説明

有機発光装置の製造方法

【課題】装置内に備える複数の有機発光素子をそれぞれ均一に発光させることを可能にする有機発光装置の製造方法を提供する。
【解決手段】表示領域内に、電極と回路とを電気接続するための補助電極を複数有する有機発光装置の製造方法において、前記補助電極を被覆する保護部材を形成する工程と、有機化合物層を形成する工程と、前記保護部材を除去する工程と、前記補助電極と電気接続する上部電極を形成する工程と、を有し、前記保護部材を除去する工程が、前記保護部材の構成材料を選択的に溶解する溶媒に浸漬することで行われることを特徴とする、有機発光装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイに代わる表示装置として、有機発光素子を用いた有機発光装置(有機発光ディスプレイ)が注目されている。有機発光装置は、自発光型であるので視野角が広く、消費電力が低いという特性を有し、また、高精細度の高速ビデオ信号に対しても十分な応答性を有するものと考えられている。このため、現在、実用化に向けて有機発光装置の開発が進められている。
【0003】
ところで有機発光装置は、光の取り出し方法という観点から、基板の上方側から光を取り出すトップエミッション型と、基板の下方側から光を取り出すボトムエミッション型と、の2種類に大別される。ここでトップエミッション型の有機発光装置は、ボトムエミッション型と比較して開口率が良好であるという特徴を有する。
【0004】
またトップエミッション型の有機発光装置において、光を取り出す方向にある上部電極は光透過性を有する導電性材料からなる電極である。ただし、光透過性を有する導電性材料は、金属からなる電極材料と比較して抵抗値が高く、電源から個々の有機発光素子までの距離に応じて電圧降下が異なり、それにより画面内に輝度のばらつきが発生するおそれがある。ここで上述した輝度のばらつきを抑制するために、所定の場所に補助電極を設け、この補助電極と上部電極とを電気的に接続する手法が採用されている。尚、この補助電極は、有機発光装置の開口率を考慮して、素子と素子との間に配置されるのが望ましい。
【0005】
ところで、補助電極が素子と素子との間に配置される場合、有機発光素子に含まれる有機化合物層の構成材料からなる薄膜層を形成するときに、材料の一部が補助電極上に付着することがある。ここで有機化合物層の構成材料は、上部電極の構成材料(光透過性を有する導電性材料)よりも抵抗値が高いので、補助電極に有機化合物層の構成材料が付着した状態で上部電極を形成しても補助電極と上部電極とが電気的に接続されなくなる。従って、有機化合物層を形成した後、補助電極に付着した有機化合物層の構成材料を除去する工程を行う必要がある。
【0006】
ここで補助電極に付着した有機化合物層の構成材料を除去する具体的な方法として、特許文献1にて提案されている方法がある。より具体的には、補助配線上に付着する有機化合物層にレーザー光を照射して有機化合物層の構成材料を昇華させることで補助配線を剥き出しにする方法が提案されている。
【0007】
また別法が特許文献2にて提案されている。特許文献2には、補助配線上の有機化合部層を物理的に除去する方法が提案されている。具体的には、補助配線を覆う有機化合部層に圧子の先端部を接触させ、圧子に荷重を加えながら圧子と基板との相対的位置を変化させることにより、当該有機化合部層を除去する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−288075号公報
【特許文献2】特開2005−116330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし特許文献1や特許文献2に提案されている方法を採用すると、除去したい有機化合物層を選択的に除去するのは困難である。つまり、除去したい有機化合物層だけでなく補助電極に近接する画素部に設けられている有機化合物層の一部をも同時に除去してしまうといった問題が生じ得る。特に、補助電極が設けられている領域が複数ある場合には、各補助電極に付着する有機化合物層をそれぞれ除去する必要があるため、特許文献1や特許文献2に提案されている方法を繰り返し行うことになる。そうすると、補助電極に近接する画素部に設けられている有機化合物層の一部をも同時に除去する確率が増加し、歩留まりが低下することが予想される。
【0010】
また特許文献1や特許文献2に提案されている方法では、除去した有機化合物層の欠片が別の場所に再付着する課題も生じている。特に精細度の高い有機発光装置を製造する場合には、開口率を向上させるために画素間の間隔を短くする必要がある。しかし画素と画素との間に電極と回路とを電気的に接続する補助電極を備える場合には、補助電極に付着する有機化合物層を除去する際に、除去した有機化合物層の欠片が画素に対して影響を与える場合がある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされるものであり、その目的は、装置内に備える複数の有機発光素子をそれぞれ均一に発光させることを可能にする有機発光装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の有機発光装置の製造方法は、
表示領域内に、下部電極と、上部電極と、下部電極と上部電極との間に配置された有機化合物層と、を有する有機発光素子が複数配置され、
前記表示領域内に、補助電極が複数配置され、
前記有機化合物層よりも下層に配線が設けられ、
前記配線が外部電源と電気接続可能であって、
前記補助電極により前記上部電極と前記配線とを電気接続可能にする有機発光装置の製造方法において、
前記補助電極を被覆する保護部材を形成する工程と、
前記有機化合物層を形成する工程と、
前記保護部材を除去する工程と、
前記補助電極と電気接続する前記上部電極を形成する工程と、をこの順に有し、
前記保護部材を除去する工程が、前記保護部材の構成材料を選択的に溶解する溶媒に浸漬することで行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、装置内に備える複数の有機発光素子をそれぞれ均一に発光させることを可能にする有機発光装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の有機発光装置の製造方法によって製造される有機発光装置の例を示す模式図であり、(a)は有機発光装置の平面図であり、(b)は(a)のA−A’間の断面図である。
【図2】本発明の有機発光装置の製造方法における第一の実施形態を示す断面模式図である。
【図3】保護部材の形成プロセスの一例を示す断面模式図である。
【図4】有機発光素子部の製造プロセスを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の有機発光装置の製造方法は、表示領域内に有機発光素子が複数配置され、またこの表示領域内に補助電極が複数配置され、前記有機発光素子を構成する有機化合物層よりも下層に配線が設けられる有機発光装置の製造方法である。ここで表示領域内に配置される有機発光素子は、下部電極と、上部電極と、下部電極と上部電極との間に配置された有機化合物層と、を有している。また前記配線は外部電源と電気接続可能であって、前記補助電極により前記上部電極と配線とを電気接続可能にしている。また本発明の有機発光装置の製造方法は、下記に示す工程(A)乃至(D)をこの順に有する。尚、工程(C)は、有機化合物層が設けられている基板を、保護部材の構成材料を選択的に溶解する溶媒に浸漬することで行われる。
(A)補助電極を被覆する保護部材を形成する工程
(B)有機化合物層を形成する工程
(C)保護部材を除去する工程
(D)補助電極と電気接続する上部電極を形成する工程
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の有機発光装置の製造方法について説明する。尚、以下の説明において、特段説明がなされていなかったり、図面にて図示されていなかったりする部分に関しては、当該技術分野の周知又は公知技術を適用することができる。また、以下に説明する実施形態は、あくまでも本発明の実施形態の例の一つであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の有機発光装置の製造方法によって製造される有機発光装置の例を示す模式図であり、(a)は有機発光装置の平面図であり、(b)は(a)のA−A’間の断面図である。
【0018】
図1の有機発光装置1は、基板10上に複数の画素11が、所定の配列形式に則って2次元的に配列されている。画素の配列形式としては、図1(a)にて示されるストライプ配列、デルタ配列等が挙げられるが、本発明においては特に限定されるものではない。また図1の有機発光装置1において、画素11は、R副画素11rと、G副画素11gと、B副画素11bと、を有し、各副画素は、行ごとにRGBRGB・・・の順でストライプ状に配列されている。また互いに隣接する行に配置されているG副画素111gとG副画素112gとの間には、後述する上部電極(33)と電気接続する補助電極12が設けられている。尚、図1の有機発光装置1は、専らトップエミッション型の有機発光装置であるが、本発明においてはこれに限定されずボトムエミッション型であってもよい。また、補助電極12は副画素間に設けられ、かつ配線26に接続可能であれば、設ける場所や個数は特に限定されない。
【0019】
図1の有機発光装置1において、基板10は、基材21と、基材21上に設けられ薄膜トランジスタ(TFT)を含む駆動回路22と、この駆動回路22を被覆する平坦化膜23と、からなる部材である。
【0020】
図1の有機発光装置1において、画素11は、平坦化膜23上の所定の領域に設けられている有機発光素子部30を構成部材として有している。ここで有機発光素子部30は、下部電極31と、下部電極31上に設けられている有機化合物層32と、有機化合物層32上に設けられている上部電極33と、からなる部材である。尚、下部電極31は、コンタクトホール24を介して、駆動回路22と電気的に接続されている。また上部電極33は、補助電極12と直接的に接続されている。一方、各副画素(11r、11g、11b)は、平坦化膜23上の所定の位置の設けられている素子分離膜34によって区画されている。
【0021】
有機発光素子部30に含まれる有機化合物層32は、少なくとも発光層(不図示)を含む単層又は複数層の積層体である。ただし本発明において、有機化合物層32は、発光層を有していればその層構成は限定されるものではない。ここで有機化合物層32には、発光層の他に、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層等を有してもよい。
【0022】
図1の有機発光装置1において、補助電極12は、平坦化膜23上に設けられ、図1(b)に示されるように素子分離膜34によって下部電極31と離隔して設けられている。また補助電極12は、コンタクトホール25を介して、配線26と電気的に接続されている。このため補助電極12は、図1(b)に示されるように、駆動回路22内にある配線26と上部電極33とを電気接続する部材である。また補助電極12は、表示領域内、具体的には、図1に示されるように所定の副画素とこの副画素に隣接する副画素との間に設けられていれば、配置形式及び配置態様については特に限定されるものではない。尚、配線26は、上部電極33を外部電源(不図示)に接続するための配線であって、副画素間に設けられる。また配線26は、外部電源と接続可能な外部接続端子(不図示)と電気的に接続されている。
【0023】
次に、図1の有機発光装置1の構成部材について説明する。
【0024】
基板10の構成部材の一つである基材21は、透明であってもよいし不透明であってもよい。具体的には、ガラス、合成樹脂等からなる絶縁性基板、表面に酸化ケイ素(SiO2)膜や窒化ケイ素(SiN)膜、窒化酸化ケイ素(SiON)等の絶縁膜を形成した導電性基板あるいは半導体基板等が使用される。
【0025】
基板10に含まれる駆動回路22は、有機発光素子を駆動するために必要な部材、例えば、薄層トランジスタ(TFT)、配線(例えば、配線26)等からなる回路である。ここで駆動回路22に含まれるTFTの構成材料は、半導体層であるポリシリコンに限定されるものではなく非晶質シリコン、微結晶シリコン等であってもよい。
【0026】
基板10の構成部材の一つである平坦化層23は、絶縁性材料からなる層であり、基板10自体を平坦化させる役割を果たす。また平坦化層23は、駆動回路22と下部電極31とを電気的に接続させるためのコンタクトホール24や、配線26と補助電極12とを電気的に接続させるためのコンタクトホール25を設けるために微細な開口を開ける。このため平坦化層23の構成材料は、パターン精度の良い材料であることが好ましい。平坦化層23の構成材料として、例えば、感光性ポリイミドのような有機材料や、酸化ケイ素(SiO2)のような無機材料が挙げられる。
【0027】
有機発光素子部30の構成部材である下部電極31は、例えば、Al、Ag、Au、Pt、Cr等の反射率が高い金属材料やこれらの材料を複数種組み合わせてなる合金等からなる光反射性の電極材料からなる薄膜電極であることが好ましい。また、この薄膜電極上にITO、IZO等からなる透明電極をさらに積層してもよい。
【0028】
有機発光素子部30の構成部材である有機化合物層32の膜厚は、光学干渉距離によって決めるのが望ましい。ここで光学干渉距離は各発光色で異なるが、数十nm乃至数百nmの範囲とし、この範囲において有機化合物層32を形成する。また有機化合物層32は、発光効率の観点からアモルファス膜であることが好ましい。
【0029】
有機化合物層32が、正孔注入層、正孔輸送層及び電子ブロック層のいずれかを含む場合、これらの層(正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層)は、いずれも正孔輸送材料からなる層である。正孔輸送材料としては、フタロシアニン化合物、トリアリールアミン化合物、導電性高分子、ペリレン系化合物、Eu錯体等が使用できるが、本発明においてはこれらに限定されるものではない。
【0030】
有機化合物層32が有する発光層の構成材料となる有機発光材料は、例えば、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン、芳香族縮合多環化合物、芳香族複素環化合物、芳香族複素縮合環化合物、金属錯体化合物等及びこれらの単独オリゴ体あるいは複合オリゴ体など公知の材料を使用できるが、本発明においてはこれらに限定されるものではない。尚、発光層は、単一の層として形成してもよいし、複数の層からなる積層体として形成してもよい。ここで発光層を単一の層で形成する場合、複数種の発光材料を混合して白色光を出力させる構成にしてもよい。白色光を出力させる構成にすることでカラーフィルタを用いた出力光の色の制御が可能となる。一方、発光層を複数の層からなる積層体として形成する場合、2色以上の発光材料をそれぞれ成膜し積層することで白色光を形成することができる。そうすると、カラーフィルタを用いた出力光の色の制御が可能となる。
【0031】
有機化合物層32が、電子輸送層及び正孔ブロック層のいずれかを含む場合、これらの層(電子輸送層、正孔ブロック層)は、いずれも電子輸送材料からなる層である。電子輸送材料の例としては、アルミに8−ヒドロキシキノリンの3量体が配位したAlq3、アゾメチン亜鉛錯体、ジスチリルビフェニル誘導体系、オキサゾール誘電体系、トリアゾール誘電体系、フェナントロリン系化合物等を使用できる。
【0032】
上部電極33は、光透過性の薄膜電極であり、具体的には、下記(i)乃至(iii)のいずれかである。
(i)ITO、IZO等の透明導電性材料からなる透明導電性電極
(ii)金属材料(Ag、Al等の金属材料又はこれらを含む合金)を光透過性が発現する程度の膜厚で形成した半透明反射電極
(iii)(i)と(ii)とを組み合わせた積層電極
【0033】
上部電極33が(i)である場合、上部電極33の膜厚は、好ましくは、30nm〜300nmである。上部電極33が(ii)である場合、上部電極33の膜厚は、好ましくは5nm〜20nmである。
【0034】
素子分離膜34は、副画素(素子)単位で区画し、発光領域や補助電極12の面積を決定するための部材である。尚、素子分離膜34は必要に応じて形成すればよく、実施態様によっては必ずしも副画素間に設ける必要はない。ここで素子分離膜34は絶縁性材料で構成される部材である。絶縁性材料として、感光性ポリイミド等の有機材料や窒化ケイ素(SiN)等の無機材料等が挙げられる。
【0035】
補助電極12は、下部電極31の構成材料と同様の材料を使用することができる。このため、補助電極12は、下部電極31と同時に形成することができる。
【0036】
次に、本発明の有機発光装置の製造方法について説明する。本発明の有機発光装置の製造方法は、上述したように、下記に示す工程(A)乃至(D)を有する。
(A)補助電極を被覆する保護部材を形成する工程
(B)有機化合物層を形成する工程
(C)保護部材を除去する工程
(D)補助電極と電気接続する上部電極を形成する工程
【0037】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の有機発光装置の製造方法について説明する。
【0038】
[第一の実施形態]
まず本発明の有機発光素子の製造方法における第一の実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。図2は、本発明の有機発光装置の製造方法における第二の実施形態を示す断面模式図である。
【0039】
(1)電極付基板の作製工程
まず基材21と、駆動回路22と、平坦化膜23と、がこの順で積層している基板10上に、下部電極31と補助電極12とをそれぞれパターニング形成する。パターニングの方法としては、公知の方法を採用することができる。次に、発光領域全体に絶縁性材料からなる薄膜を形成して、基板10、下部電極31及び補助電極12を当該薄膜で被覆する。この後、所定のパターニングを行うことで各副画素(11r、11g、11b)を区画し、各副画素(11r、11g、11b)及び補助電極12が設けられている領域に開口を有する素子分離膜34を形成する。素子分離膜34をパターニング形成する際にその具体的な方法としては、公知の方法を採用することができる。
【0040】
以上の工程を経て下部電極31と補助電極12とが形成されている電極付基板が得られる(図2(a))。尚、下部電極31及び補助電極12が基板10上に予め設けられている電極付基板を予め用意することができる場合は、この工程を省略することができる。
【0041】
(2)保護部材の形成工程(工程(A))
以上のように電極付基板を作製した後、補助電極12上に選択的に保護部材40を形成する(図2(b))。
【0042】
この工程で使用される保護部材40の構成材料としては、後の工程で有機化合物層32を成膜した後に、有機化合物層32をほとんど溶解させずに保護部材40自体を選択的に溶解・除去できるようにする材料が選択される。ここで本発明において、有機化合物層32は水に不溶な材料からなる層(積層体)である。このため保護部材40の構成材料は、水溶性高分子材料が好ましい。
【0043】
保護部材40の構成材料である水溶性高分子材料の例として、ポリビニルアルコール(PVA)やポリアクリル酸系ポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルピロリドン(PVP)など公知の材料を用いることができる。
【0044】
尚、本実施形態において上記水溶性高分子材料を使用する際には、形成される保護部材40が、例えば、半球形状等又は保護部材の端部が基板に対して垂直な形状もしくは逆テーパー形状になるように当該水溶性高分子材料を含む溶液の粘度を調整するのが好ましい。このような形状にすることにより、後に指向性の高い蒸着法で有機化合物層を形成する際、保護部材40の端部に有機化合物層が付着しにくくすることができる。また本実施形態においては、保護部材40は、上記水溶性高分子材料を含む溶液を、補助電極12上であって素子分離膜34が設けられている領域に収まるように選択的に塗布することで成膜する。このとき保護部材40を素子分離膜34が設けられている領域に収めるように、上記水溶性高分子材料を含む溶液の液量を適宜調整するのが好ましい。
【0045】
ここで上記水溶性高分子材料を含む溶液を塗布する方法としては、インクジェット法、印刷法、金型等を用いたインプリント法等の公知の方法を採用することができる。尚、上記水溶性高分子材料を含む溶液を塗布する際には、塗布の回数を複数にして重ね塗りを行ってもよい。
【0046】
以上のように、上記水溶性高分子材料を含む溶液を補助電極12上に塗布した後、この溶液を乾燥させることで、図2(b)に示されるように、保護部材40が補助電極12上に選択的に設けられている基板が得られる。
【0047】
(3)有機化合物層の形成工程(工程(B))
保護部材40を形成した後、有機化合物層32を形成する(図2(c))。まず図2(b)にて示される電極付基板において、下部電極31上に有機化合物層32を形成する(図2(c))。尚、有機化合物層32の構成材料としては、純水に対する溶解性がないあるいはほとんどない材料であれば、公知の材料(発光材料、電荷注入・輸送材料)を使用することができる。また本実施形態においては、有機化合物層32の一部が保護部材40上に形成される。ここで素子分離膜34と保護部材40との境界線に形成される有機化合物層32aは、図2(c)に示されるように、他の領域にて形成される有機化合物層32よりも薄く形成される。
【0048】
(4)保護部材の除去工程(工程(C))
有機化合物層32を形成した後、保護部材40を溶解する溶媒を使用して保護部材40を溶解させることで、補助電極12上から保護部材40を除去する(図2(d))。この工程においては、純水を使用することができる。ただし必要に応じて超音波振動を用いる、流水を用いる、純水を加温したものや、純水にイソプロピルアルコール等の有機溶剤を10%〜50%程度混合させた混合溶液を使用することで、保護部材40を除去しやすくすることができる。
【0049】
即ち、保護部材40bの表面が有機化合物層32で覆われ、保護部材40bと溶媒との接触が妨げられる場合には、本実施形態においては、純水にイソプロピルアルコール等の有機溶剤を10%〜50%程度混合した混合溶媒を使用する。こうすることで、保護部材40と素子分離膜34との境界を覆う有機化合物層32aが溶解し、この符号32aの地点から混合溶媒が侵入し保護部材40と接触するため、より簡易に保護部材40を除去することが可能となる。ただし純水と有機溶剤とを混合した混合溶媒を使用する際には、有機化合物層32の一部が溶解することを考慮して、予め最上面にある有機化合物層のエッチングレートを算出し、光学干渉距離が変化しないように、最表面の有機層の膜厚を厚く調整するのが好ましい。また、保護部材40bを覆う有機化合物層32の一部が除去され保護部材40bの表面が一部露出した後に、溶媒を水と有機溶剤の混合溶媒から純水に切り替えてもよい。
【0050】
(5)上部電極の形成工程(工程(D))
次に、各副画素に共通する上部電極33(補助電極と電気接続する電極)を発光領域全体に形成する。上部電極33を形成する際には、蒸着法、スパッタリング法等の公知の方法を採用することができる。上部電極33は、例えば、Ag等のカソード材料とMg等の低仕事関数の金属とを蒸着法等の公知の方法で成膜する。
【0051】
ここで上部電極33がカソード(陰極)である場合、有機化合物層32と上部電極33との間に、電子注入層を介在層として設けてもよい。つまり、上述した保護部材の除去工程と、上部電極の形成工程との間に、電子注入性材料を有する層(電子注入層)を形成する工程をさらに有してもよい。
【0052】
ここで電子注入層は、電子注入性を向上させるために設けられる層である。また電子注入層は、上述した電子注入性材料、具体的には、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を有する材料を有する層である。ここで電子注入層の具体的な形態として、下記(a)乃至(c)がある。
(a)低仕事関数であるアルカリ金属やアルカリ土類金属からなる薄膜層
(b)アルカリ金属又はアルカリ土類金属の化合物からなる薄膜層
(c)アルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいはこれらの化合物をドープした有機化合物層又は金属薄膜層
【0053】
電子注入層が(a)又は(b)の態様である場合、電子注入層の膜厚は0.5nm〜5nmが好ましい。尚、電子注入層が(a)又は(b)の態様である場合、電子注入層はアイランド状に存在するために、カソードとカソード補助電極の電気的な接続を妨げることはない。
【0054】
電子注入層が(c)の態様である場合、使用する有機材料は、電子輸送材料として列挙した有機化合物を用いることができる。ここで仕事関数の小さいアルカリ金属等の化合物が電子を供与することを考慮すると、ラジカルアニオン状態になりやすい有機材料であるヘテロ環化合物や金属錯体化合物が好ましく用いられる。
【0055】
また電子注入層が(c)の態様である場合、電子注入層は、キャリアを流しやすく抵抗が低い導体に近い状態となるために、数十nmの厚膜としても上部電極33と補助電極12の電気的な接続を妨げることはない。
【0056】
ただし電子注入材料であるアルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいはこれらの化合物は、水に対して反応性が高い。即ち、上記電子注入材料は、水分と反応して電子注入性が損なわれてしまい、素子化した際に高電圧化することがある。このため、本発明の製造方法ように純水を含む溶媒に浸漬する工程よりも前に電子注入材料を含む層を形成するのは望ましくない。
【0057】
従って、電子注入層を設ける場合は、上述したように、保護部材の除去工程の後に基板を十分に乾燥させてから行うのが望ましい。
【0058】
(6)封止工程等
上部電極33を形成した後、装置を封止することで有機発光装置が完成する。本発明において、封止の具体的方法については特に制限されず、例えば、吸湿剤とガラスキャップとを用いて封止を行う方法がある。別法として、SiN等の防湿材料を膜厚1μm乃至10μmで成膜したものを封止部材として使用する方法もある。
【0059】
[第二の実施形態]
図3は、保護部材の形成プロセスの一例を示す断面模式図である。また図3は、本発明の有機発光装置の製造方法における第二の実施形態の一部を示すものである。
【0060】
(1)電極付基板の作製工程
まず、第一の実施形態と同様に電極付基板を作製する(図3(a))。尚、電極付基板の作製にあたっては第一の実施形態にて説明した方法と同様の方法を採用することができる。
【0061】
(2)保護部材の形成工程(工程(A))
次に、補助電極12を被覆する保護部材の形成工程について説明する。本実施形態において、保護部材の形成工程は、以下に示す工程を有している。
(2a)補助電極を被覆する第一保護層を形成する工程
(2b)第一保護層上に第二保護層を形成する工程
(2c)パターニングにより前記第一保護層と前記第二保護層とを加工する工程
【0062】
以下、工程(2a)乃至(2c)について順次説明する。
【0063】
(2a)第一保護層の形成工程
まず保護部材の基礎となる第一保護層41を形成する。ここで第一保護層41は、後の工程で有機化合物層32を成膜した後に、有機化合物層32をほとんど溶解させずに保護部材自体を選択的に除去させる役割を果たす部材である。ここで本発明において、有機化合物層32は水に不溶な材料からなる層(積層体)である。このため第一保護層41の構成材料は、水に可溶な有機材料、具体的には、水溶性高分子材料が好適である。ここで第一保護層41の構成材料である水溶性高分子材料として、第一の実施形態において示された保護部材40の構成材料と同様の材料を使用することができる。
【0064】
本実施形態において、第一保護層41は、例えば、第一保護層41の構成材料である水溶性高分子材料を塗布することで形成される。
【0065】
(2b)第二保護層の形成工程
次に、第一保護層41上に、保護部材の基礎となる第二保護層42を形成する(図3(b))。第二保護層42は、本実施形態において実施されるフォトリソ工程で使用されるレジスト材料を溶解させる溶媒及びレジスト現像液に対して第一保護層41を保護するための層である。このため、第二保護層42の構成材料としては、これらの溶媒・溶液に対して耐溶性を有する材料が使用される。
【0066】
第二保護層42の構成材料としては、防湿性を有する材料が好ましく、例えば、窒化ケイ素(SiN)等の公知の材料を使用することができる。
【0067】
本実施形態において、第二保護層42は、例えば、第一保護層41の構成材料である水溶性高分子材料の塗膜を十分に乾燥させた後に成膜・形成する。
【0068】
(2c)保護層の加工工程
次に、フォトリソグラフィー法を利用したパターニングにより、第一保護層41及び第二保護層42を加工する。保護層(第二保護層42)の加工(パターニング)の際に、フォトリソグラフィー法を利用すると、MPAやステッパー等の露光装置により形成されたマスクを用いることができるので、数μm単位の微細な加工が可能となる。このため、補助電極12の大きさや位置をMPAやステッパー等の露光装置の加工精度で決定することができる。従って、精細度の高い有機発光装置を製造する際に、十分な加工精度を保つことができ、かつ、複数の補助電極12上に精度よく、第一保護層41と第二保護層42とからなる保護部材40を形成することが可能となる。
【0069】
ここで第一保護層41及び第二保護層42の加工の具体的な方法としては、まず第二保護層42まで形成した基板に対してレジスト材料を塗布する。次いでフォトリソグラフィー法により、図3(c)に示されるように、補助電極12に対応する領域だけがレジスト層51でマスクされるように、レジスト層をパターニングする。続いてレジスト層51によって補助電極12に相当する領域をマスクした基板をドライエッチングして第一保護層41及び第二の保護層42のパターニングを行う。
【0070】
ここで第二保護層42は、CF4等の化学反応性のエッチングガスによるエッチングが可能である。尚、このエッチング(CF4等を利用した第二保護層42のドライエッチング)の際にレジスト層51はマスクとして機能するため、当該エッチングによりレジスト層51に被覆されていない第二保護層42が選択的に除去される。
【0071】
次に、第一保護層41の加工を行う。具体的には、酸素を用いたアッシングによるエッチングを行う。尚、このエッチングの際に、第二保護層42のマスクとして機能したレジスト層51も同時に除去される。一方、このエッチングの際に、第二保護層42は第一保護層41を保護するマスクとして機能する。このため第二保護層42が載置されていない第一保護層41は、このエッチングにより選択的に除去される。
【0072】
以上の工程により、補助電極12上に、第一保護層41と第二保護層42とからなり補助電極12を被覆する保護部材40が形成される(図3(d))。尚、保護部材40を形成した後で、必要に応じて第二保護層をCF4等の化学反応性エッチングガスによってエッチングしてもよい。ただし、図3(d)のように、第二保護層42をそのまま残した状態において有機化合物層32を形成した後で、第一保護層41の除去工程の際に、第二保護層42も第二保護層42上に形成されている有機化合物層32と共に除去させることは可能である。また図3(d)のように、第二保護層42を残すと、後述するように有機化合物層32の形成工程の際に、第一保護層41上に有機化合物層32の構成材料が直接付着することを防止することができる。このため、純水等の第一保護層41が可溶な溶媒に浸漬させた際に、第一保護層41が当該溶媒に直接的に接触することで溶解が容易となり、第一保護層41と有機化合物層32との除去がより容易になる。
【0073】
ところで、後述する有機化合物層の形成工程において有機化合物層32を形成する際に、形成される有機化合物層32が第一保護層41の表面を覆ってしまうと、その後の工程である保護部材の除去工程において保護部材40が除去しにくくなる。これを防止するために、第一保護層41の加工においては、エッチングの条件を調整するのが好ましい。具体的には、第二保護層42の断面形状に対して、第一保護層41の断面形状が後退するように、オーバーエッチングになる条件で第一保護層41のエッチングを行うのが好ましい。即ち、このエッチング操作により、第一保護層41が第二保護層42に対して相対的に凹んでいる形状になる。つまり、本工程において、第一保護層41は、下記条件(i)及び(ii)を満たすように加工・形成されるのが好ましい。
(i)第二保護層42によって第一保護層41の一部が陰になるように、第一保護層41が形成されること
(ii)上記エッチング(オーバーエッチング)により、次の工程(有機化合物層の形成工程)を行った後においても、少なくとも第一保護層41のうち第二保護層42の陰となる部分が露出するように第一保護層41が加工されること
また、第一保護層41は、特に、第一保護層41の中でも第二保護層42との境界又はその周辺をオーバーエッチングさせて、図3(d)に示されるようにテーパー形状に加工するのが特に好ましい。
【0074】
(3)有機化合物層の形成工程(工程(B))
次に、有機発光素子部30の構成部材を順次形成する。図4は、有機発光素子部の製造プロセスを示す断面概略図である。尚、図4に示されるプロセスは、図3に示されるプロセスの続きを示すものである。
【0075】
まず図3(d)にて示される電極付基板において、下部電極31上に有機化合物層32を形成する(図4(a))。尚、有機化合物層32の構成材料としては、純水に対する溶解性がないあるいはほとんどない材料であれば、公知の材料(発光材料、電荷注入・輸送材料)を使用することができる。また有機化合物層32は、公知の手段により形成することができる。ここで上述した第一保護層41の加工の際に、第一保護層41を第二保護層42の加工と比較してオーバーエッチングとなるようにエッチングの条件を設定することで、有機化合物層32の構成材料が第一保護層41の側壁に付着しにくくなる。また第一保護層41をテーパー形状に加工することにより、有機化合物層32の構成材料が第一保護層41の側壁により付着しにくくなる。
【0076】
(4)保護部材の除去工程(工程(C))
次に、第一保護層41が可溶な溶媒を使用して第一保護層41を溶解させることで、補助電極12上から保護部材40を除去する(図4(b))。この工程で使用する溶媒は、純水又は純水を含む混合溶媒である。尚、純水を使用する場合、使用する純水を必要に応じて加温してもよい。また純水を含む混合溶媒としては、純水とイソプロピルアルコール等のアルコールとの混合溶媒が使用される。尚、アルコールを混合させると、有機化合物層32の一部が溶解することを考慮して、予め最上面にある有機化合物層のエッチングレートを算出し、光学干渉距離が変化しないように、最表面の有機層の膜厚を厚く調整するのが好ましい。また、保護部材を除去するにあたり、超音波振動や流水を用いて溶解を進行させてもよい。
【0077】
またこの工程により、保護部材40上に形成される有機化合物層32も保護部材40と共に除去される。尚、この工程を行った後で次の工程を行う前に、基板全体を脱水・乾燥させておくことが望ましい。
【0078】
(5)上部電極の形成工程等(工程(D))
保護部材を除去した後、有機化合物層32上及び補助電極12上に、上部電極33を形成し(図4(c))、装置自体を封止することで、有機発光装置が完成する。ここで上部電極33の形成方法及び装置の封止方法については、第一の実施形態にて示された方法を採用することができる。
【0079】
尚、本実施形態においても第一の実施形態と同様に、保護部材の除去工程と、上部電極の形成工程との間に、電子注入性材料を有する層(電子注入層)を形成する工程をさらに有してもよい。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の製造方法は、有機発光素子部が積層して配置される態様やタンデム構造のような電極を複数有する態様においても利用することが可能である。また本発明の製造方法は、中間電極や上部電極と駆動回路とを電気的に接続させる際に適用することもできる。
【0081】
また、上述した実施形態においては、配線26が基板10の内部に配置されている構成であるが、この配線26に該当する部材が、補助配線等の役割で基板10上(平坦化膜23上)に配置されている場合においても、適用が可能である。即ち、当該配線と上部電極とを補助電極を設けて両者を電気的に接続する場合においても適用することもできる。
【0082】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、作製された有機発光装置を均一に発光させることができる。
【0083】
さらに本発明によれば、補助電極と画素との距離が近い精細度の高い有機発光装置においても、均一に発光させることができる有機発光装置が得られる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]
図1に示される有機発光装置を、以下に示す方法により作製した。
【0086】
(1)電極付基板の作製工程
まず図2(a)に示される電極付基板を作製した。ここで図2(a)に示される基板10は、基材21と、基材21上であって表示領域内に設けられる駆動回路22と、駆動回路22上に設けられる平坦化層23と、を有している。また図2(a)に示される基板10上には、下部電極31と、後述する上部電極(33)と配線26とを電気的に接続するための補助電極12と、を備えている。また図2(a)中に示される下部電極31及び補助電極12は、いずれもAl合金薄膜層とITOとが積層されてなる電極である。図2(a)に示されている基板10を作製した後、この基板10に対してCF4ガスを使用したプラズマ処理を行うことで補助電極12の表面を疎水化処理した。
【0087】
(2)保護部材の形成工程
次に、インクジェット法により、ポリビニルピロリドン(PVP)の水溶液を、補助電極を覆うように塗布した。尚、PVPの溶液を塗布する際には、塗布後に補助電極に載置されるPVPの溶液の液滴が高さ3μm〜4μmの半球状になるように予め滴下量を調整した。次に、120℃で10分加熱することで当該液滴を十分に乾燥させることにより、補助電極12上に選択的に保護部材40を形成した。次に、保護部材40が設けられている基板10を真空成膜装置に導入した。次に、保護部材40が設けられている基板10を真空成膜装置内で120℃の真空ベークを5分行うことで脱水処理を行った後、真空装置内部に乾燥空気を導入してUVオゾン処理を10分行うことで、アノード(下部電極31)の表面の清浄を行った。
【0088】
(3)有機化合物層の形成工程
次に、下部電極31上に、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層と、がこの順に積層してなる有機化合物層32を形成した。まずα−NPDを成膜して正孔輸送層を形成した。次に、発光層を形成した。尚、発光層は、メタルマスクによる塗り分けを行い発光色ごとに形成した。また各色の発光層を形成する際には、下記表に示される材料をそれぞれ使用した。
【0089】
【表1】

【0090】
次に、電子受容性のバソフェナントロリンを成膜して電子輸送層を形成した。
【0091】
尚、各色の有機化合物層32の膜厚は、各発光色に応じて発光層からアノード(下部電極31)までの光学干渉条件が合うように必要に応じてメタルマスクを使用しながら膜厚を調整した。また各色の有機化合物層の総膜厚は30nm〜300nmの範囲で適宜設定した。
【0092】
次に、電子輸送層まで成膜された基板を、純水に対してイソプロピルアルコールが50%となるように混合させた溶液を入れた水槽に浸漬させて、補助電極12の上に形成された保護部材40を、保護部材40上に設けられる有機化合物層32と共に除去した。これにより、補助電極12を基板10の表面に露出させた。
【0093】
このとき、溶液に対する電子輸送層のエッチングレートをあらかじめ算出し、電子輸送層の膜厚を調整した。
【0094】
次に、この基板を純水により十分にリンスした後、基板10を真空装置内に導入し、110℃の真空ベークを20分行うことで脱水処理を行った後、真空装置内で十分に冷却した。
【0095】
(4)上部電極の形成工程
次に、有機化合物層32上に、AgとMgとを8:2の割合となるように共蒸着にて上部電極33を形成した。ここで上部電極(AgMg膜)33の膜厚を12nmとした。
【0096】
次に、上部電極33まで形成されている基板10を真空蒸着装置に連結したグローブボックス内に移した後、窒素雰囲気中で乾燥剤を入れたキャップガラスにより封止した。以上により有機発光装置を得た。
【0097】
このようにして得られた有機発光装置について直流電流を印加し発光させたところ、面内で均一な発光特性が確認された。
【0098】
[実施例2]
第二の実施形態にて説明した示されるプロセスにより有機発光装置を作製した。以下、図面を適宜参照しながら説明する。
【0099】
(1)電極付基板の作製工程
まず実施例1と同様の方法により、図3(a)に示される電極付基板を作製した。
【0100】
(2)第一保護層の形成工程
次に、ポリビニルピロリドン(PVP)と純水とを混合して、5重量%の水溶液を調製した。次に、先程作製した電極付基板上に当該水溶液を滴下した後、スピンコーターを用いて膜厚500nmとなるように成膜した後、形成した薄膜を120℃で10分間加熱乾燥することで第一保護層41を形成した。
【0101】
(3)第二保護層の形成工程
次に、第一保護層41が形成されている基板を真空装置内に投入した後、CVD法により、第一保護層41上に、窒化シリコン(SiN)を成膜し第二保護層42を形成した。このとき第二保護層42の膜厚を2μmとした(図3(b))。
【0102】
(4)各保護層の加工工程(保護部材の形成工程)
次に、第二保護層42上に、レジスト材料(AZ1500)を塗布し、スピンコーターによりレジスト層51を形成した。このときレジスト層51の膜厚は2μmであった。次に、このレジスト層51を120℃にて加熱乾燥させた。
【0103】
次に、発光装置の表示領域内に設けられている補助電極が設けられている領域を遮蔽部分とするフォトマスクを用いて、レジスト層51をMPAで露光し、アルカリ現像液で現像を行った。これにより、レジスト層をパターニングすることで、レジスト層51からなるマスクを形成した(図3(c))。
【0104】
次に、パターニングされたレジスト層51が形成されている基板10をドライエッチング装置に導入した。次に、SiNに対する化学反応性エッチングガスであるCF4をチャンバーに導入して、ドライエッチングによるSiNのパターニングを行った。このときSiN膜厚に対して10%のオーバーエッチングとなるように、あらかじめ条件を設定してパターニングを行った。
【0105】
続いて酸素を導入して、パターニングしたSiNをマスクとして、PVPをエッチングして第一保護層41のパターニングを行った。このとき第一保護層41のパターニングは、構成材料であるPVPの残渣の残らないように、かつ膜厚に対して10%のオーバーエッチングとなるような条件で行った。
【0106】
(5)有機化合物層の形成工程
このようにして補助電極12上に保護部材40が形成された基板10を真空成膜装置に導入し、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の手順で、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層と、からなる有機化合物層32を形成した。尚、電子輸送層を形成する際に、純水とイソプロピルアルコールとが4:1の割合で混合されている混合溶媒に対する電子輸送層のエッチングレート、及びこのエッチングレートに基づいて算出された電子輸送層の膜厚に基づいて電子輸送層を形成した。
【0107】
次に、電子輸送層まで成膜された基板を、純水に対してイソプロピルアルコールが20%となるように混合させた溶液を入れた水槽に浸漬させて、補助電極12上に形成された第一保護層41を、第二保護層42及び有機化合物層32と共に除去した。こうすることで、補助電極12を基板の表面に露出させた。
【0108】
次に、基板10を、純水により十分にリンスした。次に、基板10を真空装置内に導入し、真空ベークを110℃の温度条件下で20分行うことで脱水処理を行った。次に、真空装置内で基板10を十分に冷却した後、以下に示す手順で電子注入層を成膜した。
【0109】
具体的には、有機化合物層(電子輸送層)32上あるいは補助電極層12上に、バソフェナントロリンと、炭酸セシウム(Cs2CO3)と、を体積比で7:3になるように共蒸着して電子注入層を形成した。このとき電子注入層の膜厚を60nmとした。次に、スパッタリング法を用いて、電子注入層上にIZOを成膜し上部電極33を形成した。このとき上部電極の膜厚を50nmとした。
【0110】
次に、上部電極33まで形成されている基板を、真空蒸着装置に連結したグローブボックスに移した後、窒素雰囲気中において乾燥剤を入れたキャップガラスにより封止した。以上により有機発光装置を得た。
【0111】
得られた有機発光装置に直流電流を印加し発光させたところ、実施例1と同様に、面内で均一な発光特性が確認された。
【0112】
[実施例3]
実施例2(4)において、第一保護層41の加工(パターニング)の際に、第一保護層41の形状を、図3(d)に示されるように断面テーパー形状となるようにオーバーエッチングした。その後で、基板を水槽に浸漬した際に超音波振動を用いて保護部材40を除去したことを除いては、実施例2と同様の方法で有機発光装置を製造した。以下に、本実施例における第一保護層41の加工方法と保護部材40の除去方法とを説明する。
【0113】
まず実施例2と同じ方法により第二保護層42(SiN膜)のパターニングを行った後、第一保護層41(PVP膜)を、膜厚に対して10%のオーバーエッチングとなるような条件でエッチングを行った。次に、第二保護層42(SiN膜)との境界及びその周辺の第一保護層41(PVP膜)についてさらにエッチングを行った。これにより、断面テーパー形状の第一保護層41を形成した。さらに実施例2と同様に保護部材40に電子輸送層まで成膜した基板を純水に対してイソプロピルアルコールが20%となるように混合させた溶液を入れた水槽に浸漬させ、さらにその水槽を超音波振動器内に配置した。そして超音波振動を用いて補助電極12上に形成された第一保護層41を第二保護層42及び有機化合物層32と共に除去し、補助電極12を基板の表面に露出させた。
【0114】
得られた有機発光装置について、直流電流を印加し発光させたところ、面内で均一な発光特性が確認された。
【0115】
[比較例1]
実施例3において、第一保護層41を設ける前に、有機化合物層(電子輸送層)32上に電子注入層を形成したことを除いては、実施例3と同様の方法により有機発光装置を製造した。保護層を除去する前に電子注入層を成膜することを除いては、実施例3と同様の方法で有機発光装置を製造した。尚、本比較例において形成される電子注入層は、実施例3と同様の材料、組成比で形成した。
【0116】
得られた有機発光装置について直流電流を印加したが、発光しなかった。
【符号の説明】
【0117】
1:有機発光装置、10:基板、11:画素、12:補助電極、21:基材、22:駆動回路、23:平坦化層、24(25):コンタクトホール、26:配線、30:有機発光素子部、31:下部電極、32:有機化合物層、33:上部電極、34:素子分離膜、40:保護部材、41:第一保護層、42:第二保護層、51:レジスト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示領域内に、下部電極と、上部電極と、下部電極と上部電極との間に配置された有機化合物層と、を有する有機発光素子が複数配置され、
前記表示領域内に、補助電極が複数配置され、
前記有機化合物層よりも下層に配線が設けられ、
前記配線が外部電源と電気接続可能であって、
前記補助電極により前記上部電極と前記配線とを電気接続可能にする有機発光装置の製造方法において、
前記補助電極を被覆する保護部材を形成する工程と、
前記有機化合物層を形成する工程と、
前記保護部材を除去する工程と、
前記補助電極と電気接続する前記上部電極を形成する工程と、をこの順に有し、
前記保護部材を除去する工程が、前記保護部材の構成材料を選択的に溶解する溶媒に浸漬することで行われることを特徴とする、有機発光装置の製造方法。
【請求項2】
前記保護部材を形成する工程が、前記補助電極を被覆する第一保護層を形成する工程と、
前記第一保護層上に第二保護層を形成する工程と、
パターニングにより前記第一保護層と前記第二保護層とを加工する工程と、を有し、
前記保護部材を除去する工程が、前記第一保護層の構成材料を選択的に溶解する溶媒に浸漬することで行われることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光装置の製造方法。
【請求項3】
前記第一保護層が、少なくとも水に可溶な有機材料からなる層であり、
前記第二保護層が、防湿性を有する材料からなる層であり、
前記パターニングが、フォトリソグラフィー法を用いたパターニングであり、
前記第一保護層と前記第二保護層とが、ドライエッチングによって加工されることを特徴とする、請求項2に記載の有機発光装置の製造方法。
【請求項4】
前記第一保護層と前記第二保護層とを加工する工程において、前記第二保護層によって前記第一保護層の一部が陰となるように前記第一保護層が形成され、
前記有機化合物層を形成する工程を行った後においても、少なくとも前記第一保護層のうち前記第二保護層の陰となる部分が露出するように前記第一保護層を加工することを特徴とする、請求項2又は3に記載の有機発光装置の製造方法。
【請求項5】
前記保護部材を除去する工程と、前記補助電極と電気接続する前記上部電極を形成する工程との間に、電子注入性材料を有する層を形成する工程をさらに有し、
前記電子注入性材料が、少なくともアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を有する材料であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−216296(P2012−216296A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79011(P2011−79011)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】