説明

有機半導体

【課題】電荷移動度とイオン化ポテンシャルが優れると共に、塗布等により容易に製膜できるように有機溶媒への溶解度の高い有機半導体を提供する。
【解決手段】下式で表される有機半導体。


Ar、Ar’は共役構造を有する環状の化合物。R、R’は直鎖アルキル基、分岐アルキル基、直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、水素、ハロゲンのいずれか。R’’は直鎖アルキル基、分岐アルキル基、直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、水素、ハロゲンのいずれか。x、y、zは0.5の倍数で、x≦z、y≦z。nは1〜1000の定数。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜太陽電池、有機トランジスタ、光センサー、電界発光素子などの有機電子素子への応用が可能な有機半導体に関する。
【背景技術】
【0002】
電荷(電子またはホール)輸送性を有する有機半導体は有機電子素子への応用が期待されている。有機電子素子は柔軟性に富むとともに、大面積化、軽量化および簡易で安価な製造法が期待できるため有望な技術と考えられている。高性能の有機電子素子を製造することにあたり、高い電荷輸送性が特に望まれる。例えば、有機薄膜太陽電池では電荷輸送性が高いほど、高い電流値を得ることができ、高い変換効率を示せる太陽電池を製造することができる。例えば、有機トランジスタでは電荷輸送性が高いほど、流される電流値が大きくなり、トランジスタとして優れた特性を示す。
【0003】
有機半導体の電荷輸送性の指標として電荷移動度が挙げられる。電荷移動度は単位電場における電荷の移動速度を示す。電荷移動度が高いほど優れた電荷輸送性を持つ有機半導体である。有機半導体において電荷移動度の向上は、π―π平面間の相互作用の向上が有効であると認識されている。π―π平面間の相互作用の向上のためには、π共役系を広げる必要がある。広いπ共役系を得るためにはより大きなπ平面を有する単位構造、例えばナフタレンやアントラセンなど、を分子内に導入することが一般的な方法である。また、電子供与性と電子求引性の差が大きい単位構造を導入し分子内の電子構造を分極させ、π共役系を広げることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−076030号公報
【特許文献2】特開2008−106239号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Macromolecules,1995、28、465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電荷輸送性が高い有機半導体はπ平面が広く、分子間のπ―π相互作用が強くなるため、有機溶媒への溶解度が低下する問題がある。有機溶媒への溶解度が低いと、塗布などの低コスト工程で素子を製造することが困難であり、製造コストの増大の要因となる。また、応用分野によっては低い溶解度を持つ有機半導体では高い性能を得ることができないこともある。例えば、有機薄膜太陽電池のようにP型(ホール輸送)有機半導体とN型(電子輸送)有機半導体の間の広い接触面積が望ましい有機電子素子においては、P/N界面での電荷分離効率が低下するため、高い短絡電流密度値(Jsc)とFF値(Fill factor)を得ることが出来ず、結果的に高い性能の素子を製造することができなくなる。
【0007】
一方、有機電子素子には大気による有機半導体の酸化反応による劣化が懸念点として挙げられる。有機半導体の酸化は価電子帯にある電子が大気に奪われことで生じる。これにより生成されたカチオンが周辺に存在している他の物質と反応し、本来の物質とは異なるものになる。このような反応の可能性は有機半導体の酸化還元電位と酸素や水の酸化還元電位より見積もることもできるが、有機半導体のイオン化ポテンシャルが大きいほど反応性が低くなると知られている。すなわち、有機半導体の安定性を向上させるためには、価電子帯のエネルギーレベルを減らすことが好ましいことである。すなわち、有機半導体のイオン化ポテンシャルを大きくすることが望ましい。また、応用分野によっては、高いイオン化ポテンシャルを持つ有機半導体を適用することで、高性能の素子を製造することもできる。例えば有機薄膜太陽電池の開放電圧(Voc)はP型有機半導体のイオン化ポテンシャルとN型有機半導体の電子親和度の差より決められており、その差が大きいほど高い開放電圧を得ることができ、最終的に優れたエネルギー変換効率を示す有機薄膜太陽電池を製造することができる。
【0008】
特許文献1には、共役系ポリマー中にキノイドタイプの共鳴構造を導入し、電荷移動度向上を狙った方法が開示されている。この方法によると電荷移動度の向上はできるが、高価な遷移金属を用いた反応を使っているため、高電荷移動度を有する有機半導体を安価で製造することが困難である。
【0009】
特許文献2には、共役系ポリマー中に電子供与性の異なる分子を繰り返すことによって、有機半導体の電荷移動度の向上を狙った方法が開示されている。この方法よると分子内に電子密度の分極が発生し、溶解度低下の問題が生じると考えられる。
【0010】
非特許文献1には、共役系ポリマー中にキノイドタイプの共鳴構造を導入し、低バンドギャップポリマーを重合する方法が開示されている。しかし、開示されている重合体のイオン化ポテンシャルが小さく、また、電荷移動度や有機溶媒への溶解度についても記載されていない。
【0011】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた電荷移動度とイオン化ポテンシャルを示すと共に、塗布等により容易に製膜できるように有機溶媒への溶解度の高い有機半導体の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある態様は有機半導体である。当該有機半導体は、下記式(1)で表される構造を繰り返し単位からなる有機半導体であり、イオン化ポテンシャルが5.0eVより大きいことを特徴とする。
【化1】

式(1)中、Ar及びAr’は互いに同一または異なり、独立して共役構造を有する環状の化合物である。また、R及びR’は互いに同一または異なり、独立して直鎖アルキル基、分岐アルキル基、直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、水素、ハロゲンのいずれかである。また、R’’は直鎖アルキル基、分岐アルキル基、直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、水素、ハロゲンのいずれかである。また、x、yおよびzは0.5の倍数であり、x≦z、y≦zである。また、nは1〜1000の定数である。なお、R,R’及びR’’に用いられるハロゲンとしては、例えばフッ素が挙げられる。
【0013】
上記化学式(1)において、より好ましくは、Ar及びAr’は置換基を有するアリーレン基またはヘテロアリーレン基である。また、より好ましくは、R及びR’は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、水素、ハロゲンのいずれかである。また、より好ましくは、R’’は直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、水素、ハロゲンのいずれかである。
【0014】
また、上記化学式(1)において、nは5〜1000であってもよい。上記態様の有機半導体のSCLC法で測定したホール移動度は3.0×10−5cm/Vs以上であってもよい。また、上記態様の有機半導体のクロロベンゼン1mLに対する溶解度が25mg以上であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた性能と安定性をもつ有機電子素子、例えば有機トランジスタ、電界発光素子、光センサー、有機薄膜太陽電池への応用が可能な有機半導体を提供することができると期待される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態に係る有機半導体材料について説明する。
【0017】
(有機半導体)
本実施の形態の有機半導体は、下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、イオン化ポテンシャルが5.0eVより大きいことを特徴とする。なお、イオン化ポテンシャルは、有機半導体の真空準位を0eVとしたときの値である。式(1)中、Ar及びAr’は互いに同一または異なり、独立して共役構造を有する環状の化合物である。また、R及びR’は互いに同一または異なり、独立して直鎖アルキル基、分岐アルキル基、直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、水素、ハロゲンのいずれかである。また、R’’は直鎖アルキル基、分岐アルキル基、直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、水素、ハロゲンのいずれかである。また、x、yおよびzは0.5の倍数であり、x≦z、y≦zである。また、nは1〜1000の定数である。
【0018】
【化2】

【0019】
上記化学式(1)において、Ar及びAr’は置換基を有するアリーレン基またはヘテロアリーレン基であってもよい。
【0020】
上記化学式(1)において、Ar及びAr’はアルキル置換基またはアルコキシ置換基を有するベンゼンであってもよい。
【0021】
上記化学式(1)において、Ar、Ar’の例を下記に提示するが、Ar、Ar’はこれらに限定されるものではない。
【0022】
【化3】

【0023】
上記化学式(1)において、R及びR’は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、水素、ハロゲンのいずれかであってもよい。
【0024】
上記化学式(1)において、R’’は直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、ハロゲンのいずれかであってもよい。また、適切なアルコキシ基の炭素数としては1〜18が好ましく、さらに5〜13がより好ましい。
【0025】
上記化学式(1)において、z≧1.5×x、z≧1.5×yがより好ましい。
【0026】
上記化学式(1)において、nは5〜1000であることがより好ましい。
【0027】
上記化学式(1)で表される有機半導体に関し、SCLC法で測定したホール移動度が3.0×10−5cm/Vs以上であることが好ましい。当該ホール移動度はより好ましくは6.0×10−5cm/Vs以上であり、さらに好ましくは1.0×10−4cm/Vs以上である。
【0028】
上記化学式(1)で表される有機半導体の真空準位を0eVにした時のイオン化ポテンシャルは、より好ましくは5.2eV以上であり、さらに好ましくは5.4eV以上である。
【0029】
上記化学式(1)で表される有機半導体のクロロベンゼン1mLに対する溶解度は25mg以上であることが好ましく、より好ましくは30mg以上であり、さらに好ましくは35mg以上である。
【0030】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。以下に、有機半導体の具体例を示すが、有機半導体はこれらに限定されない。
【化4】

【実施例】
【0031】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0032】
実施例1の有機半導体は、下記式(1−1q)で表される有機半導体P1である。
【化5】

【0033】
比較例1の有機半導体は、下記式(1−2q)で表される有機半導体P2である。
【化6】

【0034】
比較例2の有機半導体は、下記式(1−3q)で表される有機半導体P3である。
【化7】

【0035】
(有機半導体の合成方法)
実施例1と比較例1〜2で用いた各有機半導体の合成方法について以下に説明する。
【0036】
<4-Bromo-4’-pentyloxybiphenyl (A1)の合成>
【化8】

アルゴン雰囲気下で、4-bromo-4’-hydroxybiphenyl (3.0 g, 12mmol)、1-bromopentane (3.6 g, 24 mmol)、炭酸カリウム(1.66g, 12mmol)をアセトン(60 mL)に溶かし、還流状態で24時間攪拌した。反応後、水とクロロホルムで分液抽出をおこなった。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧下で留去した。得られた反応混合物をクロロホルムを移動層とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製後、クロロホルムとヘキサンを用いた再結晶法により精製し、4-Bromo-4’-pentyloxybiphenyl (A1)を白色固体で得た(1.99g、収率 : 53 %)。得られた生成物(A1)について1H-NMR 法を用いて同定を行った。 1H-NMR (CDCl3, 400MHz) δ = 7.53-7.51 (d, 2H), 7.48-7.46 (d, 2H), 7.42-7.40 (d, 2H), 7.00-6.95 (d, 2H), 4.01-3.98 (t, 2H), 1.81 (m, 2H), 1.42 (m, 4H), 0.94 (t, 3H)
【0037】
<4''-(pentyloxy)-[1,1':4',1''-terphenyl]-4-carbaldehyde (A2)の合成>
【化9】

アルゴン雰囲気下で、(4-formylphenyl) boronic acid (0.54 g, 3.6 mmol)、4-Bromo-4’-pentyloxy-biphenyl (0.958 g, 3 mmol)(A1)、炭酸水素ナトリウム (0.76 g, 9 mmol)、tetrakis (triphenylphosphine) palladium( Pd(PPh3)4 ) (0.057 g, 0.030 mmol) をTHF (15 mL)と水 (15 mL)に溶かし、還流状態で攪拌した。反応後、水とクロロホルムで分液抽出をおこなった。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過後溶媒を減圧下で留去した。得られた反応混合物をクロロホルムを移動層とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離精製後、クロロホルムとヘキサンを用いた再結晶法により精製し、4''-(pentyloxy)-[1,1':4',1''-terphenyl]-4-carbaldehyde (A2)を白色固体で得た(0.60 g、収率:58 %)。得られた生成物(A2)について1H-NMR 法を用いて同定を行った。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ = 10.06 (s, 1H, CHO), 7,95-7,97 (d, 2H, phenylene), 7.79-7.81 (d, 2H, phenylene), 7.71-7.66 (m, 4H, phenylene), 7.00-6.98 (s, 2H, phenylene), 4.03-3.99 (t, 2H, -O-CH2-), 1.84-1.81 (t, 2H, -CH2-), 1.47-1.40 (m, 4H, -CH2-), 0.93-0.97 (t, 3H, -CH3). 13C NMR (CDCl3, 100MHz) δ =191.7, 159.0, 146.7, 141.0, 137.8, 135.2, 132.4, 130.2, 128.0, 127.2, 114.9, 68.1, 29.0, 28.3, 22.7, 14.1
【0038】
<1−1bの合成>
【化10】

アルゴン雰囲気下で、2,2’-Bithiophene (0.25 g, 1.5 mmol)、4''-(pentyloxy)-[1,1':4',1''-terphenyl]-4-carbaldehyde (0.603 g, 1.75 mmol)(A2) をジオキサン (4ml) に溶かし、濃硫酸(0.05 mL (0.5 mmol))を滴下した。その後、反応温度を80℃に保ち、24時間攪拌した。反応後の化合物はメタノールやアセトンを用いた再沈殿により精製し、1−1bを黒色で得た (0.394 g、収率:34 %)。得られた生成物(1−1b)について1H-NMR 法を用いて同定を行った。 1H-NMR(CDCl3, 400MHz) δ = 7.59 -7.38 (10H), 6.94 (4H), 6.73 (2H), 5.76 (0.65H), 3.98 (2H), 2.15 (2H), 1.80 (2H), 1.44 (2H), 0.92 (3H)
【0039】
<実施例1で用いられる有機半導体1−1qの合成>
実施例1で用いられる有機半導体1−1qを下記反応式に従って合成した。
【化11】

アルゴン雰囲気下で、1−1b ( 0.025g )、2,3-dichloro-5,6-dicyano-1,4-benzoquinone (DDQ) (0.014 g, 0.061 mmol)をTHF(1 mL) に溶かし、60℃で24時間攪拌した。反応後の化合物はメタノールやアセトンを用いた再沈殿法により精製し、1−1qを赤黒色で得た (0.010 g、収率:20 %)。得られた生成物(1−1q)について1H-NMR 法を用いて同定を行った。1H NMR(CDCl3, 400MHz) δ =7.6 (6H), 7.24-7.20 (4H), 6.80-7.00 (6H), 4.0 (2H), 1.90-1.70 (6H),0.93 (3H)
【0040】
<比較例1で用いられる有機半導体1−2qの合成>
比較例1で用いられる有機半導体1−2qを下記反応式に従って合成した。
【化12】

アルゴン雰囲気下で、2,2’-Bithiophene (0.30 g, 1.75 mmol)、4-n-pentyloxybenza-ldehyde (0.403 g, 2.1 mmol)をジオキサン(6 ml)に溶かし、濃硫酸(0.06 mL (0.6 mmol))を滴下した。その後、反応温度を80℃に保ち、24時間攪拌した。反応後の化合物はメタノールやアセトンを用いた再沈殿により精製し、1−2bを赤色で得た(0.352 g、収率:50 %)。続いて、1−2b(0.030 g)、2,3-dichloro-5,6-dicyano-1,4-benzoquinone (DDQ) (0.016 g, 0.07 mmol)をTHF(1.5 mL)に溶かし、60℃で24時間攪拌した。反応後の化合物はメタノールやアセトンを用いた再沈殿法により精製し、1−2qを赤黒色で得た(0.014 g、収率:47 %)。得られた生成物(1−2q)について1H-NMR 法を用いて同定を行った。1H NMR(CDCl3, 400MHz) δ =7.59-7.16 (broad, 14H), 4.10-4.00 (2H), 1.62-1.26 (9H)。
【0041】
<比較例2で用いられる有機半導体1−3qの合成>
比較例2で用いられる有機半導体1−3qを下記反応式に従って合成した。
【化13】

アルゴン雰囲気下で、2,2’-Bithiophene (0.5 g, 3 mmol)、benzaldehyde (0.372 g, 3.5 mmol)をジオキサン(4ml)に溶かし、濃硫酸(0.1 mL (0.1 mmol))を滴下した。その後、反応温度を80℃に保ち、24時間攪拌した。反応後の化合物はメタノールやアセトンを用いた再沈殿により精製し、1−3bを赤色で得た(0.300 g、収率:34 %)。続いて、1−3b( 0.030g )、2,3-dichloro-5,6-dicyano-1,4-benzoquinone (DDQ) (0.014 g, 0.061 mmol)をTHF(1 mL)に溶かし、60℃で24時間攪拌した。反応後の化合物はメタノールやアセトンを用いた再沈殿法により精製し、1−3qを赤黒色で得た(0.010 g、収率:33 %)。得られた生成物(1−3q)について1H-NMR法を用いて同定を行った。1H NMR(CDCl3, 400MHz) δ =7.52-7.00 (b, 14H, phenyl and thiophene rings)
【0042】
(正孔移動度の測定)
SCLC法による正孔移動度は以下のように求められた値である。ITO透明電極の上に、市販のPEDOT:PSS(商品名 Starck AI 4083)をスピン塗布により製膜した後、120〜150℃で加熱し乾燥させて膜厚約40nmのPEDOT:PSS膜を形成した。所定量の当該有機半導体をクロロベンゼン溶媒に加えて塗布液を作成し、この塗布液をPEDOT:PSS膜の上にスピン塗布した。この後、所定の温度で乾燥させて膜厚約130nmの有機半導体層を形成した。得られた有機半導体層の上に、真空蒸着法により膜厚が100nmになるようにAuを成膜した。成膜速度は1秒当たりに0.01nmを超えないように調整した。作製した素子(ITO透明電極/PEDOT:PSS膜/光電変換層/Au)を暗箱内入れて、電流(J)−電圧(V)特性を測定した。得られた電流−電圧特性をJ^1/2を縦軸、Vを横軸にlog-logプロットした後、SCLC領域にてフィッティングして傾き(a)を算出した。次に、(J)^1/2={9ε0εrμ/8(L^3)}^1/2 V式から、{9ε0εrμ/8(L^3) }^1/2の部分がグラフから求めた傾きに等しいため、a={9ε0εrμ/8(L^3) }^1/2となる。これをμについて解き直し、μ={8(L^3)( a^2)}/{9ε0εr}、として、これに0,εrを代入して算出した。μは有機半導体の移動度、Lは有機半導体の膜厚、ε0は真空の誘電率、εrは有機半導体の誘電率である。
【0043】
(イオン化ポテンシャルの測定)
当該有機半導体の真空準位を0eVにした時のイオン化ポテンシャルは、理研計器株式会社大気中光電子分光機 AC-3(登録商標)を用いて測定した値である。なお、イオン化ポテンシャル評価用のサンプルは以下の方法で作製した。窒素雰囲気下、所定量の当該重合体をクロロベンゼン溶媒1mLに加えて塗布液を作成し、この塗布液を基板の上にスピン塗布した。この後、所定の温度で乾燥させて膜厚約120nmの層を形成した。
【0044】
(溶解度の測定)
溶解度とは以下のように求められた値である。窒素雰囲気下、所定量の当該有機半導体とクロロベンゼン1mLを蓋付サンプル瓶に加え、10分間撹拌後、10分間放置し、目視で沈殿が発生しない重量である。
【0045】
(測定結果)
実施例1および比較例1〜2の各有機半導体について、クロロベンゼン1mLに対する溶解度、正孔移動度およびイオン化ポテンシャルを測定した結果を表1に示す。
【表1】

表1に示すように、実施例1の有機半導体は、クロロベンゼン1mLに対する溶解度が比較例1、2の有機半導体に比べて高いため、塗布等による製膜を容易に行うことができ、ひいては素子の製造コストを低減することができる。また、実施例1の有機半導体は、正孔移動度が比較例1、2の有機半導体に比べて高く、優れた電荷輸送性を示すことが確認された。さらに、実施例1の有機半導体は、イオン化ポテンシャルが比較例1、2の有機半導体に比べて高いため、酸化反応などの反応性が低い。このため、実施例1の有機半導体の安定性は比較例1、2に比べて向上している。
【0046】
また、実施例1で用いられる有機半導体1−1qの合成方法で示したように、実施例1の有機半導体は遷移金属を用いることなく合成が可能であるため、製造コストを抑制することができる。
【0047】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を繰り返し単位からなる有機半導体であり、イオン化ポテンシャルが5.0eVより大きいことを特徴とする有機半導体。
【化1】

式(1)中、Ar及びAr’は互いに同一または異なり、独立して共役構造を有する環状の化合物である。また、R及びR’は互いに同一または異なり、独立して直鎖アルキル基、分岐アルキル基、直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、水素、ハロゲンのいずれかである。また、R’’は直鎖アルキル基、分岐アルキル基、直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、水素、ハロゲンのいずれかである。また、x、yおよびzは0.5の倍数であり、x≦z、y≦zである。また、nは1〜1000の定数である。
【請求項2】
前記式(1)中、Ar及びAr’は置換基を有するアリーレン基またはヘテロアリーレン基である請求項1記載の有機半導体。
【請求項3】
前記式(1)中、R及びR’は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、水素、ハロゲンのいずれかである請求項1に記載の有機半導体。
【請求項4】
前記式(1)中、R’’は直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、ハロゲンのいずれかである請求項1に記載の有機半導体。
【請求項5】
前記式(1)中、nは5〜1000である請求項1に記載の有機半導体。
【請求項6】
SCLC法で測定した前記有機半導体のホール移動度が3.0×10−5cm/Vs以上である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機半導体。
【請求項7】
クロロベンゼン1mLに対する前記有機半導体の溶解度が25mg以上である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の有機半導体。

【公開番号】特開2012−235075(P2012−235075A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104618(P2011−104618)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】