説明

有機肥料の製造方法

【課題】微生物により有機肥料原料を発酵させて有機肥料を製造する際に、品質のばらつきを抑制して有機肥料を製造できる有機肥料の製造方法を提供する。
【解決手段】微生物により有機肥料原料を発酵させて有機肥料とする有機肥料の製造方法であって、まず、戻しチップを含む木材チップと有機肥料原料を混合し(S10)、得られた混合物をマクロレベルで発酵させる(S20)。次に、混合物を篩い分けして戻しチップとフルイ通過部に分別し(S30)、フルイ通過部の堆積物の断面を観察して発酵の進行を判定する(S40)。さらに、フルイ通過部をミクロレベルで発酵させて熟成させ、有機肥料とする(S50)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機肥料の製造方法に関し、特に、下水道汚泥、動植物性残渣、廃木材の何れも最終処理が必要な廃棄物を原料とし、蓄積毒の被害が無くて安全で安心して使用でき、優れた肥料効果を発揮する有機肥料を製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
汚泥を原料として有効微生物群(有用菌)で発酵堆肥化させて有機肥料とすることについて多くの提案がある。
【0003】
先ず原初的なものの一例として、特許文献1がある。廃材を処理して得た木質砕片をベースとしてこれに動物の糞尿・活性汚泥・ヘドロ・スラッジ・蔬菜くずなどの家庭廃棄物等を混合して発酵せしめる堆肥物の連続製造プロセスが提案されている。
これは原初的で価値ある情報であるが、このままでは実用的でなく多くの改良技術が続々と提案されている。
【0004】
例えば特許文献2には、生物性廃棄物の脂質や繊維質などの含量が高くなる場会に、完熟コンポスト化の時間を短縮するために発酵工程においてオゾン含有ガスと接触させることで高速堆肥化できることが示されている。
【0005】
また、特許文献3には、有機産業廃棄物の堆肥化処理において、有機産業廃棄物からの異臭・悪臭をなくしかつ処理後の堆肥を植物が吸収しやすい形態にする方法が提案されている。Caを含む化合物とMgを含む化合物を所定重量比で0.1〜1.5%処理廃棄物に添加するものである。
【0006】
これら従来技術は、有機肥料という言葉は記載されているが、廃棄物を処理して減量・減容する事が目的であり、当時の社会ニーズもそこにあったもので、本発明の目指す真の有機肥料とは程遠いもの、次元の全く異なるものであった。
【0007】
そこで本願発明者らは、無害な有機物をコンポスト化して有機肥料として使う技術を開発して先に特許出願して、特許文献4として具体的な実用技術を開示している。
【0008】
即ち汚泥とおよそ1センチ〜3センチ角の木材チップとを混合し、主として乳酸棹菌と酵母菌とからなる発酵菌を散布した後、およそ2週間の第一次発酵工程、およそ2〜3週間の第二次発酵工程そしておよそ1週間の仕上げ発酵工程からなる発酵工程を行う、汚泥の処理方法を開示しており、また特定成分比率の有機肥料も示している。
【0009】
また、本願発明者らは、非特許文献1にて詳細な技術事項を開示している。この論文のコンポスト技術は、特許文献4に開示した本願発明者らの先願そのものである。
【0010】
特許文献4及び非特許文献1は、その時点では最も優れた汚泥堆肥化技術を開示したものであった。現在、多くのコンポストプラントの操業がこれらの開示技術にしたがって行なわれている。単なる減量化としては十分な技術であるが、有機肥料製造の技術としては未完成であり、不十分なものであった。つまり、具体的には、実用化プラントを稼動させて量産化段階に入ると、再現性・歩留まりの点で大きな問題が生じた。
【0011】
即ち、得られた有機肥料の品質にばらつきが大きく、良品と不良品がバッチごとにランダムに出来るため、不良品ができた場合は、再度原料に戻して2度目の発酵工程にまわすか全量廃棄せざるを得なかったのである。
【0012】
およそ工業製品を作る場合、合格製品と不合格製品を製造工程の中で判別・振り分けできるようになっていない時、その製造技術は未完成・未熟であり、解決すべき重大な課題が残されているので、その解明が必須である。根本原因まで解明されなくても、判定手段
が見出されていれば工業技術として足り得ることは言うまでもない。
【特許文献1】特開昭54−75363号公報
【特許文献2】特開平7−126092号公報
【特許文献3】特開平10−95687号公報
【特許文献4】特開2000−169270号公報
【非特許文献1】「木材チップと腐植土抽出微生物を用いたコンポストによる汚泥減量とリサイクル」国士舘大学理工学研究所報告 第15号(2003)第34ページ〜49ページ
【非特許文献2】「木材なんでも小事典」木質科学研究所木悠会、講談社、pp.37〜38、2001
【非特許文献3】「有機廃棄物資源化大事典」有機質資源化推進会議編、農文協、p.187、1997
【非特許文献4】「環境浄化のための微生物学」須藤隆一編、講談社、p.4、1992
【非特許文献5】「環境浄化のための微生物学」須藤隆一編、講談社、p.7、1992
【非特許文献6】「水処理バイオ入門」須藤隆一、稲森悠平編著、産業用水調査会、p.94、1994
【非特許文献7】「微生物工学」永井和夫、中森 茂、虎谷哲夫、堀越弘毅、講談社、p.40、1996
【非特許文献8】「岩波生物学事典」岩波書店、p.34、1974
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、本発明は、品質のばらつきを抑制して有機肥料を製造できる有機肥料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機肥料の製造方法は、微生物により有機肥料原料を発酵させて有機肥料とする有機肥料の製造方法であって、戻しチップを含む木材チップと前記有機肥料原料を混合する工程と、前記有機肥料原料と前記木材チップの混合物をマクロレベルで発酵させる工程と、前記混合物を篩い分けして前記戻しチップとフルイ通過部に分別する工程と、前記フルイ通過部の堆積物の断面を観察して発酵の進行を判定する工程と、前記フルイ通過部をミクロレベルで発酵させて熟成させ、有機肥料とする工程とを有する。
【0015】
上記の本発明の有機肥料の製造方法は、微生物により有機肥料原料を発酵させて有機肥料とする有機肥料の製造方法であって、まず、戻しチップを含む木材チップと有機肥料原料を混合し、得られた混合物をマクロレベルで発酵させる。次に、混合物を篩い分けして戻しチップとフルイ通過部に分別し、フルイ通過部の堆積物の断面を観察して発酵の進行を判定する。さらに、フルイ通過部をミクロレベルで発酵させて熟成させ、有機肥料とする。
【0016】
上記の本発明の有機肥料の製造方法は、好適には、前記有機肥料原料が、下水汚泥及び/または動植物性残渣を含む。
【0017】
上記の本発明の有機肥料の製造方法は、好適には、前記マクロレベルで発酵させる工程が、第一次発酵工程、第二次発酵工程及び仕上げ発酵工程を有し、前記混合物にエアレーション及び切り返しを行ってマクロレベルでの発酵を行わせる。
【0018】
上記の本発明の有機肥料の製造方法は、好適には、前記ミクロレベルで発酵させる工程において、前記フルイ通過部と大気との接触を促進して前記フルイ通過部中に残存する微生物の増殖活動を促進する。
さらに好適には、前記ミクロレベルで発酵させる工程において、前記フルイ通過部をシート上に広げて切り返しを行う、及び/あるいは、前記フルイ通過部を容器に入れて攪拌することにより、前記フルイ通過部と大気との接触を促進する。
【0019】
上記の本発明の有機肥料の製造方法は、好適には、前記発酵の進行を確認する工程として、前記フルイ通過部の堆積物の山を切って断面を観察し、前記山の内部に白くなっている部分が形成されていることの確認により発酵の進行を判定する。
あるいは好適には、前記発酵の進行を確認する工程として、前記仕上げ発酵中の前記混合物を一部抜き取り、前記篩い分け工程により前記戻しチップとフルイ通過部に分別し、得られた前記フルイ通過部の堆積物の山を形成し、前記山を切って断面を観察し、前記山の内部に白くなっている部分が形成されていること及び前記山からの発熱量により発酵の進行を判定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有機肥料の製造方法は、篩い分けのフルイ通過部の堆積物の断面を観察して発酵の進行を判定することにより、品質のばらつきを抑制して有機肥料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係る、微生物により有機肥料原料を発酵させて有機肥料とする有機肥料の製造方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る有機肥料の製造方法は、真に有益な優れた有機肥料を提供するものである。
化学合成による肥料が濫用されて量的な収穫量を拡大するのに有効であった化学肥料も、現在では土壌汚染、土壌細菌類の死滅など多用の弊害が顕在化しつつある。
本実施形態に係る有機肥料の製造方法は、土壌環境や大気環境を巧みに利用して自己成長する植物に備わっている本来能力を補助するに有効な有機肥料を提供するものである。理想的には、施した肥料の成分元素はすべて育成植物に吸収されて土壌中や地中水(環境水)に残存しない事である。その上で、美味しい作物が、化学肥料を使った場合と同等もしくはそれ以上に収量があることである。更に、人にとってもまた地球環境全体にとっても原子的レベルで安全安心な方法は発酵方式であろうが、微生物の世界にとっても種の混乱やかく乱を起こさないよう配慮することも欠かせない事である。
【0023】
図1は、本実施形態に係る有機肥料の製造方法の工程を示すフローチャートである。
戻しチップを含む木材チップと有機肥料原料を混合する工程S10と、有機肥料原料と木材チップの混合物をマクロレベルで発酵させる工程S20と、混合物を篩い分けして戻しチップとフルイ通過部に分別する工程S30と、フルイ通過部の堆積物の断面を観察して発酵の進行を判定する工程S40と、フルイ通過部をミクロレベルで発酵させて熟成させ、有機肥料とする工程S50とを有する。
【0024】
また、好適には、マクロレベルで発酵させる工程S20が、第一次発酵工程S21、第二次発酵工程S22及び仕上げ発酵工程S23を有し、混合物にエアレーション及び切り返しを行ってマクロレベルでの発酵を行わせる。
【0025】
また、好適には、ミクロレベルで発酵させる工程S50において、フルイ通過部と大気との接触を促進してフルイ通過部中に残存する微生物の増殖活動を促進する。
具体的には、ミクロレベルで発酵させる工程において、フルイ通過部をシート上に広げて切り返しを行う、及び/あるいは、フルイ通過部を容器に入れて攪拌することにより、フルイ通過部と大気との接触を促進する。
【0026】
本実施形態に係る有機肥料の製造方法において、混合物またはフルイ通過部の堆積物の断面を観察して発酵の進行を判定する工程S40としては、例えば、山の内部に白くなっている部分が形成されていることの確認により発酵の進行を判定する。
あるいは、例えば、発酵の進行を確認する工程として、仕上げ発酵中の混合物を一部抜き取り、篩い分け工程により戻しチップとフルイ通過部に分別し、得られたフルイ通過部の堆積物の山を形成し、山を切って断面を観察し、山の内部に白くなっている部分が形成されていること及び前記山からの発熱量により発酵の進行を判定することも可能である(S24)。
【0027】
本実施形態の有機肥料の製造方法において、好適には、上記の肥料原料が、下水汚泥及び/または動植物性残渣を含む。
主要原料の下水汚泥は、大規模な下水処理場や家庭等に設置普及されている合併処理槽の汚泥、即ち人間由来の下水汚泥を用いる。人(ヒト、人間)が食べたものの排泄物由来の下水汚泥は、肥料原料として、安全、安心、環境負荷等の観点から現状では最善のものであるし、その栄養価は高いので肥料原料として最適である。また、増大する下水汚泥の有効利用やリサイクル化は大きな社会的課題となって来ているので、その観点からも見逃せないバイオマス原料である。
【0028】
ヒト以外の動物由来の汚泥は、安全性が確認された場合を除き、用いない。牛、豚、馬、その他の動物由来の下水汚泥には、飼料や薬物として与えられたものに含まれる抗生物質や重金属や農薬等が含まれる危険性が大きいためである。これに対して、ヒトの排泄物は、ホルモンや抗生物質や重金属等の有害物質は少なく且つ栄養成分が豊富であり、総合的に安全性が高いので、最終的に得られる有機肥料も現状最も安全安心な有効な肥料となるのである。
【0029】
動植物性残渣も、大量に排出される有効処理すべき有機性廃棄物であることと栄養成分調整の観点から、必須の原料である。これについても安全、安心、環境の観点から、ヒトが食したり飲んだりするものの加工処理の場で発生する残渣が好ましい。具体的には、ハム工場などの食品加工工場の廃水処理汚泥や食肉などの食品加工に伴う残渣、ペットボトル用緑茶の茶葉残渣などである。つまり、ヒト(人間)が飲食するものそのものの残渣、それを加工製造する工程での残渣、その原料の残渣、である。生物サイクルの課程では極微量成分でも蓄積高濃度化が進む懸念があるので、農薬や抗生物質やホルモンなどを投与したものは徹底的に排除すべきである。
【0030】
本実施形態の有機肥料の製造方法において用いる木材チップ(木屑)は、カッターや鋸で裁断したものでなく、クラッシャーなどでいわば物理的に破砕して作った木材チップであり、要は、木材を構成する微細な孔(後述するハニカムチューブ状の細孔)が塞がれていないことが肝要であり、これが木材チップに求められる第1の要件である。
【0031】
木材チップに求められる第2の要件は、リグニン成分が可及的に少ない事である。そのため、伐採後5年以上、好ましくは20年以上経過してなる、古木材あるいは家屋解体に伴う柱などの廃棄木材が最適である。何らかの手段でリグニンを含まないかもしくは大幅減少させることが出来ればそのような木材も使えることは勿論である。
木材チップの大きさや形状は必須条件ではないので、用いる機械等や処理スペースとの関係から適宜選択すればよい事である。後で詳述するが、本発明において木材チップの役割りは、(1)微生物の住処、(2)発酵工程での通気性の確保、(3)原料に含まれる水分量の低下、(4)戻しチップの素材、の4点である。
【0032】
原料の最後として、戻しチップ(植種木屑)について述べる。いろいろな種類の微生物が棲みついた木材チップは、コンポストの発酵仕上げ段階の後で篩い分けされ、フルイを通過しないチップは最初の原料混合部に戻される。これが戻しチップである。この戻しチップには、コンポストに適した細菌類が多数生存しており、新たに搬入されたコンポスト材料に適合した細菌類を種付けすることになる。さらに、戻しチップはコンポスト材料と共に押し出し流れ状に発酵工程を順次経過し、各段階でその発酵状態に適した細菌類が活動する事になる。このため、発酵がスムーズに立ち上がるだけでなく、プロセスの途中でも悪臭の発生が低減される事となる。
【0033】
本実施形態に係る有機肥料の製造方法は、微生物発酵によるコンポスト化であるから、微生物発酵特有の配慮が不可欠である。即ち、発酵工程に関与する多用な微生物環境が安定化するまでは優れた発酵製品はできない。付言すれば、数多くの操業を繰り返す中で、工場など処理スペースの壁や天井など、さらにはショベルローダーや攪拌装置等の機械装置に至るまで、その処理工程に最適化し安定化した微生物環境が確保されて始めて優れた製品ができる。日本酒造りにおいて酒蔵に住みついている微生物の効果と同じように考えることができる。戻しチップは、数多くの操業を繰り返して循環されることにより、優れたコンポスト化に寄与するチップとなる。
【0034】
プラントごとに異なるのが通例であるが、本願の方法で実施しているプラントの戻しチップを他の新規プラントに用いる事は時間の短縮になるので好ましい。しかし、温度、湿度、先住微生物種など、場所が違えば異なる様相となるので、そのプラントで作られた戻しチップを使うのがベストである。
【0035】
以上の記載から明らかなように、本実施形態の有機肥料の製造方法では、原料段階から何ら特別な微生物を散布や投与することはしない。むしろその場に適した安定微生物環境が調えられることを阻害する懸念さえあるので好ましくない。
【0036】
次に、上記の工程について述べる。
原料の配合・混合比率、混合工程S10、マクロレベルの発酵工程S20、篩い分け工程S30については、本発明者らの先願特許(特許文献4)ならびに論文(非特許文献1)に記載の内容に準じて適宜実施すればよいので、ここでは詳細な記載は省略する。
【0037】
本実施形態の有機肥料の製造方法において、マクロレベルでの発酵工程とは、上記特許文献4並びに非特許文献1にて発酵や発酵工程として述べているところに相当する。即ち、数十センチに及ぶ粗大で形状の不定な木材チップを含んだ汚泥混合物を発酵させる工程である。本実施形態では、後述のミクロレベルの発酵工程と区別するためにこの名称で記す。
【0038】
マクロレベルの発酵工程S20は、微生物反応特有の緩やかな発酵に必要な時間、エアレーション(送風)と切り返し(かき混ぜ、おき換え)が必要である。本実施形態では、3段階(即ち、第一次発酵工程S21、第二次発酵工程S22、仕上げ発酵工程S23)に区分するのが好ましい。
【0039】
ここで、第一次発酵工程S21は、発酵菌の増殖、汚泥の臭いの消去、汚泥の水分量低下、汚泥中の比較的大きな固形物の分解、を目的とする工程である。
第二次発酵工程S22は、第一次発酵工程S21で水分が40%〜50%まで低下し、発酵工程前に比して細かくされた汚泥について、発酵を更に進めて汚泥中の炭素成分の分解度を向上するとともに、水分含有量を35%〜45%まで低下させる工程である。
仕上げ発酵工程S23は、第二次発酵工程S22で水分量がおよそ35%〜45%まで低下した汚泥について、発酵による汚泥中の炭素成分の分解を完了するとともに、汚泥の水分含量を30%〜40%まで低下することを目的とする工程である。
【0040】
篩い分け工程S30では、フルイを通過しない粗大物(戻しチップ)と、フルイを通過した粒状体部分(フルイ通過部)とに分別する。フルイ通過部は、粒状体部分のほかに粉状のものを含んでいてもよい。
フルイ通過の粒状体は堆積して山状に盛り上がるのが普通である。容器に直接入れて後のハンドリングや運搬作業をし易くすることもある。いずれにしてもある程度の厚み(深さ)を持った状態になる。
ここで、各発酵工程において木材チップは一部が欠けたり崩れたりして小さな木片となるが、篩い分け工程S30において用いるフルイの目の大きさを調整することで、フルイ通過部への木片の混入割合を調整することができる。フルイの目を大きくすると木片の混入率が高くなり、フルイの目を小さくすると木片の混入率が低くなる。
上記の木片は、有機肥料中に混入されると、一部の植物に関しては根が張るときにからまって植物の自立を補助し、植物が大きく生育するのに役立つ機能を有する。また、ゴルフ場のグリーンを生育する場合の有機肥料としては、木片は排除されていたほうが好ましい。
このため、どのような植物に用いるのかにより、フルイの目の大きさを変えて木片の混入率を変えることができる。
【0041】
本実施形態においては、上記のようにして形成された粒状体部分(フルイ通過部)の山状の堆積物において、厚み方向断面を露出させて発酵状態を確認する(S40)。例えば、山状の堆積物を深さ方向に崩して断面を露出させ、内層部分が白く見える状態であれば優れたコンポスト化が行われた証しである。内層部も表層部分と同じで白く見えない場合には不良品を作ることになるので、本願でいうところの真の有機肥料にはならない。このことは、数多くの操業を繰り返した結果漸く見出した事である。この確認工程を採用するまでは、最終製品のばらつきがランダムにあり一定の製品とはなりがたかったが、この知見を取得した後にはこの問題は解消した。
【0042】
上記では、篩い分け工程S30の後に発酵確認工程S40を行う場合について説明したが、篩い分け工程の前に発酵確認工程S24を実施することも好ましい。
即ち、マクロレベル発酵工程S20の第3段階の仕上げ発酵工程S23から、発酵処理物を一部抜き取り、これを篩い分けして戻しチップとフルイ通過部に分別し、得られたフルイ通過部の堆積物の山を形成し、山を切って断面を観察し、山の内部に白くなっている部分が形成されていること及び山からの発熱量により、堆積物の山の表層ではなく内層部分で発酵が行われていることを確認し、この確認がなされた後で全量を篩い分け工程以降に移行させるようにしてもよい。
【0043】
この現象に関する学術的解明は今後の課題であるが、本願発明者らは以下の様に推測している。即ち、本実施形態の有機肥料の製造方法の発酵工程においては、少なくとも放線菌と硝化菌が大きな役割りを担う。
放線菌は増殖速度が速く、発酵の初期段階から活発に増殖して発酵の全工程でコンポスト材の内部から表面に至るまで白い糸状の菌体が肉眼観察できる。
一方、増殖速度の遅い硝化菌は、それが十分に増殖して発酵に貢献したことを確認する事が、従来全くなされていなかった。硝化菌は放線菌に比べて小数であって放線菌が活発な段階では無理であり、放線菌の役割りが略終わった後の篩い分け工程で得られるフルイを通過した粒状体(フルイ通過部)において判定することが最適である。
【0044】
この粒状体には、放線菌は少なくなり増殖速度の遅い硝化菌はまだ増殖力を残していてまだ主要微生物として存在していると思われる。粒状体堆積物の断面層に見える白色状態は、残存硝化菌の存在、言い換えれば、これ以前の発酵工程において、増殖速度の速い放線菌は勿論の事、増殖の遅い硝化菌も十分に働いた事を示すバロメーターであると考えている。それはまた、戻しチップに硝化菌が確実に棲みついた事の確認にもなるのである。
硝化菌の作用効果についての詳細な考察は後述する。
【0045】
本実施形態の有機肥料の製造方法において、上記の工程の後、ミクロレベルでの発酵工程S50を行う。
上記のように、篩い通過の粒状体にはまだ少なくとも増殖速度の遅い硝化菌がまだ増殖可能な状態であるので、発酵が完全に終わっていない。硝化菌以外の微生物等もまだ残存していると考えられる。そして、何よりも、篩い通過の粉状もしくは粒状体は均質であり粗大物がないから、微生物、細かい木材チップ、分解の進んだ汚泥粒などが密接に交じり合うから、ミクロレベルでの発酵が行われる環境にある。
【0046】
従って、発酵製品を作る最終仕上げ段階としてこの工程が欠かせないものとなる。微生物の働きをその環境下、本実施形態においては大気中で止めないで完熟させる事、即ち硝化菌等の増殖活動を十分に行わせることに相当する。
具体的には、大気中下で、所定の容器にいれて時々攪拌する方法や、シートの上にある程度の厚みで堆積させておくなどの方法で行い、発熱が無くなった状態で完了とする。発熱は微生物の増殖活動が活発であることの証左なので、発熱がなくなるまでこの工程をおえる事はできない。
上記のミクロレベルで発酵させる工程においては、大気中に水分を蒸発させて含水率を調節することも可能である。
【0047】
図2は本実施形態に係る有機肥料の製造方法を実施するためのコンポスト施設の模式構成図である。
このコンポスト施設の処理能力は、例えば165t/日である。
このコンポスト施設は、例えば、混合ヤード20、第一次発酵槽30、第二次発酵槽40、仕上げ発酵槽50、及び、ふるい分け及びミクロレベル発酵槽60を有する。
【0048】
混合ヤード20には、隣接して未使用チップ置き場21が、また、混合ヤード内に発酵処理を循環して戻された戻しチップを置いておく戻しチップ置き場22が、それぞれ設けられており、混合ヤード20においてコンポスト処理に供せられる有機肥料原料と戻しチップを含む木材チップが混合される。
【0049】
第1発酵槽30は、通路を挟んで例えば8部屋の発酵槽31〜38から構成され、上記のコンポスト原料、木材チップおよび微生物の混合物の第一次発酵が行われる。
例えば、コンポスト材料は発酵槽で昼間だけエアレーションし、夜間(夕方4時半から朝8時まで)および休日はエアレーションしない条件で処理を行う。
【0050】
第2発酵槽40は、通路を挟んで例えば4部屋の発酵槽41〜44から構成され、上記の第一次発酵と同様にして、第二次発酵が行われる。
【0051】
仕上げ発酵槽50は、第二次発酵までの発酵状態に必要な切返処理を行う。以上で、マクロレベルの発酵が行われる。
第二次発酵が終了した後、ふるい分け及びミクロレベル発酵槽60へ運搬される。
【0052】
ふるい分けおよびミクロレベル発酵槽60では、上記のマクロレベルの発酵が行われた混合物から戻しチップを篩い分けにより分別し、得られたフルイ通過部について上記のようにして発酵確認工程を行い、ミクロレベルで発酵する。
ミクロレベルでの発酵処理が終了したら、袋詰めして製品化される。
【0053】
図3は、篩い分け工程後の粒状体部分(フルイ通過部)の山状の堆積物において、厚み方向断面を露出させて発酵状態を確認する工程における、山状の堆積物の断面図の模式図である。
発酵が十分に進行している場合、山状堆積物70の中央部断面の内層部、例えば、表層部より2cm程度の内側の部分において、白っぽく見える部分71が観察される。このように観察された場合、引き続いてミクロレベルの発酵を行い、製品として出荷することができる。
【0054】
上記の本実施形態に係る有機肥料の製造方法によれば、篩い分けのフルイ通過部の堆積物の断面を観察して発酵の進行を判定することにより、品質のばらつきを抑制して有機肥料を製造することができる。
【0055】
以下、本発明者らによる知見について述べる。
【0056】
1.木材チップの役割
木材チップの構造は、ハニカムチューブ状の細孔が長く続いているもので、杉や松等の針葉樹では、仮導管は直径数十μm、長さが数cmの繊維状の細胞であることが知られている(非特許文献2参照)。また、杉チップはハニカム構造を持っているため微生物のすみ家として適切で、高温好気処理におけるすぐれた坦体であることが明らかにされている(非特許文献3参照)。
木材チップには、微細なハニカム状のチューブがあり、ここに入り込めない大形の原生動物に捕食されることもなく、さらに、チューブの周りから染み込んだ栄養素を活動源として増殖速度の遅い細菌類も生存できると考えられる。図4に新しい木材チップの切断面の電子顕微鏡写真を示す。
【0057】
1.1 木材チップの微生物の棲み家としての役割
木材チップには上記の記述のように、微生物の棲み家として適切であるとされている。これは、コンポスト汚泥内の微生物の体の大きさが大きくかかわっていると考えている。
細菌の大きなものは、30μmに達し、一方、小さいもので0.2μmである。硫黄細菌、鉄細菌は最も大形の細菌である。球菌では、直径0.5〜1.0μm、桿菌では(0.5〜1.0)×(1.0〜2.0)μm位のものが多い。放線菌は、糸状形を呈しており、糸状菌様に形態分化した細菌である。菌糸の幅は0.3〜1μm程度である(非特許文献4参照)。
【0058】
原生動物の大きさは、最小5μm程度で、最大は3mmに達するものもある。一般には、50〜100μm前後のものが多い(非特許文献4参照)。
原生動物は、下記の4つの綱に分けられている(非特許文献5参照)。
(1)鞭毛虫類:1本あるいはそれ以上の鞭毛によって運動する
(2)肉質虫類:仮足によって運動する
(3)胞子虫類:運動性はなく、胞子をつくり寄生性である
(4)繊毛虫類:繊毛によって運動する
【0059】
コンポスト堆積物は、固形物の塊であるので、コンポスト中には肉質虫類の原生動物が生存しているものと予想される。
表1に下水処理で発生する原生動物の細胞の大きさと体長を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
2.窒素の循環と硝化細菌
2.1 窒素の循環と硝化
有機物質に含まれる窒素は微生物による有機物質の分解に伴って、次のような経路をへて変化する。
【0062】
有機物質(有機性窒素) → アンモニア → 亜硝酸 → 硝酸 → 窒素ガス
一般細菌 亜硝酸菌 硝酸菌 一般細菌
【0063】
上記の反応を化学式で表すと次のようになる。
【0064】
[化1]
NH+3/2O → NO+HO+2H
NO+1/2O → NO
【0065】
ここで、亜硝酸菌(Nitorosomonas属)は、アンモニアを亜硝酸に変化させる細菌である。一方、硝酸菌(Nitrobacter属)は、亜硝酸を硝酸に変化させる細菌であり、この2属をあわせて硝化菌と呼んでいる。さらに、亜硝酸及び硝酸を窒素ガスにする反応(脱窒)は、一般細菌でもその能力があるが、脱窒細菌の中で特にPseudomomas denitrificansは脱窒能力が高いとされている。
【0066】
硝化細菌の比増殖速度は、Nitorosomonas属で0.21〜1.08day−1、Nitrobacter属で0.28〜1.44day−1である。
通性嫌気性菌のEscherichia coliやProteus sp.などの40〜60day−1に比べると極めて小さい(非特許文献6参照)。このことは、硝化細菌の増殖速度は、極めてゆっくりしていることを示していることになる。
図5に、戻しチップに付着している細菌類の電子顕微鏡写真を示す。
【0067】
2.2 木材チップと硝化菌
硝化菌は、前述のように生育速度が遅いので、搬入材料中に存在していた硝化菌は、コンポストの発酵中に多少増殖するが、発酵中の材料は押し出し流れ型に流れていくので、完成品とともに系外に排出されてしまう。このため、搬入材料に種付けをしない方式のコンポストにおいては、有機性窒素の分解で発生したアンモニアは、ほとんど硝化されずに大気中に放散される。
このコンポスト方法では、伐採後20年以上経過した古木材をカッターで裁断した木材チップではなく、物理的に破砕したチップを用いている。これにより、図4に示すように、チップのハニカムチューブの開口部がつぶされずに、細菌がチューブの中に簡単に入り込みやすくなる。チューブに入り込んだ細菌は、それを食べる原生動物の体が大きく、チューブ内に入り込めないので、捕食されることがない。このように考えると、比増殖速度の小さい(増殖速度が小さい)硝化菌は、ハニカムチューブに染み込んでくるアンモニアを増殖の基質として、チューブの中で増殖し、アンモニアを活発に硝酸に酸化していると考えることができる。
図6に、得られた有機肥料(完成品)中の細菌類の電子顕微鏡写真を示す。これは、篩い分け後の堆積物のものである。
【0068】
3.硫黄の循環と硫黄細菌
3.1 硫黄の循環と硫化物の酸化
有機物質、特に、タンパク質や脂肪に含まれている硫黄は、微生物による有機物の分解でに伴って、S2−(亜硫酸塩、HSなど)になる。このS2−は、好気性菌によってSO2−を経て硫酸塩SO2−に変化する。この変化を化学式で表すと、下記式となり(非特許文献7参照)、この反応で亜硫酸塩(HS等)を硫酸イオンに変化させる。この反応で、硫化水素HSやメルカプタンR−SHなどは硫酸に変化し、悪臭の発生が低減する。
【0069】
[化2]
2−+2O → SO2−
【0070】
3.2 チップと硫黄細菌
硫黄酸化細菌には、Thiobacillus、Thiomicrospira、Sulfolobus、Thiotrixなどがある。これらの細菌の比増殖速度に関するデータは発表されていない。これらの細菌も増殖速度が遅いものと推定される。Thiotrixは大型糸状で、硫化水素の存在で細胞内に硫黄粒をつくり、餌の補給が無くなると、その硫黄をエネルギー源として活動する。その際の反応はおそらく、下記式である(非特許文献8参照)。硫黄細菌は、前述のように細胞が大きく、30μm程度あるものと推定される。
【0071】
[化3]
S+1/2O → HO+S
S+3/2O+HO → HSO
【0072】
硫黄細菌も、チップのハニカムチューブ内に入り、原生動物に捕食されず、硫化物を硫酸に変えているものと推定される。
【0073】
4.木材チップの効果
いろいろな種類の微生物が棲みついた木材チップは、コンポストの仕上げ段階の発酵の後、フルイにかけられ、フルイを通過しないチップは、最初の混合槽に戻され(戻しチップ)、新たに搬入されたコンポスト材料と混合される。戻しチップには、コンポストに適した細菌類が多数生存しており、新たに搬入されたコンポスト材料に適合した細菌類を種付けすることになる。さらに、戻しチップはコンポスト材料とともに押し出し流れに状に発酵槽内を移動し、各段階でその発酵状態に適した細菌類が活動することになる。このため、発酵がスムーズに立ち上がるだけでなく、プロセスの途中でも悪臭の発生が低減されることになる。
【0074】
これ以外に、木材チップはピラミッド状に積み上げることができ、チップの空隙に汚泥が入り込んで、汚泥が圧密を受けず、通気性が改善される。さらに、チップは、ハニカム状の細孔があり、この穴を空気が抜けていき、通気性を向上させていると考えられる。また、搬入材料の水分低下に役立っている。
【0075】
以上のような考察を踏まえて、本願の発酵増殖確認工程の重要な役割と効果が浮き彫りになると思われる。
即ち、発酵工程までは極めて粗大な木材チップや汚泥などの混在物であったが、篩い分け工程にて、大きさの整った「粉状もしくは粒状体」と粗大物(篩い不通過部分)に分離される。微細な大きさの微生物、発酵対象物(コンポスト)、篩い通過の細かい木材チップの3者が主要構成成分となってこの「粉状体もしくは粒状体」ができている訳である。発酵に関与した多様な微生物とその食料(発酵対象物)との距離が近接した形で再配列されるので、再び「ミクロな次元での発酵」が進むと考えられる。その際、増殖速度の遅い硝化菌や硫黄細菌が相対的に最も活発になると考えられる。また、篩い通過の粉状もしくは粒状体の山の表層部はアンモニア等が大気中に逃散しやすいために硝化菌等の増殖が見られないものと考えられる。
【0076】
本願において、ミクロレベルでの発酵工程が不可欠であることも上記考察から了解できるところである。
篩い分け工程後の、いわば「ミクロな次元での発酵」を行わせる必須の工程といえる。マクロレベルでの発酵では、粗大で形状不定な木材チップと湿潤状態の汚泥との混在物に微細な大きさの細菌類や原生動物が活発に働きかけている。微生物の立場で見れば、サイズ的に巨大な木材チップの存在が移動の距離的障害になり、全体としての均質な発酵完成の妨げとなっていると考えられるからである。この距離の障害を取り除き、均質な発酵状態を実現しかつ残存する微生物の増殖余力を使い尽くさせる必要がある。ミクロレベルでの発酵は、優れた発酵処理製品を製造する上で不可欠であることが了解されるところである。
【0077】
実施例1(汚泥、食肉工場残渣)
有機肥料原料として、栃木県内の下水処理場で発生した下水汚泥(脱水)9トンと、食品加工工場の廃水処理施設で発生した脱水汚泥1トンを用い、目測した容積比で汚泥の1.5倍程度のかさとなるような量の木材チップと戻しチップ、をショベルローダーでかき混ぜた。この混合工程は、コンクリート製の大型容器(巾5m、奥行5m、高さ2m、天井なし、出口開放の屋根付の建屋内)で行った。
【0078】
ここで用いた木材チップは、予め、家屋解体から廃棄されている古木材をクラッシャーで数センチから十数センチの大きさに裁断したものである。また、戻しチップは、本発明の方法で操業したプラントの処理工程の篩い分け工程でふるいを通らなかった粗大物(木材が主成分)である。戻しチップと木材チップの比率は8割が戻しチップで残りの2割が木材チップであった。
【0079】
マクロレベル発酵工程は、便宜上、3段階に分けて実施した。スペースは上記混合工程と同じサイズであるが、コンクリート床面に多数の孔を講じており、外部のコンプレッサーを作動すれば、室外の空気を送り込める(エアレーション)ようにした点が異なる。
【0080】
先ず、第一次発酵工程として2週間をメドに上記混合物を山状に積み上げてねかした。この間、エアレーション(送風)は毎日昼間7時間行った。ショベルローダーでのかき混ぜと山状積み上げ作業は、7日目に一回だけ実施した。
第一次発酵の最終段階において、山状に積み上がった発酵処理物の、温度は68℃、PHは7、水分含有量55%であった。
第一次発酵の最終日である14日目に、発酵処理物を全量ショベルローダーで第二次発酵スペースに移して山状に積み上げた。
【0081】
第二次発酵スペースも構造とサイズは第一次発酵スペースと同様であった。ここで3週間の発酵処理を行った。エアレーション(送風)は原則として毎日昼間の7時間実施し、ショベルローダーでの切り返しと積みなおしは、7日目と14日目の2回行った。
第二次発酵の最終段階において、発酵処理物の温度は55℃、PHは7.5、水分含有量は40%であった。
第二次発酵の最終日である21日目に、発酵処理物を全量ショベルローダーで仕上げ発酵スペースに移した。
【0082】
仕上げ発酵工程を行うスペースは、容器、構造サイズとも第一次発酵スペースとほぼ同じであるが、自走式の自動切り返し装置を設置している。一週間昼間7時間のエアレーションを行いつつ、切り返しを行った。夜間は停止した。仕上げ発酵工程の最終段階で測定したデータは、発酵処理物の温度は20〜30℃、PHは6〜8の範囲、水分含有量は30〜40%であった。数箇所の測定点で全く同じではないが、このような範囲にあった。7日目の正午前に発酵処理物のごく一部を篩い分け工程へ移した。
【0083】
篩い分け工程では、7mmの篩いにかけた。
上記の本実施形態で説明した発酵確認工程として、このフルイを通過した粒状体の小山状体積物の中央部断面が観察できるように切り崩した。
図7〜9にフルイを通過した粒状体の小山状体積物を切り崩した中央部断面の写真を示す。
中央部断面の内層部(2センチ程度の表層部より内側の部分)は白っぽく見えた。また触ると暖かく多少の発熱が感じられた。(なお、表層部にはこのような色調も温度も認められなかった。)
増殖速度の遅い硝化菌の働きも十分になされたと解釈できる現象なので、発酵工程を終了することとした。
そして、仕上げ発酵工程の発酵処理物の全量を篩い分け工程に移し、7mmの篩にかけて篩い通過の粒状体と不通過の粗大物に分けた。
【0084】
粗大物は戻しチップとして、原料スペースに移して次回の原料とした。粒状体は最終仕上げ処理としてのミクロレベルでの発酵工程にまわした。ここでは、広幅のプラスチックシートの上に粉状体を繰り延べて、発熱を感じなくなるまで、5日間放置した。
上記のようにして、有機肥料を製造した。
【0085】
実施例2(汚泥、茶葉)
有機肥料原料として、汚泥と茶葉を用いた以外は実施例1と同様にして各工程を行った。
発酵確認工程において、フルイを通過した粒状体の小山状体積物の中央部断面が観察できるように切り崩したところ、中央部断面の内層部(2センチ程度の表層部より内側の部分)に白っぽい部分は認められなかった。
この場合、第二次発酵工程あるいは仕上げ発酵が不十分であるので、再びマクロレベルでの発酵を繰り返す処理を行った。
【0086】
本発明は上記の説明に限定されない。
例えば、本発明の有機肥料の製造方法において、マクロレベルの発酵を第一次発酵、第二次発酵及び仕上げ発酵により行っているが、さらに細かく区分して行ってもよい。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の有機肥料の製造方法は、微生物により有機肥料原料を発酵させて有機肥料とする有機肥料の製造方法に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は本発明の実施形態に係る有機肥料の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図2】図2は本発明の実施形態に係る有機肥料の製造方法を実施するコンポスト施設の模式構成図である。
【図3】図3は本発明の実施形態に係る篩い分け工程後の粒状体部分(フルイ通過部)の山状の堆積物の断面図の模式図である。
【図4】図4は新しい木材チップの切断面の電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は戻しチップに付着している細菌類の電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は有機肥料(完成品)中の細菌類の電子顕微鏡写真である。
【図7】図7はフルイを通過した粒状体の小山状体積物を切り崩した中央部断面の写真である。
【図8】図8はフルイを通過した粒状体の小山状体積物を切り崩した中央部断面の写真である。
【図9】図9はフルイを通過した粒状体の小山状体積物を切り崩した中央部断面の写真である。
【符号の説明】
【0089】
20…混合ヤード
21…未使用チップ置き場
22…循環チップ置き場
30…第一次発酵槽
31〜38…発酵槽
40…第二次発酵槽
41〜44…発酵槽
50…仕上げ発酵槽
60…ふるい分け及びミクロレベル発酵槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物により有機肥料原料を発酵させて有機肥料とする有機肥料の製造方法であって、
戻しチップを含む木材チップと前記有機肥料原料を混合する工程と、
前記有機肥料原料と前記木材チップの混合物をマクロレベルで発酵させる工程と、
前記混合物を篩い分けして前記戻しチップとフルイ通過部に分別する工程と、
前記フルイ通過部の堆積物の断面を観察して発酵の進行を判定する工程と、
前記フルイ通過部をミクロレベルで発酵させて熟成させ、有機肥料とする工程と
を有する有機肥料の製造方法。
【請求項2】
前記有機肥料原料が、下水汚泥及び/または動植物性残渣を含む
請求項1に記載の有機肥料の製造方法。
【請求項3】
前記マクロレベルで発酵させる工程が、第一次発酵工程、第二次発酵工程及び仕上げ発酵工程を有し、前記混合物にエアレーション及び切り返しを行ってマクロレベルでの発酵を行わせる
請求項1に記載の有機肥料の製造方法。
【請求項4】
前記ミクロレベルで発酵させる工程において、前記フルイ通過部と大気との接触を促進して前記フルイ通過部中に残存する微生物の増殖活動を促進する
請求項1に記載の有機肥料の製造方法。
【請求項5】
前記ミクロレベルで発酵させる工程において、前記フルイ通過部をシート上に広げて切り返しを行う、及び/あるいは、前記フルイ通過部を容器に入れて攪拌することにより、前記フルイ通過部と大気との接触を促進する
請求項4に記載の有機肥料の製造方法。
【請求項6】
前記発酵の進行を確認する工程として、前記フルイ通過部の堆積物の山を切って断面を観察し、前記山の内部に白くなっている部分が形成されていることの確認により発酵の進行を判定する
請求項1に記載の有機肥料の製造方法。
【請求項7】
前記発酵の進行を確認する工程として、前記仕上げ発酵中の前記混合物を一部抜き取り、前記篩い分け工程により前記戻しチップとフルイ通過部に分別し、得られた前記フルイ通過部の堆積物の山を形成し、前記山を切って断面を観察し、前記山の内部に白くなっている部分が形成されていること及び前記山からの発熱量により発酵の進行を判定する
請求項3に記載の有機肥料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−210857(P2007−210857A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34331(P2006−34331)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】