説明

有機排液の嫌気性生物処理装置および方法

【課題】嫌気性処理装置の槽内圧の変動を防止して定常運転状態で、嫌気性ガスの大気放散なしに膜ろ過を行うことができ、ガスリフト効果による小動力での高い管内流速の確保と、吸引ポンプを用いた強制的なろ過による膜間差圧の確保を両立でき、高いフラックスを安定して維持する。
【解決手段】
嫌気性処理装置1で有機排液の嫌気性生物処理を行い、膜ろ過装置2の管状ろ過膜エレメント7の下部に嫌気性処理装置1の嫌気性処理液および嫌気性ガスを導入してガスリフトにより上昇させ、ろ過液取出路L4から吸引ポンプP2によりろ過液を吸引して取出すことにより膜ろ過を行う。ろ過液貯留槽5の上部に形成される気相部5bを嫌気性処理装置1の気相部1bに連通させることにより、双方の圧力を均等にし、これにより膜ろ過工程において吸引ポンプP2によりろ過液を吸引しても、嫌気性処理装置1に圧力変動を生じさせることはなく、嫌気性生物処理を定常的に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機排液を嫌気性生物処理し、その処理液を膜ろ過により固液分離する有機排液の嫌気性生物処理装置および方法に関し、特に嫌気性生物処理液を膜ろ過により固液分離する際、ろ過膜の目詰まりを防止して、効率よくろ過水を得る有機排液の嫌気性生物処理装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機物含有排液を嫌気性生物処理する方法は、活性汚泥法のような好気性生物による処理に適しない高濃度または難分解性の有機物含有排液に対して適用されることが多い。このためその処理液はなお比較的高濃度のSS成分を含有している。このようなSS濃度の高い嫌気性処理液を固液分離するために、旧来の沈降分離に替えて、膜ろ過よる固液分離が行われている。
【0003】
図2は特許文献1(特開2000−94000)に代表される従来の嫌気性処理装置および方法を示すフロー図であり、1は嫌気性処理装置、2は膜ろ過装置、3は脱硫装置、4はガスタンクである。嫌気性処理装置1は内部に嫌気性生物汚泥を保持しており、被処理液路L1から有機排液を導入し、嫌気性生物汚泥と混合して嫌気性生物処理する。膜ろ過装置2は、ろ過膜からなるろ過膜モジュール2aを内蔵しており、嫌気性処理液路L2から送られ、還流路L3からポンプP1により還流する嫌気性処理液をろ過膜モジュール2aを通して膜ろ過する。ろ過膜モジュール2aは外圧型であり、ポンプP2で吸引することによりろ過液取出路L4から取出される。
【0004】
嫌気性処理装置1で発生する嫌気性ガスはラインL5から取出され、脱硫装置3で脱硫され、脱硫された嫌気性ガスはラインL6からガスタンク4へ送られる。その脱硫ガスの一部は、ブロアBによりラインL7から膜ろ過装置2の散気装置2bに供給され、ろ過膜モジュール2aの下から散気される。これにより嫌気性処理液に含まれるSS成分がろ過膜モジュール2aに付着して、ろ過膜が目詰まりするのを防止する。散気されたガスはラインL8からラインL6へ循環する。ガスタンク4のガスはラインL9から取出される。
【0005】
特許文献1では、ろ過膜モジュール2aは外圧型であり、ろ過膜の外側から液が透過し、ろ過膜の外側にSS成分が付着する。このときろ過膜モジュール2aの外側に嫌気性ガスを散気すると、ガスの上昇に伴い発生する乱流によって、付着するSS成分を剥離することにより、ろ過膜が目詰まりするのを防止する。しかしながらガスの上昇に伴い発生する乱流による剥離力は小さいので、ろ過膜モジュール2aの洗浄、清掃を頻繁に行う必要があった。
【0006】
特許文献2(特開2002−282657)には、ケーシング内に、ろ過膜を筒状に形成した管状ろ過膜エレメントを配置し、エレメント内に圧送される汚泥をエレメントの周面ろ過膜によってろ過する装置において、管状ろ過膜エレメントによってろ過されたろ過液を、外部ケーシングに連絡するろ過液取出路から吸引ポンプよって強制的に取出すようにした管状膜ろ過装置が示されている。この装置では、管状ろ過膜エレメントに圧送される汚泥をろ過するにあたり、ろ過水配管に接続された吸引ポンプにより強制的にろ過を行う。これにより吸引ポンプがない場合に比べ、膜面への汚泥の過剰な付着を防止する管内流速確保のための動力源と、ろ過(膜間差圧の確保)のための動力源を分けることで、膜分離装置入口の圧力を低減でき、運転動力を低減できる他、管状膜内の圧力分布を平滑化し、運転の安定化につながる。しかしガスによる付着防止は考慮されておらず、目詰まり防止は不十分である。
【0007】
特許文献3(米国特許5494577)には、好気性生物処理法である活性汚泥処理において、好気性処理液を固液分離するために、内圧型の管状ろ過膜エレメントをケーシング内に上下方向に設け、ろ過膜チューブ内に好気性処理液とともに空気を流して、エアリフト作用により好気性処理液を送るとともに、ケーシングからポンプで吸引することにより、膜ろ過を行う方法が示されている。ここでは管状ろ過膜エレメントの内側に汚泥とともに空気を通気することにより、エアリフト効果により少ない動力で高い管内流速を確保して、膜間差圧を高めることなく高いフラックスを得ることができる。この方法は管状ろ過膜エレメント内に好気性処理液を流して膜ろ過する際、同時に空気を流すことによりエアリフト作用による送液力と、乱流による目詰まり防止を期待するものである。
【0008】
しかし膜ろ過では、管状ろ過膜エレメント内を好気性処理液と空気の混合流が通過する際、溶媒である水とともに空気も吸引されて透過水側に移行する。特許文献3は好気性生物処理法である活性汚泥処理に適用するものであるため、混入するガスとして空気を用い、その空気はそのまま好気性生物処理槽に供給され、生物酸化に用いられているので、空気が透過水側に移行しても問題にならない。すなわち空気は無尽蔵に得られ、無害であるため、膜ろ過の際透過水側に移行しても害を与えることはなく、処理液はそのまま系外へ排出される。また好気性生物処理槽は開放式であるので、膜ろ過の際空気が透過水側に移行しても好気性生物処理槽の操作圧力等に影響しない。
【0009】
しかし上記のような特許文献3の膜ろ過を特許文献1の嫌気性生物処理に適用しようとすると、嫌気性処理液に混入するガスとしては、嫌気性処理から発生する嫌気性ガスを用いることになる。この嫌気性ガスはメタン、硫化水素、アンモニア等を含む有害なガスであり、そのまま排出できない。また嫌気性処理装置は密閉式で、槽内が一定圧に保たれるように運転されるので、膜ろ過の際ポンプで吸引すると、嫌気性処理装置の槽内圧を一定圧に保つことができず、嫌気性生物処理を定常状態で行うことができない。また嫌気性処理装置が負圧になると、外部から空気が侵入し、嫌気性生物汚泥の活性が低下して処理を行えなくなるとともに、処理槽に耐圧性が要求されるなどの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−94000
【特許文献2】特開2002−282657
【特許文献3】米国特許5494577
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、嫌気性処理装置の槽内圧の変動を防止して定常運転を行った状態で、嫌気性ガスの大気放散なしに、内圧型管状ろ過膜エレメントを用いて膜ろ過を行うことができ、これによりガスリフト効果による小動力での高い管内流速の確保と、吸引ポンプを用いた強制的なろ過による膜間差圧の確保を両立することができ、高いフラックスを安定して維持することができる有機排液の嫌気性生物処理装置および方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は次の有機排液の嫌気性生物処理装置および方法である。
(1) 有機排液を嫌気性生物処理する嫌気性処理装置と、
ケーシング内に上下方向に配置された管状ろ過膜エレメント、およびケーシングからろ過液を取出すろ過液取出路を有し、管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性処理装置の嫌気性処理液および嫌気性ガスを導入し、ろ過液取出路から吸引ポンプによりろ過液を取出す内圧型の膜ろ過装置と、
嫌気性処理装置から膜ろ過装置の管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性処理液を供給する嫌気性処理液供給路と、
嫌気性処理装置の気相部から膜ろ過装置の管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性ガスを供給する嫌気性ガス供給路と、
膜ろ過装置の管状ろ過膜エレメントの上部から濃縮液およびガスを嫌気性処理装置へ返送する返送路と、
ろ過液取出路から取出されたろ過液を貯留する密閉式のろ過液貯留槽と、
ろ過液貯留槽の気相部を嫌気性処理装置の気相部に連通させる連通路と
を含むことを特徴とする有機排液の嫌気性生物処理装置。
(2) ろ過液貯留槽から膜ろ過装置へ逆洗液を供給する逆洗液供給路および逆洗液供給ポンプを含む上記(1)記載の装置。
(3) 嫌気性処理装置において有機排液を嫌気性生物処理する嫌気性処理工程と、
ケーシング内に上下方向に配置された管状ろ過膜エレメント、およびケーシングからろ過液を取出すろ過液取出路を有する膜ろ過装置を用い、管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性処理装置の嫌気性処理液および嫌気性ガスを導入してガスリフトにより上昇させ、ろ過液取出路から吸引ポンプによりろ過液を吸引して取出すことにより膜ろ過を行い、固液分離する膜ろ過工程と、
ろ過液取出路から取出されたろ過液を密閉式のろ過液貯留槽で貯留する貯留工程とを含み、
膜ろ過工程において、膜ろ過装置の管状ろ過膜エレメントの上部から送り出される濃縮液およびガスを嫌気性処理装置へ返送し、
貯留工程において、ろ過液貯留槽の上部に形成される気相部を嫌気性処理装置の気相部に連通させることを特徴とする有機排液の嫌気性生物処理方法。
(4) ろ過液貯留槽から膜ろ過装置へ逆洗液を供給し、膜ろ過装置のろ過膜チューブを逆洗する上記(3)記載の方法。
【0013】
本発明において、処理対象となる有機排液は有機物を含有する排液であるが、有機物の他に硫黄分、窒素分、その他の成分、特に無機物などを含んでいてもよい。含まれる有機物も低分子から高分子のもの、あるいは可溶性のものから固形物まで、あらゆる組成、性状、特性のものが含まれていてもよい。硫黄分、窒素分としては、蛋白質などの天然由来のものから、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、アルコールなどの工場から排出される成分が含まれていてもよい。このような有機排液としては、有機物含有量が200〜50000mg−CODcr/L、特に1000〜20000mg−CODcr/Lのものが本発明の処理に適している。
【0014】
本発明において、これらの有機排液を嫌気性生物処理する嫌気性生物処理方法(装置)は、従来から水処理で採用されてきた嫌気性処理方法および装置が採用できる。固形有機物を含む有機排液に対しては、有機排液を嫌気性微生物と混合して10〜30日間滞留させる嫌気性消化、メタン発酵などの浮遊式嫌気性処理が好ましい。また固形有機物を含まず、可溶性有機物を含む有機排液に対しては、粒状汚泥、担体担持汚泥等のスラッジブランケット、流動床などを用いる高負荷嫌気性処理が好ましい。これらの処理法は有機排液の組成、性状や、処理目標水質、処理コストなどにより選択される。
【0015】
上記嫌気性処理において生成する嫌気性処理液は、浮遊式嫌気性処理の場合、固形物含有量3000〜120000mg/L、有機物含有量2000〜100000mg/L程度、高負荷嫌気性処理の場合、固形物含有量50〜3000mg/L、有機物含有量30〜2500mg/L程度であるが、いずれの場合も膜ろ過装置(工程)において、膜ろ過により固液分離する。膜ろ過は精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)等のろ過膜を通してろ過を行い、主として固形物、コロイド、高分子物質などを除去する。ここで除去する固形物等の粒径は1〜500μm程度である。
【0016】
本発明では、膜ろ過装置として、ケーシング内に上下方向に配置された管状ろ過膜エレメント、およびケーシングからろ過液を取出すろ過液取出路を有する内圧型の膜ろ過装置を用いる。この膜ろ過装置は、管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性処理装置の嫌気性処理液および嫌気性ガスを導入し、ろ過液取出路から吸引ポンプによりろ過液を取出すように構成される。本発明において、「内圧型の膜ろ過装置」とは、管状ろ過膜エレメントの内側の圧力が外側より高い状態で、液が内側から外側へ透過する膜ろ過装置であることを意味する。従って吸引ポンプの吸引によりろ過膜エレメントの外側の圧力が低くなってろ過できればよく、必ずしも内側に嫌気性処理液および嫌気性ガスを導入するために、加圧するように構成しなくてもよい。
【0017】
この膜ろ過装置には、嫌気性処理装置から管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性処理液を供給する嫌気性処理液供給路と、嫌気性処理装置の気相部から管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性ガスを供給する嫌気性ガス供給路と、管状ろ過膜エレメントの上部から濃縮液およびガスを嫌気性処理装置へ返送する返送路とが連絡する。嫌気性処理液供給路と嫌気性ガス供給路とは、合流して気液混合物を供給する構造でもよく、また別々に供給し管状ろ過膜エレメントの下部で気液混合物を形成する構造でもよい。濃縮液およびガスの供給量は処理条件により異なるが、管状ろ過膜エレメント内でガスリフトが形成されるような供給量とされ、一般的には濃縮液およびガスの供給量はいずれも管内流速が0.2〜3m/sec、好ましくは0.5〜1m/secとなるような供給量とされる。
【0018】
膜ろ過装置のろ過液取出路側には、取出されたろ過液を貯留する密閉式のろ過液貯留槽が設けられ、このろ過液貯留槽の気相部は連通路により嫌気性処理装置の気相部に連通するように構成される。この連通路は、ろ過液貯留槽の気相部と嫌気性処理装置の気相部の圧力を均等にするように連通させるものであり、一般的には直接連通させられるが、圧力が伝わるもの、例えば膜等が介在してもよい。嫌気性処理装置の気相部から嫌気性ガスを取出すガス取出路には通常脱硫装置が設けられるが、この場合は脱硫装置の上流側に連通路を連絡するように構成する。これに対し、管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性ガスを供給する嫌気性ガス供給路は、脱硫装置の上流側でも下流側でもよいが、下流側に連絡すると脱硫ガスを供給することができ、これにより硫化水素によるろ過膜の汚染を防止できる。
【0019】
膜ろ過装置には、ろ過液貯留槽から逆洗液を供給する逆洗液供給路および逆洗液供給ポンプを設けるのが好ましい。この場合、逆洗液供給路はろ過液貯留槽からケーシングの外側へ連絡し、逆洗液供給ポンプは逆洗液供給路に設けることができる。これによりろ過液貯留槽からろ過液を逆洗液として供給して逆洗することができるが、純水など他の逆洗液を供給するように構成することもできる。
【0020】
上記の有機排液の生物処理装置では、嫌気性処理工程として、嫌気性処理装置に有機排液を供給して嫌気性生物処理する。浮遊式嫌気性処理の場合は、有機排液を嫌気性微生物と混合して嫌気状態に保ち、嫌気性微生物の作用により有機物を分解する。高負荷嫌気性処理の場合は、有機排液をスラッジブランケット、流動床など汚泥層に通過させ、有機物を分解する。
【0021】
膜ろ過工程では、膜ろ過装置のケーシング内に上下方向に配置された管状ろ過膜エレメントの下部に、嫌気性処理液供給路を通して嫌気性処理装置から嫌気性処理液を導入するとともに、嫌気性ガス供給路を通して嫌気性処理装置の気相部から嫌気性ガスを導入し、これらを混合した気液混合流をガスリフトにより管状ろ過膜エレメントの内側を上昇させ、ろ過液取出路から吸引ポンプによりろ過液を吸引して取出すことにより膜ろ過を行い、固液分離する。
【0022】
膜ろ過工程において、膜ろ過装置の管状ろ過膜エレメントの上部から送り出される濃縮液およびガスは、還流路から嫌気性処理装置へ還流する。貯留工程では、ろ過液取出路から取出されたろ過液を密閉式のろ過液貯留槽で貯留する。このときろ過液貯留槽の上部に形成される気相部を、連通路により嫌気性処理装置の気相部に連通させることにより、双方の圧力を均等にする。これにより膜ろ過工程において吸引ポンプによりろ過液を吸引しても、嫌気性処理装置に圧力変動を生じさせることなく、また有害ガスを排出することなく、有機排液の嫌気性生物処理を行うことができる。
【0023】
上記の処理では、管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性処理液および嫌気性ガスを供給すると、嫌気性ガスの上昇力により両者の混合液が上昇するので、小動力で嫌気性処理液を供給し循環することができる。このとき吸引ポンプで吸引することにより、強制的なろ過によるろ過膜の内外間の差圧を確保することができ、これにより膜ろ過による固液分離を効果的に行うことができる。この場合、ガスリフト効果により小動力で高い管内流速を確保できるため、ろ過膜の内側を過大に加圧する必要がないので、膜面への固形物の付着は少なく、しかも膜内面はガス流による剥離力が働くため、ろ過膜の目詰まりは少ない。このため少ない動力で高い管内流速を確保して、膜間差圧を高めることなく高いフラックスを得ることができる。
【0024】
上記の処理では、嫌気性処理工程から貯留工程に至る全工程が嫌気条件に保たれ、嫌気性処理装置とろ過液貯留槽とが同じ圧力に保たれるため、ろ過液とともに排出された嫌気性ガスの大気放散を防ぐことができる。ろ過膜が目詰まりした場合は、ろ過液貯留槽からろ過液を逆洗液として供給し、ろ過膜を逆方向に流すことによりろ過膜を逆洗し、ろ過機能を回復することができる。この場合、ろ過液を用いて膜の定期的な逆洗を行う際に、ろ過液は嫌気条件に保たれるため、ろ過液に含まれる硫化物や二価の鉄イオンなどが酸化されてSS成分として析出することがなく、逆洗時にこれらのSS成分による膜の汚染が起こるのを防ぐことができる。
【0025】
このように上記の処理では、有機物含有排水の嫌気性処理と膜ろ過を組み合わせた処理装置において、嫌気性ガスの大気放散なしに、ガスリフト効果による少ない動力での高い管内流速の確保と、ろ過水の吸引ポンプを用いた強制的なろ過による膜間差圧の確保を両立することができ、高いフラックスを安定して維持することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上の通り本発明によれば、管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性処理装置の嫌気性処理液および嫌気性ガスを導入してガスリフトにより上昇させ、ろ過液取出路から吸引ポンプによりろ過液を吸引して取出すことにより膜ろ過を行い、ろ過液貯留槽の上部に形成される気相部を嫌気性処理装置の気相部に連通させるようにしたので、嫌気性処理装置の槽内圧の変動を防止して定常運転を行った状態で、嫌気性ガスの大気放散なしに、内圧型管状ろ過膜エレメントを用いて膜ろ過を行うことができ、これによりガスリフト効果による小動力での高い管内流速の確保と、吸引ポンプを用いた強制的なろ過による膜間差圧の確保を両立することができ、高いフラックスを安定して維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態の有機排液の生物処理装置および方法を示すフロー図である。
【図2】従来の有機排液の嫌気性生物処理装置および方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面により説明する。図1は実施形態の有機排液の嫌気性生物処理装置および方法を示しており、図2と同符号は同一または相当部分を示す。
【0029】
図1の有機排液の嫌気性生物処理装置は、嫌気性処理装置1、膜ろ過装置2、脱硫装置3、ガスタンク4およびろ過液貯留槽5を備えている。嫌気性処理装置1は図2とほぼ同様に構成され、槽内に嫌気性生物汚泥を保持し、被処理液路L1から入る有機排液と混合して嫌気性生物処理する浮遊式の嫌気性処理装置からなり、液相部1aから嫌気性処理液路L2が膜ろ過装置2に連絡し、また気相部1bから発生ガス路L5が脱硫装置3に連絡し、それからラインL6がガスタンク4に連絡している。
【0030】
膜ろ過装置2は、ケーシング6内に上下方向に配置された管状ろ過膜エレメント7が、膜ろ過装置2の下部の給液室8および上部の還流室9間を連絡するように設けられている。管状ろ過膜エレメント7は、精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)等のろ過膜が管状(チューブ状)に形成され、内側の圧力が外側より高い状態で、液が内側から外側へ透過して膜ろ過するように、内圧型の膜ろ過装置として構成されている。
【0031】
嫌気性処理装置1の液相部1aから嫌気性処理液路L2が膜ろ過装置2の下部の給液室8に連絡し、膜ろ過装置2の上部の還流室9から還流路L3が嫌気性処理装置1の気相部1bに連絡している。脱硫装置3からガスタンク4へ連絡するラインL6から、嫌気性ガス供給路L7が分岐しブロアBを介して嫌気性処理液路L2に連絡している。膜ろ過装置2のケーシング6から、内部の管状ろ過膜エレメント7の外側に形成される集液室10から吸引ポンプP2によりろ過液を取出すろ過液取出路L4が、ろ過液貯留槽5の液相部5aに連絡している。
【0032】
ろ過液貯留槽5は、ろ過液取出路L4から取出されたろ過液を貯留するように密閉式に構成されている。ろ過液貯留槽5の液相部5aから膜ろ過装置2のケーシング6へ逆洗液を供給する逆洗液供給路L10が逆洗液供給ポンプP3を介して連絡している。ろ過液貯留槽5の液相部5aの下部には、上部がガス吸着装置(図示省略)を介して大気に連通する立上管11が連絡しており、立上管11の上部から処理液取出路L11が系外へ連絡している。またろ過液貯留槽5の気相部5bから連通路L8が発生ガス路L5の脱硫装置3の上流側、すなわち嫌気性処理装置1側に連絡している。
【0033】
上記の有機排液の生物処理装置では、嫌気性処理工程として、嫌気性処理装置1に被処理液路L1から有機排液を供給し、嫌気性に維持して嫌気性生物処理を行う。浮遊式嫌気性処理の場合は、有機排液を嫌気性微生物と混合して嫌気状態に保ち、嫌気性微生物の作用により有機物を分解する。高負荷嫌気性処理の場合は、有機排液をスラッジブランケット、流動床など汚泥層に通過させ、有機物を分解する。
【0034】
膜ろ過工程では、膜ろ過装置2の下部の給液室8に嫌気性処理装置1から嫌気性処理液路L2を通して嫌気性処理液を導入するとともに、嫌気性ガス供給路L7を通して嫌気性ガスを導入する。これにより嫌気性処理液と嫌気性ガスが混合された気液混合流は、ケーシング6内に上下方向に配置された管状ろ過膜エレメント7の下部から流入し、ガスリフトにより管状ろ過膜エレメント7の内側を上昇し、還流室9から還流路L3を経て嫌気性処理装置1へ還流する。
【0035】
このとき吸引ポンプP2により吸引すると、ケーシング6の内部の管状ろ過膜エレメント7の外側に形成される集液室10が負圧になるため、管状ろ過膜エレメント7の内側の圧力が外側より高くなるので、この状態で、管状ろ過膜エレメント7の内側から外側へ液が透過して膜ろ過され、固液分離が行われる。ろ過液は集液室10からろ過液取出路L4を通して吸引ポンプP2によりろ過液貯留槽5に取出される。このようにして嫌気性処理装置1の嫌気性処理は膜ろ過されて循環し、濃縮されるので、一部はラインL12から排出される。ここで排出されるガスは嫌気性処理装置1へ戻される。
【0036】
貯留工程では、ろ過液取出路L4から取出されたろ過液を密閉式のろ過液貯留槽5で貯留するが、このときろ過液貯留槽5の上部に形成される気相部5bのガスを、連通路L8により発生ガス路L5に導く。これによりろ過液貯留槽5の気相部5bが嫌気性処理装置1の気相部1bに連通し、双方の圧力は均等になる。これにより膜ろ過工程において吸引ポンプP2によりろ過液を吸引しても、嫌気性処理装置1に圧力変動を生じさせることはなく、嫌気性処理装置1に酸素が吸入されることはなく、嫌気性生物汚泥の活性は低下せず、有機排液の嫌気性生物処理を定常的に行うことができる。
【0037】
ろ過液貯留槽5のろ過液は、液相部5aの下部から立上管11に入り、その上部から処理液取出路L11を通して取出される。立上管11の上部にはガス吸着装置(図示省略)が設けられているので、有害ガスを排出することなく、ろ過液を系外へ取出すことができる。これにより有機排液の嫌気性生物処理を安全に行うことができる。
【0038】
管状ろ過膜エレメント7のろ過膜が目詰まりした場合は、ろ過液貯留槽5からろ過液を逆洗液として逆洗液供給ポンプP3により逆洗液供給路L10を通して、膜ろ過装置2のケーシング6内の集液室10に供給し、ろ過膜を逆方向に流すことにより、ろ過膜を逆洗してろ過機能を回復することができる。この場合、ろ過液を用いて膜の定期的な逆洗を行う際に、ろ過液は嫌気条件に保たれるため、ろ過液に含まれる硫化物や二価の鉄イオンなどが酸化されてSS成分として析出することがなく、逆洗時にこれらのSS成分による膜の汚染が起こるのを防ぐことができる。
【0039】
上記の処理では、管状ろ過膜エレメント7の下部に嫌気性処理液および嫌気性ガスを供給すると、嫌気性ガスの上昇力により両者の混合液が上昇するので、小動力で嫌気性処理液を供給し循環することができる。このとき吸引ポンプP2で吸引することにより、強制的なろ過によるろ過膜の内外間の差圧を確保することができ、これにより管状ろ過膜エレメント7の膜ろ過による固液分離を効果的に行うことができる。この場合、ガスリフト効果により小動力で高い管内流速を確保できるため、ろ過膜の内側を過大に加圧する必要がないので、膜面への固形物の付着は少なく、しかも膜内面はガス流による剥離力が働くため、ろ過膜の目詰まりは少ない。このため少ない動力で高い管内流速を確保して、膜間差圧を高めることなく高いフラックスを得ることができる。
【0040】
なお上記の例では、膜ろ過装置2として、特許文献2のものと同様にケーシング6内に管状ろ過膜エレメント7が配置されたものを示したが、特許文献3のものと同様にケーシング6内に管状ろ過膜エレメント7が配置されたものを複数個束にしたモジュールを用いてもよい。また膜ろ過装置2の下部の給液室8に嫌気性ガスを供給する嫌気性ガス供給路L7を脱硫装置3の下流に連絡したが、脱硫装置3の上流に連絡してもよい。
【0041】
上記の処理では、嫌気性処理工程から貯留工程に至る全工程が嫌気条件に保たれ、嫌気性処理装置1とろ過液貯留槽5とが同じ圧力に保たれるため、ろ過液とともに排出された嫌気性ガスの大気放散を防ぐことができる。このように上記の処理では、有機物含有排水の嫌気性処理と膜ろ過を組み合わせた処理装置において、嫌気性ガスの大気放散なしに、ガスリフト効果による少ない動力での高い管内流速の確保と、ろ過水の吸引ポンプP2を用いた強制的なろ過による膜間差圧の確保を両立することができ、高いフラックスを安定して維持することができる。
【0042】
以上の通り上記の有機排液の嫌気性生物処理装置および方法によれば、管状ろ過膜エレメント7の下部に嫌気性処理装置1の嫌気性処理液および嫌気性ガスを導入してガスリフトにより上昇させ、ろ過液取出路L4から吸引ポンプP2によりろ過液を吸引して取出すことにより膜ろ過を行い、ろ過液貯留槽5の上部に形成される気相部5bを嫌気性処理装
置1の気相部1bに連通させることにより、嫌気性処理装置1の槽内圧の変動を防止して定常運転を行った状態で、嫌気性ガスの大気放散なしに、内圧型管状ろ過膜エレメント7を用いて膜ろ過を行うことができ、これによりガスリフト効果による小動力での高い管内流速の確保と、吸引ポンプP2を用いた強制的なろ過による膜間差圧の確保を両立することができ、高いフラックスを安定して維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、有機排液を嫌気性生物処理し、その処理液を膜ろ過により固液分離する有機排液の嫌気性生物処理装置および方法に関し、特に嫌気性生物処理液を膜ろ過により固液分離する際、ろ過膜の目詰まりを防止して、効率よくろ過水を得る有機排液の嫌気性生物処理装置および方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1: 嫌気性処理装置、1a,5a: 液相部、1b,5b: 気相部、2: 膜ろ過装置、2a: ろ過膜モジュール、2b: 散気装置、3: 脱硫装置、4: ガスタンク、5: ろ過液貯留槽、6: ケーシング、7: 管状ろ過膜エレメント、8: 給液室、9: 還流室、10: 集液室、11: 立上管、
L1: 被処理液路、L2: 嫌気性処理液路、L3: 還流路、L4: ろ過液取出路、L5: 発生ガス路、L6: ライン、L7: 嫌気性ガス供給路、L8: 連通路、L9: ライン、L10: 逆洗液供給路、L11: 処理液取出路、L12: ライン、
B: ブロア、P1: ポンプ、P2: 吸引ポンプ、P3: 逆洗液供給ポンプ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機排液を嫌気性生物処理する嫌気性処理装置と、
ケーシング内に上下方向に配置された管状ろ過膜エレメント、およびケーシングからろ過液を取出すろ過液取出路を有し、管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性処理装置の嫌気性処理液および嫌気性ガスを導入し、ろ過液取出路から吸引ポンプによりろ過液を取出す内圧型の膜ろ過装置と、
嫌気性処理装置から膜ろ過装置の管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性処理液を供給する嫌気性処理液供給路と、
嫌気性処理装置の気相部から膜ろ過装置の管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性ガスを供給する嫌気性ガス供給路と、
膜ろ過装置の管状ろ過膜エレメントの上部から濃縮液およびガスを嫌気性処理装置へ返送する返送路と、
ろ過液取出路から取出されたろ過液を貯留する密閉式のろ過液貯留槽と、
ろ過液貯留槽の気相部を嫌気性処理装置の気相部に連通させる連通路と
を含むことを特徴とする有機排液の嫌気性生物処理装置。
【請求項2】
ろ過液貯留槽から膜ろ過装置へ逆洗液を供給する逆洗液供給路および逆洗液供給ポンプを含む請求項1記載の装置。
【請求項3】
嫌気性処理装置において有機排液を嫌気性生物処理する嫌気性処理工程と、
ケーシング内に上下方向に配置された管状ろ過膜エレメント、およびケーシングからろ過液を取出すろ過液取出路を有する膜ろ過装置を用い、管状ろ過膜エレメントの下部に嫌気性処理装置の嫌気性処理液および嫌気性ガスを導入してガスリフトにより上昇させ、ろ過液取出路から吸引ポンプによりろ過液を吸引して取出すことにより膜ろ過を行い、固液分離する膜ろ過工程と、
ろ過液取出路から取出されたろ過液を密閉式のろ過液貯留槽で貯留する貯留工程とを含み、
膜ろ過工程において、膜ろ過装置の管状ろ過膜エレメントの上部から送り出される濃縮液およびガスを嫌気性処理装置へ返送し、
貯留工程において、ろ過液貯留槽の上部に形成される気相部を嫌気性処理装置の気相部に連通させることを特徴とする有機排液の嫌気性生物処理方法。
【請求項4】
ろ過液貯留槽から膜ろ過装置へ逆洗液を供給し、膜ろ過装置のろ過膜チューブを逆洗する請求項3記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−179556(P2012−179556A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44412(P2011−44412)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】