説明

有機電界発光素子及びその製造方法

【課題】素子の発光特性及び寿命を損なわず、素子間での発光特性のばらつきの少ない有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に備えられている一層または複数層の有機化合物層とから少なくとも構成され、X線光電子分光法により測定されるO1s軌道に相応する結合エネルギー530.5eV±0.5eVのピークAと結合エネルギー532.0eV±0.5eVのピークBの面積比率B/Aが3以上である炭酸セシウムの分解物を含む有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陽極及び陰極からなる一対の電極と、その間に備えられた有機化合物層とから構成される有機電界発光素子及びその製造方法、それを利用した発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子は表示素子の主流になりつつある液晶ディスプレイと比較して、消費電力が小さい、視野角が良い、更に薄くできる、フレキシブル基板が利用できる等の特長を有することから次世代の表示素子として実用化が期待されている。しかしながら、発光特性の低さ、短寿命、数十ナノレベルの薄膜プロセスの困難さ等、実用化するための改善すべき課題がまだ多く残されている。特に発光特性の低さ、短寿命を解決する為には電極から有機化合物層への電荷注入の改善が必須とされている。
【0003】
この点を解決する為に、有機化合物層にアルカリ金属あるいはその酸化物、過酸化物、塩等をドーピングすることが知られているが(特許文献1及び2参照)、一般的にそれらの化合物は反応性が高く大気中で不安定であり、プロセス上困難を要する。特許文献3及び4には、この点をを解決する目的で、比較的大気中で安定であり、取り扱いが容易な炭酸塩を用いる手法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3529543号公報
【特許文献2】特開平10−2701712号公報
【特許文献3】特表2005−510034号公報
【特許文献4】特開2005−63910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3及び4で示されるように炭酸塩をその分解温度付近またはそれ以下の温度で蒸着した場合、素子間での発光特性のばらつきが大きいことが確認された。
【0006】
本発明は、素子の発光特性及び寿命を損なわず、素子間での発光特性のばらつきの少ない有機電界発光素子及びその製造方法、それを利用した発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機電界発光素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に備えられている一層または複数層の有機化合物層とから少なくとも構成され、X線光電子分光法により測定されるO1s軌道に相応する結合エネルギー530.5eV±0.5eVのピークAと結合エネルギー532.0eV±0.5eVのピークBの面積比率B/Aが3以上である炭酸セシウムの分解物を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の発光装置は、上記本発明の有機電界発光素子を複数有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の有機電界発光素子の製造方法は、上記本発明の有機電界発光素子の製造方法であって、炭酸セシウムを700℃以上で加熱して得られる熱分解物と有機化合物の共蒸着により有機化合物層を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機電界発光素子は、発光特性及び寿命に優れ、更にロット間でのばらつきが小さいため、本発明によれば、生産性の高い有機電界発光素子およびその製造方法を提供することができる。また、その素子を利用することでディスプレイの情報表示部に用いる発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明の有機電界発光素子について説明する。
【0012】
図1は、金の上に炭酸セシウムを800℃(図1(a))あるいは600℃(図1(b))で蒸着した蒸着物のX線光電子分光法により測定したO1s軌道に相応する結合エネルギーチャートの代表的な一例である。図1(a)(b)の何れにおいてもピークA乃至Dの4種類のピークが確認される。即ち、分解物中には結合状態の異なる酸素原子が少なくとも4種類以上存在することを意味している。本発明は、これら4種類のピークに着目し鋭意検討し、結合エネルギー530.5eV±0.5eVのピークAと結合エネルギー532.0eV±0.5eVのピークBの面積比率が、発光特性及び寿命、更に特性ばらつきの改善に大きく影響することを見出した。尚、図1は金の上に成膜した炭酸セシウムの分解物の測定例であるが、素子中に存在する炭酸セシウムの分解物も、有機化合物との相互作用はあるものの、これに順ずるものである。
【0013】
本発明において、前記面積比率A/Bは3以上であることが必要であり、効果をより顕著化する為には5以上であることが好ましく、更には10以上であることがより好ましい。上限に関しては、特に限定されるものではない。
【0014】
図2は本発明の有機電界発光素子を示した断面模式図の一例である。基板1上に陽極2を配置し、その上にホール注入層3、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、炭酸セシウムの分解物層8、陰極9を順に配置している。本発明の有機電界発光素子は、図3に示すように、基板1上に陰極9を配置し、その上に炭酸セシウムの分解物層8、電子注入層7、電子輸送層6、発光層5、ホール輸送層4、ホール注入層3、陽極2を順に配置していても良い。但し、本発明の必須な構成要素は、陽極2、陰極9、発光層5であり、ホール注入層3、ホール輸送層4、電子輸送層6、電子注入層7はプロセスを簡略化する為に除くことが可能である。
【0015】
図2及び図3において、炭酸セシウムの分解物層8は、陰極9と電子注入層7の間に位置しているが、発光素子中のどの層の間に位置していても良い。また、必ずしも炭酸セシウムの分解物単独の層である必要はなく、有機化合物層の少なくとも一層が、炭酸セシウムの分解物を含む層であってもよい。特に、電子注入層7あるいは電子輸送層6の少なくとも一層以上に炭酸セシウムの分解物を含む層であることが本発明の効果をより顕著化する為にも好ましい。
【0016】
また、電極から有機化合物層への電荷注入を改善する為に、炭酸セシウムの分解物層あるいは炭酸セシウムの分解物を含む有機化合物層は、陰極9と電気的に接していることが好ましい。ここで、電気的に接しているとは、陰極9と炭酸セシウムの分解物層あるいは炭酸セシウムの分解物を含む有機化合物層の間に、有機化合物層、無機化合物層、あるいは有機・無機の混合層等の別な層が設けられていたとしても電子注入性が改善される場合を言う。
【0017】
炭酸セシウムの分解物は、熱、電界、光または電子等のエネルギーによる分解物、あるいは化学反応、物理反応による分解物等、特に限定されるものではないが、プロセスの簡便性及びより本発明の効果を得る為には熱による分解物であることが好ましい。熱による分解物である場合、700℃以上の熱により得られるものが好ましく、更により好ましくは800℃以上の熱により得られるものである。
【0018】
また、炭酸セシウムの分解物が有機化合物層に含まれる場合には、炭酸セシウムを700℃以上、好ましくは800℃以上で加熱し、得られる熱分解物と有機化合物の共蒸着により形成することができる。炭酸セシウムの分解物が安定に蒸着される範囲であれば温度の上限及び真空度に関しては特に制限はされない。例えば温度の上限は1000℃以下であり、真空度は10-1Pa以上10-6Pa以下の範囲である。また、成膜速度に関しても炭酸セシウムの分解物が安定に蒸着される範囲であれば特に限定はされない。例えば水晶振動子で測定した場合0.001nm/sec以上1nm/sec以下の範囲である。該有機化合物と炭酸セシウムの分解物の成膜速度比に関しても特に限定されないが、例えば(有機化合物との成膜速度)/(炭酸セシウムの分解物の成膜速度)は100以上0.1以下の範囲である。
【0019】
尚、特許文献4の5ページ40行以降に炭酸塩の加熱分解反応による経時的な発光の劣化の可能性が指摘されている。しかし、本発明は部分的な分解は経時的な発光の劣化を引き起こすが、ほとんど完全に分解した分解物は経時的な劣化も少なく、また部分的な分解の度合い差によるロット間のばらつきも小さくなることを見出したものである。
【0020】
陰極9としては、例えばAl、Mg、Ca、Cu、Ti、Au、Pt、Ag、Cr、Pd、Se、Ir等の金属材料およびそれらの合金材料、ポリシリコン、シリサイド、ITO(Indium Tin Oxide)、ITZO(Indium Tin Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、SnO2等の無機材料、ハイドープされたポリピリジン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンに代表される導電性高分子および炭素粒子、銀粒子等を分散した導電性インク等が挙げられる。また、Ag/Mg、Al/Mg、Ag/Mg/Agといった、これらの材料を2層以上積層させて用いることもできる。発光を効率よく取り出す為には好ましくは透明性の高いITO、ITZOまたはIZO等の透明電極が好ましい。
【0021】
ホール輸送層4としては、例えばトリフェニルジアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリフィリル誘導体、スチルベン誘導体等の低分子化合物、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリピリジン誘導体等の共役高分子化合物が挙げられるがこれらに限定されるものではない。蒸着プロセスが利用できる観点から低分子化合物が好ましい。本発明の低分子化合物とは分子量3,000以下の化合物を示す。特に好ましい構造を以下に示す。
【0022】
【化1】

【0023】
電子輸送層6としては、例えばアルミキノリノール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、シロール誘導体等、が挙げられるがこれらに限定されるものではない。蒸着プロセスが利用できる観点から低分子化合物が好ましい。特に好ましい構造を以下に示す。
【0024】
【化2】

【0025】
発光層5としては、例えば前記したホール輸送層4で用いた材料および電子輸送層6で用いた材料、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン誘導体、芳香族縮合多環化合物、芳香族複素環化合物、芳香族複素縮合環化合物、これらのオリゴ体あるいは複合オリゴ体、Al錯体、Mg錯体、亜鉛錯体、Ir錯体、Au錯体、Ru錯体、Re錯体、Os錯体等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。蒸着プロセスが利用できる観点から低分子化合物が好ましい。また、これらの発光材料の一種以上をホール輸送層4または電子輸送層6にドーピングすることで得られる混合層を発光層として用いても良い。特に好ましい構造を以下に示す。
【0026】
【化3】

【0027】
基板1としては特に限定されないが、例えばガラス、石英等の無機材料のほかアクリル系、ビニル系、エステル系、イミド系、ウレタン系、ジアゾ系、シンナモイル系等の感光性高分子化合物、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等の有機材料、有機無機ハイブリッド材料を用いることができる。また、これらの材料を2層以上積層させて用いることもできる。また、TFT等のアクティブ素子を備えていても良い。
【0028】
陽極2としては、例えばAl、Cu、Ti、Au、Pt、Ag、Cr、Pd、Se、Ir等の金属材料およびそれらの合金材料、ポリシリコン、シリサイド、ITO(Indium Tin Oxide)、ITZO(Indium Tin Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、SnO2等の無機材料も好適であるが、ハイドープされたポリピリジン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンに代表される導電性高分子および炭素粒子、銀粒子等を分散した導電性インク等が挙げられる。図2で示される有機電界発光素子の場合、BE型では好ましくは透明性の高いITO、ITZOまたはIZO等の透明電極が好ましい。TE型では反射率の高いAg、Cr等の金属材料が好ましい。また、Al/ITO、Ag/IZO、ITO/Al/ITOといった、これらの材料を2層以上積層させて用いることもできる。
【0029】
陰極9、陽極2及び有機化合物層の形成方法は特に限定はされない。有機材料の場合、電解重合法、キャスティング法、スピンコート法、浸漬コート法、スクリーン印刷法、マイクロモールド法、マイクロコンタクト法、ロール塗布法、インクジェット法、LB法等で形成することができる。また、用いる材料により真空蒸着法、CVD法、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法、スパッタ法等も有効な形成方法である。また、これらはフォトリソグラフおよびエッチング処理により所望の形状にパターニングすることができる。その他、ソフトリソグラフ、インクジェット法も有効なパターニング方法である。
【0030】
陽極2及び陰極9、有機化合物層の膜厚は特に限定はされないが0.1nm以上10μm以下の範囲が好ましい。
【0031】
本発明の有機電界発光素子は、発光した光を基板側から取り出すボトムエミッション型(BE型)、基板と反対側から光を取り出すトップエミッション型(TE型)のどちらの構造においても有効であるが、少なくとも陰極側から光を取り出すものが好ましい。
【0032】
次に、本発明の発光装置について説明する。
【0033】
本発明の発光装置は、上記本発明の有機電界発光素子を面内、好ましくはディスプレイの情報表示部に複数有する。
【0034】
ディスプレイのサイズは特に制限されないが、例えば1インチから30インチまでが好ましい。画素数は特に制限はなく、QVGA(320×240画素)、VGA(640×480画素)、XGA(1024×728画素)、SXGA(1280×1024画素)、UXGA(1600×1200画素)、QXGA(2048×1536画素)等が挙げられる。また、カラー表示できることが好ましく、その場合、赤、青、緑の発光素子を独立に配列させることで表示する方法、またはカラーフィルターを用いる方法、何れにおいても有効である。また、駆動方法としては単純マトリックス方法、アクティブマトリックス方法、何れにおいても有効である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
<実施例1>
図4は本実施例で製造する有機電界発光素子を示す断面模式図である。
【0037】
基板1としてガラス、陽極2としてITO,ホール輸送層4としてH−2、発光層5としてE−1、電子輸送層6としてE−2、電子注入層7として炭酸セシウムの分解物、陰極9としてアルミニウムを用いる。以下に製造手順を示す。
【0038】
ガラス基板(基板1)上にスパッタ法にてITOを膜厚60nm成膜する(陽極2)。その後、アセトン、イソプロピルアルコールで洗浄し、真空乾燥した後、ITO表面をUV/オゾン処理を行う。
【0039】
次に真空蒸着装置を用いて下記条件で、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6を連続蒸着し積層膜を得る。
ホール輸送層4:H−2を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下で膜厚40nm
発光層5:E−1を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で膜厚20nm
電子輸送層6:E−2を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で膜厚20nm
【0040】
次に炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を750℃に加熱し、得られる分解物を成膜速度0.05nm/sec以上0.06nm/sec以下にて膜厚2nmで成膜する(電子注入層7)。
【0041】
その後、アルミニウムを成膜速度1.0nm/sec以上1.2nm/sec以下にて膜厚200nmで成膜する(陰極9)。その後、窒素雰囲気下、水分ゲッター剤を含むガラスキャップを用いて素子を封止し有機電界発光素子を得る。同様の方法により有機電界発光素子を30個製造する。
【0042】
次に直流電圧を10V印加した時の輝度及び電流効率を測定し、30個の平均を初期値とした。更に、これら30個の有機電界発光素子を室温にて150日間保存した後、同様にして輝度および電流効率を測定する。
【0043】
150日後の輝度および電流効率の標準偏差σを算出することで素子ロット間でのバラツキを評価する。また、変化率[(電流効率の初期値−150日後の値)×100/電流効率の初期値(%)]を算出することで寿命を評価する。
【0044】
表1に150日後の輝度および電流効率の平均値、それらの標準偏差σ、変化率の結果を示す。
【0045】
[X線光電子分光法による測定]
別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜した。その上に炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を750℃に加熱し、得られる分解物を成膜速度0.05nm/sec以上0.06nm/sec以下にて膜厚2nmで成膜する。
【0046】
得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところ、O1s軌道に相応する結合エネルギー530.6eV、531.9eV、532.9eV、534.5eVの4種類のピークが得られた。その中のピークA(530.6eV)とピークB(531.9eV)の面積比率B/Aを算出したところ5.5であった。
【0047】
<比較例1>
炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を450℃に加熱し、0.01nm/sec以上0.03nm/sec以下にて膜厚2nmで電子注入層7を成膜する以外は実施例1と同様の手法により有機電界発光素子を30個製造する。
【0048】
実施例1と同様の手法により評価した結果を表1に示す。
【0049】
[X線光電子分光法による測定]
加熱温度450℃、成膜速度0.02nm/sec以上0.03nm/sec以下とした以外は実施例1と同様の手法により得膜をX線光電子分光法にて測定した。O1s軌道に相応する結合エネルギー530.7eV、531.9eV、533.0eV、534.2eVの4種類のピークが得られた。その中のピークA(530.7eV)とピークB(531.9eV)の面積比率B/Aを算出したところ0.8であった。
【0050】
<実施例2>
図5は本実施例で製造する有機電界発光素子を示す断面模式図である。
【0051】
基板1としてガラス、陽極2としてITO,ホール輸送層4としてH−2、発光層5としてE−1、電子輸送層6としてE−1と炭酸セシウムの分解物との混合物、陰極9としてアルミニウムを用いる。以下に製造手順を示す。
【0052】
陽極2の膜厚を100nmとした以外は実施例1と同様の手法により、発光層5まで製膜する。
【0053】
次に炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を750℃に加熱することで得られる分解物とE−1を共蒸着し、混合膜厚40nmに成膜する(電子輸送層6)。このときのそれぞれの成膜速度は、炭酸セシウムの分解物が0.05nm/sec以上0.06nm/sec以下及びE−1が0.20nm/sec以上0.23nm/sec以下である。
【0054】
その後、陰極9の膜厚を150nmとした以外は実施例1と同様の手法により有機電界発光素子を30個製造する。
【0055】
実施例1と同様の手法により評価した結果を表1に示す。
【0056】
<比較例2>
炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を450℃に加熱する以外は実施例2と同様の手法(但し、炭酸セシウムの分解物とE−1の成膜速度の比率は実施例2と同じにする。)により有機電界発光素子を30個製造する。
【0057】
実施例1と同様の手法により評価した結果を表1に示す。
【0058】
<実施例3>
図4は本実施例で製造する有機電界発光素子を示す断面模式図である。
【0059】
基板1としてガラス、陽極2としてクロム,ホール輸送層4としてH−2、発光層5としてE−1とA−3の混合物、電子輸送層6としてE−2、電子注入層7としてE−2と炭酸セシウムの分解物との混合物、陰極9としてITOを用いる。以下に製造手順を示す。
【0060】
ガラス基板上(基板1)にスパッタ法にてクロムを膜厚200nm成膜する(陽極2)。その後、アセトン、イソプロピルアルコールで洗浄し、真空乾燥した後、クロム表面をUV/オゾン処理を行う。
【0061】
次に真空蒸着装置を用いてH−2を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下で蒸着し、膜厚60nmに成膜する(ホール輸送層4)。次にE−1とA−3を共蒸着し、混合膜厚30nmに成膜する(発光層5)。このときのそれぞれの成膜速度はE−1が0.20nm/sec以上0.23nm/sec以下及びA−3が0.05nm/sec以上0.07nm/sec以下である。更にE−2を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で蒸着し、膜厚20nmに成膜する(電子輸送層6)。
【0062】
次に炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を700℃に加熱することで得られる分解物とE−2を共蒸着し、混合膜厚40nmに成膜する(電子注入層7)。このときのそれぞれの成膜速度は炭酸セシウムの分解物が0.04nm/sec以上0.06nm/sec以下及びE−2が0.20nm/sec以上0.23nm/sec以下である。
【0063】
その後、スパッタ法によりITOを膜厚200nm成膜する(陰極9)。その後、窒素雰囲気下、水分ゲッター剤を含むガラスキャップを用いて素子を封止し有機電界発光素子を得る。同様の方法により有機電界発光素子を30個製造する。
【0064】
実施例1と同様の手法により評価した結果を表1に示す。
【0065】
[X線光電子分光法による測定]
加熱温度700℃、成膜速度0.04nm/sec以上0.06nm/sec以下とした以外は実施例1と同様の手法により得た膜をX線光電子分光法にて測定した。O1s軌道に相応する結合エネルギー530.7eV、531.9eV、533.0eV、534.5eVの4種類のピークが得られた。その中のピークA(530.7eV)とピークB(531.9eV)の面積比率B/Aを算出したところ3.3であった。
【0066】
<実施例4>
炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を800℃に加熱する以外は実施例3と同様の手法(但し、炭酸セシウムの分解物とE−2の成膜速度の比率は実施例3と同じにする。)により有機電界発光素子を30個製造する。
【0067】
実施例1と同様の手法により評価した結果を表1に示す。
【0068】
[X線光電子分光法による測定]
加熱温度800℃に、成膜速度0.15nm/sec以上0.18nm/sec以下とした以外は実施例1と同様の手法により得た膜をX線光電子分光法にて測定した。O1s軌道に相応する結合エネルギー530.6eV、531.9eV、532.9eV、534.5eVの4種類のピークが得られた。その中のピークA(530.6eV)とピークB(531.9eV)の面積比率B/Aを算出したところ11.3であった。
【0069】
<実施例5>
炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を850℃に加熱する以外は実施例3と同様の手法(但し、炭酸セシウムの分解物とE−2の成膜速度の比率は実施例3と同じにする。)により有機電界発光素子を30個製造する。
【0070】
実施例1と同様の手法により評価した結果を表1に示す。
【0071】
[X線光電子分光法による測定]
加熱温度850℃、成膜速度0.27nm/sec以上0.30nm/sec以下とした以外は実施例1と同様の手法により得た膜をX線光電子分光法にて測定した。O1s軌道に相応する結合エネルギー530.7eV、531.9eV、533.0eV、534.5eVの4種類のピークが得られた。その中のピークA(530.7eV)とピークB(531.9eV)の面積比率B/Aを算出したところ32.3であった。
【0072】
<実施例6>
炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を680℃に加熱する以外は実施例3と同様の手法(但し、炭酸セシウムの分解物とE−2の成膜速度の比率は実施例3と同じにする。)により有機電界発光素子を30個製造する。
【0073】
実施例1と同様の手法により評価した結果を表1に示す。
【0074】
[X線光電子分光法による測定]
加熱温度670℃、成膜速度0.27nm/sec以上0.30nm/sec以下とした以外は実施例1と同様の手法により得た膜をX線光電子分光法にて測定した。O1s軌道に相応する結合エネルギー530.7eV、531.9eV、533.0eV、534.5eVの4種類のピークが得られた。その中のピークA(530.7eV)とピークB(531.9eV)の面積比率B/Aを算出したところ3.0であった。
【0075】
<比較例3>
炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を630℃に加熱する以外は実施例3と同様の手法(但し、炭酸セシウムの分解物とE−2の成膜速度の比率は実施例3と同じにする。)により有機電界発光素子を30個製造する。
【0076】
実施例1と同様の手法により評価した結果を表1に示す。
【0077】
[X線光電子分光法による測定]
加熱温度630℃、成膜速度0.02nm/sec以上0.03nm/sec以下とした以外は実施例1と同様の手法により得た膜をX線光電子分光法にて測定した。O1s軌道に相応する結合エネルギー530.7eV、531.9eV、533.0eV、534.3eVの4種類のピークが得られた。その中のピークA(530.7eV)とピークB(531.9eV)の面積比率B/Aを算出したところ1.4であった。
【0078】
<実施例7>
図4は本実施例で製造する有機電界発光素子を示す断面模式図である。
【0079】
基板1としてガラス、陽極2としてITO,ホール輸送層4としてH−9、発光層5としてH−1とA−9の混合物、電子輸送層6としてE−12、電子注入層7としてE−11と炭酸セシウムの分解物との混合物、陰極9としてアルミニウムを用いる。以下に製造手順を示す。
【0080】
ガラス基板(基板1)上にスパッタ法にてITOを膜厚100nm成膜する(陽極2)。その後、アセトン、イソプロピルアルコールで洗浄し、真空乾燥した後、ITO表面をUV/オゾン処理を行う。
【0081】
次に真空蒸着装置を用いて、H−9を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下で蒸着し、膜厚50nmに成膜する(ホール輸送層4)。次にH−1とA−9を共蒸着し、混合膜厚30nmに成膜する(発光層5)。このときのそれぞれの成膜速度はH−1が0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下及びA−9が0.05nm/sec以上0.07nm/sec以下である。更にE−12を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で蒸着し、膜厚10nmに成膜する(電子輸送層6)。
【0082】
次に、炭酸セシウムの入ったセラミック製坩堝を800℃に加熱することで得られる分解物とE−12を共蒸着し、混合膜厚50nmに成膜する(電子注入層7)。このときのそれぞれの成膜速度は炭酸セシウムの分解物が0.15nm/sec以上0.18nm/sec以下及びE−12が0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下である。
【0083】
その後、アルミニウムを成膜速度1.0nm/sec以上1.2nm/sec以下で膜厚150nmに成膜する(陰極9)。その後、窒素雰囲気下、水分ゲッター剤を含むガラスキャップを用いて素子を封止し有機電界発光素子を得る。同様の方法により有機電界発光素子を30個製造する。
【0084】
実施例1と同様の手法により評価した結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1から、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3乃至6と比較例3、それぞれを比較することで明らかなように、本発明の有機電界発光素子は発光特性および寿命が保持されたまま、素子ロット間でのばらつきが改善されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】炭酸セシウムを蒸着した蒸着物のX線光電子分光法により測定したO1s軌道に相応する結合エネルギーチャートの一例であり、(a)は800℃で蒸着した場合、(b)は600℃で蒸着した場合である。
【図2】本発明における有機電界発光素子の断面模式図の一例である。
【図3】本発明における有機電界発光素子の断面模式図の一例である。
【図4】実施例1、3乃至7で製造する有機電界発光素子の断面模式図である。
【図5】実施例2で製造する有機電界発光素子の断面模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1 基板
2 陽極
3 ホール注入層
4 ホール輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 炭酸セシウムの分解物層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に備えられている一層または複数層の有機化合物層とから少なくとも構成され、X線光電子分光法により測定されるO1s軌道に相応する結合エネルギー530.5eV±0.5eVのピークAと結合エネルギー532.0eV±0.5eVのピークBの面積比率B/Aが3以上である炭酸セシウムの分解物を含むことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記面積比率B/Aが5以上であることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記面積比率B/Aが10以上であることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記炭酸セシウムの分解物が700℃以上の熱により得られることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記炭酸セシウムの分解物が800℃以上の熱により得られる請求項1乃至3の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記炭酸セシウムの分解物が前記有機化合物層の少なくとも一層以上に含まれることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記炭酸セシウムの分解物あるいは前記炭酸セシウムの分解物を含む有機化合物層が前記陰極と電気的に実質接していることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記陰極が透明電極であることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記有機化合物層が低分子化合物からなる層であることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
少なくとも前記陰極側から光を取り出すことを特徴とする請求項1乃至9記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載の有機電界発光素子を複数有することを特徴とする発光装置。
【請求項12】
ディスプレイの情報表示部であることを特徴とする請求項11記載の発光装置。
【請求項13】
請求項1乃至10の何れかに記載の有機電界発光素子の製造方法であって、炭酸セシウムを700℃以上で加熱して得られる熱分解物と有機化合物の共蒸着により有機化合物層を形成する工程を有することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−141917(P2007−141917A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329790(P2005−329790)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】