説明

有機発光素子および有機発光素子のリペア装置

【課題】異物などによる電流リークおよびショートに起因する発光欠陥の発生を抑制した耐久性の高い有機発光素子を提供する。
【解決手段】 有機発光素子において、アノード12における、有機発光層13に混入している導電性異物17に対応する位置に導電性異物17と略同径寸法の貫通孔12aが形成され、導電性異物17は、貫通孔12aの外側に後退するように加工されている。空洞領域18は、貫通孔12a内の空隙と、貫通孔12aの外側で導電性異物17の端面までの僅かな空隙とで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機EL表示装置や有機EL照明装置などの有機発光素子および有機発光素子のリペア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光素子は性能の向上に伴い、薄型化、高精細化が進むと共に、発光輝度の向上により照明としての利用も進んでいる。このような薄型化、高精細化が進むに伴い、対向電極間のギャップも小さくなり極微細な異物でも素子内に混入すると欠陥の発生の原因になる。異物の混入は、製造過程における有機発光層の形成の際に起こりやすい。特に、導電性を有する異物が混入すると、その部分で有機発光層を挟む陽極と陰極との間の電気抵抗値が小さくなり、リーク電流やショートが発生して、異物が存在する部分以外の正常な部分も発光しなくなってしまう。多数の画素を有する有機EL表示装置の場合は、異物が存在する画素やその近傍の画素が発光しなくなる程度で済むが、有機EL照明装置では、面光源全体が発光しなくなる。このような事情から、異物混入による欠陥が発生しない、寿命の長い有機発光素子の実現が要望されている。
【0003】
従来、導電性異物に起因する欠陥領域を検出して、その部分をリペアする方法として、有機発光素子に発光閾値未満の電圧を印加して、リーク電流によるリーク発光部分を検出して、その部分にレーザー照射してリペアを行う技術が知られている(例えば、特開2007−42498号公報)。このリペア方法を用いた最新のリペア装置では、数ミクロンの領域での修復が可能な、532nmの波長を持つYAGレーザー用いたものがある。
【特許文献1】特開2007−42498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来知られているすべてのリペア方法は、レーザーのパルス幅(パルス時間)がナノ秒オーダーの長いパルス幅であり、欠陥箇所にレーザーを照射して被照射部を加熱し、アブレーション破壊により欠陥除去を行っている。このリペア方法は、液晶表示装置やプラズマディスプレイに適用した場合には、レーザーリペア時の熱的な影響はほとんど問題にならないが、有機発光素子の場合には有機層が熱的な影響を受けやすい。
【0005】
特に、有機発光素子の場合、封止法が缶封止(ハーメチック封止)では、放熱空間が有るためレーザーリペア時の熱的な影響はある程度緩和されるが、電極で挟まれた有機発光層を接着剤などの封止材で封止する固体封止した構造では欠陥救済箇所にレーザーを照射すると熱が放散されずに蓄積されるため、熱的な影響が非常に大きくなる。具体的には、YAGレーザーを照射した箇所で、Al電極薄膜が気泡状に浮き上がったり、有機発光層と電極との界面に剥離が発生したり、有機発光層が熱で変質するなどのため、リペアに伴い欠陥領域が拡大してしまうという問題がある。
【0006】
加えて、上述の従来のリペア方法では、導電性異物によって電極間がショートしている有機EL照明装置では、全面的に発光しないため、欠陥領域を検出することができないものであった。
【0007】
そこで、本発明の主たる目的は、異物などによる電流リークおよびショートに起因する発光欠陥の発生を抑制した耐久性の高い有機発光素子を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、有機発光素子における、電流リークおよびショートの発生する欠陥領域を検出し、この欠陥領域を広げることなく最小限の範囲でリペアすることができる有機発光素子のリペア装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の特徴は、有機発光素子であって、基板と、この基板上に形成された第1電極と、この第1電極上に形成された有機発光層と、この有機発光層上に形成された第2電極と、基板上の第1電極、有機発光層、および第2電極を封止する封止材と、を備え、第1電極と第2電極との少なくとも一方に、局部的に素子内部の空洞領域となるリペア用の貫通孔が形成されていることを要旨とする。なお、有機発光層とは、正孔輸送層、発光層、電子輸送層などを含むものでもよいし、正孔および電子の輸送機能を備えた発光層のみであってもよい。
【0010】
貫通孔は、有機発光層における前記第1電極と前記第2電極との間の抵抗の面内均一性を阻害する欠陥領域に対応する領域に形成されており、例えば導電性異物が存在する領域である。導電性異物は、この貫通孔が形成された電極と電気的に遮断されるように部分的に破壊・除去されている。
【0011】
貫通孔は導電性異物(欠陥領域)に直接レーザーを照射せずに、導電性異物の周辺近傍を取り囲むように環状にアノード膜(ITO膜)を加工する構成としてもよい。このような構成にすることにより、第1電極と第2電極との間ショートを取り除く事ができる。
【0012】
欠陥領域は、第1電極と第2電極との間に存在した導電性異物が破壊・除去された除去空間であってもよく、この除去空間は貫通孔とともに素子内部の空洞領域を形成している構成であってもよい。
【0013】
また、貫通孔の周囲の電極の膜状態は、成膜時と変化していないことが特徴であり、具体的には、熱的な変形を起こしていない構成であることが好ましい。
【0014】
さらに、貫通孔ならびに導電性異物の破壊・除去は、貫通孔が形成された電極および有機発光層における熱の伝播するよりも短い、数十ピコ秒以下のパルス時間に設定した超短パルスレーザー照射で行われたことにより達成されていることが好ましい。このような超短パルスレーザーを用いることで、部材の熱的な影響を抑制できるからである。
【0015】
また、本発明は、封止材が、基板上の前記第1電極、有機発光層、および第2電極を封止する接着剤を含む構成であり、固体封止した構造を有する有機発光素子である場合に特に効果を奏する。
【0016】
さらに、本発明は、封止材が、基板上の第1電極、有機発光層、および第2電極上の薄膜保護膜を含む構成であってもよい。この場合、薄膜保護膜としては、単層無機膜、積層無機膜、単層有機膜、積層無機膜、有機膜/無機膜の積層膜を含むものであってもよい。
【0017】
本発明の第2の特徴は、基板と、基板上に形成された第1電極と、第1電極上に形成された有機発光層と、有機発光層上に形成された第2電極と、基板上の第1電極、有機発光層、および第2電極を封止する封止材と、を備えた有機発光素子の欠陥箇所の検出およびリペアを行う有機発光素子のリペア装置であって、第1電極と第2電極間に電流および電圧を印加するテスト駆動電力供給部と、テスト駆動電力供給部により電流および電圧を印加したときの発光表示状態の検出を行う発光表示検出部と、テスト駆動電力供給部により電流および電圧を印加したときの発光面の面内温度分布検出を行う温度分布検出部と、発光表示検出部と温度分布検出部での検出結果に基づいて検出された欠陥領域に対応する、第1電極と第2電極との少なくとも一方に、電極および有機発光層における熱の伝播するよりも短い、数十ピコ秒以下のパルス時間に設定した超短パルスレーザー照射して、局部的に貫通孔を形成する超短パルスレーザー照射部と、を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の特徴に係る発明によれば、異物などによる電流リークおよびショートに起因する発光欠陥の発生を抑制した耐久性の高い有機発光素子を実現することができる。
【0019】
また、本発明の第2の特徴に係る発明によれば、有機発光素子における、電流リークおよびショートの発生する欠陥領域を検出し、この欠陥領域を広げることなく最小限の範囲で確実にリペアすることができるリペア装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る有機発光素子および有機発光素子のリペア装置の詳細を図面に基づいて説明する。但し、図面は模式的なものであり、各材料層の厚みやその比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0021】
[有機発光素子]
(第1の実施の形態)
図1および図2は、本発明の第1の実施の形態に係る有機発光素子10を示している。図1は有機発光素子10を示す図2のI−I断面図、図2は有機発光素子10の平面図である。
【0022】
本実施の形態に係る有機発光素子10は固体封止構造を有する有機EL照明装置に本発明を適用したものである。
【0023】
図1に示すように、有機発光素子10は、基板としての第1透明基板11と、第1透明基板11上に形成された第1電極としての透明なアノード12と、アノード12上に形成された有機発光層13と、この有機発光層13上に形成された第2電極としてのカソード14と、第1透明基板11上に積層されたアノード12、有機発光層13、およびカソード14を封止する封止材としての接着剤層15と、接着剤層15上に重ねられた第2透明基板16と、を備えて大略構成されている。
【0024】
本実施の形態の有機発光素子10において、第1透明基板11および第2透明基板16は透明なガラスでなる。アノード12はITO(Indium Tin Oxide)でなる。有機発光層13は、図示しない正孔輸送層、発光層、電子輸送層を含んでなる。カソード14はアルミニウム(Al)でなる。接着剤層は、例えばエポキシ樹脂でなる。
【0025】
なお、本実施の形態では、これらの材料を用いたが、それぞれの部材は、周知の他の材料を用いても勿論よい。例えば、アノード12としては、ITOの他に、仕事関数の大きなニッケル、金、白金、酸化錫、ヨウ化銅など材料を用いることできる。
【0026】
カソード14としては、アルミニウムの他に、仕事関数の小さい、銀、鉛、錫、マグネシウム、インジウム、クロム、リチウム、あるいは各種合金などを用いることができる。
【0027】
有機発光層13としては、ベンゾ縮合化合物類、クマリン化合物、キノロン化合物、ピリドイミダソキノキサリン、縮合ピリジン環化合物、キナクリドン化合物、キナゾリン化合物、オリゴフェニレン化合物、ビスオキサゾール化合物類、ピロロピロール化合物、カルボキシイミド化合物、カルバゾールジアミン化合物類、オキサジアゾール化合物類、オレゴフェニレン化合物、ポリへテロ環化合物類などの材料を用いることができる。
【0028】
特に、本実施の形態の有機発光素子10の特徴は、アノード12における、有機発光層13に混入している導電性異物17に対応する位置に導電性異物17と略同径寸法または導電性異物17よりもやや大きな径寸法のリペア用の貫通孔12aが形成されていることである。また、導電性異物17は、貫通孔12aの外、すなわち有機発光層13側に後退するように加工されている。貫通孔12a内の空隙と、貫通孔12aの外側で導電性異物17の端面までの僅かな空隙とで、空洞領域18が構成されている。
【0029】
ここで、有機発光層13内に混入されている導電性異物17として、カーボンや金属などのパーティクルなどがある。このような導電性異物17は、完全に混入しないようにすることは現実的に困難であり、従来より有機発光層13に混入している。この導電性異物17が存在する領域は、アノード12とカソード14との間の抵抗の面内均一性を阻害する欠陥領域である。このため、本実施の形態のように空洞領域18を設けない場合は、有機発光素子20の発光輝度の面内均一性をさらに悪化させたり、有機発光素子20全体が発光(点灯)不能になるという不都合が生じる。
【0030】
本実施の形態の有機発光素子10は、第1透明基板11上に、順次、アノード12、有機発光層13、カソード14、接着剤層15、第2透明基板16を重ね合わせて作製したものに対して、導電性異物17が混入している欠陥領域を検出する工程と、この欠陥領域に、数十ピコ秒以下のパルス時間に設定した超短パルスレーザー(例えば、ピコ秒レーザーやフェムト秒レーザー)を照射して空洞領域18を加工する工程と、を経て上記の特徴的構造に作製されたものである。
【0031】
因みに、従来用いられていたナノ秒のYAGレーザーでは、被加工物の光吸収特性を利用し、最も吸収し易い加工部材料に合せて波長レーザー(1064/532/354/266nm)を選択することは有効である。ただし、フェムト秒レーザーのように、非常にパルス幅が小さい場合には、非加工物の光吸収特性に依存しない多光子吸収特性により従来非常に加工が困難であった透明材料でもレーザー光の吸収作用が現れ加工することが可能である。また、本実施の形態のように、超精密レーザー加工を目的とする場合は、対物レンズの高倍率化もしくはレーザー波長の短波長化で対応が可能となる。
【0032】
また、フェムト秒レーザーのパルス幅は、貫通孔12aが形成されたアノード12および有機発光層13において熱が伝播するよりも短い時間であるため、熱が伝播する間もなく加工を終了させるため、加工部分の周囲への熱的な影響がほとんどない。具体的には、フェムト秒レーザー照射された部分を確実な形状に加工でき、加工部分の周囲に熱的変形、すなわち有機発光層13の劣化、アノード12やカソード14の熱による剥がれや盛り上がりなどの変形が起きることを抑制できる。このため、本実施の形態では、有機発光素子20における貫通孔12aの周囲のアノード12の膜状態が製造工程における成膜時とほぼ変化ない状態に保たれており、この部分(貫通孔の周辺)における発光特性を劣化させることも抑制できる。
【0033】
このような作用は、パルス幅が、貫通孔12aが形成されたアノード12および有機発光層13において熱が伝播するよりも短い時間数十ピコ秒レーザーにおいても同様の作用を有する。
【0034】
本実施の形態によれば、貫通孔12aを含む空洞領域18がアノード12と導電性異物17を電気的に遮断しているため、この部分でリーク電流やショートが発生することがない。また、上記したような超短パルスレーザーを用いて空洞領域18が加工されているため、超短パルスレーザーの照射に伴い、従来のような加熱加工でのジュール熱は発生せず、また従来のように発生したジュール熱の蓄積も起こらない。この理由は、貫通孔12aが形成されたアノード12および有機発光層13において熱が伝播するよりも短い時間、数十ピコ秒以下のパルス時間に設定した超短パルスレーザーが照射されているからである。
【0035】
本実施の形態に係る有機発光素子10の空洞領域18を含めた構成は独特なものであり、このような構成により、導電性異物17による電流リークおよびショートに起因する発光欠陥の発生を抑制できる。したがって、本実施の形態に係る有機発光素子10は、経時的に導電性異物17に起因した欠陥が発生しやすくなるという従来の問題を解決しており、高い耐久性を実現している。
【0036】
なお、空洞領域18は、極微細な大きさであるため、有機EL照明装置の発光面全体としては無視できる大きさである。このように、極微細な空洞領域18を形成した構成とすることで、有機発光素子10の高い耐久性を実現するとともに、導電性異物17によりショートを起こす構造の有機発光素子10の不良品化を防止でき、パネル品質および歩留まりを向上させることができる。
【0037】
(第2の実施の形態)
図3および図4は、本発明の第2の実施の形態に係る有機発光素子20を示している。図3は有機発光素子20の図4におけるIII−III断面図、図4は有機発光素子20の平面図である。なお、本実施の形態において、上記第1の実施の形態と同一部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
図3に示すように、本実施の形態に係る有機発光素子20の空洞領域18は、上記第1の実施の形態において欠陥領域に存在した導電性異物17を完全に除去した領域である。このような構造に加工することは従来のYAGレーザーではその周囲に熱的な変形をもたらすため不可能であり、上記第1の実施の形態と同様に、数十ピコ秒以下のパルス時間に設定した超短パルスレーザー(例えば、ピコ秒レーザーやフェムト秒レーザー)を照射することにより初めて実現できる構造である。
【0039】
以上のように、本実施の形態の有機発光素子20は、空洞領域18がアノード12とカソード14との間に存在した導電性異物17が完全に破壊・除去された除去空間となる。
【0040】
本実施の形態における他の構成は、上記第1の実施の形態と同様である。また、本実施の形態によれば、空洞領域18に導電性異物17が残留していないため、欠陥発生の原因が除去され、更に耐久性の高い有機発光素子20を実現することができた。
【0041】
(第3の実施の形態)
図5および図6は、本発明の第3の実施の形態に係る有機発光素子30を示している。図5は有機発光素子30の図6におけるV−V断面図、図6は有機発光素子30の平面図である。なお、本実施の形態において、上記第1の実施の形態と同一部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0042】
本実施の形態の有機発光素子30は、導電性異物17には直接レーザーを照射せずに、アノード12に、導電性異物17の外側を周回するように取り囲む環状貫通孔12bを、数十ピコ秒以下のパルス時間に設定した超短パルスレーザー(例えば、ピコ秒レーザーやフェムト秒レーザー)を照射して加工されたものである。この環状貫通孔12bは、環状の空洞領域19を形成している。
【0043】
また、本実施の形態では、封止材として、接着剤層15に加えて、接着剤層15の下に、第1電極であるアノード12、有機発光層13、および第2電極であるカソード14でなる積層構造を覆う、薄膜保護膜15aを含む構成である。この薄膜保護膜15aは、単層無機膜、積層無機膜、単層有機膜、積層無機膜、有機膜/無機膜の積層膜などを挙げることができる。
【0044】
本実施の形態では、カソード14や有機発光層13には殆ど溝が及ばないように加工されている。アノード12は、透明膜であるため、環状貫通孔12bを形成しても更に目立ちにくいという利点がある。
【0045】
以上、有機発光素子について述べたが、上記した第1〜第3の実施の形態では、基板としてガラス基板を用いたが、可撓性を有する樹脂基板を適用してよい。この場合は、超短パルスレーザー照射を行うため樹脂基板の変質や変形も抑制できる。
【0046】
また、上記した第1〜第3の実施の形態では、貫通孔12aや環状貫通孔12bをアノード12に形成したが、カソード14に形成する構成としても勿論よい。
【0047】
[有機発光素子のリペア装置]
(リペア装置の構成)
次に、図7〜図11を用いて本発明の実施の形態に係る有機発光素子のリペア装置100を説明する。なお、図7はリペア装置100の概略構成を示すブロック図、図8および図9はリペア方法を示すフローチャート、図10は導電性異物が混入した有機発光素子10Aの断面図、図11は超短パルスレーザーを導電性異物に照射している状態を示す断面図である。なお、図10および図11において、図1に示した第1の実施の形態の有機発光素子10と同一部分には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
図7に示すように、本実施の形態に係る有機発光素子のリペア装置100は、有機発光素子10Aを載置する載置台101と、有機発光素子10Aのアノード12およびカソード14に図示しないプローブにて接続されるテスト駆動電力供給部102と、発光表示検出部103と、温度分布検出部104と、超短パルスレーザー照射部105と、制御部106と、表示部107と、を備えて大略構成されている。
【0049】
載置台101は、図示しないXYZ操作部を備えていて、発光表示検出部103と温度分布検出部104と超短パルスレーザー照射部105とに対して相対的に移動可能に設けられている。
【0050】
制御部106は、テスト駆動電力供給部102と、発光表示検出部103と、温度分布検出部104と、超短パルスレーザー照射部105とを制御する。
【0051】
テスト駆動電力供給部102は、制御部106からの制御信号により所定の電圧を図示しないプローブを介して有機発光素子10Aに印加するとともに、有機発光素子10Aの電圧電流特性を測定してそのデータを制御部106に出力する。
【0052】
発光表示検出部103は、図示しないCCD撮像素子と光学系とを備えており、有機発光素子10Aにテスト駆動電力供給部102から電力が供給されている間に有機発光素子10Aの表面の撮像データを制御部106に出力する。制御部106は、この撮像データに基づいて撮像された像を表示部107に出力する。
【0053】
温度分布検出部104は、サーモグラフィーを備えてなり、発光面の面内温度分布検出を行い検出データを制御部106に出力する。
【0054】
制御部106は、発光表示検出部103および温度分布検出部104からの検出データに基づいて、有機発光素子10Aの欠陥領域の位置を算出する。
【0055】
超短パルスレーザー照射部105は、制御部106からの制御信号に基づき、有機発光素子10Aにおける電極および有機発光層13における熱の伝播するよりも短い、数十ピコ秒以下のパルス時間に設定した超短パルスレーザーを有機発光素子10Aの表面に照射する。
【0056】
このとき、載置台101は、制御部106からの指令により駆動制御される図示しないXYZ操作部によって、発光表示検出部103または温度分布検出部104の検出データにより得られた有機発光素子10Aの欠陥領域を超短パルスレーザー照射部105の直下に配置させることができる。
【0057】
(リペア方法)
次に、上記リペア装置100を用いたリペア方法について図8および図9を用いて説明する。なお、このリペア方法は、発光表示検出部103による検出結果に基づくリペア方法(1)と、温度分布検出部104による検出結果に基づくリペア方法(2)とに分けて説明する。
【0058】
リペア方法(1)
リペア方法(1)について以下に説明する。まず、図8に示すように、最初に、リペアの対象である有機発光素子10Aを載置台101の上に載置して、制御部106は、テスト駆動電力供給部102から有機発光素子10Aにテスト電圧を印加させ電圧電流特性を取得する。この電圧電流特性を正常な有機発光素子の電圧電流特性に基づいて特定した基準電圧電流特性と比較してリペアの対象である有機発光素子にリーク電流が発生しているか否かを判定してリーク電流値を取得する(ステップS1)。リーク電流が発生している場合は、有機発光素子10Aに欠陥領域が有ると考えられる。
【0059】
次に、制御部106は、テスト駆動電力供給部102に、有機発光素子10Aに発光を開始する閾値電圧を印加するように指令信号を出力する。そして、有機発光素子10Aの発光状態を、発光表示検出部103で撮像して正常発光像を取得する(ステップS2)。
【0060】
次に、閾値未満の電圧をテスト駆動電力供給部102から印加させて、有機発光素子10Aの閾値未満素子画像を取得する(ステップS3)。
【0061】
次に、閾値未満素子画像の中に周囲に比べて輝度が高い部分があるか否かを制御部106で判定する(ステップS4)。このとき、有機発光素子10Aにリーク電流が発生していない場合は、閾値未満の電圧であるため発光箇所はない。しかし、リーク電流が発生している場合は、その部分が微弱な電流であっても発光して他の部分よりも輝度が高くなり、その結果輝点となって検出される。この工程でリーク電流に起因する発光像が無い場合は、終了する。図10に示すように、導電性異物17が存在して、リーク電流に起因する発光像が有る場合は、表示部107に表示されている発光像と制御部106で算出した欠陥領域の位置情報とを比較し、欠陥位置が一致していない場合は、マウスなどのインターフェイスを用いてリペア位置の情報を制御部106に取得させる(ステップS5)。
【0062】
次に、制御部106は、リペア位置の情報に基づいて載置台101の位置を制御する信号を図示しないXYZ操作部へ出力して有機発光素子10Aの位置決めを行う。そして、図11に示すように、超短パルスレーザー照射部105を駆動制御してリペア位置に向けてレーザー照射を行う(ステップS6)。なお、図11中、符号105aは、リペア位置の焦点深度や照射面積を設定するためのレンズを示している。この結果、リペアが成功すると図1に示すような構造の空洞領域18が形成される。
【0063】
次に、有機発光素子10Aに再度閾値未満の電圧を印加して、閾値未満素子像を取得する(ステップS7)。
【0064】
次に、ステップS7で取得した閾値未満素子像にリーク発光像が有るか否かを判定する(ステップS8)。
【0065】
次に、閾値未満素子像にリーク発光像が発見されない場合は、閾値電圧を印加して正常発光画像を取得する(ステップS9)。一方、リーク発光像が発見された場合は、ステップS5に戻って再度レーザー照射を行う。
【0066】
ステップS9にて正常発光像を取得した後、正常発光像に異常がないかどうかの判定を行う(ステップS10)。ここで、異常があると判定されるとステップS3に戻る。異常が無いと判定されると、有機発光素子10Aの電圧電流特性を計測してリーク電流値を取得する(ステップS11)。
【0067】
次に、このリーク電流値を、レーザー照射前に取得したリーク電流値と比較する(ステップS12)。リーク電流値が減少している場合は正しくリペアされたものとして終了する。リーク電流値が減少していない場合は、再度ステップS3に戻って再度欠陥領域の検出とリペアを行う。
【0068】
リペア方法(2)
次に、リペア方法(2)について、図9を用いて説明する。このリペア方法(2)は、有機発光素子10Aにショートが発生している場合に有効な方法となる。まず、図9に示すように、リペアの対象である有機発光素子10Aを載置台101の上に載置して、制御部106は、テスト駆動電力供給部102から有機発光素子10Aにテスト電圧を印加させ電圧電流特性を取得する。この電圧電流特性を正常な有機発光素子の電圧電流特性に基づいて特定した基準電圧電流特性と比較してリペアの対象である有機発光素子にショートが発生しているか否かを判定して電流値を取得する(ステップS21)。ショートが発生している場合は、有機発光素子10Aに欠陥領域が有ると考えられる。
【0069】
次に、制御部106は、テスト駆動電力供給部102に、有機発光素子10Aに発光の上限電流値以下の電流を印加するように指令信号を出力する。そして、有機発光素子10Aの発熱状態を、温度分布検出部104でモニタして熱画像を取得する(ステップS22)。
【0070】
次に、上限電流値以下の電流をテスト駆動電力供給部102から印加して上限電流値以下の熱画像を取得する(ステップS23)。
【0071】
次に、熱画像の中にジュール熱による熱画像があるか否かを制御部106で判定する(ステップS24)。このとき、有機発光素子10Aにショートが発生していない場合は、ジュール熱による熱画像はないため、終了する。しかし、ショートが発生している場合は、熱画像を取得する(ステップS25)。その後、熱画像よりショートが発生している欠陥領域の位置情報を取得する(ステップS26)。
【0072】
次に、上記位置情報に基づいて載置台101を移動させて、有機発光素子10Aの適所に超短パルスレーザー照射を行う(ステップS27)。
【0073】
その後、有機発光素子10Aに上限電流値以下の電流を印加して、温度分布検出部104により有機発光素子10Aの発光面内の熱画像を取得する(ステップS28)。
【0074】
ここで、ジュール熱による熱画像があるか否かの判定を行う(ステップS29)。ここで、ジュール熱による熱画像がある場合は、再度ステップS25に戻る。一方、ジュール熱による熱画像が無い場合は、正常熱画像を取得して(ステップS30)終了する。
【0075】
以上、本実施の形態の有機発光素子のリペア装置100について説明したが、上記したリペア方法(1)、(2)はどちらを先に行ってもよく、両方のリペア方法を行うことにより、リーク電流による欠陥領域とショートによる欠陥領域とを把握でき、この欠陥領域を広げることなく確実にリペアを行うことが可能になる。
【0076】
(その他の実施の形態)
上述した実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0077】
例えば、上述のリペア装置100では、欠陥領域の位置を制御部106にて算出するようにしたが、発光画像や熱画像を表示部107で目視して、マウスの操作によりリペア位置を決定するようにしても勿論よい。
【0078】
また、上述の各実施の形態では、欠陥領域として導電性異物17が存在する領域としたが、有機発光層13が他の部部に比較して膜厚が薄くリーク電流が発生し易い場合にも本発明を適用することができる。
【0079】
さらに、上述の各実施の形態では、固体封止構造の有機発光素子について本発明を適用したが、缶封止構造の有機発光素子に適用することも勿論有効である。
【0080】
また、上述の各実施の形態では、有機発光素子として、有機EL照明装置を適用したが、多数の画素領域を有する有機EL表示装置に適用しても勿論よい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機発光素子の図2に示すI−I断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る有機発光素子の平面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る有機発光素子の図4に示したIII−III断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る有機発光素子の平面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る有機発光素子の図6に示すV−V断面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る有機発光素子の平面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る有機発光素子のリペア装置を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る有機発光素子のリペア装置で行うリペア方法(1)を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態に係る有機発光素子のリペア装置で行うリペア方法(2)を示すフローチャートである。
【図10】導電性異物が混入した有機発光素子の断面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る有機発光素子のリペア装置で超短パルスレーザー照射を行っている状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0082】
10,20,30 有機発光素子
11 第1透明基板(基板)
12 アノード(第1電極)
12a 貫通孔
13 有機発光層
14 カソード(第2電極)
15 接着剤層
16 第2透明基板
17 導電性異物
18 空洞領域
100 リペア装置
101 載置台
102 テスト駆動電力供給部
103 発光表示検出部
104 温度分布検出部
105 超短パルスレーザー照射部
105a レンズ
106 制御部
107 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第1電極と、
前記第1電極上に形成された有機発光層と、
前記有機発光層上に形成された第2電極と、
前記基板上の前記第1電極、前記有機発光層、および前記第2電極を封止する封止材と、
を備え、
前記第1電極と前記第2電極との少なくとも一方に、局部的に素子内部の空洞領域となるリペア用の貫通孔が形成されていることを特徴とする有機発光素子。
【請求項2】
前記貫通孔は、有機発光層における前記第1電極と前記第2電極との間の抵抗の面内均一性を阻害する欠陥領域に対応する領域に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記欠陥領域は、前記第1電極と前記第2電極との間に導電性異物が存在する領域であり、且つ前記貫通孔は、前記導電性異物の周辺近傍を取り囲むように前記第1電極に環状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記欠陥領域は、前記第1電極と前記第2電極との間に導電性異物が存在する領域であり、且つ前記導電性異物は前記貫通孔が形成された前記電極と電気的に遮断されるように前記貫通孔外に位置するように部分的に破壊・除去されていることを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記欠陥領域は、前記第1電極と前記第2電極との間に存在した導電性異物が破壊・除去された除去空間であり、前記除去空間は前記貫通孔とともに前記空洞領域を形成することを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記貫通孔の周囲の前記電極の膜状態が成膜時の膜状態と同じ特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記貫通孔ならびに前記導電性異物の破壊・除去は、前記貫通孔が形成された前記電極および前記有機発光層における熱の伝播するよりも短い、数十ピコ秒以下のパルス時間に設定した超短パルスレーザー照射で行われたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記封止材は、前記基板上の前記第1電極、前記有機発光層、および前記第2電極を封止する接着剤を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記封止材は、前記基板上の前記第1電極、前記有機発光層、および前記第2電極上の薄膜保護膜を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記薄膜保護膜は、単層無機膜、積層無機膜、単層有機膜、積層無機膜、有機膜/無機膜の積層膜を含むことを特徴とする請求項9に記載の有機発光素子。
【請求項11】
基板と、前記基板上に形成された第1電極と、前記第1電極上に形成された有機発光層と、前記有機発光層上に形成された第2電極と、前記基板上の前記第1電極、前記有機発光層、および前記第2電極を封止する封止材と、を備えた有機発光素子の欠陥箇所の検出およびリペアを行う有機発光素子のリペア装置であって、
前記第1電極と前記第2電極間に電流および電圧を印加するテスト駆動電力供給部と、
前記テスト駆動電力供給部により電流および電圧を印加したときの発光表示状態の検出を行う発光表示検出部と、
前記テスト駆動電力供給部により電流および電圧を印加したときの発光面の面内温度分布検出を行う温度分布検出部と、
前記発光表示検出部と前記温度分布検出部での検出結果に基づいて検出された欠陥領域に対応する、前記第1電極と前記第2電極との少なくとも一方に、前記電極および前記有機発光層における熱の伝播するよりも短い、数十ピコ秒以下のパルス時間に設定した超短パルスレーザー照射して、局部的に貫通孔を形成する超短パルスレーザー照射部と、
を備えることを特徴とする有機発光素子のリペア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−266917(P2009−266917A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112180(P2008−112180)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】