説明

有機変性層状ケイ酸塩含有樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 有機変性層状ケイ酸塩を配合し機械的特性等に優れる樹脂組成物及びその簡便且つ効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】 有機変性層状ケイ酸塩を含む樹脂組成物であって、前記有機変性層状ケイ酸塩は、膨潤性層状ケイ酸塩の層間に非イオン性極性有機化合物と両性界面活性剤とを有するものであり、該有機変性層状ケイ酸塩は樹脂組成物中で層剥離あるいは層拡大して微細に分散していることを特徴とする樹脂組成物。本発明の樹脂組成物は、膨潤性層状ケイ酸塩と、非イオン性極性有機化合物と、両性界面活性剤とを、分散媒の非共存下、粉体状態を維持しながら混合することにより、膨潤性層状ケイ酸塩の層間に非イオン性極性有機化合物と両性界面活性剤とが挿入された有機変性層状ケイ酸塩を調製し、有機変性層状ケイ酸塩と熱可塑性樹脂とを、当該熱可塑性樹脂の融点以上の温度で溶融混練して得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその製造方法に関し、特に有機変性層状ケイ酸塩を配合し、軽量性、剛性等の機能性に優れる樹脂組成物及びその簡便且つ効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の物理的強度や耐熱性等の機能を向上させるために、樹脂中に層状ケイ酸塩を分散させたクレー・ポリマーナノコンポジットと称される樹脂組成物(以下、ナノコンポジットと略す)がある。層状ケイ酸塩による樹脂の機能性向上には、層状ケイ酸塩を樹脂中に良好に分散させることが非常に重要であると考えられているが、層状ケイ酸塩は極性が高いため、一般に樹脂との親和性に乏しく、良好に分散させることは難しい。そこで、このような層状ケイ酸塩の樹脂との相溶性、分散性を改善するために、有機変性層状ケイ酸塩が用いられている。
【0003】
前記ナノコンポジットの製造方法は、溶融混練法、重合法に大別できるが、溶融混練法は、重合法に比べて簡便で、組成等において制限が少なく、融通性が高いという点で有利である。
溶融混練法は、有機変性層状ケイ酸塩を、溶融した樹脂と混合し、分散させる方法である(特許文献1等)。
【0004】
有機変性層状ケイ酸塩としては、オニウム塩、特にアンモニウム塩を層間に挿入した有機変性層状ケイ酸塩が用いられており、このような有機変性層状ケイ酸塩は通常液相法で調製される。液相法は、有機変性剤と膨潤性層状ケイ酸塩とを分散媒(通常は水)中で接触させる方法である。アンモニウム塩の対イオンとしては、ハロゲンイオン、特に塩素イオンが最も汎用されているが、それは水に対する溶解性が高く、また安価なためである。
このようなハロゲンイオンを対イオンとするオニウム塩を有機変性剤として用いた場合には、オニウムイオンが層状ケイ酸塩の層間イオンとのイオン交換によって層間に挿入され、交換によりフリーとなった層間イオンやハロゲンを含む塩類が副生する。イオンやハロゲン化物は、これを配合する製品において絶縁性や耐候性を阻害する等、悪影響を及ぼすことがある。
【0005】
従って、ナノコンポジット材料への使用に際しては、水で繰り返し洗浄して副生したイオンや塩類を除去する洗浄工程が一般的に行われているが、これがコストや生産性を著しく悪化させていた。また、除去される塩のコストは原料コストに含まれるので、割高で無駄があった。さらに、洗浄排水が大量に排出され、環境負荷も大きかった。対イオンとして酢酸イオン等の有機性アニオンを含むオニウム塩も市販されているが、これらはコスト的に割高であり、また、副生した塩類の製品への影響も依然懸念される。
【0006】
溶融混練法の改良として、熱可塑性樹脂と、層状ケイ酸塩および必要なら有機変性剤の水スラリーを二軸押出機中で一気に混練するクレースラリー注入法もあるが、これは有機変性層状ケイ酸塩の調製工程を省略できるメリットはあるものの、混練装置として特殊なものが必要であり、生産性が低い。また、溶融混練時に水が存在するため、有機変性層状ケイ酸塩と熱可塑性樹脂との相溶性を改良するための酸変性樹脂を添加することができず、実用的な高い機械的特性をもった樹脂組成物を得ることが難しい。さらに、樹脂中から水分を完全に除去することが難しく、親水性の層状ケイ酸塩の周りに水が残りやすいため、疎水的な樹脂との相溶性が悪くなり、性能が発揮されないという問題があった。
【特許文献1】特開平9−217012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記背景技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、有機変性層状ケイ酸塩を配合し機械的特性等に優れる樹脂組成物及びその簡便且つ効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、膨潤性層状ケイ酸塩と非イオン性極性有機化合物とを混合して膨潤性層状ケイ酸塩の層間に非イオン性極性有機化合物を吸着させた有機変性層状ケイ酸塩が、熱可塑性樹脂中に微細に分散可能であり、少量の添加でも樹脂の剛性を改良でき、特にその耐衝撃性を著しく向上できることを見出した(特願2003−167528号)。そして、用途によっては機械的特性の更なる改善が望まれていたところ、本発明者らが検討を進めた結果、有機変性剤として非イオン性極性有機化合物とともに両性界面活性剤を膨潤性層状ケイ酸塩と混合すると、該非イオン性極性有機化合物および両性界面活性剤が層状ケイ酸塩の層間に効率的に挿入され、簡便に高品質・高性能の有機変性層状ケイ酸塩を得ることができること、この有機変性層状ケイ酸塩を溶融混練法に用いれば、有機変性剤が非イオン性極性有機化合物単独の場合に比べて剛性、特に引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率が改良された熱可塑性樹脂組成物が得られること、ならびにこの有機変性層状ケイ酸塩では不要なイオンやハロゲン化物、塩類などの副生がないため、特に洗浄せずとも樹脂組成物の物性を損なうことがないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかる樹脂組成物は、有機変性層状ケイ酸塩を含む樹脂組成物であって、
前記有機変性層状ケイ酸塩は、膨潤性層状ケイ酸塩の層間に非イオン性極性有機化合物と両性界面活性剤とを有するものであり、
該有機変性層状ケイ酸塩は樹脂組成物中で層剥離あるいは層拡大して微細に分散していることを特徴とする。
本発明において、膨潤性層状ケイ酸塩が合成粘土鉱物であることが好適である。
また、両性界面活性剤が膨潤性層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量(CEC)に対し0.4倍当量以上であることが好適である。
また、両性界面活性剤がベタイン型両性界面活性剤であることが好適である。
【0010】
また、非イオン性極性有機化合物が水溶性の化合物であることが好適であり、さらには、非イオン性極性有機化合物が、105〜300℃の範囲の沸点を有することが好適である。
また、本発明において、樹脂が熱可塑性樹脂であることが好適であり、さらには、樹脂がポリオレフィン樹脂であり、酸変性樹脂を樹脂組成物中0.01〜20重量%含むことが好適である。
また、本発明の樹脂組成物において、さらに金属石鹸を有機変性層状ケイ酸塩に対して3〜20質量%含むことが好適である。
【0011】
本発明にかかる樹脂組成物の製造方法は、膨潤性層状ケイ酸塩の層間に非イオン性極性有機化合物と両性界面活性剤とを有する有機変性層状ケイ酸塩を、樹脂組成物に添加混合して樹脂組成物中に分散させることを特徴とする。
本発明の方法において、膨潤性層状ケイ酸塩と、非イオン性極性有機化合物と、両性界面活性剤とを、分散媒の共存下あるいは非共存下で機械的剪断力により混合することにより、膨潤性層状ケイ酸塩の層間に非イオン性極性有機化合物と両性界面活性剤とが挿入された有機変性層状ケイ酸塩を調製し、
該有機変性層状ケイ酸塩を樹脂組成物に添加混合して樹脂組成物中に分散させることが好適である。
【0012】
また、樹脂が熱可塑性樹脂であり、有機変性層状ケイ酸塩と熱可塑性樹脂とを、当該熱可塑性樹脂の融点以上の温度で溶融混練することが好適である。
また、膨潤性層状ケイ酸塩と、非イオン性極性有機化合物と、両性界面活性剤との混合を、分散媒の非共存下、粉体状態を維持しながら行うことが好適である。
また、本発明の方法において、金属石鹸を有機変性層状ケイ酸塩に対して3〜20質量%混合し、この混合物を樹脂組成物に添加混合して樹脂組成物中に分散させることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機変性剤として非イオン性極性有機化合物とともに両性界面活性剤を膨潤性層状ケイ酸塩の層間に有する有機変性層状ケイ酸塩を用いることにより、非イオン性極性有機化合物のみを有機変性剤として層間に有する有機変性層状ケイ酸塩を用いた場合よりも、樹脂組成物の剛性を向上することができる。
このような有機変性層状ケイ酸塩は、多量の分散媒を用いずとも膨潤性層状ケイ酸塩と有機変性剤との単純な混合により得ることができ、固液分離や洗浄工程なしにそのまま樹脂と混合できる。両性界面活性剤は膨潤性層状ケイ酸塩の層間イオンとの交換により結合するが、交換により生じたフリーの層間カチオンは、両性界面活性剤が有するアニオン部によりトラップされるために、層間から溶出しない。また、ハロゲン化物や塩の副生もない。従って、不要なイオンや塩の除去のための洗浄を行わずにそのまま樹脂改質剤として樹脂と混合しても、樹脂組成物の物性を損なうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において用いる有機変性層状ケイ酸塩は、膨潤性層状ケイ酸塩の層間に、有機変性剤として非イオン性極性有機化合物および両性界面活性剤を有する有機変性層状ケイ酸塩である。
膨潤性層状ケイ酸塩としては、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族の粘土鉱物が好適である。これらは天然、合成であるを問わないが、その陽イオン交換能が80meq/100g以上の高純度のものであることが好ましい。合成粘土鉱物は高純度のものを得やすいという点で有利である。合成粘土鉱物としては、合成テトラシリシックマイカ、合成ナトリウムテニオライト等があるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0015】
非イオン性の極性有機化合物において、非イオン性とは、アミノ基、スルホ基等のイオン性基を含まないことを意味し、非イオン性極性有機化合物とは、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、エーテル結合(−O−)、アミド結合(−CONH−)、エステル結合(−COO−)などの極性基を有するものである。従って、オニウムイオン化合物(オニウム塩)は本発明の非イオン性極性有機化合物には包含されない。
【0016】
上記非イオン性極性有機化合物は、基本的に膨潤性層状ケイ酸塩の層間に吸着してその層間を拡大することができるものであれば特に限定さないが、後述する樹脂マトリックスとの溶融混練に用いる場合には、層間結合力を弱めて樹脂中での層剥離を進行し易くし、且つ樹脂中での層状ケイ酸塩の分散性を良好なものとするような化合物が好適である。
非イオン性極性有機化合物として、好ましくは水溶性の化合物である。油溶性の有機化合物では、層間イオンへの配位あるいは層間への吸着が起こりにくい。また、有機層状ケイ酸塩の製造法上、油溶性の有機化合物では、膨潤性層状ケイ酸塩の有機変性の際に、両性界面活性剤との同時処理が困難であり、また同時処理しようとすれば溶媒が必要となり、処理のコストアップが余儀なくされる。
【0017】
非イオン性極性有機化合物として、さらに好ましくは沸点が105〜300℃の水溶性化合物である。有機変性層状ケイ酸塩において、仮に膨潤性層状ケイ酸塩の層間に吸着しきれず表面に吸着した過剰の非イオン性極性有機化合物あると、樹脂組成物の物性低下の原因となる恐れがあるが、沸点が300℃以下であれば、後述する熱可塑性樹脂と溶融混練する際(通常、溶融混練温度は300℃以下である)に表面吸着している非イオン性極性有機化合物は揮発除去可能であり、樹脂物性の低下を抑制することができる。しかし、沸点が低すぎる場合には、膨潤性層状ケイ酸塩との混合の際に揮発してしまうことがあるので、沸点は105℃以上であることが好ましい。従って、非イオン性極性有機化合物は、その沸点が105℃以上で熱可塑性樹脂の溶融温度以下のものを用いることが好適であり、さらに好ましくは105〜300℃、特に好ましくは110〜200℃である。
【0018】
上記非イオン性極性有機化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の2価または3価の多価アルコール;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル;エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート等の多価アルコールアルキルエステル類;ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー等が挙げられる。また、可塑剤や表面改質剤として用いられているものの中からも選択可能である。これらの内、特に好ましくは2価又は3価の多価アルコールである。なお、本発明においては、有機変性剤として1種以上の非イオン性極性有機化合物を用いることができる。
【0019】
もう一つの有機変性剤である両性界面活性剤は、分子内にカチオン性基およびアニオン性基の両方を有する化合物である。このような両性界面活性剤としては、アミノ酸型、ベタイン型、イミダゾリニウム誘導体型等、公知の両性界面活性剤を適用することができるが、好ましくはベタイン型両性界面活性剤である。例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ミリスチン酸アミドプロピルベタイン、パーム核油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシルスルホベタイン等が挙げられる。
なお、本発明においては、これらの両性界面活性剤等のうち、任意の1種以上を用いることができる。
【0020】
本発明の有機変性層状ケイ酸塩は、膨潤性層状ケイ酸塩と、非イオン性の極性有機化合物および両性界面活性剤とを、分散媒の共存下あるいは非共存下で、機械的剪断力により混合することにより得ることができるが、分散媒の非共存下で混合することがより好ましい。分散媒とは、膨潤性層状ケイ酸塩をスラリー状に膨潤、分散させるために用いられる媒体であり、通常は水が広く用いられている。本発明の有機変性層状ケイ酸塩の製造では、有機化反応が速やかに進行することから、層状ケイ酸塩を水等の分散媒に予め膨潤させる必要はない。その結果、反応系は固相(粉末状)を呈し、固液分離工程は不要である。
【0021】
本発明の有機変性層状ケイ酸塩を製造する際には、非イオン性極性有機化合物や両性界面活性剤を極少量の揮発性溶媒に高濃度に溶解して用いることも可能である。揮発性溶媒は、極性有機化合物を高濃度に溶解でき、且つ変性処理のための攪拌中に完全に揮散してしまう溶媒であれば特に限定されない。例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコール、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトン等のケトン、酢酸エチル等のエステル、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。また、水も可能である。なお、本発明においては、有機変性剤の溶液を、膨潤性層状ケイ酸塩の粉体にスプレーして、反応、乾燥(溶媒の揮散)を同時に行うことも可能である。
何れにしても、反応系が固相(粉末状)を呈するように混合条件(攪拌力、添加速度、処理温度等)を適宜調整することが好適である。攪拌力不足などにより反応系が継粉状態やペースト状態になると、未反応相を生じたり、有機変性剤が層間ではなく表面に吸着しやすい。
【0022】
膨潤性層状ケイ酸塩の層間に有機変性剤を挿入する方法としては、有機変性剤と膨潤性層状ケイ酸塩とを水中で接触させる液相法が一般的である。しかし、液相法では、過剰の有機変性剤を加えなければ反応が十分に進行せず、未反応の層状ケイ酸塩が残ったり、過剰の有機変性剤が層状ケイ酸塩表面に付着したりして、有機変性粘土鉱物として所望の性質が発揮されないことがあった。例えば、層状ケイ酸塩の未反応相の存在は、樹脂のような疎水的マトリックス中での均一分散にとって望ましくない。また、層状ケイ酸塩の膨潤により反応系の粘度が非常に高くなるため、通常溶媒として大量の水を必要とする。このため、反応系の濃度を高めることができず、また、反応装置も大掛かりなものとなる。また、製品を得るためには固液分離・乾燥工程が必要である。
また、有機変性剤の蒸気と層状ケイ酸塩とを接触させる気相法も知られているが、気相法は、閉鎖系容器中で蒸気と接触させるために反応が遅く、また、有機変性剤の吸着が層状ケイ酸塩の表層で起こって内部にまで進行しにくいため、液相法と同様に、層状ケイ酸塩の未反応相が残ったり、有機変性剤が層状ケイ酸塩表面にも付着してしまうことがあった。
【0023】
このように、液相法、気相法の何れにおいても生産性が低く、コストが高くなるという問題がある。
本発明においては、上記のように単純な混合操作のみで有機変性剤(非イオン性極性有機化合物、両性界面活性剤)を、層状ケイ酸塩の層間にムラなく、速やかに挿入することができ、未反応相(非イオン性極性有機化合物および両性界面活性剤が挿入されていない層状ケイ酸塩相)を含まないようにすることができる。なお、本発明の有機変性層状ケイ酸塩中に未反応相を含まないことは、後述するように、粉末X線回折において、原料層状ケイ酸塩と同じ層間距離(拡大されていない)を示すピークが検出されないことをもって、確認することができる。
【0024】
本発明の膨潤性層状ケイ酸塩と有機変性剤との反応は、図1のように考えられる。すなわち、膨潤性層状ケイ酸塩2の層間にはNaなどの交換性の層間カチオン4が存在する。両性界面活性剤6はこの層間カチオン4とのカチオン交換反応により層間に結合する。交換によりフリーとなった層間カチオン4は両性界面活性剤の有するCOOなどのアニオン部にCOONaのような塩の形でトラップされる。一方、非イオン性極性有機化合物8は、層間とのある種の吸引的相互作用(層間カチオンや両性界面活性剤への配位や水素結合など)により層間に吸着される。
従って、本発明の有機変性層状ケイ酸塩では余計なイオンや塩類の副生がないので、樹脂組成物にそのまま配合しても樹脂組成物の物性を損なうことがない。
これに対し、図2のように有機変性剤としてアンモニウム塩などのオニウム塩を用いた場合には、アンモニウムイオン10が層間カチオン4と交換して層間に結合すると、交換によりフリーとなった層間カチオン4が溶出し、またアンモニウム塩に含まれていたハロゲンイオン12などのアニオンの存在もある。これらは、樹脂組成物の物性や安定性などに影響を及ぼすので、これらを除去するために繰り返し洗浄を行う必要がある。
【0025】
上記混合に際しては、膨潤性層状ケイ酸塩、非イオン性有機化合物、ならびに両性界面活性剤とを同時に混合してもよいし、何れか一方の有機変性剤を膨潤性層状ケイ酸塩と混合後、他方の有機変性剤をさらに混合してもかまわない。しかし、製造コストを考えると同時に混合することが好ましい。膨潤性層状ケイ酸塩への有機変性剤の添加は、全部を一度に混合してもよいし、少しずつ混合してもよい。
【0026】
上記混合は、剪断力がかかる方式の装置を用いることが望ましく、例えば、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、ジューサーミキサー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
剪断力の程度としては、継粉ができない程度であればよく、通常回転数200〜2000rpmで処理すればよい。
攪拌時間は、反応が十分に行われるよう適宜設定すればよいが、通常1分〜2時間である。
なお、高速攪拌により膨潤性層状ケイ酸塩は自己発熱するが、反応系の温度は100℃以下とすることが好ましい。温度が高くなり過ぎると、原料の変質や、蒸発の恐れがあるためである。
【0027】
膨潤性層状ケイ酸塩に対する非イオン性極性有機化合物、両性界面活性剤の添加量としては、用いる原料の種類や目的とする性能等によって適宜決定することができるが、膨潤性層状ケイ酸塩に対して有機変性剤が少なすぎると膨潤性層状ケイ酸塩の未反応相が生じることがあり、過剰に用いると有機変性剤が膨潤性層状ケイ酸塩の表面に付着したり、液状の有機変性剤の場合にはペースト(ゾル)になってしまうことがある。
本発明において、膨潤性層状ケイ酸塩に対する非イオン性極性有機化合物の添加量は、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。また、両性界面活性剤の添加量は、膨潤性層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量(CEC)に対し0.4倍当量以上、より好ましくは、0.9〜1.2倍当量である。
このようにして得られた有機変性層状ケイ酸塩は、有機変性剤が挿入されたことにより原料の膨潤性層状ケイ酸塩よりも層間距離が拡大している。その層間距離は、好ましくは13オングストローム以上である。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、例えば、上記有機変性層状ケイ酸塩を用い、熱可塑性樹脂の融点以上で熱可塑性樹脂と溶融混練することにより得ることができる。得られた熱可塑性樹脂組成物中、上記有機変性層状ケイ酸塩は微細に分散している。これは、層間に挿入された両性界面活性剤により層間の結合が弱まり、さらに非イオン性極性有機化合物が層状ケイ酸塩の層間を押し広げると共に滑剤として働き、溶融混練時の剪断力により層状ケイ酸塩の単位層レベルでの剥離が進行しているためと考えられる。よって、有機変性層状ケイ酸塩は樹脂組成物中で層間距離が更に拡大して膨潤あるいは層剥離した状態となって分散しており、これにより、樹脂組成物の剛性を改善することができる。
【0029】
溶融混練には、混練能力の高い装置を用いることが望ましく、このような能力を有する装置であれば、特に限定されない。例えば、汎用の二軸押出機、ディスク型押出機、ニーダー等を用いることができるので、特殊な装置を用意する必要はない。
上記熱可塑性樹脂に対する有機変性層状ケイ酸塩の比率は0.1〜200重量%、好ましくは1〜20重量%である。少なすぎると有機変性層状ケイ酸塩の添加効果が十分発揮されず、過剰に配合すると層状ケイ酸塩が十分分散されなかったり、作業性が低下したり、添加に見合った効果が発揮されなかったりすることがある。
【0030】
使用する熱可塑性樹脂としては、熱可塑性を有する高分子化合物であれば限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフェイド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド、塩素化ポリエチレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどを用いることが好適である。これらは単独でもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本発明においては、樹脂組成物と有機変性層状ケイ酸塩との相溶性を向上させるために酸変性樹脂を併用することできる。特に、熱可塑性樹脂としてポリオレフィン樹脂を用いる場合には、酸変性樹脂を用いることが好ましい。本発明の樹脂組成物においては、酸変性樹脂が組成物中0.01〜20重量%とすることが好ましい。
酸変性樹脂とは、ベース樹脂を酸で変性してなる樹脂であり、このようなベース樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン酢酸−アクリル酸エチル共重合樹脂、ポリプロピレンなどである。
【0032】
これらの中でもポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が好適である。酸変性ポリオレフィン樹脂中の主鎖となるポリオレフィンの分子量は、通常10×10〜100×10であることが好ましく、20×10〜80×10であることがより好ましい。これらのポリオレフィン樹脂を変性する酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、およびメタクリル酸などのカルボキシル基を含有する低分子量有機酸、スルホ基を含有する低分子量有機スルホン酸、ホスホン酸などのホスホ基を含有する低分子量有機酸等が挙げられ、これらの1種又は2種以上で変性したものを用いることができる。
酸変性樹脂における酸付加量としては、酸変性樹脂中通常0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜15重量%である。酸変性樹脂の添加により、樹脂組成物と有機変性層状ケイ酸塩の相溶性を高めることができ、分散性をより改善することが可能となる。
【0033】
また、本発明の樹脂組成物においては、有機変性層状ケイ酸塩の分散性を向上し樹脂組成物の機械的特性を改善するために、金属石鹸を有機変性層状ケイ酸塩に対し3〜20重量%の範囲で配合することが好ましい。より好ましくは、5〜15重量%の範囲である。金属石鹸の配合量が少なすぎるとその添加効果が十分発揮されず、一方、金属石鹸の配合量が多すぎる場合には、添加に見合った効果が発揮されず経済性に劣る。
【0034】
上記金属石鹸としては、公知のものを用いることができ、例えば(RCOO)nX(ただし、Rは炭素数10〜40の炭化水素基であり、XはLi、Na、K、Mg、Zn、Ca、Ba又はAlの金属成分であり、nはXのイオン価数に対応して、1、2、又は3である。)で示される化合物が挙げられる。
具体的には、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、および同様のラウリン酸金属塩、ベヘン酸金属塩、モンタン酸金属塩、ヒドロキシステアリン酸金属塩等が挙げられる。上記の中で、性能と入手の簡便さより、とりわけステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ベヘン酸マグネシウム、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸カルシウム等の金属石鹸が好ましい。
金属石鹸は溶融混練時に添加してもよいが、有機変性層状ケイ酸塩と金属石鹸とを予め混合してから、溶融混練に供する方が好ましい。金属石鹸と有機変性層状ケイ酸塩との混合は、両者を均質に出来る物であれば特に限定されず、容器回転型、容器固定型等の公知の混合機により行うことができる。更に好ましくは、有機変性層状ケイ酸塩の微粉砕時に金属石鹸を同時混合することである。この場合には、金属石鹸と有機変性層状ケイ酸塩の粉砕、混合を同時に行うことができ、経済性に有利である。その際には、例えばボールミル、ハンマーミル、ジェットミル等の公知の粉砕機により行うことができる。
【0035】
更に、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、顔料や染料、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、および帯電防止剤等の添加剤を添加することができる。
本発明の有機変性層状ケイ酸塩含有樹脂組成物は、ペレット、フィルム、シート、エンジニアリングプラスティックなど、用途に応じて種々の形態に成形できる。上記樹脂組成物は、その成型品までも包含する概念である。
【0036】
次に、実施例をあげて本発明をさらに説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において有機変性層状ケイ酸塩および熱可塑性樹脂組成物の製造原料、物性の評価方法は以下の通りである。CECは陽イオン交換容量(層状ケイ酸塩100g当たりの陽イオン交換容量)を表す。
I.材料
(層状ケイ酸塩)
合成ナトリウム四ケイ素雲母(CEC:101meq/100g)
合成ナトリウムヘクトライト(CEC: 85meq/100g)
天然モンモリロナイト (CEC:115meq/100g)
【0037】
(非イオン性極性有機化合物)
EG:エチレングリコール(試薬1級:和光純薬製、沸点:197.6℃)
DEG:ジエチレングリコール(試薬1級:和光純薬製、沸点:245℃)
DEGDEE:ジエチレングリコールジエチルエーテル(試薬1級:和光純薬製、沸点:189℃)
PEG1000:ポリエチレングリコール(分子量1000、試薬1級:和光純薬製)
【0038】
(両性界面活性剤)
LD−36:ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(三洋化成工業製 レボンLD−36(40.5%水溶液))
2000HG:ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン(三洋化成工業製 レボン2000HG(30.4%水溶液))
LSB−R:ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシルスルホベタイン(川研ファインケミカル製 ソフタゾリンLSB−R(27.7%水溶液))
【0039】
(熱可塑性樹脂)
PP:メルトインデックス17g/10分、結晶性エチレン・プロピレン共重合体(サンアロマー製 PM870A)
PPMA:メルトインデックス20g/10分、PPベースの無水マレイン酸グラフト重合体(日本ポリオレフィン製 ER320P)
(金属石鹸)
ステアリン酸カルシウム(和光純薬製)
【0040】
II.試験方法
(粉末X線回折)
反応生成物について、粉末X線回折装置(島津製作所製 XRD−6100)により測定を行った。
層状ケイ酸塩の層間に両性界面活性剤或いは極性有機化合物が挿入されると、原料の層状ケイ酸塩に比べてその層間距離が拡大する。従って、反応生成物と原料の回折スペクトルデータを比較し、層間距離の拡大に相当するピークの存在により、挿入を確認することができる。
また、反応生成物の回折スペクトルデータにおいて、原料の層状ケイ酸塩と同じ層間距離を示すピークが存在する場合には、それは両性界面活性剤あるいは非イオン性極性有機化合物が吸着してない層状ケイ酸塩(未反応相)が存在することを示す。
なお、反応生成物の回折スペクトルデータにおいて、吸着した層状ケイ酸塩(反応相)を示すピークと、未吸着の層状ケイ酸塩(未反応相)を示すピークの強度を相対的に比較することにより、両者の存在割合を知ることができる。
【0041】
(灰分)
重量を測定した試料をるつぼに入れ、ガスバーナー上で加熱する。揮発性分解物を排除した後、550℃±25℃に加熱しておいたマッフル炉にるつぼを入れ、炭素質物質がすべて燃焼し恒量になるまで加熱し、冷却した後の残量を測定する。当初の質量に対する残量の比率を算出し、灰分(%)とした。
(透明度)
厚さ1mmに調整した試験片を印刷物の上に置き、印字の見え具合で透明度を調べ、層状ケイ酸塩の分散性を評価した。評価基準は、
◎:はっきりと読める
○:読める
△:不明瞭
×:不透明
で表し、○以上を微分散と評価した。
【0042】
(剛性)
次の項目について、試験を行った。
引張強さ(MPa):JIS K7161,7162
曲げ強さ(MPa):JIS K7171
曲げ弾性率(MPa):JIS K7171
【実施例1】
【0043】
有機変性層状ケイ酸塩の製造
表1の各種層状ケイ酸塩、両性界面活性剤、及び非イオン性極性有機化合物を用い、ジューサーミキサーにより高速攪拌し、反応させた。但し、反応は粉体状を維持出来るよう両性界面活性剤および非イオン性極性有機化合物をそれぞれ何回かに分け添加、乾燥を繰り返し実施した。反応時間はいずれも5分間であった。なお、高速攪拌により層状ケイ酸塩粉体は自己発熱したが、反応系の温度は80℃以下であった。
【0044】
処理マイカ1〜11は、両性界面活性剤と非イオン性極性有機化合物を併用した場合、比較処理マイカ1〜2はそれぞれ両性界面活性剤のみ、非イオン性極性有機化合物のみを用いた場合である。
反応後の有機変性層状ケイ酸塩の外観は何れも粉末状であった。また、表1からわかるように、何れの有機変性層状ケイ酸塩でも未処理の層状ケイ酸塩(原料の層状ケイ酸塩)に比べて層間距離が拡大し、未反応相も検出されなかったことから、有機変性剤(非イオン性極性有機化合物、両性界面活性剤)が層状ケイ酸塩の層間に挿入されたことが理解される。
【0045】
【表1】

【実施例2】
【0046】
樹脂組成物の製造
実施例1で得られた各有機変性層状ケイ酸塩(処理マイカ1〜11、比較処理マイカ1〜2)を用いて、表2の組成で樹脂組成物を製造した。有機変性層状ケイ酸塩および熱可塑性樹脂として上記ポリプロピレン(PP)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPMA)をV−ブレンダーでドライブレンドし、同方向二軸押出機を用いて180〜210℃で溶融混合後、ペレット化した。このペレットを100℃で熱風乾燥し、射出成形して試験片を作製した。試験片は、油圧式射出成形機(型締圧80T)により成形温度200℃、金型温度40℃、射出時間10sec、冷却時間25secの条件下で多目的試験片金型(JIS K7139)を用い、射出成形にて作製し、試験に用いた。
また、比較のために、有機変性層状ケイ酸塩の代わりにタルクを用いた樹脂組成物も同様に調製した。
【0047】
【表2】

【0048】
表3は、膨潤性層状ケイ酸塩が合成Na四ケイ素雲母、非イオン性極性有機化合物がエチレングリコール(EG)、両性界面活性剤がヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン(2000HG)である有機変性層状ケイ酸塩を用いて製造した樹脂組成物の物性評価結果を示している。
表3からわかるように、有機変性剤が非イオン性極性有機化合物のみの有機変性層状ケイ酸塩の場合に比べ、有機変性剤として両性界面活性剤を併用した有機変性層状ケイ酸塩の場合の方が、得られた樹脂組成物の剛性(引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率)が高くなる傾向が認められた。また、有機変性剤が両性界面活性剤のみの場合に比べても透明度や剛性が高かった。このような効果を得るためには、両性界面活性剤が膨潤性層状ケイ酸塩のCECに対して0.4倍当量以上、さらには0.9倍当量以上であることが好適であった。なお、両性界面活性剤を過剰に用いても増量に見合った効果は得られず、かえって耐衝撃性等他の機械的特性に影響を及ぼすことがあるので、両性界面活性剤は1.5倍当量以下、さらには1.2倍当量以下であることが好適である。
【0049】
【表3】

【0050】
表4は、膨潤性層状ケイ酸塩、非イオン性極性有機化合物あるいは両性界面活性剤の種類が異なる有機変性層状ケイ酸塩を用いて製造した樹脂組成物の物性評価結果である。
表4から、何れの組み合わせにおいても、優れた透明性と剛性が得られ、有機変性層状ケイ酸塩の代わりにタルクを用いた場合と比較して、約1/3の灰分量で同程度の剛性を付与することができる。
【0051】
【表4】

【実施例3】
【0052】
金属石鹸の効果
実施例1で得られた処理マイカ3(Na四ケイ素雲母100g/EG20g/2000HG1.1eqで調製した有機変性層状ケイ酸塩)に、金属石鹸(ステアリン酸カルシウム)を有機変性層状ケイ酸塩に対して2、5又は10質量%添加し、均一に混合した。この混合物を実施例2の有機変性層状ケイ酸塩の代わりに使用した以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物を製造した。
結果を表5に示す。表5からわかるように、有機変性層状ケイ酸塩とともに金属石鹸を併用することにより、樹脂組成物の透明度や剛性をさらに高めることができる。このような効果を得るためには、金属石鹸は有機変性層状ケイ酸塩に対して、3〜20質量%であることが好適であった。
【0053】
【表5】

【実施例4】
【0054】
両性界面活性剤による層間カチオンのトラップ
カチオン界面活性剤が層間カチオンとカチオン交換により結合すると、交換した層間カチオンがフリーとなって層間から溶出し、樹脂組成物の絶縁性などの特性に対して悪影響を及ぼすことが懸念される。このようなフリーの層間カチオンは、洗浄を繰り返すことにより、ある程度除去可能であるが、工程が煩雑になり、コストもかかる。
両性界面活性剤が層間カチオンとカチオン交換により結合した場合には、フリーとなった層間カチオンが両性界面活性剤のアニオン部にトラップされて、溶出しないことが期待できる。
そこで、次のような試験により、検証を行った。
【0055】
Na−四珪素雲母50g(CEC=81meq/100g)を1.5Lの蒸留水に添加し、80℃で1時間膨潤させた。得られたスラリーに、
(1)両性界面活性剤(レボン2000HG)1.00倍当量(固形分30%溶液として、51.4g)及びエチレングリコール20g、あるいは
(2)ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド1.00倍当量(31.7g)
を変性剤として添加し、それぞれ80℃で1時間攪拌して反応を行った。その後、室温(26℃)になるまで静置した。その後、得られた反応懸濁液の電気伝導率を東亜DKK(株)社製 WM−22EPにより測定した。
また、比較のために、Na−四珪素雲母を使用しない場合(変性剤のみ)、ならびに変性剤を使用しない場合(雲母のみ)についてもそれぞれ同様に処理し、伝導率を測定した。
結果を表6に示す。
【0056】
(表6)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
変 性 剤
(1) (2)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
雲母+変性剤 2.0mS/cm 3.2mS/cm
変性剤のみ(雲母なし) 1.1mS/cm 0.14mS/cm
雲母のみ(変性剤なし) 1.1mS/cm 1.1mS/cm
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
表6からわかるように、カチオン界面活性剤と雲母との反応液では、カチオン界面活性剤単独、雲母単独の場合に比べて著しく伝導率が高くなり、カチオン交換反応によるNaClの副生が示唆された。
これに対して、両性界面活性剤+EGと雲母との反応液では、その伝導率は(両性界面活性剤+EG)単独の場合と雲母単独の場合との和に近似し、(2)の場合のような伝導率の著しい高値化は認められず、Naイオンがトラップされていることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の樹脂組成物に配合される、膨潤性層状ケイ酸塩の層間に有機変性剤として両性界面活性剤及び非イオン性極性有機化合物を有する有機変性層状ケイ酸塩を示す図である。
【図2】膨潤性層状ケイ酸塩の層間に有機変性剤として有機アンモニウムカチオンを有する有機変性層状ケイ酸塩を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
2 層状ケイ酸塩
4 層間カチオン
6 両性界面活性剤
8 非イオン性極性有機化合物
10 有機アンモニウムカチオン
12 ハロゲンイオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機変性層状ケイ酸塩を含む樹脂組成物であって、
前記有機変性層状ケイ酸塩は、膨潤性層状ケイ酸塩の層間に非イオン性極性有機化合物と両性界面活性剤とを有するものであり、
該有機変性層状ケイ酸塩は樹脂組成物中で層剥離あるいは層拡大して微細に分散していることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂組成物において、膨潤性層状ケイ酸塩が合成粘土鉱物であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の樹脂組成物において、両性界面活性剤が膨潤性層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量(CEC)に対し0.4倍当量以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の樹脂組成物において、両性界面活性剤がベタイン型両性界面活性剤であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の樹脂組成物において、非イオン性極性有機化合物が水溶性の化合物であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5記載の樹脂組成物において、非イオン性極性有機化合物が、105〜300℃の範囲の沸点を有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の樹脂組成物において、樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7記載の樹脂組成物において、樹脂がポリオレフィン樹脂であり、酸変性樹脂を樹脂組成物中0.01〜20重量%含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の樹脂組成物において、さらに金属石鹸を有機変性層状ケイ酸塩に対して3〜20質量%含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項10】
膨潤性層状ケイ酸塩の層間に非イオン性極性有機化合物と両性界面活性剤とを有する有機変性層状ケイ酸塩を、樹脂組成物に添加混合して樹脂組成物中に分散させることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法において、膨潤性層状ケイ酸塩と、非イオン性極性有機化合物と、両性界面活性剤とを、分散媒の共存下あるいは非共存下で機械的剪断力により混合することにより、膨潤性層状ケイ酸塩の層間に非イオン性極性有機化合物と両性界面活性剤とが挿入された有機変性層状ケイ酸塩を調製し、
該有機変性層状ケイ酸塩を樹脂組成物に添加混合して樹脂組成物中に分散させることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11記載の方法において、樹脂が熱可塑性樹脂であり、有機変性層状ケイ酸塩と熱可塑性樹脂とを、当該熱可塑性樹脂の融点以上の温度で溶融混練することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項11記載の方法において、膨潤性層状ケイ酸塩と、非イオン性極性有機化合物と、両性界面活性剤との混合を、分散媒の非共存下、粉体状態を維持しながら行うことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項10〜14の何れかに記載の方法において、金属石鹸を有機変性層状ケイ酸塩に対して3〜20質量%混合し、この混合物を樹脂組成物に添加混合して樹脂組成物中に分散させることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−56932(P2006−56932A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237637(P2004−237637)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】