説明

有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法並びに有機エレクトロルミネッセンス表示装置

【課題】結晶構造を含み、かつ平坦な酸化モリブデン層を具備することによって、抵抗率やイオン化ポテンシャルを最適化し、キャリア注入性や輸送性を向上させ、高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法並びに有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供すること。
【解決手段】正孔注入電極である陽極と、陽極に対向するように設けられた電子注入電極である陰極と、陽極と陰極との間に設けられた有機発光層と、を備え、陽極と有機発光層との間に設けられ、結晶とアモルファスとが混合または積層した酸化モリブデン層とを備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法並びに有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関し、特に、有機薄膜のエレクトロルミネッセンス(以下、「EL」という)現象を利用した有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法並びに有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陽極としての電極と、陰極としての電極との間に、エレクトロルミネッセンス現象を呈する有機発光層を挟持してなる構造を有し、電極間に電圧が印加されると、有機発光層に正孔と電子が注入され、この正孔と電子とが有機発光層で再結合することにより、有機発光層が発光する自発光型の素子である。
【0003】
さらに、発光効率を増大させるなどの目的から、陽極と有機発光層との間に正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層(インターレイヤ層)、又は、有機発光層と陰極との間に正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層などが適宜選択して設けられている。そして、有機発光層とこれら正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層(インターレイヤ層)、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層などを合わせて発光媒体層と呼ばれている。
【0004】
これら発光媒体層の各層は、主に有機材料を有する低分子系材料若しくは高分子系材料と無機材料がある。
【0005】
低分子系材料としては、例えば、正孔注入層に銅フタロシアニン(CuPc)、正孔輸送層にN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン(TPD)、有機発光層にトリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、電子輸送層に2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチル−フェニル)−1,3,4,−オキサジゾール(PBD)、電子注入層にLiF、などが用いられている。
【0006】
これら低分子系材料よりなる発光媒体層の各層は、一般に0.1nm以上200nm以下の厚みで、主に抵抗加熱方式などの真空蒸着法やスパッタリング法などの真空中のドライプロセスによって成膜されている。
【0007】
また、低分子系材料は種類が豊富で、その組み合わせによって発光効率や発光輝度、寿命などの向上が期待されている。
【0008】
高分子系材料としては、例えば、有機発光層に、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾールなどの高分子中に低分子の発光色素を溶解させたものや、ポリフェニレンビニレン誘導体(以下、「PPV」と略す)、ポリアルキルフルオレン誘導体(以下、「PAF」と略す)等の高分子蛍光体、希土類金属錯体系等の高分子燐光体が用いられている。
【0009】
これら高分子系材料は一般に、溶剤に溶解または分散され、塗布や印刷などのウエットプロセスを用いて、1nm以上100nm以下の厚みで成膜されている。
【0010】
ウエットプロセスを用いた場合、真空蒸着法などの真空中のドライプロセスを用いた場合に比べ、大気中で成膜が可能である、設備が安価である、大型化が容易である、短時間に効率よく成膜可能である、などの利点がある。
【0011】
また、高分子系材料を用いて成膜した有機薄膜は結晶化や凝集が起こりにくく、さらには他層のピンホールや異物を被覆するため、短絡やダークスポットなどの不良を防ぐことができる利点もある。
【0012】
一方、無機材料はLi、Na、K、Rb、Ce及びFrなどのアルカリ金属元素や、Mg、Ca、Sr及びBaなどのアルカリ土類金属元素、La、Ce、Sm、Eu、Gd、Ybなどのランタノイド系元素、Au、Cu、Al、Fe、Ni、Ru、Sn、Pb、Cr、Ir、Nb、Pt、W、Mo、Ta、Pa及びCoなどの金属元素、Si、Ge、またはこれらの酸化物、炭化物、窒化物、硼化物などの化合物がある。
【0013】
無機材料は有機材料より密着性や熱安定性が高いものが多く、ダークスポットと称する非発光領域発生の低減、発光特性や寿命向上などが期待される。また、無機材料は有機材料に比べ比較的安価で大盤のディスプレイや、量産品への応用を考えた場合、コスト低減の点で重要な役割を果たす。
【0014】
この特徴を利用して、特許文献1では、有機層発光層と正孔注入電極である陽極との間に無機材料を用いた無機正孔注入層を設ける構成が開示されている。
【0015】
また、特許文献2及び特許文献3では、有機発光層と電子注入電極である陰極との間に無機材料を用いた無機酸化物電子注入層を設ける構成が開示されている。
【0016】
このうち特に酸化モリブデンは、成膜が容易である、正孔注入電極から正孔注入機能や正孔輸送機能が他の無機材料に比べて比較的高い、として有用な材料であることが知られている。
【0017】
一般に、正孔注入輸送機能はキャリア数、キャリア移動度、または両者によって決定する抵抗率、正孔注入機能はIP(イオン化ポテンシャル)などに起因するが、酸化モリブデンをはじめとする無機材料は有機材料に比べると通常抵抗率が高く、IPは陽極と差があり、正孔注入機能、正孔輸送機能はまだ不十分で、電流が流れにくく、十分な発光輝度が得られない。また、電子に対し十分な正孔が発光層まで注入されない、即ちキャリアバランスが崩れるため発光効率が低いなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平11−307259号公報
【特許文献2】特許第3692844号公報
【特許文献3】特許第3773423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、結晶構造を含み、かつ平坦な酸化モリブデン層を具備することによって、抵抗率やイオン化ポテンシャルを最適化し、キャリア注入性や輸送性を向上させ、高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法並びに有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の請求項1に係る発明は、正孔注入電極である陽極と、陽極に対向するように設けられた電子注入電極である陰極と、陽極と陰極との間に設けられた有機発光層と、を備え、陽極と有機発光層との間に設けられ、結晶とアモルファスとが混合または積層した酸化モリブデン層とを備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0021】
本発明の請求項2に係る発明は、酸化モリブデン層の膜厚が30nm以上150nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0022】
本発明の請求項3に係る発明は、酸化モリブデン層は、酸化モリブデンの結晶を含む結晶含有層が、陽極と酸化モリブデンの結晶を含まないアモルファス層との間に挟持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0023】
本発明の請求項4に係る発明は、結晶含有層の膜厚が2nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0024】
本発明の請求項5に係る発明は、アモルファス層の膜厚が5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0025】
本発明の請求項6に係る発明は、正孔注入電極である陽極を形成し、陽極上に物理気相成長法を用いて、結晶とアモルファスとが混合または積層した酸化モリブデン層を形成し、酸化モリブデン層上に有機発光層を形成し、有機発光層上に電子注入電極である陰極を形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0026】
本発明の請求項7に係る発明は、酸化モリブデン層の膜厚が30nm以上150nm以下であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0027】
本発明の請求項8に係る発明は、結晶とアモルファスとが混合した酸化モリブデン層を加熱しながら物理気相成長法を用いて成膜することを特徴とする請求項6又は7に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0028】
本発明の請求項9に係る発明は、加熱成膜の温度が60℃以上、300℃未満で結晶とアモルファスとが混合した酸化モリブデン層を形成することを特徴とする請求項8に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0029】
本発明の請求項10に係る発明は、酸化モリブデン層は、酸化モリブデンの結晶を含む結晶含有層が、陽極と酸化モリブデンの結晶を含まないアモルファス層との間に挟持されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0030】
本発明の請求項11に係る発明は、酸化モリブデンの結晶を含む結晶含有層が、加熱しながら物理気相成長法を用いて成膜することを特徴とする請求項10に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0031】
本発明の請求項12に係る発明は、アモルファス層は、加熱せずに物理気相成長法を用いて成膜することを特徴とする請求項10又は11に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0032】
本発明の請求項13に係る発明は、結晶含有層の加熱成膜の温度が300℃以上であり、アモルファス層の成膜温度が60℃未満であることを特徴とする10乃至12のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0033】
本発明の請求項14に係る発明は、結晶含有層の膜厚が2nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0034】
本発明の請求項15に係る発明は、アモルファス層の膜厚が5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0035】
本発明の請求項16に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を、表示素子として備えたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置としたものである。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、結晶構造を含み、かつ平坦な酸化モリブデン層を具備することによって、抵抗率やイオン化ポテンシャルを最適化し、キャリア注入性や輸送性を向上させ、高発光効率、高発光輝度、長寿命、かつ欠陥が無い有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法並びに有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る凸版印刷装置の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る有機EL素子を用いた表示装置の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態の説明において参照する図面は、本発明の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さ、寸法等は、実際のものとは異なる。また、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る有機EL素子100は、基板101、陽極102、発光媒体層103、陰極105を備えている。発光媒体層103は、正孔注入層103a、インターレイヤ層103b、有機発光層103c、電子注入層103dを有している。
【0040】
本発明の実施の形態に係る基板101が表示側である場合には、透光性があり、ある程度の強度がある基材を使用することができる。基板101の材料には、例えば、ガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。厚み0.2mm〜1.0mmのガラス基板を用いれば、バリア性が非常に高い薄型の有機EL素子100を得ることができる。
【0041】
本発明の実施の形態に係る陽極102には、透明または半透明の電極を形成することができる導電性物質を好適に使用することができる。
【0042】
陽極102の材料には、例えば、インジウムと錫との複合酸化物(以下、「ITO」と略す)、インジウムと亜鉛との複合酸化物(以下、「IZO」と略す)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等が挙げられる。
【0043】
低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性が高い等からITOを好ましく用いることができ、基板101上に真空蒸着法またはスパッタリング法などにより成膜することができる。
【0044】
また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基板101上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法等により形成することもできる。あるいは、金属としてアルミニウム、金、銀等の金属を半透明状に蒸着することもできる。あるいはポリアニリン等の有機半導体も用いることができる。
【0045】
陽極102は、必要に応じてエッチング等によりパターニングを行うことができる。また、UV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行うこともできる。
【0046】
本発明の実施の形態に係る発光媒体層103は、複数の機能層より構成され、例えば、正孔注入層103a、正孔輸送層(図示せず)、電子ブロック層(インターレイヤ層)103b、有機発光層103c、正孔ブロック層(図示せず)、電子輸送層(図示せず)、電子注入層103d、絶縁保護層(図示せず)等が挙げられる。
【0047】
図1に示すように、発光媒体層103は正孔注入層103a、インターレイヤ層103b、有機発光層103c、電子注入層103dを有しているが、発光媒体層103の層構成は任意に選択することができる。
【0048】
本発明の実施の形態に係る正孔注入層103aの材料には、正孔輸送材料として用いられているものを好適に使用することができ、例えば、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、無機材料などが挙げられる。
【0049】
無機材料には、Li、Na、K、Rb、Ce、およびFrなどのアルカリ金属元素や、Mg、Ca、SrおよびBaなどのアルカリ土類金属元素、La、Ce、Sm、Eu、Gd、Ybなどのランタノイド系元素、Au、Cu、Al、Fe、Ni、Ru、Sn、Pb、Cr、Ir、Nb、Pt、W、Mo、Ta、PaおよびCoなどの金属元素、Si、Ge、またはこれらの酸化物、炭化物、窒化物、硼化物などの化合物がある。
【0050】
本発明の実施の形態に係るインターレイヤ層103bの材料には、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体などの、芳香族アミンを含むポリマーなどが挙げられる。これらの材料は溶媒に溶解または分散させ、スピンコータ等を用いた各種塗布方法や凸版印刷方法を用いて形成される。またインターレイヤ層103bの材料として無機材料を用いる場合、金属酸化物を真空蒸着法やスパッタリング法やCVD法を用いて形成される。
【0051】
本発明の実施の形態に係る有機発光層103cに用いる有機発光体としては、一般に有機発光材料として用いられているものを好適に使用することができ、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系等、一重項状態から発光可能な蛍光性低分子系材料や、希土類金属錯体系の三重項状態から発光可能な公知の燐光性低分子系材料が挙げられ、これらは真空中の真空蒸着法等のドライプロセスで成膜ができる。
【0052】
また、前述した材料をトルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて有機発光塗布液として用いれば、大気中のウエットプロセスによる成膜ができる。
【0053】
また、有機発光層103cの高分子系材料としては、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系等の蛍光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解させたものや、PPV系やPAF系等の高分子蛍光発光体や、希土類金属錯体を含む高分子燐光発光体などの高分子発光体を用いることができる。
【0054】
これら高分子系材料はトルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて有機発光塗布液とし大気中のウエットプロセスにより成膜できる。
【0055】
特にトルエン、キシレン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン等の芳香族系溶媒は高分子系材料の溶解性が良く、扱いも容易であることからより好ましい。
【0056】
本発明の実施の形態に係る電子注入層103dの材料には、フッ化リチウムや酸化リチウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、およびその塩や酸化物等を好適に用いることができ、真空中の真空蒸着等のドライプロセスによる成膜ができる。
【0057】
発光媒体層103の各層の厚みは任意であるが0.1nm〜200nmが好ましい。
【0058】
本発明の実施の形態に係る陽極の対向電極である陰極105は、Mg、Al、Yb等の金属単体、電子注入効率と安定性とを両立させることのできる仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えば、MgAg、AlLi、CuLi等の合金が使用できる。
【0059】
陰極105の形成方法は材料に応じて、抵抗加熱蒸着法などの真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法等を用いることができる。陰極の厚さは、10nm〜1000nm程度が好ましい。
【0060】
十分な発光効率及び発光輝度、寿命を得る為には、そのうち少なくとも有機発光層103cと他の1層以上の機能層を積層した構造が好ましい。
【0061】
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る有機EL素子100は、発光媒体層103の一部に結晶構造を含む酸化モリブデン層104を設けることにより抵抗率、IP(イオン化ポテンシャル)を変化させ電子と正孔とのキャリアバランスを最適化する事で高発光効率、高発光輝度、長寿命な有機EL素子100及び有機EL表示装置300を得ることができる。
【0062】
抵抗率、IPは化合物の結晶性などによって異なることが知られている。結晶性が低くアモルファス性が高い場合、抵抗率が高い、IPが小さい、などの特徴がある。
【0063】
一方、結晶性が高くアモルファス性が低い場合は、抵抗率が低い、IPが大きい、膜安定性が高い、膜平坦性が低いなどの特徴がある。
【0064】
本発明の実施の形態に係る酸化モリブデンは成膜が容易である、などの特徴から他の無機材料より好ましい。
【0065】
結晶構造を含む酸化モリブデン層104の膜厚は十分なキャリア注入性が得られ、抵抗が高くなり過ぎない30nm以上150nm以下であることが好ましい。
【0066】
酸化モリブデン層104は正孔注入性、正孔輸送性に優れているため陽極102と有機発光層103cの間に具備されていることが好ましい。
【0067】
図3に示すように、本発明の実施の形態に係る酸化モリブデン層104において、酸化モリブデンの結晶を含む結晶含有層104aを、陽極102と酸化モリブデンの結晶を含まないアモルファス層104bに挟持させることで、陽極102と酸化モリブデンのイオン化ポテンシャル差をより小さくし、正孔の注入を促進し、正孔の注入後は結晶含有層104aをアモルファス層104bよりもスムーズに移動することができ、結晶性が高くなった膜表面に生じる、微結晶体の凹凸や突起による膜平坦性の低下やピンホールなどの画素欠陥、電流ショートを抑制し、高発光効率、高発光輝度、長寿命、ピンホールやダークスポットのない有機EL素子100及び有機EL表示装置300を得ることができる。
【0068】
結晶含有層104aの膜厚は、十分な注入と輸送が得られ、かつ抵抗が高くなりすぎない2nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0069】
アモルファス層104bの膜厚は、結晶含有層104aの凹凸や突起を十分被覆し、かつ抵抗が高くなり過ぎない5nm以上30nm以下であることが好ましい。
【0070】
結晶含有層104aとアモルファス層104bとの界面は、結晶含有層104aからアモルファス層104bにかけて徐々に結晶性を低下させ勾配をつけても良い。
【0071】
図2において、酸化モリブデン層104は正孔注入層103aとして設けられているが、任意の層として設けることができる。さらには、複数の酸化モリブデン層104を機能層として用いることもできる。
【0072】
酸化モリブデン層104は、酸化モリブデン粉末を抵抗加熱、または電子ビームなどにより真空蒸着する製造方法、それら真空蒸着にOガスを導入しながら成膜する方法、ArガスとOガスとを用いたリアクティブスパッタ法があり、その各々に対して基板加熱しながら成膜する製造方法(加熱成膜)、または成膜後に加熱するなどの方法で結晶を含む酸化モリブデン層104を作製できる。特に加熱成膜は成膜中に微結晶を形成可能であるため工程が少なく、また加熱温度に関しても、成膜後に加熱するより比較的低温で微結晶を形成できるため好ましい。なお酸化モリブデン層104のアモルファス層104bは加熱なしの室温成膜により作製することができる。
【0073】
加熱温度によって結晶度合いや割合は変化するが加熱成膜であれば60℃以上、成膜後であれば180℃以上で作製することができる。一般に膜全体が完全な結晶でない微結晶でも抵抗率やIPなどの物性は異なる。加熱温度が高いほど結晶度合いは大きくなり、加熱成膜では300℃以上、成膜後の加熱であれば400℃以上の加熱でほぼ明確な結晶性がX線回折で確認される。
【0074】
また60℃以上300℃未満の加熱では、X線回折では明確な結晶性が確認されない場合があるが、その場合においても加熱によって、導電率の向上が見られる。これは、酸化モリブデンの膜中に極微細な結晶粒子が形成されているためだと考えられる。室温成膜と100℃での加熱成膜で膜厚100nmの酸化モリブデン層104の抵抗率の比較を表1に示した。表1に示すように、加熱により大きく導電率が向上したことが確認できる。
【0075】
【表1】

【0076】
従って、加熱成膜で60℃以上300℃未満、成膜後の加熱で180℃以上400℃未満の温度で処理して酸化モリブデン層104を形成することにより、結晶とアモルファスの混合した酸化モリブデン層104が容易に形成することができる。結晶度合いは温度により制御することができる。
【0077】
複数の酸化モリブデン層104を形成する場合には、一層を結晶含有層104aとし、さらに層を前後してアモルファス層104bを積層することが好ましい。これにより、発光効率と、電流ショートを抑制が両立することができるからである。この場合には、結晶含有層104aは結晶度合いが高いことが好ましいため、加熱成膜で300℃以上、成膜後の加熱で400℃以上が好ましい。製造方法としては、まず加熱成膜により結晶含有層104aを形成し、その上に加熱なしの室温成膜でアモルファス層104bを形成すると容易である。
【0078】
また、リアクティブスパッタリング法を製造方法として用いる場合、基板温度によって結晶性や膜質が変化することがThorntonによる薄膜の微細モデルとして知られており、目的に応じて物性を変化させることができる(詳細は、J.A.Thornton:J.Vac.Sci.T.,11、666(1974)参照)。
【0079】
酸素量は任意であるが、モリブデン金属ターゲットを用いたリアクティブスパッタリング法では、全ガス圧中の酸素分圧を変化させることによって組成比を変化させることができる。装置や全ガス圧によって条件は異なるが、酸素濃度は10%以上で酸化モリブデン層104を成膜することができる。
【0080】
また全ガス圧はプラズマ着火閾値を考慮して0.1Pa〜2.0Paの間であることが好ましい。
【0081】
一方、アモルファス層104bは通常、基板温度をかけず室温で成膜することで作製することができる。特に成膜温度は60℃未満であることが良好なアモルファス層104bを形成可能であり好ましい。
【0082】
これらの方法を用いて、図3に示すように、例えば基板を180℃に加熱しながら結晶含有層104aをリアクティブスパッタリング法によって成膜し、基板温度を室温に戻してからアモルファス層104bを積層することで、酸化モリブデン層104を形成することができる。
【0083】
モリブデンに対する酸素の組成比は主にX線光電子分光(XPS)などの組成分析によって、結晶性はX線回折(XRD)で確認することができる。
【0084】
図2及び図3においては、基板101上に陽極102としての電極から積層されているが、陰極105からの積層も適宜できる。
【0085】
図2及び図3においては、基板101側が表示側であるが、基板101側と反対側からの表示も適宜できる。
【0086】
上述のウエットプロセスには塗布法、印刷法などがあり、塗布法にはスピンコータ、バーコータ、ロールコータ、ダイコータ、グラビアコータ等があるが、これらは直接パターンを形成することが困難であるのに対し、印刷法は容易に直接パターンを形成することができる。
【0087】
このことから、ウエットプロセスにより発光媒体層103を成膜する際には、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法などの印刷法を好適に用いることができる。
【0088】
特に凸版印刷法は、塗布液の粘性特性が良好な粘度範囲で、基材を傷つけることのなく印刷することができ、塗布液材料の利用効率が良い点から有機EL素子の製造に適している。
【0089】
図4には、発光媒体層103の材料を有する塗布液を、電極等が形成された被印刷基板201上にパターン印刷する際の、凸版印刷装置200の概略断面図を示している。
【0090】
本発明の実施の形態に係る凸版印刷装置200は、インクタンク202、インクチャンバ203、アニロックスロール204、凸版が設けられた版205がマウントされた版胴206を有している。インクタンク202には、発光媒体層103の材料を有する塗布液が収容されており、インクチャンバ203にはインクタンク202より塗布液が送り込むことができる。アニロックスロール204はインクチャンバ203の塗布液供給部に接して回転可能に指示されている。
【0091】
アニロックスロール204の回転に伴い、アニロックスロール204の表面に供給された塗布液の塗布層204aは均一な膜厚に形成される。この塗布層204aはアニロックスロール204に近接して回転駆動される版胴206にマウントされた版205の凸部に転移する。
【0092】
平台207には、被印刷基板201が版205の凸部による印刷位置にまで図示していない搬送手段によって搬送されるようになっている。そして、版205の凸部にあるインクは被印刷基板201に対して印刷され、必要に応じて乾燥工程を経ることで、被印刷基板201上に、好適に発光媒体層103を成膜することができる。
【0093】
凸版が設けられた版205は、感光性樹脂凸版が好ましい。感光性樹脂凸版は、露光した樹脂版を現像する際に用いる現像液が有機溶剤である溶剤現像タイプのものと現像液が水である水現像タイプのものがあるが、溶剤現像タイプのものは水系のインクに対し耐性を示し、水現像タイプのものは有機溶剤系のインクに耐性を示す。発光媒体層103の材料を有する塗布液の特性に従い、溶剤現像タイプ、水現像タイプを好適に選ぶことができる。
【0094】
図2または図3に示した有機EL素子100は、例えば、酸化モリブデン層104を正孔注入層103aとして真空中で設けた後、インターレイヤ層103b、有機発光層103cを、大気中で凸版印刷装置200を用いた凸版印刷法により形成し、真空中で電子注入層103dを形成し製造することができる。
【0095】
さらには、正孔注入層103aを真空中で形成し、有機発光層103cを大気中で凸版印刷法により形成した後、真空中で電子注入層103dとして酸化モリブデン層104を形成するといったように、真空中での発光媒体層103の形成と、大気中での発光媒体層103の形成を好適に組み合わせて製造することもできる。
【0096】
本発明の実施の形態に係る有機EL素子100は、結晶構造を含み、かつ平坦な酸化モリブデン層104を具備しているため、抵抗率やイオン化ポテンシャルが最適化でき、キャリア注入性や輸送性を向上させ、高発光効率、高発光輝度、長寿命である有機EL素子100を得ることができる。
【0097】
図5に示すように、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置300は、基板306、活性層307、ゲート絶縁膜308、ゲート電極309、層間絶縁膜310、ドレイン電極311、走査線312、ソース電極313、画素電極314、隔壁315、酸化モリブデン層316、発光媒体層、対向電極319、絶縁保護層320を備えている。酸化モリブデン層316は結晶含有層316aとアモルファス層316bとを備え、発光媒体層はインターレイヤ層317及び有機発光層318を備えている。
【0098】
[基板306]
本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置300に用いる基板(バックプレーン)306は、薄膜トランジスタと有機EL素子100とが設けられている。
【0099】
薄膜トランジスタや、薄膜トランジスタの上方に構成される有機EL素子は基板306で支持される。基板306としては機械的強度、絶縁性を有し寸法安定性に優れた基板306であれば如何なる材料も使用することができる。
【0100】
本発明の実施の形態に係る基板306の材料は、例えば、ガラスや石英、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシート、または、これらプラスチックフィルムやシートに酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、弗化アルミニウム、弗化マグネシウム等の金属弗化物、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、酸窒化珪素などの金属酸窒化物、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂などの高分子樹脂膜を単層もしくは積層させた透光性基材や、アルミニウムやステンレスなどの金属箔、シート、板や、プラスチックフィルムやシートにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属膜を積層させた非透光性基材などを用いることができる。
【0101】
有機EL表示装置300の光取出しをどちらの面から行うかに応じて基板306の透光性を選択すればよい。前述した材料からなる基板306は、有機EL表示装置300内への水分の侵入を避けるために、無機膜を形成したり、フッ素樹脂を塗布したりして、防湿処理や疎水性処理を施してあることが好ましい。特に、発光媒体層への水分の侵入を避けるために、基板306における含水率およびガス透過係数を小さくすることが好ましい。
【0102】
基板306上に設ける薄膜トランジスタは、ドレイン電極311、ソース電極313及びチャネル領域が形成される活性層307、ゲート絶縁膜308及びゲート電極309を備えている。薄膜トランジスタの構造としては、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられるが本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0103】
本発明の実施の形態に係る活性層307は、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料又はチオフエンオリゴマー、ポリ(p−フェリレンビニレン)等の有機半導体材料により形成することができるが本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0104】
活性層307は、例えば、アモルファスシリコンをプラズマCVD法により積層し、イオンドーピングする方法;SiHガスを用いてLPCVD法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法;Siガスを用いてLPCVD法により、また、SiHガスを用いてPECVD法によりアモルファスシリコンを形成し、エキシマレーザ等のレーザによりアニールし、アモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオンドーピング法によりイオンドーピングする方法(低温プロセス);減圧CVD法又はLPCVD法によりポリシリコンを積層し、1000℃以上で熱酸化してゲート絶縁膜を形成し、その上にnポリシリコンのゲート電極309を形成し、その後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法(高温プロセス)等が挙げられるが本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0105】
本発明の実施の形態に係るゲート絶縁膜308は、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiO;ポリシリコン膜を熱酸化して得られるSiO等を用いることができるが本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0106】
本発明の実施の形態に係るゲート電極309は、例えば、アルミ、銅等の金属;チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属;ポリシリコン;高融点金属のシリサイド;ポリサイド;等が挙げられるが本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0107】
本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタは、シングルゲート構造、ダブルゲート構造、ゲート電極309が3つ以上のマルチゲート構造であってもよい。また、LDD構造、オフセット構造を有していてもよい。さらに、1つの画素中に2つ以上の薄膜トランジスタが配置されていてもよい。
【0108】
本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタは、有機EL表示装置300のスイッチング素子として機能するように接続されている必要があり、薄膜トランジスタのドレイン電極311またはソース電極313と有機EL表示装置300の画素電極314とが電気的に接続されている。本発明の実施の形態では、アクティブマトリクス駆動型の有機EL表示装置300について説明するが、パッシブマトリクス駆動型の有機EL表示装置にも本発明を適用できる。
【0109】
[画素電極314]
図5に示すように、本発明の実施の形態に係る画素電極314は、基板306上の薄膜トランジスタのソース電極313に電気的に接続されて、必要に応じてパターニングで形成される。画素電極314は隔壁315によって区画され、各画素に対応した画素電極314となる。ここで、パッシブマトリクス駆動型の有機EL表示装置の画素電極314は、基板306上に成膜して、必要に応じてパターニングを行うことができる。
【0110】
画素電極314の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物や、金、白金などの金属材料や、これら金属酸化物や金属材料の微粒子をエポキシ樹脂やアクリル樹脂などに分散した微粒子分散膜を、単層もしくは積層したものをいずれも使用することができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0111】
画素電極314を陽極とする場合にはITOなど仕事関数の高い材料を選択することが好ましい。下方から光を取り出す、いわゆるボトムエミッション構造の場合は透光性のある材料を選択する必要がある。必要に応じて、画素電極314の配線抵抗を低くするために、銅やアルミニウムなどの金属材料を補助電極として併設してもよい。ここで、上方(基板306とは反対方向)から光を取り出す、いわゆるトップエミッション構造の場合は、基板306上に対向電極319から積層することができる。
【0112】
画素電極314の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法などを用いることができる。
【0113】
画素電極314のパターニング方法としては、材料や成膜方法に応じて、マスク蒸着法、フォトリソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法などを用いることができる。基板306として薄膜トランジスタを形成した物を用いる場合は下層の画素に対応して導通を図ることができるように形成する。
【0114】
[隔壁315]
本発明の実施の形態に係る隔壁315は、画素に対応した発光領域を区画するように形成することができる。図5に示すように、画素電極314の端部を覆うように形成するのが好ましい。アクティブマトリクス駆動型の有機EL表示装置300は各画素に対して画素電極314が形成され、各画素ができるだけ広い面積を占有しようとする。そのため、画素電極314の端部を覆うように形成される隔壁315の最も好ましい形状は各画素電極314を最短距離で区切る格子状を基本とする。
【0115】
隔壁315の形成方法としては、基体(画素電極314)上に無機膜を一様に形成し、レジストでマスキングした後、ドライエッチングを行う方法や、基体上に感光性樹脂を積層し、フォトリソグラフ法により所定のパターンとする方法が挙げられる。必要に応じて撥水剤を添加したり、プラズマやUVを照射して形成後にインクに対する撥液性を付与したりすることもできる。
【0116】
隔壁315の好ましい高さ(厚み)は0.1μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上2μm以下である。隔壁315の高さが10μmより高すぎると対向電極319の形成及び封止を妨げてしまい、隔壁315の高さが0.1μmより低すぎると画素電極314の端部を覆い切れない、あるいは発光媒体層の形成時に隣接する画素とショートしたり混色したりしてしまう。
【0117】
[発光媒体層]
本発明の実施の形態に係る発光媒体層は、酸化モリブデン層316、インターレイヤ層317及び有機発光層318を備えている。発光媒体層として用いることができる機能層は、酸化モリブデン層316やインターレイヤ層17に限定されるわけではなく、図示しないが正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層などを用いることができる。
【0118】
隔壁315の形成後、画素電極314上に正孔輸送層を形成することができる。正孔輸送材料としては、例えば、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。これらの材料は溶媒に溶解または分散させ、スピンコータ等を用いた各種塗布方法や凸版印刷方法を用いて形成される。
【0119】
無機材料にはLi、Na、K、Rb、Ce、およびFrなどのアルカリ金属元素や、Mg、Ca、SrおよびBaなどのアルカリ土類金属元素、La、Ce、Sm、Eu、Gd、Ybなどのランタノイド系元素、Au、Cu、Al、Fe、Ni、Ru、Sn、Pb、Cr、Ir、Nb、Pt、W、Mo、Ta、PaおよびCoなどの金属元素、Si、Ge、またはこれらの酸化物、炭化物、窒化物、硼化物などの化合物があり、蒸着法やスパッタリング法やCVD法を用いて形成される。
【0120】
図5においては、酸化モリブデン層316は正孔輸送層として設けられているが、任意の層として設けることができる。さらには、複数の酸化モリブデン層316を機能層として用いることもできる。
【0121】
酸化モリブデン層316は、酸化モリブデン粉末を抵抗加熱、または電子ビームなどにより真空蒸着する製造方法、それら真空蒸着にOガスを導入しながら成膜する方法、ArガスとOガスを用いたリアクティブスパッタ法があり、その各々に対して基板を加熱しながら成膜する製造方法、または成膜後に加熱するなどの方法で結晶を含む酸化モリブデン層316を作製できる。
【0122】
上述したように、加熱温度によって結晶度合いや割合は変化するが加熱成膜であれば60℃以上、成膜後であれば180℃以上で作製することができる。
【0123】
特にリアクティブスパッタ法を製造方法として用いる場合、基板温度によって結晶性や膜質が変化することがThorntonによる薄膜の微細モデルとして知られており、目的に応じて物性を変化させることができる(詳細は、J.A.Thornton:J.Vac.Sci.T.,11、666(1974)参照)。
【0124】
酸素量は任意であるが、モリブデン着金属ターゲットを用いたリアクティブスパッタ法では、全ガス圧中の酸素分圧を変化させることによって組成比を変化させることができる。装置によって条件は異なるが酸素濃度は10%以上で酸化モリブデン層316を成膜することができる。
【0125】
また全ガス圧はプラズマ着火閾値を考慮して0.1Pa〜2.0Paの間であることが好ましい。
【0126】
一方、アモルファス層316bは基板温度をかけず室温で成膜することで通常作製することができる。
【0127】
これらを用いて、図5のように基板加熱しながら結晶含有層316aをリアクティブスパッタ法によって成膜し、基板温度を室温に戻してからアモルファス層316bを積層することで、酸化モリブデン層316を形成することができる。
【0128】
モリブデンに対する酸素の組成比は主にX線光電子分光(XPS)などの組成分析によって、結晶性はX線回折(XRD)で確認することができる。
【0129】
酸化モリブデン層316の形成後、インターレイヤ層317を形成することができる。インターレイヤ層317に用いる材料として、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体などの、芳香族アミンを含むポリマーなどが挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。これらの材料は溶媒に溶解または分散させ、スピンコータ等を用いた各種塗布方法や凸版印刷方法を用いて形成される。またインターレイヤ層317の材料として無機材料を用いる場合、金属酸化物を真空蒸着法やスパッタリング法やCVD法を用いて形成される。
【0130】
インターレイヤ層317形成後、有機発光層318を形成することができる。有機発光層318は電流を通すことにより発光する層であり、有機発光層318を形成する有機発光材料は、例えばクマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N‘−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系などの発光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられるが本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0131】
これらの有機発光材料は溶媒に溶解または安定に分散させ有機発光インキとなる。有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの単独またはこれらの混合溶媒が上げられる。中でもトルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が有機発光材料の溶解性の面から好適である。また、有機発光インキには必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0132】
図5に示すように、有機EL素子100を用いたアクティブマトリックス駆動型の表示装置は、例えば、酸化モリブデン層316を正孔輸送層として真空中で設けた後、インターレイヤ層317、有機発光層318を、大気中で凸版印刷法により形成することもできる。
【0133】
[対向電極319]
図5に示すように、本発明の実施の形態に係る対向電極319を陰極とする場合には有機発光層318への電子注入効率の高い、仕事関数の低い物質を用いることができる。
【0134】
対向電極319の材料には、例えばMg、Al、Yb等の金属単体や、発光媒体層と接する界面にLiや酸化Li、LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いてもよい。または電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数が低いLi、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb等の金属1種以上と、安定なAg、Al、Cu等の金属元素との合金系を用いることができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。具体的にはMgAg、AlLi、CuLi等の合金が使用できる。上方から光を取り出す、いわゆるトップエミッション構造の場合は、対向電極319に透光性のある材料を選択する必要があり、画素電極314に用いたITO等の金属複合酸化物を対向電極319として用いることができる。対向電極319としてITOを用いる場合には、対向電極319と発光媒体層との間にLiや酸化Li、LiF等の化合物を用いることができる。
【0135】
対向電極319の形成方法は、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法を用いることができる。
【0136】
[絶縁保護層320]
封止材を設けた際に、封止材と有機EL素子との界面を通って外部から酸素や水分などのガスが侵入するのを防ぐために、絶縁保護層320を成膜する。絶縁保護層320の材料としては例えばLi、Na、K、Rb、Cs、Cu、Mg、Ba、Ca、Sr、Zn、Cd、Al、Ga、In、Sc、Y、Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Sb、Nb、Ta、Se、Cr、W、Fe、Co、Yb、Eu、Ce、La、Rb、Lu、Ho、Er、SmまたはTmから選ばれた一種単独または二種以上の原子を含む酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、炭化物、または弗化物等の無機化合物が挙げられる。さらに有機化合物であるが、絶縁保護層320の構成材料として、カーボンを用いることも好ましい。
【0137】
具体的には、絶縁保護層320を形成する無機化合物として、LiOx、LiNx、NaOx、KOx、RbOx、CsOx、BeOx、MgOx、MgNx、CaOx、CaNx、SrOx、BaOx、ScOx、YOx、YNx、LaOx、LaNx、CeOx、PrOx、NdOx、SmOx、EuOx、GdOx、TbOx、DyOx、HoOx、ErOx、TmOx、YbOx、LuOx、TiOx、TiNx、ZrOx、ZrNx、HfOx、HfNx、ThOx、VOx、VNx、NbOx、NbNx、TaOx、TaNx、CrOMnOx、ReOx、FeOx、FeNx、RuOx、OsOx、CoOx、RhOx、IrOx、NiOx、PdOx、PtOx、CuOx、CuNx、AgOx、AuOx、ZnOx、CdOx、HgOx、BOx、BNx、AlOx、AlNx、GaOx、GaNx、InOx、SiNx、GeOx、SnOx、PbOx、POx、PNx、AsOx、SbOx、SeOx、TeOxなどの金属酸化物や金属窒化物(各組成式中xは1/2〜2である。)が挙げられる。また、LiAlO、LiSiO 、LiTiO 、NaAl、NaFeO 、NaSiO 、KSiO、KTiO 、KWO 、RbCrO、CsCrO、MgAl、MgFe、MgTiO、CaTiO、CaWO、CaZrO、SrFe1219、SrTiO、SrZrO、BaAl、BaFe1219、BaTiO、Yl512、YFe12、LaFeO、LaFe12、LaTi、CeSnO、CeTiO、SmFe12、EuFeO、EuFe12、GdFeO、GdFe12、DyFeO、DyFe12、HoFeO、HoFe12、ErFeO、ErFe12、TmFe12、LuFeO、LuFe12、NiTiO、AlTiO、FeTiO、BaZrO、LiZrO、MgZrO、HfTiO、NHVO、AgVO、LiVO、BaNb、NaNbO、SrNb、KTaO、NaTaO、SrTa、CuCr、AgCrO、BaCrO、KMoO、NaMoO、NiMoO、BaWO、NaWO、SrWO、MnCr、MnFe、MnTiO、MnWO、CoFe、ZnFe、FeWO、CoMoO、CoTiO、CoWO、NiFe、NiWO、CuFe、CuMoO、CuTiO、CuWO、AgMoO、AgWO、ZnAl、ZnMoO、ZnWO、CdSnO、CdTiO、CdMoO、CdWO、NaAlO、MgAl、SrAl、GdGa12、InFeO、MgIn、AlTiO、FeTiO、MgTiO、NaSiO、CaSiO、ZrSiO、KGeO、LiGeO、NaGeO、BiSn、MgSnO、SrSnO、PbSiO、PbMoO、PbTiO、SnO−Sb、CuSeO、NaSeO、ZnSeO、K2TeO、KTeO、NaTeO、NaTeOなどの金属複合酸化物、FeS、Al、MgS、ZnSなどの硫化物、LiF、MgF、SmFなどのフッ化物、HgCl、FeCl、CrClなどの塩化物、AgBr、CuBr、MnBrなどの臭化物、PbI、CuI、FeIなどのヨウ化物、または、SiAlONなどの金属酸化物等が挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0138】
これらの無機化合物中、より緻密な絶縁保護層320が得られることから、Ca、Al、Si、Ge、Ceから選ばれた一種または二種以上の金属原子を含む酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、炭化物若しくは弗化物が好ましい。また、駆動電圧が過度に上昇しないことから、CaS、Al、AlN、SiO、SiC、GeO、CeOがより好ましく、性能上および取扱いがさらに容易なことから、SiOが最も好適な材料である。ただし、表面絶縁保護層320の構成材料として、Siの酸化物を使用する場合、SiOに限定するものではなく、SiOx(xは、1<x≦2)であれば良い。
【0139】
絶縁保護層320の成膜方法としては、材料の融点、沸点、蒸気圧を考慮して抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法などの成膜法から選択される。
【0140】
[封止体(図示せず)]
有機EL素子に大気のガスが到達しないようにするために通常は、外部と遮断するために封止材と樹脂層とを有する封止体を設けることができる。
【0141】
封止材としては、水分や酸素の透過性が低い基材である必要がある。また、封止材の材料の一例として、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、耐湿性フィルムなどを挙げることができる。耐湿性フィルムの例として、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のあるフィルムまたは吸水剤を塗布した重合体フィルムなどがあり、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、10−6g/m/day以下であることが好ましい。
【0142】
樹脂層の材料の一例として、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。樹脂層を封止材の上に形成する方法の一例として、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法などを挙げることができる。必要に応じて吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることもできる。封止材上に形成する樹脂層の厚みは、封止する有機EL素子の大きさや形状により任意に決定されるが、5μm〜500μmが望ましい。なお、ここでは封止材上に樹脂層として形成したが直接有機EL素子側に形成することもできる。
【0143】
最後に、有機EL素子と封止体との貼り合わせを封止室で行う。封止体を、封止材と樹脂層の2層構造とし、樹脂層に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好ましい。熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着した後、さらに硬化温度で加熱硬化を行うことが好ましい。光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールで圧着した後、さらに光を照射することで硬化を行うことができる。
【0144】
本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置300は、結晶構造を含み、かつ平坦な酸化モリブデン層を具備しているため、抵抗率やイオン化ポテンシャルが最適化でき、キャリア注入性や輸送性を向上させ、高発光効率、高発光輝度、長寿命である有機EL表示装置300を得ることができる。
【実施例1】
【0145】
図5に示すように、基板306上に設けられたスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタと、薄膜トランジスタの上方に形成され、ソース電極313と電気的に接続された画素電極314とを備えた厚さ0.7mmのアクティブマトリクス基板306を用いた。基板306のサイズは対角5インチ、画素数は320×240である。
【0146】
次に、基板306上に設けられている画素電極314の端部を被覆し画素を区画するような形状で隔壁315を形成した。隔壁315の形成は、日本ゼオン社製、商品名「ZWD6216−6」で表示されるポジレジストをスピンコータ法を用いて、基板306全面に高さ(厚み)2μmで形成した。その後、フォトリソグラフィ法を用いて、幅40μmの隔壁315を形成した。これによりサブピクセル数960×240ドット、0.12mm×0.36mmピッチの画素領域が区画された。
【0147】
次に、画素電極314上に正孔輸送層として、厚さ100nmの酸化モリブデンの結晶含有層316aを、基板306の温度を70℃に加熱しながらリアクティブスパッタ法とシャドーマスク法とを併用してパターン成膜した。
【0148】
次に、正孔輸送層まで形成した基板を凸版印刷装置200の被印刷基板201に配置して、隔壁315に挟まれた画素電極314の真上にそのラインパターンに合わせてインターレイヤ層317を凸版印刷法で印刷を行った。インターレイヤ層317の材料であるポリビニルカルバゾール誘導体を濃度0.5%になるようにトルエンに溶解させたインキを用い、印刷を行った。このとき300線/インチのアニロックスロール204及び水現像タイプの感光性樹脂の版205を使用した。印刷、乾燥後のインターレイヤ層317の膜厚は20nmとなった。
【0149】
次に、インターレイヤ層317まで形成した基板を凸版印刷装置200の被印刷基板201に配置して、隔壁315に挟まれた画素電極314の真上にそのラインパターンに合わせて有機発光層318を凸版印刷法で印刷を行った。有機発光層318の材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を濃度1%になるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを用いて、印刷を行った。このとき150線/インチのアニロックスロール204及び水現像タイプの感光性樹脂の版205を使用した。印刷、乾燥後の有機発光層318の膜厚は80nmとなった。
【0150】
次に、対向電極319として真空蒸着法でバリウム膜をメタルマスクを用いて厚み10nm成膜し、次に、アルミニウム膜をメタルマスクを用いて150nm成膜した。
【0151】
次に、絶縁保護層320として真空蒸着法でSiOxを上記と同じメタルマスクを用いて厚み5nm成膜した。
【0152】
次に、有機EL素子全てをカバーするような厚み0.3mmのガラス板とガラス板の全面に塗布された樹脂層とを有する封止体を貼り合わせ、約90℃で1時間樹脂層を熱硬化して封止を行った。形成したアクティブマトリック駆動型の有機EL表示装置300の総厚が1.0mmとなった。
【0153】
こうして得られたアクティブマトリクス駆動型の有機EL表示装置300を駆動したところ、初期では輝度ムラや非点等エリアもなく均一で良好な発光状態であった。同時に輝度が7Vで8000cd/m、また初期輝度8000cd/mにおける輝度半減時間は1000時間の高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。また、1600時間で電流値の急激な上昇が見られた。
【実施例2】
【0154】
画素電極314まで実施例1と同様に作製した。次に、正孔輸送層として、厚さ100nmの酸化モリブデンの結晶含有層316aを、基板306の温度を150℃に加熱しながらリアクティブスパッタ法とシャドーマスク法とを併用してパターン成膜した。それ以外は実施例1と同様に作製した。
【0155】
こうして得られたアクティブマトリクス駆動型の有機EL表示装置300を駆動したところ、初期では輝度ムラや非点等エリアもなく均一で良好な発光状態であった。同時に輝度が6Vで8000cd/m、また初期輝度8000cd/mにおける輝度半減時間は1200時間の高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。また、1400時間の測定で電流値の急激な上昇が見られた。
【実施例3】
【0156】
画素電極314まで実施例1と同様に作製した。次に、正孔輸送層として、厚さ80nmの酸化モリブデンの結晶含有層316aを基板306の温度を300℃に加熱しながらリアクティブスパッタ法とシャドーマスク法とを併用してパターン成膜した。次に、厚さ20nmのアモルファス層316bを基板306の温度を室温に戻した状態でリアクティブスパッタ法によりシャドーマスク法でパターン成膜した。それ以外は実施例1と同様に作製した。
【0157】
こうして得られたアクティブマトリクス駆動型の有機EL表示装置300を駆動したところ、初期では輝度ムラや非点等エリアもなく均一で良好な発光状態であった。同時に輝度が8Vで8000cd/m、また初期輝度8000cd/mにおける輝度半減時間は1500時間の高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得られた。また、2000時間の測定でも電流値の急激な上昇は見られなかった。
【0158】
[比較例1]
画素電極314まで実施例1と同様に作製した。次に、正孔輸送層として、厚さ100nmの酸化モリブデンのアモルファス層316bを基板306の加熱をせず室温の状態でリアクティブスパッタ法とシャドーマスク法とを併用してパターン成膜した。それ以外は実施例1と同様に作製した。
【0159】
こうして得られたアクティブマトリクス駆動型の有機EL表示装置300を駆動したところ、初期では輝度ムラや非点等エリアもなく均一で良好な発光状態であったが、輝度は10Vで8000cd/m、また初期輝度8000cd/mにおける輝度半減時間は500時間の発光効率、発光輝度、寿命の表示特性を得られた。また、2000時間の測定で電流値の急激な上昇は見られなかった。
【0160】
実施例1、実施例2及び比較例1を対比すると、画素電極314とインターレイヤ層317との間に結晶含有層104aを有する酸化モリブデン層104を具備する実施例1及び実施例2は、抵抗率やイオン化ポテンシャルが最適化され、キャリア注入性や輸送性を向上させ、高発光効率、高発光輝度、長寿命の良好な表示特性を得ることができた。
【符号の説明】
【0161】
100:有機EL素子
101:基板
102:陽極
103:発光媒体層
103a:正孔注入層
103b:インターレイヤ層
103c:有機発光層
103d:電子注入層
104:酸化モリブデン層
104a:結晶含有層
104b:アモルファス層
105:陰極
200:凸版印刷機
201:被印刷基板
202:インキタンク
203:インキチャンバ
204:アニロックスロール
204a:塗布層
205:版
206:版胴
207:平台
300:有機EL表示装置
306:基板
307:活性層
308:ゲート絶縁膜
309:ゲート電極
310:層間絶縁膜
311:ドレイン電極
312:走査線
313:ソース電極
314:画素電極
315:隔壁
316:酸化モリブデン層
316a:結晶含有層
316b:アモルファス層
317:インターレイヤ層
318:有機発光層
319:対向電極
320:絶縁保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正孔注入電極である陽極と、
前記陽極に対向するように設けられた電子注入電極である陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられた有機発光層と、を備え、
前記陽極と前記有機発光層との間に設けられ、結晶とアモルファスとが混合または積層した酸化モリブデン層とを備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記酸化モリブデン層の膜厚が30nm以上150nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記酸化モリブデン層は、前記酸化モリブデンの結晶を含む結晶含有層が、前記陽極と前記酸化モリブデンの結晶を含まないアモルファス層との間に挟持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記結晶含有層の膜厚が2nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記アモルファス層の膜厚が5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
正孔注入電極である陽極を形成し、
前記陽極上に物理気相成長法を用いて、結晶とアモルファスとが混合または積層した酸化モリブデン層を形成し、
前記酸化モリブデン層上に有機発光層を形成し、
前記有機発光層上に電子注入電極である陰極を形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記酸化モリブデン層の膜厚が30nm以上150nm以下であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記結晶と前記アモルファスとが混合した前記酸化モリブデン層を加熱しながら前記物理気相成長法を用いて成膜することを特徴とする請求項6又は7に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記加熱成膜の温度が60℃以上、300℃未満で前記結晶と前記アモルファスとが混合した前記酸化モリブデン層を形成することを特徴とする請求項8に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記酸化モリブデン層は、前記酸化モリブデンの結晶を含む結晶含有層が、前記陽極と前記酸化モリブデンの結晶を含まないアモルファス層との間に挟持されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
前記酸化モリブデンの結晶を含む前記結晶含有層が、加熱しながら物理気相成長法を用いて成膜することを特徴とする請求項10に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項12】
前記アモルファス層は、加熱せずに前記物理気相成長法を用いて成膜することを特徴とする請求項10又は11に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項13】
前記結晶含有層の前記加熱成膜の温度が300℃以上であり、前記アモルファス層の成膜温度が60℃未満であることを特徴とする10乃至12のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項14】
前記結晶含有層の膜厚が2nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項15】
前記アモルファス層の膜厚が5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項16】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を、表示素子として備えたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−260306(P2009−260306A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64626(P2009−64626)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】