説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】有機EL素子において、光取出し層を単層とし、光取出し効率を向上させる。
【解決手段】有機EL素子1は、第1の電極層2及び第2の電極層3の間に設けられた有機層4と、第1の電極層2及び第2の電極層3の少なくとも一方の表面に設けられ、光の指向性を変更する光取出し層5と、この光取出し層5に設けられた基板6と、を備える。光取出し層5は、母材50と、母材50に対して1乃至5重量%の光散乱粒子51とを含む。この構成によれば、光取出し層5を単層とすることができ、母材50と光散乱粒子51との界面に空隙が発生し難くなり、光取出し効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光取出し層を有した有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、陽極及び陰極で挟持させた発光層が透明基板上に形成されたものであり、電極間に電圧印加されたとき、発光層にキャリアとして注入された電子及びホールの再結合により生成された励起子によって発光する。EL素子は、発光層の蛍光物質に有機物を用いた有機EL素子と、無機物を用いた無機EL素子に大別される。特に、有機EL素子は、低電圧で高輝度の発光が可能であり、蛍光物質の種類によって様々な発光色が得られ、また、平面状の発光パネルとしての製造が容易であることから、各種表示装置やバックライトとして用いられる。更に、近年では、高輝度に対応したものが実現され、これを照明器具に用いることが注目されている。
【0003】
図3に一般的な有機EL素子の断面構成を示す。有機EL素子101は、透光性を有する基板106上に、透光性を有する陽極層102が設けられ、この陽極層102の上に、ホール輸送層142、発光層141及び電子輸送層143から成る有機層104が設けられる。また、有機層104上に、光反射性を有する陰極層103が設けられる。そして、陽極層102と陰極層103との間に電圧が印加されることによって、有機層104で発光した光は、陽極層102及び基板106を透過して取り出される。
【0004】
ところで、屈折率の高い媒質から屈折率の低い媒質へ光が伝搬する場合、その界面では媒質間の屈折率により、スネルの法則から臨界角が決定され、その臨界角以上の光は界面で全反射し、屈折率の高い媒質に閉じ込められ、導波光として失われる。ここで、一般的な有機EL素子101に使用される基板106は、透明性、強度、低コスト、ガスバリア層、耐薬品性、耐熱性等の観点から、ガラスが広く用いられており、一般的なソーダライムガラス等の屈折率は1.52程度である。一方、陽極層102には、酸化インジウムに酸化錫をドープした酸化インジウム錫(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)がその優れた透明性と電気伝導性から広く用いられている。これらITOやIZOの屈折率は、その組成、成膜方法、結晶構造等により変化するが、ITOの屈折率は1.7〜2.3程度、IZOの屈折率は1.9〜2.4程度であり、いずれも基板106に比べて高い屈折率を持つ。
【0005】
また、有機層104に用いられる発光層141、ホール輸送層142、電子輸送層143等を構成する発光材料等の各材料の屈折率は、1.6〜2.0程度のものが多い。つまり、一般的な有機EL素子101においては、各層の屈折率の大小関係は、大気<基板<有機層<陽極となる。そのため、有機EL素子101の発光層141の発光源から出射した光のうち、基板6と素子外(大気)の界面及び陽極1と基板6の界面に、大きな入射角で入射した光は、それらの界面で全反射するので、有効光として素子外に取り出されないことがある。
【0006】
そこで、基板106と陽極層102との間に、それらの光を取り出すために、光散乱機能を有する層等から成る光取出し層を設けることによって、発光層141で発光した光の光利用効率を向上させた有機EL素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−286616
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1に記載の有機EL素子においては、光取出し層の一部として、光散乱粒子を含有する光散乱粒子層を用いている。しかしながら、光散乱粒子層の表面は、光散乱粒子の存在によって凹凸状になっている。この表面が凹凸状であると、陽極、有機層、陰極を均一な厚さで積層できないので、光散乱粒子層の上面側には、その表面を平滑にする平滑化層が形成される。ところが、この平滑化層を光取出し層上に積層すると、光散乱粒子と平滑層との界面に空隙が発生することがあり、この空隙によって光取出し層が十分に機能せず、光取出し効率が低下する虞があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、光取出し層を単層とすることができ、また、母材と光散乱粒子との界面における空隙の発生を抑制して、光取出し効率を向上させることができる有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、 第1の電極層及び第2の電極層の間に設けられた有機層と、前記第1の電極層及び前記第2の電極層の少なくとも一方の表面に設けられ、光の指向性を変更する光取出し層と、この光取出し層上に設けられた基板と、を備え、前記光取出し層は、該光取出し層を構成する母材と、前記母材に対して1乃至5重量%の光散乱粒子とを含むことを特徴とする。
【0011】
上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記光散乱粒子の粒径は、0.1〜10μmであることが好ましい。
【0012】
上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記光散乱粒子は、長軸方向及び短軸方向において形状が異なる粒子であることが好ましい。
【0013】
上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記光散乱粒子は、その表面に凹凸形状を有することが好ましい。
【0014】
上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記光取出し層を構成する母材の屈折率と、前記光散乱粒子の屈折率との差が、0.15〜0.45であることが好ましい。
【0015】
上記有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記光取出し層を構成する母材の屈折率と、前記光取出し層と接する前記第1の電極層又は前記第2の電極層の屈折率とが、同等であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光取出し層は、母材に対して1乃至5重量%の光散乱粒子とを含むので、単層でも十分な光取出し効率を向上させることができる。また、光散乱粒子が1乃至5重量%であれば、光散乱粒子母材と光散乱粒子との界面における空隙を発生し難くすることができ、光取出し効率を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の側断面図。
【図2】(a)は同有機エレクトロルミネッセンス素子において、基板上に、母材に対して5重量%の光散乱粒子を添加して作製された光取出し層の表面の顕微鏡写真を示す図、(b)は母材に対して7.5重量%の光散乱粒子を添加して作製された光取出し層のの表面の顕微鏡写真を示す図。
【図3】従来の有機エレクトロルミネッセンス素子の側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子)について、図1を参照して説明する。本実施形態の有機EL素子1は、第1の電極層2及び第2の電極層3の間に設けられた有機層4と、第1の電極層2及び第2の電極層3の少なくとも一方の表面に設けられ、光の指向性を変更する光取出し層5と、光取出し層5上に設けられた基板6と、を備える。この構成において、第1の電極層2は、ホール輸送層42に正孔を供給する陽極として機能し、第2の電極層3は、発光層41に電子を注入する陰極として機能する。また、第1の電極層2及び基板6は透光性を有し、第2の電極層3は光反射性を有する。なお、本例では、第1の電極層2の一方の表面に光取出し層5が設けられた構成を示す。このように構成された有機EL素子1においては、第1の電極層2及び第2の電極層3の間に電圧が印加されることによって、有機層4の発光層41で発光した光が、第1の電極層2及び基板6を透過して素子外に取り出される。
【0019】
なお、有機層4は、発光材料を含む発光層41に加えて、第2の電極層3と発光層41との間に設けられた電子輸送層43と、第1の電極層2と発光層41との間に設けられたホール輸送層42とを備えた構成を示しているが、この構成に限られない。また、発光層41としては、複数の発光層が積層されたものであってもよい。
【0020】
基板6には、例えば、ソーダライムガラスや無アルカリガラス等の透明ガラス板や、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エポキシ等の樹脂、フッ素系樹脂等から任意の方法によって作製されたプラスチックフィルムやプラスチック板等が用いられる。また、基板6は、鉛等の重金属を混合したガラスであってもよく、任意のものを用いることができる。
【0021】
光取出し層5は、この光取出し層5を構成する母材50に対して1乃至5重量%の光散乱粒子51を混合した組成物から形成される。母材50としては、透光性に優れ、光取出し層5と接する第1の電極層2又は第2の電極層3と同等の屈折率を有する材料が好適に用いられ、例えば、イミド系樹脂、チオウレタン系樹脂等が用いられる。光散乱粒子51としては、シリカやアルミナ等の透光性微粒子が用いられる。光散乱粒子51の濃度が1重量%未満であると、十分な光取出し効果を得られなくなる。
【0022】
一方、光散乱粒子51の濃度が5重量%を越えると、光取出し層5に接する基板6に亀裂が発生する虞がある。ここで、母材50となるイミド系樹脂に対して5重量%又は7.5重量%の光散乱粒子51を分散させ、ガラス製の基板6に塗布、乾燥することで光取出し層5を作製し、その表面の顕微鏡写真を、夫々図2(a)(b)に示す。なお、母材50及び光散乱粒子51には、OPTMATE製のイミド系樹脂及びGE東芝シリコーン製のメチルシリコーン粒子(粒子径2μm)を用いた。
【0023】
図2(b)に示すように、母材50に対して7.5重量%の光散乱粒子51を添加した光取出し層は、図2(b)に示すように、基板6の表面に亀裂が発生した。この亀裂は、短絡の要因となり、デバイスの信頼性を低下させる。これに対して、母材50に対して5重量%の光散乱粒子51を添加した光取出し層5は、図2(a)に示すように、基板6の表面に亀裂が発生することはなかった。
【0024】
光散乱粒子51の粒径は、0.05〜10μmであることが好ましい。光散乱粒子51の粒径が0.05μm未満であると、光を散乱させる効果を十分に得ることができず、光取出し効率を十分に高めることができない。一方、光散乱粒子51の粒径が10μmを越えると、光取出し層5の基板6とは反対側の表面における平坦性が悪くなる虞がある。
【0025】
光散乱粒子51の形状は、球形等のような等方形状であってもよいが、長軸方向及び短軸方向において形状が異なる粒子であることが好ましい。光散乱粒子51は、異方形状であると、その長軸方向が光取出し層5の膜厚方向に対して種々な角度及び方向に配列し、光散乱粒子51による光の散乱効果を向上させることができる。
【0026】
基板6の表面に、異方形状の光散乱粒子51を用いて光取出し層5を塗布により形成したとき、光散乱粒子51は、特別な処理等を行わない限り、その長軸方向が、基板6の表面と平行等一方向に規則的に配列することはなく、不規則な方向に配列される。そのため、異方形状の光散乱粒子51は、真球状の光散乱粒子51よりも、あらゆる方向への光の散乱効果を高くすることができる。従って、光取出し層5に、長軸方向と短軸方向を有する異方形状の光散乱粒子51を用いることによって、正面取出し光の低減を抑えつつ、斜め方向の光を散乱させることができ、光取出効率をより向上させることができる。
【0027】
ここで、光散乱粒子51の長軸方向と短軸方向とは必ずしも直交している必要はなく、長軸方向と短軸方向とが任意の角度である異方形状であってもよい。また、この異方形状の光散乱粒子51の長軸方向の粒径や、短軸方向の粒径は、上述したように、0.05〜10μmの範囲内であることが好ましい。また、長軸方向と短軸方向の粒径の差は、短軸方向の粒径を1として、長軸方向の粒径が1.2〜5の範囲であることが好ましい。長軸方向の粒径が5を超えると、光取出し層5の基板6とは反対側の表面における平坦性が悪くなる虞があるので好ましくない。
【0028】
また、光散乱粒子51の表面は、平坦であってもよいが、凹凸形状を有するものが好ましい。光散乱粒子51の表面が、凹凸形状を有していると、表面が平坦な場合に比べて、光の散乱効果を高くすることができ、光取出効率をより向上させることができる。
【0029】
光散乱粒子51は、その屈折率が光取出し層5を構成する母材50の屈折率よりも小さくなるものが用いられる。こうすれば、母材50に入射した光を、光散乱粒子51の表面で全反射させて、様々な方向に散乱させることができる。
【0030】
また、光取出し層5を構成する母材50の屈折率と、光散乱粒子51の屈折率との差は、0.15〜0.45であることが好ましい。この差が0.15未満であると、光散乱粒子51の表面において全反射する光が少なくなり、十分な光散乱機能を得られない。また、母材50として用いられる透光性樹脂の屈折率が通常1.4〜1.8程度であることを鑑みれば、母材50との屈折率差を0.45以上とするような超低屈折率材料を光散乱粒子51に用いることは容易でない。
【0031】
また、光取出し層5の光透過率は、少なくとも50%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましい。また、光取出し層5は、第1の電極層2との界面における全反射が生じ難いように、設計がなされていることが好ましい。つまり、光取出し層5の母材50の屈折率は、第1の電極層2と同等の屈折率であることが好ましい。ここでいう同等とは、屈折率差が±0.2以下であるものとする。
【0032】
第1の電極層2は、有機層4に対して効率的に正孔を注入できるように、仕事関数の大きい金属、合金、電気伝導性化合物、又はこれらの混合物から成る電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が4eV以上のものを用いることが特に好ましい。このような第1の電極層2の材料としては、例えば、金等の金属、CuI、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム−亜鉛酸化物)等、PEDOT、ポリアニリン等の導電性高分子及び任意のアクセプタ等でドープした導電性高分子、カーボンナノチューブ等の導電性透光性材料を挙げることができる。第1の電極層2は、上述した電極材料を、例えば、基板6の表面に真空蒸着法やスパッタリング法、塗布等の方法により薄膜に形成することによって作製することができる。第2の電極層3の透過率は、70%以上であることが好ましい。また、第2の電極層3のシート抵抗は、数百Ω/□以下であることが好ましく、100Ω/□以下であることがより好ましい。第1の電極層2の膜厚は、材料の導電性等の特性により異なるが、第1の電極層2の光透過率、シート抵抗等の特性を上記のように制御するためには、500nm以下であることが好ましくは、10〜200nmの範囲に設定されることがより好ましい。また、第1の電極層2は、リーク電流やショートを防ぐために、光取出し層5とは反対側の表面が、高平坦性を有するように構成されていることが好ましい。
【0033】
有機層4は、上述したホール輸送層42、発光層41及び電子輸送層43が積層されたものであり、発光層41上に、適宜に電子輸送層、ホールブロック層又は電子注入層等(不図示)の適宜の有機層が積層されてもよい。また、発光層41は、複数層形成されていてもよい。このように、発光層41を複数層設ける場合には、その積層数は、多くなるに従って光学的及び電気的な素子設計の難易度が増すので、5層以内が好ましく、3層以内がより好ましい。また、この場合、複数の有機層4間に、電荷供給層(不図示)を介在させることが好ましい。この電荷供給層としては、例えば、Ag、Au、Al等の金属薄膜、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステン等の金属酸化物、ITO、IZO、AZO、GZO、ATO、SnO等の透明導電膜、いわゆるn型半導体とp型半導体の積層体、金属薄膜又は透明導電膜とn型半導体及び/又はp型半導体との積層体、n型半導体とp型半導体の混合物、n型半導体又はp型半導体と金属との混合物等が挙げられる。n型半導体やp型半導体としては、無機材料であっても、有機材料であってもよい。更に、有機材料と金属との混合物、有機材料と金属酸化物、有機材料と有機系アクセプタ/ドナー材料、無機系アクセプタ/ドナー材料等の組合わせによって得られるものであってもよく、これらが適宜に選定して使用される。
【0034】
ホール輸送層42は、ホール輸送性を有する化合物の群から適宜に選定される。この種の化合物としては、例えば、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNB等に代表されるトリアリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物等が挙げられる。なお、上述したものに限られず、一般に知られる任意のホール輸送材料を用いることができる。
【0035】
発光層41を構成する有機EL材料としては、例えば、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq)、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ジスチリルアミン誘導体及び各種蛍光色素等、前述の材料系及びその誘導体を始めとするものが挙げられるが、これらに限定するものではない。また、これらの化合物のうちから選択される発光材料を適宜混合して用いることが好ましい。また、上記化合物に代表される蛍光色素由来の化合物のみならず、いわゆる燐光発光材料、例えば、Ir錯体、Os錯体、Pt錯体、ユーロピウム錯体等々の発光材料、又はそれらを分子内に有する化合物若しくは高分子も好適に用いることができる。これらの材料は、必要に応じて、適宜選択して用いられる。上述した材料から成る発光層41は、蒸着、転写等乾式プロセスによって成膜されてもよいし、スピンコート、スプレーコート、ダイコート、グラビア印刷等、湿式プロセスによって成膜されるものであってもよい。
【0036】
電子輸送層43は、電子輸送性有する化合物の群から適宜に選定された材料から形成される。この種の化合物としては、例えば、Alq等の電子輸送性材料として知られる金属錯体や、フェナントロリン誘導体、ピリジン誘導体、テトラジン誘導体、オキサジアゾール誘導体等のヘテロ環を有する化合物等が挙げられる。なお、上述したものに限られず、一般に知られる任意の電子輸送材料を用いることができる。
【0037】
第2の電極層3は、発光層41に対して効率的に電子を注入できるように、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物から成る電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が5eV以下のものであることが特に好ましい。第2の電極層5を構成する材料としては、アルカリ金属、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属等、及びこれらと他の金属との合金等が用いられる。具体的には、アルミニウム(Al)や銀(Ag)、又はこれら金属を含む化合物を用いることができる。また、Alと他の電極材料を組み合わせて積層構造等として構成するものであってもよい。このような電極材料の組み合わせとしては、アルカリ金属とAlとの積層体、アルカリ金属と銀との積層体、アルカリ金属のハロゲン化物とAlとの積層体、アルカリ金属の酸化物とAlとの積層体、アルカリ土類金属や希土類金属とAlとの積層体、これらの金属種と他の金属との合金等が挙げられる。具体的には、例えば、ナトリウム(Na)、Na−カリウム(K)合金、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)等とAlとの積層体、Mg−Ag混合物、Mg−インジウム混合物、Al−Li合金、LiF/Al混合物/積層体、Al/Al混合物等が挙げられる。更に、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、又は金属酸化物を第2の電極層3の下地として用い、更に金属等の導電材料を1層以上積層して用いてもよい。これらの例として、例えば、アルカリ金属/Alの積層、アルカリ金属のハロゲン化物/アルカリ土類金属/Alの積層、アルカリ金属の酸化物/Alの積層等が挙げられる。また、上記に列挙したもの以外についても、第2の電極層3(陰極)から発光層41への電子注入を促進させる層、すなわち、電子注入層(不図示)を陰極と発光層の間に挿入させることが好ましい。電子注入層を構成する材料としては、上記第2の電極層3を構成する材料と共通のもの、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物、上記材料を含めて、電子注入を促進させるドーパントを混合した有機半導体材料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
また、第2の電極層3は、透明電極と光反射性の層との組み合わせによって構成されてもよい。第2の電極層3を透光性の電極として形成する場合には、ITO、IZO等に代表される透明電極にて形成してもよい。また、第2の電極層3の界面の有機物層にリチウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属をドープしても良い。
【0039】
第2の電極層3の作製方法としては、例えば、上述した電極材料を真空蒸着法やスパッタリング法、塗布等の方法により、薄膜に形成すること等が挙げられる。第2の電極層5が、光反射性電極である場合には、その反射率は80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0040】
また、第2の電極層3が透光性電極である場合には、第2の電極層3の光透過率が70%以上であることが好ましい。この場合の第3の電極層5の膜厚は、第3の電極層5の光透過率等の特性を制御するために、材料により異なるが、500nm以下であることが好ましく、100〜200nmの範囲であることが特に好ましい。
【実施例】
【0041】
次に、上述した実施形態の実施例について、比較例と対比しながら具体的に説明する。
【0042】
(実施例1)
まず、光取出し層5の母材50としてイミド系樹脂(OPTMATE製、HRI1783、nD=1.78、濃度18%)に対して5重量%となるように光散乱粒子51としてメチルシリコーン粒子(粒子径2μm、GE東芝シリコーン製、トスパール120、nD=1.45)を添加してホモジナイザーで分散させてコーティング材組成物を得た。
【0043】
次に、基板6として、厚み0.7mmの無アルカリガラス板(No.1737;コーニング製)を用い、ガラス表面に得られたコーティング材組成物をスピンコータによって1000rpmの条件で塗布、乾燥し、200℃で30分間焼成することによって熱処理し、厚み約6.5μmの光取出し層5を設けた。
【0044】
次に、ITO(スズドープ酸化インジウム)ターゲット(東ソー製)を用いてスパッタを行い、150nmのITO膜を形成した。得られたITO層付ガラス基板を、Ar雰囲気下200℃で1時間アニール処理を行い、シート抵抗18Ω/□の第1の電極層2を形成した。第1の電極層2の屈折率を、FilmTek社製SCI3000で測定したところ、nD=1.78であった。
【0045】
このITO付きガラス基板を純水、アセトン、イソプロピルアルコールで各10分間超音波洗浄した後、イソプロピルアルコール蒸気で2分間蒸気洗浄して、乾燥し、更に10分間UVオゾン洗浄した。続いて、このITO層付ガラス基板を真空蒸着装置にセットし、5×10−5Paの減圧下、4,4′−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)を厚み40nmとなるように蒸着し、第1の電極層2(ITO)上にホール輸送層42を形成した。次いで、ホール輸送層42の上に、Alq3にルブレンを6%ドープした発光層41を厚み30nmにして設けた。更に、電子輸送層43としてTpPyPhBを厚み65nmに成膜した。また、電子注入層(不図示)としてLiFを厚み1nm、第2の電極層3(陰極)としてAlを厚み80nmに成膜して、実施例1の有機EL素子1を作製した。
【0046】
(実施例2)
光散乱粒子51として凸レンズ形状のアクリル樹脂粒子(積水化成品(株)製L−XX−03N、平均粒径5μm、nD=1.5)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2の有機EL素子1を作製した。
【0047】
(実施例3)
光散乱粒子51として表面凹凸微粒子(松本油脂製薬(株)製;マツモトマイクロスフェアーM、粒径5μm、nD=1.5)を用いた以外は、実施例1と同様にして有機EL素子1を作製した。
【0048】
(比較例1)
テトラエトキシシラン86.8gにイソプロピルアルコール803.5gを加え、更にγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン34.7g及び0.1N硝酸75gを加え、ディスパーを用いてよく混合することによって組成液を調整した。調整した組成液を40℃恒温槽中で2時間攪拌し、重量平均分子量が1050のバインダー形成材料としてのシリコーンレジン5質量%のシリコーンレジン溶液(nD=1.43)を得た。このシリコーンレジン溶液に、メチルシリコーン粒子(粒子径2μm、GE東芝シリコーン製、トスパール120、nD=1.45)をメチルシリコーン粒子/シリコーンレジン(縮合化合物換算)の固形分質量基準で80/20となるように添加して、ホモジナイザーで分散させ、メチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液を得た。なお、「縮合化合物換算」とは、テトラアルコキシシランの場合は、存在するSiがSiOであるとした質量、トリアルコキシシランの場合は、SiO1.5であるとした質量である。
【0049】
次に、基板6として厚み0.7mmの無アルカリガラス板(No.1737、コーニング製)を用い、ガラス表面に得られたコーティング材組成物をスピンコータによって1000rpmの条件で塗布、乾燥した。塗布、乾燥を6回繰り返した後に200℃で30分間焼成することによって熱処理を行った。
【0050】
次に、光取出し層に平坦性を付与するために、散乱粒子層付きガラス基板にイミド系樹脂(OPTMATE製、HRI1783、nD=1.78、濃度18%)をスピンコータによって2000rpmの条件で塗布、乾燥して被膜を形成し、200℃で30分間焼成することによって熱処理し、厚み約4μmの平坦化層を積層した。上記手順により、光取出し層を作製した以外は、実施例1と同様にして比較例1の有機EL素子を得た。
【0051】
(評価試験)
各実施例及び比較例として作製された有機EL素子において、電極間に、電流密度が10mA/cmとなるように電流を流し、大気放射光を積分球によって計測した。この計測結果に基づいて外部量子効率を算出し、比較例1との比を下記の表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上記表1に見られるように、上述した実施形態に基づいた実施例1乃至3は、比較例1と対して、外部量子効率が向上していることが示された。実施例1乃至3は、いずれも光取出し層5は単層である。つまり、母材50と、母材50に対して5重量%の光散乱粒子51とで構成することにより、母材50と光散乱粒子51との界面に空隙が発生し難くなり、この空隙による光のロスを抑制し、光取出し効率を向上させることができる。なお、上記表1には記載していないが、光散乱粒子51は、母材50に対して1重量%以上とすることにより、光取出し効率の向上が確認された。
【0054】
実施例1乃至3は、いずれも光取出し層5において平坦化層は形成されていないが、平坦化層が形成されている比較例1を上回る外部量子効率が示されている。この結果は、光散乱粒子の粒径を小さく(実質的には0.1〜10μm)にすれば、光取出し層5における第1の電極層5(又は第2の電極層3)と対向する面の凹凸を少なくすることができ、平坦化層が有る場合と同等以上の発光が可能であることを示す。また、光取出し層5の表面の凹凸が少ないと、この光取出し層5上に形成された第1の電極層5も、凹凸が少なく均一な厚さとすることができる。その結果、素子短絡の虞を少なくすることができ、この有機EL素子1を用いたデバイスの信頼性の向上させることができる。
【0055】
また、実施例2において、実施例1を上回る外部量子効率が示されている。この結果は、実施例2のように、異方形状の光散乱粒子51(凸レンズ形状のアクリル樹脂粒子)を用いることにより、光の散乱効果を向上させることができ、光取出し効率をより向上させられることを示す。また、実施例3において、実施例1を上回る外部量子効率が示されている。この結果は、実施例3のように、表面に凹凸形状を有する光散乱粒子51を用いることにより、光の散乱効果を向上させることができ、光取出し効率をより向上させられることを示す。
【0056】
また、実施例1乃至3は、いずれも光取出し層5を構成する母材50の屈折率と、光散乱粒子51の屈折率の差が、0.15以上であり、これに対して、比較例1は、屈折率差が0.15未満である。そして、実施例1乃至3は、比較例1を上回る外部量子効率が示されている。この結果は、この屈折率差の違いにより、光散乱粒子51による好適な光散乱特性を得られることを示す。
【0057】
更に、光取出し層5を構成する母材50の屈折率と、第1の電極層2(陽極)の屈折率とを同等とすることで、第1の電極層2を透過した光は、光取出し層5との界面で全反射することなく、光取出し層5に入射し、光散乱粒子51で散乱させることができる。
【0058】
なお、本発明は、第1の電極層2又は第2の電極層3の少なくとも一方の表面に、母材50に対して1乃至5重量%の光散乱粒子51とを含む光取出し層5が設けられたものであれば、上記実施形態に限らず、種々の変形が可能である。例えば、光取出し層5を構成する母材50に、光散乱粒子51以外の材料が添加されてもよい。また、上述した光取出し層5と同様に構成された層が、基板6の外側に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 有機EL素子
2 第1の電極層
3 第2の電極層
4 有機層
5 光取出し層
50 母材
51 光散乱粒子
6 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極層及び第2の電極層の間に設けられた有機層と、前記第1の電極層及び前記第2の電極層の少なくとも一方の表面に設けられ、光の指向性を変更する光取出し層と、この光取出し層上に設けられた基板と、を備え、
前記光取出し層は、該光取出し層を構成する母材と、前記母材に対して1乃至5重量%の光散乱粒子とを含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記光散乱粒子の粒径は、0.1〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記光散乱粒子は、長軸方向及び短軸方向において形状が異なる粒子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記光散乱粒子は、その表面に凹凸形状を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
延期光取出し層を構成する母材の屈折率と、前記光散乱粒子の屈折率との差が、0.15〜0.45であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記光取出し層を構成する母材の屈折率と、前記光取出し層と接する前記第1の電極層又は前記第2の電極層の屈折率とが、同等であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−221604(P2012−221604A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83316(P2011−83316)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】