説明

有機素子、有機エレクトロルミネッセント素子、及び有機太陽電池

【課題】 これまで本発明者らがV25とホール輸送性有機物の組み合わせを使用して有機素子を構成する層として利用してきた技術を基本的にそのまま応用して、該「V25とホール輸送性有機物の組み合わせ」を「MoO3とホール輸送性有機物の組み合わせ」に置き換えても、全く遜色がなく、安全性が高く、また、光透過率もより高い有機素子を提供する。
【解決手段】 ホール及び/又は電子を輸送する電荷輸送性有機物と、蛍光及び/又は燐光を発する発光性有機分子と、を含む有機素子であって、ホール輸送性有機物と3酸化モリブデンが積層または混合によって接触して形成される電荷移動錯体を含む電荷移動錯体含有層内でホール輸送性有機物がラジカルカチオン状態にある層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性有機物を使用する有機素子、有機エレクトロルミネッセント素子(以下、「有機EL素子」と略記することがある)、及び有機太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体や有機導電体の研究が盛んに行われており、中でも有機半導体を使用する発光体である有機EL素子の進展がめざましい。
【0003】
有機EL素子において、Tangらは、素子の高効率化のため、キャリア輸送性の異なる有機化合物(ホール輸送性有機物と電子輸送性有機物)を積層し、ホールと電子がそれぞれ陽極、陰極よりバランスよく注入される構造とし、しかも該陰極と陽極に挟まれた有機層の層厚を2000(Å)以下とすることで、10V以下の印加電圧で1000(cd/m2)と外部量子効率1%の実用化に十分な高輝度、高効率を得ることに成功した(Appl.Phys.Lett.,51,913(1987)、特開昭59−194393号公報、特開昭63−264692号公報、特開平2−15595号公報、米国特許第4,539,507号明細書、同第4,769,292号明細書、同第4,885,211号明細書参照)。
【0004】
Tangらは、有機太陽電池においても、キャリア輸送性の異なる有機化合物(ホール輸送性有機物であるCuPcと電子輸送性有機物であるPV)を積層して、1%に近いパワー変換効率を実現している(Appl.Phys.Lett.、48,183(1986))。
【0005】
最近では、これら有機デバイスの電極に挟まれた部分を複数積層して、回路的には直列に接続することで、素子の高効率化を図るアイディアが論文、及び特許文献中に散見されるに至っている(Appl.Phys.Lett.、80,1667(2002)、Chemistry Letters,pp.327−330(1990)、特開平11−329748号公報、米国特許第6337492号明細書、特開2003−45676号公報、特開2003−264085号公報、等参照)。
【0006】
特に本発明者らは特開2003−272860号公報において、102(Ω・cm)以上の比抵抗を有する電気絶縁性の電荷発生層を用いて複数の有機EL発光ユニットを回路的に直列に接続する手法を開示し、MPE(Multi−Photon Emission)有機EL素子と名付けて、学会、展示会等の機会を利用して発表、展示を行い高い評価を得てきた(第49回応用物理学会関係連合講演会、講演予稿集27p−YL−3,p.1308、第63回応用物理学会学術講演会、講演予稿集27a−ZL−12,p.1165、Proceedings of EL2002(International Conference on the Science and Technology of Emissive Display and Lighting)p.539、Proceedings of IDMC’03(International Display Manufacturing Conference)Fr−21−01 p.413、SID03 DIGEST, vol.XXXIV,BOOKII,p.964、SID03 DIGEST,vol.XXXIV,BOOKII,p.979、第13回フラットパネルディスプレイ製造技術展での講演会D−4(2003)、LCD/PDP INTERNATIONAL2002での(株)アイメスの白色発光体の展示及び配布資料、EExpress(2002年11月15日号)、FPD INTERNATIONAL2003での(株)アイメスの白色発光体の展示及び配布資料、L.S.Liaoら:Appl.Phys.Lett.、vol.84,p.167(2004)、等参照)。
【0007】
この電荷発生層の構造は、本発明者らがこれまで蓄積してきた有機EL素子の電極に接する電荷(電子やホール)注入層の組成を、順次、積層したものと類似している。具体的には、特開平10−270171号公報(米国特許第6013384号)や特開2001−102175号公報(米国特許第6589673号明細書)、特開平11−233262(欧州特許第0936844号)、特開2000−182774(米国特許第6396209号明細書)等で開示した、電子受容性有機物のラジカルアニオン分子を含有する層と、特開平11−251067号公報(米国特許第6423429号明細書)や特開2001−244079号公報(米国特許第6589673号明細書)や特開2003−272860公報(MPE)、特願2003−358402号等で開示した、ホール輸送性有機物をFeCl3やV25等の無機物やF4−TCNQやPNB等の有機物を例とする電子受容性物質で酸化して生成する該ホール輸送性有機物のラジカルカチオン分子を含有する層を順次積層した組成を有している。
【0008】
このラジカルアニオン含有層とラジカルカチオン含有層を積層した層は、ホール電流電子電流変換層と呼ぶことが出来るが、なかでも同じく本発明者らが特願2003−380338で開示した手法によって、該ホール電流電子電流変換層内部での電子移動障壁を消滅させ複数の有機EL素子を直列接続するための理想的な電荷発生層(ホール−電子対発生層)として機能することが示された。
【0009】
本発明者らが開示してきた、上記の技術の中でも、V25とホール輸送性有機物を、積層、もしくは混合の手法によって作用させ、該2物質間の酸化還元反応によって生ずる電荷移動錯体を有する層は、その化学的安定性、熱的安定性の観点から、もっとも有用であった。
【特許文献1】特開昭59−194393号公報
【特許文献2】特開昭63−264692号公報
【特許文献3】特開平2−15595号公報
【特許文献4】特開平10−270171号公報
【特許文献5】特開平11−233262号公報
【特許文献6】特開平11−251067号公報
【特許文献7】特開平11−329748号公報
【特許文献8】特開2000−182774号公報
【特許文献9】特開2001−102175号公報
【特許文献10】特開2001−244079号公報
【特許文献11】特開2003−264085号公報
【特許文献12】特開2003−272860号公報
【特許文献13】特願2003−358402号明細書
【特許文献14】特願2003−380338号明細書
【特許文献15】特開2003−45676号公報
【特許文献16】米国特許第4539507号明細書
【特許文献17】米国特許第4769292号明細書
【特許文献18】米国特許第4885211号明細書
【特許文献19】米国特許第6013384号明細書
【特許文献20】米国特許第6337492号明細書
【特許文献21】米国特許第6396209号明細書
【特許文献22】米国特許第6423429号明細書
【特許文献23】米国特許第6589673号明細書
【特許文献24】欧州特許第0936844号明細書
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.、48,183(1986)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,51,913(1987)
【非特許文献3】Chemistry Letters,pp.327−330(1990)
【非特許文献4】Appl.Phys.Lett.、80,1667(2002)
【非特許文献5】第49回応用物理学会関係連合講演会、講演予稿集27p−YL−3,p.1308
【非特許文献6】第63回応用物理学会学術講演会、講演予稿集27a−ZL−12,p.1165
【非特許文献7】Proceedings of EL2002(International Conference on the Science and Technology of Emissive Display and Lighting)p.539
【非特許文献8】LCD/PDP INTERNATIONAL2002での(株)アイメスの白色発光体の展示及び配布資料
【非特許文献9】Proceedings of IDMC’03(International Display Manufacturing Conference)Fr−21−01 p.413
【非特許文献10】SID03 DIGEST, vol.XXXIV,BOOKII,p.964
【非特許文献11】SID03 DIGEST,vol.XXXIV,BOOKII,p.979
【非特許文献12】第13回フラットパネルディスプレイ製造技術展での講演会D−4(2003)
【非特許文献13】EExpress(2002年11月15日号)
【非特許文献14】FPD INTERNATIONAL2003での(株)アイメスの白色発光体の展示及び配布資料
【非特許文献15】L.S.Liaoら、Appl.Phys.Lett.,vol.84,p167(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、V25は劇物指定物質でもあり、また、光透過性においても、十分に満足しうるものではなかった。別言すれば、安全性と光透過性の2つの点で、MoO3(3酸化モリブデン)が前記V25と比較して、格段に優れていることを見いだして、本発明に至った。MoO3を有機素子の構成要素として使用する記述は、例えば下記文献に記載されている。
・特開平11−67459公報(文献1)
・特開平11−61398公報(文献2)
・特開2000−235893号公報(文献3)
・特開2000−306681号公報(文献4)
・特開2000−223276号公報(文献5)
・特開平10−199681公報(文献6)
・特許第2824411号明細書(文献7)
・S.Tokito,K.Noda and Y.Taga,J.Phys.D:Appl.Phys.29(11)2750−2753,Nov.1996(文献8)
【0011】
上記文献のうち、文献7の特許公報第2824411号に記載される技術は、上記、学術論文である文献8にも著されている。
この技術の内容は、ITOよりも仕事関数の大きい、酸化バナジウム(VOX)や酸化ルテニウム(RuOX)や酸化モリブデン(MOX)などの金属酸化物をITO上に50〜300(Å)の厚さにスパッタリングの手法を用いて成膜して、陽極であるITOから有機層へのホール注入時のエネルギー障壁を低減し、従来よりも低電圧駆動する有機EL素子を提供しようとするものである。
しかしながら、該文献中の記載によれば、例えば、酸化モリブデン層の透過率は10%(膜厚2150(Å)の時)と記載されており、スパッタリング成膜時の酸素脱離によると思われる光透過率の低さから、その膜厚に制限を受けている。
【0012】
また、上記の特開2000−223276には、上記特許公報第2824411号の欠点である透明性の低さを解決するために、例えば、酸化インジウム/酸化亜鉛/酸化モリブテン(比率=0.65/0.25/0.1)組成の酸化物混合体をホール注入層として使用することを記載している。別言すれば、酸化モリブデン膜の不透明性を認識したうえで、この欠点に打ち勝つために、透明性の高い酸化物と混合する手法によって、透明性とホール注入特性を両立させようとしている。そして、この層も高周波マグネトロンスパッタリングにより成膜されている。また、同様の内容は、特開平11−67459や特開平11−61398にも記されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る有機素子は、ホール及び/又は電子を輸送する電荷輸送性有機物と、蛍光及び/又は燐光を発する発光性有機分子と、を含む有機素子であって、ホール輸送性有機物と3酸化モリブデンが積層または混合によって接触して形成される電荷移動錯体を含む電荷移動錯体含有層内でホール輸送性有機物がラジカルカチオン状態にある層を有することを特徴としている。
【0014】
本発明に係る有機素子は、電荷輸送性有機物と、発光性有機分子とを含む有機素子であって、積層または混合によって互いに接触させたホール輸送性有機物及び3酸化モリブデンと、ホール輸送性有機物及び3酸化モリブデンの接触により形成された電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態となったホール輸送性有機物と、を有する電荷移動錯体含有層を備えることを特徴としている。
【0015】
上記電荷移動錯体含有層が陽極に接するホール輸送層であることが好ましい。
【0016】
上記電荷移動錯体含有層が分子構造の異なる複数のホール輸送性分子層の界面に形成されたホール移動障壁低減層であるとよい。
【0017】
上記電荷移動錯体含有層と、電子輸送性有機物がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にある層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有することが好ましい。
【0018】
上記ホール電流電子電流変換層は、電極層成膜プロセス時のプロセスダメージ低減層であるとよい。
【0019】
本発明に係る有機素子は、有機エレクトロルミネッセント素子を含むことができる。
【0020】
本発明に係る有機素子は、有機太陽電池を含むことができる。
【0021】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセント素子は、複数の発光ユニットを有するマルチフォトン有機エレクトロルミネッセント素子であって、ホール及び/又は電子を輸送する電荷輸送性有機物、及び蛍光及び/又は燐光を発する発光性有機分子を含み、ホール輸送性有機物と3酸化モリブデンが積層または混合によって接触して形成される電荷移動錯体を含む電荷移動錯体含有層内でホール輸送性有機物がラジカルカチオン状態にある層を有する電荷移動錯体含有層と、電子輸送性有機物がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にある層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有し、ホール電流電子電流変換層が電荷発生層であることを特徴としている。
【0022】
本発明に係る有機太陽電池は、複数の有機太陽電池ユニットを有する直列型太陽電池であって、ホール及び/又は電子を輸送する電荷輸送性有機物を含み、ホール輸送性有機物と3酸化モリブデンが積層または混合によって接触して形成される電荷移動錯体を含む電荷移動錯体含有層内でホール輸送性有機物がラジカルカチオン状態にある層を有する電荷移動錯体含有層と、電子輸送性有機物がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にある層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有し、ホール電流電子電流変換層が、複数の有機太陽電池ユニットを直列接続するための接続層であることを特徴としている。
【0023】
本発明に係る有機素子は、基板上に成膜順に(A)陽極、(B)主に有機物からなる有機物構造体、(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層、(D)MoO3層からなる陰極隣接層、(E)陰極層、と積層されてなることを特徴としている。
【0024】
本発明に係る有機素子は、基板上に成膜順に(A)陽極、(B)有機物を有する有機物構造体、(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層、(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層、(E)陰極層、と積層され、(D)陰極隣接層において3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合することにより形成される電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になったホール輸送性有機分子を有する電荷移動錯体含有層と、(C)ラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有することを特徴としている。
【0025】
本発明に係る有機素子は、基板上に成膜順に(A)陽極、(B)有機物を有する有機物構造体、(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層、(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層、(E)陰極層、と積層され、(D)陰極隣接層において3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合することにより形成される電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になったホール輸送性有機分子を有する電荷移動錯体含有層と、(C)ラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有し、ホール電流電子電流変換層が、電極層成膜プロセス時のプロセスダメージ低減層であることを特徴としている。
【0026】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセント素子は、複数の発光ユニットを有するマルチフォトン有機エレクトロルミネッセント素子であって、基板上に成膜順に(A)陽極、(B)有機物を有する有機物構造体、(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層、(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層、(E)陰極層、と積層され、(D)陰極隣接層におけるホール輸送性有機物と3酸化モリブデンの接触により、形成される電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態にあるホール輸送性有機物を含んで形成される電荷移動錯体含有層と、(C)ラジカルアニオン含有層と、が積層されてなることを特徴としている。
【0027】
本発明に係る有機素子は、複数の有機太陽電池ユニットを有する直列型太陽電池であって、基板上に成膜順に(A)陽極、(B)有機物を有する有機物構造体、(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層、(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層、(E)陰極層、と積層され、(D)陰極隣接層におけるホール輸送性有機物と3酸化モリブデンの接触により、形成される電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態にあるホール輸送性有機物を含んで形成される電荷移動錯体含有層と、(C)ラジカルアニオン含有層と、が積層されてなることを特徴としている。
【0028】
本発明に係る有機素子は、基板上に成膜順に(A)陽極、(B)3酸化モリブデンからなる陽極隣接層、(C)ホール輸送性有機物層、(D)有機物を有する有機物構造体、(E)陰極層、と積層されてなる有機素子であって、(B)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、ホール輸送性有機物層と陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になったホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴としている。
【0029】
本発明に係る有機素子は、基板上に成膜順に(A)陽極、(B)3酸化モリブデンとホール輸送性有機物を混合してなる陽極隣接層、(C)有機物を有する有機物構造体、(D)陰極層と積層されてなる有機素子であって、(B)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、ホール輸送性有機物層と陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になったホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴としている。
【0030】
本発明に係る有機素子は、基板上に成膜順に(A)陰極層、(B)有機物を有する有機物構造体、(C)ホール輸送性有機物層、(D)3酸化モリブデンからなる陽極隣接層、(E)陽極層と積層されてなる有機素子であって、(D)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、ホール輸送性有機物層と陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になったホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴としている。
【0031】
本発明に係る有機素子は、基板上に成膜順に(A)陰極層、(B)有機物を有する有機物構造体、(C)3酸化モリブデンとホール輸送性有機物を混合してなる陽極隣接層、(D)陽極層、と積層されてなる有機素子であって、(C)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、ホール輸送性有機物層と陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になったホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、これまで本発明者らがV25とホール輸送性有機物の組み合わせを使用して有機素子を構成する層として利用してきた技術を基本的にそのまま応用して、該「V25とホール輸送性有機物の組み合わせ」を「MoO3とホール輸送性有機物の組み合わせ」に置き換えても、全く遜色がないばかりか、MoO3は(人体に無毒であるため)より安全性が高く、また、光透過率もより高い。さらに、本発明におけるMoO3は本発明者らがV25等の電子吸引性物質(つまり、ルイス酸)を使用して開示してきたすべての技術に原理的に使用できる。また、MoO3とホール輸送性有機物がそれぞれ単独では、波長800〜2000(nm)の近赤外領域に吸収スペクトルのピークを示さないが、MoO3とホール輸送性有機物の混合膜では、波長800〜2000(nm)の近赤外領域に吸収スペクトルのピークがあり、MoO3とホール輸送性有機物の間での電子移動を明確に示唆する存在として確認することができる。別言すれば、MoO3とホール輸送性有機物は酸化還元反応(電子の授受)によって電荷移動錯体を形成出来る。このときホール輸送性有機物はラジカルカチオン状態となり、有機膜中で、移動可能な内部電荷として振る舞うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照しつつ詳しく説明する。
本発明のMoO3(3酸化モリブデン)は、基本的には、抵抗加熱蒸着により成膜される。その理由は、MoO3を蒸発材料に用いた場合には、真空中での加熱によって、スパッタ成膜時に問題となる酸素脱離の問題が全く観測されず、MoO3の化学量論組成が保持されたまま基板上に成膜されることが判明したからである。(もともと、MoO3それ自身は白色粉末の形態で入手可能であり、従って、化学量論組成を維持して成膜された場合は、原理的に無色透明の膜が得られるはずである。)
【0034】
また、抵抗加熱蒸着により成膜されて、化学量論組成を有するMoO3はホール輸送性有機物(電子供与性有機物として認識されている)と分子レベルで反応し、電荷移動錯体を形成することが判明した。つまり、本発明は、これまで本発明者らがV25とホール輸送性有機物の組み合わせを使用して有機素子を構成する層として利用してきた技術を基本的にそのまま応用して、該「V25とホール輸送性有機物の組み合わせ」を「MoO3とホール輸送性有機物の組み合わせ」に置き換えても、全く遜色がないばかりか、MoO3は(人体に無毒であるため)より安全性が高く、また、光透過率もより高いという利点に着目して為されたものである。
【0035】
このように本発明におけるMoO3は本発明者らがV25等の電子吸引性物質(つまり、ルイス酸)を使用して開示してきたすべての技術に原理的に使用できる。すなわち、
1)ホール輸送性物質とMoO3の積層膜、または混合膜を陽極に隣接するホール注入層として利用する形態(特願2003−358402、特開平11−251067号公報(米国特許第6423429号明細書)や特開2001−244079号公報(米国特許第6589673号)、等に記載の技術)
2)2種類の互いに異なるホール輸送性分子からなる、2層以上の複数のホール輸送層を隔てる界面にMoO3を存在させて、該界面でのホール移動障壁を低減させる、ホール移動障壁層として利用する形態(特願2003−384202号明細書に記載の技術)
3)ホール輸送性物質とMoO3の積層膜、または混合膜をマルチフォトン有機EL素子の電荷発生層(CGL:Charge Generation Layer)や、直列接続型有機太陽電池の直列接続層として利用する形態(特開2003−272860号公報)、特願2003−380338号明細書、等に記載の技術)
4)電極成膜時のダメージを低減する、ダメージ低減緩衝層(バッファー層)として利用する形態(特願2003−380338号明細書、等に記載の技術)
5)該MoO3含有層が、純粋な有機物層と比較して桁違いに低抵抗であることと、透明性に優れていることを利用して、光路長調整層として利用する形態(特開2001−244079号公報(米国特許第6589673号明細書、特願2003−380338、等に記載の技術)の全てに応用可能である。
【0036】
(A)本発明者らがこれまでに得た知見によれば、本発明のMoO3含有層が、上記1)〜5)の技術に適用可能であるか否かは、分光学的分析手段、具体的には吸光度分析による吸収スペクトルの変化によって確認できる。具体的には、MoO3とホール輸送性有機物がそれぞれ単独では、波長800〜2000(nm)の近赤外領域に吸収スペクトルのピークを示さないが、MoO3とホール輸送性有機物の混合膜では、波長800〜2000(nm)の近赤外領域に吸収スペクトルのピークがあり、MoO3とホール輸送性有機物の間での電子移動を明確に示唆する存在として確認することができる。別言すれば、MoO3とホール輸送性有機物は酸化還元反応(電子の授受)によって電荷移動錯体を形成出来る。このときホール輸送性有機物はラジカルカチオン状態となり、有機膜中で、移動可能な内部電荷として振る舞うことが出来る。
【0037】
(B)従って、(上記分光学的分析手段のほかに)本発明者らがこれまでに得た知見によれば、本発明のMoO3とホール輸送性有機物の混合膜が、上記1)〜5)の技術に適用可能であるか否かは、その混合比率によっては、それぞれの物質が単独では示すことのない低い比抵抗を示すことからも、確認出来る。この現象は、該混合膜中で、両物質がただ単に物理的混合状態にあるのではなく、両物質間の電子移動に伴う電荷移動錯体の形成を明確に示すものである。
【0038】
上記(A)及び(B)に記載した要件を満たした場合は、1)〜5)の全ての形態に本発明のMoO3含有層を応用することが出来る。
【0039】
本発明に使用されるホール輸送性有機物は、アリールアミン化合物であり、一般式(I):
【化1】

(式中、Ar1、Ar2及びAr3は、それぞれ独立に置換基を有してよい芳香族炭化水素基を表わす。)
で示されるアリールアミン化合物であるのが好ましい。
【0040】
この様なアリールアミン化合物の例としては、特に限定はないが、特開平6−25659号公報、特開平6−203963号公報、特開平6−215874号公報、特開平7−145116号公報、特開平7−224012号公報、特開平7−157473号公報、特開平8−48656号公報、特開平7−126226号公報、特開平7−188130号公報、特開平8−40995号公報、特開平8−40996号公報、特開平8−40997号公報、特開平7−126225号公報、特開平7−101911号公報、特開平7−97355号公報に開示されているアリールアミン化合物類が好ましく、例えば、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノフェニル、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン、N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−4,4’−ジアミノビフェニル、ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル、4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン、3−メトキシ−4’−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン、N−フェニルカルバゾール、1,1−ビス(4−ジ−p−トリアミノフェニル)−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ジ−p−トリアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)−フェニルメタン、N,N,N−トリ(p−トリル)アミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノ−ビフェニルN−フェニルカルバゾール、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]p−ターフェニル、4,4’−ビス[N−(3−アセナフテニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、1,5−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ナフタレン、4,4’−ビス[N−(9−アントリル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’’−ビス[N−(1−アントリル)−N−フェニル−アミノ]p−ターフェニル、4,4’−ビス[N−(2−フェナントリル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(8−フルオランテニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(2−ピレニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(2−ペリレニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(1−コロネニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、2,6−ビス(ジ−p−トリルアミノ)ナフタレン、2,6−ビス[ジ−(1−ナフチル)アミノ]ナフタレン、2,6−ビス[N−(1−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ナフタレン、4.4’’−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミノ]ターフェニル、4.4’−ビス{N−フェニル−N−[4−(1−ナフチル)フェニル]アミノ}ビフェニル、4,4’−ビス[N−フェニル−N−(2−ピレニル)−アミノ]ビフェニル、2,6−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミノ]フルオレン、4,4’’−ビス(N,N−ジ−p−トリルアミノ)ターフェニル、ビス(N−1−ナフチル)(N−2−ナフチル)アミン、下記の式:
【化2】

で表わされる4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(αNPD、またはNPBと略記される)、下記の式:
【化3】

で表わされるスピロ−NPB、下記の式:
【化4】

で表わされるスピロ−TAD、下記の式:
【化5】

で表わされる2−TNATAなどがある。
さらに、従来有機EL素子の作製に使用されている公知のものを適宜用いることができる。
【0041】
またさらに、該アリールアミン化合物はガラス転移点が90℃以上であるアリールアミン化合物であることが、素子の耐熱性の観点から望ましい。上記のαNPD、スピローNPB、スピローTAD、及び2−TNATAはガラス転移点が90℃以上である、好適な化合物の例である。また発明に使用されるホール輸送性有機物は、顔料型有機物であっても良い。また、上記ホール輸送性有機物は、ポルフィリン化合物またはその誘導体であっても良い。この例としては、下記の式:
【化6】

で表されるCuPcなどがある。上記ホール輸送性有機物は、キナクリドン化合物またはその誘導体であっても良い。上記ホール輸送性有機物は、インダンスレン化合物またはその誘導体であっても良い。
これらの公知のホール輸送性有機物は、前記(A)、(B)に記載した要件のいずれかを満たすので、本発明のMoO3含層の構成物質として使用できる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
実施例1では、本発明の要素であるMoO3(3酸化モリブデン)蒸着膜、ホール輸送性有機物である前記のαNPD(NPBとも略記される)、及び、MoO3とαNPDの共蒸着膜(MoO3:αNPD=5:1,モル比)の、それぞれの膜(膜厚10nm)の吸収スペクトルを測定した。
【0043】
測定結果を図1に示す。図1から明らかなように、MoO3とαNPDの共蒸着膜は、500nm近傍と、1400nm近傍に顕著なピークが、観測された。これは、MoO3単独膜にもαNPD単独膜にも見られないピークであり、両物質間の酸化還元反応による電荷移動錯体の形成、すなわちホール輸送性有機物であるNPBのラジカルカチオン(NPB+)の生成を明確に示すものである。
【実施例2】
【0044】
実施例2では、本発明のMoO3、またはMoO3とホール輸送性有機物の共蒸着による混合膜の比抵抗測定を、本発明者らによって開示済みのV25、またはV25とホール輸送性有機物の共蒸着による混合膜との比較により測定した。比抵抗(単位Ω・cm)の測定法は、被測定物の比抵抗の値(レンジ)によって2種類の方法で測定した。
【0045】
第1の測定法(サンドイッチ法)は、比較的比抵抗の大きい物質に対して適当とされる方法で、被測定物の蒸着薄膜103を2つの電極101、102で狭持した形態(図2及び図3に示すサンドイッチ構造の比抵抗評価用素子)で測定を行い、印加電圧(V)と被測定物薄膜の膜厚(cm)(つまり電極間距離)から得られる電場E(V/cm)と、観測電流(A)と電流が流れる領域の断面積(cm2)とから得られる電流密度(A/cm2)との比〔(V/cm)/(A/cm2)=(Ω・cm)〕から算出した。図2は、サンドイッチ法による比抵抗評価用素子の平面図、図3はその断面図である。具体的には、基板100上に形成された(2mm幅の)ITO電極101上に(場合により2mm幅のAl電極上に)被測定物103を所望の膜厚になるように蒸着し、最後に(同じく2mm幅の)アルミニウム電極102をITO電極101と直交するように成膜して、比抵抗評価用素子を作製した。
【0046】
第2の測定法(並置法)は、比較的比抵抗の小さい物質に対して適当とされる方法で、並置構造の比抵抗評価用素子を用いて測定する。すなわち、図4及び図5に示したように、基板200上の同一平面上に予め陽極201、陰極202となる電極を所定距離L(cm)隔てて成膜されたものを用意しておき、その上から被測定物203の蒸着薄膜を所定の開口幅W(cm)を有するエリア規定用金属マスクを介して、所定の膜厚t(cm)を成膜する。この場合得られる電場E(V/cm)は、印加電圧(V)を電極間距離L(cm)で除して算出され、電流密度(A/cm2)は観測電流(A)を電流が流れる領域の断面積(この場合はW×t(cm2))で除して算出される。この様にして得られた値から、前記のサンドイッチ構造の場合と同様に、比抵抗(単位Ω・cm)を算出した。
【0047】
図6に比抵抗の測定結果を示す。被測定物の種類は、「ITO(透明電極材料)膜」、「V25膜」、「V25とαNPDの共蒸着膜」、「MoO3膜」、「MoO3とαNPDの共蒸着膜」、「Alq(発光材料、または、電子輸送材料)膜」、「αNPD膜」である。「ITO膜」、「V25とαNPDの共蒸着膜」、「MoO3膜」、及び、「MoO3とαNPDの共蒸着膜」は、並置構造の比抵抗評価用素子で測定した。「V25膜」、「αNPD膜」、及び「Alq膜」は、サンドイッチ構造の比抵抗評価用素子で測定した。αNPDついては電極からの電荷注入をオーミック(ohmic)にするためにV25とαNPDの混合膜を両電極に接する部分に50Åと薄く成膜した上で、1000Åの厚さのαNPDをサンドイッチして測定した。
【0048】
図6に示す各蒸着膜の比抵抗(Ω・cm)は以下のようになる。
<並置法>
−▽−:ITO 4.6×10-4(Ω・cm)
−▲−:V25とαNPDの共蒸着膜(V25:αNPD=4:1,molar(モル比)) 2×103(Ω・cm)
−△−:V25とαNPDの共蒸着膜(V25:αNPD=1:1,molar) 2.7×104(Ω・cm)
−▼−:MoO3とαNPDの共蒸着膜(MoO3:αNPD=5:1,molar) 5×104(Ω・cm)
−○−:MoO3膜 4×105(Ω・cm)
−●−:MoO3:αNPDの共蒸着膜(MoO3:αNPD=1:1,molar) 2×106(Ω・cm)
【0049】
<サンドイッチ法>
太線:V25膜(100nm)(ITO/V25/Alにより測定)3×105(Ω・cm)
細線:Alq膜(300nm)(Al/Alq/Alにより測定) 1×1013(Ω・cm)
鎖線:αNPD(NPB)膜(100nm)(ITO/V25:αNPD,5nm/αNPD,100nm/V25:αNPD,5nm/Alにより測定) 3×108(Ω・cm)
【0050】
また、MoO3とαNPDの共蒸着膜の混合比(モル分率)と比抵抗の関係を図7のグラフに示した。この図7に示される通り、105以下(Ω・cm)程度の比抵抗を有する純粋なMoO3膜に、108(Ω・cm)以上の比抵抗を有するαNPDを混合すると、該混合膜中でのαNPDのモル分率が0.1〜0.2程度の時、(通常の予想に反して)比抵抗が105(Ω・cm)程度以下に一旦低下するのが観測される。この現象は、特開2003−272860号公報で本発明者らが示した、V25とαNPDの共蒸着膜の混合比(モル分率)と比抵抗の関係になぞらえられるものである。
【実施例3】
【0051】
実施例3では、本発明の要素である、「MoO3蒸着膜」、「MoO3とαNPDの共蒸着膜」と、有機素子において同様の機能を有する「V25蒸着膜」の、可視光領域での透過率(膜厚1000Å)を測定した。
【0052】
測定結果を図8に示す。図8から明らかなように、本発明の「MoO3蒸着膜」、及び「MoO3とαNPDの共蒸着膜」は、可視光領域ほぼ全域わたって、「V25蒸着膜」よりも透過率が高いことが判明した。
従って、有機EL素子や、有機太陽電池等の有機素子を構成する層として、より有用であることが判る。
【0053】
以下に、本発明の内容をよりよく理解するために、有機EL素子と有機太陽電池を本発明の有機素子の例として具体的に説明する。下記の実施例では、ITO:indium−tin−oxideを陽極に、CuPc:Copper Phthalocyanineを陽極に接するホール注入層や有機太陽電池の電子供与層として用いる。PTCBI:3,4,9,10−perylenetetracarboxylic bis−benzimidazole,有機太陽電池の電子受容層として用いる。ホール輸送性有機物としてはNPB(αNPD):N,N’−di(naphthalene−1−yl)−N,N’−diphenyl−benzidin)を、発光層ホスト材料兼電子輸送性有機物としてはAlq:tris(8−hydroxyquinoline)aluminum(III)を、用いる。C545T(Coumarin derivative)(Kodak製)は緑色発光材料であり、発光層ホスト材料にドーピングされる。Liq:(8−hydroxyquinoline)Lithiumは、電子輸送層の構成材料であり、熱還元性金属(e.g.Aluminum)によってLiq中のLiイオンが還元されてLi金属となり、電子輸送性有機物(e.g.Alq)をラジカルアニオン化するラジカルアニオン発生手段として用いる。さらに、陰極又は熱還元金属としてはlAl:Aluminumを用いる。MoO3:molybdenum trioxide及びホール輸送性有機物と積層、または、混合によって接触して、ホール輸送性有機物をラジカルカチオン化するラジカルカチオン発生手段として用いる。または、その高い透明性と、一般的に有機素子に使用される有機物よりも低い比抵抗を有する性質(105Ω・cm以下)を利用して、単独膜で低抵抗電荷輸送層としても用いることが出来る。
【実施例4】
【0054】
実施例4は、MoO3とNPBを混合して有機EL素子のホール輸送層として機能させる形態である。
ガラス基板上にパターニングされたITO(indium−tin−oxide)陽極上に、NPB(αNPD)とMoO3がモル比率1:1で混合された層を共蒸着により300Å形成する。
【0055】
次にNPB(αNPD)を500(Å)形成する。次に発光層としてAlqに蛍光色素C5454Tを1wt.%ドーピングした層を500(Å)形成する。次に、AlqとLiqがモル比率1:1で混合された層を共蒸着により250(Å)形成する。最後にAlを1000(Å)形成する。尚、この実施例4において、Alは上記Liq中のLiイオン(Li+)を金属Liに還元する役割と、陰極としての役割の両方を果たす。
【0056】
この、構造を簡便に表記すると、
ITO/MoO3:NPB(1:1),300/NPB,500/Alq:C545T(1wt.%),500/Alq:Liq,250/Al,1000
となる。(以下の説明ではこのような(簡便な)表記法を用いることとする。)
この、MoO3:NPB(1:1)の層中では、
MoO3+NPB→MoO3-+NPB+
なる酸化還元反応によってNPBのラジカルカチオン(NPB+)が生成している。
【実施例5】
【0057】
実施例5は、MoO3とNPBを積層して有機EL素子のホール輸送層として機能させる形態である。
この構造の例は、
ITO/MoO3,300/NPB,500/Alq:C545T(1wt.%),500/Alq:Liq,250/Al,1000
となる。
この形態では、MoO3層とNPB層が互いに接する界面で、前記、酸化還元反応によるラジカルカチオン(NPB+)の生成が起きている。
【実施例6】
【0058】
実施例6は、異なる2種類のホール輸送材料である、CuPc層とNPB層の界面にMoO3層を50(Å)形成して、MoO3層の両側で接している2つのホール輸送性分子をラジカルカチオン化して、ホール移動障壁を低減する構造の例である。この構造の例は、
ITO/CuPc,200/MoO3,50/NPB,500/Alq:C545T(1wt.%),500/Alq:Liq,250/Al,1000
となる。
【実施例7】
【0059】
実施例7は、MoO3:NPBのような本発明の層が純粋な有機膜(108Ω・cm以上)と比較して桁違いに低抵抗膜(106Ω・cm以下)である性質を利用して、膜厚の制限がなく、つまり、該膜厚によって素子電圧を上昇させることなく、電極成膜時のダメージを低減する目的で使用する形態の例である。
この構造の例は、
ITO/MoO3:NPB(1:1),300/NPB,500/Alq:C545T(1wt.%),500/Alq:Liq,250/Al,15/MoO3:NPB(5:1),1000/ITOorAl,1000
となる。
【0060】
この形態では、陰極に接するMoO3:NPBの層が、ITOやAlをスパッタ成膜の様な高エネルギーを有する粒子を成膜する時のプロセスダメージ緩衝層となって、有機分子の破壊や劣化を防止する。また、Alq:Liq共蒸着膜上に蒸着される15(Å)の膜厚に相当する微量のAlは、Liq中のLiイオン(Li+)を金属Liに還元する役割のみを担っており、同時に、自らは酸化状態となるため、金属状態のAlは残存していない。
【0061】
この素子では、「Alq:Liq,250/Al,15」からなるラジカルアニオン生成層」と「MoO3:NPB(5:1),1000」からなるラジカルカチオン生成層」の接触する界面がホール電流電子電流変換層として機能しており、このホール電流電子電流変換層から陽極側に向かって電子が流れていき、陰極側に向かってホールが流れていく。
【実施例8】
【0062】
実施例8は、実施例4のプロセスを繰り返した構造、すなわち、
ITO/MoO3:NPB(1:1),300/NPB,500/Alq:C545T(1wt.%),500/Alq:Liq,250/Al,15/MoO3:NPB(1:1),100/NPB,500/Alq:C545T(1wt.%),500/Alq:Liq,250/Al,1000
なる構造を有している。
【0063】
この形態では、前記実施例7と同じく「Alq:Liq,250/Al,15/MoO3:NPB(1:1),100」の部分が、ホール電流電子電流変換層として機能している。そしてこの層は、この実施例8において、2つの発光ユニットを有するマルチフォトン有機EL素子の「電荷発生層」として機能しており、実施例4の素子と比較して略2倍の量子効率を得ることが出来る。
【実施例9】
【0064】
実施例9は、ヘテロジャンクション(heterojunction)型構造(CuPc/PTCBI)が2個直列に接続された構造を有する有機太陽電池の例である。すなわち、
ITO/MoO3:CuPc(5:1),100/CuPc,300/PTCBI,150/Alq:Liq:Al(1:1:1),600/MoO3:CuPc(5:1),100/CuPc,300/PTCBI,150/Alq:Liq:Al(1:1:1),600/Al
なる、構造を有している。
【0065】
この形態では、上述の「Alq:Liq:Al(1:1:1),600/MoO3:CuPc(5:1),100)」の部分が2つのヘテロジャンクション(heterojunction)型構造を直列接続するための接続層として機能しており、通常の様に1個のヘテロジャンクション(heterojunction)型構造のみからなる有機太陽電池と比べて略2倍の開放端電圧を得ることが出来る。
尚、Alq、Liq、Alの3物質を、モル比率(Alq:Liq:Al=1:1:1)程度の混合比で3元蒸着して、Alqをラジカルアニオン化(Alq-)する手法は、本発明者らが、特願2003−380338で詳細に説明してある。
【実施例10】
【0066】
実施例10は、実施例7の、陰極に接するMoO3:NPB共蒸着膜を純粋なMoO3膜に置き換えた構造、すなわち、
ITO/MoO3:NPB(1:1),300/NPB,500/Alq:C545T(1wt.%),500/Alq:Liq,250/Al,15/MoO3,x(Å)/ITOorAl,1000
なる構造を有している。
【0067】
この素子では、(Alq:Liq,250/Al,15)のラジカルアニオン生成層から電子が陽極方向に向かって流れる。
従って、MoO3層は実施例3で示されたように、その高い透明性によって、膜厚(xÅ)によって光路長調整層として有用に機能させることが出来るし、または、実施例7と同様にプロセスダメージ緩衝層としても機能出来る。
【実施例11】
【0068】
実施例11は、実施例5の積層順序とは異なり、陰極から成膜した構造、すなわち、
ITO/Alq:Li,100/Alq,100/Alq:C545T(1wt.%),500/NPB,500/MoO3,250/Al,1000
なる構造を有している。
【0069】
この構造では、基板上のITOは陰極として働いている。ITOに接する層には、Li金属がAlq:Li(1:1,molar(モル比))となるように混合されており、該Li金属によってAlqがラジカルアニオン化(Alq-)して電子注入層として働いている。尚、この電子注入層と同様の機能を有する層を作製する方法として、Alq、Liq、Alの3物質を、モル比率(Alq:Liq:Al=1:1:1)程度の混合比で3元蒸着して、Alqをラジカルアニオン化(Alq-)する手法がある。この手法は、本発明者らが、特願2003−380338で詳細に説明してある。
【実施例12】
【0070】
実施例12は、実施例4の積層順序とは異なり、陰極から成膜した構造、すなわち、
Al/Alq:Li,150/Alq,100/Alq:C545T(1wt.%),500/NPB,500/MoO3:NPB(1:1),1000/ITO,1000
なる構造を有している。
【0071】
この構造では、基板上のAlが陰極と光反射電極として働いている。Alに接する層には、Li金属がAlq:Li(1:1,molar)となるように混合されており、該Li金属によってAlqがラジカルアニオン化(Alq-)して電子注入層として働いている。もちろん、実施例11の項で前述したように、特願2003−380338で開示されている手法を用いても良い。
陽極のITOは、本発明のMoO3:NPB共蒸着膜上にスパッタ成膜される。従ってこの、MoO3:NPB共蒸着膜は、実施例7と同様にプロセスダメージ緩衝層としても機能出来る。
【0072】
尚、本発明は、以上の実施例で使用された物質、及び膜厚に限定されるものではなく、適宜、公知の物質や、新たに発見された好適な物質を使用でき、各構造に最適となるように、各層の膜厚を適宜変化させることが出来る。
上記の、実施例は、本発明者らが、特開平11−251067号公報(米国特許第6423429号明細書)、特開2001−244079号公報(米国特許第6589673号明細書、特開2003−272860号公報、特願2003−358402号明細書、特願2003−380338号明細書、特願2003−384202号明細書で、主に使用してきた、FeCl3,V25,F4−TCNQ等の電子受容性物質に替えて、MoO3を使用したところに特徴があり、各素子の特性は上記特許文献に記された特性とほぼ同等であるが、MoO3はより透明性が高く、人体に無害であるため、様々の有機素子に、より好適に使用できる。
【0073】
本発明について上記実施例を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施例1に係るそれぞれの膜の吸収スペクトルの測定結果を、縦軸に吸光度、横軸に吸収波長(単位nm)として示した図である。
【図2】サンドイッチ法による比抵抗評価用素子の平面図である。
【図3】図2における線A−A’に沿った断面図である。
【図4】並置法による比抵抗評価用素子の平面図である。
【図5】図4における線B−B’に沿った断面図である。
【図6】実施例2における電流密度(A/cm2)−電場(V/cm)特性を示す図である。
【図7】実施例2におけるMoO3とαNPDの共蒸着膜の混合比(モル分率)と比抵抗(Ω・cm)の関係を示す図である。
【図8】実施例3におけるそれぞれの膜の可視光領域での透過率(%)の測定結果を横軸を波長(nm)として示す図である。
【符号の説明】
【0075】
100 基板
101 ITO電極
102 アルミニウム電極
103 被測定物
200 基板
201 陽極
202 陰極
203 被測定物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホール及び/又は電子を輸送する電荷輸送性有機物と、蛍光及び/又は燐光を発する発光性有機分子と、を含む有機素子であって、
ホール輸送性有機物と3酸化モリブデンが積層または混合によって接触して形成される電荷移動錯体を含む電荷移動錯体含有層内で前記ホール輸送性有機物がラジカルカチオン状態にある層を有することを特徴とする有機素子。
【請求項2】
電荷輸送性有機物と、発光性有機分子とを含む有機素子であって、
積層または混合によって互いに接触させたホール輸送性有機物及び3酸化モリブデンと、
前記ホール輸送性有機物及び前記3酸化モリブデンの接触により形成された電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態となった前記ホール輸送性有機物と、
を有する電荷移動錯体含有層を備えることを特徴とする有機素子。
【請求項3】
前記電荷移動錯体含有層が陽極に接するホール輸送層である請求項1又は請求項2記載の有機素子。
【請求項4】
前記電荷移動錯体含有層が分子構造の異なる複数のホール輸送性分子層の界面に形成されたホール移動障壁低減層である請求項1又は請求項2記載の有機素子。
【請求項5】
前記電荷移動錯体含有層と、
電子輸送性有機物がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にある層と、
が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有する請求項1又は請求項2記載の有機素子。
【請求項6】
前記ホール電流電子電流変換層が、電極層成膜プロセス時のプロセスダメージ低減層である請求項5記載の有機素子。
【請求項7】
有機エレクトロルミネッセント素子を含む請求項1から6のいずれか1項記載の有機素子。
【請求項8】
有機太陽電池を含む請求項1から6のいずれか1項記載の有機素子。
【請求項9】
複数の発光ユニットを有するマルチフォトン有機エレクトロルミネッセント素子であって、
ホール及び/又は電子を輸送する電荷輸送性有機物、及び蛍光及び/又は燐光を発する発光性有機分子を含み、
ホール輸送性有機物と3酸化モリブデンが積層または混合によって接触して形成される前記電荷移動錯体を含む電荷移動錯体含有層内で前記ホール輸送性有機物がラジカルカチオン状態にある層を有する前記電荷移動錯体含有層と、電子輸送性有機物がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にある層と、
が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有し、
前記ホール電流電子電流変換層が電荷発生層であることを特徴とする有機エレクトルミネッセント素子。
【請求項10】
複数の有機太陽電池ユニットを有する直列型太陽電池であって、
ホール及び/又は電子を輸送する電荷輸送性有機物を含み、
ホール輸送性有機物と3酸化モリブデンが積層または混合によって接触して形成される前記電荷移動錯体を含む電荷移動錯体含有層内で前記ホール輸送性有機物がラジカルカチオン状態にある層を有する前記電荷移動錯体含有層と、電子輸送性有機物がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にある層と、
が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有し、
前記ホール電流電子電流変換層が、前記複数の有機太陽電池ユニットを直列接続するための接続層であることを特徴とする有機太陽電池。
【請求項11】
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)主に有機物からなる有機物構造体
(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層
(D)MoO3層からなる陰極隣接層
(E)陰極層
と積層されてなることを特徴とする有機素子。
【請求項12】
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層
(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層
(E)陰極層
と積層され、前記(D)陰極隣接層において3酸化モリブデンと前記ホール輸送性有機分子を混合することにより形成される電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機分子を有する電荷移動錯体含有層と、前記(C)ラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有することを特徴とする有機素子。
【請求項13】
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層
(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層
(E)陰極層
と積層され、前記(D)陰極隣接層において3酸化モリブデンと前記ホール輸送性有機分子を混合することにより形成される電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機分子を有する電荷移動錯体含有層と、前記(C)ラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有し、
前記ホール電流電子電流変換層が、電極層成膜プロセス時のプロセスダメージ低減層であることを特徴とする有機素子。
【請求項14】
複数の発光ユニットを有するマルチフォトン有機エレクトロルミネッセント素子であって、
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層
(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層
(E)陰極層
と積層され、
前記(D)陰極隣接層におけるホール輸送性有機物と3酸化モリブデンの接触により、形成される前記電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態にある前記ホール輸送性有機物を含んで形成される電荷移動錯体含有層と、前記(C)ラジカルアニオン含有層と、が積層されてなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項15】
複数の有機太陽電池ユニットを有する直列型太陽電池であって、
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層
(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層
(E)陰極層
と積層され、
前記(D)陰極隣接層におけるホール輸送性有機物と3酸化モリブデンの接触により、形成される前記電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態にある前記ホール輸送性有機物を含んで形成される電荷移動錯体含有層と、前記(C)ラジカルアニオン含有層と、が積層されてなることを特徴とする有機太陽電池。
【請求項16】
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)3酸化モリブデンからなる陽極隣接層
(C)ホール輸送性有機物層
(D)有機物を有する有機物構造体
(E)陰極層
と積層されてなる有機素子であって、前記(B)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、
前記ホール輸送性有機物層と前記陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が前記陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴とする有機素子。
【請求項17】
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)3酸化モリブデンとホール輸送性有機物を混合してなる陽極隣接層
(C)有機物を有する有機物構造体
(D)陰極層
と積層されてなる有機素子であって、前記(B)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、前記ホール輸送性有機物層と前記陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が前記陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴とする有機素子。
【請求項18】
基板上に成膜順に
(A)陰極層
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)ホール輸送性有機物層
(D)3酸化モリブデンからなる陽極隣接層
(E)陽極層
と積層されてなる有機素子であって、前記(D)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、前記ホール輸送性有機物層と前記陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が前記陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴とする有機素子。
【請求項19】
基板上に成膜順に
(A)陰極層
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)3酸化モリブデンとホール輸送性有機物を混合してなる陽極隣接層
(D)陽極層
と積層されてなる有機素子であって、前記(C)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、前記ホール輸送性有機物層と前記陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が前記陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴とする有機素子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホールや電子を輸送する電荷輸送性有機物、または/及び、蛍光や燐光を発する発光性有機分子を含む有機素子において、
ホール輸送性有機物と3酸化モリブデンが積層、または混合によって接触して該2物質間で電荷移動錯体が形成されており、該電荷移動錯体を含む層内で、該ホール輸送性有機物がラジカルカチオン状態にある層を有する有機素子。
【請求項2】
前記電荷移動錯体含有層が陽極に接するホール輸送層である請求項1記載の有機素子。
【請求項3】
前記電荷移動錯体含有層が分子構造の異なる複数のホール輸送性分子層の界面に形成されたホール移動障壁低減層である請求項1記載の有機素子。
【請求項4】
前記電荷移動錯体含有層と、電子輸送性有機物がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にある層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有する請求項1記載の有機素子。
【請求項5】
前記ホール電流電子電流変換層が、電極層成膜プロセス時のプロセスダメージ低減層である請求項4記載の有機素子。
【請求項6】
有機エレクトロルミネッセント素子を含む請求項1から5のいずれか1項記載の有機素子。
【請求項7】
有機太陽電池を含む請求項1から5のいずれか1項記載の有機素子。
【請求項8】
複数の発光ユニットを有するマルチフォトン有機エレクトロルミネッセント素子であって、ホール及び/又は電子を輸送する電荷輸送性有機物、及び蛍光及び/又は燐光を発する発光性有機分子を含み、ホール輸送性有機物と3酸化モリブデンが積層または混合によって接触して形成される前記電荷移動錯体を含む電荷移動錯体含有層内で前記ホール輸送性有機物がラジカルカチオン状態にある層を有する前記電荷移動錯体含有層と、電子輸送性有機物がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にある層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有し、前記ホール電流電子電流変換層が電荷発生層であることを特徴とする有機エレクトルミネッセント素子。
【請求項9】
複数の有機太陽電池ユニットを有する直列型太陽電池であって、ホール及び/又は電子を輸送する電荷輸送性有機物を含み、ホール輸送性有機物と3酸化モリブデンが積層または混合によって接触して形成される前記電荷移動錯体を含む電荷移動錯体含有層内で前記ホール輸送性有機物がラジカルカチオン状態にある層を有する前記電荷移動錯体含有層と、電子輸送性有機物がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にある層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有し、前記ホール電流電子電流変換層が、前記複数の有機太陽電池ユニットを直列接続するための接続層であることを特徴とする有機太陽電池。
【請求項10】
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)主に有機物からなる有機物構造体
(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態に
あるラジカルアニオン含有層
(D)MoO3層からなる陰極隣接層
(E)陰極層
と積層されてなることを特徴とする有機素子。
【請求項11】
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層
(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層
(E)陰極層
と積層され、前記(D)陰極隣接層において3酸化モリブデンと前記ホール輸送性有機分子を混合することにより形成される電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機分子を有する電荷移動錯体含有層と、前記(C)ラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有することを特徴とする有機素子。
【請求項12】
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層
(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層
(E)陰極層
と積層され、前記(D)陰極隣接層において3酸化モリブデンと前記ホール輸送性有機分子を混合することにより形成される電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機分子を有する電荷移動錯体含有層と、前記(C)ラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層と、が積層されてなるホール電流電子電流変換層を有し、前記ホール電流電子電流変換層が、電極層成膜プロセス時のプロセスダメージ低減層であることを特徴とする有機素子。
【請求項13】
複数の発光ユニットを有するマルチフォトン有機エレクトロルミネッセント素子であって、
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層
(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層
(E)陰極層
と積層され、
前記(D)陰極隣接層におけるホール輸送性有機物と3酸化モリブデンの接触により、形成される前記電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態にある前記ホール輸送性有機物を含んで形成される電荷移動錯体含有層と、前記(C)ラジカルアニオン含有層と、が積層されてなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項14】
複数の有機太陽電池ユニットを有する直列型太陽電池であって、基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)電子輸送性有機分子がラジカルアニオン発生手段によってラジカルアニオン状態にあるラジカルアニオン含有層
(D)3酸化モリブデンとホール輸送性有機分子を混合してなる陰極隣接層
(E)陰極層
と積層され、
前記(D)陰極隣接層におけるホール輸送性有機物と3酸化モリブデンの接触により、形成される前記電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態にある前記ホール輸送性有機物を含んで形成される電荷移動錯体含有層と、前記(C)ラジカルアニオン含有層と、が積層されてなることを特徴とする有機太陽電池。
【請求項15】
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)3酸化モリブデンからなる陽極隣接層
(C)ホール輸送性有機物層
(D)有機物を有する有機物構造体
(E)陰極層
と積層されてなる有機素子であって、前記(B)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、前記ホール輸送性有機物層と前記陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が前記陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴とする有機素子。
【請求項16】
基板上に成膜順に
(A)陽極
(B)3酸化モリブデンとホール輸送性有機物を混合してなる陽極隣接層
(C)有機物を有する有機物構造体
(D)陰極層
と積層されてなる有機素子であって、前記(B)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、前記ホール輸送性有機物層と前記陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が前記陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴とする有機素子。
【請求項17】
基板上に成膜順に
(A)陰極層
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)ホール輸送性有機物層
(D)3酸化モリブデンからなる陽極隣接層
(E)陽極層
と積層されてなる有機素子であって、前記(D)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、前記ホール輸送性有機物層と前記陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が前記陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴とする有機素子。
【請求項18】
基板上に成膜順に
(A)陰極層
(B)有機物を有する有機物構造体
(C)3酸化モリブデンとホール輸送性有機物を混合してなる陽極隣接層
(D)陽極層
と積層されてなる有機素子であって、前記(C)陽極隣接層は抵抗加熱蒸着によって形成され、前記ホール輸送性有機物層と前記陽極隣接層の接触により、電荷移動錯体及びラジカルカチオン状態になった前記ホール輸送性有機物を有する電荷移動錯体含有層が前記陽極に接するホール輸送層として形成されていることを特徴とする有機素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−24791(P2006−24791A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202266(P2004−202266)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(593191350)株式会社アイメス (17)
【出願人】(501231510)
【Fターム(参考)】