説明

有機微粒子分散物の製造方法、それにより得られる有機微粒子分散物を用いたインクジェット記録用インク及び塗料

【課題】高分子化合物を含む有機微粒子分散液を、流路内流通時に加熱処理する工程を含む、体積平均粒径(Mv)が10nm以上100nm以下の有機微粒子の分散物の製造方法。
【解決手段】有機微粒子のナノメートルサイズの微細化と単分散性とを実現し、同時に長期分散安定化を可能にする製造方法を提供する。さらには、上記優れた特性を有する有機微粒子分散物を用いた透明で鮮やかな色相を有するインクジェット記録用インク及び塗料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散安定性の良好な有機微粒子分散物の製造方法、それにより得られる有機微粒子分散物を用いたインクジェット記録用インク及び塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料は鮮明な色調と高い着色力とを示し多くの分野で広く使用されている。例えば、塗料、印刷インク、電子写真用トナー、インクジェットインク、カラーフィルタ等をその用途として挙げることができる。その中でも高性能が要求され実用上特に重要な用途として、カラーフィルタおよびインクジェットインクが挙げられる。
【0003】
カラーフィルタについては、液晶表示装置やCCDセンサー、デジタルカメラといった画像関連機器における高画素化を実現するため、近年その薄層化が強く求められている。そしてカラーフィルタを薄くするためには、そこに用いられる顔料の微細化が不可欠である。また、カラーフィルタの高コントラスト化においても、均一で微細な顔料微粒子の開発が求められる。すなわち微細で均一かつ安定な顔料微粒子の開発が画像関連機器の高性能化の鍵をにぎる。
【0004】
他方、インクジェット用インクについては、従来その色材に染料が用いられてきた。しかし染料は耐水性や耐光性が低く、それを改良するために顔料が用いられるようになってきている。そして、印字目的だけでなく、各種の精密部材の製造にインクジェット技術を利用することが試みられている。例えば、上記カラーフィルタの製造をはじめ、リソグラフィー等の従来技術に代替し、設計自由度を高め大幅に生産性を向上させる技術として期待されている。しかし、それに適し、十分に要求に応える顔料微粒子及びそのインクはまだない。
【0005】
そのような背景から、顔料を例えば直径数十ナノメートルにまで微細化しかつ粒径を制御して単分散に近づけることが求められている。このような粒子を一般的なブレイクダウン法(粉砕法)で得ることは難しい。この方法で粒子をナノメートルサイズにまで粉砕するには多大な時間とエネルギーを要し、生産効率が低く、また用いうる物質も限定されてしまうからである。また粉砕法において強すぎるエネルギーをかけた場合には過分散と呼ばれる悪影響、例えば再凝集による増粘などの現象が起こることが知られている。
これに対し、気相中または液相中で粒子成長させるようなビルドアップ法が検討されている。例えばマイクロ化学プロセスにより有機化合物の粒子を得る方法が開示されている。これにより微細な粒子を効率的に得ることができる。
【0006】
ところで、直径数十ナノメートルにまで微細化された粒子は、透明性や着色力などのメリットを有する反面、比表面積の増大により分散安定性が低下する(非特許文献1参照)。これに対し、フラスコ内で重合性化合物と重合開始剤を含む顔料微粒子分散物を加熱して重合反応を行い、ポリマーによってカプセル状に包まれた顔料粒子を形成することが提案されている(特許文献1参照)。しかしこの方法では、重合反応で生成するポリマーの生成量や分子量のばらつきによる性能のばらつきが懸念され、実施例で専ら採用されているラジカル重合の場合は酸素の影響を受けやすい。特にフラスコを用いた方法(バッチ方式と呼ぶ)であるため、大量生産時にはコストアップ要因になることが考えられ、さらに温度を制御することが容易でないため品質ばらつきの要因になりうる。すなわち、分散安定性がよい有機顔料等の有機ナノ微粒子分散液の製造方法について更なる開発が望まれていた。
【0007】
一方マイクロ化学プロセスは流路の厳密な温度制御ができるというメリットを有しており、加熱された流路内に液を通して反応などを行うことが検討されている。例えば特許文献2には、有機顔料のコンディショニングを目的として顔料前駆体をミクロ反応器に導入して加熱処理を行い、色相良好な顔料を得たことが報告されている。しかし、ここでは顔料を有機溶媒懸濁液としてミクロ反応器に送るものであり、水性溶媒に有機顔料微粒子を分散した分散液について体積平均粒径および粒度度分布を維持する分散安定性付与を目的としたものではなく、それらの言及もない。例えば実施例には有機顔料をN−メチルピロリドンに懸濁して180℃に加熱してコンディショニングを行い、平均粒子直径を70nm未満から221nmに増大させる内容が記載されている。つまり、加熱することにより分散安定性が良化することは一般的ではなく、むしろ増粘や粒子の粗大化が起こるため、体積平均粒径の維持には適さない。
【0008】
また、マイクロカプセル壁材料を含む油相液と水溶液とから乳化分散液を調製し、マイクロカプセル化をマイクロリアクターを用いて行う方法が開示されている(特許文献3、4)。しかし、これにより調製されるマイクロカプセルはマイクロメートルサイズであり、また単分散性と安定分散の観点において満足のいくものではなかった。
【0009】
そのほか、ビルドアッププロセスに基づく有機顔料微粒子の製造において、ブロック共重合体を使用する方法、また超臨界および亜臨界状態の流体を利用する方法(特許文献5、6)が知られている。これらマイクロ化学プロセスにより微細な顔料分散液を得ることができているが、いずれも製造条件が極めて限定されており、汎用性に欠ける。
また、有機顔料を溶解させたアルカリ性もしくは酸性の溶液と水性媒体との少なくとも一方に重合性化合物を含有させ、これら両者を混合する工程において前記顔料を微粒子として析出させた後、前記重合性化合物を重合させ、前記顔料微粒子に前記重合性化合物の重合体を固定化する有機顔料分散液の製造方法が開示されている(特許文献7)。このように分散安定性のよい超微粒子分散物を作製することが試みられているが、上述したカラーフィルタやインクジェットインクなどの最先端工業材料としての特性を満足し、さらに安価にかつ安定的に製造する方法は未だ不十分であり更なる開発が望まれる。
【0010】
【特許文献1】特開2004−43776号公報
【特許文献2】特開2002−30230号公報
【特許文献3】特開2002−282678号公報
【特許文献4】特開2002−282679号公報
【特許文献5】特開2006−104448号公報
【特許文献6】特開2006−124556号公報
【特許文献7】特開2007−39643号公報
【非特許文献1】カラーオフィス編「有機顔料ハンドブック」、45頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、有機微粒子のナノメートルサイズの微細化と単分散性とを実現し、同時に長期分散安定化を可能にする製造方法の提供を目的とする。さらには、上記優れた特性を有する有機微粒子分散物を用いた透明で鮮やかな色相を有すインクジェット記録用インク及び塗料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は下記の手段により達成された。
(1)高分子化合物を含む有機微粒子分散液を、流路内流通時に加熱処理する工程を含むことを特徴とする、体積平均粒径(Mv)が10nm以上100nm以下の有機微粒子の分散物の製造方法。
(2)前記有機微粒子分散液が、更に架橋性官能基を有する化合物を含むことを特徴とする(1)に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(3)前記高分子化合物が架橋性官能基を有することを特徴とする(1)または(2)に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(4)前記加熱処理する工程で前記架橋性官能基を反応させ前記高分子化合物及び/又は架橋性官能基を有する化合物を架橋させることを特徴とする(2)または(3)に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(5)アルデヒド基、エポキシ基、及びカルボン酸無水物構造からなる群より選ばれる官能基と、水酸基及びアミノ基からなる群より選ばれる官能基とを、それぞれ少なくとも一つ以上組み合わせて架橋させることを特徴とする(4)に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(6)前記有機微粒子の体積平均粒径(Mv)が10nm以上50nm以下である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(7)前記加熱処理を行う部分の流路の等価直径が0.1mm以上16mm以下であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(8)有機微粒子分散物が水性分散液であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(9)前記高分子化合物が水溶性である(1)〜(8)のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(10)前記加熱処理を、50℃以上100℃以下で行うことを特徴とする(1)〜(9)のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(11)流路内での流通分散液の加熱処理時間が、20秒間以上であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(12)前記高分子化合物を含む有機微粒子分散液が、有機化合物を酸またはアルカリを用いて溶解した溶液と析出溶媒とを、前記高分子化合物の存在下にマイクロリアクター装置の流路内で混合して、前記有機化合物の微粒子を析出形成した分散液であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(13)前記のマイクロリアクター装置を用い、前記微粒子析出工程と、その後に続く流路内、分散液流通時の前記加熱処理工程とを一連の送液下で行うことを特徴とする(12)に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(14)前記マイクロリアクター装置の流路の等価直径を1mm以下とした(12)または(13)に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(15)前記有機微粒子が有機顔料微粒子である(1)〜(14)のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
(16)(1)〜(15)のいずれかの製造方法で得られた水性分散液である有機顔料微粒子分散物を用いて調製された、水性媒体中に前記有機顔料微粒子と前記高分子化合物もしくはその加熱架橋体とを含有するインクジェット記録用インク。
(17)(1)〜(15)のいずれかの製造方法で得られた水性分散液である有機顔料微粒子分散物を用いて調製された、水性媒体中に前記有機顔料微粒子と前記高分子化合物もしくはその加熱架橋体とを含有する塗料。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、ナノメートルサイズにまで微細化され、かつ粒径分布ピークがシャープな有機微粒子を含有し、しかも分散安定性が極めて高い有機微粒子分散物を低コストで効率よく得ることができる。さらには、上記優れた特性を有する有機微粒子分散物を用いて透明で鮮やかな色相を有するインクジェット記録用インク及び塗料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明の製造方法においては、高分子化合物を含む有機微粒子分散液の加熱処理を行うが、この分散液の有機微粒子の濃度は0.02質量%〜20質量%であることが好ましく、0.1質量%〜10質量%の範囲で行うことがより好ましく、0.3〜5.0質量%が特に好ましい。本発明において加熱処理する際に存在させる高分子化合物の濃度は、有機微粒子の粒径維持、分散安定性、分散液の粘度上昇抑制、流通経路中の圧力上昇抑制、流通経路の閉塞防止、および濃縮処理の容易性などの観点で有機微粒子に対して1〜300質量%が好ましく、5〜150質量%がより好ましく、10〜70質量%が特に好ましい。
【0016】
上記加熱処理温度は、高分子化合物、有機微粒子の種類、量などによって異なるが、40℃〜100℃で行うことが好ましく、50〜100℃がより好ましく、60〜95℃が特に好ましい。有機微粒子分散液の加熱処理前の温度は、好ましくは60℃以下、より好ましくは0〜40℃、特に好ましくは10〜40℃とする。これらの温度は通常は、ビルドアップ法でのマイクロリアクター装置内での有機微粒子析出工程の温度を考慮して定めてもよい。具体的には、前記の加熱処理前の温度(T)を加熱処理温度(T)より低い温度とし、両者の温度差(T−T)を20〜90℃とすることが好ましく、30〜90℃とすることがより好ましく、40〜80℃とすることが特に好ましい。
【0017】
本発明の製造方法によれば、その好ましい実施態様として、得られる分散物の粘度上昇を抑制できる(したがって、濃縮が容易になり、インクジェットインクにした際の吐出性能を向上させること等ができる。)、あるいは、経時による粒径変化が抑制でき透明性を維持することができるなどの高い効果が得られる。この要因については、以下のように推定される。
本発明における加熱処理は特定の体積平均粒径の微粒子を含有する分散液において、共存する高分子化合物の存在状態を熱力学的に安定な状態に到達させると考えられる。例えば、微粒子に吸着せずに分散媒体中に浮遊している高分子化合物の量を減らし、微粒子への均一な吸着状態の形成を促進していると推測される。ビルドアップ法で合成した場合やマイクロリアクターを用いて微粒子の形成を瞬時に完了させる方法で合成した場合には、粉砕法のように機械的エネルギーを長時間加える工程がない。そのため、かえって高分子化合物が安定状態に達しない状態になりやすく、粘度上昇や粒径変化が起こりやすくなることが考えられる。これに対し、本発明においては、上述のように加熱処理を施すことで高分子化合物の存在状態の安定化を促すことができる。
【0018】
また、本発明の製造方法においては、その好ましい実施態様として上記高分子化合物として、あるいはこれとは別の架橋性官能基を有する化合物を用いて、これを加熱架橋処理することで分散安定性が非常に高まる。この理由は以下のように推定される。すなわち、微粒子表面にこれら化合物が吸着する際に、その吸着状態を変化させる要因として高分子化合物の親疎水性が重要である。上記高分子化合物に含まれる架橋性官能基は親水性部分であり、粒子表面に均等に配列することでより強固に吸着しうるものと推定される。その状態において架橋処理すれば互いに結合し、特に二官能以上の場合には網目状にネットワークを形成して粒子表面を満遍なく覆うことができる。特に分子量の大きな高分子化合物を用い、その架橋を行った場合には、その立体的反発も分散安定性向上に大きく寄与することから、より上記の均等配列による効果が高いものと考えられる。さらに本発明における有機微粒子はナノメートルサイズと極小であることから、その比表面積が非常に大きい。そのため微粒子上に配列した架橋性官能基を有する化合物は、微粒子間で架橋されるよりは粒子表面上で隣の配列分子と架橋されるほうが熱力学的にも速度論的にも有利となり分散安定化における高い効果を生んでいると推定される。
【0019】
本発明の製造方法において、加熱処理を行う流路の直径はとくに限定されないが、その流路部分の等価直径が0.1mm以上16mm以下であることが好ましく、0.2mm以上10mm以下であることがより好ましい。流路の直径を小さくし流路の器壁の厚みを薄くすることにより熱交換は速くなり、内温をすばやく外温と殆んど同じ温度に昇温できる。また、液全体を均一温度に、一定の時間でむらなく加熱できることが可能になる。一方、単位時間に加熱できる液量が少なくなったり、加熱時間が短すぎたりする場合がある。そのため、目的に応じて適当な直径の流路を選択することが好ましい。熱交換をすばやく行うため細い流路とし、その後に、十分な加熱時間を確保するための太い流路を連結することも可能であり、好ましい実施形態の一つである。
【0020】
上記加熱処理を行う流路部分の流速、流路長も特に限定されず適宜調整することが可能である。ただし、加熱流路部分の流路直径、流路液の流速、流路長の組み合わせとしては、流通液の加熱時間が10秒以上となるようにすることが好ましい。加熱時間が短すぎると所望の効果が得られなくなることがある。加熱時間の上限は特にないが、粒径維持やコストの観点で5時間以下とすることが好ましく、15秒以上3時間以内がより好ましく、20秒以上2.5時間以内が更に好ましく、60秒以上2.5時間以内が特に好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において流路中で有機微粒子分散液の加熱を行う具体的な装置は特に限定されないが、後述するマイクロリアクター(図1〜図8)で有機微粒子分散液を調製し、その出口に加熱用流路としてのチューブを連結する実施態様が挙げられる。これにより微粒子の析出と加熱工程を連続して行わせ、一連の工程とすることが可能であり、コストや操作上の観点からも特に好ましい形態である。有機微粒子分散液の加熱を行う流路を構成する装置の実施態様はこれに限らず、例えば上記図1〜図8に示したようなマイクロリアクターを恒温槽に入れ加熱保温状態とする形態も好ましく用いられる。あるいはマイクロリアクターの流路の一部をヒーターやペルチェ素子などで加熱や冷却が可能であるように加工する方法も好ましく用いられる。これら実施態様は単独で行うことに限らず、加熱の方法に合わせて組み合わせて行ってもよい。なお、前記等価直径の説明や図1〜図8に示したマイクロリアクターの詳細については、有機微粒子分散液の調製に用いる実施態様として後で詳しく述べる。
【0022】
本発明の製造方法で得られる有機微粒子の粒径(本発明において粒径とは粒子の直径をいう。)は動的光散乱法により測定された体積平均粒径(Mv)が10nm以上100nm以下であり、好ましくは50nm以下である。単分散性については、その指標である体積平均粒径(Mv)を個数平均粒径(Mn)で除した値(Mv/Mn)を用い、その値が1.8以下であることが好ましく、1.6以下であることがより好ましく、1.4以下が特に好ましい。本発明の製造方法は、有機微粒子の粒径が小さくなることにより顕在化する分散安定性の問題を解決する手段として優れており、透明性(すなわち小粒径)と分散安定性(経時しても液粘度や粒径が変化しにくい)を両立する分散液を提供する方法として好ましい。
有機微粒子の粒径測定方法としては、顕微鏡法、動的光散乱法、電気抵抗法などを用いることができるが、本発明においては、特に断らない限り、粒径は動的光散乱法による(機器は日機装社製ナノトラックUPA―EX150(商品名))測定値を用いる。なお、分散液ないし分散物における有機微粒子の粒径は特に断らない限り濃度0.2質量%で行った値である。
なお、有機微粒子は、1種もしくは2種以上の有機化合物から構成されていても、有機化合物以外の成分が含まれていてもよい。
【0023】
本発明において「分散物」とは、所定の微粒子を媒体に分散させた組成物をいい、その形態は特に限定されず、液状の組成物(分散液)、ペースト状の組成物、及び固体状の組成物を含む意味に用いる。本発明の製造方法で得られる有機微粒子分散物において、有機微粒子の含有率は特に限定されないが、0.1質量%〜50質量%であることが好ましく、0.5質量%〜25質量%であることがより好ましい。
また、本発明の製造方法で得られる有機微粒子分散物は、上記ナノメートルサイズの有機微粒子及び高分子化合物もしくはその架橋体を水性媒体中に含有することが好ましい。このとき、前記有機微粒子と高分子化合物もしくはその架橋体とは独立に水性媒体中に存在していても、両者が一体となって存在していてもよい。本発明においては、前記有機微粒子に高分子化合物の一部が取り込まれ又は取り込まれずに該高分子化合物もしくはその架橋体が有機微粒子を包み込むようにして一体化し、分散物中に含有されていることが好ましい。上記有機微粒子分散物においては、上記有機微粒子及び高分子化合物以外の成分が含まれていてもよい。なお、これらのことは後述するインクジェット記録用インク又は塗料について同様である。
【0024】
本発明の製造方法においては、有機微粒子を構成する有機化合物種によっては加熱時に結晶型が変化することがある。本発明の製造方法においてはそのような性質もしくはその変化を利用することで得られる分散物の特性等を調整してもよい。
【0025】
本発明の製造方法において、加熱される有機微粒子分散液は高分子化合物を含有する。本発明において高分子化合物とは分子量1000以上で繰り返し構造を有する化合物を表す。繰り返し構造とは特定の部分構造(繰り返し単位)が繰り返し含まれる構造である。例えば原料として重合性化合物を用いて重合反応をさせた場合、原料由来の部分構造が繰り返し含まれる重合物が得られる。上記高分子化合物としては、分散剤の機能を有するものを用いることが好ましい。本発明において用いられる有機微粒子分散液に含まれる高分子化合物は、水溶性であることが好ましい。ここで水溶性であるとは水に対する溶解性が0.1%以上であることをいうが、好ましくは0.2%以上であり、より好ましくは1〜20%である。なお、本発明において「分子量」とは特に断らない限りゲルパーミエーションクロマトグラフィー(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定したポリスチレン換算の質量平均分子量をいう。
【0026】
この高分子化合物として、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール−部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール−部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、スチレン−アクリル酸塩共重合物、スチレン−メタクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、スチレン−イタコン酸塩共重合物、イタコン酸エステル−イタコン酸塩共重合物、ビニルナフタレン−アクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−メタクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−イタコン酸塩共重合物、セルロース誘導体、澱粉誘導体などが挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。
【0027】
この中で好ましくは、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、スチレン−アクリル酸塩共重合物、スチレン−メタクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物である。
なかでも、ポリビニルピロリドンが好ましい。これらの高分子化合物は高分子分散剤として機能する場合もある。それら高分子化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明に用いられる上記高分子化合物は質量平均分子量が1000以上であるが、2000〜500000が好ましく、5000〜100000がより好ましい。
【0028】
本発明の製造方法に用いられる高分子化合物が共重合物である場合、幾つかのセグメントからなるブロック共重合化合物であってもよい。一般に、アクリル系、メタクリル系、ポリオキシエチレン系、ポリオキシアルキレン系、ポリスチレンと他の付加重合系または縮合重合系のブロック共重合体が知られているが、特に、同種、または異種の疎水性ブロックと親水性ブロックの組み合わせからなる両親媒性ポリマーがより好ましい。これら親水性、疎水性ブロックの組み合わせるべき数は限定されないが、少なくとも親水性、疎水性それぞれを1種以上含む。親水性ブロックに含まれる官能基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基、アルキレンオキサイドが挙げられ、これらのいずれかを少なくとも一種類含むものが好ましい。より好ましくは、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基であり、更に好ましくはカルボン酸基、水酸基であり、特に好ましくはカルボン酸基である。これにより分散剤に有機微粒子への吸着サイトの役割と、立体反発及び/または電荷反発による分散安定性を強固にする機能を付与できる。これらブロック共重合化合物は1種以上組み合わせて用いてもよい。本発明においては、重合性化合物とブロック共重合化合物をそれぞれ少なくとも1種以上を合わせ用いることが好ましい。これにより、有機化合物微粒子形成時に更に強固に固定化することが可能であり、分散安定性が格段に向上することが期待できる。
【0029】
本発明の製造方法に用いられる、流路内で流通中に加熱処理する有機微粒子分散液は水性媒体に有機微粒子を分散した水性分散液であることが好ましい。ここで、水性分散液とは水溶性の有機溶剤は含まれていてもよいが、水が少なくとも50体積%以上含まれるものをいう。好ましくは、水が70体積%以上であることがより好ましい。上記有機微粒子分散液として有機溶剤分散物を用いると、これを加熱したときに粒径の増大が起こることがある。
【0030】
本発明において、水性媒体とは、水単独または水に可溶な有機溶媒と水との混合溶媒である。このとき有機溶媒の添加は、有機化合物、または顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、および流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみで不十分な場合などに用いることが好ましい。有機溶媒として例えば、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であることが好ましく、含イオウ系溶媒であることがより好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)であることが特に好ましい。酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒、またはスルホン酸系溶媒であることが好ましく、スルホン酸系溶媒であることがより好ましく、メタンスルホン酸であることが特に好ましい。なお、水性媒体には必要に応じて無機化合物塩や後述する分散剤等を溶解させてもよい。
【0031】
本発明に用いられる有機微粒子分散液を得る方法は特に限定されず、ビルドアップ法や粉砕法を適宜選択することができる。好ましくは、ビルドアップ法により製造されたものであり、分散媒体も特に限定されず液体を適宜選択することが好ましいが水性媒体であることがより好ましい。好ましい分散媒体としては、具体的には水(塩を含んでいてもよい)、アルコール類(メタノール、エタノール、エチレングリコールモノエーテルなど)、エステル類(酢酸エチル、エチレングリコールモノエステルなど)、ケトン類(アセトン、2-ブタノンなど)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなど)、ジメチルスルホキシド、及びそれらの混合物などが挙げられ、水を主成分とする(50体積%以上含有する。)液体であることが特に好ましい。
【0032】
本発明においてビルドアップ法とは、溶媒に溶解(分子分散)した有機化合物または有機化合物前駆体から化学的操作・処理で、別途の粉砕などによる微粒化を必要としない、ナノメートルサイズの有機微粒子を形成する方法をいう。ビルドアップ法については、大別して気相法と液相法とがあるが、本発明においては、液相法によることが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法に用いられる、有機微粒子の原料となる有機化合物は、析出溶媒への溶解性が低く、これらとの混合により液体、または固体として溶解した溶液から分離析出するものが好ましく、固体となり分離するものがより好ましい。
【0034】
本発明の製造方法では、ビルドアップ法で合成される有機微粒子の原料として有機微粒子前駆体モノマーを用いてもよい。すなわち、ビルドアップ法によって有機微粒子前駆体モノマー分散物(モノマーの時点では液体である場合、すなわち乳化物である場合を含む。)を得て、その後の重合操作によって有機微粒子前駆体モノマーを重合してポリマー微粒子に変換する実施態様が挙げられる。この有機微粒子前駆体モノマーの重合工程と後述する重合性化合物を重合するための工程とを逐次あるいは同時に行ってもよい。この方法により有機微粒子を別種のポリマー(重合性化合物の重合体)で被覆処理した微粒子として、例えばコアシェル型の微粒子を得ることができる。
【0035】
次に有機化合物溶液に接触させる析出溶媒(以下、単に「析出溶媒」ともいう。)について説明する。析出溶媒の種類などは、上述の良溶媒、有機化合物の種類などによって決まるものであり、それだけで一義的に定め難い。ただし析出溶媒は良溶媒に溶解させた有機化合物に対する貧溶媒であることが好ましく、その有機化合物の溶解度が0.1以下の溶媒であることが好ましい。良溶媒と析出溶媒との組合せとしては、良溶媒を有機化合物の溶解度が1以上の溶媒として、析出溶媒を有機化合物の溶解度が0.1以下の溶媒とした組み合わせが好ましい(溶解度は飽和溶液中における溶質の濃度をいい、溶液100g中の溶質の量(グラム数)で表す。)。
析出溶媒は良溶媒に少なくとも一部が拡散可能であることが好ましい。本発明において「少なくとも一部が拡散可能」とは、ビーカー内で両液を激しく撹拌し24時間以上静置したときの溶解量が析出溶媒の10質量%以上であることをいう。なお、このとき均一に溶解していることが好ましく、析出物や沈殿物が生じないことが好ましい。本発明の製造方法においては、上述のとおり、良溶媒に対して析出溶媒が10質量%以上均一混合する相溶性を有するが、50質量%以上混合しうる相溶性があることが好ましく、100質量%以上無限に混合しうる相溶性があることがより好ましい。
【0036】
良溶媒と析出溶媒との組み合わせについて、例えば、良溶媒がハロゲン系溶媒のとき、析出溶媒は、炭化水素系溶媒(n−へキサンやトルエンなど)、エステル系溶媒(酢酸エチルなど)が析出溶媒として機能する。析出溶媒としては、良溶媒との組み合わせによるが、水性媒体、アルコール系溶媒、炭化水素系溶媒が好ましく、水性媒体が特に好ましい。析出溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。また、上記有機化合物溶液および析出溶媒は、必要に応じて無機もしくは有機の、塩、酸、またはアルカリ等を含有させていてもよい。
【0037】
析出させる有機微粒子が有機顔料微粒子である場合には、良溶媒として非プロトン性極性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられ、ジメチルスルホキシドが特に好ましい)を用い、析出溶媒として水性媒体を用いることが好ましい。また有機微粒子を構成する有機化合物を溶解させるために、良溶媒にアルカリあるいは酸を添加することが好ましい。酸性で溶解するかアルカリ性で溶解するかは、有機化合物がどちらの条件でより均一に溶解するかで選択することができる。一般に分子内にアルカリ性で解離可能な基を有する有機化合物の場合はアルカリ性を、アルカリ性で解離する基が存在せず、プロトンが付加しやすい窒素原子を分子内に多く有するときは酸性を用いることができる。本製造方法においては可能な限りアルカリを加えて溶解させることが好ましい。
【0038】
有機顔料ないしはそれ以外の有機化合物(以下、これらを総称して「有機化合物」という。)を良溶媒に溶解する方法は限定されないが、アルカリまたは酸を用いることが好ましい。アルカリまたは酸で均一に溶解するとき、そのどちらで溶解するかは対象とする有機化合物がどちらの条件で均一に溶解し易いかで選択することができる。一般に分子内にアルカリで解離可能な基を有するものの場合はアルカリが用いられる。他方、アルカリで解離する基が存在せず、プロトンが付加しやすい窒素原子を分子内に多く有するようなときには、酸が用いられる。例えば、キナクリドン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料はアルカリで、フタロシアニン化合物顔料は酸で溶解することができる。本発明の製造方法においては、有機化合物をアルカリに溶解させて顔料溶液を得ることが好ましい。酸に溶解した場合は、腐食されうる金属製の装置を通常の条件で用いることが困難であるため反応装置に制限があることがある。
【0039】
アルカリで溶解させる場合、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの無機塩基、トリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシド、(NaOCH、KOC)、テトラアルキルアンモニウムメトキシド(テトラメチルアンモニウムメトキシドなど)、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド(テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなど)などの有機塩基を用いることができ、なかでも無機塩基を用いることが好ましい。
【0040】
使用する塩基の量は有機化合物を均一に溶解可能な量であり特に限定されないが、無機塩基の場合、有機化合物に対して1.0〜30モル当量であることが好ましく、2.0〜25モル当量であることがより好ましく、3〜20モル当量であることが特に好ましい。有機塩基の場合は、有機化合物に対して1.0〜100モル当量であることが好ましく、5.0〜100モル当量であることがより好ましく、20〜100モル当量であることが特に好ましい。
【0041】
酸で溶解させる場合に、硫酸、塩酸、燐酸などの無機酸、または酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸を用いることができ、なかでも無機酸であることが好ましく、硫酸であることが特に好ましい。
使用する酸の量は特に限定されないが、塩基に比べて過剰量用いられる場合が多い。無機酸および有機酸の場合を問わず、有機化合物に対して3〜500モル当量であることが好ましく、10〜500モル当量であることがより好ましく、30〜200モル当量であることが特に好ましい。
【0042】
有機化合物溶液と析出溶媒との混合比は、微粒子化する有機化合物の種類、所望の微粒子サイズ等により異なるが、析出溶媒/有機化合物溶液(質量比)は0.01〜100であることが好ましく、0.05〜10であることがより好ましい。
【0043】
有機化合物を均一に溶解した溶液と析出溶媒との混合は、それぞれ長さのある流路に、その同じ長手方向に送りこみ、その流路を通過する間に両液を接触させ有機微粒子を析出させることが好ましい。このとき懸濁液を投入すると粒子サイズが大きくなったり、粒子分布が広い顔料微粒子になったりし、場合によっては流路を閉塞してしまう。本発明において「均一に溶解」とは、可視光線下で観測した場合にほとんど濁りが観測されない溶液であり、1μm以下のミクロフィルターを通して得られる液相の状態、換言すれば1μmのフィルタを通した場合に濾過される物質を液相中に含まない状態と定義する。
【0044】
本発明に用いられる有機微粒子分散液は、有機微粒子を共沈法により析出させて製造したものを用いることが好ましい。本発明において共沈法とは、有機化合物を良溶媒に溶解(分子分散)した溶液と貧溶媒(水性媒体など)とを接触させて有機微粒子を析出させる操作を、分散剤の存在下で行うことと方法と定義される。なお、上記共沈法において分散剤を共存させないとき、その微粒子析出法を再沈法と呼び特に区別していうこともある。再沈法については特開2004−91560号公報、共沈法については特開2003−026972号公報などを参考にすることができる。共沈法は分散液を得た際にインクジェットインクなどの製品への混入が好ましくない成分(例えば顔料を溶解させたDMSOや塩類など)を含むことがあり、用途に応じて適宜精製操作を行うことができる。精製方法は特に限定されず、例えば限外濾過や遠心分離などを用いることができる。また有機微粒子分散液を製品に求められる濃度で得ることが難しい場合は、分散液合成後に濃縮をすることができる。濃縮の方法は特に限定されず、例えば限外濾過、遠心分離、減圧濃縮(エバポレーター)などを使用することができる。
【0045】
本発明の製造方法で用いられる有機微粒子は微粒子化するとサイズ効果の発現が期待される有機化合物からなることが好ましい。特に制限はないが、使用用途から分類すると、機能性有機色素化合物(有機顔料、増感色素、光電変換色素、光記録用色素、画像記録用色素、着色用色素等)、有機電子材料(電荷輸送剤、非線形光学材料など)、医薬関連化合物(医薬、農薬、分析薬、診断薬、栄養補助食品等)等が挙げられ、なかでも電荷輸送剤、有機顔料、光記録用色素、画像記録用色素、着色用色素であることが好ましく、光記録用色素、画像記録用色素、着色用色素などの有機色素化合物であることがより好ましい。構造から分類すると、これら有機化合物は単独分子に限らず、分子構造内に異種または同種の分子結合の繰り返し単位を有するオリゴマー、ポリマーであってもよい。更に、有機−無機、または有機−金属のハイブリッド化合物であってもよい。
また、本発明の製造方法により得られる微粒子は、サイズがそろっているので、溶媒への溶解性が向上し、溶解時の温度を低下し、溶解に必要な時間を短縮することが可能になり、結果として溶解工程において有機化合物が熱分解することを防止することができるので好ましい。
【0046】
本発明の製造方法に用いられる電荷輸送剤の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
【化3】

【0048】
【化4】

【0049】
本発明の製造方法に用いられる光記録用色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
【化5】

【0051】
【化6】

【0052】
本発明に用いられる有機顔料は、色相ないし構造について特に限定されるものではなく、例えば、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、アゾ化合物顔料、インダントロン化合物顔料、インダンスレン化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、キノキサリンジオン化合物顔料、金属錯体アゾ化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ナフトールAS化合物顔料、チオインジゴ化合物顔、イソインドリン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0053】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントバイオレット29等のペリレン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ43、もしくはC.I.ピグメントレッド194等のペリノン化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、もしくはC.I.ピグメントレッド209のキナクリドン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントオレンジ48、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49等のキナクリドンキノン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー147等のアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド168等のアントアントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントバイオレット32、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ62、もしくはC.I.ピグメントレッド185等のベンズイミダゾロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー128)、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントイエロー219、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23等のジスアゾ縮合化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー83、もしくはC.I.ピグメントイエロー188等のジスアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントオレンジ64、もしくはC.I.ピグメントレッド247等のアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダンスレン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー138等のキノフタロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー213等のキノキサリンジオン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー129、もしくはC.I.ピグメントイエロー150等の金属錯体アゾ化合物顔料、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントグリーン37、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー75、もしくはC.I.ピグメントブルー15(15:1、15:6等を含む)等のフタロシアニン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー56、もしくはC.I.ピグメントブルー61等のトリアリールカルボニウム化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット23、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37等のジオキサジン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド177等のアミノアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、もしくはC.I.ピグメントレッド170等のナフトールAS化合物顔料、C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントオレンジ66等のイソインドリン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61等のイソインドリノン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ40、もしくはC.I.ピグメントレッド216等のピラントロン化合物顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31等のイソビオラントロン化合物顔料が挙げられる。
【0054】
なかでも、アンスラキノン化合物顔料、ナフトール化合物顔料、ペリレン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、金属錯体アゾ化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、ナフトロン化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、またはインダンスレン化合物顔料が好ましい。
【0055】
次に、本発明の製造方法に用いられる着色用の有機色素化合物としては、疎水性染料である反応性染料、アゾイック染料、蛍光染料、分散染料、スチレン染料、酸性染料、含金属染料、酸性媒染染料、直接染料、カチオン染料、塩基性染料、硫化染料、油溶性染料等を挙げることができる。
【0056】
本発明の製造方法に用いられる着色用色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化7】

【0057】
本発明においては、有機微粒子が有機顔料微粒子である場合、2種類以上の有機顔料、有機顔料の固溶体、あるいは有機顔料と無機顔料とを組み合わせて用いてもよい。有機微粒子が有機顔料微粒子でない場合、2種類以上の有機化合物、有機化合物と無機化合物を組み合わせて用いてもよい。再沈法ないし共沈法に用いる有機化合物溶液中の有機化合物濃度は特に限定されないが、0.5〜20質量%とすることが好ましく、1.0〜10質量%とすることがより好ましい。
【0058】
本発明の製造方法においては、有機化合物溶液および/または析出溶媒中に分散剤を添加し、両者を混合して有機微粒子を形成させることが好ましい。分散剤は(1)析出した有機微粒子表面に素早く吸着して、微細な有機微粒子を形成し、かつ(2)これらの微粒子が再び凝集することを防ぐ作用を有するものである。
【0059】
本発明の製造方法において加熱される有機微粒子分散液は高分子化合物を含むが、この高分子化合物を粒子析出時に存在させておいて(すなわち有機化合物溶液および/または水性媒体中に添加しておいて)、共沈法の分散剤としての機能を果たさせることも可能である。また粒子析出は低分子分散剤のみで行いそのあとに高分子化合物を添加する方法や、高分子化合物と低分子分散剤を粒子析出時に共存させる方法も可能である。高分子化合物を粒子析出後に添加する場合その方法は適宜選択することができ、そのまま添加しても、水や有機溶媒に溶解して溶液として添加してもよい。
【0060】
低分子分散剤を用いる場合は、アニオン性、カチオン性、両イオン性、ノニオン性もしくは顔料性の分散剤を使用することができ、単独あるいは併用して使用することができる。顔料の分散に用いる分散剤に関しては、「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」(化学情報協会、2001年12月発行)の29〜46頁に詳しく記載されている。
【0061】
アニオン性分散剤(アニオン性界面活性剤)としては、N−アシル−N−アルキルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。なかでも、N−アシル−N−アルキルタウリン塩が好ましい。N−アシル−N−アルキルタウリン塩としては、特開平3−273067号明細書に記載されているものが好ましい。これらアニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
カチオン性分散剤(カチオン性界面活性剤)には、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミンおよびポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリンおよびこれらのカチオン性物質の塩が含まれる。これらカチオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
両イオン性分散剤は、前記アニオン性分散剤が分子内に有するアニオン基部分とカチオン性分散剤が分子内に有するカチオン基部分を共に分子内に有する分散剤である。
【0064】
ノニオン性分散剤(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これらノニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
顔料性分散剤とは、親物質としての有機顔料から誘導され、その親構造を化学修飾することで製造される顔料性分散剤という。例えば、糖含有顔料分散剤、ピペリジル含有顔料分散剤、ナフタレンまたはペリレン誘導顔料分散剤、メチレン基を介して顔料親構造に連結された官能基を有する顔料分散剤、ポリマーで化学修飾された顔料親構造、スルホン酸基を有する顔料分散剤、スルホンアミド基を有する顔料分散剤、エーテル基を有する顔料分散剤、あるいはカルボン酸基、カルボン酸エステル基またはカルボキサミド基を有する顔料分散剤などがある。
【0066】
本発明の製造方法においては、有機微粒子分散液に重合性化合物を含有させ、加熱処理工程で、あるいはその前後でこれを重合反応させ、重合体とすることもできる。この重合体を本発明における加熱処理に用いる有機微粒子分散液中の前記高分子化合物としてもよい。このときの重合方法は特に限定されず、ラジカル重合、縮重合、カチオン重合、アニオン重合などを適宜選択することができるが、重合開始剤を用いるラジカル重合であることが好ましい。ラジカル重合をする際に、重合反応を開始させる手段は特に制限されないが、加熱によることが好ましい。
【0067】
上記重合性化合物として好ましいラジカル重合性化合物としては、水溶性および非水溶性重合性化合物のいずれも用いることができ、C=C結合を有するものが好ましい。具体的には、例えば(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ベンジル等)、スチレン類(例えば、スチレン、o−メチルスチレン等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、N−ビニルアミド類(例えばN−ビニルピロリドンなど)、(メタ)アクリル酸アミド類、ビニルエーテル類(ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル)、(メタ)アクリロニトリル等が使用できる。
【0068】
さらに、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基等のアニオン性基を有する水溶性単量体も用いられ、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、p−ビニル安息香酸などのカルボキシル基を有する単量体、もしくはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。さらには、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシメチルメタクリロイルホスフェート、2−ヒドロキシエチルメタクリロイルホスフェート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリロイルホスフェートも具体例として挙げられる。これらは単独で用いても、互いに併用して用いてもよい。
【0069】
本発明で用いられる重合性化合物として好ましい化合物は、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン類、ビニルエーテル類、N−ビニルアミド類であり、特に好ましくは N−ビニルピロリドンである。
【0070】
本発明で用いられる重合性化合物として、1分子内に重合性基を複数有する化合物を用いてもよい。具体例としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、ジアリルエーテル、ジビニルエーテルなどが挙げられる。
【0071】
重合性化合物の含有量は、有機微粒子の均一分散性および経時安定性(保存安定性)をより一層向上させるために、有機化合物100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜500質量部の範囲であり、特に好ましくは10〜250質量部の範囲である。この量が少なすぎるとポリマー処理後の有機微粒子の分散安定性の向上が見られない場合がある。重合性化合物の他に分散剤を含有させるときの含有量は、両者の総量を上記の範囲とすることが好ましい。
【0072】
重合開始剤としては、重合性化合物を重合させうるものであれば特に限定しないが、水溶性、または油溶性のアゾ重合開始剤、高分子アゾ重合開始剤、過硫酸塩に代表される無機系塩類、過酸化物が好ましくは用いられる。中でも水溶性アゾ重合開始剤、高分子アゾ重合開始剤、無機系塩類がより好ましく、無機系塩類、高分子アゾ重合開始剤が更に好ましく、高分子アゾ重合開始剤が特に好ましい。具体的には、無機系塩類としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化物としては、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキシド、過酸化ベンゾイル(BPO)等を、油溶性アゾ重合開始剤としては、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2‘−アゾビス(4−メトキシー2,4−ジメチルバレロニトリル); V−70(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル);V−65(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、ジメチル2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオネート);V−601(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル);V−59(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、1,1‘−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル);V−40(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド];VF−096(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、1.[(シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド;V−30(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2‘−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド);VAm−110(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2’−アゾ(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド);VAm−111(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)等を、水溶性アゾ重合開始剤としては、2,2‘−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩;VA−044(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩・二水和物;VA−046B(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩;V−50(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]四水和物;VA−057(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2‘−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩;VA−060(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン];VA−061(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕),2,2‘−アゾビス(1−イミノー1−ピロリジノ−2−エチルプロパン)二塩酸塩;VA−067(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド};VA−080(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2‘−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド];VA−086(和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2‘−アゾビス(2−N−ベンジルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−N−(2−ヒドロキシエチル)アミジノプロパン]二塩酸塩等を、高分子アゾ重合開始剤としては、ポリジメチルシロキサンユニット含有高分子アゾ重合開始剤;VPS−0501(ポリシロキサンユニット分子量約5,000)、VPS−1001(ポリシロキサンユニット分子量約10,000)(いずれも和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)、ポリエチレングリコールユニット含有高分子アゾ重合開始剤;VPE−0201(ポリエチレングリコールユニット分子量約2,000)、VPE−0401(ポリエチレングリコールユニット分子量約4,000)、VPE−0601(ポリエチレングリコールユニット分子量約6,000)(いずれも和光純薬工業株式会社製〔商品名〕)等を挙げることができる。例えば、和光純薬工業(株)社のホームページ(www.wako−chem.co.jp)には、各種水溶性アゾ重合開始剤、油溶性アゾ重合開始剤、高分子アゾ重合開始剤が10時間半減期温度とその構造式と共に記載され入手可能である。重合開始剤の使用量は特に限定されないが、全モノマー成分に対して0.1〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%、特に好ましくは2〜10質量%である。
【0073】
共沈法を行う際に、重合性基を有する界面活性剤を用いることで、粒子析出の際の粒径制御機能と、分散安定性を維持するポリマーの原料となる重合性化合物としての機能を兼ねさせることができ、本発明の有機微粒子分散物の製造方法に好ましく用いることができる。例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、(メタ)アクリロイル基などのα,β−エチレン性不飽和基とスルホン酸基またはその塩などのイオン解離可能な基やアルキレンオキシ基などの親水性基を有しているものが挙げられる。これらは一般に乳化重合に用いられ、分子内にラジカル重合可能な不飽和結合を少なくとも1つ以上有するアニオン性、またはノニオン性の界面活性剤である。
本発明の有機微粒子分散物の製造方法において、重合性化合物として重合性界面活性剤を、単独で用いても、異なるものを併用しても、または重合性界面活性剤以外の重合性化合物と共に用いてもよい。好ましい重合性界面活性剤としては、例えば、花王(株)社、三洋化成(株)社、第一工業製薬(株)社、旭電化工業(株)社、日本乳化剤(株)社、日本油脂(株)社等より市販されている各種のものがあり、具体的には「微粒子・粉体の最先端技術、第1章3反応乳化剤を用いる微粒子設計、pp23−31」、2000年(株)シーエムシーに記載されたものなどが挙げられる。
【0074】
重合性界面活性剤の具体例を以下に記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
【化1】

【0076】
【化2】

【0077】
上記重合性界面活性剤を含有させる好ましい量は、上記重合性化合物として述べたのと同様である。
【0078】
本発明の製造方法においては、有機微粒子分散液に含まれる上記高分子化合物として、又はこれとは別に架橋性官能基を有する化合物(これを前記高分子化合物と区別して「低分子化合物」ということがある。)を用い、これを架橋反応させ架橋体とすることが好ましい。このとき架橋反応とは、架橋性官能基を有する低分子化合物及び/又は高分子化合物が分子間で共有結合し、三次元網目構造を形成することを言う。高分子の架橋と分解、架橋剤、架橋構造に関しては数多くの研究がなされており、例えば、「高分子の架橋と分解−環境保全を目指して−」、シーエムシー出版(2004年)に詳しい。
【0079】
架橋反応は大別して、熱によるもの、光によるもの、電子線によるものなどがあるが、本発明はこれらを複合的に用いてもよく、更には単独で用いる場合には、熱によるものが好ましく用いられる。また、触媒の添加やマイクロウェーブ照射などにより架橋反応を促進してもよい。本発明において、架橋反応はラジカル重合反応を併用してもよい。この場合、それぞれの工程順は問わず、または同時に行う方法でもよい。特にラジカル重合が熱により開始される場合は特に好ましく行うことができる。架橋性官能基は低分子化合物及び高分子化合物が共存する場合、いずれに含まれていてもよいが、1分子内に2つ以上含まれるものが好ましい。
【0080】
架橋性官能基を有する化合物の添加量は特に限定されないが、有機微粒子を構成する有機化合物100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、1〜500質量部の範囲であることがより好ましく、10〜250質量部の範囲であることが特に好ましい。
【0081】
本発明に用いられる架橋性官能基は自己架橋反応を起こすものでもよく、架橋性官能基と架橋剤の構造を同一分子内に有していることが好ましい。さらに架橋性官能基は1種単独であっても、2種以上併用してもよい。
【0082】
架橋性官能基を有する化合物(低分子化合物/高分子化合物)は、有機微粒子分散液の調製に用いられる有機化合物を溶解させた溶液に共存させても、有機微粒子を形成した後に有機微粒子分散液に添加してもよいが、前者が好ましい。また、架橋反応は共沈と同時に行ってもよいし、有機微粒子分散液を調製した後に行ってもよい。特に有機微粒子分散液を流路中で加熱することにより、加熱架橋反応を行うことが好ましい。この理由は定かではないが、流路内で加熱処理により架橋性官能基を有する化合物の微粒子への吸着性がより高まり、予想以上の安定性向上が実現できる。
【0083】
熱により架橋反応を行える官能基を有する化合物を、その組み合わせで得られる樹脂としていえば、例えば以下の組み合わせをあげることができる。フェノールとホルムアルデヒドから得られるフェノール樹脂、尿素とメラミン、ホルムアルデヒドの付加縮合で得られるアミノ樹脂、エポキシドとアミン、ルイス酸、カルボン酸、カルボン酸無水物、イソシアネート、ポリメルカプタン、ノボラックのようなポリフェノール、ジシアンジアミドなどと反応させて得られるエポキシ樹脂、無水マレイン酸とエチレングリコール類との重縮合反応で得られる不飽和ポリエステル樹脂、さらにスチレンやメタクリル酸メチルなどのビニルモノマーを混ぜ、ラジカル重合させて得られる架橋・硬化不飽和ポリエステル樹脂、クロロシランやアルコキシシランの加水分解と続く脱水縮合反応により得られるシリコーン樹脂などが挙げられる。これらの官能基を有する低分子または高分子化合物が本発明で好ましく用いられる。
【0084】
本発明において熱によって架橋させる具体的反応は、アルデヒド基、エポキシ基、及びカルボン酸無水物構造のいずれかと、水酸基及びアミノ基のいずれかとの組合せによる架橋反応であることが好ましい。より好ましくは、アルデヒド基と水酸基、もしくはアルデヒド基とアミノ基の組み合わせ、カルボン酸無水物構造と水酸基、もしくはカルボン酸無水物構造とアミノ基の組み合わせの反応が用いられる。特に好ましくは、アルデヒド基と水酸基、カルボン酸無水物構造と水酸基の組み合わせの反応が用いられる。
本発明において、熱によって架橋させる官能基は一分子内に2つ以上含まれていることが好ましい。また、該分子が同一構造の繰り返し単位を有するオリゴマー、またはポリマーであってもよい。さらに、互いに架橋反応するか否かによらず、一分子内に異種の上述の官能基を複数種有していてもよい。
また、これら熱によって架橋させる官能基を有する化合物は、分子内に熱による架橋反応に反応しない種々の官能基を含んでいてもよい。例えば、ハロゲン、エーテル基、エステル基、アミド基、カルボン酸構造等や炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、ニトリル基等が挙げられ、それらは同種、異種に関わらず複数含んでいてもよい。
【0085】
以下に、好適に使用できる化合物具体例を示すが、本発明はそれらに限定されない。
アルデヒド基を有する化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、ヘキサナール、2−エチルヘキサナール、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、シトロネラール、トランス−2−オクテナール、2,4−ヘキサジエナール、シクロヘキサンカルボキサルデヒド、5−ノルボルネン−2−カルボキサルデヒド、3−エトキシメタクロレイン、グリオキサール、グルタリックジアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ハイドロシンナムアルデヒド、トランス−シンナムアルデヒド、4−スチルベンカルボキサルデヒド、ペニルグリオキサール、ベンズアルデヒド、テトラフェニルカルボキサルデヒド、テレフタルジカルボキサルデヒド、4−ビフェニルカルボキサルデヒド、2−ナフトアルデヒド、2,3−ナフタレンジカルボキサルヒデド等が挙げられる。
【0086】
エポキシ基を有する化合物としては、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、グリシドール、アリルグリシジルエーテル、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、シクロペンテンオキシド、シクロヘキサンオキシド、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン、スチレンオキシド、2,3−エポキシプロピルベンゼン、スチルベンオキシド、2−ビフェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0087】
カルボン酸無水物構造を有する化合物としては、ヘキサノイックアンヒドリド、クロトニックアンヒドリド、メタクリリックアンヒドリド、オレイックアンヒドリド、スクシニックアンヒドリド、シクロヘキサンジカルボキシリックアンヒドリド、イタコニックアンヒドリド、ノルボルネンジカルボキシリックアンヒドリド、ジアセチル酒石酸無水物、マレックアンヒドリド、グルタリックアンヒドリド、ジグリコリックアンヒドリド、2,3−ジフェニルマレイックアンヒドリド、ホモフタリックアンヒドリド、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボキシリックジアンヒドリド、1,8−ナフタリックアンヒドリド、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド等が挙げられる。
【0088】
水酸基を有する化合物としては、1−ノナノール、1−オクタデカノール、2−オクタノール、2−ヘキサデカノール、2−メチル−2−ヘキサノール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ピナコール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,10−デカンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、アリルアルコール、2−メチル−3−ブテン−1−オール、4−ヘキセン−1−オール、β−シトロネロール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,6−ヘプタジエン−4−オール、ファルネソール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ノルボルネオール、1,5−デカジンジオール、1−アダマンタンメタノール、3,5−シクロヘキサジエン−1,2−ジオール、グリセロール、ペンタエリスリトール、D−グルコース、シュクロース、フェノール、3,3−(エチレンジオキシ)ジフェノール、カテコール、ピロガロール、フロログルシノール、レゾルシノール、ハイドロキノン、2−ナフトール、1,1‘−ビ−2−ナフトール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ベンジルアルコール、ベンゾピナコール、1,4−ベンゼンジメタノール、3−フェノキシ−1,2−プロパンジオール等を挙げることができる。
【0089】
アミノ基を有する化合物としては、アミルアミン、ウンデシルアミン、1,4−ジアミノプロパン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、オレイルアミン、エタノールアミン、4−アミノ−1−ブタノール、トリエタノールアミン、4,4‘−トリメチレンジピペリジン、4−ヒドロキシピペリジン、ピペラジン、アニリン、2−アミノフェノール、3−アミノチオフェノール、4,4’−エチレンジアニリン、4,4‘−メチレンジアニリン、4−アミノフェノール、3,4−ジアミノトルエン、1,2−フェニレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、フェニルヒドラジン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン、4−アミノベンジルアミン、3,4−ジヒドロキシベンジルアミン等を挙げることができる。
【0090】
光により行う架橋反応は大きく5つに分けられ、その官能基にはそれぞれ特徴的なものが用いられる。
(i)光で直接架橋するタイプでは、桂皮酸エステル基、シンナミリデン基、ベンザルアセトフェノン基、スチルベン基、α−フェニルマレイミド基が挙げられ、効率よく2量化する。
(ii)感光剤が架橋剤として働くタイプでは、ビスアジド基が挙げられ、光照射によりアジド基が分解して高活性なナイトレンを生成する。
(iii)光ラジカル発生を利用するタイプでは、ベンゾインアルキルエーテル型、ベンジルケタール型、α−ヒドロキシアセトフェノン型、α−アミノアセトフェノン型、アシルホスフィンオキシド型などがあり、例えば多官能アクリルモノマーなどを反応させて架橋を行う。
(iv)光酸発生を利用するタイプでは、スルホニウム塩型やヨードニウム塩型のようなイオン性のもの、フェナシルスルホン型、o−ニトロベンジルエステル型、イミノスルホナート型、N−ヒドロキシイミドのスルホン酸エステル型などの非イオン性のものがあり、エポキシ基やビニルエーテル基が反応基として使われる。
(v)光アミン発生を利用するタイプでは、特に光塩基発生剤となるものが挙げられ、Co−アミン錯体、オキシムのカルボン酸エステル、カルバミン酸エステル、4級アンモニウム塩化合物などがあり、発生したアミンと反応する官能基を複数有するモノマーやオリゴマー、高分子を効果的に架橋させる。
【0091】
ところで高分子化合物を架橋させることで機能性の化合物を合成する技術が注目されている。近年、とくに環境保全の観点から種々のリサイクルプロセスへの応用が試みられている(「高分子の架橋と分解−環境保全を目指して−」、249〜298頁、シーエムシー出版)。この社会的要請において、今や生活上欠くことのできない塗料やインクなどの材料のリサイクル性の向上も同様である。すなわち、その生産には様々な水性樹脂が用いられているが、ここにも架橋技術は必須であり(「塗料・インキ・接着剤の水性化技術」、3〜17頁、技術情報協会)、これを更に技術発展させ材料を更に高機能化させるとともに環境にやさしい素材を作り出すことは21世紀の科学の責務である。本実施態様によればこうした要請にも好適に対応することができる。すなわち、その比表面積の大きさから非常に分散安定性の付与が難しいとされるナノサイズ微粒子に、架橋技術を適用し、流路の中で加熱するという簡便なプロセスとすることで予想以上の高い安定化効果を実現できる。その理由は定かではないが、粒子内部への架橋性化合物の取り込まれ具合や粒子表面への吸着が強固に行えているためと考えられる。
【0092】
次に、本発明の製造方法に用いられる好ましいマイクロリアクターについて説明する。
本発明の製造方法に用いられる有機微粒子分散液は、マイクロリアクターを用いて製造したものであることが好ましい。その有機微粒子を析出させる流路の等価直径は1mm以下であることが好ましく、0.01〜0.5mmであることがより好ましい。なお、有機微粒子の析出からその分散液の加熱処理までの一連の工程を連続した流路で行うとき、その両工程における流路の等価直径を異なるものとしてもよく、両工程における流路の等価直径を合わせるようにしてもよい。
【0093】
等価直径(equivalent diameter)は、相当(直)径とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管ないし流路に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a/4a=a、一辺aの正三角形管ではdeq=a/31/2、流路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(例えば、(社)日本機械学会編「機械工学事典」1997年、丸善(株)参照)。
【0094】
有機微粒子を形成するとき、流路内を流れる流体の速度(流速)は、0.1mL〜300L/hrであることが好ましく、0.2mL〜30L/hrであることがより好ましく、0.5mL〜15L/hrであることが更に好ましく、1.0mL〜6L/hrであることが特に好ましい。
【0095】
流路の等価直径が小さくなるにつれ、単位体積あたりの表面積(比表面積)は大きくなるが、流路がマイクロスケールになると比表面積は格段に大きくなり、流路の器壁を通じた熱伝達効率は非常に高くなる。流路を流れる流体中の熱伝達時間(t)は、t=deq/α(α:液の熱拡散率)で表されるので、等価直径が小さくなるほど熱伝達時間は短くなる。すなわち、等価直径が1/10になれば熱伝達時間は1/100になることになり、等価直径がマイクロスケールである場合、熱伝達速度は極めて速い。
【0096】
マイクロリアクターには、具体的にはマイクロメートルサイズの等価直径を有し、長さのある流路からなる混合空間が設けられており、その流路の同じ長手方向に複数の液体を導入し流通させることで、それらの液体を接触させ混合させることができる。マイクロリアクターの詳細については、例えば、W.Ehrfeld,V.Hessel,H.Loewe,“Microreactor”,1Ed(2000)WILEY−VCHなどを参考にすることができる。
【0097】
マイクロリアクターを用いれば、反応の場として大容積のタンク等を用いた従来のバッチ方式や、液滴を噴射し気流中で衝突させるジェットリアクター(米国特許第6,537,364号公報参照)とは異なり、液体同士の反応時間及び温度の精密な制御が可能になる。
またバッチ方式の場合には、特に、反応速度が速い溶液間では混合初期の反応接触面で反応が進行し、さらに溶液間の反応により生成された一次生成物が容器内で引き続き反応を受けてしまう場合があるから、生成物が不均一になったり、混合容器内で生成物の結晶が必要以上に成長して粗大化してしまったりするおそれがある。これに対して、マイクロリアクターによれば、溶液が混合容器内に殆ど滞留することなく連続的に流通するので、溶液間の反応により生成された一次生成物が混合容器内に滞留する間に引き続き反応を受けてしまうことを抑止でき、従来では取り出すことが困難であった純粋な一次生成物を取り出すことも可能になり、また混合容器内での結晶の凝集や粗大化も生じ難くなるという利点がある。
【0098】
スケールアップについていうと、実験的に作製された少量の化学物質を大規模の製造設備により多量に製造する際、バッチ方式によるのでは物質特性等において再現性が得られないことがある。このような不都合もマイクロリアクターによれば解決しうる。すなわち、必要となる製造量に応じてマイクロリアクターを用いた製造ラインを並列化(ナンバリングアップ)することにより、1つのマイクロリアクターにより得られた結果を損なうことなく再現し、効率良くかつ精度良く大量生産を実現しうるという利点がある。
【0099】
マイクロリアクターは通常の方法や材料により作製すればよい。流体制御方式としては形態で分類すると連続流動方式と液滴(液体プラグ)方式とが挙げられ、駆動力で分類すると電気的駆動方式と圧力駆動方式とが挙げられる。
本発明においては、連続流動方式を採用することが好ましい。連続流動式の流体制御においては、マイクロ流路における液体混合空間内を全て液体で満たすことができ好ましい。そして外部に用意したシリンジポンプなどの圧力源によって流体全体を駆動すること(圧力駆動方式)が好ましい。この方法は、デッドボリュームが大きくなるが、比較的簡便なセットアップで制御システムを実現しうることが大きな利点である。
マイクロリアクターの製造方法及び制御方法については、例えば特開2005−307154号公報の段落0035〜0046を参考にすることができる。
【0100】
本発明においてマイクロリアクターのマイクロ流路からなる液体混合空間の長さは特に限定されないが、1mm以上10m以下であることが好ましく、5mm以上10m以下であることがより好ましく、10mm以上5m以下であることが特に好ましい。
本発明に用いられる流路の数は特に限定されず、必要に応じて流路を並列化(ナンバリングアップ)し顔料微粒子分散物の生産量を増大させることができる。
【0101】
本発明の有機微粒子分散液の製造方法に好ましく用いられる反応装置を図1〜図8に示す。尚、本発明がこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0102】
図1−1はY字型流路を有する反応装置10の説明図であり、図1−2はそのI−I線の断面図である。流路の長さ方向に直交する断面の形は使用される微細加工技術により異なるが、台形または矩形に近い形であることが好ましい。また流路幅C・深さHがマイクロメートルサイズであることが好ましい。導入口11及び導入口12からポンプなどにより注入された溶液は導入流路13aまたは導入流路13bを経由して流体合流点13dにて接触し、好ましくは安定な層流を形成して、反応流路13cを流れる。そして層流として流れる間に層流間の界面における分子拡散により互いの液体に含まれる溶質が混合され、反応が進行しうる。拡散の極めて遅い溶質のときは、層流間での拡散混合が起きず、排出口14に達した後に初めて混合する場合もある。注入される2つの液体がフラスコ中で容易に混合するような場合には、流路長Fを長く取れば排出口では液の流れは均一な流れになりうるが、流路長Fが短い時には排出口まで層流が保たれる。注入される2つの溶液がフラスコ中で混合せず層分離する場合は、2つの液体は層流として流れて排出口14に到達しうる。
【0103】
図2−1は片側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置20の説明図であり、図2−2は同装置のIIa−IIa線の断面図であり、図2−3は同装置のIIb−IIb線の断面図である。流路の長さ方向に直交する断面の形は円かそれに近い形であることが好ましい。このとき円筒管の流路直径(D,E)がマイクロメートルサイズであることが好ましい。導入口21及び導入口22からポンプなどにより注入された液体は導入流路23aと導入流路23bを通じて流体合流点23dにて接触し、好ましくは安定な円筒層流を形成して、反応流路23cを流れる。そして円筒層流として流れる間に層流間の界面における分子拡散により互いの層流に含まれる溶質が混合され、反応が進行しうるのは上記図1−1の装置と同じである。円筒管型流路をもつ本装置は、上記図1−1の装置に比べて2液の接触界面を大きく取れること、更に接触界面が装置壁面に接触する部分がないため、固体(結晶)が反応により生成する場合など壁面との接触部分からの結晶成長などがなく、流路を閉塞する可能性が低いのが特徴である。
【0104】
図3−1および図4は、2液の流れが層流のまま出口まで到達する場合、それらを分離できるように図1−1および図2−1の装置に改良を加えたものである。これらの装置を用いると反応と分離が同時にできる。また、最終的に2液が混合してしまって反応が進みすぎたり、結晶が粗大化したりすることを避けることができる。一方の液中に選択的に生成物や結晶が存在する場合には、生成物や結晶を2液が混合してしまう場合に比べて高濃度の状態で得ることができる。また、これらの装置を幾つか連結することにより、抽出操作が効率的に行われるなどのメリットがある。
【0105】
図5に示すマイクロリアクター装置50は、液体A(図中、液体をその流れの方向を示す矢印で示している。このことは液体B,Cについても同様である。)を供給する1本の供給流路51の途中から分岐して液体Aを2つに分割できるようにした2本の分割供給流路51A,51Bと、液体Bを供給する分割していない1本の供給流路52と、溶液Aと溶液Bとの反応を行うマイクロ流路53とが、1つの合流領域54で連通するように形成されるものである。また、これら分割供給流路51A,51B、供給流路52、及びマイクロ流路53は、実質的に同一の平面内で合流領域54の周りに90°の等間隔で配置される。即ち、各流路51A,51B,52、53の中心軸(一点鎖線)は合流領域54において十文字状(交差角度α=90°)に交差する。尚、図5では液体Bに比べて供給量を多くできるよう液体Aの供給流路51のみを分割したが、液体Bの供給流路52も複数に分割してもよい。また、合流領域54の周りに配置する各流路51A,51B,52,53の交差角度αは、90°に限らず適宜設定できる。また、供給流路51、52の分割数は、特に限定されるものではないが、数が多すぎてマイクロリアクター装置50の構造が複雑になるときには、分割数を2〜10とすることが好ましく、2〜5とすることがより好ましい。
【0106】
図6は、図5の平面型のマイクロリアクター装置の別の態様であり、供給流路62の中心軸に対して分割供給流路61A,61Bの中心軸の成す交差角度βは図5の90°よりも小さく45°に形成される。また、分割供給流路61A,61Bの中心軸に対してマイクロ流路63の中心軸の成す交差角度αが135°になるように形成される。
【0107】
図7は、図5の平面型のマイクロリアクター装置の更に別の態様であり、液体Bが流れる供給流路72の中心軸に対して液体Aが流れる分割供給流路71A,71Bの中心軸の成す交差角度βは図5の90°よりも大きく135°に形成される。また、分割供給流路71A,71Bの中心軸に対してマイクロ流路73の中心軸の成す交差角度αが45°になるように形成される。供給流路72、分割供給流路71A,71B、及びマイクロ流路73の互いの交差角度α、βは適宜設定できるが、合流された液体Bと液体Aの全ての液体の厚み方向の断面積の総和をS1とし、マイクロ流路73の径方向の断面積をS2としたときに、S1>S2を満足するように交差角度α、βを設定することが好ましい。これにより、液体A,B同士の接触面積の一層の増大と拡散混合距離の一層の縮小を図ることができるので、より瞬時混合が生じ易くなるからである。
【0108】
図8は、立体型のマイクロリアクター装置の一実施態様であり、マイクロリアクター装置80を構成する3つのパーツを分解して模式的に示した分解斜視図である。本実施態様の立体型のマイクロリアクター装置80は、主として、それぞれが円柱状の形状をした供給ブロック81、合流ブロック82、及び反応ブロック83により構成される。そして、マイクロリアクター装置80を組み立てるには、円柱状をしたこれらのブロック81、82、83を、この順番で互いの側面同士を合わせて円柱状になるようにし、例えばこの状態で各ブロックをボルト・ナット等により一体的に締結する。
供給ブロック81の合流ブロック82に対向する側面84には、2本の環状溝85、86が同芯状に穿設されており、マイクロリアクター装置80を組み立て状態において、2本の環状溝86、85は液体Bと液体Aとがそれぞれ流れるリング状流路を形成する。そして、供給ブロック81の合流ブロック82に対向しない反対側の側面84から外側環状溝86と内側環状溝85に達する貫通孔88、87がそれぞれ形成される。かかる2本の貫通孔88、87のうち、外側の環状溝86に連通する貫通穴88には、液体Aを供給する供給手段(ポンプ及び連結チューブ等)が連結され、内側環状溝85に連通する貫通孔87には、液体Bを供給する供給手段(ポンプ及び連結チューブ等)が連結される。図8では、外側環状溝86に液体Aを流し、内側環状溝85に液体Bを流すようにしたが、逆にしてもよい。
合流ブロック82の反応ブロック83に対向する側面89の中心には円形状の合流部90が形成され、この合流部90から放射状に4本の長尺放射状溝91と4本の短尺放射状溝92が交互に穿設される。これら合流穴90や放射状溝91,92はマイクロリアクター装置80を組み立て状態において、合流領域90となる円形状空間と液体A,Bが流れる放射状流路とを形成する。また、8本の放射状溝91,92のうち、長尺放射状溝91の先端から合流ブロック82の厚み方向にそれぞれ貫通穴95が形成され、これらの貫通穴95は供給ブロック81に形成されている前述の外側環状溝86に連通される。同様に、短尺放射状溝92の先端から合流ブロック82の厚み方向にそれぞれ貫通穴96が形成され、これらの貫通穴96は供給ブロック81に形成されている内側環状溝85に連通される。
【0109】
また、反応ブロック83の中心には、反応ブロック83の厚み方向に合流部90に連通する1本の貫通孔93が形成され、この貫通孔93がマイクロ流路となる。
これにより、液体Aは供給ブロック81の貫通孔88から外側環状溝86を経て合流ブロック82の貫通孔95を通り、長尺放射溝91の供給流路を流れる。その4つの分割流が合流部90に至る。一方、液体Bは供給ブロック81の貫通孔87から内側環状溝85を経て合流ブロック82の貫通孔96を通り短尺放射溝92の供給流路を流れる。その4つの分割流が合流部90に至る。合流部90において液体Aの分割流と液体Bの分割流とがそれぞれの運動エネルギーを有して合流した後、90°流れ方向を変えてマイクロ流路93に流入する。
【0110】
その他、Y字型流路を有する反応装置、円筒管型流路を有する反応装置、またそれらの装置において2液の流れが層流のまま出口まで到達する場合、それらを分離できるように改良を加えた装置などを用いることができる(例えば特開2005−307154号公報の段落0049〜52及び図1〜図4参照)。また、2液の接触角度や接触流路の数を適宜に調節した平面型マイクロリアクターや立体型マイクロリアクターを用いることも好ましい(例えば特開2007−39643号公報の段落0044〜0050参照)。
上記図1〜図8のいずれのデバイスも本発明には好ましく用いることができるが、中でも図5〜図8に示されるデバイスを用いることが好ましく、図8に示されるデバイスを用いることがより好ましい。これにより、特に本発明の製造方法において、重合性化合物の存在下に微粒子を析出させる際の有機顔料溶液と析出媒体との迅速混合性能に優れ、上記重合性化合物を重合させ固定化したときの有機微粒子の分散安定性及び保存安定性が一層高まる。また流路閉塞が抑制ないし防止され、製造安定性が高く、ナンバリングアップ適性に優れていることから、本発明の製造方法に用いられる有機微粒子分散液の調製に特に好ましい。
【0111】
本発明では、高分子化合物を含む有機微粒子(約10nm以上100nm以下のナノメーターオーダーの微粒子)の分散液を予め調製して時間をおいて、あるいは調製したのち連続的に、前記の加熱処理を行う方法をとり得る。さらに有機微粒子分散液を調製後に精製、濃縮などの工程を経る場合には、いずれの段階において本発明の加熱処理を行ってもよく、順序は特に問わない。例えば有機微粒子分散物を、流路内で加熱した後、洗浄工程を経て濃縮する形態、洗浄工程を経た分散液を再度流路内を流通させ加熱しその後濃縮する形態、洗浄工程、濃縮工程の後で再度流路内を流通させ加熱する形態などを取ることができる。操作の簡便性から、流路内で加熱した後洗浄、濃縮する形態が好ましい。
【0112】
上記の有機微粒子分散物を乾燥させることにより有機微粒子固形物とすることができる。乾燥方法は通常の方法によればよく特に限定されないが、例えば、凍結乾燥、減圧留去(エバポレーター)、それらの組み合わせなどの方法で可能である。固形物化したときの有機微粒子中の有機化合物の含有率は特に限定されないが、5質量%〜90質量%であることが好ましく、20質量%〜80質量%であることがより好ましい。有機微粒子に対する一般式(1)で表される化合物または一般式(2)で表される化合物の含有量の好ましい範囲は、先に述べた分散物における範囲と同じである。
【0113】
本発明の有機顔料微粒子及びその分散物はインクジェットインク、塗料、印刷用インキ、トナー、筆記用インキ、フイルム透明塗膜、化粧料、プラスチック着色剤、ゴム着色剤、捺染剤など種々の着色剤として用いることができ、特に優れたインクジェットインク、塗料とすることができる。具体的には、本発明のインクジェット記録用インクないし塗料は、水性媒体中に上記有機微粒子分散物を用いて得られた有機微粒子及び上記高分子化合物を有することが好ましい。さらに詳しくは、上述の本発明の製造方法により得た有機顔料微粒子分散物を遠心分離及び/または限外ろ過により精製し濃縮する。これに、例えば、グリセリン類、グリコール類等の水溶性高沸点有機溶剤を添加する。さらに、必要に応じて、pHや表面張力、粘度を調整する剤、あるいは防腐等のための添加剤を加えることで良好なインクジェットインクないし塗料とすることができる。また、前述した、分離、濃縮、液物性の調整などを適宜に行って高性能カラーフィルタ用の分散物とすることができる。
【実施例】
【0114】
次に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ピグメントイエロー128(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、CROMOPHTAL YELLOW 8GNP〔商品名〕)80g、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)63g、アクアロンKH−10(商品名、第一工業製薬(株)社製)64g、ポリビニルピロリドンK30(商品名、高分子化合物、分子量40,000、東京化成工業(株)社製)20gをジメチルスルホキシド1200mLに室温で溶解し、これをIE液とした。蒸留水をIIE液とした。マイクロリアクター装置として、流路本数(分割数)等を下記のようにした図8の立体型のマイクロリアクター装置を使用した。
【0115】
・供給流路本数(n)・・2種類の反応液それぞれについて3本に分割(合計6本の流路が合流する。なお図8の装置は各4本合計8本流路が合流する装置である。)
・供給流路91、92の幅(W)・・・各400μm
・供給流路91、92の深さ(H)・・・各400μm
・合流領域90の直径(D)・・・800μm
・マイクロ流路93の直径(R)・・・800μm
・マイクロ流路93の長さ(L)・・・10mm
・合流領域90において各供給流路91、92とマイクロ流路93との中心軸同士の交差角度・・・90°
・装置の材質・・・ステンレス(SUS304)
・流路加工法・・・マイクロ放電加工で行い、供給ブロック81、合流ブロック82、反応ブロック83の3つのパーツの封止方法は鏡面研磨による金属面シールで行った。二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクターを用いて接続し、その先にそれぞれIE液とIIE液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。コネクターの出口には長さ10m、内側の等価直径8mmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続した。
【0116】
上記のマイクロリアクター装置を用いコネクターの出口に接続したテフロン(登録商標)チューブ(内側の等価直径8mm)のうちの6m長(出口から1m地点から7m地点)を温度を90℃に保ったオイルバスに浸けた状態で、IE液を40mL/min、IIE液を160mL/minの送液速度にて送り出した。析出したピグメントイエロー128微粒子分散液の温度は23℃であった。またテフロン(登録商標)チューブから出てくる液の温度は85℃〜90℃であった。テフロン(登録商標)チューブの内温は実測していないが、流路径が細いため熱交換が速く流路内の早い段階で90℃に近い温度に達していると考えられる。チューブ出口先端よりピグメントイエロー128の分散液が得られたのでこれを捕集した。液の加熱時間は約90秒と計算される。
【0117】
この液を限外濾過装置(アドバンテック東洋社製、UHP−62K(商品名)、分画分子量5万)により蒸留水を加えてろ液を排除して体積を一定にしながら精製した後、顔料5.0質量%まで濃縮した。顔料5.0質量%分散液の粘度は5.4mPa.s、この液の顔料粒子の体積平均粒径Mvは25.1nmであり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.42であった(顔料粒子の粒径(Mv)及び単分散性(Mv/Mn)は日機装(株)社製のナノトラックUPA−EX150(商品名)にて、蒸留水で顔料濃度0.2質量%に希釈して室温(25℃付近)で測定した。以下の実施例、比較例も同様である)。
続いて、60℃で100時間、さらに240時間加熱経時試験を行ったところ、粘度は5.4mPa.s、5.3mPa.s、Mvは25.2nm、25.2nm、Mv/Mnは1.45、1.46といずれも大きな変化は見られず、沈殿は観測されなかった。
【0118】
(実施例2)
コネクターの出口に接続したテフロン(登録商標)チューブのうちの1m長(出口から4m地点から5m地点)を温度を90℃に保ったオイルバスに浸けた状態とし、その他は実施例1と同様にしてピグメントイエロー128の分散液を得た。テフロン(登録商標)チューブの内温は実測していないが、流路径が細いため熱交換が速く加熱流路内の早い段階で90℃に近い温度に達していると考えられる。液の加熱時間は約15秒と計算される。精製後、顔料5.0質量%に濃縮した分散液の粘度は7.2mPa.s、であった。体積平均粒径Mvは24.8nmであり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.37であった。続いて、60℃で100時間、さらに240時間加熱経時試験を行ったところ、粘度は6.1mPa.s、5.8mPa.s、Mvは25.1nm、26.3nm、Mv/Mnは1.44、1.48と若干の変化が見られた。沈殿は観測されなかった。
【0119】
(比較例1)
実施例1のテフロン(登録商標)チューブの加熱をやめ、その他は実施例1と同様にしてピグメントイエロー128の分散液を得た。精製後、顔料5.0質量%に濃縮した分散液の粘度は11.5mPa.s、体積平均粒径Mvは23.8nmであり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.37であった。続いて、60℃で100時間、240時間加熱経時試験を行ったところ、粘度は8.1mPa.s、7.4mPa.s、Mvは25.2nm、28.2nm、Mv/Mnは 1.41、1.55
と変化した。この結果は実施例1の加熱操作が分散液の分散安定性を向上させていることを示す。沈殿は観測されなかった。
【0120】
(比較例2)
実施例1で加えたポリビニルピロリドン(高分子化合物)を抜き、その他は実施例1と同様にしてピグメントイエロー128の分散液を得た。この液を実施例1と同様の方法で濃縮し、5.0質量%の分散液を得て、60℃で100時間、240時間加熱経時試験を行った結果を表1に記した。この結果は加熱処理しても高分子化合物であるポリビニルピロリドンが含有されていないと分散安定性向上に寄与していないことを示す。
【0121】
(参考例1)
チューブ加熱をしない比較例1の方法で得たピグメントイエロー128の分散液200mlを、温度計を設置した500mlの3つ口フラスコに入れて、外温90℃にて加熱、冷却した。この時内温は室温である23℃から80℃まで12分かけて上昇し、80℃〜82℃の範囲を2分維持し、その後の水冷で18分かけて23℃まで降下した。この液を実施例1と同様の方法で濃縮して5.0質量%の分散液を得て、粘度,Mv,Mv/Mnの加熱経時前後の値を測定した試験結果を表1に記した。この結果は実施例1の流路により加熱する方法が、フラスコで加熱する方法に比べて粒子サイズや単分散性の維持の観点で優れていることを示す。
【0122】
(実施例3)
実施例1で用いたI液の組成を、2,9−ジメチルキナクリドン(クラリアント製、HOSTAPERM PINK E〔商品名〕)80g、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)181g、アクアロンKH−10(商品名、第一工業製薬(株)社製)64g、ポリビニルピロリドンK30(商品名、高分子化合物、分子量40,000、東京化成工業(株)社製)16g、ジメチルスルホキシド1200mLとし、その他は実施例1と同様の方法で分散液を得た。同様に濃縮、加熱経時試験を行った。粘度、Mv,Mv/Mnの値を表1に記載した。
【0123】
(比較例3)
実施例2のテフロン(登録商標)チューブの加熱をやめ、その他は実施例1と同様にして顔料分散液を得た。同様に精製、濃縮、加熱経時試験を行い、粘度、Mv,Mv/Mnの値を表1に記載した。
【0124】
(比較例4)
実施例2で加えたポリビニルピロリドン(高分子化合物)を抜き、その他は実施例1と同様にして顔料分散液を得た。同様に精製、濃縮、加熱経時試験を行い、粘度、Mv,Mv/Mnの値を表1に記載した。
【0125】
(実施例4)
比較例4の方法、すなわち加熱処理を経ない方法で製造した顔料分散液(23℃)をシリンジに入れ、長さ10m、内側の等価直径8mmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続し、テフロン(登録商標)チューブのうちの6m長(出口から1m地点から7m地点)を温度を90℃に保ったオイルバスに浸けた状態で、分散液を2mL/minの送液速度にて送り出しチューブ内を流通させた。テフロン(登録商標)チューブの内温は実測していないが、流路径が細いため熱交換が速く加熱流路内の早い段階で90℃に近い温度に達していると考えられる。液の加熱時間は約150分と計算される。得られた分散液を同様の方法で精製、濃縮、加熱経時試験を行い、粘度、Mv,Mv/Mnの値を表1に記載した。
【0126】
(比較例5)
ピグメントイエロー128(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、CROMOPHTAL YELLOW 8GNP(商品名))20質量%、スチレン−アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体(分子量10000、酸価160)15質量%、グリセリン10質量%、イオン交換水55質量%を混合した。これを0.3mmのジルコニアビーズを体積率で60%充填したビーズミルを用いて 40℃で3時間粉砕し、さらに水で希釈して顔料濃度1質量%のイエロー顔料分散液を得た。この分散液の顔料粒子の平均粒径はMv120nm、Mv/Mn1.80であった。この液を実施例4と同じ方法で、分散液を200mL/minの送液速度にて送り出しチューブ内を流通させ加熱処理した。液の加熱時間は約90秒と計算される。得られた分散液の顔料粒子の粒径はMv145nm、Mv/Mn2.05であった。
【0127】
【表1】

【0128】
(実施例5)
実施例1〜4に記載の5%濃度の分散液それぞれを用い、下記組成になるようインクジェット用インクを調製した。
有機顔料(3.5%)
オルフィンE1010(2.0%)
グリセリン(10%)
水(84.5%)
セイコーエプソン社製PM−D600のインクとして打滴試験を行ったところ目詰まり無く良好な印字を与えた。
【0129】
(実施例6)
実施例1〜4に記載の5%濃度の分散液それぞれを用い、下記比率にて樹脂と混合して塗料を調製した。
有機顔料(5%):ジュリマーET−410(日本純薬株式会社製、30%)=2:1
これをスポイトによりガラス板に滴下、40℃で2時間加熱乾燥したところ、透明で鮮やかな塗布膜を与えた。
【0130】
(実施例7)
例示化合物(I−1)1.0gとポリビニルピロリドンK30(商品名、高分子化合物、分子量40,000、東京化成工業(株)社製)0.5gをテトラヒドロフラン(THF)50mLにアクアロンKH−10(商品名、第一工業製薬(株)社製)1.5gと共に室温で溶解した(IA液)。蒸留水をIIA液とした。これらを0.45μmのミクロフィルター(ザルトリウス社製)を通すことでごみ等の不純物を除いた。実施例4と同様な装置と操作により有機微粒子分散液を得た。初期値と加熱試験後の粒子サイズと単分散性測定の結果を下記表2に示した。
【0131】
(実施例8)
実施例7において、ポリビニルピロリドン0.25gを同量のポリビニルアルコール(低鹸化度、重合度1000)に替え、更に0.1gのテレフタルジアルデヒド(架橋性官能基を有する低分子化合物)を加えた以外は実施例4と同様な装置と操作により有機微粒子分散液を得た。初期値と加熱試験後の粒子サイズと単分散性測定の結果を下記表2に示した。
【0132】
(実施例9〜14)
実施例8の高分子化合物と架橋性化合物の組み合わせを下記表2のように変えて、その他の条件は実施例4と同様にして有機微粒子分散液を得た。
【0133】
【表2】

【0134】
これらの結果から、本発明の製造方法により得た有機微粒子分散物は、いずれも分散安定性及び保存安定性に優れることが分かる。特に、実施例8、および実施例10では、高分子化合物であるポリビニルアルコールの水酸基が架橋性官能基を有する低分子化合物と架橋しており、本発明が優れた効果を示している。さらに、実施例11、および12ではトリエタノールアミン、実施例13、および14では1,5−ペンタンジオールが別の架橋性官能基を有する低分子化合物と架橋しており、本発明が優れた効果を示している。
【0135】
(実施例15)
実施例7において、例示化合物(I−1)に替えて(III−2)を1.0g用い、スチレンとジビニルベンゼン(比率90:10、総量0.5g)、VPE0201(商品名、和光純薬(株)製、0.5g)とポリビニルピロリドンK30(商品名、高分子化合物、分子量40,000、和光純薬(株)製、0.1g)、テレフタルジアルデヒド0.1g、ポリビニルアルコール(低鹸化度、重合度1000)0.2gをテトラヒドロフラン(THF)50mLに室温で溶解した(IB液)。蒸留水をIIB液とした。これらを0.45μmのミクロフィルター(ザルトリウス社製)を通すことでごみ等の不純物を除いた。実施例1と同様な装置と操作により有機微粒子分散液を得た。平均粒径の初期値は42.1nm、60℃100時間後には44.4nm、240時間後には44.8nm、Mv/Mnの初期値は1.47、60℃100時間後には1.45、240時間後には1.45であった。これにより、重合反応と同時に架橋反応を行っても安定な有機微粒子分散物が得られることが分かる。
【0136】
(実施例16〜21)
実施例1、または3の条件を下記表3のように変えて、その他の条件は同様にして有機微粒子分散液を得た。
【0137】
【表3】

【0138】
これらの結果から、本発明の製造方法により得た有機顔料微粒子分散物は、いずれも分散安定性及び保存安定性に優れることが分かる。特に、実施例21ではラジカル重合性化合物をさらに添加し、重合開始剤の存在下で熱処理を行ったが、同様に高い分散、保存安定性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1−1】片側にY字型流路を有する反応装置を模式的に示す平面図である。
【図1−2】図1−1のI−I線の断面図である。
【図2−1】片側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置を模式的に示す縦断面図である。
【図2−2】図2−1のIIa−IIa線の横断面図である。
【図2−3】図2−1のIIb−IIb線の横断面図である。
【図3−1】両側にY字型流路を有する反応装置を模式的に示す平面図である。
【図3−2】図3−1のIII−III線の断面図である。
【図4】両側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置を模式的に示す断面図である
【図5】平面型のマイクロリアクター装置の一実施態様を模式的に示す平断面図である。
【図6】平面型のマイクロリアクター装置の別の実施態様を模式的に示す平断面図である。
【図7】平面型のマイクロリアクター装置のさらに別の実施態様を模式的に示す平断面図である。
【図8】中心衝突型マイクロリアクター装置の一実施態様を模式的に示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0140】
10、20、30、40 反応装置本体
11、12、21、22、31、32、41、42 導入口
13、33 流路
13a、13b、23a、23b、33a、33b、43a、43b 導入流路
13c、23c、33c、43c 反応流路
13d、23d、33d、43d 流体合流点
33e、43e 流体分流点
33f、33g、43f、43g 排出流路
14、24、34、35、44、45 排出口
50、60、70、80 マイクロリアクター装置
51、52、61、62、71、72 溶液の供給流路
51A、61A、71A 分割供給流路
53、63、73 マイクロ流路
54、64、74 合流領域
80 反応装置(マイクロリアクター)
81 供給ブロック
82 合流ブロック
83 反応ブロック
86 外側環状溝
85 内側環状溝
87、88 供給ブロックの貫通孔
90 合流部(合流領域)
91 長尺放射状溝
92 短尺放射状溝
93 反応ブロックの貫通孔(マイクロ流路からなる液体混合空間)
95、96 合流ブロックの貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物を含む有機微粒子分散液を、流路内流通時に加熱処理する工程を含むことを特徴とする、体積平均粒径(Mv)が10nm以上100nm以下の有機微粒子の分散物の製造方法。
【請求項2】
前記有機微粒子分散液が、更に架橋性官能基を有する化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項3】
前記高分子化合物が架橋性官能基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理する工程で前記架橋性官能基を反応させ前記高分子化合物及び/又は架橋性官能基を有する化合物を架橋させることを特徴とする請求項2または3に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項5】
アルデヒド基、エポキシ基、及びカルボン酸無水物構造からなる群より選ばれる官能基と、水酸基及びアミノ基からなる群より選ばれる官能基とを、それぞれ少なくとも一つ以上組み合わせて架橋させることを特徴とする請求項4に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項6】
前記有機微粒子の体積平均粒径(Mv)が10nm以上50nm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理を行う部分の流路の等価直径が0.1mm以上16mm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項8】
有機微粒子分散物が水性分散液であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項9】
前記高分子化合物が水溶性である請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項10】
前記加熱処理を、50℃以上100℃以下で行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項11】
流路内での流通分散液の加熱処理時間が、20秒間以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項12】
前記高分子化合物を含む有機微粒子分散液が、有機化合物を酸またはアルカリを用いて溶解した溶液と析出溶媒とを、前記高分子化合物の存在下にマイクロリアクター装置の流路内で混合して、前記有機化合物の微粒子を析出形成した分散液であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項13】
前記のマイクロリアクター装置を用い、前記微粒子析出工程と、その後に続く流路内、分散液流通時の前記加熱処理工程とを一連の送液下で行うことを特徴とする請求項12に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項14】
前記マイクロリアクター装置の流路の等価直径を1mm以下とした請求項12または13に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項15】
前記有機微粒子が有機顔料微粒子である請求項1〜14のいずれか1項に記載の有機微粒子分散物の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかの製造方法で得られた水性分散液である有機顔料微粒子分散物を用いて調製された、水性媒体中に前記有機顔料微粒子と前記高分子化合物もしくはその加熱架橋体とを含有するインクジェット記録用インク。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれかの製造方法で得られた水性分散液である有機顔料微粒子分散物を用いて調製された、水性媒体中に前記有機顔料微粒子と前記高分子化合物もしくはその加熱架橋体とを含有する塗料。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−132863(P2009−132863A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156356(P2008−156356)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】