説明

有機化合物の精製方法

【課題】 塩基により分解しやすい有機化合物と不純物としての無水(メタ)アクリル酸を含む混合物から、該有機化合物の分解を抑制しつつ、無水(メタ)アクリル酸を簡易に且つ効率よく除去できる有機化合物の精製方法を提供する。
【解決手段】 本発明の有機化合物の精製方法は、塩基により分解しやすい有機化合物と無水(メタ)アクリル酸とを含む混合物をpH2.2〜7の条件で加水分解処理して無水(メタ)アクリル酸を分解する工程を含む。加水分解処理は有機塩基又はその塩の存在下で行うのが好ましい。その場合、有機塩基としては、含窒素芳香族複素環式化合物であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物の精製方法、より詳細には塩基により分解しやすい有機化合物と無水(メタ)アクリル酸とを含む混合物から無水(メタ)アクリル酸を効率よく除去する有機化合物の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸クロリド等の(メタ)アクリル酸ハライドを反応に用いて得られる製品(有機化合物)中には、しばしば不純物として無水(メタ)アクリル酸が混入する。これは、未反応の(メタ)アクリル酸ハライドが反応後の抽出や水洗工程において(メタ)アクリル酸に加水分解され、この(メタ)アクリル酸が(メタ)アクリル酸ハライドと反応することにより生成するためと考えられる。
【0003】
このような不純物として無水(メタ)アクリル酸を含有する有機化合物をそのまま製品として使用すると、当該有機化合物の本来有する機能や当該有機化合物から誘導される川下製品の品質が損なわれることが多い。例えば、目的の有機化合物がモノマーの場合、無水(メタ)アクリル酸を含んだまま重合に付すと、ポリマー中に無水(メタ)アクリル酸に由来する構造単位が取り込まれ、ポリマーの機能が低下する。そのため、無水(メタ)アクリル酸を当該有機化合物から除去する必要がある。しかしながら、不純物として無水(メタ)アクリル酸を含む有機化合物を蒸留で精製しようとする場合には、蒸留時に重合が誘発されやすい。また、不純物として無水(メタ)アクリル酸を含む有機化合物を一般的な精製法により精製しようとすると、製品の歩留まりが悪くなる。
【0004】
特開2003−137839号公報には、無水(メタ)アクリル酸を含有するモノマーに炭素数1〜4の低級アルコールを添加して反応させ、反応液を濃縮し、濃縮物を極性溶媒に溶解し、低極性溶媒でモノマーを抽出洗浄し、さらに濃縮した後、濃縮物から適当な有機溶媒を用いてモノマーを抽出する方法が開示されている。しかし、この方法は非常に煩雑である。
【0005】
【特許文献1】特開2003−137839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、不純物として無水(メタ)アクリル酸を含む有機化合物から無水(メタ)アクリル酸を除去する方法として、無水(メタ)アクリル酸を加水分解して(メタ)アクリル酸に変化させる方法が考えられる。しかしながら、本発明者の検討によれば、目的とする有機化合物が塩基により分解しやすい化合物である場合には、通常の条件では、加水分解の際に該有機化合物が分解して該有機化合物の得量が減少するという問題がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、塩基により分解しやすい有機化合物と不純物としての無水(メタ)アクリル酸を含む混合物から、該有機化合物の分解を抑制しつつ、無水(メタ)アクリル酸を簡易に且つ効率よく除去できる有機化合物の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、塩基により分解しやすい有機化合物と不純物としての無水(メタ)アクリル酸を含む混合物を特定の液性条件下で加水分解に付すと、該有機化合物の分解を抑制しつつ、無水(メタ)アクリル酸を円滑に効率よく分解できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、塩基により分解しやすい有機化合物と無水(メタ)アクリル酸とを含む混合物をpH2.2〜7の条件で加水分解処理して無水(メタ)アクリル酸を分解する工程を含む有機化合物の精製方法を提供する。
【0010】
加水分解処理は有機塩基又はその塩の存在下で行うのが好ましい。その場合、有機塩基としては、含窒素芳香族複素環式化合物であるのが好ましい。
【0011】
塩基により分解しやすい有機化合物として、β位にアシルオキシ基を有するカルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、ラクトン又はラクタムが挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造法によれば、塩基により分解しやすい有機化合物と不純物としての無水(メタ)アクリル酸を含む混合物から、該有機化合物の分解を抑制しつつ、無水(メタ)アクリル酸を効率よく除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、塩基により分解しやすい有機化合物と無水(メタ)アクリル酸とを含む混合物をpH2.2〜7の条件で加水分解処理して無水(メタ)アクリル酸を分解する工程を含む。
【0014】
[塩基により分解しやすい有機化合物]
塩基により分解しやすい有機化合物としては、有機化合物にピリジンをピリジン含量が10重量%(特に5重量%)となるように添加した混合物を80℃で2時間撹拌したとき、その有機化合物が3%以上(特に5%以上、とりわけ10%以上)分解するような有機化合物が挙げられる。
【0015】
塩基により分解しやすい有機化合物としては、例えば、β位にアシルオキシ基を有するカルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、ラクトン又はラクタムなどが挙げられる。これらの化合物は、塩基(例えば、ピリジン等の有機塩基、アルカリ金属水酸化物等の無機塩基)により、アシルオキシ基に対応するカルボン酸が脱離し、それぞれ、α,β−不飽和カルボン酸、α,β−不飽和カルボン酸エステル、α,β−不飽和カルボン酸アミド、α,β−不飽和ラクトン、α,β−不飽和ラクタムに変化しうる。また、塩基により分解しやすい有機化合物として、(メタ)アクリロイル基を含み且つ塩基により分解する部位を有する化合物が挙げられる。
【0016】
アシルオキシ基としては、例えば、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、シンナモイルオキシ基などが挙げられる。無水(メタ)アクリル酸は、(メタ)アクリル酸ハライドをアシル化剤として用いてアルコールをアシル化[(メタ)アクリロイル化]する際に不純物として目的化合物中に混入することが多いので、前記アシルオキシ基としては(メタ)アクリロイルオキシ基である場合が多い。
【0017】
β位にアシルオキシ基を有するカルボン酸の代表的な例として、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ酪酸、3−(メタ)アクリロイルオキシペンタン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン酸等の3−(メタ)アクリロイルオキシカルボン酸類などが挙げられる。
【0018】
β位にアシルオキシ基を有するカルボン酸エステルの代表的な例として、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸メチル、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸エチル、3−(メタ)アクリロイルオキシ酪酸メチル、3−(メタ)アクリロイルオキシ酪酸エチル、3−(メタ)アクリロイルオキシペンタン酸メチル、3−(メタ)アクリロイルオキシペンタン酸エチル、3−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン酸メチル、3−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン酸エチル等の3−(メタ)アクリロイルオキシカルボン酸エステル類などが挙げられる。
【0019】
β位にアシルオキシ基を有するカルボン酸アミドの代表的な例として、3−(メタ)アクリロイルオキシ−N,N−ジメチルプロピオン酸アミド、3−(メタ)アクリロイルオキシ−N,N−ジメチル酪酸アミド、3−(メタ)アクリロイルオキシ−N,N−ジメチルペンタン酸アミド、3−(メタ)アクリロイルオキシ−N,N−ジメチルヘキサン酸アミド等の3−(メタ)アクリロイルオキシカルボン酸アミド類類などが挙げられる。
【0020】
β位にアシルオキシ基を有するラクトンの代表的な例として、β−(メタ)アクリロイルオキシ−ε−カプロラクトン、β−(メタ)アクリロイルオキシ−β−メチル−ε−カプロラクトン、β−(メタ)アクリロイルオキシ−δ−バレロラクトン、β−(メタ)アクリロイルオキシ−β−メチル−δ−バレロラクトン、β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、β−(メタ)アクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトン等のβ−(メタ)アクリロイルオキシラクトン類などが挙げられる。
【0021】
β位にアシルオキシ基を有するラクタムの代表的な例として、β−(メタ)アクリロイルオキシ−ε−カプロラクタム、β−(メタ)アクリロイルオキシ−β−メチル−ε−カプロラクタム、β−(メタ)アクリロイルオキシ−δ−バレロラクタム、β−(メタ)アクリロイルオキシ−β−メチル−δ−バレロラクタム、β−(メタ)アクリロイルオキシ−γ−ブチロラクタム、β−(メタ)アクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクタム等のβ−(メタ)アクリロイルオキシラクタム類などが挙げられる。
【0022】
「塩基により分解しやすい有機化合物と無水(メタ)アクリル酸とを含む混合物」としては、目的とする有機化合物と不純物としての無水(メタ)アクリル酸を含む混合物であれば特に限定されず、無水(メタ)アクリル酸以外の不純物や溶媒等を含んでいてもよい。
【0023】
「塩基により分解しやすい有機化合物と無水(メタ)アクリル酸とを含む混合物」の代表的な例として、β位にヒドロキシル基を有するカルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、ラクトン又はラクタムと(メタ)アクリル酸クロリド等の(メタ)アクリル酸ハライドとを反応して得られる反応混合液や、該反応混合液に適宜な物理的処理、例えば、抽出、水洗、液性調整、希釈、濃縮、溶媒交換、蒸留、晶析等を施した処理物が挙げられる。
【0024】
β位にヒドロキシル基を有するカルボン酸の代表的な例として、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシペンタン酸、3−ヒドロキシヘキサン酸等の3−ヒドロキシカルボン酸類などが挙げられる。
【0025】
β位にヒドロキシル基を有するカルボン酸エステルの代表的な例として、3−ヒドロキシプロピオン酸メチル、3−ヒドロキシプロピオン酸エチル、3−ヒドロキシ酪酸メチル、3−ヒドロキシ酪酸エチル、3−ヒドロキシペンタン酸メチル、3−ヒドロキシペンタン酸エチル、3−ヒドロキシヘキサン酸メチル、3−ヒドロキシヘキサン酸エチル等の3−ヒドロキシカルボン酸エステル類などが挙げられる。
【0026】
β位にヒドロキシル基を有するカルボン酸アミドの代表的な例として、3−ヒドロキシ−N,N−ジメチルプロピオン酸アミド、3−ヒドロキシ−N,N−ジメチル酪酸アミド、3−ヒドロキシ−N,N−ジメチルペンタン酸アミド、3−ヒドロキシ−N,N−ジメチルヘキサン酸アミド等の3−ヒドロキシカルボン酸アミド類類などが挙げられる。
【0027】
β位にヒドロキシル基を有するラクトンの代表的な例として、β−ヒドロキシ−ε−カプロラクトン、β−ヒドロキシ−β−メチル−ε−カプロラクトン、β−ヒドロキシ−δ−バレロラクトン、β−ヒドロキシ−β−メチル−δ−バレロラクトン、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン、β−ヒドロキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトン等のβ−ヒドロキシラクトン類などが挙げられる。
【0028】
β位にヒドロキシル基を有するラクタムの代表的な例として、β−ヒドロキシ−ε−カプロラクタム、β−ヒドロキシ−β−メチル−ε−カプロラクタム、β−ヒドロキシ−δ−バレロラクタム、β−ヒドロキシ−β−メチル−δ−バレロラクタム、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクタム、β−ヒドロキシ−β−メチル−γ−ブチロラクタム等のβ−ヒドロキシラクタム類などが挙げられる。
【0029】
β位にヒドロキシル基を有するカルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、ラクトン又はラクタム(以下、「原料アルコール」と称する場合がある)と(メタ)アクリル酸ハライドとの反応は、一般的なアシル化反応に準じて行うことができる。
【0030】
このアシル反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;アセトニトリルなどのニトリルなどが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上を混合して用いられる。これらの中でも、テトラヒドロフラン等のエーテル、アセトニトリルが好ましい。
【0031】
(メタ)アクリル酸ハライドの使用量は、原料アルコール1モルに対して、例えば1〜3モル、好ましくは1.1〜2モル、さらに好ましくは1.2〜1.6モル程度である。
【0032】
アシル化反応は、通常塩基の存在下で行われる。塩基としては、ハロゲン化水素のトラップ剤として機能するものであれば特に限定されず、例えば、トリエチルアミン等の第3級アミン、ピリジン等の含窒素芳香族複素環式化合物、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基などが挙げられる。これらの中でも、トリエチルアミン等の第3級アミンが好ましい。
【0033】
塩基の使用量は、(メタ)アクリル酸ハライド1モルに対して、例えば1〜1.5モル、好ましくは1〜1.2モル、さらに好ましくは1〜1.1モル程度である。
【0034】
アシル化反応温度は、原料アルコールの種類などに応じて適宜選択できるが、通常−50℃〜100℃、好ましくは−40℃〜60℃程度である。
【0035】
反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。好ましい態様では、原料アルコールを溶媒に溶解した溶液に、反応系内の温度を−50℃〜−5℃(好ましくは−40℃〜−10℃)の範囲に維持しながら、(メタ)アクリル酸ハライドと塩基とを別々の容器から滴下し、滴下終了後、−50℃〜−5℃(好ましくは−40℃〜−10℃)の温度で熟成する。
【0036】
反応終了後、後述の加水分解処理時のpHの制御を容易にするため、反応混合液に塩酸や酢酸等の酸を添加してもよい。
【0037】
反応混合液、又は前記酸を添加した反応混合液に、水と有機溶媒(例えば、酢酸エチル等の水と分液可能な溶媒)を加えて分液させる。水の添加量は、反応混合液100重量部に対して、例えば5〜150重量部、好ましくは10〜60重量部である。有機溶媒の添加量は、反応混合液100重量部に対して、例えば50〜200重量部、好ましくは70〜150重量部程度である。
【0038】
有機層は、必要に応じて、塩酸水溶液、水等で洗浄した後、加水分解に供される。適当な溶媒に溶媒交換した後、加水分解に供してもよい。
【0039】
[加水分解処理]
本発明では、加水分解処理をpH2.2〜7の条件で行うことが重要である。加水分解処理をpHが7を超える条件で行うと、塩基により分解しやすい有機化合物の分解(官能基の脱離等)が極めて顕著になり、目的とする有機化合物の得量が大幅に低下する。例えば、目的とする有機化合物がβ位に(メタ)アクリロイルオキシ基を有するカルボン酸エステル等の場合には、(メタ)アクリル酸の脱離が著しくなる。一方、加水分解処理をpHが2.2より低い条件で行うと、無水(メタ)アクリル酸の(メタ)アクリル酸への加水分解が進行しにくくなり、目的とする有機化合物から無水(メタ)アクリル酸を効率的に除去することが困難となる。
【0040】
加水分解処理時のpHは、好ましくは2.5〜6.5、さらに好ましくは3.0〜5.5の範囲である。
【0041】
加水分解処理の際の水の使用量は、被処理物中に含まれる無水(メタ)アクリル酸1モルに対して1モル以上あればよいが、通常大過剰量使用する。
【0042】
加水分解処理は、通常溶媒中で行われる。溶媒としては、前記アシル化反応で用いられる溶媒として例示した溶媒のほか、酢酸エチル等のエステルなどが挙げられる。好ましい溶媒には酢酸エチル等のエステルが含まれる。加水分解処理は有機層と水層の2層系で行ってもよい。
【0043】
加水分解処理は有機塩基又はその塩の存在下で行うのが好ましい。有機塩基としては、例えば、ピリジン、ピコリン、キノリンなどの含窒素芳香族複素環式化合物;トリエチルアミン、トリブチルアミン、N−メチルピペリジンなどの第3級アミン;酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属有機酸塩などが挙げられる。これらの中でも、含窒素芳香族複素環式化合物が好ましく、特にピリジンが好ましい。有機塩基の塩としては、含窒素芳香族複素環式化合物と酢酸等の有機酸との塩、含窒素芳香族複素環式化合物と塩酸等の無機酸との塩、第3級アミンと酢酸等の有機酸との塩、第3級アミンと塩酸等の無機酸との塩などが挙げられる。
【0044】
反応系内のpHの管理、制御は、前記有機塩基又はその塩の種類や量を調整したり、系内に酸(酢酸等の有機酸、塩酸等の無機酸)を添加することにより行うことができる。反応の進行に伴い、(メタ)アクリル酸が生成してくるので、pHは反応初期より酸性側に振れる。生成する(メタ)アクリル酸とその塩、添加する酢酸等の有機酸とその塩などの緩衝作用を利用することにより、反応中のpHを所望の範囲に制御することができる。
【0045】
前記のアシル化反応の反応混合液又はその適宜な処理物を加水分解処理に供する場合には、前述したように、反応混合液に酸を添加したり、水と有機溶媒を用いて分液させて得られる有機層を塩酸水溶液で洗浄することにより、加水分解に供する混合物中に酸を存在させ、pHを7以下に調整することができる。
【0046】
加水分解処理時の温度は、例えば20〜100℃、好ましくは30〜70℃、さらに好ましくは35〜50℃程度である。
【0047】
加水分解処理後、生成した(メタ)アクリル酸(又はその塩)は、抽出、アルカリ洗浄、水洗浄、蒸留などの処理により、容易に目的とする有機化合物から分離除去することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0049】
実施例1
無水メタクリル酸5g、3―メタクリロイルオキシプロピオン酸メチル25gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸でpHを4.5に設定した。40℃まで昇温し、pHを4〜5の範囲で維持させた。5時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.1g、3―メタクリロキシ−プロピオン酸メチルが24gであった。
【0050】
実施例2
無水メタクリル酸5g、3―メタクリロイルオキシプロピオン酸メチル25gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸を用いてpHを5.5に設定した。40℃まで昇温し、pHを5〜6の範囲で維持させた。3時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.1g、3―メタクリロキシ−プロピオン酸メチルが23gであった。
【0051】
実施例3
無水メタクリル酸5g、3―メタクリロイルオキシプロピオン酸メチル25gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸を用いてpHを7に設定した。40℃まで昇温し、pHを6〜7の範囲で維持させた。2時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.05g、3―メタクリロキシ−プロピオン酸メチルが21gであった。
【0052】
比較例1
無水メタクリル酸5g、3―メタクリロイルオキシプロピオン酸メチル25gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸を用いてpHを8に設定した。40℃まで昇温し、pHを7より大きく8以下の範囲で維持させた。2時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.01g、3―メタクリロキシ−プロピオン酸メチルが15gであった。
【0053】
比較例2
無水メタクリル酸5g、3―メタクリロイルオキシプロピオン酸メチル25gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、塩酸によりpHを2に設定した。40℃まで昇温し、pHを1〜2の範囲で維持させた。8時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が4.5g、3―メタクリロキシ−プロピオン酸メチルが21gであった。
【0054】
実施例5
無水メタクリル酸5g、β―メタクリロイルオキシ−δ−バレロラクトン30gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸でpHを4.5に設定した。40℃まで昇温し、pHを4〜5の範囲で維持させた。5時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.1g、β―メタクリロキシ−δ−バレロラクトンが29gであった。
【0055】
実施例6
無水メタクリル酸5g、β―メタクリロイルオキシ−δ−バレロラクトン30gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸を用いてpHを5.5に設定した。40℃まで昇温し、pHを5〜6の範囲で維持させた。3時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.1g、β―メタクリロキシ−δ−バレロラクトンが25gであった。
【0056】
実施例7
無水メタクリル酸5g、β―メタクリロイルオキシ−δ−バレロラクトン30gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸を用いてpHを7に設定した。40℃まで昇温し、pHを6〜7の範囲で維持させた。2時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.05g、β―メタクリロキシ−δ−バレロラクトンが21gであった。
【0057】
比較例3
無水メタクリル酸5g、β―メタクリロイルオキシ−δ−バレロラクトン30gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸を用いてpHを8に設定した。40℃まで昇温し、pHを7より大きく8以下の範囲で維持させた。2時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.01g、β―メタクリロキシ−δ−バレロラクトンが6gであった。
【0058】
実施例8
無水メタクリル酸5g、β―メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン30gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸でpHを4.5に設定した。40℃まで昇温し、pHを4〜5の範囲で維持させた。5時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.1g、β―メタクリロキシ−γ−ブチロラクトンが29gであった。
【0059】
実施例9
無水メタクリル酸5g、β―メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン30gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸を用いてpHを5.5に設定した。40℃まで昇温し、pHを5〜6の範囲で維持させた。3時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.1g、β―メタクリロキシ−γ−ブチロラクトンが27gであった。
【0060】
実施例10
無水メタクリル酸5g、β―メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン30gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸を用いてpHを7に設定した。40℃まで昇温し、pHを6〜7の範囲で維持させた。2時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.05g、β―メタクリロキシ−γ−ブチロラクトンが21gであった。
【0061】
比較例4
無水メタクリル酸5g、β―メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン30gを酢酸エチル300gに溶解させ、ピリジン10gと水50gを加え、酢酸を用いてpHを8に設定した。40℃まで昇温し、pHを7より大きく8以下の範囲で維持させた。2時間後、ガスクロマトグラフィーにより残存量を分析すると、無水メタクリル酸が0.01g、β―メタクリロキシ−γ−ブチロラクトンが9gであった。
【0062】
実施例11
ジムロートを取り付けた1L反応器に、β―ヒドロキシ−δ−バレロラクトン43.0g(0.377モル)、THF(テトラヒドロフラン)300gを仕込んだ。−20℃まで冷却し、メタクリル酸クロリド55.2g(0.53モル)、トリエチルアミン56.1g(0.55モル)を、同時に、−20℃を維持しながら滴下して加えた。滴下終了後、1時間熟成を行い、酢酸11.3gを加えた。その後、水100gと酢酸エチル500gを加えて分液し、酢酸エチル層を塩酸水溶液と水で洗浄した。酢酸エチル層を分析したところ、β―ヒドロキシ−δ−バレロラクトン基準で、無水メタクリル酸が15%、β―メタクリロイルオキシ−δ−バレロラクトンが72%の収率で生成していた。酢酸エチル層に、ピリジン20gと水300gを加えた。この時のpHは、4.5であった。40℃まで昇温し、pHを4.5〜5.0を維持しながら加熱攪拌した。8時間後、ガスクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、β―ヒドロキシ−δ−バレロラクトン基準で、無水メタクリル酸が1%、β―メタクリロイルオキシ−δ−バレロラクトンが67%の収率で得られた。
【0063】
実施例12
β―ヒドロキシ−δ−バレロラクトンの代わりに、β―ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン38.5g(0.377モル)を用いたこと以外は実施例11と同様の操作を行った。その結果、実施例11と同様に、無水メタクリル酸のみ分解し、β―メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンはほとんど分解していなかった。
【0064】
実施例13
β―ヒドロキシ−δ−バレロラクトンの代わりに、3―ヒドロキシ−プロピオン酸メチル0.377モルを用いたこと以外は実施例11と同様の操作を行った。その結果、実施例11と同様に、無水メタクリル酸のみ分解し、3―メタクリロイルオキシプロピオン酸メチルはほとんど分解していなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基により分解しやすい有機化合物と無水(メタ)アクリル酸とを含む混合物をpH2.2〜7の条件で加水分解処理して無水(メタ)アクリル酸を分解する工程を含む有機化合物の精製方法。
【請求項2】
有機塩基又はその塩の存在下で加水分解処理する請求項1記載の有機化合物の精製方法。
【請求項3】
有機塩基が含窒素芳香族複素環式化合物である請求項2記載の有機化合物の精製方法。
【請求項4】
塩基により分解しやすい有機化合物が、β位にアシルオキシ基を有するカルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、ラクトン又はラクタムである請求項1〜3のいずれかの項に記載の有機化合物の精製方法。

【公開番号】特開2009−179620(P2009−179620A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22449(P2008−22449)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】