説明

有機ケイ素化合物のためのイリジウム触媒による製造法

本発明の対象は、一般式(II)の化合物を一般式(III)のアルケンと、触媒としての一般式(IV):[(en)IrCl]2のイリジウム化合物の存在下およびポリマー助触媒の存在下で反応させることにより、一般式(I)のシランを製造する方法であり、この場合ポリマー助触媒、"en"およびR1、R2、R3、R4、R5、R6は、請求項1に定義されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si−H−結合を有するシランを不飽和脂肪族化合物に特殊なIr触媒/助触媒系の存在下で付着させることによって置換アルキルシランを製造する方法に関する。
【0002】
置換アルキルシランは、数多くの範囲にとって著しく経済的に重要である。この置換アルキルシランは、例えば付着助剤または架橋剤として使用される。
【0003】
不飽和化合物の白金触媒によるかまたはロジウム触媒によるヒドロシリル化は、既にしばしば試験された。白金含有ヒドロシリル化触媒の使用は、例えば米国特許第2823218号明細書Aおよび米国特許第3159601号明細書中に記載されている。米国特許第3296291号明細書Aおよび米国特許第3564266号明細書Aには、ロジウム触媒の使用が述べられている。生成物の収率は、しばしば20〜45%と極めて低く、このことは、重大な副反応に帰因する。
【0004】
イリジウム触媒は、米国特許第4658050号明細書A、特開昭61−00572号公報および欧州特許出願公開第0709392号明細書の記載によれば、アルコキシ置換シランでのアリル化合物のヒドロシリル化に使用される。特開平07−126271号公報Aは、クロロジメチルシランでのアリルハロゲン化物のヒドロシリル化に取り組んでいる。この方法の欠点は、大量の収率、不経済な高い触媒濃度および/または触媒の極めて短い寿命である。ドイツ連邦共和国特許第10053037号明細書ならびに欧州特許出願公開第1156052号明細書Aには、低分子量の有利に環式ジエンを助触媒として添加する方法が記載されており、必要とされる触媒の量が減少される。しかし、この助触媒は、当該助触媒が相応するシランと反応し、この反応生成物が望ましい目的生成物と蒸留により分離することが困難であるという欠点を有する。
【0005】
更に、前記系の欠点は、反応の終結後に反応塔底部が貴金属残留物で汚染され、抽出または沈殿による残留物のさらなる分離/濃縮が商業的に実施不可能であり、したがって反応塔底部は完全に開放されなければならないことである。
【0006】
ところで、極めて僅かな触媒量の際に高い生成物収率および生成物純度を保証し、その上、連続的な反応実施ならびに非連続的な反応実施を可能にする、長い寿命を有する触媒系を開発するという課題が課された。その上、反応塔底部は、さらなる後処理なしに再び使用可能であるべきである。
【0007】
本発明の対象は、一般式I
【化1】

で示されるシランを、
一般式II
【化2】

で示される化合物と
一般式III
56C=CHR4 (III)
で示されるアルケンとを一般式IV
[(en)IrCl]2 (IV)
〔式中、"en"は、一般式V
【化3】

で示される少なくとも1個の二重結合を有する開鎖状、環式または二環式の化合物を表わす〕で示される触媒としてのイリジウム化合物の存在下および
一般式VI〜VIII
シス二重結合
【化4】

トランス二重結合
【化5】

側鎖二重結合
【化6】

で示される構造単位を含有するポリマー助触媒の存在下で反応させることにより、製造する方法であり、
上記式中、
1、R2、R3は、それぞれ1〜18個のC原子を有する、場合によってはF、ClまたはBrで置換された炭化水素基またはアルコキシ基、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、またはClを表わし、
4、R5、R6は、水素、またはそれぞれ1〜18個のC原子を有する、場合によってはF、Cl、OR、NR’2、CNまたはNCOで置換された炭化水素基を表わし、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、この場合R4、R5、R6から選択された2または3個の基は、一緒になって環式化合物であることができ、
7は、水素、またはそれぞれ1〜18個のC原子を有する、場合によってはF、Cl、OR、NR’2、CNまたはNCOで置換された炭化水素基を表わし、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、この場合R7の2個の基は、一緒になって環式化合物であることができ、
8は、水素、またはそれぞれ1〜1000個のC原子を有する、場合によってはF、Cl、OR、NR’2、CNまたはNCOで置換された炭化水素基を表わし、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、
9a、R9b、R9c、R9dは、水素、またはそれぞれ1〜18個のC原子を有する、場合によってはF、Cl、OR、NR’2、CNまたはNCOで置換された炭化水素基を表わし、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、この場合R9a、R9b、R9c、R9dから選択された2または3個の基は、一緒になって環式化合物であることができ、
R’は、水素、またはそれぞれ1〜18個のC原子を有する、場合によってはF、ClまたはBrで置換された炭化水素基を表わし、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、
l、mは、3〜5000の整数を表わし、および
nは、5〜5000の整数を表わす。
【0008】
一般式IVで示されるイリジウム化合物および一般式VI〜VIIIの構造単位を有するポリマー助触媒からなる触媒系は、長い寿命を有し、極めて僅かな触媒量の際に高い生成物収率および生成物純度を保証し、および連続的な反応実施ならびに非連続的な反応実施を可能にする。反応塔底部からの貴金属残留物の除去は、簡単に可能である。
【0009】
一般式Iのシランは、通常、少なくとも95%の収率で生じる。こうして本発明による方法により製造された、一般式Iの粗製生成物は、98%までの純度で生じ、したがって使用分野それ自体に応じて蒸留による後処理を省略することができる。一般式Iの生成物の蒸留による分離後、蒸留塔底部は、さらなる後処理なしに再び反応に使用されることができる。
【0010】
特に、炭化水素基R1、R2、R3は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基またはClを表わす。特に、炭化水素基R1、R2、R3は、置換基を有しない。特に、炭化水素基R1、R2、R3は、1〜6個の炭素原子を有する。特に好ましい基は、メチル、エチル、プロピルおよびフェニルである。好ましいアルコキシ基は、1〜6個の炭素原子を有する。特に好ましい基は、メチル、エチル、プロピルおよびClである。
【0011】
特に、炭化水素基R4、R5、R6は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表わす。特に、炭化水素基R4、R5、R6に対する置換基は、塩素または臭素である。特に、炭化水素基R4、R5、R6は、1〜6個の炭素原子を有する。特に好ましい基は、メチル、クロロエチル、プロピルおよびフェニルである。特に、R4、R5、R6から形成された環式化合物は、5〜15個の炭素原子を有する。
【0012】
特に、炭化水素基R7は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表わす。特に、炭化水素基R7は、置換基を有しない。特に、炭化水素基R7は、1〜10個の炭素原子を有する。特に好ましい基は、メチル、エチル、プロピルおよびフェニルである。特に、R7の2個の基から形成された環式化合物は、5〜15個の炭素原子を有する。
【0013】
特に、炭化水素基R8は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表わす。特に、炭化水素基R8は、置換基を有しない。特に、炭化水素基R8は、少なくとも2個、殊に少なくとも5個の炭素原子、特に最大200個、殊に最大100個の炭素原子を有する。
【0014】
特に、炭化水素基R9a、R9b、R9c、R9dは、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表わす。特に、炭化水素基R9a、R9b、R9c、R9dは、置換基を有しない。特に、炭化水素基R9a、R9b、R9c、R9dは、1〜10個の炭素原子を有する。特に好ましい基は、メチル、エチル、プロピルおよびフェニルである。特に、R9a、R9b、R9c、R9dから形成された環式化合物は、5〜15個の炭素原子を有する。
【0015】
特に、炭化水素基R’は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表わす。特に、炭化水素基R’は、置換基を有しない。特に、炭化水素基R’は、1〜6個の炭素原子を有する。特に好ましい基は、メチル、エチル、プロピルおよびフェニルである。
【0016】
特に、l、mは、少なくとも6、殊に少なくとも20、最大2000、殊に最大200の整数値を表わす。
【0017】
特に、nは、少なくとも10、殊に少なくとも50、最大1000、殊に最大200の整数値を表わす。
【0018】
特に、一般式IIの化合物は、II0.01〜100モル%、特に有利に0.1〜10モル%の過剰量で一般式IIIのアルケンと反応される。一般式IVのイリジウム化合物は、特に5〜250ppm、殊に10〜50ppmの濃度で使用される。ポリマー助触媒は、特に50〜50000ppm、殊に50〜20000ppmの濃度で使用される。
【0019】
特に、一般式IV中の"en"化合物は、2個の二重結合を含有し、この二重結合は、特に有利に共役していない。特に有利には、環式"en"化合物が使用される。殊に好ましい場合には、触媒として[(シクロオクタ−1c,5c−ジエン)IrCl]が使用される。
【0020】
ポリマー助触媒は、共役していてもよいし、共役していなくともよい。ポリマー助触媒として特に好ましいのは、200〜200000g/molの分子量、特に有利に500〜20000g/molの分子量、殊に有利に1000〜10000g/molの分子量を有するポリブタジエンである。特に好ましいのは、同様に一般式VI(シス二重結合)の構造単位の含量が少なくとも10質量%、特に有利に少なくとも20質量%であるポリマー助触媒である。このような化合物の例は、Synthomer社の製品Lithene(登録商標)、例えばLithene(登録商標)N4-5000である。
【0021】
例えば、一般式IIの反応成分は、一般式IVのイリジウム触媒および場合によってはポリマー助触媒と一緒に装入され、一般式IIIの反応成分は、場合によってはポリマー助触媒との混合物で撹拌下に供給される。この反応は、場合によっては溶液中で一般式Iの目的生成物中で行なうことができる。1つの別の変法において、一般式Iの目的生成物は、触媒および場合によってはポリマー助触媒と一緒に装入され、成分II、IIIおよび場合によってはポリマー助触媒からなる混合物が供給される。
【0022】
使用すべき反応時間は、特に0.1〜2000分間である。反応は、特に0〜300℃、殊に20℃〜200℃の温度で実施される。場合によっては、高められた圧力、特に100バールまでの使用が役に立つ。
【0023】
前記式の全ての前記の符号は、それらの意味を、それぞれ互いに無関係に有する。
【0024】
以下の実施例では、そのつど、別記されていなければ、全ての量および%の記載は質量に対するものであり、全ての圧力は0.10MPa(絶対圧)であり、かつ全ての温度は20℃である。
【実施例】
【0025】
例1(本発明によらない)
強力冷却器、内部温度計および滴下漏斗を備えた100mlの三口フラスコ中に、塩化アリル19.2g(0.25mol)、1,5−シクロオクタジエン0.1g(9.2〜10-4mol)およびジ−μ−クロロ−ビス−[(シクロオクタ−1c,5c−ジエン)−イリジウム(I)]3.0mg(4.5〜10-6mol、18ppm)を装入した。37℃の浴温でクロロジメチルシラン23.7g(0.25mol)および1,5−シクロオクタジエン0.1g(9.2〜10-4mol)を1.5時間に亘って、内部温度が45℃を上廻らないように供給した。後反応のために、このバッチ量をさらに1時間45℃の浴温で維持した。蒸留による後処理後、シランに対して95%の収率に相応してクロロ−(3−クロロプロピル)−ジメチルシラン40.8gが得られた。蒸留塔底部は、もはや触媒活性ではなく、さらなる反応に使用することができず、イリジウムの回収のために直接に後処理されなければならなかった。
【0026】
例2
強力冷却器、内部温度計および滴下漏斗を備えた100mlの三口フラスコ中に、塩化アリル13.8g(0.18mol)、Lithene(登録商標)N4-5000(Chemetall社)0.28g(全体量に対して1質量%)およびジ−μ−クロロ−ビス−[(シクロオクタ−1c,5c−ジエン)−イリジウム(I)]2.0mg(3.0〜10-6mol、全体量に対してIr40ppm w/w)を装入した。40℃の浴温でクロロジメチルシラン14.2g(0.15mol)を40分間に亘って、内部温度が45℃を上廻らないように供給した。後反応のために、このバッチ量をさらに1時間45℃の浴温で維持した。蒸留による後処理後、シランに対して95.5%の収率に相応してクロロ−(3−クロロプロピル)−ジメチルシラン24.4gが得られた。蒸留塔底部は、さらなる後処理なしに再び試験に使用されることができ、再度Lithene(登録商標)N4-5000またはイリジウム触媒を添加する必要はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I
【化1】

で示されるシランを、
一般式II
【化2】

で示される化合物と
一般式III
56C=CHR4 (III)
で示されるアルケンとを一般式IV
[(en)IrCl]2 (IV)
〔式中、"en"は、一般式V
【化3】

で示される少なくとも1個の二重結合を有する開鎖状、環式または二環式の化合物を表わす〕で示される触媒としてのイリジウム化合物の存在下および一般式VI〜VIII
シス二重結合
【化4】

トランス二重結合
【化5】

側鎖二重結合
【化6】

で示される構造単位を含有するポリマー助触媒の存在下で反応させることにより、製造し、
上記式中、
1、R2、R3は、それぞれ1〜18個のC原子を有する、場合によってはF、ClまたはBrで置換された炭化水素基またはアルコキシ基、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、またはClを表わし、
4、R5、R6は、水素、またはそれぞれ1〜18個のC原子を有する、場合によってはF、Cl、OR、NR’2、CNまたはNCOで置換された炭化水素基を表わし、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、この場合R4、R5、R6から選択された2または3個の基は、一緒になって環式化合物であることができ、
7は、水素、またはそれぞれ1〜18個のC原子を有する、場合によってはF、Cl、OR、NR’2、CNまたはNCOで置換された炭化水素基を表わし、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、この場合R7の2個の基は、一緒になって環式化合物であることができ、
8は、水素、またはそれぞれ1〜1000個のC原子を有する、場合によってはF、Cl、OR、NR’2、CNまたはNCOで置換された炭化水素基を表わし、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、
9a、R9b、R9c、R9dは、水素、またはそれぞれ1〜18個のC原子を有する、場合によってはF、Cl、OR、NR’2、CNまたはNCOで置換された炭化水素基を表わし、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、この場合R9a、R9b、R9c、R9dから選択された2または3個の基は、一緒になって環式化合物であることができ、
R’は、水素、またはそれぞれ1〜18個のC原子を有する、場合によってはF、ClまたはBrで置換された炭化水素基を表わし、この場合炭素鎖は、隣接していない−O−基によって中断されていてよく、
l、mは、3〜5000の整数を表わし、および
nは、5〜5000の整数を表わす、上記一般式Iのシランの製造法。
【請求項2】
炭化水素基R7は、メチル、エチル、プロピルおよびフェニルから選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
炭化水素基R8は、少なくとも5個の炭素原子を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
炭化水素基R9a、R9b、R9c、R9dは、1〜10個の炭素原子を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
lおよびmは、6〜2000の整数値を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
nは、10〜1000の整数値を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
一般式IV中の"en"化合物は、2個の二重結合を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−520249(P2010−520249A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552164(P2009−552164)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052237
【国際公開番号】WO2008/107332
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】