説明

有機無機複合体の製造方法及び有機無機複合体

【課題】 得られる無機成分の粒径が小さく、且つ安価な1官能のモノマーを原料として用いることができる有機無機複合体を簡便に得る方法を提供する。
【解決手段】 カルボン酸ハライド、クロロホーメート化合物、ホスゲン系化合物、及びカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマー(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、ポリアルキレンイミン、及び、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)、又は粘土鉱物(c−3)を含有する水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることでモノマー(a)とポリエチレンイミンとを反応させると同時に無機成分を析出させる有機無機複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレンイミンをマトリクスポリマーとする有機無機複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマーがもつ加工性、柔軟性等の特性と、無機材料が持つ耐熱性、耐摩耗性等、表面硬度等の特性を付与することを目的として、無機微粒子を有機ポリマー内に分散、複合化することにより有機無機複合体を作り出す検討が広く行われている。
例えば、無機材料固有の特性を生かすような有機無機複合体の設計は、極力小さい粒径の無機微粒子を高い充填率で複合化することで、より高い複合化効果を期待することができる。粒径が小さいほど無機微粒子の重量当たりの表面積が大きくなり、有機ポリマーと無機材料との界面領域が広くなるためである。更に、無機微粒子の充填率が高くなると、無機材料の特性を強く出せることとなる。
【0003】
発明者らは先に、ポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタン等のポリマーをマトリクスポリマーとしナノサイズの無機微粒子を高い充填率で含む有機無機複合体を合成する方法を発明し開示している。例えば特許文献1には、アルカリ金属成分を持つ粘土を分散させた水にジアミンを溶解させ、有機溶媒に溶解させたジカルボン酸ハライドを反応させる、粘土とポリアミドの有機無機複合体の製造方法が記載されている。また、特許文献2には水にジアミンと珪酸アルカリを溶解させた水溶液を、有機溶媒に溶解させたジカルボン酸ハライドを反応させる方法によるシリカとポリアミドの有機無機複合体の製造方法が記載されている。また特許文献3には、水にジアミンとアルカリ金属含有の複合酸化物類を溶解させた水溶液を、有機溶媒に溶解させたジカルボン酸ハライドやジクロロホーメート化合物、ホスゲン系化合物と反応させる方法による金属酸化物とポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタン等との有機無機複合体の製造方法が記載されている。
【0004】
前記方法は、ジアミン、及びジアミンと反応するジカルボン酸ハライド等のモノマーとを反応させ有機ポリマーを合成しつつ、無機成分を溶解状態から析出や合成させ、有機ポリマーと無機材料とを相補的に析出させることによりナノ粒径の無機成分を析出させることができる。前記方法は、合成されたポリマーが無機成分の粗大析出を防止すると推定しており、これが、ナノ粒径の無機成分が複合化できる一因であると推定される。
このように該方法は、ポリマーの合成速度と無機析出状態とは密接な関係があるために、例えば、ポリマー合成が遅い組み合わせのモノマーを用い、且つ析出速度の速い無機成分を複合化しようとした場合には、無機成分が粗大化してしまう傾向にあり、所望のサイズの無機成分が得られない場合があった。
【0005】
また前記方法は、有機成分をポリマー化するために、有機溶媒に溶解させるモノマーはジアミンと同様に2つの官能基を持つ必要があり、即ちジカルボン酸ハライドやジクロロホーメート化合物、ホスゲン系化合物を使用する必要があった。しかしながらジカルボン酸ハライドは高価であり、ジクロロホーメート化合物は工業材料としては流通しておらず、工業的に適した原料ではないという問題があった。またホスゲン系化合物のうち、ホスゲンは極めて毒性の強いガスであるために特定の設備を使用することが義務付けられており一般的な使用が困難であることや、ジホスゲンやトリホスゲンは高価であるといった問題があった。このように、ジアミンと反応させる2価のモノマー類は、工業原料として使用に制限があり安価な複合材料供給の妨げとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−208291号公報
【特許文献2】特開平10−176106号公報
【特許文献3】特開2005−036211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、予め合成成分中にポリマーを溶解状態で含有させ、有機無機複合体を合成することで、得られる無機成分の粒径が小さく、且つ安価な1官能のモノマーを原料として用いることができる有機無機複合体を簡便に得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、有機材料としてポリアルキレンイミンを使用することで、課題を解決した。
ポリエチレンイミンに代表されるポリアルキレンイミンは、1級、2級、3級アミンを含み、カルボニル基、酸ハロゲン化物、酸無水物、イソシアネート基等と容易に反応する。また、ポリアルキレンイミンは水溶性である。
本発明者は、カルボン酸ハライド、クロロホーメート化合物、ホスゲン系化合物、又はカルボン酸無水物等のモノマーを含有する有機溶剤溶液(1)と、ポリアルキレンイミンと、アルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物や珪酸アルカリや粘土鉱物を含有する水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、有機溶剤中のモノマーとポリアルキレンイミンとが反応し、架橋構造を生成させると同時に、無機成分が析出し、有機無機複合体が得られることを見出した。
【0009】
即ち本発明は、カルボン酸ハライド、クロロホーメート化合物、ホスゲン系化合物、及びカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマー(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、ポリアルキレンイミン、及び、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)、又は粘土鉱物(c−3)を含有する水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることでモノマー(a)とポリアルキレンイミンとを反応させると同時に無機成分を析出させる有機無機複合体の製造方法を提供する。
【0010】
また本発明は、前記有機無機複合体の製造方法により得た、100質量%中の無機成分の含有率が10〜60質量%である有機無機複合体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ポリアルキレンイミンをマトリクスポリマーとする有機無機複合体を、簡便に得ることができる。
【0012】
更に本発明は、複合化する無機化合物の原料としてアルミン酸アルカリや珪酸アルカリ、含アルカリ金属粘土を、また有機成分の原料として、1価のモノマー類を使用することができるため原料費が安価で済む。加えて、原料に予めポリマー成分が含まれていることで無機成分の過剰な析出が抑制され、無機成分が微粒化された複合体を得ることができる上、汎用の攪拌装置を用いて短時間の1ステップで行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(有機溶剤溶液(1))
本発明で使用する有機溶剤溶液(1)は、カルボン酸ハライド、クロロホーメート化合物、ホスゲン系化合物、及びカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマー(a)と有機溶剤とを含有する。
【0014】
(モノマー(a) カルボン酸ハライド)
前記カルボン酸ハライドとしては、単官能モノマーであっても多官能モノマーであってもよい。
単官能のカルボン酸ハライドのうち、芳香族酸ハライドとしては、塩化ベンゾイル、トルイル酸クロライド、トリメトキシ安息香酸クロライドが、脂肪族酸ハライドとしては、メタン酸、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、等の脂肪族カルボン酸の酸ハロゲン化物が例示できる。
多官能のカルボン酸ハライドのうち、2官能の芳香族酸ハライドとしては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物、あるいはこれら芳香環の水素をハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基などで置換した芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物や複数の芳香環からなるジカルボン酸の酸ハロゲン化物などが例示できる。また、2官能の脂肪族酸ハライドとしてはマロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物を例示することができる。
【0015】
(モノマー(a) クロロホーメート化合物)
前記クロロホーメート化合物としてはカルボン酸ハライド同様、単官能モノマーであっても多官能モノマーであってもよい。
単官能のクロロホーメート化合物のうち、芳香族クロロホーメート化合物としては、フェノール、1−ナフトール、2−ナフトール等のフェノール類の水酸基をホスゲン化処理によりクロロホーメート化したものを挙げることができる。脂肪族クロロホーメート化合物としてはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールの他、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコールの水酸基をホスゲン化処理によりクロロホーメート化したものを挙げることができる。
多官能のクロロホーメート化合物のうち、芳香族ジクロロホーメート化合物としては、1個または2個以上の芳香環に水酸基を2個持つレゾルシン(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ビフェノ−ル、ビスフェノ−ルS、ビスフェノ−ルA、テトラメチルビフェノ−ル等の2価フェノ−ル類の水酸基を全てホスゲン化処理によりクロロホーメート化したものを挙げることができる。また、脂肪族ジクロロホーメート化合物としては1,2−エタンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、1,8−オクタンジオ−ル等の脂肪族ジオ−ル類の水酸基を全てホスゲン化処理によりクロロホーメート化したものを挙げることができる。
【0016】
(モノマー(a) ホスゲン系化合物)
前記ホスゲン系化合物としてはホスゲン、ジホスゲン及びトリホスゲンを挙げることができる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、前記カルボン酸ハライドや前記クロロホーメート化合物とを組み合わせて用いても良い。
【0017】
(モノマー(a) カルボン酸無水物)
前記カルボン酸無水物としてはカルボン酸ハライド同様、単官能モノマーであっても多官能モノマーであってもよい。
単官能の化合物としては無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水イタコン酸、無水安息香酸、無水グルタル酸、ジグリコール酸無水物、ヒミン酸無水物、無水n−ヘキサン酸等を例示するこができる。また、多官能の化合物の例としてはピロメリット酸無水物を例示することができる。
【0018】
(モノマー(a) 複数種類の官能基を持つ化合物)
モノマー(a)としては、前記のカルボン酸ハライド、クロロホーメート基、カルボン酸無水物の何れかの基を複数種類持っている化合物も用いることができる。そうした例としては無水トリメリット酸クロライドを例示することができる。また、カルボン酸ハライド、クロロホーメート化合物、ホスゲン系化合物、カルボン酸無水物は複数以上を組み合わせて用いても良い。
【0019】
(有機溶剤)
本発明で用いられる有機溶剤としては、モノマー(a)を必要な量溶解させることができれば特に制限はない。具体的な例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジメチルエ−テル、ジエチルエ−テル、ジブチルエ−テル、アニソ−ル等のエ−テル類、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸アルキル、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、n−メチルピロリドン、N−N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素系有機溶媒、炭酸プロピレン、ジメチルスルホキシド等を例示することができる。これらは複数を組み合わせて用いても良い。
【0020】
有機溶剤溶液(1)中の前記モノマー(a)のモノマー濃度としては、重合反応が十分に進行すれば特に制限されないが、ポリアルキレンイミンとモノマー同士を良好に接触させる観点から、各々0.01〜3モル/Lの濃度範囲、特に0.05〜1モル/Lが好ましい。
【0021】
(水溶液(2))
本発明で使用する水溶液(2)は、ポリアルキレンイミン、及び、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)、又は粘土鉱物(c−3)を含有する。
【0022】
(ポリアルキレンイミン)
ポリアルキレンイミンは、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミンなどのアルキレンイミンを常法により重合して得ることができる。これらのポリアルキレンイミンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのポリアルキレンイミンのうち、ポリエチレンイミンおよびポリプロピレンイミンが好ましい。なお、ポリアルキレンイミンは、重合により三次元に架橋され、通常、構造中に第三アミノ基のほか、活性水素含有アミノ基である第一アミノ基および第二アミノ基が導入されている。
【0023】
また、ポリアルキレンイミンの第一アミノ基および第二アミノ基の一部に他の化合物を反応させたポリアルキレンイミン誘導体を用いることもできる。ポリアルキレンイミンの誘導体の例としてはアルキレンオキサイド類を付加重合したもの、アルキル基含有イソシアネート類を付加重合したものを例示することができる。本発明ではモノマー(a)と第一アミノ基および第二アミノ基とが反応し、これらが保有する活性水素が無機成分の析出に寄与するため、第一アミノ基および第二アミノ基全体に対する反応率が高いと無機析出が生じなくなる。従って、これらの付加重合部位は第一アミノ基および第二アミノ基全体の30モル%以下が好ましい。
【0024】
ポリアルキレンイミンおよびその誘導体の重量平均分子量は、無機の原料となる化合物が金属化合物(c−1)あるいは珪酸アルカリ(c−2)の場合は特に制限がなく、好ましくは100〜100,000、より好ましくは200〜90,000、さらに好ましくは500〜80,000である。一方、粘土鉱物(c−3)を用いた場合には、このましくは重量平均分子量1,000以下、さらに好ましくは500以下のポリアルキレンイミン及びその誘導体を用いることが好ましい。その理由は、カチオン性であるポリアルキレンイミンが粘土鉱物中の層間の各種陽イオンとイオン交換し層間挿入されることによる粘土層のへき開が生じやすくなり、より微粒径で分散が生じるためである。なお、重量平均分子量は、プルランを標準物質として、ゲル浸透クロマトグラフ(例えば、GPCシステム、東ソー(株)製)で測定した値である。
【0025】
(ジアミンの混合)
本発明での水溶液中には、ジアミンが混合していても差し支えない。ジアミンが混合していることで一部に直鎖型の骨格も導入することができる。用いることができるジアミンとしては、芳香族ジアミンとしては、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、クロロフェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン等の一つの芳香環を有するジアミン、トルイレンジアミン、4,4´−ジアミノジフェニルメタン、4,4´−ジアミノジフェニルエ−テル、4,4´−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4´−チオジアニリン、4,4´−ジアミノベンズアニリド、1,5−ナフチレンジアミン、1,6−ナフチレンジアミン等の芳香環を複数有するジアミン等があげられる。また、脂肪族ジアミンとしては1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン等が、 含側鎖脂肪族ジアミンとしては1,2−ジアミノプロパン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等が例示できる。また、脂環族ジアミンとしては1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4´−ジアミノジシクロヘキサンメタン等が例示できる。また、脂肪芳香族ジアミンとしてはメタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンが例示できる。
【0026】
(金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)又は粘土鉱物(c−3))
本発明における有機無機複合体の無機成分の原料は、アルカリ金属を含有する無機化合物である。具体的には、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)(以下金属化合物(c−1)と略す)、珪酸アルカリ(c−2)又は粘土鉱物(c−3)が、入手が容易であり安価であり好ましい。金属化合物(c−1)を原料とした場合はアルカリ金属以外の金属元素を有する金属化合物が析出し、珪酸アルカリ(c−2)を原料とした場合はシリカ(酸化ケイ素)が、粘土鉱物(c−3)を原料とした場合には少なくとも一部の層がへき開した粘土鉱物が析出する。(以下、「金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)又は粘土鉱物(c−3)」を略して、「化合物(c)」とする場合がある)
【0027】
(金属化合物(c−1))
本発明で使用する金属化合物(c−1)は、具体的には下記一般式(1)で表される。
【0028】
【化1】

【0029】
前記一般式(1)において、Aはアルカリ金属元素を表し、Mはアルカリ金属以外の金属元素を表し、Bは酸素原子、カルボキシ基、またはヒドロキシ基を表す。x、y、及びzは各々独立してA、MとBの結合を可能とする数である。(複合酸化物系の無機材料には不定比化合物(例えばNa1.6Al0.92.8 のような類が多いために、xyzともに整数とも小数とも定義できない。そのため、安定して存在しえる数を指す。)
前記一般式(1)で表される化合物は、水に完全または一部溶解し塩基性を示すものが好ましい。且つ、析出する金属化合物が、水に殆どまたは全く溶解しない化合物であることが好ましい。
【0030】
前記一般式(1)におけるBが酸素原子である化合物としては、例えば、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、亜クロム酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、亜テルル酸ナトリウム、チタン酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、亜鉛酸カリウム、アルミン酸カリウム、亜クロム酸カリウム、モリブデン酸カリウム、スズ酸カリウム、マンガン酸カリウム、タンタル酸カリウム、亜テルル酸カリウム、鉄酸カリウム、バナジン酸カリウム、タングステン酸カリウム、金酸カリウム、銀酸カリウム、ジルコン酸カリウム等のカリウム複合酸化物、アルミン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、タンタル酸リチウム、チタン酸リチウム、バナジン酸リチウム、タングステン酸リチウム、ジルコン酸リチウム等のリチウム複合酸化物のほかルビジウム複合酸化物が挙げられる。
【0031】
前記一般式(1)におけるBがカルボキシ基及びヒドロキシ基の両方を含む金属化合物(c−1)としては、例えば、炭酸亜鉛カリウム、炭酸ニッケルカリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸コバルトカリウム、炭酸スズカリウム等が挙げられる。
前記金属化合物(c−1)は、水に溶解させて用いるために水和物であっても良い。また、各々を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
前記金属化合物(c−1)の中でも、特に、アルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ、炭酸ジルコニウムアルカリが特に好ましく用いられる。これらの金属化合物は、水溶性が高く溶解させた際の塩基性が強いため、前記マトリクスとなるポリエチレンイミンとモノマー(a)との反応を進行させやすい。中でもアルミン酸アルカリは特に水溶性が高い上安価であるため最も好ましく用いられる。
【0033】
加えて、前記金属化合物(c−1)の市販材料がない場合は、たとえば水酸化ナトリウムや、水酸化カリウムのアルカリ金属の水酸化物の高濃度水溶液中にこれらに可溶の金属化合物を溶解させることでも金属化合物(c−1)を得ることもできる。これにより、複合化できる無機材料の種類を広げることができる。ここで用いることができる金属化合物としては、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化アンチモン(III)、水酸化アンチモン(V)、水酸化イリジウム(III)、水酸化イリジウム(IV)、水酸化金(III)、水酸化クロム(III)、水酸化コバルト(II)、水酸化スズ(II)、水酸化炭酸ニッケル(II)、水酸化タンタル(V)、水酸化ニオブ(V)、水酸化ニッケル(II)、水酸化パラジウム(II)、水酸化ベリリウム等の金属水酸化物、酸化亜鉛(II)、酸化アンチモン(III)、酸化アンチモン(V)、酸化ガリウム(I)、酸化金(III)、酸化水酸化金(III)、酸化水酸化鉛(II)、酸化スズ(II)、酸化スズ(IV)、酸化タングステン(VI) 、酸化チタン(IV)、酸化鉛(II) 、酸化鉛(IV)、酸化ニオブ(V)、酸化バナジウム(III))、酸化バナジウム(IV)、酸化バナジウム(V)、酸化ビスマス(V)、酸化モリブデン(VI)、酸化ルテニウム(VIII)、酸化レニウム(VI)等の酸化物、炭酸亜鉛、炭酸鉛(II)、塩基性炭酸銅(II)等の炭酸化物を例示することができる。
【0034】
(珪酸アルカリ(c−2))
本発明で使用する珪酸アルカリ(c−2)は、例えば、珪酸ナトリウム(水ガラス)1号、2号、3号、4号が例となるMO・nSiOの組成式で、Mがアルカリ金属、nの平均値が1.8〜4のものが挙げられる。また、nの平均値が1.8以下でありMがナトリウムであるオルト珪酸ナトリウムやメタ珪酸ナトリウム、前記の珪酸ナトリウムのナトリウムが他のアルカリ金属に変更された、珪酸リチウム、珪酸カリウム、珪酸ルビジウム等も用いることができる。
【0035】
(粘土鉱物)
本発明で使用する粘土鉱物(c−3)は、水溶液(2)に溶解させて使用することから水に溶解性、膨潤性、分散性である必要がある。特にアルカリ金属イオン層間に持つ粘土鉱物であることが好ましく、中でも、該アルカリ金属がナトリウムである粘土鉱物は水に対する溶解性、膨潤性が高い上、安価であるため最も好ましく用いられる。これらの粘土鉱物は水中で膨潤または微分散し、その際にアルカリ性を示す。この粘土層間のアルカリ金属もまたポリエチレンイミンとモノマー(a)との反応を促進する。粘土層間のアルカリ金属としてはNaである粘土鉱物(Na型粘土鉱物)が最も水に対する膨潤性が高いため好ましい。
【0036】
粘土構造として特に好ましいのはスメクタイト群が挙げられ、その中でもさらに具体的にはモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等を例示することができる。
【0037】
(水溶液(2)の溶媒)
前記化合物(c)は、水に溶解させ水溶液(2)として使用する。また、前記有機溶剤溶液との反応を相溶した状態で行う場合には、アセトンやテトラヒドロフラン等の極性有機溶剤を水溶液(2)の30質量%程度を上限にして混合し、溶解度を調節してもよい。また、水溶液(2)には反応を促進するために、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ等の塩基性物質を溶解させてもよい。また、有機溶剤溶液(1)との混合性を高めるために界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0038】
複数の無機成分(なお、本発明において「無機成分」とは、本発明の有機無機複合体の製造方法によって析出したアルカリ金属を含まない無機化合物を指す。また前記化合物(c)を原料として得た無機成分は「無機成分(c)」とする。)を有機無機複合体に含有させたい場合には、前記金属化合物(c−1)、前記珪酸アルカリ(c−2)、又は前記粘土鉱物(c−3)を併用しても良い。ただし該組み合わせによっては、水溶液(2)中で無機成分(c)がゲル化したり析出したりする場合があり無機成分(c)を微粒子状態で複合化できなくなる場合があるので特にその組み合わせには注意を要する。
【0039】
また、前記水溶液(2)に、塩基性水溶液に溶解し且つ中性溶液では析出する金属化合物(c−4)を添加することにより、有機無機複合体の無機成分を多様化して更なる機能を付与できる方法がある。この方法は、前記ポリアルキレンイミンとモノマー(a)との反応に伴い、ポリアルキレンイミン中の1級または2級アミンが消費されることにより、水溶液のpHが塩基性から中性に変化することを利用する。即ち、ポリマー生成反応初期では水溶液が塩基性であるために、析出する無機成分は前記無機成分(c)のみであり金属化合物(c−4)は溶解状態のままであるが、有機無機複合化反応が進み水溶液が中性に近づくと、金属化合物(c−4)は析出する。このように金属化合物(c−4)は前記化合物(c)とは異なり、そのままの組成で複合化される。従って得られる有機無機複合体は、ポリマーマトリックス中に無機成分(c)が均一に分散し、その最外表面の無機主成分上に金属化合物(c−4)が担持的に存在する構造を有する。
【0040】
このような金属化合物(c−4)として、好適に用いられる金属化合物を例示すると、リン酸リチウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属化合物、酸化タングステン(VI)、酸化バナジウム(V)、酸化コバルト(II) 、水酸化コバルト(II) 、シュウ酸コバルト(II)、酸化ニオブ(II)、水酸化鉄(II)、酸化ニオブ(V)、酸化モリブデン(VI)、水酸化マンガン(II)、酸化金(III)、水酸化金(III)、ヨウ素酸銀(I)、炭酸銀(I)、酸化銀(I)、硫化銀(I)、酸化銅(I)、水酸化銅(II)、塩基性炭酸銅(II)、酸化銅(II)、リン酸銅(II)、シュウ酸銅(II)、酸化レニウム(VI)、水酸化パラジウム(II)、水酸化ルテニウム(IV)等の遷移金属化合物、酸化スズ(II)、水酸化スズ(II)、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化インジウム(III)、シュウ酸ニッケル(II)、酸化亜鉛(II)、水酸化亜鉛(II)、シュウ酸亜鉛(II)、酸化アンチモン(III)、酸化ガリウム(III)、酸化鉛(II) 、酸化鉛(IV)、リン酸鉛(II)、 水酸化鉛(II)等の典型金属化合物が挙げられる。これら金属化合物は水に溶解させて用いるため、水和物であっても良い。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
(水溶液の温度)
前記水溶液(2)の温度は溶解が問題なくできるのであれば特に限定されない。使用が容易である常温付近とするのが最も好ましい。
【0042】
(製造方法)
本発明の有機無機複合体の製造方法は、前述のモノマー(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、前述のポリアルキレンイミン及び化合物(c)を含有する水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることでポリアルキレンイミンとモノマー(a)を反応させると同時に無機成分を析出させることが特徴である。
【0043】
(有機無機複合体の合成反応-1 モノマー(a)がカルボン酸ハライド、クロロホーメート化合物、ホスゲン系化合物の場合)
モノマー(a)がカルボン酸ハライド、クロロホーメート化合物、あるいはホスゲン系化合物の場合、ポリアルキレンイミンの活性水素含有アミノ基である第一アミノ基および第二アミノ基が各種モノマーと反応し、カルボン酸ハライドの場合はアミド結合が、クロロホーメート化合物の場合はウレタン結合が、ホスゲン系化合物の場合はポリエチレンイミン同士を架橋することで尿素結合が生成する。その際同時にハロゲン化水素が生成する。
【0044】
化合物(c)が金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)である場合には、この発生したハロゲン化水素により無機成分の析出反応が生じる。例えば珪酸ナトリウムを使用した場合では末端の−Si−ONaがシラノール基(−Si−OH)となる。生成したシラノール基が複数会合して脱水重縮合反応を生じて(−Si−O−Si−)の結合が生成することでシリカが固化、析出する。同様な反応は金属化合物(c−1)としてスズ酸ナトリウムを使用した場合は、酸化スズが、アルミン酸ナトリウムを使用した場合は酸化アルミニウムが生成する。その際、副生成物としてハロゲン化アルカリが発生するが、これらは合成系中の水や洗浄工程での水に溶解することで、合成系外に排出される。
【0045】
(粘土鉱物の層剥離)
一方、化合物(c)が粘土鉱物(c−3)である場合には、以下のような複合化反応が生じると推定される。水存在化で膨潤した粘土鉱物はポリアルキレンイミンとモノマー(a)との反応により発生したハロゲン化水素によりアルカリ金属が層間より除去され、負電荷を持つ粘土層間同士の反発により合成系中で微分散する。このままでは不安定な存在であると推定されるが、粘土層周辺ポリアミド等の無機分散性の極性基により強い相互作用を受けることで層間が剥離した状態でポリマー中に分散されると考えられる。このとき、ポリアルキレンイミンが例えば重量平均分子量1000以下の低分子量であれば粘土層間にポリマーが入りやすく、より粘土の剥離が容易となる。
【0046】
(有機無機複合体の合成反応-2 モノマー(a)がカルボン酸無水物の場合)
モノマー(a)が例えばカルボン酸無水物である場合は、カルボン酸無水物と活性水素含有アミノ基である第一アミノ基および第二アミノ基とが反応することで、カルボン酸無水物がアミド結合とカルボン酸とに化学変化する。カルボン酸は解離性の高いプロトンを保有しているため、化合物(c)として金属化合物(c−1)あるいは珪酸アルカリ(c−2)を使用した場合には、金属化合物(c−1)あるいは珪酸アルカリ(c−2)が有するアルカリ金属イオンとイオン交換して、アルミノール基(金属化合物(c−1)がアルミン酸アルカリの場合)や、シラノール基(珪酸アルカリ(c−2)を用いた場合)が生成する。続いてこれらが脱水重縮合することにより、無機成分が析出する。また化合物(c)として粘土鉱物(c−3)を使用した場合には、粘土鉱物層間のアルカリ金属イオンが、金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)のアルカリ金属イオンでの場合と同様に補足されることで、分散性が良好になる。
【0047】
(無機分散性が良好となる原因の推定)
モノマー(a)の種類により無機成分の反応状態は若干異なるが、いずれのモノマーを用いた場合でも、ポリアルキレンイミンとモノマーとの反応部位には、アミド結合、尿素結合、もしくはウレタン結合が生成し、その基の近傍でプロトンが発生する。析出もしくは微分散した無機成分は該水素結合性が強い基の近傍にあるため、良分散が達成できる。また、前述の特許文献1〜3は二価の反応部位を持つモノマー同士の反応を生じさせポリマー化させると同時に無機成分を析出させているが、反応性の乏しいモノマー同士の反応ではポリマー化に比して、無機成分の析出が先行する場合も多く、ボトムアップ型合成にも関らず無機析出が大きくなる問題点があるが、本発明の手法では複合体合成系中に予め高分子成分が含まれているため無機成分の析出が制限されるために、得られる無機成分がより微粒化しやすい利点がある。
【0048】
(有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)の共存方法)
前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させるには、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが接触する環境があれば特に限定はなく、通常は、攪拌翼を有する1つの反応釜に前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを同時に仕込めばよい。反応温度は常温以下が好ましく具体的には0℃〜30℃の範囲が望ましい。また、加圧や減圧は特に必要としない。有機無機複合体の合成反応は、用いるモノマー種や反応装置、スケールにもよるが、通常30分以下の短時間で完結する。
【0049】
(製造装置)
本発明で用いる製造装置としては、有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを良好に接触反応させることができる製造装置であればとくに限定されず連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。連続式の具体的な装置としては大平洋機工株式会社製「ファインフロ−ミルFM−15型」、同社製「スパイラルピンミキサSPM−15型」、あるいは、インダク・マシネンバウ・ゲーエムベー(INDAG Machinenbaugmb)社製「ダイナミックミキサDLM/S215型」などが挙げられる。また、バッチ式の場合は有機溶液と水溶液の接触を良好に行わせる必要があるので、アンカ−翼やマックスブレンド翼やファウドラ−翼等の攪拌力が強い攪拌装置を用いるのが好ましい。
【0050】
(有機無機複合体の無機成分)
本発明の製造方法により得られる有機無機複合体の無機成分は、使用する金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)又は粘土鉱物(c−3)により得られる形状、性質が異なるので、目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、金属化合物(c−1)を用いた場合には、無機成分は、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムの金属酸化物類が得られ、該金属酸化物の原料であるアルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ、炭酸ジルコニウムアルカリは安価である。また珪酸アルカリ(c−2)を使用した場合には無機成分としてシリカが得られ、無機粒径の小さい有機無機複合体が得られる。また粘土鉱物(c−3)を使用した場合には、無機成分の形状が高アスペクト比であり、得られる有機無機複合体に様々な機能を付与することができる。また本発明の製造方法は、得られる無機成分の粒径が小さいことも特徴の1つであり、平均粒径が500nm以下、好ましくは5nm〜100nmの有機無機複合体を得ることができる
【0051】
(有機無機複合体全量100質量%に対する無機成分の含有率)
本発明で得られる有機無機複合体の、金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)又は粘土鉱物(c−3)に由来する無機成分は、無機材料が持つ耐熱性、耐摩耗性等、表面硬度、放熱特性等の特性を付与する。
従って、該無機成分の有機無機複合体全量100質量%に対する含有率は一定以上であることが好ましく、好ましくは10〜60質量%であり、更に好ましくは20〜60質量%であり、最も好ましくは30〜60質量%である。該含有率が多くなりすぎると、シ−ト化や積層板等への加工性、あるいは他の樹脂への混練性が損なわれる場合がある。
【実施例】
【0052】
以下に具体例をもって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
実施例1〜7に有機無機複合体の製造法を示す。
(実施例1)
(ポリエチレンイミン/アルミン酸ナトリウム/ベンジルクロライド(1価の官能基)の反応物の製造法)
トルエン52gを有機溶剤として、本有機溶剤にモノマー(a)のカルボン酸ハライドとしてベンジルクロライド5.88gを100cmビーカー中常温下でスターラーで攪拌し溶解して、有機溶剤溶液(1−1)を得た。次に、300cmの三口フラスコ中に、イオン交換水60gにポリアルキレンイミンとして、ポリエチレンイミン(エポミンP−1000、日本触媒製、分子量7万、樹脂分30質量%の水溶液)6.02g、金属化合物(c−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の3.69gを入れ常温下でアンカー翼により10分間攪拌することにより透明淡黄色均一な水溶液(2−1)を得た。該水溶液を150rpmで攪拌しつつ、有機溶剤溶液(1−1)を10秒間かけて滴下した。有機溶剤溶液の滴下に伴い白色物が速やかに析出した。有機溶剤溶液の滴下が終了した時点で攪拌回転数を200rpmに上げ、室温下で30分間攪拌を継続することで白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。
【0054】
(複合体の洗浄、乾燥処理)
このスラリーを95mmφのヌッチェ上に目開き4μmの濾紙を設置し0.015MPaで減圧濾過することにより白色のペースト状の含液有機無機複合体を得た。この粉体をメタノ−ル200g中に分散させ常温下で30分間攪拌することによりメタノ−ル洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過することで含メタノ−ル有機無機複合体を得た。これを引き続き蒸留水250g中に分散させ常温下で30分間攪拌することにより水洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過することで含水有機無機複合体を得た。これを150℃で5時間熱風乾燥することにより、白色の反応物−1を得た。
【0055】
(実施例2)
(ポリエチレンイミン/水ガラス3号/トリメトキシ安息香酸クロライド(1価の官能基)の反応物の製造法)
モノマー(a)として3,4,5−トリメトキシ安息香酸クロライド10.3gを用いた以外は実施例1と同様な方法で有機溶剤溶液(1−2)を得た。次にアルミン酸ナトリウムの代わりに水ガラス3号14.6gを用いた以外は実施例1と同様な方法で透明均一な水溶液(2−2)を得た。これを実施例1と同様な方法で白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。これを実施例1と同様な洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−2を得た。
【0056】
(実施例3)
(ポリエチレンイミン/メタ珪酸ナトリウム/無水フタル酸(1価の官能基)の反応物の製造法)
有機溶剤溶液としてアセトン47g、モノマー(a)として無水フタル酸6.22gを用いた以外は実施例1と同様な方法で有機溶剤溶液(1−3)を得た。次にアルミン酸ナトリウムの代わりにメタ珪酸ナトリウム6.36gを用いた以外は実施例1と同様な方法で透明均一な水溶液(2−3)を得た。これを実施例1と同様な方法で白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。これを実施例1と同様な洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−3を得た。
【0057】
(実施例4)
(ポリエチレンイミン/炭酸ジルコニウムカリウム/塩化アジポイル(2価の官能基)の反応物の製造法)
有機溶剤溶液としてトルエン52g、モノマー(a)として塩化アジポイル3.84gを用いた以外は実施例1と同様な方法で有機溶剤溶液(1−4)を得た。次にアルミン酸ナトリウムの代わりに炭酸ジルコニウムカリウムの20質量%水溶液(ジルメル1000;日本軽金属株式会製)14.8gを用いた以外は実施例1と同様な方法で透明均一な水溶液(2−4)を得た。これを実施例1と同様な方法で白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。これを実施例1と同様な洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−4を得た。
【0058】
(実施例5)
(ポリエチレンイミン/スズ酸ナトリウム/トリホスゲン(2価の官能基)の反応物の製造法)
有機溶剤溶液としてトルエン52g、モノマー(a)としてトリホスゲン2.08gを用いた以外は実施例1と同様な方法で有機溶剤溶液(1−5)を得た。次にアルミン酸ナトリウムの代わりにスズ酸ナトリウム・3水和物7.85gを用いた以外は実施例1と同様な方法で透明均一な水溶液(2−5)を得た。これを実施例1と同様な方法で白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。これを実施例1と同様な洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−5を得た。
【0059】
(実施例6)
(ポリエチレンイミン/酸化亜鉛の水酸化ナトリウム水溶液(亜鉛酸ナトリウム)/無水ピロメリット酸(2価の官能基)の反応物の製造法)
水酸化ナトリウム38質量%水溶液20gに、酸化亜鉛4gを室温下で60分攪拌し完全に溶解させることで亜鉛酸ナトリウムの水溶液を得た。
次に、有機溶剤溶液としてアセトン47g、モノマー(a)として無水ピロメリット酸4.58gを用いた以外は実施例1と同様な方法で有機溶剤溶液(1−6)を得た。次にアルミン酸ナトリウムの代わりに、前記、亜鉛酸ナトリウムの水溶液3.22gを用いた以外は実施例1と同様な方法で透明均一な水溶液(2−6)を得た。これを実施例1と同様な方法で白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。これを実施例1と同様な洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−6を得た。
【0060】
(実施例7)
(ポリエチレンイミン/粘土鉱物/無水トリメリット酸クロライド(2価の官能基)の反応物の製造法)
有機溶剤溶液としてアセトン47g、モノマー(a)として無水トリメリット酸クロライド4.58gを用いた以外は実施例1と同様な方法で有機溶剤溶液(1−7)を得た。
次に、イオン交換水60gに粘土鉱物(c−3)として合成ヘクトライト(化学式Na0.33(Mg2.67Li0.33)Si410(OH)2 :コープケミカル株式会社製“ルーセンタイト SWN”)1.38gと水酸化ナトリウム1.20gを入れ常温下で15分間攪拌することにより、半透明均質透明な水溶液を得た。これに、ポリアルキレンイミンとして、ポリエチレンイミン(エポミンSP−006、日本触媒製、分子量600)1.81gを溶解させて、半透明均質水溶液(2−7)を得た。これを実施例1と同様な合成処理を行うことで白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。これを実施例1と同様な洗浄、乾燥処理を行うことで、白色の反応物−7を得た。
【0061】
比較例1〜3に、ポリエチレンイミンの代わりにジアミンを用い、モノマー(a)に1官能の材料を用いた場合における有機無機複合体の合成検討例を示す。
【0062】
(比較例1;実施例1の比較)
(ジアミン/アルミン酸ナトリウム/ベンジルクロライド(1価の官能基)の反応物の合成検討)
実施例1のポリアルキレンイミンの代わりに、芳香族ジアミンであるメタフェニレンジアミン2.11gを溶解した水溶液(2−H1)を用いた以外は実施例1と同様な操作で、材料の合成を行った。実施例1とは異なり有機溶媒溶液の滴下と同時の材料析出は見られなかった。その後攪拌を継続したところ15分過ぎから淡黄色の粉状物の析出が見られた。本材料を実施例1と同様な方法で洗浄、乾燥することで反応物を得た。
【0063】
(比較例2;実施例2の比較)
(ジアミン/水ガラス3号/トリメトキシ安息香酸クロライド(1価の官能基)の反応物の合成検討)
実施例2のポリアルキレンイミンの代わりに、脂肪族ジアミンである1,6−ジアミノヘキサン2.27gを溶解した水溶液(2−H2)を用いた以外は実施例2と同様な操作で、材料の合成を行った。実施例2とは異なり有機溶媒溶液の滴下と同時の材料析出は見られなかった。その後攪拌を継続したところ5分過ぎから透明ゲル状物の析出が見られた。本材料を強制的に実施例1と同様な方法で洗浄、乾燥することで反応物を得た。
【0064】
(比較例3;実施例3の比較)
(ジアミン/メタ珪酸ナトリウム/無水フタル酸(1価の官能基)の反応物の合成検討)
実施例3のポリアルキレンイミンの代わりに、脂肪族ジアミンである1,6−ジアミノヘキサン2.27gを溶解した水溶液(2−H3)を用いた以外は実施例2と同様な操作で、材料の合成を行った。実施例2とは異なり有機溶媒溶液の滴下と同時の材料析出は見られなかった。その後攪拌を継続したところ5分過ぎから白色粉末状物の析出が見られた。本材料を実施例1と同様な方法で洗浄、乾燥することで反応物を得た。
【0065】
参考例1〜2に、ポリエチレンイミンの代わりにジアミンを用い、モノマー(a)に2官能のものを用いた場合における有機無機複合体の合成検討例を示す。
(参考例1)
(ジアミン/炭酸ジルコニウムカリウム/塩化アジポイルの反応物の合成検討;実施例4との比較)
実施例4のポリアルキレンイミンの代わりに、脂肪族ジアミンである1,6−ジアミノヘキサン2.27gを溶解した水溶液を用いた以外は実施例4と同様な方法で均質透明な水溶液(2−S1)を得た。また、実施例4と同一組成の有機溶剤溶液(1-S1)を得た。水溶液をオスタライザー社製ブレンダー瓶中に仕込み、毎分10000回転で攪拌しながら、有機溶液(1-S1)を20秒かけて滴下した。生成したゲル状物をスパチュラで砕き、さらに毎分10000回転で40秒間攪拌した。この操作で得られたパルプ状の生成物が分散した液を実施例1と同様な方法で洗浄、乾燥することで反応物を得た。
【0066】
(参考例2)
(ジアミン/スズ酸カリウム/トリホスゲンの反応物の合成検討;実施例5との比較)
実施例5のポリアルキレンイミンの代わりに、脂肪族ジアミンである1,6−ジアミノヘキサン2.27gを溶解した水溶液を用いた以外は実施例4と同様な方法で均質透明な水溶液(2−S2)を得た。また、実施例5と同一組成の有機溶剤溶液(1−S2)を得た。得られたこれらの液を参考例1と同様な方法で混合攪拌を実施することでパルプ状の生成物が分散した液を得た。これを実施例1と同様な方法で洗浄、乾燥することで反応物を得た。
【0067】
以上各実施例、比較例、及び参考例で得られた反応物を、以下の方法で測定を行った。
(測定1)無機化合物の含有率の測定法
得られた反応物を150℃2時間の熱風乾燥による絶乾後に精秤(複合体質量)し、これをマッフル炉を用い空気中、600℃で2時間焼成しポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量とした。下式により灰分含有率を算出した。
【0068】
【数1】


が成り立つ。実施例1〜7及び参考例1、2では一定量が焼失し有機無機複合体が生成していることが明らかとなった。一方比較例1〜3では、灰分含有率が90質量%を超え、実質的に有機成分は複合化できていないことが判明した。
【0069】
(測定2)無機成分の検証
(蛍光X線での測定)
反応物粉末約1gを、開口部が直径10mmの測定用ホルダ−にセットし測定用試料とした。該試料を理化学電気工業株式会社製蛍光X線分析装置「ZSX100e」を用いて全元素分析を行った。得られた全元素分析の結果を用い、測定用試料の試料デ−タ(粉末、補正成分;セルロ−ス)を装置に与えることにより該複合体中の元素存在割合を算出した。
【0070】
いずれの実施例で得られた反応物も、金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)に由来する無機元素(アルミン酸ナトリウムの場合はアルミニウム、炭酸ジルコニウムカリウムの場合はジルコニウム、珪酸ナトリウム(水ガラス)の場合はケイ素、スズ酸ナトリウムの場合はスズ、亜鉛酸ナトリウムの場合は亜鉛が検出された。また、粘土鉱物(c−3)を用いた場合には合成ヘクトライト由来のマグネシウム、ケイ素が検出された。従って、これらの実施例では目的とする無機化合物の複合化がされていることが示された。また、各比較例、参考例とも無機原料に対応する無機成分が検出できた。
【0071】
実施例1,2、4、5の有機溶剤溶液中のモノマーが、酸ハロゲン化物、ホスゲン系化合物の場合では金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)中のアルカリ金属化合物がモノマー中のハロゲン(塩素)と反応しハロゲン化アルカリ(NaCl、KCl)として洗浄工程中に系外に排出されるため本測定では、アルカリ金属元素は痕跡程度しか検出されなかった。一方、実施例3,6,7の有機溶剤溶液中のモノマーがカルボン酸無水物を含有する場合では、アルカリ金属(ナトリウム)元素が検出された。
【0072】
(測定3)ポリマー成分の検証
(フ−リエ変換型赤外分光分析:FT−IRの測定)
各実施例、比較例、参考例で得られた反応物の粉末をKBr粉末と混合粉砕した試料を作製し、KBrディスク法によりFT−IR(日本分光(株)製FT/IR−550)による測定を行った。いずれの実施例、参考例でも、ポリアルキレンイミンと各種モノマーとの反応により生成するアミド結合、もしくは尿素結合を示す吸収ピ−クが明確に現れ、有機成分の合成が良好に行われていることが確認できた。一方、ポリアルキレンイミンの代わりにジアミンを用いた比較例1〜3では、合成操作の後に得られた粉末ではアミド結合のピークは観測されなかった。
【0073】
(測定4)透過型電子顕微鏡(TEM)観察および元素マッピング
実施例1〜7及び参考例1、2で得られた反応物を、170℃、20MPa/cmの条件で2時間熱プレスを行い、厚さ約1mmの反応物からなる薄片を得た。これを収束イオンビ−ム装置を用いて厚さ75nmの超薄切片とした。得られた切片をTEM観察と同時にEDS元素分析による元素マッピングが可能なエネルギーフィルターTEMである「JEM−2010EFE」(日本電子株式会社製)を用いて、各々50万倍のTEM写真をベースにして無機粒径、形状の観察及び元素マッピングを行った。
【0074】
(測定5)無機主成分の粒径測定
無機成分の粒径は、TEM写真より100個の粒径を測定し、その平均値を平均粒径とした。尚、粒子形状により粒径の測定方法を下記の通りに行った。
(粒子が略球状の場合):任意の1辺の長さをその粒子の粒径とした。無機成分がシリカ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズの場合、この方法で測定した。
(粒子が2以上のアスペクト比を持つ場合):粒子の長軸と短軸の長さをそれぞれ測定し、(長軸+短軸)/2の数値をその粒子の粒径とした。無機主成分が酸化アルミニウム、粘土鉱物の場合は、この方法で測定した。
【0075】
以下、表1に実施例1〜7の結果を、表2に比較例1〜3及び参考例1,2の測定結果をまとめた。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1に示したとおり、ポリアルキレンイミンの1級または2級アミンと、この部位と反応性のモノマー(a)とを反応させ、その際に発生するハロゲン化水素、またはカルボン酸で無機成分を析出させることにより有機無機複合体を合成することができた。得られた複合材料の粒径は何れも60nm以下と十分に小さい状態で含有率を15〜55%と高くすることができた。さらに、無機原料の種類を変更することで多種の無機材料を複合化することができた。加えて、実施例の1〜3では安価な1価の反応基を持つモノマーを原料に使用して良質な複合材料を得ることができた。
【0079】
一方、比較例1〜3で示したとおり、ポリアルキレンイミンの代わりにジアミンを用い、1価の反応基を持つモノマー(a)を使用した場合、ポリマーを析出させることが出来ず、無機成分の中和析出のみが生じ複合材料を得ることが出来なかった。また、モノマー(a)として2価の反応基を持つモノマーを用いた参考例は、ポリアルキレンイミンを用いた場合よりも無機成分が粗大化していた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明で得られた有機無機複合体は加熱プレス等の処理で成型が可能であり、各種構造材料として使用することができる。また、得られた有機無機複合体を他の樹脂に溶融混練、添加することにより、該樹脂に対して本複合体中の無機成分(c)による強度、弾性率、耐衝撃性、電子伝導性、帯電防止特性等の性質を付与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸ハライド、クロロホーメート化合物、ホスゲン系化合物、及びカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマー(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、ポリアルキレンイミン、及び、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)、又は粘土鉱物(c−3)を含有する水溶液(2)とを、
少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることでモノマー(a)とポリエチレンイミンとを反応させると同時に無機成分を析出させることを特徴とする有機無機複合体の製造方法。
【請求項2】
前記無機成分の平均粒径が5nm〜100nmである請求項1に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の有機無機複合体の製造方法により得た、100質量%中の無機成分の含有率が10〜60質量%である有機無機複合体。

【公開番号】特開2011−213786(P2011−213786A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81245(P2010−81245)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】