有機酸発酵および直接水素化分解によるアルコール類の製造方法
【解決手段】リグノセルロースを、加圧熱水法によって、または加圧熱水法および微生物を用いて、有機酸に転換し、この有機酸を直接水素化分解することによりアルコール類を製造する。
【効果】酢酸を直接水素化分解する方法により、エステル化と水素化分解からなる二段法で必須であった酢酸溶液からの酢酸精製および脱水工程を省略することが可能となり、前段の工程を簡略化できるだけでなく、直接水素分解を採用することによりアルコール製造工程自体の簡略化を達成できる。
【効果】酢酸を直接水素化分解する方法により、エステル化と水素化分解からなる二段法で必須であった酢酸溶液からの酢酸精製および脱水工程を省略することが可能となり、前段の工程を簡略化できるだけでなく、直接水素分解を採用することによりアルコール製造工程自体の簡略化を達成できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロースを加圧熱水法および微生物を用いて、有機酸に転換し、この有機酸を直接水素化分解することによりアルコール類を製造する方法に関する。本発明は、特に、リグノセルロースを加圧熱水で加水分解処理して得られた広範な糖類(単糖、オリゴ糖、ウロン酸等)とその分解物、およびリグニン由来の分解物を嫌気性細菌により酢酸へと転換し、この酢酸を直接水素化分解してエタノールを合成する方法に関する。本発明は、また、セルロースを構成糖であるグルコースまで加水分解する嫌気性細菌とグルコースを酢酸発酵する嫌気性細菌とを混合培養して得られた該酢酸をエステル化を経ないで直接水素化分解してエタノールを合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールを製造する従来法は、グルコースなどの6炭糖を起点とし、これを酵母Saccharomyces cerevisiaeや細菌Zymomonas mobilisによって発酵させる方法である(式I参照)。
【0003】
酵母や細菌によるグルコースからのエタノール発酵
C6H12O6 → 2CH3CH2OH + 2CO2 ・・・・(I)
上記の通り、酵母によるエタノール発酵は1モルのグルコースから2モルのエタノールしか生成できないのに対し、リグノセルロースを酢酸に転換した場合は式II、III、IVに示す通り、1モルのグルコースから3モルのエタノールが生成できる。また、前者では副産物として二酸化炭素が放出されるのに対し、後者ではそれがない。
【0004】
酢酸発酵: C6H12O6 → 3CH3COOH・・・・(II)
エステル化:3CH3COOH + 3ROH → 3CH3COOR + 3H2O ・・・・(III)
水素化分解:3CH3COOR + 6H2 → 3CH3CH2OH +3ROH ・・・・(IV)
(式中、Rはアルキル基である。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前項の背景技術を踏まえ、発明者らは既特許出願(特願2008−261342号)において、リグノセルロースの加水分解、得られた広範な糖類を微生物で酢酸発酵、酢酸のエステル化、エステルの水素化分解からなる、エタノール製造技術を提案している。該特許出願では、リグノセルロースから酢酸発酵の基質となり得る広範な糖類(5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖、ウロン酸等)を得る手段として、加圧熱水による加水分解処理を採用しているが、前述の広範な糖類以外にもこれらの過分解物の生成も少なくないうえ、リグニン由来の化合物も得られるのが実情である。リグノセルロースを無駄なく利活用するうえで、これら広範な糖類の分解物を有効にエタノールへと変換することが課題である。
【0006】
また、加圧熱水によるリグノセルロースの加水分解処理の場合、先ず比較的低温でも加水分解される非晶構造のヘミセルロースがキシランの場合には構成糖である5炭糖に、グルコマンナンの場合には6炭糖のグルコースとマンノースに加水分解されるほか、リグニン成分も低分子化され易いものから溶出して、強固な結晶構造を有すセルロースが残存する。これを高温の加圧熱水で加水分解しグルコースやそのオリゴ糖として利用するか、もしくは、そのまま発酵基質として酢酸に転換することができれば、加圧熱水を作るために必要なエネルギーが削減できるうえ、処理工程もよりシンプルでコンパクトなものになる。
【0007】
一方、酢酸に代表される有機酸からのアルコール製造に関して発明者らは、上記の式III、IVからなるエステル化、水素化分解の二段階のアルコール製造法を提案したが、同時に酢酸発酵にて得られる酢酸濃度の限界に起因する課題についても言及した。詳しくは、Clostridium属細菌は、基質から酢酸を生成する嫌気性の発酵菌であるが、それ自身の酢酸耐性が1%程度と低いため、得られる酢酸濃度に限界がある。加えて後段のエステル化においては、水分の存在が反応を妨げる方向に作用するため、エステル化の前段において酢酸の精製が必要な点である。酢酸の精製については、膜の利用など様々な方法が挙げられるが、精製のためのエネルギーが必要となる。さらには、エステル化、水素化分解の二段階のプロセスは、実用に際してはさらなる簡略化が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、リグノセルロースを加圧熱水法および微生物を用いて有機酸に転換し、この有機酸を直接水素化分解することによりアルコール類を製造することを特徴とするアルコール類の製造方法である。
【0009】
請求項2に係る発明は、有機酸が酢酸であることを特徴とする請求項1に記載のエタノール製造法である。
【0010】
請求項3に係る発明は、リグノセルロースを加圧熱水法によって処理し、得られたリグニンをフェニルプロパン(C3−C6)構成単位またはその二量体以上のオリゴマーに分解した後、微生物によりフェニル核のメトキシ基を水酸基にするとともに、酢酸を生成することを特徴とする請求項2に記載のエタノールの製造方法である。
【0011】
請求項4に係る発明は、リグノセルロースを加圧熱水法および微生物で酢酸に転換する工程において、リグノセルロースを加圧熱水法で加水分解し、得られた5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖、ウロン酸に至る広範の糖類のみならず、それらの過分解物、ギ酸および乳酸、リグニン由来の物質を資化できるClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌であるClostridium thermocellumまたはClostridium thermoaceticumによって、これらを酢酸まで転換することを特徴とする請求項2または3に記載のエタノール類の製造方法である。
【0012】
請求項5に係る発明は、嫌気性酢酸発酵菌によって酢酸に転換される物質が、5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖若しくはウロン酸、糖類由来の過分解物であるエリトロース、グリコースアルデヒド、メチルグリオキサール、ギ酸および乳酸、リグニン由来の分解物であるグアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒドの一部、又はこれらの2以上の混合物であることを特徴とする請求項4に記載のエタノールの製造方法である。
【0013】
請求項6に係る発明は、加圧熱水法が低温と高温の二段法であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載のエタノールの製造方法である。
【0014】
請求項7に係る発明は、低温での加圧熱水法が、100〜250℃、高温での加圧熱水法が、200〜350℃であることを特徴とする請求項6に記載のエタノール製造方法である。
【0015】
請求項8に係る発明は、加圧熱水法が一段法であることを特徴とする、請求項2から4のいずれかに記載のエタノールの製造方法である。
【0016】
請求項9に係る発明は、加圧熱水法が、100〜250℃であることを特徴とする請求項8に記載のエタノール製造方法である。
【0017】
請求項10に係る発明は、リグノセルロースを一段加圧熱水法によって処理して得られる可溶化物と固形物(残渣)を、セロオリゴ糖に加水分解するClostridium属嫌気性細菌であるClostridium thermocellumと、その加水分解物(グルコースおよびセロビオース、セロオリゴ糖)を酢酸に転換するClostridium属嫌気性細菌であるClostridium thermoaceticumにより、可溶化物と残渣を同時に酢酸に転換することを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載のエタノール製造方法である。
【0018】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0019】
本発明は、リグノセルロースを加圧熱水法によって広範な糖類とその分解物、リグニン由来の分解物、そしてヘミセルロースやリグニンが除去された、または一部残存したセルロースを得て、これらを微生物によって酢酸に転換し、この酢酸を直接水素化分解することを特徴とするエタノールの製造方法である。
【0020】
まず、リグノセルロースを微生物により有機酸に転換するために、リグノセルロースを加水分解する加圧熱水処理の手段に付する。リグノセルロースを亜臨界や超臨界の熱水でギ酸、乳酸、酢酸などの有機酸に加水分解し、これをエステル化させた後、水素化分解するか、あるいは、有機酸を直接水素化分解することでメタノールやエタノールなどのアルコール類が製造できる。しかし、亜臨界や超臨界の熱水での処理は、反応時間が極端に短く、制御が十分でないと有機酸を高収率で得られない。そこで、発明者らは、リグノセルロースを構成するリグニン、ヘミセルロースおよびセルロースを低温と高温での段階的加圧水熱処理により高収率に加水分解し、次いでそれらを微生物により有機酸に転換する方法を見出した。リグノセルロースのヘミセルロースの加水分解温度は、比較的低温の100℃〜250℃の範囲であり、150℃〜230℃が好ましい。また、このヘミセルロースの加水分解温度で処理することで、リグニンの一部も低分子に加水分解される。セルロースの加水分解温度は、比較的高温の200℃〜350℃の範囲であり、250℃〜300℃が好ましい。ヘミセルロースの加水分解温度で残存したリグニンについても、このセルロースの加水分解温度によって、ほとんどが低分子化される。このように、リグニン、ヘミセルロースおよびセルロースを低温と高温の二段階の加圧熱水処理により、それぞれの構成単位にまで高収率に加水分解できる。
【0021】
次に、リグノセルロースを加圧熱水処理して得られる糖類およびリグニンの分解物を微生物によって有機酸に転換する手段を提供する。リグノセルロースを加圧熱水法で加水分解すると、5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖、ウロン酸に至る広範の糖類のみならず、それらの過分解物、ギ酸および乳酸、リグニン由来の物質が得られる。これらの物質を酢酸まで転換することで、無駄なくリグノセルロースを利活用し、目的産物であるエタノールの収率向上を図ることが可能となる。
【0022】
Clostridium属の嫌気性酢酸発酵菌により5炭糖、6炭糖の糖類を酢酸に転換されることは知られていたが、リグノセルロースを加圧熱水法で加水分解し、得られるオリゴ糖、ウロン酸に至る広範の糖類のみならず、糖由来の分解物であるエリトロース、グリコースアルデヒド、メチルグリオキサール、ギ酸および乳酸、リグニン分解物であるグアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒドをClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌によって、酢酸まで転換することを発明者らは見出した。また、グアイアコールからのカテコ−ルやシリンガアルデヒドからの3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドなどの有用芳香族化合物を酢酸生成と同時に得られることも見出した。
【0023】
リグノセルロースを加圧熱水処理により加水分解した広範な物質がClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌の発酵基質となり得ることは、これまで誰も知り得なかった新しい知見であり、これらによりリグノセルロースを高収率で酢酸に転換することが可能となった。
【0024】
また、酢酸発酵の過程でpH調整を兼ねてCaイオンを供給することで、Clostridium属の嫌気性酢酸発酵菌の発酵性能が向上するだけでなく、従来酢酸濃度の上限が1%程度であったものをそれ以上にできることも見出した。
【0025】
次に、リグノセルロースを一段階の加圧熱水処理により得られる可溶化物と固形物を有機酸に転換する手段を提供する。この場合、リグノセルロースを加圧熱水法で加水分解し、可溶化したヘミセルロースおよびリグニン、加圧熱水処理後のセルロースが主成分となる固形物を基質とする。固形物であるセルロースをグルコースや様々な有機酸に変換するClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌であるClostridium thermocellumと、グルコースや様々な有機酸を酢酸に変換するClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌であるClostridium thermoaceticumの2種の微生物により可溶化物と固形物を同時に酢酸に転換できる。これにより、一段階の加圧熱水処理後の固形物をより高温の加圧熱水で加水分解する必要がなくなるとともに、糖の過分解も起こらないうえ、加圧熱水を作るために必要なエネルギーが削減できる。なお、セルロースのみを基質とする場合に、リグノセルロースからヘミセルロースやリグニンを除去する手段は、加圧熱水法に限定されるものではなく、アルカリ法などであっても良い。
【0026】
最後に、酢酸からのアルコール製造に関し、エステル化と水素化分解によるアルコール製造において、エステル化を経由することに起因する課題を解決する手段を提供する。詳しくは、酢酸のエステル化に際し、エステル化反応を進行させるために必須である系内の水分率低減、具体的には、酢酸発酵によって得られる酢酸溶液からの酢酸精製、および脱水を不要とする手段を提供する。さらに、詳しくは、所定の温度、空間速度、必要に応じて触媒を活用することで酢酸と水素を直接反応させ、エステル化を経由することなく直接水素化分解することにより、選択的にアルコールを製造する方法を提供する。この反応は下の式(V)で示される。
【0027】
直接水素化分解: CH3COOH + 2H2 → C2H5OH + H2O・・・・(V)
この方法において、触媒を活用する場合には、Ru系触媒、Re系触媒、Ir系触媒を活用することができるが、なんらこれに限定されるものではない。反応温度は150℃〜350℃の範囲であり、Ru系触媒であれば300〜350℃の範囲が好ましい。空間速度は0.1〜20/hの範囲が好ましく、0.5〜2.0/hの範囲がさらに好ましい。圧力は0.1〜10MPaの範囲が好ましい。水素の添加量は適切な条件化であれは化学量論的に必要なモル数2モル以上あればよく、余剰の水素を添加した場合は、それを循環再利用してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明において、リグノセルロースを加圧熱水法によって広範な糖類とその分解物、ギ酸および乳酸、リグニン由来の分解物、そしてヘミセルロースやリグニンが除去された、または一部残存したセルロースを得て、これらを微生物によって酢酸に転換することにより、無駄なくリグノセルロースを利活用し、目的産物の収率向上を可能とする。さらに、リグニン由来の分解物を酢酸に転換するとともに、リグニン由来の分解物をより付加価値の高い芳香族化合物に変換することを可能とする。
【0029】
さらに、酢酸からのアルコール製造に関し、酢酸を直接水素化分解する方法により、エステル化と水素化分解からなる二段階法で必須であった酢酸溶液からの酢酸精製および脱水工程を省略することが可能となり、前段の工程を簡略化できるだけでなく、直接水素分解を採用することによりアルコール製造工程自体の簡略化を可能とする。
【0030】
水分が酢酸からのアルコール製造に与える影響に関し、直接水素化分解を行うことにより、酢酸濃度1wt%でもエタノール収率80wt%を達成できたことから、前述の酢酸発酵で得られる酢酸溶液からの酢酸精製および脱水工程省略の可能性を裏付けている。なお、この場合、水の気化による熱の吸収のため反応温度が220℃まで低下したことが収率80%になった原因であり、反応温度を保つことができれば、定量的な変換が可能である。
【0031】
酢酸濃度50wt%以上ではエタノール収率はほぼ100wt%を達成でき、例えばRu−C系の触媒存在下、350℃、2.0MPa、水素/酢酸モル比=8/1、触媒層空間速度0.59(LHSV, h−1)で試験を行った場合、エタノール収率はほぼ100%であり、選択的にエタノールを製造しうることを確認している。
【0032】
本反応は発熱反応であり、反応熱により反応場に必要な熱量の一部、もしくは全部を補填することが可能であり、余剰熱が発生した場合は他の工程への熱供給を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】糖過分解物の酢酸発酵を示すグラフである。
【図2】リグニン由来化合物の酢酸発酵を示すグラフである。
【図3】リグニン由来化合物の酢酸発酵による高付加価値有用芳香族物質の生産を示す反応式である。
【図4】C. thermoaceticum、C.thermocellum混合系でのセルロースの酢酸発酵を示すグラフである。
【図5】本発明で用いる流通型接触水素添加装置の模式図である。
【図6】5wt% Ru−C系触媒を用いた酢酸の水素化における反応温度の影響を示すグラフである。
【図7】5wt% Ru−C系触媒を用いた酢酸の水素化におけるH2 / AcOHモル比の影響を示すグラフである。
【図8】5wt% Ru−C系触媒を用いた酢酸の水素化における酢酸水溶液中の酢酸濃度の影響を示すグラフである。
【図9】Cu−Zn系触媒を用いた酢酸の水素化におけるH2 /EtOAcモル比の影響を示すグラフである。
【図10】各糖のClostridium thermoaceticumを用いた酢酸発酵での糖と酢酸の濃度変化を示すグラフである。
【図11】多糖、オリゴ糖のC. thermocellumを用いた酢酸発酵での各種有機酸の濃度変化を示すグラフである。
【図12】ギ酸および乳酸のC. thermoaceticumを用いた酢酸発酵を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例を挙げる。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1(糖過分解物を対象とした酢酸発酵)
以下に示す溶液1、2、3を調製し、オートクレーブにより40分間120℃で殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液1〜3をそれぞれ10、25、15mlずつ充填して混合し(合計50ml)、これにClostridium thermoaceticum(ATCC39073株)を接種して、60℃でCO2雰囲気下で3日間培養し、前培養液とした。
【0036】
次いで溶液4を調製し、同様に殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液4を5ml、溶液2を25ml、溶液3を15ml、そして前述の前培養液を5ml充填して合計50mlとし、60℃、CO2雰囲気下で酢酸発酵させた。
【0037】
溶液1:グルコース10g、蒸留水200 ml
溶液2:酵母エキス5 g、システイン塩酸塩1水和物0.25 g、硫酸アンモニウム1 g、硫酸マグネシウム7水和物0.25 g、硫酸第一鉄アンモニウム6水和物0.04 g、塩化ニッケル6水和物0.24mg、硫酸亜鉛7水和物0.29mg、亜セレン酸ナトリウム 0.017mg、レサズリン(1%溶液)0.1 ml、蒸留水300 ml
溶液3:水酸化ナトリウム0.415 g、炭酸水素ナトリウム5 g、リン酸二カリウム4.4 g、リン酸二水素カリウム7.5 g、蒸留水150 ml
溶液4:エリトロース、グリコースアルデヒド、メチルグリオキサール、レボグルコサンまたはグリコース酸を用いる場合は、それらを1gと蒸留水100 ml、5−ヒドロキシメチルフルフラールを用いる場合は0.1gと蒸留水100 mlを混合
各試験区から時間毎に少量の培養液を採取し、酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図1に示す(120時間後まで計測)。本実験では、エリトロース、グリコースアルデヒド、メチルグリオキサール、5−ヒドロキシメチルフルフラールの4つの基質について酢酸の生成が確認されたが、レボグルコサン、グリコース酸では酢酸は生成しないことがわかった。
【0038】
図1(a)に、エリトロースの発酵結果を示す。発酵が進むにつれエリトロースがなくなり、酢酸が生成した。最終的に1g/lのエリトロースから0.53g/lの酢酸が生成した。
【0039】
図1(b)に、グリコースアルデヒドの発酵結果を示す。発酵が進むにつれグリコースアルデヒドがなくなり、酢酸が生成した。最終的に1g/lのグリコースアルデヒドから0.45g/lの酢酸が生成した。
【0040】
図1(c)に、メチルグリオキサールの発酵結果を示す。メチルグリオキサールが基質の場合、それらを一度、乳酸に変換し、最終的に酢酸を生成するという特異な代謝が認められた。最終的に1g/lのメチルグリオキサールから0.29g/lの酢酸が生成した。
【0041】
図1(d)に、5−ヒドロキシメチルフルフラールの発酵結果を示す。発酵が進むにつれ5−ヒドロキシメチルフルフラールがなくなり、酢酸が生成した。最終的に0.1g/lのグリコースアルデヒドから0.24g/lの酢酸が生成した。
【0042】
以上の結果は、加圧熱水処理において発生する糖過分解物の一部も酢酸発酵の基質になり得ることを示している。
【0043】
実施例2(リグニン由来化合物を対象とした酢酸発酵)
実施例1に記載の方法において、溶液4の各種化合物として、リグニン由来化合物であるグアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒド、コニフェニルアルデヒド、シナピルアルデヒドを用いて酢酸発酵を行った。
【0044】
各試験区から時間毎に少量の培養液を採取し、酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図2に示す(120時間後まで計測)。本実験では、グアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒドの4つの基質について酢酸の生成が確認されたが、コニフェニルアルデヒド、シナピルアルデヒドでは酢酸は生成しなかった。
【0045】
図2(a)に、グアイアコールの発酵結果を示す。発酵が進むにつれグアイアコールがなくなり、酢酸とカテコ−ルが有用物質として生成した(図3(a))。このことからC.thermoaceticum はグアイアコールのメトキシ基部分を利用し、酢酸へと変換していると考えられる。最終的に1g/lのグアイアコールから0.38g/lの酢酸が生成した。
【0046】
図2(b)に、シリンゴールの発酵結果を示す。発酵が進むにつれ酢酸が生成した。最終的に1g/lのシリンゴールから0.67g/lの酢酸が生成した。その結果ピロガロールが有用物質として副生した(図3(b))。
【0047】
図2(c)に、バニリンの発酵結果を示す。発酵が進むにつれバニリンがなくなり、酢酸と3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒドが有用物質として生成した(図3(c))。最終的に1g/lのバニリンから0.49g/lの酢酸が生成した。
【0048】
図2(d)に、シリンガアルデヒドの発酵結果を示す。発酵が進むにつれシリンガアルデヒドがなくなり、酢酸と3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシベンズアルデヒドと3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドが生成した(図3(d))。最終的に1g/lのシリンガアルデヒドから0.70g/lの酢酸が生成した。
【0049】
以上の結果は、加圧熱水処理において発生するリグニン由来の化合物の一部も酢酸発酵の基質になり得ることを示している。さらに、この酢酸発酵の過程で副生する芳香族化合物は付加価値の高いもので有用なケミカルスとしての利用が可能である。
【0050】
実施例3(C. thermoaceticum、C.thermocellum混合系でのセルロースの酢酸発酵)
実施例1に記載の方法により、C. thermoaceticumの前培養液(以下、前培養液1と呼ぶ)を調製した。
【0051】
以下に示す溶液5、6、7を調製し、オートクレーブで40分間120℃で殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液5〜7をそれぞれ10、25、15mlずつ充填して混合し(合計50ml)、これにClostridium thermocellum(ATCC27405株)を接種して、60℃でCO2雰囲気下で3日間培養し、C. thermocellumの前培養液(以下、前培養液2と呼ぶ)とした。
【0052】
溶液5:セロビオース5g、蒸留水200 ml
溶液6:酵母エキス4.5 g、グルタチオン0.25 g、硫酸アンモニウム1.3 g、硫酸マグネシウム6水和物0.13 g、硫酸第一鉄7水和物0.0011 g、塩化カルシウム2水和物0.13 g、レサズリン0.001 g、蒸留水500 ml
溶液7:リン酸二水素カリウム1.43 g、リン酸二カリウム3水和物7.2 g、グリセロリン酸ナトリウム6 g、蒸留水300 ml
次いで溶液8を調製し、殺菌、脱気した100ml容量のシリンジバイアルに溶液8を5ml、実施例1に記載の溶液2を25ml、溶液3を15ml、そして前述の前培養液1と前培養液2を合わせて5ml充填して合計50mlとし、60℃の N2雰囲気下で酢酸発酵させた。なおこの時、前培養液1と前培養液2の投入体積比を1:2、1:1、2:1の3種類とし、その影響を確認した。
【0053】
溶液8:セルロース(旭化成製「アビセルPH−101」)10 g、蒸留水100 ml
各試験区から時間毎に少量の培養液を採取し、酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図4に示す(120時間後まで計測)。その結果、混合系によってセルロース(旭化成製「アビセルPH−101」)を発酵させた場合、エタノール等の副産物が少量見られるものの、選択的に酢酸が生成した。C.thermocellumは体の表面についている酵素によってセルロース(旭化成製「アビセルPH−101」)を分解し、グルコースを培養液中に生成させることが観測されているが、該グルコースを選択的にC.thermoaceticumが利用することによって、このように高い酢酸変換率が観測されたと考える。また、(c)の前培養液投入比が、前培養液1:前培養液2=1:2のときに、酢酸への変換率が最大になっており、その値は65.9%であった。セルロース(旭化成製「アビセルPH−101」)を直接発酵させる場合には、C.thermocellumの投入比が大きい方が高い変換率となった。
【0054】
実施例4(5%Ru−C系触媒を用いた酢酸の直接水素化(反応温度の影響))
N2雰囲気下、250〜350℃、0.1MPaで2時間か焼処理を行い、さらに250〜350℃、2.0MPa、水素流量100ml/minで2時間触媒の還元、活性化処理を行った5%Ru−C系触媒(Ruthenium 5wt.% on carbon, 206180, SIGMA−ALDRICH Corporation製)を反応管に充填した流通式接触水素添加装置(図5)を用い、酢酸の直接水素化分解を実施した。詳細は、反応温度: 250〜350℃、圧力:2.0MPa、水素/酢酸モル比=8/1、触媒層空間速度(LHSV, h−1) 0.59の条件で直接水素化分解を行い、得られるエタノールを測定し、収率を算出した。結果を図6に示す。320℃以上の温度域において、酢酸エチルを副生することなく、酢酸は定量的にエタノールへと変換された。
【0055】
実施例5(5%Ru−C系触媒を用いた酢酸の直接水素化(水素/酢酸モル比の影響))
反応温度:350℃、水素/酢酸モル比=2/1−8/1、触媒層空間速度(LHSV, h−1) 0.59−2.37の条件を用いること以外は、実施例4と同様に直接水素化処理を行った。結果を図7に示す。化学量論比の2を含むすべての水素 / 酢酸モル比において、酢酸エチルを副生することなく、酢酸は定量的にエタノールへと変換された。
【0056】
実施例6(5%Ru−C系触媒を用いた酢酸水溶液の直接水素化)
酢酸の代わりに5あるいは50%酢酸水溶液を用いること、反応温度:350℃、水素/酢酸モル比=8/1の条件を用いること以外は、実施例4と同様に直接水素化処理を行った。結果を図8に示す。水の共存下であっても反応温度を保つことが可能であれば、酢酸の定量的なエタノールへの変換が可能であることがわかった。
【0057】
参考例1(Cu−Zn系触媒を用いた酢酸エチルの水素化分解)
N2雰囲気下、250〜350℃、0.1MPaで2時間か焼処理を行い、さらに250〜350℃、2.0MPa、水素流量100ml/minで2時間触媒の還元、活性化処理を行ったCu−Zn系触媒(Cu/Zn = 48/44, w/w、N211、日揮触媒化学株式会社製)を反応管に充填した流通式接触水素添加装置(図5)を用い、酢酸エチルの水素化分解を実施した。詳細は、反応温度:250℃、圧力:2.0MPa、水素/酢酸エチルモル比=4/1−32/1、触媒層空間速度(LHSV, h−1) 1.13−10.38の条件で水素化分解を行い、得られるエタノールを測定し、収率を算出した。結果を図9に示す。
【0058】
水素/ 酢酸エチルモル比=4/1ではエタノールの収率は、20%程度と低いものであったが、水素 / 酢酸エチルモル比の増大とともにその値は向上し、32/1において、98.7%に達し、大過剰の水素を用いることで酢酸エチルの定量的な水素化分解が可能であった。
【0059】
実施例7
1段目を230℃/10MPa/15分、および2段目を270℃/10MPa/15分の条件にて、ブナ木粉1gを二段階加圧熱水処理を行った。得られた分解生成物を、1段目と2段目の成分に分け、さらにヘミセルロース由来およびセルロース由来の糖類、糖類の過分解物、さらにその過分解物から生成される有機酸にそれぞれ分け、木粉ベースの重量%で表1に示す。これに実施例3における前培養液1と前培養液2の投入体積比1:1の方法で酢酸発酵を行ったところ0.48gの酢酸を得た。
【0060】
これらを実施例5における反応温度:350℃、水素/酢酸モル比=8/1、触媒層空間速度(LHSV, h−1) 0.59の方法で直接水素化することで0.47mlのエタノールを回収した。
【表1】
【0061】
実施例8
実施例7の1段目処理のみをブナ木粉1gに施し、表1の分解生成物(1段目)を得た。また処理残渣として0.63gの固形物を得た。これらの混合物に対し、実施例3における前培養液1と前培養液2の投入体積比1:1の条件下の混合系で酢酸発酵を行ったところ、0.50gの酢酸を得た。これらを実施例5における反応温度:350℃、水素/酢酸モル比=8/1、触媒層空間速度(LHSV, h−1) 0.59の方法で直接水素化することで0.48mlのエタノールを回収した。
【0062】
参考例2(広範な糖類を対象とした酢酸発酵1)
以下に示す溶液1、2、3を調製し、オートクレーブで40分間120℃で殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液1〜3をそれぞれ10、25、15mlずつ充填して混合し(合計50ml)、これにClostridium thermoaceticum(ATCC39073株)を接種して、60℃のCO2雰囲気下で3日間培養し、前培養液とした。
【0063】
次いで溶液4を調製し、同様に殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液4を5ml、溶液2を25ml、溶液3を15ml、そして前述の前培養液を5ml充填して合計50mlとし、60℃の CO2雰囲気下で酢酸発酵させた。
【0064】
溶液1:グルコース10 g、蒸留水100 ml
溶液2:酵母エキス5 g、システイン塩酸塩1水和物0.25 g、硫酸アンモニウム1 g、硫酸マグネシウム7水和物0.25 g、硫酸第一鉄アンモニウム6水和物0.04 g、塩化ニッケル6水和物0.24mg、硫酸亜鉛7水和物0.29mg、亜セレン酸ナトリウム 0.017mg、レサズリン(1%溶液)0.1 ml、蒸留水300 ml
溶液3:水酸化ナトリウム0.415 g、炭酸水素ナトリウム5 g、リン酸二カリウム4.4 g、リン酸二水素カリウム7.5 g、蒸留水150 ml
溶液4:各種糖類10 g、蒸留水100 ml(各種糖類はグルコース、キシロース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、フルクトースおよびグルクロン酸)
各試験区から12時間毎に少量の培養液を採取し、各種糖類およびそれら由来の酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図10に示す(60時間後まで計測)。いずれの糖も発酵時間の経過とともに減少し、それに伴い酢酸が生成した。マンノース、ガラクトース、アラビノース、グルクロン酸の酢酸発酵は、グルコース、キシロース、フルクトースのそれと比較して、発酵時間が長くなっているが、発酵が進むにつれて糖類が減少し、酢酸が生成している。酢酸発酵時間に差異はあるものの、リグノセルロースから得られると予想される各種単糖類はいずれもC.thermoaceticumによる酢酸発酵の基質となり得ることがこのバッチ式酢酸発酵試験によってわかった。特に、グルコース、キシロース、フルクトースは、いずれも10 g/lの糖から約8 g/lの酢酸が生成しており、変換効率は約80 %と良好であった。また、この酢酸発酵系では水素ガスが発生することも確認しており、生成した水素は次行程(水素化分解)での反応にも利用することが可能である。
【0065】
参考例3(広範な糖類を対象とした酢酸発酵2)
以下に示す溶液1、2、3を調製し、オートクレーブで40分間120℃で殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液1〜3をそれぞれ10、25、15mlずつ充填して混合し(合計50ml)、これにClostridium thermocellum(ATCC27405株)を接種して、60℃のCO2雰囲気下で3日間培養し、前培養液とした。
【0066】
次いで溶液4を調製し、同様に殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液4を5ml、溶液2を25ml、溶液3を15ml、そして前述の前培養液を5ml充填して合計50mlとし、60℃の CO2雰囲気下で酢酸発酵させた。
【0067】
溶液1:セロビオース5g、蒸留水200 ml
溶液2:酵母エキス4.5 g、グルタチオン0.25 g、硫酸アンモニウム1.3 g、硫酸マグネシウム6水和物0.13 g、硫酸第一鉄7水和物0.0011 g、塩化カルシウム2水和物0.13 g、レサズリン0.001 g、蒸留水500 ml
溶液3:リン酸二水素カリウム1.43 g、リン酸二カリウム3水和物7.2 g、グリセロリン酸ナトリウム6 g、蒸留水300 ml
溶液4:セルロース、セロヘキサオースまたはセロビオース5 g、蒸留水50 ml
各試験区から12時間毎に少量の培養液を採取し、酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図11に示す(120時間後まで計測)。多糖であるセルロース、オリゴ糖であるセロヘキサオースおよびセロビオースのいずれの糖を用いた場合でも発酵時間の経過とともに酢酸が生成した。酢酸発酵時間に差異はあるものの、リグノセルロースから得られると予想される代表的な多糖、オリゴ糖であるセルロースおよびセロオリゴ糖はいずれもC.thermocellumによる酢酸発酵の基質となり得ることがこのバッチ式酢酸発酵試験によってわかった。このことは、実施例1に記載の加圧熱水処理において、リグノセルロースを単糖にまで加水分解する必要はないことを示している。
【0068】
実施例9(ギ酸および乳酸の酢酸発酵)
参考例2に記載の方法において、溶液4の各種糖類10 gをギ酸または乳酸1gとしてギ酸と乳酸に対する酢酸発酵を行った。
【0069】
各試験区から少量の培養液を採取し、ギ酸、乳酸および酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図12に示す(120時間後まで計測)。(a)はギ酸での結果を示しているが、発酵により乳酸と酢酸が生成することが分かる。しかし、酢酸は発酵時間の経過とともに増加しているが、乳酸は発酵が進むにつれて減少する傾向が見られた。(b)は乳酸での結果を示しているが、乳酸が酢酸に変換されていることが分かる。これらの結果から、参考例3で述べた、C.thermocellumによる酢酸発酵で副生するギ酸および乳酸は、C.thermoaceticumを併用すれば全て酢酸へと変換されうると考えられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロースを加圧熱水法および微生物を用いて、有機酸に転換し、この有機酸を直接水素化分解することによりアルコール類を製造する方法に関する。本発明は、特に、リグノセルロースを加圧熱水で加水分解処理して得られた広範な糖類(単糖、オリゴ糖、ウロン酸等)とその分解物、およびリグニン由来の分解物を嫌気性細菌により酢酸へと転換し、この酢酸を直接水素化分解してエタノールを合成する方法に関する。本発明は、また、セルロースを構成糖であるグルコースまで加水分解する嫌気性細菌とグルコースを酢酸発酵する嫌気性細菌とを混合培養して得られた該酢酸をエステル化を経ないで直接水素化分解してエタノールを合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールを製造する従来法は、グルコースなどの6炭糖を起点とし、これを酵母Saccharomyces cerevisiaeや細菌Zymomonas mobilisによって発酵させる方法である(式I参照)。
【0003】
酵母や細菌によるグルコースからのエタノール発酵
C6H12O6 → 2CH3CH2OH + 2CO2 ・・・・(I)
上記の通り、酵母によるエタノール発酵は1モルのグルコースから2モルのエタノールしか生成できないのに対し、リグノセルロースを酢酸に転換した場合は式II、III、IVに示す通り、1モルのグルコースから3モルのエタノールが生成できる。また、前者では副産物として二酸化炭素が放出されるのに対し、後者ではそれがない。
【0004】
酢酸発酵: C6H12O6 → 3CH3COOH・・・・(II)
エステル化:3CH3COOH + 3ROH → 3CH3COOR + 3H2O ・・・・(III)
水素化分解:3CH3COOR + 6H2 → 3CH3CH2OH +3ROH ・・・・(IV)
(式中、Rはアルキル基である。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前項の背景技術を踏まえ、発明者らは既特許出願(特願2008−261342号)において、リグノセルロースの加水分解、得られた広範な糖類を微生物で酢酸発酵、酢酸のエステル化、エステルの水素化分解からなる、エタノール製造技術を提案している。該特許出願では、リグノセルロースから酢酸発酵の基質となり得る広範な糖類(5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖、ウロン酸等)を得る手段として、加圧熱水による加水分解処理を採用しているが、前述の広範な糖類以外にもこれらの過分解物の生成も少なくないうえ、リグニン由来の化合物も得られるのが実情である。リグノセルロースを無駄なく利活用するうえで、これら広範な糖類の分解物を有効にエタノールへと変換することが課題である。
【0006】
また、加圧熱水によるリグノセルロースの加水分解処理の場合、先ず比較的低温でも加水分解される非晶構造のヘミセルロースがキシランの場合には構成糖である5炭糖に、グルコマンナンの場合には6炭糖のグルコースとマンノースに加水分解されるほか、リグニン成分も低分子化され易いものから溶出して、強固な結晶構造を有すセルロースが残存する。これを高温の加圧熱水で加水分解しグルコースやそのオリゴ糖として利用するか、もしくは、そのまま発酵基質として酢酸に転換することができれば、加圧熱水を作るために必要なエネルギーが削減できるうえ、処理工程もよりシンプルでコンパクトなものになる。
【0007】
一方、酢酸に代表される有機酸からのアルコール製造に関して発明者らは、上記の式III、IVからなるエステル化、水素化分解の二段階のアルコール製造法を提案したが、同時に酢酸発酵にて得られる酢酸濃度の限界に起因する課題についても言及した。詳しくは、Clostridium属細菌は、基質から酢酸を生成する嫌気性の発酵菌であるが、それ自身の酢酸耐性が1%程度と低いため、得られる酢酸濃度に限界がある。加えて後段のエステル化においては、水分の存在が反応を妨げる方向に作用するため、エステル化の前段において酢酸の精製が必要な点である。酢酸の精製については、膜の利用など様々な方法が挙げられるが、精製のためのエネルギーが必要となる。さらには、エステル化、水素化分解の二段階のプロセスは、実用に際してはさらなる簡略化が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、リグノセルロースを加圧熱水法および微生物を用いて有機酸に転換し、この有機酸を直接水素化分解することによりアルコール類を製造することを特徴とするアルコール類の製造方法である。
【0009】
請求項2に係る発明は、有機酸が酢酸であることを特徴とする請求項1に記載のエタノール製造法である。
【0010】
請求項3に係る発明は、リグノセルロースを加圧熱水法によって処理し、得られたリグニンをフェニルプロパン(C3−C6)構成単位またはその二量体以上のオリゴマーに分解した後、微生物によりフェニル核のメトキシ基を水酸基にするとともに、酢酸を生成することを特徴とする請求項2に記載のエタノールの製造方法である。
【0011】
請求項4に係る発明は、リグノセルロースを加圧熱水法および微生物で酢酸に転換する工程において、リグノセルロースを加圧熱水法で加水分解し、得られた5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖、ウロン酸に至る広範の糖類のみならず、それらの過分解物、ギ酸および乳酸、リグニン由来の物質を資化できるClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌であるClostridium thermocellumまたはClostridium thermoaceticumによって、これらを酢酸まで転換することを特徴とする請求項2または3に記載のエタノール類の製造方法である。
【0012】
請求項5に係る発明は、嫌気性酢酸発酵菌によって酢酸に転換される物質が、5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖若しくはウロン酸、糖類由来の過分解物であるエリトロース、グリコースアルデヒド、メチルグリオキサール、ギ酸および乳酸、リグニン由来の分解物であるグアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒドの一部、又はこれらの2以上の混合物であることを特徴とする請求項4に記載のエタノールの製造方法である。
【0013】
請求項6に係る発明は、加圧熱水法が低温と高温の二段法であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載のエタノールの製造方法である。
【0014】
請求項7に係る発明は、低温での加圧熱水法が、100〜250℃、高温での加圧熱水法が、200〜350℃であることを特徴とする請求項6に記載のエタノール製造方法である。
【0015】
請求項8に係る発明は、加圧熱水法が一段法であることを特徴とする、請求項2から4のいずれかに記載のエタノールの製造方法である。
【0016】
請求項9に係る発明は、加圧熱水法が、100〜250℃であることを特徴とする請求項8に記載のエタノール製造方法である。
【0017】
請求項10に係る発明は、リグノセルロースを一段加圧熱水法によって処理して得られる可溶化物と固形物(残渣)を、セロオリゴ糖に加水分解するClostridium属嫌気性細菌であるClostridium thermocellumと、その加水分解物(グルコースおよびセロビオース、セロオリゴ糖)を酢酸に転換するClostridium属嫌気性細菌であるClostridium thermoaceticumにより、可溶化物と残渣を同時に酢酸に転換することを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載のエタノール製造方法である。
【0018】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0019】
本発明は、リグノセルロースを加圧熱水法によって広範な糖類とその分解物、リグニン由来の分解物、そしてヘミセルロースやリグニンが除去された、または一部残存したセルロースを得て、これらを微生物によって酢酸に転換し、この酢酸を直接水素化分解することを特徴とするエタノールの製造方法である。
【0020】
まず、リグノセルロースを微生物により有機酸に転換するために、リグノセルロースを加水分解する加圧熱水処理の手段に付する。リグノセルロースを亜臨界や超臨界の熱水でギ酸、乳酸、酢酸などの有機酸に加水分解し、これをエステル化させた後、水素化分解するか、あるいは、有機酸を直接水素化分解することでメタノールやエタノールなどのアルコール類が製造できる。しかし、亜臨界や超臨界の熱水での処理は、反応時間が極端に短く、制御が十分でないと有機酸を高収率で得られない。そこで、発明者らは、リグノセルロースを構成するリグニン、ヘミセルロースおよびセルロースを低温と高温での段階的加圧水熱処理により高収率に加水分解し、次いでそれらを微生物により有機酸に転換する方法を見出した。リグノセルロースのヘミセルロースの加水分解温度は、比較的低温の100℃〜250℃の範囲であり、150℃〜230℃が好ましい。また、このヘミセルロースの加水分解温度で処理することで、リグニンの一部も低分子に加水分解される。セルロースの加水分解温度は、比較的高温の200℃〜350℃の範囲であり、250℃〜300℃が好ましい。ヘミセルロースの加水分解温度で残存したリグニンについても、このセルロースの加水分解温度によって、ほとんどが低分子化される。このように、リグニン、ヘミセルロースおよびセルロースを低温と高温の二段階の加圧熱水処理により、それぞれの構成単位にまで高収率に加水分解できる。
【0021】
次に、リグノセルロースを加圧熱水処理して得られる糖類およびリグニンの分解物を微生物によって有機酸に転換する手段を提供する。リグノセルロースを加圧熱水法で加水分解すると、5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖、ウロン酸に至る広範の糖類のみならず、それらの過分解物、ギ酸および乳酸、リグニン由来の物質が得られる。これらの物質を酢酸まで転換することで、無駄なくリグノセルロースを利活用し、目的産物であるエタノールの収率向上を図ることが可能となる。
【0022】
Clostridium属の嫌気性酢酸発酵菌により5炭糖、6炭糖の糖類を酢酸に転換されることは知られていたが、リグノセルロースを加圧熱水法で加水分解し、得られるオリゴ糖、ウロン酸に至る広範の糖類のみならず、糖由来の分解物であるエリトロース、グリコースアルデヒド、メチルグリオキサール、ギ酸および乳酸、リグニン分解物であるグアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒドをClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌によって、酢酸まで転換することを発明者らは見出した。また、グアイアコールからのカテコ−ルやシリンガアルデヒドからの3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドなどの有用芳香族化合物を酢酸生成と同時に得られることも見出した。
【0023】
リグノセルロースを加圧熱水処理により加水分解した広範な物質がClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌の発酵基質となり得ることは、これまで誰も知り得なかった新しい知見であり、これらによりリグノセルロースを高収率で酢酸に転換することが可能となった。
【0024】
また、酢酸発酵の過程でpH調整を兼ねてCaイオンを供給することで、Clostridium属の嫌気性酢酸発酵菌の発酵性能が向上するだけでなく、従来酢酸濃度の上限が1%程度であったものをそれ以上にできることも見出した。
【0025】
次に、リグノセルロースを一段階の加圧熱水処理により得られる可溶化物と固形物を有機酸に転換する手段を提供する。この場合、リグノセルロースを加圧熱水法で加水分解し、可溶化したヘミセルロースおよびリグニン、加圧熱水処理後のセルロースが主成分となる固形物を基質とする。固形物であるセルロースをグルコースや様々な有機酸に変換するClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌であるClostridium thermocellumと、グルコースや様々な有機酸を酢酸に変換するClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌であるClostridium thermoaceticumの2種の微生物により可溶化物と固形物を同時に酢酸に転換できる。これにより、一段階の加圧熱水処理後の固形物をより高温の加圧熱水で加水分解する必要がなくなるとともに、糖の過分解も起こらないうえ、加圧熱水を作るために必要なエネルギーが削減できる。なお、セルロースのみを基質とする場合に、リグノセルロースからヘミセルロースやリグニンを除去する手段は、加圧熱水法に限定されるものではなく、アルカリ法などであっても良い。
【0026】
最後に、酢酸からのアルコール製造に関し、エステル化と水素化分解によるアルコール製造において、エステル化を経由することに起因する課題を解決する手段を提供する。詳しくは、酢酸のエステル化に際し、エステル化反応を進行させるために必須である系内の水分率低減、具体的には、酢酸発酵によって得られる酢酸溶液からの酢酸精製、および脱水を不要とする手段を提供する。さらに、詳しくは、所定の温度、空間速度、必要に応じて触媒を活用することで酢酸と水素を直接反応させ、エステル化を経由することなく直接水素化分解することにより、選択的にアルコールを製造する方法を提供する。この反応は下の式(V)で示される。
【0027】
直接水素化分解: CH3COOH + 2H2 → C2H5OH + H2O・・・・(V)
この方法において、触媒を活用する場合には、Ru系触媒、Re系触媒、Ir系触媒を活用することができるが、なんらこれに限定されるものではない。反応温度は150℃〜350℃の範囲であり、Ru系触媒であれば300〜350℃の範囲が好ましい。空間速度は0.1〜20/hの範囲が好ましく、0.5〜2.0/hの範囲がさらに好ましい。圧力は0.1〜10MPaの範囲が好ましい。水素の添加量は適切な条件化であれは化学量論的に必要なモル数2モル以上あればよく、余剰の水素を添加した場合は、それを循環再利用してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明において、リグノセルロースを加圧熱水法によって広範な糖類とその分解物、ギ酸および乳酸、リグニン由来の分解物、そしてヘミセルロースやリグニンが除去された、または一部残存したセルロースを得て、これらを微生物によって酢酸に転換することにより、無駄なくリグノセルロースを利活用し、目的産物の収率向上を可能とする。さらに、リグニン由来の分解物を酢酸に転換するとともに、リグニン由来の分解物をより付加価値の高い芳香族化合物に変換することを可能とする。
【0029】
さらに、酢酸からのアルコール製造に関し、酢酸を直接水素化分解する方法により、エステル化と水素化分解からなる二段階法で必須であった酢酸溶液からの酢酸精製および脱水工程を省略することが可能となり、前段の工程を簡略化できるだけでなく、直接水素分解を採用することによりアルコール製造工程自体の簡略化を可能とする。
【0030】
水分が酢酸からのアルコール製造に与える影響に関し、直接水素化分解を行うことにより、酢酸濃度1wt%でもエタノール収率80wt%を達成できたことから、前述の酢酸発酵で得られる酢酸溶液からの酢酸精製および脱水工程省略の可能性を裏付けている。なお、この場合、水の気化による熱の吸収のため反応温度が220℃まで低下したことが収率80%になった原因であり、反応温度を保つことができれば、定量的な変換が可能である。
【0031】
酢酸濃度50wt%以上ではエタノール収率はほぼ100wt%を達成でき、例えばRu−C系の触媒存在下、350℃、2.0MPa、水素/酢酸モル比=8/1、触媒層空間速度0.59(LHSV, h−1)で試験を行った場合、エタノール収率はほぼ100%であり、選択的にエタノールを製造しうることを確認している。
【0032】
本反応は発熱反応であり、反応熱により反応場に必要な熱量の一部、もしくは全部を補填することが可能であり、余剰熱が発生した場合は他の工程への熱供給を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】糖過分解物の酢酸発酵を示すグラフである。
【図2】リグニン由来化合物の酢酸発酵を示すグラフである。
【図3】リグニン由来化合物の酢酸発酵による高付加価値有用芳香族物質の生産を示す反応式である。
【図4】C. thermoaceticum、C.thermocellum混合系でのセルロースの酢酸発酵を示すグラフである。
【図5】本発明で用いる流通型接触水素添加装置の模式図である。
【図6】5wt% Ru−C系触媒を用いた酢酸の水素化における反応温度の影響を示すグラフである。
【図7】5wt% Ru−C系触媒を用いた酢酸の水素化におけるH2 / AcOHモル比の影響を示すグラフである。
【図8】5wt% Ru−C系触媒を用いた酢酸の水素化における酢酸水溶液中の酢酸濃度の影響を示すグラフである。
【図9】Cu−Zn系触媒を用いた酢酸の水素化におけるH2 /EtOAcモル比の影響を示すグラフである。
【図10】各糖のClostridium thermoaceticumを用いた酢酸発酵での糖と酢酸の濃度変化を示すグラフである。
【図11】多糖、オリゴ糖のC. thermocellumを用いた酢酸発酵での各種有機酸の濃度変化を示すグラフである。
【図12】ギ酸および乳酸のC. thermoaceticumを用いた酢酸発酵を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例を挙げる。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1(糖過分解物を対象とした酢酸発酵)
以下に示す溶液1、2、3を調製し、オートクレーブにより40分間120℃で殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液1〜3をそれぞれ10、25、15mlずつ充填して混合し(合計50ml)、これにClostridium thermoaceticum(ATCC39073株)を接種して、60℃でCO2雰囲気下で3日間培養し、前培養液とした。
【0036】
次いで溶液4を調製し、同様に殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液4を5ml、溶液2を25ml、溶液3を15ml、そして前述の前培養液を5ml充填して合計50mlとし、60℃、CO2雰囲気下で酢酸発酵させた。
【0037】
溶液1:グルコース10g、蒸留水200 ml
溶液2:酵母エキス5 g、システイン塩酸塩1水和物0.25 g、硫酸アンモニウム1 g、硫酸マグネシウム7水和物0.25 g、硫酸第一鉄アンモニウム6水和物0.04 g、塩化ニッケル6水和物0.24mg、硫酸亜鉛7水和物0.29mg、亜セレン酸ナトリウム 0.017mg、レサズリン(1%溶液)0.1 ml、蒸留水300 ml
溶液3:水酸化ナトリウム0.415 g、炭酸水素ナトリウム5 g、リン酸二カリウム4.4 g、リン酸二水素カリウム7.5 g、蒸留水150 ml
溶液4:エリトロース、グリコースアルデヒド、メチルグリオキサール、レボグルコサンまたはグリコース酸を用いる場合は、それらを1gと蒸留水100 ml、5−ヒドロキシメチルフルフラールを用いる場合は0.1gと蒸留水100 mlを混合
各試験区から時間毎に少量の培養液を採取し、酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図1に示す(120時間後まで計測)。本実験では、エリトロース、グリコースアルデヒド、メチルグリオキサール、5−ヒドロキシメチルフルフラールの4つの基質について酢酸の生成が確認されたが、レボグルコサン、グリコース酸では酢酸は生成しないことがわかった。
【0038】
図1(a)に、エリトロースの発酵結果を示す。発酵が進むにつれエリトロースがなくなり、酢酸が生成した。最終的に1g/lのエリトロースから0.53g/lの酢酸が生成した。
【0039】
図1(b)に、グリコースアルデヒドの発酵結果を示す。発酵が進むにつれグリコースアルデヒドがなくなり、酢酸が生成した。最終的に1g/lのグリコースアルデヒドから0.45g/lの酢酸が生成した。
【0040】
図1(c)に、メチルグリオキサールの発酵結果を示す。メチルグリオキサールが基質の場合、それらを一度、乳酸に変換し、最終的に酢酸を生成するという特異な代謝が認められた。最終的に1g/lのメチルグリオキサールから0.29g/lの酢酸が生成した。
【0041】
図1(d)に、5−ヒドロキシメチルフルフラールの発酵結果を示す。発酵が進むにつれ5−ヒドロキシメチルフルフラールがなくなり、酢酸が生成した。最終的に0.1g/lのグリコースアルデヒドから0.24g/lの酢酸が生成した。
【0042】
以上の結果は、加圧熱水処理において発生する糖過分解物の一部も酢酸発酵の基質になり得ることを示している。
【0043】
実施例2(リグニン由来化合物を対象とした酢酸発酵)
実施例1に記載の方法において、溶液4の各種化合物として、リグニン由来化合物であるグアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒド、コニフェニルアルデヒド、シナピルアルデヒドを用いて酢酸発酵を行った。
【0044】
各試験区から時間毎に少量の培養液を採取し、酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図2に示す(120時間後まで計測)。本実験では、グアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒドの4つの基質について酢酸の生成が確認されたが、コニフェニルアルデヒド、シナピルアルデヒドでは酢酸は生成しなかった。
【0045】
図2(a)に、グアイアコールの発酵結果を示す。発酵が進むにつれグアイアコールがなくなり、酢酸とカテコ−ルが有用物質として生成した(図3(a))。このことからC.thermoaceticum はグアイアコールのメトキシ基部分を利用し、酢酸へと変換していると考えられる。最終的に1g/lのグアイアコールから0.38g/lの酢酸が生成した。
【0046】
図2(b)に、シリンゴールの発酵結果を示す。発酵が進むにつれ酢酸が生成した。最終的に1g/lのシリンゴールから0.67g/lの酢酸が生成した。その結果ピロガロールが有用物質として副生した(図3(b))。
【0047】
図2(c)に、バニリンの発酵結果を示す。発酵が進むにつれバニリンがなくなり、酢酸と3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒドが有用物質として生成した(図3(c))。最終的に1g/lのバニリンから0.49g/lの酢酸が生成した。
【0048】
図2(d)に、シリンガアルデヒドの発酵結果を示す。発酵が進むにつれシリンガアルデヒドがなくなり、酢酸と3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシベンズアルデヒドと3,4,5−トリヒドロキシベンズアルデヒドが生成した(図3(d))。最終的に1g/lのシリンガアルデヒドから0.70g/lの酢酸が生成した。
【0049】
以上の結果は、加圧熱水処理において発生するリグニン由来の化合物の一部も酢酸発酵の基質になり得ることを示している。さらに、この酢酸発酵の過程で副生する芳香族化合物は付加価値の高いもので有用なケミカルスとしての利用が可能である。
【0050】
実施例3(C. thermoaceticum、C.thermocellum混合系でのセルロースの酢酸発酵)
実施例1に記載の方法により、C. thermoaceticumの前培養液(以下、前培養液1と呼ぶ)を調製した。
【0051】
以下に示す溶液5、6、7を調製し、オートクレーブで40分間120℃で殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液5〜7をそれぞれ10、25、15mlずつ充填して混合し(合計50ml)、これにClostridium thermocellum(ATCC27405株)を接種して、60℃でCO2雰囲気下で3日間培養し、C. thermocellumの前培養液(以下、前培養液2と呼ぶ)とした。
【0052】
溶液5:セロビオース5g、蒸留水200 ml
溶液6:酵母エキス4.5 g、グルタチオン0.25 g、硫酸アンモニウム1.3 g、硫酸マグネシウム6水和物0.13 g、硫酸第一鉄7水和物0.0011 g、塩化カルシウム2水和物0.13 g、レサズリン0.001 g、蒸留水500 ml
溶液7:リン酸二水素カリウム1.43 g、リン酸二カリウム3水和物7.2 g、グリセロリン酸ナトリウム6 g、蒸留水300 ml
次いで溶液8を調製し、殺菌、脱気した100ml容量のシリンジバイアルに溶液8を5ml、実施例1に記載の溶液2を25ml、溶液3を15ml、そして前述の前培養液1と前培養液2を合わせて5ml充填して合計50mlとし、60℃の N2雰囲気下で酢酸発酵させた。なおこの時、前培養液1と前培養液2の投入体積比を1:2、1:1、2:1の3種類とし、その影響を確認した。
【0053】
溶液8:セルロース(旭化成製「アビセルPH−101」)10 g、蒸留水100 ml
各試験区から時間毎に少量の培養液を採取し、酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図4に示す(120時間後まで計測)。その結果、混合系によってセルロース(旭化成製「アビセルPH−101」)を発酵させた場合、エタノール等の副産物が少量見られるものの、選択的に酢酸が生成した。C.thermocellumは体の表面についている酵素によってセルロース(旭化成製「アビセルPH−101」)を分解し、グルコースを培養液中に生成させることが観測されているが、該グルコースを選択的にC.thermoaceticumが利用することによって、このように高い酢酸変換率が観測されたと考える。また、(c)の前培養液投入比が、前培養液1:前培養液2=1:2のときに、酢酸への変換率が最大になっており、その値は65.9%であった。セルロース(旭化成製「アビセルPH−101」)を直接発酵させる場合には、C.thermocellumの投入比が大きい方が高い変換率となった。
【0054】
実施例4(5%Ru−C系触媒を用いた酢酸の直接水素化(反応温度の影響))
N2雰囲気下、250〜350℃、0.1MPaで2時間か焼処理を行い、さらに250〜350℃、2.0MPa、水素流量100ml/minで2時間触媒の還元、活性化処理を行った5%Ru−C系触媒(Ruthenium 5wt.% on carbon, 206180, SIGMA−ALDRICH Corporation製)を反応管に充填した流通式接触水素添加装置(図5)を用い、酢酸の直接水素化分解を実施した。詳細は、反応温度: 250〜350℃、圧力:2.0MPa、水素/酢酸モル比=8/1、触媒層空間速度(LHSV, h−1) 0.59の条件で直接水素化分解を行い、得られるエタノールを測定し、収率を算出した。結果を図6に示す。320℃以上の温度域において、酢酸エチルを副生することなく、酢酸は定量的にエタノールへと変換された。
【0055】
実施例5(5%Ru−C系触媒を用いた酢酸の直接水素化(水素/酢酸モル比の影響))
反応温度:350℃、水素/酢酸モル比=2/1−8/1、触媒層空間速度(LHSV, h−1) 0.59−2.37の条件を用いること以外は、実施例4と同様に直接水素化処理を行った。結果を図7に示す。化学量論比の2を含むすべての水素 / 酢酸モル比において、酢酸エチルを副生することなく、酢酸は定量的にエタノールへと変換された。
【0056】
実施例6(5%Ru−C系触媒を用いた酢酸水溶液の直接水素化)
酢酸の代わりに5あるいは50%酢酸水溶液を用いること、反応温度:350℃、水素/酢酸モル比=8/1の条件を用いること以外は、実施例4と同様に直接水素化処理を行った。結果を図8に示す。水の共存下であっても反応温度を保つことが可能であれば、酢酸の定量的なエタノールへの変換が可能であることがわかった。
【0057】
参考例1(Cu−Zn系触媒を用いた酢酸エチルの水素化分解)
N2雰囲気下、250〜350℃、0.1MPaで2時間か焼処理を行い、さらに250〜350℃、2.0MPa、水素流量100ml/minで2時間触媒の還元、活性化処理を行ったCu−Zn系触媒(Cu/Zn = 48/44, w/w、N211、日揮触媒化学株式会社製)を反応管に充填した流通式接触水素添加装置(図5)を用い、酢酸エチルの水素化分解を実施した。詳細は、反応温度:250℃、圧力:2.0MPa、水素/酢酸エチルモル比=4/1−32/1、触媒層空間速度(LHSV, h−1) 1.13−10.38の条件で水素化分解を行い、得られるエタノールを測定し、収率を算出した。結果を図9に示す。
【0058】
水素/ 酢酸エチルモル比=4/1ではエタノールの収率は、20%程度と低いものであったが、水素 / 酢酸エチルモル比の増大とともにその値は向上し、32/1において、98.7%に達し、大過剰の水素を用いることで酢酸エチルの定量的な水素化分解が可能であった。
【0059】
実施例7
1段目を230℃/10MPa/15分、および2段目を270℃/10MPa/15分の条件にて、ブナ木粉1gを二段階加圧熱水処理を行った。得られた分解生成物を、1段目と2段目の成分に分け、さらにヘミセルロース由来およびセルロース由来の糖類、糖類の過分解物、さらにその過分解物から生成される有機酸にそれぞれ分け、木粉ベースの重量%で表1に示す。これに実施例3における前培養液1と前培養液2の投入体積比1:1の方法で酢酸発酵を行ったところ0.48gの酢酸を得た。
【0060】
これらを実施例5における反応温度:350℃、水素/酢酸モル比=8/1、触媒層空間速度(LHSV, h−1) 0.59の方法で直接水素化することで0.47mlのエタノールを回収した。
【表1】
【0061】
実施例8
実施例7の1段目処理のみをブナ木粉1gに施し、表1の分解生成物(1段目)を得た。また処理残渣として0.63gの固形物を得た。これらの混合物に対し、実施例3における前培養液1と前培養液2の投入体積比1:1の条件下の混合系で酢酸発酵を行ったところ、0.50gの酢酸を得た。これらを実施例5における反応温度:350℃、水素/酢酸モル比=8/1、触媒層空間速度(LHSV, h−1) 0.59の方法で直接水素化することで0.48mlのエタノールを回収した。
【0062】
参考例2(広範な糖類を対象とした酢酸発酵1)
以下に示す溶液1、2、3を調製し、オートクレーブで40分間120℃で殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液1〜3をそれぞれ10、25、15mlずつ充填して混合し(合計50ml)、これにClostridium thermoaceticum(ATCC39073株)を接種して、60℃のCO2雰囲気下で3日間培養し、前培養液とした。
【0063】
次いで溶液4を調製し、同様に殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液4を5ml、溶液2を25ml、溶液3を15ml、そして前述の前培養液を5ml充填して合計50mlとし、60℃の CO2雰囲気下で酢酸発酵させた。
【0064】
溶液1:グルコース10 g、蒸留水100 ml
溶液2:酵母エキス5 g、システイン塩酸塩1水和物0.25 g、硫酸アンモニウム1 g、硫酸マグネシウム7水和物0.25 g、硫酸第一鉄アンモニウム6水和物0.04 g、塩化ニッケル6水和物0.24mg、硫酸亜鉛7水和物0.29mg、亜セレン酸ナトリウム 0.017mg、レサズリン(1%溶液)0.1 ml、蒸留水300 ml
溶液3:水酸化ナトリウム0.415 g、炭酸水素ナトリウム5 g、リン酸二カリウム4.4 g、リン酸二水素カリウム7.5 g、蒸留水150 ml
溶液4:各種糖類10 g、蒸留水100 ml(各種糖類はグルコース、キシロース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、フルクトースおよびグルクロン酸)
各試験区から12時間毎に少量の培養液を採取し、各種糖類およびそれら由来の酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図10に示す(60時間後まで計測)。いずれの糖も発酵時間の経過とともに減少し、それに伴い酢酸が生成した。マンノース、ガラクトース、アラビノース、グルクロン酸の酢酸発酵は、グルコース、キシロース、フルクトースのそれと比較して、発酵時間が長くなっているが、発酵が進むにつれて糖類が減少し、酢酸が生成している。酢酸発酵時間に差異はあるものの、リグノセルロースから得られると予想される各種単糖類はいずれもC.thermoaceticumによる酢酸発酵の基質となり得ることがこのバッチ式酢酸発酵試験によってわかった。特に、グルコース、キシロース、フルクトースは、いずれも10 g/lの糖から約8 g/lの酢酸が生成しており、変換効率は約80 %と良好であった。また、この酢酸発酵系では水素ガスが発生することも確認しており、生成した水素は次行程(水素化分解)での反応にも利用することが可能である。
【0065】
参考例3(広範な糖類を対象とした酢酸発酵2)
以下に示す溶液1、2、3を調製し、オートクレーブで40分間120℃で殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液1〜3をそれぞれ10、25、15mlずつ充填して混合し(合計50ml)、これにClostridium thermocellum(ATCC27405株)を接種して、60℃のCO2雰囲気下で3日間培養し、前培養液とした。
【0066】
次いで溶液4を調製し、同様に殺菌、脱気した後、100ml容量のシリンジバイアルに溶液4を5ml、溶液2を25ml、溶液3を15ml、そして前述の前培養液を5ml充填して合計50mlとし、60℃の CO2雰囲気下で酢酸発酵させた。
【0067】
溶液1:セロビオース5g、蒸留水200 ml
溶液2:酵母エキス4.5 g、グルタチオン0.25 g、硫酸アンモニウム1.3 g、硫酸マグネシウム6水和物0.13 g、硫酸第一鉄7水和物0.0011 g、塩化カルシウム2水和物0.13 g、レサズリン0.001 g、蒸留水500 ml
溶液3:リン酸二水素カリウム1.43 g、リン酸二カリウム3水和物7.2 g、グリセロリン酸ナトリウム6 g、蒸留水300 ml
溶液4:セルロース、セロヘキサオースまたはセロビオース5 g、蒸留水50 ml
各試験区から12時間毎に少量の培養液を採取し、酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図11に示す(120時間後まで計測)。多糖であるセルロース、オリゴ糖であるセロヘキサオースおよびセロビオースのいずれの糖を用いた場合でも発酵時間の経過とともに酢酸が生成した。酢酸発酵時間に差異はあるものの、リグノセルロースから得られると予想される代表的な多糖、オリゴ糖であるセルロースおよびセロオリゴ糖はいずれもC.thermocellumによる酢酸発酵の基質となり得ることがこのバッチ式酢酸発酵試験によってわかった。このことは、実施例1に記載の加圧熱水処理において、リグノセルロースを単糖にまで加水分解する必要はないことを示している。
【0068】
実施例9(ギ酸および乳酸の酢酸発酵)
参考例2に記載の方法において、溶液4の各種糖類10 gをギ酸または乳酸1gとしてギ酸と乳酸に対する酢酸発酵を行った。
【0069】
各試験区から少量の培養液を採取し、ギ酸、乳酸および酢酸濃度の推移をHPLCにより分析した結果を図12に示す(120時間後まで計測)。(a)はギ酸での結果を示しているが、発酵により乳酸と酢酸が生成することが分かる。しかし、酢酸は発酵時間の経過とともに増加しているが、乳酸は発酵が進むにつれて減少する傾向が見られた。(b)は乳酸での結果を示しているが、乳酸が酢酸に変換されていることが分かる。これらの結果から、参考例3で述べた、C.thermocellumによる酢酸発酵で副生するギ酸および乳酸は、C.thermoaceticumを併用すれば全て酢酸へと変換されうると考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロースを加圧熱水法および微生物を用いて有機酸に転換し、この有機酸を直接水素化分解することによりアルコール類を製造することを特徴とするアルコール類の製造方法。
【請求項2】
有機酸が酢酸であることを特徴とする請求項1に記載のエタノール製造法。
【請求項3】
リグノセルロースを加圧熱水法によって処理し、得られたリグニンをフェニルプロパン(C3−C6)構成単位またはその二量体以上のオリゴマーに分解した後、微生物によりフェニル核のメトキシ基を水酸基にするとともに、酢酸を生成することを特徴とする請求項2に記載のエタノールの製造方法。
【請求項4】
リグノセルロースを加圧熱水法および微生物で酢酸に転換する工程において、リグノセルロースを加圧熱水法で加水分解し、得られた5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖、ウロン酸に至る広範の糖類のみならず、それらの過分解物、ギ酸および乳酸、リグニン由来の物質を資化できるClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌によって、これらを酢酸まで転換することを特徴とする請求項2または3に記載のエタノール類の製造方法。
【請求項5】
嫌気性酢酸発酵菌によって酢酸に転換される物質が、5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖若しくはウロン酸、糖類由来の過分解物であるエリトロース、グリコースアルデヒド、メチルグリオキサール、ギ酸および乳酸、リグニン由来の分解物であるグアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒドの一部、又はこれらの2以上の混合物であることを特徴とする請求項4に記載のエタノールの製造方法。
【請求項6】
加圧熱水法が低温と高温の二段法であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載のエタノールの製造方法。
【請求項7】
低温での加圧熱水法が、100〜250℃、高温での加圧熱水法が、200〜350℃であることを特徴とする請求項6に記載のエタノール製造方法。
【請求項8】
加圧熱水法が一段法であることを特徴とする、請求項2から4のいずれかに記載のエタノールの製造方法。
【請求項9】
加圧熱水法が、100〜250℃であることを特徴とする請求項8に記載のエタノール製造方法。
【請求項10】
リグノセルロースを一段加圧熱水法によって処理して得られる可溶化物と固形物(残渣)を、セロオリゴ糖に加水分解するClostridium属嫌気性細菌であるClostridium thermocellumと、その加水分解物(グルコースおよびセロビオース、セロオリゴ糖)を酢酸に転換するClostridium属嫌気性細菌であるClostridium thermoaceticumにより、可溶化物と残渣を同時に酢酸に転換することを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載のエタノール製造方法。
【請求項1】
リグノセルロースを加圧熱水法および微生物を用いて有機酸に転換し、この有機酸を直接水素化分解することによりアルコール類を製造することを特徴とするアルコール類の製造方法。
【請求項2】
有機酸が酢酸であることを特徴とする請求項1に記載のエタノール製造法。
【請求項3】
リグノセルロースを加圧熱水法によって処理し、得られたリグニンをフェニルプロパン(C3−C6)構成単位またはその二量体以上のオリゴマーに分解した後、微生物によりフェニル核のメトキシ基を水酸基にするとともに、酢酸を生成することを特徴とする請求項2に記載のエタノールの製造方法。
【請求項4】
リグノセルロースを加圧熱水法および微生物で酢酸に転換する工程において、リグノセルロースを加圧熱水法で加水分解し、得られた5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖、ウロン酸に至る広範の糖類のみならず、それらの過分解物、ギ酸および乳酸、リグニン由来の物質を資化できるClostridium属の嫌気性酢酸発酵菌によって、これらを酢酸まで転換することを特徴とする請求項2または3に記載のエタノール類の製造方法。
【請求項5】
嫌気性酢酸発酵菌によって酢酸に転換される物質が、5炭糖、6炭糖、それらのオリゴ糖若しくはウロン酸、糖類由来の過分解物であるエリトロース、グリコースアルデヒド、メチルグリオキサール、ギ酸および乳酸、リグニン由来の分解物であるグアイアコール、シリンゴール、バニリン、シリンガアルデヒドの一部、又はこれらの2以上の混合物であることを特徴とする請求項4に記載のエタノールの製造方法。
【請求項6】
加圧熱水法が低温と高温の二段法であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載のエタノールの製造方法。
【請求項7】
低温での加圧熱水法が、100〜250℃、高温での加圧熱水法が、200〜350℃であることを特徴とする請求項6に記載のエタノール製造方法。
【請求項8】
加圧熱水法が一段法であることを特徴とする、請求項2から4のいずれかに記載のエタノールの製造方法。
【請求項9】
加圧熱水法が、100〜250℃であることを特徴とする請求項8に記載のエタノール製造方法。
【請求項10】
リグノセルロースを一段加圧熱水法によって処理して得られる可溶化物と固形物(残渣)を、セロオリゴ糖に加水分解するClostridium属嫌気性細菌であるClostridium thermocellumと、その加水分解物(グルコースおよびセロビオース、セロオリゴ糖)を酢酸に転換するClostridium属嫌気性細菌であるClostridium thermoaceticumにより、可溶化物と残渣を同時に酢酸に転換することを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載のエタノール製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−239913(P2010−239913A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93607(P2009−93607)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月28日 日本木材学会発行の「第59回 日本木材学会大会 研究発表要旨集」に発表
【出願人】(599006203)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月28日 日本木材学会発行の「第59回 日本木材学会大会 研究発表要旨集」に発表
【出願人】(599006203)
【Fターム(参考)】
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