説明

有機ハロゲン化合物の無害化処理方法

【課題】工程が少なく比較的温和な操作条件で分解が可能で、またその分解率も高く、さらに構造が簡単かつ安価で准密閉系の無害化処理装置を使用して、幅広い形態の有機ハロゲン化合物に適用可能な有機ハロゲン化合物の無害化処理方法を提供する。
【解決手段】固相あるいは半固相に吸着又は付着した有機ハロゲン化合物を准密閉容器に入れ、温和な条件下(260℃程度以下の加温、常圧)で更に微量の不活性ガス(不活性ガスとは、N2、アルゴン、ヘリウムガス等をいう)を流入させる状態でアルカリ剤及び脱水剤として作用する薬剤を攪拌混合する。
【効果】固相あるいは半固相に吸着又は付着した有機ハロゲン化合物を、温和な条件下で、簡単な処理工程で、かつ安価な装置で95%以上の脱ハロゲン化処理が可能となる。又、攪拌混合の際に硬質なボール等の衝撃体による衝撃エネルギーを加えれば、該固形物あるいは該半固形物の充分な微粉砕化と、更に脱ハロゲン化処理を進めることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシ類、ポリ塩化ビフェニル(PCB)に代表される有機ハロゲン化合物の無害化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ダイオキシ類、ポリ塩化ビフェニル(PCB)に代表される有機ハロゲン化合物は、熱的に安定で分解され難い物質である。しかしながら有機ハロゲン化合物は、環境に悪影響を及ぼすことから、これを無害化することが必要であり、これまでにも多くの無害化技術が開示されている。
【0003】
その無害化技術としては、例えば(1)焼却法(2)プラズマ分解法(3)還元性熱分解法(4)減圧還元加熱処理法(5)水熱分解法(6)超臨界水酸化分解法(7)赤外加熱脱着・焼却法(8)アルカリ触媒分解法(9)接触水素化による脱ハロゲン化法(10)メカノケミカル法(11)金属ナトリウム脱塩素化法(12)金属ナトリウム分散体法(13)金属ナトリウム分散油脱塩素化法がある。
【0004】
(1)焼却法は、空気中で約800〜1800℃の温度で高温酸化反応させ、有機ハロゲン化合物を分解させる方法である。(2)プラズマ分解法は、プラズマアーク炉などで1300℃以上の高温により有機ハロゲン化合物を熱分解させる方法である。また(3)還元性熱分解法は、窒素雰囲気下あるいは水素雰囲気下において400〜500℃程度で加熱して脱塩素化する方法である。
【0005】
(4)減圧還元加熱処理法は、減圧、低濃度酸素雰囲気下において600℃以上の温度で加熱し、脱塩素化する方法である。また(5)水熱分解法は、高温・高圧の水蒸気により有機ハロゲン化合物を酸化分解させる方法である。(6)超臨界水酸化分解法は、高温・高圧の超臨界水を用いて酸化分解させる方法である。(7)赤外加熱脱着・焼却法は、500〜1000℃程度の赤外線加熱により土壌等の固相物から脱着した有機塩素化合物を燃焼して酸化分解する方法である。
【0006】
(8)アルカリ触媒分解法は、触媒とアルカリ水溶液、あるいは触媒とアルコールのアルカリ塩を添加した後、200〜350℃で加熱し、脱塩素化させる方法である。(9)接触水素化による脱ハロゲン化法は、貴金属触媒存在下において、水素ガスを導入して接触水素化させることにより、脱ハロゲン化を行う方法である。(10)メカノケミカル法は、酸化カルシウムと水素供与体を添加した後、アルゴン存在下、非加熱の粉砕操作で反応物に機械的エネルギーを与え、有機ハロゲン化合物を脱塩素化させる方法である。
【0007】
(11)金属ナトリウム脱塩素化法、(12)金属ナトリウム分散体法および(13)金属ナトリウム分散油脱塩素化法は、いずれも鉱物油中に微細・分散化した金属ナトリウムを添加、窒素雰囲気下において70〜150℃程度で加熱して脱塩素化させる方法である。
【0008】
上記の(1)〜(8)の無害化方法は、(イ)高温又は高温・高圧の条件下で行う必要があるなど操作条件が厳しい、(ロ)大掛かりな装置が必要である、(ハ)操作が複雑である、(ニ)高価なアルカリ薬剤等の薬剤を必要とするなどの課題が指摘されている。また、(10)の無害化処理法は安価なアルカリ薬剤でかつ常温で処理できる長所をもつが、無害化処理に3日程度の長時間を要する短所がある。
【0009】
一方、(8)、(9)及び(11)〜(13)の処理法は、土壌や底質などの固相または半固相に含有されている有機ハロゲン化合物の無害化処理に直接適用することは不可能である。これらの方法は、いずれも溶媒振とう,減圧・加温,高温加熱などの方法を用いて、土壌や底質などの固相または半固相から有機汚染物質を事前に分離しておく必要がある。
【0010】
例えばその具体的例として、有機塩素化合物を含む被処理物から、有機塩素化合物を有機溶媒中に移行させる抽出工程を備え、この抽出液を還元触媒で還元し処理する方法が開示されている。なお対象となる有機塩素化合物は、脂肪族塩素化合物が好ましいとあり、芳香族有機塩素化合物に関する実施例等は記載されていない(例えば特許文献1参照)。
【0011】
また発明者は、ダイキシン類、アルコール類、金属カルシウム及び有機酸などの反応促進剤を撹拌混合し、ダイキシン類を無害化する技術を開示し、特許権を取得している(例えば特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。さらに、浮須らはパラジウム触媒存在下で、イソプロピルアルコールと水酸化ナトリウムを用いて、溶液状のダイオキシン類を無害化する技術を開示している(非特許文献1参照)。
【0012】
【特許文献1】特開2004−243255号公報
【特許文献2】特開2004−65729号公報
【特許文献3】特許第3533389号公報
【特許文献4】特許第3785556号公報
【非特許文献1】Appl.Catal.A:General、271、165−170、2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
焼却法、プラズマ分解法、超臨界水酸化分解法および赤外加熱脱着・焼却法は、固相中あるいは半固相中の有機塩素化合物を迅速に無害化できる技術である。しかし、いずれも高価な複雑な装置が必要であるとともに、高温条件下あるいは高温・高圧条件下で処理をするために、維持費、補修費等に多額の費用を必要とする。また、高温処理あるいは高温・高圧処理に対する爆発等の危険性および大気中への大量の排ガス放出ため、これらの処理法施行に対する住民合意が得られにくい短所がある。さらに、排ガスの常時監視システムに高額な監視装置が必要である。
【0014】
一方、還元性熱分解法と減圧還元加熱処理法も固相や半固相に含まれる有機塩素化合物の無害化処理に汎用されている。しかし、これらの方法は400℃以上の加熱処理が必要であり、そのためのエネルギーの維持コストが高額となる短所がある。既述したように、メカノケミカル法は低コストのアルカリ処理剤と水素共用体の使用と非加熱かつ密閉処理のため、優れた処理法であるが、無害化処理に長時間を必要とする短所がある。
【0015】
他方、水熱分解法、アルカリ触媒分解法、接触水素化による脱ハロゲン化法、金属ナトリウム脱塩素化法、金属ナトリウム分散体法および金属ナトリウム分散油脱塩素化法は、いずれも固相や半固相に含まれる有機塩素化合物の無害化処理法として直接適用することができない欠点がある。
【0016】
同様に、特許文献1に記載の技術は、有機塩素化合物を有機溶媒中に移行させることで、有機塩素化合物を濃縮し、この濃縮物を触媒を用いた還元処理することにより分解速度を速めようとするものであるが、有機塩素化合物を有機溶媒中に移行される工程、及び還元処理後の不要な分解物等を分離除去する液処理工程等が必要となり、多数の煩雑な処理工程が必要となる。
【0017】
また特許文献2に記載の技術は、ダイキシン類、アルコール類、金属カルシウム及び有機酸などの反応促進剤を撹拌混合し、ダイキシン類を無害化する技術であり有用な技術であり、幅広い有機ハロゲン化合物に適用することが可能であるが、本技術以上により効率的に有機ハロゲン化合物を無害化できる技術の開発が待たれている。
【0018】
また浮須らの技術は、溶液状のダイオキシン類を無害化する技術であるが、固相に吸着したダイオキシン類を無害化する技術については開示されていない。この点については、特許文献1及び特許文献2の技術も同様である。
【0019】
有機ハロゲン化合物を無害化するに当たり、工程数が少なく、温和な条件で無害化可能な技術であることが望ましいことは言うまでもない。また有機ハロゲン化合物を無害化する装置も、簡単な構成で安価に製造可能な装置であることが望ましい。
【0020】
さらに幅広い形態の有機ハロゲン化合物に適用可能な有機ハロゲン化合物の無害化方法、及び無害化装置の開発が待たれている。特に安価な薬剤を用いて分解温度を低下させ、低エネルギー投入条件下で、固相に吸着した有機ハロゲン化合物を密閉に近い形態で無害化する技術の開発が切望されている。
【0021】
本発明の目的は、工程が少なく比較的温和な操作条件で分解が可能で、またその分解率も高く、さらに構造が簡単かつ安価で准密閉系の無害化処理装置を使用して、幅広い形態の有機ハロゲン化合物に適用可能な有機ハロゲン化合物の無害化処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するために、本発明は、固相あるいは半固相に吸着又は付着した有機ハロゲン化合物を准密閉容器に入れ、温和な条件下(260℃程度以下の加温、常圧)で更に微量の不活性ガス(不活性ガスとは、N2、アルゴン、ヘリウムガス等をいう)を流入させる状態でアルカリ剤及び脱水剤として作用する薬剤を攪拌混合することにより、脱ハロゲン化処理を行う処理方法を提供するものである。
【0023】
又、攪拌混合の際に粉砕あるいは硬質なボール等による衝撃を加えれば、衝突による加熱、微細化により、脱ハロゲン化処理は更に進む。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、固相あるいは半固相に吸着又は付着した有機ハロゲン化合物を、温和な条件下で、簡単な処理工程で、かつ安価な装置で95%以上の脱ハロゲン化処理が可能となる。又、攪拌混合の際に硬質なボール等の衝撃体による衝撃エネルギーを加えれば、該固形物あるいは該半固形物の充分な微粉砕化と、更に脱ハロゲン化処理を進めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明を使った固相あるいは半固相に吸着又は付着した有機ハロゲン化合物を処理する方法は次のような形態となる。
【0026】
(1)有機ハロゲン化合物を含んだ汚染土壌や灰等とアルカリ剤及び脱水剤として作用する安価な薬剤(例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化カルシウム+少量の金属Ca)を所定量、攪拌混合可能な准密閉容器に入れる。
【0027】
(2)少量の不活性ガス(例えばN2、アルゴン、ヘリウムガス等)を流しながら、処理物と薬剤の攪拌混合(又は粉砕、衝撃を伴いながら)を行い、同時に260℃程度の温和な加熱を行う。
【0028】
(3)一定時間の処理後、冷却して容器から取り出し、処理が完了となる。
処理の際に有機ハロゲン化合物と薬剤が直接接触するとともに、脱塩素化反応を促進するエネルギーを与えることが重要であり、そのためには処理物の十分な微粉砕化と脱塩素化反応をもたらす衝撃体による衝撃エネルギーの供給が有効である。
【実施例】
【0029】
次に、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。図1は、本処理方法を実施した例である。
【0030】
PCB汚染土壌(含水率3.2%W.B)に生石灰(CaO)20%を添加して30分間混合機で混合した物を試料とし、約1gの試料と0.01gの金属Caを反応容器1(内径2.3cm、長さ15cm、SUS製)に投入した。
【0031】
次に0.1MPaとなるようにNガスを充填し、密封した後、表1に示す条件でリボンヒータ6を使って加熱、そしてスターラス3を使って反応容器1内の攪拌子5を400rpmの速度で回転させて試料を混合しながら260℃で2時間加熱処理をして脱塩素化を含む無害化処理を行った。冷却後、ECD−GCクロマトグラムを使ってPCB残存量を計測した。結果を表2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の一実施例を示す。
【符号の説明】
【0035】
1 反応容器
2 試料
3 スターラス
4 温度計(熱電対)
5 攪拌子
6 リボンヒータ
7 断熱材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ剤及び脱水剤として作用する薬剤の存在下で、固相あるいは半固相に吸着又は付着した有機ハロゲン化合物を、加熱下、添加、混合することで、脱水プロセスで生じる水和熱を脱ハロゲン化反応促進の補助熱とし、該有機ハロゲン化合物を脱ハロゲン化処理するプロセスと、次いで、系中にアルカリ金属あるいは/及びアルカリ土類金属を添加、混合し、加熱して、残留する該有機ハロゲン化合物をさらに効率よく脱ハロゲン化処理するプロセスを組み合わせたことを特徴とする有機ハロゲン化合物の無害化処理方法。
【請求項2】
反応系中へ不活性ガスを常時供給するか、あるいは、過剰量を充填することによって、前記脱ハロゲン化処理を260℃以下の温度域で行うことを特徴とする請求項1記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法。
【請求項3】
前記アルカリ剤及び脱水剤として作用する薬剤は、脱ハロゲン化処理をする促進剤であって、金属水和物の脱水型をしたアルカリ土類金属酸化物を指し、前記脱ハロゲン化処理を260℃以下で行うことを特徴とする請求項1又は2記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法。
【請求項4】
前記アルカリ剤及び脱水剤として作用する薬剤は、系中の含水率を低下させることが可能な薬剤であると同時に、脱水された水分がアルカリ土類金属水和物を構成する結合水として捕捉することが可能なアルカリ剤であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法。
【請求項5】
反応系中の該固形物を微細化するとともに、脱ハロゲン化反応の促進を可能とする衝撃体による衝撃エネルギーを供給できる衝撃型撹拌粉砕装置を用いることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法。
【請求項6】
反応系中のすべての粉体を撹拌混合するとともに、脱ハロゲン化反応の促進を可能とする衝撃体による衝撃エネルギーを供給できる衝撃型撹拌装置を用いることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−245911(P2008−245911A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90830(P2007−90830)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(500174937)
【出願人】(504324202)
【出願人】(507103938)NPO法人エコリンク21環境国際総合機構 (1)
【出願人】(391063455)新日本海重工業株式会社 (10)
【出願人】(301071918)日本海環境サービス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】