説明

有機ケイ素化合物およびその製造方法

【課題】(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有シラン類の製造のために好適な前駆体となりうる(2−トリフルオロメチル−3−クロロプロピオノキシ)アルキル基含有ケイ素化合物を提供する。
【解決手段】一般式:



(式中、Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の置換または非置換の炭化水素基であり、Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の加水分解性基またはハロゲン基から選ばれる基であり、Rは置換又は非置換の炭素原子数1〜20のアルキレン基であり、nは0から3の整数である)で示される、有機ケイ素化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物およびその製造方法に関し、詳しくは、(2−トリフルオロメチル−3−クロロプロピオノキシ)アルキル基含有ケイ素化合物およびその製造方法、並びに、(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有ケイ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2位にトリフルオロメチル基やシアノ基等の電子求引基を有するアクリル酸シリルアルキルエステルはポリマーの単量体や接着剤原料として期待される化合物である(特許文献1、特許文献2参照)。しかし、それらの化合物や中間体はアニオン重合性が高く湿気等で容易に重合が進行するため、その製造および取り扱いが難しいという問題があった。
【0003】
例えば、2−トリフルオロメチルアクリル酸クロライドとケイ素原子結合ヒドロキシアルキル基含有シラン類とを反応させて(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有ケイ素化合物を製造する方法では、反応中にアクリル化合物の重合性二重結合部位が重合する懸念があったり、目的とするケイ素化合物がケイ素原子結合加水分解性基を有する場合には、ヒドロキシ基とケイ素原子結合加水分解性基が縮合反応を起こす懸念があったりする。
【特許文献1】特開平2−250888号公報
【特許文献2】特開2002−322214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有シラン類の製造のために好適な前駆体となりうる(2−トリフルオロメチル−3−クロロプロピオノキシ)アルキル基含有ケイ素化合物およびその製造方法、並びに、(2−トリフルオロメチル−3−クロロプロピオノキシ)アルキル基含有ケイ素化合物を用いた、製造過程で重合が起こり難いことを特徴とする(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有ケイ素化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、一般式:



(式中、Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の置換または非置換の炭化水素基であり、Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の加水分解性基またはハロゲン基から選ばれる基であり、Rは置換又は非置換の炭素原子数1〜20のアルキレン基であり、nは0から3の整数である)で示される有機ケイ素化合物、一般式:


(式中Rは、炭素原子数2〜20のアルケニル基である)で示される化合物と、一般式:

(式中Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の置換または非置換の炭化水素基であり、Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の加水分解性基またはハロゲン基から選ばれる基であり、nは0から3の整数である)で示される、ケイ素原子結合水素原子を有するケイ素化合物を、ヒドロシリル化反応用触媒の存在下で反応させることを特徴とする、一般式:


(式中R、R、nは上記と同じであり、Rは置換又は非置換の炭素原子数2〜20のアルキレン基である)で示される有機ケイ素化合物の製造方法、および、一般式:



(式中Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の置換または非置換の炭化水素基であり、Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の加水分解性基またはハロゲン基から選ばれる基であり、Rは置換又は非置換の炭素原子数1〜20のアルキレン基であり、nは0から3の整数である)で示される有機ケイ素化合物と塩基性化合物を反応させることを特徴とする、一般式:


(式中R、R、R、nは上記と同じ)で示される(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有ケイ素化合物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の有機ケイ素化合物は、対応する構造を有するアクリル化合物の重合性二重結合部位が塩化水素で保護された構造であるため、取り扱いが容易である。また、上記の重合性二重結合部位に付加した塩化水素は、塩基を用いることにより容易に脱離させることができ、重合性二重結合を復元することができる。このことから、(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有ケイ素化合物の前駆体として好適に用いることができる。
【0007】
本発明の有機ケイ素化合物の製造方法によれば、(2−トリフルオロメチル−3−クロロプロピオノキシ)アルキル基含有ケイ素化合物を容易に効率よく製造することができる。特に、上記有機ケイ素化合物がケイ素原子結合加水分解性基やケイ素原子結合ハロゲン原子を有する場合、縮合反応などの懸念がない。
【0008】
本発明の(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有ケイ素化合物の製造方法は、簡便な操作で効率よく(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有ケイ素化合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の有機ケイ素化合物は下記一般式



で表される。式中のRはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、ノルボルニル基などの環状アルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;ビニル基、アリル基、ヘキセニル基などのアルケニル基;クロロメチル基、クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などのハロゲノアルキル基が例示される。中でも、炭素原子数1〜20の非置換のアルキル基またはアリール基であることが好ましく、特には、メチル基またはフェニル基であることが好ましい。Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の加水分解性基、または、ハロゲン原子であり、炭素原子数1〜20の加水分解性基としては、アルコキシ基またはアルキルオキシアルコキシ基から選ばれる基であることが好ましい。炭素原子数1〜20のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ヘキシロキシ基、2−エチルヘキシロキシ基、オクチロキシ基、デシロキシ基、ウンデシロキシ基、オクタデシロキシ基が例示され、メトキシ基、エトキシ基であることが好ましい。炭素原子数2〜20のアルキルオキシアルコキシ基としては、メチルオキシメトキシ基、メチルオキシエトキシ基、エチルオキシメトキシ基、エチルオキシエトキシ基、メチルオキシプロポキシ基、エチルオキシプロポキシ基、プロピルオキシポロポキシ基が例示され、メチルオキシメトキシ基、メチルオキシエトキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が例示され、塩素原子が好ましい。Rは炭素原子数1〜20のアルキレン基であり、好ましくは炭素原子数2〜10のアルキレン基であり、より好ましくは炭素原子数3〜5のアルキレン基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、イソブチレン基が例示され、n−プロピレン基、または、イソプロピレン基が好ましい。nは0から3の整数であり、0から2の整数であることが好ましく、0または1であることが特に好ましい。
【0010】
本発明の有機ケイ素化合物は、2−トリフルオロメチル−3−クロロプロピオン酸クロライドとケイ素原子結合ヒドロキシアルキル基を有するシランとを反応させて製造することができるが、一般式:



で示される化合物と、一般式:


で示されるケイ素原子結合水素原子を有するケイ素化合物を、ヒドロシリル化反応用触媒の存在下で反応させる方法で製造することが好ましい。最終生成物がケイ素原子結合加水分解性基やケイ素原子結合ハロゲン原子を有する場合、後者の方法で製造すると縮合反応などを懸念することなく高純度の有機ケイ素化合物を効率よく得ることができるからである。式中のR、Rおよびnは上記と同じである。式中のRは、炭素原子数2〜20のアルケニル基であり、具体的には、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ヘキセニル基が例示され、アリル基であることが好ましい。
【0011】
ケイ素原子結合水素原子を有するケイ素化合物は、一般式:


で示される化合物1モルに対して、0.5から2.0モルの範囲の比率で反応させることが好ましく、0.9〜1.2モルの範囲の比率で反応させることがより好ましい。好ましい反応速度を達成するために20〜200℃までの温度範囲で適宜加熱することが効果的である。また、上記反応においては、特に溶媒を用いる必要はないが、反応混合物を均一に保ち、反応に適した粘度にするために、溶媒を使用することもできる。このような溶媒としては、本発明の反応を妨害したり、溶媒自体が反応したりするものは避けるべきであり、例えば飽和脂肪族炭化水素系溶媒または芳香族炭化水素系溶媒、アルキルエーテル系溶媒が好ましい。また、副反応を避け反応効率を上げるため、窒素ガスのような不活性ガス下で反応を行うことが好ましい。得られた本発明の有機ケイ素化合物は、一般に蒸留により、容易に反応系から分離・精製することができる。
【0012】
上記の一般式:

で示される化合物は、例えば、2−トリフルオロメチルアクリル酸クロライドと炭素原子数2〜20のアリルアルコールや2-メチル−1−プロペノールなどのアルケニル基含有アルコールを反応させることで容易に調製することができる。2−トリフルオロメチルアクリル酸クロライドとアルケニル基含有アルコールを反応させる場合、好ましい反応速度を達成するために−20〜100℃までの温度範囲で適宜加熱することが効果的であり、2−トリフルオロメチルアクリル酸クロライド1モルに対して、アルケニル基含有アルコールを0.5〜2.0モルの範囲の比率で反応させることが好ましく、0.9〜1.2モルの範囲の比率で反応させることがより好ましい。なお、2−トリフルオロメチルアクリル酸クロライドは市販品を使用することができるし、2−トリフルオロメチルアクリル酸と塩化チオニルとを反応させることによっても調製することができる。
【0013】
上記の一般式:


で示されるケイ素原子結合水素原子を有するケイ素化合物としては、具体的には、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、トリメチルシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、フェニルジメトキシシラン、クロロメチルジメトキシシランが例示される。
【0014】
ヒドロシリル化反応用触媒は従来公知のものを使用することができ、例えば、塩化白金酸,塩化白金酸のアルコール溶液,塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との錯化合物、白金黒、白金を固体表面に担持させたもの等の白金系触媒;テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等のパラジウム系触媒;クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等のロジウム系触媒;式:Ir(OOCCH3)3、Ir(C572)3等で表されるイリジウム系触媒が例示される。中でも白金系触媒であることが好ましい。これらは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
ヒドロシリル化反応用触媒は、ヒドロシリル化反応を促進する量であれば特に制限されないが、好ましくは0.000001〜1モル%の濃度で使用することが好ましく、0.0004〜0.01モル%の濃度で使用することがより好ましい。これは、上記範囲下限未満であるとヒドロシリル化反応が遅く非効率であり、一方上記範囲上限を超えると、不経済になるからである。
【0016】
本発明の有機ケイ素化合物は、塩基性化合物と混合することで脱塩化水素し、下記一般式:



(式中R、R、R、nは上記と同じ)で示される(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有ケイ素化合物とすることができる。脱塩化水素を効率的に行うためには、−20〜100℃間での温度範囲で適宜加熱することが効果的である。脱塩化水素化においては、特に溶媒を用いる必要はないが、反応混合物を均一に保ち、反応に適した粘度にするために、溶媒を使用することもできる。このような溶媒としては、本発明の反応を妨害したり、溶媒自体が反応したりするものは避けるべきであり、例えば飽和脂肪族炭化水素系溶媒または芳香族炭化水素系溶媒、アルキルエーテル系溶媒が好ましい。また、副反応を避け反応効率を上げるため、窒素ガスのような不活性ガス下で反応を行うことが好ましい。
【0017】
塩基性化合物としては、具体的には、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、2−ピコリン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4−ジメチルアミノピリジン等の三級アミン化合物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基が例示されるが、三級アミン化合物であることが好ましく、トリエチルアミンであることがより好ましい。室温で液状の塩基性化合物であり、取り扱い性に優れるからである。
【実施例】
【0018】
以下実施例及び比較例にて、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0019】
[実施例1]
窒素気流下2−トリフルオロメチルアクリル酸クロライド30.6g(0.19mol)に室温でアリルアルコール12.1g(0.21mol)を滴下し、滴下後50℃で8時間攪拌した。ガスクロマトグラフィーで1-クロロ−2−トリフルオロメチルプロピオン酸 アリルの生成を確認し、減圧下で未反応物を留去した。塩化白金酸の10%イソプロパノール溶液0.04gを加え、70℃でトリエトキシシラン32.8g(0.2mol)を滴下した。滴下終了後100℃で2時間攪拌した。反応混合物の蒸留を行い、3−(2’−トリフルオロメチル−3’−クロロプロピオノキシ)プロピルトリエトキシシランを25.7g得た。図1にそのH−NMRスペクトルを示す。収率は36%であり、得られた化合物の沸点は、118℃/2mmHgであった。
【0020】
[実施例2]
実施例1で得られた3−(2’−トリフルオロメチル−3’−クロロプロピオノキシ)プロピルトリエトキシシラン1g(2.6mmol)をトルエン5gに溶解し、トリエチルアミン0.27g(2.6mmol)を加え攪拌したところ、塩が沈降し、ガスクロマトグラフィーによる収率95%で3−(2’−トリフルオロメチルアクリロキシ)プロピルトリエトキシシランが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1で得られた化合物のH−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:



(式中、Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の置換または非置換の炭化水素基であり、Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の加水分解性基またはハロゲン基から選ばれる基であり、Rは置換又は非置換の炭素原子数1〜20のアルキレン基であり、nは0から3の整数である)で示される有機ケイ素化合物。
【請求項2】
一般式:



(式中Rは、炭素原子数2〜20のアルケニル基である)で示される化合物と、一般式:

(式中Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の置換または非置換の炭化水素基であり、Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の加水分解性基またはハロゲン基から選ばれる基であり、nは0から3の整数である)で示される、ケイ素原子結合水素原子を有するケイ素化合物を、ヒドロシリル化反応用触媒の存在下で反応させることを特徴とする、一般式:



(式中R、R、nは上記と同じであり、Rは置換又は非置換の炭素原子数2〜20のアルキレン基であり、nは0から3の整数である)で示される有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式:



(式中Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の置換または非置換の炭化水素基であり、Rはそれぞれ独立に同じか異なる炭素原子数1〜20の加水分解性基またはハロゲン基から選ばれる基であり、Rは置換又は非置換の炭素原子数1〜20のアルキレン基であり、nは0から3の整数である)で示される有機ケイ素化合物と塩基性化合物を反応させることを特徴とする、一般式:



(式中R、R、R、nは上記と同じ)で示される(2−トリフルオロメチルアクリロキシ)アルキル基含有ケイ素化合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−173637(P2009−173637A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322679(P2008−322679)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】