説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 透明電極の表面の凹凸による影響を解消し、大面積で均一発光が可能な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】 少なくとも有機発光層を含む有機化合物薄膜が陽極上に形成されるとともに、有機化合物薄膜上に陰極が形成されてなる有機エレクトロルミネッセンス素子である。陽極は、無機透明導電膜表面に低抵抗有機膜が形成された複合電極とする。無機透明導電膜のシート抵抗は50Ω/□〜150Ω/□である。低抵抗有機膜は、厚さが200nm以上、厚さ200nmにおける抵抗値が300Ω/cm以下、最高占有軌道レベルのイオン化ポテンシャルが4.9〜5.4eVである。低抵抗有機膜は、例えば2−TNATAにF4−TCNQをドープすることにより形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光層を有する自発光型の有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものであり、特に、いわゆるボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極(透明電極)の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と称する。)は、自発光型の面状光源であり、大型化やフレキシブル化等が比較的容易であるため、照明装置やディスプレイ等、幅広い分野への応用が期待されている。そして、有機EL素子の構成としては、例えば透明基板上に陽極として機能する透明電極、有機発光層を含む有機化合物薄膜、及び陰極をこの順に積層することにより素子部が形成される、いわゆるボトムエミッション型の構成が広く採用されている。このボトムエミッション型の有機EL素子では、有機化合物薄膜に電流を流すことにより有機発光層で発生した光を、前記透明基板側から取り出す形になり、陽極は前述の通り透明電極である必要がある。
【0003】
ところで、これまで発光エリアの小さい有機EL素子については、例えばディスプレイの開発等において数多く検討されてきたが、照明用等の発光エリアが大きい有機EL素子についてはあまり研究が進んでおらず、輝度や色のムラが生じ易く、均一に発光する大面積の素子を作製することは難しい。
【0004】
その理由としては、面積の増大に伴う透明電極の抵抗値の増大を挙げることができる。前述のように、有機EL素子は、正負の電極間に有機化合物薄膜を挟んだ構造を採っており、有機化合物薄膜の厚さは、一般的なもので100nm程度である。光の取り出し方向に形成される陽極は、透明電極材料、例えばインジウム錫酸化物(ITO)等で形成する必要があるが、陽極を透明電極材料で形成した場合、素子の発光面積が拡大するにつれ陽極(透明電極)の抵抗値が増大する。その結果、陽極に接続される取り出し電極からの距離に応じて駆動電圧が低下し、輝度低下を引き起こす。
【0005】
このような輝度低下は、有機EL素子を厚膜化することである程度の改善は見込めるが、駆動電圧の上昇や、輝度低下等の素子特性の低下を招くので、効果的な対策とは言い難い。一方、透明電極の抵抗値を下げることも改善策として検討されているが、透明電極の低抵抗化は厚膜化と同義であり、厚膜化に伴い表面が粗くなることが大きな問題である。電極間の膜厚が100nm程度しかない有機EL素子では、凹凸の影響を受け易く、下地となる透明電極の表面粗さが粗いと、ライトスポット(過剰発光点)やダークスポット、電極間ショートの原因となる虞れがある。
【0006】
この問題を解決するための対策としては、成膜手法を改善して形成される膜を平坦化したり、透明電極の表面を研磨することによって平坦化する試みも行われている(例えば、特許文献1や特許文献2等を参照)。例えば特許文献1には、透明基板上に形成した透明電極にこれと同組成の電極材料を相対向するように押し当て、これらの間に非水系の液体を介在させて摺動させることにより、表面が平滑な透明電極を作製し、透明電極上に少なくとも有機層および透明電極と対向する電極を積層することが開示されている。また、特許文献2には、透明基板上に形成した透明電極(陽極)上に、有機EL層及び透明電極を順次積層する工程を有する有機EL素子の製造方法において、前記有機EL層及び透明電極を順次積層する工程の前に、前記透明基板上に形成した透明電極(陽極)表面の最大高低差Xを40nm以下に研磨することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−146091号公報
【特許文献2】特開2003−308971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記各特許文献記載の発明のように透明電極に対して表面研磨を行ったり、あるいは平坦化のために成膜手法を改善する場合、コストの著しい増大を招き、量産を考えた場合には現実的でない。したがって、大面積の有機EL素子を量産レベルで作製することは、現状の構造では非常に難しいのが実情である。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、本発明は、透明電極の表面の凹凸による影響を解消し、大面積で均一発光が可能な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。また、本発明は、透明電極の表面研磨や成膜手法の改善が不要で、生産性に優れ製造コストも抑えることができ、量産レベルで作製することが可能な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々の研究を重ねた結果、透明で且つ低抵抗電極となるような無機・有機複合電極を陽極とした有機EL素子を作製することで、大面積な発光面を均一に発光させることに成功した。本発明は、このような研究結果に基づいて完成されたものであり、少なくとも有機発光層を含む有機化合物薄膜が陽極上に形成されるとともに、前記有機化合物薄膜上に陰極が形成されてなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陽極は、無機透明導電膜表面に低抵抗有機膜が形成された複合電極であることを特徴とする。
【0010】
本発明の基本的な考えは、発光面積が例えば10mm×10mm(100mm2)以上の大面積であるような有機EL素子において、通常の有機EL素子において陽極として汎用されている透明電極(無機透明導電膜)の厚さを抑えながら低抵抗化を実現し、大面積での均一発光を実現するという点にある。
【0011】
本発明の有機EL素子における大きな特徴は、前記の通り、陽極を無機透明導電膜表面に低抵抗有機膜が形成された複合電極とすることであるが、ここで、前記低抵抗有機膜は、無機透明導電膜の厚さを抑えた場合の高抵抗化を抑え、複合電極全体の抵抗値を下げる機能を有する。したがって、取り出し電極からの距離による駆動電圧の降下が抑えられ、輝度低下が解消される。また、無機透明導電膜の厚さを抑えることで、表面の凹凸形成も抑えられるが、前記低抵抗有機膜は表面平坦化層としても機能し、仮に無機透明導電膜の表面に凹凸が形成されていたとしても、これを覆って確実に平坦化する。したがって、無機透明導電膜の凹凸の先端に起こる電場集中が分散され、ライトスポット(過剰発光点)やダークスポット、電極間ショート等が軽減される。
【0012】
さらに、前記低抵抗有機膜の特性を適正に選定することで、前記複合電極は正孔注入電極としても機能する。通常の有機EL素子においては、陽極上には正孔注入層が形成されているが、この場合の正孔注入層は、正孔注入効率にのみ主眼が置かれており、電気抵抗が大きく、そのため膜厚は非常に薄くする必要がある。本発明の低抵抗有機膜は、正孔注入機能を有するのみならず、電気抵抗が低く、正孔のモビリティも高い。したがって、膜厚も厚く設定され、前記従来の正孔注入層とは一線を画するものである。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成を有する本発明の有機EL素子によれば、基板上の無機透明導電膜からなる陽極の電気伝導性を向上させることができ、発光面積が大面積であっても均一な発光を得ることができる。また、本発明の有機EL素子によれば、無機透明導電膜の表面粗さも無効にすることができ、ライトスポット(過剰発光点)やダークスポット、電極間ショート等を軽減する効果も得ることができる。
【0014】
以上のことから、本発明の技術は、欠陥が少なく発光エリアが大きい有機EL素子の作製を可能とし、単色発光(例えば白色発光)の照明等の用途において、特に有効な技術であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を適用した有機EL素子の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本発明は、特に単色発光(例えば白色発光)で、発光面積が50mm2(好ましくは10mm×10mm=100mm2)を越えるような大面積の有機EL素子、例えば照明用の有機EL素子等に適用して好適である。これは、大面積の有機EL素子では、透明電極の抵抗値に起因して場所によって駆動電圧が変わり、均一発光が難しいことによる。そこで、以下の実施形態においては、照明用等の大面積有機EL素子を想定して説明する。
【0017】
本実施形態の有機EL素子は、例えば図1に示すように、基板1上に陽極として機能する複合電極2、有機化合物薄膜3、及び陰極4を順次積層形成することにより素子部を構成してなるものである。
【0018】
基板1は、素子部を支持する支持体として機能する他、水分、酸素等の素子部への侵入を阻止するバリア層としても機能する。この基板1の構成材料は、特に限定されないが、本実施形態の有機EL素子はボトムエミッション型の有機EL素子であり、基板1を通して発光が取り出されることから、透明材料であることが好ましい。したがって、例えばガラスやプラスチック等を用いることができる。ガラスは、水分や酸素等のバリア性にも優れることから、好ましい材料である。プラスチックを用いる場合には、前記バリア性が不足する場合があるので、その場合には、表面にバリア層を形成することが好ましい。
【0019】
前記基板1上に形成され陽極として機能する複合電極2は、無機透明導電膜2aと低抵抗有機膜2bからなる2層構造を有しており、この点が本発明の有機EL素子における大きな特徴である。以下、この複合電極2について説明する。
【0020】
複合電極2は、前述の通り、無機透明導電膜2aの表面に低抵抗有機膜2bを形成し、2層構造としてなるものであるが、ここで無機透明導電膜2aは、通常の有機EL素子において透明電極(陽極)として用いられているものと同様である。したがって、例えばインジウム錫酸化物等の無機透明導電材料を用いることができる。
【0021】
この無機透明導電膜2aは、特に大面積化による抵抗値の増大を考えると、なるべくその膜厚を厚くすることが好ましいが、無機透明導電膜2aの厚さを厚くすると、表面粗さが粗くなり、突起等が形成されてライトスポット(過剰発光点)やダークスポット、電極間ショート等の原因となる。そこで、本実施形態の有機EL素子では、無機透明導電膜2aの厚さを抑え、表面が粗くなることを抑制する。この場合、具体的な厚さの設定については、無機透明導電膜2aの電気的特性等によっても変わり、ある程度、抵抗値の大きな状態、例えばシート抵抗が50Ω/□〜150Ω/□となるような膜厚範囲で成膜することが好ましい。一般的なディスプレイ用の有機EL素子では、ITO電極のシート抵抗は10Ω/□以下とされているが、このような低抵抗ITO電極では、表面にスパイクと称される突起が形成され易い。
【0022】
前記のように無機透明導電膜2aの厚さを抑えると、結果として抵抗値が大きくなり、そのまま陽極として利用すると、駆動電圧が低下して輝度の低下を招く。そこで、本実施形態では、無機透明導電膜2aの表面に低抵抗有機膜2bを形成し、これを補うこととする。
【0023】
このような観点から、前記低抵抗有機膜2bには、先ず、電気抵抗が小さいことが要求される。少なくとも、低抵抗有機膜2bの抵抗値は、前記無機透明導電膜2aの抵抗値よりも小さいことが好ましい。また、具体的な数値で言えば、例えば膜厚200nmのときに300Ω/cm以下であることが好ましい。低抵抗有機膜2bの電気抵抗が、前記値よりも大きいと、無機透明導電膜2aの抵抗値が高いことを補うことができず、複合電極2全体の抵抗値が十分に低くならないので、全体の輝度低下が問題になる虞れがある。
【0024】
また、前記低抵抗有機膜2bは、前記無機透明導電膜2aの表面を覆って、これを平坦化する機能もある。この平坦化を考慮すると、低抵抗有機膜2bの膜厚は、200nm以上であることが好ましい。前記膜厚を200nm以上とすることで、通常想定されるインジウム錫酸化物膜の表面凹凸を確実にカバーすることができ、表面の平坦化を図ることができる。これに対して、低抵抗有機膜2bの厚さが200nm未満であると、複合電極2の表面に凹凸が残り、これが特性に悪影響を及ぼす虞れがある。
【0025】
以上が低抵抗有機膜2bに要求される事項であるが、複合電極2上に形成される有機化合物薄膜3に対する正孔注入効率を向上させることを目的に、前記低抵抗有機膜2bに正孔注入機能を持たせることも有効である。この場合、低抵抗有機膜2bにより、電極である無機透明導電膜2aの仕事関数と有機化合物薄膜3の最高占有軌道レベル[ホモ(HOMO)レベル]をマッチングさせることが必要であり、そのためには、低抵抗有機膜2bのHOMOレベルのエネルギー(イオン化ポテンシャル)を4.9〜5.4eVとすることが好ましい。
【0026】
前記のように、低抵抗有機膜2bに正孔注入機能を持たせることにより、有機化合物薄膜3から正孔注入層を省略することが可能である。また、低抵抗有機膜2bは、抵抗値が小さく、移動度(モビリティ)の高い材料により形成されているので、輸送層としての機能も有し、したがって、前記正孔注入層ばかりでなく、正孔輸送層も省略することが可能である。勿論、必要に応じてこれら正孔注入層や正孔輸送層を形成しても良いことは言うまでもない。
【0027】
前述の要件を満たす低抵抗有機膜2bとしては、例えばスターバースト系分子をホスト材料とし、これにテトラフルオロテトラシアノキノジメタン等のドーピング材料をドープした膜等を挙げることができる。スターバースト系分子は、結晶化し難く、アモルファス状態で成膜可能であることから、平坦化、均質化等の点で好適である。
【0028】
ここで、ホスト材料であるスターバースト系分子は、点対称形状に分岐し、構造式で表した場合に星形形状を有する分子であり、例えば化1,化2に示すTNATA系化合物、化3〜化6に示すTDATA系化合物、化7に示すTDAB系化合物、化8に示すTDATz系化合物、化9に示すTDAPB系化合物、化10〜化12に示すTTA系化合物等を挙げることができる。中でも、4,4’,4”−トリス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]−トリフェニルアミン(=2−TNATA)は好ましい材料である。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】

【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
【化11】

【0040】
【化12】

【0041】
前記ホスト材料にドーピングするドーピング材料としては、低抵抗化が図れ、さらには正孔注入層、正孔輸送層としての機能を付与し得る材料であれば如何なるものであってもよいが、例えば化13に示すテトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)等が好適である。その他、例えば正孔ドーパントとしては、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ:2,3-dichrolo-5,6-dicyano-1,4-benzoquinone)、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ:7,7,8,8-tetracyanoquinodimethane)、1,4,5,8−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物(NTCDA:1,4,5,8-naphthalene-tetracaboxylic-dianhydride)、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸−3,4,9,10−二無水物(PTCDA:perylene-3,4,9,10-tetracarboxylic-3,4,9,10-dianhydride)等を例示することができる。ホスト材料として2−TNATAを用い、F4−TCNQをドープする場合、F4−TCNQのドープ量は、0.2重量%〜3重量%の範囲とすることが好ましい。前記ドープ量とすることで、低抵抗有機膜2bとして適切な特性を付与することができる。
【0042】
【化13】

【0043】
複合電極2の上には、有機化合物薄膜3が形成されるが、その構成としては、最低限、有機発光層を備えていれば良い。本実施形態では、有機化合物薄膜3は、正孔注入層及び正孔輸送層を省略し、有機発光層5、電子輸送層6、及び電子注入層7を順次積層することにより構成されている。先にも述べたように、複合電極2の低抵抗有機膜2bとは別に、正孔注入層や正孔輸送層を形成することも可能であり、この場合には、有機化合物薄膜3は5層構造となる。
【0044】
各層を構成する材料としては、有機EL素子において公知のものがいずれも使用可能であり、特に制約はない。例示するならば、有機発光層5の材料としては、例えばトリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン、芳香族縮合多環化合物、芳香族複素環化合物、芳香族複素縮合環化合物、金属錯体化合物等を挙げることができる。あるいは、アルミニウム錯体(Alq3)やベリリウム錯体(Bebq2)等をホスト材料とし、これにドーパント色素をドーピングしたもの等も使用可能である。この場合、ドーピング色素としては、ペリレン、Co−6、キナクリドン(Qd)、ルブレン、DCM等を挙げることができる。
【0045】
また、電子輸送層6の材料としては、例えばアルミニウム錯体、オキサジアゾール類、トリアゾール類、フェナントロリン類等を挙げることができる。電子注入層7の材料としては、リチウム等のアルカリ金属、フッ化リチウム、酸化リチウム、リチウム錯体、アルカリ金属ドープ有機材料等を挙げることができる。
【0046】
有機化合物薄膜3の上に重ねられる陰極4は、例えばアルミニウム等の金属材料や、アルミニウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等の合金材料等によって構成される。これら金属材料や合金材料を、例えばスパッタや蒸着等の真空薄膜形成技術によって成膜することにより、陰極4が形成される。
【0047】
以上、本発明を適用した有機EL素子の実施形態について説明してきたが、本発明の有機EL素子の構成がこの実施形態のものに限られるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0048】
本実施例においては、本発明の効果を確認するため、実際に有機EL素子を作製し、輝度ムラの状況について調べた。
【0049】
作製した有機EL素子は、図2(a)に示すようなものである。すなわち、ガラス基板11上に陽極12を成膜し、これと重ねて有機化合物層13を形成した。有機化合物薄膜13は、有機発光層、電子輸送層、電子注入層の3層構造とした。有機化合物薄膜13上には、Alからなる陰極14を形成した。陽極12の一端に取り出し電極を設け、陽極12と陰極14間に直流電源15を接続した。
【0050】
陽極12については、先ず、通常の膜厚のITO電極のみとした場合を比較例1、厚さの厚いITO電極とした場合を比較例2、ITO電極と低抵抗有機膜からなる複合電極とした場合を実施例とした。実施例において、低抵抗有機膜は、2−TNATAにF4−TCNQをドープすることにより形成した。2−TNATAとF4−TCNQの割合は、重量比で2−TNATA:F4−TCNQ=100:0.5である。
【0051】
これら実施例及び比較例1,2の有機EL素子について、発光面内における輝度分布を調べた。輝度分布は、陽極12の取り出し電極からの距離による輝度依存性により評価した。結果を図2(b)に示す。
【0052】
図2(b)から明らかなように、通常のITO電極のみ(比較例1)では、陰極14端部からの距離が大きくなるにしたがって、輝度が急激に低下しており、輝度低下が大きいことがわかる。比較例2のようにITO電極の膜厚を厚くすることで、前記輝度低下はある程度抑えられているが、それでも完全に輝度低下を抑えるには至っていない。また、比較例2では、ITO電極の膜厚が厚いため、サンプルによっては、ライトスポット(過剰発光点)やダークスポット、電極間ショート等が観察された。
【0053】
これに対して、ITO電極と低抵抗有機膜からなる複合電極とした実施例では、前記距離による輝度低下はほとんど見られず、輝度ムラがほぼ完全に抑えられている。また、ライトスポット(過剰発光点)やダークスポット、電極間ショート等も、全く認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明を適用した有機EL素子の構成例を示す概略断面図である。
【図2】(a)は実施例において作製した有機EL素子の構成を示す概略平面図であり、(b)は有機EL素子の発光面内における輝度と取り出し電極からの距離の関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0055】
1 基板、2 複合電極、2a 無機透明導電膜、2b 低抵抗有機膜、3 有機化合物薄膜、4 陰極、5 有機発光層、6 電子輸送層、7 電子注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機発光層を含む有機化合物薄膜が陽極上に形成されるとともに、前記有機化合物薄膜上に陰極が形成されてなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極は、無機透明導電膜表面に低抵抗有機膜が形成された複合電極であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記無機透明導電膜は、インジウム錫酸化物膜であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記無機透明導電膜のシート抵抗が50Ω/□〜150Ω/□であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記低抵抗有機膜の厚さが200nm以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記低抵抗有機膜の抵抗値が前記無機透明導電膜の抵抗値よりも小であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記低抵抗有機膜は、厚さ200nmにおける抵抗値が300Ω/cm以下であることを特徴とする請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記低抵抗有機膜は、最高占有軌道レベルのイオン化ポテンシャルが4.9〜5.4eVであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記低抵抗有機膜は、スターバースト系分子をホスト材料とし、これにテトラフルオロテトラシアノキノジメタンをドープした膜であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記スターバースト系分子は、4,4’,4”−トリス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]−トリフェニルアミンであることを特徴とする請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記有機化合物薄膜は、有機発光層、電子輸送層、及び電子注入層がこの順に積層されて構成されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
1画素の大きさが50mm2以上であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
照明用であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−24432(P2006−24432A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200967(P2004−200967)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504226526)
【出願人】(597140143)
【出願人】(504227464)
【出願人】(000184687)小松精練株式会社 (110)
【Fターム(参考)】