説明

有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法

【課題】 有機塩素化合物を含む廃棄物を、焼却処理することなく、有機塩素化合物を含む廃棄物のほんとど全てを再資源化して利用できる方法の提供。
【解決手段】 有機塩素化合物を含む廃棄物を熱水処理により脱塩素を行って、前記有機塩素化合物をアルコールおよび/または有機酸類と無機塩として回収して利用し、そして、前記有機塩素化合物の除去された残りの廃棄物は燃料として回収して利用する有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法により課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法に関するものであり、さらに詳しくは、従来焼却処理されていた有機塩素化合物を含む廃棄物を焼却処理することなく、有機塩素化合物を含む廃棄物のほんとど全てを再資源化して利用できるようにする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機塩素化合物は生物に対し有害ではあるが、有機化合物をよく溶解するという特性のため機械・電子部品の脱脂洗浄、衣類のドライクリーニング、化学薬品工業での溶媒などに大量に使用されている。
これら脱脂洗浄、化学反応および抽出などの工程などより排出された有機塩素化合物を含む廃棄物は、有機塩素化合物の外に水、潤滑油、防錆油、油脂などの油分および樹脂分などの有機物、泥・砂などの無機物の内の1種もしくは2種類以上の成分を含んでいる。
そして、現在においては有機塩素化合物を含む廃棄物は産業廃棄物として焼却処理をされている。
【0003】
しかし、焼却処理すると、発生する塩酸により機器が腐食し損耗が激しく、また有機塩素化合物に含有される塩素によりダイオキシン類が発生するため除去対策を行わなければならず、処理コストが非常に高くなっている。このため有機塩素化合物を含む廃棄物の焼却以外の処理技術および再資源化技術の開発が要望されている。
【0004】
この要望に応えるため、有機塩素化合物を含む廃棄物の処理あるいは資源化技術として下記(1)〜(9)に示すような多くの技術が提案されている。
(1)炭酸ナトリウムの存在下で水熱反応により有機塩素化合物を二酸化炭素、水などに分解する方法(特許文献1参照)。
(2)超臨界水を用いてPCBなどの有機塩素化合物を酸化分解する反応装置に関するもの(特許文献2参照)。
(3)ナトリウムエトキシドを触媒として水熱反応によりPCBなどの有機塩素化合物を分解する(特許文献3参照)。
(4)酢酸、亜鉛、白金などを触媒として亜臨界水反応によりPCB、農薬などの有機塩素化合物の分解を行う(特許文献4参照)。
(5)マイクロ波により熱プラズマを発生させ有機塩素化合物を分解する(特許文献5参照)。
(6)紫外線により有機塩素化合物を分解する(特許文献6参照)。
(7)アルカリメタノール液を用い加熱・加圧し脱塩反応を行う方法及び装置に関するものであり、有機塩素化合物を一酸化炭素、水素ガスに分解し、生成した蟻酸ソーダ、炭酸ソーダはアルカリ剤として脱塩素反応に利用する(特許文献7参照)。
(8)有機塩素化合物の混入した有機溶剤を金属水素化合物を用いて脱塩素を行い、有機溶剤を回収する(特許文献8参照)。脱塩素後の有機塩素化合物はメタン、エタンなどの気体となるため回収されない。
(9)ハロゲン系有機廃棄物を水熱反応により脱塩を行い、生成物をメタン発酵することによりエネルギーを回収する(特許文献9参照)。
【特許文献1】特開2003−81883号公報
【特許文献2】特開2001−300290号公報
【特許文献3】特開平11−309367号公報
【特許文献4】特開平10−28951号公報
【特許文献5】特開2003−175332号公報
【特許文献6】特開2000−218157号公報
【特許文献7】特開2001−261583号公報
【特許文献8】特開2000−239189号公報
【特許文献9】特開2002−138057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のこれらの技術は主に有機塩素化合物を完全に分解・無害化するものであるか、あるいは、有機塩素化合物を無害化するとともに廃棄物の一部を回収、再利用しているにすぎず、有機塩素化合物を含む廃棄物の大部分を再利用する技術は確立されていない。
【0006】
本発明の目的は、従来の問題を解決し、焼却処理すると、発生する塩酸により機器が腐食し損耗が激しく、また有機塩素化合物に含有される塩素によりダイオキシン類が発生するため除去対策を行わなければならず、処理コストが非常に高くなっていた有機塩素化合物を含む廃棄物を、焼却処理することなく、有機塩素化合物を含む廃棄物のほんとど全てを再資源化して利用できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解消するための本発明の請求項1に記載の発明は、有機塩素化合物を含む廃棄物を熱水処理により脱塩素を行って、前記有機塩素化合物をアルコールおよび/または有機酸類と無機塩として回収して利用し、そして、前記有機塩素化合物の除去された残りの廃棄物は燃料として回収して利用することを特徴とする有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法である。
【0008】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法において、熱水処理の反応温度が80〜300℃、反応圧力が前記反応温度での飽和蒸気圧以上15MPa以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1あるいは請求項2に記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法において、有機塩素化合物を含む廃油の熱水処理を行う際にアルカリ剤を使用することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法において、前記アルカリ剤の使用量が廃棄物中に含まれる有機塩素化合物に含まれる塩素量の1.0から2倍当量であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法において、前記有機塩素化合物がジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素から選択される少なくとも1つの化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法は、有機塩素化合物を含む廃棄物を熱水処理により脱塩素を行って、前記有機塩素化合物をアルコールおよび/または有機酸類と無機塩として回収して利用し、そして、前記有機塩素化合物の除去された残りの廃棄物は燃料として回収して利用するので、
焼却処理すると、発生する塩酸により機器が腐食し損耗が激しく、また有機塩素化合物に含有される塩素によりダイオキシン類が発生するため除去対策を行わなければならず、処理コストが非常に高くなっていた有機塩素化合物を含む廃棄物を、焼却処理することなく、廃棄物に含まれる有機塩素化合物は完全分解することなく、熱水処理により脱塩素を行ってアルコール、有機酸もしくは有機酸の塩などの有機酸類として通常の方法で回収して利用でき、生成する無機塩も通常の方法で回収して利用でき、また有機塩素化合物の除去された残りの廃棄物はその性状に応じて、液体燃料、固体燃料として重油、石炭と同様に、ボイラー燃料などとして有効に利用できるなど、有機塩素化合物を含む廃棄物のほんとど全てをそれぞれ有価物として再資源化して利用できるという顕著な効果を奏する。
【0013】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法において、熱水処理の反応温度が80〜300℃、反応圧力が前記反応温度での飽和蒸気圧以上15MPa以下であるので、反応の制御が容易であり、廃棄物に含まれる有機塩素化合物を完全分解することなく、そして、生成したアルコールや有機酸の分解が進まず、効率よく熱水処理により脱塩素を行い、アルコール、有機酸類を生成でき、これらの収率が高くなる上、機器素材として高価な高耐食性材料を用いる必要がなくなり、装置に高度な耐圧性を必要とせず、その結果、装置コストが低下するという、さらなる顕著な効果を奏する。
【0014】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1あるいは請求項2に記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法において、有機塩素化合物を含む廃油の熱水処理を行う際に水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ剤を使用するので、
脱塩反応が促進されると同時に生成したアルコール、有機酸類の分解が防止、抑制され、より効率よく熱水処理により脱塩素を行い、アルコール、有機酸類を生成できるとともに、脱塩素によりアルカリ不在時に生じた塩酸を中和することができる。
【0015】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法において、前記アルカリ剤の使用量が廃棄物中に含まれる有機塩素化合物に含まれる塩素量の1.0から2倍当量であるので、
廃棄物に含まれる有機塩素化合物を完全分解することなく、効率よく熱水処理により脱塩素を行い、アルコール、有機酸類を経済的に生成できるという、さらなる顕著な効果を奏する。
【0016】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法において、前記有機塩素化合物がジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素から選択される少なくとも1つの化合物であることを特徴とするものであり、機械・電子部品の脱脂洗浄、衣類のドライクリーニング、化学薬品工業での溶媒などに大量に使用されているこれらの有機塩素化合物を含む廃棄物のほんとど全てを再資源化して利用できるという、さらなる顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明において有機塩素化合物を含む廃棄物を熱水処理する際は、有機塩素化合物を含む廃棄物に必要に応じて水、アルカリ剤を添加混合し所定の温度・圧力で所定の時間反応を行う。
有機塩素化合物を含む廃油、水、アルカリ剤は全て混合した後、加熱・加圧を行い反応させてもよく、またそれぞれを単独で、もしくは2種類以上を混合して加熱・加圧を行った後全てを混合して反応を行ってもよい。
【0018】
有機塩素化合物を熱水処理して脱塩素する反応の例を次に示す。
有機塩素化合物であるジクロロメタンは次式(1)、(2)のごとく反応が進みアルコール、有機酸、無機塩が生成すると考えられる。ジクロロメタンに含まれる塩素量の1.2倍当量の水酸化ナトリウムを使用し、反応温度100〜230℃、反応圧力2〜5MPaの亜臨界水条件で反応時間30分以内で90%以上の脱塩素率を達成できた。
【0019】
CH2Cl2 + 2NaOH → CH2(OH)2 + 2NaCl 式(1)
2CH2(OH)2 → CH3OH + HCOOH + H2O 式(2)
【0020】
式(1)で示される求核置換反応は次式(1−1)、(1−2)で表される2段階の逐次反応と考えられる。
CH2Cl2 + −OH → CH2Cl(OH) + −Cl 式(1−1)
CH2Cl(OH) + −OH→ 2CH2(OH)2+ −Cl 式(1−2)
【0021】
それぞれの一次反応速度定数を次式で表されるk1、k2として、180℃の反応温度における実験結果からk1、k2を求めた結果、k1=0.0041[sec−1]、k2=0.0013[sec−1]であった。
【0022】
k1=−d[CH2Cl2]/dt
k2=−d[CH2Cl(OH) ]/dt
【0023】
亜臨界水条件での脱塩素反応は従来はSN2反応と考えられていたが、この結果から、疑1次反応(SN1反応)として取り扱えることが判った。これは充分の量の水が存在する亜臨界水中では、−OH濃度が大過剰になることから、2次反応であるSN2反応が主反応となる反応であっても、見掛け上の反応は疑1次反応(SN1反応)として進行するためと考えられる。
【0024】
反応温度は分解する有機塩素化合物により異なるが、80〜300℃が好ましい。反応温度が80℃未満の場合は、有機塩素化合物および使用するアルカリ剤により異なるが、反応が進まないか、極端に遅くなるため好ましくない。反応温度が300℃を超えると反応の制御が難しく、生成したアルコール、有機酸の分解が進み、収率が悪くなるため好ましくない。更に、反応温度が300℃を超えると機器の腐食が激しくなり、機器素材として高価な高耐食性材料を用いなければならず、装置コストが高くなるため好ましくない。
【0025】
反応圧力は反応温度での飽和蒸気圧から15MPaまでの間が好ましい。反応圧力を上げてもあまり反応速度は変わらず、反応圧力が15MPaを超えると、装置に高度な耐圧性が必要となり装置コストが高くなるため好ましくない。
【0026】
反応装置は回分式、連続式あるいはこれらの組み合わせのいずれの形式の反応装置も使用できるが、生産率のよい連続式反応装置が好ましい。
【0027】
反応温度の制御は電気ヒーター、誘導加熱などの直接加熱方式および熱媒油などを用いた間接加熱方式あるいはこれらの組み合わせのいずれの方法を用いてもよい。
【0028】
反応圧力を上げるには加圧ポンプを用いるがポンプの形式には拘らず、所定の圧力にまで加圧できるポンプならば、いずれの形式のポンプも使用できる。
【0029】
本発明においては、熱水処理を行う際にアルカリ剤を用いることが好ましい。その理由は、アルカリ剤を用いることにより脱塩反応が促進されると同時に生成したアルコール、有機酸の分解が防止、抑制され、脱塩素によりアルカリ不在時に生じた塩酸を中和し機器の腐食が防止されるためである。
【0030】
本発明において用いるアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩および水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩が挙げられる。
【0031】
アルカリ剤の添加量は、廃油に含まれる有機塩素化合物の塩素量の1.0〜2倍当量が好ましく、より好ましくは1〜1.4倍当量である。1.0倍当量未満では添加した効果が少なく、2倍当量を超えて添加しても効果は変わらないため不経済となる。
【0032】
前記アルカリ剤は単独でも、2種類以上組み合わせて使用しても構わないが、2種類以上組み合わせて使用する場合も、アルカリ剤が有機塩素化合物に含まれる全ての塩素とアルカリ塩を生成するに必要な量の1.0〜2倍当量となるように調整することが好ましい。
【0033】
反応時間は、有機塩素化合物の種類および使用するアルカリ剤により異なるが5分〜2時間程度が好ましい。
反応時間が長すぎると、一旦生成したアルコール、有機酸などが更に分解し、水と二酸化炭素などとなり収率が低下するため好ましくない。
所定の時間反応を行った後、反応生成物は冷却後、水分と油分と固形分に分かれる。
【0034】
固形分には固形有機物、泥分および無機塩の結晶などが含まれるが、遠心分離やろ過などにより分離される。固形分に含まれる無機塩は再結晶などの方法で精製する。
【0035】
水分には一部のアルコール、有機酸、無機塩が溶解している。アルコール、有機酸は蒸留、溶剤抽出などの一般的方法で回収する。無機塩はイオン交換、膜分離、再結晶などの方法で精製回収する。
【0036】
油分には、少量の未反応の有機塩素化合物、廃棄物に含まれる有機塩素化合物以外の有機物、一部のアルコール、有機酸が含まれる。アルコール、有機酸は蒸留、溶剤抽出などの方法で回収する。
【0037】
沸点が比較的低いアルコール、有機酸は蒸留などの回収効率を上げるため、反応生成物を約80℃から100℃に冷却した後、フラッシュさせ、コンデンサーで回収してもよい。
反応生成物を約80℃でフラッシュさせると沸点が80℃以下のアルコールは大部分が気化するためコンデンサーで冷却凝縮して回収される。
【0038】
反応生成物を約100℃でフラッシュさせると沸点が100℃以下のアルコールは大部分が気化し、100℃近辺の有機酸と水が共沸しコンデンサーで冷却凝縮して回収される。水が共沸により気化するため、溶解していた無機塩を結晶化・分離することができるため好ましい。
【0039】
フラッシュ操作のみでアルコール、有機酸を分離回収することは難しいが、高沸点の廃油および水分に溶解していた無機塩と分離することができ、分離回収コストを下げることができる。
【0040】
沸点が100℃以上の廃油は大部分が液体としてフラッシュタンクに溜り、油水分離される。
【0041】
回収したアルコール、有機酸、無機塩は工業原料として利用し、油状および固形の有機物はボイラー燃料などに利用する。
【0042】
次に利用方法の例を具体的に説明する。
得られた脱塩油は、その性状により軽油、重油と同様にボイラー用燃料、ビルの暖房用燃料、ディーゼル燃料、ハウス栽培用燃料などとして利用することができる。
【0043】
例えばその性状が軽油に相当する脱塩油は、バスやトラックなどのディーゼルエンジン用燃料、ガスタービン用燃料、発電用燃料、ボイラー用燃料などとして利用できる。
【0044】
また、その性状が重油に相当する脱塩油は、小型・大型ディーゼルエンジン用燃料、発電用燃料、船舶用燃料、ボイラー用燃料などとして利用できる。
【0045】
得られた固形の有機物は、石炭と同様に発電用ボイラー燃料もしくは製鉄用燃料などとして利用できる。
【0046】
得られた無機塩の塩化ナトリウムは、ソーダおよびその他の化学工業原料、鉱山精練原料などとして利用できる。また塩化カルシウムは道路の融雪剤として利用できる。
【0047】
また、得られたメタノールは、ホルマリン、酢酸、メチルメタクリレート、メチルアミン、香料などの原料として利用できる。
【0048】
また、得られた有機酸の蟻酸は、染色助剤、エポキシ可塑剤、医薬品、メッキ助剤、殺菌剤原料などとして利用できる。
【0049】
グリコール酸は、ボイラー洗浄剤、電解研磨剤、染色助剤、スケール除去剤などとして利用できる。
【0050】
なお、上記実施形態の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮するものではない。又、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【実施例】
【0051】
次に実施例および比較例により本発明を詳しく説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
有機塩素化合物を含む廃油の模擬廃油として、ジクロロメタン(試薬特級)12.00gを100mlメスフラスコに入れ、機械油を加えて全量を100mlとしたものを用いた。
反応容器は、内径14mm、厚さ1.65mm、内容積30mlのステンレス( SUSTP 10A sch10S) 製チューブの両端にスウェージロックを付した円柱型耐圧反応器を用いた。
反応操作としては、一端をスウェージロックで閉じた反応容器に模擬廃油8.0g、1.1gの水酸化ナトリウムを溶解した蒸留水14.52g(ジクロロメタンに含まれる塩素量の1.2倍当量の水酸化ナトリウムを含む)を入れ、アルゴンガスで空間部の空気を置換した後、スウェージロックで反応容器を閉じ、230℃に設定したオイルバスに所定の時間(5、10、40、60分)投入(反応圧力は水の飽和蒸気圧であるため2.8MPaである)した後取り出し、水槽に投入し急冷して反応を止めた。
反応容器が充分に冷えた後、反応生成物を取り出し、油層と水層に分け、水層に含まれる塩素イオン量をJIS K0101に従い測定し、脱塩率を算出し表1に水層のpH値とともに示した。
【0052】
(実施例2)
1.1gの水酸化ナトリウムの代わりに1.0gの水酸化カルシウム(ジクロロメタンに含まれる塩素量の1.2倍当量の水酸化カルシウムを含む)を添加した以外は実施例1と同様に操作して、脱塩率を算出し表1にpH値とともに示した。
【0053】
(比較例1)
1.1gの水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様に操作して、脱塩率を算出し表1にpH値とともに示した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、ジクロロメタンは、水酸化ナトリウムおよび水酸化カルシウムをアルカリ剤として用いた場合(実施例1、2)は、脱塩率は反応時間10分で約98%となり、pHも7となるのに対し、無添加の場合(比較例1)は、反応時間60分でも脱塩率は10%であり、pHも1.6と非常に低く、反応容器の腐食が認められた。以上の結果より、アルカリ剤の使用が有効であることが分かる。
【0056】
(実施例3)
有機塩素化合物を含む廃油の模擬廃油として、クロロホルム、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン(各試薬特級)をそれぞれ12.00gを100mlメスフラスコに入れ、機械油を加えて全量を100mlとしたもの8.0gを用い、アルカリ剤は水酸化ナトリウムを模擬廃油に含まれる有機塩素化合物量の塩素量の1.2倍等量を10%水溶液として用い、80〜250℃に設定したオイルバスに所定の時間(5〜90分)投入した後取り出し、水槽に投入し急冷して反応を止め、脱塩率を算出した以外は、実施例1と同様に行った。尚反応圧力は、反応温度での飽和水蒸気圧である。
試験結果を図1(図に示す温度でクロロホルムを含む模擬廃油を熱水処理した際のクロロホルムの脱塩率と時間との関係を示すグラフ)、図2(図に示す温度でトリクロロエチレンを含む模擬廃油を熱水処理した際のトリクロロエチレンの脱塩率と時間との関係を示すグラフ)および図3(図に示す温度でテトラクロロエチレンを含む模擬廃油を熱水処理した際のテトラクロロエチレンの脱塩率と時間との関係を示すグラフ)に示す。
【0057】
図1から、クロロホルムは反応温度120℃、反応圧力0.20MPa、反応時間10分で脱塩率が95%以上となることが分かる。
図2から、トリクロロエチレンは反応温度230℃、反応圧力2.80MPa、反応時間10分で脱塩率が95%以上となることが分かる。
図3から、テトラクロロエチレンは反応温度250℃、反応圧力3.98MPa、反応時間30分で脱塩率が95%以上となることが分かる。
【0058】
(実施例4)
実際の有機塩素化合物を含む廃油として表2に示す廃油−1(高沸点溶剤を主として含む合成反応廃油、ジクロロメタン43.6%含有)を用い、反応容器として、内容量100mlの攪拌器付オートクレーブ(オーエムラボテック(株)社製高圧マイクロリアクターMMJ−100)を用いて反応を行った。
廃油−1 30g、水酸化ナトリウム14.78gを溶解した蒸留水30gをオートクレーブに入れ、反応容器空間部の空気をアルゴンガスで置換して反応温度220℃、反応圧力2.32MPaで15分間熱水処理反応を行った後、オートクレーブの反応容器部を水槽に漬けて反応を停止した。本操作を10回行い580gの反応生成物を得た。
反応生成物をビーカーに投入し静置したところ油層と水層に別れ、水層下部には塩化ナトリウムの結晶が沈殿した。
【0059】
上部に浮いている油層を分離したところ154gの脱塩油が得られた。
次に水層に含まれる塩化ナトリウムの結晶をろ過し乾燥して7.6gの塩化ナトリウムを得た。得られた塩化ナトリウムの純度は87%であった。
塩化ナトリウムを除去したろ液から常圧蒸留により23.5gのメタノールを分離した。得られたメタノールには10質量%の水が含まれていた。
メタノールを除去した水層に含まれる反応生成物である蟻酸はナトリウム塩となっているため、塩酸を加えてpH=2に調整し蟻酸にした後、蟻酸および水を蒸留により除去して8.9gの塩化ナトリウムを得た。得られた塩化ナトリウムの純度は92%であった。
得られたメタノール、塩化ナトリウムは工業原料として、充分に利用可能であり、用途に応じ更に精製を行った後使用する。
脱塩油に含まれるジクロロメタン量は3200ppmと非常に少なく、その主成分は高沸点溶剤であることから、A重油に相当するボイラー燃料として利用できる。
蒸留により回収した蟻酸水溶液の蟻酸濃度は約8質量%でありメタン発酵に適する組成物である。
【0060】
(実施例5)
実施例4と同様のオートクレーブを用い、表2に示す廃油−2(防錆油を主として含む金属洗浄廃油、テトラクロロエチレン41.3%含有)20gおよび9.56gの水酸化ナトリウムを溶解した40gの蒸留水をオートクレーブに入れ、反応容器空間部の空気をアルゴンガスで置換して反応温度250℃、反応圧力4.01MPaで30分間熱水処理反応を行った後、オートクレーブの反応容器部を水槽に漬けて反応を停止した。本操作を10回行い585gの反応生成物を得た。
反応生成物をビーカーに投入し静置したところ油層と水層の2層に分かれ、上部の油層を取り出して10.8gの脱塩油を得た。
次に水層に含まれるグリコール酸はナトリウム塩となっているため塩酸を加えpH=2としグリコール酸とした後、水分を蒸留により除去して、グリコール酸と塩化ナトリウム結晶の混合物を得た。
この混合物にイソプロピルアルコールを加え、グリコール酸を溶解し、ろ過により結晶塩化ナトリウムを分離し、乾燥して102gの塩化ナトリウムを得た。塩化ナトリウムの純度は87.4%であった。
塩化ナトリウム結晶を分離したグリコール酸イソプロピルアルコール溶液を蒸留によりイソプロピルアルコールを除去し33gのグリコール酸を得た。グリコール酸の純度は86.9%であった。
【0061】
得られた塩化ナトリウム、グリコール酸は工業原料として充分に利用可能であり、その用途に応じ更に精製を行い使用する。
得られた脱塩油に含まれるテトラクロロエチレン濃度は2200ppmで非常に少なく、脱塩油の主成分は防錆油であるためA重油に相当するボイラー燃料として利用できる。
【0062】
(実施例6)
実施例4と同様のオートクレーブを用い、表2に示す廃油−3(水を主として含む金属洗浄廃油、トリクロロエチレン96.2%含有)20g、21.09gの水酸化ナトリウムを溶解・分散した40gの蒸留水をオートクレーブに入れ、反応容器空間部の空気をアルゴンガスで置換して反応温度250℃、反応圧力4.01MPaで30分間熱水処理反応を行った後、オートクレーブの反応容器部を水槽に漬けて反応を停止した。本操作を10回行い570gの反応生成物を得た。
反応生成物をビーカーに投入したところ、油層は認められず、下部に塩化ナトリウム結晶が堆積している水層のみであった。
水層に含まれる塩化ナトリウム結晶をろ過し乾燥して13.1gの塩化ナトリウムを得た。塩化ナトリウムの純度は85.3%であった。
次に水層に含まれるグリコール酸はナトリウム塩となっているため塩酸を加えpH=2としグリコール酸とした後、蒸留により水分を除去し、グリコール酸と塩化ナトリウムの結晶の混合物を得た。
【0063】
混合物にイソプロピルアルコールを加えてグリコール酸を溶解し、イソプロピルアルコールに溶解しない塩化ナトリウム結晶をろ過し乾燥して8.9gの塩化ナトリウムを得た。塩化ナトリウムの純度は83.7%であった。
塩化ナトリウムを除去したグリコール酸イソプロピルアルコール溶液から蒸留によりイソプロピルアルコールを除去し103gのグリコール酸を得た。グリコール酸の純度は92.5%であった。
得られた塩化ナトリウム、グリコール酸は工業原料として充分に利用可能であり、その用途に応じ更に精製を行い使用する。
【0064】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、有機塩素化合物を含む廃棄物を熱水処理により脱塩素を行って、前記有機塩素化合物をアルコールおよび/または有機酸類と無機塩として回収して利用し、そして、前記有機塩素化合物の除去された残りの廃棄物は燃料として回収して利用するので、
焼却処理すると、発生する塩酸により機器が腐食し損耗が激しく、また有機塩素化合物に含有される塩素によりダイオキシン類が発生するため除去対策を行わなければならず、処理コストが非常に高くなっていた有機塩素化合物を含む廃棄物を、焼却処理することなく、廃棄物に含まれる有機塩素化合物は完全分解することなく、熱水処理により脱塩素を行ってアルコール、有機酸もしくは有機酸の塩などの有機酸類として通常の方法で回収して利用し、生成する無機塩も通常の方法で回収して利用でき、また有機塩素化合物の除去された残りの廃棄物はその性状に応じて、液体燃料、固体燃料として重油、石炭と同様に、ボイラー燃料などとして有効に利用できるなど、有機塩素化合物を含む廃棄物のほんとど全てをそれぞれ有価物として再資源化して利用できるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】クロロホルムを含む模擬廃油を図に示す温度で脱塩素した際のクロロホルムの脱塩率(%)と時間(分)との関係を示すグラフである。
【図2】トリクロロエチレンを含む模擬廃油を図に示す温度で脱塩素した際のトリクロロエチレンの脱塩率(%)と時間(分)との関係を示すグラフである。
【図3】テトラクロロエチレンを含む模擬廃油を図に示す温度で脱塩素した際のテトラクロロエチレンの脱塩率(%)と時間(分)との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素化合物を含む廃棄物を熱水処理により脱塩素を行って、前記有機塩素化合物をアルコールおよび/または有機酸類と無機塩として回収して利用し、そして、前記有機塩素化合物の除去された残りの廃棄物は燃料として回収して利用することを特徴とする有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法。
【請求項2】
熱水処理の反応温度が80〜300℃、反応圧力が前記反応温度での飽和蒸気圧以上15MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法。
【請求項3】
有機塩素化合物を含む廃油の熱水処理を行う際にアルカリ剤を使用することを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法。
【請求項4】
前記アルカリ剤の使用量が廃棄物中に含まれる有機塩素化合物に含まれる塩素量の1.0から2倍当量であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の有機塩素化合物を含む廃油の再資源化方法。
【請求項5】
前記有機塩素化合物がジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素から選択される少なくとも1つの化合物であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の有機塩素化合物を含む廃棄物の再資源化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−327987(P2006−327987A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154072(P2005−154072)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(599023107)近畿環境興産株式会社 (9)
【出願人】(500315541)
【Fターム(参考)】