説明

有機発光素子およびその製造方法

本発明は、第1電極、1層以上の有機物層、および第2電極を含む有機発光素子であって、前記第1電極は導電層および前記導電層上に位置するn−型有機物層を含み、前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差が4eV以下であり、前記第1電極のn−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層は前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層で、前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差が1eV以下であり、前記第1電極の導電層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上は有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされることを特徴とする有機発光素子およびその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極から有機物層に正孔注入のためのエネルギー障壁および駆動電圧が低く、高効率および高輝度を有する有機発光素子およびその製造方法に関するものである。具体的に、本発明は、正孔注入電極にn−型有機物層を有し、有機物層のうちの1層以上が有機物または無機物で、n−型ドーピングまたはp−型ドーピングされた有機発光素子およびその製造方法に関するものである。
【0002】
本出願は、2005年7月15日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2005−0064430号の出願日の利益を主張し、その内容全部は本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0003】
有機発光素子は、通常2つの電極とこれら電極の間に介在した有機物層を含む。有機発光素子は、2つの電極から有機物層に電子および正孔を注入して、電流を可視光に変換させる。このような有機発光素子は性能を向上させるために、電流を可視光に変換させる有機物層以外に、電子/正孔注入層または電子/正孔輸送層をさらに含むことができる。
【0004】
しかし、金属、金属酸化物、または導電性ポリマーからなる電極と有機物層との間の界面は不安定である。したがって、外部から加えられる熱、内部発生熱、または素子に加えられる電界は、素子の性能に悪影響を与えることができる。また、電子/正孔注入層または電子/正孔輸送層とこれに隣接する他の有機物層との間の伝導エネルギー準位(conductive energy level)の差によって、素子動作のための駆動電圧が大きくなることができる。したがって、電子/正孔注入層または電子/正孔輸送層と他の有機物層との間の界面を安定化させるだけでなく、電極から有機物層に電子/正孔を注入するエネルギー障壁を最小化することが重要である。
【0005】
有機発光素子は、2つ以上の電極とこれら電極の間に位置する有機物層との間のエネルギー準位差を調節することができるように開発されてきた。有機発光素子において、陽極電極を正孔注入層のHOMO(highest occupied molecular orbital)エネルギー準位と類似するフェルミエネルギー準位(Fermi energy level)を有するように調節するか、または正孔注入層のために陽極電極のフェルミエネルギー準位と類似するHOMOエネルギー準位を有する物質を選択する。しかし、正孔注入層は陽極電極のフェルミエネルギー準位だけでなく、正孔注入層と接する正孔輸送層または発光層のHOMOエネルギー準位を考慮して選択しなければならないため、正孔注入層用物質を選択することは制限がある。
【0006】
したがって、有機発光素子を製造するに当たって、一般的に陽極電極のフェルミエネルギーを調節する方法が採択されている。しかし、陽極電極用物質は制限される。
【0007】
一方、多層の有機物層を有する素子の性能特性は、各層の有機物層が有する電荷キャリアの輸送能力によって大きく影響を受けると知られている。動作時の電荷輸送層から発生する抵抗損失は伝導率と関連するが、このような伝導率は必要な動作電圧だけでなく、素子の熱負荷に大きい影響を及ぼす。有機物層の電荷キャリアの濃度によって、有機物層と金属接点との近くでバンド曲がり(band bending)現象が現れるが、このような現象によって、電荷キャリアの注入が容易になって接触抵抗が低くなることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために、正孔注入のためのエネルギー障壁を低くし、電荷輸送有機物の電荷輸送能力を向上させ、性能に優れて製造工程が簡素化された有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
第1電極、1層以上の有機物層、および第2電極を含む有機発光素子であって、
前記第1電極は導電層および前記導電層上に位置するn−型有機物層を含み、前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差が4eV以下であり、
前記第1電極のn−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層は、前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層で、前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差が1eV以下であり、
前記第1電極の導電層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上は、有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされることを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0010】
また、本発明は、
第1電極、1層以上の有機物層、および第2電極を含む有機発光素子の製造方法であって、
導電層上にn−型有機物層を形成し、第1電極を形成するステップ、および
前記第1電極のn−型有機物層上にp−型有機物層を形成するステップを含み、
前記有機物層のうちの1層以上を有機物または無機物を用いてn−型ドーピングまたはp−型ドーピングして形成するステップ
を含む有機発光素子の製造方法を提供する。
【0011】
以下では、本発明を具体的に説明する。しかし、添付図面および以下の詳細な説明はその性質上例示的なものであり、本発明を制限するものではなく、本発明は、本発明の範囲から逸脱しないながらも多様な変化が可能である。
【0012】
本発明の例示的な一具体例に係わる有機発光素子は、正孔を注入する第1電極、電子を注入する第2電極、および前記第1電極と前記第2電極との間に位置するp−型半導体特性を有する有機物層(以下、「p−型有機物層」)を含む。前記p−型有機物層は、正孔注入層、正孔輸送層、または発光層を含むことができる。前記有機発光素子は、前記p−型有機物層と前記第2電極との間に少なくとも1つの有機物層をさらに含むことができる。前記有機発光素子が複数の有機物層を含む場合、前記有機物層は互いに同一の物質または他の物質で形成されることができる。
【0013】
前記第1電極は、導電層および前記導電層上に位置するn−型半導体特性を有する有機物層(以下、「n−型有機物層」)を含む。前記導電層は、金属、金属酸化物、または導電性ポリマーを含む。前記導電性ポリマーは、前記伝導性ポリマーを含むことができる。第1電極の導電層は、第2電極と同一の物質で形成されることもできる。
【0014】
前記n−型有機物層は、前記導電層のフェルミエネルギー準位と前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位に対して所定のLUMOエネルギー準位を有する。前記第1電極のn−型有機物層は、前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差、および前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差が減少するように選択される。したがって、正孔が前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位を介して前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位へ容易に注入される。
【0015】
前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差は、4eV以下(0eVは含まない)であることが好ましい。このエネルギー差は、物質選択の観点では約0.01〜4eVであることがさらに好ましいこともある。前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差は、1eV以下(0eVは含まない)であることが好ましく、約0.5eV以下(0eVは含まない)であることがさらに好ましい。このエネルギー差は、物質選択の観点では約0.01〜1eVであることがさらに好ましいこともある。
【0016】
前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差が4eVより大きければ、正孔注入のエネルギー障壁に対する表面双極子(surface dipole)またはギャップ状態(gap state)の効果が減少する。前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差が1eVより大きければ、前記p−型有機物層と前記第1電極のn−型有機物層との間のNP接合が容易に発生しないため、正孔注入のための駆動電圧が上昇する。
【0017】
前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位は、前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位および前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差が約0eVより大きい。
【0018】
図1(a)および図1(b)は、各々本発明の例示的な一具体例に係わる有機発光素子において、正孔注入用の第1電極内にn−型有機物層を適用する前と後の前記第1電極のエネルギー準位を示す。図1(a)で前記導電層は、n−型有機物層のフェルミエネルギー準位(EF2)より高いフェルミエネルギー準位(EF1)を有する。真空準位(VL)は、導電層およびn−型有機物層で電子が自由に移動することができるエネルギー準位を示す。
【0019】
有機発光素子が第1電極の一部分としてn−型有機物層を用いる場合、導電層はn−型有機物層と接触するようになる。図1(b)で電子は、導電層からn−型有機物層に移動するため、前記2つの層のフェルミエネルギー準位(EF1、2)は同様になる。その結果、表面双極子が導電層とn−型有機物層との間の界面に形成され、真空準位、フェルミエネルギー準位、HOMOエネルギー準位、およびLUMOエネルギー準位は、図1(b)に示すように変わるようになる。
【0020】
したがって、導電層のフェルミエネルギー準位とn−型有機物層のLUMOエネルギー準位の差が大きくても、正孔注入のためのエネルギー障壁は前記導電層とn−型有機物層とを接触させることによって減少させられる。また、前記導電層がn−型有機物層のLUMOエネルギー準位より大きいフェルミエネルギー準位を有する場合、電子は導電層からn−型有機物層に移動して、前記導電層とn−型有機物層との間の界面にギャップ状態を形成する。したがって、電子輸送のためのエネルギー障壁は最小化される。
【0021】
前記n−型有機物層は、これに限定されることはないが、約5.24eVのLUMOエネルギー準位を有する2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDA、またはヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)を含む。
【0022】
本発明に係る有機発光素子は、正孔を注入する第1電極のn−型有機物層に接触するp−型有機物層を含む。したがって、NP接合が素子内に形成される。図2は、前記第1電極のn−型有機物層とp−型有機物層との間で形成されたNP接合を示す。
【0023】
NP接合が形成された場合、第1電極のn−型有機物層のLUMO準位とp−型有機物層のHOMO準位との間のエネルギー準位差は減少する。したがって、外部電圧や光源によって正孔または電子が容易に形成される。すなわち、NP接合によってp−型有機物層内で正孔が、第1電極のn−型有機物層内で電子が容易に形成される。前記NP接合で正孔と電子が同時に発生するため、電子は第1電極のn−型有機物層を介して第1電極の導電層に輸送され、正孔はp−型有機物層に輸送される。
【0024】
NP接合がp−型有機物層に正孔を効率的に輸送するためには、第1電極のn−型有機物層のLUMO準位とp−型有機物層のHOMO準位との間のエネルギー準位差が所定の水準である方が良い。したがって、前記第1電極のn−型有機物層のLUMO準位とp−型有機物層のHOMO準位との間のエネルギー準位差は、例えば約1eV以下であることが好ましく、約0.5eV以下であることがさらに好ましい。
【0025】
また、本発明に係る有機発光素子は、前述した第1電極の導電層と第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上が有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされていることを特徴とする。本発明において、有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされた有機物層は、第1電極の一成分であるn−型有機物層であることもでき、このn−型有機物層と接するp−型有機物層であることもでき、前記p−型有機物層と第2電極との間に配置された他の有機物層であることもできる。
【0026】
本発明では、上記のように有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされた有機物層によって、有機物層の電荷キャリアの密度を上昇させ、素子内で電荷輸送効率を向上させられる。具体的に、適合するアクセプタ材料を正孔輸送層にドーピングしたり(p−型ドーピング)、または適合するドナー材料を電子輸送層にドーピングしたり(n−型ドーピング)することによって、有機物層の電荷キャリアの密度を非常に高めることができ、これによって電荷の伝導率を非常に高めることができる。
【0027】
特に、本発明では上述したように、導電層とn−型有機物層とを含む第1電極および前記第1電極のn−型有機物層とNP接合になるp−型有機物層によって、第1電極から有機物層への正孔注入のためのエネルギー障壁を大きく低くすることができる。これによって、第1電極から有機発光素子の発光領域までの正孔注入および輸送が効率的に行われる。このような正孔注入の効率が高い本発明に係る有機発光素子において、電子注入および/または輸送の役割を担当する有機物層に有機物または無機物をn−型ドーピングして電子輸送能力を向上させる場合、素子の発光領域には正孔だけでなく、電子も高い濃度で到達することができる。これによって、本発明に係る有機発光素子は、非常に優れた低電圧、高輝度、および高効率特性を得ることができる。
【0028】
本発明において、有機物層をドーピングする有機物または無機物としては、有機物層をn−型またはp−型にドーピングして電子または正孔の輸送能力を向上させられるものであれば、当技術分野に知られている物質を用いることができる。例えば、有機物層をドーピングする無機物としては、Li、Na、K、Rb、Csなどがある。また、有機物層をドーピングする有機物では、シクロペンタジエン、シクロヘプタトリエン、6員の複素環、またはこれらの環が含まれた縮合環を含む有機物、具体的にキサンテン系、アクリジン系、ジフェニルアミン系、アジン系、オキサジン系、チアジン系、またはチオキサンテン系などの有機物を用いることができる。また、ドーピング有機物として2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)などを用いることもできる。
【0029】
本発明において、有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされた有機物層の形成は当技術分野に知られている方法を用いて行うことができ、本発明の範囲が特定方法によって限定されることはない。
【0030】
例えば、ピロニンB(pyronin B)のHCl塩のような有機物塩を昇華させて有機物のロイコ塩基を製造した後、これをドーピングされた有機物層を形成しようとする基材が存在する真空下でドーピングされる有機物と共に蒸発させることによって、ドーピングされた有機物層を形成することができる。
【0031】
また、テトラプルロオロテトラシアノキノジメタン(TCNQ)のようなドーピングされる有機物をモルタル(mortar)で粉砕した後、これをドーパント二量体(dimer)、例えばジ−(p−メトキシフェニルアミン)メチルと混合し、ここに光を照射して、二量体の酸化およびTCNQへの電子輸送が行われるようにすることによってドーピングされた有機物層を形成することができる。
【0032】
また、ドーピング材料の有機物を非電荷性状態、例えば水素添加形態でドーピングされる有機物層に注入した後、有機物層に注入された状態の非電荷性有機物を陽イオンまたはラジカルに変換させる方法を用いることもできる。
【0033】
具体的に、水素添加形態の有機物は、ドーピングされる有機物層の材料がない状態で独自に製造することができる。例えば、前記水素添加形態の有機物は、有機物の塩を昇華させることによって製造されことができる。必要な場合、水素添加形態の有機物の収得率および純度を改善するために、追加の精製工程を実行することもでき、水素添加形態の有機物は精製された状態で用いることが好ましい。
【0034】
水素添加形態の有機物は、例えばドーピングされる有機物層の材料との混合蒸発または連続的な蒸発によって、ドーピングされる有機物層に直接注入されることができる。水素添加形態の有機物は、非イオン性中性分子であるため、ほぼ完全な昇華を表わす。したがって、水素添加形態の有機物を昇華させる場合も水素添加形態の有機物を蒸発させる場合の作用と同一である。
【0035】
上記のように水素添加形態の有機物をドーピングされる有機物層に注入させた後、前記水素添加形態の有機物から水素、一酸化炭素、窒素、またはヒドロキシラジカルを分離することによって、有機物の陽イオンまたはラジカルを形成することができる。前記分離は、光または電子線照射によって行われることができる。前記光の照射に用いられる輻射スペクトルは、水素添加形態の非電荷性有機物とドーピングされる有機物層の材料のうちのいずれか1つの吸収領域と少なくとも部分的に重複することが好ましい。上記のように形成されたラジカルからドーピングされる有機物層の材料に電子を移動させる方式でn型ドーピングが行われるか、上記のように形成された陽イオンがドーピングされる有機物層の材料から電子を受容する方式でp−型ドーピングが行われることができる。
【0036】
本発明において、前記水素、一酸化炭素、窒素、またはヒドロキシラジカルは、有機物のシクロペンタジエン、シクロヘプタトリエンまたは6員の複素環から分離されることができる。このような種類の官能基から水素、一酸化炭素、窒素、またはヒドロキシラジカルが分離される場合、電子放出(n−型ドーピング)または電子受容(p−型ドーピング)は6π−芳香族系の形成によって行われる。
【0037】
また、前記シクロペンタジエン、シクロヘプタトリエン、または6員の複素環が縮合環系(condensed−ring system)の一部の場合、電子放出または受容は8π−、10π−、12π−、または(2n)π(nは7以上の整数)−系の形成によって行われる。
【0038】
前記水素添加形態の有機物は、陽イオン染料のカルビノール(carbinol)塩基またはロイコ(leuco)塩基であり得る。通常、陽イオン染料は、有機発光素子の光出力に対して高い量子効率を有すると知られている。例えば、ローダミンB(rhodamin B)のような陽イオン染料は有機発光素子において発光ドーパントとして使用の際、高い発光量子効率を示す。
【0039】
前記陽イオン染料としては、キサンテン系染料、アクリジン系染料、ジフェニルアミン系染料、アジン系染料、オキサジン系染料、チアジン系染料、またはチオキサンテン系染料などを用いることができるが、これにだけ限定されることはない。例えば、水素化物で構成された官能基の分離によって、陽イオンに変換されることができる化合物も前記陽イオン染料として用いることができる。
【0040】
本発明の具体的な例として、陽イオン染料としてクリスタルバイオレット(crystal violet)を用いることができる。クリスタルバイオレットはHCl塩として存在し、この染料を昇華させれば塩化水素が放出されて、クリスタルバイオレットのロイコ塩基が得られる(図9の1)。
【0041】
前記ロイコ−クリスタルバイオレット1は前駆物質であって、紫外線光が存在しない時、空気中で安定している。これはSCE(Saturated calomel electrode)に対して0.7Vの酸化ポテンシャルを有する。一般的にSCEに対して0.3V以上の酸化ポテンシャルを有する材料は、動力学的に見た時、安定したものと看做し、空気中で不活性を表わす。このような空気中での安定性は、前記前駆物質を簡単に取り扱えるようにすることに直接的な影響を及ぼす。このようなロイコ塩基は、ドーピング工程の際、陽イオンに酸化せずに直接用いることができる。
【0042】
前記ロイコ塩基は、適合するアクセプタ濃度、例えば1:5000以上、好ましくは1:5000〜1:10の濃度で適合する有機材料、例えばフラーレンC60からなる材料内に挿入することが好ましい。前記ドーパントの濃度は目的とする伝導率により選択することができる。
【0043】
続いて、前記ロイコ塩基を陽イオンに酸化させることによって(図9の2)、n−型ドーピング作用が生じる。具体的に、ロイコ塩基が酸化されれば、クリスタルバイオレット−陽イオン2に変換し、この場合ロイコ塩基1は電子をフラーレンに移動させて水素を分離する。
【0044】
クリスタルバイオレット−陽イオンは、NHE(Normal hydrogen electrode)に対して0.1Vの還元ポテンシャルを有するため、従来に公知された空気中で安定した他の有機ドナーより非常に優れたドナー2としての役割が可能である。一般的な陽イオン染料は、フラーレンC60のようにSCEに対して0V以下の還元ポテンシャルを有する材料をドーピングするに特に適している。
【0045】
図3は、本発明の例示的な一具体例に係わる有機発光素子を示す。
【0046】
図3を参照すれば、有機発光素子は、基板31、基板31上の陽極32、陽極32上に位置して陽極32から正孔を受けるp−型正孔注入層(HIL)33、正孔注入層33上に位置して発光層35に正孔を伝達する正孔輸送層(HTL)34、正孔輸送層34上に位置して正孔と電子とを用いて発光する発光層(EML)35、発光層35上に位置して陰極37からの電子を発光層35に輸送する電子輸送層(ETL)36、および電子輸送層36上に位置する陰極37を含むことができる。正孔輸送層34、発光層35、および電子輸送層36は同一の有機物質または他の有機物質で形成することができる。
【0047】
図3において、陽極32は、正孔を正孔注入層33、正孔輸送層34、または発光層35に正孔を輸送し、導電層32aおよびn−型有機物層32bを含む。導電層32aは、金属、金属酸化物、または導電性ポリマーで形成される。n−型有機物層32bのLUMOエネルギー準位と導電層32aのフェルミエネルギー準位とのエネルギー差は約4eV以下である。n−型有機物層32bのLUMOエネルギー準位とp−型正孔注入層33のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差は約1eV以下であり、好ましくは約0.5eV以下である。NP接合が陽極32のn−型有機物層32bとp−型正孔注入層33との間で形成される。
【0048】
本発明の例示的な他の具体例によれば、有機発光素子は、基板31、基板31上に位置する陽極32、陽極32上に位置するp−型正孔輸送層34、正孔輸送層34上に位置する発光層35、発光層35上に位置する電子輸送層36、および電子輸送層36上に位置する陰極37を含むことができる。発光層35および電子輸送層36は、同一の有機物質または他の有機物質で形成されることができる。
【0049】
本発明の例示的なまた他の具体例によれば、有機発光素子は、基板31、基板31上の陽極32、陽極32上に位置するp−型発光層35、発光層35上に位置する電子輸送層36、および電子輸送層36上に位置する陰極37を含むことができる。電子輸送層36は有機物質で形成されることができる。
【0050】
本発明の上記他の例示的な具体例により、正孔輸送層34または発光層35がp−型有機物で形成された場合、n−型有機物層32bのLUMOエネルギー準位とp−型正孔輸送層34またはp−型発光層35のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差は約1eV以下であり、好ましくは約0.5eV以下である。NP接合が陽極32のn−型有機物層32bとp−型正孔輸送層34またはp−型発光層35との間で形成される。
【0051】
n−型有機物層32bのLUMOエネルギー準位と導電層32aのフェルミエネルギー準位とのエネルギー差が約4eVより大きければ、p−型正孔注入層33への正孔注入のためのエネルギー障壁に対する表面双極子またはギャップ状態の効果が減少する。前記n−型有機物層32bのLUMOエネルギー準位と前記p−型正孔注入層33のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差が約1eVより大きければ、p−型正孔注入層33またはn−型有機物層32bで各々正孔または電子が容易に発生せず、正孔注入のための駆動電圧が上昇する。
【0052】
図4は、従来の有機発光素子の理想的なエネルギー準位を示す。このエネルギー準位で、陽極および陰極から各々正孔および電子を注入するためのエネルギー損失が最小化する。図5は、本発明の例示的な一具体例に係わる有機発光素子のエネルギー準位を示す。
【0053】
図5を参照すれば、本発明の他の例示的な具体例に係わる有機発光素子は、導電層およびn−型有機物層(図3参照)を有する陽極、p−型正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、発光層(EML)、電子輸送層(ETL)、および陰極を含む。前記陽極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記陽極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差は約4eV以下であり、また、前記陽極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位とp−型正孔注入層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差は約1eV以下である。正孔/電子注入のためのエネルギー障壁が前記陽極のn−型有機物層によって低くなったため、前記陽極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位および前記p−型正孔注入層のHOMOエネルギー準位を用いて正孔は陽極から発光層に容易に輸送される。
【0054】
本発明においては、前記陽極のn−型有機物層が陽極からp−型正孔注入層、p−型正孔輸送層またはp−型発光層への正孔注入のためのエネルギー障壁を低くするため、前記陽極の導電層は多様な導電性物質で形成することができる。例えば、前記導電層は、陰極と同一の物質で形成することができる。陽極が陰極と同一の物質で形成された場合、導電性物質が低い仕事関数を有する有機発光素子のようなものが製造されることができる。
【0055】
このように陰極および陽極が同一の材料で形成することができるため、図6に示したように、陽極71と陰極75との間に介在した有機物層73を含む有機発光素子単位が2つ以上の直列連結された構造と等価構造を有する図7に示したようなスタック型有機発光素子を得ることができる。陽極71は導電層とn−型有機物層とを含む。
【0056】
図7を参照すれば、本発明に係るスタック型有機発光素子は、陽極81と陰極87との間に有機物層83と中間導電層85の反復単位が複数積層された構造を有する。陽極81および中間導電層85は、導電層とn−型有機物層を含む。前記導電層は、仕事関数が陰極87の物質のそれと類似値を有し、可視光線透過率が50%以上の透明な物質で形成されることが好ましい。不透明金属が導電層として用いられる場合、導電層の厚さは透明になるほど薄く形成されなければならない。不透明金属の具体的な例としては、Al、Ag、Cuなどを挙げられる。特に、Al金属が中間導電層85の導電層を形成する場合、前記導電層は約5〜10nmの厚さを有する。スタック型有機発光素子の場合、同一の駆動電圧下でスタックされた有機発光素子単位の数に比例して輝度が増加するため、有機発光素子をスタック型にすれば高輝度有機発光素子を得ることができる。
【0057】
以下、本発明の例示的な一具体例に係わる有機発光素子を構成する各層に対して具体的に説明する。ただし、以下で説明する層のうち、電荷注入および/または輸送の役割を担当する層に対する説明は、前述した有機物または無機物がn−型またはp−型ドーピングされた有機物層ではないケースに該当する。以下で説明する各層の物質は単一物質または2つ以上の物質の混合物であり得る。
【0058】
陽極(Anode)
陽極は、正孔注入層、正孔輸送層、または発光層のようなp−型有機物層内に正孔を注入する。前記陽極は、導電層とn−型有機物層を含む。前記導電層は、金属、金属酸化物、または導電性ポリマーを含む。前記導電性ポリマーは電気伝導性ポリマーを含むことができる。
【0059】
前記n−型有機物層は、第1電極からp−型有機物層に正孔を注入するためのエネルギー障壁を低くするため、前記導電層は多様な導電性物質で形成されることができる。例えば、前記導電層は、約3.5〜5.5eVのフェルミエネルギー準位を有する。例示的な導電性物質の例は、炭素、アルミニウム、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、銀、金、その他の金属、およびこれらの合金;亜鉛酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物、およびその他の類似の金属酸化物;ZnO:AlおよびSnO:Sbのような酸化物と金属の混合物などがある。有機発光素子が前面発光型の場合には、前記導電層として透明物質だけでなく、光反射率に優れた不透明物質も用いることができる。後面発光型の有機発光素子の場合には、前記導電層は透明物質であるべきで、不透明物質が用いられる場合には透明になるほど薄膜で形成しなければならない。
【0060】
n−型有機物層は、前記導電層とp−型有機物層との間に位置し、低電界で正孔をp−型有機物層に注入する。n−型有機物層は、前記陽極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記陽極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差が約4eV以下であり、前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差が約1eV以下になるように選択される。
【0061】
例えば、前記n−型有機物層は、約4〜7eVのLUMOエネルギー準位および約10−8cm/Vs〜1cm/Vs、好ましくは約10−6cm/Vs〜10−2cm/Vsの電子移動度を有する。電子移動度が約10−8cm/Vs未満であればn−型有機物層からp−型有機物層に正孔を注入することが容易ではない。電子移動度が1cm/Vsを超過すれば正孔注入がより効率的になるが、このような物質は通常、結晶性有機物であるため非結晶性有機物を用いる有機発光素子に適用し難い。
【0062】
前記n−型有機物層は、真空蒸着することができる物質または溶解法(solution process)によって薄膜成形される物質で形成することもできる。前記n−型有機物の具体的な例は、これに限定されることはないが、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDA、またはヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)を含む。
【0063】
正孔注入層(HIL)または正孔輸送層(HTL)
正孔注入層または正孔輸送層は、陽極と陰極との間に位置するp−型有機物層で形成することができる。前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層と前記n−型有機物層はNP接合を形成するため、このNP接合で形成された正孔は前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層を介して発光層に輸送される。
【0064】
前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層のHOMOエネルギー準位は、前記n−型有機物層のLUMOエネルギー準位に対して、約1eV以下のエネルギー差、好ましくは約0.5eVのエネルギー差を有する。前記p−型正孔注入層またはp−型正孔輸送層は、アリールアミン系化合物、導電性ポリマー、または共役部分と非共役部分とを共に有するブロック共重合体などを含むが、これに限定されることはない。
【0065】
発光層(EML)
発光層では、正孔伝達と電子伝達とが同時に行われるため、発光層はn−型の特性とp−型の特性を全て有することができる。便宜上、電子輸送が正孔輸送に比べて速い場合はn−型発光層、正孔輸送が電子輸送に比べて速い場合はp−型発光層であると定義することができる。
【0066】
n−型発光層では、電子輸送が正孔輸送より速いため、正孔輸送層と発光層との界面の近くで発光が行われる。したがって、正孔輸送層のLUMO準位が発光層のLUMO準位より高ければ、より良い発光効率が得られる。n−型発光層はこれに限定されないが、アルミニウムトリス(8−ヒドロキシキノリン)(Alq);8−ヒドロキシキノリンベリリウム(BAlq);ベンズオキサゾール系化合物、ベンズチアゾール系化合物、またはベンズイミダゾール系化合物;ポリフルオレン系化合物;シラシクロペンタジエン(silole)系化合物などを含む。
【0067】
p−型発光層では、正孔輸送が電子輸送より速いため、電子輸送層と発光層との界面の近くで発光が行われる。したがって、電子輸送層のHOMO準位が発光層のHOMO準位より低ければ、より良い発光効率が得られる。
【0068】
p−型発光層を用いる場合、正孔輸送層のLUMO準位の変化による発光効率の増大効果が、n−型発光層を用いる場合に比べて小さい。したがって、p−型発光層を用いる場合には、正孔注入層と正孔輸送層をと用いず、n−型有機物層とp−型発光層との間のNP接合構造を有する有機発光素子を製造することができる。p−型発光層は、これに限定されることはないが、カルバゾール系化合物;アントラセン系化合物;ポリフェニレンビニレン(PPV)系ポリマー;または、スピロ(spiro)化合物などを含む。
【0069】
電子輸送層(ETL)
電子輸送層物質としては陰極から電子を円滑に注入されて、発光層に円滑に輸送することができるように電子移動度(electron mobility)が大きい物質が好ましい。前記電子輸送層は、これに限定されないが、アルミニウムトリス(8−ヒドロキシキノリン)(Alq);Alq構造を含む有機化合物;ヒドロキシフラボン−金属錯化合物またはシラシクロペンタジエン(silole)系化合物などを含む。
【0070】
陰極
陰極物質では、通常、正孔輸送層、または電子輸送層のような有機物層に電子注入が容易に行われるように仕事関数が小さい物質が好ましい。前記陰極は、これに限定されないが、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタニウム、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズ、および鉛のような金属またはこれらの合金;LiF/AlまたはLiO/Alのような多層構造物質などを含む。前記陰極は、陽極の導電層と同一の物質で形成することができる。または、陰極あるいは陽極の導電層は、透明物質を含むことができる。
【発明の効果】
【0071】
上記のように、本発明に係る有機発光素子は、正孔注入のためのエネルギー障壁が低いだけでなく、電荷輸送有機物層の電荷輸送能力に優れるため、効率、輝度、駆動電圧などの素子性能に優れる。また、電極物質として多様な物質を用いることができるため、素子製造工程を簡素化することができる。また、同一の物質で陽極および陰極を形成することができるため、高輝度の積層構造を有する有機発光素子を得ることができる。
【0072】
本明細書は、例示的な具体例について記述したが、本発明の範囲から逸脱しないながらも多様な変化が可能で、また、前記具体例のある構成要素を他の均等な要素に置き換えることが可能であるということを当業者は理解できる。また、特定の状況または材料に合わせるために、本発明の本質的な範囲から逸脱しない範囲で本明細書の要旨に対する多くの改良が行われることができる。したがって、本明細書は、本発明を実施するために考案された最適態様として開示された特定の具体例に限定されることはなく、本明細書は添付した特許請求の範囲の範囲内に属する全ての具体例を含むと意図している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
以下、実施例および比較例によって、本発明の多様な実施状態および特徴をより詳しく説明する。しかし、下記実施例は本発明の多様な実施状態および特徴を例示するものに過ぎなく、本発明の範囲が下記実施例によって限定されることはない。
【0074】
<実施例>
実施例1
UPSおよびUV−VIS吸収(absorption)方法によるHATのHOMOとLUMO準位測定
ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(Hexanitrile hexaazatriphenylene:HAT)をn−型半導体特性の有機物として用いた。HATのHOMO準位を測定するためにUPS(Ultraviolet photoelectron spectroscopy)方法を用いた。この方法は、超真空(0−8Torr)下で試料にHeランプから出る真空UV線(21.20eV)を照射する時、試料から出る電子の運動エネルギーを分析することによって、金属の場合は仕事関数を、有機物の場合はイオン化エネルギー、すなわちHOMO準位およびフェルミエネルギー準位を確認することができる方法である。すなわち、真空UV線(21.20eV)を試料に照射する時、試料から放出される電子の運動エネルギーは真空UVエネルギーの21.2eVと、測定しようとする試料の電子結合エネルギー(electron binding energy)との差となる。したがって、試料から放出される電子の運動エネルギー分布を分析することによって、試料内物質の分子内結合エネルギー分布を確認することができるようになる。この時、電子の運動エネルギー中の最大エネルギー値を有する場合、試料の結合エネルギーは最小値を有するようになる。これを用いて試料の仕事関数(フェルミエネルギー準位)およびHOMO準位を決定することができるようになる。
【0075】
ここでは、金フィルム(gold film)を用いて金の仕事関数を測定し、前記金フィルムにHAT物質を蒸着しながらHAT物質から出る電子の運動エネルギーを分析することによってHATのHOMO準位を測定した。図8は、前記金フィルムとその上の20nmの厚さを有するHATフィルムから出るUPSデータを示したものである。以下ではH.Ishii、et al.、Advanced Materials、11、605−625(1999)で用いられた用語を用いて説明する。
【0076】
図8でx軸の結合エネルギー(eV)は、金フィルムで測定された仕事関数を基準点として計算した値である。すなわち、本測定で金の仕事関数は、照射した光エネルギー(21.20eV)から結合エネルギーの最大値(15.92eV)を除いた値の5.28eVであると測定された。前記金フィルム上に蒸着されたHATに照射された光エネルギーから結合エネルギーの最大値(15.21eV)と最小値(3.79eV)との差を除いた値であると定義されるHATのHOMO準位は9.78eVであり、フェルミエネルギー準位は6.02Vである。
【0077】
前記HATをガラス表面に蒸着して形成された有機物層を用いて他のUV−VISスペクトルを得て吸収エッジ(absorption edge)を分析した結果、約3.26eVのバンドギャップ(band gap)を有することを確認した。これによってHATのLUMOは約6.54eVの値を有することを確認した。この値は、HAT物質のエキシトン結合エネルギー(exciton binding energy)によって変化することができる。すなわち、6.54eVは、前記物質のフェルミ準位(6.02eV)より大きい値で、LUMO準位がフェルミ準位よりさらに小さい値を有するためには、エキシトン結合エネルギーが0.52eV以上にならなければならないことを確認した。有機物のエキシトン結合エネルギーは、通常0.5eV〜1eVの値を有するため、前記HATのLUMO準位は5.54〜6.02eVの値を有すると予測される。
【0078】
実施例2
約1000Å厚さのITO(indium tin oxide)がコーティングされたガラス基板(Corning 7059 glass)を洗剤(Fischer Co.製、製品番号:15−335−55)が溶解された蒸溜水に入れて超音波で30分間洗浄した。続いて、前記ガラス基板を蒸溜水に入れて5分間超音波洗浄を2回繰り返した。
【0079】
蒸溜水洗浄が終われば、イソプロピルアルコール、アセトン、およびメタノール溶剤で前記ガラス基板をこの順で各1回ずつ超音波洗浄を実施して乾燥させた。 続いて、プラズマ洗浄機内で窒素プラズマを用いて14mtorrの圧力および50W電力条件で前記ITOコーティングされたガラス基板を5分間プラズマ処理した。このように表面処理されたITO陽極の仕事関数は約4.8eVを示した。
【0080】
続いて、プラズマ洗浄機内で酸素プラズマを用いて14mtorrの圧力および50W電力条件で前記ITOコーティングされたガラス基板を5分間プラズマ処理した。このように表面処理されたITO陽極の仕事関数は約5.2eVを示した。
【0081】
前記ITO上に約500Å厚さのHATを熱真空蒸着してITO導電層およびHAT n−型有機物層を有する透明陽極を形成した。HATのHOMOエネルギー準位は約9.78eVであった。続いて、約400Å厚さおよび約5.4eVのHOMO準位を有する4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)を真空蒸着してp−型正孔輸送層を形成した。前記p−型正孔輸送層上にAlq(HOMO準位=約5.7eV)を約300Å厚さで真空蒸着して発光層を形成した。
【0082】
前記発光層上に電子輸送層として、下記化学式1で示す化合物(HOMO=5.7eV、LUMO=2.8eV)にアルカリ金属Csを0.2%ドーピングして200Å厚さで真空熱蒸着した。
【0083】
前記ドーピングされた電子輸送層上に2500Å厚さのアルミニウムを順次真空蒸着して陰極を形成することによって有機発光素子を完成した。前記過程で有機物の蒸着速度は約0.4〜0.7Å/secを維持し、アルミニウムは約2Å/secの蒸着速度を維持した。蒸着の際、蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrを維持した。
【化1】

【0084】
比較例1
電子輸送層をCsでドーピングせず、前記化学式1で示す化合物(HOMO=5.7eV、LUMO=2.8eV)を用いて200Å厚さで形成し、この電子輸送層上に12Åフッ化リチウムLIF薄膜と2500Å厚さのアルミニウムを順次真空蒸着して陰極を形成したことを除いては、実施例2と同一の方法で有機発光素子を製作した。前記過程で有機物の蒸着速度は、約0.4〜0.7Å/secを維持し、LiFは約0.3Å/sec、アルミニウムは約2Å/secの蒸着速度を維持した。蒸着の際、蒸着チャンバー内の真空度は約2×10−7〜5×10−8torrを維持した。
【表1】

【0085】
表1に示すように、陽極にITO導電層およびn−型有機物層を含み、電子輸送層がn−ドーピングされている実施例2の素子は、低電圧で非常に高い輝度を示した。反面、電子輸送層がドーピングされない比較例1の素子は比較的大きい駆動電圧および高い輝度を示した。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】(a)および(b)は、各々本発明の例示的な一具体例に係わる有機発光素子において、正孔注入用の第1電極内にn−型有機物層を適用する前と後の前記第1電極のエネルギー準位を示す図である。
【図2】本発明の例示的な一具体例に係わる有機発光素子において、正孔注入用の第1電極のn−型有機物層(n−type organic compound layer)とp−型有機物層(p−type organic compound layer)との間で形成されたNP接合を示した図である。
【図3】本発明の例示的な一具体例に係わる有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図4】従来技術に係わる有機発光素子のエネルギー準位を示す図である。
【図5】本発明の例示的な一具体例に係わる有機発光素子のエネルギー準位を示す図である。
【図6】本発明の例示的な一具体例に係わるスタック型有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図7】本発明の例示的な一具体例に係わるスタック型有機発光素子を示す模式的な断面図である。
【図8】金フィルムおよび前記金フィルム上に位置するHATフィルムのUPS(Ultraviolet Photoelectron Spectrum)データを示すグラフである。
【図9】ロイコ−クリスタルバイオレットがクリスタルバイオレット陽イオンに反応することを示す模式図である。
【符号の説明】
【0087】
31:基板
32:陽極
37:陰極
33:正孔注入層
34:正孔輸送層
35:発光層
36:電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、1層以上の有機物層、および第2電極を含む有機発光素子であって、
前記第1電極は導電層および前記導電層上に位置するn−型有機物層を含み、前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差が4eV以下であり、
前記第1電極のn−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層は、前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層で、前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差が1eV以下であり、
前記第1電極の導電層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上は、有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされることを特徴とする有機発光素子。
【請求項2】
前記p−型有機物層は、正孔注入層、正孔輸送層、または発光層であることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記p−型有機物層と前記第2電極との間に少なくとも1つの有機物層をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記第1電極のn−型有機物層は、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素−置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ−置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素−置換されたNTCDA、シアノ−置換されたNTCDA、およびヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)からなる群より選択される有機物からなることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記第1電極の導電層は、金属、金属酸化物、および導電性ポリマーからなる群より選択される物質からなることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記第1電極の導電層と前記第2電極とは、同一の物質で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記第1電極の導電層および前記第2電極のうち少なくとも1つは、透明物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記n−型有機物層は、約4〜7eVのLUMOエネルギー準位および約10−8cm/Vs〜1cm/Vsの電子移動度を有することを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされた有機物層において、前記無機物はLi、Na、K、Rb、およびCsからなる群より選択される請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされた有機物層において、前記有機物はシクロペンタジエン、シクロヘプタトリエン、6員の複素環またはこれらの環が含まれた縮合環を含む有機物である請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記有機物は、キサンテン系、アクリジン系、ジフェニルアミン系、アジン系、オキサジン系、チアジン系、およびチオキサンテン系の有機物からなる群より選択される請求項10に記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされた有機物層は、非電荷性有機物をドーピングされる有機物層に注入した後、非電荷性有機物から水素、一酸化炭素、窒素、またはヒドロキシラジカルを分離して、前記有機物から1つ以上の電子がドーピングされる有機物層の材料に移動するか、前記有機物がドーピングされる有機物層の材料から電子を受容するようにすることによって形成されることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項13】
前記非電荷性有機物から水素、一酸化炭素、窒素、またはヒドロキシラジカルを分離することは光または電子線照射によって行われる請求項12に記載の有機発光素子。
【請求項14】
前記有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされた有機物層は、ドーピング濃度が1:5000〜1:10である請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項15】
前記有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされた有機物層は、有機物または無機物によってn−型ドーピングされた電子注入および/または輸送有機物層である請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項16】
第1電極、1層以上の有機物層、および第2電極を含む反復単位として、前記第1電極は導電層および前記導電層上に位置するn−型有機物層を含み、前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記第1電極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差が4eV以下であり、前記第1電極のn−型有機物層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層は前記第1電極のn−型有機物層とNP接合を形成するp−型有機物層で、前記第1電極のn−型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記p−型有機物層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差が1eV以下であり、前記第1電極の導電層と前記第2電極との間に位置する有機物層のうちの1層以上は有機物または無機物によってn−型ドーピングまたはp−型ドーピングされることを特徴とする反復単位を2つ以上含み、1つの反復単位の前記第2電極は直列連結された隣り合う反復単位の前記第1電極に連結されたことを特徴とするスタック型有機発光素子。
【請求項17】
直列連結された反復単位の界面に位置する第1電極と第2電極が単一層で構成された請求項16に記載のスタック型有機発光素子。
【請求項18】
第1電極、1層以上の有機物層、および第2電極を含む有機発光素子の製造方法であって、
導電層上にn−型有機物層を形成し、第1電極を形成するステップ、および
前記第1電極のn−型有機物層上にp−型有機物層を形成するステップを含み、
前記有機物層のうちの1層以上を有機物または無機物を用いてn−型ドーピングまたはp−型ドーピングして形成するステップ
を含む有機発光素子の製造方法。
【請求項19】
前記有機物層のうちの1層以上を有機物または無機物を用いてn−型ドーピングまたはp−型ドーピングして形成するステップは、非電荷性有機物をドーピングされる有機物層に注入した後、非電荷性有機物から水素、一酸化炭素、窒素、またはヒドロキシラジカルを分離して、前記有機物から1つ以上の電子がドーピングされる有機物層の材料に移動するか、前記有機物がドーピングされる有機物層の材料から電子を受容するようにすることによって 行われる請求項18に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項20】
前記非電荷性有機物から水素、一酸化炭素、窒素、またはヒドロキシラジカルを分離することは光または電子線照射によって行われる請求項19に記載の有機発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−500861(P2009−500861A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521326(P2008−521326)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/KR2006/002768
【国際公開番号】WO2007/011132
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】