説明

有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物及びその製造方法

【課題】防食コーティング剤組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物は、金属片と、ゾルゲル樹脂と、NCO%が2.5〜3.1、重量平均分子量が70,000〜100,000であるポリウレタンプレポリマーと、溶媒とを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食コーティング剤に関し、より詳しくは、有機及び無機ハイブリッド型樹脂を含有する防食コーティング剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防食コーティング剤は、物体に塗装されて塗膜を形成し、物体を汚染又は腐食から保護する機能のコーティング剤であって、特に各産業分野で製造されている各種製品に組み立て又は結合される金属部品の外部表面を保護するための用途に広く用いられている。
【0003】
一般に、防食コーティング剤は、主に防錆機能を有する金属粉末と、有機溶剤と、耐熱性、耐候性、熱安定性、防錆性などの特殊機能を与えるための各種の添加剤とを含んでいる。
【0004】
このような防食コーティング剤の性能を改善するために、様々な添加剤を用いる方法が開発されている。最近、ナノ技術の進歩につれて、無機セラミックの強度、耐熱性及び安定性などと、有機高分子の軽量、軟性、弾性及び成形性などとの相反する特性が補完される新しい特性の有機・無機ハイブリッド材料を取り込み、これを防食コーティング剤分野にも導入しようとする試みが行われているが、未だ研究段階に止まっている。
【0005】
一方、特許文献1には、金属塗膜を形成し、その金属塗膜上に防食性塗膜を形成して二つの複合コーティング層を形成する方法及びその組成物が開示されている。
【0006】
すなわち、対象体上に金属メッキ層を形成し、金属メッキ層上に防食塗料用組成物を塗布して防食性塗膜を形成し、これを280℃〜350℃の高温で硬化させて複合メッキ層を形成する方法が開示されている。
【0007】
この方法は、2コーティング1ベーキング方法であって、従来の他の防食コーティング層の形成よりは優れた防食性を示すが、2回のコーティングを行わなければならないという問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国特許第10−0848671号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、前述した問題点を解決するためのもので、その目的は、ゾルゲル樹脂を有機成分とし、ポリウレタンプレポリマーを無機成分とする有機・無機ハイブリッド型防食組成物であって、単一コーティングでも耐食性、耐化学性、耐候性及び機械的強度などの物性に優れながらもコーティング工程が簡単な有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある観点によれば、金属片と、ゾルゲル樹脂と、NCO%が2.5〜3.1であり、かつ、重量平均分子量が70,000〜100,000であるポリウレタンプレポリマーと、溶媒とを含んでなる、有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物を提供する。
【0011】
この際、前記金属片の金属は亜鉛であり、前記金属片の長軸の長さは5〜10μmである。
【0012】
また、前記金属片は80〜110重量部であり、前記溶媒は100〜150重量部であることが好ましい。
【0013】
この際、前記ゾルゲル樹脂は140〜210重量部であり、前記ポリウレタンプレポリマーは200〜250重量部であることが好ましい。
【0014】
また、前記ゾルゲル樹脂は、ジルコニウムブトキシド、イソプロピルチタネート、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、n−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びその混合物よりなる群から選択される樹脂を含むことが好ましい。
【0015】
また、前記ゾルゲル樹脂は、ジルコニウムブトキシド30〜50重量部、イソプロピルチタネート10〜20重量部、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン40〜60重量部、及びn−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン60〜80重量部から構成されることが好ましい。
【0016】
本発明の他の観点によれば、溶媒、金属片、及びゾルゲル樹脂を混合する第1手順と、前記第1手順の混合物に、NCO%が2.5〜3.1、重量平均分子量が70,000〜100,000であるポリウレタンプレポリマーを混合及び攪拌する第2手順とを含んでなる、有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物の製造方法を提供する。
【0017】
この際、前記第2手順における温度は20〜30℃に維持することが好ましい。
【0018】
この際、前記第2手順における攪拌速度は1000〜1500rpmに維持することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施例に係る有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物は、1回のコーティングのみでも耐食性、耐化学性、耐候性及び機械的強度などの物性に優れるうえ、コーティング工程が簡便であるから、自動車ディスク、ボルト及びナットなどの防食剤として有用に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のある観点に係る有機無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物は、金属片、ゾルゲル樹脂、自己乳化型ポリウレタンプレポリマー、及び溶媒を含んでなる。
【0021】
金属片は、防食コーティング剤の防錆機能を与えるための主材料であって、例えば、アルミニウム片、アルミニウムマグネシウム合金片、亜鉛片などが好ましく使用でき、特に亜鉛片が好ましい。この際、金属片の大きさは長軸の長さが5〜10μmであることが好ましい。これは、長軸の長さが5μm未満であれば酸化し易く、長軸の長さが10μmより大きければ耐酸性が低下するという問題点があるためである。
【0022】
金属片の長軸とは、金属片の面を横切る線分のうち最も長い線分をいう。また、各金属片の大きさには微細な差があるが、最も多い長軸の長さ又は長軸の長さの平均をの長軸の長さとする。
【0023】
金属片は80〜110重量部で含まれることが好ましい。これは、金属片が80重量部未満であれば耐食性が低下し、金属片が110重量部より大きければ接着性が低下するという問題点があるためである。
【0024】
ゾルゲル樹脂とは、ゾルゲル反応(Sol-Gel Reaction)で得られたゲル状樹脂をいう。ジルコニウムブトキシド、イソプロピルチタネート、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、及びn−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びその混合物よりなる群から選ばれる少なくとも一つの物質が含まれる無機成分を有する。
【0025】
ゾルゲル樹脂は、金属片に対する結合力に優れるうえ、組織が緻密であり、耐食性、耐酸性、耐熱性及び耐スクラッチ性に優れる。
【0026】
ゾルゲル樹脂は、140〜210重量部で含まれることが好ましく、より好ましくは、ジルコニウムブトキシド30〜50重量部、イソプロピルチタネート10〜20重量部、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン40〜60重量部、及びn−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン60〜80重量部を用いて、全体的にゾルゲル樹脂が140〜210重量部となるようにすることが好ましい。
【0027】
これは、ゾルゲル樹脂の含量が140重量部未満であれば耐スクラッチ性が低下し、ゾルゲル樹脂の含量が210重量部より大きければ貯蔵安定性が低下するという問題点があるためである。
【0028】
ポリウレタンプレポリマーは、ゾルゲル樹脂だけで使用される場合より耐食性と耐衝撃性を高めるために含まれる有機成分であって、NCO%が2.5〜3.1、重量平均分子量が70,000〜100,000であるポリウレタンプレポリマーが使用される。
【0029】
この際、ポリウレタンプレポリマーは、自己乳化型であり、イソシアネート類とポリオール類とを重合させて製造する。イソシアネート類としてはイソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネートなどが使用でき、ポリオール類としてはポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどが使用できる。
【0030】
ポリウレタンプレポリマーのNCO%が2.5未満又は3.1より大きければ、ゾルゲル樹脂の一部がウレタンプレポリマー粒子の内部に存在せず、外部の水上に分散するため、耐酸性及び耐食性が低下し、貯蔵安定性が低下して沈殿物が発生するためである。また、重量平均分子量が70,000未満であれば、耐衝撃性が減少するから、例えば自動車ディスクやキャリパーなどを被覆した場合、他の物体に衝突すると被覆が剥がれる現象が発生し、重量平均分子量が100,000超過であれば、水溶液上に微細に分散しないから、製品化が難しくなる。
【0031】
溶媒は、制限されるものではないが、水、アセトン、ジプロピレングリコール、ブチルジグリコール、イソプロピルアルコールなどが使用でき、これらの中でも、特にアセトンが好ましい。
【0032】
一方、本発明の目的を達成するための有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物は、消泡剤、分散剤、表面改質剤などの添加剤、又は硬化速度調節用有機溶媒をさらに含んでもよい。前述した名称以外の他の添加剤を含んでもよい。例えば、消泡剤としてはシリコン変性ポリオキシプロピレン系消泡剤が使用でき、分散剤としてはポリオキシエチレンエーテル系分散剤が使用でき、表面改質剤としてはグリシドキシプロピルトリメトキシシラン系が使用できる。
【0033】
本発明の他の観点に係る防食用金属塗膜組成物の製造方法は、二つの手順から構成される。まず、第1手順は溶媒、金属片及びゾルゲル樹脂を混合する手順である。この際、混合後の温度を20〜30℃に維持する。
【0034】
次いで、第2手順は、第1手順の混合物にポリウレタンプレポリマーを混合及び攪拌する手順であって、攪拌速度を1000〜1500rpmに維持し、10〜30分間攪拌する。
【0035】
この際、ポリウレタンプレポリマーは、ポリオール類にイソシアネート類を添加して反応させることによりNCO%が2.5〜3.1となるものを使用する。
【実施例】
【0036】
<実施例1>
水130重量部に長軸長さ10μmの亜鉛片90重量部、ジルコニウムブトキシド40重量部、イソプロピルチタネート10重量部、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン50重量部、及びn−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン70重量部を添加して混合した後、温度を25℃にし、攪拌速度を1500rpmに維持した状態で、NCO%が2.8、重量平均分子量が90,000のイソホロンジイソシアネートとポリカーボネートポリオールからなる自己乳化型ポリウレタンプレポリマー230重量部を添加して、10分間分散して、本発明の有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤を製造した。
【0037】
この際、イソプロピルチタネートは分子量500のものを使用し、ジルコニウムブトキシドは分子量383のものを使用した。
【0038】
γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランは分子量248.4のものを使用し、n−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランは分子量255.4のものを使用した。そして、有機樹脂として使用されたポリウレタンプレポリマーは、カーボネートポリオール、ジメチルプロピオン酸及び触媒を混合して温度を80℃に調節した後、イソホロンジイソシアネートを添加して3〜5時間反応することにより、NCO%が2.5〜3.1、重量平均分子量が70,000〜100,000の自己乳化型ポリウレタンプレポリマーを使用した。
【0039】
<実施例2>
ポリウレタンプレポリマーを200重量部とし、他は実施例1と同一の配合にして、防食金属塗膜組成物を製造した。
【0040】
<実施例3>
ポリウレタンプレポリマーを250重量部とし、他は実施例1と同一の配合にして、防食金属塗膜組成物を製造した。
【0041】
<実施例4>
金属片の長軸長さが8μmの亜鉛片を使用した以外は、実施例1と同様の条件で防食金属塗膜組成物を製造した。
【0042】
<実施例5>
ポリウレタンプレポリマーのNCO%が3.1である以外は、実施例1と同様の条件で防食金属塗膜組成物を製造した。
【0043】
<比較例1>
ポリウレタンプレポリマーのNCO%を2.0とし、他は実施例1と同一の配合にして、有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤を製造した。
【0044】
<比較例2>
xポリウレタンプレポリマーのNCO%を3.5とし、他は実施例1と同一の配合にして、有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤を製造した。
【0045】
<比較例3>
ポリウレタンプレポリマーを300重量部とし、他は実施例1と同一の配合にして、有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤を製造した。
【0046】
[実験例]
自動車ディスクの表面に、前記実施例及び比較例で製造された有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤をスプレーで塗布して、厚さ15〜20μmの防食性塗膜を形成し、耐酸性、耐水密着性及び耐食性を測定し、その結果を表1に示す。前記防食性塗膜は、いずれも120℃の温度で約10分間硬化させたもので、具体的な方法は表1にまとめた。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の実施例に示すように、本発明の有機・無機ハイブリッド型コーティング組成物は、一次コーティングのみでも耐酸性、耐水密着性、耐食性などに優れた。ところが、比較例では、NCO%が2.5未満又は3.1より大きい若しくはウレタンプレポリマーの含量が250重量部以上であれば、無機物の一部がウレタンプレポリマー粒子の内部に存在せず、外部の水上に分散するため、耐酸性及び耐食性が低下する現象が発生すると推測される。
【0049】
以上、本発明の様々な実施例について説明したが、本発明は、上述した実施例に限定されず、本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の概念を逸脱することなく変形を加えることが可能である。それらの変形は本発明の範囲に属する。
【0050】
前述した発明に対する権利範囲は、以下の特許請求の範囲で定められるものであって、明細書本文の記載に拘束されない。特許請求の範囲と均等の範囲に属する変形と変更はいずれも本発明の範囲に属する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属片と、
ゾルゲル樹脂と、
NCO%が2.5〜3.1であり、かつ、重量平均分子量が70,000〜100,000であるポリウレタンプレポリマーと、
溶媒とを含んでなる、有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物。
【請求項2】
前記金属片の金属は亜鉛であり、前記金属片の長軸の長さは5〜10μmである、請求項1に記載の有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物。
【請求項3】
前記金属片は80〜110重量部であり、前記溶媒は100〜150重量部である、請求項2に記載の有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物。
【請求項4】
前記ゾルゲル樹脂は140〜210重量部であり、前記ポリウレタンプレポリマーは200〜250重量部である、 請求項3に記載の有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物。
【請求項5】
前記ゾルゲル樹脂は、ジルコニウムブトキシド、イソプロピルチタネート、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、n−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びその混合物よりなる群から選択される少なくとも一つの樹脂を含む、請求項4に記載の有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物。
【請求項6】
前記ゾルゲル樹脂は、ジルコニウムブトキシド30〜50重量部、イソプロピルチタネート10〜20重量部、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン40〜60重量部、及びn−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン60〜80重量部から構成される、請求項5に記載の有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物。
【請求項7】
溶媒、金属片、及びゾルゲル樹脂を混合する第1手順と、
前記第1手順の混合物に、NCO%が2.5〜3.1、重量平均分子量が70,000〜100,000であるポリウレタンプレポリマーを混合及び攪拌する第2手順とを含んでなる、有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物の製造方法。
【請求項8】
前記第2手順における温度は20〜30℃に維持する、請求項7に記載の有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物の製造方法。
【請求項9】
前記第2手順における攪拌速度は1000〜1500rpmに維持する、請求項7に記載の有機・無機ハイブリッド型防食コーティング剤組成物の製造方法。

【公表番号】特表2013−518980(P2013−518980A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552792(P2012−552792)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際出願番号】PCT/KR2011/000562
【国際公開番号】WO2011/099709
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(512206954)エルベスト ジーエーティ エルティディ (2)
【Fターム(参考)】