説明

有機スルフィド化合物及びそれを含むゴム組成物

【課題】ゴム組成物の耐リバージョン性を改良する有機スルフィド化合物の提供。
【解決手段】(i)式:HS−R−SH(式中、Rはアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す)のジチオール化合物(A)又はジチオール化合物(A)と式:MOR′(式中、Mはアルカリ金属であり、R′はアルキレン基を示す)との反応塩(B)のいずれかと、(ii)式:X2SO(式中、Xはハロゲン基を示す)を反応させることにより得られる式(I)の有機スルフィド化合物。


(式中、Rは前記定義の通りであり、nは1〜20の数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機スルフィド化合物及びそれを含むゴム組成物に関し、更に詳しくはゴム組成物中に架橋剤として配合して、耐リバージョン性に優れたゴム組成物を与える有機スルフィド化合物及びそれを含むゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄によるゴムの加硫において、加硫時間の増大に伴なってゴム組成物の物性低下(リバージョン(加硫戻り))を生ずることが問題となっていることは周知の通りである(特許文献1参照)。最も優れたゴム物性を達成するためには、加圧下での低温かつ適正時間の熱処理が好ましいとされているが(非特許文献2参照)、かかる方法はタイヤなどの工業品における生産性を考慮すると現実的ではない。
【0003】
【特許文献1】特開2002−293783号公報
【非特許文献2】日本ゴム協会誌第77巻第7号、235頁(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、硫黄以外の加硫剤(又は架橋剤、以下同じ)を用いて耐リバージョン性に優れたゴム組成物を与える有機硫黄化合物の開発及びそれを用いたゴム組成物及び空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、(i)式:HS−R−SH(式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す)のジチオール化合物(A)又はジチオール化合物(A)と式:MOR′(式中、Mはアルカリ金属であり、R′はC1〜C10のアルキレン基を示す)との反応塩(B)のいずれかと、(ii)式:X2SO(式中、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン基を示す)を反応させることにより得られる式(I)の有機スルフィド化合物が提供される。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rは前記定義の通りであり、nは1〜20の数である。)
【0008】
本発明に従えば、更に(i)式:HS−R−SH(式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す)のジチオール化合物(A)又はジチオール化合物(A)と式:MOR′(式中、Mはアルカリ金属であり、R′はC1〜C10のアルキレン基を示す)との反応塩(B)のいずれかと、(ii)式:X2SO(式中、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン基を示す)を反応させることにより得られる前記式(I)の有機スルフィド化合物の製造方法が提供される。
【0009】
本発明に従えば、更にまた硫黄加硫可能なジエン系ゴム100重量部及び、加硫剤として、前記式(I)で表される有機スルフィド化合物0.1〜20重量部を含んでなるゴム組成物が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従った前記式(I)の有機スルフィド化合物を、加硫剤として、用いることにより、耐リバージョン性に優れるゴム組成物を得ることができ、このゴム組成物は過加硫時の物性低下及び加硫物性の経時変化が抑制されるので、例えば、タイヤのトレッドや物性が重視される工業製品として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは前記課題を解決すべく研究を進めた結果、本発明者の知る限りでは新規な前記式(I)の有機スルフィド化合物を見出し、この有機スルフィド化合物を加硫剤としてゴム組成物に配合することにより前記目的を達成し得ることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、先ず、(i)式:HS−R−SH(式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20、好ましくはC2〜C10のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す)のジチオール化合物(A)又はこのジチオール化合物(A)と式:MOR′(式中、Mはアルカリ金属であり、R′はC1〜C10、好ましくはC1〜C5のアルキレン基を示す)との反応塩(B)のいずれかと、(ii)式:X2SO(式中、Xは、それぞれ独立に、塩素、臭素などのハロゲン基を示す)を反応させることにより得られる前記式(I)(式中、Rは前記定義の通りであり、nは1〜20、好ましくは1〜15の数である)の有機スルフィド化合物を提供する。
【0013】
本発明によれば、前記式(I)の有機スルフィド化合物は、(i)式:HS−R−SH(式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20、好ましくはC2〜C10のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す)のジチオール化合物(A)又はそのジチオール化合物(A)と式:MOR′(式中、Mはナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属であり、R′はC1〜C10、好ましくはC1〜C5のアルキレン基を示す)との反応塩(B)のいずれかと、(ii)式:X2SO(式中、Xは、それぞれ独立に、塩素、臭素などのハロゲン基を示す)を、例えば室温で撹拌し、生成する塩を除去することで製造することができる。
【0014】
前記式(I)のRとしては、具体的には−CH2−CH2−O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−、−(CH26−、−(CH24−、−(CH22−O−(CH22−、−(CH22−O−CH2−O−(CH22−であるのが好ましい。
【0015】
本発明に従ったゴム組成物は、硫黄加硫可能なジエン系ゴム100重量部に対し、前記式(I)で表される有機スルフィド化合物を加硫剤として、0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部配合する。本発明に係る有機スルフィド化合物は加硫剤として単独又は従来の加硫剤(例えば硫黄)と併用することができる。
【0016】
本発明のゴム組成物に加硫剤として配合する前記有機スルフィドの配合量が少ないと耐リバージョン性の改善効果が小さく、また逆に多いとタイヤ製造工程で問題となるレベルのブリードアウトが起こりやすくなるため好ましくない。
【0017】
本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物の好ましい態様ではシリカ及び/又は窒素比表面積N2SA(JIS K6218:1997に準拠して測定)が、好ましくは85〜350m2/g、更に好ましくは100〜300m2/gのカーボンブラックを合わせて50〜180重量部、更に好ましくは60〜170重量部含む。シリカとカーボンブラックの配合比には特に限定はないが、補強性とそれによる諸物性の改良効率の観点からはシリカ/カーボンブラック(重量比)が10/90〜90/10であるのが好ましい。
【0018】
本発明に係るゴム組成物に配合されるジエン系ゴムは従来から各種ゴム組成物に一般的に配合されている任意のジエン系ゴム、例えば天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などを単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0019】
本発明に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、その他の補強剤(フィラー)、従来の加硫(又は架橋)剤、加硫(又は架橋)促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0021】
製造例1:有機スルフィド化合物(I)の合成
ナスフラスコ中でナトリウムメトキシド11.85g(2.194×10-1モル)を無水メタノールに溶解し、0℃の氷浴にて冷却、撹拌しながら、2,2−エチレンジエタンジチオール(以下DMDO)20g(1.097×10-1モル)を滴下し、この溶液を2時間反応させた。次いで、得られた反応液に、チオニルクロライド13.05g(1.097×10-1モル)を滴下し、室温で2時間反応させた。得られた溶液からメタノールを減圧留去し、トルエン50gに再溶解した。次にこのトルエン溶液の濾過を行い、更に水洗を行い、生成した塩化ナトリウムを除去し、その後80℃減圧下でトルエンを留去し、目的とする有機スルフィド化合物(I)を得た(以下の反応式)参照)。得られた有機スルフィドの分子量をGPCで測定した結果、Mw=3500であった。チャートを図1に示す。NMR帰属は以下の通りであった。
1H−NMR(重クロロホルム)δ:2.9−3.2(4H,CH2Sx),3.6−3.7(4H,CH2O),3.7−3.8(4H,CH2O).
【0022】
【化2】

【0023】
実施例1〜2及び比較例1
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と加硫剤(硫黄及び化合物(I))を除く成分を1.8リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、160±5℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0024】
次に得られたゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で160℃で20分間加硫して加硫ゴムシートを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果は表Iに示す。
【0025】
ゴム物性評価試験法
引張試験(300%モジュラス、破断強度(TB)及び破断伸び(EB)):JIS K6251に準拠して測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
表I脚注
*1:RSS #3
*2:東海カーボン(株)製カーボンブラック シーストKH N339グレード(N2SA=90m2/g)
*3:正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種
*4:日本油脂(株)製ビーズステアリン酸
*5:フレキシス社製SANTOFLEX 6PPD
*6:大内新興化学工業(株)製ノクセラー NS−P
*7:鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄
*8:製造例1参照
【0028】
実施例3〜4及び比較例2〜3
サンプルの調製
表IIに示す配合において、加硫促進剤と硫黄(硫黄及び化合物(I))を除く成分を1.8リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、160±5℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0029】
次に得られたゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で160℃で20分間加硫して加硫ゴムシートを調製し、以下の試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果は表IIに示す。
【0030】
ゴム物性評価試験法
硬度:JIS K6253に準拠して測定した。
TB(破断強度):JIS K6251に準拠して測定した。
【0031】
実車性能:得られたゴム組成物をトレッドに用いたタイヤを乗用車に装着し、ドライアスファルト路面において、時速100kmからの制動停止距離を測定しその測定値から、摩擦係数μを求めた。比較例2の新品時のμを100として指数表示した。指数が大きいほど性能は良好である。
【0032】
【表2】

【0033】
表II脚注
*1:LANXESS社製VSL 5025
*2:日本ゼオン(株)製Nipol 1712
*3:STR−20
*4:昭和キャボット(株)製ショウブラックN234(N2SA=110m2/g)
*5:東ソー・シリカ(株)製ニプシール AQ
*6:デグッサ社製Si69
*7:正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種
*8:日本油脂(株)製ビーズステアリン酸
*9:フレキシス社製SANTOFLEX 6PPD
*10:Rhein Chemie(株)製Aktiplast ST
*11:昭和シェル石油(株)製エキストラクト 4号S
*12:フレキシス社製CBS
*13:住友化学製ソクシノール D−G
*14:フレキシス社製PERKACIT TBzTD
*15:鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄
*16:製造例1参照
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上の通り、本発明に従えば、前記有機スルフィド化合物を加硫剤として配合することにより耐リバージョン性に優れたゴム組成物を得ることができ、例えば空気入りタイヤのトレッドなどに使用するゴム組成物として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】製造例1で得られた有機スルフィド化合物(I)の化学構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)式:HS−R−SH(式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す)のジチオール化合物(A)又はジチオール化合物(A)と式:MOR′(式中、Mはアルカリ金属であり、R′はC1〜C10のアルキレン基を示す)との反応塩(B)のいずれかと、(ii)式:X2SO(式中、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン基を示す)を反応させることにより得られる式(I)の有機スルフィド化合物。
【化1】

(式中、Rは前記定義の通りであり、nは1〜20の数である。)
【請求項2】
(i)式:HS−R−SH(式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す)のジチオール化合物(A)又はジチオール化合物(A)と式:MOR′(式中、Mはアルカリ金属であり、R′はC1〜C10のアルキレン基を示す)との反応塩(B)のいずれかと、(ii)式:X2SO(式中、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン基を示す)を反応させることにより得られる式(I)の有機スルフィド化合物の製造方法。
【化2】

(式中、Rは前記定義の通りであり、nは1〜20の数である。)
【請求項3】
前記式(I)のRが−CH2−CH2−O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−である請求項1に記載の有機スルフィド。
【請求項4】
硫黄加硫可能なジエン系ゴム100重量部及び、加硫剤として、請求項1に記載の式(I)で表される有機スルフィド化合物0.1〜20重量部を含んでなるゴム組成物。
【請求項5】
芳香族ジエン共重合ゴムを主体とした硫黄加硫可能なジエン系ゴム100重量部及び、加硫剤として、請求項1に記載の式(I)で表される有機スルフィド化合物(但し、式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示し、nは1〜20の整数である)0.1〜20重量部を含んでなるタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
更にシリカ及び/又は窒素比表面積N2SAが85〜350m2/gのカーボンブラックを合わせて50〜180重量部含む請求項5に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
前記式(I)の有機スルフィド化合物のRが−CH2−CH2−O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−である請求項5又は6に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−332209(P2007−332209A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163457(P2006−163457)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】