説明

有機モノリスリアクターおよびその製造方法

【課題】 リアクターサイズが微小化されようともその作成が可能であり、作成過程も少なく、しかも室温での作成が可能であり、リアクター作成に手間が掛からない有機モノリスリアクターおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の有機モノリスリアクターは、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼを光重合ポリマーで微小空間内に包埋したものとしている。本発明の有機モノリスリアクターの製造方法は、光重合モノマーと光重合剤の混合液にホースラディシュ・ペルオキシダーゼを分散させて、微小空間内に導入し、この微小空間に室温で光照射を行うものとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液中の過酸化水素や、グルコース、コレステロール等、各種の成分の測定などに用いることができる有機モノリスリアクターおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素の定量測定法には、フローインジェクション−ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ(Flow Injection - Horse Radish Peroxidase ;FI−HRP) 触媒化学発光法(Chemiluminescence;CL)などがある。
【0003】
従来のCL法では、HRPを固定化したゲルをリアクターチューブに充填して、そのチューブの両端をフリッツで固定する方法が採られていた。
【0004】
例えば、HRPの固定化固相として、パールビーズ、ガラスビーズ、キトサンゲル、ポリスチレンゲル、アクリルゲル等のアミノ基導入ゲルなどを用い、HRPをリン酸などの緩衝液に希釈して、中根法(糖鎖酸化法)にしたがって、これら固定化固相に固定する。そして、フッ素樹脂チューブなどに、前記HRP固定化固相を充填し、そのチューブの両端を適宜材質からなるフリッツで固定する方法が採られていた(特許文献1)。
【0005】
すなわち、この方法では、リアクター作成に、1)ゲルへのHRPの固定化、2)HRP固定ゲルのカラム充填、3)カラムのフリット留め、の三段階の作成過程を要した。
【特許文献1】特開2004−81138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のCL法では、リアクターサイズが微小化されるにつれて、そのリアクターの作成が困難になるという問題があった。すなわち、従来のCL法では、HRPをビーズやゲルの固定化固相に固定してからリアクターチューブに充填しているため、そのリアクターチューブに充填し難く、特にリアクターチューブの径が小さくなると非常に充填し難くなったり、充填するのが不可能になるという問題があった。
【0007】
さらに、従来のCL法では、リアクター作成に三段階の作成過程を要し、これらのうちには室温で作成できない作成過程もあって、リアクター作成に手間が掛かるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の問題点を解決するものであり、リアクターサイズが微小化されようともその作成が可能であり、作成過程も少なく、しかも室温での作成が可能であり、リアクター作成に手間が掛からない有機モノリスリアクターおよびその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機モノリスリアクターは、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼを光重合ポリマーで微小空間内に包埋したものとしている。
【0010】
さらに、本発明の有機モノリスリアクターは、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼと生体物質を、光重合ポリマーで微小空間内に包埋したものとしている。
【0011】
本発明の有機モノリスリアクターの製造方法は、光重合モノマーと光重合剤の混合液にホースラディシュ・ペルオキシダーゼを分散させて、微小空間内に導入し、この微小空間に室温で光照射を行うものとしている。
【0012】
さらに、本発明の有機モノリスリアクターの製造方法は、光重合モノマーと光重合剤の混合液にホースラディシュ・ペルオキシダーゼおよび生体物質を分散させて、微小空間内に導入し、この微小空間に室温で光照射を行うものとしている。
【0013】
本発明において、生体物質としては、グルコースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、L−アミノ酸オキシダーゼ、ウリカーゼ、モノアミンオキシダーゼなどの酵素、タンパク質、DNAプローブのいずれか一種以上とすることができる。
【0014】
本発明において、微小空間としては、フッ素樹脂チューブ、キャピラリーガラス管、ヘマトクリット毛細管、シリコンウエハーやガラス板に造った細溝、極微細ガラス管、平板上に水滴状に形成したモノリス塊、ゲル表面の微細孔内、マイクロタイターウェル内壁、試験管内壁のいずれかとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上に述べたように構成されているので、リアクターサイズが微小化されようともその作成が可能となり、作成過程も少なく、しかも室温での作成が可能であり、したがってリアクター作成に手間が掛からないものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明の有機モノリスリアクターは、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ(以下、HRPという)を光重合ポリマーで微小空間内に包埋したものとしている。
【0018】
さらに、本発明の有機モノリスリアクターは、HRPと生体物質を、光重合ポリマーで微小空間内に包埋したものとしている。
【0019】
そして、本発明の有機モノリスリアクターは、前記HRPや生体物質を光重合ポリマーで微小空間内に、その微小空間の中心部を中空になるようにして包埋したものとしている。
【0020】
本発明において、微小空間としては、フッ素樹脂チューブなどのプラスチックチューブ、キャピラリーガラス管、ヘマトクリット毛細管、シリコンウエハーやガラス板に造った細溝、極微細ガラス管、平板上に水滴状に形成したモノリス塊、ゲル表面の微細孔内、マイクロタイターウェル内壁、試験管内壁などが挙げられる。前記微小空間は、フッ素樹脂チューブ、ガラス管、ヘマトクリット毛細管などとした場合にはその直径を、溝とした場合にはその溝幅を、孔とした場合にはその直径をそれぞれ数十μmにすることができる。
【0021】
本発明の有機モノリスリアクターの製造方法は、光重合モノマーもしくはオリゴマーまたは光重合モノマーとオリゴマーの混合物と光重合剤の混合液にHRP生体物質を分散させて、微小空間内に導入し、この微小空間に光照射を行うものとしている。
【0022】
さらに、本発明の有機モノリスリアクターの製造方法は、光重合モノマーと光重合剤の混合液にHRPおよび生体物質を分散させて、微小空間内に導入し、この微小空間に光照射を行うものとしている。
【0023】
本発明において、光重合モノマーとしては、ラジカル重合系モノマーが挙げられ、これには単官能アクリレートおよび多官能アクリレートがある。また、モノリシス重合系モノマーが挙げられ、これにはオリゴマーも含まれる。オリゴマーとしては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエ−テルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、共重合系アクリレート、シリコンアクリレートなどが挙げられる。
【0024】
本発明において、光重合剤としては、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエ−テル系化合物、ベンジルケタール系化合物、ケトン系化合物などが挙げられる。
【0025】
本発明において、生体物質としては、グルコースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼ、ウリカーゼ、モノアミンオキシダーゼなどの酵素、タンパク質、DNAプローブなどが挙げられる。また、これらの生体物質は、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
例えば、前記生体物質として、グルコースオキシダーゼを用いた場合には、グルコースを酸化して、グルコノラクトンと過酸化水素を生成するため、この過酸化水素量をHRPによって定量することにより、体液中のグルコース量を定量することができる。コレステロールオキシダーゼは、コレステロールを分解して過酸化水素を生成するため、この過酸化水素量をHRPによって定量することにより、体液中のグルコース量を定量することができる。さらに、アルコールオキシダーゼは、アルコールを分解して過酸化水素を生成するため、この過酸化水素量をHRPによって定量することにより、体液中のアルコール量を定量することができる。また、アミノ酸オキシダーゼは、アミノ酸からアンモニアを遊離させると共に、過酸化水素を生成するため、この過酸化水素量をHRPによって定量することにより、体液中のアミノ酸量を定量することができる。
【0027】
本発明において、微小空間がキャピラリーガラス管、ヘマトクリット毛細管などの管である場合には、光照射を行うことによってHRPまたは/および生体物質が管の壁面に包埋され、中心部は中空となり、リアクターの背圧をほとんどゼロにすることができる。
【0028】
次に、本発明の製造方法において、光重合モノマーと光重合剤の混合液にHRPと生体物質を分散させる場合、このHRPと生体物質の最適混合比を、以下のようにして求めた。
【0029】
先ず、生体物質をグルコースオキシダーゼ(以下、GODという)とし、HRP量を一定(14mg)とし、GOD量を変化(3、6、12、18、24mg)させたときの、グルコース定量測定能を検討した。
【0030】
その結果、リアクター内のHRP量に対するGOD量により、グルコース試料に対する反応性に変化が見られ、その反応性がHRP量14mgに対してGOD量を12mgにしたときに良好であったので、HRPと生体物質の最適混合比は、1:1(重量比)とした。
【0031】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0032】
〔実施例1〕(有機モノリスリアクターの製造方法)
3−メタクリル・オキシプロピル・トリメトキシシラン(光重合モノマー)と、アセトフェノン系化合物の2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(重合開始剤:「DAROCUR1173」チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)の混合液に、HRPを分散させて、ヘマトクリット毛細管(微小空間:テルモ社製/長さ75mm、外径1.5mm)内に導入した。このヘマトクリット毛細管にUV照射器(ケムコ社製)を用いて室温で12時間、光照射を行い、18mm長に切断し、HRPを包埋した有機モノリスリアクター(以下、HRPリアクターという)を製造した。
【0033】
〔試験例1〕(過酸化水素の測定)
実施例1で製造したHRPリアクターを、フロー型化学発光装置(日本分光社製)のセルホルダーに装着し、移動相溶液で約1時間、洗浄してから過酸化水素の測定に使用した。
【0034】
過酸化水素試料(25μL)をオートサンプラーから移動相流S1 (BSA0.01%水溶液、100μL/min)へ注入した。移動相流S1 へ別の移動相S2 (イミダゾール・トリシン液pH9.4、100μL/min)を合流させ、フローセルリアクター内へ流入させたところ、フローセルリアクター内で化学発光が生じた。
【0035】
その化学発光を、前記化学発光装置のフォトマルチプレ−ヤで検出することができた。これにより、各濃度の過酸化水素試料の化学発光度を検出することにより、検量線を作成すれば、体液などの過酸化水素を定量することができる。
【0036】
〔実施例2〜5〕(有機モノリスリアクターの製造方法)
3−メタクリル・オキシプロピル・トリメトキシシラン(光重合モノマー)と、アセトフェノン系化合物のジエトキシアセトフェノン(重合開始剤:「IRGACURE1800」チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)の混合液に、
1)グルコースオキシダーゼ(GOD)とHRP(重量比1:1)
2)コレステロ−ルオキシダーゼ(COD)とHRP(重量比1:1)
3)アルコールオキシダーゼ(ALO)とHRP(重量比1:1)
4)アミノ酸オキシダーゼ(AMO)とHRP(重量比1:1)を、
それぞれ分散させて、キャピラリーガラス管(微小空間:長さ75mm、内径0.85mm)内に導入した。これらキャピラリーガラス管にUV照射器(ケムコ社製)を用いて室温で12時間、光照射を行い、18mm長に切断し、
1)GODとHRPを包埋した有機モノリスリアクター(以下、GOD/HRPリアクターという)
2)CODとHRPを包埋した有機モノリスリアクター(以下、COD/HRPリアクターという)
3)ALOとHRPを包埋した有機モノリスリアクター(以下、ALD/HRPリアクターという)、
4)AMOとHRPを包埋した有機モノリスリアクター(以下、AMD/HRPリアクターという)を、
それぞれ製造した。
【0037】
〔試験例2〕(グルコースの測定)
実施例2で製造したGOD/HRPリアクターを、フロー型化学発光装置(日本分光社製)のセルホルダーに装着し、移動相溶液で約1時間、洗浄してからグルコースの測定に使用した。
【0038】
グルコース試料(50mM/L)をオートサンプラーから移動相流S1 (BSA0.05%水溶液、100μL/min)へ注入した。移動相流S1 へ別の移動相S2 (イミダゾール・トリシン液pH8.6、100μL/min)を合流させ、フローセルリアクター内へ流入させたところ、フローセルリアクター内で化学発光が生じた。
【0039】
その化学発光を、前記化学発光装置のフォトマルチプレ−ヤで検出することができた。これにより、各濃度のグルコース試料の化学発光度を検出し、検量線を作成することにより、体液中などのグルコース量を定量することができる。
【0040】
〔試験例3〕(コレステロールの測定)
実施例2で製造したCOD/HRPリアクターを、フロー型化学発光装置(日本分光社製)のセルホルダーに装着し、移動相溶液で約1時間、洗浄してからグルコースの測定に使用した。
【0041】
コレステロール試料(3.5mg/mL)をオートサンプラーから移動相流S1 (BSA0.05%水溶液、100μL/min)へ注入した。移動相流S1 へ別の移動相S2 (イミダゾール・トリシン液pH8.6、100μL/min)を合流させ、フローセルリアクター内へ流入させたところ、フローセルリアクター内で化学発光が生じた。
【0042】
その化学発光を、前記化学発光装置のフォトマルチプレ−ヤで検出することができた。これにより、各濃度のコレステロール試料の化学発光度を検出し、検量線を作成することにより、体液中などのコレステロール量を定量することができる。
【0043】
〔試験例4〕(アルコールの測定)
実施例2で製造したALD/HRPリアクターを、フロー型化学発光装置(日本分光社製)のセルホルダーに装着し、移動相溶液で約1時間、洗浄してからグルコースの測定に使用した。
【0044】
エチルアルコール試料(25%)をオートサンプラーから移動相流S1 (BSA0.05%水溶液、100μL/min)へ注入した。移動相流S1 へ別の移動相S2 (イミダゾール・トリシン液pH8.6、100μL/min)を合流させ、フローセルリアクター内へ流入させたところ、フローセルリアクター内で化学発光が生じた。
【0045】
その化学発光を、前記化学発光装置のフォトマルチプレ−ヤで検出することができた。これにより、各濃度のエチルアルコール試料の化学発光度を検出し、検量線を作成することにより、体液中などのアルコール量を定量することができる。
【0046】
〔試験例5〕(アミノ酸の測定)
実施例2で製造したAMD/HRPリアクターを、フロー型化学発光装置(日本分光社製)のセルホルダーに装着し、移動相溶液で約1時間、洗浄してからグルコースの測定に使用した。
【0047】
ロイシン試料(2.5mg/mL)をオートサンプラーから移動相流S1 (BSA0.05%水溶液、100μL/min)へ注入した。移動相流S1 へ別の移動相S2 (イミダゾール・トリシン液pH8.6、100μL/min)を合流させ、フローセルリアクター内へ流入させたところ、フローセルリアクター内で化学発光が生じた。
【0048】
その化学発光を、前記化学発光装置のフォトマルチプレ−ヤで検出することができた。これにより、各濃度のロイシン試料の化学発光度を検出し、検量線を作成することにより、体液中などアミノ酸量を定量することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホースラディシュ・ペルオキシダーゼを光重合ポリマーで微小空間内に包埋したことを特徴とする有機モノリスリアクター。
【請求項2】
ホースラディシュ・ペルオキシダーゼと生体物質を、光重合ポリマーで微小空間内に包埋したことを特徴とする有機モノリスリアクター。
【請求項3】
光重合モノマーと光重合剤の混合液にホースラディシュ・ペルオキシダーゼを分散させて、微小空間内に導入し、この微小空間に室温で光照射を行うことを特徴とする有機モノリスリアクターの製造方法。
【請求項4】
光重合モノマーと光重合剤の混合液にホースラディシュ・ペルオキシダーゼおよび生体物質を分散させて、微小空間内に導入し、この微小空間に室温で光照射を行うことを特徴とする有機モノリスリアクターの製造方法。
【請求項5】
生体物質が、グルコースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、L−アミノ酸オキシダーゼ、ウリカーゼ、モノアミンオキシダーゼなどの酵素、タンパク質、DNAプローブのいずれか一種以上であることを特徴とする請求項2記載の有機モノリスリアクター。
【請求項6】
生体物質が、グルコースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、L−アミノ酸オキシダーゼ、ウリカーゼ、モノアミンオキシダーゼなどの酵素、タンパク質、DNAプローブのいずれか一種以上であることを特徴とする請求項4記載の有機モノリスリアクターの製造方法。
【請求項7】
微小空間が、フッ素樹脂チューブ、キャピラリーガラス管、ヘマトクリット毛細管、シリコンウエハーやガラス板に造った細溝、極微細ガラス管、平板上に水滴状に形成したモノリス塊、ゲル表面の微細孔内、マイクロタイターウェル内壁、試験管内壁のいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の有機モノリスリアクター。
【請求項8】
微小空間が、フッ素樹脂チューブ、キャピラリーガラス管、ヘマトクリット毛細管、シリコンウエハーやガラス板に造った細溝、極微細ガラス管、平板上に水滴状に形成したモノリス塊、ゲル表面の微細孔内、マイクロタイターウェル内壁、試験管内壁のいずれかであることを特徴とする請求項3または4記載の有機モノリスリアクターの製造方法。


【公開番号】特開2008−99657(P2008−99657A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356320(P2006−356320)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(396021896)株式会社ケムコ (2)
【出願人】(502313196)
【出願人】(502313200)
【出願人】(503276285)
【Fターム(参考)】