説明

有機繊維強化プラスチックの分解物、再生樹脂及び再生方法

【課題】 汎用の繊維強化プラスチック(FRP)は不飽和ポリエステル樹脂マトリックスに、強化繊維としてガラス繊維を使用している。このガラス繊維強化プラスチック廃棄物において、グリコール分解によるケミカルリサイクルの場合、ガラス繊維が残存し、不均一反応となり、濾過工程、OH価の測定に問題があった。
【解決手段】 不飽和ポリエステル樹脂をマトリックスとし、有機繊維を強化繊維とする繊維強化プラスチツク廃棄物を破砕後、グリコールを用いて分解し、得られた分解生成物をグリコール成分として二塩基酸と縮合反応させて不飽和ポリエステルを合成する有機繊維強化プラスチツク廃棄物の再生方法を開発した。特に、有機強化繊維がポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等)、ポリアミド繊維(ナイロン、アラミド繊維)、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維の場合、グリコール分解し均一系で容易にケミカルリサイクルできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂を含む有機繊維強化プラスチック廃棄物の再利用法に関するもので、特に、不飽和ポリエステル樹脂マトリックス有機繊維強化プラスチック廃棄物を化学的に処理して工業的に価値のある原料を得、これを再び合成することにより再生樹脂を得て再利用を図ろうとする方法である。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱で溶融するポリエチレン等の熱可塑性樹脂は、下記の非特許文献1に記載されているように、熱で再溶融されたのち再び成形されて再利用されている。
【非特許文献1】雑誌「科学と工業」(久保田静男、77(10)、517(2003))
【0003】
また、下記の非特許文献2のように、飽和ポリエステル樹脂からなるPETボトルやフィルムの再生としては、熱で溶融して再成形するマテリアルリサイクルが主として行われている。
【非特許文献2】書籍「プラスチックリサイクリング−回収から再生まで−」(R.J.Ehring編著、プラスチックリサイクリング研究会訳、p.71、工業調査会(1993))
【0004】
ところで、不飽和ポリエステル樹脂は熱硬化性樹脂であるため、熱による再溶融ができない。従って、これらの廃棄物については、下記の非特許文献3に示すように、微粉砕され、フィラーとして新しい塊状成形材料(BMC)やシート状成形材料(SMC)に混入されることにより再利用されるマテリアルリサイクルが一部行われている。
【非特許文献3】雑誌「科学と工業」(福田宣弘、68(2)、60(1994))
【0005】
一方で、国土交通省は、FRP(繊維強化プラスチック)廃船を解体、破砕し、セメントキルンの原燃料としてサーマルリサイクルするプロジェクト事業を実施している(平成15年10月14日付化学工業日報)。そして、この実証研究を独立行政法人海上技術安全研究所が行い、FRP廃船を粉砕する際に廃油を混合することにより、粉塵の発生を抑えるとともに発熱量を増加させて、サーマルリサイクルを有効にしている(平成16年2月13日付日本経済新聞)。
有機繊維強化FRPを用いたマネキンなどはサーマルリサイクルが可能である(株式会社パールマネキンホームページ)。
更には、ボタン製造時発生する不飽和ポリエステル樹脂廃棄物のケミカルリサイクルとして、前記の廃棄物をグリコールにより分解させ、得られた分解生成物をグリコール成分として二塩基酸と反応させて、不飽和ポリエステルを再合成する技術が開発され下記の特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特許第2701012号(発明の名称:「不飽和ポリエステル樹脂廃棄物の再利用法及び再利用装置」
【0006】
このような不飽和ポリエステル樹脂廃棄物のグリコール分解によるケミカルリサイクルは、下記の非特許文献4〜9にも報告されている。
【非特許文献4】雑誌「水」(久保田静男、38(9)、72(1996))
【非特許文献5】雑誌「工業材料」(久保田静男、44(10)、118(1996)
【非特許文献6】雑誌「FRP漁船」(久保田静男、No.196、p.1(1996)
【非特許文献7】雑誌「合成樹脂」(久保田静男、43(1)、70(1997)
【非特許文献8】書籍「エコマテリアル事典」(久保田静男、p.517(1996)
【非特許文献9】雑誌「ネットワークポリマー」(久保田静男ら、45(10)、453(2003))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既述したように、不飽和ポリエステル樹脂は熱硬化性樹脂であり三次元網目構造をしているために熱で溶融しない。従って、一般に熱可塑性樹脂で行われているように熱で溶融して再成形するといったマテリアルリサイクルを行なうことはできない。
また、不飽和ポリエステル樹脂廃棄物を微粉砕し、フィラーとして新しいBMC、SMCに混入して、再利用するマテリアルリサイクルは、下記の非特許文献10に示すように、混入割合の増加につれて再生樹脂強度が低下するという欠点がある。
【非特許文献10】書籍「平成6〜8年度技術開発研究費補助事業成果普及講習会テキスト(広域共同研究)」( 和歌山県工業技術センター、第6章熱硬化性樹脂系産業廃棄物の高度利用技術に関する研究、6−3ページ(H9.4))
【0008】
また、FRP廃棄物はガラス繊維、フィラーを大量に含有しているために発熱量が低く、増粘剤の酸化マグネシウムはセメント原料には不適であり、セメントキルンの原燃料への利用の問題点となっている。更にサーマルリサイクルはリサイクルと言い難く、資源の有効利用としては劣ると思われる。
そして、不飽和ポリエステル樹脂は、一般に、エチレングリコール、プロピレングリコールと無水マレイン酸等を縮合させて得た分子量数千の直鎖状不飽和ポリエステルの不飽和部分を、スチレンとのラジカル共重合により架橋して得られる熱硬化性樹脂である。不飽和ポリエステル樹脂のグリコールによる分解において、エステル部分は200℃程度の温度で容易にグリコリシスするが、上記の非特許文献10に示されるように、スチレン架橋部分(スチレン−フマレート共重合体)は分解が困難であり230℃以上でなければ分解しないことから、通常、290℃、2時間の処理が必要である。そして下記の非特許文献11に示されるように、繊維強化プラスチック(FRP)は通常、不飽和ポリエステル樹脂をマトリックスとして、強化繊維としてガラス繊維を用いている。当然に、このFRPをグリコール分解する時に、不均一反応となり、撹拌によりガラス繊維が丸まって硬い玉が生成したり、ガラス繊維が残存し、除去する場合は濾過工程が必要となる。また、ガラス繊維を含有したまま再合成することも可能であるが、不均一系となり、OH価の測定(分解物のOH基を滴定で測定し、高分子量の不飽和ポリエステルを得るために、存在するOH基と当量の二塩基酸を反応させる必要がある)、酸価の測定(不飽和ポリエステル合成時に酸価を測定し40以下ならば、原料の二塩基酸が十分反応し、ほとんど残存しなくて高分子量のポリマーが得られているとして、反応の終点とする)が正確にできず、高分子量のポリマーが得られ難い問題があった。
【非特許文献11】書籍「平成12〜14年度地域ものづくり対策事業費補助事業(中小企業技術開発産学官連携促進事業)成果普及講習会テキスト」(和歌山県、第4章「高分子系廃棄物の分解反応による有効利用技術の開発」、4−57ページ(H14.12))
【0009】
従って、本発明の目的は、比較的短時間で、簡易な設備をもって、有機繊維強化プラスチック廃棄物を化学的に処理して工業的に価値のある原料を得ることにより、ろ過せずにそのまま再合成し、容易に不飽和ポリエステル樹脂への再利用を図ろうとする方法、すなわち有機繊維強化プラスチック廃棄物を不飽和ポリエステル樹脂へケミカルリサイクルする経済的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するために、本発明者らは、有機繊維強化プラスチツク廃棄物を破砕した後、150〜300℃程度にてグリコールにより分解し、この分解生成物を原料成分として用い、ろ過しなく、精製せずに不飽和ポリエステルを再合成し、ケミカルリサイクルする有機繊維強化プラスチツク廃棄物の再利用法を考案した。
すなわち、有機繊維強化プラスチツク廃棄物を破砕後、グリコールと反応させて、マトリックスの不飽和ポリエステル樹脂、強化材の有機繊維ともに分解し、分解生成物を得、得られた分解生成物を二塩基酸と縮合反応させて不飽和ポリエステルを合成するものである。すなわちFRP廃棄物として、不飽和ポリエステル樹脂を含んでなる有機繊維強化プラスチックに適用したものである。
そして、ポリエステル、ポリアリレート、ナイロン−6,6、アラミド等の重縮合系のポリマー、ポリウレタン等の重付加ポリマー、ナイロン−6等の開環重合ポリマー、ビニロン等の付加重合ポリマーを強化繊維に用いた場合は容易に繊維も分解する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る有機繊維強化プラスチック廃棄物の再利用法によれば、有機繊維強化プラスチック廃棄物中のマトリックス樹脂である不飽和ポリエステル樹脂及び強化繊維である有機繊維を150〜300℃程度の比較的低温でグリコール分解し、この分解生成物を樹脂原料として二塩基酸と反応させ、不飽和ポリエステル樹脂を再生することができる。すなわち、強化繊維である有機繊維もグリコール分解できれば、分解液は均一系となり、OH価の測定(分解物のOH基を滴定で測定し、高分子量の不飽和ポリエステルを得るために、存在するOH基と当量の二塩基酸を反応させる必要がある)、酸価の測定(不飽和ポリエステル合成時に酸価を測定し40以下ならば、原料の二塩基酸が十分反応し、ほとんど残存しなくて高分子量のポリマーが得られているとして、反応の終点とする)が正確にでき、高分子量の再生ポリマーが得られ易い。そして、分解生成物を精製せずにグリコール成分としてそのまま用い、二塩基酸と脱水縮合反応させることにより、不飽和ポリエステル樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
続いて、本発明の最良の実施形態を説明する。
本発明に適用される有機繊維強化プラスチツク廃棄物としては、架橋硬化した不飽和ポリエステル樹脂をマトリツクスとし、強化繊維として有機繊維を含んでいるFRP廃棄物であれば特に限定されないが、有機繊維としてポリエステル、ポリアリレート、ナイロン−6,6、アラミド等の重縮合系のポリマー、ポリウレタン等の重付加ポリマー、ナイロン−6等の開環重合ポリマー、ビニロン等の付加重合ポリマーを強化繊維に用いた場合は容易に繊維も分解する。不飽和ポリエステル樹脂を含んでなる廃棄物としては、炭酸カルシウム等のフィラーを含み有機繊維で複合された繊維強化プラスチック(FRP)が挙げられる。当該FRPとしては、例えば人工大理石、マネキン、表示用造形物(動物等)、防水材料等の用途に使用されたものが挙げられる。
【0013】
本発明において、有機繊維強化プラスチツク廃棄物は、グリコールによる分解に先立って、分解促進のために及び処理を容易にするために破砕処理されることが望ましい。更に必要ならば洗浄処理、ふるい掛け処理等の前処理を行うと良い。破砕処理は衝撃式破砕機(ハンマー式、チェーン式)、せん断式破砕機、切断式破砕機、圧縮式破砕機(ロール式、コンベア式、スクリュー式)、スタンプミル、ボールミル、ロッドミル粉砕機等により行う。廃棄物破砕物の大きさは小さい方が良いが、目開き50mmのふるいを通るものが望ましい。好ましくは目開き25mm、更に好ましくは目開き3mmのふるいを通る破砕物が有利に用いられる。
【0014】
本発明において、分解のために用いられるグリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物、ジブロムネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
廃棄物に含まれる不飽和ポリエステル樹脂及び有機繊維と、分解に用いるグリコールとの重量比は、1:0.2〜3、好ましくは1:0.5〜1.5である。この場合、グリコールの比の値を小さくすると、再生樹脂に占める廃棄物量が大きくなり、有機繊維強化FRP廃棄物を効率良くリサイクル利用することができる。
【0015】
ところで、マトリックスの不飽和ポリエステル樹脂のグリコールによる分解において、エステル部分は200℃程度の温度で容易にグリコリシスするが、スチレン架橋部分(スチレン−フマレート共重合体)は分解が困難である。水酸化ナトリウム等の触媒を用いた場合のエステル結合はイオン機構で容易にグリコリシスするが、スチレン架橋部分のスチレン−フマレート共重合体は230℃以上の高温でしか分解しなく、ラジカル機構により分解していると考えられる。
【0016】
強化繊維として用いる有機繊維としては、重縮合により得られるポリアミド系合成繊維として、ナイロン-6,6、ナイロン-6(開環重合)、ナイロン-11、アラミド繊維(パラ系-Kevlar、Twaron、Technora等、メタ系-Conex等)等、ポリエステル系合成繊維として、ポリエチレンテレフタレートが代表的であるが、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等、ポリアリレート繊維(Vectran等)、ポリカーボネート(炭酸エステル)などがある。また重付加反応により得られるポリウレタン繊維などがある。他に、付加重合により得られるアクリル繊維、ビニロン、ポリエチレンなどがある。また、綿、ウール、レーヨンなどの天然繊維がある。
【0017】
重縮合により得られるポリアミド系合成繊維、ポリエステル系合成繊維など、重付加反応により得られるポリウレタン繊維など、付加重合により得られるビニロンなどはグリコール分解、再合成による有機繊維強化プラスチックの再利用に適している。
ナイロン-6の場合は、エチレングリコールにより次のように分解する。
【0018】
【化1】

【0019】
あるいはこれらのオリゴマーが生成する。
分解物の末端のアミノ基、ヒドロキシ基は、再合成の際に、二塩基酸のカルボキシ基と脱水縮合する。
ナイロン-6,6の場合は、エチレングリコールにより次のように分解する。
【0020】
【化2】

【0021】
あるいはこれらのオリゴマーが生成する。
分解物の末端のアミノ基、ヒドロキシ基は、再合成の際に、二塩基酸のカルボキシ基と脱水縮合する。
ポリエチレンテレフタレートの場合は、エチレングリコールにより次のように分解する。
【0022】
【化3】

【0023】
あるいはこれらのオリゴマーが生成する。
分解物の末端のヒドロキシ基は、再合成の際に、二塩基酸のカルボキシ基と脱水縮合する。
ポリウレタンの場合は、エチレングリコールにより次のように分解する。
【0024】
【化4】

【0025】
あるいはこれらのオリゴマーが生成する。
分解物の末端のアミノ基、ヒドロキシ基は、再合成の際に、二塩基酸のカルボキシ基と脱水縮合する。
フェノール性ヒドロキシ基が生成する場合は、トリブチル錫メトキシド等のエステル交換触媒を加えて再合成すれば良い。
ビニロン等の付加重合ポリマーは、例えば、- CH2 - CH (- O -) - の三級炭素上の水素が引き抜かれ、炭素ラジカルが生成し、分解が始まると思われる。
【0026】
また、グリコールを用いた分解に際しては、好ましくは触媒が用いられる。かかる触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム等の酢酸金属塩、酸化アンチモン、チタンアルコキシド、トリブチル錫メトキシド、及びこれらの混合物が挙げられる。アルカリ触媒を用いた場合には、再合成前に分解生成物を中和しておく。かかる中和操作には硫酸、塩酸等が用いられる。なお、触媒を使用しなくてもグリコールによる分解は行える。
【0027】
グリコールによる分解に際して、分解温度は150℃〜300℃程度が必要である。好ましくは、200℃〜300℃の分解温度で分解速度が速くなって好都合である。また、グリコールによる分解は大気圧下あるいは加圧下で行うことができる。
【0028】
そして、グリコールによる分解で得た分解生成物をグリコール成分とし、常法(非特許文献12)により二塩基酸と縮合反応させることにより、不飽和ポリエステルが再生される。このようにして得られた再生不飽和ポリエステルは、重合開始剤の存在下、スチレン、メタクリル酸メチル、ビニルトルエン、酢酸ビニル等の不飽和ポリエステルのC=C二重結合と共重合可能なビニルモノマー、またはジアリルフタレート等により架橋されて、硬化不飽和ポリエステル樹脂となる。FRP用のBMC、SMCの場合は、再生不飽和ポリエステル樹脂にガラス繊維、有機繊維を加え、必要ならばフィラーを加えて、圧縮成形などにより成形する。
【非特許文献12】書籍「高分子合成の実験法」(大津隆行、木下雅悦共著、332〜334、383〜384ページ(化学同人,S47.3))
【0029】
分解生成物からの不飽和ポリエステルの合成は、反応温度140〜210℃の範囲内、例えば150℃で1時間程度の条件下、分解生成物中のグリコール成分と、無水二塩基酸との付加反応を行なう。そして、210℃で4時間程度、窒素下で水を留去しながら縮合させる。そして、冷却後にスチレンを加え、スチレン量が30〜40wt%の再生樹脂液を得て、重合禁止剤としてハイドロキノン、t-ブチルカテコール等を全体の100ppm程度加える。
【0030】
不飽和ポリエステルを合成するために用いられる二塩基酸としては、不飽和二塩基酸及び飽和二塩基酸があり、不飽和二塩基酸は必須であるが、通常、適切な物性を得るためにこれら両者を混合して用いられる。
二塩基酸のうちの不飽和二塩基酸としては、マレイン酸、クロロマレイン酸、フマル酸、クロロフマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、ムコン酸等が挙げられる。その中でも、価格、反応性、物性の点から無水マレイン酸が好ましい。
また、二塩基酸のうちの飽和二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クロロコハク酸、ブロモコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、ジメチルマロン酸、メチルコハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルコハク酸、テトラメチルコハク酸、フタル酸、クロロフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、テトラブロムフタル酸、クロレンド酸、フェニルコハク酸、o-カルボキシフェニル酢酸、o-フェニレン二酢酸等が挙げられ、その中でも価格、反応性、物性の点で無水フタル酸が好ましい。
【0031】
他方で、不飽和ポリエステルのC=C二重結合を架橋して硬化させる架橋モノマーとしてはスチレンが一般的であるが、α,α−2置換ビニルモノマーによる架橋の方が立体障害により結合エネルギーの低下があり、分解し易いと考えられる。事実、α,α−2置換ビニルモノマーの重合熱は他のビニルモノマーに比べてかなり小さい。これはポリマー鎖が立体障害で不安定なためと解釈される。重合熱が小さいのは原系(モノマー)と生成系(ポリマー)のエネルギーの差が小さいということであり、ポリマーが安定化していないことを意味している。因みに、無置換モノマーであるエチレンの重合熱は21.2 kcal/mol である。1置換ビニルモノマーであるスチレンの重合熱は16.7kcal/mol、アクリル酸メチルの重合熱は 18.5 kcal/mol 、プロピレンの重合熱は19.5 kcal/molである。2置換ビニルモノマーであるα−メチルスチレンの重合熱は8.4 kcal/mol 、メタクリル酸メチルの重合熱は 13.2 kcal/mol 、イソブチレンの重合熱は12.9 kcal/mol である(参考文献:神戸博太郎編、「高分子の熱分解と耐熱性」、p.225(1974))。そこで、α,α−2置換ビニルモノマー単位を含む架橋を持つ硬化不飽和ポリエステル樹脂をグリコール分解する方がスチレン架橋樹脂より、分解がよりいっそう容易になる。
【0032】
上記した本発明によるケミカルリサイクルは、精製工程を必要とせずに、また多少の水分が有っても支障無く行える。また、着色樹脂廃棄物、多少の汚れ、異種樹脂等の付着した樹脂廃棄物も不飽和ポリエステルに再合成して、レジンコンクリート等に用いることができる。
有機繊維強化プラスチツク廃棄物の内で難分解有機繊維の場合には、分解生成物をろ過工程にかけて有機繊維やフィラーを取り除いても良い。繊維を再利用しようとする場合は廃棄物を30〜50cm角にしたままで分解し、繊維を分離、洗浄して再利用し、分解生成液は二塩基酸と縮合し不飽和ポリエステルに再合成してもよい。あるいは、繊維等を含んだままで再び合成して、再利用してもよい。
【0033】
グリコールによる分解に用いられる分解用装置、二塩基酸との反応に用いられる合成用装置としては、通常の反応槽を使用することができる。もちろん、加圧下でも分解反応を行うことができる。装置は、分解操作、合成操作、及びスチレン混合操作を1つの反応槽で行える装置もあるが、設置場所があれば、分解、合成、及びスチレン混合を別々に独立した3つの反応槽で行っても構わない。
例えば、上記した3つの操作を行なうステンレス製反応容器の上部に、容器内撹拌用の撹拌機(モーター、攪拌羽根)、原料の有機繊維強化FRP廃棄物タンク、分解触媒、グリコール、無水マレイン酸等の薬品を注入するタンク、分解液用タンク、重合禁止剤、スチレン、低収縮剤等の薬品注入タンクを備え、窒素ガス流入管、パーシャルコンデンサー(水蒸気を上部に抜き、他のグリコール等の高沸点物を反応容器に戻すもの)、コンデンサー、受器が付設されている。容器内の加熱、冷却は、通常、熱媒ボイラーによって行うが、電磁誘導加熱を用いてもよい。グリコールによる分解後は反応容器下部のバルブが開けられ、濾過器により未反応物等が分解液から分離される。分解液はポンプで分解液用タンクに収容され、その後の再合成に用いられる。再合成された不飽和ポリエステルのスチレン溶液は専用タンクに蓄えられる。
【0034】
上記したステンレス製反応容器は、ガラス製反応容器に比して、アルカリに強く、より高温で使用することができ、加圧下でも使用可能である。また、攪拌トルクを大きくとることが可能なため、グリコール量に対する廃棄物量の割合を大きくすることができ、処理量の点で好適である。
分解は押出機を用いてもできる。使用される押出機は減圧ポンプを備えた単軸押出機、好ましくは、二軸混練押出機(同方向回転または逆方向回転)を用いることができる。かかる押出機はバレルのL/Dが大きく、滞留時間が長いものが好ましい。この押出機の温度は分解槽での分解温度よりも20℃程度高くすると良い。また、ニーダー等の混練機も分解に用いることができる。
再生された不飽和ポリエステル樹脂の成形には、通常の遠心ドラム法成形、注型成形、ハンドレイアップ成形、スプレイアップ成形、圧縮成形、引き抜き成形、射出成形、トランスファ成形等が利用される。
このように再生された不飽和ポリエステルの樹脂は成形材料、接着剤、塗料等の用途に好適に使用される。
【0035】
以下に、実施例を挙げ、本発明をいっそう具体的に説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明を具体化した例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
実施例1〜5及び比較例1は、有機繊維強化プラスチック廃棄物、ガラス繊維強化プラスチック廃棄物をグリコールで分解し、分解物を二塩基酸と反応させ、不飽和ポリエステル樹脂を再生する方法を検討したものである。
以下の各実施例では、特に記さない場合、有機繊維強化プラスチツク廃棄物はマネキン用FRP廃棄物(ハンドレイアツプ成形)を、ロータリーカッターミル(株式会社ホーライ製Granulaters U−140)によって粒径3mm以下に破砕した試料を用いた。あるいは、有機繊維強化FRPをはさみ等で25mm程度に破砕したものを用いた。
有機繊維強化FRPは、不飽和ポリエステルのスチレン溶液に対し、開始剤としてt-ブチルパーベンゾエート1%を加え、その樹脂を有機繊維に含浸させ、150℃で、10分間、卓上型ホットプレス(テクノサプライ株式会社製)を用いて、圧縮成形して硬化させ、物性を測定し、グリコール分解、再合成に用いた。
再生不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ポリエステルに対し、開始剤としてメチルエチルケトンパーオキサイド及びナフテン酸コバルトをそれぞれ1%用い、プレキュアー30℃、2時間、ポストキュアー100℃、2時間で注型成形して硬化させ、物性を測定した。参考となる市販の樹脂は大日本インキ化学工業製ポリライトBS210M(スチレンを30〜40wt%含有した不飽和ポリエステル樹脂のスチレン溶液)を用いた。
前記、マネキン用有機繊維強化FRP廃棄物、圧縮成形した有機繊維強化FRP、注型成形により成形硬化した不飽和ポリエステル樹脂の動的粘弾性はセイコーインスツルメンツ製DMS210により測定し、ガラス転移点(Tg)はtanδ(10Hz)のピーク温度より求めた。また、(Tg+40)℃の貯蔵弾性率(E’)より、下記の(1)式に示すゴム弾性理論式を用いて橋かけ点間平均分子量(Mc)を求めた(参考文献:長谷川喜一、日本接着学会誌、29,75(1993))。
E’=3φdRT/Mc ・・・(1)
ここで、φ:フロント係数、d:密度、R:気体定数、T:絶対温度。
【実施例1】
【0036】
「ポリエステル繊維強化プラスチック製マネキンのエチレングリコールによる分解、不飽和ポリエステルへの再合成」
ポリエステル繊維強化プラスチック製マネキン(株式会社京屋製)は、ポリエステル繊維織物2枚にPETより再生した不飽和ポリエステル樹脂を含浸させ、ハンドレイアップ成形した。曲げ強度は623MPa(変位0.5mm)、バーコール硬さ(A法)は26、シャルピー衝撃強さはフラットワイズ(面に垂直方向)21.17KJ/m、エッチワイズ(厚さ方向)37.53KJ/mであった。
動的粘弾性(10Hz)のtanδのピークより求めたガラス移転点(Tg)は121.9℃であった。
動的粘弾性(10Hz)の(Tg+40)℃での貯蔵弾性率(E’)の値から求めた橋かけ点間平均分子量(Mc)は97であった。
耐圧硝子工業製TAS-095型反応装置(材質SUS316、容量950ml、最高使用温度300℃、最高使用圧力20MPa)に、エチレングリコール155.2g(2.5モル)、次いでポリエステル繊維強化プラスチック製マネキン(株式会社京屋製)130g(プロピレングリコール単位)0.25−(フタル酸単位)0.30−(エチレングリコール単位)0.25−(マレイン酸にスチレン二分子付加した単位)0.20の組成の不飽和ポリエステル樹脂(マトリックス樹脂)0.5+ポリエステル繊維0.5)を入れ、290℃で2時間、600rpmで攪拌し分解させた。分解終了時の圧力は3.0MPaであった。分解生成物は茶色の液体であった。分解生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量(Mn)=276、重量平均分子量(Mw)=3,067、重量平均分子量/数平均分子量(D)=11.13、ピークトップの分子量(P)=146であった。
次いで、前記の分解生成物に無水マレイン酸141.2g(1.44モル)及び無水フタル酸142.2g(0.96モル)を加え、ハイドロキノン100ppmを添加し、窒素を吹き込みながら、200rpm、150℃、1時間、210℃で2時間脱水縮合させた。なお、2時間反応後に、攪拌回転数を800rpmに上げ、窒素流量を増加した。反応生成物は茶色の固体であった。反応生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量(Mn)=1,500、重量平均分子量(Mw)=7,100、重量平均分子量/数平均分子量(D)=4.73、ピークトップの分子量(P)=1,635であった(市販品の数平均分子量=1,646、重量平均分子量=5,366、重量平均分子量/数平均分子量=3.26)。
この反応生成物にスチレンを加え、t-ブチルカテコール100ppmを添加して、反応生成物中の不飽和ポリエステル樹脂分に対し30wt%のスチレンを含む再生樹脂溶液を得た。このスチレン溶液にメチルエチルケトンバーオキサイド、ナフテン酸コバルトをそれぞれ1%添加し、プレキュアー30℃、2時間、ポストキュアー100℃、2時間で注型成形した。得られた成形物の曲げ強度は72.8MPa(市販品92.1MPa)、曲げ弾性率3.47GPa(市販品3.68GPa)、ガラス転移温度119.0℃(市販品138.0℃)、橋架け点間平均分子量297(市販品241)であった。
【実施例2】
【0037】
「ビニロン繊維強化プラスチック製マネキンのエチレングリコールによる分解、不飽和ポリエステルへの再合成」
ビニロン繊維強化プラスチック製マネキン(株式会社京屋製)は、ビニロン繊維織物2枚にPETより再生した不飽和ポリエステル樹脂を含浸させ、ハンドレイアップ成形した。曲げ強度は734MPa(変位0.5mm)、バーコール硬さ(A法)は46、シャルピー衝撃強さはフラットワイズ(面に垂直方向)12.94KJ/m、エッチワイズ(厚さ方向)18.47KJ/mあった。
動的粘弾性(10Hz)のtanδのピークより求めたガラス移転点(Tg)は99.9℃であった。
動的粘弾性(10Hz)の(Tg+40)℃での貯蔵弾性率(E’)の値から求めた橋かけ点間平均分子量(Mc)は153であった。
耐圧硝子工業製TAS-095型反応装置(材質SUS316、容量950ml、最高使用温度300℃、最高使用圧力20MPa)に、エチレングリコール155.2g(2.5モル)、次いでビニロン繊維強化プラスチック製マネキン(株式会社京屋製)を25mm角に破砕したもの130g((プロピレングリコール単位)0.25−(フタル酸単位)0.30−(エチレングリコール単位)0.25−(マレイン酸にスチレン二分子付加した単位)0.20の組成の不飽和ポリエステル樹脂(マトリックス樹脂)0.5+ビニロン繊維0.5)を入れ、水酸化ナトリウム0.4gを添加し、290℃で2時間、600rpmで攪拌し分解させた。分解終了時の圧力は2.1MPaであった。ビニロン繊維は分解して、繊維状が残っていなかった。分解生成物は茶色の液体であった。分解生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量=452、重量平均分子量=15,432、重量平均分子量/数平均分子量=34.13、ピークトップの分子量=148であった。
次いで、36%塩酸1.0gで中和し、分解生成物に無水マレイン酸141.2g(1.44モル)及び無水フタル酸142.2g(0.96モル)を加え、ハイドロキノン100ppmを添加し、窒素を吹き込みながら、200rpm、150℃、1時間、210℃で2時間脱水縮合させた。なお、2時間反応後に、攪拌回転数を800rpmに上げ、窒素流量を増加した。反応生成物は茶色、固体であった。反応生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量=1,600、重量平均分子量=8,237、重量平均分子量/数平均分子量=5.15、ピークトップの分子量=1,722であった(市販品の数平均分子量=1,646、重量平均分子量=5,366、重量平均分子量/数平均分子量=3.26)。
この反応生成物にスチレンを加え、t-ブチルカテコール100ppmを添加して、30wt%のスチレンを含む再生不飽和ポリエステル樹脂スチレン溶液を得た。
【実施例3】
【0038】
「ナイロン-6繊維強化プラスチックのプロピレングリコールによる分解、不飽和ポリエステルへの再合成」
ナイロン-6繊維強化FRPは、不飽和ポリエステルのスチレン溶液に対し、開始剤としてt-ブチルパーベンゾエート1%を加え、その樹脂をナイロン-6ジャージ(目付201.8g/m)3枚に含浸させ、150℃で、10分間、卓上型ホットプレス(テクノサプライ株式会社製)を用いて、圧縮成形して硬化させ、物性を測定した。繊維分36.7%、樹脂分63.3%であった。曲げ強度は30.1MPa(変位5.9mm)、曲げ弾性率1.42GPaであった。
動的粘弾性(10Hz)のtanδのピークより求めたガラス移転点(Tg)は178.9℃であった。
動的粘弾性(10Hz)の(Tg+40)℃での貯蔵弾性率(E’)の値から求めた橋かけ点間平均分子量(Mc)は204であった。
耐圧硝子工業製TAS-095型反応装置(材質SUS316、容量950ml、最高使用温度300℃、最高使用圧力20MPa)に、プロピレングリコール190.2g(2.5モル)、次いでナイロン-6繊維強化プラスチック130g((プロピレングリコール単位)0.25−(フタル酸単位)0.30−(エチレングリコール単位)0.25−(マレイン酸にスチレン二分子付加した単位)0.20の組成の不飽和ポリエステル樹脂(マトリックス樹脂)0.63+ナイロン繊維0.37)を入れ、290℃で2時間、600rpmで攪拌し分解させた。分解終了時の圧力は3.0MPaであった。分解生成物は茶色液体であった。分解生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量=280、重量平均分子量=3,100、重量平均分子量/数平均分子量=11.07、ピークトップの分子量=150であった。
次いで、分解生成物に無水マレイン酸141.2g(1.44モル)及び無水フタル酸142.2g(0.96モル)を加え、ハイドロキノン100ppmを添加し、窒素を吹き込みながら、200rpm、150℃、1時間、210℃で2時間脱水縮合させた。なお、2時間反応後に、攪拌回転数を800rpmに上げ、窒素流量を増加した。反応生成物は茶色の固体であった。反応生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量=1,550、重量平均分子量=7,560、重量平均分子量/数平均分子量=4.88、ピークトップの分子量=1,650であった(市販品の数平均分子量=1,646、重量平均分子量=5,366、重量平均分子量/数平均分子量=3.26)。
この反応生成物にスチレンを加え、t-ブチルカテコール100ppmを添加して、30wt%のスチレンを含む再生不飽和ポリエステル樹脂スチレン溶液を得た。メチルエチルケトンパーオキサイド、ナフテン酸コバルトを不飽和ポリエステル樹脂に対しそれぞれ1wt%添加し、プレキュアー30℃、2時間、ポストキュアー100℃、2時間で注型成形した。得られた成形物の曲げ強度は77.0MPa(市販品92.1MPa)、曲げ弾性率3.60GPa(市販品3.68GPa)、ガラス転移温度122.7℃(市販品138.0℃)、橋架け点間平均分子量233(市販品241)であった。
【実施例4】
【0039】
「ケブラー繊維強化プラスチックのエチレングリコールによる分解、不飽和ポリエステルへの再合成」
ケブラー繊維強化FRPは、不飽和ポリエステルのスチレン溶液に対し、開始剤としてt-ブチルパーベンゾエート1%を加え、その樹脂をケブラー織布(目付180.3g/m)6枚に含浸させ、150℃で、10分間、卓上型ホットプレス(テクノサプライ株式会社製)を用いて、圧縮成形して硬化させ、物性を測定した。繊維分55.6%、樹脂分44.4%であった。曲げ強度は76.0MPa(変位5.1mm)、曲げ弾性率8.50GPaであった。
動的粘弾性(10Hz)のtanδのピークより求めたガラス移転点(Tg)は194.6℃であった。
耐圧硝子工業製TAS-095型反応装置(材質SUS316、容量950ml、最高使用温度300℃、最高使用圧力20MPa)に、エチレングリコール155.2g(2.5モル)、次いでケブラー繊維強化プラスチック130g((プロピレングリコール単位)0.25−(フタル酸単位)0.30−(エチレングリコール単位)0.25−(マレイン酸にスチレン二分子付加した単位)0.20の組成の不飽和ポリエステル樹脂(マトリックス樹脂)0.44+ケブラー繊維0.56)を入れ、水酸化カリウム0.56gを添加し、290℃で2時間、600rpmで攪拌し分解させた。分解終了時の圧力は3.9 MPaであった。分解生成物は茶色の液体であった。分解生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量=450、重量平均分子量=4,200、重量平均分子量/数平均分子量=9.33、ピークトップの分子量=245であった。
次いで、36%塩酸1.0gで中和し、分解生成物に無水マレイン酸141.2g(1.44モル)及び無水フタル酸142.2g(0.96モル)を加え、ハイドロキノン100ppmを添加し、窒素を吹き込みながら、200rpm、150℃、1時間、210℃で2時間脱水縮合させた。なお、2時間反応後に、攪拌回転数を800rpmに上げ、窒素流量を増加した。反応生成物は茶色の固体であった。反応生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量=1,650、重量平均分子量=8,200、重量平均分子量/数平均分子量=4.96、ピークトップの分子量=1,750であった(市販品の数平均分子量=1,646、重量平均分子量=5,366、重量平均分子量/数平均分子量=3.26)。
この反応生成物にスチレンを加え、t-ブチルカテコール100ppmを添加して、30wt%のスチレンを含む再生不飽和ポリエステル樹脂スチレン溶液を得た。
【実施例5】
【0040】
「ケブラー繊維強化プラスチックのエチレングリコールによる分解、不飽和ポリエステルへの再合成」
ケブラー繊維強化FRPは、不飽和ポリエステルのスチレン溶液に対し、開始剤としてt-ブチルパーベンゾエート1%を加え、その樹脂をケブラー織布(目付180.3g/m)9枚に含浸させ、150℃で、10分間、卓上型ホットプレス(テクノサプライ株式会社製)を用いて、圧縮成形して硬化させ、物性を測定した。繊維分56.1%、樹脂分43.9%であった。曲げ強度は299.2MPa(変位6.1mm)、曲げ弾性率44.90GPaであった。
動的粘弾性(10Hz)のtanδのピークより求めたガラス移転点(Tg)は200.9℃であった。
耐圧硝子工業製TAS-095型反応装置(材質SUS316、容量950ml、最高使用温度300℃、最高使用圧力20MPa)に、エチレングリコール155.2g(2.5モル)、次いでケブラー繊維強化FRP130g((プロピレングリコール単位)0.25−(フタル酸単位)0.30−(エチレングリコール単位)0.25−(マレイン酸にスチレン二分子付加した単位)0.20の組成の不飽和ポリエステル樹脂(マトリックス樹脂)0.44+ケブラー繊維0.56)を入れ、290℃で2時間、600rpmで攪拌し分解させた。分解終了時の圧力は3.8MPaであった。分解生成物は茶色の液体であった。分解生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量=493、重量平均分子量=9,819、重量平均分子量/数平均分子量=19.9、ピークトップの分子量=286であった。
次いで、分解生成物に無水マレイン酸141.2g(1.44モル)及び無水フタル酸142.2g(0.96モル)を加え、ハイドロキノン100ppmを添加し、窒素を吹き込みながら、200rpm、150℃、1時間、210℃で2時間脱水縮合させた。なお、2時間反応後に、攪拌回転数を800rpmに上げ、窒素流量を増加した。反応生成物は茶色の固体であった。反応生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量=846、重量平均分子量=7,468、重量平均分子量/数平均分子量=8.82、ピークトップの分子量=1,210であった(市販品の数平均分子量=1,646、重量平均分子量=5,366、重量平均分子量/数平均分子量=3.26)。
スチレンを加え、t-ブチルカテコール100ppmを添加してスチレン30wt%の不飽和ポリエステル樹脂溶液を得た。
【0041】
(比較例)
「エチレングリコールによるガラス繊維強化FRPの分解、再合成」
耐圧硝子工業製TAS-095型反応装置(材質SUS316、容量950ml、最高使用温度300℃、最高使用圧力20MPa)に、エチレングリコール155.2g(2.5モル)、次いで浄化槽製造時の廃FRP131g(樹脂分40%、ガラス繊維30%、炭酸カルシウム30%、(プロピレングリコール単位)0.25−(フタル酸単位)0.30−(エチレングリコール単位)0.25−(マレイン酸にスチレン二分子付加した単位)0.20の組成の不飽和ポリエステル樹脂(マトリックス樹脂)単位0.1グラム当量)を入れ、290℃で3時間、600rpmで攪拌し分解させた。分解終了時の圧力は1.8 MPaであった。分解生成物は茶色の粘ちょう液体(ガラス繊維、炭酸カルシウムはばらばらになり、そのまま残る)であった。分解生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量=342、重量平均分子量=11,148、重量平均分子量/数平均分子量=32.60、ピークトップの分子量=237であった。
次いで、ガラス繊維、炭酸カルシウムを分離しないで、前記の分解生成物に無水マ
レイン酸122.6g(1.25モル)及び無水フタル酸185.2g(1.25モル)を加え、ハイドロキノン100ppmを添加し、窒素を吹き込みながら、200rpm、150℃、1時間、210℃で2時間脱水縮合させた。なお、2時間反応後に、攪拌回転数を800rpmに上げ、窒素流量を増加した。反応生成物は茶色の固体であった。反応生成物をGPC分析(THF溶媒、40℃、ポリスチレン標準)したところ、数平均分子量=638、重量平均分子量=1,695、重量平均分子量/数平均分子量=2.65、ピークトップの分子量=962であった。
この反応生成物にスチレンを加え、t-ブチルカテコール100ppmを添加して、40wt%のスチレンを含む再生不飽和ポリエステル樹脂のスチレン溶液を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、有機繊維強化プラスチツク廃棄物から、工業的に有用な樹脂原料
を得ることができ、不飽和ポリエステル樹脂に再生することができる。また、分解は比較的低い温度または比較的短時間に行え、比較的簡単な操作で実施し得るので、簡易な設備をもって、経済的な有機繊維強化プラスチツク廃棄物の再利用を可能とすることができる。すなわち、本発明により、有機繊維強化プラスチツク製のマネキン、表示用造形物、建材等製造時に生じる廃棄物、及びそれらの製品の廃棄物を有効に再利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂をマトリックスとし、有機繊維を強化繊維とする繊維強化プラスチツク廃棄物を破砕後、触媒の存在下あるいは不存在下でグリコールを用いて分解し、得られた分解生成物を二塩基酸と縮合反応させて不飽和ポリエステルを合成することを特徴とする有機繊維強化プラスチツク廃棄物の分解物、再生樹脂及び再生方法。
【請求項2】
有機強化繊維がポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート等)、ポリアミド繊維(ナイロン6、ナイロン6,6等)、アラミド繊維(Kevlar、Conex等)、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維からなる群の少なくとも一つからなる有機繊維強化プラスチックである請求項1に記載の有機繊維強化プラスチツク廃棄物の分解物、再生樹脂及び再生方法。
【請求項3】
触媒が水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのいずれかである請求項1または請求項2に記載の有機繊維強化プラスチツク廃棄物の分解物、再生樹脂及び再生方法。



【公開番号】特開2007−23119(P2007−23119A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205301(P2005−205301)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(594164151)株式会社京屋 (5)
【Fターム(参考)】