説明

有機粒子の製造方法およびそれに用いられる製造装置

【課題】再沈法により有機粒子を工業的規模で安定に生産する方法およびそれに用いられる製造装置を提供する。
【解決手段】良溶媒に溶解した有機材料の溶液と、該良溶媒と相溶する前記有機材料の貧溶媒とを混合し、該有機材料を粒子として形成する有機粒子の製造方法であって、前記良溶媒に溶解した有機材料の溶液および前記貧溶媒をそれぞれ所定数の液供給口から撹拌槽に流入させ、該撹拌槽で撹拌手段により攪拌し、撹拌処理を終えた液体を液排出口から排出する有機粒子の製造方法。前記良溶媒に溶解した有機材料溶液および前記貧溶媒をそれぞれ流入させる所定数の液供給口と、撹拌処理を終えた液体を排出する液排出口とを備え、撹拌手段を有する有機粒子の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再沈法による有機粒子の製造方法およびそれに用いられる製造装置に関する。さらには、再沈法により有機粒子を安定に大量生産しうる方法およびそれに用いられる製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、粒子を小サイズ化する取り組みが進められている。特に、粉砕法などでは製造することが困難なナノメートルサイズ(例えば、10〜100nmの範囲)にまで小サイズ化する研究が進められている。さらには、ナノメートルサイズに小サイズ化した上で、しかも単分散な粒子とすることが試みられている。
このようなナノメートルサイズの微粒子の大きさは、より大きなバルク粒子や、より小さな分子や原子と異なり、その中間に位置する。したがって、従来予想できなかった新たな特性を引き出しうることが指摘されている。しかも、これを単分散にできれば、その特性を安定化することも可能である。このようなナノ粒子のもつ可能性はさまざまな分野で期待され、生化学、新規材料、電子素子、発光表示素子、印刷、医療などの広い分野で研究が盛んになりつつある。
特に、有機化合物からなる有機ナノ粒子は、有機化合物自体が多様性を有するため、機能性材料としてのそのポテンシャルは高い。例えば、ポリイミドは、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性など、化学的および機械的に安定な材料であること、電気絶縁性が優れているなどのことから多く分野で利用されている。ポリイミドを微粒子化した材料には、ポリイミドの特性と形状との組み合わせにより、新しい利用が広がっている。例えば、微粒子化したポリイミドの利用の提案技術として、画像形成用の粉末トナーの添加剤とすること(特許文献1)などが提案されている。
【0003】
また、有機ナノ粒子のなかでも有機顔料についてみると、例えば、塗料、印刷インク、電子写真用トナー、インクジェットインク、カラーフィルター等を用途として挙げることができ、今や、生活上欠くことができない重要な化合物となっている。とりわけ高性能が要求され、実用上特に重要なものとしては、インクジェットインク用顔料およびカラーフィルター用顔料が挙げられる。
インクジェット用インクの色材については、従来、染料が用いられてきたが、耐水性や耐光性の面で問題があり、それを改良するために顔料が用いられるようになってきた。顔料インクにより得られた画像は、染料系のインクによる画像に較べて耐光性、耐水性に優れるという利点を有する。しかしながら、紙表面の空隙に染み込むことが可能なナノメートルサイズで均一に微細化、単分散化することは難しく、紙への密着性に劣るという問題がある。
また、デジタルカメラの高画素化に伴い、CCDセンサーなどの光学素子や表示素子に用いるカラーフィルターの薄層化が望まれている。カラーフィルターには有機顔料が用いられているが、フィルターの厚さは有機顔料の粒子径に大きく依存するため、ナノメートルサイズレベルで、しかも単分散で安定な微粒子の製造が望まれている。
【0004】
有機粒子の製造に関しては、気相法(不活性ガス雰囲気下で試料を昇華させ、粒子を基板上に回収する方法)、液相法(例えば、良溶媒に溶解した試料を攪拌条件や温度を制御した貧溶媒に注入することにより、微粒子を得る再沈法)、レーザーアブレーション法(溶液中に分散させた試料に、レーザーを照射しアブレーションさせることにより粒子を微細化する方法)などが研究されている。また、これらの方法により、所望のサイズで単分散化を試みた製造例が報告されている。
中でも再沈法は、簡易性および生産性に優れた有機粒子の製造法として注目されている(特許文献2、3など参照)
【0005】
しかしながら再沈法に関しては、室温でも有機粒子を製造できるものの、粒子サイズの温度依存性が大きいという問題があった。特に有機顔料粒子の安定製造には、貧溶媒を充分冷却することが必要であり、工業的に大量生産するには冷却プラントが必要になるため、大幅なコストアップとなるという問題があった。このため、比較的温度コントロールが容易な、室温付近で安定に有機微粒子を製造する方法が求められていた。
一方、工業的な撹拌装置としては、例えば、特許文献4に記載の装置が挙げられるが、ハロゲン化銀粒子の製造に関するものであり、有機微粒子を析出生成した応用例はない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−237760号公報
【特許文献2】特開平6−79168号公報
【特許文献3】特開2004−91560号公報
【特許文献4】特開平10−43570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、再沈法により良好な有機粒子を製造する方法及びそれに用いられる製造装置の提供を目的とする。さらに詳しくは、再沈法により良好な有機粒子を工業的規模で安定に生産しうる製造方法およびそれに用いられる製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は下記の手段により達成された。
(1)良溶媒に溶解した有機材料の溶液と、該良溶媒と相溶する前記有機材料の貧溶媒とを混合し、該有機材料を粒子として形成する有機粒子の製造方法であって、前記良溶媒に溶解した有機材料の溶液および前記貧溶媒をそれぞれ所定数の液供給口から撹拌槽に流入させ、該撹拌槽で撹拌手段により攪拌し、撹拌処理を終えた液体を液排出口から排出することを特徴とする有機粒子の製造方法。
(2)前記撹拌手段が前記撹拌槽内の相対向する2箇所に離間して配置した一対の撹拌羽根であり、該攪拌羽根を互いに逆向きに回転駆動させて該撹拌槽内の液体の撹拌状態を制御することを特徴とする(1)項に記載の有機粒子の製造方法。
(3)前記各撹拌羽根と近接した撹拌槽壁外側に外部磁石を配置し、貫通軸を持たない磁気カップリングを前記各撹拌羽根と形成し、前記外部磁石を回転駆動することにより前記各撹拌羽根を回転させることを特徴とする(2)項に記載の有機粒子の製造方法。
(4)前記有機材料の貧溶媒が、水系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒またはこれらの混合溶媒であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の有機粒子の製造方法。
(5)前記有機材料の良溶媒が、水系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、スルホキシド系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒またはこれらの混合溶媒であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の有機粒子の製造方法。
(6)前記有機材料が、有機顔料であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の有機粒子の製造方法。
(7)前記有機粒子の数平均粒径が1μm以下であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の有機粒子の製造方法。
(8)良溶媒に溶解した有機材料の溶液と、該良溶媒と相溶する前記有機材料の貧溶媒とを混合し、該有機材料を粒子として形成する有機粒子の製造装置であって、前記良溶媒に溶解した有機材料溶液および前記貧溶媒をそれぞれ流入させる所定数の液供給口と、撹拌処理を終えた液体を排出する液排出口とを備え、撹拌手段を有してなることを特徴とする有機粒子の製造装置。
(9)前記撹拌手段が、撹拌槽内の相対向する2箇所に離間して配置されて互いに逆向きに回転駆動されることで該撹拌槽内の液体の撹拌状態を制御する一対の撹拌羽根であることを特徴とする(8)に記載の有機粒子の製造装置。
(10)前記各撹拌羽根と近接した撹拌槽壁外側に配置されて貫通軸を持たない磁気カップリングを前記各撹拌羽根と形成する外部磁石と、前記撹拌槽外に配備されて、前記外部磁石を回転駆動して各撹拌羽根を回転させる駆動手段とを有することを特徴とする(9)に記載の有機粒子の製造装置。
(11)前記有機粒子の数平均粒径が1μm以下であることを特徴とする、(8)〜(10)のいずれか1項に記載の有機粒子の製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機粒子の製造方法およびそれに用いられる製造装置によれば、粒子サイズの室温付近での温度依存性が小さい、工業的規模での生産に適した製造方法およびそれに用いられる製造装置を提供することができる。また、カラーフィルター塗布液やインクジェット用インクに適した有機粒子を工業的な規模で生産することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好ましい実施態様は、良溶媒に溶解した有機材料の溶液と、該良溶媒と相溶する前記有機材料の貧溶媒とを混合し、該有機材料を粒子として形成する有機粒子の製造方法であって、前記良溶媒に溶解した有機材料の溶液および前記貧溶媒をそれぞれ所定数の液供給口から撹拌槽に流入させ、該撹拌槽で撹拌手段により攪拌し、撹拌処理を終えた液体を液排出口から排出する有機粒子の製造方法である。また、本発明の別の好ましい実施態様は、良溶媒に溶解した有機材料の溶液と、該良溶媒と相溶する前記有機材料の貧溶媒とを混合し、該有機材料を粒子として形成する有機粒子の製造装置であって、前記良溶媒に溶解した有機材料溶液および前記貧溶媒をそれぞれ流入させる所定数の液供給口と、撹拌処理を終えた液体を排出する液排出口とを備え、撹拌手段を有する有機粒子の製造装置である。以下、本発明の製造方法および装置について詳細に説明する。
【0011】
本発明の製造方法で形成される粒子は、結晶質粒子でも非晶質粒子でもよく、またはこれらの混合物でもよい。
【0012】
本発明で製造される有機材料は、再沈法で製造でき、粒子として形成しうる有機材料であれば特に制限はない。有機材料としては、例えば、有機顔料、有機色素、フラーレン、ポリジアセチレン、ポリイミドなどの高分子化合物、芳香族炭化水素もしくは脂肪族炭化水素(例えば、配向性を有する芳香族炭化水素もしくは脂肪族炭化水素、または昇華性を有する芳香族炭化水素もしくは脂肪族炭化水素)などが挙げられるが、有機顔料、有機色素、または高分子化合物が好ましく、有機顔料がより好ましい。また、これらを組み合わせたものでもよい。
【0013】
本発明の有機粒子の製造方法に用いることができる有機顔料は、色相的に限定されるものではなく、例えば、ペリレン、ペリノン、キナクリドン、キナクリドンキノン、アントラキノン、アントアントロン、ベンズイミダゾロン、ジスアゾ縮合、ジスアゾ、アゾ、インダントロン、フタロシアニン、トリアリールカルボニウム、ジオキサジン、アミノアントラキノン、ジケトピロロピロール、チオインジゴ、イソインドリン、イソインドリノン、ピラントロンもしくはイソビオラントロン系顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0014】
さらに詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド190(C.I.番号71140)、C.I.ピグメントレッド224(C.I.番号71127)、C.I.ピグメントバイオレット29(C.I.番号71129)等のペリレン系顔料、C.I.ピグメントオレンジ43(C.I.番号71105)、もしくはC.I.ピグメントレッド194(C.I.番号71100)等のペリノン系顔料、C.I.ピグメントバイオレット19(C.I.番号73900)、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122(C.I.番号73915)、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202(C.I.番号73907)、C.I.ピグメントレッド207(C.I.番号73900、73906)、もしくはC.I.ピグメントレッド209(C.I.番号73905)のキナクリドン系顔料、C.I.ピグメントレッド206(C.I.番号73900/73920)、C.I.ピグメントオレンジ48(C.I.番号73900/73920)、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49(C.I.番号73900/73920)等のキナクリドンキノン系顔料、C.I.ピグメントイエロー147(C.I.番号60645)等のアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントレッド168(C.I.番号59300)等のアントアントロン系顔料、C.I.ピグメントブラウン25(C.I.番号12510)、C.I.ピグメントバイオレット32(C.I.番号12517)、C.I.ピグメントイエロー180(C.I.番号21290)、C.I.ピグメントイエロー181(C.I.番号11777)、C.I.ピグメントオレンジ62(C.I.番号11775)、もしくはC.I.ピグメントレッド185(C.I.番号12516)等のベンズイミダゾロン系顔料、C.I.ピグメントイエロー93(C.I.番号20710)、C.I.ピグメントイエロー94(C.I.番号20038)、C.I.ピグメントイエロー95(C.I.番号20034)、C.I.ピグメントイエロー128(C.I.番号20037)、C.I.ピグメントイエロー166(C.I.番号20035)、C.I.ピグメントオレンジ34(C.I.番号21115)、C.I.ピグメントオレンジ13(C.I.番号21110)、C.I.ピグメントオレンジ31(C.I.番号20050)、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166(C.I.番号20730)、C.I.ピグメントレッド220(C.I.番号20055)、C.I.ピグメントレッド221(C.I.番号20065)、C.I.ピグメントレッド242(C.I.番号20067)、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23(C.I.番号20060)等のジスアゾ縮合系顔料、C.I.ピグメントイエロー13(C.I.番号21100)、C.I.ピグメントイエロー83(C.I.番号21108)、もしくはC.I.ピグメントイエロー188(C.I.番号21094)等のジスアゾ系顔料、C.I.ピグメントレッド187(C.I.番号12486)、C.I.ピグメントレッド170(C.I.番号12475)、C.I.ピグメントイエロー74(C.I.番号11714)、C.I.ピグメントイエロー150(C.I.番号48545)、C.I.ピグメントレッド48(C.I.番号15865)、C.I.ピグメントレッド53(C.I.番号15585)、C.I.ピグメントオレンジ64(C.I.番号12760)、もしくはC.I.ピグメントレッド247(C.I.番号15915)等のアゾ系顔料、C.I.ピグメントブルー60(C.I.番号69800)等のインダントロン系顔料、C.I.ピグメントグリーン7(C.I.番号74260)、C.I.ピグメントグリーン36(C.I.番号74265)、ピグメントグリーン37(C.I.番号74255)、ピグメントブルー16(C.I.番号74100)、C.I.ピグメントブルー75(C.I.番号74160:2)、もしくは15(C.I.番号74160)等のフタロシアニン系顔料、C.I.ピグメントブルー56(C.I.番号42800)、もしくはC.I.ピグメントブルー61(C.I.番号42765:1)等のトリアリールカルボニウム系顔料、C.I.ピグメントバイオレット23(C.I.番号51319)、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37(C.I.番号51345)等のジオキサジン系顔料、C.I.ピグメントレッド177(C.I.番号65300)等のアミノアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントレッド254(C.I.番号56110)、C.I.ピグメントレッド255(C.I.番号561050)、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272(C.I.番号561150)、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール系顔料、C.I.ピグメントレッド88(C.I.番号73312)等のチオインジゴ系顔料、C.I.ピグメントイエロー139(C.I.番号56298)、C.I.ピグメントオレンジ66(C.I.番号48210)等のイソインドリン系顔料、C.I.ピグメントイエロー109(C.I.番号56284)、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61(C.I.番号11295)等のイソインドリノン系顔料、C.I.ピグメントオレンジ40(C.I.番号59700)、もしくはC.I.ピグメントレッド216(C.I.番号59710)等のピラントロン系顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31(60010)等のイソビオラントロン系顔料が挙げられる。
好ましい有機顔料はキナクリドン、ジケトピロロピロール、フタロシアニン、またはアゾの各系の顔料である。
本発明の有機粒子の製造方法において、2種類以上の有機顔料または有機顔料の固溶体を組み合わせて用いることもできる。
【0015】
本発明の有機粒子の製造方法に用いることができる有機色素としては、例えば、アゾ色素、シアニン色素、メロシアニン色素、クマリン系色素などが挙げられる。本発明の有機粒子の製造方法に用いることができる高分子化合物としては、例えば、ポリジアセチレン、ポリイミドなどが挙げられる。
【0016】
次に、有機粒子を析出、形成する方法について説明する。
有機粒子を析出させて形成する際に用いられる溶媒は、有機材料の貧溶媒であり、有機材料を溶解する良溶媒と相溶するもしくは均一に混ざるものであれば特に制限はない。有機材料の貧溶媒としては、有機材料の溶解度が0.02質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。この溶解度は酸またはアルカリの存在下で溶解された場合の溶解度であってもよい。また、良溶媒と貧溶媒との相溶性もしくは均一混合性は、良溶媒の貧溶媒への溶解度が30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
貧溶媒としては、例えば、水系溶媒(例えば、水、または塩酸、水酸化ナトリウム水溶液)、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、二硫化炭素、脂肪族系溶媒、ニトリル系溶媒、ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒、イオン性液体、これらの混合溶媒などが挙げられ、水系溶媒またはアルコール系溶媒が好ましい。
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールなどが挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。脂肪族系溶媒としては、例えば、ヘキサンなどが挙げられる。ニトリル系溶媒としては、例えば、アセトニトリルなどが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、トリクロロエチレンなどが挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、乳酸エチル、2−(1−メトキシ)プロピルアセテートなどが挙げられる。イオン性液体としては、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムとPF6との塩などが挙げられる。
【0017】
次に、有機材料を溶解する良溶媒について説明する。
良溶媒は用いる有機材料を溶解することが可能で、有機粒子作製時に用いる貧溶媒と相溶するもしくは均一に混ざるものであれば特に制限はない。有機材料の良溶媒への溶解性は有機材料の溶解度が0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。この溶解度は酸またはアルカリの存在下で溶解された場合の溶解度であってもよい。貧溶媒と良溶媒との相溶性もしくは均一混合性の好ましい範囲は前述のとおりである。
良溶媒としては、例えば、水系溶媒(例えば、水、または塩酸、水酸化ナトリウム水溶液)、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、二硫化炭素、脂肪族系溶媒、ニトリル系溶媒、スルホキシド系溶媒、ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒、イオン性液体、これらの混合溶媒などが挙げられ、水系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、スルホキシド系溶媒またはアミド系溶媒が好ましく、水系溶媒、スルホキシド系溶媒またはアミド系溶媒がより好ましく、アミド系溶媒が特に好ましい。
スルホキシド系溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ヘキサメチレンスルホキシド、スルホランが挙げられる。アミド系溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリジノンおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリジノン、ε−カプロラクタム、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
また、良溶媒に有機材料を溶解した有機材料溶液の濃度としては、溶解時の条件における有機材料の良溶媒に対する飽和濃度乃至これの1/100程度の範囲が望ましい。
有機材料溶液の調製条件に特に制約はなく、常圧から亜臨界、超臨界条件の範囲を選択できる。常圧での温度は−10〜150℃が好ましく、−5〜130℃がより好ましく、0〜100℃が特に好ましい。
上記の良溶媒と貧溶媒の組み合わせは、用いる有機材料に応じて、適宜、選択して用いることができる。
【0018】
本発明の有機粒子の製造方法においては、良溶媒に溶解した有機材料の溶液および貧溶媒はそれぞれ所定数の液供給口から撹拌槽に流入され、該撹拌槽で撹拌手段により攪拌される。有機粒子調製時の撹拌槽の温度は0〜100℃であることが好ましく、5℃〜80℃であることが特に好ましい。有機材料の溶液用の液供給口の数は1〜5個が好ましく、また貧溶媒用の液供給口の数は1〜5個が好ましい。このように所定数の供給口を設けることで複数種の有機材料からなる有機粒子を製造することができる。
本発明の有機粒子の製造方法においては、撹拌槽内に有機材料溶液を送液する際に、ポンプを用いることができるが、用いなくてもよい。ポンプを用いる場合の有機材料溶液の添加速度は0.1〜500ml/minが好ましく、1〜400ml/minがより好ましく、2〜300ml/minが特に好ましい。ポンプを用いる場合の貧溶媒の添加速度は10〜5000ml/minが好ましく、10〜4000ml/minがより好ましく、20〜3000ml/minが特に好ましい。ポンプを用いない場合の添加方法は、重力落下などがある。
撹拌槽の撹拌速度は100〜15000rpmが好ましく、200〜13000rpmがより好ましく、500〜10000rpmが特に好ましい。また撹拌槽内の相対向する2箇所に離間して配置した一対の撹拌羽根により撹拌を行う場合には、各撹拌羽根の撹拌速度は互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0019】
有機材料溶液および貧溶媒の添加速度はそれぞれ異なっていても同じであってもよく、有機材料溶液の濃度、攪拌速度などとの関係で制御することができる。また、有機材料溶液および貧溶媒の添加は連続的に行うことが好ましい。また有機粒子の製造を連続フロー方式で行うとき、液供給をしながら排出を行うことになり、このときの排液速度は10〜5000ml/minが好ましく、10〜4000ml/minがより好ましく、20〜3000ml/minが特に好ましい。
有機材料溶液と貧溶媒の添加流量比(有機材料溶液/貧溶媒)は体積比で1/50〜2/3が好ましく、1/40〜1/2がより好ましく、1/20〜3/8が特に好ましい。
有機粒子調製後の有機粒子液の濃度は特に制約されないが、分散溶媒1000mlに対して粒子が10〜40000mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜30000mgの範囲であり、特に好ましくは50〜25000mgの範囲である。
【0020】
本発明の有機粒子の製造方法には、分散剤を使用してもよい。例えば、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤、両イオン性分散剤、ノニオン性分散剤を添加することも可能である。添加方法は、顔料溶液に添加しても、貧溶媒に添加しても、また両方に添加してもよい。また、有機粒子を製造した後に添加してもよい。
【0021】
粒子の粒径に関しては、計測法により数値化して集団の平均の大きさを表現する方法があるが、よく使用されるものとして、分布の最大値を示すモード径、積分分布曲線の中央値に相当するメジアン径、各種の平均径(数平均、長さ平均、面積平均、重量平均、体積平均等)などがあり、本発明においては、特に断りのない限り、粒径とは数平均径をいう。本発明の有機粒子の製造方法によって製造される有機粒子分散液に含まれる有機粒子(一次粒子)の粒径は、500μm以下であるが、100μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。さらにナノメートルサイズのナノ粒子を製造する場合は、該粒径は1nm〜1μmであることが好ましく、1〜200nmであることがより好ましく、2〜100nmであることがさらに好ましく、5〜80nmであることが特に好ましい。
【0022】
また、粒子サイズの均一性(粒子が単分散でサイズが揃っている)ことを表す指標として、本発明においては、特に断りのない限り、体積平均粒径(Mv)と数平均粒径(Mn)の比(Mv/Mn)を用いる。本発明の有機粒子の製造方法によって製造される有機粒子分散液に含まれる有機粒子(一次粒子)の単分散性(本発明において、単分散性とは粒径が揃っている度合いをいう)、つまりMv/Mnは、1.0〜2.0であることが好ましく、1.0〜1.8であることがより好ましく、1.0〜1.5であることが特に好ましい。
有機粒子の粒径の測定方法としては、例えば、顕微鏡法、重量法、光散乱法、光遮断法、電気抵抗法、音響法、動的光散乱法が挙げられ、顕微鏡法、動的光散乱法が特に好ましい。顕微鏡法に用いられる顕微鏡としては、例えば、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などが挙げられる。動的光散乱法による粒子測定装置として、例えば、日機装社製ナノトラックUPA−EX150、大塚電子社製ダイナミック光散乱光度計DLS−7000シリーズなどが挙げられる。
【0023】
このように有機粒子を所望の粒径で単分散にして得ることで、例えば有機顔料を用いたとき、前述のとおり耐光性、耐水性に優れ、紙への染み込みが良好なインクジェットインクとすることができ、カラーフィルターに用いたときはその薄層化を実現することができる。また、ポリイミド等の電気絶縁性に優れた物質を用いたときは、微粒子化により、より大きな電気絶縁性が期待できる。
【0024】
本発明の有機粒子の製造方法においては、有機材料溶液および貧溶媒の混合液を攪拌手段により攪拌するが、撹拌手段を撹拌槽内の相対向する2箇所に離間して配置した一対の撹拌羽根とし、攪拌羽根を互いに逆向きに回転駆動させて撹拌状態を制御することが好ましい。さらに、該各撹拌羽根と近接した撹拌槽壁外側に外部磁石を配置し、貫通軸を持たない磁気カップリングを各撹拌羽根と形成し、外部磁石を回転駆動することにより各撹拌羽根を回転させることが好ましい。
【0025】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施態様である製造装置について説明するが、これにより本発明が限定的に解釈されるものではない。
図1は本発明の一実施態様である製造装置の概略を示した断面図である。図1は、撹拌槽外壁1を、撹拌羽根2に連結したシャフトを貫通する位置での縦断面によって示している。図1において有機材料溶液および貧溶媒はそれぞれ供給管4a、4bにより2つの液供給口から撹拌槽1a内に好ましくは連続的に供給され、流入される。攪拌槽の大きさには特に制限はない。撹拌槽1a内、撹拌羽根2により撹拌される。撹拌槽1a内で生成した有機粒子が撹拌槽1a内にとどまることにより、他の有機粒子と結合して更に大きな粒子となったり、供給管4a、4bより供給される有機材料溶液にさらされて大きな粒子となったりして巨大粒子が生成することがないよう、撹拌処理を終え、生成した有機粒子分散液は排出口から排出管3より好ましくは迅速に引き出される。
【0026】
図2は本発明の別の実施態様である製造装置の概略説明図である。図2に示すように、撹拌装置10は、有機材料溶液および貧溶媒をそれぞれ流入させる2つの液供給口12,13と撹拌処理を終えた混合液体を排出する液排出口16とを備えた円筒状の撹拌槽18と、該撹拌槽18内で回転駆動されることで該撹拌槽18内の液体の撹拌状態を制御する撹拌手段である一対の撹拌羽根21,22とを備えてなる。
【0027】
撹拌槽18は、上下方向に中心軸を向けた円筒状の槽本体19と、該槽本体19の上下の開口端を塞ぐ槽壁となるシールプレート20とで構成されている。また、撹拌槽18および槽本体19は、透磁性に優れた非磁性材料で形成されている。2つの液供給口12,13は槽本体19の下端寄りの位置に装備されており、液排出口16は槽本体19の上端寄りの位置に装備されている。このように排出口を上端寄りに設けることで撹拌処理が不十分な混合液体が排出されることを防止することができる。
【0028】
そして、一対の撹拌羽根21,22は、撹拌槽18内の相対向する上下端に離間して配置されて、互いに逆向きに回転駆動される。各撹拌羽根21,22は、それぞれの撹拌羽根21,22が近接する槽壁(シールプレート20)の外側に配置された外部磁石26と磁気カップリングCを構成している。即ち、各、撹拌羽根21,22は、磁力でそれぞれの外部磁石26に連結されており、各外部磁石26を独立したモーター28,29で回転駆動することで、互いに逆向きに回転操作される。
【0029】
槽18内に対向配置された一対の撹拌羽根21,22は、図2中に波線の矢印(X)及び実線の矢印(Y)で示すように、それぞれ向きの異なる撹拌流を槽18内に形成する。そして、それぞれの撹拌羽根21,22の形成する撹拌流は、流れ方向が異なるために互いに衝突して槽18内における撹拌を促進する高速の乱流を槽18内に生成して、槽18内の流れが定常化することを防止し、撹拌羽根21,22の回転を高速化した場合にも撹拌羽根21,22の回転軸回りに空洞が形成されることを阻止すると同時に、撹拌作用を十分に受けずに撹拌槽18の内周面に沿って槽18内を流れる定常流が形成されるという不都合の発生を阻止することができる。したがって、撹拌羽根21,22の回転の高速化により、容易に処理速度を向上させることができ、さらに、その際に、槽18内の液体の流れが定常化して撹拌混合が不十分の液体が排出されることを阻止して、処理品位の低下を防止することができる。
【0030】
また、撹拌槽18内の各撹拌羽根21,22は、磁気カップリングCによって撹拌槽18の外部に配置されたモーター28,29に連結されているため、撹拌槽18の槽壁に回転軸を挿通させる必要がなくなり、撹拌槽18を回転軸の挿通部のない密閉容器構造にすることができるため、撹拌混合した液の槽外への漏出を防止すると同時に、回転軸用の潤滑液(シール液)等が不純物として槽18内の液に混入することによる処理品位の低下を防止することができる。
【0031】
本発明の有機粒子の製造方法によれば、上述した製造装置を用いて、バッチ方式でも、連続フロー方式でも有機粒子の製造をすることができ、連続フロー方式で行うことが大量生産に有利であり好ましく、この場合図1、2に示した構成を有する装置を用いることができ、なかでも図2に示した構成を有する装置を用いることが好ましい。
また本発明の有機粒子の製造方法によれば、生成した有機粒子分散液が迅速に排出されることにより、撹拌槽内に供給される有機材料溶液と貧溶媒液の比を常に一定にすることが可能になる。このため、製造開始時から製造終了時まで、分散液の有機材料の溶解度を一定にすることが可能になり、単分散な有機粒子を安定に製造することができる。
さらに槽内の液体の流れが定常化して撹拌混合が不十分の有機粒子分散液が排出されることを阻止し、また、回転軸用の潤滑液(シール液)等が不純物として槽内の液に混入することを防止することで、単分散な有機粒子をさらに安定に製造することができる。
【0032】
本発明によって製造された有機粒子液を、濃縮することによって、カラーフィルター塗布液やインクジェット用インクに適した分散有機粒子液を工業的な規模で生産することが可能である。
以下に、有機粒子液を濃縮する方法について説明する。濃縮方法に関しては、有機粒子液を濃縮できれば特に制約されないが、例えば、有機粒子液に、抽出溶媒を添加混合し、有機粒子を該抽出溶媒相に濃縮抽出して、その濃縮抽出液をフィルターなどによりろ過して濃縮粒子液とする方法、遠心分離によって有機粒子を沈降させて濃縮する方法、加熱ないし減圧による溶媒を乾燥させて濃縮する方法またはこれらの組合せなどが好ましい。濃縮後の有機粒子濃度に関しては、1〜100質量%が好ましく、5〜100質量%がより好ましく、10〜100質量%が特に好ましい。
【0033】
以下に、濃縮抽出する方法について説明する。この濃縮抽出に用いられる抽出溶媒は特に制約されないが、有機粒子分散液の分散溶媒(例えば、水系溶媒)と実質的に混じり合わず(本発明において、実質的に混じり合わずとは、相溶性が低いことをいい、溶解量50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい)、混合後、静置すると界面を形成する溶媒であることが好ましい。また、この抽出溶媒は、有機粒子が抽出溶媒中で再分散しうる弱い凝集(ミリングまたは高速攪拌などの高いせん断力を加えなくても再分散が可能である)を生ずる溶媒であることが好ましい。このような状態であれば、粒子サイズを変化させる強固な凝集を起こさず、目的の有機ナノ粒子を抽出溶媒で湿潤させる一方、フィルターろ過などにより容易に水などの分散溶媒を除去することができる点で好ましい。抽出溶媒としてはエステル系溶媒、アルコール系溶媒、芳香族系溶媒、脂肪族系溶媒が好ましく、エステル系溶媒、芳香族系溶媒または脂肪族系溶媒がより好ましく、エステル系溶媒が特に好ましい。エステル系溶媒としては、例えば、2−(1−メトキシ)プロピルアセテート、酢酸エチル、乳酸エチルなどが挙げられる。アルコール系溶媒としては、例えば、n−ブタノール、イソブタノールなどが挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。脂肪族系溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどが挙げられる。また、抽出溶媒は上記の好ましい溶媒からなる純溶媒であっても、複数の溶媒からなる混合溶媒であってもよい。
【0034】
抽出溶媒の量は有機粒子を抽出できれば特に制約されないが、濃縮して抽出することを考慮して有機粒子液より少量であることが好ましい。これを体積比で示すと、有機粒子液を100としたとき、添加される抽出溶媒は1〜100の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜90の範囲であり、20〜80の範囲が特に好ましい。多すぎると濃縮化に多大な時間を要し、少なすぎると抽出が不十分で分散溶媒中に粒子が残存する。
抽出溶媒を添加した後、有機粒子液と十分に接触するように攪拌混合することが好ましい。攪拌混合は常用の方法を用いることができる。抽出溶媒を添加し混合するときの温度に特に制約はないが、1〜100℃であることが好ましく、5〜60℃であることがより好ましい。抽出溶媒の添加、混合はそれぞれの工程を好ましく実施できるものであればどのような装置を用いてもよいが、例えば、分液ロート型の装置を用いて実施できる。
【0035】
有機粒子液の分散溶媒と濃縮抽出液を分離するため、フィルターろ過することが好ましい。フィルターろ過の装置は、例えば、加圧ろ過のような装置を用いることができる。好ましいフィルターとしては、ナノフィルター、ウルトラフィルターなどが挙げられる。フィルターろ過により、残された分散溶媒の除去を行い、濃縮抽出液中の有機粒子をさらに濃縮して濃縮粒子液とすることが好ましい。
【0036】
この濃縮方法(濃縮抽出およびフィルターろ過)によれば、有機粒子液から効率よく有機粒子を濃縮することができる。濃縮倍率に関しては、例えば、有機粒子液における濃度を好ましくは100〜1000倍程度、より好ましくは500〜1000倍程度まで濃縮することもできる。さらに、有機粒子の抽出後に残された分散溶媒に有機粒子がほとんど残留せず、高い抽出率とすることができる。
【0037】
以下に遠心分離について説明する。遠心分離による有機粒子の濃縮に用いられる遠心分離機は有機粒子液(または濃縮有機粒子液)中の有機粒子を沈降させることができればどのような装置を用いてもよい。遠心分離機としては、例えば、汎用の装置の他にもスキミング機能(回転中に上澄み層を吸引し、系外に排出する機能)付きのものや、連続的に固形物を排出する連続遠心分離機などが挙げられる。
遠心分離条件は、遠心力(重力加速度の何倍の遠心加速度がかかるかを表す値)で50〜10000が好ましく、100〜8000がより好ましく、150〜6000が特に好ましい。遠心分離時の温度は、分散液の溶剤種によるが、−10〜80℃が好ましく、−5〜70℃がより好ましく、0〜60℃が特に好ましい。
【0038】
以下に乾燥について説明する。減圧乾燥による有機粒子の濃縮に用いられる装置は有機粒子液(または濃縮有機粒子液)の溶媒を蒸発させることができれば特に制限はない。例えば、汎用の真空乾燥器およびロータリーポンプや、液を撹拌しながら加熱減圧乾燥できる装置、液を加熱減圧した管中に通すことによって連続的に乾燥ができる装置等が挙げられる。
加熱減圧乾燥温度は30〜230℃が好ましく、35〜200℃がより好ましく、40〜180℃が特に好ましい。減圧時の圧力は、100〜100000Paが好ましく、300〜90000Paがより好ましく、500〜80000Paが特に好ましい。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
顔料(ピグメントレッド254)を、1−メチル−2−ピロリドンと1mol/L-水酸化ナトリウム水溶液を6:1で混合した溶液に、15mmol/L溶解した顔料溶液を調製した。これとは別に、貧溶媒として水を準備した。
図2に示すごとき撹拌装置(撹拌槽の容積8.3cc)を用いて、撹拌槽の温度を1℃、15℃、25℃、35℃にコントロールし、一対の撹拌羽根をともに2000rpmで互いに逆向きに攪拌させ、撹拌槽の一ヶ所の供給口から前記顔料溶液を流速10ml/minで撹拌槽に添加し、別の一ヶ所の供給口から前記貧溶媒を流速100ml/minで撹拌槽に添加し、排出口から取り出した有機顔料粒子分散液を、1000ml収集した。それぞれの温度で得られた分散液を試料顔料液(1)〜(4)とした。
【0041】
(実施例2)
顔料(ピグメントレッド254)を、ジメチルスルホキシドと8mol/L-水酸化ナトリウム水溶液を6:1で混合した溶液に、150mmol/L溶解した顔料溶液を調製した。これとは別に、貧溶媒として水を準備した。
実施例1と同様の撹拌装置(撹拌槽の容積8.3cc)を用いて、撹拌槽の温度を1℃、15℃、25℃、35℃にコントロールし、一対の撹拌羽根を2000rpmで攪拌させ、撹拌槽の一ヶ所の供給口から前記顔料溶液を流速10ml/minで撹拌槽に添加し、別の一ヶ所の供給口から前記貧溶媒を流速100ml/minで撹拌槽に添加し、排出口から取り出した有機顔料粒子分散液を、1000ml収集した。それぞれの温度で得られた分散液を試料顔料液(5)〜(8)とした。
【0042】
(比較例1)
実施例1と同様にして調製した顔料溶液と、貧溶媒として水を準備した。
温度を1℃、15℃、25℃、35℃、50℃にコントロールし、ビーカー中で撹拌子によって2000rpmで攪拌した貧溶媒の水10mlに、顔料溶液を1mlを1秒間で注入することにより、有機顔料粒子分散液を調製した。それぞれの温度で得られた分散液を試料顔料液(9)〜(12)とした。
【0043】
(比較例2)
実施例1と同様にして調製した顔料溶液と、貧溶媒として水を準備した。
温度を1℃、15℃、25℃、35℃、50℃にコントロールし、ビーカー中で藤沢薬品工業社製GK−0222−10型ラモンドスターラーにより2000rpmで攪拌した貧溶媒の水1000mlに、顔料溶液を、日本精密化学社製NP−KX−500型大容量無脈流ポンプを用いて流速50ml/minで100ml注入することにより、有機顔料粒子分散液を調製した。それぞれの温度で得られた分散液を試料顔料液(13)〜(16)とした。
【0044】
(試験例)
試料顔料液(1)〜(16)について粒径を日機装社製ナノトラックUPA-EX150を用いて測定し、粒径、単分散度を評価した。粒径は数平均粒径Mnで評価した。単分散度は体積平均粒径MvをMnで除した値(Mv/Mn)で評価した。結果を表1に示す。
試料顔料液(1)〜(16)を日立工機(株)製高速遠心冷却機HIMAC SCR20Bで、3500rpm(2000g)、1時間の条件で遠心分離し、上澄みを捨てて沈降した有機顔料粒子濃縮ペーストを回収した。得られたペーストに水を添加し、顔料含率を15%に調整した後、これをHONDA社製超音波洗浄器W−103Tにより再分散させ、粒径を日機装社製ナノトラックUPA-EX150を用いて測定した。顔料含率はアジレント(Agilent)社製8453型分光光度計を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
なお、用いた試薬の詳細は下記のとおりである。
試薬 製造元
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ピグメントレッド254(イルガフォアレッド) チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製
1−メチル−2−ピロリドン 和光純薬社製
ジメチルスルホキシド 和光純薬社製
1mol/L 水酸化ナトリウム水溶液 和光純薬社製
8mol/L 水酸化カリウム水溶液 和光純薬社製
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0047】
以上の結果から、本発明の有機粒子の製造方法および装置によれば、より単分散な有機ナノ粒子が1℃〜35℃という広い温度範囲で安定に製造できることがわかった。従来の方法である、良溶媒に溶解した試料を攪拌条件や温度を制御した貧溶媒に注入する再沈法に関しては、室温でも有機粒子を製造できるものの、粒子サイズの温度依存性が大きいという問題があった。特に有機顔料粒子の安定製造には、貧溶媒を充分冷却することが必要であり、工業的に大量生産するには冷却プラントが必要になるため、大幅なコストアップとなるという問題があった。本発明の有機粒子の製造方法及び装置によれば、1℃〜35℃という広い温度範囲で安定に製造でき、冷却プラントが不要であるため、有機粒子の大量生産に非常に適していることがわかる。
また、粒径と単分散度を変化させること無く濃縮することが可能であり、カラーフィルター塗布液やインクジェット用インクに適した有機粒子分散液を工業的な規模で生産することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の製造装置の好ましい実施態様を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の製造装置の他の好ましい実施態様を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 容器(攪拌槽外壁)
1a 攪拌槽
2 撹拌羽根
3 排出管
4a、4b 供給管
5 シャフト
10 撹拌装置
12,13 供給口
16 排出口
20 シールプレート
21,22 撹拌羽根
26 外部磁石
28,29 モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
良溶媒に溶解した有機材料の溶液と、該良溶媒と相溶する前記有機材料の貧溶媒とを混合し、該有機材料を粒子として形成する有機粒子の製造方法であって、前記良溶媒に溶解した有機材料の溶液および前記貧溶媒をそれぞれ所定数の液供給口から撹拌槽に流入させ、該撹拌槽で撹拌手段により攪拌し、撹拌処理を終えた液体を液排出口から排出することを特徴とする有機粒子の製造方法。
【請求項2】
前記撹拌手段が前記撹拌槽内の相対向する2箇所に離間して配置した一対の撹拌羽根であり、該攪拌羽根を互いに逆向きに回転駆動させて該撹拌槽内の液体の撹拌状態を制御することを特徴とする請求項1に記載の有機粒子の製造方法。
【請求項3】
前記各撹拌羽根と近接した撹拌槽壁外側に外部磁石を配置し、貫通軸を持たない磁気カップリングを前記各撹拌羽根と形成し、前記外部磁石を回転駆動することにより前記各撹拌羽根を回転させることを特徴とする請求項2に記載の有機粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機材料の貧溶媒が、水系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒またはこれらの混合溶媒であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機粒子の製造方法。
【請求項5】
前記有機材料の良溶媒が、水系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、スルホキシド系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒またはこれらの混合溶媒であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機粒子の製造方法。
【請求項6】
前記有機材料が、有機顔料であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機粒子の製造方法。
【請求項7】
前記有機粒子の数平均粒径が1μm以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機粒子の製造方法。
【請求項8】
良溶媒に溶解した有機材料の溶液と、該良溶媒と相溶する前記有機材料の貧溶媒とを混合し、該有機材料を粒子として形成する有機粒子の製造装置であって、前記良溶媒に溶解した有機材料溶液および前記貧溶媒をそれぞれ流入させる所定数の液供給口と、撹拌処理を終えた液体を排出する液排出口とを備え、撹拌手段を有することを特徴とする有機粒子の製造装置。
【請求項9】
前記撹拌手段が、撹拌槽内の相対向する2箇所に離間して配置されて互いに逆向きに回転駆動されることで該撹拌槽内の液体の撹拌状態を制御する一対の撹拌羽根であることを特徴とする請求項8に記載の有機粒子の製造装置。
【請求項10】
前記各撹拌羽根と近接した撹拌槽壁外側に配置されて貫通軸を持たない磁気カップリングを前記各撹拌羽根と形成する外部磁石と、前記撹拌槽外に配備されて、前記外部磁石を回転駆動して各撹拌羽根を回転させる駆動手段とを有することを特徴とする請求項9に記載の有機粒子の製造装置。
【請求項11】
前記有機粒子の数平均粒径が1μm以下であることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の有機粒子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−341242(P2006−341242A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213035(P2005−213035)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】