説明

有機酸含有排ガス処理用触媒および有機酸含有排ガス処理方法

本発明は、排ガス中の酢酸などの有機酸を長期にわたり、高い除去効率をもって、分解除去し得る有機酸含有排ガス処理用触媒、およびこの触媒を用いた処理方法を提供するものである。本発明は、La、Ce、PrおよびWからなる群より選ばれる金属、該金属の酸化物、ならびに該金属の複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒成分(A)、ならびにPt、Pd、Rh、Ru、IrおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属成分(B)を含有する、有機酸含有排ガス処理用触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸含有排ガス処理用触媒、その製造方法および有機酸含有排ガス処理方法に関し、詳しくは化学プラントなどから排出される、酢酸などの有機酸を含有する排ガスの処理に用いるに好適な触媒、その製造方法およびこの触媒を用いた酢酸などの有機酸を含有する排ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナなどの担体に白金などの貴金属を担持した触媒を用いて排ガスを処理することは一般によく知られている。例えば、特開2000−107602号公報には、酸素過剰な排ガス中の未燃炭化水素を酸化処理するための触媒として、アルミナに先ず白金を担持させ、一度焼成した後、パラジウムを担持させて得られる、アルミナに白金とパラジウムとを担持させた触媒が記載されている。特開2005−144321号公報には、ハロゲン化合物を含有する排ガスを処理するための触媒として、アルミナなどの酸化物に白金などの白金族元素とカルシウムなどの周期律表第II属元素とを担持した触媒が記載されている。
【0003】
化学プラントなどから排出される排ガス中に含まれる酢酸などの有機酸を分解するための触媒としては、例えば、特開2000−288347号公報には、(A)Ti、SiおよびZrから選ばれる2種以上の金属の複合酸化物、(B)Cu、V、WおよびCrから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物、および(C)Pd、Pt、Rh、IrおよびRuから選ばれる少なくとも1種の金属またはその酸化物を含有する触媒が記載されている。特開2005−270872号公報には、チタン系酸化物にPt、Pd、Rh、Ru、IrおよびAuから選ばれる少なくとも1種の貴金属を担持した触媒が記載されている。
【発明の開示】
【0004】
前記文献に記載のような、従来から一般に知られている触媒に関していえば、排ガス中の酢酸などの有機酸を、工業的に充分満足できる程度まで、長期にわたり効率よく分解できる段階にまで、その性能が改善されているとはいえない。
【0005】
特に、特開2000−288347号公報では、複合酸化物に触媒B成分を含む水溶液を加えて押出成形機でハニカム状に成形、乾燥し、焼成することによって、あるいは複合酸化物をハニカム状に成形した後に、触媒B成分の水溶液中に浸漬、乾燥し、焼成することによって得られた成形体を貴金属溶液に含浸させることにより、触媒を製造している。また、特開2005−270872号公報でも、上記特開2000−288347号公報と同様、チタン系酸化物の粉末に、触媒活性種源の水溶液を加え、混合、混錬しつつ加熱して水分を蒸発させ、押出し可能なペースト状とし、これを押出し成形機でハニカム状に成形した後、乾燥、焼成することによって、あるいはチタン系酸化物の粉末を予め適当な形に成形し、焼成した後、触媒活性種源の水溶液中に含浸させることによって得られた成形体を貴金属溶液に含浸させることにより、触媒を製造している。
【0006】
このような方法によって製造される触媒では、貴金属が当該触媒の表面に主に存在するのみであり、当該触媒の内部にまで所望の触媒成分が実質的に均一に配置しえない。このため、このような触媒を長期間にわたって使用すると、活性成分が凝集しやすいため、所望の活性を維持しえない。
【0007】
本発明の目的は、排ガス中の酢酸などの有機酸を長期にわたり、高い除去効率をもって、分解・除去し得る触媒およびこのような触媒を簡便に製造できる方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、この触媒を用いて排ガス中の酢酸などの有機酸を長期にわたり、高い除去効率をもって、分解除去する処理方法を提供することにある。
【0009】
上記課題は、La、Ce、PrおよびWからなる群より選ばれる金属、該金属の酸化物、ならびに該金属の複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒成分(A)、ならびにPt、Pd、Rh、Ru、IrおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属成分(B)を含有する、有機酸含有排ガス処理用触媒により達成される。
【0010】
本発明の有機酸含有排ガス処理用触媒(本発明では、単に「本発明の触媒」ともいう。)は、排ガス中の有機酸の分解効率が高く、しかも耐久性に優れたものである。したがって、本発明の触媒を用いることにより、排ガス中の有機酸を高効率で、長期にわたり安定して分解・除去することができる。
【0011】
本発明のさらに他の目的、特徴および特質は、以後の説明および添付図面に例示される好ましい実施の形態を参酌することによって、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】触媒(1)のEPMA分析チャートである。
【図2】触媒(4)のEPMA分析チャートである。
【図3】触媒(6)のEPMA分析チャートである。
【図4】触媒(8)のEPMA分析チャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第一は、La、Ce、PrおよびWからなる群より選ばれる金属、該金属の酸化物、ならびに該金属の複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒成分(A)(本発明では、単に「触媒成分(A)」ともいう)、ならびにPt、Pd、Rh、Ru、IrおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属成分(B)(本発明では、単に「貴金属成分(B)」ともいう)を含有する、有機酸含有排ガス処理用触媒を提供するものである。本発明の触媒を使用することにより、排ガス中の有機酸を高い効率で分解でき、また、長期間にわたって優れた触媒活性を維持できる。
【0014】
特に本発明の有機酸含有排ガス処理用触媒は、耐火性無機酸化物の層が耐火性三次元構造体に担持(形成)されてなり、この際、触媒成分(A)および貴金属成分(B)が当該耐火性三次元構造体に担持(形成)された耐火性無機酸化物の層中に実質的に均一に存在している(本発明の触媒の表面から内部に向かって実質的に均一に存在している)ことが好ましい。上記成分のうち、貴金属成分(B)が従来の方法によるように、触媒表層に偏在する場合には、表層の貴金属が高濃度な状態となるため、使用中に貴金属が凝集し、触媒活性の低下が起こる。これに対して、このような態様によると、反応に寄与する触媒成分(A)及び(B)が触媒の表面のみでなく内部にも実質的に均一に存在している。貴金属成分(B)は、触媒表面に高濃度に存在していないため、使用中に貴金属成分(B)の凝集が触媒表面で起こらず、ゆえに触媒活性の低下が有意に抑制・防止されうる。また、触媒成分(A)は、助触媒として作用するが、貴金属成分(B)と共に、触媒表面から内部にかけて実質的に均一に存在するため、触媒成分(A)は助触媒として貴金属成分(B)の活性及び耐久性の向上を有効に促進できる。このため、触媒を長期間にわたって使用しても、貴金属の凝集による活性低下を抑制でき、長期間にわたって優れた触媒活性を発揮しうる。ゆえに、本発明の触媒を使用すると、排ガス中の有機酸をより高い効率で分解でき、また、長期間にわたってより優れた触媒活性を維持できる。
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
1.触媒成分(A)
触媒成分(A)は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる金属、上記金属の酸化物、ならびに上記金属の複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。ここで、上記触媒成分(A)は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。本発明では、触媒成分(A)の添加により、有機酸除去率、耐久性が向上する。これらのうち、触媒成分(A)は、La、Ce、W;これらの金属酸化物の少なくとも一種を含むことが好ましく、W、Ce、これらの酸化物の少なくとも一方を含むことがより好ましく、特にCeのみ、Wのみ、W及びLaとの組み合わせ、W及びCeとの組み合わせが好ましい。
【0017】
本発明において、触媒成分(A)の含有量は、特に制限されず、所望の効果(例えば、有機酸の処理活性など)を考慮して適宜選択される。本発明では、触媒成分(A)は、下記に詳述される耐火性無機酸化物と組合わせて使用されることが好ましく、この場合には、耐火性無機酸化物と混合された状態であってもあるいは耐火性無機酸化物に担持された形態であってもいずれでもよい。また、触媒成分(A)の量(金属酸化物に換算した量)は、特に制限されないが、通常、触媒成分全体の合計重量(即ち、触媒成分(A)、貴金属成分(B)及び耐火性無機酸化物の合計重量)100重量部に対して、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは0.5〜40重量部、さらにより好ましくは1〜40重量部である。ここで、触媒成分(A)の量が下限を下回ると、触媒成分(A)と貴金属成分(B)との相互作用が低下し、その結果、高い有機酸除去率や耐久性が得られなくなる可能性がある。また、得られる触媒の耐熱性が低下するおそれがある。これに対して、触媒成分(A)の量が上限を超えると、触媒全体の比表面積の低下などにより貴金属成分(B)の分散性が低下し、高い有機酸除去率と耐久性が得られなくなる可能性がある。また、触媒の酸化活性が低下するおそれがある。
【0018】
2.貴金属成分(B)
貴金属成分(B)は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)および金(Au)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。ここで、上記貴金属成分(B)は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。本発明では、貴金属成分(B)の添加により、触媒の酸化活性、有機酸除去率、耐久性が向上する。これらのうち、貴金属成分(B)は、Pt、Pd、Rhの少なくとも一種を含むことが好ましく、Pt、Pdの少なくとも一方を含むことがより好ましく、特にPtのみ、Pt及びPdとの組み合わせが好ましい。
【0019】
本発明において、貴金属成分(B)の含有量は、特に制限されず、所望の効果(例えば、触媒の酸化活性、有機酸の処理活性など)を考慮して適宜選択される。本発明では、貴金属成分(B)は、下記に詳述される耐火性無機酸化物と組合わせて使用されることが好ましく、この場合には、耐火性無機酸化物と混合された状態であってもあるいは耐火性無機酸化物に担持された形態であってもいずれでもよいが、好ましくは耐火性無機酸化物に担持された形態である。また、貴金属成分(B)の量(その貴金属自体の量)は、特に制限されないが、通常、触媒成分全体の合計重量(即ち、触媒成分(A)、貴金属成分(B)及び耐火性無機酸化物の合計重量)100重量部に対して、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.02〜3重量部、さらにより好ましくは0.1〜3重量部である。このような範囲で貴金属成分(B)を使用すると、十分な有機酸分解・除去能、耐久性が達成できる。ここで、貴金属成分(B)の量が下限を下回ると、貴金属成分(B)の酸化活性が十分でなく、その結果、高い有機酸除去率や耐久性が得られなくなる可能性がある。これに対して、貴金属成分(B)の量が上限を超えると、添加に見合った触媒の酸化活性の向上が得られず、逆に原料コストの増大を引き起こすおそれがある。
【0020】
また、本発明において、触媒成分(A)と貴金属成分(B)との存在比(重量比)は、特に制限されず、所望の効果(例えば、触媒の酸化活性、有機酸の処理活性など)を考慮して適宜選択される。好ましくは、触媒成分(A)と貴金属成分(B)との存在比(触媒成分(A)の金属酸化物に換算した重量:貴金属成分(B)の貴金属自体の重量の比)は、0.1〜500:1、より好ましくは0.4〜400:1である。触媒成分(A)及び貴金属成分(B)がこのような割合で存在すると、本発明の触媒は、有意に優れた有機酸分解・除去能、耐久性を発揮することができる。
【0021】
3.耐火性無機酸化物
本発明の有機酸含有排ガス処理用触媒は、上記触媒成分(A)及び貴金属成分(B)を必須に含むが、上記2成分に加えて、耐火性無機酸化物を含むことが好ましい。この際、耐火性無機酸化物としては、特に制限されないが、具体的には、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)等の金属;アルミナ(Al)、活性アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア等の、上記金属の酸化物;ならびに上記金属の複合酸化物などが挙げられる。これらのうち、アルミナ、活性アルミナ、ジルコニア、セリアなどの上記金属を含む酸化物、特にアルミニウムを含む耐火性無機酸化物(アルミナ、活性アルミナ、特にアルミナ)が好ましい。これらの耐火性無機酸化物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0022】
本発明の触媒が耐火性無機酸化物を含む場合の耐火性無機酸化物の量は、触媒成分(A)及び貴金属成分(B)による作用を妨げない限り、特に制限されない。好ましくは、耐火性無機酸化物の量は、触媒成分全体の合計重量(即ち、触媒成分(A)、貴金属成分(B)及び耐火性無機酸化物の合計重量)100重量部に対して、45〜99.49重量部、より好ましくは47〜99.49重量部、さらにより好ましくは47.5〜99.4重量部である。
【0023】
耐火性無機酸化物は、その形状や比表面積など特に制限されないが、所望の触媒成分(A)及び貴金属成分(B)を高分散(場合によっては、高分散担持)させることが好ましい。耐火性無機酸化物は、例えば、粒状、微粒子状、粉末状、円筒状、円錐状、角柱状、立方体状、角錐状、不定形などの形状をとることができる。好ましくは、耐火性無機酸化物は、粒状、微粒子状、粉末状である。耐火性無機酸化物が粒状、微粒子状、粉末状である際の耐火性無機酸化物の平均粒径は、特に制限されないが、例えば、0.1〜100μm、より好ましくは1〜50μmの範囲であることが好ましい。このような範囲であれば、十分量の触媒成分(A)及び貴金属成分(B)を耐火性無機酸化物中に容易に高分散する、あるいは十分量の触媒成分(A)及び貴金属成分(B)を耐火性無機酸化物に容易に高分散担持することができる。なお、本発明における耐火性無機酸化物の「平均粒径」は、分級などの公知の方法によって測定される耐火性無機酸化物の粒子径の平均値により測定することができる。
【0024】
また、耐火性無機酸化物のBET比表面積は、特に制限されず、触媒成分(A)および/または貴金属成分(B)を耐火性無機酸化物に担持する場合には、当該触媒成分(A)および/または貴金属成分(B)を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよい。耐火性無機酸化物のBET比表面積は、好ましくは50〜400m/g、より好ましくは100〜300m/gとするのがよい。前記比表面積が上記範囲であれば、十分量の触媒成分(A)及び貴金属成分(B)が耐火性無機酸化物に担持できる。
【0025】
本発明の触媒は、この種の排ガス処理用触媒が一般に用いられている形態で使用することができる。具体的には、例えば、ハニカム状、球状、板状、波板状、円柱状、円筒状などの所望の形状に成型して使用しても、あるいはコージェライト、アルミナ、ゼオライトなどの成型基材にウオッシュコート(スラリーを被覆)して使用してもよい。したがって、本発明の触媒は、前記触媒成分を含む触媒成型体、あるいは、成型基材上に設けられた、前記触媒成分を含む触媒層として使用される。なかでも、ハニカム状、円柱状または球状の触媒成型体として使用するのが好ましい。ここで、触媒成型体を球状とする場合には、触媒成型体の大きさは、平均直径が1〜20mm、より好ましくは1〜10mmであることが好ましい。また、触媒成型体を円柱状とする場合には、触媒成型体の大きさは、平均直径が1〜20mm、より好ましくは1〜10mmで、かつ長さが1〜20mm、より好ましくは1〜10mmであることが好ましい。
【0026】
すなわち、耐火性三次元構造体としては、特に制限されず、公知と同様の材質が使用できる。例えば、ハニカム、メタルハニカム、プラグハニカム、メタルメッシュ、コルゲート形状など、軸方向に貫通する多数の貫通孔を有する筒状の構造体が好ましく使用できる。これらのうち、ハニカムが特に好ましい。耐火性三次元構造体の材質は特に制限されず、コージェライト、ムライト等の、セラミック;Fe−Cr−Al合金、ステンレス鋼等の金属材料;アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物、およびこれらの複合酸化物;ゼオライト、シリカなどが挙げられる。これらのうち、コージェライト、ステンレスが好ましく、コージェライトが特に好ましい。
【0027】
耐火性三次元構造体の形状は、耐火性無機酸化物の層を形成できるものであれば特に制限されない。例えば、耐火性三次元構造体がハニカムの場合、単位面積あたりの孔数(開口率)は、好ましくは20〜200個/15cmの正方形、より好ましくは30〜150個/15cmの正方形であり、目開き(ピッチ)は、好ましくは0.5〜7.0mm、より好ましくは1.0〜5.0mmであり、壁厚は、好ましくは0.1〜1.5mm、より好ましくは0.1〜1.0mmである。このような構造であれば、耐火性無機酸化物の層を所望の被覆厚で効率よく形成できる。
【0028】
本発明の有機酸含有排ガス処理用触媒は、触媒成分(A)および貴金属成分(B)が触媒成型体または触媒層中に、その表面から内部に向かって、実質的に均一に存在することが好ましい。また、本発明の触媒は、耐火性無機酸化物の層が耐火性三次元構造体に担持(形成)される構造を有することが好ましい。ゆえに、本発明の触媒は、耐火性無機酸化物の層が耐火性三次元構造体に担持(形成)されてなり、触媒成分(A)および貴金属成分(B)が耐火性三次元構造体に担持(形成)された耐火性無機酸化物の層中に実質的に均一に存在することが好ましい。このような構造をとると、触媒成分(A)および貴金属成分(B)は、触媒表面のみでなく、内部にまで均一に分布する。このため、本発明の触媒では、貴金属成分(B)の凝集が有意に抑制・防止されると共に、触媒成分(A)が助触媒として充分機能することができ、有機酸の処理(除去)能を長期間にわたって維持できる。ゆえに、本発明の触媒を使用すると、排ガス中の有機酸を有意に高い効率で分解できる共に、長期間にわたってより優れた触媒活性を維持できる。また、本発明の触媒が耐火性無機酸化物をさらに含む場合は、当該耐火性無機酸化物もまた、触媒成型体または触媒層(特に、耐火性無機酸化物の層)中に実質的に均一に存在する(触媒の表面から内部に向かって実質的に均一に存在する)ことが好ましい。
【0029】
本発明において、触媒の触媒成型体または触媒層(特に、耐火性無機酸化物の層)中に触媒成分(A)および貴金属成分(B)が実質的に均一に存在する、あるいは触媒の表面から内部に向かって実質的に均一に存在することは、X線分析等により測定し、その元素の存在を分析することによって確認できる。具体的には、本明細書では、触媒の触媒成型体または触媒層(特に、耐火性無機酸化物の層)中に触媒成分(A)および貴金属成分(B)が実質的に均一に存在する、あるいは触媒の表面から内部に向かって実質的に均一に存在するは、下記の電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)分析により確認することができる。
【0030】
【化1】

【0031】
例えば、図1は、下記実施例1で得られた、アルミナ、酸化タングステンおよび白金から構成される触媒層のEPMA分析チャートであり、実施例1の触媒層においては、タングステンおよび白金が表面から内部に向かって実質的に均一に存在していることがわかる。
【0032】
本明細書中、「触媒成分(A)および貴金属成分(B)が触媒成型体または触媒層(特に、耐火性無機酸化物の層)中に実質的に均一に存在する」、あるいは「触媒成分(A)および貴金属成分(B)が触媒の表面から内部に向かって実質的に均一に存在する」とは、触媒層(耐火性無機酸化物の層)の厚みをT(mm)とし、触媒層表面から1/4×T(mm)までの領域に存在する触媒成分(A)または貴金属成分(B)の量をA(g)、また、触媒層表面から1/4×T(mm)から1/2×T(mm)までの領域に存在する触媒成分(A)または貴金属成分(B)の量をB(g)とすると、Bに対するAの割合(A/B)がおよそ1前後であることを意味し、好ましくは、0.7/1〜1.3/1の範囲にある。例えば、実施例1の触媒層において、触媒層全体の厚みをTとし、触媒層表面から1/4までの領域に存在するタングステンまたは白金の量をA、また、触媒層表面から1/4ないし1/2の領域に存在するタングステンまたは白金の量をBとすると、Bに対するAの割合は、A/B=0.7/1〜1.3/1の範囲内にあり(タングステン:A/B=1.28/1、白金:A/B=1.26/1)、触媒成分(A)としてのタングステン及び貴金属成分(B)としての白金は共に、触媒成分(A)および貴金属成分(B)が触媒成型体または触媒層(特に、耐火性無機酸化物の層)中に実質的に均一に存在している。
【0033】
本発明の有機酸含有排ガス処理用触媒は、上記触媒成分(A)及び貴金属成分(B)、ならびに必要であれば耐火性無機酸化物を含む。この際、本発明の触媒の形態は特に制限されず、公知と同様の形態が使用できる。具体的には、本発明の触媒は、平均細孔径が0.01〜0.10μm、好ましくは0.01〜0.07μm、全細孔容積が0.02〜0.50ml/g、好ましくは0.05〜0.40ml/g、比表面積が5〜500m2/g、好ましくは10〜400m2/gの範囲である。このような特性を有する触媒は、有機酸の酸化分解に優れた性能を発揮する。なお、平均細孔径とは水銀圧入法によって測定される細孔分布から計算される平均径の意味であり、全細孔容積とは、水銀圧入法によって測定される細孔の総容積の意味であり、担体も含めた趣旨である。
【0034】
本発明の有機酸含有排ガス処理用触媒の製造方法は、特に制限されず、公知の製造方法が同様にしてあるいは適宜修飾してあるいはこのような方法を適宜組合わせて適用されうる。好ましくは、本発明に係る触媒成分(A)および貴金属成分(B)が触媒成型体または触媒層中にその表面から内部に向かって実質的に均一に存在するようになるような方法が好ましい。
【0035】
以下、触媒成分(A)および貴金属成分(B)が触媒成型体または触媒層中にその表面から内部に向かって実質的に均一に存在する本発明の触媒の好ましい製造方法を説明する。しかし、本発明は、下記方法に限定されるものではない。
【0036】
(方法A)
成型体の形成に一般に用いられている成型助剤とともに、耐火性無機酸化物(例えば、アルミナ粉体)と触媒成分(A)の前駆体(例えば、酸化タングステン粉体)を、好ましくはできるだけ均一に、混合し、得られる混合物を、球状、円柱状等のペレット状に成型し、必要に応じて、乾燥した後、空気中で200〜800℃の範囲の温度で1〜10時間、焼成して、アルミナと酸化タングステンとからなる成型体とする。この成型体において、アルミナのなかにタングステンが実質的に均一に存在していることは、EPMA分析により確認することができる。
【0037】
次に、上記成型体を、貴金属成分(B)源としての貴金属含有化合物の溶液、通常、貴金属含有化合物の水溶液に含浸した後、空気気流中、80〜200℃で1〜10時間、乾燥し、次いで200〜800℃の範囲の温度で1〜10時間、焼成して、本発明の触媒(触媒成型体)を得る。この際、成型体は、貴金属含有化合物の溶液中に、0〜60℃で10〜120分間、含浸することが好ましい。このような条件であれば、貴金属成分(B)が耐火性無機酸化物の層中に均一に分布できる。また、本発明では、貴金属成分(B)を触媒層(耐熱性無機酸化物の層)中に均一に存在(担持)させるためには、上記貴金属含有化合物の溶液を所定のpH範囲に調節することが重要である。ここで、貴金属含有化合物の溶液は、pHを好ましくは4〜14、より好ましくは7〜14の範囲に調節する。例えば、ジニトロジアンミン白金水溶液のpHは、pHの調節を行なわない場合には、1.0程度であるが、このように酸性が強すぎると、成型体を貴金属含有化合物の溶液に含浸しても、貴金属成分(B)は触媒層(耐熱性無機酸化物の層)内部にまで均一に浸透せずに、表層に偏って存在する可能性がある。このため、貴金属含有化合物の溶液は、塩基性になるようにpHを調節することが特に好ましい。貴金属含有化合物の溶液を塩基性に調節して、成型体を貴金属含有化合物の溶液に含浸すると、貴金属成分(B)は触媒層(耐熱性無機酸化物の層)内部にまで均一に担持できる。
【0038】
上記貴金属含有化合物の具体例としては、例えば、貴金属(Pt、Pd、Rh、Ru、IrおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも1種)の硝酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、アンミン錯体、ジニトロジアンミン塩、水酸化物、コロイド溶液などを挙げることができる。なかでも、貴金属のアンミン錯体、水酸化物などの塩基性溶液が好適に用いられる。また、貴金属含有化合物の溶液は、上記貴金属含有化合物を適当な溶媒に溶解、分散または懸濁することによって、溶液あるいはスラリーの形態で得られる。ここで、適当な溶媒としては、上記貴金属含有化合物を溶解、分散または懸濁できるものであれば特に制限されないが、好ましくは水が使用される。ここで、溶液中の貴金属含有化合物の濃度は、特に制限されず、耐火性無機酸化物への所望の添加(場合によっては、担持)量によって適宜選択できる。
【0039】
上記のようにして得られる触媒成型体においては、その表面から内部に向かって貴金属は実質的に均一に存在している。このことは、前記したタングステンのときと同じように、EPMA分析により確認することができる。
【0040】
W、La、CeおよびPrの供給原料としては、それぞれの酸化物の他に、上記範囲の温度の焼成によって酸化物を生成するものであれば無機および有機のいずれの化合物も用いることができる。具体的には、例えば、W、La、CeまたはPrを含む水酸化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩などを用いることができる。このうち、各触媒成分(A)の酸化物が好ましく、特に酸化タングステン(WO)が好ましい。
【0041】
上記触媒成分(A)の供給原料の量は、特に制限されず、耐火性無機酸化物への所望の添加(場合によっては、担持)量によって適宜選択される。具体的には、酸化タングステン(WO)の量は、耐火性無機酸化物(例えば、アルミナ(Al))100重量部に対し、0.5〜50重量部、好ましくは0.5〜40重量部、より好ましくは1〜40重量部である。酸化タングステンの量が0.5重量部より少ないと、タングステンと貴金属との相互作用が低下し、貴金属が成型体表面から内部に向かって実質的に均一に存在しなくなり、その結果、高い有機酸除去率と耐久性が得られなくなる。一方、50重量部を超えると、比表面積の低下などにより貴金属の分散性が低下し、高い有機酸除去率と耐久性が得られなくなる。
【0042】
酸化ランタン(La)、酸化セリウム(CeO)および酸化プラセオジム(Pr)の量は、各々、耐火性無機酸化物(例えば、アルミナ(Al))100重量部に対し、0.5〜50重量部、好ましくは0.5〜40重量部、より好ましくは1〜40重量部である。0.5重量部より少ないと触媒の耐熱性が低下するおそれがあり、一方、50重量部を超えると触媒の酸化活性が低下する。
【0043】
また、上記貴金属成分(B)の供給原料(貴金属含有化合物)の量は、特に制限されず、耐火性無機酸化物への所望の添加(場合によっては、担持)量によって適宜選択される。具体的には、貴金属含有化合物の量は、耐火性無機酸化物(例えば、アルミナ)100重量部に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.02〜3重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。貴金属含有化合物の量が0.01重量部より少ないと、触媒の酸化活性が低下し、一方、5重量部を超えて添加しても、それに見合った触媒活性の向上は望めず、かえって原料コストが増大する。
【0044】
(方法B)
耐火性無機酸化物(例えば、アルミナ粉体)と触媒成分(A)の前駆体(例えば、タングステン化合物)の溶液または懸濁液、通常、触媒成分(A)の前駆体の水溶液とをスラリー状でできるだけ均一に混合し、必要に応じて、乾燥した後、空気中で200〜800℃の範囲の温度で1〜10時間、焼成する。これにより触媒成分(A)の前駆体は所望の金属あるいは金属酸化物に変換され(例えば、タングステン化合物は酸化タングステンに変換され)、耐火性無機酸化物の中に実質的に均一に存在するようになる。このようにして得られた粉体を所望の形状に成型して、耐火性無機酸化物と触媒成分(A)(例えば、アルミナと酸化タングステン)とからなる成型体を得る。
【0045】
以下、方法Aと同様にして触媒成型体を得る。なお、貴金属の量などは方法Aにおけると同じである。
【0046】
上記タングステン化合物としては、上記範囲の温度の焼成によって酸化タングステンを生成するものであれば、無機および有機のいずれの化合物も用いることができる。具体的には、例えば、タングステンを含む水酸化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩などを用いることができる。
【0047】
(方法C)
耐火性無機酸化物(例えば、アルミナ粉体)と触媒成分(A)の前駆体(例えば、タングステン化合物)の溶液または懸濁液、通常、タングステン化合物の水溶液とをスラリー状でできるだけ均一に混合し、得られるスラリーをコージェライトなどの耐火性三次元構造体(成型基材)に、含浸法、浸漬法などの一般に用いられている方法により付着させ、空気中で80〜200℃で1〜10時間、乾燥した後、200〜800℃で1〜10時間、焼成して、成型基材に、耐火性無機酸化物中に触媒成分(A)(例えば、酸化タングステン)が実質的に均一に存在する、耐火性無機酸化物と触媒成分(A)(例えば、アルミナと酸化タングステン)とからなる層(耐火性無機酸化物の層)を設ける。ここで、耐火性無機酸化物と触媒成分(A)とからなる層(耐火性無機酸化物の層)の厚みは、特に制限されず、触媒成分(A)の種類やスラリー中での濃度などに応じて、好ましくは上記したような触媒成分(A)の量となるように設定されうる。具体的には、耐火性無機酸化物と触媒成分(A)とからなる層(耐火性無機酸化物の層)の厚みは、好ましくは10〜600μm、より好ましくは50〜400μmである。
【0048】
以下、方法Aのところで述べたと同じ含浸や浸漬などの処理を施すことにより、貴金属成分(B)が、耐火性無機酸化物と触媒成分(A)とからなる層中に、その表面から内部に向かって実質的に均一に存在する触媒層(耐火性無機酸化物の層)が得られる。なお、貴金属の量などは方法Aにおけると同じである。
【0049】
上記方法A〜Cのうち、工程の簡便さ、触媒成分(A)及び貴金属成分(B)の耐火性無機酸化物の層中での均一性、圧力損失などを考慮すると、上記方法Cが特に好ましい。したがって、本発明の第二は、耐火性無機酸化物を触媒成分(A)と混合してスラリーを得;得られたスラリーを耐火性三次元構造体に被覆して、耐火性無機酸化物の層を形成し;該層中の耐火性無機酸化物に貴金属成分(B)を担持する、ことを有する、本発明の触媒の製造方法を提供する。
【0050】
本発明の触媒は、排ガス中の有機酸を高い効率で分解でき、また、長期間にわたって優れた触媒活性を維持できる。特に、本発明の触媒において、触媒成分(A)および貴金属成分(B)が耐火性三次元構造体に添加(場合によっては、担持)された耐火性無機酸化物の層中に実質的に均一に存在している(本発明の触媒の表面から内部に向かって実質的に均一に存在している)場合、または本発明の方法によって製造される触媒の場合には、反応に寄与する触媒成分(A)及び(B)が触媒の表面のみでなく内部にも実質的に均一に存在している。このため、触媒を長期間にわたって使用することによる貴金属の凝集が抑制され、有機酸の分解活性を発揮できる。ゆえに、本発明の触媒を使用すると、排ガス中の有機酸をより高い効率で分解でき、また、長期間にわたってより優れた触媒活性を維持できる。したがって、本発明の触媒または本発明の方法によって製造された触媒は、排ガス中の有機酸を効率よく除去することができる。ゆえに、本発明の第三は、有機酸を含有する排ガスを、本発明の有機酸含有排ガス処理用触媒または本発明の方法によって製造された有機酸含有排ガス処理用触媒と接触させて、排ガス中の有機酸を分解することを有する、有機酸含有排ガスの処理方法を提供する。
【0051】
本発明の触媒に、有機酸を含む排ガスを接触させて、排ガス中の有機酸を分解除去する。この処理を行う際の条件については特に制限はなく、最適な条件を適宜選択して処理を行うことができる。例えば、排ガスの空間速度は、通常、100〜100000Hr−1(STP)であり、好ましくは200〜50000Hr−1(STP)である。また、排ガスを有機酸含有排ガス処理用触媒と接触させる温度は、250〜700℃であり、好ましくは250〜600℃である。
【0052】
本発明の触媒を用いて処理する有機酸含有排ガスとは、化学品製造プラントや印刷、塗装などの工程から排出される有機酸を含む排ガスである。この有機酸としては、ギ酸、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、酒石酸、フタル酸、マレイン酸などが挙げられるが、なかでも、本発明の触媒は、炭素数1〜6のカルボン酸、特に酢酸の分解除去に好適に用いられる。排ガス中の有機酸の量には特に制限はないが、本発明の触媒は、排ガス中の有機酸の量が0.1〜20000体積ppm、好ましくは0.1〜15000体積ppm、より好ましくは1〜10000体積ppmである排ガスの処理に好適に用いられる。
【0053】
実施例
本発明の有利な実施態様を示している以下の実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。触媒組成の分析は、蛍光X線分析により、下記条件で行った。
【0054】
【化2】

【0055】
(実施例1)
<工程1>
γ−Al粉末(平均粒径:5nm)393g、メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WOとして50重量%含有液)231g、および硝酸水溶液409gを磁性ボールミルに投入し、混合、粉砕してスラリーを得た。このスラリーをコージェライトハニカム(1.0L、開口率:200セル/平方インチ、目開き:1.8mm、壁厚:0.5mm)に付着させ、空気流にてセル内の余剰スラリーを除去した後、100℃で乾燥し、空気雰囲気下にて500℃で3時間焼成して、(Al−W)被覆ハニカムを得た。被覆量は100g/L(Al=77g/L、WO=23g/L)であった。また、被膜の厚みは、100μmであった。
【0056】
<工程2>
ヘキサアンミン白金水溶液(pH 12.0)を、上記(Al−W)被覆ハニカムに室温にて30分間含浸させ、空気流にてセル内の余剰液を除去した後、100℃で乾燥し、空気雰囲気下にて500℃で3時間焼成して、触媒(1)(Pt/Al−W)を得た。得られた触媒(1)の組成を分析したところ、Ptの含有量は2.0g/Lであった。この触媒についてEPMA分析により成分の分布を測定したところ、PtおよびWはともに触媒層全体に(表面から内部に向かって)実質的に均一に存在していた。EPMA分析チャートを図1に示す。
【0057】
(実施例2)
<工程1>
実施例1の工程1と同様にして、(Al−W)被覆ハニカムを得た。
【0058】
<工程2>
実施例1の工程2において、ヘキサアンミン白金水溶液の代わりに、ヘキサアンミン白金水溶液とテトラアンミンパラジウム水溶液の混合溶液(pH 12.0)を使用したこと以外は実施例1の工程2と同様にして、触媒(2)(Pt−Pd/Al−W)を得た。得られた触媒(2)の組成を分析したところ、PtおよびPdの含有量はそれぞれ2.0g/Lおよび1.0g/Lであった。この触媒についてEPMA分析法により成分の分布を測定したところ、Pt、Pd、Wのいずれもが触媒層全体に実質的に均一に存在していた。
【0059】
(実施例3)
<工程1>
γ−Al粉末(平均粒径:5nm)364g、メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WOとして50重量%含有液)214g、酸化ランタン粉末36g、および硝酸水溶液409gを磁性ボールミルに投入し、混合、粉砕してスラリーを得た。このスラリーをコージェライトハニカム担体(1.0L、開口率:200セル/平方インチ、目開き:1.8mm、壁厚:0.5mm)に付着させ、空気流にてセル内の余剰スラリーを除去した後、100℃で乾燥し、空気雰囲気下にて500℃で3時間焼成して、(Al−W−La)被覆ハニカムを得た。被覆量は100g/L(Al=71g/L、WO=22g/L、La=7g/L)であった。また、被膜の厚みは、200μmであった。
【0060】
<工程2>
実施例2の工程2において、(Al−W)被覆ハニカムの代わりに上記(Al−W−La)被覆ハニカムを使用したこと以外は実施例2の工程2と同様にして、触媒(3)(Pt−Pd/Al−W−La)を得た。得られた触媒(3)の組成を分析したところ、PtおよびPdの含有量はそれぞれ2.0g/Lおよび1.0g/Lであった。この触媒についてEPMA分析により成分の分布を測定したところ、Pt、Pd、W及びLaのいずれもが触媒層全体に実質的に均一に存在していた。
【0061】
(実施例4)
<工程1>
実施例3の工程1において、酸化ランタン粉末の代わりに、酸化セリウム粉末を使用したこと以外は実施例3の工程1と同様にして、(Al−W−Ce)被覆ハニカムを得た。
【0062】
<工程2>
実施例2の工程2において、(Al−W)被覆ハニカムの代わりに上記(Al−W−Ce)被覆ハニカムを使用したこと以外は実施例2の工程2と同様にして、触媒(4)(Pt−Pd/Al−W−Ce)を得た。得られた触媒(4)の組成を分析したところ、PtおよびPdの含有量はそれぞれ2.0g/Lおよび1.0g/Lであった。この触媒についてEPMA分析により成分の分布を測定した結果、Pt、Pd、W、Ceのいずれもが触媒層全体に実質的に均一に存在していたEPMA分析チャートを図2に示す。
【0063】
(実施例5)
<工程1>
実施例4の工程1において、メタタングステン酸アンモニウム水溶液を添加しなかったこと以外は実施例4の工程1と同様にして、(Al−Ce)被覆ハニカムを得た。
【0064】
<工程2>
実施例4の工程2において、(Al−W−Ce)被覆ハニカムの代わりに、上記(Al−Ce)被覆ハニカムを使用した以外は実施例4の工程2と同様にして、触媒(5)(Pt−Pd/Al−Ce)を得た。得られた触媒(5)の組成を分析した結果、PtおよびPdの含有量はそれぞれ2.0g/Lおよび1.0g/Lであった。この触媒についてEPMA分析により成分の分布を測定したところ、Pt、Pd、Ceのいずれもが触媒層全体に実質的に均一に存在していた。
【0065】
(実施例6)
<工程1>
実施例1の工程1と同様にして、(Al−W)被覆ハニカムを得た。
【0066】
<工程2>
実施例1の工程2において、ヘキサアンミン白金水溶液の代わりに、ジニトロジアンミン白金水溶液(pH 1.0)を用いて、(Al−W)被覆ハニカムに90℃にて30分間含浸したこと以外は実施例1の工程2と同様にして、触媒(6)(Pt/Al−W)を得た。得られた触媒(6)についてEPMA分析法により成分の分布を測定したところ、Wは触媒層全体に実質的に均一に存在していたが、Ptは触媒層の表面に近い領域に偏って存在していた。EPMA分析チャートを図3に示す。
【0067】
(実施例7)
<工程1>
実施例1の工程1において、メタタングステン酸アンモニウム水溶液を添加しなかったこと以外は実施例1の工程1と同様にして、(Al)被覆ハニカムを得た。
【0068】
次に、この(Al)被覆ハニカムを、メタタングステン酸アンモニウム水溶液に室温で10分間含浸させ、空気流にてセル内の余剰スラリーを除去した後、100℃で乾燥し、空気雰囲気下にて500℃で3時間焼成して、(W/Al)被覆ハニカムを得た。被覆量は100g/L(Al=80g/L、WO=20g/L)であった。また、被膜の厚みは、100μmであった。
【0069】
<工程2>
実施例1の工程2において、(Al−W)被覆ハニカムの代わりに上記(Pt/W/Al)被覆ハニカムを使用したこと以外は実施例1の工程2と同様にして、触媒(7)(Pt/W/Al)を得た。得られた触媒(7)についてEPMA分析により成分の分布を測定したところ、Ptは触媒層全体に実質的に均一に存在していたが、Wは、触媒層の表面に近い領域に偏って存在していた。
【0070】
(比較例1)
<工程1>
実施例1の工程1において、メタタングステン酸アンモニウム水溶液を添加しなかったこと以外は実施例1の工程1と同様にして、(Al)被覆ハニカムを得た。
【0071】
<工程2>
実施例1の工程2と同様にして、触媒(8)(Pt/Al)を得た。得られた触媒(8)の組成を分析したところ、Ptの含有量は2.0g/Lであった。この触媒についてEPMA分析により成分の分布を測定したところ、Ptは触媒層全体に均一に存在していた。EPMA分析チャートを図4に示す。
【0072】
(実施例8)
実施例1〜7および比較例1で得られた触媒(1)〜(8)について下記の酢酸除去試験を行った。
【0073】
<酢酸除去試験>
触媒を充填した反応器に、酢酸4000体積ppm、O20%、Nバランスからなる排ガスを、反応器入口ガス温度300℃、空間速度(STP)30000Hr−1の条件下に流通させて酢酸の除去試験を行った。3時間後と1000時間後の酢酸除去率は下記式にしたがって求めた。
【0074】
【数1】

【0075】
結果を、触媒層中に触媒成分(A)および貴金属が均一に存在しているかどうかの指標となる前記A/Bの数値とともに、表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
さらに、本出願は、2006年10月5日に出願された日本特許出願番号2006−273860号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
La、Ce、PrおよびWからなる群より選ばれる金属、該金属の酸化物、ならびに該金属の複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒成分(A)、ならびにPt、Pd、Rh、Ru、IrおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも1種の貴金属成分(B)を含有する、有機酸含有排ガス処理用触媒。
【請求項2】
前記有機酸含有排ガス処理用触媒は、耐火性無機酸化物の層が耐火性三次元構造体に担持されてなり、前記触媒成分(A)および貴金属成分(B)は、耐火性三次元構造体に担持された耐火性無機酸化物の層中に実質的に均一に存在した状態である、請求項1に記載の有機酸含有排ガス処理用触媒。
【請求項3】
前記触媒成分(A)は、Ceのみ、Wのみ、W及びLaとの組み合わせ、またはW及びCeとの組み合わせである、請求項1または2に記載の有機酸含有排ガス処理用触媒。
【請求項4】
前記貴金属成分(B)は、Ptのみ、またはPt及びPdとの組み合わせである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機酸含有排ガス処理用触媒。
【請求項5】
前記耐火性無機酸化物は、Si、Al、TiおよびZr;前記金属の酸化物;ならびに前記金属の複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の有機酸含有排ガス処理用触媒。
【請求項6】
耐火性無機酸化物を触媒成分(A)と混合してスラリーを得;
得られたスラリーを耐火性三次元構造体に被覆して、耐火性三次元構造体に耐火性無機酸化物の層を形成し;
該層中の耐火性無機酸化物に貴金属成分(B)を担持する、
ことを有する、請求項2〜5のいずれか1項に記載の有機酸含有排ガス処理用触媒の製造方法。
【請求項7】
耐火性無機酸化物への貴金属成分(B)の担持は、耐火性無機酸化物の層が形成された耐火性三次元構造体を貴金属含有化合物の水溶液中に含浸した後、焼成することによって行なわれる、請求項6に記載の有機酸含有排ガス処理用触媒の製造方法。
【請求項8】
有機酸を含有する排ガスを、請求項1〜5のいずれかに記載の有機酸含有排ガス処理用触媒または請求項6または7に記載の方法によって製造された有機酸含有排ガス処理用触媒と接触させて、排ガス中の有機酸を分解することを有する、有機酸含有排ガスの処理方法。
【請求項9】
該有機酸が炭素数1〜6のカルボン酸である請求項8に記載の有機酸含有排ガス処理方法。
【請求項10】
該有機酸が酢酸である、請求項9に記載の有機酸含有排ガス処理方法。
【請求項11】
排ガスを250〜700℃の温度で有機酸含有排ガス処理用触媒と接触させる、請求項8〜10のいずれか1項に記載の有機酸含有排ガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−505600(P2010−505600A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514585(P2009−514585)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国際出願番号】PCT/JP2007/069507
【国際公開番号】WO2008/041756
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】