説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】簡易で製造性に優れ、発光効率および寿命の優れた有機EL素子の構造と製造方法を提供する。
【解決手段】有機EL素子4であって、素子基板11の上に形成された、第1領域と第1領域以外の第2領域とを有する陽極金属層12と、陽極金属層12の上であって第1領域に形成された絶縁層14と、陽極金属層12の上であって基板11の上に積層された陽極金属層12の表面が酸化されることにより第2領域に形成され第1領域に形成されない金属酸化物層43と、金属酸化物層43の上であって絶縁層14の形成されていない第2領域に形成され正孔輸送性の有機材料を含む正孔輸送層15と、正孔輸送層15の上に形成された有機発光層16と、有機発光層16の上に形成され有機発光層16へ電子を注入する陰極層17とを備え、金属酸化物層43は、その側面部および下面部が陽極金属層12により被覆される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法に関し、特に、ディスプレイデバイス又は照明に用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と記す)は、陽極と陰極で発光層を含む有機層を挟んだ構造を有し、陽極から正孔、陰極から電子を注入し、発光層内でそれらを再結合させて発光を取り出すデバイスである。
【0003】
有機EL素子は、構成する有機層を印刷法などの湿式法で簡易に形成することができ、低コスト化やフレキシブル化に適性があり、近年活発に研究開発が進められている。
【0004】
また、有機EL素子は、すでに携帯電話のメインディスプレイなどの用途への応用が始まっている。しかしながら、ディスプレイ輝度の半減寿命などの性能や製造方法を反映したコストの面で、競合する液晶ディスプレイに劣っており、改善が必要である。
【0005】
特に、製造方法の面では、現在商用されている有機EL素子の有機層は、真空蒸着法により形成されており、有機ELの特徴を十分に活かしきれていない。
【0006】
これに対し、湿式法で有機層を形成する製造方法は、材料使用効率と製造時間、製造装置のコスト面で優位である。また、ディスプレイへの応用では、大面積の画素を印刷法で塗り分けられるため、真空蒸着のような面内不均一の問題や蒸着層のパターニングに用いるメタルマスクのたわみの問題がない。
【0007】
一方で、湿式法で多層の有機層を形成する場合は、上層の溶液を滴下した際に、一般に下地層がこれに溶出してしまうため、多層化が困難という問題点を有する。有機EL素子の性能は、様々な役割をもつ有機層を多層に積層することで向上できるため、この問題点は重要である。このため、湿式法を用いる有機EL素子の性能は、真空蒸着法を用いるものに比べて著しく低い。湿式法を用いる有機EL素子の実用化のためには、湿式法に適したデバイス構造とその製造法を開発することが不可欠である。
【0008】
湿式法を用いる多層型有機EL素子のデバイス構造及びその製造方法として、例えば特許文献1が開示されている。特許文献1では、基板上の透明電極上に水性の有機物質からなる正孔注入層を形成する。この層は、有機層に溶け出ることはない。その上から架橋剤を含む正孔輸送性の材料を有機溶媒から製膜し、製膜後光処理により架橋し、不溶化する。次に発光層として、発光性の有機材料からなる第3層を有機溶媒から製膜する。最後に、陰極を蒸着により形成して素子を形成する。
【0009】
特許文献1に記載された上記構造の有機EL素子は、駆動電圧や発光効率、寿命といった性能に優れるが、正孔注入層として用いられている以下の式
【化1】

で示される化合物PEDOT(Poly(3、4−ethylenedionxythiophene))とPSS(Poly(styrenesulfonate))との混合物に代表される水溶性の電導材料は、一般に酸性溶液であり、インクジェットノズルなどの装置の腐食を引き起こす問題がある。また、これは完全な溶液ではなく、微粒子が分散されたものであるため、インクジェットノズルの目詰まりの問題もある。さらに、電導度が高すぎるために、この膜の一部分でも陰極と接触してしまった場合にはリーク電流の増加を引き起こす。
【0010】
上述したインクジェットノズルの使用に起因する問題点の対策として、第一層の正孔注入層を省略し直接第二層の正孔輸送層に正孔を注入することが挙げられる。これによれば、上記問題点を解決できるだけでなく、製造装置および製造時間などの製造コストの面からの利点も大きい。しかし、一般に用いられているインジウム錫酸化物(以下、ITOと記す)などの陽極上に直接第二層の正孔輸送層を形成した場合、正孔注入は十分ではなく、発光効率と寿命が著しく低下してしまう。この問題は、架橋剤の混合が必要であり正孔輸送能力が低下する塗布系の正孔輸送材料に特に顕著である。
【0011】
これに対し、特許文献2では、上述したインクジェットノズルの使用に起因する問題点及び正孔輸送能力の低下を防止する構造が提案されている。特許文献2では、無機の正孔注入層として、仕事関数が大きくエネルギーレベル的に正孔注入が有利である酸化モリブデンや酸化バナジウムなどの金属酸化物層を形成することが開示されている。これらは、有機溶媒には不溶であるため、上から有機溶媒の湿式塗布をする場合には、溶出の問題はない。
【0012】
また、有機材料を、湿式法による印刷法で塗り分ける方法が、例えば、特許文献3に開示されている。特許文献3では、撥水性であるバンクと呼ばれる絶縁層が用いられることにより、バンクが形成されていない開口部に有機EL素子の発光部を規定する効果と、親水性である当該開口部の陽極表面に有機物の溶液を保持する効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2007−527542号公報
【特許文献2】特開2007−288071号公報
【特許文献3】特開2002−222695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前述した特許文献2及び特許文献3に記載された有機EL素子の構造及びその製造方法では、以下のような課題がある。
【0015】
特許文献3に記載された絶縁層の形成とそのパターニング工程の後に、特許文献2に記載された金属酸化物を有する正孔注入層を形成した場合、絶縁層の表面と開口部とを含め、全面に上記金属酸化物が形成されてしまう。これにより、前述した開口部の有する親水性と絶縁層の有する撥水性との差が消失するため、その後に湿式塗布される有機物の溶液が画素外に溢れ出てしまう。
【0016】
上記プロセスの代わりに、絶縁層の形成前に上記金属酸化物の正孔注入層を形成した場合、当該金属酸化物は水溶性であるために、絶縁層のパターニング工程の際に用いられる水系の現像液あるいは剥離液に溶出して消失してしまい、正孔注入能力の低下に起因して、発光効率及び寿命といった性能が低下する。
【0017】
上記課題に鑑み、本発明は、発光効率及び寿命といった性能に優れ、かつ、湿式成膜法を有機層の形成として用いた簡易な製造プロセスを有する有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と記す)は、基板と、前記基板の上に形成された、第1領域と、前記第1領域以外の第2領域とを有する陽極金属層と、前記陽極金属層の上であって、前記第1領域に形成された絶縁層と、前記陽極金属層の上であって、前記基板の上に積層された陽極金属層の表面が酸化されることにより、前記第2領域に形成され、前記第1領域に形成されない金属酸化物層と、前記金属酸化物層の上であって、前記絶縁層の形成されていない前記第2領域に形成され、正孔輸送性の有機材料を含む正孔輸送層と、前記正孔輸送層の上に形成された有機発光層と、前記有機発光層の上に形成され、前記有機発光層へ電子を注入する陰極層とを備え、前記金属酸化物層は、その側面部および下面部が前記陽極金属層により被覆されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様に係る有機EL素子によれば、正孔注入特性に優れ、有機層の層数を削減でき、湿式印刷による有機層の形成が可能であるので、消費電力と駆動寿命に優れるとともに、簡略な製造工程を有する有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における有機EL素子の構造断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1に係る有機EL素子の導波ロス低減効果を説明する構造断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1における変形例を示す有機EL素子の構造断面図である。
【図4】図4は、本発明に係る実施例1における有機EL素子の製造方法を説明する工程図である。
【図5A】図5Aは、本発明に係る実施例1の製造方法を用いて作製された有機EL素子を備えた有機ELデバイスの上面図である。
【図5B】図5Bは、本発明に係る実施例1の製造方法を用いて作製された有機EL素子を備えた有機ELデバイスの構造断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2における有機EL素子の構造断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態2に係る有機EL素子の製造方法を説明する工程図である。
【図8】図8は、本発明の有機EL素子が用いられるTVの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一態様に係る有機EL素子は、基板と、前記基板の上に形成された陽極金属層と、前記陽極金属層の上であって、第1領域に形成された絶縁層と、前記陽極金属層の上であって、前記基板の上に積層された陽極金属層の表面が酸化されることにより、前記第1領域、及び、前記第1領域以外の第2領域に形成された金属酸化物層と、前記金属酸化物層の上であって、前記絶縁層の形成されていない第2領域に形成され、正孔輸送性の有機材料を含む正孔輸送層と、前記正孔輸送層の上に形成された有機発光層と、前記有機発光層の上に形成され、前記有機発光層へ電子を注入する陰極層とを備え、前記第2領域における前記金属酸化物層の膜厚は、前記第1領域における前記金属酸化物層の膜厚よりも大きいことを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、前記第2領域における前記金属酸化物層の膜厚は、前記第1領域における前記金属酸化物層の膜厚よりも大きい。よって、前記金属酸化物層は、第2領域における良好な正孔注入性を満たしながらも、第1領域における絶縁層と金属酸化物層との剥離を防止して両層の密着性を維持できるという効果が得られる。
【0023】
また、本発明の一態様である有機EL素子は、前記第2領域における前記金属酸化物層の下面は、前記第1領域における前記金属酸化物層の下面よりも下方に位置する。
【0024】
本態様によれば、前記第2領域における前記金属酸化物層の下面は、前記第1領域における前記金属酸化物層の下面よりも下方に位置するので、金属酸化物層の第1、2領域間に段差部が生じており、この段差部により、発光の導波ロスが低減できるという効果が得られる。
【0025】
また、本発明の一態様である有機EL素子は、基板と、前記基板の上に形成された、第1領域と、前記第1領域以外の第2領域とを有する陽極金属層と、前記陽極金属層の上であって、前記基板の上に積層された陽極金属層の表面が酸化されることにより、前記第1領域、及び、前記第2領域に形成された金属酸化物層と、前記金属酸化物層の上であって、前記第1領域に形成された絶縁層と、前記金属酸化物層の上であって、前記絶縁層の形成されていない前記第2領域に形成され、正孔輸送性の有機材料を含む正孔輸送層と、前記正孔輸送層の上に形成された有機発光層と、前記有機発光層の上に形成され、前記有機発光層へ電子を注入する陰極層とを備え、前記第1領域における金属酸化物層と前記第2領域における金属酸化物層とは、連続して配置され、かつ、前記第1領域と前記第2領域との境界部において、前記第2領域側における前記金属酸化物層の下面は、前記第1領域側における前記金属酸化物層の下面よりも下方に位置することを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、金属酸化物層は、第1領域と第2領域との境界部において、第2領域側における前記金属酸化物層の下面は、前記第1領域側における前記金属酸化物層の下面よりも下方に位置する。よって、金属酸化物層の第1、2領域間に段差部が生じており、この段差部により、発光の導波ロスが低減できるという効果が得られる。
【0027】
また、本発明の一態様である有機EL素子は、基板と、前記基板の上に形成された、第1領域と、前記第1領域以外の第2領域とを有する陽極金属層と、前記陽極金属層の上であって、前記第1領域に形成された絶縁層と、前記陽極金属層の上であって、前記基板の上に積層された陽極金属層の表面が酸化されることにより、前記第2領域に形成され、前記第1領域に形成されない金属酸化物層と、前記金属酸化物層の上であって、前記絶縁層の形成されていない前記第2領域に形成され、正孔輸送性の有機材料を含む正孔輸送層と、前記正孔輸送層の上に形成された有機発光層と、前記有機発光層の上に形成され、前記有機発光層へ電子を注入する陰極層とを備え、前記金属酸化物層は、その側面部および下面部が前記陽極金属層により被覆されることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、前記金属酸化物層は、その側面部および下面部が前記陽極金属層により被覆される。よって、発光の一部が金属酸化物層を通じて素子の外部に漏出することが防止され、発光の導波ロスが低減できるという効果が得られる。
【0029】
また、本発明の一態様である有機EL素子は、前記陽極金属層は、可視光の反射率が60%以上である陽極金属下層と、前記陽極金属下層の表面上に積層された陽極金属上層とを備えることが好ましい。
【0030】
本態様によれば、酸化される陽極金属上層とは独立に、陽極金属下層として反射率が高い金属を用いることができる。よって、各層の材料選択の幅が広がり、トップエミッション型有機EL素子としての性能の最適化がより容易となる。
【0031】
また、本発明の一態様である有機EL素子は、前記陽極金属下層は、アルミニウム及び銀のうち少なくとも1つを含む合金であり、前記陽極金属上層は、モリブデン、クロム、バナジウム、タングステン、ニッケル、イリジウムのうち少なくとも1つを含む金属であることが好ましい。
【0032】
本態様によれば、陽極金属下層として反射率が高い金属を用いることができ、トップエミッション型有機EL素子としての性能の最適化がより容易となる。また、陽極金属上層として酸化により仕事関数が大きくなる金属元素が選択されるので、正孔注入特性に優れた正孔注入層を、金属酸化物層で形成することが可能となる。
【0033】
また、本発明の一態様である有機EL素子は、前記第2領域における前記陽極金属上層の膜厚は、20nm以下であることが好ましい。
【0034】
本態様によれば、陽極金属上層による反射率の低下、つまり、トップエミッション型有機EL素子の発光の減衰を抑えることができ、陽極金属下層の高反射率を最大限に活かすことが可能となる。
【0035】
また、本発明の一態様である有機EL素子は、前記第2領域には、前記陽極金属上層が形成されていなくてもよい。
【0036】
本態様によれば、陽極金属上層が完全に金属酸化物層に変換されるので、陽極金属下層での反射率を最大化することが可能となる。
【0037】
また、本発明の一態様である有機EL素子は、前記陽極金属層は、銀、モリブデン、クロム、バナジウム、タングステン、ニッケル、イリジウムのうち少なくとも1つを含む金属であることが好ましい。
【0038】
本態様によれば、開口部における陽極金属層の一部が酸化処理されて形成された金属酸化物層は、仕事関数が大きい。よって、上記金属酸化物層は、高い正孔注入能力を有することができ、発光効率及び寿命といった性能に優れた有機EL素子を実現することが可能となる。
【0039】
また、本発明の一態様の照明装置は、上記記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えるものである。
【0040】
さらに、本発明の一態様の画像表示装置は、上記記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えるものである。
【0041】
(実施の形態1)
本実施の形態における有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と記す)は、基板の上に形成された陽極金属層と、当該陽極金属層の上の第1領域に形成された絶縁層と、当該陽極金属層の上であって第1領域及び第2領域に形成された金属酸化物層と、当該金属酸化物層の上であって絶縁層の形成されていない領域に形成された正孔輸送層と、当該正孔輸送層の上に形成された有機発光層と、当該有機発光層の表面上に形成された陰極層とを備え、第2領域における陽極金属層の上面は、第1領域における陽極金属層の上面よりも下方に位置することを特徴とする。これにより、正孔注入特性に優れ、有機層の層数を削減でき、湿式印刷による有機層製膜が可能となる。
【0042】
以下、本発明の有機EL素子に係る実施の形態1について、図面を参照して詳細に説明する。
【0043】
図1は、本発明の実施の形態1における有機EL素子の構造断面図である。同図における有機EL素子1は、基板11と、陽極金属層12と、金属酸化物層13と、絶縁層14と正孔輸送層15と、有機発光層16と、陰極層17とを備える。
【0044】
基板11としては、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス基板、石英基板などが用いられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルホンなどのプラスチック基板を用いて、有機EL素子に曲げ性を付与することもできる。本発明の構造は、これまで述べたように、特に、トップエミッション有機EL素子に対して効果が大きいので、不透明プラスチック基板や金属基板を用いることが可能である。また、基板上に有機ELを駆動するための金属配線やトランジスタ回路が形成されていてもよい。
【0045】
陽極金属層12は、基板11の表面上に積層され、陰極層17に対して正の電圧を有機EL素子1に印加する電極である。製造プロセス途中における陽極金属層が、実施例で群述する製造プロセスにより表面酸化されることにより、金属酸化物層13が形成される。よって、陽極金属層12は、後工程にて酸化形成される金属酸化物層13の要求性能が考慮され、金属酸化により仕事関数が大きくなる金属元素が選択される。これは、高い正孔注入特性を有する金属酸化物層は、大きな仕事関数を有することが必要であることに起因する。このような金属元素材料の例としては、特に限定されるものではないが、銀、モリブデン、クロム、バナジウム、タングステン、ニッケル、イリジウムのうちのいずれかの金属、これらの金属の合金、またはそれらを積層したものを用いることが可能である。
【0046】
金属酸化物層13は、正孔を安定的に、又は正孔の生成を補助して、後述する正孔輸送層15へ正孔を注入する機能を有する。前述したように、金属酸化物層13は、実施例で群述する製造プロセスにより、陽極金属層の表面が酸化されることにより形成される。また、金属酸化物層13は、上述した金属元素で構成されるため、大きな仕事関数を有する。
【0047】
これにより、本発明の有機EL素子1は、高い正孔注入特性を有するので、高発光効率および長寿命特性を有することが可能となる。
【0048】
また、金属酸化物層13と陽極金属層12との界面については、後述する人為的な酸化処理により、絶縁層14が形成されていない第2領域である開口部における当該界面の方が、絶縁層14の下である第1領域の当該界面よりも、基板11の上面との距離が小さい。
【0049】
言い換えると、上記第2領域における陽極金属層12の膜厚は、上記第1領域における陽極金属層12の膜厚よりも小さい。この構造は、本発明の製造工程を用いた場合に、必然的に形成される構造である。
【0050】
金属酸化物層13の膜厚としては、0.1〜20nmが好ましい。さらに好ましくは1〜10nmである。金属酸化物層13が薄すぎると、均一性の問題から正孔注入性が低く、厚すぎると駆動電圧が高くなってしまう。
【0051】
陽極金属層12の表面上に金属酸化物層13を形成する工程としては、特に限定されるものではないが、製造途中における陽極金属層の表面に対する紫外光オゾン処理、酸化性ガス雰囲気のプラズマ処理、あるいはオゾンを含む溶液による処理などを好適に用いることができる。
【0052】
絶縁層14は、湿式印刷法を用いて形成される正孔輸送層15及び有機発光層16を所定の領域に形成するバンク層としての機能を有する。
【0053】
絶縁層14としては、特に限定されるものではないが、抵抗率が105Ωcm以上の物質で、撥水性の物質が用いられる。抵抗率が105Ωcm以下の抵抗率の材料であると、絶縁層14が、陽極と陰極との間のリーク電流あるいは隣接画素間のリーク電流の原因となり、消費電力の増加などの様々な問題を生じる。また、絶縁層14として親水性の物質を用いた場合、金属酸化物層13の表面は、一般に、親水性であるので、絶縁層14表面と金属酸化物層13表面との親撥水性の差異が小さくなる。そうすると、正孔輸送層15及び有機発光層16を形成するための有機物質を含んだインクを、開口部に選択的に保持することが困難となってしまう。
【0054】
絶縁層14に用いる材料は、無機物質および有機物質のいずれであってもよいが、有機物質の方が、一般的に、撥水性が高いので、より好ましく用いることができる。このような材料の例としては、ポリイミド、ポリアクリルなどが挙げられる。より撥水性とするために、フッ素を導入していても良い。
【0055】
また、絶縁層14は2層以上から構成されていてもよく、上述した材料の組み合わせであっても良いし、無機物質を第一層として用いて、有機物質を第二層に用いる組み合わせであっても良い。
【0056】
有機EL素子として有効に動作する部位を形成するために、絶縁層14は所定の形状にパターニングされて、少なくとも一箇所の開口部を有することが必要である。このパターニングの方法としては、特に限定されるものではないが、感光性の材料を用いたフォトリソグラフィ法を適用することが好ましい。
【0057】
開口部の形状としては、画素ごとに開口部を用いるピクセル状のデザインであっても良いし、ディスプレイパネルの一方向に沿って、複数の画素を含むライン状のデザインであっても良い。
【0058】
正孔輸送層15は、金属酸化物層13から注入された正孔を有機発光層16内へ輸送する機能を有する。正孔輸送層15としては、正孔輸送性の有機材料を用いることができる。正孔輸送性の有機材料とは、生じた正孔を分子間の電荷移動反応により伝達する性質を有する有機物質である。これは、p−型の有機半導体と呼ばれることもある。よって、正孔輸送層15は、電子注入層である金属酸化物層13と有機発光層16との間にあって、正孔電荷を輸送する機能を有する。
【0059】
正孔輸送層15は、高分子材料でも低分子材料であってもよいが、湿式印刷法で製膜できることが好ましく、上層である有機発光層16を形成する際に、これに溶出しにくいよう、架橋剤を含むことが好ましい。正孔輸送性の材料の例としてはフルオレン部位とトリアリールアミン部位を含む共重合体や低分子量のトリアリールアミン誘導体を用いることが出来る。架橋剤の例としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどを用いることができる。
【0060】
正孔輸送層15を形成する湿式印刷法としては、特に限定されるものではないが、インクジェット法に代表されるノズルジェット法や、ディスペンサー層を用いることができる。この場合、インクジェット法は、インク化した有機成膜材料をノズルから金属酸化物層13へ噴射して、正孔輸送層15を形成する方法である。
【0061】
有機発光層16は、正孔と電子が注入され再結合されることにより励起状態が生成され発光する機能を有する。
【0062】
有機発光層16としては、湿式印刷法で製膜できる発光性の有機材料を用いることが必要である。これにより、大画面の基板に対して、簡易で均一な製膜が可能となる。この材料としては、高分子材料でも低分子材料であってもよい。
【0063】
陰極層17としては、特に限定されるものではないが、透過率が80%以上の物質および構造を用いることが好ましい。これにより、発光効率が高いトップエミッション有機EL素子を得ることができ、消費電力と輝度半減寿命に優れた有機EL素子を得ることができる。
【0064】
このような透明陰極としての陰極層17の構成としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ土類金属を含む層と、電子輸送性の有機材料とアルカリ土類金属とを含有する層と、金属酸化物層とを備える構造が用いられる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好適に用いられる。電子輸送性の有機材料としては、特に限定されるものではないが、電子輸送性の有機半導体材料が用いられる。また、金属酸化物層としては、特に限定されるものではないが、インジウム錫酸化物(以下、ITOと記す)あるいはインジウム亜鉛酸化物からなる層が用いられる。
【0065】
陰極層17の別の例としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらのハロゲン化物を含む層と銀を含む層とをこの順に積層した構造を用いることができる。銀を含む層は、銀単独であっても良いし、銀合金であってもよい。また、光取り出し効率を向上するために、この層の上から透明度が高い屈折率調整層が設けられてもよい。
【0066】
上述した本発明の実施の形態1に係る有機EL素子1において、上記第2領域における金属酸化物層13の下面は、上記第1領域における金属酸化物層13の下面よりも下方に位置する。
【0067】
また、上記第2領域における陽極金属層12の上面は、上記第1領域における陽極金属層12の上面よりも下方に位置する。
【0068】
また、上記第2領域における金属酸化物層13の膜厚は、上記第1領域における金属酸化物層13の膜厚よりも大きい。
【0069】
本態様により、陽極金属層12の酸化により、陽極金属層12と有機発光層16との間において大きな仕事関数が得られ正孔注入に対するエネルギー障壁を小さくできるので、正孔注入特性に優れた正孔注入層を金属酸化物層で形成することが可能となる。また、正孔注入層を、有機層で形成する必要がないので、有機層の層数を削減できる。また、上記正孔注入層の上に、湿式印刷による有機層の製膜が可能となる。
【0070】
図2は、本発明の実施の形態1に係る有機EL素子の導波ロス低減効果を説明する構造断面図である。
【0071】
有機発光層16で発光した光は、球状一様分布、つまり等方的に出射する。その一部の出射光は、正孔輸送層15を通過し金属酸化物層13へ到達する。金属酸化物層13は、その組成および構造から、屈折率が2.0以上であり、他の隣接する層よりも屈折率は高い。よって、金属酸化物層13へ入射した光は、他層との境界において反射し易い。このとき、金属酸化物層13へ入射した光は、屈折率の高い金属酸化物層13を導波路として、第1領域の金属酸化物層13へと進み易い。しかし、本発明に係る金属酸化物層13は、第1領域と第2領域との間に段差部が生じているため、金属酸化物層13と他層との境界において反射した光が、上記段差部により再び第2領域内へ反射されて陰極層17の上面から出射することとなる。よって、金属酸化物層13と他層との境界において反射した光が、第1領域の金属酸化物層13を導波路として外部へ漏出することが抑制される。
【0072】
以上説明したように、金属酸化物層13の第1領域と第2領域との間に段差部により、発光の導波ロスが低減できるという効果が得られる。
【0073】
また、本態様により、第2領域における良好な正孔注入性を満たしながらも、第1領域における絶縁層14と金属酸化物層13との剥離を防止して両層の密着性を維持できるという効果が得られる。
【0074】
一般に、ある表面において、表面エネルギーが大きい方がその表面に積層した層との密着性が高い。これは、表面エネルギーが大きい表面の方が不安定であり、別層と接合することによりエネルギーを低下させようとするためである。
【0075】
濡れ性試験でこれを評価した場合、表面エネルギーの大きい方が、接触角が小さく、濡れ性が高い。また、一般に金属表面よりも金属酸化物表面の方が、表面エネルギーが大きい。これは、金属原子のみからなる集合体よりも金属原子と酸素原子からなる集合体の方が、電子分極が存在するために表面電荷を生じ、不安定な表面が出現するためである。従って、金属表面よりも金属酸化物表面の方が上層に対する密着性が高い。また、自然酸化膜のような極薄の酸化膜では、金属面が表面になっている比率が高いので、数ナノメートルの厚みに酸化することで、より密着性を改善できる。
【0076】
図3は、本発明の実施の形態1における変形例を示す有機EL素子の構造断面図である。同図における有機EL素子2は、基板11と、陽極金属下層121と、陽極金属上層122と、金属酸化物層13と、絶縁層14と、正孔輸送層15と、有機発光層16と、陰極層17とを備える。図2に記載された有機EL素子2は、図1に記載された有機EL素子1と比較して、陽極金属層12が2層から構成されている点のみが構成として異なる。以下、有機EL素子1と同じ点は説明を省略し、異なる点のみ説明する。
【0077】
陽極金属下層121は、基板11の表面上に積層され、陰極層17に対して正の電圧を有機EL素子2に印加する電極である。陽極金属下層121は、可視光の反射率が60%以上であることが好ましい。また、陽極金属下層121の材料としては、例えば、銀、アルミニウムまたはそれらを含む合金が挙げられる。合金の例としては、銀−パラジウム、銀−パラジウム−銅、アルミニウム−ネオジウムなどが好適に用いられる。
【0078】
本態様によれば、酸化される陽極金属上層とは独立に、陽極金属下層として反射率が高い金属を用いることができる。よって、各層の材料選択の幅が広がり、トップエミッション型有機EL素子としての性能の最適化がより容易となる。
【0079】
陽極金属上層122は、陽極金属下層121の表面上に積層される。製造プロセス途中における陽極金属上層が、製造プロセスにより表面酸化されることにより、金属酸化物層13が形成される。よって、陽極金属上層122は、後工程にて酸化形成される金属酸化物層13の要求性能が考慮され、金属酸化により仕事関数が大きくなる金属元素が選択される。これは、高い正孔注入特性を有する金属酸化物層は、大きな仕事関数を有することが必要であることに起因する。このような金属元素材料の例としては、特に限定されるものではないが、モリブデン、クロム、バナジウム、タングステン、ニッケル、イリジウムのうちのいずれかの金属、これらの金属の合金、またはそれらを積層したものを用いることが可能である。
【0080】
これにより、正孔注入特性に優れた金属酸化物層13を形成することが可能となる。
【0081】
また、陽極金属上層122の膜厚としては、20nm以下であることが好ましい。なぜならば、これ以上厚いと、有機EL素子2の反射率は陽極金属上層122の反射率を反映し、陽極金属下層121の反射率を反映することが困難となるからである。
【0082】
つまり、陽極金属上層による反射率の低下、つまり、トップエミッション型有機EL素子の発光の減衰を抑えることができ、陽極金属下層の高反射率を最大限に活かすことが可能となる。
【0083】
この2層構造及び上記金属元素を用いることにより、酸化される陽極金属上層122とは独立に、陽極金属下層121として反射率が高い金属を用いることができる。よって、各層の材料選択の幅が広がり、トップエミッション型有機EL素子としての性能の最適化がより容易となる。
【0084】
なお、陽極金属下層121の構成要素として、可視光の反射率が60%以上の金属を用いる場合には、陽極金属上層122は、製造最終段階において消失してもよい。この場合、陽極金属上層122の反射率の影響を最低限に抑えることができる。この場合、金属酸化物層13は、製造最終段階においては、陽極金属下層121と直接接触する構造となる。
【0085】
また、陽極金属下層121及び陽極金属上層122は、3層以上から構成されていてもよい。
【0086】
また、金属酸化物層13は絶縁層14の下に形成されていなくてもよい。一般に、後述する製造工程において、基板11の上に陽極金属層12または陽極金属上層122を積層した後、大気にさらすことにより自然酸化による金属酸化膜が陽極金属層12または陽極金属上層122の表面に形成される。しかし、例えば、上記工程途中の素子を大気にさらすことなく、次工程の絶縁膜積層を実施することにより、自然酸化による金属酸化膜が陽極金属層12に形成されない場合がある。この場合には、金属酸化物層13は絶縁層14の下に形成されない。
【0087】
上述した実施の形態1の変形例においても、上記第2領域における金属酸化物層13の下面は、上記第1領域における金属酸化物層13の下面よりも下方に位置する。
【0088】
また、上記第2領域における陽極金属上層122の上面は、上記第1領域における陽極金属上層122の上面よりも下方に位置する。
【0089】
また、上記第2領域における金属酸化物層13の膜厚は、上記第1領域における金属酸化物層13の膜厚よりも大きい。
【0090】
これにより、陽極金属上層122の酸化により、陽極金属上層122と有機発光層16との間において大きな仕事関数が得られ正孔注入に対するエネルギー障壁を小さくできるので、正孔注入特性に優れた正孔注入層を金属酸化物層で形成することが可能となる。また、正孔注入層を、有機層で形成する必要がないので、有機層の層数を削減できる。また、上記正孔注入層の上に、湿式印刷による有機層の製膜が可能となる。
【0091】
また本態様により、金属酸化物層13の第1領域と第2領域との間に段差部により、発光の導波ロスが低減できるという効果が得られる。
【0092】
また、本態様により、第2領域における良好な正孔注入性を満たしながらも、第1領域における絶縁層14と金属酸化物層13との剥離を防止して両層の密着性を維持できるという効果が得られる。
【0093】
(実施例)
次に、実施例及び比較例を挙げながら本発明を説明する。
【0094】
(実施例1)
図4は、本発明に係る実施例1における有機EL素子の製造方法を説明する工程図である。
【0095】
まず、ガラス基板111(松浪ガラス製無ソーダガラスを使用)表面上に、スパッタ法によりモリブデン97%、クロム3%からなる膜厚100nmの陽極123(以下、Mo:Cr(97:3)と略することがある)を形成した。そして、感光性レジストを用いるフォトリソグラフィおよびエッチングによる陽極123のパターニング工程、および感光性レジストの剥離工程を経て、陽極123を所定の陽極形状にパターニングした(図4(a))。
【0096】
エッチング液としては、燐酸、硝酸、酢酸の混合溶液を用いた。
【0097】
この陽極123の形成工程の完了後、次の絶縁層形成工程前には、陽極123の最表面が自然酸化され、表面酸化膜131が形成されている。なお、前述したように、陽極123の形成工程の完了後、素子を大気にさらすことなく、次工程の絶縁膜積層を実施することにより、表面酸化膜131が形成されない場合がある。この場合には、次工程において、絶縁層141は、陽極123の上に形成される。
【0098】
次に、絶縁層141として感光性ポリイミドをスピンコート法により形成し、フォトマスクを用いた露光、現像工程を経て所定の形状にパターニングした(図4(b))。
【0099】
次に、中性洗剤と純水を用いて基板洗浄を行った。この基板洗浄工程において、表面酸化膜131は水溶性であるために、表面酸化膜131の一部が溶出してしまう可能性がある。表面酸化膜131の一部が溶出した状態の上に正孔輸送層を積層すると、正孔注入層としての金属酸化物層が不十分な状態となり、低い正孔注入能力を有する有機ELとなってしまう。本発明では、この正孔注入能力の低下を抑制するため、上記絶縁層形成工程の後に、人為的な酸化処理工程を導入している。
【0100】
そのための表面処理として、UV−オゾン処理(照射光:170nm紫外光、照射時間:120秒)を行い、正孔注入層として機能する金属酸化物層132を形成した(図4(c))。つまり、金属酸化物層132は、上記表面処理後の表面酸化膜131の形態であり、上記表面処理前の表面酸化膜131と上記表面処理により陽極123の一部が人為的に酸化された酸化領域とを含む。一方、陽極124は、上記表面処理後の陽極123の形態であり、陽極123から上記酸化領域が除外されたものである。よって、本工程終了段階では、絶縁層141が形成されていない第2領域である開口部の金属酸化物層132の膜厚は、絶縁層141の下である第1領域に形成された、表面酸化膜である金属酸化物層132の膜厚よりも大きい。
【0101】
次に、正孔輸送層151として、サメイション製HT12のキシレン/メシチレン混合溶媒からインクジェット法により開口部に塗布した。そして、50℃で10分間真空乾燥を行い、引き続き、窒素雰囲気中において210℃で30分間加熱することで架橋反応を行った。開口部の位置によって、若干膜厚の不均一性が生じるが、平均膜厚20nmとなるように形成した(図4(d))。
【0102】
次に、有機発光層161として、サメイション製緑色発光材料Lumation Green(以下、LGrと略す)をキシレンとメシチレン混合溶媒からインクジェット法により開口部に塗布した。そして、50℃で10分間真空乾燥を行い、引き続き、窒素雰囲気中において130℃で30分間ベークを行った。開口部の位置によって、若干膜厚の不均一性が生じるが、平均膜厚70nmとなるように形成した(図4(e))。
【0103】
次に、陰極層171として、真空蒸着法により、バリウム5nm(アルドリッチ製、純度99%以上)を製膜した。引き続き、バリウム20%を混合した化合物Alq(新日鐵化学製、純度99%以上)の膜20nmを共蒸着法により製膜し、最後に住友重機械工業株式会社製のプラズマコーティング装置を用いてITO電極を100nm形成した(図4(f))。
【0104】
最後に、作製した有機EL素子の空気中での評価を可能とするために、水および酸素濃度が5ppm以下の窒素ドライボックス中で素子のガラス缶封止を行った。
【0105】
図5Aは、本発明に係る実施例1の製造方法を用いて作製された有機EL素子を備えた有機ELデバイスの上面図である。また、図5Bは、本発明に係る実施例1の製造方法を用いて作製された有機EL素子を備えた有機ELデバイスの構造断面図である。本実施例では、上述した製造工程により図5A及び図5Bに記載された有機ELデバイスを作製した。
【0106】
(実施例2)
本発明に係る実施例2における有機EL素子の製造方法は、図4に記載された陰極層171として、真空蒸着法により、バリウム5nmと銀(アルドリッチ製純度99.9%)10nm、屈折率調整層としてフッ化リチウム80nmを形成した以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0107】
(実施例3)
本発明に係る実施例3における有機EL素子の製造方法は、表面処理方法として、酸素プラズマ法(プラズマ時間120秒、パワー2000W)を用いた以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0108】
(実施例4)
本発明に係る実施例4における有機EL素子の製造方法は、陽極123としてスパッタ法によりモリブデン3%、クロム97%からなる膜厚100nmの膜(以下、Mo:Cr(3:97)と略することがある)を用いた以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0109】
(実施例5)
本発明に係る実施例5における有機EL素子の製造方法は、陽極123としてまず、銀/パラジウム/銅合金膜100nmをスパッタ法により形成し、その後にモリブデン3%、クロム97%からなる膜厚10nmを同じくスパッタ法により積層して陽極123(以下、APC/Mo:Cr(3:97)と略することがある)とした以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0110】
(比較例1)
比較例1における有機EL素子の製造方法は、表面洗浄後に正孔注入層として三酸化モリブデン30nmを蒸着法により形成したこと、および表面酸化処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0111】
(比較例2)
比較例2における有機EL素子の製造方法は、陽極123としてモリブデン97%、クロム3%からなる100nmの膜を形成し、その上から、従来用いられてきたITO膜を同じくスパッタ法により40nm形成し、陽極123の形状パターニングのためのエッチング工程として、塩酸と硝酸の混合溶媒を用いて行った以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0112】
(比較例3)
比較例3における有機EL素子の製造方法は、正孔輸送層151の前に、従来用いられてきた、PEDOT:PSS(HC Stark社製)をインクジェット法により開口部に塗布した。そして、50℃で10分間真空乾燥を行い、引き続き、200℃で40分間真空ベークを行った。開口部の位置によって、若干膜厚の不均一性が生じるが、平均膜厚40nmとなるように形成した以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0113】
(比較例4)
比較例4における有機EL素子の製造方法は、正孔輸送層151であるサメイション製HT12の製造工程を省いた以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0114】
(比較例5)
比較例5における有機EL素子の製造方法は、表面酸化処理であるUV−オゾン処理を省いた以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0115】
(実施例及び比較例の評価)
以上の実施例1〜5及び比較例1〜5において、本発明の効果を示すために以下の評価を行った。
【0116】
まず、有効に機能する有機EL素子を作製するためには、開口部へ有機材料を含有したインクを有効に保持できることが重要である。このためには、開口部と絶縁層上の撥水性の差が重要である。これを評価するために、図5Aの基板上のA点とB点において、所定の表面処理を行った後に水を滴下して、その接触角を測定した。正孔輸送層151や有機発光層161を形成するためには、これらが溶解するキシレンなどの有機溶媒を用いる。しかし、キシレンを用いて接触角の測定を行った場合、表面張力が小さいために測定される接触角が小さく、実験誤差が生じやすい。したがって、ここでは表面張力が大きい水を用いて接触角の測定を行い、親撥水性の評価を行った。表1の接触角Aおよび接触角Bの項にこれらの撥水性評価結果をまとめた。
【0117】
【表1】

【0118】
金属酸化物層132上のA点では、酸化処理を施した実施例1〜5および比較例1〜4では、接触角測定が不可能なほど親水性が高く滴下した水が濡れ広がることから、金属酸化物層132表面と溶媒との親和性が高いことが解った。酸化処理を施していない比較例5のA点では、濡れ性は若干悪く、15°程度であった。
【0119】
絶縁層141上のB点では、酸化処理を施した実施例1〜5および比較例2〜4では、その接触角は、40〜50°程度であった。測定や液滴角度の決定にばらつきが出るので数値に範囲を持たせて示している。酸化処理を施していない比較例5では75°と高い値を示した。
【0120】
また、全面に三酸化モリブデン膜を蒸着した比較例1では、絶縁層の上に三酸化モリブデン層が存在するために、接触角は酸化処理を施した金属酸化物層132上と同じく5°以下であった。
【0121】
次に、酸化処理後にキシレン100ulを開口部に滴下して開口部に溶媒の保持ができるかを実験した。表1のインクのバンク内保持の項にこの結果をまとめた。開口部と絶縁層141上に大きな撥水性の差がある実施例1〜5、比較例2〜4に関しては、良好に溶媒を開口部内に保持することが出来た。全面に三酸化モリブデン膜を蒸着した比較例1では、開口部の内側と外側で親撥水性に差がないので、溶媒を開口部に保持することが出来ずに、開口部外に溶媒があふれ出てしまった。また、酸化処理を行わずに洗浄のみを行った比較例5では、溶媒は開口部内に保持できるものの、開口部内の全ての部位が溶媒で満たされずに一部が濡れていなかった。
【0122】
次に、表面処理後の陽極上の仕事関数の測定を行った。表1の仕事関数の項にこれらの親撥水性評価結果をまとめた。MoCr(97:3)を酸化処理した表面が開口部の金属酸化物層132となっている実施例1〜3、比較例4〜5では5.5eV、MoCr(3:97)を酸化処理した表面が開口部の金属酸化物層132となっている実施例4および5では、5.6eVの仕事関数を示した。三酸化モリブデンが表面に出ている比較例1は5.6eVであり、これらの表面は、有機層に正孔注入を行うために適切な仕事関数を有していることが解った。
【0123】
一方、従来のようにITO層が表面にある比較例2では、5.2eVと、これらよりも仕事関数が小さく、正孔注入性の低下を伴う。また、表面の酸化処理を施していない、比較例5では、仕事関数は、4.7eVであり、酸化処理により仕事関数を増加させることができることが解る。
【0124】
次に、陽極124側を正、陰極層171側を負として10mA/cm2の電流を素子に流したときの駆動電圧と輝度を測定することにより、この時の駆動電圧及び発光効率を求めた。さらに、これらの素子を4000cd/m2で発光させ、一定電流で駆動し続けたときの輝度の減衰を測定し、輝度が半減(2000cd/m2)したときの時間を素子寿命とした。表1の駆動電圧、発光効率および寿命の項にこれらの結果をまとめた。
【0125】
本発明に基づく実施例1では、7.2V程度の良好な駆動電圧と、5.0cd/Aの高い発光効率、及び、560時間の長い輝度半減寿命が得られた。
【0126】
陰極層171として薄い銀を用いた実施例2、及び、酸化処理として酸素プラズマ処理を用いた実施例3においても、実施例1とほぼ同等の素子性能が得られた。
【0127】
モリブデンとクロムの比を逆転させた実施例4においては、陽極の反射率が10%程度改善されるので、陽極反射時の光の損失が抑えられ、発光効率が10%程度向上した。これにより、4000cd/cm2を得るために必要な電流値が小さくて済むために、寿命も向上した。
【0128】
本発明のさらに好ましい形態である高反射率の金属(ここではAPC)を陽極金属下層として用い、その上にMoCr(3:97)を形成した実施例5では、陽極金属下層での光の損失が低減されるので、発光効率は9.3cd/Aまで高まり、輝度半減寿命も910時間まで伸びた。
【0129】
一方、従来の構造である、PEDOT:PSSを用いた比較例3では、PEDOT:PSSの高い電導度と、これが絶縁膜上に若干濡れ広がり、陰極と接触してしまうために、大きなリーク電流が生じた。このため、発光効率が低く、素子寿命も短い。
【0130】
また、比較例1では、親撥水性の差が得られず、溶液を開口部に保持することができなかったので、デバイス化が出来なかった。
【0131】
また、本発明以外の金属であるインジウム及び錫を陽極に用いた比較例2では、表面酸化処理によって、十分に仕事関数が高い金属酸化物層を得ることができなかった。このため、正孔注入性が十分でなく、素子内の正孔と電子のバランスが崩れ、発光効率は大きく低下し、寿命は極端に短くなった。
【0132】
また、正孔輸送層がない比較例4では、比較例2と同じく正孔注入性が十分でなく、発光効率が低く、寿命は極端に短くなった。
【0133】
また、表面酸化処理を行わなかった比較例5では、比較例2及び4と同じく、正孔注入性が十分でなく、発光効率が低く、寿命は極端に短くなった。
【0134】
以上のように、本発明に係る有機EL素子は、陽極123または表面酸化膜131の上に絶縁層141および開口部が形成された後、開口部の表面酸化膜131が人為的に酸化処理されることにより、正孔注入特性に優れ、有機層の層数を削減でき、湿式印刷による正孔輸送層及び有機発光層の製膜が可能となる。
【0135】
本発明の実施の形態1に係る有機EL素子の製造方法によれば、開口部の表面酸化膜131の酸化が促進されるので、結果的には、開口部領域の陽極124の膜厚は、絶縁層141の下の陽極124の膜厚より小さくなる。
【0136】
本態様によれば、陽極123の酸化により、仕事関数が大きく正孔注入に対するエネルギー障壁を小さくすることが可能な正孔注入層を形成することが可能となる。また、上記正孔注入層は金属酸化物層132であるので、有機層の層数を削減でき、その上層には湿式印刷による有機層製膜が可能となる。
【0137】
また言い換えると、第2領域における金属酸化物層132の膜厚は、第1領域における金属酸化物層132の膜厚よりも大きいので、陽極124の上に設けられる金属酸化物層132に関し、第1領域と第2領域との界面において、第2の領域側が第1の領域側よりも下方に位置するように段差が生じる形態となる。これにより、発光された光が、第1領域に形成された金属酸化物層132を光導波路として外部へ漏れてしまうという、いわゆる導波ロスを低減することが可能となる。
【0138】
なお、本発明の構造である、開口部領域の陽極124の膜厚が、絶縁層141の下の陽極124の膜厚より小さいことは、断面TEMによっても金属層である陽極124と酸化物層である金属酸化物層132との界面が判断可能であるため、その界面と陽極124下面との距離によって判断することができる。
【0139】
また、上記実施例にみられるような仕事関数の大きい金属酸化物からなる正孔注入層が陽極と正孔輸送層との間に形成されることにより、陽極側は高い正孔注入能力を有することが可能となる。よって、発光効率及び寿命といった性能に優れた有機EL素子を実現することが可能となる。
【0140】
さらに、実施例5にみられるように、陽極金属層を上層及び下層の2層に分けて積層することにより、可視光反射率の高い下層及び可視光透明度の高い上層を形成することが可能となる。これにより、トップエミッション型有機EL素子としての性能の最適化がより容易となる。
【0141】
また、実施例1〜5において、絶縁層形成工程後には、第2領域である開口部には、陽極123の自然酸化による表面酸化膜131が形成されているが、このとき、開口部における表面酸化膜131の表面をアルカリ性の溶液などで洗浄することにより、表面酸化物を溶出させ、開口部の表面酸化膜131を取り除いてもよい。その後、表面酸化膜131が除去された開口部の陽極123の表面に対し、次工程の人為的な酸化処理プロセスを実施することにより、開口部に自然酸化による表面酸化膜131を形成させないようにすることができる。これにより、開口部の金属酸化物層132は、絶縁層141の下の金属酸化物層132とは、連続的に形成されず、開口部の表面酸化膜131は、その側面部および下面部が陽極124により被覆される。よって、発光の一部が金属酸化物層を通じて素子の外部に漏出することを完全に防止することが可能となり、発光の導波ロス低減効果が顕著となる。また、このとき、次工程の人為的な酸化処理プロセスにより形成される金属酸化物層の厚みは、自然酸化により形成される表面酸化膜131の厚みよりも大きいことが好ましい。これにより、金属表面に形成された金属酸化物層が正孔注入特性に優れた正孔注入層として機能する。
【0142】
(実施の形態2)
本実施の形態における有機EL素子は、基板の上に形成された陽極金属層と、当該陽極金属層の上の第1領域に形成された絶縁層と、当該陽極金属層の上であって第1領域以外の第2領域に形成された金属酸化物層と、当該金属酸化物層の上であって絶縁層の形成されていない領域に形成された正孔輸送層と、当該正孔輸送層の上に形成された有機発光層と、当該有機発光層の表面上に形成された陰極層とを備え、第2領域における陽極金属層の上面は、第1領域における陽極金属層の上面よりも下方に位置することを特徴とする。これにより、正孔注入特性に優れ、有機層の層数を削減でき、湿式印刷による有機層製膜が可能となる。
【0143】
以下、本発明の有機EL素子に係る実施の形態2について、図面を参照して詳細に説明する。
【0144】
図6は、本発明の実施の形態2における有機EL素子の構造断面図である。同図における有機EL素子4は、基板11と、陽極金属層12と、金属酸化物層43と、絶縁層14と、正孔輸送層15と、有機発光層16と、陰極層17とを備える。
【0145】
図6に記載された有機EL素子4は、図1に記載された有機EL素子1と比較して、金属酸化物層が絶縁層の下である第1領域に形成されていない点のみが異なる。図1に記載された有機EL素子1と同じ点は説明を省略し、以下、異なる点のみ説明する。
【0146】
金属酸化物層43は、正孔を安定的に、又は正孔の生成を補助して、後述する正孔輸送層15へ正孔を注入する機能を有する。金属酸化物層43は、後述する製造プロセスにより、陽極金属層の表面が酸化されることにより形成される。また、金属酸化物層43は、上述した金属元素で構成されるため、大きな仕事関数を有する。
【0147】
これにより、本発明の有機EL素子4は、高い正孔注入特性を有するので、高発光効率および長寿命特性を有することが可能となる。
【0148】
金属酸化物層43の膜厚としては、0.1〜20nmが好ましい。さらに好ましくは1〜10nmである。金属酸化物層43が薄すぎると、均一性の問題から正孔注入性が低く、厚すぎると駆動電圧が高くなってしまう。
【0149】
陽極金属層12の表面上に金属酸化物層43を形成する工程としては、特に限定されるものではないが、製造途中における陽極金属層の表面に対する紫外光オゾン処理、酸化性ガス雰囲気のプラズマ処理、あるいはオゾンを含む溶液による処理などを好適に用いることができる。
【0150】
上述した本発明の実施の形態2に係る有機EL素子4において、上記第2領域における陽極金属層12の上面は、上記第1領域における陽極金属層12の上面よりも下方に位置する。
【0151】
本態様により、陽極金属層12の酸化により、陽極金属層12と有機発光層16との間において大きな仕事関数が得られ正孔注入に対するエネルギー障壁を小さくできるので、正孔注入特性に優れた正孔注入層を形成することが可能となる。また、正孔注入層を、有機層で形成する必要がないので、有機層の層数を削減できる。また、上記正孔注入層の上に、湿式印刷による有機層の製膜が可能となる。
【0152】
金属酸化物層43は、上記第1領域に形成されることなく上記第2領域に形成され、上記第2領域に形成された金属酸化物層43は、その側面部および下面部が陽極金属層12により被覆されている。
【0153】
これにより、金属酸化物層43は、その側面部および下面部が陽極金属層12により被覆されるので、発光の一部が金属酸化物層43を通じて素子の外部に漏出することが防止され、発光の導波ロスが低減できるという効果が得られる。
【0154】
次に、本発明の実施の形態2に係る有機EL素子4の製造方法について説明する。図7は、本発明の実施の形態2に係る有機EL素子の製造方法を説明する工程図である。
【0155】
まず、ガラス基板111(松浪ガラス製無ソーダガラスを使用)表面上に、スパッタ法によりモリブデン97%、クロム3%からなる膜厚100nmの陽極123(以下、Mo:Cr(97:3)と略することがある)を形成する。そして、感光性レジストを用いるフォトリソグラフィおよびエッチングによる陽極123のパターニング工程、および感光性レジストの剥離工程を経て、陽極123を所定の陽極形状にパターニングする(図7(a))。
【0156】
エッチング液としては、燐酸、硝酸、酢酸の混合溶液を用いる。
【0157】
この陽極123の形成工程の完了後、素子が大気にさらされることにより、陽極123の最表面が自然酸化され、表面酸化膜131が形成される(図7(b))。
【0158】
ここで、表面酸化膜131が自然形成された後、アルカリ性の溶液などで表面を洗浄することにより、表面酸化物を溶出させ、表面酸化膜131を取り除く。これにより、次工程において、絶縁層141は、陽極123の上に直接形成されることになる。
【0159】
なお、上記以外にも、陽極123の形成工程の完了後、素子を大気にさらすことなく、次工程の絶縁膜積層を実施することにより、表面酸化膜131を形成させないようにすることができる。
【0160】
次に、絶縁層141として感光性ポリイミドをスピンコート法により形成し、フォトマスクを用いた露光、現像工程を経て所定の形状にパターニングする(図7(c))。
【0161】
次に、中性洗剤と純水を用いて基板洗浄を行う。
【0162】
ここで、本実施の形態では、上述した通り、この段階では表面酸化膜は存在していないため、表面酸化膜が存在する形態における不具合が未然に防止される。すなわち、表面酸化膜131が存在する場合、基板洗浄工程において、表面酸化膜は水溶性であるために、表面酸化膜の一部が溶出してしまう可能性がある。表面酸化膜の一部が溶出した状態の上に正孔輸送層を積層すると、正孔注入層としての金属酸化物層が不十分な状態となり、低い正孔注入能力を有する有機EL素子となってしまう。
【0163】
これに対し、本実施の形態では、正孔注入能力の低下を抑制するため、表面酸化膜131が存在しない状態で絶縁層14を形成させ、その後、人為的な酸化処理工程を導入している。
【0164】
上述した人為的な酸化処理のための表面処理として、UV−オゾン処理(照射光:170nm紫外光、照射時間:120秒)を行い、正孔注入層として機能する金属酸化物層432を形成する(図7(d))。つまり、金属酸化物層432は、上記表面処理により陽極123の一部が人為的に酸化された酸化領域である。一方、陽極124は、上記表面処理後の陽極123の形態であり、陽極123から上記酸化領域が除外されたものである。
【0165】
よって、金属酸化物層432は、絶縁層14に対応する第1領域に形成されることなく、開口部に対応する前記第2領域にのみ形成され、金属酸化物層432は、図7(d)に示す通り、その側面部および下面部が陽極124により被覆される。本形態により、発光の一部が金属酸化物層を通じて素子の外部に漏出することが防止され、発光の導波ロスが低減できるという付随的な効果も見込まれる。
【0166】
以降の工程、つまり、正孔輸送層151、有機発光層161及び陰極層171を形成する工程(図7(e)、図7(f)及び図7(g))は、実施の形態1における実施例1と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0167】
本態様によれば、陽極123の酸化により、仕事関数が大きく正孔注入に対するエネルギー障壁を小さくすることが可能な正孔注入層を形成することが可能となる。また、上記正孔注入層は金属酸化物層432であるので、有機層の層数を削減でき、その上層には湿式印刷による有機層製膜が可能となる。
【0168】
以上、本発明の有機EL素子及びその製造方法について、実施の形態1及び2に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものも、本発明の範囲内に含まれる。
【0169】
例えば、実施の形態2における陽極金属層12が、実施の形態1の変形例における陽極金属層のように陽極金属下層121及び陽極金属上層122で構成されていてもよい。
【0170】
なお、本発明の実施の形態1及び2において、正孔輸送層15および有機発光層16に高分子有機材料が用いられた例を示したが、これらに低分子有機材料が用いられても、本検討と同様な効果が得られる。
【0171】
なお、本発明の有機EL素子の有する電極は、基板上の全面あるいは大部分に一様に形成されていてもよい。この場合は、開口部の大きい大面積発光が得られるので照明装置として用いることができる。あるいは、この電極は、特定の図形や文字を表示できるようにパターン化されていても良い。この場合は、特性のパターン状の発光が得られるので広告表示などに用いることができる。あるいは、この電極は、行列状に多数配置されていても良い。この場合は、パッシブ駆動のディスプレイパネルなどの画像表示装置として用いることができる。あるいは、この電極は、トランジスタアレイを並べた基板上で、このトランジスタアレイに対応する形で電気的な接続を得られるように形成されていてもよい。この場合は、図8に記載されたTVに代表されるように、アクティブ駆動のディスプレイパネルなどの画像表示装置として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明に係る有機EL素子は、低駆動電圧で高効率、長寿命であることから、ディスプレイデバイスの画素発光源、液晶ディスプレイのバックライト、各種照明用光源、光デバイスの光源等として有用であり、特に、TFTと組み合わせたアクティブマトリックス有機ELディスプレイパネルへの応用に適性がある。
【符号の説明】
【0173】
1、2、3、4 有機EL素子
11 基板
12 陽極金属層
13、43、132、432 金属酸化物層
14、141 絶縁層
15、151 正孔輸送層
16、161 有機発光層
17、171 陰極層
111 ガラス基板
121 陽極金属下層
122 陽極金属上層
123、124 陽極
131 表面酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に形成された、第1領域と、前記第1領域以外の第2領域とを有する陽極金属層と、
前記陽極金属層の上であって、前記第1領域に形成された絶縁層と、
前記陽極金属層の上であって、前記基板の上に積層された陽極金属層の表面が酸化されることにより、前記第2領域に形成され、前記第1領域に形成されない金属酸化物層と、
前記金属酸化物層の上であって、前記絶縁層の形成されていない前記第2領域に形成され、正孔輸送性の有機材料を含む正孔輸送層と、
前記正孔輸送層の上に形成された有機発光層と、
前記有機発光層の上に形成され、前記有機発光層へ電子を注入する陰極層とを備え、
前記金属酸化物層は、その側面部および下面部が前記陽極金属層により被覆される
有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記陽極金属層は、
可視光の反射率が60%以上である陽極金属下層と、
前記陽極金属下層の表面上に積層された陽極金属上層とを備える
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記陽極金属下層は、アルミニウム及び銀のうち少なくとも1つを含む合金であり、
前記陽極金属上層は、モリブデン、クロム、バナジウム、タングステン、ニッケル、イリジウムのうち少なくとも1つを含む金属である
請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記第2領域における前記陽極金属上層の膜厚は、20nm以下である
請求項2または3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記第2領域には、前記陽極金属上層が形成されていない
請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記陽極金属層は、銀、モリブデン、クロム、バナジウム、タングステン、ニッケル、イリジウムのうち少なくとも1つを含む金属である
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記有機発光層は、湿式印刷法により、発光性を有する有機材料を用いて形成されている
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記正孔輸送層は、湿式印刷法により形成されている
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明装置。
【請求項10】
請求項1〜8のうちいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−119288(P2011−119288A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66783(P2011−66783)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【分割の表示】特願2010−233071(P2010−233071)の分割
【原出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】