説明

有機ケイ素化合物、並びにそれを用いたゴム組成物及びタイヤ

【課題】ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能な新規化合物を提供する。
【解決手段】下記式(I):


[式(I)中のX及びYはそれぞれ独立してO、S又はCH2を表し、R1及びR6はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜18の1価炭化水素基、−(Cl2l−O)m7又は−Cl2l−NR78(l及びmはそれぞれ独立して1〜10であり、R7及びR8はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜10の1価炭化水素である)であり、R2及びR5はそれぞれ独立して炭素数1〜10の2価炭化水素基であり、R3及びR4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜18の1価炭化水素である]で表わされる有機ケイ素化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物、該有機ケイ素化合物を含むゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤに関し、特には、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させると共に、耐摩耗性を向上させることが可能な有機ケイ素化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、車両の安全性の観点から、タイヤの湿潤路面における安全性を向上させることが求められている。また、環境問題への関心の高まりに伴う二酸化炭素の排出量の削減の観点から、車両を更に低燃費化することも求められている。
【0003】
これらの要求に対し、従来、タイヤの湿潤路面における性能の向上と転がり抵抗の低減とを両立する技術として、タイヤのトレッドに用いるゴム組成物の充填剤としてシリカ等の無機充填剤を用いる手法が有効であることが知られている。また、トレッド用ゴム組成物にシリカ等の無機充填剤を配合した場合、ゴム組成物のヒステリシスロスを更に低下させたり、耐摩耗性を確保するために、シランカップリング剤を添加することが必須となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3,842,111号
【特許文献2】米国特許第3,873,489号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、充填剤としてシリカ等の無機充填剤を配合しつつ、従来のシランカップリング剤を添加しても、ゴム組成物のヒステリシスロスの低減と耐摩耗性の向上とを十分満足できるレベルにすることができず、依然として改良の余地が有ることが分かった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能な新規化合物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる化合物を含むゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、分子構造中に加硫前は安定な構造であるものの加硫時にラジカル分子を効率よく発生可能な構造を有する有機ケイ素化合物は、ゴム成分との反応性が高く、また、シリカ等の無機充填剤との反応速度も促進するため、該有機ケイ素化合物を無機充填剤と共にゴム成分に配合することでカップリング反応の効率が向上し、従来のシランカップリング剤よりもゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の有機ケイ素化合物は、下記一般式(I):
【化1】

[式(I)中のX及びYはそれぞれ独立してO、S又はCH2を表し、R1及びR6はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜18の1価炭化水素基、−(Cl2l−O)m7又は−Cl2l−NR78(l及びmはそれぞれ独立して1〜10であり、R7及びR8はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜10の1価炭化水素である)であり、R2及びR5はそれぞれ独立して炭素数1〜10の2価炭化水素基であり、R3及びR4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜18の1価炭化水素である]で表わされることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のゴム組成物は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と上記の有機ケイ素化合物(C)とを配合してなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のゴム組成物は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)5〜140質量部を配合してなり、更に、上記の有機ケイ素化合物(C)を、前記無機充填剤(B)の配合量の1〜20質量%含むことが好ましい。
【0011】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記無機充填剤(B)がシリカ又は水酸化アルミニウムである。ここで該シリカは、BET表面積が40〜350 m2/gであることが好ましい。
【0012】
また、本発明のタイヤは、上記のゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させると共に、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能な有機ケイ素化合物を提供することができる。また、かかる有機ケイ素化合物を含むゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することができる。
【0014】
理由は必ずしも明らかではないが、本発明の有機ケイ素化合物においては、加硫時に生成する硫黄ラジカルが該有機ケイ素化合物の−S−C−S−結合と効率的に反応し開裂することによって−S−C・や・S−のようなゴム成分と高い反応性を有するラジカル分子が生成するものと考えられる。また、本発明の有機ケイ素化合物は、S−C−Sを介し、シリカ等の無機充填剤との親和性や反応性を有する(R1X)3Si−及び(R6X)3Si−のケイ素部位を両末端に有している。そして、加硫時に生成した該ラジカル(Si−Cn−S−C・や・S−Cn−Si)が同一分子内のケイ素部分との相互作用を生じ、シリカ等の無機充填剤との反応性を高め、結果的としてカップリング効率が向上することにより、ヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させることができるものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の有機ケイ素化合物は、下記一般式(I)で表わされるものである。
【化2】

【0016】
上記一般式(I)において、X及びYは、それぞれ独立してO、S又はCH2である。X及びYは、原料化合物のコストの点や取り扱いの容易さの点でから、O又はCH2であることが好ましい。
【0017】
1及びR6は、それぞれ独立して水素、炭素数1〜18の1価炭化水素基、−(Cl2l−O)m7又は−Cl2l−NR78を示し、ここで、l及びmはそれぞれ独立して1〜10であり、また、R7及びR8はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜10の1価炭化水素基である。炭素数1〜18の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデカニル基、ヘキサデカニル基、オクタデカニル基等のアルキル基や、該アルキル基に1個または複数不飽和結合を含んだアリル基、ブテニル基等のアルケニル基、三重結合を含んだアルキニル基が挙げられる。これら1価炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。−Cl2l−は、lが1〜10であるため炭素数1〜10のアルキレン基であり、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、へキシレン基、デシレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよく、また、環状構造を含んでいてもよい。また−(Cl2l−O)mは、mが1〜10であり、エチレンオキシ基やプロピレンオキシ基、ジエチレンジオキシ基やジプロピレンジオキシ基等が挙げられる。また、R7及びR8の炭素数1〜10の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基や、該アルキル基に不飽和結合を含んだアリル基、ブテニル基等のアルケニル基、三重結合を含んだアルキニル基が挙げられ、これら不飽和結合や三重結合は複数個含んでいてもよい。これら1価炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。式(I)中のR1及びR6は、それぞれ同一でも異なってもよく、3つのR1または3つのR6は、それぞれ下記のように連結して環化していてもよい。
【化3】

【0018】
なお、本発明の有機ケイ素化合物を表わす一般式(I)の(R1X)3Si−及び(R6X)3Si−の部分について、下記のものを代表例として例示する。なお、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示し、Prはプロピル基を示し、Buはブチル基を示す。
(MeO)3Si−、(EtO)3Si−、(PrO)3Si−、(BuO)3Si−、(C6H13O)3Si−、
(C6H12O)3Si−、[2-(C2H5)C6H12O]3Si−、(C8H17O)3Si−、(C10H21O)3Si−、
(EtO)(CH3)2Si−、(EtO)(CH3)2Si−、(EtO)(C2H4O2)Si−、
(EtO)(C3H7O2)Si−、(EtO)2(MeOC2H4O)Si−、(EtO)2[Me(OC2H4)2O]Si−、
(EtO)2[Me(OC2H4)8O]Si−、(EtO)2(C10H21O)Si−、(EtO)2(Me2NC2H4O)Si−、
(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−、Me[MeN(C2H4)2O2]Si−、[N(C2H4)3O3]Si−
【0019】
上記一般式(I)において、R2及びR5は、それぞれ独立して1〜10の2価炭化水素基である。これら2価炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、へキシレン基、デシレン基等のアルキレン基が挙げられ、該アルキレン基には不飽和結合や三重結合を含んでいてもよい。また、これら2価炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状構造を含んでいてもよい。式(I)中のR2及びR5は、同一でも異なってもよいが、該有機ケイ素化合物の製造のし易さの点で同一の方が好ましく、またプロピレン基であることがコストの点からより好ましい。
【0020】
上記一般式(I)において、R3及びR4は、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜18の1価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデカニル基、ヘキサデカニル基、オクタデカニル基等のアルキル基や、該アルキル基に不飽和結合を含んだアリル基、ブテニル基等のアルケニル基、三重結合を含んだアルキニル基が挙げられ、これら不飽和結合や三重結合は複数個含んでいてもよい。これら1価炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。式(I)中のR3及びR4は、同一でも異なってもよく、また互いにアルキレン結合等で連結して環化していてもよい。
【0021】
3に結合しているYはO、S又はCH2であるが、原料化合物のコストの点でO又はCH2であることが好ましく、さらに製造の容易さの点からCH2であることが最も好ましい。なお、本発明の有機ケイ素化合物を表わす一般式(I)中の−S−CYR3(R4)−S−の部分について、下記のものを代表例として例示する。
−S−CH(CH3)−S−−S−CH(C2H5)−S−、−S−CH(C3H7)−S−、
−S−CH(C4H9)−S−、−S−CH(C8H17)−S−、−S−CH(C11H23)−S−
−S−C(CH3)2−S−、−S−C(CH3)(C4H9)−S−、−S−C(CH3)(C6H13)−S−
−S−C(CH3)(C10H21)−S−、−S−C(C2H5)2−S−−S−C(C4H9)2−S−
−S−C(C8H17)2−S−−S−C(C5H10)−S−−S−CH(OCH3)−S−
−S−CH(OC2H5)−S−−S−C(CH3)(OC2H5)−S−−S−C(C4H9)(OC2H5)−S−
【0022】
なお、本発明の有機ケイ素化合物として、下記のものを代表例として例示する。
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(C2H5)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(C4H9)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(C8H17)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(C11H23)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C4H9)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C6H13)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C10H21)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(C4H9)2−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(C5H10)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(OC2H5)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)(OC2H5)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(C4H9)(OC2H5)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)2(CH3)Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(CH3)(EtO)2
(EtO)(CH3)2Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(CH3)2(EtO)
(EtO)2(C10H21O)Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(OC10H21)(EtO)2
(EtO)[MeN(C2H4)2O]Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si(EtO)3
(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si[O2(C2H4)2NMe](EtO)
(EtO)2(Me2NC2H4O)Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(OC2H4NMe2)(EtO)2
(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si[O2(C2H4)2NMe](EtO)
(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C6H13)−S−(CH2)3−Si(EtO)3
[N(C2H4)3O3]Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(EtO)3
(EtO)2(Me2NC2H4O)Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(OC10H21)(EtO)2
これら有機ケイ素化合物は一種単独で用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
このような有機ケイ素化合物は、例えば、メルカプトメチルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン、3−メルカプトプロピルジエトキシデカノキシシラン、3−メルカプトプロピルエトキシ(N−メチルアミノジエトキシ)シラン等のメルカプト基を有するシラン化合物とアルデヒド、ケトンのようなカルボニル化合物やアルキン化合物、アセタール化合物やオルトエステル化合物等との反応によって製造することができ、製造法は特に限定されない。
【0024】
また、上記反応において触媒の使用は任意であり、例えば、p−トルエンスルホン酸およびカルボン酸および無機酸などのプロトン性(ブレンステッド)酸、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、テトライソプロポキシチタン、ハフニウムトリフレート、塩化亜鉛、塩化スズなどの非プロトン性(ルイス)酸、さらにはゼオライト、アルミナ、イオン交換樹脂などの固体触媒等必要に応じて様々な触媒を用いることができ、特に限定されない。
【0025】
また、上記反応の溶媒の使用は任意であり、たとえば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン塩化メチレンなど種々の炭化水素溶媒が挙げられ、特に限定されないが、製造コストの点で溶媒を使用しないことが最も好ましい。
【0026】
本発明のゴム組成物は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と上述の有機ケイ素化合物(C)とを配合してなることを特徴とし、好ましくは、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)5〜140質量部を配合し、更に、上述の有機ケイ素化合物(C)を、前記無機充填剤(B)の配合量の1〜20質量%配合してなる。
【0027】
ここで、有機ケイ素化合物(C)の含有量が無機充填剤(B)の配合量の1質量%未満では、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させる効果、並びに耐摩耗性を向上させる効果が不十分であり、一方、20質量%を超えると、効果が飽和してしまう。
【0028】
本発明のゴム組成物のゴム成分(A)は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなる。ここで、ジエン系合成ゴムとしては、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられる。これらゴム成分(A)は、一種単独で用いても、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0029】
本発明のゴム組成物に用いる無機充填剤(B)としては、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられ、これらの中でも、補強性の観点から、シリカ及び水酸化アルミニウムが好ましく、シリカが特に好ましい。なお、シリカとしては、特に制限はなく、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等を使用することができ、一方、水酸化アルミニウムとしては、ハイジライト(登録商標、昭和電工製)を用いることが好ましい。
【0030】
上記シリカは、BET表面積が40〜350 m2/gであることが好ましい。シリカのBET表面積が40 m2/g未満の場合、該シリカの粒子径が大きすぎるために耐摩耗性が大きく低下してしまい、また、シリカのBET表面積が350 m2/gを超える場合、該シリカの粒子径が小さすぎるためにヒステリシスロスが大きく増加してしまう。
【0031】
上記無機充填剤(B)の配合量は、上記ゴム成分(A)100質量部に対して5〜140質量部の範囲が好ましい。無機充填剤(B)の配合量が上記ゴム成分(A)100質量部に対して5質量部未満では、ヒステリシスを低下させる効果が不十分であり、一方、140質量部を超えると、作業性が著しく悪化するためである。
【0032】
本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分(A)、無機充填剤(B)、有機ケイ素化合物(C)の他に、ゴム業界で通常使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。なお、本発明のゴム組成物は、ゴム成分(A)に、無機充填剤(B)及び有機ケイ素化合物(C)と共に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0033】
また、本発明のタイヤは、上述のゴム組成物を用いたことを特徴とし、上述のゴム組成物がトレッドに用いられていることが好ましい。本発明のタイヤは、転がり抵抗が大幅に低減されていることに加え、耐摩耗性も大幅に向上している。なお、本発明のタイヤは、従来公知の構造で、特に限定はなく、通常の方法で製造できる。また、本発明のタイヤが空気入りタイヤの場合、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
<有機ケイ素化合物の製造例1>
200 mlのナスフラスコに、3−メルカプトプロピルジエトキシデカノキシシラン 59.1 g、アセトンジエチルアセタール 13.2 g、p−トルエンスルホン酸 0.01 gを仕込み、90℃で2時間反応させた。得られた反応物を室温〜200℃/133Paで低沸点成分を取り除き、このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(C−1)が83%の純度であることが分かった。
C−1:(EtO)2(C10H21O)Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(OC10H21)(EtO)2
【0036】
<有機ケイ素化合物の製造例2>
200 mlのナスフラスコに、2−ウンデカノン 17.0 g、オルトギ酸トリエチル 17.8 g、トルフルオロメタンスルホン酸ハフニウム(IV)0.08 gを仕込み、室温で8時間反応させた。その後、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン 69.6 gを滴下し、滴下後、室温でさらに2時間反応させた。得られた反応物を室温〜200℃/133Paで低沸点成分を取り除き、このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(C−2)が89%の純度であることが分かった。
C−2:(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C10H21)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
【0037】
<有機ケイ素化合物の製造例3>
200 mlのナスフラスコに、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン 59.1 g、シクロヘキサノンジエチルアセタール 17.2 g、p−トルエンスルホン酸 0.03 gを仕込み、90℃で2時間反応させた。得られた反応物を室温〜200℃/133Paで低沸点成分を取り除き、このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(C−3)が92%の純度であることが分かった。
C−3:(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(C5H10)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
【0038】
<有機ケイ素化合物の製造例4>
200 mlのナスフラスコに、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン 35.7 g、アセタール 11.8 g、p−トルエンスルホン酸 0.02 gを仕込み、90℃で2時間反応させた。得られた反応物をそのまま蒸留を行い、220℃〜230℃/133Paで留分を得た。このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(C−4A)が98%の純度であることが分かった。さらに有機ケイ素化合物(C−4A)25.1 gにN−メチルジエタノールアミン 6.0 g、テトラブトキシチタン 0.01 gを加え、120℃で6時間反応させた。得られた反応物を室温〜200℃/133Paで低沸点成分を取り除き、このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(C−4A)、(C−4B)、(C−4C)がそれぞれ9/77/14の比で含まれる混合物であることが分かり、これら混合物(C−4A〜C)の純度は95%であった。
C−4A:(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si(EtO)3
C−4B:(EtO)[MeN(C2H4)2O]Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si(EtO)3
C−4C:(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si[O2(C2H4)2NMe](EtO)
【0039】
<有機ケイ素化合物の製造例5>
200 mlのナスフラスコに、2−オクタノン 12.8 g、オルトギ酸トリエチル 17.8 g、トルフルオロメタンスルホン酸ハフニウム(IV)0.08 gを仕込み、室温で1時間反応させた。その後、3−メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン 41.6 gを滴下し、滴下後、室温でさらに2時間反応させた。得られた反応物を室温〜200℃/133Paで低沸点成分を取り除き、このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(C−5)が87%の純度であることが分かった。
C−5:(EtO)2(CH3)Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C6H13)−S−(CH2)3−Si(CH3)(EtO)2
【0040】
<ゴム組成物の調製及び評価>
表1に従う配合処方のゴム組成物を、バンバリーミキサーにて混練して調製した。次に、得られたゴム組成物の加硫物性を下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0041】
(1)動的粘弾性
上島製作所製スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52 Hz、初期歪10%、測定温度60℃、動歪1%で、加硫ゴムのtanδを測定し、表1においては比較例1のtanδの値を100として指数表示した。指数値が小さい程、tanδが低く、ゴム組成物が低発熱性であることを示す。
【0042】
(2)耐摩耗性試験
JIS K 6264−2:2005に準拠し、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、スリップ率25%の条件で試験を行い、表1においては比較例1の摩耗量の逆数を100として指数表示した。指数値が大きい程、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0043】
【表1】

【0044】
*1 JSR製, 乳化重合SBR, #1500
*2 旭カーボン製, #80
*3 日本シリカ工業(株)製, ニップシールAQ、BET表面積=220 m2/g
*4 ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド
*5 大内新興化学工業製, ノクラック6C
*6 大内新興化学工業製, ノクラック224
*7 三新化学工業製, サンセラーD
*8 三新化学工業製, サンセラーDM
*9 三新化学工業製, サンセラーNS
【0045】
表1から、従来のシランカップリング剤(*4)に代えて、本発明の有機ケイ素化合物(C1〜5)を配合することで、ゴム組成物のtanδを大幅に低減、即ち、ヒステリシスロスを大幅に低減して、低発熱性にしつつ、耐摩耗性を大幅に改善できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

[式(I)中のX及びYはそれぞれ独立してO、S又はCH2を表し、R1及びR6はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜18の1価炭化水素基、−(Cl2l−O)m7又は−Cl2l−NR78(l及びmはそれぞれ独立して1〜10であり、R7及びR8はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜10の1価炭化水素である)であり、R2及びR5はそれぞれ独立して炭素数1〜10の2価炭化水素基であり、R3及びR4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜18の1価炭化水素である]で表わされる有機ケイ素化合物。
【請求項2】
天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と請求項1に記載の有機ケイ素化合物(C)とを配合してなるゴム組成物。
【請求項3】
天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)5〜140質量部を配合してなり、更に、請求項1に記載の有機ケイ素化合物(C)を、前記無機充填剤(B)の配合量の1〜20質量%含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項4】
前記無機充填剤(B)がシリカ又は水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記シリカのBET表面積が40〜350 m2/gであることを特徴とする請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載のゴム組成物を用いたタイヤ。

【公開番号】特開2010−241723(P2010−241723A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92089(P2009−92089)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】