説明

有機物の急速炭化方法

【課題】
有機廃棄物を過熱水蒸気で加熱、炭化する際に、炭化開始温度(350℃)まで急速に昇温できる方法に関する。
【解決手段】
過熱水蒸気で有機物を直接加熱して炭化する際に、過熱水蒸気と一緒に引火点が200℃以上、あるいは発火点300℃以上の油を噴霧することを特徴とする。
上記油は200℃以上の温度域で噴霧することを特徴とする。
また過熱水蒸気で有機物を直接加熱して炭化する際に、該有機物に引火点が200℃以上、あるいは発火点300℃以上の油を混合することを特徴とする。
上記油は、上記有機物の重量に対して1/200〜1/400の割合で噴霧あるいは混合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物の急速炭化方法に係わり、更に詳しくは、有機廃棄物を過熱水蒸気で加熱、炭化する際に、200℃以上の温度から炭化開始温度まで急速に昇温できる急速炭化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機廃棄物を過熱蒸気で炭化する技術はすで多く開示されている。たとえば特許文献1に開示されている。過熱水蒸気発生装置についても特許文献2、特許文献3に開示されているが、従来技術はいずれも過熱水蒸気の雰囲気で有機物を加熱して炭化すること、およびこのための過熱水蒸気発生装置に注力されているに過ぎない。
有機物を収容した釜に過熱蒸気を吹きこんで、有機物を加熱するとき、200℃程度までは比較的早く昇温するが、200℃から炭化の始まる350℃までは、200℃まで昇温する時間の約3倍の時間かかかる。昇温速度を早くするためには、過熱水蒸気の供給能力、つまりボイラーとスーパーヒーターの設備を増やす必要があるが、設備費が過大になる。
設備の能力を上げることなく、200℃から炭化の始まる350℃までを一気に昇温させることができないか、業界の大きな命題であった。
【0003】
【特許文献1】特開昭55−89385号公報
【特許文献2】特開2002−333103号公報
【特許文献3】特開2002−168401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はかかる問題点にかんがみてなされたもので、その目的は、設備を増強することなく、過熱水蒸気の温度を特別高くしなくても200℃から炭化の始まる350℃までを一気に昇温させることができるきわめて経済的な急速炭化方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記問題に関して鋭意研究を行い、下記の知見を得た。
すなわち、
有機物を炭化する際に、過熱水蒸気と一緒に引火点が200℃以上あるいは発火点が300℃以上の油を噴霧すると、炭化の始まる350℃まで一気に昇温すること。また有機物に引火点が200℃以上あるいは発火点300℃以上の油を混合すると、200℃を超えた温度から350℃まで一気に昇温すること。
以上の知見を得た。
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、下記(1)〜(6)の構成からなるものである。
過熱水蒸気で有機物を直接加熱して炭化するに際して、過熱水蒸気と一緒に引火点が200℃以上あるいは発火点300℃以上の油を噴霧することを特徴とする有機物の急速炭化方法。
上記油は、200℃以上の温度域で噴霧することを特徴とする上記1に記載の有機物の急速炭化方法。
過熱水蒸気で有機物を直接加熱して炭化するに際して、該有機物に引火点が200℃以上あるいは発火点300℃以上の油を混合することを特徴とする有機物の急速炭化方法。
上記油は、上記有機物の重量に対して1/200〜1/400の割合で噴霧あるいは混合することを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の有機物の急速炭化方法。
上記油が、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、ひまし油、落花生油、菜種油、米ぬか油、ごま油、綿実油、コーン油、大豆油、ひまわり油、きり油、亜麻仁油、ニシン油、いわし油、鯨油のいずれかである上記4に記載の有機物の急速炭化方法。
上記油は、発火点の異なる油を混合して使用することを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の有機物の急速炭化方法。
【発明の効果】
【0006】
設備能力を増強することなく、炭化開始温度まで急速昇温が可能である。
安いエネルギーコストで急速炭化が可能である。
排ガスが無臭になる。消臭効果がある。
投入有機物原料が自然爆裂するので機械的な撹乱操作は不要である。
油混合により、投入有機物原料の流動性が良くなり、投入、搬送がスムースに実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の有機物とは、いわゆる有機質廃棄物全般を意味するものである。生ごみ、汚泥、食品の加工粕、ビール粕、焼酎粕、おから、残飯、動物、家畜、鳥、人間の糞尿、動物、鳥、家畜の死体等々である。これらは必要に応じて細かく分断して炭化炉に投入する。
【0008】
噴霧する油、混合する油には、引火点が200℃以上あるいは発火点が300℃以上の油が好ましい。噴霧された油、あるいは混合された油は、過熱水蒸気の雰囲気にわずかに残存する酸素(0.6%程度)と反応して燃焼する。従って雰囲気中の酸素は燃焼で消費されて極めて良好な無酸素還元雰囲気が得られる。
【0009】
引火点が200℃以上あるいは発火点温度が300℃以上の油としては、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、ひまし油、落花生油、菜種油、米ぬか油、ごま油、綿実油、コーン油、大豆油、ひまわり油、きり油、亜麻仁油等の植物油、ニシン油、いわし油等の魚油、および鯨油がある。
なお本発明に適用できる油は上記油に限定されるものではないことは言うまでもないことである。引火点が200℃以上あるいは発火点温度が300℃以上の油は植物油、動物油、魚油、機械油等、種類に係わらず全て本発明に包含されるものである。
【0010】
炉内は少なくとも炭化開始温度350℃以上に加熱する必要があるので、炉内に吹き込む過熱水蒸気の温度は少なくとも350℃を超える温度が必要である。
炉内に着火源が存在しない場合でも、発火点300℃以上の油は、200℃程度まで加熱されて350℃を超える温度の過熱水蒸気で直接加熱されると発火燃焼する。一旦燃焼が始まると、着火源が存在するので、引火が起こり、燃焼が連鎖的に継続して起こることとなる。
本発明は200℃以上の昇温速度を早くすることが目的であるので、200℃以下の温度で着火燃焼させる必要はない。従って発火点温度を300℃以上、引火点の温度を200℃以上に限定するのはこのためである。
【0011】
混合する油、あるいは噴霧する油の量は、有機物重量に対して1/200〜1/400の割合で噴霧、あるいは混合する。
下限値(1/400)未満では急速昇温ができない。上限(1/200)を超える量は不経済であるし、未燃焼部分が残る。つまり本発明では過熱水蒸気の中に存在するわずかな酸素を使って燃焼させるので、必要以上に加えることは当然未燃焼の油が残ることとなり、経済的に極めて不経済である。若干未燃焼分が残る程度が適量である。
噴霧は連続的である必要はなく、小量づつ間歇的に噴霧すればよい。
【0012】
油は、引火点、発火点の異なるものを、混合して添加すると、引火点、発火点の低いものから順に、連鎖的に燃焼が起こり、高温まで急速昇温させることができる。
【実施例1】
【0013】
有機物 :下水汚泥、牛糞、ビール粕、オカラ、焼酎粕
油(植物油):菜種油、大豆油、オリーブ油、ひまし油、落花生油、パーム油、ヤシ油
アマニ油、ひまわり油、コーン油、ゴマ油
炭化炉:内容積φ700×900mmの中に、上記有機質廃棄物を各50kg投入して、
380℃過熱水蒸気を吹き込んで、炉内を1.1気圧に保持した。
炉内温度200℃まではいずれも概ね30分で昇温した。
油の添加量と200℃から350℃まで到達するのにかかった時間を表1に示す。
油の添加量は有機物に対する重量割合で表示した。
油は5分ごとに5回に分けて過熱水蒸気と一緒に噴霧した。
【0014】
【表1】

【0015】
結果
有機物の重量に対して1/200〜1/400の範囲で噴霧すると、200℃から300℃へ約30分程度で急速昇温することが判明した。また炭化時の熱分解排ガスは無臭であった。
本発明は200℃から300℃への急速昇温と熱分解ガスの消臭に顕著な効果があることが判明した。
【実施例2】
【0016】
有機物 :下水汚泥、牛糞、ビール粕、オカラ、焼酎粕
油(植物油):菜種油、大豆油、オリーブ油、ひまし油、落花生油、パーム油、ヤシ油
アマニ油、ひまわり油、コーン油、ゴマ油
炭化炉:内容積φ700×900mmの中に、上記有機質廃棄物を各50kg投入して、
380℃過熱水蒸気を吹き込んで、炉内を1.1気圧に保持した。
炉内温度200℃までは概ね30分で昇温した。
油の添加量と200℃から350℃まで到達するのにかかった時間を表1に示す。
油の添加量は有機物に対する重量割合で表示した。
油は、有機物と混合して炭化炉に投入した。
【0017】
【表2】

【0018】
結果
有機物に油を混ぜることによって炭化炉への投入がスムースであった。
有機物の重量に対して1/200〜1/400の範囲で混合すると、200℃から300℃へ約30分程度で急速昇温することが判明した。
また炭化時の熱分解ガスは昇温無臭であった。
本発明は200℃から300℃への急速昇温と熱分解ガスの消臭に顕著な効果があることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0019】
下水汚泥、畜産の糞尿等の悪臭のある有機質廃棄物でも無臭かつ安価に処理できるので、廃棄物処理の分野で極めて有用な技術である。
炭化により減容効果が極めて大きく、埋立地枯渇の問題の解消に大きく貢献するものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
過熱水蒸気で有機物を直接加熱して炭化するに際して、過熱水蒸気と一緒に引火点が
200℃以上、あるいは発火点300℃以上の油を噴霧することを特徴とする有機物の急速炭化方法。
【請求項2】
上記油は、200℃以上の温度域で噴霧することを特徴とする請求項1に記載の有機物の急速炭化方法。
【請求項3】
過熱水蒸気で有機物を直接加熱して炭化するに際して、該有機物に引火点が200℃以上、あるいは発火点300℃以上の油を混合することを特徴とする有機物の急速炭化方法。
【請求項4】
上記油は、上記有機物の重量に対して1/200〜1/400の割合で噴霧あるいは混合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機物の急速炭化方法。
【請求項5】
上記油が、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、ひまし油、落花生油、菜種油、米ぬか油、ごま油、綿実油、コーン油、大豆油、ひまわり油、きり油、亜麻仁油、ニシン油、いわし油、鯨油のいずれかである請求項4に記載の有機物の急速炭化方法。
【請求項6】
上記油は、発火点の異なる油を混合して使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機物の急速炭化方法。


【公開番号】特開2006−169383(P2006−169383A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364190(P2004−364190)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(301047957)株式会社テラボンド (11)
【Fターム(参考)】