説明

有機塩素重合体及びその製造方法

【課題】ポロシティが高く可塑剤吸収性に優れた有機塩素重合体を提供すること。
【解決手段】ポロシティが1.0mL/g以上であり、下記一般式(1)で示される構成単位からなる有機塩素重合体とすることで、ポロシティが高く、可塑剤の吸収性が優れた重合体とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素重合体及びその製造方法に関する。より詳しくは、ポロシティが高い有機塩素重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系重合体等に代表される有機塩素重合体は機械的にも物理的にも優れた性質を有する重合体であり、最も重要なプラスチックの一つである。この有機塩素重合体は可塑剤を混ぜることでより軟らかくさせることができる。従って、有機塩素重合体内に微小な空洞であるポア(pore)を発生させ、重合体のポロシティ(porosity)を向上させることができれば、前記可塑剤の吸収性を向上させることができる。
【0003】
そして、この有機塩素重合体の製造方法としては懸濁重合があげられる。懸濁重合は、水と懸濁剤を入れた反応器内に圧力をかけて液化した単量体を入れて高速で攪拌し、重合開始剤を投入することで重合反応させるものである。この懸濁重合は、重合体が単量体に可溶である均一系重合と、重合体が単量体に不溶である不均一系重合とに大別できる。
【0004】
不均一系重合は、重合体が単量体に不溶であるため、重合反応中に粒子の析出が起こることで重合体中にポアを生じ易く、高いポロシティを得ることができる。このため、可塑剤の吸収性等に優れた重合体となる。これに関する技術として、塩化ビニル系重合体等の有機塩素系重合体では、重合反応の操作因子を変更・制御することでポロシティをより向上させる技術等について開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0005】
一方、均一系重合は、別名パール重合(pearl polymerization)といわれるように、重合体は球形粒子として得られることが多いが、重合体が単量体に溶解するため、前記不均一系重合で得られる塩素ビニル系重合体のように高いポロシティを有する重合体を得ることは困難である。そのため、均一系重合においてポロシティや可塑剤吸収性について検討することは困難である。
【0006】
従って、不均一系重合を行うことが困難である単量体でも、不均一系重合により重合させることができれば、前記ポロシティを有し、可塑剤吸収性に優れた重合体や、脱単量体性に優れた重合体を得る等といった新しい特性を付加した重合体を得ることができる。
【0007】
【特許文献1】特開平6−271610号公報。
【特許文献2】特開2000−038405号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、ポロシティが高く可塑剤吸収性に優れた有機塩素重合体を提供すること主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決すべく本願発明者らは鋭意研究を重ねた結果、少なくとも飽和脂肪族炭化水素の存在下で懸濁重合させることでポロシティが高い有機塩素重合体を得られることを見出して、以下の発明を為したものである。
【0010】
まず、本発明は、ポロシティが1.0mL/g以上であり、下記の一般式(3)で示される構成単位からなる有機塩素重合体を提供する。このような構造とすることで、可塑剤吸収性の高い重合体とすることができる。
【0011】
【化3】

【0012】
そして、本発明は、前記一般式(3)のX〜Xのうち、少なくとも1つが水素原子であり、残りは塩素原子である有機塩素重合体を提供する。また、本発明は、下記一般式(4)で示される単量体を、水性媒体中、重合開始剤と懸濁剤と飽和脂肪族炭化水素の存在下で、懸濁重合する有機塩素重合体の製造方法を提供する。このような製造方法とすることで、ポロシティの高い有機塩素重合体を得ることができる。
【0013】
【化4】

【0014】
そして、本発明は、前記飽和脂肪族炭化水素は、前記一般式(4)で示される単量体100質量部に対して25〜100質量部用いる有機塩素重合体の製造方法を提供する。これにより、有機塩素重合体のポロシティをより向上させることができる。
【0015】
更に、本発明は、前記飽和脂肪族炭化水素が、炭素数6〜10の飽和脂肪族炭化水素の少なくとも一種である有機塩素重合体の製造方法を提供する。飽和脂肪族炭化水素の炭素数を6〜10とすることで、有機塩素重合体のポロシティを更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポロシティが高く、可塑剤吸収性に優れた有機塩素重合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、以下に示す各実施の形態は本発明に係わる代表例にすぎず、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
本発明の有機塩素重合体は、前記一般式(4)で示される単量体を、水性媒体中で、重合開始剤と懸濁剤と飽和脂肪族炭化水素の存在下、懸濁重合させることで得ることができる。
【0019】
本発明において、一般式(4)で示される単量体は、特に限定されず、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン等を用いることができる。そして、前記単量体の立体構造についても特に限定されない。また、これら単量体は、単独でも用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
重合開始剤の種類は、特に限定されず、例えば、塩化ビニル系単量体の重合開始剤としては従来公知のものを用いることができ、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート類や、ラウロイルパーオキサイド等のパーオキサイド類や、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等を用いることができる。そして、これら重合開始剤は、単量体の種類等を考慮して適宜選択でき、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、使用量についても特に限定されず、従来公知の範囲で使用できる。
【0021】
水性媒体の種類は、特に限定されず、例えば、イオン交換水、蒸留水、限外ろ過膜(UF)や逆浸透膜(RO)等で処理した水等を用いることができるが、好適には、単量体の重合を阻害する物質(例えば、重合阻害剤等)を含有しない水性媒体であることが望ましい。
【0022】
飽和脂肪族炭化水素の種類は、特に限定されないが、好適には炭素数6〜10の飽和脂肪族炭化水素が望ましい。かかる飽和脂肪族炭化水素を用いることで、重合体のポロシティをより向上させることができる。前記飽和脂肪族炭化水素は、それ自身は反応性を持たず、単量体には可溶であるが、水性媒体や重合体には不溶であるため、重合反応中に粒子の析出が起こる。そのため、塩化ビニル系重合体と同様にポロシティを有する重合体を得ることができる。炭素数が5以下の飽和脂肪族炭化水素では、貧溶媒自体の揮発が起こり易い。また、炭素数が11以上の飽和脂肪族炭化水素では、高沸点となりすぎて重合体の精製操作が煩雑となる。
【0023】
炭素数6〜10の飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等が挙げられ、これら飽和脂肪族炭化水素を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
本発明において、炭素数6〜10の飽和脂肪族炭化水素を用いることにより、ジクロロブタジエンのような重合反応時に重合体が単量体に溶解するポリマーを、析出系ポリマーへと変えることができる。これによって、ポロシティを有するポリマーを得ることができる。
【0025】
そして、前記飽和脂肪族炭化水素の使用量は、得られる重合体のポロシティの程度に応じて適宜決定でき、得られる重合体のポロシティを高くするには飽和脂肪族炭化水素の使用量を多くし、ポロシティを低くするには飽和脂肪族炭化水素の使用量を少なくすればよい。飽和脂肪族炭化水素の使用量は、特に限定されないが、前記一般式(4)で示される単量体100質量部に対して、好適には25質量部以上、より好適には25〜100質量部の割合で添加することが望ましい。
【0026】
懸濁重合の重合温度は、特に限定されないが、好適には、40〜70℃の範囲で行うことが望ましく、これにより重合の遅延を招かずに目的とする有機塩素重合体を効率よく得ることができる点で望ましい。
【0027】
重合装置は特に限定されず、従来公知の反応槽等を用いることができるが、好適には、撹拌機能を備えた槽状反応器であることが望ましい。これにより、重合反応の反応系中の反応物質の接触効率を向上させることができるため、効率よく前記重合反応させることができる。
【実施例】
【0028】
本発明に係る製造方法の効果を検証するために、有機塩素重合体を製造し、これらポロシティや可塑剤吸収性について評価した。なお、以下の説明等において特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準で示す。
【0029】
<ポロシティの測定方法>
ポロシティは、測定装置として自動ポロシメータ((株)島津製作所製、「オートポアIV9500」)を用いて、以下の手順で測定した。試料0.2gを試料セルにとり、秤量した後、前記測定装置にセットした。そして、測定装置内で50μmHg(6.7Pa)まで真空排気処理後、測定した。なお、測定は、最大水銀圧力44500psia(290MPa)、平衡時間10秒の条件で行った。
【0030】
<可塑剤吸収性>
可塑剤吸収性は、JIS K 7386に準拠して、以下の手順で測定した。まず、試料0.2gを遠心管に採取し、秤量した後、4cmのフタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)を遠心管に加えて10分静置した。そして、この遠心管を遠心機にセットし、24500〜29500m/sの加速度で60分間遠心分離を行い、樹脂に吸収された可塑剤量を測定した。
【0031】
有機塩素重合体の単量体としては、一般式(式4)で示される単量体のうち、X,X,X,Xが水素原子、X,Xが塩素原子である、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン(以下、「DC」と略記する)を用いた。
【0032】
<実施例1>
撹拌機を装備したガラス製重合缶に、イオン交換水290質量部、懸濁剤としてポリビニルアルコール(電気化学工業社製、「W−20N」)1.8質量部、飽和脂肪族炭化水素としてヘプタン30質量部を加えて、これを窒素により1時間脱気した。そして、DC70質量部、重合開始剤として過酸化ラウロイル0.5質量部を添加したものを仕込んで、60℃に昇温して重合を開始した。重合開始後3時間で重合を止め、ポロシティ、可塑剤吸収量を上記方法により測定した(DC100質量部あたりのヘプタンの配合量:43質量部)。
【0033】
<実施例2>
DCの配合量を80質量部、ヘプタンの配合量を20質量部とした以外は、実施例1と同様の方法でDC重合体を製造した(DC100質量部あたりのヘプタンの配合量:25質量部)。
【0034】
<実施例3>
DCの配合量を100質量部、ヘプタンの配合量を15質量部とした以外は、実施例1と同様の方法でDC重合体を製造した(DC100質量部あたりのヘプタンの配合量:15質量部)。
【0035】
<実施例4>
DCの配合量を100質量部、ヘプタンの配合量を100質量部とした以外は、実施例1と同様の方法でDC重合体を製造した(DC100質量部あたりのヘプタンの配合量:100質量部)。
【0036】
<実施例5>
飽和脂肪族炭化水素の種類をヘキサンとした以外は、実施例1と同様の方法でDC重合体を製造した(DC100質量部あたりのヘキサンの配合量:43質量部)。
【0037】
<実施例6>
飽和脂肪族炭化水素の種類をオクタンとした以外は、実施例1と同様の方法でDC重合体を製造した(DC100質量部あたりのオクタンの配合量:43質量部)。
【0038】
<実施例7>
飽和脂肪族炭化水素の種類をノナンとした以外は、実施例1と同様の方法でDC重合体を製造した(DC100質量部あたりのノナンの配合量:43質量部)。
【0039】
<実施例8>
飽和脂肪族炭化水素の種類をデカンとした以外は、実施例1と同様の方法でDC重合体を製造した(DC100質量部あたりのデカンの配合量:43質量部)。
【0040】
<比較例1>
DCの配合量を50質量部とし、飽和脂肪族炭化水素を配合せずに、実施例1と同様の操作を経てDC重合体を製造した(DC100質量部あたりの飽和脂肪族炭化水素の配合量:0質量部)。
【0041】
実施例1〜8、比較例1のDC重合体のポロシティ、可塑剤吸収量の測定結果を下記表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
次に、DC以外の単量体も用いた有機塩素重合体を製造し、その物性を評価した。
有機塩素重合体の単量体としては、一般式(式4)で示される単量体のうち、DC以外に、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下、「CP」と略記する)を用いた。
【0044】
<実施例9>
モノマーとして、DC90質量部とCP10質量部を用い、飽和脂肪族炭化水素としてヘプタンをモノマー100質量部に対して25質量部となるように用いた以外は、実施例1と同様の操作を経て有機塩素重合体を製造した。
【0045】
<実施例10>
モノマーとして、DC80質量部とCP20質量部を用い、飽和脂肪族炭化水素としてヘプタンをモノマー100質量部に対して25質量部となるように用いた以外は、実施例1と同様の操作を経て有機塩素重合体を製造した。
【0046】
実施例9,10の有機塩素重合体のポロシティ、可塑剤吸収量の測定結果を下記表2に示す。
【0047】
【表2】



【0048】
<考察>
表1の結果から、DC100質量部あたり25〜100質量部の割合で飽和脂肪族炭化水素を添加した実施例1〜8では、いずれもポロシティが高く、可塑剤吸収量の高いDC重合体が得られることが示された。また、表2の結果から、DC以外のモノマーも用いた実施例9,10においてもポロシティ1.0mg/L以上である有機塩素重合体が得られることが示された。
【0049】
以上より、本発明に係る有機塩素重合体及びその製造方法によれば、ポロシティが高い有機塩素重合体とできることが本実施例によって示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポロシティが1.0mL/g以上であり、下記の一般式(1)で示される構成単位からなる有機塩素重合体。
【化1】

【請求項2】
前記一般式(1)のX〜Xのうち、少なくとも1つは水素原子であり、残りは塩素原子であることを特徴とする請求項1記載の有機塩素重合体。
【請求項3】
下記一般式(2)で示される単量体を、水性媒体中、重合開始剤と懸濁剤と飽和脂肪族炭化水素の存在下で、懸濁重合する有機塩素重合体の製造方法。
【化2】



【請求項4】
前記飽和脂肪族炭化水素は、前記一般式(2)で示される単量体100質量部に対して25〜100質量部用いることを特徴とする請求項3記載の有機塩素重合体の製造方法。
【請求項5】
前記飽和脂肪族炭化水素が、炭素数6〜10の飽和脂肪族炭化水素の少なくとも1種であることを特徴とする請求項3又は4記載の有機塩素重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−195866(P2008−195866A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33747(P2007−33747)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】