、フッ化カーボン、ポリアミン化合物等の1〜200nmの層、或いは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚10nm以下の層を設けてもよい。
【0043】
陽極3の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して適宜選択することができ、例えば5nm〜10μmであり、好ましくは10nm〜1μmであり、より好ましくは20nm〜500nmである。
【0044】
(陽極形成工程)
前述のいずれかの基板材料からなる基板を準備する。ガスおよび液体の透過性が高いプラスチック基板を用いる場合は、必要に応じて、基板上に下部封止膜を形成しておく。
【0045】
次に、準備した基板上に前述のいずれかの陽極材料を用いて、陽極をパターン形成する。この陽極を透明電極とする場合には、前述のように、ITO、IZO、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料を使用する。電極のパターン形成は、例えば、ITOを用いる場合、スパッタリング法により基板上に均一な堆積膜として形成され、続いて、フォトリソグラフィーによりストライプ状(縦縞状または横縞状)にパターニングされる。
【0046】
(隔壁形成工程)
ライン状の陽極3を形成後、陽極3が形成された基板10上に感光性材料を塗布してフォトレジスト膜を積層する。この感光性材料(フォトレジスト組成物)の塗布は、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スリットコーター等を用いたコーティング法により行うことができる。次に、このフォトレジスト膜を、フォトリソグラフィーによりパターニングして絶縁性を示す隔壁1を形成する。隔壁1を形成するパターニングに用いるフォトマスクは、画素電極の面積(すなわち、画素領域の面積)を可能な限り広くするために適した隔壁形状を設計し、それに基づいて、作成される。通常、隔壁で画成される画素領域は、矩形となるが、作製対象の有機EL素子が例えばアクティブマトリクス型の素子の場合には、有機EL素子を選択的に駆動するトランジスタ等の素子が配置されるため、上記基準に基づいて設計された画素領域の形状は、通常、図1または図2に示すような多数の角部cを有する異形形状となる。このような多数の角部cを有する異形形状の領域が画素領域2となり、この画素領域2により規定される画素電極3aの面積は、配線、TFT素子の絶縁被覆、および電極間の絶縁などの必要な絶縁を行うという制約の下で最大値となるように設計される。なお、パッシブマトリクス型の有機EL素子であっても、配線などの配置の関係上、上記基準に基づいて設計された画素領域の形状は、通常、図1または図2に示すような多数の角部cを有する異形形状となる。
【0047】
上記絶縁性隔壁1を形成する絶縁性の感光性材料は、ポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらであってもよい。隔壁は、絶縁性を示すことが重要であり、絶縁性を有さない場合には、互いに異なる画素間に電流が流れてしまい表示不良が発生するおそれがある。
【0048】
この隔壁1を構成する感光性材料としては、具体的には、ポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系の各感光性化合物を用いることができる。なお、この感光性材料には、有機EL素子の表示品位を上げる目的で、光遮光性を示す材料を含有させてもよい。
【0049】
この絶縁性隔壁1の表面に撥インキ性を付与するために、隔壁形成用の感光性材料に撥インキ性物質を加えても良い。あるいは、絶縁性隔壁を形成した後、その表面に撥インキ性物質を被覆させることにより、隔壁表面に撥インキ性を付与しても良い。この撥インキ性は、後述の有機発光層とは異なる層用のインキに対しても、発光層用のインキに対しても、撥液性であることが好ましい。
【0050】
前記感光性材料に撥インキ性物質を添加する場合に用いる撥インキ性化合物としては、シリコーン系化合物またはフッ素含有化合物が用いられる。これらの撥インキ性化合物は、後述の発光層形成に用いる有機発光インキ(塗布液)と、正孔輸送層などの中間層用の有機材料インキ(塗布液)の両方に撥インキ性を示すため、好適に用いることができる。
【0051】
隔壁1を形成した後に隔壁1の表面に撥インキ性被膜を形成する方法としては、撥インキ性成分を含む塗布液を隔壁表面に塗布する方法、隔壁表面の有機材料の官能基をフッ素で置換することにより表面を改質する方法、撥インキ性成分を気化させて隔壁表面に堆積させる方法などを挙げることができる。具体的には、CFガスを導入ガスとして用いるプラズマ処理を挙げることができる。基板および電極などに比べると、有機物の隔壁はCFガスによってフッ化され易く、プラズマ処理を行うことで隔壁表面を選択的に撥インキ化することができる。
【0052】
(金属ドープモリブデン酸化物層)
絶縁性隔壁1の形成後、陽極3と不図示の発光層の間に金属ドープモリブデン酸化物層11が設けられる。陽極3と発光層との間には、さらに所定の層が設けられてもよい。陽極3と発光層との間に設けられる層としては後述する正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができる。すなわち、陽極3と発光層との間に、金属ドープモリブデン酸化物層のみが設けられている素子構成と、金属ドープモリブデン酸化物層および他の層が設けられている素子構成とがある。
なお、発光層と陰極との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層および正孔ブロック層などを挙げることができる。
【0053】
前記金属ドープモリブデン酸化物層は、モリブデン酸化物及びドーパント金属を含むものであり、好ましくはモリブデン酸化物及びドーパント金属から実質的になり、本実施の形態では後述する正孔注入層、正孔輸送層および電子ブロック層のうちのいずれか1つ以上の層として機能する。より具体的には、金属ドープモリブデン酸化物層を構成する物質全量中における、モリブデン酸化物及びドーパント金属の合計が占める割合が、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上である。
【0054】
前記金属ドープモリブデン酸化物層は、好ましくは正孔注入層であるか、または発光層もしくは正孔注入層に直接接して設けられる。金属ドープモリブデン酸化物層のより具体的な配置を以下の(i)〜(v)に示す。
(i)陽極および正孔輸送層に接して設けられる
(ii)陽極および電子ブロック層に接して設けられる
(iii)正孔注入層および発光層に接して設けられる
(iv)正孔注入層および電子ブロック層に接して設けられる
(v)陽極および発光層に接して設けられる
【0055】
前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率は、50%以上であることが好ましい。50%以上の可視光透過率を有することにより、前記金属ドープモリブデン酸化物層を透過して発光する形式の有機エレクトロルミネッセンス素子に好適に用いることができる。
【0056】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属は、好ましくは遷移金属、周期表の13族金属又はこれらの混合物であり、より好ましくはアルミニウム、ニッケル、銅、クロム、チタン、銀、ガリウム、亜鉛、ネオジム、ユーロピウム、ホルミウム、セリウムであり、さらに好ましくはアルミニウムである。これに対して、モリブデン酸化物としてはMoOを採用することが好ましい。MoOを真空蒸着等の蒸着法により成膜する場合、蒸着された膜においてMoとOの化学量論的な組成比がMoOから外れる場合もありうるが、その場合でも本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子に好ましく用いることができる。
【0057】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属の割合が、0.1〜20.0mol%であることが好ましい。ドーパント金属の含有割合が上記範囲内であることにより、良好な耐プロセス性を有する金属ドープモリブデン酸化物層を得ることができる。
【0058】
前記金属ドープモリブデン酸化物層の厚さは、特に限定されないが1〜100nmであることが好ましい。
【0059】
前記金属ドープモリブデン酸化物層を成膜する方法としては、特に限定されないが、金属ドープモリブデン酸化物層が積層される層上に、酸化モリブデン及びドーパント金属を同時に堆積するいわゆる共蒸着法を好ましい方法の一つとして例示することができる。例えば、基板上に設けられた陽極の層上に堆積を行ない、電極に直接接した金属ドープモリブデン酸化物層を得ることができる。
【0060】
堆積は、真空蒸着、分子線蒸着、スパッタリング又はイオンプレーティング、イオンビーム蒸着等により行うことができる。成膜チャンバー内にプラズマを導入することによって、反応性や成膜性を向上させたプラズマアシスト真空蒸着法なども用いることができる。真空蒸着法の蒸発源としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱、レーザビーム加熱などが上げられる。より簡便な方法として、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱が好ましい。スパッタリング法にはDCスパッタリング法、RFスパッタリング法、ECRスパッタリング法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビーム・スパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法などがあり、いずれの方式も用いることができる。金属ドープモリブデン酸化物層の下層にダメージを与えないためにもマグネトロンスパッタリング法、イオンビーム・スパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法を用いることが好ましい。
【0061】
なお、成膜時において、雰囲気中に酸素や酸素元素を含むガスを導入して蒸着を行うこともできる。また、金属ドープモリブデン酸化物層を蒸着する際の材料には、通常MoOやドーパント金属単体を用いるが、モリブデン単体、MoOやドーパント金属の酸化物、ドーパント金属とモリブデンとの合金、あるいはこれらの混合物などを用いることができる。
【0062】
堆積された金属ドープモリブデン酸化物層は、そのまま、または任意に、加熱、UV−O処理、大気曝露等の他の工程に供する。これらの中でも、透過率を向上させるために、加熱処理を行うことが好ましい。
【0063】
前記加熱は、50〜350℃で1〜120分間の条件で行うことができる。前記UV−O処理は、紫外線を1〜100mW/cmの強度で5秒〜30分間照射し、オゾン濃度0.001〜99%の雰囲気下で処理することにより行うことができる。前記大気曝露は、湿度40〜95%、温度20〜50℃の大気中に、1〜20日間放置することにより行うことができる。
【0064】
(陽極と発光層との間に設けられる層)
陽極と発光層との間には、少なくとも金属ドープモリブデン酸化物層が設けられる。また前述したように、金属ドープモリブデン酸化物層の他に、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が設けられてもよい。
【0065】
正孔注入層は、陽極3からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層、及び/又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0066】
(正孔注入層)
正孔注入層は、上述のように、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と発光層との間に設けることができる。正孔注入層を構成する材料としては、公知の材料を適宜用いることができ、特に制限はない。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0067】
正孔注入層の成膜方法としては、例えば、正孔注入層となる材料(正孔注入材料)を含む溶液からの成膜を挙げることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば、特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。
【0068】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インキジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。
【0069】
また、正孔注入層の厚みとしては、5〜300nm程度であることが好ましい。この厚みが5nm未満では、製造が困難になる傾向があり、他方、300nmを超えると、駆動電圧、および正孔注入層に印加される電圧が大きくなる傾向となる。
【0070】
(正孔輸送層)
正孔輸送層を構成する材料としては、特に制限はないが、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0071】
これらの中でも、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0072】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0073】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば、特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0074】
混合する高分子バインダーとしては、正孔輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0075】
正孔輸送層の厚みは、特に制限されないが、目的とする設計に応じて適宜変更することができ、1〜1000nm程度であることが好ましい。この厚みが前記下限値未満となると、製造が困難になる、または正孔輸送の効果が十分に得られないなどの傾向があり、他方、前記上限値を超えると、駆動電圧および正孔輸送層に印加される電圧が大きくなる傾向がある。したがって正孔輸送層の厚みは、上述のように、好ましくは、1〜1000nmであるが、より好ましくは、2nm〜500nmであり、さらに好ましくは、5nm〜200nmである。
【0076】
(発光層形成工程)
次に発光層の形成工程が実行される。この発光層形成工程の特徴は、前記隔壁形成工程によって形成した角部を有する形状の画素領域の全域に有機発光インキを塗布するために、凸版印刷法を用いることにある。この凸版印刷は、より好ましくはフレキソ印刷である。
【0077】
先にも述べたように、有機EL素子の発光効率を高めるためには、画素領域は可能な限り広い方がよい。画素領域を可能な限り広く設計すると、画素領域は角部を有する形状となる。係る角部を有する画素領域の全域に隈無く有機発光インキを塗布することは難しいが、凸版印刷法を用いることにより、それが可能となることを本発明者らは見出した。
【0078】
上記凸版印刷を用いるに際して、具体的な手順として、下記2つの好適な方法のいずれかを用いることが好ましい。
【0079】
上記好適な凸版印刷の第1の方法は、前記有機発光インキの溶媒として沸点温度200℃以上の溶媒を含有する溶媒を用いるとともに、凸版印刷に用いる版の凸部の先端面の幅寸法を前記画素領域の幅寸法より小さく設定する。凸部の先端面とは、凸部の開放端の平面のことである。具体的には、図3に示すように、陽極3がパターニングされた基板10上に前述のように隔壁1が形成されて得られた画素領域2へ金属ドープモリブデン酸化物層11を介して有機発光インキ4を供給するために凸版印刷を行うに際して、用いる凸版12の凸部13の先端面13aの幅寸法lを前記画素領域2の幅寸法Lの99%〜50%に設定する。ここで、先端面13aの幅とは、凸版12が被印刷物(基板)に順次押圧される方向に垂直な方向の幅であり、例えば凸版12が円筒状であり、軸線まわりに回転する場合、該凸版12の周方向に垂直な軸線方向の幅である。また画素領域2の幅とは、有機発光インキが印刷される方向に垂直な幅である。
【0080】
なお、本実施形態では、画素領域2は、隔壁3により画成された角部を有する不定形領域であり、基板上にマトリックス状に配置されている。この画素領域2に有機発光インキ4を供給する凸版12の凸部13は、画素領域2に対応してマトリックス状に配置されていていてもよいし、凸版12が被印刷物に順次押圧される方向に沿って連続して設けられていてもよい。しかし、隔壁が格子状に形成されて、画素領域2が基板上にマトリックス状に配置されている場合でも、前記凸版12の凸部13が、被印刷物に順次押圧される方向に沿ってライン状に形成された凸版印刷版を用いて、有機発光インキを塗布することが好ましい。すなわち被印刷物に順次押圧される方向が各凸部13の長手方向に略一致するように、各凸部の長手方向に沿って各凸部13がそれぞれ配置される。例えば凸版12が円筒状であり、軸線まわりに回転する場合、該凸版12の周方向が、被印刷物に順次押圧される方向に相当し、各凸部13は、この周方向と各凸部13の長手方向とを略一致させて、周方向に沿ってストライプ状に配置する。
【0081】
有機発光インキ4として、200℃以上の高沸点溶媒を含有する溶媒を用いた乾燥速度の遅いフレキソ印刷用インキを用いる場合に、上述のように、凸版印刷版12の先端面13aの幅寸法を画素領域2の幅寸法Lより小さく設定し、図4に示すように、前記凸版印刷版12を用いて有機発光インキ4を画素領域2の底面(金属ドープモリブデン酸化物層11)の上に供給する。凸版印刷版12の先端面13aに付着していた有機発光インキ4は、画素領域2の底面(金属ドープモリブデン酸化物層11の表面)に接触し、画素領域2の底面と前記先端面13aとに挟まれて、図5に示すように、画素領域2の全ての角部cを含めた全面に押し広げられる。その結果、画素領域2の全面にわたってインキ4が塗布される。その後、図6に示すように、凸版印刷版12が基板から離れると、インキ4の表面が表面張力によりなだらかになる。そして、その後の乾燥(溶媒の蒸発)によっても、インキ4の粘度が高いために、インキ4の画素領域2の底面に対する接触線があまり移動せず、良好な発光層が形成される。
【0082】
上記好適な凸版印刷の第2の方法は、前記有機発光インキの溶媒に沸点温度200℃以上の溶媒を実質的に含有しない溶媒を用いるとともに、凸版印刷に用いる版の凸部の先端面の幅寸法を前記画素領域の幅寸法より大きく設定する。具体的には、図7に示すように、凸版印刷に用いる版22の凸部23の先端面23aの幅寸法lを、前記画素領域2の幅寸法Lよりも大きく、{(前記幅寸法L)+(前記隔壁1の幅寸法L)/2}未満に設定する。
なお、上記「沸点温度200℃以上の溶媒を実質的に含有しない溶媒」とは、沸点温度200℃以上の溶媒の含有量が全溶媒質量の0.1%未満である溶媒を意味する。
【0083】
有機発光インキ4の主溶媒として200℃未満の低沸点溶媒を含む乾燥速度の速い有機発光インキを用いる場合に、上述のように、凸版印刷版22の先端面23aの幅寸法を画素領域2の幅寸法Lよりも大きく設定し、図8に示すように、前記凸版印刷版22を用いて有機発光インキ4を画素領域2の底面に供給する。凸版印刷版22の先端面23aに付着していた有機発光インキ4は、画素領域2の底面に接触し、画素領域2の底面と前記先端面23aとに挟まれて、図5に示すように、画素領域2の全ての角部cを含めた全面に押し広げられる。その結果、上記第1の方法と同様に、画素領域2の底面の全面に隈無くインキ4が塗布される。
【0084】
この方法では、上記第1の方法の場合と異なり、版22の先端面23a上の速乾性のインキ4が画素領域2の底面に塗布される前に、インキ4は半乾燥状態となる。そのため、インキ4の展延性が下がるので、先端面23aの幅寸法lを画素領域2の幅寸法Lより大きくしている。したがって、半乾燥状態で画素領域2に押し付けられたインキ4は、展延性が低下していても、幅の広い先端面23aによって画素領域2の底面の全面に押し広げられる。その後、半乾燥状態で高粘度なインキ4の乾燥速度は緩やかであるため、溶媒蒸発時に接触線がほとんど動かず、良好な発光層が形成される。
【0085】
(発光層の構成材料)
発光層は、通常、主として蛍光または燐光を発光する有機物を有し、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。なお、有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、発光層は、ポリスチレン換算の数平均分子量が、10〜10である高分子化合物を含むことが好ましい。発光層を構成する発光材料としては、例えば、以下のものが挙げられる。なお、陽極と陰極との間には、一層の発光層に限らず、複数の発光層が配置されてもよい。
【0086】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0087】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0088】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0089】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0090】
(ドーパント材料)
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約20〜2000Åである。
【0091】
有機発光インキは、上記有機発光材料を溶剤に溶解または安定に分散させて調製する。有機発光材料を溶解または分散する溶剤としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独またはこれらの混合溶剤が挙げられる。中でも、トルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶剤が、有機発光材料の良好な溶解性を有することから好ましい。
【0092】
上記溶剤の内、沸点が200℃以上の溶剤は、テトラリン、シクロヘキシルベンゼンなどであり、沸点が200℃未満の溶剤は、トルエン、キシレン、アニソールなどである。上記第1の凸版印刷方法において用いる有機発光インキの溶媒に占める「沸点が200℃以上の溶媒」の配合量は、使用する有機発光材料や画素領域の形状等の条件により適宜に決定される。同様に、上記第2の凸版印刷方法において用いる有機発光インキの溶媒に占める「沸点が200℃未満の溶媒」の配合量は、使用する有機発光材料や画素領域の形状等の条件により適宜に決定される。
【0093】
なお、有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等を添加してもよい。
【0094】
また発光層形成工程では、前記有機発光インキとして多色に対応した多種のインキを所定の隔壁内に選択的に塗布し、少なくとも赤、緑、青の三色の画素を構成する発光層をそれぞれ形成することが好ましい。具体的には、例えば赤色を発光する有機発光インキを凸版印刷で塗布し、次に緑色を発光する有機発光インキを凸版印刷で塗布し、次に青色を発光する有機発光インキを凸版印刷で塗布してもよく、また赤、緑、青のそれぞれを発光する有機発光インキを凸版の所定の凸部の先端面に付着させ、さらに有機発光インキを転写するようにしてもよい。
【0095】
(陰極と発光層との間に設けられる層)
発光層の形成後、必要に応じて、一層または複数の所定の層が設けられる。発光層と陰極との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が設けられる。
陰極と発光層との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という場合がある。
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、及び/又は電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0096】
(電子注入層)
電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、あるいは前記金属を一種類以上含む合金、あるいは前記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、あるいは前記物質の混合物などが挙げられる。
【0097】
前記アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0098】
前記アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0099】
さらに、金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物、および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も、電子注入層の材料として用いることができる。
【0100】
この電子注入層は、2層以上を積層した積層構造を有していても良い。具体的には、Li/Caなどが挙げられる。この電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。
この電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0101】
(電子輸送層)
電子輸送層を形成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が例示される。
【0102】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0103】
なお、電子注入層および正孔注入層を総称して電荷注入層と言う場合があり、電子輸送層および正孔輸送層を総称して電荷輸送層と言う場合がある。
【0104】
(陰極)
本実施形態における陰極は、前記陽極2に対向して配置される電極である。
陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易な材料が好ましい。さらに陰極の材料としては電気伝導度が高く、可視光反射率の高い材料が好ましい。かかる陰極材料としては、具体的には、金属、金属酸化物、合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物、酸化亜鉛(ZnO)等の無機半導体などを挙げることができる。
【0105】
上記金属としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表の13族金属等を用いることができる。これら金属の具体的例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等を挙げることができる。
【0106】
また、合金としては、上記金属の少なくとも一種を含む合金を挙げることができ、具体的には、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等を挙げることができる。
【0107】
陰極は、必要に応じて光透過性を有する電極とされるが、それらの材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZOなどの導電性酸化物;ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの導電性有機物を挙げることができる。
【0108】
なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。また、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0109】
この陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0110】
陰極を形成させる方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。
【0111】
本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子において、陽極3から陰極までの層構成の組み合わせ例を以下に示す。
a)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
e)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
g)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
i)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
j)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
k)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
l)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
a)〜l)において、陽極と発光層との間に設けられる層の一層が金属ドープモリブデン酸化物層である。
【0112】
本実施の形態の有機EL素子は、2層以上の発光層を有していてもよく、2層の発光層を有する有機EL素子としては、上記a)〜l)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された積層体を「繰り返し単位A」とすると、以下のm)に示す層構成を挙げることができる。
m)陽極/(繰り返し単位A)/電荷注入層/(繰り返し単位A)/陰極
また、3層以上の発光層を有する有機EL素子としては、「(繰り返し単位A)/電荷注入層」を「繰り返し単位B」とすると、以下のn)に示す層構成を挙げることができる。
n)陽極/(繰り返し単位B)x/(繰り返し単位A)/陰極
なお記号「x」は、2以上の整数を表し、(繰り返し単位B)xは、繰り返し単位Bがx段積層された積層体を表す。
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0113】
本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷注入性の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。また界面での密着性向上や混合の防止などのために、前述した各層間に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0114】
(保護層)
上述のように陰極が形成された後、基本構造として陽極−発光層−陰極を有してなる発光機能部を保護するために、該発光機能部を封止する保護層(上部封止膜)が形成される。この保護層は、通常、少なくとも一つの無機層と少なくとも一つの有機層を有する。積層数は、必要に応じて決定され、基本的には、無機層と有機層は交互に積層される。
【0115】
なお、ガラス基板に比べると、プラスチック基板は酸素および水などのガスの透過性が高い。発光層などの発光物質は酸化されやすく、酸素および水などと接触することにより劣化しやすいので、前記基板としてプラスチック基板が用いられる場合には、ガスバリア性を高めるための処理を基板に予め施すことが好ましい。例えばプラスチック基板上にガスなどに対するバリア性の高い下部封止膜を積層し、その後、この下部封止膜の上に上記発光機能部を積層することが好ましい。この下部封止膜は、通常、上記保護層(上部封止膜)と同様の構成、同様の材料にて形成される。
【0116】
以上説明した第1の実施形態では、隔壁1を形成した後に金属ドープモリブデン酸化物層11を設けたが、他の実施形態として、隔壁1を設ける前に金属ドープモリブデン酸化物層を形成してもよい。この場合、金属ドープモリブデン酸化物層は、各画素に共通して形成されることになる。
【0117】
各画素に共通して金属ドープモリブデン酸化物層を形成する場合では、隔壁間に選択的に金属ドープモリブデン酸化物層を形成する場合に比べて、金属ドープモリブデン酸化物層の形成時の高精度な位置決めが不要になり、工程が簡易になるという効果が得られる。さらに、金属ドープモリブデン酸化物層はウェットプロセスに耐性が高いので、金属ドープモリブデン酸化物層を一面に形成した後に、ウェットプロセスにより形成される隔壁を設ける時に金属ドープモリブデン酸化物層が損傷を受けることは避けられるので、この場合でも、信頼性の高い有機EL素子を得ることができる。
【0118】
なお、上述の第1の実施形態は、発光層からの光を透明な支持基板から外部へ出射するボトムエミッション型の素子に適用した場合の形態であったが、第2の実施形態として、発光層からの光を透明な陰極を透過させて透明な保護層から外部へ出射するトップエミッション型の素子であってもよい。
【0119】
以上説明したような本発明の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、曲面状や平面状の照明装置、例えばスキャナの光源として用いられる面状光源、表示装置に好適に用いることができる。
【0120】
有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置としては、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、および液晶表示装置などを挙げることができる。なお有機エレクトロルミネッセンス素子は、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置において、各画素を構成する発光素子として用いられ、セグメント表示装置において、各セグメントを構成する発光素子として用いられ、ドットマトリックス表示装置において各ドットを構成する発光素子またはバックライトとして用いられ、液晶表示装置において、バックライトとして用いられる。
【0121】
本発明の製造方法によれば、金属ドープモリブデン酸化物層を設けることにより長寿命の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られ、画素電極の面積を広くするために角部を有する形状としたことにより開口率を向上させ、さらに凸版印刷法を用いることにより画素領域へ有機発光インキを塗布漏れを生じさせることなく、画素領域の全面に隈無く塗布することができ、これらにより発光効率の高い有機エレクトロルミネッセンス素子を低コストにて得ることができる。
【実施例】
【0122】
以下、作製例及び参考例を説明するが、本発明は以下の例示に限定されるものではない。
【0123】
以下の作製例1〜6及び参考例1,2では、陽極と発光層との間に金属ドープモリブデン酸化物層を設けることによる効果を確認するために、陽極と発光層との間に金属ドープモリブデン酸化物層を設けた有機エレクトロルミネッセンス素子を製造した。
【0124】
(作製例1)
(A:真空蒸着法による、ガラス基板へのAlドープMoOの蒸着)
複数のガラス基板を用意し、その片面を蒸着マスクを用いて部分的に被覆し、蒸着チャンバー内に基板ホルダーを用いて取り付けた。
【0125】
MoO粉末(アルドリッチ社製、純度99.99%)を、ボックスタイプの昇華物質用のタングステンボードに詰め、材料が飛び散らないように穴の開いたカバーで覆い、蒸着チャンバー内にセットした。Al(高純度化学社製、純度99.999%)は坩堝に入れ、蒸着チャンバー内にセットした。
【0126】
蒸着チャンバー内の真空度を3×10−5Pa以下とし、MoOは抵抗加熱法により徐々に加熱し十分に脱ガスを行い、Alは電子ビームにより坩堝内で溶かし込みを行い、十分に脱ガスを行なってから、蒸着に供した。蒸着中の真空度は9×10−5Pa以下とした。膜厚及び蒸着速度は水晶振動子で常時モニターした。MoOの蒸着速度が約0.28nm/秒、Alの蒸着速度が約0.01nm/秒となった時点でメインシャッターを開き、基板への成膜を開始した。蒸着中は基板を回転させ、膜厚が均一になるようにした。蒸着速度を上記速度に制御して約36秒間成膜を行ない、膜厚約10nmの共蒸着膜(金属ドープモリブデン酸化物層)が設けられた基板を得た。膜中のMoO及びAlの合計に対するAlの組成比は約3.5mol%であった。
【0127】
(B:耐久性試験)
成膜後、得られた基板を大気中に取り出し、光学顕微鏡(500倍)で膜表面を観察したところ、結晶構造が認められず、アモルファス状態であることが確認された。
得られた基板を純水に1分間曝し、光学顕微鏡で再び観察したところ、変化は無く、表面は溶けていなかった。この基板をさらに純水に3分間曝し続けるか、又は純水を含ませた不織布(商品名「ベンコット」、小津産業株式会社製)で膜を拭いた後、目視で観察したところ、いずれの場合も膜は変化無く残っていた。
【0128】
また上記純水に曝した基板とは別に、得られた基板をアセトンに1分間曝し、光学顕微鏡で観察したところ変化は無く、表面が溶けていなかった。この基板をさらにアセトンに3分間曝し続けるか、又はアセトンを含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で確認したところ、いずれの場合も膜は変化無く残っていた。
【0129】
(C:透過率の測定)
また、成膜後の蒸着膜の透過率を、透過率・反射率測定装置(Scientific Computing International社製、商品名「FilmTek 3000」)を用いて測定した。結果を後出の(表1)に示す。光の波長約300nmぐらいから透過スペクトルが立ち上がり、波長320nmにおける透過率が21.6%、360nmにおける透過率が56.6%であった。後述する比較例1と比較して、320nmにおいて3.6倍、360nmにおいて1.6倍の透過率を有していた。
【0130】
(作製例2)
蒸着中に、チャンバーに酸素を導入した他は作製例1の(A)と同様に操作し、共蒸着膜が設けられた基板を得た。酸素量はマスフローコントローラーにより15sccmに制御した。蒸着中の真空度は約2.3×10−3Paであった。得られた共蒸着膜(金属ドープモリブデン酸化物層)の膜厚は約10nmであり、膜中のMoO及びAlの合計に対するAlの組成比は約3.5mol%であった。
【0131】
成膜後、得られた基板の耐久性を作製例1の(B)と同様に評価した。純水及びアセトンのいずれに曝した場合においても変化は観察されなかった。
【0132】
(作製例3)
蒸着速度を、MoOについては約0.37nm/秒、Alについては約0.001nm/秒に制御した他は作製例1の(A)と同様に操作し、共蒸着膜(金属ドープモリブデン酸化物層)が設けられた基板を得た。得られた共蒸着膜の膜厚は約10nmであり、膜中のMoO及びAlの合計に対するAlの組成比は約1.3mol%であった。
【0133】
成膜後、得られた基板の耐久性を作製例1の(C)と同様に評価した。純水及びアセトンのいずれに曝した場合においても変化は観察されなかった。
【0134】
(作製例4)
作製例1の(A)で得られた基板を、大気雰囲気のクリーンオーブンに入れ、250℃で60分間加熱処理した。冷却後、蒸着膜(金属ドープモリブデン酸化物層)の透過率を作製例1の(C)と同様に測定した。結果を後出の(表1)に示す。波長320nmにおける透過率が28.9%、360nmにおける透過率が76.2%であった。下記参考例1と比較して、320nmにおいて4.7倍、360nmにおいて2.2倍の透過率を有していた。
【0135】
(参考例1)
Alを蒸着せず、MoOのみを約0.28nm/秒で蒸着した他は作製例1と同様に操作し、膜厚約10nmの蒸着膜が設けられた基板を得た。
成膜後、得られた基板を大気中に取り出し、光学顕微鏡(500倍)で膜表面を観察したところ、結晶構造が認められずアモルファス状態であることが確認された。
【0136】
得られた基板を純水に1分間曝し、光学顕微鏡で再び観察したところ、にじみ模様が認められ、表面が溶けていることが観察された。この基板をさらに純水に3分間曝し続けるか、又は純水を含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で観察したところ、いずれの場合も膜が消失していた。
【0137】
別の得られた基板をアセトンに1分間曝し、光学顕微鏡で観察したところ、にじみ模様が認められ、表面が溶けていることが観察された。この基板をさらにアセトンに3分間曝し続けるか、又はアセトンを含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で確認したところ、いずれの場合も膜は消失していた。
【0138】
また、成膜後の蒸着膜の透過率を、作製例1の(C)と同様に測定した。結果を下記(表1)に示す。波長320nmにおける透過率が6.1%、360nmにおける透過率が35.4%であり、透過率が低いことが認められた。
【0139】
【表1】

【0140】
(合成例1)
攪拌翼、バッフル、長さ調整可能な窒素導入管、冷却管、温度計をつけたセパラブルフラスコに 2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン158.を29重量部、ビス−(4−ブロモフェニル)−4−(1−メチルプロピル)−ベンゼンアミン136.を11重量部、トリカプリルメチルアンモニウムクロリド(ヘンケル社製 Aliquat336)を27重量部、トルエンを1800重量部を仕込み、窒素導入管より窒素を流しながら、攪拌下90℃まで昇温した。
【0141】
次に、酢酸パラジウム(II)を0.066重量部、トリ(o−トルイル)ホスフィンを0.45重量部加えた後、17.5%炭酸ナトリウム水溶液(573重量部)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、窒素導入管を液面より引き上げ、還流下で7時間保温した後、フェニルホウ酸を3.6重量部加え、14時間還流下保温し、室温まで冷却した。
【0142】
反応液水層を除いた後、反応液油層をトルエンで希釈し、3%酢酸水溶液、イオン交換水で洗浄した。分液油層にN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物を13重量部加え、4時間攪拌した。その後、活性アルミナとシリカゲルの混合カラムに通液し、トルエンを通液してカラムを洗浄した。
【0143】
上記濾液および洗液を混合した後、メタノールに滴下して、ポリマーを沈殿させた。得られたポリマー沈殿を濾別し、メタノールで沈殿を洗浄した後、真空乾燥機でポリマーを乾燥させ、ポリマー192重量部を得た。得られたポリマーを高分子化合物P1と記す。この高分子化合物P1のポリスチレン換算重量平均分子量および数平均分子量を下記のGPC分析法により求めたところ、ポリスチレン換算重量平均分子量は、3.7×10であり、数平均分子量は8.9×10あった。
【0144】
(GPC分析法)
ポリスチレン換算重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。GPCの検量線の作成にはポリマーラボラトリーズ社製標準ポリスチレンを使用した。測定する重合体は、約0.02重量%の濃度になるようテトラヒドロフランに溶解させ、GPC装置に10μL注入した。
【0145】
GPC装置は島津製作所製LC−10ADvpを用いた。カラムは、ポリマーラボラトリーズ社製のカラム(「PLgel」10μm MIXED−B カラム(300×7.5mm))を2本直列に接続して用い、移動相としてテトラヒドロフランを25℃、1.0mL/minの流速で流した。検出器はUV検出器を用い、228nmの吸光度を測定した。
【0146】
(作製例5)
(有機エレクトロルミネッセンス素子の作製)
基板としてITOの薄膜が表面にパターニングされたガラス基板を用い、このITO薄膜上に、作製例1と同様の手順で、膜厚10nmのAlドープMoO層(金属ドープモリブデン酸化物層)を真空蒸着法により蒸着した。
【0147】
成膜後、基板を大気中に取り出し、その蒸着膜上にスピンコート法により、合成例1で得た高分子化合物P1を成膜し、膜厚20nmのインターレイヤー層を形成した。取り出し電極部分及び封止エリアに成膜されたインターレイヤー層を除去し、ホットプレートで200℃、20分間ベイクを行った。
【0148】
その後、インターレイヤー層上に、高分子発光有機材料(RP158 サメイション社製)をスピンコート法により成膜し、膜厚90nmの発光層を形成した。取り出し電極部分及び封止エリアに成膜された発光層を除去した。
【0149】
これ以降の封止までのプロセスは、真空中あるいは窒素中で行い、プロセス中の素子が大気に曝されないようにした。
【0150】
真空の加熱室において、基板を基板温度約100℃で60分間加熱した。その後蒸着チャンバーに基板を移し、発光部及び取り出し電極部に陰極が成膜されるように、発光層面上に陰極マスクをアライメントした。さらにマスクと基板を回転させながら陰極を蒸着した。陰極として、金属Baを抵抗加熱法にて加熱し蒸着速度約0.2nm/秒、膜厚5nmにて蒸着し、その上に電子ビーム蒸着法を用いてAlを蒸着速度約0.2nm/秒、膜厚150nmにて蒸着した。
【0151】
その後、基板を、予め用意しておいた、UV硬化樹脂が周辺に塗布されている封止ガラスと貼り合わせ、真空に保ち、その後大気圧に戻し、UVを照射することで固定し、発光領域が2×2mmの有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
得られた有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラス基板/ITO膜/AlドープMoO層(金属ドープモリブデン酸化物層)/インターレイヤー層/発光層/Ba層/Al層/封止ガラスの層構成を有していた。
【0152】
(有機エレクトロルミネッセンス素子の評価)
作製した素子に、輝度が1000cd/mとなるよう通電し、電流−電圧特性を測定した。また、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてから、そのまま発光を持続させ、発光寿命を測定した。結果を後出の(表2)及び(表3)に示す。後述する参考例2と比較して、最大電力効率が若干高く、1000cd/m発光時の駆動電圧が低下し、寿命が約1.6倍延長している。
【0153】
(作製例6)
AlドープMoO層(金属ドープモリブデン酸化物層)を、作製例3と同様の手順で成膜した他は、作製例5と同様に操作し、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製し、電流−電圧特性及び発光寿命を測定した。発光寿命は、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させて測定した。結果を下記(表2)及び(表3)に示す。下記参考例2と比較して、最大電力効率が若干高く、1000cd/m発光時の駆動電圧が低下し、寿命が約2.4倍延長している。
【0154】
(参考例2)
AlドープMoO層を成膜する代わりに、参考例1と同様の手順でMoO層を成膜した他は、作製例5と同様に操作し、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製し、電流−電圧特性及び発光寿命を測定した。発光寿命は、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてから、そのまま発光を持続させて測定した。結果を下記(表2)及び(表3)に示す。
【0155】
【表2】

【0156】
【表3】

【0157】
以下の作製例7、8では、画素電極の面積を可能な限り広くするために角部を有する形状とした画素領域へ有機発光インキを塗布漏れを生じさせることなく、画素領域の全面に隈無く塗布することによる効果を確認した。また、以下に示す作製例7、8は、アクティブマトリックス型有機EL素子を対象として実施したが本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、この駆動方式の有機エレクトロルミネッセンス素子に限定されるものではなく、パッシブマトリックス型などの他の駆動方式の有機エレクトロルミネッセンス素子に対しても同様に適用することができる。
【0158】
(作製例7)
(基板の準備および陽極の形成)
まず、200mm(縦)×200mm(横)×0.7mm(厚み)の透明ガラス板上にTFTアレイと陽極(画素電極)が形成された基板を準備した。ITO薄膜を形成し、さらにパターニングを行ってストライプ状の陽極を形成した。陽極の繰り返し間隔(ピッチ)は、80μmで、陽極の幅(ライン幅)70μmに対して陽極間の間隔(スペース幅)は10μmであった(ライン/スペース=70μm/10μm)。基板の厚み方向の一方から見て画素の形成される画素領域は、一方向に延びるITO薄膜上において、前記一方向に所定の間隔をあけて島状に設定される。
【0159】
(隔壁の形成)
次に、上記基板上の全面に、ポジ型フォトレジスト(東京応化工業(株)製、商品名「OFPR−800」)をスピンコーティング法により塗布し、この塗膜を乾燥させて、膜厚1μmのフォトレジスト層を形成した。
次に、TFT素子およびその他の配線を覆うという制約の下で画素領域が最大となるように設計されたフォトマスクを上記フォトレジスト層の上に配置し、アライメント露光機(大日本スクリーン製造社製、商品名「MA1300」)から前記フォトマスクを介して前記フォトレジスト層に紫外線を照射した(露光工程)。
前記露光工程に続いて、レジスト現像液(東京応化工業(株)製、商品名「NMD−3」)を用いて、前記フォトレジスト層の露光部を除去した(現像工程)。
続いて、上記ガラス基板をホットプレート上で230℃で1時間加熱処理を行なって、上記現像後のフォトレジスト層を完全に加熱硬化させた(熱硬化工程)。
上記一連のフォトリソグラフィー工程により、画素の形成される画素領域を囲う隔壁(有機絶縁層)が形成され、この隔壁の内部で陽極が露出する。得られた隔壁ラインの幅寸法は、20μmであり、高さ寸法は、1μmであった。また、各画素領域は多数の角部を有し最大幅50μm×最大長さ150μmの異形形状であった。
【0160】
次に、CF4ガスを用いた真空プラズマ装置(サムコインターナショナル研究社製、商品名「RIE−200L」)を用いて、隔壁に撥液処理を行った。
【0161】
(正孔注入層の形成)
次に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(Bayer社製、商品名「BaytronP AI4083」)の懸濁液を調製し、この件濁液を0.2μmメンブランフィルターで濾過した。この濾過液をノズルコート法により上記画素領域に塗布した。続いて、この塗布層を200℃×20分間、加熱処理して、60nm厚の正孔注入層を形成した。
【0162】
(発光層の形成)
アニソールとシクロヘキシルベンゼンとを重量比7:3で混合した混合溶媒に、有機発光材料として高分子発光材料(サメイション社製、商品名「RP158」)を溶解させた有機発光インキ(高分子発光材料の濃度:1重量%)を準備した。なお、使用した混合溶媒中のシクロヘキシルベンゼンの沸点は200℃以上であり、アニソールの沸点は200℃未満である。
【0163】
使用するフレキソ印刷版(材質:ポリエステル系樹脂、凸版凸部の高さ100μm)のストライプ形状凸部の先端面の幅寸法を、上記各画素領域の最大幅(画素電極開口部の幅)50μmの60%に相当する30μmに設定した。この凸版を用いて、フレキソ印刷装置(日本写真印刷社製、商品名「SDR−10」)により、画素領域に凸版の先端面に付着させた上記有機発光インキが押し当てるように位置調整をして印刷した。印刷後の有機発光インキは上記凸部による押圧により広がり、有機発光インキにより異型形状の画素領域内の画素電極の全面が覆われ、乾燥後も、塗り残し部の発生がなかった。
【0164】
上記塗り残し部の有無の確認は、各画素領域内に形成された発光層の形状を光学顕微鏡(ニコン社製、商品名「オプチフォト88」、対物レンズ倍率:50倍)にて観察することにより行った。画素領域を画成している隔壁および正孔注入層から有機発光インキがはじかれた痕跡はなく、発光層は異形形状の画素領域の全ての角部を含む全域に成膜していることが確認された。
【0165】
(陰極の形成)
次に、上記発光層の上に、陰極として、カルシウムを100Åの厚さで蒸着し、さらに、酸化保護層としてアルミニウムを2000Åの厚さで蒸着した。これにより、ボトムエミッション構造の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0166】
上述のようにして得た有機エレクトロルミネッセンス素子を発光させたところ、発光強度は、発光面全面に亘って均一であり、単位面積あたりの発光量も、従来品に比較して向上していることが確認された。
【0167】
(作製例8)
基板の準備から隔壁形成による画素領域の形成を行い、正孔注入層を形成するまでは、上記作製例7と同様に実施したので、それらの工程の詳細は省略し、その後の発光層の形成以降を以下に説明する。
【0168】
(発光層の形成)
有機発光材料として高分子発光材料(サメイション社製、商品名「RP158」)をキシレン単独溶媒に溶解させた有機発光インキ(濃度:1重量%、粘度:10cp)を準備した。なお、使用したキシレンの沸点は200℃未満である。
【0169】
使用するフレキソ印刷版(材質:ポリエステル系樹脂、凸版凸部の高さ100μm)のストライプ形状凸部の先端面の幅寸法を、上記各画素領域の最大幅(画素電極開口部の幅)50μmより広い60μmに設定した。この凸版を用いて、フレキソ印刷装置(日本写真印刷社製、商品名「SDR−10」)により、画素領域の電極露出部に凸版の先端面に付着させた上記有機発光インキが押し当てられるように位置調整をして印刷した。印刷後の有機発光インキは上記凸部による押圧により広がり、有機発光インキにより異型形状の画素領域内の画素電極の全面が覆われ、乾燥後も、塗り残し部の発生がなかった。
【0170】
上記塗り残し部の有無の確認は、各画素領域内に形成された発光層の形状を光学顕微鏡(ニコン社製、商品名「オプチフォト88」、対物レンズ倍率:50倍)にて観察することにより行った。画素領域を画成している隔壁および正孔注入層から有機発光インキがはじかれた痕跡はなく、発光層は異形形状の画素領域の全ての角部を含む全域に成膜していることが確認された。
【0171】
(陰極の形成)
次に、上記発光層の上に、陰極として、カルシウムを100Åの厚さで蒸着し、さらに、酸化保護層としてアルミニウムを2000Åの厚さで蒸着した。これにより、ボトムエミッション構造の有機EL素子を作製した。
【0172】
上述のようにして得た有機EL素子を発光させたところ、発光強度は、発光面全面に亘って均一であり、単位面積あたりの発光量も、従来品に比較して向上していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】有機EL素子の製造において画素電極の面積を可能な限り広くするように絶縁性隔壁のパターンを設計した場合に得られる画素領域の形状の一例を示す隔壁形成面の平面構成図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】本発明の有機EL素子の製造方法における発光層の形成を、乾燥速度の遅い有機発光インキを用いるとともに、フレキソ印刷版の凸部の先端面の幅を画素領域の幅寸法より小さく設定して行う場合の印刷工程を説明するためのもので、画素領域に対してインキを接触させる前の状態を示す図である。
【図4】本発明の有機EL素子の製造方法における発光層の形成を、乾燥速度の遅い有機発光インキを用いるとともに、フレキソ印刷版の凸部の先端面の幅を画素領域の幅寸法より小さく設定して行う場合の印刷工程を説明するためのもので、画素領域に対してインキを接触させ、印刷版の凸部で押し付けた状態を示す図である。
【図5】図4に示した工程の後のインキ塗布状態を示す画素領域の平面図である。
【図6】図4に示した工程の後、フレキソ印刷版が離され、インキが乾燥された状態を示す有機EL素子の基板の側断面図である。
【図7】本発明の有機EL素子の製造方法における発光層の形成を、乾燥速度の速い有機発光インキを用いるとともに、フレキソ印刷版の凸部の先端面の幅を画素領域の幅寸法より大きく設定して行う場合の印刷工程を説明するためのもので、画素領域に対してインキを接触させる前の状態を示す図である。
【図8】本発明の有機EL素子の製造方法における発光層の形成を、乾燥速度の速い有機発光インキを用いるとともに、フレキソ印刷版の凸部の先端面の幅を画素領域の幅寸法より大きく設定して行う場合の印刷工程を説明するためのもので、画素領域に対してインキを接触させ、印刷版の凸部で押し付けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0174】
1 絶縁性隔壁
2 画素領域
3 陽極
3a 画素電極
4 有機発光インキ
10 基板
11 金属ドープモリブデン酸化物層
12、22 凸版印刷版
13、23 凸版印刷版の凸部
13a、23a 凸部の先端面
c 画素領域の角部
、l 凸版印刷に用いる版の凸部先端面の幅寸法
画素領域の幅寸法
絶縁性隔壁の幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極および陰極間に配置された発光層と、前記陽極および前記発光層の間に配置された金属ドープモリブデン酸化物層とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
上記陽極が形成された基板を用意する工程と、
金属ドープモリブデン酸化物層形成工程と、
前記陽極の前記発光層が形成される側に、角部を有する形状の画素領域を画成する隔壁を形成する隔壁形成工程と、
前記隔壁により画成された画素領域に、発光層を構成する有機発光材料と溶媒とを含む有機発光インキを凸版印刷法を用いて供給して、前記画素領域に発光層を形成する発光層形成工程と、
陰極を形成する工程とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記金属ドープモリブデン酸化物層形成工程では、酸化モリブデンとドーパント金属とを同時に堆積することにより金属ドープモリブデン酸化物層を形成することを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記金属ドープモリブデン酸化物層を加熱する工程をさらに含む請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率を50%以上とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属を、遷移金属、周期表13族の金属及びこれらの混合物からなる群より選択する請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記ドーパント金属としてアルミニウムを用いる請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に含まれるドーパント金属の割合を、0.1〜20.0mol%とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記有機発光インキの溶媒として沸点温度200℃以上の溶媒を含有する溶媒を用いるとともに、前記凸版印刷に用いる版の凸部の先端面の幅寸法lを前記画素領域の幅寸法Lの99%〜50%に設定することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記有機発光インキの溶媒として沸点温度200℃以上の溶媒を実質的に含有しない溶媒を用いるとともに、前記凸版印刷に用いる版の凸部の先端面の幅寸法lを、前記画素領域の幅寸法Lよりも大きく、{(前記幅寸法L)+(前記隔壁の幅寸法L)/2}未満に設定することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記凸版印刷に用いる版の凸部が、被印刷物に順次押圧される方向に沿って線状に配置されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
発光層形成工程では、前記有機発光インキとして多色に対応した多種のインキを所定の隔壁内に選択的に塗布し、少なくとも赤、緑、青の三色の画素を構成する発光層をそれぞれ形成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法により得られた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明装置。
【請求項14】
請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える面状光源。
【請求項15】
請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−129345(P2010−129345A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302288(P2008−302288)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】