説明

有機発光素子及びそれを利用した発光装置、表示装置

【課題】 様々な発光材料が適用可能で、発光効率が高く、かつ良好な発光色を示す有機発光素子を提供することにある。
【解決手段】 第1電極21と、発光層23を有する有機化合物層と、第2電極26と、を有し、第1電極21にある反射面と第2電極26との間で発光層23が発する光を干渉させて強め合うように構成された有機発光素子であって、干渉による干渉強度分布のピーク波長λが、発光層23に含まれる発光材料のPLスペクトルの最大ピーク波長λ及び有機発光素子から取り出されるELスペクトルの最大ピーク波長λに対して、λ≠λでかつ|λ−λ|<|λ−λ|の関係を満たし、かつ、干渉強度分布のピーク波長λは、PLスペクトルにおいて最大ピーク波長λでの強度の50%以上を示す波長と一致している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物層を用いた発光素子、さらに詳しくは、一対の電極間にある発光層を有する有機化合物層に電流を流すことにより、発光層が発光する有機発光素子である。さらに、その有機発光素子を利用した発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(以下、単に素子と記載する場合がある)は現在盛んに研究開発されている。このような有機発光素子は、陽極および陰極からなる一対の電極と、この一対の電極の間に形成されている、発光層を含む有機化合物層とからなる。この有機化合物層を構成する各層は、各々数十nm程度の厚さである。また、素子を構成する電極の一方は光を反射する電極である。もう一方の電極は光取り出し電極であり、光取り出し電極と外部環境との界面で、発光の一部が反射される。これにより、有機発光素子の内部で特定の波長の光が強められる光学干渉効果が現われる。
【0003】
特許文献1では、光学干渉を利用して、素子から取り出したいスペクトルの最大ピーク波長における光の取り出し効率を高めることが開示されている。図1は、特許文献1の有機発光素子の断面模式図である。図1における有機発光素子は、基板10の上に、反射層を兼ねる第1電極(陽極)11、有機化合物層(正孔注入層12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15)、金属からなる第2電極(陰極)16を順に設けた構成である。この有機発光素子に電流を流すことで、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子が、発光層14において再結合する。その再結合の際に生じるエネルギーによって発光材料が励起状態になり、発光材料が基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出し、有機発光素子が発光する。
【0004】
このような有機発光素子では、基板上の第1電極11と正孔注入層12との界面と電子輸送層15と第2電極16との界面との間で共振器構造が構成される。ここで、第1電極11と第2電極16との間の光学距離をL、素子からの発光を視認する角度をθ(素子に正対して視認する場合を0°)とする。また、第1電極11と正孔注入層12との界面と電子輸送層15と第2電極16との界面にて発光光が反射する際の位相シフトの和をφ(rad)、光学干渉の次数をmとする。この場合に、発光層14から発光された光のうち、数1を満足するような波長λ(共振波長)の光が共振器構造によって強められる。
λ=2Lcosθ/(m−φ/2π) (mは正の整数)・・・数1
ただし、実際に反射層や電極にて発光が反射する際、反射界面を構成する電極材料や有機材料などの組み合わせにより、位相シフトの和φは変化する。
【0005】
特許文献1では、発光層14内での最大発光位置を考慮し、素子から取り出したいスペクトルの最大ピーク波長を共振器構造によって強められるように、共振器構造の光学距離を設定している。このように、素子から取り出したいスペクトルの最大ピーク波長と共振波長を合わせることで、素子から取り出したいスペクトルの最大ピーク波長の強度を高めることができる。
【0006】
上記のような、有機発光素子において、素子に用いる発光材料のPLスペクトルは、素子から取り出したい色を示すスペクトルであることが好ましい。なぜなら、PLスペクトルの最大ピーク波長ではない波長に共振波長を合わせるので、PLスペクトルと取り出したい色を示すスペクトルが異なる場合には、十分な発光効率が得られなくなる恐れがあるからである。ところが、素子から取り出したい発光色を示すスペクトルとほぼ等しいようなPLスペクトルを有する発光材料はきわめて稀である。また、例えそのような発光材料であっても、発光色以外の、寿命や発光効率等の諸特性を満足するとは限らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−127795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、様々な発光材料を用いることができ、発光効率が高く、良好な発光色を示す有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機発光素子は、反射面を有する第1電極と、発光層を有する有機化合物層と、第2電極と、を有し、前記第1電極にある反射面と前記第2電極との間で前記発光層が発する光を干渉させて強め合うように構成された有機発光素子であって、前記干渉による干渉強度分布のピーク波長λが、前記発光層に含まれる発光材料のPLスペクトルの最大ピーク波長λ及び前記有機発光素子から取り出されるELスペクトルの最大ピーク波長λに対して、λ≠λでかつ|λ−λ|<|λ−λ|の関係を満たし、かつ、前記干渉強度分布のピーク波長λは、前記PLスペクトルの最大ピーク波長λでの強度の50%以上を示す波長と一致していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機発光素子は、干渉強度分布の最大ピーク波長λを発光材料のPLスペクトルの最大ピーク波長λからずらし、干渉強度分布の広がりを利用した発光色の調整が可能となる。これにより、様々な発光材料を用いることができ、発光効率が高く、良好な発光色を示す有機発光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の有機発光素子の断面模式図である。
【図2】本発明の実施例1の有機発光素子の断面模式図である。
【図3】Type1,Type2,Type3の有機発光素子における干渉強度分布を示す図である。
【図4】発光層のPLスペクトルを示す図である
【図5】Type1,Type2,Type3の有機発光素子における干渉強度分布と、ある発光層のPLスペクトルを示すである。
【図6】共振器構造を備えた有機発光素子の干渉強度分布と、Type1の有機発光素子の干渉強度分布を示す図である。
【図7】本発明の実施例4の表示装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図を用いて、本発明の有機発光素子を詳細に説明する。なお、本明細書で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知または公知技術を適用する。
【0013】
(第1の実施形態)
図2は、本発明の有機発光素子の一例を示しており、トップエミッション型発光素子の断面模式図である。図2において、基板20上に、反射層21aと透明導電層21bからなる第1電極21が形成されている。この第1電極21上に、正孔輸送層22と、発光層23と、電子輸送層24と、電子注入層25とからなる有機化合物層が形成され、この有機化合物層上に第2電極26が形成されている。なお、第1電極21は、反射層21aと透明導電層21bとの積層構成であるが、反射率の高い金属からなる一つの導電層で形成されてもよい。また、27は封止空間であり、乾燥窒素が充填され、28は封止部材をそれぞれ示す。
【0014】
この有機発光素子の第1電極21を陽極、第2電極26を陰極として電流を流すことで、第1電極21から正孔輸送層22へ注入された正孔と第2電極26から電子注入層25へ注入された電子とが、発光層23まで移動し、そこで再結合する。その再結合の際に生じるエネルギーによって発光材料が励起状態になり、発光材料が基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出し、有機発光素子が発光する。このとき生じた発光光は、第2電極26を通じて素子の外部へと出射される。この場合、第2電極は、光透過性を有する、透明又は半透明の電極である。なお、光透過性とは、可視光の波長域(λ=380nm以上780nm以下)で40%以上100%以下の透過率を有していることである。
【0015】
本発明の有機発光素子に用いる基板20としては、特に限定するものではないが、金属、セラミックス、ガラス、石英等が用いられる。また、プラスティックシート等のフレキシブルシートを用いたフレキシブルな発光装置とすることも可能である。
【0016】
反射層21aとしては、透明導電層21bとの界面における、可視光の波長域における反射率が少なくとも50%以上、好ましくは、80%以上となる材料からなる層が望ましい。その条件を満たす材料としては、例えば、アルミニウム、銀、クロム等の金属や、それらの合金が挙げられる。また、反射層21aが金属のような導電性部材で構成される必要はなく、誘電体多層膜ミラーのような絶縁性部材を反射層として用いることもできる。
【0017】
透明導電層21aとしては、金属酸化物導電膜、具体的には、酸化インジウムと酸化錫の化合物膜(以下、ITOと称す)や、酸化インジウムと酸化亜鉛の化合物膜等を用いることができる。なお、透明とは、可視光に対して70%以上100%以下の透過率を有していることである。透明であることを満たす透明導電層21bの条件としては、消衰係数のκが0.05以下、好ましくは、0.01以下となることが、透明導電層21bでの、発光層23で発光した光の減衰を抑える観点でよい。
【0018】
正孔輸送層22、発光層23、電子輸送層24、電子注入層25に用いられる有機化合物としては、低分子材料で構成されても、高分子材料で構成されても、両者を用いて構成されてもよく、特に限定されるものではない。必要に応じてこれまで知られている材料を使用できる。
【0019】
また、有機化合物層は、単層型(発光層)、2層型(正孔輸送層/発光層)、3層型(正孔輸送層/発光層/電子輸送層)、4層型(正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層)、5層型(正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層)のいずれの構成でもよい。この有機化合物層の層数や積層順は、電極の構成によって適宜決定される。
【0020】
本発明の有機化合物で形成される層は、一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法、あるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング法、ディッピング法、キャスト法、インクジェット法等)により形成される。
【0021】
また、電子注入層25としては、例えば、フッ化リチウムや、アルカリ金属、アルカリ土類金属等のように、一般に用いられる電子注入材料を用いることができる。また、電子輸送性の有機化合物材料に、アルカリ金属やアルカリ土類金属、もしくはその化合物を0.1以上数十%以下含有させることにより、電子注入層25とすることもできる。後者の構成の場合、電子注入層25の膜厚を10〜100nm程度とすると、この後に形成する第2電極26の成膜ダメージを緩和できるため好ましい。
【0022】
第2電極26は、発光層23で発光した光を素子外に取り出すために光透過性を有している必要がある。このような第2電極26としては、透明導電層21bと同様の金属酸化物導電膜を用いることができる他、銀などの金属薄膜を用いることができる。第2電極の膜厚としては、光透過性を有していれば特に限定されないが、金属酸化物導電膜を用いる場合には、10nm以上1000nm以下、好ましくは30nm以上300nm以下の範囲で設定されると、電極のシート抵抗と透過率の観点から望ましい。また、金属薄膜を第2電極26として用いる場合には、透過率の観点から、その金属薄膜の膜厚は5nm以上30nm以下、好ましくは5nm以上20nm以下であることが良い。さらに、第2電極26は、金属酸化物導電膜と金属薄膜の2層構成であっても良い。また、第2電極26は、スパッタリング等の公知の方法で成膜することができる。
【0023】
封止部材28としては、素子が外部環境の酸素や水分より保護する目的で設けられ、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等を用いることができる。また、防湿性能を高める為に、封止空間27内に吸湿材(不図示)を含有させても良い。
【0024】
さらに、封止部材28と有機発光素子との間の封止空間27に乾燥窒素を充填する代わりに、保護膜を素子に直接成膜するようにしてもよい。この保護膜としては、窒化シリコン、窒化酸化シリコン等の金属窒化物膜や、酸化タンタル等の金属酸化物膜、ダイヤモンド薄膜、樹脂膜等を単一の膜または複数の膜として用いることができる。この場合、より薄い有機発光素子が得られ、特に好ましい。
【0025】
一般的に有機発光素子を構成する各層の膜厚は、ほとんど数十nm程度であり、各層の膜厚(d)と各層の屈折率(n)を掛け合わせた光学距離(nd積)は、可視光(λ=350nm以上780nm以下)波長の数分の1程度に相当する。そのため、有機発光素子の内部では、可視光の多重反射や干渉が顕著に現われる。
【0026】
この干渉効果によって強められる波長λは、数1に基づき、光学距離L、光が反射する、層と層との界面での位相シフトの和φといった有機発光素子の構造パラメータと、光学干渉の次数mにより定まる。
【0027】
なお、2つの層の界面での位相シフトψは、界面を形成する2つの層の材料のうち、光が入射する側にある材料を媒質I、他方の材料を媒質IIとし、それぞれの光学定数を(n,k)、(n,k)とすると、数2で表すことができる。なお、これらの光学定数は、例えば分光エリプソメーター等を用いて測定することができる。
ψ=tan−1(2n/(n−n−k))・・・数2
【0028】
本発明の有機発光素子の場合、素子を構成する層と層の各界面は、各層の光学定数の違いにより、発光層23で発光した光を反射する反射界面となる。そのため、各界面での反射光は、それぞれ強度や位相が異なる。この各界面での反射光が多重に干渉し、この干渉によって有機発光素子の干渉強度分布が決定される。
【0029】
なお、図2の構成の本発明の素子では、発光層23から第1電極21に向かい、反射層21aと透明導電層21bとの界面で反射する光と発光層23から第2電極26側に向かう光との干渉が干渉強度分布において大きな寄与を与える。つまり、「第1電極にある反射面」とは、反射層21aと透明導電層21bとの界面のことである。また、第1電極21が反射率の高い金属層のみからなる場合では、その金属層と正孔輸送層22との界面が「第1電極にある反射面」となる。また、第1電極21において反射層あるいは反射率の高い金属層が配置されていない場合には、第1電極21を構成する層のうち屈折率差の大きい界面もしくは、第1電極21と正孔輸送層22との界面が「第1電極にある反射面」となる。
【0030】
このような有機発光素子の干渉強度分布は、素子を構成する各層の膜厚と光学定数をパラメータとし、例えば、汎用の特性マトリックス計算等の手法により、算出することができる。なお、光学定数は有機化合物層の各層の材料によって決まる。
【0031】
図3には、本発明の有機発光素子において、透明導電層21bと正孔輸送層22の膜厚を変化させた3種類の素子の干渉強度分布が示されている。この図において、3種類の素子の干渉強度分布は、それぞれの素子で最も強められる波長の強度を基準とした相対強度で表されている。表1には、この3種類の素子を構成する各層の膜厚が示されており、表2には、有機発光素子を構成する各層の光学定数が示されている。表3には、3種類の素子の干渉強度分布の最大ピーク波長と半値幅の関係が示されている。なお、干渉強度分布(もしくはPLスペクトル)の半値幅とは、干渉強度分布(もしくはPLスペクトル)の最大強度の半分の強度となる最小の波長以上で、かつ、最大強度の半分の強度となる最大の波長以下の波長帯域のことを指す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
図3、表1、表3より、有機発光素子において、透明導電層21bと正孔輸送層22の膜厚設定を変更することにより、素子の干渉強度分布の最大ピーク波長や、半値幅を調整することができることがわかる。ここでは、透明導電層21bと正孔輸送層22の膜厚設定の変更により干渉強度分布を調整する事例について説明したが、この干渉強度分布は、それら以外の、素子を構成する各層の膜厚設定によっても調整することができる。また、各層に適用する材料を変更し、光学定数を変化させる事で、干渉強度分布を調整することも可能である。
【0036】
次に、このような干渉強度分布を利用した有機発光素子の発光特性の調整に関して説明する。本実施形態の有機発光素子において、その発光層23は、図4に示す最大ピーク波長475nm、半値幅46nmのPLスペクトルを示す発光材料により構成した。このPLスペクトルは青色に視認される。この発光材料を含む発光層23を用いた場合の、表1に示すType1〜3の有機発光素子の発光色度が表4に示されている。
【0037】
【表4】

【0038】
表4より、素子を構成する層の膜厚が異なる、つまり、異なる干渉強度分布を有する素子において、各素子の発光特性(素子から取り出されるELスペクトルの最大ピーク波長λ、発光色度、Type1の素子を基準とした相対取り出し効率)はそれぞれ異なる。なお、素子から取り出されるELスペクトルは、素子に正対して視認するスペクトルである。
【0039】
図5は、図3の各素子の干渉強度分布と発光材料のPLスペクトルとの重なりを表している。表4、図5より、各素子の干渉強度分布の最大ピーク波長λはそれぞれ異なり、干渉強度分布とPLスペクトルの重なりもそれぞれ異なる。干渉強度分布の最大ピーク波長λとPLスペクトルの最大ピーク波長λとが一致しているType2の素子では、発光の取り出し効率が相対的に最も高くなっている。これは、干渉強度分布とPLスペクトルとの重なりが最も大きいためである。しかし、Type2の素子は、色度座標CIEy値が大きく、良好な青色を示しているとは言えない。一方、干渉強度分布の最大ピーク波長λとPLスペクトルの最大ピーク波長λの差異が最も大きいType3の素子では、色度座標CIEy値が0.08となり、最も深い青色の発光色が得られ、良好な青色を示している。しかし、干渉強度分布とPLスペクトルとの重なりが小さくなり、相対的な取り出し効率が最も小さくなる。また、Type1の素子では、Type2とType3の素子の中間の発光特性を示す。
【0040】
なお、この場合の良好な青色とは、素子から取り出される青色の発光光の色度座標が、NTSCの青色のCIE色度座標(0.140,0.080)、もしくは、その近傍にある色を指す。青色のCIE色度座標(0.140,0.080)の近傍とは、取り出されるELスペクトルの示す色の色度座標が、(0.140,0.080)を中心として、半径0.080以内の円の中にあることを指す。また別の指標として、青色の場合、視感度を加味するとCIEy値が小さければ小さいほど良好な青色と言える。
【0041】
また、表5は、表1で挙げたType1〜3の素子において、それぞれの素子の干渉強度分布の最大ピーク波長λ、PLスペクトルの最大ピーク波長λ、素子から取り出されるELスペクトルの最大ピーク波長λをまとめて示している。
【0042】
【表5】

【0043】
表5より、Type1及びType3の素子では、干渉強度分布の最大ピーク波長λが、PLスペクトルの最大ピーク波長λとずらされており、Type2の素子では、その2つの波長は一致している。また、Type1及びType3の素子では、干渉強度分布の最大ピーク波長λとELスペクトルの最大ピーク波長λとは一致していない。さらに、干渉強度分布の最大ピーク波長λとPLスペクトルの最大ピーク波長λとELスペクトルの最大ピーク波長λの関係は、Type1及びType3の素子では、λ≠λでかつ|λ−λ|<|λ−λ|である。一方Type2の素子では、それらの最大ピーク波長の関係は、|λ−λ|=|λ−λ|である。また、|λ−λ|が大きい、すなわち、干渉強度分布の最大ピークλとPLスペクトルの最大ピーク波長λとのずれが大きいほど(20nm以上)、発光色の調整効果が高い。
【0044】
λ≠λでかつ|λ−λ|<|λ−λ|のように設定したType1とType3の素子では、Type2の素子に比べ、発光色のCIEy値が小さく、良好な発光色を示した。
【0045】
本発明の有機発光素子は、干渉強度分布の広がりを利用して、PLスペクトルの示す色が所望の色から大きく異なる場合でも、所望の色を素子から取り出すことができる。具体的には、干渉強度分布の広がりを考慮して、所望の色が素子から得られるように、その最大ピーク波長λが、PLスペクトルの最大ピーク波長λからずらされている。
【0046】
なお、所望の色は適宜設定できるが、NTSCのCIE色度座標における各色の色度座標、赤色(0.670,0.330)、緑色(0.210,0.710)、青色(0.140,0.080)が所望の色として設定されてもよい。また、本明細書においては、設定された所望の色から、ある範囲内の色も所望の色とする。例えば、CIE色度座標を用いて所望の色が設定された場合、ある色のCIE色度座標(x,y)と設定された所望の色のCIE色度座標(x,y)とのずれ量Δxy(数3で定義されている)が、ある範囲内に収まっていれば、その色は所望の色とする。
Δxy={(x−x+(y−y1/2・・・数3
【0047】
この場合、ある範囲を規定する値は、赤色の場合には0.050、緑色の場合には0.100、青色の場合には0.080であることが好ましい。なぜなら、例えば、設定された所望の色が赤色((x,y)=(0.670,0.330))の場合に、ある色(x,y)がΔxy≦0.050を満たせば、人間の目で観測して、この色は赤色であると認識されるからである。
【0048】
また、ある範囲を規定する値は、上述したように各色で異なる値であっても良いし、同じ値(例えば0.050)であっても良い。なお、所望の色をNTSCのCIE色度座標系を用いて規定した例を示したが、その他の座標系等を用いて規定しても良い。
【0049】
本発明の有機発光素子において、所望の色を取り出すだけでなく、発光を効率よく素子外部へと取り出すためには、干渉強度分布の半値幅を広くする事が好ましい。これにより、PLスペクトルの示す色が所望の色と大きく異なる場合でも、干渉強度分布とPLスペクトルのそれぞれの最大ピーク波長をずらしても、干渉強度分布とPLスペクトルとの重なりを大きくすることが可能となる。
【0050】
強い光学干渉効果を利用することを目的とした素子は、発光層23の一方に、例えば銀やアルミニウム等を用いて光の反射率を高めた反射層21a、もう一方に、例えば薄膜の銀で構成される半透明な層が設けられている。このような素子では、素子の内部に共振器構造を備えるので、特定波長の共振による強め合い効果が高くなる。そのため、その干渉強度分布の半値幅は狭くなる。共振器構造とは、1つの層あるいは複数の層から成る層と、その1つの層の両端もしくは複数の層から成る層の両端にある2つの反射面で構成され、その2つの反射面の間で光が多重干渉される構造を指す。この場合、反射層21aと透明導電層21bとの界面と、半透明な層の発光層23側にある界面が2つの反射面であり、その間の有機化合物層と共に共振器構造を構成している。
【0051】
図6には、共振器構造を導入した有機発光素子の干渉強度分布が示されている。比較としてType1の有機発光素子のそれも合わせて示されている。図6において、各素子の干渉強度分布は、それぞれの素子の最大強度を基準にした相対強度で表されている。表6には、共振器構造を導入した有機発光素子の各層の膜厚が示されている。図6でみられるように、共振器構造を備える有機発光素子の干渉強度分布の半値幅は46nmであり、Type1の有機発光素子の半値幅135nmに比べて狭い。
【0052】
【表6】

【0053】
比較的広い半値幅の干渉強度分布を得るためには、発光層の片側に反射層を設け、もう一方の側には、透明な層を設けるとよい。例えば、Type1の素子では、透明な層はITO(第2電極26)である。ITOは、成膜条件により前後するが、およそ2.0程度の屈折率を有する。そのため、透明な層と外部環境(封止空間27)の界面では、その屈折率差により、10%程度の反射率となる。一方、共振器構造を備える素子として、第2電極26を、ITOの代わりに銀薄膜による半透明な層とした場合には、第2電極26と有機化合物層との界面の反射率が、半透明な層の膜厚により20乃至50%程度となっている。
【0054】
透明な層としては、例えば、有機化合物層、金属材料や無機材料等といった様々な材料を適用することができる。これにより、共振器構造を備える有機発光素子に比べ、その光学干渉効果が弱くなり、その結果、比較的幅広な干渉強度分布を得る事ができる。
【0055】
また、広く一般的に有機発光素子の発光層として用いられる有機化合物発光材料が示すPLスペクトルは、少なくとも40nm以上の半値幅を示す。そのため、本発明の有機発光素子のように、干渉強度分布とPLスペクトルのそれぞれの最大ピーク波長(λ,λ)をずらし、干渉強度分布とPLスペクトルの重なりを利用する場合、その干渉強度分布の半値幅としては、少なくとも40nm以上とするとよい。より好ましくは、干渉強度分布の半値幅AがPLスペクトルの半値幅Bより大きいことが望ましい。
【0056】
一方、干渉強度分布の半値幅が大きくなると、干渉強度分布の強度は全波長帯域で小さくなるので、十分な発光効率を得るためには、200nm以下であることが好ましい。よって、干渉強度分布の半値幅は40nm以上200nm以下であることが望ましい。
【0057】
また、干渉強度分布の半値幅Aが、PLスペクトルと干渉強度分布のそれぞれの最大ピーク波長の差分(|λ−λ|)に対して、数4の関係を満足するように干渉条件を調整すると良い。
A/2≧|λ−λ|・・・数4
【0058】
これにより、発光材料のPLスペクトルと干渉強度分布との重なりが十分確保でき、発光効率の高い有機発光素子を実現できる。また、PLスペクトルの示す色が所望の色と大きく異なっている場合であっても、数4を満たす干渉強度分布を有する素子においては、所望の色を得ることができ、さらに、高い発光効率を得ることが可能となる。このため、発光色以外の寿命等の観点によって発光材料を選択することができ、発光材料の選択の幅が広がる。さらに、干渉強度分布の半値幅Aが、PLスペクトルの半値幅Bと、PLスペクトルと干渉強度分布のそれぞれの最大ピーク波長の差分(|λ−λ|)に対して、数5を満たすように干渉条件を調整すると良い。
A/2≧B/2+|λ−λ|・・・数5
【0059】
また、干渉強度分布のピーク波長λは、PLスペクトルにおいて、最大強度(波長λでの強度)の50%以上を示す波長と一致させることが望ましい。このようにすると、PLスペクトルと干渉強度の重なりを十分確保でき、発光効率の高い有機発光素子が実現できる。さらに、干渉強度分布のピーク波長λは、PLスペクトルにおいて、最大強度の60%以上95%以下、より好ましくは最大強度の75%以上90%以下を示す波長と一致させることが望ましく、この場合には、色の純度が高く、高い発光効率を有する有機発光素子が実現できる。
【0060】
ところで、光学干渉による強め合い効果について考えてみると、共振波長が同一の場合、次数が低いほど、その干渉効果が強くなる。そのため、できるだけ低い次数の条件に設定すると、より効果的に光学干渉による強め合い効果を利用できるため好ましい。
【0061】
なお、本実施形態では、第1電極21を陽極、第2電極26を陰極とした構成の一例であるが、第1電極21を陰極、第2電極26を陽極とする構成であっても良い。
【0062】
また、本実施形態では、一例としてトップエミッション型発光素子の事例について説明したが、透明な基板上に第2電極、有機化合物層、第1電極を順次積層したボトムエミッション型であっても本発明を実施することは可能であり、特に限定されるものではない。
【0063】
(第2の実施形態)
次に、本発明の別な実施形態について説明する。図7のように本発明の発光装置は、有機発光素子からなる画素を複数有する発光装置であって、これら各画素の発光を制御する駆動回路を備えており、少なくとも一つの画素が、本発明の有機発光素子により構成されている。
【0064】
さらに、この発光装置を表示装置として用いることができる。この場合には、複数の画素ユニットがマトリックス状に配列され、各画素ユニットは、発光色の異なる複数の画素、例えば、赤色発光画素、緑色発光画素及び、青色発光画素で構成されるようにするのが良い。
【0065】
なお、本発明において画素とは、独立して発光の制御が可能である最小の単位を示す。そして画素ユニットとは、発光色の異なる複数の画素で構成され、各画素の混色によって所望の色の発光を可能とする最小の単位を示す。
【0066】
本実施形態において、すべての画素が本発明の有機発光素子であってもよいし、一部の画素のみが本発明の有機発光素子でもよい。すなわち、本発明の有機発光素子と従来の有機発光素子を両方有する構成であってもよい。この場合は、両者の割合を調整することで、表示装置の発光特性を調整することができる。
【0067】
また、このように両方有する場合には、本発明の有機発光素子と従来の有機発光素子を規則的に配列されてもよいが、本発明の有機発光素子が不規則に点在し配置されていてもよい。
【0068】
本発明の発光装置は、照明やプリンタヘッド、露光装置や表示装置用のバックライト等の様々な用途に適用することができる。また、上述したように本発明の発光装置を表示装置として使用する場合には、テレビ受像機、パーソナルコンピュータのディスプレイ、撮像装置の背面表示部、携帯電話の表示部、携帯ゲーム機の表示部等が挙げられる。その他、携帯音楽再生装置の表示部、携帯情報端末(PDA)の表示部、カーナビゲーションシステムの表示部等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限るものではない。
【0070】
<実施例1>
図2に示す有機発光素子を以下の示す方法で作成した。基板20上に、反射層21aとしてアルミニウム合金(AlNd)を150nmの膜厚で、スパッタリング法にて成膜し、その上に透明導電層21bとしてITOをスパッタリング法にて10nmの膜厚で成膜した。これをイソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄し、煮沸洗浄後乾燥した。次に、UV/オゾン洗浄してから有機化合物を真空蒸着により成膜する。
【0071】
まず、正孔輸送層22として化1で示される化合物を、30nmの膜厚に成膜した。この際の真空度は1×10−4Pa、成膜速度は0.2nm/secであった。
【0072】
【化1】

【0073】
次に、図4に示すPLスペクトルを示す青色の発光層23を真空蒸着法にて35nmの膜厚に成膜した。蒸着時の真空度は1×10−4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0074】
更に電子輸送層24としてバソフェナントロリン(Bphen)を真空蒸着法にて10nmの膜厚に成膜した。蒸着時の真空度は1×10−4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0075】
次に、電子注入層25として、BphenとCsCOを共蒸着(重量比90:10)して65nmの膜厚に成膜した。蒸着時の真空度は3×10−4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0076】
次に、この電子注入層25まで成膜した基板を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、第2電極26としてITOを20nmの膜厚に成膜した。
【0077】
その後、この基板を乾燥窒素が充填されているグローブボックス内に移動し、この基板の周辺部にUV硬化樹脂をシールディスペンサーにより塗布する。その後、有機発光素子に対応する部分が0.3mmの深さで掘り込まれ、厚さ0.7mmである凹型のガラス板(封止部材28)をこの基板の上から覆いかぶせた。次に、基板上の周辺樹脂部に紫外線を照射し、樹脂の硬化で基板とガラス板を密着させ、有機発光素子を得た。
【0078】
このようにして得られた有機発光素子の反射層21aと透明導電層21bからなる第1電極21を陽極、第2電極26を陰極として通電し、素子の発光特性を調べた。この素子の発光効率と、CIE色度座標と、干渉強度分布、PLスペクトル、ELスペクトルのそれぞれの最大ピーク波長(λ,λ,λ)と、|λ―λ|,|λ―λ|と、干渉強度分布、PLスペクトルのそれぞれの半値幅を表7にまとめて示す。
【0079】
【表7】

【0080】
表7より、本実施例の有機発光素子は、良好な発光特性を示した。このとき、干渉強度分布、PLスペクトル、ELスペクトルのそれぞれの最大ピーク波長(λ,λ,λ)は、λ≠λでかつ|λ−λ|<|λ−λ|の関係を満足していた。また、干渉強度分布の半値幅Aは、A/2(=67.5nm)>|λ−λ|(=16nm)の関係が得られた。さらに、PLスペクトルの半値幅Bに対して、A/2(=67.5nm)>B/2+|λ−λ|(=23nm+16nm)の関係となっていた。また、この素子から取り出されるELスペクトルの色のCIE色度座標(0.111,0.135)の、青色のCIE色度座標(0.140,0.080)からのずれΔxyは、Δxy=0.063<0.080であった。
【0081】
<実施例2>
本実施例の有機発光素子は、実施例1において、透明導電層21bの膜厚を100nm、正孔輸送層22の膜厚を52nmとした点が異なる。それ以外の素子の膜厚は、実施例1と同様である。本実施例の有機発光素子の諸特性が表8に示されている。
【0082】
【表8】

【0083】
表8より、本実施例の有機発光素子は、発光色度のCIEy値が0.08と深い青色の発色を示した。この素子から取り出されるELスペクトルの色のCIE色度座標(0.125,0.080)の、青色のCIE色度座標(0.140,0.080)からのずれΔxyは、Δxy=0.015<0.080であった。
【0084】
干渉強度分布、PLスペクトル、ELスペクトルのそれぞれの最大ピーク波長(λ,λ,λ)は、λ≠λでかつ|λ−λ|<|λ−λ|の関係を満足していた。
【0085】
本実施例では、実施例1の素子に比べ、干渉強度分布とPLスペクトルの最大ピーク波長(λとλ)を大きくずらして設定しているため、発光色の調整効果が高く、良好な発色を示す有機発光素子を実現できた。
【0086】
<実施例3>
本実施例の有機発光素子は、実施例1の素子に対して、反射層21aとして銀合金(AgPdCu)を用い、その膜厚を150nmとし、正孔輸送層22の膜厚を124nm、電子注入層25を20nmとした。さらに、第2電極26をITOに代えて、膜厚20nmの銀をスパッタ装置にて成膜した。それ以外の素子の材料及び膜厚は、実施例1と同様にして有機発光素子を作成した。この実施例3の素子の諸特性を表9に示す。
【0087】
【表9】

【0088】
表9より、本実施例の有機発光素子は、発光色度は、実施例1の素子とほぼ同等である。この素子から取り出されるELスペクトルの色のCIE色度座標(0.108,0.116)の、青色のCIE色度座標(0.140,0.080)からのずれΔxyは、Δxy=0.048<0.080であった。また、干渉強度分布の半値幅AとPLスペクトルの半値幅Bは同じであった。
【0089】
なお、実施例1乃至3において、PLスペクトルの最大ピーク波長が異なるのは、単に誤差であり、発光材料は同じ材料を使用した。
【0090】
<比較例1>
本比較例の有機発光素子は、その正孔輸送層22の膜厚を40nmとした。それ以外の膜厚は実施例1と同様にして、有機発光素子を作成した。この比較例1の素子の諸特性を表10に示す。
【0091】
【表10】

【0092】
表10より、本比較例の有機発光素子は、発光色度のCIEy値が大きく、実施例1の素子に比べ、青白い発光色を示した。この素子から取り出されるELスペクトルの色のCIE色度座標(0.104,0.165)の、青色のCIE色度座標(0.140,0.080)からのずれΔxyは、Δxy=0.092>0.080であった。
【0093】
また、実施例1の素子に比べ、発光効率が若干高くなっているが、これは、素子の発光色が変化し、視感的な効率が向上した影響によるものであり、所望の青色を出す際の実質的な発光効率は、実施例1の素子より低くなっている。
【0094】
したがって、全般的な発光特性としては、実施例1の素子の方がより好ましい特性を示した。
【0095】
このとき、干渉強度分布、PLスペクトル、ELスペクトルのそれぞれの最大ピーク波長(λ,λ,λ)は、|λ−λ|=|λ−λ|の関係であった。
【0096】
<実施例4>
本実施例は、本発明の発光装置を表示装置として用いたものである。この表示装置は、赤、緑、青色の発光を示す有機発光素子を画素として複数有している。また、それぞれの有機発光素子は、実施例1の有機発光素子と同様に、干渉強度分布の最大ピーク波長λが、PLスペクトルの最大ピーク波長λと、ELスペクトルの最大ピーク波長λに対して、λ≠λでかつ|λ−λ|<|λ−λ|の関係を満足している。さらに、各素子における干渉強度分布の半値幅Aは、各素子の発光層の発光材料のPLスペクトルの半値幅Bに|λ−λ|を加えた値よりも大きくなるように設定されている。つまり、数4を満たしている。
【0097】
図7は、本発明の表示装置を示す概略断面図であり、以下に示す方法で作成した。
【0098】
支持体としてガラス基板30a上に、低温ポリシリコンからなる駆動回路30bを形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化層30cを形成して基板30とした。この上に反射層31aとしてアルミニウム合金(AlNd)を、スパッタリング法にて150nmの膜厚に成膜し、パターニングした。
【0099】
次に、透明導電層31bとしてITOを、スパッタリング法にて100nmの膜厚に成膜し、画素毎にパターニングし、AlNdとITOからなる第1電極31を形成した。なお、40は、駆動回路30bと第1電極31とを電気的に接続させるためのコンタクトホールであり、第1電極31の形成前に、平坦化層30cをパターニングして形成される。
さらに、アクリル樹脂により隔壁39を形成した。これをイソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄し、次いで、煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄し後、有機化合物を真空蒸着により成膜する。
【0100】
始めに、各素子共通の正孔輸送層32として実施例1と同様に、化1で示される化合物を、すべての画素に成膜した。この際の真空度は1×10−4Pa、成膜速度は、0.2nm/secであった。
【0101】
次に、発光層として、シャドーマスクを用いて、赤色、緑色、青色それぞれの発光層33R,33G,33Bを各画素に成膜した。赤色の発光層33Rとしては、最大ピーク波長620nm、半値幅97nmのPLスペクトルを示す発光材料を用いた。緑色の発光層33Gとしては、最大ピーク波長525nm、半値幅68nmのPLスペクトルを示す発光材料を用いた。青色の発光層33Bとしては、最大ピーク波長460nm、半値幅45nmのPLスペクトルを示す発光材料を用いた。
【0102】
更に共通の電子輸送層34としてバソフェナントロリン(Bphen)を真空蒸着法にて成膜した。蒸着時の真空度は1×10−4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0103】
次に、共通の電子注入層35として、BphenとCsCOを共蒸着(重量比90:10)して成膜した。蒸着時の真空度は3×10−4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件であった。
【0104】
次に、この電子注入層35までを成膜した基板を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、第2電極36としてITOを成膜した。蒸着時の真空度は1×10−4Pa、成膜速度は0.2nm/secの条件で成膜した。
【0105】
その後、この基板を乾燥窒素が充填されているグローブボックス内に移動し、この基板の周辺部にUV硬化樹脂をシールディスペンサーにより塗布する。その後、有機発光素子に対応する部分が0.3mmの深さで掘り込まれた、厚さ0.7mmの凹型のガラス板(封止部材28)をこの基板の上から覆いかぶせた。基板上の周辺樹脂部に紫外線を照射し、樹脂の硬化で基板とガラス板を密着させ、表示装置を得た。なお、これらUV硬化樹脂及び、ガラス板は、図7には図示されていない。
【0106】
この表示装置における、各画素の反射層31a、透明導電層31b、有機化合物層の各層、第2電極の膜厚を表11に示す。
【0107】
【表11】

【0108】
このようにして得られた表示装置の干渉強度分布、PLスペクトル、ELスペクトルのそれぞれの最大ピーク波長(λ,λ,λ)と、Δピーク波長(|λ−λ|,|λ−λ|)と、及び、干渉強度分布とPLスペクトルの半値幅を表12に示す。
【0109】
【表12】

【0110】
<比較例2>
本比較例の表示装置は、各発光画素を構成する有機発光素子の干渉強度分布の最大ピーク波長λとPLスペクトルの最大ピーク波長λを一致させた。よって、λ=λとなり、λがλとλに一致した。すなわち、干渉強度分布の最大ピークλと、PLスペクトルの最大ピーク波長λと、ELスペクトルの最大ピーク波長λとが、|λ−λ|=|λ−λ|の関係になるように設定されている。
【0111】
本比較例の表示装置では、各画素内の素子の各層の膜厚を表13に示す値に設定した。それ以外は、実施例4の表示装置と同様にして表示装置を作成した。
【0112】
【表13】

【0113】
このようにして得られた表示装置の干渉強度分布、PLスペクトル、ELスペクトルのそれぞれの最大ピーク波長(λ,λ,λ)と、Δピーク波長(|λ−λ|,|λ−λ|)と、干渉強度分布、PLスペクトルのそれぞれの半値幅を表14に示す。
【0114】
【表14】

【0115】
このようにして作製した実施例4と比較例2の表示装置の消費電力と色再現範囲を比較した。その結果を表15に示す。消費電力は、実施例4の表示装置のそれを1とした時の相対値として示す。また、色再現範囲は、CIE色度座標系におけるNTSC比として示す。
【0116】
【表15】

【0117】
表15に示されるように、実施例4に示した本発明の表示装置は、比較例2の表示装置とほぼ同等の消費電力でありながら、比較例2の表示装置に比べ、広い範囲の色再現が可能となる。
【符号の説明】
【0118】
13,23 発光層
21,31 第1電極
26,36 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射面を有する第1電極と、発光層を有する有機化合物層と、第2電極と、を有し、前記第1電極にある反射面と前記第2電極との間で前記発光層が発する光を干渉させて強め合うように構成された有機発光素子であって、
前記干渉による干渉強度分布のピーク波長λが、前記発光層に含まれる発光材料のPLスペクトルの最大ピーク波長λ及び前記有機発光素子から取り出されるELスペクトルの最大ピーク波長λに対して、
λ≠λでかつ|λ−λ|<|λ−λ
の関係を満たし、かつ、前記干渉強度分布のピーク波長λは、前記PLスペクトルにおいて最大ピーク波長λでの強度の50%以上を示す波長と一致していることを特徴とする有機発光素子。
【請求項2】
前記干渉強度分布のピーク波長λは、前記PLスペクトルにおいて前記最大ピーク波長λの強度の60%以上95%以下を示す波長と一致していることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記干渉強度分布のピーク波長λは、前記PLスペクトルにおいて前記最大ピーク波長λの強度の75%以上90%以下を示す波長と一致していることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記干渉強度分布の半値幅Aが、前記干渉強度分布の最大ピーク波長λ、前記PLスペクトルの最大ピーク波長λに対して、
A/2≧|λ−λ
の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記干渉強度分布の半値幅Aが、前記干渉強度分布の最大ピーク波長λ及び前記PLスペクトルの最大ピーク波長λ、前記PLスペクトルの半値幅Bに対して、
A/2≧B/2+|λ−λ
の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記干渉強度分布の半値幅が40nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記干渉強度分布の半値幅が前記PLスペクトルの半値幅よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記第2電極が可視光に対して透明であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項9】
有機発光素子前記有機発光素子の発光を制御する駆動回路と、を備えた発光装置であって、
前記有機発光素子は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の有機発光素子であることを特徴とする発光装置。
【請求項10】
有機発光素子からなる複数の画素と、これら各画素の発光を制御する駆動回路と、を備え、複数の画素が赤色発光画素と緑色発光画素と青色発光画素とを含む発光装置であって、
前記複数の画素のうち少なくとも一つの画素は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の有機発光素子を有していることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−195303(P2012−195303A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134114(P2012−134114)
【出願日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【分割の表示】特願2009−270100(P2009−270100)の分割
【原出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】