説明

有機化合物

粒子状および実質的に結晶性の医薬原体を製造する方法。該方法は、実質的に結晶性の医薬原体を貧溶媒に懸濁させ、懸濁液を得て、該懸濁液を高圧で均質にして、約10μm未満の平均粒子サイズを有する医薬粒子を得て、医薬粒子を乾燥させて全ての残留貧溶媒を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の製造に関し、より具体的には、粒子状および実質的に結晶性の医薬原体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸入によって投与される製剤のための医薬原体を製造するために、新しく製造された医薬原体は、しばしば、粗い粒状物の形態であり、一般的に、平均粒子サイズが吸入に適切な粒子を得るために、微細化され、すなわち機械的に微粉状にされる。当該平均粒子サイズは、典型的には、10ミクロン未満、好ましくは5ミクロン未満の平均直径であり、微細化工程は、通常エアジェット・ミル粉砕工程である。
【0003】
不運なことに、微細化は全般的に、そしてエアジェット・ミル粉砕は特に、結晶性の医薬原体において、高エネルギー表面、非晶質部分、粉塵(dust)の形成、および静電気的電荷が生じることを含む、有害な変化を引き起こし得る。問題は、特に、その物理化学的性質のために製剤化が難しく、その結果、その医薬原体の最も熱力学的に安定な結晶形を用いる必要性がある医薬原体について深刻である。このような結晶性の医薬原体は、大気から水を吸収して凝集および/または塊形成する傾向があり、それにより、さらなる加工がより難しくなるか、少なくとも効率が悪くなる。
【0004】
従って、特に乾燥粉砕工程による慣用の微細化の望ましくない効果を避けるまたは少なくとも減少させる、粒子状および実質的に結晶性の医薬原体を製造するための代替方法を得る必要性がある。工程は、好ましくは、医薬原体が凝集および/または塊形成する傾向を減少させるべきである。
【0005】
驚くべきことに、実質的に結晶性の医薬原体を高圧で貧溶媒(anti-solvent)に懸濁し、得られた医薬粒子を乾燥させることにより、実質的に純粋かつ結晶形の粒子状医薬原体が得られることが見出された。該懸濁液および乾燥させた医薬原体は、長期間に亘って実質的に安定な粒子サイズを保持しており、従って、さらなる製剤に適当である。驚くべきことに、同じ医薬原体の乾燥微細化(ジェット・ミル粉砕)されたものとは対照的に、粒子の凝集または塊形成は観察されない。特に驚くべきことに、安定化剤が存在しなくとも、均質化された懸濁液および粒子状医薬原体が製造され得る。
【発明の概要】
【0006】
従って、本発明は、粒子状および実質的に結晶性の医薬原体を製造する方法であって:
(a) 実質的に結晶性の医薬原体を貧溶媒に懸濁し、懸濁液を得ること;
(b) 該懸濁液を高圧で均質にして、約10μm未満の平均粒子サイズを有する医薬粒子を得ること;
(c) 医薬粒子を乾燥させ、全ての残留貧溶媒を除去すること;
の工程を含む、方法に関する。
【0007】
好ましくは、該工程は、安定剤の非存在下で行われ、なお安定な懸濁液が得られ、それを乾燥後に、実質的に純粋な医薬原体の粉末が提供される。
好ましくは、懸濁液を高圧で均質にして、約7μm未満、特に約5μm未満の平均粒子サイズを有する医薬粒子を提供する。
【0008】
好ましくは、高圧は、500と2000barの間であり、より好ましくは800と1500barの間であり、特に約900から1300barである。
【0009】
好ましくは、懸濁液を、1から30℃の間の還流温度で、より好ましくは3と20℃の間の温度で、特に9と15℃の間の温度で均質化する。
好ましくは、懸濁液を、1から100サイクル、より好ましくは20から75サイクル、特に約50サイクル、高圧で均質化する。
【0010】
好ましくは、医薬原体は、グリコピロニウム塩であり、特に臭化グリコピロニウム、グリコピロレート USPである。
【0011】
好ましくは、懸濁液は、非晶質部分を実質的に含まず、賦形剤を含まないグリコピロレートの、ミクロンサイズの粒子を得る圧力で、均質化される。
【0012】
本発明は、特に乾燥粉末吸入器または定用量吸入器に使用するための製剤における、前記工程によって製造された粒子状および実質的に結晶性の医薬原体の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に用いられる用語は、下記の意味を有する:
“非晶質”は、本明細書で用いられるとき、医薬原体の製造の際(結晶化工程、乾燥工程、粉砕工程)または薬剤製造の際(造粒、打錠)に生じるかもしれない無秩序な固体状態を記載する。非晶性固体のX線粉末回折パターンは、鋭いピークを示さない。
【0014】
“接着防止剤(anti-adherent agent)”は、本明細書で用いられるとき、粒子間の凝集を減少させ、微粒子が吸入装置の内側表面に付着するのを防ぐ物質または該物質の混合物を意味する。接着防止剤はまた、減摩剤または滑剤を含み、これらは、吸入器中で、粉末製剤の流動性をより良くするものである。通常、これらは、より高い投与量の再現性およびより高い微粒子画分をもたらす。典型的には、接着防止剤は、アミノ酸、例えばロイシン、リン脂質、例えばレシチン、または、脂肪酸誘導体、例えばステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウムを含む。
【0015】
“貧溶媒”は、本明細書で用いられるとき、粒子状医薬原体が実質的に不溶性である溶媒を意味する。例えばグリコピロレートは、実質的にアセトンに不溶であり、従って、アセトンは、グリコピロレートについての貧溶媒である。
【0016】
“グリコピロニウム塩”は、本明細書で用いられるとき、グリコピロニウムのすべての塩形またはカウンターイオンを含むことを意味し、臭化グリコピロニウム(グリコピロレート)、塩化グリコピロニウムまたはヨウ化グリコピロニウム、ならびに、その何れかおよび全ての単離された立体異性体および立体異性体の混合物を含み、これらに限定されない。グリコピロニウム塩の誘導体もまた包含される。適当なカウンターイオンは、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、乳酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、リンゴ酸イオン、マレイン酸イオン、コハク酸イオン、安息香酸イオン、p−クロロ安息香酸イオン、ジフェニル酢酸イオンまたはトリフェニル酢酸イオン、o−ヒドロキシ安息香酸イオン、p−ヒドロキシ安息香酸イオン、1−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸イオン、3−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸イオン、メタンスルホン酸イオンおよびベンゼンスルホン酸イオンを含む、薬学的に許容されるカウンターイオンである。
【0017】
“平均粒子サイズ”は、レーザー光回折によって測定される粒子の平均直径である。x90平均粒子サイズは、サンプルの90%の粒子がその平均粒子サイズより小さい粒子サイズを有する平均粒子サイズである。x50平均粒子サイズは、サンプルの50%の粒子がその平均粒子サイズより小さい粒子サイズを有する平均粒子サイズである。x10平均粒子サイズは、サンプルの10%の粒子がその平均粒子サイズより小さい粒子サイズを有する平均粒子サイズである。
【0018】
“安定剤”は、本明細書で用いられるとき、主に懸濁液において医薬原体を安定化させる物質を意味する。典型的な安定剤は、イオン性または非イオン性界面活性剤(例えばポロキサマー)、または、ポリマー、例えばセルロースエーテル、PVPまたはPVAである。
【0019】
本明細書および請求の範囲全体において、文脈から他の解釈が必要ではない限り、用語“含む”(comprise)またはその変形(例えばcomprisesまたはcomprising)は、記載した整数または整数の群を含むことを意味するが、それ以外の整数または整数の群を除外することを意味しないと理解される。
【0020】
本発明は、特に吸入によって投与するのに適切な、粒子状および実質的に結晶性の医薬原体を製造する方法に関する。本方法は、実質的に結晶性の医薬原体を、その貧溶媒に懸濁して、懸濁液を得て、該懸濁液を高圧で均質にして、約10μm未満の平均粒子サイズを有する医薬粒子を得て、医薬粒子を乾燥して全ての残留貧溶媒を除去することを含む。得られた医薬粒子は、驚くべきことに、特に同じ物質のジェット・ミル粉砕した粉末と比較して、凝集および塊形成に対して抵抗性である。
【0021】
高圧均質化(HPH)は、エマルジョンの大量生産、固体−脂質ナノ粒子、最も重要には食品技術において、よく確立されており、広く用いられる技術である。出発物質は、第1段階として、担体流体に懸濁され、該懸濁液を、典型的に500と2000barの間で加圧し、次いで、YミキサーまたはZミキサーのような定位のマイクロチャネル相互作用ジオメトリーを通して、または、動力学的バルブを通して圧力をゆるめ、それにより、キャビテーション、液相中の剪断力、ならびに粒子−粒子および粒子−壁の衝突によって、粒子サイズの減少が誘発される。均質化工程は、必要に応じて何度でも繰り返すか、または望ましい平均粒子サイズおよび粒子サイズ分布(PSD)に達するまで繰り返してもよい。HPHは、摩擦による混入を含む慣用の乾式および湿式粉砕の幾つかの最も深刻な欠点を克服する。特に、動力学的粒子サイズ減少マイクロチャネル系を用いるとき、粉塵の形成および装置の詰まりもうまく避けられる。記載された使用分野において、安定な懸濁液を得るために、医薬原体は、通常、高圧均質化工程を行う前に、安定剤として機能する特定の賦形剤と共に懸濁される。
【0022】
本発明の方法の第1工程において、粒子状および実質的に結晶性の医薬原体(所望により予め粒子サイズを減少させたもの)を、貧溶媒に懸濁し、懸濁液を得る。
【0023】
該医薬原体は、すべての薬理学的に活性な成分であり得るが、本発明の方法は、その物理化学的性質のために、特に吸入によって投与するための乾燥粉末製剤の製造における慣用の製剤化が難しい結晶性の医薬原体において特に有用である。一般的に、このような医薬原体は、しばしば、活性化された表面を有し、用いられる温度で、処理に耐えるのに十分な程の化学的安定性を有する。
【0024】
このような医薬原体は、抗炎症剤、気管支拡張剤、抗ヒスタミン剤、鬱血除去剤、鎮咳剤、例えばβ−アドレナリン受容体アゴニスト、抗ムスカリン剤、ステロイド、PDE4阻害剤、A2aアゴニストまたはカルシウム・ブロッカーを含む。好ましい医薬原体(その塩、多型、または水和物もしくは溶媒和物を含む)は、抗ムスカリン剤、例えば臭化イプラトロピウム、臭化チオトロピウム、他のチオトロピウム塩、結晶性臭化チオトロピウム水和物、臭化オキシトロピウム、臭化アクリジニウム(aclidinium bromide)、ダロトロピウム(darotropium)、BEA-2180、BEA-2108、CHF 4226 (Chiesi)、GSK423405、GSK202423、LAS35201、SVT-40776、臭化 (R)−3−(2−ヒドロキシ-2,2−ジフェニル−アセトキシ)−1−(イソオキサゾール−3−イル−カルバモイル−メチル)−1−アゾニア−ビシクロ[2.2.2]オクタンおよびグリコピロニウム塩;β−アドレナリン受容体アゴニスト、例えばフォルモテロール、インダカテロール、アルブテロール(サルブタモール)、メタプロテレノール、テルブタリン、サルメテロール、フェノテロール、プロカテロール、カルモテロール(carmoterol)、ミルベテロール(milveterol)、BI-1744-CL、GSK159797、GSK-159802、GSK642444、PF-610355およびそれらの塩;および、ステロイド、例えばブデソニド、ベクロメタゾン ジプロピオネート、プロピオン酸フルチカゾン、フランカルボン酸モメタゾン、シクレソニド、GSK-685698および3−メチルチオフェン−2−カルボン酸(6S,9R,10S,11S,13S,16R,17R)−9−クロロ−6−フルオロ−11−ヒドロキシ−17−メトキシ−カルボニル−10,13,16−トリメチル−3−オキソ−6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−ドデカ−ヒドロ−3H−シクロペンタ[a]フェナントレン−17−イル エステルを含む。
【0025】
特定の態様において、医薬原体について、医薬原体の混合物を含むことが適切であり得る。
本発明の方法の好ましい態様において、医薬原体は、グリコピロニウム塩であり、特に臭化グリコピロニウムまたはグリコピロレートである。
【0026】
グリコピロレートは、臭化 3−[(シクロペンチル−ヒドロキシフェニルアセチル)オキシ]−1,1−ジメチル−ピロリジニウムという化学名を有し、現在、麻酔の際に分泌を減少させるために注射によって投与され、そして/または胃潰瘍を処置するために経口で投与されている抗ムスカリン剤である。しかし、近年、それが呼吸器疾患を処置するのに有用であることが立証されつつある。
【0027】
グリコピロレートは、下記の化学構造を有する。
【化1】

【0028】
グリコピロレートは、市販されているか、または米国特許第2956062号(その内容は、言及することによって本明細書に組み込まれる)に記載された手順を用いて製造され得る。それは、好ましくは結晶性であり、ごく微量の非晶質部分を含む。グリコピロレートは、特に、凝集および塊形成する傾向があることから、製剤化が難しい。このことは、特に、吸入によって投与するための乾燥粉末製剤にグリコピロレートを製剤化しようとする場合の課題となる。
【0029】
グリコピロレートは、2つの立体中心を有し、従って、米国特許第6307060号および米国特許第6,613,795号(これらの特許明細書の内容は、言及することによって本明細書に組み込まれる)の明細書に記載された4種の異性体の形態、すなわち、臭化 (3R,2'R)−、(3S,2'R)−、(3R,2'S)−および(3S,2'S)−3−[(シクロペンチル−ヒドロキシフェニルアセチル)オキシ]−1,1−ジメチルピロリジニウムが存在する。本発明は、1種以上のこれらの異性体の形態、特に、単一のエナンチオマー、ジアステレオマーの混合物、またはラセミ化合物を含む3S,2'R異性体、3R,2'R異性体または2S,3'R異性体、特に、臭化 (3S,2'R/3R,2'S)−3−[(シクロペンチル−ヒドロキシフェニルアセチル)オキシ]−1,1−ジメチルピロリジニウムを用いる場合を包含する。
【0030】
他の好ましい形態において、医薬原体は、インダカテロール塩、特にマレイン酸インダカテロールである。マレイン酸インダカテロールは、下記の化学構造を有する。
【化2】

【0031】
マレイン酸インダカテロールまたはマレイン酸 (R)−5−[2−(5,6−ジエチル−インダン−2−イルアミノ)−1−ヒドロキシエチル]−8−ヒドロキシ−1H−キノリン−2−オンは、強力なβ2−アドレナリン受容体アゴニストであり、有効な気管支拡張剤である。作用の開始が速く、β2−アドレナリン受容体への刺激作用が長く続き、例えば24時間以上続くことから、それは、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の処置に、特に適切である。それは、国際特許出願 WO 2000/75114 および WO 2005/123684 (その内容は、言及することによって本明細書に組み込まれる)に記載された工程によって製造される。
【0032】
貧溶媒の選択は、医薬原体の選択によって定められ、工程を行う温度に関連する。医薬原体がグリコピロレートであるとき、貧溶媒は、グリコピロレートが実質的に溶解しない溶媒、例えばアセトン、プロパン−1−オールまたはエタノールであり、好ましくはアセトンである。医薬原体がインダカテロールであるとき、貧溶媒は、インダカテロールが実質的に溶解しない溶媒、例えば水またはエタノールである。医薬原体が微細化されているならば、そして定用量吸入器で使用するために製剤化されるならば、直接、ヒドロフルオロアルカン中での均質化が可能である。
【0033】
溶解度は、欧州薬局方で提供される尺度を参照することによって決定される。すなわち、1部の医薬原体を可溶化するために、10から30部の溶媒が必要であるならば、該医薬原体は、その溶媒に可溶であると言える。従って、1部の医薬原体を可溶化するために10から30部以上の溶媒が必要とされるならば、その溶媒は、当該医薬原体の貧溶媒である。好ましくは、医薬原体は、用いられる液体媒体にやや溶けにくい。より好ましくは、医薬原体は、用いられる媒体にやや溶けにくい、極めて溶けにくい、あるいは、ほとんど溶けない。溶解度は、常に、工程が行われる温度および最終懸濁液が保存される温度に依存する。
【0034】
医薬原体は、何れかの適切な手段を用いて、例えば混合装置を用いて、例えばULTRA-TURAXホモジナイザー、マグネチック・スターラーまたは他の同様の混合装置を用いて、貧溶媒に懸濁される。好ましくは、懸濁液は、安定剤を含まない。このことは、純粋な医薬原体が、液体媒体に懸濁されることを意味する。
【0035】
本発明の方法の第2の工程において、懸濁液は、高圧で均質にして、約10μm未満の、好ましくは約5μmの、特に約3μmの平均粒子サイズを有する医薬粒子を得る。
【0036】
高圧均質化は、ミル粉砕法の別法として知られている。それは、例えばジェット・ミル粉砕より均質な製品を生産する。しかし、高圧均質化は、これまでは、医薬原体に対して、部分的にまたは実質的に完全に非晶質である医薬粒子を生じるであろう高いエネルギーに提供すると考えられていた (Mueller et al, Nanosuspensionen- Formulierungen fuer schwerloesliche Arzneistoffe mit geringer Bioverfuegbarkeit: 1.Herstellung und Eigenschaften. Pharm. Ind. 1999,61, 74-78を参照のこと。)。
【0037】
慣用の高圧均質化工程は、通常、新しく作られる表面領域が凝集するのを予防するために、1種以上の安定剤および/または1種以上の賦形剤の存在下で行われる。特に、このような工程において、安定剤の使用が非常に好ましいと考えられており、また、少なくとも通常は必須であると考えられている。従って、本発明の方法において、全ての安定剤または賦形剤の非存在下で、医薬原体を均質化できること、さらに、凝集および/または塊形成する傾向を示すことなく、または粒子サイズが変化することなく、長時間に亘って安定なままであることは、驚くべきことである。このことは、安定剤または賦形剤が存在しない事が、これらをその後に除去しようとする必要性が避けられることによって、その下流の工程を容易にするために、非常に有用である。これにより、また、医薬品への残留安定剤または賦形剤の混入が避けられる。理論に束縛されることなく、賦形剤が存在しないとき、均質化された医薬原体上の新しく作られた表面は、賦形剤によって覆われないので、表面上で賦形剤の粒子が成長して、均質化によって得られた医薬粒子の安定性に有害な影響を与える問題もない。
【0038】
高圧均質化によって得られた医薬粒子は安定性が高く、ジェット・ミル粉砕によって得られた医薬粒子よりもはるかに長い時間、医薬粒子を保存することが可能になる。
【0039】
懸濁液を高圧で均質にして、約10μm未満の、好ましくは約5μm未満の平均粒子サイズを有する医薬粒子を得る。一般的に、その大きさの医薬粒子は、吸入によって投与するのに適切である。特定の態様において、懸濁液を均質にして、約7μm未満の平均粒子サイズを有する医薬粒子を得る。他の態様において、懸濁液を均質にして、約5μm未満の平均粒子サイズを有する医薬粒子を得る。
【0040】
約10μmより大きい平均粒子サイズを有する粒子は、咽喉の壁に衝突する傾向にあり、一般的には、肺まで到達しない。約2μmから約5μmの範囲の平均粒子サイズを有する粒子は、一般的に、呼吸細気管支に堆積し、一方、約0.05μmから約2μmの範囲の平均粒子サイズを有する、より小さい粒子は、吐き出されるか、あるいは、肺胞に堆積し、血流に吸収される傾向があり得ると考えられる。
【0041】
懸濁液を均質化するのに適切な圧力は、医薬原体および関係する貧溶媒によって変化する。一般的に、懸濁液を均質化する高圧は、好ましくは、500と2000barの間であり、より好ましくは、900と1500barの間であり、特に、約1000barである。医薬原体がグリコピロレートであり、貧溶媒がアセトンであるとき、懸濁液を均質化する高圧は、好ましくは、800と1500barの間であり、より好ましくは900と1200barの間であり、特に約950barである。医薬原体がインダカテロールであり、特にマレイン酸インダカテロールであり、貧溶媒が水またはエタノールであるとき、懸濁液を均質化する高圧は、好ましくは、800と1500barの間であり、より好ましくは900と1200barの間であり、特に約950barである。
【0042】
懸濁液を均質化するのに適当な還流温度は、医薬原体および関連する貧溶媒によって変化する。一般的に、懸濁液を均質化する還流温度は、好ましくは1から30℃の間であり、より好ましくは3と20℃の間であり、特に、5と15℃の間である。医薬原体がグリコピロレートであり、貧溶媒がアセトンであるとき、懸濁液を均質化する還流温度は、好ましくは1から20℃の間であり、より好ましくは3と15℃の間であり、特に9と15℃の間である。医薬原体がインダカテロールであり、貧溶媒が水であるとき、懸濁液を均質化する還流温度は、好ましくは3から30℃の間であり、より好ましくは5と20℃の間であり、特に9と15℃の間である。
【0043】
懸濁液を均質化するのに適当なサイクル数は、医薬原体、貧溶媒および関連する圧力によって変化する。一般的に、1から100サイクル、より好ましくは20から75サイクル、特に約50サイクル懸濁液を均質化する。医薬原体がグリコピロレートであり、貧溶媒がアセトンであるとき、1から100サイクル、より好ましくは20から75サイクル、特に約50サイクル懸濁液を均質化する。医薬原体がインダカテロールであり、貧溶媒が水であるとき、1から100サイクル、より好ましくは20から75サイクル、特に約50サイクル懸濁液を均質化する。
【0044】
驚くべきことに、本発明の方法は、安定剤または賦形剤を使用することなく安定な懸濁液および最終生成物を生じる。しかし、特定の態様において、医薬原体が凝集する傾向をさらに減少させ、それにより得られた医薬原体の安定性を改善するために、医薬原体を安定剤と共に、特に接着防止剤と共に均質化することが適切であり得る。好ましくは、接着防止剤は、1種以上のステアリン酸金属塩、1種以上の結晶性の糖またはその混合物である。特に好ましいステアリン酸金属塩は、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウムを含む。特に好ましい結晶性の糖は、乳糖を含み、より具体的には、乳糖一水和物または無水物の乳糖である。他の賦形剤は、界面活性物質またはポリマー、例えばポロキサマー、セルロース エーテル、PVA、PVPなどを含み得る。
【0045】
本発明の方法の第3段階において、医薬粒子を乾燥させ、全ての残留貧溶媒を除去する。このことは、当技術分野で既知の何れかの工程、例えば凍結乾燥、スプレー乾燥、または超臨界流体乾燥を用いることによって達成され得る。好ましくは、医薬粒子はスプレー乾燥される。得られた医薬粒子は、驚くべき事に、凝集および塊形成に抵抗性であり、長時間に亘って安定な粒子サイズを示す。
【0046】
貧溶媒が薬学的に許容されるならば、得られた懸濁液を使用してもよく、あるいは、さらに一切のさらなる乾燥操作を行わずに加工されてもよい。
【0047】
本発明の方法に従って作られた乾燥粉末製剤は、安定であり、長時間に亘って凝集および塊形成をしない傾向を有する。
【0048】
多くの場合において、加工前に医薬原体が非晶質部分を含むとき、そのような医薬原体から製造された本発明の乾燥粉末製剤において、非晶質部分は目に見える、しばしば著しい減少がある。
【0049】
驚くべきことに、グリコピロレートの懸濁液は、特に、賦形剤の非存在下で高圧で均質化され、次いでスプレー乾燥されるグリコピロレートの懸濁液は、非晶質を一切含まず、凝集または塊形成する傾向がない安定な医薬粒子を提供する。
【0050】
本発明の方法に従って処理された医薬原体は、塊形成する傾向が減少し、その結果、さらに加工するのが容易となった、すなわち乳糖担体粒子と混合して吸入可能な乾燥粉末を提供するのが容易となった、実質的に安定な固体のバルクの医薬原体を提供する。このような医薬原体は、乾燥粉末吸入器または定用量吸入器を含む適当な装置に使用するために製剤化され得る。医薬原体が定用量吸入器で送達されるものであるとき、該医薬原体は、好ましくは、適当なMDI噴射剤に再懸濁される。あるいは、医薬原体は、懸濁媒体/貧溶媒としての適当なMDI噴射剤中で均質にされ得る。
本発明は、下記の実施例によって説明される。
【実施例】
【0051】
実施例1
グリコピロレートの乾燥粉末の製造
(a) 高圧均質化装置のセットアップ
装置は、空気式ピストンポンプに連結した混合容器を含む。ポンプの出口は、混合容器に戻る還流ラインに連結している動力学的相互作用バルブに続く。加熱/冷却ジャケットを混合容器に着け、混合容器の内容物を加熱または冷却することを可能とする。ホモジナイザーは、相互作用チャンバー(スタティック IXC ジオメトリーから動力学的バルブまで)中で修飾された典型的な微小流体ホモジナイザーである。この工程において、混合容器の懸濁液は、規定された圧力まで加圧される。この加圧された懸濁液は、動力学的バルブを通して大気圧までゆるめられ、圧力エネルギーが、動力学的エネルギーに変換されてキャビテーション、剪断、粒子間力、および粒子・壁間力をもたらす。これらの力は、粒子サイズの減少を起こす。全工程は、望ましい平均粒子サイズに達するまで繰り返される。
【0052】
(b) アセトン中のグリコピロレートの懸濁液の均質化
16gの粗いグリコピロレートを、370mlのアセトンに懸濁し、60分間撹拌し、十分に分散させる。次いで、該懸濁液を、950barの圧力で、約9〜12.5℃の還流温度で、そして2℃の混合/還流容器ジャケットの温度で均質にする。ピストンポンプのストローク頻度は約60であり、該工程は全体で60分かかり、これは、全48回または48均質化サイクルに相当する。サンプルをまた、工程内管理として15分後(12回分)、および30分後(24回分)に取り、最終生成物と共に分析する。
【0053】
(c) グリコピロレート粒子のスプレー乾燥
スプレー乾燥機は、スプレータワーにおける溶媒凝縮を避けるために、75〜78℃付近、すなわち純粋なアセトンの沸点以上の出口温度で操作される。入口温度を100℃に設定し、純粋な溶媒をスプレーすることによって実験を開始する。Buechiラボスケールのスプレー乾燥機を用いて、スプレー速度を流速5ml/分に設定し、アスピレーターを100%で操作する。窒素の流速を600〜700L/時で一定に保つ。これらの操作条件で、均質化された懸濁液をスプレーし、乾燥粉末をサイクロン中で集めて、続いて布フィルターで濾過する。
【0054】
(d) グリコピロレート物質の分析
走査電子顕微鏡により、粗いグリコピロレートは、約50から100μmの不規則な結晶であることが示される。製品品質および粒子サイズは、均質化段階で根本的に変化し、グリコピロレートの形態は、大きな、不規則な大きさの結晶形から、より緻密な板状粒子に変化し、その平均サイズは5μm未満へと著しく減少する。結晶形は、均質化の初期段階で、ほぼ規則的で、より小さいサイズの方形のフラグメントとなり、続いて、粉砕され、さらに滑らかになるように見える。均質化サイクルの回数が増えると、さらに粒子サイズが減少し、24回後には、すでに平均粒子サイズが1μm付近となり、当初または12回目のものより、粒子の端がかなり丸くなる。ホモジナイザーに24回かけた後と48回かけた後では、単離された粒子に、有意な変化は観察されない。
【0055】
レーザー回折粒子サイズ分析により、x50平均粒子サイズ(前に定義した通り)が1.3μm、x10平均粒子サイズが0.6μm、および、x90平均粒子サイズが3.1μmであることが示された。粒子サイズ分布測定の開始前に60Wでの超音波処理を480秒間かけて、懸濁液中のゆるい凝集物を壊す。
【0056】
スプレー乾燥したグリコピロレートは、走査電子顕微鏡(SEM)およびレーザー光回折(LLD)によって調べられ、高圧均質化直後の懸濁液中の物質と比較して、スプレー乾燥後の粒子サイズおよび形状の有意な変化がないことが明らかとなる。また、粒子は、滑らかな端を有する、1μm付近または僅かに1μmより大きい平均サイズの、方形のフラグメントであることが明らかとなる。乾燥された懸濁液の特定の表面積(吸着分析、BET表面測定によって分析されたもの)は、4.0m2/gであると決定される。
【0057】
乾燥後の最終生成物のレーザー光回折粒子サイズ分析により、1.7μmのx50平均粒子サイズ、狭いサイズ分布、および3.6μmのx90平均粒子サイズが示された。再度60Wで480秒間超音波処理し、粒子サイズ分布測定開始前に生成物中の全てのゆるい凝集物を壊す。
【0058】
BET分析による最終生成物の特定の表面積は、4.0m2/gであると決定される。X線粉末回折分析(XPRD)およびDSCを用いた最終生成物の分析により、粗い医薬原体と比較して、結晶性に変化がないことが示される。
【0059】
スプレー乾燥後の最終生成物を、環境条件および4℃で25日間保存した後に、再度特性決定した。平均サイズまたはサイズ分布の広がりに実質的な増大は観察されない。例えば、環境条件で25日間保存した後の粒子サイズ分布は、x50=1.85μmであり、x90=3.95μmである。
【0060】
これらのデータは、高圧均質化されスプレー乾燥されたグリコピロレートは、微細化されスプレー乾燥されたグリコピロレートにおいて観察された深刻な凝集を免れたことを示している。
【0061】
実施例2
高圧均質化されたグリコピロレート懸濁液の粒子サイズ分布
(a) 高圧均質化装置のセットアップ
実施例1と同一である。
【0062】
(b) アセトンにおけるグリコピロレートの懸濁液の均質化
約20gの粗いグリコピロレートを、320mlのアセトンに懸濁し、60分間撹拌し、満足のいく分散液を得る。次いで、該懸濁液を、1150barの圧力で、約13〜16℃の還流温度で、そして2℃の混合/還流容器ジャケットの温度で均質にする。ピストンポンプのストローク頻度は約90であり、該工程は全体で60分かかり、これは、全80回または80均質化サイクルに相当する。
【0063】
(c) グリコピロレート粒子のスプレー乾燥
スプレー乾燥機は、スプレータワーにおける溶媒凝縮を避けるために、75〜78℃付近、すなわち純粋なアセトンの沸点以上の出口温度で操作される。入口温度を100℃に設定し、純粋な溶媒をスプレーすることによって実験を開始する。Buechiラボスケールのスプレー乾燥機を用いて、スプレー速度を流速5ml/分に設定し、アスピレーターを100%で操作する。窒素の流速を600〜700L/時で一定に保つ。これらの操作条件で、均質化された懸濁液をスプレーし、乾燥粉末をサイクロン中で集めて、続いて布フィルターで濾過する。
【0064】
記載されたグリコピロレートの懸濁液のサンプルの粒子サイズ分布は、100mmのレンズを有するHELOS粒子サイズ分析機(Sympatec GmbH, Clausthal-Zellerfeld, Germany)を用いて、レーザー光回折によって測定される。4℃または室温で、1週間、8週間、10週間および12週間懸濁液を保存した後、サンプルを測定する。粒子サイズ分布測定を行う前に、懸濁液を60Wで480秒間超音波処理して、懸濁液中のゆるい凝集物を壊す。結果を、下記の表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
これらのデータは、アセトン中のグリコピロレートの均質化された懸濁液が、安定化させるための賦形剤が存在しないにもかかわらず安定に存在することを示す。これらはまた、スプレー乾燥後のグリコピロレートの粒子サイズ分布に有意な変化がないことを示している。
【0067】
実施例3
グリコピロレート乾燥粉末の安定性(懸濁液をスプレー乾燥することによって得られる)
スプレー乾燥したグリコピロレートのサンプルの安定性を、実施例2に従って、100mmのレンズを有するHELOS粒子サイズ分析機(Sympatec GmbH, Clausthal-Zellerfeld, Germany)を用いて、レーザー光回折によって測定する。480秒間の超音波処理後に粒子を分析する。結果を下記の表2に要約する。
【0068】
【表2】

* 保存条件:20℃/密封したガラス容器
【0069】
これらのデータは、本発明の方法に従って作られたグリコピロレートの乾燥粉末サンプルが、安定剤の非存在下で、環境条件で、密閉ガラス容器中、4週間保存したときに、実質的に安定であることを示す。
【0070】
実施例4
高圧均質化された懸濁液から製造されるグリコピロレートの乾燥粉末と、微細化されたグリコピロレートから製造されるグリコピロレートの乾燥粉末の比較
1kgの結晶性グリコピロレートを、以下のパラメーター:分級スピード 17000rpm;粉砕ガス圧 4barで、Hosokawa Alpine(登録商標) 100 AFG 流動床カウンタジェット・ミル(opposed jet mill)を用いて、共に微細化する。ミルは、直径1.9mmの3個のノズルを備えている。得られた微細化された物質は、粉末の処理を著しく妨害する、凝集および塊形成する傾向を強く示す。結果として、自由流動性の塊形成しない微細化された医薬原体を得るためには、物質を、力制御剤、例えばステアリン酸マグネシウムと共に粉砕しなければならない。
【0071】
対照的に、高圧均質化され、続いて乾燥された物質(実施例1、2および3に記載された通りに製造)は、凝集または塊形成する傾向がなく、ジェット・ミル粉砕された医薬原体よりも容易に、さらなる加工(例えば乾燥粉末吸入製剤への加工)を行い得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状および実質的に結晶性の医薬原体を製造する方法であって、
(a) 実質的に結晶性の医薬原体を、貧溶媒に懸濁して、懸濁液を得ること;
(b) 懸濁液を高圧で均質にして、約10μm未満の平均粒子サイズを有する医薬粒子を得ること;および
(c) 医薬粒子を乾燥させ、全ての残留貧溶媒を除去すること;
の工程を含む方法。
【請求項2】
高圧が、500と2000barの間である、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
1から30℃の間の還流温度で、懸濁液を均質にする、請求項1または2に記載された方法。
【請求項4】
懸濁液を、1から100サイクル均質化する、請求項1から3の何れか1項に記載された方法。
【請求項5】
安定剤の非存在下で、懸濁液を均質にする、請求項1から4の何れか1項に記載された方法。
【請求項6】
安定剤の非存在下で、医薬粒子を乾燥させる、請求項1から5の何れか1項に記載された方法。
【請求項7】
実質的に結晶性の医薬原体がグリコピロニウム塩またはインダカテロール塩である、請求項1から6の何れか1項に記載された方法。
【請求項8】
実質的に結晶性の医薬原体がグリコピロレートであり、貧溶媒がアセトン、プロパン−1−オール、またはエタノールである、請求項7に記載された方法。
【請求項9】
実質的に結晶性の医薬原体がグリコピロレートであり、貧溶媒がアセトンである、請求項8に記載された方法。
【請求項10】
実質的に結晶性の医薬原体がマレイン酸インダカテロールであり、貧溶媒が水またはエタノールである、請求項7に記載された方法。

【公表番号】特表2011−506400(P2011−506400A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537456(P2010−537456)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067364
【国際公開番号】WO2009/074666
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】