説明

有機発光ディスプレイ製造方法

【課題】導電性または半導体有機材料をインクジェット印刷するための組成物、これら組成物を使用して製造される光電気装置、およびこれら光電気装置の製造方法の提供。
【解決手段】有機発光ディスプレイを製造する方法であって、第1の電極層と複数のウェルを規定するバンク構造を有する基板を供給する工程、前記第1の電極上に導電性有機層を堆積させる工程、前記導電性有機層上に有機発光層を堆積させる工程、および前記有機発光層上に第2の電極を堆積する工程を含み、ここで、前記導電性有機層と前記有機発光層の少なくとも1つは、前記複数のウェル内に組成物をインクジェット印刷することにより堆積され、前記組成物は、電子発光または電荷輸送有機材料と、水より高い沸点を有する高沸点溶媒とを含み、前記ディスプレイはスワス(swathes)に印刷されることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性または半導体有機材料をインクジェット印刷するための組成物、これら組成物を使用して製造される光電気装置、およびこれら光電気装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電気装置の1つの種類は、光を発光する(あるいは、光起電セルなどの場合は光を検出する)有機材料を使用するものである。これらの装置の基本構造は、有機層に負電荷担体(電子)を注入するカソードと正電荷担体(正孔)を注入するアノードとの間に挟まれた発光有機層、例えば、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)またはポリフルオレンの薄膜である。電子と正孔は有機層中で結合して光子を生成する。WO90/13148においては、有機発光材料はポリマーである。US4,539,507においては、有機発光材料は、(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)のような低分子材料として知られる種類のものである。実用装置においては、電極の1つは透明であり、光子が装置から放出されるのを可能にする。
【0003】
典型的な有機発光装置(OLED)は、インジウム錫酸化物(ITO)のような透明なアノードで被覆されたガラスまたはプラスチック基板上に形成される。少なくとも1つの電子発光有機材料の薄膜層が第1の電極を覆う。最後に、電子発光有機材料層をカソードが覆う。カソードは典型的には金属または合金であり、アルミニウムのような単一層からなるか、またはカルシウムおよびアルミニウムのような複数層からなる。
【0004】
作動においては、正孔がアノードを介して装置に注入され、電子はカソードを介して装置に注入される。正孔と電子は有機電子発光層で結合して励起子を形成し、次いで放射性崩壊して光を放出する(光検出装置においては、このプロセスは本質的に逆になる)。
【0005】
これらの装置はディスプレイに大きなポテンシャルを与える。しかしながら、いくつかの重要な問題がある。1つは、装置の効率、特に、外部電力効率および外部量子効率を上げることである。もう一つは、ピークの効率が得られる電圧を最適化する(例えば、減少させる)ことである。他は、時間を通して装置の電圧特性を安定化させることである。もう一つは、装置の寿命を増加させることである。
【0006】
この目的のため、これらの問題の1つまたは複数を解決するために上記の基本の装置構造の数々の改良がなされてきた。
【0007】
1つのこのような改良は、発光有機層と電極の1つのとの間への導電性ポリマー層の供給である。このような導電性ポリマー層の供給によって、装置の起動電圧、低電圧での輝度、効率、寿命および安定性を改良することができることがわかっている。これらの利点を達成するために、これら導電性ポリマー層は、通常10オーム/スクエア(Ohms/square)未満のシート抵抗を有することができ、導電性はポリマー層のドーピングによって制御され得る。ある装置構成においては、あまり高くない導電性を有することが有利である。例えば、複数の電極が装置に提供され、1つだけの導電性ポリマーの連続層が全部の電極を覆う場合、導電性が高すぎると側方方向の導電性を導き電極間のショートにつながる。
【0008】
導電性ポリマー層は、正孔または電子の注入を促進しおよび/または正孔または電子を遮断するために適切な仕事関数を有するように選択することもできる。したがって、ここには2つの重要な電気的な特徴がある。すなわち、導電性ポリマー組成物の全体的な導電性および導電性ポリマー組成物の仕事関数である。装置における組成物の安定性および他の構成要素との反応性は実用的な装置の許容範囲の寿命を提供するのに重要である。組成物のプロセス性は製造の容易化のために重要である。
【0009】
導電性ポリマーの処方(formulations)については、出願人の先の出願であるGB−A−0428444.4において検討されている。発光層および導電性ポリマー層の両者において、これら装置に使用される有機処方を最適化するための必要性が依然としてある。
【0010】
OLEDは、電気光学装置の特に有利な型を提供することができる。これらは、明るく、カラフルで、立ち上がりが早く、視野角が広く、多種の基板に製造するのに簡易でコスト安である。有機(本明細書では有機金属を含む)LEDは、使用される材料に応じて、広い範囲の色(または、マルチカラーディスプレイ)におけるポリマーまたは低分子を使用して製造されてもよい。前述したように、典型的なOLED装置は、有機材料の2つの層を含み、そのうち1つは発光ポリマー(LEP)、オリゴマーまたは発光低分子量材料のような発光材料層であり、他の1つは、導電性ポリマー層、例えば、ポリチオフェン誘導体またはポリアニリン誘導体のような正孔輸送材料の層である。
【0011】
有機LEDは、単一またはマルチカラー画素ディスプレイを形成するために画素のマトリックスの基板上に堆積されてもよい。マルチカラーディスプレイは、赤色、緑色および青色発光画素の群を使用して構成することができる。いわゆるアクティブマトリックスディスプレイは、各画素に連結されるメモリ素子、通常はストレージキャパシタとトランジスタを有し、これに対して、パッシブマトリックスディスプレイは、そのようなメモリ素子を有せず、代わりに安定した画像の印象を与えるために繰返しスキャンされる。
【0012】
図1は、OLED装置100の一つの例の垂直断面図を示す。アクティブマトリックスディスプレイにおいては、画素の一部領域は連結される駆動回路によって占められている(図1では、示さない)。この装置の構造は、例示のために簡略化されている。
【0013】
OLED100は、アノード層106が堆積された基板102、通常は、0.7mmまたは1.1mmのガラス、場合によっては透明なプラスチックを有する。アノード層は、通常、約150nmの厚さのITO(インジウム錫酸化物)からなり、その上にしばしばアノード金属と呼ばれる通常約500nmのアルミニウムの金属接触層が供給される。ITOおよび接触金属で被覆されるガラス基板は米国のコーニングより購入することができる。接触金属(および任意選択的にITO)は、所望により、ディスプレイを覆わないように、フォトリソグラフィーとこれに続くエッチングの従来プロセスによってパターニングされる。
【0014】
実質的に透明な正孔輸送層108aがアノード金属上に供給され、次いで電子発光層108bが供給される。バンク112が、例えば、ポジ型またはネガ型フォトレジスト材料から基板上に形成され、ウェル114を規定することができ、その中に、例えば、液滴堆積またはインクジェット印刷技術によってアクティブ有機層が選択的に堆積されてもよい。こうして、ウェルはディスプレイの発光領域または画素を規定する。
【0015】
次いで、カソード層110がいわゆる物理蒸着によって適用される。カソード層は、通常、より厚いアルミニウムのキャップ層で被覆されたカルシウムまたはバリウムのような低仕事関数の金属から構成され、電子エネルギーレベルの適合の向上のために電子発光層に直接隣接するフッ化リチウム層のような追加の層を任意に含む。カソード線の相互の電気的な隔離は、カソードセパレータ(図3bにおける構成要素302)の使用によって達成することができる。通常、多数のディスプレイが単一の基板上に形成され、製造工程の最後に基板が切断され、ディスプレイが分離される。ガラスシートまたは金属缶のような封止材は酸素と湿気の侵入を防止するために使用される。
【0016】
この通常のタイプの有機LEDは、色々な駆動電圧および効率において、広い範囲の波長の発光をするために、ポリマー、デンドリマーおよびいわゆる低分子を含む材料の範囲を使用して製造することができる。ポリマー系のOLED材料の例は、WO90/13148、WO95/06400およびWO99/48160に記載されており、デンドリマー系材料の例はWO99/21935およびWO02/067343に記載されており、低分子OLED材料の例はUS4,539,507に記載されている。上述したポリマー、デンドリマーおよび低分子は1重項励起子の放射性崩壊による発光(蛍光)を行う。しかしながら、励起子の75%までは、通常非放射性崩壊する3重項励起子である。3重項励起子の放射性崩壊による電子発光(燐光)は、例えば、“Very high-efficiency green organic light-emitting devices based on electrophosphorescence" M.A. Baldo, S. Lamansky, P.E. Burrows, M.E. Thompson, and S.R. Forrest Applied Physics Letters, Vol. 75 (1) pp.4-6, July 5, 1999" に開示されている。ポリマー系OLEDの場合、層108は、正孔輸送層108aおよび発光ポリマー(LEP)電子発光層108bから構成される。電子発光層は、例えば、PPV(ポリ(p−フェニレンビニレン))の約70nm厚(乾燥)から構成されることができ、アノード層と電子発光層の正孔エネルギーレベルの適合を促進する正孔輸送層は、例えば、PEDOT:PSS(ポリスチレン−スルホネートがドープされたポリエチレン−ジオキシチオフェン)の約50〜200nm、好ましくは約150nm厚(乾燥)であることができる。
【0017】
図2は、アクティブカラー層の1つを堆積させた後の3色アクティブマトリックス画素OLEDディスプレイ200の一部の上面から見た(すなわち、基板を貫通していない)図を示す。この図はディスプレイの画素を規定するバンク112およびウェル114のアレイを示す。
【0018】
図3aは、パッシブマトリックスOLEDディスプレイのインクジェット印刷のための基板300の上面から見た図を示す。図3bは、Y−Y’に沿って図3aの基板を切断した断面図を示す。
【0019】
図3aおよび3bを参照すると、隣接するカソード線(304領域に堆積される)を分離するための複数のカソードアンダーカット(undercut)セパレータ302が基板に供給される。複数のウェル308は、各ウェル308の外周付近にウェルの底に露出したアノード層306を残すように形成されるバンク310によって、規定される。図示されるように、バンクの端部または面は、従来、10ないし40°の角度で基板の表面に向かって、テーパーがつけられる。バンクは、堆積された有機材料の溶液で濡れないように疎水性の表面を有し、これによってウェル内に堆積された材料を包含させることを助ける。これは、EP0989778に開示されるように、O/CFプラズマによって処理されたポリイミドのようなバンク材料の処理によって達成される。あるいは、プラズマ処理工程は、WO03/083960に開示されるようにフッ素化ポリイミドのようなフッ素化材料の使用によって避けることができる。
【0020】
前述したように、バンクおよびセパレータの構造は、例えば、バンクのためにはポジ型(またはネガ型)レジストを使用して、セパレータのためにはネガ型(またはポジ型)レジストを使用して、レジスト材料から形成することができ、両レジストはポリイミド系で基板上にスピンコートすることができ、あるいはフッ素化またはフッ素化類似のフォトレジストを採用することができる。示された例において、カソードセパレータは高さ約5μm、幅約20μmである。バンクは、一般的に、幅20μmと100μmの間であり、示される例においては、(バンクが約1μmの高さになるように)各端部で4μmのテーパーを有している。図3aの画素は約300μm平方であるが、後述するように、画素の大きさは意図する用途によってかなり大きく変動し得る。
【0021】
インクジェット印刷技術を使用する有機発光ダイオード(OLED)の材料の堆積は、多くの文献に記載されている。例えば、T.R. Hebner, C.C. Wu, D. Marcy, M.H. Lu and J.C. Sturm, "Ink-jet Printing of doped Polymers for Organic Light Emitting devices", Applied Physics Letters, Vol. 72, No.5, pp.519- 521, 1998; Y. Yang, "Review of Recent Progress on Polymer Electroluminescent Devices," SPIE Photonics West: Optoelectronics '98, Conf. 3279, San Jose, Jan., 1998; EP O 880 303; および"Ink-Jet Printing of Polymer Light-Emitting Devices", Paul C. Duineveld, Margreet M. de Kok, Michael Buechel, Aad H. Sempel, Kees A.H. Mutsaers, Peter van de Weijer, Ivo G. J. Camps, Ton J. M. van den Biggelaar, Jan-Eric J.M. Rubingh and Eliav I. Haskal, Organic Light-Emitting Materials and Devices V, Zakya H. Kafafi, Editor, Proceedings of SPIE Vol. 4464(2002)などがある。インクジェット技術は低分子およびポリマーLED両者に材料の堆積に使用することができる。
【0022】
分子電子材料を堆積させるのには、一般的に揮発性溶媒が採用されて、材料の0.5〜4%が溶解される。これは、乾燥するのに数秒間から数分間要することがあり、最初の「インク」容量に比較して相対的に薄い薄膜をもたらす。乾燥した材料に十分な厚さを提供するために、しばしば、好ましくは乾燥が始まる前に、複数滴が堆積される。使用される典型的な溶媒としては、シクロヘキシルベンゼンおよびアルキレートベンゼンが挙げられ、特にトルエンまたはキシレンが挙げられる。他は、WO00/59267、WO01/16251およびWO02/18513に開示されており、これらの混合の溶媒も使用することができる。Litrex Corporation of California,USAから市販されている機械のような精密インクジェットプリンターが使用され、適切なプリントヘッドは、Xaar of Cambridge,UK and Spectra,Inc.of NH,USAから入手可能である。いくつかの特に有利なプリント方法は、出願人による2002年11月28日付け英国出願0227778.8に記載されている。
【0023】
インクジェット印刷は分子電子装置の材料の堆積のために多くの利点を有しているが、この技術に付随するいくつかの欠点もある。前述したように、ウェルを規定するフォトレジストバンクは、これまで基板に対して浅い角度、通常約15°、を形成するようにテーパーを付けられてきた。しかしながら、浅い端部を有するウェル内に堆積された溶解した分子電子材料は、乾燥して相対的に薄い端部を有する薄膜を形成することがわかった。図4aおよび4bはこのプロセスを示している。
【0024】
図4aは、溶解した材料402で満たされたウェル308を通る断面400の簡略図を示し、図4bは、材料が乾燥して固体薄膜404を形成した後の同じウェルを示している。この例において、バンクの角度は約15°であり、バンクの高さは約1.5μmである。図に示すように、ウェルは通常、ふちまでいっぱいになるまで満たされる。溶液402はプラズマ処理バンク材料に対して接触角θ、通常30°〜40°、例えば約35°を有する。これは、溶解した材料402の表面が、接触する(バンク)材料に対して有する角度であり、例えば、図4aにおける角度402aである。溶媒が蒸発するにしたがって、溶液は濃縮され、溶液の表面は基板に向かってバンクのテーパーのついた面を下降する。乾燥端部の留まり(pinning)が基板上の最初に付着した濡れ端部とバンクの根元(ウェルの底)の間で生じ得る。図4bに示されるように、その結果、乾燥材料404の薄膜は非常に薄くなり得、バンクの面に接する領域404aにおいて、例えば、10nmオーダーまたはこれより少なくなる。実際には乾燥はコーヒー環効果のような他の影響により複雑である。この影響により、溶液の厚さは中心部より液滴の端部で薄いため、端部が乾燥するにつれてそこにおける溶解した材料の濃度は増加する。端部は留まる傾向があるため、濃度勾配を減らすため溶液は液滴の中心から端部に向かって流れる。この影響によって、溶解材料は、均一ではなく環状に堆積される傾向になり得る。乾燥する溶液と表面との相互作用の物理学は非常に複雑であり、完全な理論は今後に期待される。
【0025】
長く浅いテーパーを有するバンクのもう一つの欠点は、インクジェット液滴の一部がウェルに正確に入らずにバンクの斜面に付着してそこで乾燥し、最終的にできあがったディスプレイの不均一性をもたらし得ることである。
【0026】
インクジェット堆積の他の問題は、インクジェット液滴の大きさに比較して大きなウェルを満たすときに生じる。インクジェットプリントヘッドからの通常の液滴は飛行時で約30μmの直径を有し、それが付着して濡れ広がるときには約100μmの直径に成長する。しかしながら、プリントヘッドから、例えば100μmの直径(飛行時)の液滴を生成することは困難である。
【0027】
液滴に類似の大きさのウェルまたは画素を満たせば、液滴が付着して広がりウェル内を満たすとき問題はほとんど生じない。これは、RGB(赤緑青)ディスプレイに通常使用される長く薄い画素タイプのためのウェル500を示す図5aに示す。図5aの例においては、画素は50μmの幅、150μmの長さを有し、20μmの幅のバンク(70μmの画素ピッチおよび210μmのフルカラーピッチ)を有する。このようなウェルは、示されるように3つの50μm液滴502a、b、cによって満たすことができる。図5bを参照すると、カラーテレビのような用途により適した、各寸法より約4倍大きい約200μmの画素幅を与える画素のためのウェル510を示す。図からわかるように、多くの液滴512がこのような画素を満たす必要がある。実際には、これらは、合体して、画素のコーナーを適正に満たさない傾向にある大きな液滴514を形成する傾向にある(図5aおよび5bでは理想化されているが、実際にはコーナーは一般に、ここに示されるほど鋭角ではない)。この問題に関する1つの方法は、溶解した材料がコーナーに押されるようにウェルを過剰に満たすことである。これは、多数の薄い液滴とウェルの周囲の高い障壁を使用することによって達成され得る。大きな容積の液体を堆積させる技術は、WO03/065474に記載されており、ここには非常に高い障壁を使用して(例えば、8頁、8〜20行)隣接するウェルに液体が流出せずに大きな容量の液体をウェルに保持させることが記載されている。しかしながら、このような構造はフォトリソグラフィーによって簡単に形成することはできず、代わりに、プラスチック基板がエンボス加工されるか射出成型される。より迅速な印刷を可能にするより少ない(高い濃度)液滴を使用してウェルを満たすことができることも望まれる。
前術の問題に対する1つの解決策は、本出願人の先の出願GB−A−0402559.9に記載のようにバンク構造を変更することである。
上記のような有機光電気装置のインクジェット印刷に関連するもう一つの問題は、得られた装置において、有機正孔注入層がその上を覆う半導体層を超えて伸び、ウェルの端部でカソードとアノードの間の短絡を引き起こすことがあることである。この問題は、導電性有機組成物とバンク材料との接触角度が小さすぎる場合に悪化する。この問題は、有機正孔注入層の導電性が高すぎる場合にさらに悪化する。
【0028】
前述の問題の1つの解決は、例えば短絡路の長さを増加させる階段状のバンク構造を備えることによって、バンク構造を修正し、これによって通路の抵抗を増やし、短絡を減らすことである。このような解決はセイコーエプソンによって提案されている。しかしながら、より複雑なバンク構造を提供することはコスト高であり、装置の製造方法の複雑さを増大させる。
【0029】
前述の問題に関連して、有機組成物がより導電性になると短絡問題は大きくなる。したがって、WO2003/048229(エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびグリセロールを有するPEDOTを開示する)、WO2003/048228(ジエチレングリコールを有するPEDOTを開示する)およびPolymer(2004),45(25),8443−8450(エチレングリコールを有するPEDOTを開示する)に記載されるように、導電性を高めるためにポリオール溶媒をPEDOTに加えることはこの問題を悪化させる。さらに、インクジェット印刷はこれらの文献で言及されているが、これらの文献において例示される堆積技術(deposition techniques)はインクジェット印刷ではなく、また、開示さる組成物で利用されるポリオール溶媒が高濃度であるため、開示される処方はインクジェット印刷には粘度が高すぎるようである。
【0030】
本発明の出願人は、導電性または半導体有機材料を含むインクジェット印刷用組成物の採用によって上記に概説した問題を解決するか少なくとも減少させることを求めた。これらの適した組成物は、発光装置の製造のために特に使用される。
【0031】
OLEDディスプレイにおける正孔伝達および電子発光層を規定するためのインクジェット印刷の使用の可能性はよく示されてきた。インクジェット印刷に対する特別な動機は、高価な製造器具を使用することなく大きなサイズの基板の処理を可能にする、拡張可能(scalable)で適応性のある製造プロセスの開発の見込みによるものである。この出願において、インクジェット印刷プロセスのための拡張可能で適応性のある基準の意味が検討され、適切なインク組成物の開発によってこれがいかに達成できるかが示されている。
【0032】
この5年間、電子材料を堆積させるためのインクジェット印刷の開発活動が活発であった。特に、十数以上のディスプレイ製造業者により、OLED装置の正孔伝達(HC)および電子発光(EL)層のインクジェット印刷の試作が行われてきた。そういった会社の多くがパイロット製造設備を立ち上げ、大量生産が2007〜2008年に開始することを示してきた(M. Fleuster, M. Klein, P.v.Roosmalen, A. de Wit, H.Schwab. Mass Manufacturing of Full Color Passive Matrix and Active Matrix PLED Displays. SID Proceedings 2004, 4.2)。
【0033】
インクジェット印刷への関心の重要な理由は、スケーラビリティ(scalability)と適応性である。前者は任意の大きなサイズの基板をパターン化することを可能にし、後者は、基板上へプリントされるドットの像はソフトウェアによって決められるので、1つの製品から他の製品への変更に伴うコストは無視できることを意味するはずである。一見すると、これはグラフィック画像の印刷と類似している、−広告用基板に任意の画像を印刷することを可能にする商業的な印刷設備が利用できる(Inca digital website:http://www.incadigital.com/)。しかしながら、グラフィックプリンターとディスプレイパネルの重要な違いは、前者は、多孔性の基板を使用するかUV硬化性インクを使用するので、薄膜形成に対する乾燥環境による大きな影響はない点である。これに対して、OLEDディスプレイの製造に使用されるインクは、非多孔性の表面にインクジェット印刷され、湿ったインクから乾燥した薄膜への変化の過程は画素内のインクの乾燥環境に支配される。印刷プロセスは(インクジェットヘッド幅に対応する)インクの印刷のしま(またはスワス(swathes))を含むので、乾燥環境においては非対称性が内在する。加えて、OLED装置はナノメータレベルの均質性の薄膜を必要とする。スケーラビリティと適応性の達成のためには、インクの薄膜形成特性の制御と画素寸法およびスワスタイミングにおける変化に対するこのプロセスのロバスト性を必要とする。この出願において、適切なインク工学によってこれがいかに達成できるかが示される。
【0034】
一般論として、HCおよびELインク液滴の乾燥の挙動は、Deegan (R.D. Deegan, O. Bakajin, T. F. Dupont, G. Huber, S.R. Nagel, and T.A. Witten. Capillary flow as the cause of ring stains from dried liquid drops. Nature 389, 827 (1997))によって最初にモデル化されたコーヒー環効果によって説明される。円形の画素においては、湿ったインクが球面部を形成し、ここで液滴表面と基板とによって形成される角度が接触角である。留まりが生じると(ポリマーOLEDディスプレイ製造に使用されるインク及び表面には常に生じる)、乾燥液滴はその直径を維持し、溶質は液滴の端部まで運ばれ、画素の外側端部において材料の環を形成する。端部まで運ばれる材料の量は多くの要因、特に、乾燥液滴がゲル化する前に材料の移転プロセスがどの程度長く生じ得るか、および乾燥環境の均一性に依存する。スワス端では、印刷されていない側でより多く乾燥が生じるが、これは、基板の上の雰囲気中の溶媒濃度が、印刷されていない側の方が印刷された側より低いからである。印刷されていない側で蒸発が生じるにつれて、より多くの溶質がこちらの側に堆積され、薄膜のプロフィール(profile)は非対称となる。
【特許文献1】国際公開03/065474号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2003/048229号パンフレット
【非特許文献1】Deegan (R.D. Deegan, O. Bakajin, T. F. Dupont, G. Huber, S.R. Nagel, and T.A. Witten. Capillary flow as the cause of ring stains from driedliquid drops. Nature 389, 827 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明の実施態様は、画素内およびスワス継ぎ目(swathe joint)を囲む画素間の有機層のプロフィールの急速な変化に関連する問題の解決を求めるものである。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の1つの側面においては、光電気装置をインクジェット印刷するための組成物、すなわち、導電性または半導電性有機材料、および水より高い沸点を有する高沸点溶媒を含む組成物が提供される。
【0037】
有機材料の溶解性、処理性および機能特性は溶媒の変化に非常に敏感であり得る。したがって、有機材料が安定である溶媒の一部を維持することが有利であり得る。したがって、本発明の他の側面においては、導電性または半導電性有機材料、第一溶媒および第二溶媒を含み、第二溶媒は第一溶媒より高い沸点を有する組成物が提供される。第一溶媒は、典型的には、良好な溶解性、処理性およびコンダクタンス特性(conductance characteristics)を達成するための有機材料に使用される通常の溶媒である。
【0038】
高沸点溶媒の供給は、組成物の乾燥時間を長くする。したがって、インクジェット印刷の間、隣接するスワスの堆積の間の時間に生じる蒸発量は減少し、乾燥をより均一にし、スワス継ぎ目の周囲でのより対称性のある薄膜形成をもたらす。
通常、次のスワスが印刷されるまで数秒しかかからない。しかしながら、インクの表面積体積比が高いために、乾燥時間は秒のオーダーである。この結果、隣接するスワスの堆積前に著しい乾燥が生じ得る。高い沸点の溶媒を使用することにより、この時間内に生じる蒸発量を減少させることができる。いったん隣接するスワスが堆積されると、乾燥環境は対称となりスワスの継ぎ目部の周囲で対称性の層プロフィールが得られる。
【0039】
組成物に加えられる高沸点溶媒の量および種類は、乾燥時間をどの程度減らす必要があるかに依存する。これは、隣接するスワスを印刷するのに要する時間に依存する。したがって、印刷時間がより遅い場合においては、乾燥がより遅い組成物が望まれ、より大きい容量および/または高い沸点の溶媒が必要とされる。しかしながら、高沸点溶媒を過剰に加えたりまたは誤った種類の溶媒を使用すると、下記に述べるようにいくつかの問題のある影響をもたらすことがある。
【0040】
使用される溶媒の量および/または種類はインクジェット印刷の速度(連続したスワスを印刷するのに要する時間)に依存する。溶媒の量および/または種類はインク液滴の表面積対体積比にも依存する。大きなインク液滴においては、蒸発は遅く、所定の印刷速度においては、小さい液滴を利用する構成と比較して低い沸点の溶媒が要求される。本発明の実施態様の1つの重要な特徴は、印刷速度、液滴の大きさ/ウェルの大きさ、および溶媒の沸点が、第一のスワスと第二のスワスが互いに隣接して連続して印刷されるとき、印刷速度が第一のスワスが第二のスワスの印刷完成前に著しく乾燥しないように選択されることである。
【0041】
好ましくは、高い沸点の溶媒は、容量で10%および50%の間、20%と40%の間、または約30%の割合で組成物中に存在する。好ましくは、溶媒の沸点は、110と400℃の間、150と250℃の間、または170と230℃の間である。
【0042】
小さい画素においては、高い固体含有量が通常使用される。大きな画素においては、低い固体含有量が使用される。大きい画素においては、組成物の濃度は良好な薄膜形成特性を得るために減らされる。
【0043】
溶媒の粘度が非常に高い場合、この組成物をインクジェット印刷するのは困難になり得る。組成物の粘度が高すぎる場合、プリントヘッドを熱することなしでは、インクジェット印刷するには適さない。本発明の実施態様は、組成物をインクジェット印刷するためにプリントヘッドの加熱が必要とされない粘度を有するのが好ましい。
【0044】
さらに、溶媒とバンク材料の接触角が大きすぎる場合、バンクは十分に濡れないことがある。逆に、溶媒とバンクの接触角が小さすぎると、バンクは組成物を収容できずウェルから漏れてしまうかもしれない。
【0045】
このように、任意の高沸点溶媒の選択が組成物の濡れ特性を変えることができる。例えば、組成物とバンクの間の接触角が大きすぎると、乾燥において薄膜は薄い端部を有し、不均一な発光をもたらす。あるいは、組成物とバンクの間の接触角が小さすぎると、ウェルから漏れる。このような構造によって、乾燥において、導電性/半導電性有機材料がバンク構造の上に堆積され、短絡の原因となる。
【0046】
好ましくは、組成物はバンクを濡らすが、ウェルから漏れないようなバンクとの接触角を有すべきである。この構造によって、乾燥において、コーヒー環効果が生じ、端部が厚くなる。より均一な薄膜の形態は完成した装置におけるより均一な発光を生成する。
【0047】
電子発光材料と導電性材料の間の接触角が高すぎる場合、導電性材料は電子発光材料によって十分に濡れない。
【0048】
漏れの問題に対する1つの解決策は、ウェル内に的確に収容されるように十分な接触角を有する高沸点溶媒を選択することである。逆に、バンクの不十分な濡れの問題に対する解決策はウェルの基底の材料と高い接触角を有せず、バンクとの接触角が高すぎない高沸点溶媒を選択することである。
【0049】
不十分な濡れまたは漏れの問題は、ウェルが漏れることなく十分に濡れるように接触角を改変する適切な界面活性剤を加えることによって制御できる。界面活性剤を供給することによっても、より平坦な薄膜形態が得られる。組成物の挙動の他の側面を変えることがないように、界面活性剤は少量存在することが好ましい。例えば、容量で0.5〜5%、0.5〜3%または1〜2%が多くのインク処方において十分であることが見出された。適切な界面活性剤の例としては、エチレングリコールエーテルおよびプロピレングリコールエーテルのようなグリコールエーテルが挙げられる。好ましい界面活性剤は、2−ブトキシエタノールである。これらの添加剤は従来の界面活性剤ではないことが理解されよう。しかしながら、本発明の組成物においては、これらは界面活性剤として働き、本発明においては界面活性剤として考えられる。
【0050】
粘度も固体含有量に依存する(粘度は、固体含有量と共に増加する)。粘度は、組成物が噴出可能であるようにすべきである。組成物の固体含有量は、0.5%と6%の間、1%と4%の間、1%と2%の間、およびある場合に好ましくは1.5%であることができる。固体含有量も乾燥後の薄膜の形に影響を与える。固体含有量が高すぎると薄膜はドーム形状を形成し、固体含有量が低すぎると過剰なコーヒー環効果が生じる。
【0051】
高沸点溶媒を使用する他の問題は、組成物の導電性が高沸点溶媒によって改変され得ることである。この問題に対する1つの解決策は、組成物の導電性を著しくは改変しない溶媒を選択することである。もう一つの方法として、または追加的に、導電性改変剤を組成物に配合させ、高沸点溶媒によって生じた導電性の変化を補償してもよい。例えば、高沸点溶媒の含有は組成物の導電性を増加させ、電極間の短絡の問題を生じ得る。したがって、1つの構成として、組成物の導電性を減少させるために導電性改変剤を組成物に配合する。
【0052】
上記に続いて、有機光電気装置における特段の問題は、導電性有機正孔注入層がその上を覆う有機半導体層を超えて伸び、その上に置かれるカソードとその下のアノードとの間を短絡路を与えるかもしれないことである。この問題は、導電性有機組成物とバンク材料の接触角が小さすぎる場合に悪化する。この問題は、有機正孔注入層の導電性が高い場合にさらに悪化する。この問題は、電子発光組成物と導電層の接触角が大きすぎる場合にさらに悪化する。
【0053】
この問題に対する1つの解決策はバンク構造を改変すること、例えば、短絡路の長さを増加させる階段状バンク構造の形成によって、通路の抵抗を増加させてより短絡しにくくすることである。しかしながら、より複雑なバンク構造の提供はコスト高であり、装置の製造方法の複雑さを増す。
【0054】
したがって、下層がその上に堆積させた層を超えて伸び、電極間の短絡路をもたらさないように、ウェル内に堆積させた組成物を仕立てることによって複雑なバンク構造を必要とすることなくこの問題を解決することが有利である。これは、例えば、導電性ポリマー組成物とバンク材料の接触角が小さくなりすぎないように導電性有機組成物を仕立てる、および/または導電性有機組成物の導電性が高くなりすぎないように導電性有機組成物を仕立てる、および/または電子発光組成物と導電性組成物の接触角が高くなりすぎないように両者またはどちらかを仕立てることによってなされ得る。
【0055】
スワスの継ぎ目における非対称的な乾燥もスワスの継ぎ目において生成される短絡路をもたらし得る。したがって、非対称的な乾燥を緩和する高沸点溶媒の使用は、貧弱な薄膜形態によって生じた短絡問題を減ずる。本発明の出願人は、いくつかの場合において全く逆の効果が生じる、すなわち、高沸点溶媒の配合はスワスの継ぎ目部における短絡を増加させてしまうことを発見した。これは、導電性ポリマー薄膜の導電性の増加によるものであることがわかった。したがって、このような場合、導電性の改変剤が導電性を減少させるために使用され得る。
【0056】
高沸点溶媒としては、エチレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン1,4ジオール、プロパン1,3ジオール、ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドンおよびジメチルスルホキシドの1または2以上が単独または混合物で含まれてもよい。
【0057】
高沸点溶媒は、好ましくはポリオール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロール)である。これらの溶媒は、画素内およびスワスの継ぎ目部を横切る薄膜の均一性を改良することがわかった。さらにこれらはインク特性の他の側面を悪化させない。
【0058】
使用される溶媒がより「有機」であるほど、すなわちより少ない水酸基を有するほど、組成物はバンク上でより大きな濡れ特性(wetting capacity)を有することがわかった。したがって、ジオールはトリオールより高い濡れ特性を有する。
【0059】
発光層は、高沸点溶媒中の半導体有機材料を含む組成物として堆積されてもよい。好ましくは、有機材料はポリマーを含み、最も好ましくは、ポリマーは完全にまたは部分的に共役されている。
【0060】
電荷注入層は高沸点溶媒中の導電性有機材料を含む組成物として堆積されてもよい。好ましくは、有機材料はポリマーを含み、最も好ましくは、有機材料は、適切なポリアニオン、例えばPSS、を含むPEDOTを含む。
【0061】
本発明の実施態様は、画素内およびスワス継ぎ目を横切る薄膜の均一性を改良するための新しいPEDOTインク処方に関するものである。インクの特性の他の側面を悪化しない遅く乾燥するインクが開発された。これにより、非常に緩慢であるインターレーシング(interlashing)の代替法が提供される。
【0062】
本発明の出願人は、PEDOTにおける薄膜の不均一性の問題は装置特性に非常に重要であることを発見した。この装置特性は、PEDOT薄膜の厚さによって顕著には直接的に影響されないかもしれない。しかしながら、PEDOT薄膜の均質性は、これを覆う電子発光層の均一性に影響を与える。EL層は厚さの変化に非常に敏感である。したがって、本発明の発明者は、均一なELプロフィールの達成のためにPEDOTプロフィールの均一な膜が達成されることが最重要であることを見出した。
【0063】
PEDOTの場合、スワスの継ぎ目の効果はPEDOT:対イオンの比率に敏感であることがわかった。高い対イオン組成物ではこの問題が減少する。好ましくは、PEDOT:対イオンの比率は、1:20〜1:75、1:20〜1:50、1:25〜1:45または1:30〜1:40の範囲である。
【0064】
例えば、1つの実施態様において、1:20のPEDOT:PSS組成物はスワス継ぎ目が貧弱で、1:30の組成物は良好なスワスの継ぎ目をもたらし、1:40の組成物はスワスの継ぎ目の影響を完全に取り除く。PSSの増加は組成物の導電性を減少させる。したがって、過剰なPSS(1:20を超える)は、絶縁性材料/導電性改変剤として働く。PSSは、また、表面エネルギーを増加させ、これによって濡れ性を促進する。
【0065】
本発明の他の側面によれば、特許請求の範囲のいずれかの請求項に記載される組成物をインクジェット印刷することによって、光電気装置を製造する方法が提供される。例えば、PEDOT(または他の正孔注入材料)および高沸点溶媒(水より高い)を含む組成物のインクジェット印刷によって装置を形成する方法が提供される。
【0066】
本発明の他の側面によれば、本明細書で記載する組成物を使用して製造される光電気装置が提供される。
【0067】
本発明のさらに他の側面によれば、次の工程を含む有機発光ディスプレイを製造する方法が提供される。第1の電極層と複数のウェルを規定するバンク構造を含む基板を供給する工程、前記第1の電極上に導電性ポリマー層を堆積させる工程、前記導電性ポリマー層上に有機発光層を堆積させる工程、および前記有機発光層上に第2の電極を堆積する工程であり、前記導電性ポリマー層と前記有機発光層の少なくとも1つは複数のウェル内に本明細書に記載されるように組成物をインクジェット印刷することにより堆積される。
以下に、添付図面を参照して、例示のためだけに、本発明の実施形態を記載する。
【0068】
本発明は、PEDOT正孔注入層と、共役または部分的共役ポリマー材料を含む半導体ポリマー電子発光層とを含む電子発光ディスプレイに関連して記載される。特に、正孔注入層のためのPEDOT処方の組成物が記載される。
【0069】
非対称的乾燥の影響が図6に示されている。図は、四角のウェル内に印刷されたELインクの高さのプロフィールを示す。プロフィールは、スワスの端部における非対称から、スワスの中心に向かってより対称的になっている。この場合には、頁を垂直下方向に移動するLitrex140PプリンターのSpectraSXヘッド単一ノズルによって各画素は印刷された。
【0070】
スワス端部の不均一性を量ってインク処方および乾燥条件の変化による影響を測定れるようにするために、印刷方向に垂直な軸の薄膜プロフィールの図心(centroid)を計算する。これは、図6に示される水平線に沿ったプロフィールの図心に対応するだろう。スワスのつなぎ目を横切ってインクジェット印刷されたPEDOT:PSS(ポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホネート)、共通のHC層、の図心が図7に示されている。PEDOT薄膜は、スワスのつなぎ目を囲む画素の周辺、この場合、列32および33間に生じているプロフィールの急な変化を示す。図心がスワスのつなぎ目によって影響されないようになるには5画素超を要する。不均一なPEDOTプロフィールは、不均一なELプロフィールをもたらすことがあり、ディスプレイにおける不均一性を導く(J. Carter, A. Wehrum, M Dowling, M. Cachiero-Martinez, N.Baynes, Recent Developments in Materials and Processes for Ink Jet Printing High Resolution Polymer OLED Displays, Proc SPIE 4800, 34 (2003))。
【0071】
インクの処方を介してスワスのつなぎ目の影響を克服するためには、印刷過程より実質的に長い時間で乾燥するインクの開発が必要であり、インクにおいて高沸点溶媒を使用することが必要である。しかしながら、高沸点溶媒の添加はインク特性の他の側面に負の影響を与え得る。インクは信頼できる噴出の要求を満たさなければならず、それは、必要な薄膜平坦性と形態とを有する薄膜を形成しなければならない。また、得られた薄膜は電子材料として、例えば適切な効率と寿命をもつなど、適切に機能しなければならない、(J. Carter, A. Wehrum, M Dowling, M. Cachiero-Martinez, N.Baynes, Recent Developments in Materials and Processes for Ink Jet Printing High Resolution Polymer OLED Displays, Proc SPIE 4800, 34 (2003))。
【0072】
図7は、噴出、薄膜形態及び平坦性、並びに性能の要求を満たす組成変更された(reformulated)PEDOTインクの図心データを示す。このインクは、スワスのつなぎ目にわたって薄膜プロフィールに認識し得る変化を示していない。図8(a)はウェル内に印刷されたこのPEDOT処方物の顕微鏡写真を示し、図8(b)はウェルの1つの薄膜プロフィールの均一性を示す。このインクは優れた薄膜均一性を示す。
【0073】
ここに、スワスのつなぎ目に影響されないインク処方を作り出すことは可能であることが例証された。これは、インク特性の他の側面に悪影響を与えない遅く乾燥するインクを作り出すことによって達成された。このインクの重要性は、ディスプレイ内に見えるスワス関連の欠陥を除去するだけでなく、基板上のディスプレイパネルの大きさおよび配列についてよりしっかりしたインクジェットプロセスを提供することにある。
【0074】
インクに組み込まれたこのスケーラビリティ機能は、小規模なR&D基板からより大きなガラス世代へのプロセスの移転に伴うリスクを軽減することによって開発期間を有意に短縮することができる。
【0075】
インクはウェルの配置・形状(geometry)に左右されずに同じように機能できることも例証された。インクの適応性機能によって、印刷プロセスは異なる大きさの画素の製造に、より使用できるようになる。この機能は、ディスプレイ製品の変更に関連する機器のコストを著しく軽減する。ウェル充填プロセスの基本的な性格からは、インクがどこまで適応可能かには限界があるが、異なる画素サイズへの一つのインクの適応性には十分な許容度があることが示された。
【0076】
実施例
2つの新しいグリセロール系PEDOT処方が、ノンインターレースで(non−interlaced)印刷されたスワスのつなぎ目について評価された。
処方A:1%固体成分(30:1 PSS:PEDOT)、30%グリセロール、69%水
処方B:1%固体成分(40:1 PSS:PEDOT)、30%グリセロール、69%水
【0077】
処方A
この処方により、断面においてスワスのない薄膜を製造し、ディスプレイが点灯したときにスワスの継ぎ目部の劇的な改良が示された。スワスの継ぎ目部のPEDOT組成物におけるLEPプロフィールには、変化が示されなかった。この組成物は、LEPと同様に依然として画素内によく収容されていた。
【0078】
図9は、この組成物を使用して形成されたディスプレイを横切る画素の範囲の薄膜プロフィールを示す。ディスプレイを横切るプロフィールは、15番の画素から40番の画素まで互いに非常に類似していることがわかる。図10は、図9の薄膜の平均厚さからの平均的な乖離を示している。スワスの継ぎ目部(列30〜31)においては、顕著な変化は見られない。
図11は、この組成物を使用して形成された導電性薄膜上のLEPの、薄膜プロフィールを示す。ディスプレイを横切るプロフィールは15番の画素から40番の画素まで互いに非常に類似している(3つの不良点16、17および25を除く)ことがわかる。図12は、図11のLEP薄膜の平均厚さからの平均的な乖離を示している。PEDT(列24〜25)およびLEP(列30〜31)のスワスの継ぎ目部においては、顕著な変化は見られない。
【0079】
処方B
この処方によって、断面においておよびディスプレイが点灯したときにおいてのいずれにおいても、スワスのない薄膜を製造した。PEDOT処方は、LEPと同様に依然として画素内によく収容されていた。
乾燥条件
新しい処方を、100℃、Fast Vacuumから5e−2mbarまでで乾燥させた。130℃の温度で10分間でも成功であった。第1パスの結果は、上記の処方およびこれらの乾燥条件を使用した青色発光の改善を示唆している。
【0080】
表1は、これまでに処方された組成物の試料の範囲を要約している。この表は、固体含有量(PEDOT−PSS)、PSS:PEDOTの割合および組成物における添加剤の容量%を示している。水は組成物の残部を占めている。
【0081】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】OLED装置の例の垂直断面図を示す。
【図2】3色画素OLEDディスプレイの一部の上面からの図を示す。
【図3a】パッシブマトリックスOLEDディスプレイの上面図を示す。
【図3b】パッシブマトリックスOLEDディスプレイの断面図を示す。
【図4a】溶解した材料で満たされたOLEDディスプレイ基板のウェルの簡略断面図を示す。
【図4b】乾燥材料で満たされたOLEDディスプレイ基板のウェルの簡略断面図を示す。
【図5a】溶解したOLED材料の液滴で小さい画素を満たす例を示す。
【図5b】溶解したOLED材料の液滴で大きな画素を満たす例を示す。
【図6】スワスの継ぎ目におけるELインクの乾燥プロフィールの非対称性を示す。座標は行(この場合、行20)と列の番号を示し、列1はスワスの端部である。色が赤くなる程、薄膜は厚くなる。線は、厚さプロフィールを得た場所を示し、図心位置を計算するためには水平プロフィールを使用する。
【図7】Baytron P HCインクの処方改変により改良された薄膜プロフィールを示す。スワスの継ぎ目は列32と列33の間で生じる。処方改変前には、図心位置は25ミクロン異なる。
【図8】(a)印刷された処方改変PEDOTの顕微鏡写真を示す。(b)ウェルの1つにおけるPEDOT薄膜プロフィールの白色光干渉測定を示す。均一に着色された領域は厚さの変動が±2nmである。
【図9】本発明の実施態様による処方改変Baytron P HCインクを使用して形成されたディスプレイを横切る画素の範囲についての導電性ポリマーの薄膜プロフィールを示す。
【図10】図9における薄膜の平均厚さからの平均の乖離を示す。
【図11】図9の導電性薄膜上の電子発光材料の薄膜プロフィールを示す。
【図12】図11の薄膜の平均厚さからの平均の乖離を示す。
【符号の説明】
【0083】
102 基板
106 アノード層
108a 正孔輸送層
108b 電子発光層
112 バンク
114 ウェル
302 カソードセパレータ
304 領域
306 アノード層
308 ウェル
310 バンク
402 溶解された材料
404 固体薄膜
500 ウェル
502a 液滴
502b 液滴
502c 液滴
510 ウェル
512 液滴
514 大きな液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光ディスプレイを製造する方法であって、
第1の電極層と複数のウェルを規定するバンク構造を有する基板を供給する工程、
前記第1の電極上に導電性有機層を堆積させる工程、
前記導電性有機層上に有機発光層を堆積させる工程、および
前記有機発光層上に第2の電極を堆積する工程
を含み、
ここで、前記導電性有機層と前記有機発光層の少なくとも1つは、前記複数のウェル内に組成物をインクジェット印刷することにより堆積され、
前記組成物は、電子発光または電荷輸送有機材料と、水より高い沸点を有する高沸点溶媒とを含み、
前記ディスプレイはスワス(swathes)に印刷される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
有機発光ディスプレイを製造する方法であって、
第1の電極層と複数のウェルを規定するバンク構造を有する基板を供給する工程、
前記第1の電極上に導電性有機層を堆積させる工程、
前記導電性有機層上に有機発光層を堆積させる工程、および
前記有機発光層上に第2の電極を堆積する工程
を含み、
ここで、前記導電性有機層および前記有機発光層の少なくとも1つは、前記複数のウェル内に組成物をインクジェット印刷することにより堆積され、
前記組成物は、電子発光または電荷輸送有機材料と、前記有機材料を溶解するのに適切な第1溶媒と、第2溶媒とを含み、前記第2溶媒は前記第1溶媒より高い沸点を有する高沸点溶媒であり、
前記ディスプレイはスワス(swathes)に印刷される
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記第1溶媒は水を含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記高沸点溶媒は、前記組成物中に容量で10〜50%、20〜40%または約30%の割合で存在することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒の沸点は、110〜400℃、110〜300℃、150〜250℃、または170〜230℃であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記高沸点溶媒はポリオールを含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記高沸点溶媒はジオールまたはトリオールを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記高沸点溶媒は、エチレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン1,4ジオール、プロパン1,3ジオール、ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドンおよびジメチルスルホキシドの1または2以上を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記組成物は、さらに導電性改変剤(modifier)を含む請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記導電性改変剤は前記組成物の導電性を低下させる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記有機材料は重合体である(polymeric)請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記有機材料は有機電子発光材料を含む請求項1ないし11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記有機材料は正孔注入材料を含む請求項1ないし12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記正孔注入材料は、電荷バランス対イオンを有するPEDOTを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
PEDOT:対イオンの比が1:10〜1:75、1:20〜1:50、1:25〜1:45または1:30〜1:40である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記対イオンはPSSである請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物はさらに界面活性剤を含む請求項1ないし16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記界面活性剤は、容量で0.1〜5%、0.5〜3%または1〜2%の範囲で存在する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記界面活性剤は、グリコールエーテルである請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記界面活性剤は、エチレングリコールエーテルまたはプロピレングリコールエーテルである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記界面活性剤は、2−ブトキシエタノールである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
有機発光ディスプレイを製造する方法であって、
第1の電極層と複数のウェルを規定するバンク構造を有する基板を供給する工程、
前記第1の電極上に導電性有機層を堆積させる工程、
前記導電性有機層上に有機発光層を堆積させる工程、および
前記有機発光層上に第2の電極を堆積する工程
を含み、
ここで、前記導電性有機層と前記有機発光層の少なくとも1つは、前記複数のウェル内に組成物をインクジェット印刷することにより堆積され、
前記組成物は、PEDOT−対イオン、水、および水より高い沸点を有する高沸点溶媒を含み、
前記ディスプレイはスワス(swathes)に印刷される
ことを特徴とする方法。
【請求項23】
前記高沸点溶媒はポリオールであることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記高沸点溶媒はジオールまたはトリオールを含むことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記高沸点溶媒は、エチレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、またはプロピレングリコールの1または2以上を含むことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記高沸点溶媒が前記組成物中に、容量で10〜50%、20〜40%、または約30%の割合で存在する請求項22ないし25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記組成物はさらに界面活性剤を含む請求項22ないし26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記界面活性剤は、容量で0.1〜5%、0.5〜3%または1〜2%の範囲で存在する請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記界面活性剤は、グリコールエーテルである請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記PEDOT−対イオンは、組成物中に固体含有量で0.5〜6%、1〜4%、または1〜2%存在する請求項22ないし29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記PEDOT−対イオンは、BAYTRON PであるかまたはBAYTRON Pに比較してPSS含有量が増加している溶液である請求項22ないし30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
PEDOT:PSSの比率は、1:20〜1:75、1:20〜1:50、または1:25〜1:45の範囲である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記組成物は、さらに導電性改変剤を含む請求項22ないし32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記導電性改変剤は前記組成物の導電性を低下させる請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記導電性改変剤は、PEDOT:PSS比が1:20を超える過剰なPSSによって供給される請求項34に記載の方法。
【請求項36】
水が前記組成物中に50〜90%の割合で存在する請求項22ないし35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記組成物の粘度は、20℃において、2〜30mPa、2〜20mPa、4〜12mPa、より好ましくは6〜8mPa,最も好ましくは約8mPaである請求項1ないし36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
第1のスワスと第2のスワスが互いに隣接して連続して印刷され、前記印刷の速度は、前記第2のスワスの印刷が完了する前に前記第1のスワスが著しくに乾燥しない速度であることを特徴とする請求項1ないし37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記バンクの材料および前記導電性ポリマー層の堆積に使用される組成物は、前記組成物と前記バンクの接触角が30〜110°、65〜80°、好ましくは約70°の範囲であるように選択される請求項1ないし38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記第1の電極の材料および前記導電性ポリマー層の堆積のために使用される組成物は、前記組成物と前記第1の電極の静的接触角が13.5°未満、より好ましくは10°未満であるように選択される請求項1ないし39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
前記ディスプレイは、40〜150℃の範囲の温度で真空乾燥される請求項1ないし40のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−54244(P2012−54244A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240246(P2011−240246)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【分割の表示】特願2008−511794(P2008−511794)の分割
【原出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(597063048)ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド (152)
【Fターム(参考)】