有機ハロゲン化合物の浄化材及び該浄化材を用いた浄化方法、該浄化材のリサイクル方法
【課題】有機ハロゲン化合物に汚染された地下水等に対する分解速度に優れると共にコストを低減できる有機ハロゲン化合物の浄化材及び該浄化材を用いた浄化方法、浄化材のリサイクル方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る有機ハロゲン化合物の浄化材は、白金族元素又はニッケルを担体上に担持した金属担持粒子からなる第1粒子と、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合してなるものである。
【解決手段】本発明に係る有機ハロゲン化合物の浄化材は、白金族元素又はニッケルを担体上に担持した金属担持粒子からなる第1粒子と、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合してなるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機ハロゲン化合物に汚染された地下水等を迅速に浄化できる有機ハロゲン化合物の浄化材及び該浄化材を用いた浄化方法、該浄化材のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ハロゲン化合物は優れた溶解力を持つ脱脂溶剤として、半導体製造業、金属加工業、クリーニング業などで広く使用されてきたが、使用後の有機ハロゲン化合物による土壌及び地下水の汚染が深刻となっている。
有機ハロゲン化合物を無害化する方法として、原位置から汚染土壌そのものを除去する方法、原位置で土壌、または有機塩素系化合物が溶けこんだ地下水を処理して有機ハロゲン化合物を分解する方法、汚染土壌の周辺において汚染土壌から流出する地下水を浄化する方法等が提案されている。
【0003】
これらのうち、原位置で汚染土壌を浄化する方法には、嫌気性微生物により生物分解する方法と鉄粉と水分を接触させ、鉄粉が酸化される際に発生する水素によって有機ハロゲン化合物を還元し、分解する方法(以下、鉄粉法)がある。これらの方法の中で、現在、鉄粉法が効果の確実性に優れ、且つ、工場跡地など広大な汚染土壌を処理するのに適していることから主流となりつつある。
【0004】
このような鉄粉法に関する技術として、特許文献1に記載された「土壌・地下水の浄化処理用貴金属担持金属鉄粒子」の発明がある。
この特許文献1に記載された「土壌・地下水の浄化処理用貴金属担持金属鉄粒子」は、「有機ハロゲン化合物で汚染された土壌・地下水の浄化処理に用いる貴金属担持金属鉄粒子であり、該貴金属担持金属鉄粒子は平均粒子径が1.0〜100μmであって粉体pHが7〜11である金属鉄粒子とルテニウム、ロジウム及びパラジウムから選択した1種以上の貴金属とからなる貴金属担持金属鉄粒子であって、貴金属の含有量が0.01〜0.5重量%であることを特徴とする」ものである。
【0005】
また、鉄粉法に関する他の技術として、特許文献2に開示された被処理物用無害化処理剤の発明がある。この特許文献2に開示された発明は、「Fe粉末100重量部とNi粉末0.01〜2重量部からなる混合物をメカニカルアロイング法により合金化したFe−Ni合金からなる有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物用無害化処理剤」である(特許文献2、請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-194542号公報
【特許文献2】特開2004-57881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明は、貴金属を用いているが、貴金属は高価である。しかしながら、鉄粒子に貴金属を担持させているため、浄化材として使用した後は貴金属を容易に回収することができず、使用後に廃棄することになりコストがかかり、また貴金属を回収しようとすると回収コストがかかるという問題がある。
他方、特許文献2のものについては、鉄粉とニッケル粉をメカニカルアロイング法により合金化処理したものであり、製造コストがかかるという問題がある。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、有機ハロゲン化合物に汚染された地下水等に対する分解速度に優れると共にコストを低減できる有機ハロゲン化合物の浄化材及び該浄化材を用いた浄化方法、浄化材のリサイクル方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る有機ハロゲン化合物の浄化材は、白金族元素又はニッケルを担体上に担持した金属担持粒子からなる第1粒子と、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合してなるものである。
【0010】
(2)本発明に係る有機ハロゲン化合物の浄化方法は、上記(1)に記載の浄化材を処理水と接触させて該処理水中に含まれる有機ハロゲン化合物を浄化することを特徴とするものである。
【0011】
(3)本発明に係る有機ハロゲン化合物の浄化材のリサイクル方法は、上記(2)の方法に使用した使用済の浄化材を回収する回収工程と、回収した浄化材から第1粒子を分離する分離工程と、分離した第1粒子と新たな鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合する混合工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記分離工程は、磁選、篩い分け、又は比重分離の何れかの方法によることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、白金族元素又はニッケルを担体上に担持した金属担持粒子(第1粒子)と、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合してなるので、有機ハロゲン化合物を確実、且つ、迅速に分解除去でき、また金属担持粒子を回収することができるので、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1の実験装置の説明図である。
【図2】本発明の実施例1の実験結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1の実験結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1の実験結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1の効果を確認するための比較例1の実験結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例1の効果を確認するための比較例1の実験結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例1の効果を確認するための比較例1の実験結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例2の実験装置の説明図である。
【図9】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例2の効果を確認するための比較例2の実験結果を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例2の効果を確認するための比較例2の実験結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例2の効果を確認するための比較例2の実験結果を示すグラフである。
【図15】本発明の実施例3の実験結果を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例3の実験結果を示すグラフである。
【図17】本発明の実施例3の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る有機ハロゲン化合物の浄化材は、白金族元素又はニッケルを担体上に担持した金属担持粒子(第1粒子)と、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合してなるものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0016】
<第1粒子>
〔白金族元素またはニッケル〕
白金族元素としては、特にパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、プラチナ(Pt)が好ましい。
白金族元素以外の金属元素としてニッケルも好ましい。
【0017】
〔担体〕
担体としては、無機質の多孔質のものを用いることができ、例えばアルミナ、ゼオライト、シリカ、けい藻、セラミック、活性炭などが挙げられる。
担体は、その比表面積が大きいほど、処理水と接触する面積が増え、水素化触媒反応による脱塩素・水素化によりVOCの分解性能が高くなるので、好ましい。担体の比表面積としては、窒素置換のBET法で10〜1000m2/gが好ましい。
金属担持量に関しては、金属担持量が増えると担体コストが上がるので、0.1〜5%の担持量が好ましい。
【0018】
<第2粒子>
第2粒子は、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなるものである。
〔鉄粉〕
鉄粉としては、アトマイズ鉄粉、還元鉄粉、電解鉄粉、ショット屑などを用いることができる。また、鋼粉、鋳鉄粉であってもよい。
〔鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉〕
鉄よりも貴な金属としては、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、コバルト(Co)が挙げられる。
〔鉄合金〕
また、鉄合金としては、鉄・クロム合金、鉄・アルミ合金、ニッケル・鉄合金、コバルト・鉄合金、銅・鉄合金、モリブデン・鉄合金、ステンレスなどを用いることができる。
【0019】
なお、第2粒子の粒度分布としては、粒径0.045mm以上が50%以上、最大粒径は2mmとするのが好ましい。第2粒子の粒度分布において、粒径0.045mm未満が50%以上になると、例えば第2粒子を入れたカートリッジ等から第2粒子が流出してしまい、回収し難くなる。他方、第2粒子の粒径が2mm以上になると反応性が低くなる。
また、第2粒子の表面に酸化皮膜が形成される場合、酸化被膜はできるだけ薄い方がよく、30nm以下が好ましい。
【0020】
上記のように構成された有機ハロゲン化合物の浄化材において、金属担持粒子(第1粒子)はオレフィンの水素化触媒機能を有する。また、第2粒子は、金属担持粒子担体と接触することで発生する局所電池反応により有機ハロゲン化合物のハロゲン原子を水素原子に置換、水素化することによって浄化作用を発揮する。特に白金族元素はいずれも電位が高く、鉄粉等と白金族元素間の電位差は大きく、局所電池反応が効果的に起こる。
【0021】
処理対象となる処理水は、地下水、工場廃水、下水、汚水、洗浄水などで有機ハロゲン化合物を含むものが対象となる。
【0022】
[実施の形態2]
本実施の形態の浄化材を用いた具体的な処理方法としては、大きく分けて浄化材を容器に収容して用いる方法と、浄化材を容器に収容することなく用いる方法がある。
<浄化材を容器に収容する方法>
容器に収容する方法としては、以下の態様が考えられる。
(1)浄化材を円筒状の容器に入れ、これを処理地に掘削した掘削井戸内の水中に沈める。掘削井戸内にポンプを設置し、該ポンプによって容器内に地下水を強制的に通水して地下水を浄化する。浄化完了後は容器を回収する。この場合、浄化材の容器への入れ方としては、浄化材が容器内で流動しないように充填するような態様でもよいし、浄化材が容器内で流動するように入れる態様でもよい。
(2)浄化材を容器に収容し、該容器を汚染された処理水を貯留する貯留槽に入れ、貯留槽内の処理水が前記容器を通水するように循環させる。
(3)不定形で変形可能なバックに浄化材を入れ、汚染された水の中に浸漬する。処理水が浄化された後にバッグごと回収する。
【0023】
<浄化材を容器に収容しない方法>
(1)流動槽
浄化材を筒状の流動槽に入れ、処理水を流動槽の下部から上部に向けて流すことにより、浄化材を構成している担体及び/または鉄粉等が流動槽内を流動するようにする。浄化材が流動することで、懸濁物質などが詰ることがないので、懸濁物質の詰まりによる圧損がない。また、鉄粉等の溶解により鉄粉等の表面に発生する酸化皮膜が流動時の摩擦等により剥離し、常時鉄等の酸化膜に覆われていない新しい面を露出させることができ、反応を活性化できる。
【0024】
(2)固定槽
浄化材を、例えば筒状の固定槽内に浄化材が流動しないように充填して充填層を形成し、該充填層に処理水を通水する。この場合には、通水の向きは、問わない。この方法の場合、簡便であり、また処理水の向きが限定されないという利点がある。
【0025】
(3)攪拌槽
浄化材を、例えば底浅の円筒容器に入れ、円筒容器に回転する攪拌羽根を設け、処理水を攪拌するようにする。攪拌羽根に代えて、ノズルから処理水を勢いよく噴射して渦状の水流を発生させるようにしてもよい。この場合にも、流動槽の場合と同様に、懸濁物質などが詰ることがなく、懸濁物質の詰まりによる圧損がない。また、鉄粉等の溶解により鉄粉等の表面に発生する酸化皮膜が流動時の摩擦等により剥離し、常時鉄等の酸化膜に覆われていない新しい面を露出させることができ、反応を活性化できる。
【0026】
なお、上記の各処理方法においては、連続処理であっても、バッチ処理であってもよい。
【0027】
[実施の形態3]
浄化材のリサイクル方法を説明する。
本実施の形態に係る浄化材のリサイクル方法は、上記実施の形態2で説明した処理方法で使用した使用済の浄化材を回収する回収工程と、回収した浄化材から金属担持粒子(第1粒子)を分離する分離工程と、分離した金属担持粒子と新たな鉄又は鉄合金からなる第2粒子を混合する混合工程とを備えたものである。
以下、各工程をさらに詳細に説明する。
【0028】
<回収工程>
実施の形態2で説明した各方法のうち、浄化材を容器に収容する方法では回収工程における浄化材の回収がきわめて容易にできる。もっとも、浄化材を容器に収容していない場合であっても、各槽から浄化材を回収することは容易である。
【0029】
<分離工程>
回収した粒子が固結している場合は解砕した後、分離する。
分離工程は、回収した浄化材から金属担持粒子(第1粒子)を分離する工程である。
分離工程での具体的な態様としては、(1)比重選別、(2)磁力選別、(3)粒度選別が挙げられる。
(1)比重選別は、金属担持粒子(第1粒子)と鉄粉等の比重差で分離する方法であり、サイクロン、ジグ、スパイラルなどの比重分離装置を用いることができる。
(2)磁力選別は、磁力により着磁物(鉄粉等)と非着物(金属担持粒子)とを分離する方法であり、ドラム磁選器などの汎用品を用いることができる。なお、オーステナイトSUSは非着磁であるため、磁力選別では金属担持粒子との選別ができないので、他の選別方法によって行うようにすればよい。
(3)粒度選別は、粒子径の差から金属担持粒子と鉄粉等を分離する方法であり、篩い分け器を用いることができる。
【0030】
分離した、金属担持粒子は、洗浄されて再利用前に供される。洗浄は、酸による表面汚れ取りと活性化処理を行う。酸は塩酸、硫酸などの無機酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸などの有機酸を使用できる。無機酸の場合、濃度が高すぎると担体に担持した金属が溶解してしまう恐れがあるので50%以下の濃度の溶液を用いるのが好ましい。
【0031】
<混合工程>
混合工程は、回収工程で回収され、活性化処理がされた金属担持粒子に、新たな鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合する工程である。
混合工程を経ることで、浄化材がリサイクルされ、リサイクルされた浄化材はその使用態様に応じて容器への収容等される。
【実施例1】
【0032】
[実施例1]
本発明に係る浄化材の効果を確認するための実験を行ったので以下説明する。
図1は本実施例1に用いた実験装置の説明図である。実験装置は、図1に示すように、VOC汚染水を入れるテドラパック1と、浄化材を収容する充填カラム3とを備え、テドラパック1と充填カラム3間を配管5で接続して、配管5の途中にポンプ7を設け、該ポンプ7によって汚染水を充填カラム3に供給するようにしている。充填カラム3の入り口付近にバルブ9を設け、バルブ9から分岐して処理前水をサンプリングするための第1サンプリング口11を設け、充填カラム3の出口には処理後水をサンプリングするための第2サンプリング口13を設けている。
【0033】
充填カラム3は、直径2cm、長さ20cmのガラスカラムからなり、その中に金属パラジウム(Pd)(以下、単に「Pd」という)を0.5%担持したアルミナ担体を35g充填し、さらに、純鉄粉を85g充填して構成した。Pd担持アルミナ担体のBET比表面積を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
充填カラム3に、VOC汚染水(シス-1,2-ジクロロエチレン(DCE)、トリクロロエチレン(TCE)、テトラクロロエチレン(PCE)を各40mg/l含有)を下から上向流で通水した。
なお、ポンプ7は流速可変式のものであり、これによって充填カラム3へ供給する流速を可変とした。また、VOC汚染水は濃度の変動がないようにテドラパック1、各配管、サンプリングバルブはPTFE材料を用いた。
【0036】
通水速度を変え、第1サンプリング口11から処理前の初期の処理水をサンプリングし、また第2サンプリング口13から処理後の処理水をサンプリングし、VOC濃度をGC-MSヘッドスペース法で測定した。測定結果を表2、図2〜4に示す。
【表2】
【0037】
図2〜図4は、通水速度とVOC濃度との関係を示すグラフであり、各図において横軸はSV値(時間当たりの通水流量/充填カラム容積)(1/h)を示している。また、縦軸は、図2ではDCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)、図3ではTCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)、図4ではPCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)をそれぞれ示している。
【0038】
表2及び図2〜図4から分かるように、DCE、TCE、PCEのいずれに対しても優れた分解性能を発揮している。また、Pd担持担体の比表面積が大きい方が分解性能に優れていることも分かる。
【0039】
[比較例1]
Pdを担体に担持させたことの効果を確認するために、アルミナボールにはPdを担持せずに、純鉄粉の上面にPd、Niをコーティングした場合について実施例1と同様の実験を行った。比較例1の実験内容を示すと以下の通りである。
実施例1と同様のガラスカラムに、アルミナボールと、触媒用Pdブラック0.1質量%を純鉄粉表面にコーティングしたPdコーティング鉄粉を充填した。また、他の例として、実施例1と同様の装置に、アルミナボールと、平均粒径が0.4μmの金属ニッケル0.2質量%を純鉄粉表面にコーティングしたNiコーティング鉄粉を充填した。なお、アルミナボールを充填カラムに充填したのは、実施例1と同様の通水環境を充填カラム内に形成するためである。
実施例1と同様に通水しVOC濃度を測定した。結果を表3、図5〜7に示す。
【表3】
【0040】
表3及び図5〜図7から分かるように、実施例に比較するとVOCの分解性能が劣っている。例えば、実施例1におけるPd担持担体AのSV=30におけるDCEの濃度比は0.00145である(図2参照)のに対して、比較例1におけるPdコート鉄粉のSV=30におけるDCEの濃度比は0.2375であり、実施例1の方が100倍以上の分解性能を有していることが分かる。
実施例1と比較例1の比較から、Pdをアルミナ担体に担持して用いることで、Pdを鉄粉表面にコーティングして用いるよりも、VOC分解性能が格段に向上することが分かる。
【実施例2】
【0041】
[実施例2]
実施例2においては、本発明の浄化材をバッチ処理方式で用いた場合の効果について確認した。図8は、本実施例2の実験装置の説明図である。本実施例2の実験装置は、容量が100mlのバイアル瓶15にVOC汚染水17(DCE、TCE、PCE各10mg/l含有)を95ml入れ、この中に浄化材19を入れてPTFE製のセプタム21で密栓して構成される。
浄化材19は、金属Pdを0.5%担持したアルミナ担体13gに、平均粒径が110μmの純鉄粉33gを混合したものである。Pd担持アルミナ担体は実施例1で使用した表1に示すPd担持担体A〜Cと同じものである。
バイアル瓶15を30rpmで回転させながら所定時間毎に採水し、GC−MSにてVOC濃度を測定した。結果を表4、及び図9〜11に示す。
【0042】
【表4】
【0043】
図9〜図11は、通水速度とVOC濃度との関係を示すグラフであり、各図において横軸は反応(滞留)時間(min)を示している。また、縦軸は、図9ではDCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)、図10ではTCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)、図11ではPCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)をそれぞれ示している。
【0044】
表4及び図9〜図11から分かるように、バッチ処理方式の場合であっても、本発明の浄化材はVOCの分解性能が十分に発揮される。また、実施例1の場合と同様に、Pd担持担体の比表面積が大きい方が分解性能に優れていることも分かる。
【0045】
[比較例2]
バッチ処理の場合において、比較例1と同様に、Pdを担体に担持させたことの効果を確認するために、アルミナボールにはPdを担持せずに、純鉄粉、純鉄粉の上面にPd、Niをコーティングした場合について実施例2と同様の実験を行った。比較例2の実験内容を示すと以下の通りである。
100mlバイアル瓶15にVOC汚染水17(DCE、TCE、PCE各10mg/l含有)を95ml入れ、3Φアルミナボール13g、各種鉄粉を33gを入れてPTFE製のセプタム21で密栓した。
鉄粉としてはa:純鉄粉、b:金属Niを0.2%コーティングしたNiコーティング鉄粉、c:Pdブラックを0.1%コーティングしたPdコーティング鉄粉をそれぞれ用いた。
バイアル瓶15を30rpmで回転させながら所定時間毎に採水し、GC−MSにてVOC濃度を測定した。結果を表5、図12〜14に示す。
【0046】
【表5】
【0047】
表5、図12〜14から分かるように、比較例2の場合には、VOCの分解性能が極めて低いことが分かる。また、比較例1と比較しても比較例2の方が分解性能が劣っている。この理由は、比較例1では浄化材を充填カラムに充填3して通水していたのに対して、比較例2では浄化材をバイアル瓶15に入れ、バイアル瓶15を回転させるという態様であったため、比較例1の方が処理水と浄化材の接触が行われやすかったことに起因すると推察される。この点、実施例2では、実施例1とほぼ同等の分解性能を発揮していることから、本発明の浄化材は、バッチ処理方式であっても分解性能に優れることが確認された。
【実施例3】
【0048】
[実施例3]
本実施例3では、浄化材をリサイクルした場合の分解性能に与える影響を確認する実験を行ったので、その内容と結果を以下に示す。
3ヶ月間通水処理を行った実施例1のPd担持担体Bを充填した充填カラム3から充填物を抜き取り、2.0mmの篩いで分級した。篩い上に残ったPd担持担体Bと固結鉄粉を1000ガウスの永久磁石で磁力選別し、Pd担持担体Bのみを回収した。
また、篩い下の鉄粉も別途回収した。回収物は水で洗浄後、真空乾燥を行った。真空乾燥後のPd担持担体Bを用いて実施例2と同様の試験を行った。結果を、表6及び図15〜図17に示す。なお、表6及び図15〜図17においては、新品のPd担持担体Bを用いたときの結果を併せて示している。
【0049】
【表6】
【0050】
表6及び図15〜図17に示されるように、3ヶ月間通水処理を行った後のものでも新品とほぼ同様のVOC分解能を有していることが確認された。これにより、本発明の浄化材はリサイクルしたとしてもVOC分解性能が低下することなく使用できることが確認された。
【符号の説明】
【0051】
1 テドラパック
3 充填カラム
5 配管
7 ポンプ
9 バルブ
11 第1サンプリング口
13 第2サンプリング口
15 バイアル瓶
17 VOC汚染水
19 浄化材
21 セプタム
【技術分野】
【0001】
本発明は有機ハロゲン化合物に汚染された地下水等を迅速に浄化できる有機ハロゲン化合物の浄化材及び該浄化材を用いた浄化方法、該浄化材のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ハロゲン化合物は優れた溶解力を持つ脱脂溶剤として、半導体製造業、金属加工業、クリーニング業などで広く使用されてきたが、使用後の有機ハロゲン化合物による土壌及び地下水の汚染が深刻となっている。
有機ハロゲン化合物を無害化する方法として、原位置から汚染土壌そのものを除去する方法、原位置で土壌、または有機塩素系化合物が溶けこんだ地下水を処理して有機ハロゲン化合物を分解する方法、汚染土壌の周辺において汚染土壌から流出する地下水を浄化する方法等が提案されている。
【0003】
これらのうち、原位置で汚染土壌を浄化する方法には、嫌気性微生物により生物分解する方法と鉄粉と水分を接触させ、鉄粉が酸化される際に発生する水素によって有機ハロゲン化合物を還元し、分解する方法(以下、鉄粉法)がある。これらの方法の中で、現在、鉄粉法が効果の確実性に優れ、且つ、工場跡地など広大な汚染土壌を処理するのに適していることから主流となりつつある。
【0004】
このような鉄粉法に関する技術として、特許文献1に記載された「土壌・地下水の浄化処理用貴金属担持金属鉄粒子」の発明がある。
この特許文献1に記載された「土壌・地下水の浄化処理用貴金属担持金属鉄粒子」は、「有機ハロゲン化合物で汚染された土壌・地下水の浄化処理に用いる貴金属担持金属鉄粒子であり、該貴金属担持金属鉄粒子は平均粒子径が1.0〜100μmであって粉体pHが7〜11である金属鉄粒子とルテニウム、ロジウム及びパラジウムから選択した1種以上の貴金属とからなる貴金属担持金属鉄粒子であって、貴金属の含有量が0.01〜0.5重量%であることを特徴とする」ものである。
【0005】
また、鉄粉法に関する他の技術として、特許文献2に開示された被処理物用無害化処理剤の発明がある。この特許文献2に開示された発明は、「Fe粉末100重量部とNi粉末0.01〜2重量部からなる混合物をメカニカルアロイング法により合金化したFe−Ni合金からなる有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物用無害化処理剤」である(特許文献2、請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-194542号公報
【特許文献2】特開2004-57881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明は、貴金属を用いているが、貴金属は高価である。しかしながら、鉄粒子に貴金属を担持させているため、浄化材として使用した後は貴金属を容易に回収することができず、使用後に廃棄することになりコストがかかり、また貴金属を回収しようとすると回収コストがかかるという問題がある。
他方、特許文献2のものについては、鉄粉とニッケル粉をメカニカルアロイング法により合金化処理したものであり、製造コストがかかるという問題がある。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、有機ハロゲン化合物に汚染された地下水等に対する分解速度に優れると共にコストを低減できる有機ハロゲン化合物の浄化材及び該浄化材を用いた浄化方法、浄化材のリサイクル方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る有機ハロゲン化合物の浄化材は、白金族元素又はニッケルを担体上に担持した金属担持粒子からなる第1粒子と、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合してなるものである。
【0010】
(2)本発明に係る有機ハロゲン化合物の浄化方法は、上記(1)に記載の浄化材を処理水と接触させて該処理水中に含まれる有機ハロゲン化合物を浄化することを特徴とするものである。
【0011】
(3)本発明に係る有機ハロゲン化合物の浄化材のリサイクル方法は、上記(2)の方法に使用した使用済の浄化材を回収する回収工程と、回収した浄化材から第1粒子を分離する分離工程と、分離した第1粒子と新たな鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合する混合工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記分離工程は、磁選、篩い分け、又は比重分離の何れかの方法によることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、白金族元素又はニッケルを担体上に担持した金属担持粒子(第1粒子)と、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合してなるので、有機ハロゲン化合物を確実、且つ、迅速に分解除去でき、また金属担持粒子を回収することができるので、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1の実験装置の説明図である。
【図2】本発明の実施例1の実験結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1の実験結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1の実験結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1の効果を確認するための比較例1の実験結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例1の効果を確認するための比較例1の実験結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例1の効果を確認するための比較例1の実験結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例2の実験装置の説明図である。
【図9】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例2の効果を確認するための比較例2の実験結果を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例2の効果を確認するための比較例2の実験結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例2の効果を確認するための比較例2の実験結果を示すグラフである。
【図15】本発明の実施例3の実験結果を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例3の実験結果を示すグラフである。
【図17】本発明の実施例3の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る有機ハロゲン化合物の浄化材は、白金族元素又はニッケルを担体上に担持した金属担持粒子(第1粒子)と、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合してなるものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0016】
<第1粒子>
〔白金族元素またはニッケル〕
白金族元素としては、特にパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、プラチナ(Pt)が好ましい。
白金族元素以外の金属元素としてニッケルも好ましい。
【0017】
〔担体〕
担体としては、無機質の多孔質のものを用いることができ、例えばアルミナ、ゼオライト、シリカ、けい藻、セラミック、活性炭などが挙げられる。
担体は、その比表面積が大きいほど、処理水と接触する面積が増え、水素化触媒反応による脱塩素・水素化によりVOCの分解性能が高くなるので、好ましい。担体の比表面積としては、窒素置換のBET法で10〜1000m2/gが好ましい。
金属担持量に関しては、金属担持量が増えると担体コストが上がるので、0.1〜5%の担持量が好ましい。
【0018】
<第2粒子>
第2粒子は、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなるものである。
〔鉄粉〕
鉄粉としては、アトマイズ鉄粉、還元鉄粉、電解鉄粉、ショット屑などを用いることができる。また、鋼粉、鋳鉄粉であってもよい。
〔鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉〕
鉄よりも貴な金属としては、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、コバルト(Co)が挙げられる。
〔鉄合金〕
また、鉄合金としては、鉄・クロム合金、鉄・アルミ合金、ニッケル・鉄合金、コバルト・鉄合金、銅・鉄合金、モリブデン・鉄合金、ステンレスなどを用いることができる。
【0019】
なお、第2粒子の粒度分布としては、粒径0.045mm以上が50%以上、最大粒径は2mmとするのが好ましい。第2粒子の粒度分布において、粒径0.045mm未満が50%以上になると、例えば第2粒子を入れたカートリッジ等から第2粒子が流出してしまい、回収し難くなる。他方、第2粒子の粒径が2mm以上になると反応性が低くなる。
また、第2粒子の表面に酸化皮膜が形成される場合、酸化被膜はできるだけ薄い方がよく、30nm以下が好ましい。
【0020】
上記のように構成された有機ハロゲン化合物の浄化材において、金属担持粒子(第1粒子)はオレフィンの水素化触媒機能を有する。また、第2粒子は、金属担持粒子担体と接触することで発生する局所電池反応により有機ハロゲン化合物のハロゲン原子を水素原子に置換、水素化することによって浄化作用を発揮する。特に白金族元素はいずれも電位が高く、鉄粉等と白金族元素間の電位差は大きく、局所電池反応が効果的に起こる。
【0021】
処理対象となる処理水は、地下水、工場廃水、下水、汚水、洗浄水などで有機ハロゲン化合物を含むものが対象となる。
【0022】
[実施の形態2]
本実施の形態の浄化材を用いた具体的な処理方法としては、大きく分けて浄化材を容器に収容して用いる方法と、浄化材を容器に収容することなく用いる方法がある。
<浄化材を容器に収容する方法>
容器に収容する方法としては、以下の態様が考えられる。
(1)浄化材を円筒状の容器に入れ、これを処理地に掘削した掘削井戸内の水中に沈める。掘削井戸内にポンプを設置し、該ポンプによって容器内に地下水を強制的に通水して地下水を浄化する。浄化完了後は容器を回収する。この場合、浄化材の容器への入れ方としては、浄化材が容器内で流動しないように充填するような態様でもよいし、浄化材が容器内で流動するように入れる態様でもよい。
(2)浄化材を容器に収容し、該容器を汚染された処理水を貯留する貯留槽に入れ、貯留槽内の処理水が前記容器を通水するように循環させる。
(3)不定形で変形可能なバックに浄化材を入れ、汚染された水の中に浸漬する。処理水が浄化された後にバッグごと回収する。
【0023】
<浄化材を容器に収容しない方法>
(1)流動槽
浄化材を筒状の流動槽に入れ、処理水を流動槽の下部から上部に向けて流すことにより、浄化材を構成している担体及び/または鉄粉等が流動槽内を流動するようにする。浄化材が流動することで、懸濁物質などが詰ることがないので、懸濁物質の詰まりによる圧損がない。また、鉄粉等の溶解により鉄粉等の表面に発生する酸化皮膜が流動時の摩擦等により剥離し、常時鉄等の酸化膜に覆われていない新しい面を露出させることができ、反応を活性化できる。
【0024】
(2)固定槽
浄化材を、例えば筒状の固定槽内に浄化材が流動しないように充填して充填層を形成し、該充填層に処理水を通水する。この場合には、通水の向きは、問わない。この方法の場合、簡便であり、また処理水の向きが限定されないという利点がある。
【0025】
(3)攪拌槽
浄化材を、例えば底浅の円筒容器に入れ、円筒容器に回転する攪拌羽根を設け、処理水を攪拌するようにする。攪拌羽根に代えて、ノズルから処理水を勢いよく噴射して渦状の水流を発生させるようにしてもよい。この場合にも、流動槽の場合と同様に、懸濁物質などが詰ることがなく、懸濁物質の詰まりによる圧損がない。また、鉄粉等の溶解により鉄粉等の表面に発生する酸化皮膜が流動時の摩擦等により剥離し、常時鉄等の酸化膜に覆われていない新しい面を露出させることができ、反応を活性化できる。
【0026】
なお、上記の各処理方法においては、連続処理であっても、バッチ処理であってもよい。
【0027】
[実施の形態3]
浄化材のリサイクル方法を説明する。
本実施の形態に係る浄化材のリサイクル方法は、上記実施の形態2で説明した処理方法で使用した使用済の浄化材を回収する回収工程と、回収した浄化材から金属担持粒子(第1粒子)を分離する分離工程と、分離した金属担持粒子と新たな鉄又は鉄合金からなる第2粒子を混合する混合工程とを備えたものである。
以下、各工程をさらに詳細に説明する。
【0028】
<回収工程>
実施の形態2で説明した各方法のうち、浄化材を容器に収容する方法では回収工程における浄化材の回収がきわめて容易にできる。もっとも、浄化材を容器に収容していない場合であっても、各槽から浄化材を回収することは容易である。
【0029】
<分離工程>
回収した粒子が固結している場合は解砕した後、分離する。
分離工程は、回収した浄化材から金属担持粒子(第1粒子)を分離する工程である。
分離工程での具体的な態様としては、(1)比重選別、(2)磁力選別、(3)粒度選別が挙げられる。
(1)比重選別は、金属担持粒子(第1粒子)と鉄粉等の比重差で分離する方法であり、サイクロン、ジグ、スパイラルなどの比重分離装置を用いることができる。
(2)磁力選別は、磁力により着磁物(鉄粉等)と非着物(金属担持粒子)とを分離する方法であり、ドラム磁選器などの汎用品を用いることができる。なお、オーステナイトSUSは非着磁であるため、磁力選別では金属担持粒子との選別ができないので、他の選別方法によって行うようにすればよい。
(3)粒度選別は、粒子径の差から金属担持粒子と鉄粉等を分離する方法であり、篩い分け器を用いることができる。
【0030】
分離した、金属担持粒子は、洗浄されて再利用前に供される。洗浄は、酸による表面汚れ取りと活性化処理を行う。酸は塩酸、硫酸などの無機酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸などの有機酸を使用できる。無機酸の場合、濃度が高すぎると担体に担持した金属が溶解してしまう恐れがあるので50%以下の濃度の溶液を用いるのが好ましい。
【0031】
<混合工程>
混合工程は、回収工程で回収され、活性化処理がされた金属担持粒子に、新たな鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合する工程である。
混合工程を経ることで、浄化材がリサイクルされ、リサイクルされた浄化材はその使用態様に応じて容器への収容等される。
【実施例1】
【0032】
[実施例1]
本発明に係る浄化材の効果を確認するための実験を行ったので以下説明する。
図1は本実施例1に用いた実験装置の説明図である。実験装置は、図1に示すように、VOC汚染水を入れるテドラパック1と、浄化材を収容する充填カラム3とを備え、テドラパック1と充填カラム3間を配管5で接続して、配管5の途中にポンプ7を設け、該ポンプ7によって汚染水を充填カラム3に供給するようにしている。充填カラム3の入り口付近にバルブ9を設け、バルブ9から分岐して処理前水をサンプリングするための第1サンプリング口11を設け、充填カラム3の出口には処理後水をサンプリングするための第2サンプリング口13を設けている。
【0033】
充填カラム3は、直径2cm、長さ20cmのガラスカラムからなり、その中に金属パラジウム(Pd)(以下、単に「Pd」という)を0.5%担持したアルミナ担体を35g充填し、さらに、純鉄粉を85g充填して構成した。Pd担持アルミナ担体のBET比表面積を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
充填カラム3に、VOC汚染水(シス-1,2-ジクロロエチレン(DCE)、トリクロロエチレン(TCE)、テトラクロロエチレン(PCE)を各40mg/l含有)を下から上向流で通水した。
なお、ポンプ7は流速可変式のものであり、これによって充填カラム3へ供給する流速を可変とした。また、VOC汚染水は濃度の変動がないようにテドラパック1、各配管、サンプリングバルブはPTFE材料を用いた。
【0036】
通水速度を変え、第1サンプリング口11から処理前の初期の処理水をサンプリングし、また第2サンプリング口13から処理後の処理水をサンプリングし、VOC濃度をGC-MSヘッドスペース法で測定した。測定結果を表2、図2〜4に示す。
【表2】
【0037】
図2〜図4は、通水速度とVOC濃度との関係を示すグラフであり、各図において横軸はSV値(時間当たりの通水流量/充填カラム容積)(1/h)を示している。また、縦軸は、図2ではDCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)、図3ではTCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)、図4ではPCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)をそれぞれ示している。
【0038】
表2及び図2〜図4から分かるように、DCE、TCE、PCEのいずれに対しても優れた分解性能を発揮している。また、Pd担持担体の比表面積が大きい方が分解性能に優れていることも分かる。
【0039】
[比較例1]
Pdを担体に担持させたことの効果を確認するために、アルミナボールにはPdを担持せずに、純鉄粉の上面にPd、Niをコーティングした場合について実施例1と同様の実験を行った。比較例1の実験内容を示すと以下の通りである。
実施例1と同様のガラスカラムに、アルミナボールと、触媒用Pdブラック0.1質量%を純鉄粉表面にコーティングしたPdコーティング鉄粉を充填した。また、他の例として、実施例1と同様の装置に、アルミナボールと、平均粒径が0.4μmの金属ニッケル0.2質量%を純鉄粉表面にコーティングしたNiコーティング鉄粉を充填した。なお、アルミナボールを充填カラムに充填したのは、実施例1と同様の通水環境を充填カラム内に形成するためである。
実施例1と同様に通水しVOC濃度を測定した。結果を表3、図5〜7に示す。
【表3】
【0040】
表3及び図5〜図7から分かるように、実施例に比較するとVOCの分解性能が劣っている。例えば、実施例1におけるPd担持担体AのSV=30におけるDCEの濃度比は0.00145である(図2参照)のに対して、比較例1におけるPdコート鉄粉のSV=30におけるDCEの濃度比は0.2375であり、実施例1の方が100倍以上の分解性能を有していることが分かる。
実施例1と比較例1の比較から、Pdをアルミナ担体に担持して用いることで、Pdを鉄粉表面にコーティングして用いるよりも、VOC分解性能が格段に向上することが分かる。
【実施例2】
【0041】
[実施例2]
実施例2においては、本発明の浄化材をバッチ処理方式で用いた場合の効果について確認した。図8は、本実施例2の実験装置の説明図である。本実施例2の実験装置は、容量が100mlのバイアル瓶15にVOC汚染水17(DCE、TCE、PCE各10mg/l含有)を95ml入れ、この中に浄化材19を入れてPTFE製のセプタム21で密栓して構成される。
浄化材19は、金属Pdを0.5%担持したアルミナ担体13gに、平均粒径が110μmの純鉄粉33gを混合したものである。Pd担持アルミナ担体は実施例1で使用した表1に示すPd担持担体A〜Cと同じものである。
バイアル瓶15を30rpmで回転させながら所定時間毎に採水し、GC−MSにてVOC濃度を測定した。結果を表4、及び図9〜11に示す。
【0042】
【表4】
【0043】
図9〜図11は、通水速度とVOC濃度との関係を示すグラフであり、各図において横軸は反応(滞留)時間(min)を示している。また、縦軸は、図9ではDCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)、図10ではTCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)、図11ではPCE濃度比(処理後濃度/初期濃度)をそれぞれ示している。
【0044】
表4及び図9〜図11から分かるように、バッチ処理方式の場合であっても、本発明の浄化材はVOCの分解性能が十分に発揮される。また、実施例1の場合と同様に、Pd担持担体の比表面積が大きい方が分解性能に優れていることも分かる。
【0045】
[比較例2]
バッチ処理の場合において、比較例1と同様に、Pdを担体に担持させたことの効果を確認するために、アルミナボールにはPdを担持せずに、純鉄粉、純鉄粉の上面にPd、Niをコーティングした場合について実施例2と同様の実験を行った。比較例2の実験内容を示すと以下の通りである。
100mlバイアル瓶15にVOC汚染水17(DCE、TCE、PCE各10mg/l含有)を95ml入れ、3Φアルミナボール13g、各種鉄粉を33gを入れてPTFE製のセプタム21で密栓した。
鉄粉としてはa:純鉄粉、b:金属Niを0.2%コーティングしたNiコーティング鉄粉、c:Pdブラックを0.1%コーティングしたPdコーティング鉄粉をそれぞれ用いた。
バイアル瓶15を30rpmで回転させながら所定時間毎に採水し、GC−MSにてVOC濃度を測定した。結果を表5、図12〜14に示す。
【0046】
【表5】
【0047】
表5、図12〜14から分かるように、比較例2の場合には、VOCの分解性能が極めて低いことが分かる。また、比較例1と比較しても比較例2の方が分解性能が劣っている。この理由は、比較例1では浄化材を充填カラムに充填3して通水していたのに対して、比較例2では浄化材をバイアル瓶15に入れ、バイアル瓶15を回転させるという態様であったため、比較例1の方が処理水と浄化材の接触が行われやすかったことに起因すると推察される。この点、実施例2では、実施例1とほぼ同等の分解性能を発揮していることから、本発明の浄化材は、バッチ処理方式であっても分解性能に優れることが確認された。
【実施例3】
【0048】
[実施例3]
本実施例3では、浄化材をリサイクルした場合の分解性能に与える影響を確認する実験を行ったので、その内容と結果を以下に示す。
3ヶ月間通水処理を行った実施例1のPd担持担体Bを充填した充填カラム3から充填物を抜き取り、2.0mmの篩いで分級した。篩い上に残ったPd担持担体Bと固結鉄粉を1000ガウスの永久磁石で磁力選別し、Pd担持担体Bのみを回収した。
また、篩い下の鉄粉も別途回収した。回収物は水で洗浄後、真空乾燥を行った。真空乾燥後のPd担持担体Bを用いて実施例2と同様の試験を行った。結果を、表6及び図15〜図17に示す。なお、表6及び図15〜図17においては、新品のPd担持担体Bを用いたときの結果を併せて示している。
【0049】
【表6】
【0050】
表6及び図15〜図17に示されるように、3ヶ月間通水処理を行った後のものでも新品とほぼ同様のVOC分解能を有していることが確認された。これにより、本発明の浄化材はリサイクルしたとしてもVOC分解性能が低下することなく使用できることが確認された。
【符号の説明】
【0051】
1 テドラパック
3 充填カラム
5 配管
7 ポンプ
9 バルブ
11 第1サンプリング口
13 第2サンプリング口
15 バイアル瓶
17 VOC汚染水
19 浄化材
21 セプタム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素又はニッケルを担体上に担持した金属担持粒子からなる第1粒子と、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合してなる有機ハロゲン化合物の浄化材。
【請求項2】
請求項1記載の浄化材を処理水と接触させて該処理水中に含まれる有機ハロゲン化合物を浄化する有機ハロゲン化合物の浄化方法。
【請求項3】
請求項2の方法に使用した使用済の浄化材を回収する回収工程と、回収した浄化材から第1粒子を分離する分離工程と、分離した第1粒子と新たな鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合する混合工程とを備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物の浄化材のリサイクル方法。
【請求項4】
前記分離工程は、磁選、篩い分け、又は比重分離の何れかの方法によることを特徴とする請求項3記載の有機ハロゲン化合物の浄化材のリサイクル方法。
【請求項1】
白金族元素又はニッケルを担体上に担持した金属担持粒子からなる第1粒子と、鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合してなる有機ハロゲン化合物の浄化材。
【請求項2】
請求項1記載の浄化材を処理水と接触させて該処理水中に含まれる有機ハロゲン化合物を浄化する有機ハロゲン化合物の浄化方法。
【請求項3】
請求項2の方法に使用した使用済の浄化材を回収する回収工程と、回収した浄化材から第1粒子を分離する分離工程と、分離した第1粒子と新たな鉄粉、又は鉄粉の表面を鉄よりも貴な金属で被覆した金属粉、又は鉄合金からなる金属粉からなる第2粒子を混合する混合工程とを備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物の浄化材のリサイクル方法。
【請求項4】
前記分離工程は、磁選、篩い分け、又は比重分離の何れかの方法によることを特徴とする請求項3記載の有機ハロゲン化合物の浄化材のリサイクル方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−88077(P2011−88077A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243713(P2009−243713)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】
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