説明

有機発光ダイオード用の層配置

本発明は、上部放射型の有機発光ダイオード(OLED)用の層配置に、および該層配置を含んでなる表示装置および照明装置に関する。層配置は、下側電極(A)、上側透明電極(K)、および電極(A、K)間に、下側および上側電極(A、K)と接触するように配置された有機層区域(O)を含んでなる。光は、該有機層中で、電子および空孔の再結合により発生させることができ、上側電極(K)を通し放出される。下側電極(A)は、層構造を有し、下側電極層は金属層である。本発明は、保護および変性層が、下側電極(A)の層構造中で金属層の上に配置され、有機層区域(O)と接触することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオード(OLED)を有する配置に、および該配置を使用する表示装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報の画像表示は、日常生活の多くの分野で益々大きな役割を果たすようになっている。技術装置は、使用者と通信および使用者に情報提供するために使用される様々な大きさの表示装置を備えることが多くなっている。画像出力品質に対する必要条件は、常に厳しくなっている。
【0003】
現在使用されている表示装置の大部分は、陰極線管または液晶ディスプレイの原理に基づいている。さらに、他の照明ディスプレイ技術、例えばプラズマ、エレクトロルミネセンス、真空蛍光または電場放出ディスプレイ、も存在する。近年、確立された技術に対する、有機発光ダイオードを使用するディスプレイの競争が益々激しくなっている。この技術の利点としては、華麗な色、優れたコントラスト、自己放射能力、低温でも急速な切換時間、広い観察角度、および大きなフィリングファクターが挙げられる。ディスプレイに加えて、OLEDは、光素子としても使用される。この場合、OLEDの優位性は、所望のどの色においても、エネルギー効率が高いこと、作動電圧が低いこと、および平面放射成分を発生する能力にある。
【0004】
無機発光ダイオードと対照的に、有機発光ダイオードは、平面成分である。OLEDの場合、有機材料から構成された一個以上の層を備えた有機層区域が2個の電極間に埋め込まれており、電極の少なくとも一方は透明でなければならない。2個の電極の中の透明な方には、導電性酸化物、いわゆるTCO(透明導電性酸化物)、が一般的に使用される。電極および有機層区域が上に配置されている基材と有機層区域との間の電極(下側電極)が透明である場合、これは「底部放射OLED」と呼ばれるのに対し、他方の電極(上側固定モデル電極)が透明である場合、これは「上部放射OLED」と呼ばれる。両面が透明であるコンポーネントも形成できる。様々な実施態様の全てにおいて、放射光は、いわゆる放射区域で、電子および欠如電子(空孔)の放射性再結合に基づいて発生する。この光は、透明電極を通してコンポーネントから放出される。
【0005】
基材上に配置された下側電極は、多くの特徴を有する必要がある。例えば、底部放射コンポーネントに十分な解決策はITOで得られている。対照的に、上部放射コンポーネントでは、好適な電極材料を選択することは困難である。OLEDを、例えば能動的マトリックスディスプレイのいわゆるバックプレーン(これは基材を形成する)に一体化できるようにするには、上部放射OLEDが必要である。この目的には、無定型ケイ素(a−Si)または多結晶質ケイ素(ポリ−Si)バックプレーンを製造するための工場で、バックプレーンを、好ましくはそれらのTFT電子回路(TFT−薄膜トランジスタ)および最終的な接点と共に製造する。次いで、これらのバックプレーンを、OLED製造現場に、好ましくは空輸する。次いで、例えば真空蒸着により、OLEDをバックプレーンの最終的な上側接点に付ける。この場合、バックプレーンの上側接点は、OLEDの基本接点を形成する。このようにして、にして製造されるディスプレイデバイスのディスプレイ素子間の区域は、構造化された隔離層により互いに分離される。隔離層も、a−Siまたはポリ−Si工場で製造される。
【0006】
文書US2002/0117962A1は、上部放射型のOLEDを有する層配置を開示している。このOLEDの上側電極は透明陰極である。このOLEDの下側陽極(これは基材上に配置されている)は、2または3個の層を使用して形成される。金属層は、基材上に配置され、2個以上の金属層の積重構造でもよい。様々な金属または合金が金属層に提案されており、これを使用して、OLEDに好適な陽極を形成することができる。金属層は、可視スペクトルにある光に対して優れた反射能力を有する。この金属層には、同様に2個以上の層を有することができるバリヤー層を施す。バリヤー層の材料は、導電性でも、絶縁性でもよい。金属層は、バリヤー層により、バリヤー層上に配置された陽極変性層から物理的および化学的に分離される。陽極変性層の材料も、導電性でも、絶縁性でもよい。陽極から来る空孔用のイオン化エネルギーは、陽極変性層により設定され、これによって、その上に位置する有機層に対する安定した境界表面が可能になる。文書US2002/0117962A1は、金属層およびバリヤー層と陽極変性層の両方に対して、材料ならびに総厚に関する様々な実施態様を開示している。公知のOLEDにおける陽極の多層構造は、製造方法を複雑にしている。
【発明の開示】
【0007】
従って、本発明の目的は、OLED用の改良された層配置、ならびにその配置を使用する、容易に、コスト的に有利に製造できる改良された表示装置/照明装置を提供することである。
【0008】
この目的は、独立請求項1で特許権請求する層配置により、従属請求項19で特許権請求する表示装置により、独立請求項20で特許権請求する照明装置、および独立請求項21で特許権請求する方法により、達成される。
【0009】
本発明は、上部放射型の有機発光ダイオード(OLED)に使用する、下側電極、透明な上側電極、および該2電極の間で、該下側および該上側電極と接触して配置された有機層区域を有し、電子および空孔の再結合により光を発生することができ、該光が該上側電極を通して放出され、該下側電極が、下側電極層が金属層である層構造を有する層配置であって、該有機層区域と接触している保護および変性層が、該下側電極の該層構造中の該金属層上に配置されている、層配置を提供する。
【0010】
先行技術と比較して、本発明により達成される主要な利点は、上部放射OLED用の下側電極の層構造が、より簡単であり、さらに、このような、下記の本文に記載されている、接触層に対する多くの必要条件が、より効果的に満たされることである。
【0011】
驚くべきことに、上記の下側電極の層構造は、下側電極の各層の材料および厚さを適切に選択することにより、下記の有利な特徴を達成できることが分かった。
i. 可視スペクトル帯域における光に対する高い反射能力。
ii. 低い電気抵抗。
iii.粗さがほとんど無いこと。
iv.有機層区域用に注入された電荷キャリヤーに対するイオン化エネルギーの適合性。
v.例えば接触層からOLED層中への電荷キャリヤー注入に対するバリヤー形成の結果、この層機構でOLEDの特性を低下させる、通常の環境条件(酸素、湿分)における表面層の形成が回避される。
vi.電極を構造化する能力。
【0012】
これらの有利な特徴の全て、または個々の特徴の望ましい組合せは、本発明の層配置および本発明の表示装置/照明装置で達成することができる。
【0013】
本発明の有利な態様は、従属請求項の課題である。
【0014】
以下に、添付の図面を参照しながら、代表的な実施態様を使用し、本発明をより詳細に説明する。
【0015】
図1は、上部放射OLEDにおける下側電極10に使用する層構造を図式的に示す断面図である。図1に示す層構造の層を以下により詳細に説明する。図1に示す下側電極10用の層構造は、下記の層を有する。
(a)金属層
金属層11aは、最下層であり、厚さが10nm〜500nm、好ましくは40nm〜150nmであり、下記の特徴を有する。
−過度の電圧低下なしに、予め決められた電流を送ることができるように、導電率が十分に高い。電圧低下は約0.2V未満である。
−金属層11aの表面抵抗は、典型的には10Ω/sq未満、好ましくは1Ω/sq未満である。
−粗さレベルは低い。典型的には2nmRMS未満、好ましくは1nmRMS未満である。
【0016】
これらの特徴は、Cr、Ti、Mo、Ta等の金属、またはそれらの混合物、例えばCrMo、を使用することにより、達成される。Alも、層厚が75nm未満であれば、材料として使用できる。金属材料は、スパッタリング、熱的蒸着または電子線蒸着を使用して処理する。
【0017】
層11aは、好ましくは、本発明により設計された下側電極を備えたOLEDを、表示装置または照明装置で、OLEDを備えた表示素子に電流を送る接触接続のためのバックプレーンに使用する場合に使用する材料と同じ材料から構成される。これらの接触接続は、典型的には厚さが約150nmである。
【0018】
(b)別の金属層
図1から分かるように、厚さ約5nm〜80nm、好ましくは約15nm〜40nmの金属から構成された別の層11bを備えている。この別の層11bは、層11aと共に、積重構造で、下側電極10用の金属層12を形成する。金属層12は、下記の特徴を有する。
−反射能力が約50%を超える、好ましくは約80%を超える。
−過度の電圧低下なしに、予め決められた電流を送ることができるように、導電率が十分に高い。電圧低下は約0.2V未満である。層11aおよび11bから形成された金属層12の表面抵抗は、典型的には10Ω/sq未満、好ましくは1Ω/sq未満である。
−粗さレベルは低く、典型的には2nmRMS未満、好ましくは1nmRMS未満である。
【0019】
金属から構成された別の層11bは、高い反射能力を有する。好適な金属は、例えばAl、Agまたは反射性材料の成分が高い(>50%)合金、例えばAlTi合金、である。別の層11bに使用する材料は、スパッタリング、熱的蒸着または電子線蒸着を使用して処理する。別の層11bは厚さが小さいので、金属層12用の積重構造の全体的な粗さはなお約2nmRMS未満、好ましくは約1nmRMS未満である。
【0020】
(c)保護および変性層
図1から分かるように、金属、酸化物または他の窒化物から構成された、厚さが約2nm〜約50nm、好ましくは約5nm〜30nmの保護および変性層13も備えている。金属層12および保護および変性層13の積重構造は下記の特徴を有する。
−金属層12および保護および変性層13は、例えばエッチングにより構造化することができる。
−積重構造のイオン化エネルギーは、保護および変性層13用の材料を適切に選択することにより、その後に続く有機層区域に適合させる。
−保護および変性層13は、酸化を防止することにより、その下にある層11a、11bを保護する。
−反射能力が約50%を超える、好ましくは約80%を超える。
−過度の電圧低下なしに、予め決められた電流を送ることができるように、層の導電率は十分に高い。電圧低下は約0.2V未満である。積重構造の表面抵抗は、典型的には10Ω/sq未満、好ましくは1Ω/sq未満である。
−粗さレベルは低く、典型的には2nmRMS未満、好ましくは1nmRMS未満である。
【0021】
従って、保護および変性層13は、その下に位置する層11a、11bを、バックプレーンを輸送する際の酸化から、およびその後の処理の際の劣化から保護する。これらの特徴は、例えば下記の材料、すなわちTi、ITO、Cr、Mo、Ta、Ti、Ni、Ni、Ti、Ni、Pd、Pt、Pd、Pt、および他の材料、を保護および変性層13に使用することにより、達成することができ、ここでxおよびyは、適宜、1〜4である。これらの材料は、スパッタリング、熱的蒸着または電子線蒸着を使用して処理する。
【0022】
好ましい実施態様では、層11aは、MoまたはCrから構成され、別の層11bは、AlまたはAgから構成され、保護および変性層13は、TiNまたはTiOから構成される。
【0023】
図1に示す実施態様では、金属層12は、それぞれ上に詳細に説明した層11aおよび別の層11bを含んでなる。下側電極10の別の実施態様(図には示していない)は、金属層12が単層の形態にある点で、これとは異なっている。その場合、単層の金属層は、使用する材料および層厚を適切に選択することにより、単層として、金属層12に関して上に記載した特徴、例えば反射能力、導電率および粗さ、を有するように設計される。
【0024】
表示装置または照明装置で使用するための一実施態様では、層11a、11bを含む積重構造を構造化してから、保護および変性層13を施す。その場合、保護および変性層13は、構造化されていない形態で施される。
【0025】
下側電極10の機能性は、構造化されていない保護および変性層13によっても維持される。下側電極10を表示装置または照明装置におけるOLEDに使用する場合、保護および変性層13の横断方向導電率は、隣接する2個の表示/照明素子(ピクセル)間に短絡を生じないように、十分に低い必要がある(低クロストーク)。
【0026】
表示装置または照明装置を製造するためのバックプレーン製法では、層11a、別の層11bおよび保護および変性層13を含む積重構造を大きな区域上に取り付け、次いで、例えばエッチング方法により、横方向に構造化する。保護および変性層13は、層11a、11bを、さらなる処理の際の損傷から保護する。層11a、別の層11bおよび保護および変性層13を含む積重構造を一緒に構造化し得る方法を利用できない場合、代わりに、下記の変形製法を使用できる、
(1)層11aを施し、構造化する。次いで、別の層11bおよび保護および変性層13を施し、一緒に構造化する。
(2)層11aおよび別の層11bを施し、一緒に構造化する。次いで、保護および変性層13を、構造化せずに、施す。この場合、保護および変性層13の横断方向導電率は、低くなければならない。
(3)層11aおよび別の層11bを施し、一緒に構造化する。次いで、保護および変性層13を施し、構造化する。
【0027】
下側OLED接点の部品、特に下側電極10、は、外部エレクトロニクス用の接点パッドの形成にも使用するのが有利である。これは、下記の方法により達成することができる。
a)層11aを、ディスプレイを外部ドライブエレクトロニクスに接続するための副ディスプレイ接続部も形成するように構造化する。これらの接続部は、通常、フラットケーブルの接合により製造される。
b)a)で説明した種類の構造化は、層11aおよび別の層11b、すなわち金属層12、を施した後に、行うこともできる。
c)あるいは、金属層12および保護および変性層13を施し、それぞれ個別に、または一緒に、層の組合せが外部エレクトロニクス用の接続部も形成するように構造化する。
【0028】
変形製法(2)および(3)に基づく手順は、層11aおよび別の層11bを構造化する際に生じる別の層11bに対する損傷が十分に小さく、電荷キャリヤーをなお効果的に別の層11bから保護および変性層13中に注入できることにかかっている。さらに、別の層11bは、保護および変性層13を構造化している時(変形製法3)に損傷を受けてはならない。
【0029】
下側電極10用の層構造は、図1に関して説明したように、下側電極が陽極の形態にあり、光が、最上部に位置する透明陰極を通して放射される通常型のOLED、および陰極が下側電極により形成され、光が、最上部に位置する透明陽極を通して放射される反転OLEDの両方に使用することができる。このように設計された下側電極を備えたOLEDは、特に図2に例示するようなディスプレイ素子20a、20b、を備えた表示装置20に使用することができる。
【0030】
図2は、基材21上に後層22が配置され、該後層22が、一方で不動態化層として使用され、他方、OLED23、24の駆動に使用する電子部品が形成されている、ディスプレイ素子20を図式的に示す断面図である。後層22は、例えば公知のシリコンエレクトロニクスに基づいて設計される、すなわち、ドーピングされた、またはドーピングされていないケイ素から構成された、構造化された、または構造化されていない層、およびケイ素の酸化物または窒化物から構成された、構造化された、または構造化されていない不動態化層を備えている。OLED23、24用の下側電極23a、24aは、後層22に施されている。下側電極23a、24aは、図1に関連して上に詳細に説明した実施態様の一つにより設計される。下側電極23a、24aは、それぞれの、光が放射される有機区域23b、24bに接続されている。上側電極26は、有機区域23b、24bの上に伸びている。さらに、図2で、構造化された隔離層27が施されている。
【0031】
下側電極10の使用は、図2で表示装置20に関して説明した。記載した内容は、2個以上の、図1に示す下側電極を備えたOLEDを使用する照明装置にも、同様に当てはまる。
【0032】
図3〜6に関して、下記の本文は、下側電極10が、図1に関して説明した実施態様の一つに基づいて、特に金属層12を含む、一個以上の層、および保護および変性層13の形態でよい層構造として形成されるOLEDを含む配置に関する実施態様を説明する。図3〜6では、層構造を、それぞれの下側電極の縦方向における線により図式的に示す。図3〜6で説明する配置は、図2に関して例として説明した表示装置または照明装置に使用できる。図3〜6における様々な実施態様を、それぞれの場合、通常型および反転型OLEDに関して説明する。下側電極10用の層構造により、陽極が有機層の下に配置されており、陰極が有機層の上に配置されている通常型の、および陰極が有機層の下に配置されており、陽極が有機層の上に配置されている反転型の、両方の上部放射OLEDを製造できることが分かった。
【0033】
反転型には、通常型に対して、例えばCMOS技術を使用して、または無定型n−チャネルSi−TFTを使用して、OLEDを関連するドライバーエレクトロニクスと簡単に一体化できるという利点がある。さらに、有機層区域の下に陰極を配置することには、陰極が環境的な影響、例えば酸素または水、からより効果的に保護されるという利点もある。最上部に位置する陰極材料に対する環境的な影響は、例えば上側電極の明らかな分離の結果、部品の長期間安定性に対して不利な影響を及ぼすことがある。部分的なピンホールは、長期間安定性に問題を引き起こすことがある。
【0034】
図3Aおよび3Bは、通常型(図3A参照)および反転型(図3B参照)のOLEDを備えた層構造を図式的に示す断面図である。図3Aおよび3Bに示す実施態様では、電子および空孔の再結合により光が放射される有機区域Oが、OLEDの最も簡単な形態に対応する単層を有し、陽極Aと陰極Kとの間に配置されている。陽極A、陰極Kおよび有機層区域Oを含む積重構造は、基材Sの上に配置されている。
【0035】
図4Aおよび4Bは、通常型(図4A参照)および反転型(図4B参照)のOLEDを備えた層構造を図式的に示す断面図である。図4Aおよび4Bに示す実施態様では、有機層区域Oが、2個以上の層を有する。電子輸送層40は、電子の輸送機能を果たす。空孔輸送層41は、空孔の輸送機能を果たす。光は、両方共有機材料から形成された電子輸送層40と空孔輸送区域41との間の境界区域42における、電子と空孔の再結合に基づいて放射される。境界区域は、別の有機材料を使用する別の層の形態にあってもよい。
【0036】
図5Aおよび5Bは、通常型(図5A参照)および反転型(図5B参照)のOLEDを備えた層構造を図式的に示す断面図である。有機層区域Oは、2個以上の層を有する。p−ドーピングされた空孔輸送層50、n−ドーピングされた電子輸送層51、および光放射層52が有機層区域Oに施されている。これに関して、ドーピングの表現は、無機半導体に関する通常の様式で使用され、外来の原子/分子を添加することにより、半導体層の導電率に意図的に影響を及ぼすことを意味する。ドーピングされた電荷キャリヤー輸送層は、それ自体、様々な実施態様で、例えば独国特許第10215210A1号に記載されている。
【0037】
OLED中の層配列は、空孔−注入接点(陽極A)が上部電極の形態になるように反転させることができる(図5B)。通常、これは、反転有機発光ダイオードの場合、作動電圧が、同等の反転させていない構造の場合よりも、著しく高いことを意味する。これは、接点のイオン化エネルギーが、最早、特別に最適化されないために、接点から有機層区域O中への注入が乏しいためである。n−ドーピングされた空孔透明層および/またはp−ドーピングされた電子透明層を使用する場合、この欠点は克服することができる。というのは、ドーピングは、電極A、Kから有機層区域O中への電荷キャリヤーの注入が、最早、これが空孔および/または電子透明層50、51であるに関係なく、電極A、K自体のイオン化エネルギーにそれ程大きく依存しないことを意味するためである。ドーピングは、作動電圧を増加せずに、電荷キャリヤー輸送層50、51をより厚くし得ることを意味する。
【0038】
薄い空間電荷区域を、ドーピングされた電荷キャリヤー輸送層50、51中で、電極A、Kに形成でき、これを通して、電荷キャリヤー(電子/空孔)を効率的に注入することができる。トンネル注入および非常に薄い空間電荷区域は、高エネルギーバリヤーの場合でも、注入工程が最早妨害されないことを意味する。それぞれの電荷キャリヤー輸送層50、51は、有機または無機物質(ドーピング剤)の添加によりドーピングするのが有利である。これらの大型分子は、電荷キャリヤー輸送層50、51のマトリックス分子構造中に安定した形態で取り込まれる。これによって、OLEDの作動中、および熱的負荷にかけた場合に、高い安定性が得られる(拡散しない)。ドーピング剤としては、受容体型の分子を空孔輸送層に、供与体型の分子を電子輸送層に使用する。
【0039】
導電率が増加する理由は、ドーピングされた層における平衡電荷キャリヤーの密度増加である。この場合、電子輸送層51は、作動電圧を急激に増加する必要無しに、ドーピングしていない層に可能な厚さ(ドーピングしていない層には、厚さが典型的には約20nm〜約40nmである)よりも大きな層厚を有することができる。空孔輸送層50も、作動電圧の増加を引き起こさずに、ドーピングしていない層で可能な厚さよりも、厚くすることができる。従って、両方の層が、それらの下に位置する層を製造工程中の損傷から保護するのに十分に厚くなる。
【0040】
図6Aおよび6Bは、通常型(図6A参照)および反転型(図6B参照)のOLEDを備えた層構造を図式的に示す断面図であるが、このOLEDは、図5Aおよび5Bに示す実施態様と比較して、有機層区域O中に中間層をさらに有する。
【0041】
独国特許第DE10058578A1号(X. Zhou et al., Appl. Phys. Lett. 78, 410 (2001)も参照)は、ドーピングされた電荷キャリヤー輸送層を含む有機発光ダイオードが、図5Aおよび5Bに関して上に説明したように、ドーピングされた電荷キャリヤー輸送層を中間層と適切に組み合わせた時に、どのように最適な光を放射するかを記載している。従って、図6Aおよび6Bに示す実施態様では、ドーピングされた電荷キャリヤー輸送層60、61が、有機層O中で、中間層62、63と組み合わされている。中間層は、それぞれの場合、電荷キャリヤー輸送層60、61と発光層64との間に配置され、その発光層64の中で、部品中を電流が流れる結果として注入された電荷キャリヤーの電気的エネルギーが光に変換される。
【0042】
中間層62、63の材料は、作動電圧の方向で電圧を印加した時に、それらの材料のエネルギーレベルにより、大部分の電荷キャリヤー(空孔または電子)が、ドーピングされた電荷キャリヤー輸送層と中間層との間の境界層で過度に妨害されず(低バリヤー)、大部分の電荷キャリヤーが、発光層64と中間層62、63との間の境界層に維持される(高バリヤー)ように選択する。さらに、中間層62、63から発光層64中に電荷キャリヤーを注入するためのバリヤー高さは、境界表面における電荷キャリヤー対が、発光層64における励起(exciton)に、エネルギー的に有利に変換されるように、十分に小さくすべきである。これによって、発光層64の境界表面における、発光の効率を下げるエキシプレックス形成が阻止される。電荷キャリヤー輸送層60、61は、好ましくは高い帯域ギャップを有するので、中間層62、63は、非常に薄く選択することができる。というのは、薄くても、電荷キャリヤーは、発光層64から電荷キャリヤー輸送層60、61のエネルギー状態に突き抜ける(tunnel)ことが不可能であるからである。これによって、中間層62、63があるにも関わらず、低い作動電圧を使用することができる。ある種の状況下では、中間層62、63は、電荷キャリヤー輸送層60、61のマトリックス材料と同じ材料から構成することもできる。
【0043】
通常型の一実施態様(図6A参照)は、下記の層配置を含んでなる。
1.取付基材S、
2.下側電極(陽極A)、
3.空孔を注入し、輸送するためのp−ドーピングされた層60、
4.空孔側の薄い中間層62、帯域レベルが、それを取り囲む層の帯域レベルと適合する材料から構成、
5.発光層64(場合によりエミッタ染料でドーピングする)、
6.電子側の薄い中間層63、帯域レベルが、それを取り囲む層の帯域レベルと適合する材料から構成、
7.電子を注入し、輸送するためのn−ドーピングされた層61、
8.上側電極(陰極K)、および
9.環境的な影響を及ぼを排除するためのカプセル封入。
【0044】
もう一つの、反転型の実施態様(図6B参照)は、下記の層配置を含んでなる。
1.取付基材S、
2.下側電極(陰極K)、
3.電子を注入し、輸送するためのn−ドーピングされた層61、
4.電子側の薄い中間層63、帯域レベルが、それを取り囲む層の帯域レベルと適合する材料から構成、
5.発光層64(場合によりエミッタ染料でドーピングする)、
6.空孔側の薄い中間層62、帯域レベルが、それを取り囲む層の帯域レベルと適合する材料から構成、
7.空孔を注入し、輸送するためのp−ドーピングされた層60、
8.上側電極(陽極A)、および
9.環境的な影響を及ぼを排除するためのカプセル封入。
【0045】
電荷キャリヤー輸送層60、61と発光層64の帯域ギャップが片側ですでに互いに適合しているので、使用すべき中間層62、63の一方だけを備えることもできる。さらに、電荷キャリヤー輸送層60、61における電荷キャリヤー注入および電荷キャリヤー輸送の機能は、2個以上の層間で分割することができ、それらの少なくとも一方、正確には、それぞれの電極A、Kに最も近い層、をドーピングする。ドーピングされた層がそれぞれの電極A、Kに隣接していない場合、ドーピングされた層とそれぞれの電極A、Kとの間の全ての層は、電荷キャリヤーがそれらを効率的に突き抜けることができるように、十分に薄い(例えば10nm未満)必要がある。これらの層は、非常に高い導電率を有する場合には、より薄くてもよく、これらの層の通路抵抗は、隣接するドーピングされた層のそれよりも低い必要がある。その場合、中間層は、電極A、Kの一部と見なすべきである。モルドーピング濃度は、典型的には1:10〜1:10000の範囲内である。ドーピング剤は、分子量が約200g/モルを超える有機分子である。
【0046】
上記の説明、特許権請求するおよび図面に開示する本発明の特徴は、本発明の様々な実施態様を個別に、およびいずれかの望ましい組合せで実施するのに重要である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】上部放射OLEDの下側電極のための層構造を図式的に示す断面図である。
【図2】図1に示す下側電極を使用するOLEDを備えた表示装置の部分を図式的に示す断面図である。
【図3A】通常型のOLEDを備えた、単層の形態にある有機層区域を有する層構造を図式的に示す断面図である。
【図3B】反転型のOLEDを備えた、単層の形態にある有機層区域を有する層構造を図式的に示す断面図である。
【図4A】通常型のOLEDを備えた、多層有機層区域を有する層構造を図式的に示す断面図である。
【図4B】反転型のOLEDを備えた、多層有機層区域を有する層構造を図式的に示す断面図である。
【図5A】通常型のOLEDを備えた、p−ドーピングされた空孔輸送層およびn−ドーピングされた電子輸送層を有する有機層区域を有する層構造を図式的に示す断面図である。
【図5B】反転型のOLEDを備えた、p−ドーピングされた空孔輸送層およびn−ドーピングされた電子輸送層を有する有機層区域を有する層構造を図式的に示す断面図である。
【図6A】通常型のOLEDを備えた、p−ドーピングされた空孔輸送層およびn−ドーピングされた電子輸送層、ならびに中間層を有する有機層区域を有する層構造を図式的に示す断面図である。
【図6B】反転型のOLEDを備えた、p−ドーピングされた空孔輸送層およびn−ドーピングされた電子輸送層、ならびに中間層を有する有機層区域を有する層構造を図式的に示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部放射型の有機発光ダイオード(OLED)用の層配置であって、下側電極(A、K)と、透明な上側電極(K、A)と、前記2電極(A、K)の間で、前記下側および前記上側電極(A、K)と接触して配置された有機層区域(O)とを有してなり、電子および空孔の再結合により光を発生することができ、前記光が前記上側電極(K、A)を通して放出され、前記下側電極(A、K)が、下側電極層が金属層(12)である層構造を有し、前記下側電極(A、K)の前記層構造中の前記金属層(12)上に配置されている保護および変性層(13)が、前記有機層区域(O)と接触している、層配置。
【請求項2】
前記保護および変性層(13)が、金属、酸化物または窒化物材料から構成される、請求項1に記載の層配置。
【請求項3】
前記保護および変性層(13)が、約2nm〜約50nm、好ましくは約5nm〜約30nmの層厚を有する、請求項1または2に記載の層配置。
【請求項4】
前記保護および変性層(13)が、下記の材料、すなわちTi、ITO、Cr、Mo、Ta、Ti、Ni、Ni、Ti、Ni、Pd、Pt、Pd、Pt、の一種から、またはそれらの2種類以上の組合せから形成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項5】
前記金属層(12)および前記保護および変性層(13)を含む積重構造が、約10nm〜約500nmの層厚を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項6】
前記金属層(12)および前記保護および変性層(13)を含む前記積重構造の反射性が高い、請求項1〜5のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項7】
前記金属層(12)および前記保護および変性層(13)を含む前記積重構造が、約2nmRMS未満の、好ましくは約1nmRMS未満の粗さを有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項8】
前記金属層(12)が、2個以上の個別金属層(11a、11b)から構成された多層構造である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項9】
前記金属層(12)が、層厚が約10nm〜約500nmである、好ましくは層厚が約40nm〜約150nmである下側個別金属層(11a)、および前記下側個別金属層(11a)上に配置された、反射性が高い、層厚が約5nm〜約80nmである、好ましくは層厚が約15nm〜約40nmである、別の個別金属層(11b)を有する、請求項8に記載の層配置。
【請求項10】
前記個別金属層(11a、11b)の一つまたは全部が、Al、Ag、AlまたはAgの合金、Cr、Ti、Mo、Ta、またはCr、Ti、Moおよび/またはTaの混合物から形成される、請求項8または9に記載の層配置。
【請求項11】
前記下側個別金属層(11a)および/または前記別の個別金属層(11b)が、約2nmRMS未満の、好ましくは約1nmRMS未満の粗さを有する、請求項8〜10のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項12】
前記下側電極(10)が基材(S)上に付けられる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項13】
前記下側および前記上側電極(A、K)を駆動するための回路が前記基材(S)中に形成され、前記回路が、接続接点を経由して前記下側および前記上側電極(A、K)に接続される、請求項12に記載の層配置。
【請求項14】
前記下側個別金属層(11a)が、前記下側電極(10)に接続される接続接点も形成する材料から構成される、請求項13に記載の層配置。
【請求項15】
前記下側電極(10)の前記層構造が、10Ω/sq未満、好ましくは1Ω/sq未満の表面抵抗を有する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項16】
前記下側電極(10)が陽極(A)であり、前記上側電極が透明な陰極(K)である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項17】
前記下側電極(10)が陰極(K)であり、前記上側電極が透明な陽極(A)である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項18】
前記有機層区域(O)が、p−ドーピングされた空孔輸送層(50、60)を含んでなる、請求項1〜17のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項19】
前記有機層区域(O)が、n−ドーピングされた電子輸送層(51、61)を含んでなる、請求項1〜18のいずれか一項に記載の層配置。
【請求項20】
前記有機層区域(O)が、空孔側中間層(62)および/または電子側中間層(63)を含んでなる、請求項20または21に記載の層配置。
【請求項21】
一個以上の表示素子を有する、基材(S)上の表示装置であって、前記表示素子が、それぞれ少なくとも一個の、請求項1〜20のいずれか一項に記載の層配置を含む、上部放射型の有機発光ダイオード(OLED)を有する、表示装置。
【請求項22】
一個以上の照明素子を有する、基材(S)上の照明装置であって、前記照明素子が、それぞれ少なくとも一個の、請求項1〜20のいずれか一項に記載の層配置を含む、上部放射型の有機発光ダイオード(OLED)を有する、照明装置。
【請求項23】
それぞれ少なくとも一個の、請求項1〜20のいずれか一項に記載の層配置を含む、上部放射型の有機発光ダイオード(OLED)を有する、一個以上の表示素子/照明素子が基材(S)上に形成されている表示装置または照明装置の製造方法であって、
(a)a1)前記基材(S)上に金属層(12)を形成し、
a2)前記金属層(12)上に保護および変性層(13)を形成する、
前記基材(S)上に下側電極(A、K)を形成する工程、
(b)前記下側電極(A、K)上に有機層区域(O)を、前記有機層区域(O)が前記下側電極(A、K)と接触するように形成する工程、および
(c)前記有機層区域(O)上に上側の透明な電極(K、A)を、前記有機層区域(O)が前記上側電極(K、A)と接触するように形成する工程
を含んでなる、方法。
【請求項24】
前記金属層(12)を形成するために、2個以上の個別金属層(11a、11b)を施す、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記金属層(12)を構造化してから、前記保護および変性層(13)を形成する、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
下側の個別金属層(11a)を施し、構造化し、次いで別の個別金属層(11b)を施し、構造化する、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
次いで前記保護および変性層(13)を施し、構造化する、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
次いで前記保護および変性層(13)を、構造化しない様式で形成する、請求項25または26に記載の方法。
【請求項29】
前記下側の個別金属層(11a)を施し、構造化した後に、前記別の個別金属層(11b)および前記保護および変性層(13)を形成し、一緒に構造化する、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記金属層(12)および前記保護および変性層(13)を、前記基材(S)の大きな区域に施し、次いで構造化する、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2007−536717(P2007−536717A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511849(P2007−511849)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【国際出願番号】PCT/DE2005/000820
【国際公開番号】WO2005/106987
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(504432747)ノバレット、アクチェンゲゼルシャフト (8)
【氏名又は名称原語表記】NOVALED AG
【Fターム(参考)】