説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】電極で生じる全反射を抑制しつつ安定して発光する構成の有機EL素子を提供する。
【解決手段】一対の電極と、前記電極間に設けられる一層以上の有機層とを備え、前記一層以上の有機層として発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記一対の電極は、両電極が互いに対向する面が平坦であり、前記一層以上の有機層のうちの少なくとも一層の有機層は、前記発光層の厚み方向に略垂直な方向に進行する光の進行方向を、前記厚み方向に傾ける周期構造を有し、前記周期構造は、前記発光層の厚み方向に垂直な平面において二次元的な周期で配置される周期的な構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ということがある。)、この素子を備える表示装置および照明装置、並びに有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は一対の電極(陽極および陰極)と、この電極間に設けられる発光層とを備える。有機EL素子は、一対の電極に電圧を印加することによって、陽極から正孔が注入されるとともに陰極から電子が注入され、これら正孔と電子とが発光層において結合することで発光する。
【0003】
一対の電極のうちの少なくとの一方の電極は光透過性を示す部材によって構成されており、発光層において発生した光は、光透過性を示す電極を通って外に出射する。現在この光透過性を示す電極にはインジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)薄膜が多用されている。
【0004】
ITO薄膜はその屈折率が発光層などよりも高いために、ITO薄膜の界面で光の全反射が発生する。そのため、発光層から放射される光の大部分は外に出射せずに素子内部に閉じ込められることになり、有効に利用されていないのが現状である。そこで、発光層から放射される光の進行方向を変える回折格子を電極間に形成することによって、電極(ITO薄膜)への光の入射角を小さくし、電極での全反射を回避するようにした有機EL素子が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−269294公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術の有機EL素子は、電極表面に周期的な凹凸を形成し、さらにこの電極上に発光層を形成することによって、回折格子として機能する周期構造を電極と発光層との界面に形成している。表面に凹凸が形成された電極を備える有機EL素子は、一対の電極間の距離にばらつきが生じるので、一対の電極間に発生する電界の強さにもばらつきが生じることになり、安定した発光を得ることができないという問題がある。
【0007】
従って本発明の目的は、電極で生じる全反射を抑制しつつ安定して発光する構成の有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一対の電極と、前記電極間に設けられる一層以上の有機層とを備え、前記一層以上の有機層として発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記一対の電極は、両電極が互いに対向する面が平坦であり、
前記一層以上の有機層のうちの少なくとも一層の有機層は、前記発光層の厚み方向に略垂直な方向に進行する光の進行方向を、前記厚み方向に傾ける周期構造を有し、
前記周期構造は、前記発光層の厚み方向に垂直な平面において二次元的な周期で配置される周期的な構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
また本発明は、前記発光層は両主面が平坦な平板状である有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
また本発明は、前記一層以上の有機層のうちで発光層の一方の主面に接して配置される有機層が、前記周期構造を有し、この周期構造を有する有機層に空隙が形成されている有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
また本発明は、前記発光層は、前記周期構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
また本発明は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置に関する。
また本発明は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明装置に関する。
また本発明は、一対の電極と、前記電極間に設けられる一層以上の有機層とを備え、前記一層以上の有機層として発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記一対の電極のうちの一方の電極を形成する工程と、
一層以上の有機層を形成する工程と、
前記一対の電極のうちの他方の電極を形成する工程とを含み、
前記一層以上の有機層を形成する工程では、前記有機層となる平板状の層を形成し、さらに、前記発光層の厚み方向に垂直な平面において二次元的に周期的に配置される周期的な構造を前記平板状の層に形成することによって、前記発光層の厚み方向に略垂直な方向に進行する光の進行方向を、前記厚み方向に傾ける周期構造を前記有機層に形成する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
また本発明は、二次元的な周期構造を前記平板状の層に形成する方法がインプリント法である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
また本発明は、二次元的な周期構造を前記平板状の層に形成する方法がフォトリソグラフィー法である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電極で生じる全反射を抑制しつつ安定して発光する構成の有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】有機EL素子を模式的に示す図である。
【図2】凹み7の設けられる配置を模式的に示す。
【図3】有機EL素子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の有機EL素子は、一対の電極と、前記電極間に設けられる一層以上の有機層とを備え、前記一層以上の有機層として発光層を含んで構成され、前記一対の電極は、両電極が互いに対向する面が平坦であり、前記一層以上の有機層のうちの少なくとも一層の有機層は、前記発光層の厚み方向に略垂直な方向に進行する光の進行方向を、前記厚み方向に傾ける周期構造を有し、前記周期構造は、前記発光層の厚み方向に垂直な平面において二次元的な周期的で配置される。
【0012】
有機EL素子は通常、基板上に設けられ、一対の電極および一層以上の有機層を順次積層することによって形成される。
【0013】
一対の電極は互いに極性が異なり、それぞれ陽極または陰極として設けられる。一対の電極間には一層以上の有機層が設けられる。有機EL素子は、この一層以上の有機層のうちの少なくとも一層として発光層を備える。すなわち一対の電極間には少なくとも一層の発光層が設けられる。なお一対の電極間には発光層以外にも所定の有機層が設けられてもよく、また一対の電極間に二層以上の発光層が設けられてもよい。さらに一対の電極間には、無機物からなる無機層、有機物と無機物とからなる混合層が設けられていてもよい。
【0014】
(1)有機EL素子の構成
以下、図1を参照して本発明の実施の一形態の有機EL素子1について説明する。図1は本実施形態の有機EL素子を模式的に示す図である。図1には実施形態の一例として、一方の電極2、正孔注入層3、発光層4、他方の電極5がこの順で支持基板6に積層されて構成される有機EL素子1を示している。
【0015】
一方の電極2及び他方の電極5のうちの少なくとも1つは、光透過性を示す電極によって構成される。この光透過性を示す電極とは極性の異なるもう1つの電極は、光透過性を示す電極であっても不透明な電極であってもよいが、光透過性を示す電極に向けて光を反射する反射電極によって構成されることが好ましい。
【0016】
発光層4から放射される光が支持基板6を通って外に出射する構成のいわゆるボトムエミッション型の有機EL素子では、支持基板6には光透過性を示す基板が用いられる。なお発光層4から放射される光が他方の電極5を通って外に出射する構成のいわゆるトップエミッション型の有機EL素子の場合には、支持基板6は光透過性を示す基板であっても、不透明な基板であってもよい。
【0017】
一方の電極2は支持基板6上に設けられる。この一方の電極2は両主面が平坦であって、平板状である。すなわち一方の電極2には表面に凹凸が形成されていない。前述したボトムエミッション型の有機EL素子では、一方の電極2には光透過性を示す電極が用いられる。またトップエミッション型の有機EL素子では一方の電極2には光を他方の電極5に向けて反射する反射電極を用いることが好ましい。
【0018】
本実施形態では一方の電極2は陽極として設けられる。なお本実施形態では一対の電極のうちの陽極として機能する電極を支持基板6寄りに配置し、陰極として機能する電極を支持基板6から離間する位置に配置する構成の有機EL素子について説明するが、逆に、一対の電極のうちの陰極として機能する電極を支持基板寄りに配置し、陽極として機能する電極を支持基板から離間する位置に配置する構成の有機EL素子としてもよい。
【0019】
本実施形態では一層以上の有機層の一層として正孔注入層が設けられ、この正孔注入層が周期構造を有する。すなわち正孔注入層は、発光層の厚み方向に略垂直な方向に進行する光の進行方向を前記厚み方向に傾ける二次元的な周期構造を有する。
【0020】
本実施形態では二次元的な周期で配置される周期的な構造として、正孔注入層の厚み方向に伸びる複数の凹み7が正孔注入層に形成されており、この複数の凹み7が、正孔注入層の厚み方向に垂直な平面において二次元的に所定の周期をもって形成されている。
【0021】
この凹み7は正孔注入層3を貫通していてもよく、また貫通していなくてもよい。凹み7が正孔注入層3を貫通していない場合、この凹み7は、発光層側の主面から一方の電極2側に向けて正孔注入層3中を伸びるものでもよく、また一方の電極2側の主面から発光層側に向けて正孔注入層3中を伸びるものでもよい。なお図1には正孔注入層3をその厚み方向に貫通する凹み7を模式的に示している。
【0022】
凹み7に臨む表面により規定される形状(いわゆる凹み7の形状)としては、円柱、多角柱、円錐、多角錐、円錐台および角錐台などがあげられる。
【0023】
図2に凹み7の設けられる配置を模式的に示す。図2は正孔注入層3をその厚み方向の一方から見た図である。凹み7の形状としては円柱形状を仮定し、凹み7の断面形状として円形を示している。なお凹み7は一対の電極が対向する全領域にわたって形成されることが好ましい。
【0024】
例えば凹み7は、互いに等間隔をあけて互いに平行な複数本の第1の縞(以下、縦縞8という。)と、互いに等間隔をあけて互いに平行で、且つ第1の縞とは平行ではない第2の縞(以下、横縞9という)との交点に配置される。図2では縦縞8および横縞9をそれぞれ2点鎖線で示す。縦縞8と横縞9の交差角θは何度でもよく、また縦縞8の間隔L1と横縞9の間隔L2とは、同じであっても、異なっていてもよい。
【0025】
図2(1)は、縦縞8と横縞9の交差角θが90°であり、縦縞8の間隔L1と横縞9の間隔L2とが同じ場合の凹み7の配置を示している。また図2(2)は、縦縞8と横縞9の交差角θが45°であり、横縞9の間隔L2を「1」としたときの縦縞8の間隔L1を「21/2」とした場合の凹み7の配置を示している。さらに例えば凹み7は、縦縞8と横縞9の交差角θが60°(鋭角)であり、且つ縦縞8の間隔L1と、横縞9の間隔L2とが同じとしたときの縦縞8と横縞9の交点に配置されていてもよい。
【0026】
縦縞8の間隔L1及び横縞9の間隔L2、並びに縦縞8と横縞9の交差角θはそれぞれ、正孔注入層3の厚み方向に略垂直な方向に進む光の進行方向を、正孔注入層3の厚み方向に傾けるように光の進行方向を変える回折格子を構成するように設定される。例えば縦縞8の間隔L1と横縞9の間隔L2は通常、発光層から放射される光のうちで出射光として利用すべき光の真空中での1波長(λo)を屈折率(n)で割った距離(λo/n)程度から、この距離(λo/n)の数倍程度であり、出射光として利用すべき光の真空中での1波長を屈折率(n)で割った距離(λo/n)程度が好ましい。なお屈折率は、周期構造を有する部材(本実施形態では正孔注入層3)の屈折率であり、出射光として利用すべき光の波長(λo)における屈折率である。この屈折率は、有機物から構成される部材の場合、通常1.7程度である。
【0027】
正孔注入層の厚み方向における凹み7の高さは、光を回折可能な程度の高さを有することが好ましく、例えば20nm〜1μmであり、好ましくは30nm〜500μmであり、より好ましくは40nm〜300μmである。
【0028】
また正孔注入層の厚み方向に垂直な方向における凹み7の幅は、前述した縦縞8の間隔L1または横縞9の間隔L2の半分以下であり、好ましくは80nm〜500nmであり、さらに好ましくは100〜300nmである。
【0029】
発光層4は、後述する実施形態のように、正孔注入層に形成される凹み7にその一部が充填されて形成されてもよいが、本実施形態では発光層4は、両主面が平坦な平板状であり、正孔注入層3上に形成される。
【0030】
一層以上の有機層のうちで発光層の一方の主面に接して配置される有機層が、前記周期構造を有し、この周期構造を有する有機層に空隙が形成されている好ましく、本実施形態では正孔注入層は、両主面が平坦な平板状の発光層に接し、且つ周期構造を有する有機層に相当する。前述したように正孔注入層3には複数の凹み7が形成されており、この正孔注入層3上に平板状の発光層4が形成されることによって、正孔注入層3に周期的な空隙が形成される。すなわち凹み7には発光層などの一部が充填されておらず、凹み7には空気などの気体が充填された空隙が形成されている。
【0031】
他方の電極5は発光層4上に形成される。本実施形態では他方の電極5は陰極として設けられる。なお前述したボトムエミッション型の有機EL素子では他方の電極5には、光を一方の電極2に反射する反射電極を用いることが好ましい。またトップエミッション型の有機EL素子では他方の電極5には光透過性を示す電極が用いられる。
【0032】
以上説明した本実施形態の有機EL素子1では、一層以上の有機層のうちの少なくとも一層の有機層として、正孔注入層3は二次元的な周期構造を有する。このような周期構造が正孔注入層3に形成されるため、電極において全反射が生じる角度で進む光(電極への入射角が臨界角よりも大きくなる光、例えば電極への入射角が90°近くの光)の進行方向を、電極に垂直な方向(電極表面の法線方向)に傾けることができる。これによって電極で生じる全反射を抑制することができ、仮に周期構造が形成されていなければ素子内部に閉じ込められて外に出射しない光を、素子外に効率的に出射させることができる。
【0033】
また一対の電極は、両電極が互いに対向する面が平坦である。仮に一対の電極の互いに対向する面に凹凸がある場合、一対の電極間の距離にばらつきが生じ、一対の電極間に発生する電界の強さにも影響がでるため、安定して発光する有機EL素子を得ることができないおそれがあるが、本実施形態では、電極に周期構造を形成することなく有機層のみに周期構造を形成することによって、一対の電極の互いに対向する面を平坦にし、一対の電極間の距離を一定に保つことができる。これによって安定して発光する有機EL素子を得ることができる。
【0034】
また本実施形態では発光層は両主面が平坦な平板状である。発光層に凹凸があると発光にむらが生じるおそれがあるが発光層を平坦に形成することによって均一な発光を得ることができる。
【0035】
また前記一層以上の有機層のうちで発光層の一方の主面に接して配置される有機層(本実施形態では正孔注入層3)が、周期構造を有し、この周期構造を有する有機層(本実施形態では正孔注入層3)に空隙が形成されている。発光層と正孔注入層とは通常、屈折率が近いため、正孔注入層に形成される凹み7に発光層の一部が充填された構成の回折格子では、回折の効果が小さくなるが、正孔注入層の凹み7に空気の空隙を形成することによって、正孔注入層と凹み7内との屈折率の差を大きくすることができ、回折格子としての機能を十分に発揮することができる。
【0036】
本実施形態では凹み7を除く部分に正孔注入層を配置しているが、逆に、本実施形態で凹み7が形成されている領域に正孔注入層を形成し、本実施形態で正孔注入層が形成されている領域に空隙を設けてもよい。このような構成の周期構造であっても回折格子としての機能を発揮する。なおこの場合、例えば複数本の円柱状の正孔注入層が形成されることになるが、凹み7を除く部分に正孔注入層を配置する本実施形態の構成の方が機械的強度が高くなるので好ましい。
【0037】
また本実施形態では正孔注入層に形成される凹み7を空隙としたが、正孔注入層とは屈折率が異なる材料を凹み7に充填し、さらにこの上に平坦な発光層を設けてもよい。
【0038】
(2)有機EL素子の製造方法
次に図1に示す本実施形態の有機EL素子の製造方法の説明に沿って、本発明の有機EL素子の製造方法について説明する。
【0039】
本発明の有機EL素子の製造方法は、一対の電極のうちの一方の電極を形成する工程と、一層以上の有機層を形成する工程と、一対の電極のうちの他方の電極を形成する工程とを含む。
【0040】
<一方の電極を形成する工程>
まず後述する支持基板6を用意し、この支持基板6上に後述する所定の方法で一方の電極を形成する。
【0041】
<一層以上の有機層の形成>
本実施形態ではまず一層以上の有機層の1つとして正孔注入層を形成する。
【0042】
まず有機層(本実施形態では正孔注入層)となる平板状の層を形成する。平板状の層は、例えば平板状の層となる材料を含むインキを所定の塗布法で塗布成膜し、さらにこれを乾燥することによって形成することができる。例えば後述する正孔注入層となる材料を含むインキを所定の塗布法によって塗布成膜し、さらにこれを乾燥することによって平板状の層を形成することができる。
【0043】
次に平板状の層を加工することによって有機層に周期構造を形成する。具体的には発光層の厚み方向に垂直な平面において二次元的に周期的に配置される周期構造を前記平板状の層に形成することによって、前記発光層の厚み方向に略垂直な方向に進行する光の進行方向を前記厚み方向に傾ける周期構造を有機層(本実施形態では正孔注入層)に形成する。
【0044】
周期構造を平板状の層に形成する方法としては、インプリント法(いわゆるエンボス加工法)、フォトリソグラフィー法、凹凸形状を有する部材で平板状の層の表面を削る方法、自己組織化を利用して凹凸構造を形成する方法などがあげられ、これらの中でも所期の周期構造を高精度に形成することが可能なインプリント法またはフォトリソグラフィー法が好ましい。
【0045】
インプリント法では、表面に周期的な凸部が形成された所定の鋳型を平板状の層に押し当てることによって、平板状の層に周期的な凹み7を形成することができる。例えば所定の鋳型には、正孔注入層に形成されるべき凹み7に対応する位置に、凸部が周期的に形成されているものを用いればよい。このような鋳型は、例えばシリコン基板の表面部に電子線描画装置を用いて所定の凹凸を形成することにより得られる。なおインプリント法によって周期構造を形成する場合には、鋳型の形状が正確に転写できる程度の粘度となるように平板状の層を乾燥させればよい。
【0046】
またフォトリソグラフィー法では、例えばまずフォトレジストを平板状の層に塗布し、所定の部位に光を照射してフォトレジストの所定の部位を硬化し、さらにこれを現像することによって、凹み7が形成されるべき部位に孔が形成されたマスクを平板状の層上に形成する。さらにドライエッチングまたはウェットエッチングによって、マスクの孔が開いた部分から平板状の層を選択的に除去することで、所定の部位に凹み7を形成することができる。なおフォトリソグラフィー法によって凹み7を形成する場合には、フォトレジストを形成する工程またはフォトレジストを除去する工程において、正孔注入層が溶解しないように所定の材料を正孔注入層に添加すればよい。
【0047】
またフォトレジストを用いたマスクを利用することなく、フォトリソグラフィー法によって所定の部位に凹み7を形成することもできる。例えば所定の材料を予め添加することによって、光照射の有無によってエッチャントに対する溶解性が変化する平板状の層を形成し、次に所定のマスクを介して平板状の層に光を選択的に照射し、さらに所定のエッチャントを用いて平板状の層を選択的に除去することによって、所定の部位に凹み7を形成することができる。具体的には特開2008−98104公報に開示されているように、正孔注入層の材料であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)にシランカップリング剤を添加することによって、水やアルコールなどに対して難溶性を示す平板状の層を形成し、さらに所定のマスクを介して所定の部位に光を照射することによって、光を照射した部位を水やアルコールなどに対して可溶化し、その後、エッチャントとして水を用いて、光を照射した部位を除去することによって所定の部位に凹み7を形成することができる。
【0048】
次に発光層を形成する。前述したように本実施形態の発光層は、両主面が平坦な平板状なので、発光層は例えばラミネート法によって形成される。例えば剥離性の高い基材上に発光層を予め形成し、さらにこれを転写することによって、発光層を正孔注入層上に形成することができる。なお発光層と正孔注入層との接触する面が所定の溶媒によって濡れた状態で、正孔注入層に発光層を転写することが好ましい。このように発光層及び正孔注入層の少なくとも一方の表面が濡れた状態で両者を貼り合わせることによって、両者の接合を確実なものにすることができる。ラミネート法については具体的にはAppl.Phys.Lett.Volume 88,Issue 22,p.223509(2006)に開示された方法などを用いることができる。
【0049】
<他方の電極を形成する工程>
次に発光層上に所定の方法で他方の電極を形成する。
【0050】
以上説明したように本実施形態では正孔注入層を直接加工することによって、正孔注入層に周期構造を形成することができる。従来の技術では支持基板または電極を加工することによって周期構造を形成していたので、表面に凹凸を有する電極が形成されていたが、本実施の形態のように正孔注入層を加工することによって、電極の平坦性を保ちつつ有機EL素子の内部に回折格子を形成することができる。これによって、電極で生じる全反射を抑制しつつ安定して発光する構成の有機EL素子を実現することができる。
【0051】
以下、図3を参照して前述の実施形態とは異なる形態の有機EL素子について説明する。図3は本実施形態の有機EL素子11を模式的に示す図である。
【0052】
本実施形態の有機EL素子11は前述の実施形態の有機EL素子とは発光層の構造のみが異なるので、本実施形態では発光層についてのみ説明し、対応する部分については同一の参照符号を付して重複する説明を省略する。
【0053】
本実施形態では正孔注入層に加えて、発光層も周期構造を有する。すなわち発光層は、両主面が平坦な平板状ではない。具体的には本実施形態の発光層は、その一部が正孔注入層に形成された凹み7に充填されて、正孔注入層上に形成されている。換言すると発光層は、前述した正孔注入層の凹み7に対応する凸部が一方の電極側の表面に形成されている。また発光層の他方の電極5側の表面は平坦である。正孔注入層に形成された凹み7に発光層の一部が充填されることにより、空隙の形成を避けることができる。これによって有機EL素子の機械的な強度を高めることができる。なお回折格子としての機能を周期構造が効果的に発揮するためには、正孔注入層と発光層とは屈折率差の大きい材料によって形成することが好ましい。
【0054】
発光層は例えば蒸着法または塗布法によって形成することができる。例えば塗布法では発光層となる材料を含むインキを所定の塗布法によって正孔注入層上に塗布し、これを固化することによって発光層が形成される。インキを塗布する際にはインキが正孔注入層の凹み7にまで流入するので、正孔注入層の凹み7にも発光層が形成される。なお蒸着によっても正孔注入層の凹み7に発光層が形成される。
【0055】
前述した各実施の形態の有機EL素子は通常、有機EL素子を封止する封止部材がさらに設けられる。なお図1に示す実施形態ではラミネート法によって発光層のみを転写したが、例えば封止部材に他方の電極5、発光層4をこの順で予め形成しておき、他方の電極5及び発光層4が形成された封止部材を正孔注入層3に転写してもよい。
【0056】
前述の各実施形態の有機EL素子は光取り出し効率をさらに向上するために、例えば光が出射する面(すなわち空気との界面)に凹凸を形成することが好ましい。ボトムエミッション型の有機EL素子では支持基板6の表面に凹凸を形成することが好ましく、トップエミッション型の有機EL素子では封止部材の表面に凹凸を形成することが好ましい。
【0057】
凹凸としては例えば高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸を形成することが好ましい。このような凹凸を形成することによって支持基板と空気との界面、または封止部材と空気との界面で生じる全反射を抑制することができる。なお支持基板または封止部材に直接的に凹凸を形成するのではなく、表面に凹凸が形成されたフィルムを支持基板または封止部材に貼り合わせてもよい。所定の接着層を介在させてフィルムを貼り合わせる場合には、接着層と、この接着層を介在させて貼り合わされる2つの部材(フィルムと支持基板、又はフィルムと封止部材)との屈折率の差の絶対値が0.2以下であることが好ましい。このような接着層およびフィルムを用いることによって、フィルムや接着層での光の反射を抑制することができる。
【0058】
以下有機EL素子の各構成要素のより具体的な構成およびその製法について詳述する。
【0059】
有機EL素子は前述したように一対の電極間に発光層以外にも所定の層を備えうる。
【0060】
陰極と発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などをあげることができる。陰極と発光層との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0061】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する。電子輸送層は陰極側の表面に接する層からの電子注入を改善する機能を有する。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する。なお電子注入層、及び/又は電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0062】
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0063】
陽極と発光層との間に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などをあげることができる。陽極と発光層との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方の層が設けられる場合、陽極に接する層を正孔注入層といい、この正孔注入層を除く層を正孔輸送層という。
【0064】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する。正孔輸送層は陽極側の表面に接する層からの正孔注入を改善する機能を有する。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する。なお正孔注入層、及び/又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0065】
電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0066】
なお、電子注入層および正孔注入層を総称して電荷注入層ということがあり、電子輸送層および正孔輸送層を総称して電荷輸送層ということがある。
【0067】
本実施形態の有機EL素子のとりうる層構成の一例を以下に示す。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
e)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
g)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
i)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
j)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
k)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
l)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
m)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
n)陽極/発光層/電子注入層/陰極
o)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
p)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
本実施の形態の有機EL素子は2層以上の発光層を有していてもよい。上記a)〜p)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された積層体を「構造単位A」とすると、2層の発光層を有する有機EL素子の構成として、下記q)に示す層構成をあげることができる。なお2つある(構造単位A)の層構成は互いに同じでも、異なっていてもよい。
q)陽極/(構造単位A)/電荷発生層/(構造単位A)/陰極
また「(構造単位A)/電荷発生層」を「構造単位B」とすると、3層以上の発光層を有する有機EL素子の構成として、下記r)に示す層構成をあげることができる。
r)陽極/(構造単位B)x/(構造単位A)/陰極
なお記号「x」は、2以上の整数を表し、(構造単位B)xは、構造単位Bがx段積層された積層体を表す。また複数ある(構造単位B)の層構成は同じでも、異なっていてもよい。
【0068】
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜をあげることができる。
【0069】
前述の実施形態では正孔注入層と発光層の両方の層、または正孔注入層のみが周期的構造を有する形態について説明したが、a)〜r)の構成において、陽極および陰極間に配置される所定の一層又は所定の2層以上の層に周期的構造を形成してもよい。
【0070】
<支持基板>
支持基板としては例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、およびシリコン板、並びにこれらを積層したものなどが用いられる。なおボトムエミッション型の有機EL素子では光透過性を示す基板が用いられるが、トップエミッション型の有機EL素子では、不透明の基板を用いてもよい。
【0071】
支持基板としてはガスバリア性が高いものが好ましいが、ガスバリア性をさらに向上するために、例えば金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物などから成る無機層、前記無機層と有機層とを積層した層または無機−有機ハイブリッド層などを支持基板の少なくとも一方の表面に形成してもよい。
【0072】
<一対の電極>
一対の電極は陽極と陰極によって構成される。
【0073】
陽極としては金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜を用いることができる。陽極としては例えば酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、および銅などから成る薄膜が用いられ、これらの中でもITO、IZO、または酸化スズから成る薄膜が好適に用いられる。また陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0074】
陰極としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易で、電気伝導度の高いものが好ましく、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属および周期表の13族金属などを用いることができる。陰極の材料としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、前記金属のうちの2種以上の合金、前記金属のうちの1種以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうちの1種以上との合金、またはグラファイト若しくはグラファイト層間化合物などが用いられる。なお陰極は、2層以上を積層した積層体で構成されていてもよい。なお後で述べる電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0075】
前述したように一対の電極のうちの一つには光透過性を示す電極が用いられる。例えば可視光が透過する程度にまで前述した金属を薄膜化したものや、ITO、IZO、または酸化スズから成る薄膜を光透過性を示す電極として用いることができる。
【0076】
陽極および陰極の膜厚は、要求される特性および工程の簡易さなどを考慮して適宜設定され、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0077】
陽極および陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、金属薄膜を熱圧着する方法、ラミネート法などをあげることができる。
【0078】
<正孔注入層>
正孔注入層を構成する正孔注入材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体などがあげられる。正孔注入層は、前述したように、例示した材料を含むインキを所定の塗布法で塗布成膜し、さらに乾燥することによって形成することができる。
【0079】
インキの溶媒としては例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒および水をあげることができる。
【0080】
所定の塗布法としてはスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等をあげることができる。
【0081】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などがあげられる。
【0082】
これらの正孔輸送材料の中で、正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等の高分子の正孔輸送材料が好ましく、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサ
ン誘導体などがさらに好ましい。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0083】
正孔輸送層の成膜の方法としては、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法をあげることができ、高分子の正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法をあげることができる。
【0084】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであればよく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒をあげることができる。
【0085】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が弱いものが好適に用いられる。該高分子バインダーとしては、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどがあげられる。
【0086】
正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0087】
<発光層>
発光層は、蛍光及び/又は燐光を発光する有機物、若しくは該有機物と、ドーパントとを含んで構成される。ドーパントは、例えば発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で付加される。発光層に用いられる有機物としては、低分子化合物または高分子化合物のいずれでもよい。発光層を構成する発光材料としては、例えば以下のものをあげられる。なお溶媒への溶解性は高分子化合物の方が一般的に高いため、塗布法で発光層を形成する場合には発光層は高分子化合物を含むことが好ましい。
【0088】
色素系の発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどがあげられる。
【0089】
金属錯体系の発光材料としては、例えばTb、Eu、Dyなどの希土類金属、またはAl、Zn、Be、Ir、Ptなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体をあげることができ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などをあげることができる。
【0090】
高分子系の発光材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、およびポリビニルカルバゾール誘導体など、並びに上記色素系の発光材料や金属錯体系の発光材料を高分子化したものなどがあげられる。
【0091】
上記発光材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などをあげることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0092】
また緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などをあげることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0093】
また赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などをあげられる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0094】
また白色に発光する材料としては、上述の青色、緑色、赤色の各色に発光する材料を混合したものや、各色に発光する材料となる成分をモノマーとして、これを重合したポリマーをその材料として用いてもよい。また各色に発光する材料をそれぞれ用いて形成される発光層を積層して、全体として白色を発光する素子を実現してもよい。
【0095】
ドーパント材料としては例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどをあげることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜2000nmである。
【0096】
有機物を含む発光層の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を基体の表面に塗布する方法、真空蒸着法、ラミネート法などをあげることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔注入層を成膜する際に正孔注入材料を溶解する溶媒として使用した溶媒と同様の溶媒をあげることができる。
【0097】
発光材料を含む溶液を塗布する方法としては、前述の塗布法をあげることができる。
【0098】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等をあげることができる。
【0099】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0100】
電子輸送層の成膜法としては、低分子の電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、若しくは溶液または溶融状態からの成膜による方法をあげることができ、高分子の電子輸送材料では、溶液または溶融状態からの成膜による方法をあげることができる。溶液または溶融状態からの成膜では、高分子バインダーをさらに併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法をあげることができる。
【0101】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよく、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該電子輸送層の膜厚としては、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0102】
<電子注入層>
電子注入層を構成する電子注入材料としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または前記金属を1種類以上含む合金、または前記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸塩、または前記物質の混合物などがあげられる。アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等があげられる。また、アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等があげられる。電子注入層は、2層以上を積層した積層体であってもよい。積層体の具体例としては、LiF/Caなどがあげられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等によって形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0103】
<封止部材>
封止部材としては例えば金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物などから成る無機層、前記無機層と有機層とを積層した層または無機−有機ハイブリッド層を用いることができる。無機層としては、空気中で安定なものが好ましく、具体的にはシリカ、アルミナ、チタニア、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、インジウム錫酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸窒化ケイ素、及びそれらの組合せの薄膜層があげられ、より好ましくは窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素からなる薄膜層であり、さらに好ましくは酸窒化ケイ素の薄膜層である。
【0104】
以上説明した有機EL素子は、曲面状や平面状の照明装置、例えばスキャナの光源として用いられる面状光源、および表示装置に好適に用いることができる。
【0105】
有機EL素子を備える表示装置としては、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置などをあげることができる。ドットマトリックス表示装置には、アクティブマトリックス表示装置およびパッシブマトリックス表示装置などがある。有機EL素子は、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置において、各画素を構成する発光素子として用いられる。また有機EL素子は、セグメント表示装置において、各セグメントを構成する発光素子またはバックライトとして用いられ、液晶表示装置において、バックライトとして用いられる。
【0106】
なおフレキシブルな支持基板を用いれば、フレキシブルな照明装置や表示装置としても使用できる。
【実施例】
【0107】
(正孔注入層塗布溶液の調製)
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)の水分散液(スタルヴィテック社製AI4083)に、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルメトキシシラン(TSL8350;東芝シリコーン社製)を添加することにより正孔注入層塗布液を調製する。正孔注入層塗布液中の全固形分におけるシランカップリング剤の濃度は5質量%とする。
<有機EL素子の作製>
【0108】
まず、平面視で5cm×5cmのガラス基板の中央部に、陽極として2cm×5cmのITO薄膜が成膜された基板を用意する。この基板をアセトン、イソプロピルアルコール、超純水で超音波洗浄し、窒素ブローで乾燥する。この基板に、UVオゾン処理を20分間行い、ITO薄膜が形成されたガラス基板上に、上記正孔注入層塗布液をスピンコートにより塗布し、膜厚が80nmの平板状の層を成膜する。さらにホットプレート上で150℃で10分間乾燥する。次ぎに、レチクルを介して、KrFエキシマレーザー (波長248nm)からの光を平板状の層に1/4縮小投影露光する。続いて平板状の層を純水中に30秒間浸漬して現像する。これによって径が150nm、深さが80nmの複数の円柱状の孔が平板状の層に周期的に形成される。複数の孔は、平面視でITO薄膜上であって1cm×1cmの領域(A)内に形成する。すなわち周期構造は平面視で領域(A)内にのみ形成される。複数の円柱状の孔は、隣り合う孔の中心軸間の距離が300nmであり、縦縞8と横縞9の交差角が60°となるように形成する。
【0109】
次に緑色発光材料(Lumation GP1300;SUMATION製)の濃度が1.2質量%のキシレン溶液を調製する。この溶液を、スピンコートにより正孔注入層上に塗布する。不要な部位に成膜された部分を除去し、さらに窒素雰囲気下においてホットプレート上で130℃、60分間熱処理することによって、厚みが80nmの発光層を形成する。
【0110】
次に発光層が形成された基板を真空蒸着機に導入し、Ba、Alをそれぞれ5nm、100nmの厚みで順次蒸着し、陰極を形成する。
【0111】
次に封止ガラスを用意する。この封止ガラスの周縁部に光硬化性封止剤をディスペンサーにより塗布し、有機EL素子が形成された基板と封止ガラスとを窒素雰囲気下において貼り合せ、さらに紫外線により光硬化性封止剤を硬化することによって封止を行い、有機EL素子を作製する。
<評価>
前述したように正孔注入層には、周期構造が形成された領域(A)があり、この領域(A)を除く残余の領域(B)には周期構造が形成されていない。すなわち領域(B)には、平坦な正孔注入層と平坦な発光層とが積層されている。
【0112】
有機EL素子に電圧を印加して発光させると、領域(A)の方が領域(B)よりも明るいことを視認することができる。このように対向する電極面が平坦であり、有機層に周期構造を形成することによって安定した発光が得られ、光取出し効率が向上し、発光効率が向上する。
【符号の説明】
【0113】
1,11 有機EL素子
2 一方の電極
3 正孔注入層
4 発光層
5 他方の電極
6 支持基板
7 凹み
8 縦縞
9 横縞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記電極間に設けられる一層以上の有機層とを備え、前記一層以上の有機層として発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記一対の電極は、両電極が互いに対向する面が平坦であり、
前記一層以上の有機層のうちの少なくとも一層の有機層は、前記発光層の厚み方向に略垂直な方向に進行する光の進行方向を、前記厚み方向に傾ける周期構造を有し、
前記周期構造は、前記発光層の厚み方向に垂直な平面において二次元的な周期で配置される周期的な構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層は両主面が平坦な平板状である請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記一層以上の有機層のうちで発光層の一方の主面に接して配置される有機層が、前記周期構造を有し、この周期構造を有する有機層に空隙が形成されている請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光層は、前記周期構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明装置。
【請求項7】
一対の電極と、前記電極間に設けられる一層以上の有機層とを備え、前記一層以上の有機層として発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記一対の電極のうちの一方の電極を形成する工程と、
一層以上の有機層を形成する工程と、
前記一対の電極のうちの他方の電極を形成する工程とを含み、
前記一層以上の有機層を形成する工程では、前記有機層となる平板状の層を形成し、さらに、前記発光層の厚み方向に垂直な平面において二次元的に周期的に配置される周期的な構造を前記平板状の層に形成することによって、前記発光層の厚み方向に略垂直な方向に進行する光の進行方向を、前記厚み方向に傾ける周期構造を前記有機層に形成する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
二次元的な周期構造を前記平板状の層に形成する方法がインプリント法である請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
二次元的な周期構造を前記平板状の層に形成する方法がフォトリソグラフィー法である請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−49199(P2011−49199A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193915(P2009−193915)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】