説明

有機金属錯体及び有機電界発光素子

【課題】高発光効率で、色純度の高い新規燐光性有機金属錯体と、このような新規燐光性有機金属錯体を用いることで、フルカラーフラットパネル・ディスプレイや白色蛍光灯などへ応用が可能な、高発光効率で色純度の高い有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】下記一般式(I),(II)で表される有機金属錯体。この有機金属錯体を発光層に含有する有機電界発光素子。配位子として、インダゾール環の1位或いは2位に芳香環を有する多縮環構造のものを有するため、振動伸縮が小さくなり、高発光効率で色純度が高い有機金属錯体となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な燐光色素として有用な有機金属錯体とこの有機金属錯体を用いた有機電界発光素子に関するものであり、詳しくは、レーザー、薄膜型有機ELデバイスや近赤外発光材料として有用な有機電界発光素子を提供し得る燐光性有機金属錯体と、この有機金属錯体を発光材料とする有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機電界発光素子には蛍光性色素が数多く用いられてきたが、フラットパネル・ディスプレイ等の表示、蛍光灯や標識灯等の光源、更には近赤外発光材料として応用するためには、素子の発光効率を更に改善する必要があり、新たな発光材料の開発が求められている。
【0003】
近年、素子の発光効率を上げる試みの一つとして、3重項励起状態からの発光すなわち燐光を利用した燐光色素の利用が注目を集めている。燐光を用いた場合には従来の1重項励起状態からの発光(蛍光)に比べて、約3倍の取り出し効率が可能となり、高効率化が期待されるからである。
【0004】
実際、非特許文献1では、下記の構造で表される有機イリジウム錯体(4)を4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(CBP)にドープさせることにより、発光波長510nmの緑色発光を示し、その外部量子効率は13%と従来の1重項発光素子の量子効率限界値(5%)を大きく上回ることが報告されている。
【0005】
【化3】

【0006】
更に、非特許文献2では、上記化合物に種々の置換基を導入してなる下記構造で表される化合物(5)を使用することにより、発光波長のチューニングが可能であることも報告されている。
【0007】
【化4】

【0008】
また、前記非特許文献1では、下記に示す化合物(6)や(7)をドーパントとして発光層に用いることにより、高効率な緑色発光を示すことが明らかにされている。
【0009】
【化5】

【0010】
更には、非特許文献3では、下記に示す化合物(8)や(9)をドーパントとして用いた場合には、緑色よりも長波長に発光を有し、かつ従来の一重項発光素子に比べて高効率の電界発光素子になることが明らかにされている。
【0011】
【化6】

【0012】
しかしながら、有機電界発光素子のフルカラーフラットパネル・ディスプレイや白色蛍光灯などへの応用を考えた場合、更なる発光の高効率化及び色純度の調整が必要であり、これを達成できる新規の燐光性有機金属錯体が望まれていた。
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett., 75巻、4項、1999年
【非特許文献2】Chem. Commun., 2001, 1494
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc., 2001, 123, 4304.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、高発光効率で、かつ色純度の高い新規燐光性有機金属錯体を提供することを課題とする。また、このような新規燐光性有機金属錯体を用いることで、フルカラーフラットパネル・ディスプレイや白色蛍光灯などへ応用が可能な、高発光効率で色純度の高い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下のインダゾール基を配位子として有する新規有機金属錯体が、高発光効率で、かつ色純度の高い燐光性錯体であることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は下記一般式(I)で表される有機金属錯体、及び下記一般式(II)で表される有機金属錯体と、この該有機金属錯体を発光層に含有する有機電界発光素子に存する。
【0016】
【化7】

(式中、Mは遷移金属を表す。
m及びnは配位子の数を表し、mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。m+nは、Mの価数に等しい。
Lは、単座或いは2座の配位子を表す。
環aは、置換基を有していても良い、芳香族炭化水素基或いは芳香族複素環基を表す。
〜Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、或いは置換基を有していても良い、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アシル基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。R〜Rは、それぞれ隣接する基同士で互いに連結して、環を形成しても良い。)
【0017】
【化8】

(式中、M’は遷移金属を表す。
m’及びn’は配位子の数を表し、m’は0〜2の整数を表し、n’は1〜3の整数を表す。m’+n’は、M’の価数に等しい。
L’は、単座或いは2座の配位子を表す。
環bは、置換基を有していても良い、芳香族炭化水素基或いは芳香族複素環基を表す。
〜R10は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、或いは置換基を有していても良い、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アシル基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。R〜R10は、それぞれ隣接する基同士で互いに連結して、環を形成しても良い。)
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高発光効率で、かつ色純度の高い新規燐光性有機金属錯体と、この有機金属錯体を用いた、フルカラーフラットパネル・ディスプレイや白色蛍光灯などへの応用にも好適な、高発光効率で色純度の高い有機電界発光素子が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
【0020】
[有機金属錯体]
本発明の有機金属錯体は、以下の一般式(I)、又は一般式(II)で表される。
【0021】
【化9】

(式中、Mは遷移金属を表す。
m及びnは配位子の数を表し、mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。m+nは、Mの価数に等しい。
Lは、単座或いは2座の配位子を表す。
環aは、置換基を有していても良い、芳香族炭化水素基或いは芳香族複素環基を表す。
〜Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、或いは置換基を有していても良い、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アシル基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。R〜Rは、それぞれ隣接する基同士で互いに連結して、環を形成しても良い。)
【0022】
【化10】

(式中、M’は遷移金属を表す。
m’及びn’は配位子の数を表し、m’は0〜2の整数を表し、n’は1〜3の整数を表す。m’+n’は、M’の価数に等しい。
L’は、単座或いは2座の配位子を表す。
環bは、置換基を有していても良い、芳香族炭化水素基或いは芳香族複素環基を表す。
〜R10は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、或いは置換基を有していても良い、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アシル基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。R〜R10は、それぞれ隣接する基同士で互いに連結して、環を形成しても良い。)
【0023】
上記一般式(I)又は一般式(II)で表される本発明の有機金属錯体は、燐光発光を示す色素であり、高発光効率で色純度の高い色素である。本発明の有機金属錯体が高発光効率で色純度が高い燐光性色素となる理由の詳細は明らかではないが、上記一般式(I)又は一般式(II)で表される有機金属錯体は、配位子として、インダゾール環の1位或いは2位に芳香環を有するものを含むことを特徴とする(以下において、一般式(I)におけるインダゾール環の2位に芳香環aが結合した配位子を「配位子A」と称し、一般式(II)におけるインダゾール環の1位に芳香環bが結合した配位子を「配位子B」と称す場合がある。)。
【0024】
このように、配位子A,Bが、インダゾール環と芳香環を含む多縮環構造であるため、本発明の有機金属錯体では振動伸縮が小さくなり、高発光効率で色純度が高いものとなると考えられる。
【0025】
一般式(I)又は一般式(II)で表される本発明の有機金属錯体の分子量としては、通常400以上、好ましくは500以上で、通常5000以下、好ましくは1500以下である。分子量がこの下限を下回ると、蒸着しにくくなるため好ましくなく、上限を上回ると昇華しにくくなるため好ましくない。
【0026】
また、一般式(I)における配位子A、一般式(II)における配位子Bの分子量(いずれも配位子1個分の分子量)は、通常50以上、好ましくは100以上で、通常2500以下、好ましくは1000以下である。分子量がこの下限を下回ると、蒸着しにくくなるため好ましくなく、上限を上回ると昇華しにくくなるため好ましくない。
【0027】
一般式(I)におけるM、及び一般式(II)におけるM’は、それぞれ、遷移金属を表す。M,M’として、好ましくは、2価もしくは3価の遷移金属であり、発光性のため、好ましくは、ロジウム、オスミニウム、ルテニウム、パラジウム、白金、金或いはイリジウムが挙げられる。より好ましくは、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、白金、金或いはイリジウムである。
【0028】
一般式(I)におけるm及びnは、それぞれ、配位子L、配位子Aの数を表し、mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。m+nは、Mの価数に等しい。また、一般式(II)におけるm’及びn’は、それぞれ、配位子L’、配位子Bの数を表し、m’は0〜2の整数を表し、n’は1〜3の整数を表す。m’+n’は、M’の価数に等しい。
【0029】
一般式(I)におけるL、及び一般式(II)におけるL’は、それぞれ単座或いは2座の配位子を表す。但し、Lは、配位子Aとは異なるものであり、L’は配位子Bとは異なるものである。
【0030】
本発明の有機金属錯体は、インダゾール環の2位或いは1位に芳香環を有する配位子A,Bに特徴を有するため、L,L’は、熱的に安定なものであれば良く、本発明の有機金属錯体の効果を得ることができる。L,L’としては、例えば、窒素原子、酸素原子などを有する、分子量500程度以下のものが好適に使用される。L,L’として具体的に好ましいものとしては、ハロゲン(フッ素原子、塩素原子)、水酸基、アルコキシル基、シアノ基、及び以下の配位子が挙げられる(以下において、Meはメチル基、Buはn−ブチル基である)。
【0031】
【化11】

【0032】
一般式(I)の配位子Aの環a、一般式(II)の配位子Bの環bは、各々、置換基を有していても良い、芳香族炭化水素基或いは芳香族複素環基を表す。環a,bは、本発明の有機金属錯体の効果を損ねない程度の大きさであれば良く、好ましくは分子量1000以下、更に好ましくは500以下程度のものであれば良い。
【0033】
環a,bとして好適に使用できる芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基が挙げられ、いずれも分子量300程度以下の置換基を有していても良い。
【0034】
環a,bとして好適に使用できる芳香族複素環基としては、チオフェン環、ピリジン環、フラン環、ピロール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環などが挙げられ、いずれも分子量300程度以下の置換基を有していても良い。
【0035】
環a,bとしては、中でも好ましくは、チオフェン環、ピリジン環、フラン環、ピロール環であり、最も好ましくはチオフェン環である。
【0036】
なお、環a,bが有し得る置換基としては、R〜Rの基として後述する基が挙げられる。
【0037】
一般式(I)におけるR〜R、一般式(II)におけるR〜R10は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、或いは置換基を有していても良い、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アシル基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。これらの基及び水素原子は、酸化還元に対して安定であるため好ましい。R〜R,R〜R10は、それぞれ隣接する基同士で互いに連結して、環を形成しても良い。
【0038】
本発明の有機金属錯体は、前述の如く、インダゾール環の1位或いは2位に芳香環を有する配位子を含むことに特徴を有する。従って、インダゾール環の置換基は、上記の各基の様な中性の基であれば、本発明の効果を損ねることがなく、発光波長のチューニングが可能となる。
【0039】
また、本発明の効果を損なわないためには、R〜R,R〜R12はそれぞれ分子量300以下程度のものであることが好ましい。
【0040】
〜R,R〜R10の具体例は以下の通りである。
ハロゲン原子:好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子
置換基を有していても良いアルキル基:好ましくは炭素数1〜8の直鎖又は分岐のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、2−プロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル基
置換基を有していても良いアルケニル基:好ましくは炭素数1〜8のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、1−ブテニル基
置換基を有していても良いアルキニル基:好ましくは炭素数1〜8のアルキニル基であり、例えばエチニル、プロパルギル基
置換基を有していても良いアラルキル基:好ましくは炭素数1〜8のアルキニル基であり、例えばベンジル基
置換基を有していても良いアミノ基:好ましくは置換基に炭素数1〜8のアルキル基を1つ以上有するアミノ基、例えばジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノ、ジピリジルアミノ、ジチエニルアミノ基
置換基を有していても良いアルコキシ基:好ましくは炭素数1〜8のアルコキシ基であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、フェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、チエニルオキシ基
置換基を有していても良いアシル基:好ましくは炭素数1〜8のアシル基であり、例えばホルミル、アセチル、ベンゾイル基
カルボキシル基
置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基:好ましくは5又は6員環の、単環又は2縮合環である、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基であり、例えばフェニル、ナフチル、チエニル、フリル、ピリジル基
【0041】
上記各基が更に有していても良い置換基として、好ましくは水素原子、アルキル基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0042】
〜R,R〜R10としては、好ましくは、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子である。
【0043】
なお、本発明において、一般式(I)で表される有機金属錯体にn個含まれる配位子Aは同一のものであっても良く、異なるものであっても良い。また、m個含まれるLについても同一のものであっても良く、異なるものであっても良い。
【0044】
また、一般式(II)で表される有機金属錯体にn’個含まれる配位子Bは同一のものであっても良く、異なるものであっても良い。また、m’個含まれるL’についても同一のものであっても良く、異なるものであっても良い。
【0045】
以下に、一般式(I),(II)で表される本発明の有機金属錯体の具体例を挙げるが、本発明の有機金属錯体は以下の例示化合物に限定されるものではない。
【0046】
【化12】

【0047】
【化13】

【0048】
このような本発明の有機金属錯体を合成するには、Org.Lett.,2000,2,519に記載の方法に準じて反応を行って配位子A,Bを製造し、得られた配位子A,Bを用いて、Bull.Chem.Soc.Jpn.,1974,47,767、Inorg.Chem.,2001,40,1704、J.Am.Chem.Soc.,2003,125,7377などに記載の方法に準じて、反応を行えば良い。
【0049】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、基板上に少なくとも陽極、発光層及び陰極が順次積層されてなる有機電界発光素子であって、該発光層に、前記一般式(I)で表される有機金属錯体及び/又は前記一般式(II)で表される有機金属錯体を含有することを特徴とする。
【0050】
以下に、本発明の有機電界発光素子の構造について、図面を参照しながら説明するが、本発明の有機電界発光素子の構造は何ら図示のものに限定されるものではない。図1〜3は本発明の有機電界発光素子の実施の形態を模式的に示す断面図であり、1は基板、2は陽極、3は陽極バッファ層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は陰極を各々表す。以下、図1に示す素子を中心に説明する。
【0051】
(1)基板
基板1は、有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板又はフイルムが好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、基板として合成樹脂基板を用いる場合には、その少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0052】
(2)陽極
基板1上には陽極2が設けられる。陽極2は正孔輸送層4への正孔注入の役割を果たすものである。陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極2は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより形成されることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などで陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液中に分散させて、基板1上に塗布することにより形成することもできる。更に、導電性高分子で陽極2を形成する場合には、電解重合により基板1上に直接重合薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0053】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
【0054】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましい。この場合、陽極の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明で良い場合は陽極2の厚みは任意であり、所望により金属で形成して基板1を兼ねても良い。
【0055】
(3)正孔輸送層
図1に示す構成の素子において、陽極2の上には正孔輸送層4が設けられる。正孔輸送層4の材料に要求される条件としては、陽極2からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率良く輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、更に安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、発光層5に接するために発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させないことが求められる。上記の一般的要求以外に、車載表示用の応用を考えた場合、素子には更に耐熱性が要求される。従って、ガラス転移温度として85℃以上の値を有する材料が望ましい。
【0056】
このような正孔輸送材料としては、例えば、4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4′,4′−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2′,7,7′−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9′−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いても良いし、必要に応じて複数種混合して用いても良い。
【0057】
上記の化合物以外に、正孔輸送層4の材料として、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等の高分子材料が挙げられる。
【0058】
正孔輸送層4は、スプレー法、印刷法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法などの通常の塗布法や、インクジェット法、スクリーン印刷法など各種印刷法等の湿式成膜法、或いは真空蒸着法などの乾式成膜法で形成することができる。
【0059】
塗布法の場合は、正孔輸送材料の1種又は2種以上を、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を添加し、適当な溶剤に溶解して塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により陽極2上に塗布し、乾燥して正孔輸送層4を形成する。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、通常、正孔輸送層4中の含有量で50重量%以下が好ましい。
【0060】
真空蒸着法の場合には、正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボと向かい合って置かれた、陽極2が形成された基板1上に正孔輸送層4を形成させる。
【0061】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。この様に薄い膜を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法がよく用いられる。
【0062】
(4)発光層
正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。この発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入されて正孔輸送層4を移動する正孔と、陰極8から注入されて正孔阻止層6を移動する電子との再結合により励起されて、強い発光を示す。
【0063】
本発明の有機電界発光素子においては、発光層5に、前記一般式(I)で表される有機金属錯体、及び/又は前記一般式(II)で表される有機金属錯体が含有されている。好ましくは、発光層5に該有機金属錯体とホスト材料が含まれ、該有機金属錯体がドーパント材料として、該ホスト材料にドープされて含有される。ホスト材料の具体例については後述(4−1)の通りである。
【0064】
なお、発光層5には、一般式(I)或いは一般式(II)で表される本発明の有機金属錯体の1種のみを含んでいても良く、本発明の有機金属錯体の2種以上を含んでいても良い。2種以上含まれる場合には、一般式(I)で表される有機金属錯体と、一般式(II)で表される有機金属錯体の一方を2種以上使用しても良く、両方を使用しても良い。また、発光層5は、本発明の性能を損なわない範囲で、本発明の有機金属錯体及びホスト材料以外の成分を含有していても良い。
【0065】
例えば、発光層5に、(ア)ホスト材料、及び(イ)本発明の有機金属錯体のほかに、(ウ)室温で燐光発光を示し、その最大発光波長が(イ)の有機金属錯体の最大発光波長より短波長である化合物、を含有しても良い。この場合には、上記(ウ)の化合物を併用することにより、これが増感剤の役割を果たし、(イ)本発明の有機金属錯体の発光が強められ、好ましい。
【0066】
上記(ウ)の化合物は、本発明の有機金属錯体の中から選択しても良いし、また本明細書内で引用した各種文献中に記載の公知の燐光性化合物の中から選んでも良い。上記(ウ)の条件を満たす限り、その構造に制限はない。
【0067】
燐光発光を示す、一般式(I)或いは(II)で表される本発明の有機金属錯体の含有量(2種以上含む場合はその合計の含有量)は、発光層全体に対して0.1重量%以上が好ましく、また30重量%以下が好ましい。この下限値を下回ると素子の発光効率向上に寄与できない場合があり、上限値を上回ると有機金属錯体同士が2量体を形成する等の理由で濃度消光が起き、発光効率の低下に至る可能性がある。燐光発光を示す発光層における本発明の有機金属錯体のような燐光性ドーパント材料の量は、従来の蛍光(1重項)を用いた素子において発光層に含有される蛍光性色素(ドーパント材料)の量より、若干多い方が好ましい傾向がある。
【0068】
また、燐光性ドーパント材料である本発明の有機金属錯体と共に蛍光色素が発光層中に含有されていても良く、この場合、該蛍光色素の量は、0.05重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましい。また10重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。
【0069】
発光層5は、本発明の性能を損なわない範囲で上記以外の成分を含んでいても良い。
【0070】
一般式(I)或いは(II)で表される本発明の有機金属錯体は、発光層内に均一に分布していても良く、膜厚方向に分布をもって、不均一に存在していても良い。
【0071】
発光層5の膜厚は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上であり、また通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0072】
発光層5は、正孔輸送層4と同様の方法にて薄膜形成される。
【0073】
本発明の有機金属錯体等のドーパント材料を発光層5のホスト材料にドープして発光層5を形成する方法を以下に説明する。
【0074】
塗布法の場合は、発光層のホスト材料と、本発明の有機金属錯体等のドーパント材料、更に必要により、電子のトラップや発光の消光剤とならないバインダー樹脂や、レベリング剤等の塗布性改良剤などの添加剤を添加し、溶解した塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により正孔輸送層4上に塗布し、乾燥して発光層5を形成する。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと正孔/電子移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、発光層中の含有量で50重量%以下が好ましい。
【0075】
真空蒸着法の場合には、前記ホスト材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、本発明の有機金属錯体等のドーパント材料を別のルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−2Pa程度にまで排気した後、各々のルツボを同時に加熱して蒸発させ、ルツボと向かい合って置かれた基板上に層を形成する。また、他の方法として、上記の材料を予め所定比で混合したものを同一のルツボを用いて蒸発させても良い。
【0076】
上記各ドーパント材料が発光層中にドープされる場合、発光層の膜厚方向において均一にドープされるが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。例えば、正孔輸送層との界面近傍にのみドープしたり、逆に、正孔阻止層界面近傍にのみドープしても良い。
【0077】
このように発光層5も正孔輸送層4と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法により形成される。
【0078】
(4−1)ホスト材料
以下に本発明の有機電界発光素子の発光層のホスト材料として好適な材料について説明する。
【0079】
ホスト材料は、発光層に含まれる、前記一般式(I),(II)で表される本発明の有機金属錯体の励起三重項準位より高いエネルギー状態の励起三重項準位を有するものであることが好ましい。また、安定な薄膜形状を与え、高いガラス転移温度(Tg)を有し、正孔及び/又は電子を効率良く輸送することができる化合物であることが必要である。更に、電気化学的かつ化学的に安定であり、トラップとなったり発光を消光したりする不純物が製造時や使用時に発生しにくい化合物であることが要求される。
【0080】
これらの条件を満たすホスト材料としては、例えば下記一般式(i)又は(ii)で表される化合物、もしくは下記一般式(iii)で表される基を有する化合物が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0081】
【化14】

((i)式中、カルバゾリル基及びフェニレン基は任意の置換基を有していても良い。Zは直接結合又は2価の連結基を示す。)
【0082】
【化15】

((ii)式中、Mは周期律表1族、2族、3族、12族、又は13族から選ばれる金属を表し、kは該金属の価数を表す。Lは任意の置換基を表し、jは置換基Lの数を表し0又は1である。Xは炭素原子又は窒素原子を表す。環Aは含窒素複素環を示し、置換基を有していても良い。環Bは芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を示し、置換基を有していても良い。)
【0083】
【化16】

((iii)式中、R51〜R54は各々独立に、水素原子又は任意の置換基を表し、R51とR52、R53とR54はそれぞれ結合して環を形成していても良い。Xは酸素原子又は硫黄原子を示す。)
【0084】
(4−1−1)一般式(i)で表される化合物
前記一般式(i)で表されるN−フェニルカルバゾール骨格を有する化合物として、好ましくは下記一般式(i−1)で表される化合物が挙げられる。
【0085】
【化17】

((i−1)式中、R11〜R26は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、或いは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18、R19とR20、R21とR22、R23とR24、R25とR26はそれぞれ互いに結合して環を形成しても良い。Z1は直接結合又は2価の連結基を示す。)
【0086】
(i−1)式中のR11〜R26として、具体的には水素原子;塩素原子、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ベンジル基等のアラルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;シアノ基;アミノ基;アシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;カルボキシル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のアルキルアミノ基;ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基などのアラルキルアミノ基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;水酸基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;置換基を有していても良いフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;置換基を有していても良いチエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基が挙げられる。
【0087】
前記芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有し得る置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のアルキルアミノ基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基などが挙げられる。
【0088】
なお、上述の各置換基に含まれるアルキル鎖部分は、いずれも直鎖であっても分岐していても良い。以下の置換基の例示においても同様である。
【0089】
また、R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18、R19とR20、R21とR22、R23とR24、R25とR26はそれぞれ隣接する置換基同士で結合し、ベンゼン環、シクロヘキサン環等の5〜7員環を形成していても良い。
【0090】
11〜R26として特に好ましいのは、各々独立に、水素原子、アルキル基、又はシアノ基である。
【0091】
一般式(i)又は(i−1)におけるZとして、好ましくは直接結合、酸素原子、硫黄原子、以下に示す連結基、
【化18】

置換基を有していても良い2価の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基、又は、以下の連結基のいずれかが挙げられる。
【0092】
【化19】

(上記構造中のベンゼン環部分は、いずれも任意の置換基を有していて良く、またAr〜Arは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基、又は以下の一般式(i−2)で表される基が挙げられる。
【0093】
【化20】

(なお、式(i−2)中におけるカルバゾリル基及びフェニレン基は、任意の置換基を有していても良い。))
【0094】
一般式(i)又は(i−1)におけるZの好ましい連結基のうち、芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラニル基、ナフタセン基等の、5〜6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられ、芳香族複素環基としては、2価のチオフェン環残基、フラン環残基、ピリジン環残基、ピリミジン環残基又はキノリン環残基等の、5〜6員環の単環又は2〜3縮合環が挙げられる。
【0095】
これらの芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基は、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基、フッ素原子等のハロゲン原子、トリフルオロメチル基等のα−ハロアルキル基等の置換基を有しても良い。
【0096】
また、Ar〜Arとしては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ナフタセニル基等の、5〜6員環の単環又は2〜4縮合環である芳香族炭化水素基、又はチエニル基、フリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、キノリル基等の、5〜6員環の単環又は2〜3縮合環である芳香族複素環基が挙げられる。これらの芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基は、メチル基、エチル基等のアルキル基、フッ素原子等のハロゲン原子、トリフルオロメチル基等のα−ハロアルキル基等の置換基を有しても良い。
【0097】
前記式(i−2)で表される構造は、好ましくは下記式(i−3)で表される。
【0098】
【化21】

((i−3)式中、R〜Rは各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、置換基を有していても良いアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、RとR、RとR,RとR,RとRはそれぞれ互いに結合して環を形成していても良い。)
【0099】
上記(i−3)式において、R〜Rとして、具体的には、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ベンジル基等のアラルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;シアノ基;アミノ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のアルキルアミノ基;ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基などのアラルキルアミノ基;アシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;カルボキシル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;水酸基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;置換基を有していても良いフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;置換基を有していても良いチエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基が挙げられる。
【0100】
前記芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有し得る置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基などが挙げられる。
【0101】
なおRとR、RとR,RとR,RとRはそれぞれ隣接する置換基同士で結合し、ベンゼン環やシクロヘキサン環などの5〜7員環を形成していても良い。
【0102】
前記一般式(i)で表される化合物の好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定するものではない。
【0103】
【化22】

【0104】
【化23】

【0105】
【化24】

【0106】
【化25】

【0107】
【化26】

【0108】
(4−1−2)一般式(ii)で表される化合物
前記一般式(ii)で表される化合物としては、特に下記一般式(ii−1)で表される有機金属錯体や、下記一般式(ii−2)で表される混合配位子錯体、又は下記一般式(ii−3)で表される二核金属錯体が好ましい。
【0109】
【化27】

((ii−1)式中、Mは1ないし3価の金属を表し、k、X、環A及び環Bは一般式(ii)におけると同義である。)
【0110】
【化28】

((ii−2)式中、Mは3価の金属を表し、X、環A及び環Bは一般式(ii)におけると同義である。Lは下記一般式(ii−2a)、(ii−2b)又は(ii−2c)を表す。
【0111】
【化29】

((ii−2a)、(ii−2b)、(ii−2c)式中、Ar11〜Ar15は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は置換基を有していても良い芳香族複素環基を表し、Zはシリコン又はゲルマニウムを表す。))
【0112】
【化30】

((ii−3)式中、M及びM3'は3価の金属を表し、X、環A及び環Bは一般式(ii)におけると同義であり、X’はXと、環A’は環Aと、また環B’は環Bとそれぞれ同義である。)
【0113】
なお、一般式(ii)及び(ii−1)〜(ii−3)で表される化合物1分子中に含まれる、複数の下記構造部分
【化31】

(一般式(ii−3)においては、1化合物中に2個ずつ存在する下記構造部分)
【化32】

即ち環A、環B、及びX(式(ii−3)の場合は、環A、環A’、環B、環B’、X2及びX’)は、同じであっても良いし、異なっていても良い。合成が容易である点からは、すべて同じであることが好ましい。
【0114】
同様に、一般式(ii−3)で表される化合物におけるM及びM’も、同じであっても異なっていても良く、合成が容易である点からは、同じであることが好ましい。
【0115】
前記一般式(ii)及び(ii−1)〜(ii−3)で表される化合物の環A、環A’、環B0、及び環B’は、それぞれ下記のものから選ばれるものが好ましい。
[環A及び環A’]置換基を有していても良い5員環又は6員環の含窒素芳香族複素環であり、該環に5又は6員環の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が1又は2個縮合して縮合環を形成しても良い。
[環B及び環B’]置換基を有していても良い6員環の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環であり、該環に5又は6員環の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が1又は2個縮合して縮合環を形成しても良い。
【0116】
前記一般式(ii)及び(ii−1)〜(ii−3)で表される化合物の環A、環A’、環B、及び環B’として、より好ましくは各々単環であり、中でもそれぞれ下記から選ばれる環が好ましい。
[環A及び環A’]それぞれ置換基を有していても良い、ジアゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、チアジアゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ジアジン環、トリアジン環
[環B0及び環B’]それぞれ置換基を有していても良い、ベンゼン環、ピリジン環、ジアジン環、トリアジン環
【0117】
更に前記一般式(ii)及び(ii−1)〜(ii−3)で表される化合物の環A、環A’、環B、及び環B’は、それぞれ下記構造式から選ばれることが最も好ましい。
【0118】
【化33】

(式中、R31〜R37は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は置換基を有していても良い芳香族複素環基を表し、R31とR32、R31とR33、R34とR35、R35とR36、R36とR37はそれぞれ互いに結合して環を形成していても良い。)
【0119】
【化34】

(式中、R38〜R41は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は置換基を有していても良い芳香族複素環基を表し、R38とR39、R39とR40、R40とR41はそれぞれ互いに結合して環を形成していても良い。)
【0120】
なお上記[環B及び環B’]の構造における2本の結合手は、前記式(ii)及び(ii−1)〜(ii−3)における環B及び環B’構造の定義を満たす限り、酸素原子、又は環A及び環A’における原子X、X’のうち、いずれがいずれに結合していても良い。
【0121】
31〜R41として、具体的には水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ベンジル基等のアラルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;シアノ基;アミノ基;アシル基;カルボキシル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジベンジルアミノ基;ジフェネチルアミノ基などのジアラルキルアミノ基;トリフルオロメチル基等のα−ハロアルキル基;水酸基;置換基を有していても良いフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;置換基を有していても良いチエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基を表す。
【0122】
前記芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有し得る置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基などが挙げられる。
【0123】
なお、R31とR32、R31とR33、R34とR35、R35とR36、R36とR37、R38とR39、R39とR40、R40とR41がそれぞれ隣接する基同士で結合して形成する環としては、ベンゼン環、又はシクロヘキサン環等が挙げられる。
【0124】
31〜R41として好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基又は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基であるか、又は隣接する基同士で結合して環を形成する。
【0125】
一般式(ii)及び(ii−1)〜(ii−3)で表される化合物の金属M(M、M、M及びM’)は、周期律表1族、2族、3族、12族、13族から選ばれる金属であれば特に限定されないが、好ましくは亜鉛、アルミニウム、ガリウム、ベリリウム、及びマグネシウムが挙げられる。
【0126】
前記一般式(ii)及び(ii−1)〜(ii−3)で表される化合物の好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定するものではない。
【0127】
【化35】

【0128】
【化36】

【0129】
【化37】

【0130】
【化38】

【0131】
【化39】

【0132】
【化40】

【0133】
(4−1−3)一般式(iii)で表される基を有する化合物
前記一般式(iii)において、R51とR52、R53とR54がそれぞれ結合して形成する環としては、ベンゼン環やシクロヘキサン環が挙げられる。
【0134】
前記一般式(iii)において、R51〜R54は、具体的には、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ベンジル基等のアラルキル基;ビニル基等のアルケニル基;シアノ基;アミノ基;アシル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基などのジアラルキルアミノ基;トリフルオロメチル基等のα−ハロアルキル基;水酸基;置換基を有していても良いフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;置換基を有していても良いチエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基を表し、前記置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、アセチル基等のアシル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、シアノ基が挙げられる。
【0135】
前記一般式(iii)で表される基の好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定するものではない。
【0136】
【化41】

【0137】
前記一般式(iii)で表される基を有する化合物は、低分子であっても高分子であっても良い。高分子の場合は、主鎖に含有されていても良いし、また、側鎖として含有されていても良い。
【0138】
この化合物は分子量400〜1200程度の低分子化合物である場合が好ましく、一般式(iii)で表される基を有する化合物は、化合物全体としての環の合計数が6〜20であるのが好ましく、より好ましくは7〜18である。また、一般式(iii)で表される基を有する化合物は、分子内に一般式(iii)で表される単位を2〜3個有している化合物が好ましい。
【0139】
中でも、一般式(iii)で表される基は、前記(S−1)或いは(S−2)であるのが特に好ましい。
【0140】
一般式(iii)で表される基を有する化合物は、下記一般式(iii−1)又は(iii−2)で表される化合物であることが好ましい。
【0141】
【化42】

(式中、R55〜R62は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アリル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、α−ハロアルキル基、水酸基、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、R55とR56、R57とR58、R59とR60、R61とR62はそれぞれ互いに結合して環を形成しても良い。X及びXは各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を示し、Qは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基からなる2価の連結基を示す。)
【0142】
【化43】

(式中、R63〜R74は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アリル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、α−ハロアルキル基、水酸基、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、R63とR64、R65とR66、R67とR68、R69とR70、R71とR72、R73とR74はそれぞれ互いに結合して環を形成しても良い。X〜Xは各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を示し、Qは置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基からなる3価の連結基を示す。)
【0143】
前記一般式(iii−1)において、R55〜R62は各々独立に、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ベンジル基等のアラルキル基;ビニル基等のアルケニル基;シアノ基;アミノ基;アシル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基などのジアラルキルアミノ基;トリフルオロメチル基等のα−ハロアルキル基;水酸基;置換基を有していても良いフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;置換基を有していても良いチエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基を表し、前記置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、アセチル基等のアシル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、シアノ基を示す。R55とR56、R57とR58、R59とR60、R61とR62はそれぞれ結合して、ベンゼン環、シクロヘキサン環等を形成しても良い。
【0144】
〜Xは各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0145】
は置換基を有していても良い芳香族芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基からなる2価の連結基を示し、前記置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、アセチル基等のアシル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、シアノ基などがあげられる。
【0146】
連結基Qの好ましい例を以下に示す。
【0147】
【化44】

【0148】
これらの中でも、連結基Qは、(A−2)、(A−6)、(A−8)、(A−10)或いは(A−12)が好ましい。そして、これら連結基Qを有し、環構造として(S−1)又は(S−2)を有する化合物であるものが最も好ましい。
【0149】
前記一般式(iii−1)で表される化合物の好ましい具体例を以下の表に示すが、これらに限定するものではない。
【0150】
【表1】

【0151】
【表2】

【0152】
前記一般式(iii−2)において、R63〜R74は各々独立に、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ベンジル基等のアラルキル基;ビニル基等のアルケニル基;シアノ基;アミノ基;アシル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基などのジアラルキルアミノ基;トリフルオロメチル基等のα−ハロアルキル基;水酸基;置換基を有していても良いフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;置換基を有していても良いチエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基を表し、前記置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、アセチル基等のアシル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、シアノ基を示す。R63とR64、R65とR66、R67とR68、R69とR70、R71とR72、R73とR74はそれぞれ互いに結合して、ベンゼン環、シクロヘキサン環等を形成していても良い。
【0153】
〜Xは各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0154】
は置換基を有していても良い芳香族芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基からなる3価の連結基を示し、前記置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、アセチル基等のアシル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、シアノ基などがあげられる。
【0155】
連結基Qの好ましい例を以下に示す。
【0156】
【化45】

【0157】
これらの中でも連結基Qは、(B−1)、(B−2)或いは(Bー7)が好ましい。最も好ましくは、これら連結基を有し、環構造として(S−1)又は(S−2)を有する場合である。
【0158】
前記一般式(iii−2)で表される化合物の好ましい具体例を以下の表に示すが、これらに限定するものではない。
【0159】
【表3】

【0160】
【表4】

【0161】
前記一般式(i)で表される化合物、前記一般式(ii)で表される化合物、及び前記一般式(iii)で表される基を有する化合物は、各々発光層中に1種のみが含まれていてもよく、各2種以上が含まれていても良い。また、異なる一般式で表される化合物を併用しても良い。
【0162】
ホスト材料としては、前記一般式(i)で表される化合物、前記一般式(ii)で表される化合物、及び前記一般式(iii)で表される基を有する化合物のほかに、下記化合物等を使用しても良い。
【0163】
【化46】

【0164】
【化47】

(上記式(IV)中、配位子である8−ヒドロキシキノリン構造は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、或いはメチル基、エチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基で置換されていても良い。
なお1化合物中の3個の配位子は、同じ構造であっても異なっていても良い。)
【0165】
ホスト材料は、前述したように、同じ一般式で表すことができる化合物を複数種併用しても良いし、また同じ一般式では表わせない化合物を2種以上併用しても良い。
【0166】
本発明の有機電界発光素子において、発光層のホスト材料として特にも好ましいのは前記一般式(i)で表される化合物、又は上記一般式(IV)で表される化合物である。
【0167】
(5)正孔阻止層
図1に示す素子において、正孔阻止層6は発光層5の上に、発光層5の陰極8側の界面に接するように積層される。本発明の有機電界発光素子においては、発光層5と陰極8の間に正孔阻止層6を有することが好ましい。
【0168】
正孔阻止層6は、正孔輸送層4から移動してくる正孔を陰極8に到達するのを阻止する役割と、陰極8から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成されることが好ましい。正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いことが必要とされる。正孔阻止層6は正孔と電子を発光層5内に閉じこめて、発光効率を向上させる機能を有する。
【0169】
本発明の有機金属錯体に設けられる正孔阻止層6のイオン化ポテンシャルは、発光層5のイオン化ポテンシャル(発光層5がホスト材料とドーパント材料である本発明の有機金属錯体を含んでいる場合にはホスト材料のイオン化ポテンシャル)より0.1eV以上大きいことが好ましい。イオン化ポテンシャルは物質のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義される。イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接定義されるか、電気化学的に測定した酸化電位を基準電極に対して補正しても求められる。後者の方法の場合、例えば飽和甘コウ電極(SCE)を基準電極として用いたとき、下記式で定義される(“Molecular Semiconductors”,Springer−Verlag,1985年、98頁)。
イオン化ポテンシャル=酸化電位(vs.SCE)+4.3eV
【0170】
更に、本発明の有機金属錯体に設けられる正孔阻止層6の電子親和力(EA)は、発光層5の電子親和力(発光層5がホスト材料とドーパント材料である本発明の有機金属錯体を含んでいる場合にはホスト材料の電子親和力)と比較して同等以上であることが好ましい。電子親和力もイオン化ポテンシャルと同様に真空準位を基準として、真空準位にある電子が物質のLUMO(最低空分子軌道)レベルに落ちて安定化するエネルギーで定義される。電子親和力は、上述のイオン化ポテンシャルから光学的バンドギャップを差し引いて求められるか、電気化学的な還元電位から下記の式で同様に求められる。
電子親和力=還元電位(vs.SCE)+4.3eV
従って、本発明有機金属錯体に設けられる正孔阻止層6は、酸化電位と還元電位を用いて、
(正孔阻止材料の酸化電位)−(発光材料の酸化電位)
≧0.1V(正孔阻止材料の還元電位)≧(発光材料の還元電位)
と表現することもできる。
【0171】
更に後述の電子輸送層7を有する素子の場合には、正孔阻止層6の電子親和力は電子輸送層7の電子親和力と比較して同等以下であることが好ましい。従って、
(電子輸送材料の還元電位)≧(正孔阻止材料の還元電位)≧(発光材料の還元電位)
であることが好ましい(ここで、電子輸送材料、正孔阻止材料或いは発光材料が、それぞれ複数用いられている場合には、最も小さい還元電位のものを比較に使用する。)。
【0172】
このような条件を満たす正孔阻止材料として、好ましくは、下記一般式(VII)で表される混合配位子錯体が挙げられる。
【0173】
【化48】

(式中、R101〜R106は、各々独立に水素原子又は任意の置換基を表す。Mはアルミニウム、ガリウム、インジウムから選ばれる金属原子を表す。Lは以下に示す一般式(VIIa)、(VIIb)、(VIIc)のいずれかで表される。
【化49】

(式中、Ar51〜Ar55は、各々独立に置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は置換基を有していても良い芳香族複素環基を表し、Zはシリコン又はゲルマニウムを表す。)
【0174】
前記一般式(VII)において、R101〜R106は各々独立に水素原子又は任意の置換基を表すが、好ましくは水素原子;塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ベンジル基等のアラルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;シアノ基;アミノ基;アシル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;カルボキシル基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基などのジアラルキルアミノ基;トリフルオロメチル基等のα−ハロアルキル基;水酸基;置換基を有していても良いフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;置換基を有していても良いチエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基を表す。
【0175】
前記芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有しうる置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0176】
101〜R106としてより好ましくは各々独立に水素原子、アルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基が挙げられる。またR104としては、シアノ基が特に好ましい。
【0177】
前記一般式(VIIa)、(VIIb)、(VIIc)中、Ar51〜Ar55として、具体的には、各々独立に、置換基を有していても良いフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基又はチエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基が挙げられる。
【0178】
前記一般式(VII)で表される化合物の好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定するものではない。
【0179】
【化50】

【0180】
【化51】

【0181】
なお、これらの化合物は正孔阻止層6中に、1種を単独で用いても良いし、必要に応じて2種以上を混合して用いても良い。
【0182】
正孔阻止材料としては、前記一般式(VII)で表される混合配位子錯体の他に、以下の構造式で示される1,2,4−トリアゾール環残基を少なくとも1個有する化合物を用いることもできる。
【0183】
【化52】

【0184】
上記構造式で表される1,2,4−トリアゾール環残基を少なくとも1個有する化合物の具体例を以下に示すが、これらに限定するものではない。
【0185】
【化53】

【0186】
正孔阻止材料として、更に、以下の構造式で示されるフェナントロリン環を少なくとも1個有する化合物が挙げられる。
【0187】
【化54】

【0188】
上記構造式で表されるフェナントロリン環を少なくとも1個有する化合物の具体例を以下に示すが、これらに限定するものではない。
【0189】
【化55】

【0190】
正孔阻止層6の膜厚は、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上であり、また通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0191】
正孔阻止層も6正孔輸送層4と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法が用いられる。
【0192】
(6)陰極
陰極8は、正孔阻止層6を介して発光層5に電子を注入する役割を果たす。陰極8として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。陰極8の膜厚は通常、陽極2と同様である。
【0193】
更に、陰極8と発光層5又は後述の電子輸送層7の界面にLiF、MgF、LiO等の極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl.Phys.Lett.,70巻,152頁,1997年;特開平10−74586号公報;IEEE Trans.Electron.Devices,44巻,1245頁,1997年)。
【0194】
また、低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することにより、素子の安定性を高めることができる。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0195】
(7)電子輸送層
素子の発光効率を更に向上させることを目的として、図2及び図3に示すように、正孔阻止層6と陰極8の間に電子輸送層7が設けられていても良い。電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極8から注入された電子を効率よく正孔阻止層6の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0196】
このような条件を満たす材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−又は5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第 5,645,948号)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N′−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0197】
電子輸送層7の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0198】
電子輸送層7は、正孔輸送層4と同様にして塗布法或いは真空蒸着法により正孔阻止層6上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0199】
(8)陽極バッファ層
正孔注入の効率を更に向上させ、かつ、有機層全体の陽極2への付着力を改善させる目的で、図3に示すように正孔輸送層4と陽極2との間に陽極バッファ層3を挿入することも行われている。陽極バッファ層3を挿入することで、初期の素子の駆動電圧が下がると同時に、素子を定電流で連続駆動した時の電圧上昇も抑制される効果がある。陽極バッファ層3に用いられる材料に要求される条件としては、陽極2とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定、すなわち、融点及びガラス転移温度が高く、融点としては300℃以上、ガラス転移温度としては100℃以上であることが好ましい。更に、イオン化ポテンシャルが低く陽極2からの正孔注入が容易なこと、正孔移動度が大きいことが挙げられる。
【0200】
この目的のために、陽極バッファ層3の材料として、これまでにポルフィリン誘導体やフタロシアニン化合物(特開昭63-295695号公報)、ヒドラゾン化合物、アルコキシ置換の芳香族ジアミン誘導体、p-(9-アントリル)-N,N'-ジ-p-トリルアニリン、ポリチエニレンビニレンやポリ-p-フェニレンビニレン、ポリアニリン(Appl.Phys.Lett.,64巻、1245頁,1994年)、ポリチオフェン(OpticalMaterials,9巻、125頁、1998年)、スターバスト型芳香族トリアミン(特開平4-308688号公報)等の有機化合物や、スパッタ・カーボン膜(Synth.Met.,91巻、73頁、1997年)や、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、モリブデン酸化物等の金属酸化物(J.Phys.D,29巻、2750頁、1996年)が報告されている。
【0201】
また、正孔注入・輸送性の低分子有機化合物と電子受容性化合物を含有する層(特開平11−251067号公報、特開2000−159221号公報等に記載)や、芳香族アミノ基等を含有する非共役系高分子化合物に、必要に応じて電子受容性化合物をドープしてなる層(特開平11−135262号公報、特開平11−283750号公報、特開2000−36390号公報、特開2000−150168号公報、特開平2001−223084号公報、及びWO97/33193号公報など)、又はポリチオフェン等の導電性ポリマーを含む層(特開平10−92584号公報)なども挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0202】
上記陽極バッファ層材料としては、低分子・高分子いずれの化合物を用いることも可能である。
【0203】
低分子化合物のうち、よく使用されるものとしては、ポルフィン化合物又はフタロシアニン化合物が挙げられる。これらの化合物は中心金属を有していても良いし、無金属のものでも良い。これらの化合物の好ましい例としては、以下の化合物が挙げられる。
ポルフィン
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィンコバルト(II)
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン銅(II)
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン亜鉛(II)
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィンバナジウム(IV)オキシド
5,10,15,20-テトラ(4-ピリジル)-21H,23H-ポルフィン
29H,31H-フタロシアニン
銅(II)フタロシアニン
亜鉛(II)フタロシアニン
チタンフタロシアニンオキシド
マグネシウムフタロシアニン
鉛フタロシアニン
銅(II)4,4'4'',4'''-テトラアザ-29H,31H-フタロシアニン
【0204】
陽極バッファ層3の場合も、正孔輸送層4と同様にして薄膜形成可能であるが、無機物の場合には、更に、スパッタ法や電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法が用いられる。
【0205】
以上の様にして形成される陽極バッファ層3の膜厚は、低分子化合物を用いて形成される場合、下限は通常3nm、好ましくは10nm程度であり、上限は通常100nm、好ましくは50nm程度である。
【0206】
高分子化合物を用いる場合は、例えば、前記高分子化合物や電子受容性化合物、更に必要により正孔のトラップとならない、バインダー樹脂やレベリング剤等の塗布性改良剤などの添加剤を添加し溶解した塗布溶液を調製し、スプレー法、印刷法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法などの通常のコーティング法や、インクジェット法等により陽極2上に塗布し、乾燥することにより陽極バッファ層3を薄膜形成することができる。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は該層中の含有量が多いと正孔移動度を低下させる虞があるので、少ない方が望ましく、陽極バッファ層3中の含有量で50重量%以下が好ましい。
【0207】
また、フィルム、支持基板、ロール等の媒体に、前述の薄膜形成方法によって予め薄膜を形成しておき、媒体上の薄膜を、陽極2上に熱転写又は圧力転写することにより、薄膜形成することにより陽極バッファ層3を形成することもできる。
【0208】
以上のようにして、高分子化合物を用いて形成される陽極バッファ層3の膜厚の下限は通常5nm、好ましくは10nm程度であり、上限は通常1000nm、好ましくは500nm程度である。
【0209】
(9)その他
本発明の有機電界発光素子は、図1とは逆の構造、すなわち、基板1上に陰極8、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、陽極2の順に積層することも可能であり、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。同様に、図2又は図3に示した前記各層構成とは逆の順に積層することも可能である。また、図1〜3のいずれの層構成においても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述以外の任意の層を有していてもよく、また上記複数の層の機能を併有する層を設けることにより、層構成を簡略化する等、適宜変形を加えることが可能である。
【0210】
或いはまた、トップエミッション構造や陰極・陽極共に透明電極を用いて透過型とすることも可能である。
【0211】
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【0212】
本発明の有機電界発光素子によれば、発光層に特定の配位子を有する燐光性化合物を含有させることにより、発光効率、発光色純度及び駆動安定性に優れた素子が得られることから、フルカラー或いはマルチカラーのパネルへの応用において優れた性能を発揮できる。
【実施例】
【0213】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0214】
(実施例1)化合物1
【化56】

【0215】
Ar雰囲気下、フェニルヒドラジン(1.69 g, 11.7 mmol)、NaHMDS([Si(CHNNa)(4.29g,23.4mmol)を加えた。これに、氷冷しながら乾燥THF(テトラヒドロフラン)(23.5ml)をゆっくりと加えた。40分後、冷却バスを取り除き、室温で攪拌した(4.5h)。再び氷冷しながら2−ブロモ−α−ブロモトルエン(3.24g,13.0mmol)の乾燥THF溶液(2ml)を加え、40分後、冷却バスを取り除いた。室温で50分攪拌し、少量のイオン交換水(1.5ml)を加えた。得られた溶液を、水層に生成物が移らないようにpHを調節しながら5重量%NaHCO溶液とジクロロメタンで3回抽出し、MgSOで乾燥させた。そして溶媒を枯らさない程度に濃縮し、カラム分離(順相シリカゲル、展開溶媒:CHCl:n−ヘキサン=1:1)を行い、凍結乾燥を行うことで薄橙色固体の化合物1を得た(収量2.18g、収率67%)。
【0216】
得られた化合物1について1H-NMRとEI-MSによって同定を行った。
1H NMR(300MHz,CDCl3):δ 7.59(d,J=8.1Hz,1H,H10),7.35-7.23(m,4H,H2,H4,H7 or H8 or H9),7.17-7.11(m,1H,H7 or H6 or H8),7.01(d,J=8.2Hz,2H,H1,H5),6.81(td,J=7.2,1.0 Hz,1H,H3),4.69(s,2H,H6),3.43(s,2H,H11)
EI-MS m/z=277(M+H)+
【0217】
(実施例2)化合物2
【化57】

【0218】
遮光、Ar雰囲気下、Pd(OCOCH(16.6mg,0.060mmol)、DPPF(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィン)フェロセン)(37.8mg,0.068mmol)、(CHCONa(130.1mg,1.40mmol)を加えた。ここに乾燥トルエン(4ml)に溶かした化合物1(293.7mg,1.06mmol)を加えた。90℃で6.5h攪拌し、シリカゲル層で濾過を行った(展開溶媒:CHCl)。そして、溶媒を枯らさない程度に減圧除去し、カラム分離(順相シリカゲル、展開溶媒:CHCl)によって白色結晶の化合物2(96.9mg,47%)を得た。
【0219】
得られた化合物2について1H-NMRとEI-MSによって同定を行った。
1H NMR(400 MHz,CD2Cl2):δ 8.47(d,J=0.9 Hz,1H,H1),7.94(m,2H,H7,H9),7.74(d,J=9.4 Hz,2H,H2, H8),7.55(t,J=7.9Hz,2H,H5,H6 or H10),7.42(m,1H,H6 or H10),7.33-7.29(m,1H,H4),7.13-7.09(m,1H,H3)
EI-MS m/z=195(M+1)
【0220】
(実施例3)化合物3
【化58】

【0221】
Ar雰囲気下、化合物2 (224.7mg,1.16mmol)とIrCl・xHO(217.0mg,0.57mmol)を加え、25%(V/V)水/2−エトキシエタノール混合溶媒(16ml)中でリフラックスした(110℃,24h)。析出物を濾別し、エタノールで十分に洗浄した。この固体をCHClに溶解させ、ここに更にトルエンを少量加えた。そして、溶媒を枯らさない程度に除去し、析出した固体を濾別することで目的の2核錯体(化合物3)を得た(黄色固体,331.6mg,93%)。
【0222】
化合物3は1H-NMRによって同定した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 8.47(s,2H,H1),8.21(d,J=8.8 Hz,2H,H2or H5),7.46(m,4H,H3,H4),6.80(m,4H,H8,H9),6.61-6.53(m,2H,H2 or H5),6.40(t,J=7.6Hz,2H,H7),5.77(d,J=7.3Hz,2H,H6).
【0223】
(実施例4)化合物4
【化59】

【0224】
Ar雰囲気下、化合物3(50.0mg,0.04mmol)とNaCO(170.6mg,0.41mmol)を加えた。ここに、2−エトキシエタノール(25ml)に溶解させておいたアセチルアセトン(66.8mg,0.66mmol)を加え、加熱攪拌を行った(50℃,2h)。反応液をCHClとイオン交換水で分液し、有機層を抽出、NaSOで乾燥させた。そして、溶液を枯らさない程度に除去し、トルエンで再沈殿を行うことで目的の単核錯体(化合物4)を得た(黄色固体,25.6mg,46%)。
【0225】
化合物4は、1H-NMRとEI-MASSによって同定した。
1H-NMR(300MHz,CDCl3):δ 8.57(s,2H,H1),7.75(d,J=8.4 Hz,2H,H2),7.68(d,J=8.8 Hz,2H,H5),7.42-7.16(m,6H,H2,H4,H9),6.85,(td,J=7.6,1.1 Hz,2H,H8),6.59(t,J=7.4Hz,2H,H7),6.13(dd,J=7.5,1.0 Hz,2H,H6),5.25(s,1H,H11),1.79(s,6H,H10).
EI-MASS m/z=679(M+1)
【0226】
(実施例5)化合物5
【化60】

【0227】
Ar雰囲気下、化合物2(388.9mg,2.0mmol)、Ir(CHCOO)(239.0mg,0.49mmol)を加え、グリセロール(10ml)中でリフラックスした(5days)。反応液にイオン交換水を加え、析出した固体を濾別し、イオン交換水、1N HCl aqで洗浄した。そして、これをCHClに溶かし溶媒を枯らさない程度に除去することで目的のトリス錯体(化合物5)を得た(橙色固体,221.8mg,59%)。
【0228】
化合物5は1H-NMRによって同定した。
1H-NMR(300MHz,CDCl3):δ 8.62(s,3H,H1),7.65(d,J=8.5Hz,3H,H2),7.49(d,J=7.7Hz,3H,H5),7.00-6.91(m,6H,H3,H4),6.81-6.72(m,9H,H7,H8,H9),5.89(d,J=8.8Hz,3H,H6).
【0229】
(実施例6)化合物6
【化61】

【0230】
Ar雰囲気下、Pd(CHCOO)(199.4mg,0.89mmol)、酢酸(15ml)を加え、50℃に加熱した。ここに酢酸(5ml)に溶解させた化合物2(162.1mg,0.84mmol)を添加し、5時間攪拌した。イオン交換水とCHClで抽出・洗浄し、有機層をNaSOで乾燥させた。そして、溶媒を枯らさない程度に除去し、エタノールで再沈殿を行うことで目的の2核錯体(化合物6)を得た(茶色固体,108.1mg,36%)。
【0231】
化合物6は1H-NMRによって同定した。
1H NMR(300MHz,CDCl3):δ 7.84(s,1H,H1),7.71(s,1H,H2),7.45(d,J=8.8Hz,1H,H5),7.34-7.30(m,1H,H4),7.22-7.18(m,1H,H3),7.00(t,J=7.5Hz,1H,H7or H8),6.86-6.47(m,2H,H6,H9),6.12(t,J=7.5Hz,1H,H7 or H8),2.34(s,3H,H10).
【0232】
(実施例7)化合物7
【化62】

【0233】
Ar雰囲気下、室温で化合物6(100.0mg,0.14mmol)を乾燥エタノール(25ml)中で攪拌させ、ここに、乾燥エタノール(4.5ml)に溶解させたアセチルアセトン(75.5mg,0.75mmol)を添加し、24時間攪拌した。溶媒を枯らさない程度に除去し、析出している固体を濾別した。この固体をCHClに溶かし、ケイソウ土濾過を行った。そして、再び溶媒を枯らさない程度に除去した後にエタノールで再沈殿を行うことで化合物7を得た(茶色固体,18.3mg,17%)。
【0234】
化合物7は1H-NMRとEI-MASSによって同定した。
1H-NMR(300MHz,CDCl3):δ 8.42(m,2H,H1,H2),7.63-7.70(m,2H,H7or H8 or H9),7.45-7.40(m,1H,H5),7.32-7.29(m,1H,H4),7.21-7.13(m,3H,H3,H7or H8 or H9),5.46(s,1H,H11),2.15(d,J=6.3Hz,6H,H10).
EI-MASS m/z=399(M+1)
【0235】
(実施例8)化合物10
【化63】

【0236】
Ar雰囲気下、上記化合物8(430mg)とIrCl・xHO(380mg)を25%(v/v)水/2−エトキシエタノール混合溶媒(25ml)に加え、リフラックスした(110℃,3h)。析出物を濾別し、エタノールで十分に洗浄した。その後、Ar雰囲気下、析出物とナトリウムアセチルアセテート(244mg)を2−エトキシエタノール(20ml)に溶解させ加熱攪拌を行った(80℃,2h)。反応液をCHClと水で分液し、有機層を抽出し、NaSOで乾燥させた。そして、溶液を枯らさない程度に除去し、トルエンで再沈殿を行うことで目的の単核錯体(化合物10)を得た(黄色固体,300mg,)。
【0237】
化合物10はEI-MASSによって同定した。
EI-MASS m/z=679(M+1)
【0238】
(実施例9)素子の作製(化合物4をドーパント材料として使用)
図3に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0239】
ガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜2を150nm堆積したもの(スパッター成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0240】
陽極バッファ層3の材料として、下記に示す構造式の芳香族アミノ基を有する非共役系高分子化合物(PB−1)を下記に示す構造式の電子受容性化合物(A−1)と共に以下の条件でスピンコートした。
【0241】
【化64】

【0242】
[スピンコート条件]
溶媒:安息香酸エチル
塗布液濃度:2[wt%]
PB−1:A−1=10:1(重量比)
スピナ回転数:1500[rpm]
スピナ回転時間:30[秒]
乾燥条件:100℃,1時間
上記のスピンコートにより膜厚30nmの均一な薄膜が形成された。
【0243】
次に、陽極バッファ層3を成膜した基板を真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が7.8×10-5Pa以下になるまでクライオポンプを用いて排気した。上記装置内に配置されたセラミックルツボに入れた、下記に示すアリールアミン化合物(H−1)をルツボの周囲のタンタル線ヒーターで加熱して蒸着を行った。この時のルツボの温度は、241〜266℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度7.8×10-5Pa、蒸着速度は0.20nm/秒で膜厚60nmの正孔輸送層4を得た。
【0244】
【化65】

【0245】
引続き、発光層5のホスト材料として下記に示すN−フェニルカルバゾール誘導体(E−1)を、ドーパント材料として実施例4で合成された化合物4(D−1)を別々のセラミックルツボに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
【0246】
【化66】

【0247】
化合物(E−1)のルツボ温度は312〜313℃、蒸着速度は0.11nm/秒に、化合物(D−1)のルツボ温度は214〜222℃にそれぞれ制御し、膜厚30nmで化合物(D−1)が6重量%含有された発光層5を正孔輸送層4の上に積層した。蒸着時の真空度は1.5×10-4Paであった。
【0248】
更に、正孔阻止層6として下記のピリジン誘導体(HB−1)をルツボ温度を254〜258℃として、蒸着速度0.13nm/秒で10nmの膜厚で積層した。蒸着時の真空度は6.0×10-5Paであった。
【0249】
【化67】

【0250】
正孔阻止層6の上に、電子輸送層7として下記に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(ET−1)を同様にして蒸着した。この時のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体のルツボ温度は286〜298℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は5.4×10-5Pa、蒸着速度は0.21nm/秒で膜厚は35nmとした。
【0251】
【化68】

【0252】
上記の正孔輸送層4、発光層5、正孔阻止層6、及び電子輸送層7を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
【0253】
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2.0×10-6Torr(約2.7×10-4Pa)以下になるまで排気した。陰極8として、先ず、フッ化リチウム(LiF)をモリブデンボートを用いて、蒸着速度0.01nm/秒、真空度2.1×10-6Torr(約2.8×10-4Pa)で、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.40nm/秒、真空度3.4×10-6〜9.0×10-6Torr(約4.5×10-4〜12.0×10-4Pa)で膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極8を完成させた。以上の2層型陰極8の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0254】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表−1に示す。表−1において、最大発光輝度は電流密度0.25A/cm2での値、発光効率・輝度/電流・電圧は輝度100cd/m2での値を各々示す。素子の発光スペクトルの極大波長は562nmであり、化合物(D−1)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.49,0.42)で、橙色の発光が得られた。
【0255】
(実施例10)
化合物4(D−1)の代わりに下記に示す実施例8で得られた化合物10(D−2)を用いた他は実施例1と同様にして素子を作製した。この素子の発光特性を表−1に示す。素子の発光スペクトルの極大波長は557nmであり、化合物(D−2)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.48,0.44)で、橙色の発光が得られた。
【0256】
【化69】

【0257】
(比較例1)
化合物4(D−1)の代わりに下記に示す有機イリジウム錯体(D−3)を用いた他は実施例1と同様にして素子を作製した。この素子の発光特性を表−1に示す。素子の発光スペクトルの極大波長は512nmであるが、発光スペクトルが非常にブロードであり、有機イリジウム錯体(D−3)からのものとは同定されなかった。色度はCIE(x,y)=(0.26,0.38)であり、実施例9、実施例10と比較して発光効率が低かった。
【0258】
【化70】

【0259】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0260】
【図1】本発明の有機電界発光素子の実施の形態の一例を示した模式的断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の実施の形態の別の例を示した模式的断面図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の実施の形態の別の例を示した模式的断面図である。
【符号の説明】
【0261】
1 基板
2 陽極
3 陽極バッファ層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される有機金属錯体。
【化1】

(式中、Mは遷移金属を表す。
m及びnは配位子の数を表し、mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。m+nは、Mの価数に等しい。
Lは、単座或いは2座の配位子を表す。
環aは、置換基を有していても良い、芳香族炭化水素基或いは芳香族複素環基を表す。
〜Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、或いは置換基を有していても良い、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アシル基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。R〜Rは、それぞれ隣接する基同士で互いに連結して、環を形成しても良い。)
【請求項2】
下記一般式(II)で表される有機金属錯体。
【化2】

(式中、M’は遷移金属を表す。
m’及びn’は配位子の数を表し、m’は0〜2の整数を表し、n’は1〜3の整数を表す。m’+n’は、M’の価数に等しい。
L’は、単座或いは2座の配位子を表す。
環bは、置換基を有していても良い、芳香族炭化水素基或いは芳香族複素環基を表す。
〜R10は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、或いは置換基を有していても良い、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アシル基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。R〜R10は、それぞれ隣接する基同士で互いに連結して、環を形成しても良い。)
【請求項3】
基板上に、少なくとも陽極、発光層、及び陰極が順次積層されてなる有機電界発光素子において、該発光層に、請求項1に記載の有機金属錯体及び/又は請求項2に記載の有機金属錯体を含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項4】
請求項3において、該発光層がホスト化合物を含有し、該ホスト化合物に対して前記有機金属錯体がドープされていることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項5】
請求項3又は4において、該発光層と陰極との間に正孔阻止層を有することを特徴とする有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−28101(P2006−28101A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210040(P2004−210040)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】