説明

有機醗酵飼料の製造方法

【課題】 きのこの廃培地に含まれる雑菌の繁殖を抑制し、醗酵酵母による醗酵を良好にすることができる有機醗酵飼料の製造方法を提供する。
【解決手段】 有機醗酵飼料の製造方法は、コーンコブやオガクズに米糖、ふすまを少なくとも混合したきのこ培地できのこを栽培した後の廃培地に、サッカロミセス・セレビシエ株(受託番号FERM P−18964)からなる醗酵酵母を添加する。このきのこ廃培地を所定温度の雰囲気中で所定時間放置して乳酸菌により乳酸発酵させて上記廃培地中の雑菌を滅菌する。その後、所定温度の雰囲気中で上記サッカロミセス・セレビシエ株により上記乳酸菌を減少させながら上記廃培地を発酵させて有機醗酵飼料を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、きのこの廃培地を利用して家畜飼料、養殖餌料或いは愛玩動物餌料を得るための有機醗酵飼料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、きのこを栽培した後のきのこ培地(廃培地)を用いて飼料を製造する方法が提案されている。例えば特開昭51−22581号公報(特許文献1)には、食用茸を栽培した後の培養基から飼料を製造する方法が開示されている。特開平2−31651号公報(特許文献2)には、きのこを栽培して得られる消化培地(廃培地)を配合飼料に加えた飼料が開示されている。特開2006−141218号公報(特許文献3)には、主原料としての使用済培地に、副原料として上記使用済培地よりも低含水率のトウモロコシ、豆皮およびビートを混合した飼料が開示されている。
【0003】
上記特許文献1乃至3に開示された飼料の製造法によれば、きのこを栽培した後における廃培地に配合飼料或いはトウモロコシ等の適宜の飼料成分として有効な物質を添加し、これを飼料として用いている。ところが、このような従来の製造方法によって得られる飼料は、飼料の体はなすものの、きのこの廃培地をそのまま使用すると、実際に鶏や豚に給飼すると、嗜好性が悪くなることから、十分な栄養が与えられず、成長及び健康増進を阻害してしまう。さらに、肉質が軟脂化してしまうなど、品質的にもランクが低くなり、飼料としては不十分であるのが実情である。また、廃培地は家畜の体内では消化吸収されにくい問題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、きのこの廃培地を含む有機質廃棄物にサッカロミセス・セレビシエ株(受託番号FERM P−18964)からなる醗酵酵母を添加することにより、家畜飼料、養殖餌料及び愛玩動物餌料として提供することを目的に、特許第3950767号公報(特許文献4)において、一例として、木質チップ材、きのこ廃床材、竹材の有機多孔質材料にこの醗酵酵母を添加することにより、前記有機多孔質材料を醗酵させて乾物粗飼料に代わる家畜飼料を得ることを提案した。
【0005】
上記特許文献4によれば、一般家庭から排出される厨芥、食品生産工程や賞味期限切れ返品で排出される未利用有機質廃棄物や、食品関連事業、農林漁業から排出する有機質廃棄物に醗酵酵母を添加して醗酵させた場合には、良好な家畜飼料、養殖餌料及び愛玩動物餌料を得ることができる。しかしながら、木質チップ材、きのこ廃床材、竹材の有機多孔質材料には雑菌が混入しているために、場合によっては腐敗してしまい、飼料として使用できないことがあった。また、醗酵酵母によって発酵する過程で雑菌も駆逐するために、雑菌が多い場合には、発酵が不十分になるため、嗜好性が悪くなるとともに、家畜の体内で消化吸収されにくくなる問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭51−22581号公報
【特許文献2】特開平2−31651号公報
【特許文献3】特開2006−141218号公報
【特許文献4】特許第3950767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この問題を解決し、きのこの廃培地に含まれる雑菌の繁殖を抑制し、醗酵酵母による醗酵を良好にすることができる有機醗酵飼料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明による有機醗酵飼料の製造方法は、コーンコブやオガクズに米糖、ふすまを少なくとも混合したきのこ培地できのこを栽培した後の廃培地に、サッカロミセス・セレビシエ株(受託番号FERM P−18964)からなる醗酵酵母を添加する工程と、所定温度の雰囲気中で所定時間放置して上記サッカロミセス・セレビシエ株により発酵する前に自然界の乳酸菌により乳酸発酵させて上記廃培地中の雑菌を滅菌する工程と、その後、所定温度の雰囲気中で上記サッカロミセス・セレビシエ株により上記乳酸菌を減少させながら上記廃培地を発酵させて有機醗酵飼料を生成する工程とを具備することを要旨としている。
【0009】
また、本発明の有機醗酵飼料の製造方法においては、きのこを栽培した後の廃培地に対し、サッカロミセス・セレビシエ株からなる醗酵酵母の粉体等の固形体を0.1重量%乃至0.5重量%添加することが望ましい。
【0010】
さらに、本発明の有機醗酵飼料の製造方法は、廃培地を発酵させて有機醗酵飼料を生成する工程の後の含水率が40%以下になるまで乾燥させる乾燥工程を加えることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機醗酵飼料の製造方法によれば、きのこを栽培した後の廃培地にサッカロミセス・セレビシエ株からなる醗酵酵母を添加した後、この醗酵酵母が活性化する前に乳酸菌により乳酸発酵させるので、きのこ廃培地に混在する各種の雑菌およびきのこ菌の一部が滅菌させることができる。その後は、上記醗酵酵母が上記乳酸菌を餌料としながらきのこ廃培地を発酵させるので、きのこ廃培地の分解が促進され、僅かなアルコール様の臭気を伴う消化吸収しやすい有機醗酵飼料を得ることができる。この有機醗酵飼料は、嗜好性が向上し、家畜の食欲を高めるとともに、消化が極めて良好となるため成長が促進され、豚の場合には平均体重が従来の豚に比べほぼ4割程度増加した。さらに、筋肉部および脂身部ともに、不飽和脂肪酸が増加し、特に、リノール酸は、一般的に給餌されている濃厚飼料に比べ、約5%増加することが確認される等、健康的な肉質に変化させる。
【0012】
また、畜糞は臭いがなく、悪臭公害を生じることがかく、直接あるいは堆肥へ混合することにより優良な有機質肥料として利用できる。さらには、湿性の飼料であっても、醗酵酵母による発酵の前に、乳酸菌により乳酸発酵させるので、雑菌が大幅に減少することから、長期保存ができ、常温下でも腐敗が生じないので、低コストかつ容易に製造することができる。この保存期間は、有機醗酵飼料を生成する工程の後に、含水率が40%以下になるまで乾燥させることにより、さらに延長させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による有機醗酵飼料の製造方法は、まず、醗酵酵母添加工程において、コーンコブやオガクズに米糖、ふすまを少なくとも混合したきのこ培地できのこを栽培した後の廃培地に、サッカロミセス・セレビシエ株(受託番号FERM P−18964)からなる醗酵酵母を添加する。次に、滅菌工程において、所定温度の雰囲気中で所定時間放置して上記サッカロミセス・セレビシエ株により発酵する前に自然界の乳酸菌により乳酸発酵させて上記きのこ廃培地中の雑菌を滅菌する。その後、生成工程において、所定温度の雰囲気中で上記サッカロミセス・セレビシエ株により上記乳酸菌を減少させながら上記きのこ廃培地を発酵させることにより有機醗酵飼料が生成される。
【0014】
以下、本発明の好適な実施例について説明する。きのこ培地の成分としては、一般的には表1の組成となっている。
【0015】
【表1】

なお、上記組成の他に、乾燥おから、綿実殻、大豆皮などを使用することがある。
【0016】
この培地組成には、有機酸や水分を加えて攪拌し、最終的に含水率が約65%、PH約4.0になるように調整してきのこ培地をつくる。そして、常法により、ポリプロピレンその他プラスチック製のビンに入れて例えば摂氏100度、10時間程度殺菌した後、エノキ茸、しめじ茸、なめこ茸等のきのこ菌を接種し、きのこの適温、例えば摂氏10度〜30度程度の温度に所用期間維持して、きのこを培養する。このように培養することにより、各種のきのこ子実体が栽培される。きのこ子実体を収穫した後の残渣、或いは、きのこ子実体を除去した根基部を加えたものがきのこ廃培地となる。なお、上記培地できのこ子実体を栽培させることなく、菌糸体のみの状態のものも、きのこ廃培地として使用してもよい。きのこ子実体を収穫の終了したきのこ廃培地は、栽培瓶から掻き出す。なお、この状態では廃培地が塊状になっているが、必要に応じて粒状になるまで粉砕しても良い。
【0017】
このきのこ廃培地は、次の醗酵酵母添加工程において、サッカロミセス・セレビシエ株(受託番号FERM P−18964)からなる醗酵酵母を添加する。添加する醗酵酵母は、粉体等の固形体となっていて、上記きのこ廃培地に対して、0.1重量%乃至0.5重量%添加し、醗酵酵母がきのこ廃培地全体に均等に配分されるように撹拌する。
【0018】
ここで、サッカロミセス・セレビシエ株(受託番号FERM P−18964)からなる醗酵酵母について説明する。この醗酵酵母は、酵母菌、出芽酵母であり、糖をかもしてアルコールに変えることから、一般的にはパン酵母、清酒酵母、ビール酵母、ワイン酵母などとして使用されている、本発明に使用するサッカロミセス・セレビシエ株(受託番号FERM P−18964)からなる醗酵酵母は、一般に使用される上記の各酵母とは異なり、特に飼料を製造するために、本発明者が開発した酵母である。この受託番号FERM P−18964の醗酵酵母の詳細は、特許第3950767号公報(特許文献4)に詳述されている。
【0019】
このような醗酵酵母が添加されたきのこ廃培地は、まず、滅菌工程において、例えば、摂氏36度〜40度の雰囲気中で放置する。その後所定時間経過すると、まず自然界に存在する乳酸菌がきのこ廃培地に付着するとともに乳酸発酵が始まる。このとき、添加した醗酵酵母である上記サッカロミセス・セレビシエ株は、乳酸菌よりも立ち上がりが遅いことから発酵が始まらない。乳酸菌は、きのこ廃培地に混入している雑菌類を餌料として発酵されるので、きのこ廃培地中野の雑菌が次第に滅菌される。このとき、きのこ廃培地の残された菌糸も乳酸発酵によって減少する。
【0020】
その後、上記した所定温度の雰囲気を継続すると、有機醗酵飼料を生成する生成工程に移行する。この工程では、サッカロミセス・セレビシエ株からなる醗酵酵母が立ち上がって発酵を始める。このとき、上記醗酵酵母は、上記乳酸菌を餌料として繁殖し、乳酸菌を減少させるとともにきのこ廃培地を発酵させて有機醗酵飼料を生成する。この生成工程により、きのこ廃培地の分解が促進され、僅かなアルコール様の臭気を伴う消化吸収しやすい有機醗酵飼料が得られる。上記有機醗酵飼料は、必要に応じて、有機醗酵飼料を生成する工程の後に、含水率が40%以下になるまで乾燥させても良い。このように、有機醗酵飼料を乾燥させることにより、保存期間は、さらに延長させることが可能となり、また、成分が変化する。
【0021】
上述した実施例によって得られた有機醗酵飼料の成分は、表2のようになった。また、有機醗酵飼料を生成する工程の後に、含水率が40%以下になるまで乾燥させることにより、成分は表3のように変化する。なお、有機醗酵飼料の成分分析は、社団法人日本食品分析センターに委託して結果を得た。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
上記有機醗酵飼料は、家畜(牛、豚、鶏、山羊、馬等)飼料、養殖(魚、甲殼類)餌料及び愛玩動物(犬、猫、小鳥、観賞魚等)餌料として提供することができる。きのこ廃培地をサッカロミセス・セレビシエ株からなる醗酵酵母によって発酵させた上記有機醗酵飼料は、表1に示すような成分のために、特に、牛などの草食動物の乾物粗飼料として利用できる。この有機醗酵飼料は、僅かなアルコール様の臭気を伴うことから嗜好性が良くなり、また、消化吸収性に優れ、家畜、養殖類及び愛玩動物の健康増進や生育促進に寄与することができる。家畜では腹水症や突然死症候群の事故率・抗生物質の低減、成長の増進や肉質の向上を図ることができ、また、予め乳酸発酵により雑菌を滅菌処理したうえで醗酵処理を行なうことから、長期保存できる家畜飼料が得られる。なおかつ、きのこ廃培地の減量化、再資源化や家畜飼料コストの削減を図ることができる。
【0025】
家畜として豚に醗酵飼料を与えて飼養したところ、表4に示すように、筋肉部および脂身部ともに、不飽和脂肪酸が増加し、特に、リノール酸は、一般的に給餌されている濃厚飼料に比べ、約5%増加することが確認された。また、ステアリン酸等の飽和脂肪酸は、逆に減少する傾向がある等、人が食するときに健康的な成分の肉質に変化させることができる。また、鶏に対し、一般的な配合飼料を与えることなく、上記有機醗酵飼料のみを給餌したところ、鶏の生育を早めることができた。また、抗生物質などの家畜医薬品を投与しないにも関わらず、感染症による事故例がなくなった。さらに、この肉および鶏卵は、アレルギー症状を有する人が食した場合にも、アレルギー反応が発症しないことも確認され、特に、アトピー症患者用として食されているが、発症例はない。
【0026】
【表4】

【0027】
また、畜産関係者、社員・役員および関係者女性301名、男性265名による肉質の賞味試験の結果、配合飼料(濃厚飼料)飼養豚よりも美味しく、肉質が柔らかく、獣臭がなかったと評価された。その結果を表5に示す。
【0028】
【表5】

【0029】
以上、本発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であることは言うまでもない。例えば、きのこ廃培地を原料とした有機醗酵飼料について説明したが、家畜、養殖類或いは愛玩動物によっては、有機醗酵飼料を製造するとき、または、製造後に適宜の有機飼料を添加しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、家畜飼料、養殖餌料或いは愛玩動物餌料を得るための有機醗酵飼料に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーンコブやオガクズに米糖、ふすまを少なくとも混合したきのこ培地できのこを栽培した後の廃培地に、サッカロミセス・セレビシエ株(受託番号FERM P−18964)からなる醗酵酵母を添加する工程と、所定温度の雰囲気中で所定時間放置して上記サッカロミセス・セレビシエ株により発酵する前に自然界の乳酸菌により乳酸発酵させて上記廃培地中の雑菌を滅菌する工程と、その後、所定温度の雰囲気中で上記サッカロミセス・セレビシエ株により上記乳酸菌を減少させながら上記廃培地を発酵させて有機醗酵飼料を生成する工程とを具備することを特徴とする有機醗酵飼料の製造方法。
【請求項2】
きのこを栽培した後の廃培地に対し、サッカロミセス・セレビシエ株からなる醗酵酵母の粉体等の固形体を0.1重量%乃至0.5重量%添加した請求項1に記載の有機醗酵飼料の製造方法。
【請求項3】
廃培地を発酵させて有機醗酵飼料を生成する工程の後の含水率が40%以下になるまで乾燥させる乾燥工程を加えた請求項1に記載の有機醗酵飼料の製造方法。

【公開番号】特開2011−142896(P2011−142896A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19487(P2010−19487)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(397005213)株式会社オオビケン (2)
【Fターム(参考)】