説明

有機ゲルマニウム化合物およびその製造方法

【課題】屈折率およびアッベ数の高い光学材料の原料として有用な有機ゲルマニウム化合物、およびそれを効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物、およびエチレンジチオレートナトリウムとテトラハロゲノゲルマニウムとを反応させることにより、この有機ゲルマニウム化合物を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機ゲルマニウム化合物およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、屈折率およびアッベ数の高い光学材料の原料として有用な新規な有機ゲルマニウム化合物、およびそれを効率良く製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、ガラスに比較して軽量で割れにくく染色が容易であるため、近年、レンズ等の各種光学用途に使用されている。光学用プラスチック材料としては、ポリ(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート)(CR−39)やポリ(メチルメタクリレート)が、一般的に用いられている。しかしながら、これらのプラスチックは1.50以下の屈折率を有するため、それらを例えばレンズ材料に用いた場合、度数が強くなるほどレンズが厚くなり、軽量を長所とするプラスチックの優位性が損なわれてしまう。特に強度の凹レンズは、レンズ周辺が肉厚となり、複屈折や色収差が生じることから好ましくない。さらに眼鏡用途において肉厚のレンズは、審美性を悪くする傾向にある。肉薄のレンズを得るためには、材料の屈折率を高めることが効果的である。一般的にガラスやプラスチックは、屈折率の増加に伴いアッベ数が減少し、その結果、それらの色収差は増加する。従って、高い屈折率とアッベ数を兼ね備えたプラスチック材料が望まれている。
【0003】
このような性能を有するプラスチック材料としては、例えば(1) 分子内に臭素を有するポリオールとポリイソシアネートとの重付加により得られるポリウレタン(特許文献1)、(2) ポリチオールとポリイソシアネートとの重付加により得られるポリチオウレタン(特許文献2、特許文献3)が提案されている。そして、特に(2)のポリチオウレタンの原料となるポリチオールとして、イオウ原子の含有率を高めた分岐鎖(特許文献4、特許文献3)や、イオウ原子の含有率を高めるためジチアン構造を導入したポリチオール(特許文献5、特許文献6)が提案されている。さらに、(3) エピスルフィドを重合官能基としたアルキルスルフィドの重合体が提案されている(特許文献7、特許文献8)。
しかしながら、上記(1)のポリウレタンは、屈折率がわずかに改良されているものの、アッベ数が低く、かつ耐光性に劣る上、比重が高く、軽量性が損なわれるなどの欠点を有している。また(2)のポリチオウレタンのうち、原料のポリチオールとして高イオウ含有率のポリチオールを用いて得られたポリチオウレタンは、例えば屈折率が1.60〜1.68程度に高められているが、同等の屈折率を有する光学用無機ガラスに比べてアッベ数が低く、さらにアッベ数を高めなければならないという課題を有している。さらに、(3)のアルキルスルフィド重合体は、一例としてアッベ数が36において、屈折率が1.70に高められており、この重合体を用いて得られたレンズは、著しく肉薄、軽量化されているが、屈折率とアッベ数を同時に、さらに高めたプラスチック材料が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開昭58−164615号公報
【特許文献2】特公平4−58489号公報
【特許文献3】特開平5−148340号公報
【特許文献4】特開平2−270859号公報
【特許文献5】特公平6−5323号公報
【特許文献6】特開平7−118390号公報
【特許文献7】特開平9−72580号公報
【特許文献8】特開平9−110979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、屈折率が高く、さらにこの屈折率を考慮した場合においてアッベ数が高い光学製品を提供できる化合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ゲルマニウム原子に4つのスルフィドが結合し、かつ、2つのビニル基を有しており、これらがゲルマニウム原子を中心に2つの環状構造を形成している有機ゲルマニウム化合物が新規な化合物であり、前記の目的に適合しうること、そして、このものは特定の方法により、効率よく得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
で表される有機ゲルマニウム化合物、およびエチレンジチオレートナトリウムとテトラハロゲノゲルマニウムとを反応させることを特徴とする上記式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
前記式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物は、屈折率およびアッベ数の高い光学材料の原料として有用であり、特にレンズ用として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の有機ゲルマニウム化合物は、式(1)
【0011】
【化2】

【0012】
で表される新規化合物であり、上記式(1)から明らかなとおり、ゲルマニウム原子に4つのスルフィドが結合し、これらと2つのビニル基とでゲルマニウム原子を中心に2つの環状構造を形成していることを特徴とするものである。
一般に物質の屈折率は、構成元素の屈折率(原子屈折)の増加および分子容の減少と共に増加する。骨格が炭素原子(原子屈折=2.42)で構成されているビニルスルフィド化合物に比べると、ゲルマニウム原子(原子屈折=4.1)を導入した本発明の有機ゲルマニウム化合物の屈折率は著しく高まり、従って、この化合物を原料として得られた重合体の屈折率も増加する。
本発明の有機ゲルマニウム化合物は2官能性であり、その官能基間は硫黄元素のみで構成されているため、それを用いて得られた重合体の屈折率は、架橋密度の増加で引き起こされる分子容の減少に伴って、増加する。高架橋密度を維持しアッベ数を低下させることなく屈折率を高めるためには、ビニルチオ基がゲルマニウム原子に直接結合することが望ましい。従って、本発明の有機ゲルマニウム化合物を用いて得られる重合体の光学特性を高めることができる。
【0013】
前記式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物の製造方法は、その化合物が得られる方法であればよく、特に限定されないが、本発明の製造方法により製造されることが好ましい。
【0014】
【化3】

【0015】
本発明の製造方法は、上記反応式で示されるように、エチレンジチオレートナトリウムを出発原料とし、これとテトラハロゲノゲルマニウムとを反応させて前記式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物を製造する方法である。上記反応式において、Xはハロゲン原子を示し、具体的には、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。テトラハロゲノゲルマニウムとしては、四塩化ゲルマニウムが好ましい。
【0016】
この式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物は、1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ[4.4]ノナ−2,7−ジエンであり、以下に示す本発明方法により、効率よく製造することができる。すなわち、有機溶媒にエチレンジチオレートナトリウムを加えた分散物に、有機溶媒にテトラハロゲノゲルマニウムを溶解した混合物を0〜60℃程度、好ましくは10〜40℃の範囲で滴下し、滴下終了後、1〜6時間程度攪拌することにより反応させ、反応後、有機層を水洗した後、乾燥させ、濃縮することにより目的物の有機ゲルマニウム化合物を得ることができる。
【0017】
前記一般式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物の製造法の一例を以下に示す。
脱水エタノールにエチレンジチオレートナトリウムを加えた後、脱水エタノール8mlに溶解した四塩化ゲルマニウムを14〜17℃の範囲で滴下する。滴下終了後2時間更に撹拌する。反応終了後、エタノールを濃縮し、ジクロロメタンと純水を加え、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮することにより目的物の1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ[4.4]ノナ−2,7−ジエンの結晶を得ることができる。
本発明で用いる有機溶媒としてはメタノール、エタノール、トルエン、n-ヘキサン、クロロホルム等の脱水有機溶媒が挙げられ、脱水メタノールおよび脱水エタノール等が好ましい。使用する有機溶媒量は、エチレンジチオレートナトリウムまたはハロゲノゲルマニウム1モルに対し、0.1〜1000リットル程度であり、1〜100リットルが好ましい。エチレンジチオレートナトリウムとテトラハロゲノゲルマニウムの使用割合は、テトラハロゲノゲルマニウム中のハロゲン基1モルに対して、エチレンジチオレートナトリウムを、通常0.2〜5モル程度、好ましくは0.8〜1.2モル用いるのがよい。
【0018】
なお、原料のひとつとして用いられる前記のエチレンジチオレートナトリウムは、公知の方法、例えば「イノーガニック・ケミストリー(Inorg. Chem.)」第7巻、第340ページ(1968年)に記載の方法に従って調製することができる。
【0019】
本発明の有機ゲルマニウム化合物は、光学材料の原料として好適に用いられ、この光学材料は、光学製品、特にレンズの製造に好適に用いられる。以下に、本発明の有機ゲルマニウム化合物を用いて得られる光学製品について説明する。この光学製品には、式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物(a1)を含むA成分と、メルカプト基および/またはヒドロキシル基を有する化合物を含むB成分とを含有する重合性組成物を重合させることにより得られる重合体を使用することができる。
【0020】
前記A成分中には、重合体の物性等を適宜改良するために、式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物(a1)以外に、一分子内にビニル基を有し、かつ一分子内のビニル基の総数が1以上の化合物(a2)を一種または二種以上含んでいてもよい。
なお式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物(a1)の使用量は、状況に応じて適宜選定すればよいが、通常はA成分の総量に対して、50〜100mol%であり、好ましくは80〜100mol%である。
【0021】
(a2)成分として用いられるビニル基を有する化合物として、具体的には、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、一分子内に少なくとも二つ以上の(メタ)アクリロキシ基を含むウレタン変性(メタ)アクリレート、エポキシ変性(メタ)アクリレートおよびポリエステル変性(メタ)アクリレート等が挙げられこれらは単独もしくは二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上記(メタ)アクリレートはアクリレートとメタクリレートの両者を意味し、(メタ)アクリロキシ基は、アクリロキシ基とメタクリロキシ基の両者を意味する。
【0022】
本発明の有機ゲルマニウム化合物は、重合相手のB成分として、好ましくは一分子内にメルカプト基および/またはヒドロキシル基を有し、かつ一分子内のメルカプト基とヒドロキシル基の総数が2以上の化合物を選択し、これと重合させることで、高屈折率、高アッベ数、透明且つ耐熱性が良好なレンズ材料を与える。
B成分の化合物として具体的には、トリメチロールプロパン、ジメルカプトメタン、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、テトラキスメルカプトメチルメタン、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトアセテート、2−メルカプトエタノール、2,3−ジメルカプトプロパノール、1,2−ジヒドロキシ−3−メルカプトプロパン、1,2,3−トリメルカプトプロパン、4−メルカプトフェノール、1,2−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,3,5−ベンゼントリチオール、1,2−ジメルカプトメチルベンゼン、1,3−ジメルカプトメチルベンゼン、1,4−ジメルカプトメチルベンゼン、1,3,5−トリメルカプトメチルベンゼン、トルエン−3,4−ジチオール、4,4'−ジヒドロキシフェニルスルフィドおよびビス(メルカプトメチル)−1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ−スピロ[4.4]ノナン等が挙げられる。これらは単独でも二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
さらに、これらの成分にC成分として、エピスルフィド化合物を添加して光学製品を作製することも可能である。そのエピスルフィド化合物としては、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−3−(β−エピチオプロピルチオメチル)ブタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ペンタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)ペンタン、1,6−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ヘキサン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−5−(β−エピチオプロピルチオメチル)ヘキサン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ〕エタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−[〔2−(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオエチル〕チオ]エタン等の鎖状有機化合物等;テトラキス(β−エピチオプロピルチオメチル)メタン、1,1,1−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2,2−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−4−チアヘキサン、1,5,6−トリス(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアヘキサン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4,5−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,9−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5−(β−エピチオプロピルチオメチル)−5−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオメチル〕−3,7−ジチアノナン、1,10−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,6−ビス〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ〕−3,6,9−トリチアデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,8−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,7−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,7−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオメチル〕−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,7−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン等の分岐状有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物等;1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕メタン、2,2−ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕プロパン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕スルフィド、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオエチルチオメチル)−1,4−ジチアン、4,5−ビス(エピチオプロピルチオ)−1,3−ジチオラン、2,3−ビス(エピチオプロピルチオ)−1,4−ジチアン、3,4−ビス(エピチオプロピルチオ)−ビシクロ[4,3,0]−2,5,7,9−テトラチアノナン、2,3−ビス(エピチオプロピルチオ)−1,4−ベンゾジチアン等の環状脂肪族や複素環式有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物;1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕プロパン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕スルフォン、4,4'−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ビフェニル等の芳香族有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物等が挙げられる。これらは単独でも二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
さらに、本発明の有機ゲルマニウム化合物を用いて得られる光学製品の耐候性改良のため、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、蛍光染料などの添加剤を適宜加えてもよい。また、重合反応性向上のための触媒を適宜使用してもよく、例えばメルカプト基とビニル基との反応性向上のためには有機過酸化物、アゾ化合物、アミン化合物等の塩基性触媒が効果的である。
【0025】
本発明の有機ゲルマニウム化合物を用いて得られる光学製品は、例えば以下に示す方法に従って製造することができる。
まず、上記重合性組成物および必要に応じて用いられる各種添加剤を含む均一な組成物を調製する。次いで、この組成物を公知の注型重合法を用いて、ガラス製または金属製のモールドと樹脂性のガスケットを組み合わせた型の中に注入し、加熱して硬化させる。この際、成形後の樹脂の取り出しを容易にするためにあらかじめモールドを離型処理したり、この組成物に離型剤を混合してもよい。重合温度は、使用する化合物により異なるが、一般には−20〜+150℃で、重合時間は0.5〜72時間程度である。重合後離型された重合体は通常の分散染料を用い、水または有機溶媒中で容易に染色できる。この際さらに染色を容易にするために、染料分散液にキャリアーを加えてもよく、また加熱しても良い。このようにして得られた光学製品は、これに限定されるものではないが、プラスチックレンズ等の光学製品として特に好ましく用いられる。ここで、光学製品として、プラスチックレンズ、光ファイバ−、情報記録用基板、赤外線吸収フィルタ−、着色フィルタ−などが挙げられる。
【0026】
このようなプラスチックレンズは、染料を用いて染色処理を行うことができ、また、耐擦傷性向上のため、有機ケイ素化合物またはアクリル化合物に酸化スズ、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の微粒子状無機物等を有するコーティング液を用いて硬化被膜をプラスチックレンズ上に形成してもよい。また、耐衝撃性を向上させるためにポリウレタンを主成分とするプライマー層をプラスチックレンズ上に形成してもよい。
さらに、反射防止の性能を付与するために、前記硬化被膜上に、酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル等の無機物質からなる反射防止膜を形成してもよい。また、撥水性向上のため、前記反射防止膜上にフッ素原子を含有する有機ケイ素化合物からなる撥水膜を反射防止膜上に形成しても良い。
また、このプラスチックレンズを眼鏡用として使用する場合には、紫外線から樹脂または目を保護する目的で紫外線吸収剤、赤外線から目を保護する目的で赤外線吸収剤を添加しても良い。
さらに、樹脂の美観を維持または向上させる目的で、酸化防止剤の添加や少量の色素を用いてブルーイングをすることもできる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例で得られた有機ゲルマニウム化合物の物性、および応用例、応用比較例で得られた重合体の物性は以下に示す方法にしたがって測定した。
【0028】
<有機ゲルマニウム化合物の物性>
屈折率 (nD)、アッベ数 (νD): アタゴ社製アッベ屈折率計DR−M4を用いて25℃にて測定した。
<重合体の物性>
1)屈折率 (nD)、アッベ数 (νD): 上記と同様にして測定した。
2)外 観: 肉眼により観察した。
【0029】
実施例1
1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ[4.4]ノナ−2,7−ジエンの合成
脱水エタノール110mlにエチレンジチオレートナトリウム6.83gを加えた後、脱水エタノール8mlに溶解した四塩化ゲルマニウム5.38gを14〜17℃の範囲で滴下した。滴下終了後2時間更に撹拌した。反応終了後、エタノールを濃縮し、ジクロロメタン100mlと純水50mlを加え、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濃縮することにより、1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ[4.4]ノナ−2,7−ジエン5.2g(収率82%)の淡黄色の結晶が得られた。
この化合物の構造特定のための1H-NMR(溶媒:CDCl3)の分析結果を以下に示す。
δ:6.50(1H, s, -CH=CH-)
【0030】
重合体からなる光学製品の製造
応用例1
実施例1で得られた1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ[4.4]ノナ−2,7−ジエン(T1)0.1mol、ビス(メルカプトメチル)−1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ−スピロ[4.4]ノナン (T2)0.1molおよびジシクロヘキシルメチルアミン (CT1)1.0×10-4molの混合物を60℃にて均一に攪拌し、二枚のレンズ成形用ガラス型に注入し、60℃で10時間、その後90℃で5時間、さらに110℃で3時間加熱重合させてレンズ形状の重合体を得た。得られた重合体は淡黄色透明であり、屈折率(nD) は1.81と非常に高く、アッベ数 (νD)も26.2と高いものであった。従って、得られた重合体は光学製品として好適であった。
【0031】
応用例2
実施例1で得られた1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ[4.4]ノナ−2,7−ジエン(T1)0.1mol、ビス(メルカプトメチル)−1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ−スピロ[4.4]ノナン(T2)0.14mol、4,5−ビス(エピチオプロピルチオ)−1,3−ジチオラン(T3)0.33molおよびジシクロヘキシルメチルアミン (CT1)1.0×10-4molの混合物を30℃にて均一に攪拌し、二枚のレンズ成形用ガラス型に注入し、60℃で10時間、その後90℃で5時間、さらに110℃で3時間加熱重合させてレンズ形状の重合体を得た。得られた重合体は無色透明であり、屈折率(nD) は1.77と非常に高く、アッベ数 (νD)も29.3と高いものであった。従って、得られた重合体は光学製品として好適であった。
【0032】
応用例3
実施例1で得られた1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ[4.4]ノナ−2,7−ジエン(T1)0.097mol、1,2,3−トリメルカプトプロパン(T4)0.067mol、4,5−ビス(エピチオプロピルチオ)−1,3−ジチオラン(T3)0.021molおよびジシクロヘキシルメチルアミン (CT1)1.0×10-4molの混合物を30℃にて均一に攪拌し、二枚のレンズ成形用ガラス型に注入し、60℃で10時間、その後90℃で5時間、さらに110℃で3時間加熱重合させてレンズ形状の重合体を得た。応用例で得られた重合体は無色透明であり、屈折率(nD) は1.78と非常に高く、アッベ数 (νD)も29.5と高いものであった。従って、得られた重合体は光学製品として好適であった。
【0033】
応用比較例1
重合体からなる光学製品の製造
第1表に示すようにペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート(T5)0.1mol、m−キシリレンジイソシアネート(T6)0.2molおよびジブチルスズジクロライド(CT2)1.0×10-4 molの混合物を均一に撹拌し、二枚のレンズ成形用ガラス型に注入し、50℃で10時間、その後60℃で5時間、さらに120℃で3時間加熱重合させてレンズ形状の重合体を得た。得られた重合体の諸物性を第1表に示す。第1表から分かるように、得られた重合体は無色透明で光学歪みも観察されなかったが、nD/νDが1.59/36と屈折率が低くかった。
【0034】
応用比較例2および応用比較例3
重合体からなる光学製品の製造
第1表に示した原料組成物を使用した以外は、応用比較例1と同様の操作を行ない、レンズ形状の重合体を得た。これらの重合体の諸物性を第1表に示す。第1表から分かるように、応用比較例2の重合体はnD/νDが1.67/28といずれも低く、着色が見られ、光学歪が観察された。また、本応用比較例3の重合体は、νDが36と比較的高く、無色透明で光学歪は観察されなかったが、nDが1.70とそれほど高くなく、また、重合体は脆弱であった。
【0035】
【表1】

【0036】
第1表に示す略号は、下記のものを表す。
T1:1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ[4.4]ノナ−2,7−ジエン
T2: ビス(メルカプトメチル)−1,4,6,9−テトラチア−5−ゲルマ−スピロ[4.4]ノナン
T3:4,5−ビス(エピチオプロピルチオ)−1,3−ジチオラン
T4:1,2,3−トリメルカプトプロパン
T5:ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート
T6:m−キシリレンジイソシアネート
T7: 1,3,5−トリメルカプトベンゼン
T8:2,3−エピチオプロピルスルフィド
CT1:ジシクロヘキシルメチルアミン
CT2:ジブチルスズジクロライド
CT3:テトラ(n−ブチル)フォスフォニウムブロマイド
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の有機ゲルマニウム化合物は、ゲルマニウム原子にビニル基含有の反応性置換基が2個結合した硫黄含有量の高い新規化合物であり、光学材料の原料として好適に用いられる。また、本発明の有機ゲルマニウム化合物を用いて得られる光学材料は、屈折率およびアッベ数が高く、耐候性,透明性に優れているので、眼鏡レンズ,カメラレンズ等のレンズ、プリズム、光ファイバー、光ディスク、磁気ディスク等に用いられる情報記録媒体基板、着色フィルター、赤外線吸収フィルター等の光学製品を製造する材料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

で表される有機ゲルマニウム化合物。
【請求項2】
エチレンジチオレートナトリウムとテトラハロゲノゲルマニウムとを反応させることを特徴とする、下記式(1)
【化2】

で表される有機ゲルマニウム化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−269648(P2007−269648A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94829(P2006−94829)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】