説明

有機電界発光素子

【課題】有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】1対の電極間に有機層を備える有機電界発光素子において、有機層がチタン酸化物誘導体の薄膜を備えるか、または有機層がチタン酸化物誘導体を含む混合膜を備えることを特徴とする有機電界発光素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子に関する。
【0002】
有機電界発光素子は、蛍光またはリン光有機膜に電流を流せば、電子と正孔とが有機層で結合して光が発生する現象を利用した自発光型素子であり、軽量であり、部品が簡素で製作工程が比較的簡単な構造を持っている。また高画質の具現が可能であり、広視野角を確保することができ、動画を具現できる。さらに、高色純度、低消費電力、低電圧駆動が実現でき、携帯用電子機器や今後の大画面TVに適したデバイス特性を持っている。
【0003】
1987年に米国イーストマン・コダック社のTangとVanSlykeによって10V以下の低駆動電圧で1000μm/mを超える積層型薄膜素子が報告されて、それ以後の有機EL研究の基礎となった。ここで、高輝度実現のキーとなったのは、電子輸送性を持っている発光層と正孔輸送層との機能分離膜を積層して全体の有機層厚さを約130μmに薄膜化したという点と、陰極に低い仕事関数を持つマグネシウム・銀(Mg・Ag)合金を利用することによって電子注入効率を向上させたという点などを挙げられる。
【0004】
前記有機電界発光素子は、効率向上および駆動電圧低下のために、有機膜として単一の発光層のみを使用せず、電子注入層、発光層、正孔輸送層のような多層構造を使用することが一般的である。例えば、特許文献1には、正孔輸送層を備えた有機電界発光素子が開示されている。
【0005】
従来にこのような有機電界発光素子の発光効率を増大させるための方案としては、電荷バランスをとる方法、電荷発生層の導入およびTiOナノ粒子の導入のような方法が考案されたことがある。このような試みの一環として、例えば、特許文献2は、トリアゾール層を含む有機電界発光素子を開示しており、特許文献3は、1対の電極層間に介在された2個の発光層を備えた有機電界発光素子を開示している。また、TiOナノ粒子を導入した場合には発光効率が増大し、TiOナノ粒子が分散された多層構造の素子は、単一層ポリマー素子に比べて輝度および発光効率が増大すると報告された(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−252089号公報
【特許文献2】米国特許第5,869,199号明細書
【特許文献3】米国特許第6,447,934号明細書
【非特許文献1】Synthetic Metals 111−112,2000,207−211.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特に、非特許文献1のようなナノ粒子を使用する技術は、均一な薄膜を得るためにナノサイズのTiOを均一に分散させなければならないという問題点がある。
【0007】
したがって、本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するために、液状のチタン酸化物誘導体を使用して均一な薄膜を得ることによって、発光効率および寿命が従来の有機電界発光素子に比べて顕著に改善され、簡便かつ経済的な方法で製造可能な有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記本発明の課題を解決するために、本発明の第1は、1対の電極間に有機層を備える有機電界発光素子において、前記有機層がチタン酸化物誘導体の薄膜を備えることを特徴とする有機電界発光素子を提供する。
【0009】
本発明の第2は、1対の電極間に有機層を備える有機電界発光素子において、前記有機層がチタン酸化物誘導体を含む混合膜を備えることを特徴とする有機電界発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、駆動電圧、発光効率および寿命特性が従来の有機電界発光素子に比べて顕著に改善された有機電界発光素子を簡単な方法で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明による有機電界発光素子は、発光効率および寿命が優秀であり、簡便で経済的な方式で製造できるという長所がある。
【0013】
本発明による有機電界発光素子は、1対の電極間に有機層を備え、前記有機層がチタン酸化物誘導体の薄膜を備えるか、または前記有機層がチタン酸化物誘導体を含む混合膜から製造される。
【0014】
好ましくは、前記チタン酸化物誘導体は、下記化学式1ないし4のうちいずれか一つの化学式で表される。
【0015】
【化1】

【0016】
前記化学式1で、Rは互いに独立して、CHCO−CH=CCH−、COCO−CH=CCH−、−CHCH−COO−NH、−COR、−CO(C)COOR、または置換もしくは非置換のC〜C12のアルキル基であり、この際、Rは置換または非置換のC〜C12のアルキル基であり、Rは置換または非置換のC〜C12のアルキル基である。
【0017】
【化2】

【0018】
前記化学式2で、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基であり、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基である。
【0019】
【化3】

【0020】
前記化学式3で、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基である。
【0021】
【化4】

【0022】
前記化学式4で、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基である。
【0023】
前記化学式1〜4中のR〜Rで用いられうるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、2−メチルへキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、
2,2−ジメチルへキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、2−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−ノニル基、またはn−デシル基などが挙げられる。
【0024】
前記化学式1ないし4で表されるチタン酸化物誘導体の具体例としては、これに制限されるものではないが、チタン酸テトライソプロピル(Ti(OC)、チタン酸テトラ(n−ブチル)(Ti(OC)、および、下記化学式5で表される、チタン酸テトラキス(2−エチルへキシル)、アセチルアセトナートチタネートキレート、エチルアセトアセテートチタネートキレート、トリエタノールアミンチタネートキレート、乳酸チタネートキレートアンモニウム塩などを例として挙げられる。なお、下記化学式5中、Rは置換または非置換のC〜C12のアルキル基である。
【0025】
【化5】

【0026】
一方、本発明に使われる置換されたアルキル基は、アルキル基中に含まれている一つ以上の水素原子がハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、置換または非置換のアミン基(−NH、−NH(R)、−N(R’)(R”)、ここでR’とR”とは互いに独立して炭素数1ないし10のアルキル基である)、アミジノ基、ヒドラジン基、ヒドラゾン基、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基、C〜C20のアルキル基、C〜C20のハロゲン化アルキル基、C〜C20のアルケニル基、C〜C20のアルキニル基、C〜C20のヘテロアルキル基、C〜C20のアリール基、C〜C20のアリールアルキル基、C〜C20のヘテロアリール基、またはC〜C20のヘテロアリールアルキル基に置換されたことを意味する。
【0027】
ここで、アルキル基としては、上述と同様のものが用いられうる。ハロゲン化アルキル基としては、クロロメチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。アルケニル基としてはビニル基、ブテニル基などが挙げられる。アルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基などが挙げられる。ヘテロアルキル基としては、オキシメチル,オキシエチル、オキシプロピル,メルカプトメチル、メルカプトエチル、メルカプトプロピルなどを挙げられる。アリール基としてはフェニル、ナフチル、およびアントラセニルなどが挙げられる。アリールアルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基が挙げられる。ヘテロアリール基としては、ピリジル、フリルまたはフラニル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、ピリミジニル、チオフェニルまたはチエニル、キノリニル、インドリル、チアゾリルなどが挙げられる。ヘテロアリールアルキル基としては、ベンゾチエニルメチル,ベンゾチエニルエチルなどが挙げられる。
【0028】
本発明による有機電界発光素子において、前記1対の電極間の有機層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層および電子輸送層からなる群から選択される少なくとも一つの層を含む。
【0029】
本発明において、前記チタン酸化物誘導体は、このような有機層間に別個の層としてコーティングされるか、または有機層がチタン酸化物誘導体でドーピングされることが可能である。
【0030】
したがって、前記チタン酸化物誘導体は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層または電子輸送層のような有機層中にドーピングされうるが、例えば、有機層として発光層中に前記チタン酸化物誘導体がドーピングされる場合、前記チタン誘導体を含有する発光層薄膜の厚さは10nmないし100nmであることが好ましい。薄膜の厚さが10nm未満の場
合には寿命が短縮される場合があり、100nmを超過する場合には駆動電圧が上昇する場合がある。
【0031】
または、前記チタン酸化物誘導体は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層または電子輸送層のような有機層間に別個の層でコーティングされうるが、薄膜形態に製造されてもよく、このようなコーティング薄膜の製造方法としては、例えば、スピンコーティング工程および乾燥工程などを含む一般的なウェットコーティング方法、前記チタン酸化物誘導体の薄膜をあらかじめフィルム形態に製造した後に、熱蒸着、レーザー蒸着、ヒートバー、電磁気誘導加熱または超音波摩擦のような方法で転写させる方法などがある。
【0032】
また、前記チタン酸化物誘導体の溶液を製造するための溶媒としては、これに制限されるものではないが、アルコール系溶媒、芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、アセトンおよびその混合物からなる群から選択される溶媒が用いられうる。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、2−エチルヘキサノールなどが用いられうる。芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが用いられうる。また、前記チタン酸化物誘導体の溶液中チタン酸化物誘導体の濃度は、好ましくは1質量%ないし90質量%である。
【0033】
本発明による有機電界発光素子に備えられる正孔注入層を形成する物質は特に制限されない。具体的な例として、銅フタロシアニン(CuPc)または下記化学式6に示すようなスターバースト(Starburst)型アミン類であるTCTA、m−MTDATA、IDE406(出光興産株式社製の材料)、Pani/DBSA(ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸)またはPEDOT/PSS(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸))などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0034】
【化6】

【0035】
本発明による有機電界発光素子に備えられる正孔輸送層を形成する物質は特に制限されない。具体的な例としては、1,3,5−トリカルバゾリルベンゼン、4,4’−ビスカルバゾリルビフェニル、ポリビニルカルバゾール、m−ビスカルバゾリルフェニル、4,4’−ビスカルバゾリル−2,2’−ジメチルビフェニル、4,4’,4”−トリ(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン、1,3,5−トリ(2−カルバゾリルフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリス(2−カルバゾリル−5−メトキシフェニル)ベンゼン、ビス(4−カルバゾリルフェニル)シラン、下記化学式7に示すような、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1−ビフェニル]−4,4’ジアミン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(NPB)、IDE320(出光興産株式社製品)、9,9−ジオクチルフルオレンとN−(4−ブチルフェニル)ジフェニルアミンとの共重合体(TFB)または9,9−ジオクチルフルオレンとN,N−ビスフェニル−1,4−フェニレンジアミンとの共重合体(PFB)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
【化7】

【0037】
本発明による有機電界発光素子に備えられる発光層を形成する物質は特に制限されない。赤色発光層には、例えば、DCM1、DCM2、Eu(thenoyltrifluoroacetone)、(Eu(TTA))、下記化学式8に示すようなブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルジュロリジル−9−エニル)−4H−ピラン)(DCJTB)などが用いられうる。一方、Alq3にDCJTBのようなドーパントをドーピ
ングするか、Alq3とルブレンとを共蒸着し、ドーパントをドーピングして形成することができ、4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)にBTPIrのようなドーパントをドーピングすることもできるなど、多様な変形例が可能である。
【0038】
【化8】

【0039】
緑色発光層には、例えば、クマリン6(Coumarin 6)、C545T、キナクリドン(Quinacridone)、Ir(ppy)などが用いられうる。一方、CBPにIr(ppy)をドーパントとして使用するか、ホストとしてAlq3にドーパントとしてクマリン系物質を使用できるなど、多様な変形例が可能である。前記クマリン系ドーパントの具体例としては、下記化学式9に示すようなC314S、C343S、C7、C7S、C6、C6S、C314T、C545Tなどが挙げられる。
【0040】
【化9−1】

【0041】
【化9−2】

【0042】
青色発光層には、例えば、下記化学式10で示すような、FIrpic、CzTT、PPCP、DST、TPA、スピロ化合物(Spiro−DPVBi,Spiro−6P)、化合物(A)、オキサジアゾールダイマー色素(Bis−DAPOXP))、Anthracene、TPB、OXD−4、BBOT、AZM−Zn、トリアリールアミン化合物、ビス(スチリル)アミン(DPVBi,DSA)、ナフタレン部分を含有している芳香族炭化水素化合物のBH−013X(出光興産株式会社製)などが多様に使われうる。一方、IDE140(商品名、出光興産株式会社製)にドーパントとしてIDE105(商品名、出光興産株式会社製)を使用できるなど、多様な変形例が可能である。
【0043】
【化10−1】

【0044】
【化10−2】

【0045】
【化10−3】

【0046】
前記発光層の厚さは、好ましくは10nm(100Å)ないし100nm(1000Å)、好ましくは10nm(100Å)ないし50nm(500Å)である。一方、R、G、B領域のそれぞれの発光層の厚さは互いに同一であるか、または相異なる。発光層の厚さが10nm(100Å)未満である場合には寿命が減少するおそれがあり、100nm(1000Å)を超過する場合には駆動電圧の上昇幅が高くなるおそれがある。
【0047】
本発明による有機電界発光素子に備わった電子輸送層をなす物質は、特別に制限されず、例えば、Alq3などを利用できる。
【0048】
前記電子輸送層の厚さは、好ましくは10nm(100Å)ないし40nm(400Å)、より好ましくは、25nm(250Å)ないし35nm(350Å)である。前記電子輸送層の厚さが10nm(100Å)未満である場合には電子輸送速度が過度で電荷均衡が破られるおそれがあり、40nm(400Å)を超過する場合には駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0049】
以下、図1を参照して本発明による有機電界発光素子の一実施形態およびその製造方法を説明すれば、次の通りである。図1は、本発明による有機電界発光素子の断面を概略的に図示したものである。
【0050】
まず基板上部にアノード電極を形成する。ここで基板としては、通常の有機電界発光素子で使われる基板を使用するが、好ましくは、透明性、表面平滑性、取扱容易性および防
水性などを考慮して、ガラス基板またはプラスチック基板などが多様に使用されうる。前記アノード電極は導電性が高い金属、例えば、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、アルミニウム−リチウム(Al−Li)、カルシウム(Ca)、マグネシウム−インジウム(Mg−In)、マグネシウム−銀(Mg−Ag)、カルシウム(Ca)−アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)−ITOなどを利用して反射電極として作製するなど、多様な変形が可能である。
【0051】
次いで、前記アノード電極の上部に正孔注入層および正孔輸送層を、好ましくは真空熱蒸着、またはスピンコーティングして順に形成し、前記正孔注入層および正孔輸送層の上部には各カラー別の発光層を形成する。
【0052】
次いで、前記発光層上に正孔阻止層用物質を、好ましくは真空熱蒸着、またはスピンコーティングすることによって、正孔阻止層を選択的に形成できる。この際に使用する正孔阻止層用物質は特別に制限されないが、電子輸送能力を有し、発光化合物より高いイオン化ポテンシャルを有するものが好ましく、例えば、下記化学式11で示すようなビス(2−メチル−8−キノラト)−(p−フェニルフェノラト)−アルミニウム(Balq)、バソクプロイン(BCP)、トリス(N−アリールベンズイミダゾール)(TPBI)などが用いられうる。
【0053】
正孔阻止層の厚さは、好ましくは3nm(30Å)ないし6nm(60Å)であり、より好ましくは4nm(40Å)ないし5nm(50Å)である。正孔阻止層の厚さが3nm未満であると、正孔阻止特性をよく具現できない場合があり、6nmを超過すると、駆動電圧が上昇する場合がある。
【0054】
【化11】

【0055】
前記発光層または前記正孔阻止層の上部に電子輸送物質を、好ましくは真空熱蒸着またはスピンコーティングすることによって電子輸送層を選択的に形成し、次いで前記発光層、前記正孔阻止層または前記電子輸送層の上部に電子注入層を、好ましくは真空熱蒸着法またはスピンコーティング法を利用して形成できる。前記電子注入層形成材料としては、例えば、BaF、LiF、NaCl、CsF、LiO、LiqまたはBaOなどの物質を利用できるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
【化12】

【0057】
前記電子注入層の厚さは、好ましくは0.2nm(2Å)ないし1nm(10Å)、より好ましくは0.2nm(2Å)ないし0.5nm(5Å)である。0.2nm(2Å)ないし0.4nm(4Å)が特に好適な厚さである。前記電子注入層の厚さが0.2nm(2Å)未満である場合には効果的な電子注入層としての役割を行えない場合があり、前記電子注入層の厚さが1nm(10Å)を超過する場合には駆動電圧が高くなる場合がある。
【0058】
本発明による有機電界発光素子は、多様な形態の表示装置、例えば、受動マトリックス有機電界発光表示装置および能動マトリックス有機電界発光表示装置に備わりうる。特に、能動マトリックス有機電界発光表示装置に備わる場合、前記アノード電極は、薄膜トランジスタのソース電極またはドレイン電極と電気的に連結されうる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を下記実施例を例として説明するが、本発明が下記実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
<実施例1.チタン酸化物誘導体の発光層上へのコーティング>
反射型アノード電極として130nm(1300Å)の厚さのアルミニウムおよびITO(SDI社製)基板を50mm×50mm×0.7mmのサイズに切ってイソプロピルアルコールおよび純水の中で各5分間超音波洗浄した後、30分間UV、オゾン洗浄して、画素電極とした。前記画素電極の上部に正孔注入物質であるm−TDATAを利用して100nm(1000Å)の厚さの正孔注入層を形成した。次いで、前記正孔注入層の上部に正孔輸送物質であるNPBを蒸着して120nm(1200Å)の厚さの正孔輸送層を形成した。前記正孔輸送層の上部に発光物質(赤色発光物質)として、CBPとBTPIrとを30nm(300Å)の厚さに形成して発光層を形成した。
【0061】
一方、チタン酸化物誘導体としてチタン酸テトライソプロピル10gをブタノール100gに溶解させてチタン酸化物誘導体の溶液を製造し、製造された溶液を30nmの厚さに、スピンコーティング法を使用して発光層上にコーティングした。
【0062】
次いで、前記発光層の上部にBalqを蒸着して5nm(50Å)の厚さの正孔阻止層を形成した。前記正孔阻止層の上部にAlq3を25nm(250Å)の厚さに形成して電子輸送層を形成し、前記電子輸送層の上部にLiFを0.3nm(3Å)の厚さに形成して電子注入層を形成した後、対向電極(カソード)としてMg:Ag10nm(100Å)を形成して、有機電界発光素子を製造した。
【0063】
<実施例2.チタン酸化物誘導体の発光層中へのドーピング>
チタン酸化物誘導体を発光層内で混合して使用して、次のような構造を持つ有機発光素子を製作した:ITO/PEDOT(50nm(500Å))/発光層(70nm(700Å))/Ba(5nm(50Å))/Al(200nm((2000Å))。アノード電極(正極)としてコーニング社製の抵抗が15Ω/cmであり、厚さが150nm(1500Å)であるITOガラス基板を50mm×50mm×0.7mmのサイズに切ってイソプロピルアルコールおよび純水の中で各5分間超音波洗浄した後、30分間UV、オゾン洗浄した。前記アノード電極の上部に正孔注入物質であるPEDOT/PSS(商品名AI4083、Bayer社製)を含む高分子溶液を50nm(500Å)の厚さにスピンコーティング法を使用して正孔注入層を形成した。次いで、発光物質(緑色発光物質)としてDow社製のグリーン223を濃度10質量%としてトルエンに溶かした溶液10gに、チタン酸化物誘導体としてチタン酸テトラ(n−ブチル)10gをブタノール100gに溶解させたチタン酸化物誘導体の溶液10gを混合した溶液を利用して、スピンコーティング法で70nm(700Å)の厚さに形成して発光層を形成した。次いで、前記発光層の上部にBaを5nm(50Å)の厚さに形成して電子注入層を形成した後、カソード電極としてAlを150nm(1500Å)の厚さに形成して有機電界発光素子を製造した。
【0064】
<実施例3.チタン酸化物誘導体の電子輸送層上へのコーティング>
反射型画素電極として130nm(1300Å)の厚さのアルミニウムおよびITO(SDI社製)基板を50mm×50mm×0.7mmのサイズに切ってイソプロピルアルコールおよび純水の中で各5分間超音波洗浄した後、30分間UV、オゾン洗浄した。前記アノード電極の上部に正孔注入物質であるm−TDATAを利用して100nm(1000Å)の厚さの正孔注入層を形成した。次いで、前記正孔注入層の上部に正孔輸送物質であるNPBを蒸着して120nm(1200Å)の厚さの正孔輸送層を形成した。前記正孔輸送層の上部に発光物質(赤色発光物質)として、CBPとBTPIrとを30nm(300Å)の厚さに形成して発光層を形成した。前記発光層の上部にBalqを蒸着して5nm(50Å)の厚さの正孔阻止層を形成し、前記正孔阻止層の上部にAlq3を25nm(250Å)の厚さに形成して電子輸送層を形成した。
【0065】
一方、チタン酸化物誘導体としてチタン酸テトラキス(2−エチルへキシル)10gを
ブタノール100gに溶解させてチタン酸化物誘導体の溶液を製造し、製造された溶液を30nmの厚さにスピンコーティング法を使用して電子輸送層上にコーティングした。
【0066】
次いで、カソード電極としてMg:Ag10nm(100Å)を形成して、有機電界発光素子を製造した。
【0067】
<比較例1>
チタン酸テトライソプロピルを発光層上にスピンコーティングしていないことを除いては、実施例1と同様の方法を使用して有機電界発光素子を製造した。
【0068】
<比較例2>
チタン酸テトラ(n−ブチル)を発光層中に混合しないことを除いては、実施例2と同様の方法を使用して有機電界発光素子を製造した。
【0069】
<比較例3>
チタン酸化物誘導体としてチタン酸テトラキス(2−エチルへキシル)を電子輸送層上にスピンコーティングしていないことを除いては、実施例3と同様の方法を使用して有機電界発光素子を製造した。
【0070】
【表1】

【0071】
表1の結果から、実施例1ないし3による有機電界発光素子は、それぞれ対応する比較例1ないし3による有機電界発光素子に比べて駆動電圧が低く、最大発光効率が高く、寿命が長いということが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、有機電界発光素子関連の技術分野に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明による有機電界発光素子の一実施形態についての断面を概略的に示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の電極間に有機層を備える有機電界発光素子において、前記有機層がチタン酸化物誘導体の薄膜を備えることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記チタン酸化物誘導体は、下記化学式1ないし4のうちいずれか一つの化学式で表されることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子:
【化1】

前記化学式1で、Rは互いに独立して、CHCO−CH=CCH−、COCO−CH=CCH−、−CHCH−COO−NH、−COR、−CO(C)COOR、または置換もしくは非置換のC〜C12のアルキル基であり、
この際、Rは置換または非置換のC〜C12のアルキル基であり、Rは置換または非置換のC〜C12のアルキル基である;
【化2】

前記化学式2で、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基であり、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基である;
【化3】

前記化学式3で、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基である;
【化4】

前記化学式4で、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基である。
【請求項3】
前記チタン酸化物誘導体は、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラ(n−ブチル)、チタン酸テトラキス(2−エチルへキシル)、アセチルアセトナートチタネートキレート、エチルアセトアセテートチタネートキレート、トリエタノールアミンチタネートキレート、乳酸チタネートキレートアンモニウム塩またはその混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記チタン酸化物誘導体の薄膜は、前記チタン酸化物誘導体をアルコール系溶媒、芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、アセトンおよびその混合物からなる群から選択される溶媒に1質量%ないし90質量%の濃度で溶解させることによって製造される溶液を使用して製造されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記有機層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層および電子輸送層からなる群から選択される少なくとも一つの層を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記有機層は、正孔阻止層、電子注入層および電子阻止層からなる群から選択される一つ以上の層をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記薄膜は、スピンコーティング工程および乾燥工程を含むウェットコーティング法によって形成されるか、または前記チタン酸化物誘導体の薄膜をあらかじめフィルム形態に製造した後に、熱蒸着、レーザー蒸着、ヒートバー、電磁気誘導加熱または超音波摩擦によって転写させる方法によって形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
1対の電極間に有機層を備える有機電界発光素子において、前記有機層がチタン酸化物誘導体を含む混合膜を備えることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項9】
前記チタン酸化物誘導体は、下記化学式1ないし4のうちいずれか一つの化学式で表されることを特徴とする請求項8に記載の有機電界発光素子:
【化5】

前記化学式1で、Rは、互いに独立して、CHCO−CH=CCH−、COCO−CH=CCH−、−CHCH−COO−NH、−COR、−CO(C)COOR、または置換もしくは非置換のC〜C12のアルキル基であり、
この際、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基であり、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基である;
【化6】

前記化学式2で、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基であり、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基である;
【化7】

前記化学式3で、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基である;
【化8】

前記化学式4で、Rは、置換または非置換のC〜C12のアルキル基である。
【請求項10】
前記チタン酸化物誘導体は、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラ(n−ブチル)、チタン酸テトラキス(2−エチルへキシル)、アセチルアセトナートチタネートキレート、エチルアセトアセテートチタネートキレート、トリエタノールアミンチタネートキレート、乳酸チタネートキレートアンモニウム塩またはその混合物であることを特徴とする請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
前記チタン酸化物誘導体を含む混合膜は、発光層であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項12】
前記チタン酸化物誘導体を含む混合膜は、電子輸送層であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項13】
前記チタン酸化物誘導体を含む混合膜は、前記チタン酸化物誘導体をアルコール系溶媒、芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、アセトンおよびその混合物からなる群から選択される溶媒に1質量%ないし90質量%の濃度で溶解させることによって製造される溶液を使用して製造されることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
前記有機層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層および電子輸送層からなる群から選択される少なくとも一つの層を含むことを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項15】
前記有機層は、正孔阻止層、電子注入層および電子阻止層からなる群から選択される一つ以上の層をさらに含むことを特徴とする請求項8〜14のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【公開番号】特開2007−201462(P2007−201462A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8344(P2007−8344)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】