説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】発光層の間に中間層を簡素な構造で形成することができ、高輝度発光が可能な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】陽極と陰極の間に中間層を介して積層された複数の発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子において、中間層を両極性伝導性金属酸化物層と金属または金属酸化物からなる層を含むように形成することで中間層とそれに接する発光機能を有する層(有機層)との電気的な接続状態を向上させることができ、あるいは、中間層内での電荷分離をより効率よく行うことができ、全体として発光層間に配する層をより少ない状態で駆動電圧を低減できるとともに、かつ安定した特性を示すことのできる有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に係り、特に照明光源や液晶表示器用バックライト、フラットパネルディスプレイ等に用いられる複数の発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子と称される有機発光素子は、その一例として陽極となる透光性電極、ホール輸送層、有機発光層、電子注入層、陰極となる電極の順に、透光性基板の片側の表面に積層した構成のものが、知られている。このような有機発光素子においては、陽極と陰極の間に電圧を印加することによって、電子注入層を介して発光層に注入された電子と、ホール輸送層を介して発光層に注入されたホールとが、発光層内で再結合して発光が起こり、発光層で発光した光は、透光性電極及び透光性基板を通して取り出される。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、自発光であること、比較的高効率の発光特性を示すこと、各種の色調で発光可能である等の特徴を有することから、表示装置、例えばフラットパネルディスプレイ等の発光体として、あるいは光源、例えば液晶表示機用バックライトや照明としての活用が期待されており、一部ではすでに実用化されている。しかし、有機エレクトロルミネッセンス素子は、その輝度と寿命とがトレードオフの関係にあり、より鮮明な画像、あるいは明るい照明光を得るために輝度を増大させると、寿命が短くなるという性質を有する。
【0004】
この問題を解決するために、近年、陽極と陰極の間に発光層を複数備え、かつ各発光層間に導電層や、等電位面を形成する層、もしくは電荷発生層を設けるようにした有機発光素子が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
図1はこのような有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の一例を示すものであり、陽極1となる電極と陰極2となる電極の間に複数の発光層4a,4bを、隣接する発光層4a,4bの間に導電層(もしくは電荷発生層)10を介在させた状態で積層し、これを透光性の基板5の表面に積層したもので、陽極1は透光性電極、陰極2は光反射性電極となるように形成されている。尚、図1において、発光層4a,4bの両側にはホール輸送層と電子注入層が設けられているが、ホール輸送層と電子注入層の図示は省略する。
【0006】
そしてこのように複数層の発光層4a,4bを導電層(もしくは電荷発生層)10で仕切ることによって、陽極1と陰極2の間に電圧を印加したとき、複数の発光層4a,4bがあたかも直列的に接続された状態で同時に発光し、各発光層4a,4bからの光が合算されるため、一定電流通電時には従来型の有機エレクトロルミネッセンス素子よりも高輝度で発光させることができ、上記のような輝度−寿命のトレードオフを回避することが可能になるものである。
【0007】
しかしながら、複数の発光層を仕切る導電層もしくは電荷発生層は、比較的複雑な構造となっている。また、以下に示すように、好ましくない電圧上昇の問題がある、もしくはプロセス上の問題がある、等の問題を有している。
【0008】
この導電層もしくは電荷発生層として、現在知られている一般的な構造としては、例えば、(1)BCP:Cs/V、(2)BCP:Cs/NPD:V、(3)Li錯体とAlのその場反応生成物、(4)Alq:Li/ITO/ホール輸送材料、等がある(「:」は2種の材料の混合を、「/」は前後の組成物の積層を表す)。
【0009】
ここで、ルイス酸分子は電子輸送材料とも反応し、また、アルカリ金属はルイス塩基としてホール輸送材料とも反応し、これらの反応によって駆動電圧の増大が起こることが知られており(非特許文献1)、また有機層上にITOなどをスパッタによって成膜する場合、スパッタダメージによる素子効率の低下などが起こることが知られており、これらが上記の(1)〜(4)系の問題となる。具体的には、(1)の系ではV層の膜質によるショートの問題、(2)の系では両層の副反応による電圧上昇の問題があり、(3)の系ではその場反応生成物を得るためにAl薄膜の蒸着を行っているが、その膜厚が非常に薄く、かつAl原子がマイグレーションを起こすことから、連続した膜状ではなく、島状に形成されていることが考えられる。その結果、寿命や信頼性に問題があった(特許文献2参照)。さらに(4)の系では、導電層もしくは電荷発生層としてのITOを蒸着ではなくスパッタ成膜する必要があるという製造プロセスの問題がある。また特許文献3には、1種のマトリクスに添加剤を膜内のどの位置でもその濃度が0にはならないように添加することによって導電層もしくは電荷発生層を形成する方法が記載されているが、この場合にも前記非特許文献1に記載されている問題を解決することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−329748号公報
【特許文献2】特開2003−272860号公報
【特許文献3】特開2005−135600号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】高分子学会有機EL研究会 平成17年12月9日講演会 マルチフォトン有機EL照明
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように発光層の間に中間層として導電層もしくは電荷発生層を形成する場合、種々の問題があり、このような中間層を蒸着で簡便に形成できると共に、素子特性の悪化を引き起こす副反応を抑制することができ、かつ比較的単純な構成の中間層を実現することが望まれていた。
【0013】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、発光層の間に中間層を簡素な構造で形成することができ、高輝度発光が可能な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極の間に中間層を介して積層された複数の発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、中間層が両極性伝導性金属酸化物層と金属または金属酸化物からなる層を含んで形成されることを特徴とする。
この構成によれば、両極性伝導性金属酸化物によって中間層が形成されることによって、中間層とそれに接する発光機能を有する層(有機層)との電気的な接続状態を向上させることができ、あるいは、中間層内での電荷分離をより効率よく行うことができ、全体として発光層間に配する層をより少ない状態で駆動電圧を低減できるとともに、かつ安定した特性を示すことのできる有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができるものである。
【0015】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記金属が2種類以上の金属からなる合金であるものを含み、また、本発明は、上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記金属が仕事関数3.7eV以下であるものを含む。この構成によれば、仕事関数が小さいため、電子の注入性の良好な中間層を得る事が可能となる。また、本発明は、上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記金属が仕事関数5eV以上であるものを含む。この構成によれば、仕事関数が大きいため、ホールの注入性の良好な中間層を得る事が可能となる。
【0016】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極の間に、中間層を介して積層された複数の発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、中間層が両極性伝導性金属酸化物層と導電性有機材料からなる層を含んで形成されることを特徴とする。
この構成によれば、導電性有機材料が多数のキャリアを有するため、キャリア輸送性に優れる、電荷分離能に優れる、導電率が高く抵抗が小さい、隣接する有機層に良好にキャリア注入を行うことができる等の優れた点を有し、中間層とそれに接する有機層との電気的な接続状態を向上させることができるとともに、導電性有機材料がキャリアの輸送を促進するとともに電荷分離を効率的に行うことができ、低電圧駆動でかつ特性の安定した有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することが可能となる。
【0017】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極の間に、中間層を介して積層された複数の発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、中間層が、電気的特性が異なる少なくとも異なる2層の両極性伝導性金属酸化物の積層膜を含んで形成されることを特徴とする。
この構成によれば、中間層を、電気的特性が異なる少なくとも2層の両極性伝導性金属酸化物の積層膜で構成することにより、陽極側にある層を、他の一層よりも電子輸送性・電子注入性に優れたものとし、陰極側にある層を、他の一層よりもホール輸送性・ホール注入性に優れたものとすることが可能となり、中間層とそれに接する有機層との電気的な接続状態を向上させることができ、また、2層がそれぞれホールおよび電子の輸送に寄与するとともに、これらの層の界面でホールと電子の授受が可能となるために電荷分離能を高く得ることが可能となって、中間層内での電荷分離をより効率よく行うことができ、特性および安定性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができるものである。
【0018】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極の間に、中間層を介して積層された複数の発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、中間層が、電気的特性が異なる少なくとも2つの両極性伝導性金属酸化物の混合層を含んで形成されることを特徴とする。
この構成によれば、中間層を、電気的特性が異なる少なくとも異なる2つの両極性伝導性金属酸化物の混合層で構成することにより、材料の界面でホールと電子の授受が可能となって、電荷分離能を高く得ることができ、中間層とそれに接する有機層との電気的な接続状態を向上させることができるとともに、2つの両極性伝導性金属酸化物がそれぞれホールおよび電子の輸送に寄与することで、中間層内での電荷分離をより効率よく行うことができ、特性および安定性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができるものである。
【0019】
また、本発明は、上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記両極性伝導性金属酸化物の混合層は、共蒸着層であるものを含む。
この構成によれば、安定して所望の混合比の混合層を得ることができる。また、蒸着によって成膜する場合、下地表面の荒れを低減することができるため、界面状態を良好に維持することができ、電気的にも光学的にも損失を最小限に抑えることができる。
【0020】
また、本発明は、上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記両極性伝導性金属酸化物は、互いに異なる元素を含むものを含む。
この発明によれば、互いに異なる元素がそれぞれホールおよび電子の輸送に寄与することで、中間層内での電荷分離をより効率よく行うことができ、特性および安定性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができるものである。
【0021】
また、本発明は、上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記両極性伝導性金属酸化物は、互いに同一元素で組成比が異なるものである。
この発明によれば、互いに同一元素で組成比が異なる両極性伝導性金属酸化物がそれぞれホールおよび電子の輸送に寄与することで、中間層内での電荷分離をより効率よく行うことができ、特性および安定性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができるものである。
【0022】
また本発明は、上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記両極性伝導性金属酸化物がバナジウム、モリブデン、レニウム、タングステン、ニッケル、亜鉛、銅、インジウム、ストロンチウム、ニオブから選ばれる金属の酸化物からなることを特徴とするものである。
この構成によれば、中間層とそれに接する有機層との電気的な接続状態をより向上させることができるとともに、界面の安定性を向上させることができ、より特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、中間層を、両極性伝導性金属酸化物を含有する層として形成することによって、駆動電圧を低減でき、かつ安定した特性を示すことが可能な有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。ここで上記中間層としては、両極性伝導性金属酸化物層と金属または金属酸化物からなる層を含んで形成される、中間層が両極性伝導性金属酸化物層と導電性有機材料からなる層を含んで形成される、電気的特性が異なる少なくとも2層の両極性伝導性金属酸化物の積層膜を含んで形成される、中間層が、電気的特性が異なる少なくとも2つの両極性伝導性金属酸化物の混合層を含んで形成されるもののいずれかをさすものとする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成の一例を示す概略図
【図2】有機エレクトロルミネッセンス素子を示す概略平面図およびA−A断面図
【図3】本発明の実施の形態1の有機エレクトロルミネッセンス素子の中間層の構造を示す説明図
【図4】本発明の実施の形態2の有機エレクトロルミネッセンス素子の中間層の構造を示す説明図
【図5】本発明の実施の形態3の有機エレクトロルミネッセンス素子の中間層の構造を示す説明図
【図6】本発明の実施の形態4の有機エレクトロルミネッセンス素子の中間層の構造を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の一例を示すものであり、陽極1となる電極と陰極2となる電極の間に複数の発光層4a,4bを、隣接する発光層4a,4bの間に透光性の中間層3を介在させた状態で積層し、これを透光性な基板5の表面に積層したものであり、陽極1は透光性の電極として、陰極2は光反射性の電極として形成している。図1の実施の形態では、発光層4は発光層4a,4bの2層の積層構成に形成しているが、中間層3を介してさらに多層に積層した積層構成であってもよい。発光層4の積層数の範囲は特に限定されるものではないが、層数が増大すると光学的及び電気的な素子設計の難易度が増大するので、5層程度が上限である。尚、図1において、発光層4a,4bと陽極1や陰極2の間にホール注入層やホール輸送層、電子輸送層や電子注入層を配してもよいが、これらの図示は省略する。図2(a)および(b)は、有機エレクトロルミネッセンス素子を示す概略平面図およびA−A断面図である。
【0026】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、中間層3は両極性伝導性金属酸化物を含有する層として構成されるものである。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、中間層3の構造は次に示す4つの構造に大別される。
【0027】
(実施の形態1)
まずその実施の形態1は、中間層3が図3に示すように両極性伝導性金属酸化物層3MOと金属層3Mとの積層構造を有して構成されるものである。なおこの金属層3Mは金属酸化物層であってもよい。
【0028】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2は、中間層3が図4に示すように両極性伝導性金属酸化物層3MOと導電性有機材料層3Oとの積層構造を有して構成されるものである。
【0029】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3は、中間層3が図5に示すように2つの異なる両極性伝導性金属酸化物3MO、3MOの各層の積層構造を有して構成されるものである。
【0030】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4は、中間層3が図6に示すように2つの両極性伝導性金属酸化物MO、MOとの混合層で構成されるものである。この混合層2の形態の一例を図6(a)乃至(c)にそれぞれ示す。図6(a)および(b)に示すように、混合形態としては、粒子状の異なる両極性伝導性金属酸化物3MO、3MOが島状に混合されて(図6(a))積層方向に垂直な方向に各物質が規則的に配列され(図6(b))ていてもよいし、また図6(c)に示すように、不定形の両極性伝導性金属酸化物3MO、3MOが島状に混合されていてもよい。
【0031】
なお、実施の形態1乃至4については、主たる構成材料が共通であるため、以下では上記実施の形態1乃至4を全体的に説明する。
まず、ここで両極性伝導性金属酸化物とは、成膜条件あるいは混合物によって、キャリア輸送能が変化する化合物を意味し、一般的に用いられる用語で両性金属として知られるアルミ等の酸化物のみを意味するものではない。両極性伝導性金属酸化物を中間層3の成分とすることによって、中間層3はホールおよび電子の両キャリアを輸送可能となり、中間層3を介して複数の発光層が電気的に接続されることが可能となる。結果として、本発明のような発光層を複数備える素子の駆動電圧を低減させることが可能となる。
【0032】
中間層3の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば1nm〜200nmの範囲であり、10nm〜100nmの範囲が特に好ましい。
【0033】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記中間層3を構成する両極性伝導性金属酸化物は、バナジウム、モリブデン、レニウム、タングステン、ニッケル、亜鉛、銅、インジウム、ストロンチウム、スズ、ニオブ、タンタルから選ばれる金属元素を含有する金属酸化物が挙げられる。特に、酸化還元反応を示すものから好適に選定され、例としてはZnOやCuInO2、SrCu2O2、MoO3、V2O5、Ta2O5、CuYO2、CuAlO2、CuGaO2、AgIn
O2、InGaO3(ZnO)x、NiO、ZnORh2O3などが挙げられる。これらの金属からなる両極性伝導性金属酸化物を中間層3の構成成分とすることによって、中間層3とそれに隣接する層との電気的なあるいは形態的な安定性を高めることが可能である。
【0034】
これら両極性伝導性金属酸化物の層は、任意の成膜方法によって形成される。たとえば金属酸化物を原料とした蒸着成膜、金属酸化物ターゲットを用いたスパッタ、金属ターゲットを用いた酸素との反応性スパッタなどが例として挙げられるが、下地となる有機層に致命的なダメージを与える方法でなければ特に限定をする必要はなく、必要な膜の特性を得るための任意の方法を任意に使い分けることが可能である。なお、蒸着によって成膜する場合、下地表面の荒れを低減することができるため、界面状態を良好に維持することができ、電気的にも光学的にも損失を最小限に抑えることができる。
【0035】
中間層3は、両極性伝導性金属酸化物を含有していれば、その他の成分を含有していても良い。中間層3に対するこれらの物質の様式は特に限定しないが、たとえば中間層3の陰極2側の表面近傍にはより中間層3の正孔輸送性を高める、もしくは正孔密度を高めるための物質が含有されていても良いし、中間層3の陽極1側の表面近傍にはより中間層3の電子輸送性を高める、もしくは電子密度を高めるための物質が含有されていても良い。
【0036】
また、中間層3全体に前記物質が含有されており、あるいは部分的に含有されており、中間層3全体あるいは部分的に正孔および電子密度が高められていてもよい。また、添加量は中間層3の厚み方向に分布のあるものであってもよい。例えば、中間層3の陽極1側が最も電子密度を高めるための物質の含有率が高く、陽極1側の界面から離れるに従って傾斜的に連続して、あるいは段階的に含有率が小さくなる場合などを例として挙げることができる。
【0037】
ここでは電子密度を高めるための物質についてのみ例示したが、電子輸送性あるいは正孔密度や正孔輸送性を高める物質その他についても同様の考えにより添加様式を設定することが可能である。この種の物質としては、特に限定はしないが、たとえばリンやアルミニウム、ガリウム、インジウム、スズ、アルカリ金属やアルカリ土類金属、希土類金属、塩化鉄、フッ素含有有機化合物、シアノ基含有有機化合物などを例として挙げることができるが、それ自身が電子供与性あるいは電子受容性の物質であればよく、中間層3を構成してなる金属酸化物に対して電子の授受ができる必要性は必ずしもない。添加量は、添加する材料の種類によっても異なるが、概して0.01モル%〜50モル%程度である。この種の物質の添加により、前記の中間層3とそれに隣接する層との電気的なあるいは形態的な安定性をより強く高めることが可能となり、特性によりすぐれた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0038】
また、中間層3には、さらにホールもしくは電子輸送性のある有機材料や、絶縁性の有機材料もしくは無機材料を混合することも可能である。混合比率は、得られる混合膜の比抵抗に応じて任意に設定できるが概ね99:1〜20:80の範囲であり、好ましくは99:1〜60:40の範囲である。ホールもしくは電子輸送性のある有機材料としては、一般に有機半導体として用いられる材料、たとえばアントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体などの多環芳香族化合物から選ばれるもの、あるいは、ビフェニル、ターフェニル、フルオレンなどの絶縁性の非共役芳香族化合物から選ばれるもの、およびこれらの化合物の誘導体、たとえばアルキル化物、エステル化物、エーテル化物などとして結晶性を抑制したもの、α−NPDなどのトリアリールアミン化合物、CBP等のカルバゾール化合物、ピリジン系化合物などが挙げられるが、この限りではない。絶縁性の有機材料とは、特に限定しないが、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリナフタレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、各種ポリエステルなどに代表される各種ポリマーやそれらの共重合体およびそれらのオリゴマーなどやパラフィンなど、いわゆる有機半導体材料ではない有機分子も好適に用いられる。その他、たとえば、フッ化リチウムやフッ化マグネシウム等の金属フッ化物、金属塩化物や、導電性でない金属酸化物など、無機系の絶縁物も用いることができる。この場合、発光層に電荷注入層、電荷輸送層などが不要となり、全体としての厚みを増大することなく発光特性の良好な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することが可能となる場合もある。
【0039】
これらを金属酸化物と混合させることにより、中間層の膜質の向上を図ることができるとともに、中間層の屈折率の制御、中間層の膜応力の低減、中間層の光吸収の削減、電荷輸送性の制御、中間層の導電率の制御が可能となる。特に前記含有量の範囲内で、両極性導電性金属酸化物との混合膜の導電性を著しく低下させない範囲で混合する。導電率はここに記す限りではないが、好ましくは104 S/cm〜10-7 S/cm程度であり、膜厚および平面方向へのシート抵抗によって適宜設定される。また、屈折率や光吸収を制御することによって、素子内部での反射や吸収が少なく、光損失なく素子外部に供することができる中間層3を得ることができる。また本層を、有機エレクトロルミネッセンス素子の光学長を調整するための光学スペーサー層として用いることも可能である。
【0040】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、中間層3は、両極性伝導性金属酸化物と金属または金属酸化物との積層体で構成してもよい。金属の仕事関数が小さい金属または金属酸化物、たとえば3.7eV以下の、セシウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、ルビジウム、サマリウム、イットリウムなどの金属、あるいは、酸化リチウム、酸化ナトリウムなどの金属酸化物などである場合には、金属または金属酸化物は中間層3の陽極1側に積層されることが好ましい。金属の仕事関数が大きい、たとえば5eV以上の、金やニッケル、白金などの金属、ITO(インジウムスズ酸化物)、SnO(スズ酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)などの金属酸化物などである場合には、金属または金属酸化物は中間層3の陰極2側に積層されることが好ましい。また、中間層3の両方の表面に金属層または金属酸化物層を積層することも可能である。中間層3の両方の表面に金属層または金属酸化物層を積層することで、ホールと電子の両キャリアの有機層への注入性を向上することができるという効果がある。
【0041】
上記実施の形態1において金属または金属酸化物からなる層3Mの厚みは当該層が充分な透光性を有する限り特に限定はしないが、0.1nm〜200nm程度の厚みであり、1nm〜40nm程度が好ましく、特に3Mが金属層である場合には0.5nm〜10nmの範囲がより好ましい。また必要に応じて、中間層3の反射率を考慮し、有機エレクトロルミネッセンス素子の光学的特性を満たせるような透過率や反射率を有する膜厚とすることも可能である。
金属または金属酸化物からなる層3Mを両極性伝導性金属酸化物3MOと積層することにより、中間層とそれに接する有機層との電気的な接続状態を向上させることができるが、両極性伝導性金属酸化物層3MOの陽極側に積層する場合には、隣接する有機層に効率よく電子を注入できる金属もしくは金属酸化物からなる層3Mを積層することが好ましく、また両極性伝導性金属酸化物層3MOの陰極側に積層する場合には、隣接する有機層に効率よくホールを注入できる金属もしくは金属酸化物からなる層3Mを積層することが好ましい。また、前記金属が含まれるインジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物なども好適に用いることができる。効率よくホールを注入できる金属もしくは金属酸化物とは、たとえば5eV以上のものであり、たとえば、金や白金、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物、亜鉛酸化物、亜鉛アルミニウム酸化物、ガリウム亜鉛酸化物などなどが挙げられる。
【0042】
また、前記金属は2種以上の金属からなる合金であってもよい。たとえばAlとLiとの合金、AlとCsとの合金、AlとNaとの合金、AgとMgとの合金、など、単独では不安定な材料であったり、Auのように単独では隣接層との相性の悪い材料などを用いるときに、合金化することは好ましい。このように中間層3の有機層と接する少なくとも1つの面を金属との積層体とすることによって、中間層3と有機層との電気的な接続状態を向上させることが可能となる。
【0043】
本発明の実施の形態2として図4を参照して説明した上記有機エレクトロルミネッセンス素子においては、中間層3が両極性伝導性金属酸化物3MOと導電性有機材料3Oとの積層からなるものであってもよい。導電性有機材料3Oからなる層の厚みは当該層が充分な透光性を有する限り特に限定はしないが、0.1nm〜200nm程度の厚みであり、1nm〜40nm程度が好ましい。また必要に応じて、中間層3の反射率を考慮し、有機エレクトロルミネッセンス素子の光学的特性を満たせるような透過率や反射率を有する膜厚とすることも可能である。導電性有機材料からなる層3Oを両極性伝導性金属酸化物層3MOと積層することにより、中間層とそれに接する有機層との電気的な接続状態を向上させることができる。導電性有機材料層3Oを両極性伝導性金属酸化物層3MOの陽極側に積層する場合には、隣接する有機層に効率よく電子を注入できるn型の導電性有機材料が好ましく、また両極性伝導性金属酸化物層3Oの陰極側に積層する場合には、隣接する有機層に効率よくホールを注入できるp型の導電性有機材料が好ましい。たとえばポリアリーレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、PEDOT、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアリーレンサルファイドなど、導電性高分子として知られる導電性有機材料であれば特に限定される物ではなく、さらにそれに対してハロゲン、酸、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、シアノ基含有有機化合物、ハロゲン含有有機化合物等々、導電性有機材料に対して電子の授受が可能な物質を含有するものであっても良い。これらの層は、直接塗布、蒸着、CVDなどの方法によって成膜しても良いし、材料の前駆体を成膜した後に重合等によって特性変化させて膜としても良いし、あるいは他の基材に成膜した後に転写しても良く、特に成膜方法を限定するものではない。
【0044】
また、実施の形態1乃至4において両極性伝導性金属酸化物層の間に金属層を設けても良い。たとえば中間層3の中央近傍に、前記厚み程度の金属層を単独で、あるいは混合や積層して設けることも好ましい。この種の構造をとることによって、中間層3内での電荷分離がこの金属層部分でより効率よく行われるため、電荷分離に要する電圧を低減することができ、結果として中間層3前後の有機層がより電気的に良好な接続状態を得ることが可能となるものである。また、両極性伝導性金属酸化物層に他の成分を含有させる際、陰極2側に含有させる成分と陽極1側に含有させる成分が接しないことがより好ましい場合には、ここで設けた金属層が両成分のセパレータとして機能して、両成分の接触を抑制することも可能となる。また、中間層3内に特定の電位を有する層が設けられることによって、中間層3内の電界強度を低減することができ、電界による含有成分のマイグレーションも抑制することが可能となるものである。
【0045】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、中間層3が両極性伝導性金属酸化物と透光性導電性材料との積層からなるものであってもよい。これは前記実施の形態1または2の構造に相当する。ここで透光性導電性材料の厚みは特に限定はしないが、0.1nm〜300nm程度の厚みであり、1nm〜40nm程度が好ましい。透光性導電性材料を両極性伝導性金属酸化物と積層することにより、両極性伝導性金属酸化物層の安定性を向上させたり、あるいは、透光性導電性材料を積層する際の有機エレクトロルミネッセンス素子に与えるダメージを低減させたり、あるいは、有機層との電荷授受をスムーズにすることによって、素子特性の向上を得ることが可能である。透光性導電性材料とは特に限定はしないが、たとえばインジウムスズ酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物、亜鉛酸化物、亜鉛アルミニウム酸化物、ガリウム亜鉛酸化物を主成分とする種々の金属酸化物や、導電性高分子や導電性の低分子物質など、公知の任意の透光性導電性材料を用いることが可能である。また、透光性導電性材料が両極性伝導性金属酸化物層の中間に位置する場合、前記金属層の場合と同様に、両極性伝導性金属酸化物層内の電荷分離、物質のセパレータ、電界強度の低下等の効果を得ることも可能である。
【0046】
また本発明の実施の形態3の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、中間層3を構成する両極性伝導性金属酸化物の層が、電気的特性の異なる2種以上の両極性伝導性金属酸化物を含有し、かつ、異なる特性の2層以上が直接積層されたものか、異なる特性の2層以上が金属もしくは透光性導電性材料の層を介して積層されたものか、あるいは電気的特性の異なる2種以上の両極性伝導性金属酸化物が混合された層、のいずれかであることも好ましい。電気的特性の異なる2種以上の両極性伝導性金属酸化物とは、異なる2種の物質でも良いし、異なる元素を含む物質であってもよい。あるいは、成膜方法や成膜条件の異なる2種の物質であってもよい。たとえばスパッタによって成膜した両性金属化合物と蒸着によって成膜した両性金属化合物、酸素濃度が異なる2つ以上の条件で成膜した両極性伝導性金属酸化物、混合物の量や種類が異なる混合成膜両極性伝導性金属酸化物などが例として挙げられる。
【0047】
ここで酸素濃度が異なる2つ以上の条件で成膜した両極性伝導性金属酸化物を積層して用いる場合には、成膜が容易でかつ密着性も良好である。
また、混合物の量や種類が異なる混合成膜両極性伝導性金属酸化物は、蒸着法、スパッタ法、塗布法などで容易に形成することができることから、取り扱いが容易でかつ下地へのダメージが少ないという特徴がある。
【0048】
また、前記2種以上の両極性伝導性金属酸化物は、必要に応じてそれらを直接積層しても良いし、あるいは金属もしくは透光性導電材料の層を介して積層されても良いし、あるいは電気的特性の異なる2種以上の両極性伝導性金属酸化物を混合して用いても良い。金属あるいは透光性導電材料を介在させることで、バリア性を高め、より電荷分離機能が向上する。
【0049】
また、両極性伝導性金属酸化物は、その成膜条件や成膜中の雰囲気に含有されている物質も含む含有物によっても、その電気的特性が変化しうるため、同一の物質を用いた場合にもその電気的特性を違えたものを得ることが可能であり、また前記積層や混合した状態とすることによって、より電荷分離や有機層との電気的あるいは形態的安定性を向上させることも可能となる。
【0050】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の素子構成は、本発明の趣旨に反しない限り任意のものを用いることができる。前述の通り、図1の素子構成の例としては、ホール注入層やホール輸送層、電子輸送層や電子注入層を省略して記したが、必要に応じて適宜用いることができる。
【0051】
ホール輸送材料が中間層3に接する部分には、中間層3を構成する金属酸化物と電荷移動錯体を形成する有機材料が配置されることが好ましい。電荷移動錯体を形成する有機材料は、たとえばホール輸送性を有する化合物の群から選定することができるものであり、電子供与性を有し、また電子供与によりラジカルカチオン化した際にも安定である化合物が好ましい。この種の化合物としては、例えば、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNBなどを代表例とする、トリアリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物などを挙げることができるが、一般に知られる任意のホール輸送材料を用いることが可能である。
【0052】
また、電子輸送材料が中間層3に接する部分には、中間層3を構成する金属酸化物と電荷移動錯体を形成する有機材料が配置されることが好ましい。電荷移動錯体を形成する有機材料は、たとえば電子輸送性を有する化合物の群から選定することができるものであり、正孔供与性を有し、また正孔供与によりラジカルアニオン化した際にも安定である化合物が好ましい。この種の化合物としては、Alq3等の電子輸送性材料として知られる金属錯体や、フェナントロリン誘導体、ピリジン誘導体、テトラジン誘導体、オキサジアゾール誘導体等のヘテロ環を有する化合物などが挙げられるが、この限りではなく、一般に知られる任意の電子輸送材料を用いることが可能である。
【0053】
上記発光層4に使用できる材料としては、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として知られる任意の材料が使用可能である。例えばアントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ジスチリルアミン誘導体及び各種蛍光色素等、前述の材料系およびその誘導体を始めとするものが挙げられるが、これらに限定するものではない。またこれらの化合物のうちから選択される発光材料を適宜混合して用いることも好ましい。また、前記化合物に代表される蛍光発光を生じる化合物のみならず、スピン多重項からの発光を示す材料系、たとえば燐光発光を生じる燐光発光材料、およびそれらからなる部位を分子内の一部に有する化合物も好適に用いることができる。また、これらの材料からなる有機層は、蒸着、転写等乾式プロセスによって成膜しても良いし、スピンコート、スプレーコート、ダイコート、グラビア印刷等、湿式プロセスによって成膜するものであってもよい。
【0054】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する他の部材である、積層された素子を保持する基板5や陽極1、陰極2等には、従来から使用されているものをそのまま使用することができる。
【0055】
上記基板5は、基板5を通して光が出射される場合には透光性を有するものであり、無色透光性の他に、多少着色されているものであっても、すりガラス状のものであってもよい。例えば、ソーダライムガラスや無アルカリガラスなどの透光性のガラス板や、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エポキシ等の樹脂、フッ素系樹脂等から任意の方法によって作製されたプラスチックフィルムやプラスチック板などを用いることができる。
【0056】
またさらに、基板5内に基板母材と屈折率の異なる粒子、粉体、泡等を含有し、あるいは表面に形状を付与することによって、光拡散効果を有するものも使用可能である。また、基板5を通さずに光を射出させる場合、基板5は必ずしも透光性を有するものでなくてもかまわず、素子の発光特性、寿命特性等を損なわない限り、任意の基板5を使うことができる。特に、通電時の素子の発熱による温度上昇を軽減するために、熱伝導性の高い基板5を使うこともできる。
【0057】
上記陽極1は、有機発光層4中にホールを注入するための電極であり、仕事関数の大きい金属、合金、電気伝導性化合物、あるいはこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が4eV以上のものを用いるのが望ましい。このような陽極1の材料としては、例えば、金などの金属、CuI、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO2、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)等、PEDOT、ポリアニリン等の導電性高分子及び任意のアクセプタ等でドープした導電性高分子、カーボンナノチューブなどの導電性透光性材料を挙げることができる。
【0058】
陽極1は、例えば、これらの電極材料を、基板5の表面に真空蒸着法やスパッタリング法、塗布等の方法により薄膜に形成することによって作製することができる。また、有機発光層4における発光を、陽極1を透過させて外部に照射するためには、陽極1の光透過率を70%以上にすることが好ましい。さらに、陽極1のシート抵抗は数百Ω/□以下とすることが好ましく、特に好ましくは100Ω/□以下とするものである。ここで、陽極1の膜厚は、陽極1の光透過率、シート抵抗等の特性を上記のように制御するために、材料により異なるが、500nm以下、好ましくは10〜200nmの範囲に設定するのが望ましい。
【0059】
また上記陰極2は、有機発光層4中に電子を注入するための電極であり、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が5eV以下のものであることが好ましい。このような陰極2の電極材料としては、アルカリ金属、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属等、およびこれらと他の金属との合金、例えばナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、Al/LiF混合物を例として挙げることができる。またアルミニウム、Al/Al混合物なども使用可能である。さらに、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、あるいは金属酸化物を陰極の下地として用い、さらに金属等の導電材料を1層以上積層して用いてもよい。例えば、アルカリ金属/Alの積層、アルカリ金属のハロゲン化物/アルカリ土類金属/Alの積層、アルカリ金属の酸化物/Alの積層などが例として挙げられる。また、ITO、IZOなどに代表される透光性電極を用い、陰極2側から光を取りだす構成としても良い。また陰極2の界面の有機物層にリチウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム、サマリウム、イットリウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属などをドープしても良い。
【0060】
また上記陰極2は、例えば、これらの電極材料を真空蒸着法やスパッタリング法等の方法により、薄膜に形成することによって作製することができる。有機発光層4における発光を陽極1側から取り出す場合には、陰極2の光透過率を10%以下にすることが好ましい。また反対に、透光性電極を陰極2として陰極2側から発光を取りだす場合(陽極1と陰極2の両電極から光を取り出す場合も含む)には、陰極2の光透過率を70%以上にすることが好ましい。この場合の陰極2の膜厚は、陰極2の光透過率等の特性を制御するために、材料により異なるが、通常500nm以下、好ましくは100〜200nmの範囲とするのがよい。
【0061】
その他、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材、構造を本発明の趣旨を損ねない範囲で併用することが可能である。
【実施例】
【0062】
次に、本発明実施例の有機エレクトロルミネッセンス素子について具体的に説明する。実施例の説明に先立ち、従来例および比較例の有機エレクトロルミネッセンス素子について説明する。従来例では発光層が1層の場合の有機エレクトロルミネッセンス素子を示し、比較例では、本発明の材料で構成しない中間層を介して発光層を2層設けた有機エレクトロルミネッセンス素子について説明する。
(従来例1)
厚み110nmのITOが陽極1として図2(a)のパターンのように成膜された0.7mm厚のガラス基板5を用意した。ITOの幅は、5mmである。陽極を形成するITOのシート抵抗は、約12Ω/□である。これを洗剤、イオン交換水、アセトンで各10分間超音波洗浄をした後、IPA(イソプロピルアルコール)で蒸気洗浄して乾燥し、さらにUV/O処理した。次に、この基板を真空蒸着装置にセットし、1×10-4Pa以下の減圧雰囲気下で、ITOの上にホール注入層として、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)と酸化モリブデン(MoO3)の共蒸着体(モル比1:1)を30nmの膜厚で蒸着した。次にこの上にホール輸送層として、α−NPDを40nmの膜厚で蒸着した。次いで、ホール輸送層の上に、発光層としてAlq3にルブレンを7質量%共蒸着した層を40nmの膜厚で形成した。次にこの上に電子輸送層としてAlq3を単独で30nm成膜した。続いて、LiFを0.5nm成膜した。これらの膜の成膜パターンは図2(a)の4aの通りである。この後、図2(a)のパターンで陰極2となるアルミニウムを0.4nm/sの蒸着速度で5mm幅、100nm厚に蒸着し、発光層が1層構成の有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。尚、有機エレクトロルミネッセンス素子の形状は図2(a)および図2(b)に示すとおりである(図2(a)および図2(b)において有機膜4a、4bはホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層などからなる。なお、中間層3および有機膜4bは、下記実施例および比較例のみに存在し、従来例1、2には用いていない)。
【0063】
(従来例2)
ホール注入層を酸化モリブデン10nm、ホール輸送層をα−NPD 60nmとしたこと以外は従来例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0064】
(実施例1)
上記従来例と同等のITO陽極付きの基板を用い、従来例と同様にして、α−NPDとMoOの共蒸着体を30nmの膜厚で蒸着してホール注入層を形成し、さらにα−NPDを40nmの膜厚で蒸着してホール輸送層を形成した。次いで、ホール輸送層の上に、発光層としてAlq3にルブレンを7質量%共蒸着した層を40nmの膜厚で形成した。次にこの上に電子輸送層としてAlq3を単独で30nm成膜した。次いで中間層を、AlとLiとのモル比1:2の合金を5nm厚に蒸着し、続いて酸化タンタルを10nmの膜厚にスパッタで形成した。
【0065】
続いて中間層の上に、先と同様に、α−NPDとMoOの共蒸着体30nm、α−NPD層40nm、Alq3にルブレンを7質量%共蒸着した層40nm、Alq3層30nmを成膜して、2層目の有機層を形成した。次いで、LiFを0.5nm厚に蒸着し、最後にアルミニウムを100nm厚に蒸着して、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0066】
(実施例2)
中間層を、MoO3とLi(仕事関数2.9eV)をモル比1:0.25の割合で5nm厚に蒸着し、続いてWO3を20nm厚に蒸着することによって形成した。これ以外は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0067】
(実施例3)
1層目の有機層に関し、ホール注入層を酸化モリブデン10nm、ホール輸送層をα−NPD 60nmとした。また、電子輸送層と中間層との間に、Alq3とLiとの共蒸着膜を10nm厚に蒸着した。中間層としては、10nm厚のMoO3をスパッタで成膜し、さらに10nm厚のMoO3を蒸着で成膜したものを形成した。2層目の有機層に関し、ホール注入層は設けず、ホール輸送層をα−NPD 60nmとした。これ以外は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0068】
(実施例4)
中間層として、0.5nmのLiを蒸着で、10nm厚のMoO3をスパッタで成膜し、次いで1nmのAlおよび10nm厚のMoO3を蒸着で成膜したものを形成した。これ以外は実施例3と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0069】
(実施例5)
中間層を、1nm厚のLi、20nm厚のZnO、3nm厚のV2O5蒸着膜としたこと以外は実施例3と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0070】
(実施例6)
中間層を、ZnOとLiのモル比1:0.1の共蒸着膜5nm、ZnOの膜10nm、MoO3の蒸着膜5nmとして形成したこと以外は実施例3と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0071】
(実施例7)
中間層を、CuInO2とナトリウムとの共蒸着層10nm、MoO3とZnOの共スパッタ膜10nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0072】
(実施例8)
中間層を、Alq3とLiのとの共蒸着膜5nm、ZnOのスパッタ膜15nm、金1nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0073】
(比較例1)
中間層を、Alq3とLiとの共蒸着層10nm、MoO3とα-NPDの共蒸着層10nmの積層体として形成したこと以外は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0074】
(比較例2)
中間層を、MoO3とLiとNPDの共蒸着層20nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0075】
(比較例3)
中間層を、ZnO単独層としてスパッタで20nmに形成したこと以外は実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0076】
(比較例4)
中間層であるMoO3を10nmすべてスパッタで形成したこと以外は実施例3と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0077】
上記のように従来例、実施例1〜6、比較例1〜4で得た有機エレクトロルミネッセンス素子を電源(KEITHLEY2400)に接続し、30mA/cm2通電した際の輝度と電圧を評価した。この電流値を確保するための上限電圧は20Vとした。尚、輝度評価にはトプコン株式会社製「BM−9」を使用した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1にみられるように、各実施例の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光輝度および駆動電圧とも、従来例1または2に示す単層素子の概ね2倍の値が得られるものであり、本発明の中間層によって良好に2つの有機層が電気的に接続されていることが確認できた。一方、比較例1、2、4ではいずれも輝度は概ね従来例の2倍の値が得られるものの、駆動電圧が従来例の2倍に比してかなり高く、中間層での電圧上昇が見られることがわかった。また、比較例3では20Vの印加で所定電流が流れなかった。
以上の結果から、本発明の中間層構成を持つように構成することで、駆動電圧の低減を図ることが可能となることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明してきたように、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、表示装置、例えばフラットパネルディスプレイ等の発光体として、あるいは光源、例えば液晶表示機用バックライトや照明として有効である。
【符号の説明】
【0081】
1 陽極
2 陰極
3 中間層
4a,4b 発光層
5 基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極の間に、中間層を介して積層された複数の発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記中間層が、電気的特性が異なる少なくとも2層の両極性伝導性金属酸化物の積層膜を含んで形成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記両極性伝導性金属酸化物がバナジウム、モリブデン、レニウム、タングステン、ニッケル、亜鉛、銅、インジウム、ストロンチウム、スズ、ニオブ、タンタルから選ばれる金属の酸化物からなる有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−258588(P2011−258588A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216322(P2011−216322)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【分割の表示】特願2007−140443(P2007−140443)の分割
【原出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】