説明

有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明

【課題】 本発明は、駆動電圧が低く、高い電流効率及び電圧効率を有する有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【解決手段】 陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層を備えた有機電界発光素子であって、
該有機層が、
不溶化重合体を不溶化させてなる不溶重合体を含む膜中に、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層と
該混合層に隣接して、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含有し、かつ不溶重合体を含有しない層とを含む層
であることを特徴とする、有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行われている。
中でも、有機電界発光素子の性能を向上させるために、有機薄膜が多層積層された構造(以下、「多層積層構造」と称する)を有する有機電界発光素子の開発が盛んである。
多層積層構造を有する有機電界発光素子においては、組成が異なる二種以上の層が存在する。その界面において、イオン化ポテンシャル又は電子親和力の差が生じており、これが層間における電荷(正孔又は電子)の注入の際に障害となる。このことが、有機電界発光素子における駆動電圧の上昇の一因となっていた。
【0003】
ところで、有機電界発光素子における有機薄膜の形成方法としては、真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。
真空蒸着法を用いた有機電界発光素子の開発においては、例えば、特許文献1では、真空蒸着法として共蒸着法を用いることにより、多層積層構造を形成して上述の電荷の注入障壁を低減させることが開示されている。
【0004】
一方、湿式成膜法は、真空プロセスが要らず、大面積化が容易であり、1つの層(組成物)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。例えば、特許文献2や特許文献3には、正孔注入層及び発光層を湿式成膜法で形成した有機電界発光素子の発明が開示されているが、真空蒸着法により形成された素子に比べて、電流効率や電力効率が低く、駆動電圧が高く、また発光効率が低いとの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−324680号公報
【特許文献2】特開2007−110093号公報
【特許文献3】特開2007−335852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、駆動電圧が低く、高い電流効率及び電力効率を有する有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、有機電界発光素子において、有機層が、不溶化基を有する重合体を不溶化させてなる膜中に、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層を有することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層を備えた有機電界発光素子であって、該有機層が、不溶化基を有する重合体を不溶化させてなる膜中に、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層と、該混合層に隣接して、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含有し、かつ不溶化後の不溶性重合体を含有しない層とを含む層であることを特徴とする、有機電界発光素子(以下、「本発明の有機電界発光素子A」と称する場合がある)、及びその製造方法、並びに有機EL表示装置及び有機EL照明に存する。
また、本発明の有機電界発光素子は、陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層を備えた有機電界発光素子であって、該有機層が少なくとも重合体と発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層と、該混合層に隣接して、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有し、かつ重合体を含有しない層とを含み、該重合体を含有する層が、水、安息香酸エチル、及び炭化水素系溶媒、各々に20〜25℃で60秒間浸漬した後、浸漬前と比較して95%以上の膜厚が残存することを特徴とする、有機電界発光素子(以下、「本発明の有機電界発光素子B」と称する場合がある)である。
尚、「本発明の有機電界発光素子」とした場合は、「本発明の有機電界発光素子A」及び「本発明の有機電界発光素子B」の両方を指すものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機電界発光素子は、不溶化重合体を不溶化させてなる膜中に、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層を有することにより、駆動電圧が低く、高い電力効率及び電流効率を有する。
従って、本発明の有機電界発光素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例2で作製された素子の発光スペクトル(破線)及び、比較例1で作製された素子の発光スペクトル(実線)を示した図である。縦軸は、規格化発光スペクトル強度、横軸は波長(nm)を表す。
【図3】実施例4で作製された素子の発光スペクトル(破線)及び、比較例2で作製された素子の発光スペクトル(実線)を示した図である。縦軸は、規格化発光スペクトル強度、横軸は波長(nm)を表す。
【図4】実施例6で作製された素子の発光スペクトルを示した図である。縦軸は、規格化発光スペクトル強度、横軸は波長(nm)を表す。
【図5】実施例8で作製された素子の発光スペクトルを示した図である。縦軸は、規格化発光スペクトル強度、横軸は波長(nm)を表す。
【図6】実施例9で作製された素子の発光スペクトル(破線)及び、比較例4で作製された素子の発光スペクトル(実線)を示した図である。縦軸は、規格化発光スペクトル強度、横軸は波長(nm)を表す。
【図7】実施例10の参考例で作製された素子のデプスプロファイルである。縦軸はスペクトル強度(arbitrary unit)、横軸はスパッタリング時間(秒)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の有機電界発光素子、及びその製造方法、並びに有機EL表示装置及び有機EL照明の実施態様を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
[基本構成]
本発明の有機電界発光素子は、陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層とを備えた有機電界発光素子であって、該有機層が、不溶化重合体を不溶化させてなる膜(以下、「不溶膜」と称する場合がある)中に発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層と、該混合層に隣接して、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含む層を有することを特徴とする、有機電界発光素子である。
【0011】
[用語の説明]
不溶化重合体(insolubilizing polymer):不溶化基(insolubilizing group)を有する重合体
不溶重合体 (insolubilized polymer):不溶化重合体を、不溶化させた後の重合体
不溶膜(insolubilized film):不溶化基(insolubilizing group)を有する重合体を不溶化させてなる膜
混合層(mixed layer):不溶膜中、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化
合物を含有する領域
不溶層(insolubilized layer):不溶膜中、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性
低分子化合物を含有しない領域
発光層(light emitting layer):混合層と隣接し、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含有し、かつ不溶化後の不溶化基を有する重合体を含まない層
上記において、不溶化基が、架橋性基(cross-linking group)、解離基(dissociating group)、及び脱離性保護基(eliminable protecting group)の場合、不溶化重合体、不溶重合体、不溶膜、不溶層については、下記の通り称する。
【0012】
つまり、不溶化基が架橋性基である場合、「不溶化重合体」を「架橋性重合体(cross-linking polymer)」、「不溶重合体」を「架橋重合体 (cross-linked polymer)」、
「不溶膜」を「架橋膜(cross-linked film)」、「不溶層」を「架橋層(cross-linked
layer)」、
不溶化基が解離基である場合、「不溶化重合体」を「解離性重合体(dissociating polymer)」、「不溶重合体」を「解離重合体(dissociated polymer)」、「不溶膜」を「
解離膜(dissociated film)」、「不溶層」を「解離層(dissociated layer)」、
不溶化基が脱離性保護基である場合、「不溶化重合体」を「脱離性重合体(eliminating polymer)」、「不溶重合体」を「脱離重合体 (eliminated polymer)」、「不溶膜
」を「脱離膜(eliminated film)」、「不溶層」を「脱離膜(eliminated layer)」
と置き換える。上記混合層及び発光層においても同様の意味を表すものとする。
【0013】
[不溶化基を有する重合体(不溶化重合体:insolubilizing polymer)]
本発明における不溶化基を有する重合体(以下、「不溶化重合体」と称する場合がある)とは、不溶化基を1つ以上有する重合体である。尚、重合体とは、繰り返し単位を有する構造であればよく、また異なる2種以上の繰り返し単位を有していてもよい。
本発明における不溶化重合体とは、1種または2種以上の繰り返し単位を有する重合体であって、少なくとも電荷輸送に適した部分構造(電荷輸送性部位)を有する。
(不溶化基:insolubilizing group)
本発明における不溶化基とは、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により反応する基であり、反応後は反応前に比べて、重合体の有機溶媒や水への溶解性を低下させる効果を有する基である。
【0014】
本発明においては、不溶化基は、架橋性基、解離基、又は脱離性保護基であることが好ましい。
さらに、不溶化後の構造(以下、「不溶重合体:insolubilized polymer」)が特に安
定である点で、中でも、架橋性基及び解離基であることが好ましい。
[架橋性重合体:cross-linking polymer]
本発明における不溶化重合体は、不溶化基として、架橋性基を有していることが、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により起こる反応(架橋反応)の前後で、重合体の有機溶媒に対する溶解性に大きな差を生じさせることができる点で好ましい。
【0015】
つまり、本発明の不溶化重合体は、架橋性基を有する重合体(以下、「架橋性重合体」と称する場合がある)であることが好ましい。
本発明における架橋性重合体とは、架橋性基を1つ以上有する重合体である。尚、重合体とは、繰り返し単位を有する構造であればよく、また異なる2種以上の繰り返し単位を有していてもよい。
【0016】
本発明における架橋性重合体とは、1種または2種以上の繰り返し単位を有する重合体であって、少なくとも電荷輸送に適した部分構造(電荷輸送性部位)を有する。
本発明における架橋性重合体は、常温でトルエンに通常0.1重量%以上溶解することをいい、重合体のトルエンへの溶解性は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。
【0017】
(架橋性基:cross-linking group)
本発明における架橋性基とは、近傍に位置する他の分子の同一または異なる基と反応して、新規な化学結合を生成する基のことをいう。例えば、熱及び/または活性エネルギー線の照射により、あるいは、増感剤などの他分子からエネルギーを受け取ることにより、近傍に位置する他の分子の同一または異なる基と反応して新規な化学結合を生成する基が挙げられる。
【0018】
架橋性基としては、制限されるものではないが、不飽和二重結合、環状エーテル構造、ベンゾシクロブテン環等を含む基が好ましい。
中でも、架橋性基としては、不溶化し易いという点から、下記架橋性基群Aから選ばれる基が好ましい。
架橋性基群A:
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、R91〜R95は、各々独立に、水素原子またはアルキル基を表わす。
Ar91は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基または置換基を有してもよい芳香族複素環基を表わす。)
とりわけ、架橋性基としては、電気化学的耐久性に優れるという点から、下記架橋性基群A’から選ばれる基であることが好ましい。
【0021】
架橋性基群A’:
【0022】
【化2】

【0023】
更に、上記架橋性基群A’の中でも、架橋後の構造が特に安定な点で、ベンゾシクロブテン環由来の基が特に好ましい。
架橋性重合体が架橋性基を有する位置は、架橋性重合体の繰り返し単位中であってもよく、また架橋性重合体の末端であってもよい。
また、側鎖として架橋性基は、後述する電荷輸送に適した部分構造に結合してもよく、該電荷輸送に適した部分構造以外に結合してもよい。また、好ましくは、電荷輸送に適した部分構造のうち少なくとも一部が側鎖に架橋性基を有する架橋性重合体である。
【0024】
さらに、側鎖として架橋性基は、主鎖に直接結合してもよく、また、−O−基、−C(=O)−基または(置換基を有していてもよい)−CH−基から選ばれる基を任意の順番で1個以上、30個以下連結してなる2価の基を介して、結合してもよい。
より具体的には、下記式(X)で表される基を有する重合体であることが好ましい。
【0025】
【化3】

【0026】
(式(X)中、2価の基Qは、―CR―、―O―、―CO―、―NR―、及び―S―からなる群より選ばれる基を表し、nは2以上、30以下の自然数を表す。
〜Rは、各々独立して、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
また、n個のQは、同じでもよく、また異なっていてもよい。
【0027】
また、式(X)中のベンゾシクロブテン環は、2価の基Q以外に、置換基を有していてもよい。)
(1.Qについて)
式(X)中、2価の基Qは、加熱時にベンゾシクロブテン環が自由に動くことを可能にする点、架橋反応後、架橋した主鎖同士を十分離すことを可能にする点で、―CR―、―O―、―CO―、―NR―、及び―S―からなる群より選ばれる基を表す。中でも電気的な耐久性に優れる点で、―CR―を含むことが好ましい。また、Qは、電気的な耐久性に優れる点で、―CR―からなる基であることがさらに好ましい。
【0028】
尚、n個のQは、互いに同じでもよく、又、異なっていてもよい。
(2.R〜Rについて)
式(X)中のR〜Rは、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基であり、アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。
また、R〜Rが置換基を有していてもよいアルキル基である場合、炭素数はその置換基も含めて、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは10以下のものが挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、中でも好ましくはメチル基、エチル基である。
【0029】
〜Rは、電荷輸送能をさらに向上させる点、また、架橋反応を行う際に、膜がクラックしにくくなったり、ポリマー主鎖が凝集しにくくなったりする点で、水素原子であることが好ましい。
また、R〜Rがアルキル基である場合に、該アルキル基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ベンゾシクロブテン環由来の基が挙げられる。
【0030】
(3.nについて)
nは自然数を表し、通常2以上、好ましくは4以上、また通常30以下、好ましくは20以下である。
この下限値を下回ると、架橋反応を行う際に、膜がクラックしやすくなったり、ポリマー主鎖が凝集しやすくなったりするおそれがあり、またこの上限値を上回ると電荷輸送能が低下したり、耐熱性が低下したりする場合がある。
【0031】
式(X)で表される基の分子量はその置換基も含めて、通常130以上、通常500以下、好ましくは300以下である。
上記範囲内であると、架橋反応を行う際に、膜がクラックしにくくなり、ポリマー主鎖が凝集しにくくなり、また電荷輸送能に影響を及ぼさない点で好ましい。
(架橋性重合体が有する架橋性基数について)
本発明の架橋性重合体の架橋性基数は、分子量10,000あたりの数で表される。
【0032】
ここで、分子量は、末端基を除いた仕込みモノマー比から算出される値を用いる。つまり、架橋性重合体の架橋性基数は、架橋性重合体の合成時の仕込みモノマー比と構造式から求めることができる。
例えば、後述の実施例1で用いた架橋性重合体(H1)の場合で説明する。
【0033】
【化4】

【0034】
架橋性重合体(H1)において、末端基を除いた仕込みモノマー比から算出される分子量は338.57であり、また架橋性基の数は、1分子当たり平均0.05個である。これを、単純比例により計算すると、分子量10,000あたりの架橋性基数は、1.5個と算出される。
本発明における架橋性重合体が有する架橋性基数は、分子量10,000あたり、通常10個以下、好ましくは8個以下、さらに好ましくは6個以下、特に好ましくは3.5個以下、また通常0.5個以上、好ましくは1個以上、さらに好ましくは1.5個以上である。
【0035】
この上限値を上回ると、クラックによって平坦な膜が得られなかったり、架橋密度が大きくなりすぎて、混合層を形成しにくくなったり、また架橋膜中に未反応の架橋性基が増えて、得られる素子の寿命に影響することがある。
また、この下限値を下回ると、架橋膜の不溶化が不十分となり、湿式成膜法で多層積層構造が形成できない場合がある。
【0036】
(分子量について)
本発明における架橋性重合体の重量平均分子量は、通常500以上、好ましくは2000以上、より好ましくは4000以上、また、通常2,000,000以下、好ましくは500,000以下、より好ましくは200,000以下の範囲である。
本発明における架橋性重合体の重量平均分子量がこの下限値を下回ると、該重合体を含む組成物の成膜性が低下する可能性があり、また、架橋性重合体のガラス転移温度、融点及び気化温度が低下するため耐熱性が著しく損なわれる可能性がある。
【0037】
また、重量平均分子量がこの上限値を超えると、不純物の高分子量化によって架橋性重合体の精製が困難となる可能性がある。
また、該重合体の分散度Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)は、通常3.0以下、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下であり、好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.1以上、特に好ましくは1.2以上である。該重合体の分散度がこの上限を上回ると、精製が困難となる、溶媒溶解性が低下する、電荷輸送性が低下するといった不具合のおそれがある。
【0038】
本発明における重量平均分子量(及び数平均分子量)はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定により決定される。SEC測定では高分子量成分ほど溶出時間が短く、低分子量成分ほど溶出時間が長くなるが、分子量既知のポリスチレン(標準試料)の溶出時間から算出した校正曲線を用いて、サンプルの溶出時間を分子量に換算することによって、重量平均分子量(及び数平均分子量)が算出される。
【0039】
(電荷輸送性部位について)
本発明における架橋性重合体は、その繰り返し単位のうち少なくとも一部として電荷輸送に適した部分構造を有することが好ましい。
電荷輸送に適した部分構造としては、例えばトリアリールアミン構造、フルオレン環、アントラセン環、ピレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、フェノキサジン環、フェナントロリン環などの3環以上の芳香族環構造、ピリジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、チオフェン環、シロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサジアゾール環、ベンゾチアジアゾール環などの芳香族複素環構造、及び金属錯体構造等由来の1価以上の基が挙げられる。
【0040】
中でも、トリアリールアミン構造及び/又はフルオレン環由来の1価以上の基を含むことが、本発明の架橋性重合体におけるHOMO及び/又はLUMOが適度に非局在化し、電気化学的安定性及び電荷輸送性を向上させる点で好ましい。
本発明の架橋性重合体は、主鎖が全体的に、又は、部分的に共役していることが、電荷輸送性を向上につながり好ましい。
【0041】
(式(2)について)
本発明における架橋性重合体は、電気化学的安定性及び電荷輸送性を向上させる点で、電荷輸送に適した部分構造として、下記式(2)で表される繰り返し単位を有する重合体であることが好ましい。
【0042】
【化5】

【0043】
(式中、mは0〜3の整数を表し、
Ar11、及びAr12は、各々独立して、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Ar13〜Ar15は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0044】
但し、Ar11及びAr12のいずれもが、直接結合であることはない。)
(Ar11〜Ar15について)
式(2)中、Ar11及びAr12は、各々独立して、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、Ar13〜Ar15は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0045】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基が挙げられる。
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基が挙げられる。
【0046】
溶剤に対する溶解性、及び耐熱性の点から、Ar11〜Ar15は、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基が好ましい。
また、Ar11〜Ar15としては、前記群から選ばれる1種又は2種以上の環を直接結合、又は―CH=CH―基により連結した2価の基も好ましく、ビフェニレン基及びターフェニレン基、がさらに好ましい。
【0047】
Ar11〜Ar15における芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が後述の不溶化基以外に有していてもよい置換基としては、特に制限はないが、例えば、下記[置換基群Z]から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
[置換基群Z]
メチル基、エチル基等の好ましくは炭素数1〜24、更に好ましくは炭素数1〜12のアルキル基;
ビニル基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のアルケニル基;
エチニル基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のアルキニル基;
メトキシ基、エトキシ基等の好ましくは炭素数1〜24、更に好ましくは炭素数1〜12のアルコキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の好ましくは炭素数4〜36、更に好ましくは炭素数5〜24のアリールオキシ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基;
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の好ましくは炭素数2〜24、更に好ましくは炭素数2〜12のジアルキルアミノ基;
ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N−カルバゾリル基等の好ましくは炭素数10〜36、更に好ましくは炭素数12〜24のジアリールアミノ基;
フェニルメチルアミノ基等の好ましくは炭素数6〜36、更に好ましくは炭素数7〜24のアリールアルキルアミノ基;
アセチル基、ベンゾイル基等の好ましくは炭素数2〜24、好ましくは炭素数2〜12のアシル基;
フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
トリフルオロメチル基等の好ましくは炭素数1〜12、更に好ましくは炭素数1〜6のハロアルキル基;
メチルチオ基、エチルチオ基等の好ましくは炭素数1〜24、更に好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の好ましくは炭素数4〜36、更に好ましくは炭素数5〜24のアリールチオ基;
トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の好ましくは炭素数2〜36、更に好ましくは炭素数3〜24のシリル基;
トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の好ましくは炭素数2〜36、更に好ましくは炭素数3〜24のシロキシ基;
シアノ基;
フェニル基、ナフチル基等の好ましくは炭素数6〜36、更に好ましくは炭素数6〜24の芳香族炭化水素基;
チエニル基、ピリジル基等の好ましくは炭素数3〜36、更に好ましくは炭素数4〜24の芳香族複素環基
上記各置換基は、さらに置換基を有していてもよく、その例としては前記置換基群Zに例示した基が挙げられる。
【0048】
Ar11〜Ar15における芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が後述の不溶化基以外に有してもよい置換基の分子量としては、さらに置換した基を含めて500以下が好ましく、250以下がさらに好ましい。
溶剤に対する溶解性の点から、Ar11〜Ar15における芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、各々独立に、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。
【0049】
なお、mが2以上である場合、前記式(2)で表される繰り返し単位は、2個以上のAr14及びAr15を有することになる。その場合、Ar14同士及びAr15同士は、各々、同じでもよく、異なっていてもよい。さらに、Ar14同士、Ar15同士は、各々互いに直接又は連結基を介して結合して環状構造を形成していてもよい。
(mについて)
式(2)におけるmは、0以上、3以下の整数を表す。
mは0であることが、架橋性重合体の、有機溶剤に対する溶解性及び成膜性が高められる点で好ましい。
【0050】
また、mは1以上、3以下、好ましくは2以下であることが、ポリマーの正孔輸送能が向上する点で好ましい。
(式(3)について)
架橋性重合体は、下記式(3)で表される繰り返し単位を含有することが、架橋反応時に、膜がクラックしにくくなったり、ポリマー主鎖が凝集しにくくなったりする点で好ましい。
【0051】
【化6】

【0052】
(式中、Ar及びArは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基または直接結合を表し、
Ar〜Arは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
nは0以上、3以下の整数を表す。
【0053】
また、Tは架橋性基を示す。)
(Ar〜Arについて)
Ar及びArは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基または直接結合を表し、
Ar〜Arは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0054】
Ar〜Arの具体例は、前記(Ar及びArについて)に記載の例が挙げられる。また、好ましい基についても同様である。
(有していてもよい置換基)
Ar〜Arが有していてもよい置換基の具体例としては、前記(置換基群Z)が挙げられる。また、好ましい基についても同様である。
【0055】
(nについて)
式(3)におけるnは、0以上、3以下の整数を表す。
nは0であることが、架橋性重合体の溶媒に対する溶解性及び成膜性が高められる点で好ましい。
また、nは1以上、3以下であることが、架橋性重合体の正孔輸送能が向上する点で好ましい。
【0056】
(Tについて)
式(3)におけるTは、架橋性基を表し、架橋性基としては、好ましくは前記<架橋性基群A>から選ばれる基であり、更に好ましくは<架橋性基群A’>から選ばれる基である。
また、架橋性基Tは、Arに直接結合してもよく、また、−O−基、−C(=O)−基または(置換基を有していてもよい)−CH−基から選ばれる基を任意の順番で1個以上、30個以下連結してなる2価の基を介して、結合してもよい。
【0057】
[架橋性重合体の具体例]
また、本発明における架橋性重合体の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
【化7】

【0059】
(上記式において、例えば、a=0.475、b=0.475、c=0.025、d=0.025のものが挙げられる。)
【0060】
【化8】

【0061】
(上記式において、例えば、a=0.9、b=0.1、のものが挙げられる。)
【0062】
【化9】

【0063】
(上記式において、例えば、a=0.8407、b=0.1593、のものが挙げられる。)
【0064】
【化10】

【0065】
(上記式において、例えば、a=0.1、b=0.9、のものが挙げられる。)
【0066】
【化11】

【0067】
(上記式において、例えば、a=0.9、b=0.1、のものが挙げられる。)
【0068】
【化12】

【0069】
(上記式において、例えば、a=0.1、b=0.9、のものが挙げられる。)
【0070】
【化13】

【0071】
(上記式において、例えば、a=0.8、b=0.1、c=0.1のものが挙げられる。)
【0072】
【化14】

【0073】
(上記式において、例えば、a=0.8、b=0.2、のものが挙げられる。)
【0074】
【化15】

【0075】
(上記式において、例えば、a=0.2、b=0.5、c=0.3のものが挙げられる。)
【0076】
【化16】

【0077】
(上記式において、例えば、a=0.9442、b=0.0558、のものが挙げられる。)
【0078】
【化17】

【0079】
(上記式において、例えば、a=0.1、b=0.9、のものが挙げられる。)
【0080】
【化18】

【0081】
(上記式において、例えば、a=0.9、b=0.1、のものが挙げられる。)
【0082】
【化19】

【0083】
(上記式において、例えば、a=0.94、b=0.06、のものが挙げられる。)
【0084】
【化20】

【0085】
(上記式において、例えば、a=0.9、b=0.1、のものが挙げられる。)
【0086】
【化21】

【0087】
(上記式において、例えば、a=0.9、b=0.1、のものが挙げられる。)
[架橋膜形成用組成物]
架橋膜は、通常架橋膜形成用組成物を用いて形成される。
本発明における架橋膜形成用組成物は、前記架橋性重合体を少なくとも一種含有する。また、架橋膜形成用組成物に含まれる架橋性重合体は、何れか一種を単独で用いてもよく、また異なる二種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいてもよい。
【0088】
架橋膜形成用組成物は、前記架橋性重合体を含有するが、通常さらに溶媒を含有する。
(溶媒)
該溶媒は、前記架橋性重合体を溶解するものが好ましく、通常、架橋性重合体を0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶媒である。
【0089】
本発明における架橋膜形成用組成物は、架橋性重合体を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下含有する。
本発明における架橋膜形成用組成物に含有される溶媒としては、特に制限されるものではないが、前記架橋性重合体を溶解させる必要があることから、好ましくは、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶媒;1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル等のエステル系溶媒等の有機溶媒が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
本発明における架橋膜形成用組成物に含有される溶媒の組成物中の濃度は、通常40重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。
なお、水分は有機電界発光素子の性能劣化、中でも特に連続駆動時の輝度低下を促進する可能性があり、塗膜中に残留する水分をできる限り低減するために、これらの溶媒の中でも、25℃における水の溶解度が1重量%以下であるものが好ましく、0.1重量%以下である溶媒がより好ましい。
【0091】
本発明における架橋膜形成用組成物に含有される溶媒として、20℃における表面張力が、通常40dyn/cm未満、好ましくは36dyn/cm以下、より好ましくは33dyn/cm以下、通常20dyn/cm以上である溶媒が挙げられる。
即ち、架橋膜を湿式成膜法により形成する場合、下地との親和性が重要である。膜質
の均一性は有機電界発光素子の発光の均一性、安定性に大きく影響するため、湿式成膜法に用いる組成物には、よりレベリング性が高く均一な塗膜を形成しうるように表面張力が低いことが求められる。このような溶媒を使用することにより、前記架橋性重合体を含有する均一な層を形成することができる。
【0092】
このような低表面張力の溶媒の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶媒、安息香酸エチル等のエステル系溶媒、アニソール等のエーテル系溶媒、トリフルオロメトキシアニソール、ペンタフルオロメトキシベンゼン、3−(トリフルオロメチル)アニソール、エチル(ペンタフルオロベンゾエート)等が挙げられる。
【0093】
なお、本発明における架橋膜形成用組成物に含有される溶媒として、前述した溶媒以外にも、必要に応じて、各種の他の溶媒を含んでいてもよい。このような他の溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等がある。
また、本発明における架橋膜形成用組成物は、必要に応じ、電子受容性化合物や、架橋反応を促進するための添加物等の添加剤を含んでいてもよい。この場合は、溶媒としては、前記架橋性重合体と添加剤の双方を0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶媒を使用することが好ましい。
【0094】
本発明における架橋膜形成用組成物に含まれる、前記架橋性重合体の架橋反応を促進する添加物としては、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩などの重合開始剤や重合促進剤、縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物などの光増感剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
また、本発明における架橋膜形成用組成物に含まれる電子受容性化合物としては、後述の<有機電界発光素子>[正孔注入層]の(電子受容性化合物)の項に記載したものの1種または2種以上を使用することができる。
その他、本発明における架橋膜形成用組成物は、レベリング剤や消泡剤等の塗布性改良剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。また、後述する混合層に含まれる発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有していてもよい。
【0096】
[架橋膜(cross-linked film)の形成方法]
本発明における架橋膜は、前記架橋膜形成用組成物を成膜後、架橋性重合体を架橋させることにより架橋膜が得られる。
(1.成膜方法)
架橋膜形成用組成物は、基板や他の層の上などに湿式成膜法により形成される。
【0097】
本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルプリンティング法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、ノズルプリンティング法、インクジェット法が好ましい。これは、有機電界発光素子に用いられる湿式成膜用の組成物特有の液性に合うためである。
【0098】
湿式成膜法を用いる場合、架橋性重合体、必要に応じて用いられるその他の成分(架橋反応を促進する添加物や湿式成膜性改良剤等)を、適切な溶媒に溶解させ、上記架橋膜形成用組成物を調製する。この組成物を、上記の成膜法により、基板や他の層上に成膜する。
成膜後の膜に、加熱乾燥や減圧乾燥などをおこなってもよい。
【0099】
(2.架橋方法)
上記の通り塗布後、加熱及び/または活性エネルギー線の照射により、架橋性重合体が架橋反応を起こし、架橋膜が得られる。
架橋方法が加熱による場合、加熱の手法は特に限定されないが、加熱条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下に成膜された膜を加熱する。加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。
【0100】
また、加熱手段としては特に限定されないが、形成された膜を有する基板あるいは積層体をホットプレート上にのせたり、オーブン内で加熱したりするなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
架橋方法が活性エネルギー線の照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。また、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0101】
加熱及び/または活性エネルギー線の照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
加熱及び/または活性エネルギー線の照射は、実施後に層が含有する水分及び/または層の表面に吸着する水分の量を低減するために、窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが好ましい。同様の目的で加熱及び/または活性エネルギー線の照射を組み合わせて行う場合には、少なくとも上の層の形成直前の工程を窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが特に好ましい。
【0102】
このようにして形成される本発明における架橋膜の膜厚は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、また通常100nm以下、好ましくは80nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。
[解離性重合体:dissociating polymer]
本発明における重合体は、不溶化基として、解離基を有していることが不溶化後(解離反応後)の電荷輸送能に優れる点で好ましい。
【0103】
つまり、本発明の不溶化重合体は、解離基を有する重合体(以下、「解離性重合体」と称する場合がある)であることが好ましい。
本発明における解離性重合体とは、解離基を1つ以上有する重合体である。尚、重合体とは、繰り返し単位を有する構造であればよく、また異なる2種以上の繰り返し単位を有していてもよい。
【0104】
本発明における解離性重合体とは、1種または2種以上の繰り返し単位を有する重合体であって、少なくとも電荷輸送に適した部分構造(電荷輸送性部位)を有する。
本発明における解離性重合体は、常温でトルエンに通常0.1重量%以上溶解すること
をいい、重合体のトルエンへの溶解性は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。
【0105】
(解離基:dissociating group)
解離基とは、溶媒に対して可溶性を示す基であり、結合している基(例えば、炭化水素環)から70℃以上で熱解離する基を表す。また、解離基が解離することにより、重合体の溶媒への溶解度は低下する。
但し、解離後に、他の原子が結合する反応、例えば加水分解で解離する基などは除く。加水分解で解離する基としては、例えば、後述の脱離性保護基などが挙げられる。
【0106】
このような解離基は、炭化水素環に結合し、該炭化水素環は極性基を有さない芳香族炭化水素環に縮合していることが好ましく、逆ディールスアルダー反応により熱解離する基であることがより好ましい。
また熱解離する温度は、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上、また好ましくは300℃以下、さらに好ましくは240℃以下である。
【0107】
上記範囲内であると、重合体の合成が容易であり、また成膜時に化合物が分解するなどが起きにくい。
また特に、分子間のスタッキングを抑制する立体構造を有する基が可溶性に優れるため好ましい。化合物から解離基が解離する反応の一例を下記に示す。
【0108】
【化22】

【0109】
尚、上記反応式の場合、解離基は、以下に示す構造の丸枠で囲った部分である。
【0110】
【化23】

【0111】
このような解離基の解離の例としては、例えば脱スルフィニルアセトアミド(JACS,V124,No.30,2002,8813参照)、脱オレフィン、脱アルコール、脱アルキル(H.Kwart and K.King,Department of Chemistry,University of Delaware,Nework,Delaware 19771,p415−447(1967),O.Diels and K.Alder,Ber.,62,554(1929)及びM.C.Kloetzel,Org.Reactions,4,6(1948)参照)、脱1,3−ジオキソール(N.D.Field,J.Am.Chem.Soc.,83,3504(1961)参照)、脱ジエン(R.Huisgen,M.Seidel,G.Wallbillich,and H.Knupfer,Tetrahedron,17,3(1962)参照)、脱イソキサゾール(R.Huisgen and M,Christi,Angew.Chem.Intern.Ed.Engl.,5,456(1967)参照)、脱トリアゾール(R.Kreher and J.Seubert,Z.Naturforach.,20B,75(1965)参照)等が挙げられる。
【0112】
本発明においては特に、解離基が結合する炭化水素環が、エテノ基またはエタノ基を含む環であることが、解離基がより安定であり、合成がし易い点で好ましい。
このような解離基は、加熱処理前において、その嵩高い分子構造から、分子間のスタッキングを防止したり、有機塗布溶媒に対して該重合体が良好な溶解性を有するものとすることができる。また、加熱処理によって該重合体から解離基が脱離するため、加熱後の化合物の溶媒への溶解性を著しく抑制することができ、該化合物を含む有機層に耐有機溶媒塗布性を付与することが出来る。したがって、本発明の重合体を用いて形成された有機層上に、さらに湿式成膜法によって有機薄膜を積層して形成することが容易となる。
【0113】
解離基を含む基の具体例は、以下の通りであるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
解離基を含む基が2価の基である場合の具体例は、以下の<2価の解離基を含む基群A>の通りである。
<2価の解離基を含む基群A>
【0114】
【化24】

【0115】
解離基が1価の基である場合の具体例は、以下の<1価の解離基群B>の通りである。
<1価の解離基を含む基群B>
【0116】
【化25】

【0117】
[繰り返し単位の配列および割合等]
解離性重合体は、その構造中に解離基を有するものであれば、その繰り返し単位等の構造は特に制限はないが、繰り返し単位内に芳香族環を有し、この芳香族環に結合した炭化水素環に上記解離基が結合していることが好ましい。
また中でもエテノ基、あるいは、エタノ基を含む解離基が結合している部分構造を有する繰り返し単位を含む解離性重合体であることが、成膜性が優れる点から好ましい。
【0118】
尚、エテノ基又はエタノ基は、炭化水素環に含まれていることが好ましく、該炭化水素環はさらに6員環であることが好ましい。
本発明における解離性重合体は、解離基が結合している部分構造を有する繰り返し単位として、下記化学式(U3)または(U4)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。この場合、重合体鎖中の繰り返し単位(U3)あるいは(U4)の含有量は、好ましくは10モル%以上、更に好ましくは30モル%以上である。
【0119】
【化26】

【0120】
(式(U3)中、環Aは芳香族環を表す。前記芳香族環は置換基を有していてもよい。また、前記置換基同士が直接または2価の連結基を介して環を形成していてもよい。
21、S22、R21〜R26は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールアミノ基、置換基を有していてもよいへテロアリールアミノ基または置換基を有していてもよいアシルアミノ基を表す。
【0121】
1及びXは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数6以上50以下の
2価の芳香族炭化水素環基、または置換基を有していてもよい炭素数5以上50以下の2
価の芳香族複素環基を表す。
式(U4)中、環Bは芳香族環を表す。前記芳香族環は置換基を有していてもよい。また、前記置換基同士が直接または2価の連結基を介して環を形成していてもよい。
31〜S34、R31〜R36、X及びXは、それぞれ独立に、上記S21、S22、R21〜R26、X及びXとして示したものと同様である。
〜nはそれぞれ独立に、0〜5の整数を表す。)
化学式(U3)及び(U4)中における、環A、及び環Bは、それぞれ解離基が結合する芳香族環を表し、芳香族炭化水素環であってもよく、芳香族複素環であってもよいが、電気化学的安定性に優れる点、及び電荷が局在化しにくい点で、芳香族炭化水素環であることが好ましい。また、該芳香族環は置換基を有していてもよい。また、該置換基同士が直接または2価の連結基を介して環を形成していてもよい。
【0122】
環A及びBが、芳香族炭化水素環である場合に、該芳香族炭化水素環の核炭素数は通常6以上である。また通常40以下であり、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。また、環A及びBが、芳香族複素環である場合に、該芳香族複素環の核炭素数は、通常3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上である。また通常50以下であり、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
【0123】
該芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンゾピレン環、クリセン環、ベンゾクリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環、フルオレン環等が挙げられる。
上記の中でも環Aおよび環Bが、それぞれ独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環およびテトラセン環からなる群から選ばれることが好ましい。
【0124】
また芳香族複素環としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、等が挙げられる。
【0125】
また、上記化学式(U3)及び(U4)中の環A及び環Bは、同種または異なる2種以上の環構造単位が1以上10以下、直接、もしくは酸素原子、窒素原子、硫黄原子、核炭素数1以上20以下のヘテロ原子を含んでも良い鎖状基、及び炭素数が1以上20以下の脂肪族基から選ばれる1種以上の2価の連結基を介して連結した構造とすることも可能である。なお連結される環構造単位としては、上記芳香族炭化水素環や芳香族複素環と同様、または異なる芳香族炭化水素環や芳香族複素環とすることができる。またこれらの芳香族炭化水素環及び芳香族複素環は置換基を有していてもよい。
【0126】
環Aまたは環Bの置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1以上10以下の直鎖または分岐のアルキル基;ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等の炭素数1以上8以下のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基等の炭素数1以上8以下のアルキニル基;ベンジル基等の炭素数2以上8以下のアラルキル基;フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等のアリールアミノ基;ピリジルアミノ基、チエニルアミノ基、ジチエニルアミノ基等のヘテロアリールアミノ基;アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1以上8以下のアルコキシ基;アクリロイルオキシル基、メチルカルボニルアオキシル基、エチル
カルボニルアオキシル基、ヒドロキシカルボニルメチルカルボニルオキシル基、ヒドロキシカルボニルエチルカルボニルオキシル基、ヒドロキシフェニルカルボニルオキシル基等の炭素数1以上15以下のアシルオキシル基;フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、等の炭素数10以上20以下のアリールオキシル基;等が挙げられる。これらの置換基はお互いに直接、あるいは、−O−、−S−、>CO、>SO、−(C2x)−、−O−(C2y)−、置換もしくは無置換の炭素数2以上20以下のアルキリデン基、置換基を有していてもよい炭素数2以上20以下のアルキレン基等、2価の連結基を介して結合し、環状構造を形成してもよい。上記xおよびyは、それぞれ1以上20以下の整数を表す。
【0127】
これらの置換基は1種のみ、または2種以上が任意の組み合わせで1つ、または2つ以上が環Aまたは環Bに置換していてもよい。
上記化学式(U3)及び化学式(U4)におけるS21、S22、R21〜R26、S31〜S34、R31〜R36は、それぞれ独立に、水素原子;水酸基;メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の置換基を有していてもよい炭素数が通常1以上、通常50以下、好ましくは10以下の直鎖または分岐のアルキル基;置換基を有していてもよい核炭素数が通常5以上50以下の芳香族炭化水素環基;置換基を有していてもよい核炭素数が5以上40以下の芳香族複素環基;ベンジル基等の置換基を有していてもよい核炭素数が通常6以上、好ましくは7以上、通常50以下、好ましくは8以下のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の置換基を有していてもよい炭素数が通常1以上、通常50以下、好ましくは8以下のアルコキシ基;フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基等の置換基を有していてもよい核炭素数が通常5以上、好ましくは6以上、通常50以下、好ましくは15以下のアリールオキシ基;置換基を有していてもよい核炭素数が通常2以上50以下のアシル基;ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等の置換基を有していてもよい炭素数が通常1以上8以下のアルケニル基;エチニル基、プロパギル基等の置換基を有していてもよい炭素数が通常1以上8以下のアルキニル基;アクリロイルオキシル基、メチルカルボニルオキシル基、エチルカルボニルオキシル基、ヒドロキシカルボニルメチルカルボニルオキシル基、ヒドロキシカルボニルエチルカルボニルオキシル基、ヒドロキシフェニルカルボニルオキシル基等の置換基を有していてもよい核炭素数が通常2以上、通常50以下、好ましくは15以下のアシルオキシ基;フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等の置換基を有していてもよい核炭素数が通常6以上50以下のアリールアミノ基;ピリジルアミノ基、チエニルアミノ基、ジチエニルアミノ基等の置換基を有していてもよい核炭素数が通常5以上50以下のへテロアリールアミノ基;またはアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等の置換基を有していてもよい炭素数が通常2以上50以下のアシルアミノ基を表す。
【0128】
本発明の解離性重合体は、前記式(2)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
(熱解離性可溶性基の割合)
解離基は、上記解離性重合体の繰り返し単位以外の部分に含まれていてもよい。解離性重合体の1つの重合体鎖の中に含まれる解離基は、好ましくは平均5以上、より好ましくは平均10以上、より好ましくは平均50以上である。
【0129】
上記範囲内であると、解離膜の有機溶媒に対する溶解性の低下が十分で、また混合層が形成し易い点で好ましい。
(解離性重合体の分子量)
解離性重合体の重量平均分子量は、通常3,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下であり、また通常1,000以上、好ましくは2,500以上、より好ましくは5,000以上である。
【0130】
また、数平均分子量は、通常2,500,000以下、好ましくは750,000以下、より好ましくは400,000以下であり、また通常500以上、好ましくは1,500以上、より好ましくは3,000以上である。
上記範囲内であると、解離性重合体を含む組成物の成膜性が良好で、また解離性重合体のガラス転移温度、融点及び気化温度が高く耐熱性が良好である。
【0131】
(具体例)
以下、本発明における解離性重合体の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0132】
【化27】

(上記式中、nは任意の整数である。)
【0133】
[解離膜形成用組成物]
解離膜は、通常解離膜形成用組成物を用いて形成される。
本発明における解離膜形成用組成物は、前記解離性重合体を少なくとも一種含有する。また、解離膜形成用組成物に含まれる解離性重合体は、何れか一種を単独で用いてもよく、また異なる二種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいてもよい。
【0134】
解離膜形成用組成物が含有する解離性重合体以外のものは、前記[架橋膜形成用組成物]の項で記載のものと同様である。好ましい態様も同様である。
[解離膜(dissociated film)の形成方法]
解離膜の形成方法は、前記[架橋膜の形成方法]の項に記載のものと同様である。好ましい態様も同様である。
【0135】
[脱離性重合体:eliminating polymer]
本発明における重合体は、不溶化基として、脱離性保護基を有していることが、加熱処理により保護基を脱離させることで分子構造変化をもたらし、有機溶媒に対する溶解性を
変化させることが可能な点で好ましい。
つまり、本発明の不溶化重合体は、脱離性保護基を有する重合体(以下、「脱離性重合体」と称する場合がある)であることが好ましい。
【0136】
本発明における脱離性重合体とは、脱離性保護基を1つ以上有する重合体である。尚、重合体とは、繰り返し単位を有する構造であればよく、また異なる2種以上の繰り返し単位を有していてもよい。
本発明における解離性重合体とは、1種または2種以上の繰り返し単位を有する重合体であって、少なくとも電荷輸送に適した部分構造(電荷輸送性部位)を有する。
【0137】
(脱離性保護基:eliminable protecting group)
本発明における脱離性保護基とは、加熱により、活性の高い基の水素原子と置き換られる活性の低い基で、さらに溶媒に対して可溶性を示す基をいう。熱解離性基が熱により解離するだけであるのに対し、保護基は熱により(主に)水由来のHに置き換えられる点で異なる。
【0138】
アミノ基を有する材料は有機EL素子の正孔注入・輸送材料として広く用いられるが、このアミノ基の保護基として、例えばt−ブトキシカルボニル基、ベンゾイル基、ベンジルカルボニル基、アリルオキシカルボニル基またはメトキシメチル基などが挙げられる。
(脱離性保護基の割合)
脱離性保護基は、該高分子化合物の繰り返し単位以外の部分に含まれていてもよい。高分子化合物の1つの重合体鎖の中に含まれる脱離性保護基は、好ましくは平均5以上、より好ましくは平均10以上、より好ましくは平均50以上である。
【0139】
上記範囲内であると、脱離膜の不溶化が十分で、また混合層が形成し易い点で好ましい。
<具体例>
以下、本発明における脱離性重合体の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0140】
【化28】

(上記式中、nは任意の整数である。)
【0141】
[脱離膜形成用組成物]
脱離膜は、通常脱離膜形成用組成物を用いて形成される。
本発明における脱離膜形成用組成物は、前記脱離性重合体を少なくとも一種含有する。また、脱離膜形成用組成物に含まれる脱離性重合体は、何れか一種を単独で用いてもよく、また異なる二種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいてもよい。
【0142】
脱離膜形成用組成物が含有する脱離性重合体以外のものは、前記[架橋膜形成用組成物]の項で記載のものと同様である。好ましい態様も同様である。
[脱離膜の形成方法]
脱離膜の形成方法は、前記[架橋膜の形成方法]の項に記載のものと同様である。好ましい態様も同様である。
【0143】
[発光性低分子化合物]
発光性低分子化合物としては、単一の分子量で規定される発光の性質を有する化合物であれば特に制限はなく、公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光性低分子化合物であってもよく、燐光発光性低分子化合物であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光性低分子化合物である。
【0144】
なお、溶媒への溶解性を向上させる目的で、発光性低分子化合物の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることが好ましい。
以下、発光性低分子化合物のうち蛍光発光性低分子化合物の例を挙げるが、蛍光発光性低分子化合物は以下の例示物に限定されるものではない。
【0145】
青色発光を与える蛍光発光性低分子化合物(青色蛍光発光性低分子化合物)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、クリセン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
緑色発光を与える蛍光発光性低分子化合物(緑色蛍光発光性低分子化合物)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(CNO)などのアルミニウム錯体等が挙げられる。
【0146】
黄色発光を与える蛍光発光性低分子化合物(黄色蛍光発光性低分子化合物)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
赤色発光を与える蛍光発光性低分子化合物(赤色蛍光発光性低分子化合物)としては、例えば、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0147】
燐光発光性低分子化合物としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0148】
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0149】
燐光発光性低分子化合物として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オク
タフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0150】
発光性低分子化合物として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光性低分子化合物の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光性低分子化合物の分子量が大き過ぎると、発光性低分子化合物の精製が困難となってしまったり、溶媒に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0151】
なお、上述した発光性低分子化合物は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
[電荷輸送性低分子化合物]
本発明における電荷輸送性低分子化合物とは、正孔輸送性や電子輸送性などの電荷輸送性を有する化合物であって、単一の分子量で規定される化合物である。
【0152】
本発明においては、電荷輸送性低分子化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
発光層において、発光性低分子化合物をドーパント材料とし、電荷輸送性低分子化合物をホスト材料として用いることが好ましい。
電荷輸送性低分子化合物は、従来有機電界発光素子の発光層に用いられている化合物であればよく、特に発光層のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。
【0153】
電荷輸送性低分子化合物として具体的には、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等が挙げられる。
【0154】
例えば、4,4'−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで
代表わされる2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4',4''−トリス(1−ナフ
チルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2',7,7'−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9'−スピ
ロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4'−N,N'−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール系化合物、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)などのオキサジアゾール系化合物、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール系化合物、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)などのフェナントロリン系化合物等が挙げられる。
【0155】
[混合層]
本発明の有機電界発光素子は、不溶膜(insolubilized film)中に発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層を有する。
混合層は、例えば、不溶膜を形成後、該膜上に、上記発光性低分子化合物、電荷輸送性低分子化合物および溶媒を含有する組成物(下記詳述の発光層用組成物)を、湿式成膜法にて塗布することにより形成される。これにより、形成された不溶膜に、発光性低分子化合物および電荷輸送性低分子化合物が、膨潤及び浸潤することにより混合層が形成される。
【0156】
このように形成した場合、不溶膜全体が本発明における混合層となっていてもよく、又発光層との界面に近い一部の領域のみが混合層となり、該界面から遠い領域は、不溶層(insolubilized layer)となっていてもよい。
また、混合層は、前記不溶膜形成用組成物に、上記発光性低分子化合物および電荷輸送性低分子化合物を含有させて、前記不溶膜と同様に膜を形成することにより、不溶膜中に発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層を形成することもできる。
【0157】
このように形成した場合、通常不溶膜全体が本発明における混合層となる。
この場合は、不溶膜用組成物には、発光性低分子化合物を通常0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
また、同様に、電荷輸送性低分子化合物を通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下含有する。
【0158】
また、発光層用組成物中、発光性低分子化合物と電荷輸送性低分子化合物との含有量の比(発光性低分子化合物/電荷輸送性低分子化合物)は、通常0.001以上、好ましくは0.01以上、また通常0.5以下、好ましくは0.2以下である。
更に、不溶重合体(insolubilized polymer)と電荷輸送性低分子化合物との電荷の受
け渡しが有利になることで、駆動電圧の低下や電流効率が向上する点で、混合層中には、電荷輸送性化合物が含まれていることが好ましい。
【0159】
また、本発明の構成とすることで、電荷の輸送性、隣接層への電荷の注入性、及び発光との機能分離がより高度に行われる。その結果、本発明の有機電界発光素子は、高い発光効率を有する。
[発光層]
本発明における発光層は、混合層上に隣接して、発光性低分子化合物、電荷輸送性低分子化合物を含み、かつ不溶重合体を含有しない層を表す。
【0160】
発光層は、発光性低分子化合物、電荷輸送性低分子化合物および溶媒を含有する組成物(発光層用組成物)を用いて成膜することにより形成してもよく、また、発光性低分子化合物および電荷輸送性低分子化合物を蒸着することによって成膜してもよい。
上述の通り、不溶膜上に直接発光層用組成物を成膜することにより混合層を形成することができる点で、発光層の形成は、発光層用組成物を用いて形成することが好ましい。
【0161】
発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物は、各々、前記[発光性低分子化合物]及び[電荷輸送性低分子化合物]の項に記載の化合物を用いることができる。
また、溶媒は、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物が良好に溶解する溶媒であれば特に限定されない。
溶媒の溶解性としては、常温・常圧下で、発光性低分子化合物および電荷輸送性低分子化合物を、各々、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上溶解することが好ましい。
【0162】
以下に溶媒の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、これらに限定されるものではない。
例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0163】
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。これらの溶媒は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶媒が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、溶媒の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。
【0164】
溶媒の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、発光層用組成物100重量部に対して、好ましくは10重量部以上、より好ましくは50重量部以上、特に好ましくは80重量部以上、また、好ましくは99.95重量部以下、より好ましくは99.9重量部以下、特に好ましくは99.8重量部以下である。含有量が下限を下回ると、粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。一方、上限を上回ると、成膜後、溶媒を除去して得られる膜の厚みが稼げなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。なお、発光層用組成物として2種以上の溶媒を混合して用いる場合には、これらの溶媒の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0165】
また、本発明における発光層用組成物は、成膜性の向上を目的として、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含有してもよい。
本発明における発光層用組成物は、発光性低分子化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、また、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下含有する。
【0166】
本発明における発光層用組成物は、電荷輸送性低分子化合物を通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上、また、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下含有する。
また、発光層用組成物中、発光性低分子化合物と電荷輸送性低分子化合物との含有量の比(発光性低分子化合物/電荷輸送性低分子化合物)は、通常0.01以上、好ましくは0.03以上、また通常0.5以下、好ましくは0.2以下である。
【0167】
(発光層の形成方法)
本発明における発光層の形成方法は、混合層を形成するに際し、工業的観点から有利である点で、湿式成膜法で行うことが好ましい。
発光層を製造するための発光層用組成物の塗布後、得られた塗膜を乾燥し、発光層用溶媒を除去することにより、発光層が形成される。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、例えば、前記の[架橋膜の形成方法](1.成膜方法)で記載した、本発明における湿式成膜法が挙げられ、中でも好ましくは、スピンコート法、ノズルプリンティング法及びインクジェット法である。
【0168】
混合層に隣接する発光層が存在するには、発光層組成物をガラス上に湿式成膜してなる発光層の膜厚が、不溶膜形成用組成物をガラス上に湿式成膜してなる不溶膜の膜厚よりも厚いことが好ましい。
有機電界発光素子の効率・耐久性の点から、ガラス上における発光層の膜厚が、ガラス上における不溶膜の膜厚よりも10nm以上厚いことが好ましい。
【0169】
特に、架橋性重合体(cross-linking polymer)の場合は、架橋性重合体の分子量10
,000あたりの架橋基数を増やしていくと架橋性重合体と発光層との間の混合が抑制され、発光層がより厚く存在する傾向にある。
その為、発光層と架橋層との関係、及び架橋性重合体の分子量10,000あたりの架橋性基数を調整して、混合層に隣接する発光層を形成することができる。
【0170】
発光層の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
発光層における発光性低分子化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、また、通常35重量%以下、好ましくは25重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。発光性低分子化合物が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光性低分子化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0171】
また、発光層における電荷輸送性低分子化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、通常99.95重量%以下、好ましくは95重量%以下、更に好ましくは90重量%以下である。なお、2種以上の電荷輸送性低分子化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0172】
[本発明の効果を奏する理由]
本発明において、不溶化基を有する重合体の中で、特に好ましい架橋性重合体(cross-linking polymer)、及び解離性重合体(dissociating polymer)を用いた場合に関し、
本発明の効果を奏する理由について、以下の通り推測する。
(架橋膜であることの理由)
架橋性重合体を用いて成膜した膜は、重合体鎖同士が架橋結合によって固定されている。その為、架橋膜上に、発光層用組成物を用いて湿式成膜法にて塗布することにより、均一に架橋膜に膨潤及び浸潤して、均一な混合層を形成することができる。
【0173】
一方、架橋性基などの不溶化基を有さない重合体を用いて成膜した膜(重合膜)は、架橋性重合体を用いた場合とは違って、重合体鎖同士は分子間相互作用のみで固定されている。このため、重合膜上に、発光層用組成物を用いて湿式成膜法にて塗布すると、重合体
同士が固定されていないため、均一に重合膜に膨潤及び浸潤しにくく、塗布溶媒に溶解したり、溶解した重合体が塗布時のせん断力で移動したり、また均一な混合層を形成するのが容易ではない。
【0174】
(解離膜であることの理由)
解離基は、熱により結合している基(例えば、炭化水素環)より解離し、重合体全体として平面性が高い構造となる。ここで、解離基が解離した後の基が、sp2炭素原子を多く含む構造であると、膜中の重合体鎖同士がπ―πスタッキングによりエネルギー的に安定となり固定されている。その為、解離膜上に、発光層用組成物を用いて湿式成膜法にて塗布することにより、均一に解離膜に膨潤及び浸潤して、均一な混合層を形成することができる。
【0175】
[混合層の確認方法]
混合層の確認は、例えば以下の方法で行う。
まず、ガラス基板上に発光層用組成物を塗布して、求める厚みの発光層塗布膜を形成するための条件を決定する。次に、不溶膜上に、決定した同条件で、発光層用組成物を塗布して素子を作製する。得られた有機電界発光素子の発光スペクトルを求める。この操作を膜厚を変えて行い、発光スペクトルの変化を観測することにより混合層の形成が確認できる。
【0176】
有機電界発光素子のELスペクトルは、スペクトルを分光することにより得られる。具体的には、作成した素子に所定の電流を印加し、得られるELスペクトルを瞬間マルチ測光システムMCPD−2000(大塚電子社製)で測定する。
尚、用いる測定機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよい。
【0177】
また、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)により混合層の確認をすることができる。
(デプスプロファイルによる方法)
TOF−SIMSを用いて深さ方向の分子・原子の構成成分を分析することにより、混合層の判定を行うことが可能である。
【0178】
TOF−SIMS法は、TOF−SIMS IV(ION−TOF社製)を用いて測定を行う。
測定方法は、測定試料をスパッタイオンによりエッチングし、エッチング後に一次イオンを照射して試料から放出される二次イオンのTOF−SIMSスペクトルを、正イオンの場合は正イオンモードで、負イオンの場合は負イオンモードで測定を行う。一次イオンとしてビスマス三量体クラスターの2価の正イオンを用い、スパッタイオンとしてアルゴンの正イオンを用いる。また、エッチング面積は300μmとし、スパッタ分析面積は150μmとする。エッチングとTOF−SIMS測定を繰り返すことで、試料表面から深さ方向への各種イオンの分布を評価する。
【0179】
例えば発光材料にのみ含まれるイオンのスペクトル強度について、発光層中で観測されるスペクトル強度が20分の1程度になる部分まで発光材料が浸透しているとする。
(精密斜め切削技術との組み合わせによる方法)
SAICAS(精密斜め切削装置)などを用いた精密斜め切削技術とTOF−SIMSを組み合わせることで、より高分解能で深さ方法の分布を確認することが可能である。
【0180】
具体的には精密斜め切削することで擬似的に深さ方向の距離を500倍以上に拡大した切削面を形成する。得られた切削膜表面をTOF−SIMSで分析し、検出された分子イ
オンについて、イオン強度マッピングを行う。発光層からは発光材料の分子イオンが、混合領域からは発光材料、および電荷輸送材料の分子イオンが検出され、その検出強度の比は各材料の存在に概ね比例するため、発光層と混合領域を切り分けることが可能である。
【0181】
以上、混合層の特定は、上記3通りの方法が挙げられるが、いずれか一つを満たせばよい。
尚、本発明の特定に用いる測定機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよいが、上記の測定機器を用いることが好ましい。
【0182】
(有機電界発光素子B)
本発明の有機電界発光素子Bは、陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層を備えた有機電界発光素子であって、該有機層が少なくとも重合体と発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層と、該混合層に隣接して、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有し、かつ重合体を含有しない層とを含み、該重合体を含有する層が、水、安息香酸エチル、及び炭化水素系溶媒、各々に20〜25℃で60秒間浸漬した後、浸漬前と比較して95%以上の膜厚が残存することを特徴とする有機電界発光素子である。
浸漬温度は20〜25℃の間であればよいが、例えば25℃で浸漬する。
【0183】
炭化水素系溶媒としては、トルエン、キシレン、及びシクロヘキシルベンゼンが挙げられ、すくなくともいずれに対しても、浸漬前後で95%以上の膜厚が残存することが好ましい。
[発光スペクトルの極大発光波長]
本発明に係る有機電界発光素子は、有機電界発光素子の発光スペクトルにおける極大発光波長λELと、光励起による前記発光性低分子化合物の発光スペクトルにおける極大発光波長λPLとが、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【0184】
λPL−5nm≦λEL≦λPL+5nm (1)
光励起による発光性低分子化合物の極大発光波長の測定方法について、以下に示す。
(測定サンプルの作製)
測定サンプルは、以下に詳述の測定サンプル用組成物を用いて、ガラス基板上に湿式成膜法で成膜して作製する。
【0185】
測定サンプルの膜厚は、測定を著しく困難にしない範囲で任意であるが、通常50nm程度で形成する。
(測定サンプル用組成物)
測定サンプル用組成物は、有機電界発光素子の発光層に含有される発光性低分子化合物および電荷輸送性化合物を含み、さらに溶媒を含む。測定サンプル用組成物に含有される発光性低分子化合物と電荷輸送性低分子化合物との比は、発光層用組成物と同様のものを用いる。
【0186】
溶媒としては、特に制限はないが、好ましくは、発光層用組成物と同じ溶媒を用いる。
その他に含まれていてもよいものとしては、発光層用組成物に含まれているものであればよい。
また、測定サンプルを作製する際の成膜方法は、有機電界発光素子の発光層を形成する方法と同じでも異なっていてもよいが、同様の方法で成膜することが好ましい。
【0187】
異なる場合の成膜方法は、特に制限はないが、前記[架橋膜の形成方法](成膜方法)の項に記載のいずれの方法を用いて成膜してもよく、例えば、スピンコート法またはイン
クジェット法である。
(測定方法)
発光スペクトルは、例えば分光光度計F−4500(日立製作所社製)により測定をおこなう。
【0188】
まず、測定サンプルの吸光度が最大を示す波長(以下、「励起光波長」と称する)を300−800nmの波長領域において選択する。
さらに、選択された励起光波長によって励起された測定サンプルからの発光を、スキャンスピード1200nm/分、励起側スリット5.0nm、蛍光側スリット5.0nm、ホトマル電圧400Vとして、励起光波長から800nmまでの波長範囲で測定して、測定サンプルの発光スペクトルを得る。これより、光励起による測定サンプルの発光スペクトルにおける極大発光波長を得る。
【0189】
なお、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよいが、上記の測定機器を用いることが好ましい。
式(1)を満たすことによって、電流効率が向上することの理由は以下の通り推測される。
式(1)を満たさない有機電界発光素子は、本発明における混合層で、電子と正孔の再結合が生じている。つまり、有機電界発光素子において、電圧の印加によって生成する化合物の励起状態からの発光が、発光性低分子化合物からの発光だけでなく、不溶重合体(insolubilized polymer)からの発光も生じている、または、不溶重合体(insolubilized
polymer)からの発光だけになってしまうことを意味する。
【0190】
つまり、電圧を印加して、発光性低分子化合物に与えられるべきエネルギーが、不溶重合体(insolubilized polymer)に与えられ、この結果、素子の電流効率の低下につなが
るものと考えられる。
また、素子構成によっては、同様に以下のことも考えられる。
不溶膜(insolubilized film)を形成後、該膜上に、前記発光層用組成物を用いて、湿式成膜法にて成膜することにより混合層及び発光層を形成することで、不溶膜に発光性低分子化合物または電荷輸送性低分子化合物が、膨潤及び浸潤して、混合層が形成される。この混合層及び発光層の形成方法では、十分な厚みで発光層が形成されずに、混合層のみが形成される場合がある。この場合で、さらに発光層上に電子輸送性を有する化合物を用いて形成した層を有している素子である場合、不溶重合体(insolubilized polymer)と
電子輸送性化合物とが近接して、電荷移動錯体を形成してしまうことがある。これにより、電圧を印加した場合の有機電界発光素子の発光が、電荷移動錯体由来の発光になってしまい、上記と同様に電流効率の低下につながる。
【0191】
不溶膜を形成後、該膜上に、前記発光層用組成物を用いて、湿式成膜して混合層及び発光層を形成する方法で、式(1)を満たす素子を作製する場合について、以下に詳述する。
また、発光層用組成物の、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物の濃度は、前記[発光層用組成物]の項で記載した濃度を用いることが好ましい。
【0192】
すなわち、上記2点を制御することによって、得られた素子の発光層の膜厚として、前記[発光層](発光層の形成方法)の項で、記載の膜厚である発光層が好適に形成され、式(1)を満たす素子が得られる。
また、混合層の形成方法として、前記架橋膜用組成物に、前記発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含有させて、前記架橋膜と同様に膜を形成することにより架橋膜中に、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含有させて混合層を形成する場合、得られた素子の発光層の膜厚として、前記[発光層](発光層の形成方法)の項で
記載の膜厚で発光層を形成することで、式(1)を満たす素子が得られる。
【0193】
<有機電界発光素子の製造方法>
本発明の有機電界発光素子は、陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層を備えた有機電界発光素子の製造方法において、有機層が、不溶化重合体を含む膜に対して活性エネルギーにより不溶膜を形成する工程、及び該不溶膜上に発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物並びに溶媒を含有する組成物を塗布して成膜する工程、を有する製造方法(以下、「本発明の製造方法」という)により製造することが好ましい。
【0194】
本発明の製造方法における、不溶化重合体を含む膜に対して活性エネルギーにより不溶膜を形成する工程は、前記の[架橋膜の形成方法][解離膜の形成方法][脱離膜の形成方法]の項で記載した方法を、また、該膜上に発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物並びに溶媒を含有する組成物を塗布して成膜する工程は、前記の[発光層](発光層の形成方法)の項で記載した方法を用いることができる。
また、本発明の製造方法は、上記の工程に加えて、一又は二以上のその他の工程を備えていてもよい。その他の工程の実施時期は任意である。
【0195】
<有機電界発光素子>
本発明の有機電界発光素子Aは、陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層を備えた有機電界発光素子であって、該有機層が、少なくとも不溶化重合体(insolubilizing polymer)を不溶化させてなる不溶重合体(insolubilized polymer)を含む膜
中に、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層と該混合層に隣接して、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含有し、かつ不溶重合体を含有しない層とを含む層であることを特徴とする、有機電界発光素子である。
また、本発明の有機電界発光素子Bは、陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層を備えた有機電界発光素子であって、該有機層が少なくとも重合体と発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層と、該混合層に隣接して、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有し、かつ重合体を含有しない層とを含み、該重合体を含有する層が、水、安息香酸エチル、及び炭化水素系溶媒、各々に20〜25℃で60秒間浸漬した後、浸漬前と比較して95%以上の膜厚が残存することを特徴とする、有機電界発光素子である。
【0196】
以下、本発明の有機電界発光素子及び有機電界発光素子の製造方法の詳細について図1を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る有機電界発光素子の層構成を模式的に示す断面図である。図1に示す有機電界発光素子は、基板の上に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、混合層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層及び陰極を、積層することにより構成される。
本発明の有機電界発光素子Aにおいて、図1に示す素子の場合、正孔輸送層が不溶層(insolubilized layer)に相当する。
【0197】
[基板]
基板は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0198】
[陽極]
基板上には陽極が設けられる。陽極は発光層側の層(正孔注入層など)への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/またはスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。
【0199】
陽極の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などを用いて陽極を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより陽極を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0200】
陽極は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましい。この場合、陽極の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極の厚みは任意であり、基板と同一でもよい。また、さらには上記の陽極の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0201】
陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
[正孔注入層]
本発明に係る正孔注入層の形成方法は特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層を湿式成膜により形成することが好ましい。また湿式成膜法は、従来の真空蒸着法と比較して均質で欠陥がない薄膜が得られる点、形成のための時間が短く、工業的にも優れている。
【0202】
ここで本発明における湿式成膜(法)とは、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルプリンティング法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷等の溶媒を含有するインクを用いて成膜する方法をいう。パターニングのし易さという点で、ダイコート法、ロールコート法、スプレーコート法、インクジェット法、またはフレキソ印刷法が好ましい。
【0203】
湿式成膜により正孔注入層を形成する場合、通常は、正孔注入層の材料を適切な溶媒(正孔注入層用溶媒)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層用組成物)を用意し、この正孔注入層用組成物を適切な手法により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層を形成する。
(正孔輸送材料)
正孔注入層用組成物は通常、正孔注入層の材料として少なくとも正孔輸送材料及び溶媒を含有する。正孔輸送材料は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい

【0204】
低分子化合物としては、単一の分子量で規定される正孔輸送の性質を有する化合物であれば特に制限はなく、公知の材料を適用可能であるが、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence, 1997年, Vol.72−74, pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications, 1996年, pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals, 1997年, Vol.91, pp.209)等が挙げられる。 また、正孔輸送材料としては、陽極から正孔注入層への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送材料の例としては、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン化合物、シラザン化合物、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン化合物、フタロシアニン誘導体などが挙げられる。
【0205】
高分子化合物としては、非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましい。特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合体)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい 例として、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙
げられる。
【0206】
【化29】

【0207】
(式(I)中、Ar及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar〜Ar11は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar〜Ar11のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0208】
【化30】

【0209】
(上記各式中、Ar12〜Ar20は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。R及びRは、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表す。)
Ar〜Ar22は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。これらはそれぞれ同一であっても、互いに異なっていてもよい。Ar〜Ar22の芳香族炭化水素基及び/または芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。Ar及びArとしては、芳香族三級アミン高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、フェニル基(ベンゼン環由来の基)、ナフチル基(ナフタレン環由来の基)が好ましい。
【0210】
また、Ar〜Ar22としては、耐熱性、酸化還元電位を含めた正孔注入・輸送性の点から、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、トリフェニレン環、フェナントレン環由来の基が好ましく、フェニレン基(ベンゼン環由来の基)、ビフェニレン基(ベンゼン環由来の基)、ナフチレン基(ナフタレン環由来の基)が好ましい。
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、例えば国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
【0211】
尚、正孔輸送性化合物は、下記[正孔輸送層]の項に記載の架橋性重合体であってもよい。該架橋性重合体を用いた場合の成膜方法についても同様である。
正孔注入層の材料として用いられる正孔輸送材料は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送材料を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種または2種以上と、その他の正孔輸送材料1種または2種以上とを併用することが好ましい。
【0212】
(電子受容性化合物)
正孔注入層用組成物は電子受容性化合物を含有していることが好ましい。電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送材料から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の
化合物である化合物がさらに好ましい。電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号パンフレット);塩化鉄(III)(特開平11−251067号
公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素等が挙げられる。これらの電子受容性化合物は、正孔輸送材料を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。電子受容性化合物の正孔輸送材料に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0213】
(溶媒)
湿式成膜法に用いる溶媒のうち少なくとも1種は、正孔注入層の材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。溶媒の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。有機溶媒の沸点が低すぎると、乾燥速度が速く、膜質が悪化する可能性がある。また、有機溶媒の沸点が高すぎると高い乾燥工程の温度を高くする必要がある。そのため、他の層やガラス基板に悪影響を与える可能性がある。溶媒として例えば、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒などが挙げられる。具体的に、エーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0214】
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0215】
アミド系溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
これらの溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0216】
上述した溶媒の中でも、正孔注入層の材料を溶解する能力(溶解能)、若しくは材料との親和性が高い溶媒の方が好ましい。正孔注入層用組成物の濃度を任意に設定して、成膜工程の効率に優れる濃度の組成物を調製できるためである。
(濃度)
正孔注入層用組成物中の、正孔輸送材料の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重
量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された有機層に欠陥が生じる可能性がある。
【0217】
(その他含まれてもよいもの)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔輸送材料や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0218】
正孔注入層用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層を形成する。
成膜後、通常加熱等により乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されない。加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0219】
尚、真空蒸着による層形成の場合には、材料(正孔輸送材料、電子受容性化合物等)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極上に正孔注入層を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱し蒸発させて正孔注入層形成に用いることもできる。
【0220】
正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
なお、架橋膜を形成後、該膜上に、上記発光層用組成物を用いて、湿式成膜法にて成膜することにより混合層を形成する場合、正孔注入層は、先述の[架橋膜の形成方法]で記載した化合物および方法で層を形成してもよい。
【0221】
[正孔輸送層]
正孔注入層上には、正孔輸送層が形成される。
正孔輸送層は、陽極、正孔注入層の順に注入された正孔を発光層に注入する機能を有すると共に、発光層から電子が陽極側に注入されることによる発光効率の低下を抑制する機能を有する。
【0222】
なお、架橋膜を形成後、該膜上に、上記発光層用組成物を用いて、湿式成膜法にて成膜することにより混合層を形成する場合、正孔輸送層は、先述の[架橋膜の形成方法]で記載した化合物および方法で層を形成してもよい。
なお、ここでは、有機電界発光素子における陽極−発光層間の層が1つの場合には、これを「正孔輸送層」と称し、2つ以上の場合は、陽極に接している層を「正孔注入層」、それ以外の層を総称して「正孔輸送層」と称す。また、陽極−発光層間に設けられた層を総称して「正孔注入・輸送層」と称する場合がある。
【0223】
正孔輸送層の膜厚は、通常0.1nm以上、好ましくは5nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
[発光層]
図1に記載の層構成の場合、正孔輸送層の上には発光層が設けられる。発光層は、電界を与えられた電極間において、陽極から注入された正孔と、陰極から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0224】
発光層は、前記の発光層用組成物を用いて湿式成膜法で形成してもよく、また真空蒸着法で形成してもよい。真空蒸着法で、発光層を形成する場合は、前記の発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を用いてもよく、またその方法は公知の手法で行うことができる。
[正孔阻止層]
発光層と後述の電子注入層との間に、正孔阻止層を設けてもよい。正孔阻止層は、発光層の上に、発光層の陰極側の界面に接するように積層される層である。
【0225】
この正孔阻止層は、陽極から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する役割と、陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送する役割とを有する。
正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層の材料として好ましい。
【0226】
なお、正孔阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正孔阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0227】
[電子輸送層]
発光層と後述の電子注入層の間に、電子輸送層を設けてもよい。
電子輸送層は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0228】
電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極または電子注入層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン
化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0229】
なお、電子輸送層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子輸送層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
電子輸送層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0230】
[電子注入層]
電子注入層は、陰極から注入された電子を効率よく発光層へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0231】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0232】
なお、電子注入層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子注入層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
[陰極]
陰極は、発光層側の層(電子注入層または発光層など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0233】
陰極の材料としては、前記の陽極に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0234】
なお、陰極の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
陰極の膜厚は、通常、陽極と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0235】
[その他の層]
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極と陰極との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
<電子阻止層>
上記任意の層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
【0236】
電子阻止層は、正孔注入層または正孔輸送層と発光層との間に設けられ、発光層から移動してくる電子が正孔注入層に到達するのを阻止することで、発光層内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層内に閉じこめる役割と、正孔注入層から注入された正孔を効率よく発光層の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0237】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層を湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0238】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
さらに陰極と発光層または電子輸送層との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(II)(CsCO3)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率
を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0239】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板上に他の構成要素を陰極、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に設けてもよい。
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0240】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V25)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0241】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰
極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0242】
<有機EL表示装置及び有機EL照明>
本発明の有機EL表示装置及び有機EL照明は、上述のような本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL表示装置及び有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0243】
例えば、「有機EL表示装置」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置及び有機EL照明を形成することができる。
【実施例】
【0244】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
[有機電界発光素子の作製]
(実施例1)
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0245】
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0246】
まず、下の構造式(P1)に示す繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子化合物(重量平均分子量:26500,数平均分子量:12000)、構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート及び安息香酸エチルを含有する正孔注入層用組成物を調製した。この組成物を下記条件で陽極上にスピンコートにより成膜して、膜厚30nmの正孔注入層を得た。
【0247】
【化31】

【0248】
<正孔注入層用組成物>
溶媒 安息香酸エチル
組成物濃度 (P1):2.0重量%
(A1):0.8重量%
<正孔注入層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 大気中
加熱条件 大気中 230℃ 3時間

引き続き、以下の構造式に示す、架橋性重合体(H1)(重量平均分子量:76000)を含有する架橋膜形成用組成物を調製し、下記の条件でスピンコート法により塗布して、加熱により架橋させて膜厚20nmの架橋膜(正孔輸送層に相当)を形成した。
【0249】
【化32】

【0250】
<架橋膜形成用組成物>
溶媒 トルエン
固形分濃度 0.4重量%
<成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
次に、発光層及び混合層を形成するにあたり、以下に示す電荷輸送性低分子化合物(C1)、及び発光性低分子化合物(D1)を用いて下記に示す発光層用組成物を調製し、以下に示す条件で架橋膜上にスピンコート法にて、発光層および混合層を得た。なお、発光層の膜厚は、ガラス板上で成膜した場合の膜厚が40nmである。
【0251】
【化33】

【0252】
<発光層用組成物>
溶媒 トルエン
組成物濃度 (C1):0.75重量%
(D1):0.08重量%
<発光層の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 減圧下(0.1MPa)、130℃、1時間
ここで、発光層までを成膜した基板を、窒素グローブボックスに連結された真空蒸着装置内に移し、装置内の真空度が2.4×10−4Pa以下になるまで排気した後、以下に示すBAlq(C4)を真空蒸着法によって積層し正孔阻止層を得た。蒸着速度を0.7〜0.8Å/秒の範囲で制御し、発光層の上に積層して膜厚10nmの正孔阻止層を形成した。蒸着時の真空度は2.4〜2.7×10−4Paであった。
【0253】
【化34】

【0254】
続いて、以下に示すAlq(C3)を加熱して蒸着を行い、電子輸送層を成膜した。蒸着時の真空度は0.4〜1.6×10−4Pa、蒸着速度は1.0〜1.5Å/秒の範囲で制御し、正孔阻止層の上に積層して膜厚30nmの電子輸送層を形成した。
【0255】
【化35】

【0256】
ここで、電子輸送層までの蒸着を行った素子を正孔阻止層、及び電子輸送層を蒸着したチャンバーに連結されたチャンバーへと真空中で搬送し、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させた。
電子注入層として、先ずフッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸
着速度0.1〜0.4Å/秒、真空度3.2〜6.7×10−4Paで制御し、0.5nmの膜厚で電子輸送層の上に成膜した。次に、陰極としてアルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.7〜5.3Å/秒、真空度2.8〜11.1×10−4Paで制御して膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。以上の2層の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0257】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂(スリーボンド社製30Y−437)を塗布し、中央部に水分ゲッターシート(ダイニック社製)を設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
【0258】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表2に示す。
表2に示すが如く、混合層を有する本発明の有機電界発光素子は、駆動電圧が低く、また電流効率が高いことがわかる。
(実施例2)
実施例1において、ガラス板上で成膜した場合の膜厚が20nmとなる条件で発光層を形成し、正孔阻止層を以下の構造式に示す化合物(C5)を用いて5nmの膜厚に形成し、Alqの膜厚を10nmとして電子輸送層を形成したほかは、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0259】
【化36】

【0260】
この素子の発光スペクトルの測定結果を図2に示す。460nmに最大波長を有する有機電界発光素子であった。
(比較例1)
実施例2において、ガラス板上で成膜した場合の膜厚が15nmとなる条件で発光層を形成したほかは、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0261】
この素子の発光スペクトルの測定結果を図2に示す。
この素子の発光スペクトルは、460nmにピークをもつ青色発光を示す実施例2とは異なり、516nmにピークをもつ緑色の発光を示す。
架橋膜上に発光層用組成物を成膜することによって、発光性低分子化合物や電荷輸送性低分子化合物が架橋膜に浸潤することにより、混合層を作っており、混合層に隣接して発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含む層がない状態にあり、架橋した後の架橋性重合体(H1)と正孔阻止層を形成するために用いた化合物(C5)が電荷移動錯体を形成するほど近接していることを示す。これより、比較例1において、ガラス板上で
成膜した場合の膜厚が15nmの発光層は、架橋膜上で形成した場合は、架橋膜との混合層を形成し、その膜厚は15nmである。
【0262】
一方、実施例2で作製した素子は、発光スペクトルが516nmであり、混合層と隣接して発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含む層がある。また、実施例2においては、ガラス板上に成膜した場合の膜厚が20nmとなる条件で発光層を形成している。これより、この素子の混合層の膜厚は20nm以下である。
以上より、実施例2及び比較例1における、架橋性重合体、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物と同様の化合物を用いて素子を作製した実施例1の素子は、膜厚が15〜20nmである混合層を有する。また、ガラス板上で成膜した場合の発光層の膜厚が40nmの条件で形成しているため、発光層も有する。
【0263】
(実施例3)
実施例1において、架橋膜を以下のように形成したほかは、実施例1と同様にして図1に示す有機電界発光素子を作製した。
以下の構造式に示す、架橋性重合体(H2)(重量平均分子量:61000)を含有する架橋膜形成用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させて膜厚20nmの架橋膜を形成した。
【0264】
【化37】

【0265】
<架橋膜形成用組成物>
溶媒 トルエン
組成物濃度 0.4重量%
<成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表2に示す。
【0266】
表2に示すが如く、混合層を有する本発明の有機電界発光素子は、駆動電圧が低く、また電流効率が高いことがわかる。
(実施例4)
実施例3において、発光層の膜厚を15nmで形成し、正孔阻止層に化合物(C5)を用いて5nmの膜厚で形成し、Alqの膜厚を10nmとして電子輸送層を形成したほかは、実施例3と同様にして有機電界発光素子を形成した。
【0267】
この素子の発光スペクトルの測定結果を図3に示す。
(比較例2)
実施例4において、発光層の膜厚を10nmで形成したほかは、実施例4と同様にして有機電界発光素子を形成した。
この素子の発光スペクトルの測定結果を図3に示す。
【0268】
この素子の発光スペクトルは、460nmにピークをもつ青色発光を示す実施例2とは異なり、516nmにピークをもつ緑色の発光を示す。
架橋膜上に発光層用組成物を成膜することによって、発光性低分子化合物や電荷輸送制定分子化合物が架橋膜に浸潤することにより、混合層を作っており、混合層に隣接して発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含む層がない状態にあり、架橋した後の架橋性重合体(H2)と正孔阻止層を形成するために用いた化合物(C5)が電荷移動錯体を形成するほど近接していることを示す。これより、比較例2において、ガラス板上で成膜した場合の膜厚が10nmの発光層は、架橋膜上で形成した場合は、架橋膜との混合層を形成し、その膜厚は10nmである。
【0269】
一方、実施例4で作製した素子は、発光スペクトルが516nmであり、混合層と隣接して発光性低分子化合物及び電荷輸送制定分子化合物を含む層がある。また、実施例4においては、ガラス板上に成膜した場合の膜厚が15nmとなる条件で発光層を形成している。これより、この素子の混合層の膜厚は15nm以下である。
以上より、実施例4及び比較例2における、架橋性重合体、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物と同様の化合物を用いて作製した実施例3の素子は、膜厚が10〜15nmである混合層を有する。また、ガラス板上で成膜した場合の発光層の膜厚が40nmの条件で形成しているため、発光層も有する。
【0270】
(実施例5)
実施例1において、架橋膜を以下のように形成したほかは、実施例1と同様にして図1に示す有機電界発光素子を作製した。
以下の構造式に示す、架橋性重合体(H3)(重量平均分子量:76000)を含有する架橋膜形成用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより塗布して、加熱により架橋させて膜厚20nmの架橋膜を形成した。
【0271】
【化38】

【0272】
<架橋膜形成用組成物>
溶媒 トルエン
組成物濃度 0.4重量%
<成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表2に示す。
【0273】
表2に示すが如く、混合層を有する本発明の有機電界発光素子は、駆動電圧が低く、また電流効率が高いことがわかる。
(実施例6)
実施例5において、発光層の膜厚を10nmで形成し、正孔阻止層に化合物(C5)を
用いて5nmの膜厚で形成し、Alq3の膜厚を10nmとして電子輸送層を形成したほかは、実施例5と同様にして有機電界発光素子を形成した。
【0274】
この素子の発光スペクトルの測定結果を図4に示す。
この素子の発光スペクトルは、460nmにピークをもつ青色発光を示す。これは、架橋膜上に発光層用組成物を成膜することによって、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物が架橋膜に浸潤して混合層を形成しているが、発光層も形成されている。これより、混合層の膜厚は、10nm以下である。
【0275】
以上より、実施例6と同じ、架橋性重合体、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物と同様の化合物を用いて作製した実施例5の素子は、ガラス板上で成膜した場合の発光層の膜厚が40nmの条件で形成しているため、混合層と発光層を有する素子である。また、混合層の膜厚は、10nm以下である。
(実施例7)
実施例1において、架橋膜を以下のように形成したほかは、実施例1と同様にして図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0276】
以下の構造式に示す、架橋性重合体(H4)(重量平均分子量:125000)を含有する有機電界発光素子用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜して、加熱により架橋させて膜厚20nmの架橋膜を形成した。
【0277】
【化39】

【0278】
<架橋膜形成用組成物>
溶媒 トルエン
固形分濃度 0.4重量%
<成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表2に示す。
【0279】
表2に示すが如く、混合層を有する本発明の有機電界発光素子は、駆動電圧が低く、また電流効率が高いことがわかる。
(実施例8)
実施例7において、発光層の膜厚を10nmで形成し、正孔輸送層に化合物(C5)を用いて5nmの膜厚で形成し、Alqの膜厚を10nmとして電子輸送層を形成したほかは、実施例7と同様にして有機電界発光素子を形成した。
【0280】
この素子の発光スペクトルの測定結果を図5に示す。
この素子の発光スペクトルは、460nmにピークをもつ青色発光を示す。これは、架橋膜上に発光層用組成物を成膜することによって、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低
分子化合物が架橋膜に浸潤して混合層を形成しているが、発光層も形成されている。これより、混合層の膜厚は、10nm以下である。
【0281】
以上より、実施例8と同じ、架橋性重合体、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物と同様の化合物を用いて作製した実施例7の素子は、ガラス板上で成膜した場合の発光層の膜厚が40nmの条件で形成しているため、混合層と発光層を有する素子である。また、混合層の膜厚は、10nm以下である。
(比較例3)
実施例1において、発光層を以下のように形成したほかは、実施例1と同様にして図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0282】
正孔輸送層までを成膜した基板を、窒素グローブボックスに連結された真空蒸着装置内に移し、装置内の真空度が2.4×10−4Pa以下になるまで排気した。前記の電荷輸送性低分子化合物(C1)、及び前記の発光性低分子化合物(D1)を真空蒸着法によって共蒸着し、膜厚40nmの発光層を形成した。蒸着時、(C1)の蒸着速度は0.7〜0.8Å/秒、(D1)の蒸着速度は0.07〜0.08Å/秒の範囲で制御し、蒸着時の真空度は2.4〜2.7×10−4Paであった。
【0283】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表2に示す。
また、この素子は、発光層を真空蒸着法で形成しているため、混合層を有さない。
【0284】
【表1】

【0285】
表2中、各実施例での作製した素子が有する発光層の膜厚は、以下の通り求めた。
実施例1:実施例2と比較例1より、15nmの混合層が出来るので、実施例1の発光層の実質膜厚は25nm
実施例3:実施例4と比較例2より、10nmの混合層が出来るので,実施例3の発光層の実質膜厚は30nm
実施例5:実施例6より、10nm以下の混合層が出来ているので,実施例3の発光層の実質膜厚は30〜40nm
実施例7:実施例8より,10nm以下の混合層が出来ているので,実施例3の発光層の実質膜厚は30〜40nm
表2より、本発明の有機電界発光素子は、電流効率が高く、また駆動電圧が低く、さらに電力効率が高いことが分かる。
【0286】
(実施例9)
実施例2において、架橋膜を下記の構造式に示す化合物(H5)を用いて下記の条件で
成膜して膜厚20nmの架橋膜を形成し、発光層をガラス板上で成膜した場合の膜厚が18nmになる条件で形成したほかは、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0287】
【化40】

【0288】
<有機電界発光素子用組成物>
溶媒 トルエン
固形分濃度 0.4重量%
<正孔輸送層4の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間

この素子の発光スペクトルの測定結果を図6に示す。462nmに最大発光波長を有する有機電界発光素子であった。
【0289】
(比較例4)
実施例9において、発光層をガラス板上で成膜した場合の膜厚が8nmになる条件で形成したほかは、実施例9と同様にして有機電界発光素子を作製した。
この素子の発光スペクトルの測定結果を図6に示す。
この素子の発光スペクトルは、462nmにピークをもつ青色発光を示す実施例9とは異なり、520nmにピークをもつ緑色の発光を示す。
【0290】
架橋膜上に発光層用組成物を成膜することによって、発光性低分子化合物や電荷輸送性低分子化合物が架橋膜に浸潤することにより、混合層を作っており、混合層に隣接して発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含む層がない状態にあり、架橋した後の架橋性重合体(H5)と正孔阻止層を形成するために用いた化合物(C5)が電荷移動錯体を形成するほど近接していることを示す。これより、比較例4において、ガラス板上で成膜した場合の膜厚が8nmの発光層は、架橋膜上で形成した場合は、架橋膜との混合層を形成し、その膜厚は8nmである。
【0291】
一方、実施例9で作製した有機電界発光素子は、発光スペクトルが462nmであり、混合層と隣接して発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含む層がある。また、実施例9においては、ガラス板上に成膜した場合の膜厚が18nmとなる条件で発光層を形成している。これより、この素子の混合層の膜厚は18nm未満である。
(実施例10)
正孔注入層までの形成は、実施例1と同様にして形成した。
【0292】
[正孔輸送層]
正孔輸送層の材料として下記に示す解離性重合体1、溶媒としてトルエンを含有する正孔輸送層形成用組成物(有機電界発光素子用組成物)を調製した。正孔輸送層形成用組成物の固形分濃度は、0.4重量%とした。この組成物を用いて、スピンコート(スピナ回転数:1500rpm、スピナ回転時間:30秒)により、正孔注入層の上に正孔輸送層を成膜した。スピンコートを行なった後、230℃で60分の加熱乾燥を行ない、膜厚20nmの均一な正孔輸送層の薄膜を形成した。
【0293】
【化41】

【0294】
[発光層]
発光層の材料として、以下に示す化合物(DDD−1)と、前記化合物(D−1)、溶媒としてトルエンを含有する発光層形成用組成物を調製した。発光層形成用組成物の固形分濃度(DDD−1およびD−1)は0.75重量%であり、(DDD−1):(D−1)=10:1(重量比)とした。この組成物を用いて、スピンコート(スピナ回転数:1500rpm、スピナ回転時間:30秒)により、正孔輸送層の上に発光層を成膜した。スピンコートを行なった後、100℃で60分の加熱乾燥を行ない、膜厚50nmの均一な発光層の薄膜を形成した。
【0295】
【化42】

【0296】
[正孔阻止層・電子輸送層]
続いて、形成した発光層の上に正孔阻止層を形成し、さらに、正孔阻止層の上に電子輸送層を形成した。正孔阻止層の材料として、下記に示すHB−1を用いて、真空蒸着法により膜厚10nmの正孔阻止層を形成した。
続いて、電子輸送層の材料として、前記Alq(C3)を用いて、真空蒸着法により膜厚30nmの電子輸送層を形成した。
【0297】
【化43】

【0298】
[電子注入層・陰極]
次に、電子輸送層の上に電子注入層を形成し、さらに、電子注入層の上に陰極を形成し
た。
電子注入層は、フッ化リチウム(LIF)を用い、電子輸送層と同様に真空蒸着法によって膜厚0.5nmの電子注入層を形成した。
【0299】
また、陰極の材料としてアルミニウムを用い、膜厚80nmの陰極を、それぞれ陽極であるITOストライプと直交する形状の2mm幅のストライプ状に積層した。
以上の操作によって作製した大きさ2mm×2mmの発光面積部分を有する有機電界発光素子に、7Vの電圧を印加した際の、発光素子としての発光の有無と発光色を評価した。
【0300】
その結果、化合物DDD−1を用いて作製した有機電界発光素子から、青色発光が得られた。さらに、100cd/cmにて発光させた際の駆動電圧は、7.0Vであった。(参考例)
【0301】
混合層形成の確認
発光層の材料として化合物(DDD−1)の代わりに下記の化合物(DDD−2)を用いて多層膜を作製した。
【0302】
【化44】

【0303】
この多層膜をTOF−SIMSを用いて、深さ方向(膜厚方向)の分布を確認した。結果を図7に示す。
図から明らかなように、発光層と重合体で形成される正孔輸送層の界面付近からDDD−2由来のS(硫黄)のシグナルが徐々に減少し、正孔輸送層の約半分(約10nm)で信号が観測されなくなる(ノイズ成分は除く)。つまり、発光層と正孔輸送層の間に約10nm混合領域が形成されていると見積もられた。
【産業上の利用可能性】
【0304】
本発明は、有機電界発光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯等の分野において、好適に使用することが出来る。
【符号の説明】
【0305】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 混合層
6 発光層
7 正孔阻止層
8 電子輸送層
9 電子注入層
10 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層を備えた有機電界発光素子であって、
該有機層が、
不溶化重合体を不溶化させてなる不溶重合体を含む膜中に、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層と
該混合層に隣接して、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物を含有し、かつ不溶重合体を含有しない層とを含む層
であることを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項2】
前記不溶化重合体が、架橋性重合体、解離性重合体、脱離性重合体のいずれかであることを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項3】
前記不溶化重合体が、下記式(2)で表される繰り返し単位を有する重合体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機電界発光素子。
【化1】

(式中、mは0〜3の整数を表し、
Ar11、及びAr12は、各々独立して、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Ar13〜Ar15は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
但し、Ar11及びAr12のいずれもが、直接結合であることはない。)
【請求項4】
前記架橋性重合体が有する架橋性基の数が、分子量10,000あたり、0.5個以上10個以下であることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一項に記載の有機電界発光素子。
(但し、分子量は、該架橋性重合体からその末端基を除いて、仕込みモノマーのモル比と構造式から算出される値である。)
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の有機電界発光素子を用いたことを特徴とする、有機EL表示装置。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の有機電界発光素子を用いたことを特徴とする、有機EL照明。
【請求項7】
陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層を備えた有機電界発光素子の製造方法において、
有機層が、
不溶化重合体を含む膜に対して活性エネルギーにより不溶膜を形成する工程、及び
該不溶膜上に発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物並びに溶媒を含有する組成物を塗布して成膜する工程、を経て形成されることを特徴とする、有機電界発光素子の製造方法。
【請求項8】
陽極及び陰極と、該陽極と陰極との間に配置された有機層を備えた有機電界発光素子であって、
該有機層が、重合体と発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有する混合層と、
該混合層に隣接して、発光性低分子化合物及び/又は電荷輸送性低分子化合物を含有し、
かつ重合体を含有しない層とを含み、該重合体を含有する層が、水、安息香酸エチル、及び炭化水素系溶媒各々に20〜25℃で60秒間浸漬した後、浸漬前と比較して95%以上の膜厚が残存することを特徴とする、有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−67960(P2010−67960A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187289(P2009−187289)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】