説明

有機繊維コードの熱処理装置

【課題】 有機繊維コードの熱処理装置において、ディップスケールや繊維屑等が燃焼装置の設置部へ飛散するのを防止する。
【解決手段】 加熱炉1と、燃焼室2と、送風ダクト3と、循環ダクト4とを備えており、送風ダクト3には送風ファン5が配置されている。燃焼室2内にはガス燃焼装置21が配置されており、燃料を燃焼させて、熱気を生成する。送風ダクト3の上流端である燃焼室2の出口及び循環ダクト4の下流端である燃焼室2への入口はそれぞれ金網22及び23で覆われている。有機繊維コードのスダレ反Gは、ノズルダクト11,12,13の間に形成された空間P,Qを通るときにノズルダクト11,12,13のスリット11a,12a,12b,13aから吹き出した熱風により加熱され、その後に外部へ搬送される。金網22及び23は、熱気中のディップスケールや繊維屑等を吸着し、火種の発生及びディップ反への付着を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤコード等に用いられる有機繊維コードの改質及びゴムとの接着性の付与を行うための有機繊維コードの熱処理装置に関し、詳細には、ディップスケールや繊維屑等の燃焼装置設置部への飛遊及びディップ反への付着を防止して、防災性及びディップコードの品質を向上させた熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤコード等に使用される有機繊維コードの改質及びゴムとの接着性の付与を行うための装置としては、図3に示すものがある(特許文献1参照)。この図に示す簾織り有機繊維ディップコード反の製造装置30において、簾織り有機繊維コード反36の長尺物を巻き取った大巻原反35から矢印方向へ送り出された簾織り有機繊維コード反36は、各種プルロール39a,39b,39c,39d,39eの案内の下でディップ処理装置34が備えるディップ液槽34aのディップ液34b中に浸漬されてディップ液が付着された後にドライ(乾燥処理)ゾーン31、ヒートストレッチ(緊張熱処理)ゾーン32及びヒートリラックス(緊張緩和熱処理)ゾーン33の中を順次通過し、その後に冷却されて簾織り有機繊維ディップコード反の完成品37となり、それが巻き取られて大巻仕上り反38となる。
【0003】
このドライゾーン31、ヒートストレッチゾーン32及びヒートリラックスゾーン33には、直火式乾燥炉設備が用いられている。その基本的構成は、ガス燃焼装置、送風ファン、送風ダクト、循環ダクト、有機繊維コードを所定時間滞留後に炉外へ送り出すことができるロールが設置された加熱炉、及び排気ダクトである。ガス燃焼装置では、LPG、LNG或いは灯油を燃焼させ、それにより加熱された空気を送風ファン付きのダクトにより加熱炉に送り込み、炉内の有機繊維コードを加熱する。そして、冷却された空気を循環ダクトによりガス燃焼装置に戻し、再加熱するようにしていた。
【特許文献1】特開平11-323691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この構成の直火式乾燥炉設備では、炉内からディップスケールや繊維屑等がガス燃焼装置設置部に飛散することから、火種が発生したり、ディップ反へ付着したりするおそれがあるため、防災面及びディップコードの品質面の改善が必要であった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ディップスケールや繊維屑等が燃焼装置設置部に飛散するのを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、燃焼装置で生成した熱気を加熱炉との間で循環させ、前記加熱炉にて有機繊維コードを加熱するようにした有機繊維コードの熱処理装置において、前記熱気の通路に前記熱気中に飛散しているディップスケール及び繊維屑を捕獲する捕獲手段を設けたことを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置である。
請求項2に係る発明は、請求項1記載の有機繊維コードの熱処理装置において、前記捕獲手段は網目状部材であることを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置である。
請求項3に係る発明は、請求項2記載の有機繊維コードの熱処理装置において、前記燃焼装置を前記網目状部材で覆ったことを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置である。
請求項4に係る発明は、請求項2記載の有機繊維コードの熱処理装置において、前記網目状部材は、金属、又は耐熱性樹脂で表面をコーティングした金属からなることを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置である。
請求項5に係る発明は、請求項2記載の有機繊維コードの熱処理装置において、前記網目状部材は、損失係数が0.65以上0.9以下であることを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置である。
【0007】
(作用)
請求項1に係る発明によれば、燃焼装置と加熱装置との間を循環する熱気中に飛散しているディップスケール及び繊維屑が、その熱気の通路に配置された捕獲手段により捕獲される。
請求項2に係る発明によれば、燃焼装置と加熱装置との間を循環する熱気中に飛散しているディップスケール及び繊維屑が、その熱気の通路に配置された網目状部材により捕獲される。
請求項3に係る発明によれば、燃焼装置と加熱装置との間を循環する熱気中に飛散しているディップスケール及び繊維屑が、燃焼装置を覆った網目状部材により捕獲される。
請求項4に係る発明によれば、燃焼装置と加熱装置との間を循環する熱気中に飛散しているディップスケール及び繊維屑が、その熱気の通路に配置された金属、又は耐熱性樹脂で表面をコーティングした金属からなる網目状部材により捕獲される。
請求項5に係る発明によれば、燃焼装置と加熱装置との間を循環する熱気中に飛散しているディップスケール及び繊維屑が、その熱気の通路に配置された損失係数0.65以上0.9以下の網目状部材により捕獲される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃焼装置で生成した熱気を送風ファン及びダクトにより加熱炉との間で熱風にして循環させ、前記加熱炉にて有機繊維コードを加熱するようにした有機繊維コードの熱処理装置において、ディップスケールや繊維屑等が燃焼装置設置部へ飛散することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1及び図2はそれぞれ本発明の実施形態に係る熱処理装置の側面及び上面の模式図である。ただし、便宜上、図2では搬送手段であるローラは図示を省略した。
【0010】
この熱処理装置は、加熱炉1と、燃焼室2と、燃焼室2と加熱炉1との間を連結する送風ダクト3及び循環ダクト4を備えており、送風ダクト3には送風ファン5が配置されている。燃焼室2内にはガス燃焼装置21が配置されており、LPG、LNG或いは灯油を燃焼させて、熱気を生成する。加熱炉1内にはノズルダクト11,12,13が配置されており、その一端は送風ダクト3の下流側に連通している。また、送風ダクト3の上流端である燃焼室2の出口は金網22で覆われており、循環ダクト4の下流端である燃焼室2への入口は金網23で覆われている。
【0011】
ここで、ノズルダクト11のノズルダクト12と対向する面には、水平方向(図1における紙面に垂直な方向、図2における上下方向)に延びるスリット11aが上下方向に間隔をあけて複数個形成されている。また、ノズルダクト12のノズルダクト11と対向する面及びノズルダクト13と対向する面には、それぞれ水平方向に延びるスリット12a及び12bが上下方向に間隔をあけて複数個ずつ形成されている。さらに、ノズルダクト13のノズルダクト12と対向する面には、水平方向に延びるスリット13aが上下方向に間隔をあけて複数個形成されている。ここで、各ノズルダクトに形成されたスリットの幅(図1における上下方向の長さ)は15mm程度であり、水平方向の長さは、後述する有機繊維コードのスダレ反Gの幅よりも200mm程度広く形成することが好適である。
【0012】
また、加熱炉1には、図示されていない駆動手段により駆動されている有機繊維コードのスダレ反Gが炉外のローラ14,15及び炉内のローラ16により、加熱炉1内のノズルダクト11,12間の空間P内を下方から上方へ移送され、次いでノズルダクト12,13間の空間Q内を上方から下方へ移送されて炉外へ送り出されるように構成されている。
【0013】
以上のように構成された熱処理装置において、燃焼装置21で燃料を燃焼させることで生成された熱気は、送風ファン5により熱風とされ、図1及び図2の破線の矢印に示すように、送風ダクト3、ノズルダクト11,12,13、空間P,Q、及び循環ダクト4を経て燃焼装置21へ戻り、再び燃焼装置21により加熱され、送風ダクト3を通って加熱炉1へ送り込まれる。同時に、有機繊維コードのスダレ反Gは、ローラ14を通って加熱炉1の下側から炉の内部に入り、ノズルダクト11,12の間に形成された空間Pを通って上端のローラ16の位置に達し、そこから下方へ向きを変えてノズルダクト12,13の間に形成された空間Qを通り、ローラ15を通って外部へ搬送される。
【0014】
このとき、有機繊維コードのスダレ反Gはノズルダクト11,12,13のスリット11a,12a,12b,13aから吹き出した熱風により加熱されるが、スダレ反Gに塗布された接着剤(ディップ液の固化物)が部分的に剥がれたり、過剰な接着剤がスダレ反Gより脱落したりすることにより、加熱炉1中にディップスケールが堆積したり、付着したりすることがある。また、有機繊維コードの製造工程で付着した繊維屑が混入すること等により、加熱炉1中に持ち込まれ、堆積することがある。これらのディップスケールや繊維屑は、加熱炉1内の送風−循環風により、燃焼室2内に持ち込まれることがあるが、これらのディップスケールや繊維屑等が燃焼装置21へ到達すると、火種となり防災上好ましくない。また、これらのディップスケールや繊維屑等が加熱炉1内のスダレ反Gに付着すると、ディップコードの品質が低下してしまう。そこで、本実施形態では、燃焼室2の出口及び入口をそれぞれ金網22及び23で覆うことで、熱気中のディップスケールや繊維屑等を吸着し、火種の発生及びディップ反への付着を防止している。
【0015】
金網22及び23の材質は、ステンレススチール又は鉄等の金属、テフロン(登録商標)或いはフロンメタル等の耐熱性樹脂で鉄をコーティングしたものが使用可能であり、ステンレススチールが好適である。金網22及び23の網目の大きさは、燃焼装置21の位置から加熱炉1内の最短ノズル(図2ではノズル13)迄の距離及び風速から設定する。通常は、損失係数が0.7〜0.9が好ましく、0.7〜0.8がより好ましい。損失係数とは、四辺形の金網形状の場合は、金網のワイヤの線径dとワイヤ間隔Lとにより、(1−d/L)2で表される数値であり、その他の形状の場合は、単位当たりのワイヤの占有面積Wと金網の面積Sとにより、{(S−W)/S}2で表される数値である。
【0016】
金網にディップスケールが付着した場合は、ワイヤブラシ、デッキブラシ、タワシ、ウエス等で掻き落とし、定期的に目詰りを除去することにより、半永久的に使用できる。
【0017】
なお、以上の実施形態では、金網を燃焼室2への入口及び燃焼室2からの出口の双方に配置したが、何れか一方でもよい。また、出入口に配置する代わりに、燃焼装置21を覆うように配置してもよい。
【0018】
〔実施例〕
実施例1〜6及び比較例1、2を作成し、金網を配置したことによる効果を評価した結果を表1に示す。評価試験を行うために、タイヤコードのスダレ反(幅160cm、コード打込み数:100本/10cm幅、長さ400m)を5反処理した。処理は乾燥、熱処理の順に行い、金網は熱処理炉の燃焼装置設置部(燃焼室)に設置した。接着剤は通常タイヤコードに使用するものを使用した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1において、金網の材質のsus316はステンレススチールである。また、設置場所N-1、N-2はそれぞれ燃焼室2からの出口(図2の金網22に相当) 、燃焼室2への入口(図2の金網23に相当) である。評価法は以下のとおりである。
【0021】
1)異物付着量
処理した反物を巻き出し、肉眼でディップカス(ディップスケール)の付着個数を数え、100m当たりの個数、及び面積1cm2以上のものの個数を表した。
2)取り除かれた異物量
設置した金網に付着した個数を数え、100m処理当たりの個数を表した。
3)接着力
得られたディップコードをゴム中に埋設し、所定の温度、圧力下で加硫し、その後ゴムから引き抜くときの力を接着力とし、従来法で得られたゴムの接着力を100とする指数で表した。
4)品質安定性
5反の各200m、400m、合10箇所の接着力の標準偏差を求め、平均値で除したものを、従来法で得られた値を100とした指数で表した。数字の小さい方がバラツキが小さく品質安定性が高いことを意味する。
【0022】
表1より、実施例1〜6の全てについて、異物付着量、1cm2の異物付着量ともに0であり、取り除かれた異物量が10程度であるから、異物が除去されていることが確認できた。また、接着力も従来法と同等であり、品質安定性は大幅に向上していることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る熱処理装置の側面の模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る熱処理装置の上面の模式図である。
【図3】従来のディッピング装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1・・・加熱炉、2・・・燃焼室、3・・・送風ダクト、4・・・循環ダクト、5・・・送風ファン、11・・・ノズルダクト、21・・・燃焼装置、22,23・・・金網。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼装置で生成した熱気を加熱炉との間で循環させ、前記加熱炉にて有機繊維コードを加熱するようにした有機繊維コードの熱処理装置において、
前記熱気の通路に前記熱気中に飛散しているディップスケール及び繊維屑を捕獲する捕獲手段を設けたことを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の有機繊維コードの熱処理装置において、
前記捕獲手段は網目状部材であることを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置。
【請求項3】
請求項2記載の有機繊維コードの熱処理装置において、
前記燃焼装置を前記網目状部材で覆ったことを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置。
【請求項4】
請求項2記載の有機繊維コードの熱処理装置において、
前記網目状部材は、金属、又は耐熱性樹脂で表面をコーティングした金属からなることを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置。
【請求項5】
請求項2記載の有機繊維コードの熱処理装置において、
前記網目状部材は、損失係数が0.65以上0.9 以下であることを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−348400(P2006−348400A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173153(P2005−173153)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】