説明

有機自己温度調節発熱素子の製造方法

【課題】熱熔融した高分子にカーボンブラックを分散して得られる有機自己温度調節発熱素子は抵抗値が経時的に増加し、やがてヒーター等の発熱素子として使用不可能になる。これに代わって黒鉛を使用した印刷による有機自己温度調節発熱素子を用いたヒーターが主流となっている。しかし、結晶化度の高い高分子は溶媒に対する溶解度が低いために、使用可能な高分子の種類は限られていた。
【解決手段】
近似した粒径を持つ黒鉛微粒子と高分子微粒子を混合し、それを熱熔融や溶媒への溶解することなく、粉体状態のまま成型する有機自己温度調節発熱素子の製造方法により上記の課題を解決した。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛微粒子等の導電性粒子を高分子に分散させてなる有機自己温度調節発熱素子の製造方法に関する。ここでいう有機自己温度調節発熱素子(以下、単に「発熱素子」と称する)とは、素子の温度が所定の温度に達した際に、高分子の急激な体積増大に起因して急激な電気抵抗値の増大を示す電気抵抗体である。この素子は高温で電流が流れにくくなる性質(「自己温度調節機能」又は「STC機能」と称する)を有するため、自己温度調節型ヒーター(STCヒーター)として好適に利用される。本発明の発熱素子はその他、感熱素子や歪みセンサーとしても利用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来は高分子に黒鉛微粒子やカーボンブラックなどのカーボンを分散する手段として、以下の二つの方法のいずれか一つに依っていた。(1)熱熔融法および(2)溶液溶解法である。これら従来の方法についての問題点を述べる。
【0003】
(1)熱熔融法
導電性粒子と熱可塑性高分子とを溶融混練して導電性粒子を高分子に分散させる技術は、本発明者が歪みセンサーへの応用分野で使用している。例えば、特許文献1にその記載がある。また、熱可塑性高分子物質をシート状その他所定形状に成型するためには、この方法が一般的に採用されている。すなわち、高分子物質をその軟化点を越える温度で機械的に混練し、これにカーボンを添加して分散させる方法である。一般に熱溶融高分子の混練には高分子の粘度が高いため高いトルクを必要とする。更にカーボンを加えると系の粘度は更に高くなり、ついには混練機が回転できなくなってしまう。したがってカーボンの添加量を多くすることはできない。このため添加するカーボンは、黒鉛ではなく、より粒径の小さいカーボンブラックが主流となる。黒鉛には人造黒鉛と天然黒鉛がある。天然黒鉛は鉱山から産出後、洗浄、不純物除去、摩砕、分粒され、一般的に数μm〜1mm程度のものが市販されている。一方、人造黒鉛は高価であることから、リチウム電池や原子炉の中性子減速など限られた用途にのみ使用されている。カーボンブラックの粒径は一般的に製造される天然黒鉛に比べて2桁ほど小さく、直径3〜500nmと言われている(カーボンブラックはガス、石油類を不完全燃焼させて生成する工業製品、いわゆる煤である)。ヒーターの電導度に関して、一定の値を得るためにはカーボンブラックの添加量が、黒鉛添加の場合の1/10ですむ場合もある。すなわち、一定の電導度を得るには、黒鉛よりも粒径の小さいカーボンブラックを用いた方が少量の添加で一定の導電性が得られるので、結果として系の粘度増加は小さくてすむのである。
【0004】
しかし、高分子に熱熔融法でカーボンブラックを分散させ発熱素子を作製した場合、作製後、素子の抵抗は熱処理により大きく変化し、実用にはならない。つまり、熱熔融法によるカーボンブラック‐高分子系の発熱素子は、温度を高分子の融点近くまで上げるとカーボン粒子の凝集が起こり、抵抗値が大きく変化してしまうのである。これは、カーボンブラックが強い凝集力を持っているため、発熱素子の製造後にもカーボン粒子の凝集が進行して系の抵抗値を変化させるためである。特に粒径がマイクロメートルオーダー以下となると凝集性が強くなる傾向がある。この対策としてカーボン粒子が凝集しないように高分子と化学結合させている。これは、通常、架橋剤(ラジカル)や放射線、電子線の照射によるラジカルを利用してカーボン粒子表面の官能基と高分子鎖とを結合させている。ところがこのラジカルが発熱素子の製造後も残存し、高分子鎖の架橋反応をゆっくりと進行させる。この架橋反応は発熱素子の抵抗値の長期間の変化をもたらし、そのうちに発熱素子として使用できない状況となる。熱熔融法でカーボンブラックの代わりに黒鉛を敢えて添加する方法も試みられたが、目的の電導度を得るための黒鉛濃度と、混練条件との間に困難な問題があり、結果として実用化されていない。
【0005】
(2)溶解法
この方法は最初、可変抵抗の改良型の製造に用いられた。導線のコイルを使用する代わりに基板にフェノール樹脂‐黒鉛による抵抗層を形成し、この上を接触子が移動して可変抵抗を形成するものである。この膜形成は、液状のフェノール樹脂に黒鉛を分散させてインクを作り、これをスクリーン印刷などで基板に印刷し、熱硬化により抵抗膜を形成したものである。その後出現した印刷法によるヒーターはこれを出発点としている。フェノール樹脂には未硬化な状態で液状のものがあるので、黒鉛を分散したインクは容易に製造できる。固体高分子の場合は適当な溶媒に溶解してこれに黒鉛を分散させることとなる。
【0006】
非自己温度調節機能型ヒーター(nonSTCヒーター)の場合は溶媒に十分溶解する適当な高分子の種類・分子量の選択が可能である。一方、STCヒーターの場合はその選択がかなり厳しくなる。これは、自己温度調節機能(STC機能)の発現には高分子が結晶性であることが不可欠であるためである。すなわち、STCの機構は高分子物質の融点付近での急激な体積の膨張によって分散されている粒子の間隔が急変し、抵抗値の急増に至ることに依る。無定型高分子の場合はこのような体積の急増はない。
【0007】
結晶性高分子の融点付近の体積の急増によるSTC機能の発現は好ましいが、高分子物質を溶媒へ溶解する観点からは、結晶性の高い高分子物質は好ましくない。高分子物質の溶媒への溶解は印刷等によるヒーター製造には不可欠ではあるが、これにSTC機能を持たせようとすると、使用できる高分子物質は限定されたものになってしまう。特に印刷法による場合は、印刷層の厚みがある程度必要であり、高分子‐カーボン溶媒系における固形分(高分子とカーボン)濃度も50%以上は必要である。この要請からも高分子の溶媒に対する溶解性が厳しく求められるのが、現状である。すなわち、STC機能を発現する高分子物質は数々あるが、溶媒に対する溶解性を満足するものは、限定されてしまう。
【0008】
印刷法によるSTCヒーター製造における、STC機能発現と、組成物のインク化の問題に関して、高分子の結晶性と溶媒への溶解性に対する問題は本発明者の特許文献2にも詳細に記載されている(〔0017〕〜〔0020〕)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11‐241903号公報
【特許文献2】特開平10‐183039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在の発熱素子の製造は熱熔融法か、溶解法によって行われているが、それぞれ固有の欠点があることは上で述べたとおりである。また、熱熔融法においては黒鉛使用の実績は殆ど無く、溶解法においては高分子の溶解性の問題から印刷層の強度が弱いものしかなかった。しかし、どちらの製造方法においても目的としていることは同じである。つまり、高分子中に黒鉛微粒子をほぼ均質に分散させればよいわけである。従来技術では、熱熔融においては黒鉛分散量の増加と共に高粘度となって混練・成型が不可能となり、溶解法においては小数の高分子を除いて溶媒に溶解せず、STCヒーターの製造において大きな障害であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは、黒鉛微粒子の粒径に近似する粒径の高分子を使用することを考えた。この場合のカーボンとは粒度が細かく分布の狭い日本黒鉛工業株式会社のJSP(平均粒径:8.5μm)を想定している。すなわち、カーボンと高分子の粒径をほぼ同程度に細かくした混合系では、黒鉛の粒子と高分子の粒子の不均一化が生じにくいことに着目したのである。この点については、図を参照しながら後述する。この混合した黒鉛微粒子と高分子をホットプレス等による熔着あるいは適当なバインダーを用いて基板に固定すれば自己温度調節を有する発熱素子として機能し、ヒーター、感熱素子等として使用できる。
【0012】
ここで述べる技術は、単純ではあるが実用可能な技術はこれまでに提案されていない。黒鉛‐高分子系の発熱素子を製造するには、高分子中に黒鉛微粒子をほぼ均質に分散させればよいのだが、従来技術では、熱熔融高分子に黒鉛微粒子を添加して混練・分散したり、有機溶媒に溶解した高分子に黒鉛微粒子を混合した系にしてカーボンを分散していた。本発明ではこれらの方法とは別の混合方法を採用し、有機自己温度調節発熱素子に成型する。
【0013】
すなわち、高分子中に黒鉛が分散された有機自己温度調節発熱素子を製造するに際して、高分子及び黒鉛として互いに近似する粒径の高分子微粒子と黒鉛微粒子を混合し、該混合物を粉末状態のまま成型することを特徴とする有機自己温度調節発熱素子の製造方法である。
【0014】
原則として黒鉛の粒径と高分子の粒径が、互いに近似する限り黒鉛及び高分子の粒径は限定されない。ただし、黒鉛の粒径が過度に大きかったり、逆に小さかったりすると発熱素子として以下のような実用上の問題が発生するおそれがある。
【0015】
黒鉛の粒径が過度に小さいと、上述のカーボンブラックの場合と同様な現象が起こる。すなわち、粒子の再凝集が進行し、系の電気抵抗が安定しなくなる。このような粒径の黒鉛は凝集力が強くなると簡単に均質分散を得ることは困難になる。
【0016】
また、黒鉛微粒子の粒径が大きいと、以下の問題がある。一つは系の抵抗値が高くなることである。一般的にカーボン粒子は粒径が小さい方がカーボンの添加量当たりの系の導電性が大きくなると言われており、黒鉛の粒径が大きいと、高い導電性を得るためにより多くの添加量が必要となると考えられる。黒鉛粒子は良く知られているように簡単に劈開できる。また黒鉛と高分子の密着力はそれ程高くない。従って、粒径の大きい黒鉛を用いた場合、ホットプレスにより発熱素子を製造した場合は素子の表面から黒鉛が剥がれ落ちるという問題が生じる。一方、印刷により発熱素子を製造した場合、印刷・乾燥後、印刷層からカーボンが脱落しやすくなるという問題を生ずる。
【0017】
上記の理由から、黒鉛微粒子の粒径は0.3〜500μmとするとよい。より好ましくは1〜200μmであって、さらに好ましくは1〜50μmである。高分子微粒子の粒径は黒鉛微粒子に準ずる粒径とすればよい。後述の実施例1や実施例2で示すが、高分子微粒子の粒径と黒鉛微粒子の粒径はイコールである必要はない。
【0018】
本発明で言う高分子(高分子材料)としては、単体で導電性を持たない有機高分子が挙げられる。そのような高分子としては高分子量ポリエチレン、エチレン‐酢酸ビニル共重合体等のエチレン共重合体、ナイロンなどが例示される。本発明は、優れたSTC機能を有しながらも、良好な溶媒が存在せず、また溶融混練が難しかったために従来、実用化が難しかった超高分子量ポリエチレンや、高分子量ポリエチレンが好適に使用される。例えば、三井化学株式会社のミペロン(平均分子量200万)(登録商標)を使用した場合の抵抗極大(抵抗値が急激な増大を呈する時の温度)は後述の実施例の通り140℃付近であった。抵抗極大を小さくしたい場合は、これより分子量の低いポリエチレンや軟化点の低い他の高分子を適宜選択すればよい。
【0019】
高分子はミリメートルオーダーのペレットを適当な条件下で摩砕機を用いて上記の範囲に収まるように摩砕してもよいし、市販の高分子微粒子を使用してもよい。例えば、三井化学株式会社のミペロン(登録商標)は平均粒径20〜30μmの高分子量ポリエチレンであって、好適に使用することができる。このほか、市販の高分子微粒子としてはDuPont社製の低密度ポリエチレンの微小粒やエチレン‐アクリル酸エステル‐無水マレイン酸‐三種の共重合体、あるいはエチレン‐酢酸ビニル共重合体がある。これらは実用面で前述のミペロンより優れている。また、摩砕機を用いて高分子微粒子を調整する場合は、高分子の粒子同士が摩擦熱で融合してしまうので、液体窒素による極低温下で摩砕操作を行う必要がある。現時点においては重合時に微粒子として得られるものを使用するか、凍結下での摩砕を行うのが通常のプロセスである。
【0020】
本発明では粒径の大きい黒鉛を摩砕して上記の粒径の範囲になるようにしてもよいし、日本黒鉛工業株式会社より市販されているJSP(平均粒径8.5μm)のような市販品を用いてもよい。原料黒鉛を摩砕する場合は、摩砕した黒鉛鉱石等を適当な摩砕機に投入して摩砕すればよい。黒鉛としてはJSPと同程度の導電性があれば人造、天然を問わない。
【0021】
黒鉛と高分子の摩砕は別々に行ってもよいが、摩砕機に黒鉛と高分子を投入して、摩砕と混合を同時に行えば工程を省略することができる。
【0022】
本発明では上述の黒鉛微粒子と高分子微粒子を粉末状態のまま成型する。黒鉛微粒子と高分子微粒子は互いに近似する粒径としてあるので、一度、均一に混合された両微粒子は不均一化するおそれがない。したがって、両微粒子を所望の形体の型枠にそのまま投入し、熱プレスを行えばプレート状やシート状の発熱体を製造することができる。この場合、型枠の底面の基板を高分子と親和性の高い材質とすれば、基板に発熱素子が一体化した素子を形成することができる。
【0023】
成型は必ずしも熱プレスに限定されない。例えば、常温で液体であって、高分子とバインダー溶液中に黒鉛微粒子と高分子微粒子の均一混合物を懸濁(分散)させてインクとし、これを基布や基盤に噴霧、塗布、スクリーン印刷等によりスプレッド後、熱反応でバインダーを重合又は乾燥させてシート状の発熱体としてもよい。
【0024】
バインダーとしては熱硬化型のオリゴマー溶液(反応系接着剤)、溶液系接着剤、水分散系接着剤が使用できる。熱硬化型のオリゴマー溶液としては水溶性エポキシ溶液、油性エポキシ溶液、フェノール溶液(特に未硬化の液体フェノール樹脂)、ウレタンを形成するポリオールとイソシアネート基を有する化合物の溶液などが挙げられる。特に水溶性エポキシ溶液は溶媒として水を使用するため有機溶媒が揮発するおそれもなく、発熱素子の堅牢性も良好であるため、床暖房等に本発明の有機自己温度調節発熱素子を用いる場合に好ましい。酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤も本発明のバインダーとして好適に使用できる。
【0025】
上述の基板としては絶縁体であって、高融点のものが使用可能である。例えばPET、PTT、PBT、PEN、PBNなどのポリエステルフィルム、ポリイミドフィルムが挙げられる。
【0026】
成型には微粒子混合物中の高分子とバインダー分子を含むバインダー溶液を、噴霧、スクリーン印刷、塗布(コーティング)等により基板や基布に対して薄膜状に展開して、シート状の有機自己温度調節発熱素子としてもよい。
【0027】
バインダー溶液に高分子微粒子と黒鉛微粒子を懸濁する場合、溶液に両微粒子が溶解した状態ではなく懸濁された状態となっている。したがって、あまりに長時間、懸濁液を放置すると微粒子が沈殿する傾向にあるが、粒径が小さく、沈澱し難いため大きな問題とはならない。
【発明の効果】
【0028】
導電性を持たない高分子と導電性を有する黒鉛として、互いに近似する粒径の高分子微粒子及び黒鉛微粒子を採用し、両者を混合することで、一度、均一に混合した高分子微粒子と黒鉛微粒子が不均一化するおそれが無くなる。これをそのまま、熱プレスやバインダー溶液等に懸濁して薄膜状に展開すれば、高分子と黒鉛が均一に分散した有機自己温度調節発熱素子を製造することができる。
【0029】
本発明は、従来の熱熔融及び混練作業を介さないため、系の増粘の問題を無視することができる。
【0030】
本発明は、従来のように、インクのバインダー溶液へ溶質としての高分子を溶解するものではなく、懸濁するだけである。高分子と黒鉛の粒径が近似しているため、経時的に両粒子が不均一化するおそれはなく、また微粒子であるため懸濁されている高分子と黒鉛が短時間で沈殿してしまうこともない。
【0031】
本発明によれば、高分子の溶媒への溶解度、増粘の問題を無視できるので広範な範囲から高分子を選択することができる。発熱素子の用途に応じて、最適な高分子の選択が可能になる。また、高分子と黒鉛の比率の調整も自在となる。
【0032】
懸濁液の溶媒として、水溶性溶媒を採用することで、従来のように有機溶媒が人体や環境に及ぼす弊害を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】黒鉛粒子と高分子粒子の各条件における分散の様子を模式的に示した図である。図中の黒点は黒鉛微粒子を示し、白丸は高分子の粒子を示す。(a)は黒鉛微粒子に比して粒径の小さい高分子に黒鉛微粒子を添加した際の様子を示した模式図である。(b)は黒鉛微粒子に比して粒径の大きい高分子に黒鉛微粒子を添加した際の様子を示した模式図である。(c)は黒鉛微粒子に比して粒径の大きい高分子に多量の黒鉛微粒子を添加した際の様子を示した模式図である。
【図2】実施例1の発熱素子を用いたシート状の発熱体の斜視図である。
【図3】超高分子量ポリエチレン(ミペロンXM‐221U、平均分子量200万、平均粒径20〜30μm)と黒鉛(日本黒鉛JSP、平均粒径8.5μm)からなる発熱素子(実施例6)の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。グラフ中の「wt%」は黒鉛の添加量(重量%)を示す。
【図4】ポリエチレン(宇部興産UM8300、平均粒径200μm)と黒鉛(平均粒径8.5μm)からなる発熱素子(実施例7)の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。グラフ中の「wt%」は黒鉛の添加量(重量%)を示す。また、グラフ中の上向きの矢印は温度上昇時の抵抗値を指し、下向きの矢印は温度下降時の抵抗値を指す。
【図5】ポリエチレン(UM8122、平均粒径560μm)と黒鉛(平均粒径8.5μm)からなる発熱素子(比較例4)の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。グラフ中の「wt%」は黒鉛の添加量(重量%)を示す。
【図6】実施例8の発熱素子の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。
【図7】実施例9の基板に印刷した発熱素子の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。
【図8】実施例10の基板に印刷した発熱素子の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。
【図9】実施例11で作製したヒーターの正面図である。
【図10】実施例11で作製したヒーターの通電時間と発熱温度の関係を示したグラフである。
【図11】実施例12で作製したヒーターの正面図である。
【図12】実施例12の基板に印刷した発熱素子の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。
【図13】低密度ポリエチレン(DuPont社製HX1681、平均粒径11μm)と黒鉛(平均粒径8.5μm)からなる発熱素子(実施例13)の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。
【図14】低密度ポリエチレン(DuPont社製HA1591、平均粒径9.8μm)と黒鉛(平均粒径8.5μm)からなる発熱素子(実施例14)の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。グラフ中の「wt%」は黒鉛の添加量(重量%)を示す。
【図15】エチレン‐アクリル酸エステル‐無水マレイン酸‐三種の共重合体(DuPont社製TB3580、平均粒径18μm)と黒鉛(平均粒径8.5μm)からなる発熱素子(実施例15)の発熱素子の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。
【図16】エチレン‐酢酸ビニル共重合体CB3547(DuPont社製、平均粒径40μm)と黒鉛(平均粒径8.5μm)からなる発熱素子(実施例16)の発熱素子の温度と抵抗値の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、高分子微粒子1と黒鉛微粒子2の分散状況について図1を参照しながら説明する。図1の(a)は黒鉛微粒子2に比して粒径の小さい高分子微粒子1に黒鉛微粒子2を添加した際の様子を模式的に示した図である。この場合のように、高分子微粒子1が黒鉛微粒子2に対して十分小さく、高分子の濃度がカーボンよりも高い場合、黒鉛微粒子2は高分子微粒子1に対して均一に分散した状態になる。
【0035】
図1の(b)は黒鉛微粒子2に比して粒径の大きい高分子微粒子1に黒鉛微粒子2を添加した際の様子を模式的に示した図である。この場合のように、黒鉛微粒子2に対して高分子微粒子1が大きい場合であっても、黒鉛微粒子2の添加量が高分子微粒子1の量に対して少なければ、高分子微粒子1同士の間隙は小さいながらも、系全体としてみた時に、黒鉛微粒子2が均一に分散した状態が保たれる。
【0036】
一方、図1の(c)は黒鉛微粒子2に比して粒径の大きい高分子微粒子1に多量の黒鉛微粒子2を添加した際の様子を模式的に示した図である。この場合、高分子微粒子1同士の間隔は小さく、そこに黒鉛微粒子2が密集した状態となる。この系を撹拌したとしても、黒鉛微粒子2が存在し得るスペースは限られているため、黒鉛微粒子2が密集した状態は改善されない。
【0037】
図1(c)のように黒鉛微粒子2が局所的に濃く存在する場合、系全体で見た場合、物理的強度の減少を招く。すなわち、高分子微粒子1の間隙に多くの黒鉛微粒子2が密集すると、黒鉛微粒子2同士の結合力は高分子微粒子1に比して弱いので系全体がまとまらなくなるのである。また、このように黒鉛微粒子2が局所的に密集した状態では、系全体の抵抗値の再現性がなくなってしまう。
【0038】
高分子微粒子1の粒径が黒鉛微粒子2の粒径に匹敵する程度の粒径であれば、図1(c)のような不均一な分散は生じ得ない。ここで、高分子微粒子1の粒径に合わせて黒鉛微粒子2を巨大化させることも想定されるが、黒鉛微粒子2の巨大化は導電性能の低下につながるし、また、点圧に対して物理強度が低下してしまうので好ましくない。
【0039】
以下、実施例に基づいて、本発明の具体的実施形態について説明する。
【0040】
[実施例1]、[比較例1]
表1に示す粒径の黒鉛微粒子及びポリエチレン(平均分子量50万)のペレット(高分子原料)をアルミナボール入りのボールミルに投入して、ボールミルで10時間にわたって摩砕を行った。ボールミルから取り出した黒鉛微粒子及びポリエチレン微粒子の平均粒径を表1にまとめた。実施例1のボールミルには、液体窒素を投入して摩砕を行った。
【0041】
【表1】

【0042】
停止したボールミルから、混合物を取出してアニリン中に投じて比重差を利用して2種の粒子を分離し、粒径を計測したところ、ボールミルに液体窒素を投入した実施例1では、3時間の摩砕で平均粒径23μmの黒鉛微粒子及び平均粒径20μmの高分子微粒子が得られた。一方、常温の粉砕においては、高分子ペレットはカッターやピンによる粉砕を施すと摩擦熱で溶融してしまう事は良く知られている。また、高分子ペレットはその弾性のためボールミルでは粉砕できないことは予知できるが念のために比較例1として行った。予測通り高分子ペレットが粉砕されないので作業を中止した。
【0043】
[実施例2〜5]、[比較例2、3]
次に、黒鉛とポリエチレン(平均分子量50万)のペレットを別々にボールミルで摩砕して表2に示した粒径の黒鉛微粒子およびポリエチレンの微粒子を得た(実施例2、実施例3、比較例2、比較例3)。また、実施例4として平均粒径150μmのナイロン6微粒子(平均分子量60万)を、実施例5として平均粒径380μmのエチレン‐酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量:10wt%)微粒子を調整した。粒径はボールミルの摩砕時間の長短により調節した。これら高分子の微粒子と黒鉛微粒子を表2に示される組み合わせで混合した(混合比率は黒鉛:ポリエチレン(その他の高分子)=1:9)。なお、ポリエチレン及びナイロンの摩砕は、液体窒素の存在下でおこなった。これらの混合物をプレス容器に入れ、ホットプレスして図2に示した有機自己温度調節発熱素子3(発熱素子)を作製した(縦10mm、横40mm、厚さ2mm)。プレス条件は次のように行った。まず有機自己温度調節発熱素子3を加熱する前に2トンのプレスを約10分間行い、昇温後130℃で2トンのプレスをかけた。さらに150℃で短時間、軽くプレスして、155℃になった時点で加熱をやめて室温になるまで静置した。その後、藤倉化成株式会社の銀ペースト(DOTITE D550)(登録商標)を塗布して電極4とした。銀ペーストは図2に示されているように、プレートの左縁部分及び右縁部分にプレートの上面から側面を介して下面に連続して塗布した(塗布は左端、右端に2mm幅で塗布)。
【0044】
実施例2〜5及び比較例2、3の有機自己温度調節発熱素子3の電極4に電源を接続し、AC100Vを通電して、発熱素子の品質評価を行った。比較例2は通電すると黒鉛微粒子が発熱素子の表面から次々と剥がれ落ちてしまい実用に耐えなかった。比較例3は黒鉛微粒子の剥離はなかったが、通電した場合、抵抗値が不安定で実用に耐え得るものではなかった。具体的には比較例3をSTCヒーターとして使用した場合は、最大温度が安定せずSTCヒーターと言えるものにはならなかった。この問題は1か月、2か月と製造後の時間が経過するにつれてより顕著に現れることがわかった。実施例2、3、4及び5は上記の比較例のような実用上の問題はなく、自己温度調節機能も十分であった。実施例2、3、4、5の順番で耐久性や耐用期間の点で優れていた。ヒーターをスクリーン印刷で製造する場合、粒子が粗いとスクリーンを抜けず、またスクリーンの目詰まりの原因となった。したがって、スクリーン印刷においては、粒子は300μmを越えるものは望ましくないことが判明した。これに対してコーティングによるヒーター成型ではスクリーン印刷よりは大きな粒子が使用でき、コーティング膜が厚ければ約500μmまでの粒子が使用に耐えることが判明した。
【0045】
【表2】

【0046】
[実施例6]
次に、市販の黒鉛微粒子及び高分子微粒子を使用して発熱素子を作製した。黒鉛の粒径は上記の実施例2〜5のうち、結果が良好であった実施例2の黒鉛の粒径に近い日本黒鉛工業株式会社の人工黒鉛JSP(平均粒径8.5μm、以下「JSP」と称する)を選択した。本実施例6では、JSPに粒径の近い三井化学株式会社の高分子量ポリエチレン微粒子のミペロン(XM‐221U、平均粒径20〜30μm、平均分子量200万、以下「ミペロン」と称する)(登録商標)を組み合わせた。このJSPとミペロンを図3のグラフに示したそれぞれの重量比(重量%)になるように計量し、ボールミルに投入した。更に所定量の直径3mmのアルミナボールを入れ、全体が液面下に沈むように、1:1容量比の水‐エタノール混合溶液を入れ、150rpmで30分間回転して、均一に混合した。アルミナボールの量はボール間の空隙に黒鉛(JSP)とポリエチレン(ミペロン)が充填できるように計算した。終了後メッシュで混合物とボールとを分離し、ブフナーロート上で混合物と濾液を分離し、乾燥機で乾燥した。
【0047】
乾燥混合物を実施例1と同様の方法でホットプレスして発熱素子3とした。発熱素子3の温度‐電気抵抗曲線を求め、結果を図3に示した。図3からわかるようにそれぞれの黒鉛(JSP)濃度において、だいたい120℃を越えると抵抗が指数的に急増し、優れた自己温度調節機能が発現されているのがわかる。このように粒子の混合分散による系においても自己温度調節ヒーターを製造することが可能であることが実証された。
【0048】
[実施例7]
次に、実施例6のミペロンよりも粒径が大きい、宇部興産株式会社のポリエチレン微粒子(高分子量ポリエチレン、UM8300、平均粒径200μm)を使用して有機自己温度調節発熱素子3を製造した。UM8300はミペロンに比べると粒度が大きく、粒度分布も広い。なお、UM8300の正確な分子量は不明であるが、図4のグラフから明らかなようにミペロンに比べてUM8300の抵抗値の変曲点は低温よりである。したがって、UM8300の分子量はミペロンより低分子であるといえる。この高分子微粒子に黒鉛(JSP)微粒子を分散させるためにスターラーを使用して、3時間程度混合した。混合は容量比1:1の水‐エタノール溶液を加え撹拌した。撹拌終了後、実施例1と同様にブフナーロートで濾過し、乾燥した。乾燥後のホットプレスの操作は実施例1と同じであるが、本実施例の方が高分子の融点が低いので、その点を考慮した。有機自己温度調節発熱素子の形状および電極の配置ついては実施例1と同様とした。
【0049】
それぞれの黒鉛(JSP)濃度におけるJSP‐UM8300系の発熱素子3の温度と抵抗の関係を図4に示した。図4中の上下方向の矢印は温度上昇時と温度下降時の抵抗値の変化である。図4から明らかなように黒鉛濃度が低い場合(14重量パーセント以下)で明確なスイッチング機能(約80℃付近)が観察された。一方、JSP濃度が14%や12%の場合は昇温曲線に抵抗極大値がかろうじて確認できる程度である。JSP濃度が12%より低い場合は抵抗値が測定限界(100MΩ)を越えてしまう。一方JSP濃度が22%を越えると、抵抗値の増加は鈍くなり、スイッチング現象は殆ど検出できなくなってしまった。これらの現象は図1(c)で述べたように、JSPの細かい粒子がUM8300の大きな粒子の隙間に入り込み、JSPの局所濃度を増加させていることに起因すると思われる。
【0050】
[比較例4]
高分子材料として宇部興産株式会社の粉末ポリエチレン(UM8300)より更に平均粒径の大きい高分子量ポリエチレン、UM8122(平均粒径560μm、平均分子量100万)を使用して有機自己温度調節発熱素子3を製造した。なお、UM8122の正確な分子量は不明であるが、図5のグラフから明らかなようにUM8122の抵抗値の変曲点はミペロンに比べて低温よりである。したがって、UM8122の分子量はミペロンより低分子であるといえる。発熱素子3の作製方法や測定方法は実施例2と同じであるが、黒鉛(JSP)の濃度が高い場合はプレス後の粒子間の接着力がやや欠けていて、試料が破壊されやすくなってしまった。それぞれの黒鉛(JSP)濃度における温度と抵抗の関係を図5に示した。実施例6及び7と比較すると顕著な傾向が見られる。すなわち、ポリエチレンの平均粒径を200μmとした実施例2においては明確なスイッチング現象はJSP濃度14%以下で現れたが、平均粒径560μmの本実施例においては明確なスイッチングが現れる黒鉛(JSP)濃度は極端に低下して3パーセント以下となった。本実施例でスイッチング機能が明確に現れる黒鉛(JSP)濃度においては抵抗値が測定限界の100MΩを越えてしまった。これらの現象も前述のように大きなUM8122粒子の隙間に細かなJSP粒子が入り込みJSPの局所濃度を増加させていることに起因すると思われる。
【0051】
[実施例8]
ミペロン90.5重量%に対して9.5重量%の黒鉛(JSP)をボールミルで分散混合し、この組成物を一液タイプのエポキシ‐メシチレン溶液に分散させ、スクリーン印刷で30μm厚のポリイミドフィルムに印刷し、横100mm、縦40mm、厚さ40μm、電極間30mmの有機自己温度調節発熱素子3を作製した。この素子の温度‐抵抗曲線を図6に示す。本実施例においても実施例6と同様に優れた自己温度調節機能が発現しているのがわかる。
【0052】
[実施例9]
ポリエチレン(UM8300)88重量%に対して12重量%の黒鉛(JSP)をボールミルで分散混合し、この組成物を水溶性エポキシ溶液(ポリグリセリンポリグリシジルエーテル)に分散させ、スクリーン印刷で100μm厚のPETフィルムに印刷し、その後加熱して横100mm、縦40mm、厚さ40μm、電極間30mmの有機自己温度調節発熱素子3を作製した。この素子の温度‐抵抗曲線を図7に示す。本実施例においても実施例7と同様に優れた自己温度調節機能が発現しているのがわかる。また、本実施例の発熱素子3は製造後に置いてもなお残存する微量有機溶媒の環境への蒸発拡散がなく、室内用ヒーター用の発熱素子として好適に利用することができた。
【0053】
[実施例10]
ミペロンを62.6重量%とUM8300を26.9重量%と黒鉛(JSP)を10.5重量%とをボールミルで分散混合した以外は実施例9と同様の条件で有機自己温度調節発熱素子3を作製した。この素子の温度‐抵抗曲線を図8に示す。この有機自己温度調節発熱素子3では80℃を超えた辺りから温度抵抗曲線にプラトーな部分が現れる。これは低温側に極大値を持つUM8300と高温側に極大値を持つミペロンの抵抗値の変化のパターンが重なって現れたものである。本実施例では印刷基板がPETフィルムであるので測定温度が100℃を越えた辺りで測定を止めたが、より高温に耐える素材を基板にした際にはミペロン(XM‐221U)による第2の変曲点(抵抗値がプラトーになる部分)が観察される。本実施例の黒鉛‐高分子組成部よりヒーターを作製すれば、80℃近辺で抵抗値が1桁増加しているので80℃より下の温度で温度調節が行われる。
【0054】
[実施例11]
実施例8(図6)において作成した印刷インクを使用して厚さ30μmのポリイミドを基板に対して有機自己温度調節発熱素子3を印刷した。この発熱素子3を使用して作製したヒーター7を図9に示す。具体的には発熱素子3は縦110mm、横120mm、厚さ40μmとした。発熱素子3に銀ペーストを幅5mmで横方向に4本塗布して電極4とした。この発熱素子3の下部に厚さ30mmの発泡ポリスチレンを、上部にポリエステル製の厚さ5mmのフェルトを置いて断熱材とし、導線6を介してAC100Vを通電した。通電時間と発熱温度の関係を図10のグラフに示した。図10から明らかなように、本実施例のヒーター7は100℃付近にて自己温度調節機能を有していることがわかる。
【0055】
[実施例12]
実施例10(図8)で使用したインクを用い、厚さ75μmのPETフィルムを基板とし、これにスクリーン印刷して膜厚40μmの印刷層(発熱素子3)を形成した。この発熱素子3を使用したヒーターの構成を図11に示した。発熱素子3は縦110mm、横120mm、厚さ40μmとした。発熱素子3に銀ペーストを幅5mmで塗布して電極4とした。この発熱素子3の上下に厚さ50mmの高密度発泡ポリエチレンを置いて断熱材5とし、AC100Vの電圧を印加した。通電時間と発熱温度の関係を図12に示した。図12から明らかなように、通電後約20分でほぼ一定温度に達した。本実施例のヒーター7は約60℃付近において自己温度調節機能を有していることがわかる。
【0056】
[実施例13〜16]
以下の実施例には、カーボンは日本黒鉛JSPを使用したので、これまでの実施例と同様であるが、高分子微粒子は表3に示したDuPont社製(Coathylene)の4種の製品を使用した。表3中HX1681及びHA1591は低密度ポリエチレンの微小粒である。TB3580はエチレン‐アクリル酸エステル‐無水マレイン酸‐三種の共重合体微粒子であり、最後のCB3547はエチレン‐酢酸ビニル共重合体微粒子である。
【0057】
【表3】

【0058】
これら4種の高分子微粒子の各々に対して、所定量の黒鉛、JSPを、バインダーを溶解した溶液に分散させ、予め銀ペーストで電極を印刷しておいた生地にスクリーン印刷し乾燥してSTCヒーターを作成した。表3の内の一つの高分子に対する黒鉛の割合は、ヒーターの使用電圧、電極間距離によって変わる。例えば使用電圧100V、電極間距離〜75mmとした場合は、黒鉛‐高分子系に対する黒鉛濃度は30〜45%程度となる。バインダーは、添加最低量としては、メインポリマー粒子と黒鉛粒子が基板から脱落しなければよい。しかし、添加量が余り多くなるとSTC機能が低下してくる。従ってバインダーの固形分(高分子、黒鉛およびバインダー)に対する割合は3〜50%の範囲となる。バインダーは基本的にはどのようなバインダーでもよいが、溶媒に可溶なもので溶媒が除去された後粒子を基板に固定するものならば基本的には使用可能である。添加量が少ないので自己温度調節発熱体の高分子として以前期待されていたエチレンと他のモノマーとの共重合体も使用できる。
【0059】
溶媒は、高分子を溶解する必要はないのでどのような溶媒でも原則的には使用可能である。然し印刷上の問題としては次の二つを考慮する必要がある。第一は溶媒の沸点が低いと印刷にムラが現れる。従って沸点としては150〜200℃が適当である。第二の点はこれらの系は無極性であるので静電気を帯電しやすい。これが印刷上の問題となることもあり得る。このような場合には溶媒に極性の成分を添加すれば対処できる。アルコール、ケトン、エステル類を候補として上げることができる。但し、静電気の問題は極性成分を添加しなくても対処することは可能である。本実施例の溶媒としては酢酸n‐アミルを使用した。
【0060】
図9に示されるPETフィルムに予め銀電極を設けた生地に、表4に示された4種類のインクを印刷し、作成したヒーターの温度と抵抗の関係を図13から図16に示した。今回バインダーとしては酢ビ系のサワノール(デンカ製、登録商標)を使用した。低密度ポリエチレン粒子の高分子(HX1681およびHA1591)の場合の優れた温度‐抵抗特性が、図13および図14に示されている。また各昇降温サイクルの再現性にも優れている。図15の実施例15のエチレン‐アクリル酸エステル‐無水マレイン酸‐三種の共重合体TB3580の結果も前述の2個の高分子についで良好である。ここで、実施例16のエチレン‐酢酸ビニル共重合体CB3547は、図16に示すように昇降温サイクルの再現性が上記3種に比較するとやや劣るが、使用には差し支えない程度に優れている。
【0061】
【表4】

【0062】
実用的な観点から高分子微粒子としては、低密度ポリエチレン粒子の高分子(HX1681およびHA1591)がすぐれ、なかんずくHA1591が扱いやすいように思われる。これら2種の低密度ポリエチレン系の高分子が優れている理由は、粒度分布にあると考えられる。4種のメインポリマーおよび黒鉛JSPの粒度の、それぞれ10%、50%および90%累積%を表5に示した。
【0063】
【表5】

【0064】
表5から解るように、実施例16のCB3547の高分子粒子径は、黒鉛JSPの粒度分布からずれている。ところが実施例13の低密度ポリエチレンHX1681及び実施例14の低密度ポリエチレンHA1591の粒度分布は黒鉛JSPのそれに近いことが分かる。なかんずく後者のHA1591の粒度分布は最も黒鉛JSPに近い。これが、低密度ポリエチレンHA1591が最も実用性に富んでいる理由と考えられ、高分子の結晶性がほぼ同じならば、その種類よりもいかに両者の粒度分布を合わせるかによって、実用性が左右されるかが伺える。
【0065】
本発明は高分子と黒鉛微粒子を熱熔融によって混練したり、溶媒へ高分子を溶解させてそこに黒鉛微粒子を分散させたりする方法によるものではない。本発明は高分子微粒子と黒鉛微粒子の粒径をそろえて粒体のまま均一混合してそのままホットプレスにより成型するか、該混合物を液体に分散(懸濁)してそのまま印刷して成型するものである。よって、溶媒への溶解度や混練時の増粘による制限を受けない。このため、実施例に示したように用途に応じて、黒鉛微粒子や高分子微粒子の添加量を自由に選択することができる。実施例2〜5で示したように分子種の選択も自在であるし、実施例8のミペロンや実施例9のUM8300のように分子量の選択も自在である。
【0066】
また、実施例11及び12に示したように、本発明の発熱素子はヒーターとして好適に利用され、床暖房や給排水管、バルブ等の凍結防止用ヒーター、コーヒーポットのヒーター等として利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 高分子粒子
2 黒鉛微粒子
3 有機自己温度調節発熱素子(発熱素子)
4 電極
5 断熱材
6 導線
7 ヒーター



【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子中に黒鉛が分散された有機自己温度調節発熱素子を製造するに際して、高分子及び黒鉛として互いに近似する粒径の高分子微粒子と黒鉛微粒子を混合し、該混合物が均一に混合された微粒子状態のまま成型することを特徴とする有機自己温度調節発熱素子の製造方法。
【請求項2】
黒鉛微粒子と高分子微粒子の平均粒径は0.3μm〜500μmの範囲である請求項1記載の有機自己温度調節発熱素子の製造方法。
【請求項3】
高分子微粒子と黒鉛微粒子は、高分子原料と黒鉛原料を摩砕して得られるものであって、高分子原料と黒鉛原料の摩砕は、摩砕機に高分子原料、黒鉛原料及び液体窒素を投入して極低温で摩砕・混合する請求項1又は2のいずれかに記載の有機自己温度調節発熱素子の製造方法。
【請求項4】
高分子微粒子と黒鉛微粒子の混合物は、熱プレスによりシート状に成型される請求項1〜3のいずれかに記載の有機自己温度調節発熱素子の製造方法。
【請求項5】
高分子微粒子と黒鉛微粒子の混合物を、微粒子混合物中の高分子とバインダー分子を含むバインダー溶液に分散させてインクとし、該インクを用いて基板に印刷してシート状に成型する請求項1〜4のいずれかに記載の有機自己温度調節発熱素子の製造方法。
【請求項6】
バインダー溶液は水溶性エポキシである請求項5記載の有機自己温度調節発熱素子の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−103294(P2011−103294A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230455(P2010−230455)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(509285414)
【出願人】(598001375)
【Fターム(参考)】