有機ナノチューブからなる核酸導入剤
【課題】毒性のない優れた核酸キャリアとなる、自己集合性の有機ナノチューブを提供をする。
【解決手段】下記化学式(1)、(2)の脂質化合物等が混合されて、有機ナノチューブ構造体を形成していることを特徴とする複合ナノチューブ。<化学式(1)>(化合物1)
〔式中、mは12〜20の整数。〕<化学式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数等、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数等を表す。〕
【解決手段】下記化学式(1)、(2)の脂質化合物等が混合されて、有機ナノチューブ構造体を形成していることを特徴とする複合ナノチューブ。<化学式(1)>(化合物1)
〔式中、mは12〜20の整数。〕<化学式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数等、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数等を表す。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子など核酸のキャリアとして好適な複数の脂質化合物を構成成分とする自己集合性の有機ナノチューブ(複合ナノチューブ)及び当該複合ナノチューブを用いた核酸の細胞内導入方法に関する。また、前記複合ナノチューブを形成する構成成分となる新規な脂質化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外因性遺伝子を細胞内に導入することは、遺伝子治療や組換えタンパク質生産などの点から重要な技術である。しかし核酸物質からなる遺伝子は細胞を含む溶液中では、ヌクレアーゼによって急速に分解され、細胞への取り込みが著しく低下する。またリン酸基に由来するポリアニオン性の物質であるため、負電荷を有する細胞膜とは相互作用が少なく、経膜透過が困難である。このためin vivoおよびin vitroにおけるDNA,RNA、およびオリゴヌクレオチドの送達を改善するための核酸キャリアの開発が大きな課題となっている。
これまでに開発されてきた核酸キャリアは、ウイルス系、非ウイルス系に大別できる。このうちウイルス系は高い遺伝子発現効率を示すが、宿主の免疫反応、感染等の安全性に問題があることが多い。このため使用が厳しく制限される。
一方、非ウイルス系キャリアは容易に生産でき、免疫反応や感染等のリスクが非常に低い利点がある。このため様々な人工的な遺伝子キャリアが開発されてきた。これらは、遺伝子のリン酸基などと静電的に相互作用してイオン性複合体を形成するためのカチオン性官能基を含む。例えばポリアミンを修飾した高分子リン脂質誘導体からなるベシクル(市販品Lipofectamine2000としてインビトロジェン社から市販されている)、ポリ−L−リジン、ポリ−L−オルニチンやポリエチレンイミン、キトサンなどのカチオン系高分子誘導体ミセル、また制御された多分岐構造をもつポリアミドアミンなどのカチオン系デンドリマーが報告されている(特許文献1,2,3)。これらは非ウイルス性という利点はあるものの、ポリアミン等の細胞毒性が認められるもあり、安全性の問題がある。
上述のキャリアは球または粒子状の形状であるが、それ以外の特異な形状をもつキャリアとして、カーボンナノチューブ、シリカナノチューブ等も遺伝子導入剤として報告されている。これらはカチオン性官能基で被覆した単層および多層カチオン性カーボンナノチューブを用いている(非特許文献1〜3)。またシリカからなるナノチューブにシランカップリング剤を用いてアミノ基を修飾したキャリアも報告されている(非特許文献4)。
しかしながら、これら無機物質系のナノチューブ類の場合は全体が共有結合で構成されているため、細胞へ導入後の分解が困難であり、安全性の問題が残る可能性がある。
【0003】
これに対して、分子の自己集合によって製造できるナノチューブ系キャリアが各種開発されており、これらの自己集合系ナノチューブの場合は、非共有結合性のため細胞内での分解性に優れる利点をもつことが期待されている。しかし、これらナノチューブ類が核酸類との結合体として細胞内に核酸輸送可能であることの報告は多数あるが、未だに細胞内での遺伝子発現や遺伝子抑制効果など、実際に細胞内に導入された核酸本来の機能、活性が確認された例は少なく、特にタンパク質の発現に必要な数百程度の塩基配列を有する遺伝子など大きな核酸分子からの発現に成功した例は全くない。核酸キャリアとしての効果は限定的であると考えられる。
例えば、カチオン性フェニルアラニルアラニン誘導体が自己集合によって形成するナノチューブ(非特許文献5)の場合は、濃度によってナノチューブとベシクル構造(球形)に変化する性質を持ち、細胞と混合後の実際の核酸の送達時においてはベシクル構造の状態で取り込まれることがわかっているので、厳密には自己集合系ナノチューブキャリアとはいえず、遺伝子の発現の確認もなされていない。用いられた核酸分子もシングルストランドの短いDNAのみである。
また、脂質分子と核酸との複合化によるファイバー状構造体(非特許文献6)の場合も、RNAとの複合体が細胞に導入できたことが確認されているだけで、導入された核酸の機能の発現は全く確認や評価がなされていない。
ペプチド性ブロック共重合体の自己集合からなるナノファイバー系材料を用いた例(非特許文献7)では、23残基のsiRNAとの結合体が、細胞内に導入され機能したことが報告されているが、機能の発現が確認されたのは細胞質中での低分子量のDNAやRNA断片のみであり、分子量の大きな遺伝子の発現も、また核内への核酸送達も確認できていない。
以上のことから、分子量の大きな遺伝子も含めた核酸を細胞内へ輸送することができるだけでなく、核酸を核内にまで送達させることができ、かつ細胞内で核酸本来の機能を効率的に発揮させることができるような優れた核酸キャリアとなる自己集合系ナノチューブの開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−522809号公報
【特許文献2】特開2002−515418号公報
【特許文献3】特開2005−247755号公報
【特許文献4】特許第4174702号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.Biancoら,Angewandte Chem.,2004、43、5242-5246.CNT
【非特許文献2】A.Biancoら,J.Am.Chem.Soc.,2005,127,4388-4396.CNT
【非特許文献3】Y.Liuら,Angewandte Chem.,2005,44,4782-4785.CNT
【非特許文献4】Y.C.Wu,Advanced Materials,2005,17,404-407.
【非特許文献5】J.Liら、Angewandte Chem.,2007,46,2431-2434.
【非特許文献6】J.H.Fuhrhop,H.Tank,Chemistry and Physics. of Lipids,1987,43,193-213.
【非特許文献7】M.Leeら, Angewandte Chem,2008,47,4525-4528.
【非特許文献8】T.Shimizu, M.Masuda,H.Minamikawa,Chemical Review,2004,105,1401-1443.
【非特許文献9】M.Masuda,T.Shimizu,Langmuir,2004,20,5969-5977.
【非特許文献10】N.Kameta,M.Masuda,N.Morii,T.Shimizu, Small,2008,4,561-565.
【非特許文献11】N.D.Santos, C.Allen And A.M. Biochimica Biophysica Acta 1768(2007)1367-1377.
【非特許文献12】F.K. Bedu-Addo, P.Tang, Y.Xu and L.Huang., Pharmaceutical Research 13(1996)710-717.
【非特許文献13】増田光俊、和田百代、亀田直弘、南川博之、清水敏美、第58回高分子学会年次大会予稿集、発表番号2K10、「有機ナノチューブ/PEG系高分子複合体の構築」。
【非特許文献14】Y. Takeda, N. Shimada, K. Kaneko, S. Shinkai, K. Sakurai,Biomacromolecules 8 (2007) 1178-1186
【非特許文献15】D. Putnam, A.N. Zelikin, V.A. Izumrudov, R. Langer,Biomaterials 24 (2003) 4425-4433
【非特許文献16】M. Walsh, M.Tangney, M.J. O'Neill, J.O. Larkin, D.M. Soden, S.L. McKenna, R. Darcy, G.C. O'Sullivan, C.M. O'Driscoll ,Molecular Pharmaceutics. 3 (2006) 644-653
【非特許文献17】G. Fotakis and J.A. Timbrell,Txocology Letters 160(2006)171-177
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、分子量の大きな遺伝子も含めた核酸を細胞内へ輸送することができるだけでなく、核酸を核内にまで送達させることができ、かつ細胞内で核酸本来の機能を効率的に発揮させることができるような優れた核酸キャリアとなる、自己集合系ナノチューブの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは以前から、親水部と疎水部を有する長尺状の自己集合性の脂質化合物を多種類合成してきたが(非特許文献8−10)、これら化合物のうち長鎖炭化水素鎖の両端に親水部が連結されている双頭型脂質であって、両端の親水部の大きさや種類が異なる「くさび形」の脂質から構成される有機ナノチューブの分散性が高いことを見出していた(非特許文献8)。その中でも特にグルコース糖残基の還元性末端にアミド結合を介して長鎖脂肪酸残基(炭素数6〜20)が連結された脂質、すなわち下記式(1)で表される脂質(化合物1)が、水中でも安定でかつ水分散性の高い、外径40〜50nm前後の有機ナノチューブを形成できることを見出して報告している(特許文献4、非特許文献9)。本発明者らは、当初からこの脂質の生体適合性を有する有機ナノチューブの水中での高い安定性及び分散性に着目し、医療用各種薬剤等の生理活性物質を生体に投与する際の除放性担体などの用途開発を進めており、薬剤キャリアとしての用いることができないかとその可能性を検討した。
<式(1)>(化合物1)
〔式中、mは12〜20の整数を表す。〕
【0008】
しかし、この有機ナノチューブは水中ではマイナスに荷電されるため、同様のマイナスの荷電をもつ薬剤、例えば核酸などとの結合が困難であり、また、細胞の表面も通常はわずかにマイナスに荷電していることから、そもそも単独では細胞の表面付近にまで近づきにくく、薬剤を細胞内へ運搬させる薬剤キャリアとして用いるためには改善が必要である。
そこで、本発明者らは、上記式(1)の脂質化合物(化合物1)に、何らかのカチオン性の両媒性の脂質化合物を組み合わせた複数成分からなる複合ナノチューブを形成させてみることを発想した。
本発明者らは、上記式(1)の脂質化合物と複合ナノチューブを形成し、かつ核酸との結合体を形成可能なカチオン性の両媒性脂質化合物を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、アルキレン基またはアミドを途中に含むアルキレン基からなるジアミンの片端にカチオン性のアミノ酸が縮合し、さらにこのジアミンのもう一端にα、ω−長鎖ジカルボン酸が縮合した新規な脂質化合物(下記式(2)の脂質化合物:化合物2)を合成することができ、当該化合物2が、単独では有機ナノチューブを形成する能力は持たないものの、上記式(1)の脂質化合物(化合物1)と混合して自己集合させた場合には、安定で分散性の高いナノチューブ構造体(「複合ナノチューブ」)を形成することを見出した。
<式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数を表し,Xは−(CH2)n−(n=2〜8の整数)、又は−CH2−CO−NH−(CH2)2−を表し、Rはカチオン性アミノ酸残基を表す。〕
【0009】
上記式(2)の脂質化合物(化合物2)は末端にカチオン性のアミノ酸残基を有しているため、得られる複合ナノチューブはプラスに荷電し、核酸のリン酸基と静電的に会合して安定な結合体を形成する。しかもこの複合ナノチューブは、マイナスに荷電している生体内の細胞膜表面に近づきやすい特性を有していながら、反対にプラスに荷電している細胞内に取り込まれた場合には、速やかに分散して核酸を解き放す特性も有している。
式(1)のナノチューブ形成性脂質及び式(2)の核酸結合性脂質(化合物1及び2)とから形成された複合ナノチューブが、核酸と共に組織化された核酸−チューブ結合体を安定に形成できることを確認し、当該複合ナノチューブを核酸キャリアとすることで、細胞表面への接着が効率的に行うことができ、容易に核酸の経膜的輸送を行なった後、細胞内で速やかに核酸を放出して遺伝子発現などの機能を発揮させることができることを確認した。具体的には、当該複合ナノチューブにレポーター遺伝子を含むベクターを結合させた核酸−チューブ結合体を用いて細胞を形質転換したところ、細胞内でのレポーター遺伝子発現が確認できた。
以上の知見を得たことで、細胞内に核酸を輸送しその核酸本来の機能を発現させることができる核酸キャリア、そのための自己集合性複合ナノチューブ、及び化合物1と共に当該複合ナノチューブを形成できる新規化合物である化合物2についての本発明を完成した。
【0010】
しかしながら、前記式(1)のナノチューブ形成性脂質と式(2)の核酸結合性脂質とからなる複合ナノチューブは、このような優れた特性を有する反面、核酸チューブ結合体を形成させる際に凝集が生じやすい欠点も有していた。
そこで、本発明者らは、本発明の複合ナノチューブのさらなる改良を目指し、この凝集抑制作用を有する複合ナノチューブの構成成分となる脂質化合物をさらに探索すべく検討した。その結果、10以上のオキシエチレン基の繰り返し配列からなるポリオキシエチレン基を有するアルキレン基を、アミド結合を介して長鎖脂肪酸残基に結合した新規な脂質化合物(下記式(3)の脂質化合物:化合物3)を合成することができ、当該化合物3も、単独では有機ナノチューブを形成する能力は持たないが、前記式(1)のナノチューブ形成性脂質(化合物1)と式(2)の核酸結合性脂質(化合物2)とを混合して複合ナノチューブを製造する際の第3の成分として添加したところ、前記カチオン性複合ナノチューブとしての効果を保持したままで、さらに分散性の高い複合ナノチューブを製造することができた。
<化学式(3)>(化合物3)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕
そして、化合物1、2及び3の3成分からなる複合ナノチューブを核酸キャリアとしてレポーター遺伝子の細胞導入実験を行った結果、細胞への導入効率が高まり、遺伝子の発現効率も高まったことから、前記複合ナノチューブ及び核酸キャリアのさらなる改善が達成できた。
以上の知見を得たことで、さらに改善された複合ナノチューブ及び核酸キャリアについての本発明も完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を含むものである。
[1] 有機ナノチューブを形成可能な下記化学式(1)の脂質化合物(化合物1)もしくは薬理学的に許容されたその塩と共に、核酸結合性を有する下記化学式(2)の脂質化合物(化合物2)もしくは薬理学的に許容されたその塩とを含み、有機ナノチューブ構造体を形成していることを特徴とする複合ナノチューブ;
<化学式(1)>(化合物1)
〔式中、mは12〜20の整数。〕
<化学式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数か、又はCH2−CO−NH−(CH2)2を表し、Rはアルギニル、リジリル又はオルニチル残基を表す。〕。
[2] 前記化学式(1)の脂質化合物及び前記化学式(2)の脂質化合物、又は薬理学的に許容されたそれぞれの塩を、モル換算で2:1〜10:1の混合比で含むことを特徴とする、前記[1]に記載の複合ナノチューブ。
[3] さらに、ポリオキシエチレン残基を有する下記化学式(3)の脂質化合物(化合物3)もしくは薬理学的に許容されたその塩を含むことを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載の複合ナノチューブ;
<化学式(3)>(化合物3)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕。
[4] 前記化学式(1)の脂質化合物、前記化学式(2)の脂質化合物、及び前記化学式(3)の脂質化合物、又は薬理学的に許容されたそれぞれの塩を、モル換算で63:32:5〜87:8:5の混合比で含むことを特徴とする、前記[3]に記載の複合ナノチューブ。
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載された複合ナノチューブの構成成分として用いることができる、核酸結合性を有する下記化学式(2)の脂質化合物又は薬理学的に許容されたその塩;
<化学式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数か、又はCH2−CO−NH−(CH2)2を表し、Rはアルギニル、リジリル又はオルニチル残基を表す。〕。
[6] 前記[3]又は[4]に記載された複合ナノチューブの構成成分として用いることができる、ポリオキシエチレン残基を有する下記式(3)の脂質化合物又は薬理学的に許容されたその塩;
<化学式(3)>
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕。
[7] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載の複合ナノチューブからなり、核酸と静電的に結合して核酸−チューブ結合体を形成することができる核酸キャリア。
[8] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載の複合ナノチューブと核酸とが静電的に結合されており、細胞内に核酸を運搬することができる、核酸−チューブ結合体。
[9] 前記[7]に記載の核酸キャリアを用い、当該核酸キャリアに静電的に結合させた核酸を細胞内に運搬することを特徴とする、細胞の形質転換方法。
[10] 前記[9]の形質転換方法により形質転換された、形質転換細胞。
[11] 遺伝子治療用核酸を有効量含む前記[8]に記載の核酸−チューブ結合体及び薬理学的に許容される担体からなる、遺伝子治療用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により提供された複数の脂質化合物の自己集合によって得られる長尺状の有機ナノチューブ構造体(複合ナノチューブ)は、細胞毒性が低く、核酸と静電的に結合してこれを細胞内に効率よく送達することができ、かつ細胞内で遺伝子発現などの核酸機能を発現できるので、遺伝子治療用の優れた核酸キャリアとなる。また、本発明の複合ナノチューブは、固体状態の集合体なので非常に安定であり、1ヶ月以上溶液分散状態でも保存可能である。
また、この複合ナノチューブを構成する脂質化合物の原料となる長鎖カルボン酸及びアミノ酸類は安価であり、その製法も容易であるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一般式2(m=18、Xが(CH2)6、Rはアルギニル基)で表される化合物2の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)なお、「DMSO」は、ジメチルスルホキシドの略である。
【図2】一般式2(m=18、Xが(CH2)2、Rはアルギニル残基)で表される化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)。
【図3】化合物2の合成、(m=18、XがCH2−CO−NH−(CH2)2、Rがアルギニル基であるもの)の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)。
【図4】化合物2の合成(m=18、Xが(CH2)2、Rはリジリル残基)の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)。
【図5】化合物3の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)。
【図6】複合ナノチューブの電子顕微鏡による形態観察。(a)化合物1/2、化合物2:X=(CH2)6、超音波未処理。(b)化合物1/2、化合物2:X=(CH2)6、超音波処理。(c)化合物1/2/3、化合物2:X=(CH2)6、超音波未処理。(d)化合物1/2/3、化合物2:X=(CH2)6、超音波処理。(e)化合物1/2/3、化合物2:X=(CH2)2、超音波未処理。(f)化合物1/2/3、化合物2:X=(CH2)2、超音波処理。 注:化合物1,2,3はm=18、化合物3はp=45、y=Me、化合物2のR=アルギニル基
【図7】複合ナノチューブの電子顕微鏡による形態観察。(a)化合物1/2/3、化合物2:X=CH2−CO−NH−(CH2)2、R=アルギニル基、超音波未処理。(b)上述の超音波処理後。(c)化合物1/2、X=(CH2)6、R=リジル基(d)化合物1/2、X=(CH2)2、R=リジル基 注)化合物1,2,3のm=18、化合物3のp=45,Y=Me
【図8】オキシエチレン鎖の導入による複合ナノチューブの分散性評価。
【図9】複合ナノチューブのDNAとの結合挙動のアガロース電気泳動による評価。上段は、化合物1/2の複合ナノチューブ、下段は化合物1/2/3の複合ナノチューブとのDNAの結合を調べたもの。それぞれ、ゲルの最下部にDNAをロードして上方向に+電荷を印可して泳動を見たもの。最上部の数値は、ナノチューブ中のアルギニン残基/DNAのリン酸残基のモル比(Arg/P)をあらわしている。
【図10】(a)化合物1/2の複合ナノチューブと(b)化合物1/2/3の複合ナノチューブについて、DNAとの結合後(Arg/P =8/1)での形態を走査型電子顕微鏡像(透過モード)。
【図11】レーザー共焦点顕微鏡による化合物1/2(上段)、化合物1/2/3の複合ナノチューブ(下段)とYOYO−1ラベル化DNAとの結合体の観察(明視野像は微分干渉モードで観察したもの)。Arg/P=8/1
【図12】DNaseに対するDNA−チューブ結合体分解耐性の検討(化合物1/2の複合ナノチューブ:Arg/P=8/1、化合物1/2/3の複合ナノチューブ:Arg/P=8/1,Trisバッファー中、DNase40unit,30秒毎の30分の経過をみたもの)。
【図13】KB細胞へのDNA−チューブ結合体(DNAはYOYO−1で蛍光ラベル化されたもの)の取り込み。(a)有機ナノチューブを選択的にローダミンBで染色、蛍光顕微鏡で蛍光可視化したもの。(b)YOYO−1でDNAを染色し、蛍光可視化したもの。(c)位相差光学顕微鏡で細胞と複合ナノチューブを可視化したもの。(d)上記の(a)〜(c)をあわせた像。化合物1/2複合ナノチューブとDNAをArg/P=8/1で混合した後に2時間培養したもの。濃度:2μgDNA/ウエル。細胞外表面に付着した過剰な複合ナノチューブはヘパリン−PBSバッファーで2回洗浄除去。その後アクアポリマウントに移し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【図14】核酸−チューブ結合体(Arg/P=8/1)による細胞への取り込みの半定量測定。核酸−チューブ結合体を培養細胞(KB細胞、A549細胞)に添加し、2時間培養した。その後、過剰な複合ナノチューブをヘパリン含有のPBS(20U/ml)緩衝液で三回洗浄した。その後、フローサイトメトリー用緩衝液に分散後、フローサイトメトリーを用いてYOYO−1からの蛍光でモニターした。
【図15】核酸−チューブ結合体を用いた細胞での遺伝子発現評価核酸−チューブ結合体(Arg/P=8/1)を培養細胞(KB細胞、A549細胞)に添加し、24時間培養した。これをヘパリン含有のPBS(20U/ml)緩衝液で二回洗浄後、フローサイトメトリー用緩衝液に分散させ、フローサイトメトリーを用いて細胞の発するGFPの蛍光をモニターした。
【図16】市販の遺伝子導入剤と複合ナノチューブでのGFP発現量の比較。核酸−チューブ結合体(Arg/P=8/1、あるいはNH2/P=8/1)でKB細胞に添加し、24時間培養後、GFPの蛍光像(a)リポフェクタミン2000(市販品)を用いた場合。(b)遺伝子のみを加えた場合。(c)化合物1/2(化合物2のX中のn=6の場合)、超音波未処理。(d)上記(c)の超音波処理。(e)化合物1/2/3(化合物2のX中のn=6の場合)、超音波未処理。(f)上記(e)の超音波処理。 注:化合物1,2,3はm=18、化合物3はp=45、y=Me、化合物2のX=(CH2)n、R=アルギニル基
【図17】市販の遺伝子導入剤と複合ナノチューブでのGFP発現量の比較。DNA−チューブ結合体(Arg/P=8/1)でKB細胞に添加し、24時間培養後、GFPの蛍光像(a)化合物1/2/3(化合物2のX=(CH2)2、R=アルギニル)、超音波未処理。(b)上記(a)の超音波処理(c)化合物1/2/3はm=18、化合物2はX=CH2−CO−NH−(CH2)2、超音波未処理。(d)上記(c)の超音波処理後(e)化合物1/2、X=(CH2)6、R=リジル基、超音波未処理(d)化合物1/2、X=(CH2)2、R=リジル基、超音波未処理 注:化合物1,2,3はm=18、化合物3はp=45、y=Me
【図18】LA2000(市販品)と複合ナノチューブの細胞毒性比較。横軸は、無添加時の細胞中の総タンパク数を100%としたもの。同量のDNA(2マイクログラム/ウエル)に結合するLA2000、および複合ナノチューブで比較。図中“soni”は超音波処理したもの、“non−soni”は超音波未処理のもの。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.有機ナノチューブについて
本発明において「有機ナノチューブ」というとき、疎水部アルキレン鎖に由来する疎水性相互作用に加えて、方向性をもつ水素結合が形成可能な脂質でかつ不斉炭素を有するものが自己集合することにより、外径約10nm〜1000nm、長さ100nm〜数mmのチューブ構造を形成する集合体をいう(非特許文献8参照)。すなわち、本発明の「有機ナノチューブ」は、上記定義にあるように、「脂質分子の水溶液からの自己集合によって得られるナノメートルサイズの幅を有するチューブ状構造体」と定義することができる。
したがって、本発明の「有機ナノチューブ」としては単一の脂質成分で構成される場合のみならず複数の脂質成分で構成される場合も含まれるが、本発明においては、2成分以上の脂質分子の場合、例えば「化合物1と化合物2、あるいは化合物1と化合物2と化合物3の混合溶液からの自己集合によって得られる有機ナノチューブ」を、特に「複合ナノチューブ」という。
「有機ナノチューブ」のチューブ構造は、水素結合やファンデルワールス力などの弱い相互作用で形成されているため、室温から100℃の範囲であれば、環境のpH条件や温度条件を変化させることで分解することが可能である。この温度は生体中の細胞内外の環境温度の範囲を含むものであるから、細胞内外のpH環境の差異により分解するように調整することが可能であることを意味する。この様な分解特性は脂質分子を用いたことの有利な点の1つであり、カーボンナノチューブ、シリカナノチューブなど共有結合で形成されたナノチューブでは、この様な温度範囲での分解は全く見られない。
なお、本発明の複合ナノチューブと核酸を一定の割合で混合することによって静電的に核酸を複合ナノチューブに結合させたものは「核酸−チューブ結合体」という。核酸の種類としては一般にはDNAを用いることが多いので、「DNA−チューブ結合体」ということもある。
【0015】
2.本発明の有機ナノチューブ形成に寄与する脂質化合物(有機チューブ形成性脂質)について
(2−1)有機チューブ形成性脂質の特徴:式(1)の化合物
本発明の有機チューブ形成性の脂質分子の形状としては、1個ずつの親水部と疎水部を有する一頭一鎖型脂質、1個の親水部に2本の疎水部が連結した1頭2鎖型脂質、2個の親水部に1個の疎水部を有する双頭型脂質などが知られている(非特許文献8)。本発明に用いる脂質化合物としては双頭型脂質のうち、両端の親水部の大きさが異なる「くさび形」の脂質が、安定な有機ナノチューブを形成する点から有効である。特に、化合物1の様なアルキル鎖の片端にアミド基を介してグルコース残基、もう一端にカルボン酸の連結したくさび形の脂質が、微細な外径40〜50nm前後の有機ナノチューブ構造を提供するために最良である(特許文献4、非特許文献9)。特許文献4に記載の下記式(1)の脂質化合物中のアルキレン基の鎖長mは6〜20であったが、本発明の複合ナノチューブの構成成分として好適な有機ナノチューブ形成性脂質の鎖長mは、m=12〜20の範囲であり、製造時の分散性の良さと、得られる有機ナノチューブの安定性の高さからは、12〜18の整数がより好ましく、偶数であることがさらに好ましい。
<化学式1>(化合物1)
(式中、mは12〜20のいずれかの整数を表す。)
上述の有機ナノチューブが形成可能な脂質化合物と以下に示す複数の新規化合物を混合させた後に、自己集合させて複合ナノチューブを形成させることが、本発明には有効である。有機ナノチューブは、それを構成する化合物が複数種の混合物であっても形成可能できることが清水らによって報告されている(非特許文献10)。
【0016】
(2−2)有機チューブ形成性脂質(式(1)化合物)の製造方法
式(1)で表される有機チューブ形成性脂質は、特許文献4などに記載された公知の化合物であり、いかなる方法で合成されたものであってもよいが、例えば下記反応式(1)に示される方法に従って合成できる(特許文献4を参考)。
<反応式(1)>
〔なお、反応式中、「DMT−MM」は「4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド」の略であり、「DMF」は「ジメチルホルムアミド」の略であり、「Pd−C」は「パラジウム−カーボン」の略である。以下同様。〕
【0017】
すなわち2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−グルコピラノシルブロミド(化A)をアジ化ナノトリウムで処理後、再結晶してアジ化物を得る。これを接触水素化還元してアミン体に変換し、保護基としてベンジル基を有する(化B)のポリメチレンカルボン酸モノベンジルエステル(ただし、式中m=12〜20,好ましくは12〜18、より好ましくは12〜18の偶数)と共に、DMT−MMなどを用いて脱水縮合したのちシリカゲルクロマトグラフィで精製する。得られたベンジルエステル中間体から接触水素化還元によりベンジルエステルを除去後、メタノール中でのナトリウムメトキシド処理により脱アセチル化すれば式(1)の脂質「化合物1」を得ることができる。
【0018】
3.核酸との結合体形成に寄与する脂質化合物(核酸結合性脂質化合物)について
(3−1)核酸結合性脂質化合物の特徴:式(2)の化合物
本発明における核酸と結合体を形成し、細胞膜を効率的に透過させるための複合ナノチューブを得るためには、式(1)の脂質(化合物1)に対して、核酸のリン酸基と静電相互が可能なグアニジル基やアミノ基などのカチオン性基を有する下記式(2)の脂質(化合物2)を複合化する必要がある。
<化学式2>(化合物2)
化合物2のアルキレン基(ポリメチレン基)鎖長のmは、化合物1との混合により複合ナノチューブを形成させる点で、化合物1と同じ鎖長であることが好ましい。具体的には、m=12〜20の整数が好ましく、さらには、製造時の分散性の高さ、出来た複合ナノチューブの安定性の高さから、m=12〜18の整数がより好ましく、偶数であることがさらに好ましい。Xは、(CH2)nで表されるアルキレン鎖(nは2〜8の整数、分散性の良さの点からn=2〜6の整数が好ましい)であるか、又は、水素結合性アミドをもつCH2−CO−NH−(CH2)2である。Rはカチオン性のアミノ酸残基であればよいが、アルギニル基、リジリル基、及びオルニチル基が好ましく、そのうちのアルギニル基及びリジリル基が特に好ましい。
【0019】
(3−2)核酸結合性脂質化合物(化合物2)の製造方法
式(2)で表される核酸結合性脂質(化合物2)は、上記<反応式(1)>に示された有機ナノチューブ形成性脂質の合成方法(特許文献4の記載による)と同様の化Bの酸塩化物とアミン成分を用いた縮合に加えて、より穏和な室温、中性付近の反応が可能なDMT−MMやEDC−HCl(なお「EDC−HCl」は「1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩」の略)などの縮合剤を用いたアミド結合形成反応や、その後のベンジルエステルの室温、水素雰囲気下での接触水素添加による脱保護反応を適用でき、両端にカルボン酸基を有するポリメチレンジカルボン酸の片側のカルボン酸がベンジル基により保護されている(化B)のポリメチレンカルボン酸モノベンジルエステル(ただし、式中、m=12〜20,好ましくは12〜18、より好ましくは12〜18の偶数)を原料の1つとして用い、最後に保護基のベンジル基等を除去する手法を利用して合成することができる。
【0020】
すなわち、「化合物2」の具体的な製造工程を示すと下記の通りとなる。
下記化学式(4)で示される片端がベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(下記反応式2などにおける「化合物B(化B)」に相当)に対して、
<化学式(4)>
〔式中、mは化学式(2)と同じ意味を表す。〕
片端が保護されたジアミン化合物(下記反応式2における「化合物C(化C)」に相当)を結合させた後でBoc基の除去を行い、生成した末端アミノ基に、保護されたカチオン性アミノ残基を付加するか、
<化学式(5)>
〔式中、Xは化学式(2)と同じ意味を示す。ここで保護基とは好ましくはBoc基を用いるが、他の水素添加以外の条件で除去可能な保護基、すなわち9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、トリフルオロアセチル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基などであってもよい。なお、ここで「Boc基」とは「三級ブトキシカルボニル基」の略である。〕
あるいは、上記化学式(5)で示されるジアミン化合物のフリー端のアミノ基に、あらかじめ保護されたカチオン性アミノ残基を付加し、さらにもう一端のアミノ基の保護基を除去後グリシン残基を導入した下記化学式(6)で示されるカチオン性アミノ酸残基を有する化合物(下記反応式3における「化合物E(化E)」に相当)を結合させ、
<化学式(6)>
〔式中、X及びRは化学式(2)と同じ意味を示す。ここでの保護基は、ベンジルオキシカルボニル基である〕
上記いずれかの工程により下記化学式(7)で示される保護基を有する前駆体を得た後、
<化学式(7)>
〔式中、m、X及びRは化学式(2)と同じ意味を示す。〕。
全ての保護基を除去することで、下記「化合物2」を得ることができる。
<化学式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数か、又はCH2−CO−NH−(CH2)2を表し、Rはアルギニル、リジリル又はオルニチル残基を表す。〕
【0021】
「化合物2」のうち、化学式(2)におけるXが(CH2)nで表されるアルキレン鎖の場合を「化合物2a」と表記し、Xが「CH2−CO−NH−(CH2)2」の場合を「化合物2b」と表記し、それぞれの典型的な製造工程を、それぞれ下記「反応式(2)」及び「反応式(3)」として以下に示す。
なお、化合物2bの場合、あらかじめ(化D)の類縁体でZ基で保護されたZ−NH−X前駆体−NH2とBoc基で保護されたグリシンの活性エステル(Boc−Gly−OSu)とを結合させる反応を行っておき、次にZ基の除去後に、あらかじめ側鎖およびアミノ基を保護したカチオン性アミノ酸残基R(保護基−R)と結合させることもできるが、下記「反応式(3)」の工程を採る方が製造効率が高く好ましいため、典型例として「反応式(3)」を示す。本発明の化合物2bの製造方法としては、この工程のみに限定されるものではない。
【0022】
化合物2aの場合:X=(CH2)n(nは2〜8の整数)の場合
<反応式(2)>
〔反応式中、「EDC−HCl」は「1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩」の略であり、「EtOAc」は「酢酸エチル」の略であり、「Et3N」は「トリエチルアミン」の略である。〕
すなわち、「化合物2a」は、「化合物B(化B)」と「化合物C(化C)」をEDC−HClにより脱水縮合した後、Boc基を除去し、側鎖およびアミノ基を保護したカチオン性アミノ酸残基R(「保護基−R」、なお、ここでの保護基はベンジルオキシカルボニル基)を混合して脱水縮合し、保護基のついた前駆体を得た後に、全ての保護基を接触水素化還元などによって脱保護することで製造できる。
【0023】
化合物2bの場合:X=CH2−CO−NH−(CH2)2の場合
<反応式(3)>
〔反応式中、「Boc−Gly−OSu」はグリシンのアミノ基がBoc基が保護されており、カルボキシル基がSu基でエステル化されていることを表す。なお、Su基はスクシンイミド基の略である。〕
すなわち、「化合物2b」を製造するためには、まず、「化合物D(化D)」中の「X前駆体、すなわちエチレン基」に、あらかじめ側鎖およびアミノ基を保護したカチオン性アミノ酸残基R(保護基−R)をEDC−HClによって脱水縮合し、中間体を得る。この中間体のBoc基を除去した後、Boc基で保護されたグリシンの活性エステル(Boc−Gly−OSu)を添加して「化合物E(化E)」を得る。再び「化合物E」のBoc基を除去した後、もう一つの原料である「化合物B(化B)」と脱水縮合して、保護基が付加された前駆体を得、これを脱保護して、「化合物2b」を得る。
【0024】
(3−3)具体的な化合物2の合成例
(3−3−1)化合物2のXが(CH2)nで、かつRがアルギニル基の場合(「化合物2a−1」)は以下の工程で合成できる。
<反応式(4)>
〔反応式中、「Z基」は、ベンジルオキシカルボニル基の略である。〕
「化合物B(化B)」に対し、片端がBoc基などで保護された「化合物F(化F)」のα,ω-アルキルジアミン(例えばN−(Boc)−1,6ヘキサンジアミン)を脱水縮合させ、精製の後に「化合物G(化G)」で表される中間体を得る。
中間体「化合物G」を塩酸−酢酸エチルなどで酸処理しBoc基を脱保護し、塩酸塩としてアミン誘導体を得る。これをトリエチルアミンで中和し、トリス(カルボベンゾキシ)-L-アルギニンとEDC−HClで脱水縮合させて、保護基が付加された前駆体を得た後、接触水素化還元によりベンジル基、Z基を同時に脱保護することで「化合物2a−1」(X=(CH2)n、Rがアルギニル基)を製造することができる。
【0025】
(3−3−2)化合物2のXが(CH2)n、Rがリジル基の場合(「化合物2a−2」の場合)
上記(3−3−1)と同様な方法を用い、アミノ酸としてジ(カルボベンゾキシ)−L−リジンを用いることで、X=(CH2)n、Rがリジル基からなる「化合物2a−2」を得ることができる。
【0026】
(3−3−3)化合物2のXがCH2−CO−NH−(CH2)2、Rがアルギニル基の場合(「化合物2b−1」の場合)は、以下の工程で合成できる。
<反応式(5)>
すなわち、あらかじめ、N−Boc−1,2−ジアミノエタンとトリス(カルボベンゾキシ)−L−アルギニンをDMF中で、脱水縮合させて「化合物H(化H)」を得、これを塩酸−酢酸エチルで酸処理しBoc基を脱保護し、得られた塩酸塩をトリエチルアミンで中和後、N−(Boc)グリシンスクシンイミドエスエルを反応させることにより、「化合物I(化I)」で表される中間体を得る。これを塩酸−酢酸エチルで酸処理しBoc基を脱保護した後に、原料の1つである「化合物B(化B)」のポリメチレンカルボン酸モノベンジルエステル(m=12〜20)を添加し、脱水縮合、カラムクロマトグラフィによる精製後、保護基の付加された前駆体を得、接触水素化還元によってベンジル基、カルボベンゾキシ基を同時に脱保護することで「化合物2b−1」(XがCH2−CO−NH−(CH2)2、Rがグアニジン)を得る。
【0027】
4.複合ナノチューブの分散性向上に寄与する脂質化合物(凝集防止用脂質化合物)について:
(4−1)ポリオキシエチレン鎖を有する凝集防止用脂質(化合物3)の特徴
本発明の有機ナノチューブ形成性脂質(化合物1)及び核酸結合性脂質(化合物2)とからなる複合ナノチューブを核酸と混合して静電相互作用により核酸−チューブ結合体を形成させる際、凝集が生じやすい。これは両者の結合による、電荷の中和とサイズの増加に起因すると考えられる。この核酸−チューブ結合体を製造する際の凝集性を抑えるため(分散性を高めるため)に、下記式(3)のポリオキシエチレン鎖を有する脂質化合物(化合物3)を、化合物1及び化合物2とを混合して複合ナノチューブを製造する工程に添加して少なくとも3成分を含む複合ナノチューブを形成させることが好ましい(非特許文献11、12)。
<化学式3>(化合物3)
化合物3のアルキレン基(ポリメチレン基)鎖長のmは、化合物1及び2との混合により複合ナノチューブを形成させる点で、両者と同じ鎖長であることが好ましい。具体的には、m=12〜20の整数が好ましく、さらには、製造時の分散性の高さ、出来た複合ナノチューブの安定性の高さから、m=12〜18の整数がより好ましく、偶数であることがさらに好ましい。
pはオキシエチレン基の繰り返しを表すが、生成する複合ナノチューブへの導入効率や複合ナノチューブの分散性を高めるために、10〜200の整数であることが望ましい。pが200を超えると、水溶性の上昇にともなう相分離のために製造時に複合ナノチューブへの効率的な導入が困難になる。また10未満では複合ナノチューブの分散性の向上が期待できない。類似の現象がリポソームでも報告されている(非特許文献11,12)。すなわちオキシエチレン鎖の導入によって、リポソームの会合が抑制され分散性が向上すること。血漿中、オキシエチレン鎖の分子量が700〜2000(オキシエチレン基の繰り返しで16〜45)のリポソームで、タンパク質吸着が減少すること。さらにこの効果は分子量が5000程度(同114程度)で飽和し、1万以上(同227以上)では逆に減少することが報告されている。
また式中のYは水素原子又はメチル基を表す。
【0028】
(4−2)ポリオキシエチレン鎖を有する凝集防止用脂質(化合物3)の製造方法
ポリオキシエチレン鎖を有する凝集防止用脂質(化合物3)は、上記<反応式(1)>に示された有機ナノチューブ形成性脂質の合成方法(特許文献4の記載による)と同様の反応条件、具体的には室温でのEDC−HClを用いたカルボン酸成分とアミン成分の脱水縮合反応や接触水素添加による脱ベンジル化などの脱保護反応を適用して、以下の工程で合成できる。
すなわち、片端がベンジル基で保護された下記化学式(4)の化合物(下記反応式(6)の「化合物B(化B)」に相当)に対して、
<化学式(4)>
〔式中、mは化学式(3)と同じ意味を表す。〕
下記化学式(8)で示される片端がアミノプロピル基で修飾されたポリエチレンエチレン化合物を結合させ、
<化学式(8)>
〔式中、p及びYは化学式(3)と同じ意味を表す。〕
次いで、ベンジル基を除去することで、下記式(3)の化合物(化合物3)を得ることができる。
<化学式(3)>
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕
反応式で表すと以下の通りである。
<反応式(6)>
すなわち、「化B」で表されるポリメチレンカルボン酸モノベンジルエステル(m=12〜20)に、「化J」で表される片端アミノプロピル修飾型ポリエチレングリコール(p=45、Y=メチル基)を脱水縮合させ中間体を得る。ついで接触水素化還元によりベンジル基を脱保護することで化合物3を製造することができる。
【0029】
5.複合ナノチューブの製造
本発明の核酸導入のための核酸キャリアに適した複合ナノチューブは、化合物1及び2を含むものであり、好ましくはさらに化合物3を含む化合物1/2/3等の複数の脂質もしくはその薬理学的に許容される塩からなる組成物をイソプロパノール/水溶液あるいはエタノール/水溶液に加熱・溶解し、当該溶液からアルコールを蒸散させることによって製造することができる複合ナノチューブ状集合体からなる。当該複合ナノチューブは、細胞内導入しようとする核酸と静電的結合により核酸−チューブ結合体を形成することができ、細胞内に核酸を導入しその機能を発揮させるための核酸キャリアとして用いられる。したがって、ここで薬理学的に許容される塩というとき、核酸との静電的結合を妨げず、細胞毒性など生体への有害な作用を有しない任意の塩を指すが、具体的には塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、又は乳酸塩などがあげられる。
そして、複合ナノチューブを構成する各化合物の混合比を制御することにより、複合チューブ表面でのカチオン性基の密度を制御することができると共に分散性も制御できるから、複合チューブと核酸との結合性を制御して核酸導入効率を上げ、かつ細胞毒性を最小限に抑えることができる。
【0030】
(5−1)化合物1/2からなる複合ナノチューブの製造方法
上述の方法によって製造される化合物1/2を用いた複合ナノチューブの製造方法は以下の通りである。
化合物1と化合物2を10:1〜2:1のモル比で調整した混合物の固体をエタノール/水溶液、イソプロパノール/水溶液等に溶解後、窒素ガス、アルゴンガス、乾燥空気などを吹き込むか、あるいはロータリーバキュームエバポレターによる減圧濃縮によって低沸点のアルコール類を室温あるいはそれ以下の温度で優先的に留去することにより複合ナノチューブを製造できる(非特許文献13)。
混合比は上記の範囲であれば効率的に複合化できるが、より均質なチューブ状形態を保持するためには、特に化合物1、2のm=18の場合、5:1前後が望ましい。
【0031】
(5−2)化合物1/2/3からなる複合ナノチューブの製造方法
上述の化合物1/2/3からなる複合ナノチューブを製造する際、化合物1を含む溶液に化合物2及び化合物3を混合することで、オキシエチレン鎖とカチオン性官能基の両方を表面にもつ複合ナノチューブを構築できる(非特許文献13)。オキシエチレン鎖によって複合ナノチューブの水への分散性が向上する。特に複合ナノチューブと核酸とを混合した際に、両者の凝集による沈殿が生じやすくなるが、オキシエチレン鎖が存在することにより、この沈殿を防ぐことが可能である。化合物3の混合比を増やすと分散性が向上するが5モル%を超えた添加による分散性の向上は見られない。また、5モル%を超えると部分的に化合物3が複合ナノチューブから分離し始め、別の形態が観察されることになる。
混合比は、化合物2のXが(CH2)n(n=2〜6)の整数の場合、化合物1:化合物2:化合物3=63:32:5〜87:8:5(モル比)であることが望ましい。また特に化合物1〜3において、mが全て18の場合、核酸の結合量がより多く、かつ遺伝子発現をより効率的に起こさせるためには、77:18:5〜81:14:5、特に79:16:5前後が最も望ましい。
また化合物2のXがCH2−CO−NH−(CH2)2の場合、化合物1:化合物2:化合物3=75:20:5〜87:8:5(モル比)の範囲であることが望ましい。混合比は上記の範囲であれば効率的に複合化できるが、特に化合物1〜3において、mが全て18の場合、核酸の結合量がより多く、かつ遺伝子発現をより効率的に起こさせるためには77:18:5−81:14:5、特に79:16:5前後が望ましい。
複合ナノチューブの長さを短くすることは、核酸−チューブ結合体の分散性を向上させ、かつ効率的に細胞膜を透過させるために重要である。今回用いた複合ナノチューブの場合、水分散液の超音波処理によって、未処理前の最長10μmから約100nmまで短尺化するごとが可能である。
本発明では複合チューブの分散性を高めるため、超音波処理によって約100nm〜5μmの長さとすることが、また効率的に細胞膜を透過するためには約100nm〜2μm程度に調製することがより好ましく、さらに約100nm〜800nm程度がさらに好ましい。
【0032】
6.複合ナノチューブの評価
複合ナノチューブ中での脂質成分の均質性については、上述の混合比の範囲内で化合物1/2,化合物1/2/3からなる複合ナノチューブを形成し、それ以外の形態を形成していないことを走査型顕微鏡観察における透過像などから確認した。リンタングステン酸などを用いたネガティブ染色処理したサンプルでは、チューブ内空間が黒く染色され、これによってチューブ状構造が確認できる。(非特許文献9などに記載の方法による。)
オキシエチレン鎖を有する化合物3の導入による複合ナノチューブの分散性の向上効果は、化合物1/2/3および1/2からなる複合ナノチューブと同じ濃度条件での、410〜540nmでの濁度を測定することで確認した。
【0033】
7.本発明の複合ナノチューブの核酸キャリアとしての使用
本発明の複合ナノチューブは、核酸と静電的に結合して細胞内へ核酸を運搬し、かつ細胞内で核酸を離し、核酸本来の機能(例えば遺伝子発現)を発揮させることができる。すなわち、細胞内への核酸導入用の核酸キャリアとして用いることができる。
したがって、ここにいう「核酸」とは本発明のカチオン性の複合ナノチューブと静電的に結合可能であればよく、DNAに限らずRNAも含み、生体内の生理活性を有する大きなサイズの遺伝子(例えば、遺伝子疾患での欠損、欠落を補うための各種ホルモンやサイトカイン類の遺伝子や、免疫作用増強のための抗原ポリペプチド遺伝子など)であってもよく、反対にRNA干渉(RNAi)機構やアンチセンス機構で作用させるためのsiRNA、miRNAや、アンチセンスオリゴヌクレオチドなどの短い核酸断片であってもよい。典型的には遺伝子治療用の核酸であり、通常は、これらの核酸はプラスミドベクターなど適切なベクターに繋いだ状態で用いられるが、遺伝子ワクチン接種又はアンチセンス治療の場合には裸の核酸を用いることがある。そして、核酸の種類としては一般にはDNAを指すが、RNAを用いる場合もある。
また、本発明で「細胞」とは、典型的にはヒトを含む哺乳動物細胞を指す。インビトロでの培養細胞であってもよいが、遺伝子治療用の場合、生体を構成する組織、臓器内の細胞や、血液など体液中の血球細胞やリンパ球細胞などの免疫細胞、及び肺癌細胞などの癌細胞が対象となる。その際、生体内へ直接導入することも可能であるが、一旦取り出した細胞に本発明の核酸キャリアを用いた遺伝子導入法を施し、再度生体内に戻してもよい。
【0034】
8.核酸−チューブ結合体の製造方法
核酸と本発明の複合ナノチューブとを混合すると、核酸中のアニオン性のリン酸基とチューブ表面のカチオン性のアミノ基やグアニジン基の静電的な相互作用によって両者が結合する。実際に得られた結合の光学顕微鏡観察からは、チューブ状形態はそのままで、これらが束状に会合した形態が得られている。またこの複合ナノチューブと核酸のポリイオンコンプレックスの形成は、ポリアクリルアミド電気泳動において、フリーの核酸の泳動バンドが消失することで確認できる。
また蛍光色素(YOYO−1(491nm励起、509nm発光)で染色したDNAと複合ナノチューブを混合後、レーザー共焦点顕微鏡によってチューブ形態の観察像(微分干渉モード)と、DNAの蛍光像との一致により確認できる(非特許文献14による)。
核酸キャリアの重要な働きの一つは、複合化あるいはカプセル化によって核酸を分解酵素による分解反応から保護することである。この評価は、例えばDNAの場合、DNA分解酵素(DnaseI)などを添加したときの、DNA分解の様子を260nm付近での吸光度変化によって評価すればよい(非特許文献15による。)。これはDNAが二重らせん構造で塩基同士がスタックしている場合には、淡色効果をもつが、これが分解されるとスタックが無くなり、淡色効果が消失して、結果として吸光度が増大することに起因するものである。
【0035】
9.細胞への核酸−チューブ結合体の導入、遺伝子の発現とそれらの確認
細胞への導入は、市販の細胞導入剤を用いた場合と同様の手法(非特許文献16による。)を用いることができた。すなわち、細胞をDMEM培地などで培養後、DNA−チューブ結合体を添加し、1〜2時間培養後、余分の結合体をPBSバッファーで必要に応じて数回洗浄・除去することによって行った。
導入の確認は、レーザー共焦点顕微鏡(CLSM)によって確認できる。すなわちあらかじめ複合ナノチューブとDNAそれぞれを蛍光色素ローダミンBおよびYOYO−1で染色した。これを用いてDNA−チューブ結合体を形成させたのち、上述のような方法で細胞に導入する。導入後、CLSMを用いた蛍光像観察によって複合ナノチューブ、DNA、細胞の所在を明かにして、細胞中に取り込まれていることを確認する。
細胞への導入量の半定量的な解析は、フローサイトメトリーによって行なった。すなわち細胞への結合体の導入後、細胞外にある余分な結合体を上記により洗浄除去後、フローサイトメトリーによってYOYO−1染色DNAからの蛍光を測定することで行うことができる。
【0036】
10.細胞での遺伝子発現の確認
レポーター遺伝子からのタンパク質発現の確認は遺伝子によって発現したルシフェラーゼの発光強度、あるいはGFPの蛍光強度などで定量的に評価されることが多い。本実施例では発現したGFPの蛍光で確認した。すなわち、上述の様に細胞をDMEM培地などで培養後、GFPレポーター遺伝子(プラスミドベクターpEGFP)からなるDNA−ナノチューブ結合体を添加し、24時間程度培養することで遺伝子の核内への移行およびタンパク質(GFP)の発現を行った。この後、GFPからの蛍光蛍光をフローサイトメトリーによって半定量的に評価することができる。
また定量性はないが、レーザー共焦点顕微鏡(CLSM)によっても細胞中、GFPが発現したことを確認した。
【0037】
11.細胞毒性の確認
細胞毒性については、核酸−チューブ結合体を添加、一定時間培養後、細胞数あるいはそれにかわるもの(細胞内タンパク質量、ミトコンドリアの活性など)を測定し、対照実験として、何も加えない系や市販の遺伝子導入剤等と比較することで行うことが出来る。その際の測定法としては、典型的には細胞のミトコンドリアの活性を測定する方法(MTTアッセイ法、非特許文献17)を用いることができる。本実施例では、細胞にDNA−チューブ結合体を添加・培養後、細胞を破壊し、総タンパク質の量を上記方法に従って定量した。
【0038】
12.本発明の遺伝子治療用組成物について
本発明の核酸キャリアは、上記7.で述べたように、遺伝子治療用の核酸を有効量含む状態の核酸−チューブ結合体として、薬理学的に許容される担体と共に遺伝子治療用組成物とすることができる。なお、遺伝子治療用組成物というときには、遺伝子ワクチン組成物も含む。
ここで、薬学的に許容される担体とは、希釈剤又は賦形剤、例えば、水又は生理的許容される緩衝液を含む。
本発明の遺伝子治療用組成物は、錠剤などの経口投与も可能であるが、静脈経由若しくは直接患部への注射、外用剤などの非経口的に投与することもできる。
本発明の遺伝子治療用組成物を患者に投与する際の投与量は、用いる核酸の種類、医療対象の患者の年齢、体重及び病状、投与経路などに従い適宜決めることができるが、典型的には、1回の投与当たりの核酸の有効量としては、1μg〜1g、好ましくは100μg〜10mgの範囲である。
【0039】
13.その他
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はJ. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995;日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA技術)」、東京化学同人 (1992); R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 68 (Recombinant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology ", Vol. 100 (Recombinant DNA, Part B) & 101 (Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 153 (Recombinant DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 155 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New York (1987)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。また、本発明で使用する各種蛋白質やペプチド、あるいはそれらをコードするDNAについては、既存のデータベース(URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/等)から入手することができる。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【実施例】
【0040】
次に本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)化合物2(m=18、Xが(CH2)6−NH、Rはアルギニル基)の合成
<反応式7>
ジクロロメタン中、反応式(2)などの化合物B(m=18)で表される化合物であるベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(2g、4.63ミリモル)にN−Boc−1,6−ヘキサンジアミン(1.1mL、4.88ミリモル)を混合し、EDC−HCl(1g、5.21ミリモル)を添加し室温で2時間撹拌することでカップリングを行った。溶媒を留去後、固体を10体積%の水を含むメタノール(80mL)で再結晶し、反応式(4)での化合物G(n=6)に相当する中間体を粉末として得た(2.5g、86%)。
得られた固体をジクロロメタンに溶解後、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(20mL)で処理することにより、Boc基を脱保護して得たアミン体の塩酸塩(1g、1.76ミリモル)、Z−Arg(Z)2−OH(1.19g、2.0ミリモル)、EDC−HCl(440mg、2.3ミリモル)をジクロロメタンに溶解し、0℃に冷却後、トリエチルアミン(200μL)を添加した。徐々に昇温し、72時間室温で撹拌したのち、溶媒を留去し、熱メタノールに溶解後、冷却することで固体として保護基の付いた化合物2の前駆体を得た。これをDMFに溶解し、パラジウム炭素(10%)を用いて12時間、接触水素化還元した後、セライトでろ過し、化合物2を得た(800ミリグラム、76%)。
この化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)を図1に示す。
【0041】
(実施例2)化合物2(m=18、Xが(CH2)2−NH、Rはアルギニル残基)の合成
<反応式8>
ジクロロメタン中、ベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(化合物B、m=18)(2.5g、5.8ミリモル)にN−Boc−1,2−ジアミノエタン(0.99mL、6.3ミリモル)を混合し、EDC−HCl(1.3g、6.7ミリモル)を添加し室温で3時間撹拌することでカップリングを行った。溶媒を留去後、固体を10体積%の水を含むメタノール(80mL)で再結晶し、反応式(4)での化合物G(n=2)に相当する中間体を粉末として得た(3.0g、91%)。
得られた固体をジクロロメタンに溶解後、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(20mL)で処理することにより、Boc基を脱保護して得たアミン体の塩酸塩(0.650g、1.27ミリモル)、Z−Arg(Z)2−OH(0.80g、1.38ミリモル)、EDC−HCl(300mg、1.56ミリモル)をジクロロメタンに溶解し、0℃に冷却後、トリエチルアミン(180μL)を添加した。徐々に昇温し、72時間室温で撹拌したのち、溶媒を留去し、熱メタノールに溶解後、冷却することで固体として保護基の付いた化合物2の前駆体を得た(0.950g、75%)。これをDMFに溶解し、パラジウム炭素(10%)を用いて12時間、接触水素化還元した後、セライトでろ過し、化合物2を得た(410ミリグラム、83%)。
この化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)を図2に示す。
【0042】
(実施例3)化合物2の合成、(m=18、XがCH2−CO−NH−(CH2)2、Rがアルギニル基であるもの)
<反応式9>
Z−Arg(Z)2−OH(2g、3.46ミリモル)とN−Boc−1,2−ジアミノエタン(580マイクロリットル、3.54ミリモル)をジクロロメタンに溶解したのち、0℃に冷却し、EDC−HCl(800mg、4.0ミリモル)を加えた。徐々に室温に戻した後、3時間撹拌し、溶媒を留去した。得られた固体は、メタノール中で再沈殿して、白色固体として反応式(5)における化合物Hで表される化合物を得た(2.1g、84%)。これをジクロロメタン/メタノールに溶解し、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(15mL)を加えて室温で1時間撹拌した。溶液は減圧濃縮したのち、エチルエーテルで再沈殿して化合物Hの脱Boc化したアミン体の塩酸塩を得た(1.8g、92%)。この塩酸塩(1.2g、1.83ミリモル)をジクロロメタンに溶解後、N−Boc−グリシン−スクシンイミドエステル(0.50g、1.84ミリモル)とトリエチルアミン(0.26ミリリットル、1.9ミリモル)を添加し2時間撹拌した。反応液を減圧濃縮したのち、シリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:クロロホルム/メタノール=20/1、体積比)で精製し同化合物Iで表される化合物を得た(1.1g、収率77%)。これをジクロロメタンに溶解し、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(15mL)を加えて室温で1時間撹拌した。溶液は減圧濃縮したのち、エチルエーテルで再沈殿して脱Boc化したアミン体の塩酸塩を得た(0.82g、74%)。さらにこの塩酸塩(0.82g、1.15ミリモル)、化合物B(m=18、0.47g、1.1ミリモル)、EDC−HCl(0.24g、1.25ミリモル)をジクロロメタン中に溶解し、室温で48時間撹拌した。その後、溶媒を留去し、熱メタノール溶液から再沈殿すると、白色沈殿として保護基の付いた化合物2の前駆体を得た。これをDMFに溶解しPd/Cを添加し6時間接触水素還元を行った後、セライトを用いてPd/Cを除去した。反応液を減圧濃縮後、ジエチルエーテルで再沈殿して化合物2を得た(0.55g、84%)
この化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)を図3に示す。
【0043】
(実施例4)化合物2(m=18、Xが(CH2)6−NH、Rはリジリル残基)の合成
<反応式10>
ジクロロメタン中ベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(化合物B)(2g、4.63ミリモル)にN−Boc−1,6−ヘキサンジアミン(1.1mL、4.88ミリモル)を混合し、EDC−HCl(1g、5.21ミリモル)を添加し室温で2時間撹拌することでカップリングを行った。溶媒を留去後、固体を10体積%の水を含むメタノール(80mL)で再結晶し、反応式(4)において化合物G(n=6)で表される中間体を粉末として得た(2.5g、86%)。
これをジクロロメタンに溶解後、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(20mL)で処理することにより、化合物8(n=6)の塩酸塩を得た(2.1g、94%)。
化合物8の塩酸塩(0.5g、0.88ミリモル)、Z−Lys(Z)−OH(0.40g、0.97ミリモル)、EDC−HCl(200mg、1.0ミリモル)をジクロロメタンに溶解し、0℃に冷却後、トリエチルアミン(140μL)を添加した。徐々に昇温し、72時間室温で撹拌したのち、溶媒を留去し、熱メタノールに溶解後、冷却することで固体として保護基の付加された化合物2の前駆体を白色固体として得た(0.68g、84%)。これをDMFに溶解し、パラジウム炭素(10%)を用いて6時間、接触水素化還元した後、セライトでろ過し、溶媒を留去後、エタノールから再沈殿して化合物2を得た(45ミリグラム、10%)。
DMSOに溶解しにくいため、NMRデーターはない。
【0044】
(実施例5)化合物2(m=18、Xが(CH2)2−NH、Rはリジリル残基)の合成
ジクロロメタン中、ベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(化合物B)(2.5g、5.8ミリモル)にN−Boc−1,6−ヘキサンジアミン(0.99mL、6.3ミリモル)を混合し、EDC−HCl(1.3g、6.7ミリモル)を添加し室温で3時間撹拌することでカップリングを行った。溶媒を留去後、固体を10体積%の水を含むメタノール(80mL)で再結晶し、反応式(4)において化合物G(n=2)で表される中間体を粉末として得た(3.0g、91%)。
得られた固体をジクロロメタンに溶解後、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(20mL)で処理することにより、この塩酸塩を得た(2.38g、90%)。この塩酸塩(0.5g、0.98ミリモル)、Z−Lys(Z)−OH(0.42g、1.0ミリモル)、EDC−HCl(0.23g、1.2ミリモル)をジクロロメタンに溶解し、0℃に冷却後、トリエチルアミン(140μL)を添加した。徐々に昇温し、72時間室温で撹拌したのち、溶媒を留去し、熱メタノールに溶解後、冷却することで固体として保護基の付加された化合物2の前駆体を白色固体として得た(0.69g、81%)。これをDMFに溶解し、Pd/C(10%)を用いて6時間、接触水素化還元した後、セライトでろ過し、溶媒を留去後、エタノールから再沈殿して化合物2を得た(270ミリグラム、66%)。
この化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)を図4に示す。
【0045】
<反応式11>
【0046】
(実施例6)化合物3(m=18、pが約45、Yはメチル基)の合成
<反応式12>
ベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(m=18,反応式(6)における化合物B)(0,20グラム、0.463ミリモル)と同化合物J(日油社製SUNBRIGHT MEPA−20H、分子量1000、pは約45、Yはメチル基。1g、0.458ミリモル)をジクロロメタンに室温で溶解後、EDC−HCl(0.106mg、0.55ミリモル)を加えた。24時間撹拌後、反応溶液を留去し、シリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:クロロホルム)で単離精製しベンジル基で保護された化合物3の前駆体を得た。
当該前駆体をメタノール中、Pd/Cで接触水素還元し、得られた固体をジエチルエーテルで再沈殿し、白色固体として化合物3を得た(0.80g、70%)。
この化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)を図5に示す。
【0047】
(実施例7)複合ナノチューブの調製(図6,7)
(7−1)化合物1/2および化合物1/2/3からなる複合ナノチューブの場合(化合物2のXが(CH2)6、Rがアルギニルの場合)
化合物2(6mg)、化合物3(10mg)、また必要に応じて化合物3(3.75mg)を10mLのイソプロピルアルコール/滅菌水混合液(1/1、体積比)に加熱溶解する。その後、室温でアルゴンガスを吹き込み、イソプロピルアルコールを除去して、複合ナノチューブを得た。この分散液に滅菌水を添加し10mlに再調製した。電子顕微鏡観察の結果、外径約40〜60nm、長さ500nm〜数百μm程度の複合ナノチューブが得られた(図6a、c)。また超音波処理によって外径約40〜60nm、長さ500nm〜2μm程度の複合ナノチューブに変化した(図6b、d)。用いた化合物はすべてm=18、化合物3:p=約45、Y=メチル基である。
得られたこれらの複合ナノチューブは1週間、4℃の保存でも安定な分散液であった。また得られたチューブのゼーター電位は、45.5、37.7mV(それぞれ化合物1/2、化合物1/2/3の複合ナノチューブ)といずれも正に帯電しており、DNAとの結合が可能である。
【0048】
(7−2)上述の化合物1/2/3で、化合物2のXが(CH2)2の場合
上述の方法により、外径約40〜60nm、長さは超音波処理に依存して変化し、200nm〜2μm程度の複合ナノチューブを得た(図6e、f)。
【0049】
(7−3)上述で化合物2のXがCH2−CO−NH−(CH2)2の場合
上述の方法により、外径約40〜60nm、長さは超音波処理に依存して変化し、100nm〜1μm程度の複合ナノチューブを得た(図7a、b)。
【0050】
(7−4)化合物2のXが(CH2)6、Rはリジル基の場合。
化合物1(10mg)、化合物2(5.7mg)を10mLのイソプロパノール/滅菌水混合溶液(1/1、体積比)に分散した。100マイクロリットルの0.1規定塩酸溶液でpHを中性付近に調整したのち、加熱溶解した。その後、アルゴンガスを吹き込み、イソプロピルアルコールを除去して、複合ナノチューブを得た。外径約40〜60nm、長さ100nm〜1μm程度の複合ナノチューブを得た(図7c)。
【0051】
(7−5)上述で化合物2のXが(CH2)2の場合。
化合物1(10mg)、化合物2(5.1mg)を10mLのイソプロパノール/滅菌水混合溶液(1/1、体積比)に分散した。50マイクロリットルの0.1規定塩酸溶液でpHを調整したのち、加熱溶解した。その後、アルゴンガスを吹き込み、イソプロピルアルコールを除去して、複合ナノチューブを得た(図7d)。
【0052】
(実施例8)オキシエチレン鎖を有する複合ナノチューブの分散性評価(図8)
化合物3を化合物1/2からなる複合ナノチューブに導入することによって、オキシエチレン鎖をチューブ表面に導入し、複合ナノチューブの分散性をさらに向上させることができる。この効果を、化合物1/2(いずれもm=18。化合物2:(CH2)6、R:アルギニル基、混合モル比1:2)および1/2/3(上記に加えて化合物3:m=18、p=45、Y=Me、混合モル比=63:32:5)からなる複合ナノチューブの同じ濃度条件での、400〜500nmでの濁度を測定することで評価した(図8と表1)。その結果、いずれの波長でも、化合物3を含む複合ナノチューブの方が濁度が低く、このことからオキシエチレン鎖の導入によって分散性を向上できることを確認できた。
【0053】
<表1> 複合ナノチューブの濁度による分散性評価
【0054】
(実施例9)DNAと複合ナノチューブの結合性評価(図9,10、11)
pEGFP−C1 DNA(1μg)を化合物1/2(いずれもm=18、化合物2:X=(CH2)6−NH、R=アルギニル。混合モル比=2:1)の複合ナノチューブあるいは化合物1/2/3(上述に加えて化合物3:m=18、p=45、Y=OH、混合モル比=63:32:5)の複合ナノチューブ溶液を、Arg/P(アルギニン残基モル数/DNA中のリン酸基モル数)を1〜8に変化させて水中で混合した。5分後にアガロースゲル電気泳動によってその結合性を検討した結果を図9に示す。化合物1/2の複合ナノチューブとDNAの結合では、Arg/P=3でほとんどのDNAが泳動されずに原点にとどまっているため、この比率で完全に結合していることを示している(図9上段図)。一方、DNA−化合物1/2/3の複合ナノチューブの系ではDNAとの結合は、Arg/P=4でほぼ完全に結合することを示している(図9下段図)。
DNAとの結合後も、チューブの形状を保持していることを走査型透過電子顕微鏡で確認した(図10)。
さらにDNAと複合ナノチューブとの結合特性を評価するために、YOYO−1で蛍光染色したDNAと複合ナノチューブの錯形成結合後の共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)による観察を行った。YOYO−1染色DNAについて上記実施例と同様な手法で複合ナノチューブと結合会合(Arg/P=8)させて、CLSMによってDNAからの蛍光像、また明視野像を観察した。その結果、図11に示すように複合ナノチューブの輪郭にそって蛍光を与えることがわかった。化合物1/2の複合ナノチューブとDNAの複合結合体では、チューブ同士の、会合に由来する幅の太い複合ナノチューブの束(大きさ:約1ミクロンメートル)を形成したのに対し、化合物1/2/3の複合ナノチューブとDNAの結合体複合では、そのような幅の太いバンドル形成は確認されていない。この点から、DNA−チューブ結合体においても化合物3の添加による分散性の向上が確認できる。
【0055】
(実施例10)DNA−チューブ結合体における保護機能(図12)
核酸キャリアの重要な役割の一つは、細胞質内においてDNAを分解酵素などに由来する分解反応から保護することである。そこで、DNase Iに対する分解耐性について検討した。用いたDNA−チューブ結合体は、上述で調整したものを用いた。その結果、図12に見られるようにDNase Iの添加5分後まで、化合物1/2/3の複合ナノチューブからなる結合体では、はDNAの若干の分解に伴う吸収の減少を示したが、その後はほぼ一定であった。これは市販のLA2000の場合とほぼ同様であった。また化合物1/2の複合ナノチューブの系では、DNaseの混合に由来する凝集を示し、濁度はむしろ低下してしまうため十分な評価が出来なかった。これは、測定中に用いたトリスバッファーによる塩析効果だと思われる。化合物1/2および1/2/3の複合ナノチューブの差はオキシエチレン鎖の有無だけであるので、凝集を生じる1/2の系についても同様に酵素分解反応からの保護機能があると期待できる
またこの結果も図8の濁度による分散性評価と同様に、オキシエチレン鎖の導入によってDNA−チューブ結合体の分散性が向上することを意味している。
【0056】
(実施例11)DNA−チューブ結合体の細胞への取り込み(図13)
細胞への取り込みは、DMEM培地(Dulbecco‘s Modified Eagle Medium: ダルベッコ改変イーグル培地)にFBS(ウシ胎児血清)10%、ストレプトマイシン100μg/mlを添加したものを用い、37℃、5% CO2雰囲気に調製した細胞培養器を用いた。対照実験として、市販のLA2000について同様のプロトコルで評価した。
用いた複合ナノチューブは、化合物1/2(いずれもm=18、化合物2:X=−(CH2)6−NH−、R=アルギニル。混合モル比=1:2)あるいは化合物1/2/3(上述に加えて化合物3:m=18、p=45、Y=OMe、混合モル比=63:32:5)で、それぞれ超音波未処理、あるいは処理後のものである。
KB細胞(ヒト咽頭癌細胞)を250000 cells /wellの濃度で、上記の2 mlのDMEM培地(35mm培養皿)に分散し、37℃で24時間培養した。その後培養液を除去し、YOYO−1でDNAを蛍光ラベルしたDNA−チューブ結合体を添加した。詳細な条件としては、2μg、10μLのYOYO−1ラベル化DNAをLA2000(+/−=3/1)の比率で加えたもの、また同様にして化合物1/2の複合ナノチューブを加えたもの(Arg/P=8/1)、化合物1/2/3の複合ナノチューブを加えたもの(Arg/P=8/1,5/1)を調製した。これらのDNA−チューブ結合体を上記のDMEM培地で1mlに希釈し、細胞に添加した。37℃で、5% CO2雰囲気で2時間培養した後、培地はPBSバッファーで2回洗浄し、Aqua Poly/mount ポリサイエンスInc.製,Warrington,米国ペンシルバニア)にマウントした。
図13に示す様に化合物1/2の複合ナノチューブから調製したDNA−チューブ結合体(Arg/P=8)では、複合ナノチューブからのローダミンBからの蛍光、またDNAからのYOYO−1の蛍光いずれも、高い蛍光強度を示すことから、DNA−チューブ結合体が高い細胞への取り込みを示すことがわかった。
【0057】
(実施例12)取り込みの半定量的評価(図14)
DNA−チューブ結合体(Arg/P=8/1)を培養細胞(KB細胞、A549細胞)に添加し、2時間培養した。その後、過剰なナノチューブをヘパリン含有のPBS(20U/ml)緩衝液で三回洗浄した。その後、フローサイトメトリー用緩衝液に分散後、フローサイトメトリーを用いてDNA−チューブ結合体中のYOYO−1修飾DNAの蛍光でモニターすることにより、細胞内に取り込まれたDNA−チューブ結合体の量について半定量的な評価を行った(図14)。その結果、特に化合物1/2の複合ナノチューブからなるDNA−チューブ結合体が、いずれの細胞にも高効率な取り込みを示していた。特にKB細胞においては、LA2000を上回るものであった。また、超音波処理をした短い複合ナノチューブの場合の方が、未処理のそれよりも高い取り込み効率を示した。これらの点から、複合ナノチューブのオキシチレン鎖の有無や、チューブの長さによって細胞への遺伝子導入効率が制御できることがわかった。
【0058】
(実施例13)細胞での遺伝子発現評価 (図15、16,17)
KB、A549細胞を250000cells/wellの濃度で、上記の2mlのDMEM培地(35mm培養皿)に分散し、37℃で24時間培養した。その後培養液を除去し、DNA−チューブ結合体を添加した。37℃で、5% CO2雰囲気で24時間培養した後、フローサイトメトリー用緩衝液に分散後、フローサイトメトリーを用いて発現したGFPからの蛍光でモニターすることにより、遺伝子発現量について半定量的な評価を行った(図15)。用いた複合ナノチューブは、化合物1/2、混合モル比=2:1)の複合ナノチューブあるいは化合物1/2/3(混合モル比=63:32:5、ただしX=CH2−CO−NH−(CH2)2の場合のみ79:16:5)で、それぞれ超音波未処理、あるいは処理後のものをDNAと結合させて用いた。
その結果、KB細胞におけるGFPの発現量はいずれの複合ナノチューブを用いた場合でもLA2000とほぼ同等であることがわかった。ただしA549細胞ではGFPの発現はあるものの、LA2000よりも若干低いことが示唆された。
【0059】
図16、17は、上述の遺伝発現実験において得られた細胞の導入遺伝子発現によって発現された緑色蛍光タンパク(GFP)を同一の観察条件で蛍光顕微鏡により可視化、観察したものである。細胞にそって蛍光像を与えることから、導入したGFPの遺伝子がタンパク質として細胞内で発現していることを示している。すなわちDNA−チューブ結合体が、細胞質や核に移行することによって遺伝子発現することを強く示唆している。
【0060】
(実施例14)DNA−チューブ結合体の細胞毒性 (図18)
市販品のリポフェクタミンは2マイクログラムのDNAと図に表記の荷電比、あるいはアルギニン/リン酸基の割合で混合した。リポフェクタミンは+/−=3、複合ナノチューブではArg/P=8で混合した。混合時間は5分から30分であり、その後、細胞に添加した。添加24時間後、培地を除き、余分なDNA−チューブ結合体やリポフェクタミンを除くため、20ユニット/mLのヘパリンで細胞を2回洗浄した。細胞は250μLのLysisバッファーでカバーして、10分間室温で培養した。細胞を粉砕し、その溶液は1.5ミリLのチューブに移した。これを−80℃に凍結し、室温に戻すことで、細胞を完全に壊した。12000gで5秒間遠心分離後、上澄を単離し、BCA法によってタンパク質の量を定量する方法により細胞の毒性として比較した。BSAを検量線とした。
用いた複合ナノチューブは、化合物1/2(いずれもm=18、R=アルギニル。混合モル比=2:1)あるいは化合物1/2/3(上述に加えて化合物3:m=18、p=45、Y=OMe、混合モル比=63:32:5、ただしX=CH2−CO−NHの場合のみ79:16:5)で、それぞれ超音波未処理、あるいは処理後のものである。
その結果、同じDNAの濃度では、LA2000も複合ナノチューブもほぼ同じタンパク質量であり、毒性はほとんどないことが明らかとなった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子など核酸のキャリアとして好適な複数の脂質化合物を構成成分とする自己集合性の有機ナノチューブ(複合ナノチューブ)及び当該複合ナノチューブを用いた核酸の細胞内導入方法に関する。また、前記複合ナノチューブを形成する構成成分となる新規な脂質化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外因性遺伝子を細胞内に導入することは、遺伝子治療や組換えタンパク質生産などの点から重要な技術である。しかし核酸物質からなる遺伝子は細胞を含む溶液中では、ヌクレアーゼによって急速に分解され、細胞への取り込みが著しく低下する。またリン酸基に由来するポリアニオン性の物質であるため、負電荷を有する細胞膜とは相互作用が少なく、経膜透過が困難である。このためin vivoおよびin vitroにおけるDNA,RNA、およびオリゴヌクレオチドの送達を改善するための核酸キャリアの開発が大きな課題となっている。
これまでに開発されてきた核酸キャリアは、ウイルス系、非ウイルス系に大別できる。このうちウイルス系は高い遺伝子発現効率を示すが、宿主の免疫反応、感染等の安全性に問題があることが多い。このため使用が厳しく制限される。
一方、非ウイルス系キャリアは容易に生産でき、免疫反応や感染等のリスクが非常に低い利点がある。このため様々な人工的な遺伝子キャリアが開発されてきた。これらは、遺伝子のリン酸基などと静電的に相互作用してイオン性複合体を形成するためのカチオン性官能基を含む。例えばポリアミンを修飾した高分子リン脂質誘導体からなるベシクル(市販品Lipofectamine2000としてインビトロジェン社から市販されている)、ポリ−L−リジン、ポリ−L−オルニチンやポリエチレンイミン、キトサンなどのカチオン系高分子誘導体ミセル、また制御された多分岐構造をもつポリアミドアミンなどのカチオン系デンドリマーが報告されている(特許文献1,2,3)。これらは非ウイルス性という利点はあるものの、ポリアミン等の細胞毒性が認められるもあり、安全性の問題がある。
上述のキャリアは球または粒子状の形状であるが、それ以外の特異な形状をもつキャリアとして、カーボンナノチューブ、シリカナノチューブ等も遺伝子導入剤として報告されている。これらはカチオン性官能基で被覆した単層および多層カチオン性カーボンナノチューブを用いている(非特許文献1〜3)。またシリカからなるナノチューブにシランカップリング剤を用いてアミノ基を修飾したキャリアも報告されている(非特許文献4)。
しかしながら、これら無機物質系のナノチューブ類の場合は全体が共有結合で構成されているため、細胞へ導入後の分解が困難であり、安全性の問題が残る可能性がある。
【0003】
これに対して、分子の自己集合によって製造できるナノチューブ系キャリアが各種開発されており、これらの自己集合系ナノチューブの場合は、非共有結合性のため細胞内での分解性に優れる利点をもつことが期待されている。しかし、これらナノチューブ類が核酸類との結合体として細胞内に核酸輸送可能であることの報告は多数あるが、未だに細胞内での遺伝子発現や遺伝子抑制効果など、実際に細胞内に導入された核酸本来の機能、活性が確認された例は少なく、特にタンパク質の発現に必要な数百程度の塩基配列を有する遺伝子など大きな核酸分子からの発現に成功した例は全くない。核酸キャリアとしての効果は限定的であると考えられる。
例えば、カチオン性フェニルアラニルアラニン誘導体が自己集合によって形成するナノチューブ(非特許文献5)の場合は、濃度によってナノチューブとベシクル構造(球形)に変化する性質を持ち、細胞と混合後の実際の核酸の送達時においてはベシクル構造の状態で取り込まれることがわかっているので、厳密には自己集合系ナノチューブキャリアとはいえず、遺伝子の発現の確認もなされていない。用いられた核酸分子もシングルストランドの短いDNAのみである。
また、脂質分子と核酸との複合化によるファイバー状構造体(非特許文献6)の場合も、RNAとの複合体が細胞に導入できたことが確認されているだけで、導入された核酸の機能の発現は全く確認や評価がなされていない。
ペプチド性ブロック共重合体の自己集合からなるナノファイバー系材料を用いた例(非特許文献7)では、23残基のsiRNAとの結合体が、細胞内に導入され機能したことが報告されているが、機能の発現が確認されたのは細胞質中での低分子量のDNAやRNA断片のみであり、分子量の大きな遺伝子の発現も、また核内への核酸送達も確認できていない。
以上のことから、分子量の大きな遺伝子も含めた核酸を細胞内へ輸送することができるだけでなく、核酸を核内にまで送達させることができ、かつ細胞内で核酸本来の機能を効率的に発揮させることができるような優れた核酸キャリアとなる自己集合系ナノチューブの開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−522809号公報
【特許文献2】特開2002−515418号公報
【特許文献3】特開2005−247755号公報
【特許文献4】特許第4174702号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.Biancoら,Angewandte Chem.,2004、43、5242-5246.CNT
【非特許文献2】A.Biancoら,J.Am.Chem.Soc.,2005,127,4388-4396.CNT
【非特許文献3】Y.Liuら,Angewandte Chem.,2005,44,4782-4785.CNT
【非特許文献4】Y.C.Wu,Advanced Materials,2005,17,404-407.
【非特許文献5】J.Liら、Angewandte Chem.,2007,46,2431-2434.
【非特許文献6】J.H.Fuhrhop,H.Tank,Chemistry and Physics. of Lipids,1987,43,193-213.
【非特許文献7】M.Leeら, Angewandte Chem,2008,47,4525-4528.
【非特許文献8】T.Shimizu, M.Masuda,H.Minamikawa,Chemical Review,2004,105,1401-1443.
【非特許文献9】M.Masuda,T.Shimizu,Langmuir,2004,20,5969-5977.
【非特許文献10】N.Kameta,M.Masuda,N.Morii,T.Shimizu, Small,2008,4,561-565.
【非特許文献11】N.D.Santos, C.Allen And A.M. Biochimica Biophysica Acta 1768(2007)1367-1377.
【非特許文献12】F.K. Bedu-Addo, P.Tang, Y.Xu and L.Huang., Pharmaceutical Research 13(1996)710-717.
【非特許文献13】増田光俊、和田百代、亀田直弘、南川博之、清水敏美、第58回高分子学会年次大会予稿集、発表番号2K10、「有機ナノチューブ/PEG系高分子複合体の構築」。
【非特許文献14】Y. Takeda, N. Shimada, K. Kaneko, S. Shinkai, K. Sakurai,Biomacromolecules 8 (2007) 1178-1186
【非特許文献15】D. Putnam, A.N. Zelikin, V.A. Izumrudov, R. Langer,Biomaterials 24 (2003) 4425-4433
【非特許文献16】M. Walsh, M.Tangney, M.J. O'Neill, J.O. Larkin, D.M. Soden, S.L. McKenna, R. Darcy, G.C. O'Sullivan, C.M. O'Driscoll ,Molecular Pharmaceutics. 3 (2006) 644-653
【非特許文献17】G. Fotakis and J.A. Timbrell,Txocology Letters 160(2006)171-177
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、分子量の大きな遺伝子も含めた核酸を細胞内へ輸送することができるだけでなく、核酸を核内にまで送達させることができ、かつ細胞内で核酸本来の機能を効率的に発揮させることができるような優れた核酸キャリアとなる、自己集合系ナノチューブの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは以前から、親水部と疎水部を有する長尺状の自己集合性の脂質化合物を多種類合成してきたが(非特許文献8−10)、これら化合物のうち長鎖炭化水素鎖の両端に親水部が連結されている双頭型脂質であって、両端の親水部の大きさや種類が異なる「くさび形」の脂質から構成される有機ナノチューブの分散性が高いことを見出していた(非特許文献8)。その中でも特にグルコース糖残基の還元性末端にアミド結合を介して長鎖脂肪酸残基(炭素数6〜20)が連結された脂質、すなわち下記式(1)で表される脂質(化合物1)が、水中でも安定でかつ水分散性の高い、外径40〜50nm前後の有機ナノチューブを形成できることを見出して報告している(特許文献4、非特許文献9)。本発明者らは、当初からこの脂質の生体適合性を有する有機ナノチューブの水中での高い安定性及び分散性に着目し、医療用各種薬剤等の生理活性物質を生体に投与する際の除放性担体などの用途開発を進めており、薬剤キャリアとしての用いることができないかとその可能性を検討した。
<式(1)>(化合物1)
〔式中、mは12〜20の整数を表す。〕
【0008】
しかし、この有機ナノチューブは水中ではマイナスに荷電されるため、同様のマイナスの荷電をもつ薬剤、例えば核酸などとの結合が困難であり、また、細胞の表面も通常はわずかにマイナスに荷電していることから、そもそも単独では細胞の表面付近にまで近づきにくく、薬剤を細胞内へ運搬させる薬剤キャリアとして用いるためには改善が必要である。
そこで、本発明者らは、上記式(1)の脂質化合物(化合物1)に、何らかのカチオン性の両媒性の脂質化合物を組み合わせた複数成分からなる複合ナノチューブを形成させてみることを発想した。
本発明者らは、上記式(1)の脂質化合物と複合ナノチューブを形成し、かつ核酸との結合体を形成可能なカチオン性の両媒性脂質化合物を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、アルキレン基またはアミドを途中に含むアルキレン基からなるジアミンの片端にカチオン性のアミノ酸が縮合し、さらにこのジアミンのもう一端にα、ω−長鎖ジカルボン酸が縮合した新規な脂質化合物(下記式(2)の脂質化合物:化合物2)を合成することができ、当該化合物2が、単独では有機ナノチューブを形成する能力は持たないものの、上記式(1)の脂質化合物(化合物1)と混合して自己集合させた場合には、安定で分散性の高いナノチューブ構造体(「複合ナノチューブ」)を形成することを見出した。
<式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数を表し,Xは−(CH2)n−(n=2〜8の整数)、又は−CH2−CO−NH−(CH2)2−を表し、Rはカチオン性アミノ酸残基を表す。〕
【0009】
上記式(2)の脂質化合物(化合物2)は末端にカチオン性のアミノ酸残基を有しているため、得られる複合ナノチューブはプラスに荷電し、核酸のリン酸基と静電的に会合して安定な結合体を形成する。しかもこの複合ナノチューブは、マイナスに荷電している生体内の細胞膜表面に近づきやすい特性を有していながら、反対にプラスに荷電している細胞内に取り込まれた場合には、速やかに分散して核酸を解き放す特性も有している。
式(1)のナノチューブ形成性脂質及び式(2)の核酸結合性脂質(化合物1及び2)とから形成された複合ナノチューブが、核酸と共に組織化された核酸−チューブ結合体を安定に形成できることを確認し、当該複合ナノチューブを核酸キャリアとすることで、細胞表面への接着が効率的に行うことができ、容易に核酸の経膜的輸送を行なった後、細胞内で速やかに核酸を放出して遺伝子発現などの機能を発揮させることができることを確認した。具体的には、当該複合ナノチューブにレポーター遺伝子を含むベクターを結合させた核酸−チューブ結合体を用いて細胞を形質転換したところ、細胞内でのレポーター遺伝子発現が確認できた。
以上の知見を得たことで、細胞内に核酸を輸送しその核酸本来の機能を発現させることができる核酸キャリア、そのための自己集合性複合ナノチューブ、及び化合物1と共に当該複合ナノチューブを形成できる新規化合物である化合物2についての本発明を完成した。
【0010】
しかしながら、前記式(1)のナノチューブ形成性脂質と式(2)の核酸結合性脂質とからなる複合ナノチューブは、このような優れた特性を有する反面、核酸チューブ結合体を形成させる際に凝集が生じやすい欠点も有していた。
そこで、本発明者らは、本発明の複合ナノチューブのさらなる改良を目指し、この凝集抑制作用を有する複合ナノチューブの構成成分となる脂質化合物をさらに探索すべく検討した。その結果、10以上のオキシエチレン基の繰り返し配列からなるポリオキシエチレン基を有するアルキレン基を、アミド結合を介して長鎖脂肪酸残基に結合した新規な脂質化合物(下記式(3)の脂質化合物:化合物3)を合成することができ、当該化合物3も、単独では有機ナノチューブを形成する能力は持たないが、前記式(1)のナノチューブ形成性脂質(化合物1)と式(2)の核酸結合性脂質(化合物2)とを混合して複合ナノチューブを製造する際の第3の成分として添加したところ、前記カチオン性複合ナノチューブとしての効果を保持したままで、さらに分散性の高い複合ナノチューブを製造することができた。
<化学式(3)>(化合物3)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕
そして、化合物1、2及び3の3成分からなる複合ナノチューブを核酸キャリアとしてレポーター遺伝子の細胞導入実験を行った結果、細胞への導入効率が高まり、遺伝子の発現効率も高まったことから、前記複合ナノチューブ及び核酸キャリアのさらなる改善が達成できた。
以上の知見を得たことで、さらに改善された複合ナノチューブ及び核酸キャリアについての本発明も完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を含むものである。
[1] 有機ナノチューブを形成可能な下記化学式(1)の脂質化合物(化合物1)もしくは薬理学的に許容されたその塩と共に、核酸結合性を有する下記化学式(2)の脂質化合物(化合物2)もしくは薬理学的に許容されたその塩とを含み、有機ナノチューブ構造体を形成していることを特徴とする複合ナノチューブ;
<化学式(1)>(化合物1)
〔式中、mは12〜20の整数。〕
<化学式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数か、又はCH2−CO−NH−(CH2)2を表し、Rはアルギニル、リジリル又はオルニチル残基を表す。〕。
[2] 前記化学式(1)の脂質化合物及び前記化学式(2)の脂質化合物、又は薬理学的に許容されたそれぞれの塩を、モル換算で2:1〜10:1の混合比で含むことを特徴とする、前記[1]に記載の複合ナノチューブ。
[3] さらに、ポリオキシエチレン残基を有する下記化学式(3)の脂質化合物(化合物3)もしくは薬理学的に許容されたその塩を含むことを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載の複合ナノチューブ;
<化学式(3)>(化合物3)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕。
[4] 前記化学式(1)の脂質化合物、前記化学式(2)の脂質化合物、及び前記化学式(3)の脂質化合物、又は薬理学的に許容されたそれぞれの塩を、モル換算で63:32:5〜87:8:5の混合比で含むことを特徴とする、前記[3]に記載の複合ナノチューブ。
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載された複合ナノチューブの構成成分として用いることができる、核酸結合性を有する下記化学式(2)の脂質化合物又は薬理学的に許容されたその塩;
<化学式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数か、又はCH2−CO−NH−(CH2)2を表し、Rはアルギニル、リジリル又はオルニチル残基を表す。〕。
[6] 前記[3]又は[4]に記載された複合ナノチューブの構成成分として用いることができる、ポリオキシエチレン残基を有する下記式(3)の脂質化合物又は薬理学的に許容されたその塩;
<化学式(3)>
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕。
[7] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載の複合ナノチューブからなり、核酸と静電的に結合して核酸−チューブ結合体を形成することができる核酸キャリア。
[8] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載の複合ナノチューブと核酸とが静電的に結合されており、細胞内に核酸を運搬することができる、核酸−チューブ結合体。
[9] 前記[7]に記載の核酸キャリアを用い、当該核酸キャリアに静電的に結合させた核酸を細胞内に運搬することを特徴とする、細胞の形質転換方法。
[10] 前記[9]の形質転換方法により形質転換された、形質転換細胞。
[11] 遺伝子治療用核酸を有効量含む前記[8]に記載の核酸−チューブ結合体及び薬理学的に許容される担体からなる、遺伝子治療用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により提供された複数の脂質化合物の自己集合によって得られる長尺状の有機ナノチューブ構造体(複合ナノチューブ)は、細胞毒性が低く、核酸と静電的に結合してこれを細胞内に効率よく送達することができ、かつ細胞内で遺伝子発現などの核酸機能を発現できるので、遺伝子治療用の優れた核酸キャリアとなる。また、本発明の複合ナノチューブは、固体状態の集合体なので非常に安定であり、1ヶ月以上溶液分散状態でも保存可能である。
また、この複合ナノチューブを構成する脂質化合物の原料となる長鎖カルボン酸及びアミノ酸類は安価であり、その製法も容易であるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一般式2(m=18、Xが(CH2)6、Rはアルギニル基)で表される化合物2の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)なお、「DMSO」は、ジメチルスルホキシドの略である。
【図2】一般式2(m=18、Xが(CH2)2、Rはアルギニル残基)で表される化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)。
【図3】化合物2の合成、(m=18、XがCH2−CO−NH−(CH2)2、Rがアルギニル基であるもの)の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)。
【図4】化合物2の合成(m=18、Xが(CH2)2、Rはリジリル残基)の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)。
【図5】化合物3の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)。
【図6】複合ナノチューブの電子顕微鏡による形態観察。(a)化合物1/2、化合物2:X=(CH2)6、超音波未処理。(b)化合物1/2、化合物2:X=(CH2)6、超音波処理。(c)化合物1/2/3、化合物2:X=(CH2)6、超音波未処理。(d)化合物1/2/3、化合物2:X=(CH2)6、超音波処理。(e)化合物1/2/3、化合物2:X=(CH2)2、超音波未処理。(f)化合物1/2/3、化合物2:X=(CH2)2、超音波処理。 注:化合物1,2,3はm=18、化合物3はp=45、y=Me、化合物2のR=アルギニル基
【図7】複合ナノチューブの電子顕微鏡による形態観察。(a)化合物1/2/3、化合物2:X=CH2−CO−NH−(CH2)2、R=アルギニル基、超音波未処理。(b)上述の超音波処理後。(c)化合物1/2、X=(CH2)6、R=リジル基(d)化合物1/2、X=(CH2)2、R=リジル基 注)化合物1,2,3のm=18、化合物3のp=45,Y=Me
【図8】オキシエチレン鎖の導入による複合ナノチューブの分散性評価。
【図9】複合ナノチューブのDNAとの結合挙動のアガロース電気泳動による評価。上段は、化合物1/2の複合ナノチューブ、下段は化合物1/2/3の複合ナノチューブとのDNAの結合を調べたもの。それぞれ、ゲルの最下部にDNAをロードして上方向に+電荷を印可して泳動を見たもの。最上部の数値は、ナノチューブ中のアルギニン残基/DNAのリン酸残基のモル比(Arg/P)をあらわしている。
【図10】(a)化合物1/2の複合ナノチューブと(b)化合物1/2/3の複合ナノチューブについて、DNAとの結合後(Arg/P =8/1)での形態を走査型電子顕微鏡像(透過モード)。
【図11】レーザー共焦点顕微鏡による化合物1/2(上段)、化合物1/2/3の複合ナノチューブ(下段)とYOYO−1ラベル化DNAとの結合体の観察(明視野像は微分干渉モードで観察したもの)。Arg/P=8/1
【図12】DNaseに対するDNA−チューブ結合体分解耐性の検討(化合物1/2の複合ナノチューブ:Arg/P=8/1、化合物1/2/3の複合ナノチューブ:Arg/P=8/1,Trisバッファー中、DNase40unit,30秒毎の30分の経過をみたもの)。
【図13】KB細胞へのDNA−チューブ結合体(DNAはYOYO−1で蛍光ラベル化されたもの)の取り込み。(a)有機ナノチューブを選択的にローダミンBで染色、蛍光顕微鏡で蛍光可視化したもの。(b)YOYO−1でDNAを染色し、蛍光可視化したもの。(c)位相差光学顕微鏡で細胞と複合ナノチューブを可視化したもの。(d)上記の(a)〜(c)をあわせた像。化合物1/2複合ナノチューブとDNAをArg/P=8/1で混合した後に2時間培養したもの。濃度:2μgDNA/ウエル。細胞外表面に付着した過剰な複合ナノチューブはヘパリン−PBSバッファーで2回洗浄除去。その後アクアポリマウントに移し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【図14】核酸−チューブ結合体(Arg/P=8/1)による細胞への取り込みの半定量測定。核酸−チューブ結合体を培養細胞(KB細胞、A549細胞)に添加し、2時間培養した。その後、過剰な複合ナノチューブをヘパリン含有のPBS(20U/ml)緩衝液で三回洗浄した。その後、フローサイトメトリー用緩衝液に分散後、フローサイトメトリーを用いてYOYO−1からの蛍光でモニターした。
【図15】核酸−チューブ結合体を用いた細胞での遺伝子発現評価核酸−チューブ結合体(Arg/P=8/1)を培養細胞(KB細胞、A549細胞)に添加し、24時間培養した。これをヘパリン含有のPBS(20U/ml)緩衝液で二回洗浄後、フローサイトメトリー用緩衝液に分散させ、フローサイトメトリーを用いて細胞の発するGFPの蛍光をモニターした。
【図16】市販の遺伝子導入剤と複合ナノチューブでのGFP発現量の比較。核酸−チューブ結合体(Arg/P=8/1、あるいはNH2/P=8/1)でKB細胞に添加し、24時間培養後、GFPの蛍光像(a)リポフェクタミン2000(市販品)を用いた場合。(b)遺伝子のみを加えた場合。(c)化合物1/2(化合物2のX中のn=6の場合)、超音波未処理。(d)上記(c)の超音波処理。(e)化合物1/2/3(化合物2のX中のn=6の場合)、超音波未処理。(f)上記(e)の超音波処理。 注:化合物1,2,3はm=18、化合物3はp=45、y=Me、化合物2のX=(CH2)n、R=アルギニル基
【図17】市販の遺伝子導入剤と複合ナノチューブでのGFP発現量の比較。DNA−チューブ結合体(Arg/P=8/1)でKB細胞に添加し、24時間培養後、GFPの蛍光像(a)化合物1/2/3(化合物2のX=(CH2)2、R=アルギニル)、超音波未処理。(b)上記(a)の超音波処理(c)化合物1/2/3はm=18、化合物2はX=CH2−CO−NH−(CH2)2、超音波未処理。(d)上記(c)の超音波処理後(e)化合物1/2、X=(CH2)6、R=リジル基、超音波未処理(d)化合物1/2、X=(CH2)2、R=リジル基、超音波未処理 注:化合物1,2,3はm=18、化合物3はp=45、y=Me
【図18】LA2000(市販品)と複合ナノチューブの細胞毒性比較。横軸は、無添加時の細胞中の総タンパク数を100%としたもの。同量のDNA(2マイクログラム/ウエル)に結合するLA2000、および複合ナノチューブで比較。図中“soni”は超音波処理したもの、“non−soni”は超音波未処理のもの。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.有機ナノチューブについて
本発明において「有機ナノチューブ」というとき、疎水部アルキレン鎖に由来する疎水性相互作用に加えて、方向性をもつ水素結合が形成可能な脂質でかつ不斉炭素を有するものが自己集合することにより、外径約10nm〜1000nm、長さ100nm〜数mmのチューブ構造を形成する集合体をいう(非特許文献8参照)。すなわち、本発明の「有機ナノチューブ」は、上記定義にあるように、「脂質分子の水溶液からの自己集合によって得られるナノメートルサイズの幅を有するチューブ状構造体」と定義することができる。
したがって、本発明の「有機ナノチューブ」としては単一の脂質成分で構成される場合のみならず複数の脂質成分で構成される場合も含まれるが、本発明においては、2成分以上の脂質分子の場合、例えば「化合物1と化合物2、あるいは化合物1と化合物2と化合物3の混合溶液からの自己集合によって得られる有機ナノチューブ」を、特に「複合ナノチューブ」という。
「有機ナノチューブ」のチューブ構造は、水素結合やファンデルワールス力などの弱い相互作用で形成されているため、室温から100℃の範囲であれば、環境のpH条件や温度条件を変化させることで分解することが可能である。この温度は生体中の細胞内外の環境温度の範囲を含むものであるから、細胞内外のpH環境の差異により分解するように調整することが可能であることを意味する。この様な分解特性は脂質分子を用いたことの有利な点の1つであり、カーボンナノチューブ、シリカナノチューブなど共有結合で形成されたナノチューブでは、この様な温度範囲での分解は全く見られない。
なお、本発明の複合ナノチューブと核酸を一定の割合で混合することによって静電的に核酸を複合ナノチューブに結合させたものは「核酸−チューブ結合体」という。核酸の種類としては一般にはDNAを用いることが多いので、「DNA−チューブ結合体」ということもある。
【0015】
2.本発明の有機ナノチューブ形成に寄与する脂質化合物(有機チューブ形成性脂質)について
(2−1)有機チューブ形成性脂質の特徴:式(1)の化合物
本発明の有機チューブ形成性の脂質分子の形状としては、1個ずつの親水部と疎水部を有する一頭一鎖型脂質、1個の親水部に2本の疎水部が連結した1頭2鎖型脂質、2個の親水部に1個の疎水部を有する双頭型脂質などが知られている(非特許文献8)。本発明に用いる脂質化合物としては双頭型脂質のうち、両端の親水部の大きさが異なる「くさび形」の脂質が、安定な有機ナノチューブを形成する点から有効である。特に、化合物1の様なアルキル鎖の片端にアミド基を介してグルコース残基、もう一端にカルボン酸の連結したくさび形の脂質が、微細な外径40〜50nm前後の有機ナノチューブ構造を提供するために最良である(特許文献4、非特許文献9)。特許文献4に記載の下記式(1)の脂質化合物中のアルキレン基の鎖長mは6〜20であったが、本発明の複合ナノチューブの構成成分として好適な有機ナノチューブ形成性脂質の鎖長mは、m=12〜20の範囲であり、製造時の分散性の良さと、得られる有機ナノチューブの安定性の高さからは、12〜18の整数がより好ましく、偶数であることがさらに好ましい。
<化学式1>(化合物1)
(式中、mは12〜20のいずれかの整数を表す。)
上述の有機ナノチューブが形成可能な脂質化合物と以下に示す複数の新規化合物を混合させた後に、自己集合させて複合ナノチューブを形成させることが、本発明には有効である。有機ナノチューブは、それを構成する化合物が複数種の混合物であっても形成可能できることが清水らによって報告されている(非特許文献10)。
【0016】
(2−2)有機チューブ形成性脂質(式(1)化合物)の製造方法
式(1)で表される有機チューブ形成性脂質は、特許文献4などに記載された公知の化合物であり、いかなる方法で合成されたものであってもよいが、例えば下記反応式(1)に示される方法に従って合成できる(特許文献4を参考)。
<反応式(1)>
〔なお、反応式中、「DMT−MM」は「4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド」の略であり、「DMF」は「ジメチルホルムアミド」の略であり、「Pd−C」は「パラジウム−カーボン」の略である。以下同様。〕
【0017】
すなわち2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−グルコピラノシルブロミド(化A)をアジ化ナノトリウムで処理後、再結晶してアジ化物を得る。これを接触水素化還元してアミン体に変換し、保護基としてベンジル基を有する(化B)のポリメチレンカルボン酸モノベンジルエステル(ただし、式中m=12〜20,好ましくは12〜18、より好ましくは12〜18の偶数)と共に、DMT−MMなどを用いて脱水縮合したのちシリカゲルクロマトグラフィで精製する。得られたベンジルエステル中間体から接触水素化還元によりベンジルエステルを除去後、メタノール中でのナトリウムメトキシド処理により脱アセチル化すれば式(1)の脂質「化合物1」を得ることができる。
【0018】
3.核酸との結合体形成に寄与する脂質化合物(核酸結合性脂質化合物)について
(3−1)核酸結合性脂質化合物の特徴:式(2)の化合物
本発明における核酸と結合体を形成し、細胞膜を効率的に透過させるための複合ナノチューブを得るためには、式(1)の脂質(化合物1)に対して、核酸のリン酸基と静電相互が可能なグアニジル基やアミノ基などのカチオン性基を有する下記式(2)の脂質(化合物2)を複合化する必要がある。
<化学式2>(化合物2)
化合物2のアルキレン基(ポリメチレン基)鎖長のmは、化合物1との混合により複合ナノチューブを形成させる点で、化合物1と同じ鎖長であることが好ましい。具体的には、m=12〜20の整数が好ましく、さらには、製造時の分散性の高さ、出来た複合ナノチューブの安定性の高さから、m=12〜18の整数がより好ましく、偶数であることがさらに好ましい。Xは、(CH2)nで表されるアルキレン鎖(nは2〜8の整数、分散性の良さの点からn=2〜6の整数が好ましい)であるか、又は、水素結合性アミドをもつCH2−CO−NH−(CH2)2である。Rはカチオン性のアミノ酸残基であればよいが、アルギニル基、リジリル基、及びオルニチル基が好ましく、そのうちのアルギニル基及びリジリル基が特に好ましい。
【0019】
(3−2)核酸結合性脂質化合物(化合物2)の製造方法
式(2)で表される核酸結合性脂質(化合物2)は、上記<反応式(1)>に示された有機ナノチューブ形成性脂質の合成方法(特許文献4の記載による)と同様の化Bの酸塩化物とアミン成分を用いた縮合に加えて、より穏和な室温、中性付近の反応が可能なDMT−MMやEDC−HCl(なお「EDC−HCl」は「1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩」の略)などの縮合剤を用いたアミド結合形成反応や、その後のベンジルエステルの室温、水素雰囲気下での接触水素添加による脱保護反応を適用でき、両端にカルボン酸基を有するポリメチレンジカルボン酸の片側のカルボン酸がベンジル基により保護されている(化B)のポリメチレンカルボン酸モノベンジルエステル(ただし、式中、m=12〜20,好ましくは12〜18、より好ましくは12〜18の偶数)を原料の1つとして用い、最後に保護基のベンジル基等を除去する手法を利用して合成することができる。
【0020】
すなわち、「化合物2」の具体的な製造工程を示すと下記の通りとなる。
下記化学式(4)で示される片端がベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(下記反応式2などにおける「化合物B(化B)」に相当)に対して、
<化学式(4)>
〔式中、mは化学式(2)と同じ意味を表す。〕
片端が保護されたジアミン化合物(下記反応式2における「化合物C(化C)」に相当)を結合させた後でBoc基の除去を行い、生成した末端アミノ基に、保護されたカチオン性アミノ残基を付加するか、
<化学式(5)>
〔式中、Xは化学式(2)と同じ意味を示す。ここで保護基とは好ましくはBoc基を用いるが、他の水素添加以外の条件で除去可能な保護基、すなわち9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、トリフルオロアセチル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基などであってもよい。なお、ここで「Boc基」とは「三級ブトキシカルボニル基」の略である。〕
あるいは、上記化学式(5)で示されるジアミン化合物のフリー端のアミノ基に、あらかじめ保護されたカチオン性アミノ残基を付加し、さらにもう一端のアミノ基の保護基を除去後グリシン残基を導入した下記化学式(6)で示されるカチオン性アミノ酸残基を有する化合物(下記反応式3における「化合物E(化E)」に相当)を結合させ、
<化学式(6)>
〔式中、X及びRは化学式(2)と同じ意味を示す。ここでの保護基は、ベンジルオキシカルボニル基である〕
上記いずれかの工程により下記化学式(7)で示される保護基を有する前駆体を得た後、
<化学式(7)>
〔式中、m、X及びRは化学式(2)と同じ意味を示す。〕。
全ての保護基を除去することで、下記「化合物2」を得ることができる。
<化学式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数か、又はCH2−CO−NH−(CH2)2を表し、Rはアルギニル、リジリル又はオルニチル残基を表す。〕
【0021】
「化合物2」のうち、化学式(2)におけるXが(CH2)nで表されるアルキレン鎖の場合を「化合物2a」と表記し、Xが「CH2−CO−NH−(CH2)2」の場合を「化合物2b」と表記し、それぞれの典型的な製造工程を、それぞれ下記「反応式(2)」及び「反応式(3)」として以下に示す。
なお、化合物2bの場合、あらかじめ(化D)の類縁体でZ基で保護されたZ−NH−X前駆体−NH2とBoc基で保護されたグリシンの活性エステル(Boc−Gly−OSu)とを結合させる反応を行っておき、次にZ基の除去後に、あらかじめ側鎖およびアミノ基を保護したカチオン性アミノ酸残基R(保護基−R)と結合させることもできるが、下記「反応式(3)」の工程を採る方が製造効率が高く好ましいため、典型例として「反応式(3)」を示す。本発明の化合物2bの製造方法としては、この工程のみに限定されるものではない。
【0022】
化合物2aの場合:X=(CH2)n(nは2〜8の整数)の場合
<反応式(2)>
〔反応式中、「EDC−HCl」は「1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩」の略であり、「EtOAc」は「酢酸エチル」の略であり、「Et3N」は「トリエチルアミン」の略である。〕
すなわち、「化合物2a」は、「化合物B(化B)」と「化合物C(化C)」をEDC−HClにより脱水縮合した後、Boc基を除去し、側鎖およびアミノ基を保護したカチオン性アミノ酸残基R(「保護基−R」、なお、ここでの保護基はベンジルオキシカルボニル基)を混合して脱水縮合し、保護基のついた前駆体を得た後に、全ての保護基を接触水素化還元などによって脱保護することで製造できる。
【0023】
化合物2bの場合:X=CH2−CO−NH−(CH2)2の場合
<反応式(3)>
〔反応式中、「Boc−Gly−OSu」はグリシンのアミノ基がBoc基が保護されており、カルボキシル基がSu基でエステル化されていることを表す。なお、Su基はスクシンイミド基の略である。〕
すなわち、「化合物2b」を製造するためには、まず、「化合物D(化D)」中の「X前駆体、すなわちエチレン基」に、あらかじめ側鎖およびアミノ基を保護したカチオン性アミノ酸残基R(保護基−R)をEDC−HClによって脱水縮合し、中間体を得る。この中間体のBoc基を除去した後、Boc基で保護されたグリシンの活性エステル(Boc−Gly−OSu)を添加して「化合物E(化E)」を得る。再び「化合物E」のBoc基を除去した後、もう一つの原料である「化合物B(化B)」と脱水縮合して、保護基が付加された前駆体を得、これを脱保護して、「化合物2b」を得る。
【0024】
(3−3)具体的な化合物2の合成例
(3−3−1)化合物2のXが(CH2)nで、かつRがアルギニル基の場合(「化合物2a−1」)は以下の工程で合成できる。
<反応式(4)>
〔反応式中、「Z基」は、ベンジルオキシカルボニル基の略である。〕
「化合物B(化B)」に対し、片端がBoc基などで保護された「化合物F(化F)」のα,ω-アルキルジアミン(例えばN−(Boc)−1,6ヘキサンジアミン)を脱水縮合させ、精製の後に「化合物G(化G)」で表される中間体を得る。
中間体「化合物G」を塩酸−酢酸エチルなどで酸処理しBoc基を脱保護し、塩酸塩としてアミン誘導体を得る。これをトリエチルアミンで中和し、トリス(カルボベンゾキシ)-L-アルギニンとEDC−HClで脱水縮合させて、保護基が付加された前駆体を得た後、接触水素化還元によりベンジル基、Z基を同時に脱保護することで「化合物2a−1」(X=(CH2)n、Rがアルギニル基)を製造することができる。
【0025】
(3−3−2)化合物2のXが(CH2)n、Rがリジル基の場合(「化合物2a−2」の場合)
上記(3−3−1)と同様な方法を用い、アミノ酸としてジ(カルボベンゾキシ)−L−リジンを用いることで、X=(CH2)n、Rがリジル基からなる「化合物2a−2」を得ることができる。
【0026】
(3−3−3)化合物2のXがCH2−CO−NH−(CH2)2、Rがアルギニル基の場合(「化合物2b−1」の場合)は、以下の工程で合成できる。
<反応式(5)>
すなわち、あらかじめ、N−Boc−1,2−ジアミノエタンとトリス(カルボベンゾキシ)−L−アルギニンをDMF中で、脱水縮合させて「化合物H(化H)」を得、これを塩酸−酢酸エチルで酸処理しBoc基を脱保護し、得られた塩酸塩をトリエチルアミンで中和後、N−(Boc)グリシンスクシンイミドエスエルを反応させることにより、「化合物I(化I)」で表される中間体を得る。これを塩酸−酢酸エチルで酸処理しBoc基を脱保護した後に、原料の1つである「化合物B(化B)」のポリメチレンカルボン酸モノベンジルエステル(m=12〜20)を添加し、脱水縮合、カラムクロマトグラフィによる精製後、保護基の付加された前駆体を得、接触水素化還元によってベンジル基、カルボベンゾキシ基を同時に脱保護することで「化合物2b−1」(XがCH2−CO−NH−(CH2)2、Rがグアニジン)を得る。
【0027】
4.複合ナノチューブの分散性向上に寄与する脂質化合物(凝集防止用脂質化合物)について:
(4−1)ポリオキシエチレン鎖を有する凝集防止用脂質(化合物3)の特徴
本発明の有機ナノチューブ形成性脂質(化合物1)及び核酸結合性脂質(化合物2)とからなる複合ナノチューブを核酸と混合して静電相互作用により核酸−チューブ結合体を形成させる際、凝集が生じやすい。これは両者の結合による、電荷の中和とサイズの増加に起因すると考えられる。この核酸−チューブ結合体を製造する際の凝集性を抑えるため(分散性を高めるため)に、下記式(3)のポリオキシエチレン鎖を有する脂質化合物(化合物3)を、化合物1及び化合物2とを混合して複合ナノチューブを製造する工程に添加して少なくとも3成分を含む複合ナノチューブを形成させることが好ましい(非特許文献11、12)。
<化学式3>(化合物3)
化合物3のアルキレン基(ポリメチレン基)鎖長のmは、化合物1及び2との混合により複合ナノチューブを形成させる点で、両者と同じ鎖長であることが好ましい。具体的には、m=12〜20の整数が好ましく、さらには、製造時の分散性の高さ、出来た複合ナノチューブの安定性の高さから、m=12〜18の整数がより好ましく、偶数であることがさらに好ましい。
pはオキシエチレン基の繰り返しを表すが、生成する複合ナノチューブへの導入効率や複合ナノチューブの分散性を高めるために、10〜200の整数であることが望ましい。pが200を超えると、水溶性の上昇にともなう相分離のために製造時に複合ナノチューブへの効率的な導入が困難になる。また10未満では複合ナノチューブの分散性の向上が期待できない。類似の現象がリポソームでも報告されている(非特許文献11,12)。すなわちオキシエチレン鎖の導入によって、リポソームの会合が抑制され分散性が向上すること。血漿中、オキシエチレン鎖の分子量が700〜2000(オキシエチレン基の繰り返しで16〜45)のリポソームで、タンパク質吸着が減少すること。さらにこの効果は分子量が5000程度(同114程度)で飽和し、1万以上(同227以上)では逆に減少することが報告されている。
また式中のYは水素原子又はメチル基を表す。
【0028】
(4−2)ポリオキシエチレン鎖を有する凝集防止用脂質(化合物3)の製造方法
ポリオキシエチレン鎖を有する凝集防止用脂質(化合物3)は、上記<反応式(1)>に示された有機ナノチューブ形成性脂質の合成方法(特許文献4の記載による)と同様の反応条件、具体的には室温でのEDC−HClを用いたカルボン酸成分とアミン成分の脱水縮合反応や接触水素添加による脱ベンジル化などの脱保護反応を適用して、以下の工程で合成できる。
すなわち、片端がベンジル基で保護された下記化学式(4)の化合物(下記反応式(6)の「化合物B(化B)」に相当)に対して、
<化学式(4)>
〔式中、mは化学式(3)と同じ意味を表す。〕
下記化学式(8)で示される片端がアミノプロピル基で修飾されたポリエチレンエチレン化合物を結合させ、
<化学式(8)>
〔式中、p及びYは化学式(3)と同じ意味を表す。〕
次いで、ベンジル基を除去することで、下記式(3)の化合物(化合物3)を得ることができる。
<化学式(3)>
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕
反応式で表すと以下の通りである。
<反応式(6)>
すなわち、「化B」で表されるポリメチレンカルボン酸モノベンジルエステル(m=12〜20)に、「化J」で表される片端アミノプロピル修飾型ポリエチレングリコール(p=45、Y=メチル基)を脱水縮合させ中間体を得る。ついで接触水素化還元によりベンジル基を脱保護することで化合物3を製造することができる。
【0029】
5.複合ナノチューブの製造
本発明の核酸導入のための核酸キャリアに適した複合ナノチューブは、化合物1及び2を含むものであり、好ましくはさらに化合物3を含む化合物1/2/3等の複数の脂質もしくはその薬理学的に許容される塩からなる組成物をイソプロパノール/水溶液あるいはエタノール/水溶液に加熱・溶解し、当該溶液からアルコールを蒸散させることによって製造することができる複合ナノチューブ状集合体からなる。当該複合ナノチューブは、細胞内導入しようとする核酸と静電的結合により核酸−チューブ結合体を形成することができ、細胞内に核酸を導入しその機能を発揮させるための核酸キャリアとして用いられる。したがって、ここで薬理学的に許容される塩というとき、核酸との静電的結合を妨げず、細胞毒性など生体への有害な作用を有しない任意の塩を指すが、具体的には塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、又は乳酸塩などがあげられる。
そして、複合ナノチューブを構成する各化合物の混合比を制御することにより、複合チューブ表面でのカチオン性基の密度を制御することができると共に分散性も制御できるから、複合チューブと核酸との結合性を制御して核酸導入効率を上げ、かつ細胞毒性を最小限に抑えることができる。
【0030】
(5−1)化合物1/2からなる複合ナノチューブの製造方法
上述の方法によって製造される化合物1/2を用いた複合ナノチューブの製造方法は以下の通りである。
化合物1と化合物2を10:1〜2:1のモル比で調整した混合物の固体をエタノール/水溶液、イソプロパノール/水溶液等に溶解後、窒素ガス、アルゴンガス、乾燥空気などを吹き込むか、あるいはロータリーバキュームエバポレターによる減圧濃縮によって低沸点のアルコール類を室温あるいはそれ以下の温度で優先的に留去することにより複合ナノチューブを製造できる(非特許文献13)。
混合比は上記の範囲であれば効率的に複合化できるが、より均質なチューブ状形態を保持するためには、特に化合物1、2のm=18の場合、5:1前後が望ましい。
【0031】
(5−2)化合物1/2/3からなる複合ナノチューブの製造方法
上述の化合物1/2/3からなる複合ナノチューブを製造する際、化合物1を含む溶液に化合物2及び化合物3を混合することで、オキシエチレン鎖とカチオン性官能基の両方を表面にもつ複合ナノチューブを構築できる(非特許文献13)。オキシエチレン鎖によって複合ナノチューブの水への分散性が向上する。特に複合ナノチューブと核酸とを混合した際に、両者の凝集による沈殿が生じやすくなるが、オキシエチレン鎖が存在することにより、この沈殿を防ぐことが可能である。化合物3の混合比を増やすと分散性が向上するが5モル%を超えた添加による分散性の向上は見られない。また、5モル%を超えると部分的に化合物3が複合ナノチューブから分離し始め、別の形態が観察されることになる。
混合比は、化合物2のXが(CH2)n(n=2〜6)の整数の場合、化合物1:化合物2:化合物3=63:32:5〜87:8:5(モル比)であることが望ましい。また特に化合物1〜3において、mが全て18の場合、核酸の結合量がより多く、かつ遺伝子発現をより効率的に起こさせるためには、77:18:5〜81:14:5、特に79:16:5前後が最も望ましい。
また化合物2のXがCH2−CO−NH−(CH2)2の場合、化合物1:化合物2:化合物3=75:20:5〜87:8:5(モル比)の範囲であることが望ましい。混合比は上記の範囲であれば効率的に複合化できるが、特に化合物1〜3において、mが全て18の場合、核酸の結合量がより多く、かつ遺伝子発現をより効率的に起こさせるためには77:18:5−81:14:5、特に79:16:5前後が望ましい。
複合ナノチューブの長さを短くすることは、核酸−チューブ結合体の分散性を向上させ、かつ効率的に細胞膜を透過させるために重要である。今回用いた複合ナノチューブの場合、水分散液の超音波処理によって、未処理前の最長10μmから約100nmまで短尺化するごとが可能である。
本発明では複合チューブの分散性を高めるため、超音波処理によって約100nm〜5μmの長さとすることが、また効率的に細胞膜を透過するためには約100nm〜2μm程度に調製することがより好ましく、さらに約100nm〜800nm程度がさらに好ましい。
【0032】
6.複合ナノチューブの評価
複合ナノチューブ中での脂質成分の均質性については、上述の混合比の範囲内で化合物1/2,化合物1/2/3からなる複合ナノチューブを形成し、それ以外の形態を形成していないことを走査型顕微鏡観察における透過像などから確認した。リンタングステン酸などを用いたネガティブ染色処理したサンプルでは、チューブ内空間が黒く染色され、これによってチューブ状構造が確認できる。(非特許文献9などに記載の方法による。)
オキシエチレン鎖を有する化合物3の導入による複合ナノチューブの分散性の向上効果は、化合物1/2/3および1/2からなる複合ナノチューブと同じ濃度条件での、410〜540nmでの濁度を測定することで確認した。
【0033】
7.本発明の複合ナノチューブの核酸キャリアとしての使用
本発明の複合ナノチューブは、核酸と静電的に結合して細胞内へ核酸を運搬し、かつ細胞内で核酸を離し、核酸本来の機能(例えば遺伝子発現)を発揮させることができる。すなわち、細胞内への核酸導入用の核酸キャリアとして用いることができる。
したがって、ここにいう「核酸」とは本発明のカチオン性の複合ナノチューブと静電的に結合可能であればよく、DNAに限らずRNAも含み、生体内の生理活性を有する大きなサイズの遺伝子(例えば、遺伝子疾患での欠損、欠落を補うための各種ホルモンやサイトカイン類の遺伝子や、免疫作用増強のための抗原ポリペプチド遺伝子など)であってもよく、反対にRNA干渉(RNAi)機構やアンチセンス機構で作用させるためのsiRNA、miRNAや、アンチセンスオリゴヌクレオチドなどの短い核酸断片であってもよい。典型的には遺伝子治療用の核酸であり、通常は、これらの核酸はプラスミドベクターなど適切なベクターに繋いだ状態で用いられるが、遺伝子ワクチン接種又はアンチセンス治療の場合には裸の核酸を用いることがある。そして、核酸の種類としては一般にはDNAを指すが、RNAを用いる場合もある。
また、本発明で「細胞」とは、典型的にはヒトを含む哺乳動物細胞を指す。インビトロでの培養細胞であってもよいが、遺伝子治療用の場合、生体を構成する組織、臓器内の細胞や、血液など体液中の血球細胞やリンパ球細胞などの免疫細胞、及び肺癌細胞などの癌細胞が対象となる。その際、生体内へ直接導入することも可能であるが、一旦取り出した細胞に本発明の核酸キャリアを用いた遺伝子導入法を施し、再度生体内に戻してもよい。
【0034】
8.核酸−チューブ結合体の製造方法
核酸と本発明の複合ナノチューブとを混合すると、核酸中のアニオン性のリン酸基とチューブ表面のカチオン性のアミノ基やグアニジン基の静電的な相互作用によって両者が結合する。実際に得られた結合の光学顕微鏡観察からは、チューブ状形態はそのままで、これらが束状に会合した形態が得られている。またこの複合ナノチューブと核酸のポリイオンコンプレックスの形成は、ポリアクリルアミド電気泳動において、フリーの核酸の泳動バンドが消失することで確認できる。
また蛍光色素(YOYO−1(491nm励起、509nm発光)で染色したDNAと複合ナノチューブを混合後、レーザー共焦点顕微鏡によってチューブ形態の観察像(微分干渉モード)と、DNAの蛍光像との一致により確認できる(非特許文献14による)。
核酸キャリアの重要な働きの一つは、複合化あるいはカプセル化によって核酸を分解酵素による分解反応から保護することである。この評価は、例えばDNAの場合、DNA分解酵素(DnaseI)などを添加したときの、DNA分解の様子を260nm付近での吸光度変化によって評価すればよい(非特許文献15による。)。これはDNAが二重らせん構造で塩基同士がスタックしている場合には、淡色効果をもつが、これが分解されるとスタックが無くなり、淡色効果が消失して、結果として吸光度が増大することに起因するものである。
【0035】
9.細胞への核酸−チューブ結合体の導入、遺伝子の発現とそれらの確認
細胞への導入は、市販の細胞導入剤を用いた場合と同様の手法(非特許文献16による。)を用いることができた。すなわち、細胞をDMEM培地などで培養後、DNA−チューブ結合体を添加し、1〜2時間培養後、余分の結合体をPBSバッファーで必要に応じて数回洗浄・除去することによって行った。
導入の確認は、レーザー共焦点顕微鏡(CLSM)によって確認できる。すなわちあらかじめ複合ナノチューブとDNAそれぞれを蛍光色素ローダミンBおよびYOYO−1で染色した。これを用いてDNA−チューブ結合体を形成させたのち、上述のような方法で細胞に導入する。導入後、CLSMを用いた蛍光像観察によって複合ナノチューブ、DNA、細胞の所在を明かにして、細胞中に取り込まれていることを確認する。
細胞への導入量の半定量的な解析は、フローサイトメトリーによって行なった。すなわち細胞への結合体の導入後、細胞外にある余分な結合体を上記により洗浄除去後、フローサイトメトリーによってYOYO−1染色DNAからの蛍光を測定することで行うことができる。
【0036】
10.細胞での遺伝子発現の確認
レポーター遺伝子からのタンパク質発現の確認は遺伝子によって発現したルシフェラーゼの発光強度、あるいはGFPの蛍光強度などで定量的に評価されることが多い。本実施例では発現したGFPの蛍光で確認した。すなわち、上述の様に細胞をDMEM培地などで培養後、GFPレポーター遺伝子(プラスミドベクターpEGFP)からなるDNA−ナノチューブ結合体を添加し、24時間程度培養することで遺伝子の核内への移行およびタンパク質(GFP)の発現を行った。この後、GFPからの蛍光蛍光をフローサイトメトリーによって半定量的に評価することができる。
また定量性はないが、レーザー共焦点顕微鏡(CLSM)によっても細胞中、GFPが発現したことを確認した。
【0037】
11.細胞毒性の確認
細胞毒性については、核酸−チューブ結合体を添加、一定時間培養後、細胞数あるいはそれにかわるもの(細胞内タンパク質量、ミトコンドリアの活性など)を測定し、対照実験として、何も加えない系や市販の遺伝子導入剤等と比較することで行うことが出来る。その際の測定法としては、典型的には細胞のミトコンドリアの活性を測定する方法(MTTアッセイ法、非特許文献17)を用いることができる。本実施例では、細胞にDNA−チューブ結合体を添加・培養後、細胞を破壊し、総タンパク質の量を上記方法に従って定量した。
【0038】
12.本発明の遺伝子治療用組成物について
本発明の核酸キャリアは、上記7.で述べたように、遺伝子治療用の核酸を有効量含む状態の核酸−チューブ結合体として、薬理学的に許容される担体と共に遺伝子治療用組成物とすることができる。なお、遺伝子治療用組成物というときには、遺伝子ワクチン組成物も含む。
ここで、薬学的に許容される担体とは、希釈剤又は賦形剤、例えば、水又は生理的許容される緩衝液を含む。
本発明の遺伝子治療用組成物は、錠剤などの経口投与も可能であるが、静脈経由若しくは直接患部への注射、外用剤などの非経口的に投与することもできる。
本発明の遺伝子治療用組成物を患者に投与する際の投与量は、用いる核酸の種類、医療対象の患者の年齢、体重及び病状、投与経路などに従い適宜決めることができるが、典型的には、1回の投与当たりの核酸の有効量としては、1μg〜1g、好ましくは100μg〜10mgの範囲である。
【0039】
13.その他
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はJ. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995;日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA技術)」、東京化学同人 (1992); R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 68 (Recombinant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology ", Vol. 100 (Recombinant DNA, Part B) & 101 (Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 153 (Recombinant DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 155 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New York (1987)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。また、本発明で使用する各種蛋白質やペプチド、あるいはそれらをコードするDNAについては、既存のデータベース(URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/等)から入手することができる。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【実施例】
【0040】
次に本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)化合物2(m=18、Xが(CH2)6−NH、Rはアルギニル基)の合成
<反応式7>
ジクロロメタン中、反応式(2)などの化合物B(m=18)で表される化合物であるベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(2g、4.63ミリモル)にN−Boc−1,6−ヘキサンジアミン(1.1mL、4.88ミリモル)を混合し、EDC−HCl(1g、5.21ミリモル)を添加し室温で2時間撹拌することでカップリングを行った。溶媒を留去後、固体を10体積%の水を含むメタノール(80mL)で再結晶し、反応式(4)での化合物G(n=6)に相当する中間体を粉末として得た(2.5g、86%)。
得られた固体をジクロロメタンに溶解後、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(20mL)で処理することにより、Boc基を脱保護して得たアミン体の塩酸塩(1g、1.76ミリモル)、Z−Arg(Z)2−OH(1.19g、2.0ミリモル)、EDC−HCl(440mg、2.3ミリモル)をジクロロメタンに溶解し、0℃に冷却後、トリエチルアミン(200μL)を添加した。徐々に昇温し、72時間室温で撹拌したのち、溶媒を留去し、熱メタノールに溶解後、冷却することで固体として保護基の付いた化合物2の前駆体を得た。これをDMFに溶解し、パラジウム炭素(10%)を用いて12時間、接触水素化還元した後、セライトでろ過し、化合物2を得た(800ミリグラム、76%)。
この化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)を図1に示す。
【0041】
(実施例2)化合物2(m=18、Xが(CH2)2−NH、Rはアルギニル残基)の合成
<反応式8>
ジクロロメタン中、ベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(化合物B、m=18)(2.5g、5.8ミリモル)にN−Boc−1,2−ジアミノエタン(0.99mL、6.3ミリモル)を混合し、EDC−HCl(1.3g、6.7ミリモル)を添加し室温で3時間撹拌することでカップリングを行った。溶媒を留去後、固体を10体積%の水を含むメタノール(80mL)で再結晶し、反応式(4)での化合物G(n=2)に相当する中間体を粉末として得た(3.0g、91%)。
得られた固体をジクロロメタンに溶解後、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(20mL)で処理することにより、Boc基を脱保護して得たアミン体の塩酸塩(0.650g、1.27ミリモル)、Z−Arg(Z)2−OH(0.80g、1.38ミリモル)、EDC−HCl(300mg、1.56ミリモル)をジクロロメタンに溶解し、0℃に冷却後、トリエチルアミン(180μL)を添加した。徐々に昇温し、72時間室温で撹拌したのち、溶媒を留去し、熱メタノールに溶解後、冷却することで固体として保護基の付いた化合物2の前駆体を得た(0.950g、75%)。これをDMFに溶解し、パラジウム炭素(10%)を用いて12時間、接触水素化還元した後、セライトでろ過し、化合物2を得た(410ミリグラム、83%)。
この化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)を図2に示す。
【0042】
(実施例3)化合物2の合成、(m=18、XがCH2−CO−NH−(CH2)2、Rがアルギニル基であるもの)
<反応式9>
Z−Arg(Z)2−OH(2g、3.46ミリモル)とN−Boc−1,2−ジアミノエタン(580マイクロリットル、3.54ミリモル)をジクロロメタンに溶解したのち、0℃に冷却し、EDC−HCl(800mg、4.0ミリモル)を加えた。徐々に室温に戻した後、3時間撹拌し、溶媒を留去した。得られた固体は、メタノール中で再沈殿して、白色固体として反応式(5)における化合物Hで表される化合物を得た(2.1g、84%)。これをジクロロメタン/メタノールに溶解し、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(15mL)を加えて室温で1時間撹拌した。溶液は減圧濃縮したのち、エチルエーテルで再沈殿して化合物Hの脱Boc化したアミン体の塩酸塩を得た(1.8g、92%)。この塩酸塩(1.2g、1.83ミリモル)をジクロロメタンに溶解後、N−Boc−グリシン−スクシンイミドエステル(0.50g、1.84ミリモル)とトリエチルアミン(0.26ミリリットル、1.9ミリモル)を添加し2時間撹拌した。反応液を減圧濃縮したのち、シリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:クロロホルム/メタノール=20/1、体積比)で精製し同化合物Iで表される化合物を得た(1.1g、収率77%)。これをジクロロメタンに溶解し、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(15mL)を加えて室温で1時間撹拌した。溶液は減圧濃縮したのち、エチルエーテルで再沈殿して脱Boc化したアミン体の塩酸塩を得た(0.82g、74%)。さらにこの塩酸塩(0.82g、1.15ミリモル)、化合物B(m=18、0.47g、1.1ミリモル)、EDC−HCl(0.24g、1.25ミリモル)をジクロロメタン中に溶解し、室温で48時間撹拌した。その後、溶媒を留去し、熱メタノール溶液から再沈殿すると、白色沈殿として保護基の付いた化合物2の前駆体を得た。これをDMFに溶解しPd/Cを添加し6時間接触水素還元を行った後、セライトを用いてPd/Cを除去した。反応液を減圧濃縮後、ジエチルエーテルで再沈殿して化合物2を得た(0.55g、84%)
この化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)を図3に示す。
【0043】
(実施例4)化合物2(m=18、Xが(CH2)6−NH、Rはリジリル残基)の合成
<反応式10>
ジクロロメタン中ベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(化合物B)(2g、4.63ミリモル)にN−Boc−1,6−ヘキサンジアミン(1.1mL、4.88ミリモル)を混合し、EDC−HCl(1g、5.21ミリモル)を添加し室温で2時間撹拌することでカップリングを行った。溶媒を留去後、固体を10体積%の水を含むメタノール(80mL)で再結晶し、反応式(4)において化合物G(n=6)で表される中間体を粉末として得た(2.5g、86%)。
これをジクロロメタンに溶解後、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(20mL)で処理することにより、化合物8(n=6)の塩酸塩を得た(2.1g、94%)。
化合物8の塩酸塩(0.5g、0.88ミリモル)、Z−Lys(Z)−OH(0.40g、0.97ミリモル)、EDC−HCl(200mg、1.0ミリモル)をジクロロメタンに溶解し、0℃に冷却後、トリエチルアミン(140μL)を添加した。徐々に昇温し、72時間室温で撹拌したのち、溶媒を留去し、熱メタノールに溶解後、冷却することで固体として保護基の付加された化合物2の前駆体を白色固体として得た(0.68g、84%)。これをDMFに溶解し、パラジウム炭素(10%)を用いて6時間、接触水素化還元した後、セライトでろ過し、溶媒を留去後、エタノールから再沈殿して化合物2を得た(45ミリグラム、10%)。
DMSOに溶解しにくいため、NMRデーターはない。
【0044】
(実施例5)化合物2(m=18、Xが(CH2)2−NH、Rはリジリル残基)の合成
ジクロロメタン中、ベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(化合物B)(2.5g、5.8ミリモル)にN−Boc−1,6−ヘキサンジアミン(0.99mL、6.3ミリモル)を混合し、EDC−HCl(1.3g、6.7ミリモル)を添加し室温で3時間撹拌することでカップリングを行った。溶媒を留去後、固体を10体積%の水を含むメタノール(80mL)で再結晶し、反応式(4)において化合物G(n=2)で表される中間体を粉末として得た(3.0g、91%)。
得られた固体をジクロロメタンに溶解後、4規定の塩酸−酢酸エチル溶液(20mL)で処理することにより、この塩酸塩を得た(2.38g、90%)。この塩酸塩(0.5g、0.98ミリモル)、Z−Lys(Z)−OH(0.42g、1.0ミリモル)、EDC−HCl(0.23g、1.2ミリモル)をジクロロメタンに溶解し、0℃に冷却後、トリエチルアミン(140μL)を添加した。徐々に昇温し、72時間室温で撹拌したのち、溶媒を留去し、熱メタノールに溶解後、冷却することで固体として保護基の付加された化合物2の前駆体を白色固体として得た(0.69g、81%)。これをDMFに溶解し、Pd/C(10%)を用いて6時間、接触水素化還元した後、セライトでろ過し、溶媒を留去後、エタノールから再沈殿して化合物2を得た(270ミリグラム、66%)。
この化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)を図4に示す。
【0045】
<反応式11>
【0046】
(実施例6)化合物3(m=18、pが約45、Yはメチル基)の合成
<反応式12>
ベンジル基で保護されたポリメチレンジカルボン酸(m=18,反応式(6)における化合物B)(0,20グラム、0.463ミリモル)と同化合物J(日油社製SUNBRIGHT MEPA−20H、分子量1000、pは約45、Yはメチル基。1g、0.458ミリモル)をジクロロメタンに室温で溶解後、EDC−HCl(0.106mg、0.55ミリモル)を加えた。24時間撹拌後、反応溶液を留去し、シリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:クロロホルム)で単離精製しベンジル基で保護された化合物3の前駆体を得た。
当該前駆体をメタノール中、Pd/Cで接触水素還元し、得られた固体をジエチルエーテルで再沈殿し、白色固体として化合物3を得た(0.80g、70%)。
この化合物の1H−NMRデーター(室温、重DMSO中)を図5に示す。
【0047】
(実施例7)複合ナノチューブの調製(図6,7)
(7−1)化合物1/2および化合物1/2/3からなる複合ナノチューブの場合(化合物2のXが(CH2)6、Rがアルギニルの場合)
化合物2(6mg)、化合物3(10mg)、また必要に応じて化合物3(3.75mg)を10mLのイソプロピルアルコール/滅菌水混合液(1/1、体積比)に加熱溶解する。その後、室温でアルゴンガスを吹き込み、イソプロピルアルコールを除去して、複合ナノチューブを得た。この分散液に滅菌水を添加し10mlに再調製した。電子顕微鏡観察の結果、外径約40〜60nm、長さ500nm〜数百μm程度の複合ナノチューブが得られた(図6a、c)。また超音波処理によって外径約40〜60nm、長さ500nm〜2μm程度の複合ナノチューブに変化した(図6b、d)。用いた化合物はすべてm=18、化合物3:p=約45、Y=メチル基である。
得られたこれらの複合ナノチューブは1週間、4℃の保存でも安定な分散液であった。また得られたチューブのゼーター電位は、45.5、37.7mV(それぞれ化合物1/2、化合物1/2/3の複合ナノチューブ)といずれも正に帯電しており、DNAとの結合が可能である。
【0048】
(7−2)上述の化合物1/2/3で、化合物2のXが(CH2)2の場合
上述の方法により、外径約40〜60nm、長さは超音波処理に依存して変化し、200nm〜2μm程度の複合ナノチューブを得た(図6e、f)。
【0049】
(7−3)上述で化合物2のXがCH2−CO−NH−(CH2)2の場合
上述の方法により、外径約40〜60nm、長さは超音波処理に依存して変化し、100nm〜1μm程度の複合ナノチューブを得た(図7a、b)。
【0050】
(7−4)化合物2のXが(CH2)6、Rはリジル基の場合。
化合物1(10mg)、化合物2(5.7mg)を10mLのイソプロパノール/滅菌水混合溶液(1/1、体積比)に分散した。100マイクロリットルの0.1規定塩酸溶液でpHを中性付近に調整したのち、加熱溶解した。その後、アルゴンガスを吹き込み、イソプロピルアルコールを除去して、複合ナノチューブを得た。外径約40〜60nm、長さ100nm〜1μm程度の複合ナノチューブを得た(図7c)。
【0051】
(7−5)上述で化合物2のXが(CH2)2の場合。
化合物1(10mg)、化合物2(5.1mg)を10mLのイソプロパノール/滅菌水混合溶液(1/1、体積比)に分散した。50マイクロリットルの0.1規定塩酸溶液でpHを調整したのち、加熱溶解した。その後、アルゴンガスを吹き込み、イソプロピルアルコールを除去して、複合ナノチューブを得た(図7d)。
【0052】
(実施例8)オキシエチレン鎖を有する複合ナノチューブの分散性評価(図8)
化合物3を化合物1/2からなる複合ナノチューブに導入することによって、オキシエチレン鎖をチューブ表面に導入し、複合ナノチューブの分散性をさらに向上させることができる。この効果を、化合物1/2(いずれもm=18。化合物2:(CH2)6、R:アルギニル基、混合モル比1:2)および1/2/3(上記に加えて化合物3:m=18、p=45、Y=Me、混合モル比=63:32:5)からなる複合ナノチューブの同じ濃度条件での、400〜500nmでの濁度を測定することで評価した(図8と表1)。その結果、いずれの波長でも、化合物3を含む複合ナノチューブの方が濁度が低く、このことからオキシエチレン鎖の導入によって分散性を向上できることを確認できた。
【0053】
<表1> 複合ナノチューブの濁度による分散性評価
【0054】
(実施例9)DNAと複合ナノチューブの結合性評価(図9,10、11)
pEGFP−C1 DNA(1μg)を化合物1/2(いずれもm=18、化合物2:X=(CH2)6−NH、R=アルギニル。混合モル比=2:1)の複合ナノチューブあるいは化合物1/2/3(上述に加えて化合物3:m=18、p=45、Y=OH、混合モル比=63:32:5)の複合ナノチューブ溶液を、Arg/P(アルギニン残基モル数/DNA中のリン酸基モル数)を1〜8に変化させて水中で混合した。5分後にアガロースゲル電気泳動によってその結合性を検討した結果を図9に示す。化合物1/2の複合ナノチューブとDNAの結合では、Arg/P=3でほとんどのDNAが泳動されずに原点にとどまっているため、この比率で完全に結合していることを示している(図9上段図)。一方、DNA−化合物1/2/3の複合ナノチューブの系ではDNAとの結合は、Arg/P=4でほぼ完全に結合することを示している(図9下段図)。
DNAとの結合後も、チューブの形状を保持していることを走査型透過電子顕微鏡で確認した(図10)。
さらにDNAと複合ナノチューブとの結合特性を評価するために、YOYO−1で蛍光染色したDNAと複合ナノチューブの錯形成結合後の共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)による観察を行った。YOYO−1染色DNAについて上記実施例と同様な手法で複合ナノチューブと結合会合(Arg/P=8)させて、CLSMによってDNAからの蛍光像、また明視野像を観察した。その結果、図11に示すように複合ナノチューブの輪郭にそって蛍光を与えることがわかった。化合物1/2の複合ナノチューブとDNAの複合結合体では、チューブ同士の、会合に由来する幅の太い複合ナノチューブの束(大きさ:約1ミクロンメートル)を形成したのに対し、化合物1/2/3の複合ナノチューブとDNAの結合体複合では、そのような幅の太いバンドル形成は確認されていない。この点から、DNA−チューブ結合体においても化合物3の添加による分散性の向上が確認できる。
【0055】
(実施例10)DNA−チューブ結合体における保護機能(図12)
核酸キャリアの重要な役割の一つは、細胞質内においてDNAを分解酵素などに由来する分解反応から保護することである。そこで、DNase Iに対する分解耐性について検討した。用いたDNA−チューブ結合体は、上述で調整したものを用いた。その結果、図12に見られるようにDNase Iの添加5分後まで、化合物1/2/3の複合ナノチューブからなる結合体では、はDNAの若干の分解に伴う吸収の減少を示したが、その後はほぼ一定であった。これは市販のLA2000の場合とほぼ同様であった。また化合物1/2の複合ナノチューブの系では、DNaseの混合に由来する凝集を示し、濁度はむしろ低下してしまうため十分な評価が出来なかった。これは、測定中に用いたトリスバッファーによる塩析効果だと思われる。化合物1/2および1/2/3の複合ナノチューブの差はオキシエチレン鎖の有無だけであるので、凝集を生じる1/2の系についても同様に酵素分解反応からの保護機能があると期待できる
またこの結果も図8の濁度による分散性評価と同様に、オキシエチレン鎖の導入によってDNA−チューブ結合体の分散性が向上することを意味している。
【0056】
(実施例11)DNA−チューブ結合体の細胞への取り込み(図13)
細胞への取り込みは、DMEM培地(Dulbecco‘s Modified Eagle Medium: ダルベッコ改変イーグル培地)にFBS(ウシ胎児血清)10%、ストレプトマイシン100μg/mlを添加したものを用い、37℃、5% CO2雰囲気に調製した細胞培養器を用いた。対照実験として、市販のLA2000について同様のプロトコルで評価した。
用いた複合ナノチューブは、化合物1/2(いずれもm=18、化合物2:X=−(CH2)6−NH−、R=アルギニル。混合モル比=1:2)あるいは化合物1/2/3(上述に加えて化合物3:m=18、p=45、Y=OMe、混合モル比=63:32:5)で、それぞれ超音波未処理、あるいは処理後のものである。
KB細胞(ヒト咽頭癌細胞)を250000 cells /wellの濃度で、上記の2 mlのDMEM培地(35mm培養皿)に分散し、37℃で24時間培養した。その後培養液を除去し、YOYO−1でDNAを蛍光ラベルしたDNA−チューブ結合体を添加した。詳細な条件としては、2μg、10μLのYOYO−1ラベル化DNAをLA2000(+/−=3/1)の比率で加えたもの、また同様にして化合物1/2の複合ナノチューブを加えたもの(Arg/P=8/1)、化合物1/2/3の複合ナノチューブを加えたもの(Arg/P=8/1,5/1)を調製した。これらのDNA−チューブ結合体を上記のDMEM培地で1mlに希釈し、細胞に添加した。37℃で、5% CO2雰囲気で2時間培養した後、培地はPBSバッファーで2回洗浄し、Aqua Poly/mount ポリサイエンスInc.製,Warrington,米国ペンシルバニア)にマウントした。
図13に示す様に化合物1/2の複合ナノチューブから調製したDNA−チューブ結合体(Arg/P=8)では、複合ナノチューブからのローダミンBからの蛍光、またDNAからのYOYO−1の蛍光いずれも、高い蛍光強度を示すことから、DNA−チューブ結合体が高い細胞への取り込みを示すことがわかった。
【0057】
(実施例12)取り込みの半定量的評価(図14)
DNA−チューブ結合体(Arg/P=8/1)を培養細胞(KB細胞、A549細胞)に添加し、2時間培養した。その後、過剰なナノチューブをヘパリン含有のPBS(20U/ml)緩衝液で三回洗浄した。その後、フローサイトメトリー用緩衝液に分散後、フローサイトメトリーを用いてDNA−チューブ結合体中のYOYO−1修飾DNAの蛍光でモニターすることにより、細胞内に取り込まれたDNA−チューブ結合体の量について半定量的な評価を行った(図14)。その結果、特に化合物1/2の複合ナノチューブからなるDNA−チューブ結合体が、いずれの細胞にも高効率な取り込みを示していた。特にKB細胞においては、LA2000を上回るものであった。また、超音波処理をした短い複合ナノチューブの場合の方が、未処理のそれよりも高い取り込み効率を示した。これらの点から、複合ナノチューブのオキシチレン鎖の有無や、チューブの長さによって細胞への遺伝子導入効率が制御できることがわかった。
【0058】
(実施例13)細胞での遺伝子発現評価 (図15、16,17)
KB、A549細胞を250000cells/wellの濃度で、上記の2mlのDMEM培地(35mm培養皿)に分散し、37℃で24時間培養した。その後培養液を除去し、DNA−チューブ結合体を添加した。37℃で、5% CO2雰囲気で24時間培養した後、フローサイトメトリー用緩衝液に分散後、フローサイトメトリーを用いて発現したGFPからの蛍光でモニターすることにより、遺伝子発現量について半定量的な評価を行った(図15)。用いた複合ナノチューブは、化合物1/2、混合モル比=2:1)の複合ナノチューブあるいは化合物1/2/3(混合モル比=63:32:5、ただしX=CH2−CO−NH−(CH2)2の場合のみ79:16:5)で、それぞれ超音波未処理、あるいは処理後のものをDNAと結合させて用いた。
その結果、KB細胞におけるGFPの発現量はいずれの複合ナノチューブを用いた場合でもLA2000とほぼ同等であることがわかった。ただしA549細胞ではGFPの発現はあるものの、LA2000よりも若干低いことが示唆された。
【0059】
図16、17は、上述の遺伝発現実験において得られた細胞の導入遺伝子発現によって発現された緑色蛍光タンパク(GFP)を同一の観察条件で蛍光顕微鏡により可視化、観察したものである。細胞にそって蛍光像を与えることから、導入したGFPの遺伝子がタンパク質として細胞内で発現していることを示している。すなわちDNA−チューブ結合体が、細胞質や核に移行することによって遺伝子発現することを強く示唆している。
【0060】
(実施例14)DNA−チューブ結合体の細胞毒性 (図18)
市販品のリポフェクタミンは2マイクログラムのDNAと図に表記の荷電比、あるいはアルギニン/リン酸基の割合で混合した。リポフェクタミンは+/−=3、複合ナノチューブではArg/P=8で混合した。混合時間は5分から30分であり、その後、細胞に添加した。添加24時間後、培地を除き、余分なDNA−チューブ結合体やリポフェクタミンを除くため、20ユニット/mLのヘパリンで細胞を2回洗浄した。細胞は250μLのLysisバッファーでカバーして、10分間室温で培養した。細胞を粉砕し、その溶液は1.5ミリLのチューブに移した。これを−80℃に凍結し、室温に戻すことで、細胞を完全に壊した。12000gで5秒間遠心分離後、上澄を単離し、BCA法によってタンパク質の量を定量する方法により細胞の毒性として比較した。BSAを検量線とした。
用いた複合ナノチューブは、化合物1/2(いずれもm=18、R=アルギニル。混合モル比=2:1)あるいは化合物1/2/3(上述に加えて化合物3:m=18、p=45、Y=OMe、混合モル比=63:32:5、ただしX=CH2−CO−NHの場合のみ79:16:5)で、それぞれ超音波未処理、あるいは処理後のものである。
その結果、同じDNAの濃度では、LA2000も複合ナノチューブもほぼ同じタンパク質量であり、毒性はほとんどないことが明らかとなった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ナノチューブを形成可能な下記化学式(1)の脂質化合物(化合物1)もしくは薬理学的に許容されたその塩と共に、核酸結合性を有する下記化学式(2)の脂質化合物(化合物2)もしくは薬理学的に許容されたその塩とを含み、有機ナノチューブ構造体を形成していることを特徴とする複合ナノチューブ;
<化学式(1)>(化合物1)
〔式中、mは12〜20の整数。〕
<化学式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数か、又はCH2−CO−NH−(CH2)2を表し、Rはアルギニル、リジリル又はオルニチル残基を表す。〕。
【請求項2】
前記化学式(1)の脂質化合物及び前記化学式(2)の脂質化合物、又は薬理学的に許容されたそれぞれの塩を、モル換算で2:1〜10:1の混合比で含むことを特徴とする、請求項1に記載の複合ナノチューブ。
【請求項3】
さらに、ポリオキシエチレン残基を有する下記化学式(3)の脂質化合物(化合物3)もしくは薬理学的に許容されたその塩を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合ナノチューブ;
<化学式(3)>(化合物3)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕。
【請求項4】
前記化学式(1)の脂質化合物、前記化学式(2)の脂質化合物、及び前記化学式(3)の脂質化合物、又は薬理学的に許容されたそれぞれの塩を、モル換算で63:32:5〜87:8:5の混合比で含むことを特徴とする、請求項3に記載の複合ナノチューブ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された複合ナノチューブの構成成分として用いることができる、核酸結合性を有する下記化学式(2)の脂質化合物又は薬理学的に許容されたその塩;
<化学式(2)>
〔式中、mは12〜20の整数を表し、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数か、又はCH2−CO−NH−(CH2)2を表し、Rはアルギニル、リジリル又はオルニチル残基を表す。〕。
【請求項6】
請求項3又は4に記載された複合ナノチューブの構成成分として用いることができる、ポリオキシエチレン残基を有する下記式(3)の脂質化合物又は薬理学的に許容されたその塩;
<化学式(3)>
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の複合ナノチューブからなり、核酸と静電的に結合して核酸−チューブ結合体を形成することができる核酸キャリア。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の複合ナノチューブと核酸とが静電的に結合されており、細胞内に核酸を運搬することができる、核酸−チューブ結合体。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸キャリアを用い、当該核酸キャリアに静電的に結合させた核酸を細胞内に運搬することを特徴とする、細胞の形質転換方法。
【請求項10】
請求項9の形質転換方法により形質転換された、形質転換細胞。
【請求項11】
遺伝子治療用核酸を有効量含む請求項8に記載の核酸−チューブ結合体及び薬理学的に許容される担体からなる、遺伝子治療用組成物。
【請求項1】
有機ナノチューブを形成可能な下記化学式(1)の脂質化合物(化合物1)もしくは薬理学的に許容されたその塩と共に、核酸結合性を有する下記化学式(2)の脂質化合物(化合物2)もしくは薬理学的に許容されたその塩とを含み、有機ナノチューブ構造体を形成していることを特徴とする複合ナノチューブ;
<化学式(1)>(化合物1)
〔式中、mは12〜20の整数。〕
<化学式(2)>(化合物2)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数か、又はCH2−CO−NH−(CH2)2を表し、Rはアルギニル、リジリル又はオルニチル残基を表す。〕。
【請求項2】
前記化学式(1)の脂質化合物及び前記化学式(2)の脂質化合物、又は薬理学的に許容されたそれぞれの塩を、モル換算で2:1〜10:1の混合比で含むことを特徴とする、請求項1に記載の複合ナノチューブ。
【請求項3】
さらに、ポリオキシエチレン残基を有する下記化学式(3)の脂質化合物(化合物3)もしくは薬理学的に許容されたその塩を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合ナノチューブ;
<化学式(3)>(化合物3)
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕。
【請求項4】
前記化学式(1)の脂質化合物、前記化学式(2)の脂質化合物、及び前記化学式(3)の脂質化合物、又は薬理学的に許容されたそれぞれの塩を、モル換算で63:32:5〜87:8:5の混合比で含むことを特徴とする、請求項3に記載の複合ナノチューブ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された複合ナノチューブの構成成分として用いることができる、核酸結合性を有する下記化学式(2)の脂質化合物又は薬理学的に許容されたその塩;
<化学式(2)>
〔式中、mは12〜20の整数を表し、Xは(CH2)nでnが2〜8の整数か、又はCH2−CO−NH−(CH2)2を表し、Rはアルギニル、リジリル又はオルニチル残基を表す。〕。
【請求項6】
請求項3又は4に記載された複合ナノチューブの構成成分として用いることができる、ポリオキシエチレン残基を有する下記式(3)の脂質化合物又は薬理学的に許容されたその塩;
<化学式(3)>
〔式中、mは12〜20の整数を表し、pは10〜200の整数を表し、Yは水素原子又はメチル基を表す。〕。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の複合ナノチューブからなり、核酸と静電的に結合して核酸−チューブ結合体を形成することができる核酸キャリア。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の複合ナノチューブと核酸とが静電的に結合されており、細胞内に核酸を運搬することができる、核酸−チューブ結合体。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸キャリアを用い、当該核酸キャリアに静電的に結合させた核酸を細胞内に運搬することを特徴とする、細胞の形質転換方法。
【請求項10】
請求項9の形質転換方法により形質転換された、形質転換細胞。
【請求項11】
遺伝子治療用核酸を有効量含む請求項8に記載の核酸−チューブ結合体及び薬理学的に許容される担体からなる、遺伝子治療用組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−184391(P2011−184391A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53181(P2010−53181)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人科学技術振興機構委託研究「超分子ナノチューブアーキテクトニクスとナノバイオ応用」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人科学技術振興機構委託研究「超分子ナノチューブアーキテクトニクスとナノバイオ応用」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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